JP4215582B2 - 感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物とこれを用いるポリマー光導波路の製造方法 - Google Patents

感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物とこれを用いるポリマー光導波路の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物とこれを用いるポリマー光導波路の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
光導波路は、光導波路デバイス、光集積回路、光配線基板等に組み込まれて、光通信、光情報処理、その他一般光学の分野で広く用いられている。このような光導波路をポリイミド樹脂から形成することは既に知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、ポリイミド樹脂からなる光導波路を得るには、通常、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸を少なくとも250℃以上の高い温度に加熱してイミド化する工程が必要であり、従って、光導波路のための基板等にも、上記ポリアミド酸の高いイミド化温度に耐える高い耐熱性が必要とされる。
【0003】
そこで、近年、ポリイミド樹脂と同等の高い耐熱性を有しながら、それ自体は、比較的低い温度で光導波路に加工することができる光導波路用の樹脂材料が要望されている。
【0004】
【特許文献1】
特開平10−239546号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述した要望に応えるためになされたものであって、ポリエーテルケトンに感光剤として1,4−ジヒドロピリジン誘導体を配合して、感光性樹脂組成物とし、そのような感光性樹脂組成物の層乃至被膜に光照射した後、加熱すれば、上記1,4−ジヒドロピリジン誘導体の分解物の残存成分やその量がポリエーテルケトン層の屈折率に影響を及ぼし、その結果として、ポリエーテルケトンの露光部と非露光部との間に屈折率に有効な差異を有せしめることができ、かくして、比較的低い温度で耐熱性にすぐれるポリマー光導波路構造を形成することができ、しかも、このような方法によれば、コアパターンの形成に現像工程を必要としないので、段差のない平滑な表面を有するポリマー光導波路構造を形成できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0006】
従って、本発明は、比較的低い温度で高い耐熱性を有するポリマー光導波路構造を形成することができる新規な感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物と、これを用いるそのようなポリマー光導波路の製造方法をを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、
(a)一般式(I)
【0008】
【化5】
Figure 0004215582
【0009】
(式中、Rは2価の芳香族基を示す。)
で表される繰返し単位からなるポリエーテルケトンと、
(b)上記ポリエーテルケトン100重量部に対して、一般式(II)
【0010】
【化6】
Figure 0004215582
【0011】
(式中、Arは1,4−ジヒドロピリジン環への結合位置に対してオルソ位にニトロ基を有する1価の芳香族基を示し、R1 は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示し、R2、R3、R4 及びR5 はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1若しくは2のアルキル基を示す。)
で表される1,4−ジヒドロピリジン誘導体0.01重量部以上、10重量部未満とを含むことを特徴とする感光性樹脂組成物が提供される。
【0012】
更に、本発明によれば、
(A)基板上にアンダークラッド層を形成する工程、
(B)上記感光性樹脂組成物層を上記アンダークラッド層上に形成する工程、(C)上記感光性樹脂組成物層のコアパターンに対応する領域にマスクを介して紫外線を照射して、上記感光性樹脂組成物層に紫外線露光部と紫外線非露光部とを形成する工程、
(D)上記感光性樹脂組成物層の紫外線露光部と紫外線非露光部とを加熱する工程、
(E)上記加熱後の感光性樹脂組成物層の上にオーバークラッド層を形成する工程
を含むことを特徴とするポリマー光導波路の製造方法が提供される。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明において用いるポリエーテルケトンは既に知られており、例えば、Macromolecules, 24, 6059-6064 (1991) や特開2002−322271号公報に記載されている方法によって得ることができる。
【0014】
そこで、先ず、前記一般式(I)で表されるポリエーテルケトンの製造について説明する。前記一般式(I)で表されるポリエーテルケトンは、反応溶剤中、フリーデル・クラフツ触媒の存在下に2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイルクロライドとジフェニルエーテルとを反応(フリーデル・クラフツ反応)させることによって、4,4’−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル(BPDE)を得、次いで、反応溶剤中、塩基性化合物の存在下にこのBPDEと一般式(III)
【0015】
【化7】
Figure 0004215582
【0016】
(式中、Rは2価の芳香族基を示す。)
で表される2価フェノール化合物とを加熱下に重縮合(重縮合反応)させることによって得ることができる。
【0017】
上記BPDEの製造のための上記フリーデル・クラフツ反応において、ジフェニルエーテルは、2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイルクロライド1モル部に対して、通常、0.4〜0.6モル部、好ましくは、0.45〜0.55モル部の範囲で用いられる。フリーデル・クラフツ触媒としては、例えば、塩化アルミニウム、塩化アンチモン、塩化第二鉄、四塩化チタン、三フッ化ホウ素、四塩化スズ、塩化ビスマス、塩化亜鉛、塩化水銀、硫酸等が用いられる。このようなフリーデル・クラフツ触媒は、2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイルクロライド1モル部に対して、通常、0.5〜10モル部、好ましくは、1〜5モル部の範囲で用いられる。
【0018】
また、上記フリーデル・クラフツ反応において、反応溶剤は、2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイルクロライドに対して不活性であれば、特に限定されるものではないが、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、二硫化炭素、ニトロベンゼン等が用いられる。反応は、通常、0〜150℃、好ましくは、0〜100℃の範囲で行われる。
【0019】
反応終了後、得られた反応混合物に水を注ぎ、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素等の抽出溶剤で抽出して、得られた有機層から抽出溶剤を留去することによって、目的とするBPDEを得ることができる。このようにして得られるBPDEは、必要に応じて、メタノールやエタノールから再結晶して精製してもよい。
【0020】
次に、BPDEと2価フェノールとの重縮合反応においては、BPDEと前記2価フェノール化合物は、好ましくは、等モル比で用いられる。得られるポリエーテルケトンの分子量は、BPDEと2価フェノール化合物の仕込み割合によって適宜に制御することができる。この重縮合反応は、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、メタノール、トルエン又はこれらの2種以上の混合物中で行われる。
【0021】
BPDEと2価フェノールとの重縮合反応において、塩基性化合物は、重縮合反応によって生成するフッ化水素を捕捉するために用いられるものであり、例えば、炭酸カリウム、炭酸リチウム、水酸化カリウム等が用いられる。このような塩基性化合物は、用いるBPDE1モル部に対して、通常、1〜20モル部、好ましくは、1〜10モル部の範囲で用いられる。反応は、通常、20〜150℃、好ましくは、50〜120℃の範囲の温度で行われる。
【0022】
前記一般式(III) で表される前記2価フェノールとしては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールF)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、ハイドロキノン、レゾルシノール等を挙げることができるが、これら例示に限定されるものではない。また、これらの2価フェノールは、単独で用いてもよく、必要に応じて、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
反応終了後、得られた反応混合物から用いた反応溶剤を除去すれば、目的とするポリエーテルケトンを得ることができる。また、反応終了後、得られた反応混合物をポリエーテルケトンの貧溶剤、例えば、メタノール中に加えることによって、ポリエーテルケトンを沈殿として得ることができる。このようにして得られたポリエーテルケトンは、必要に応じて、その良溶剤、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド等に溶解させた後、メタノール中に注いで、再沈殿させることによって精製することもできる。
【0024】
従って、前記一般式(I)で表されるポリエーテルケトンにおいて、2価基Rは、その製造に用いられる前記一般式(III) で表される前記2価フェノール化合物の残基(即ち、2価フェノール化合物から2つのヒドロキシル基を除いた2価基)であるから、そのような2価基として、前記2価フェノール化合物に対応して、例えば、m−フェニレン基、p−フェニレン基、
【0025】
【化8】
Figure 0004215582
【0026】
等を挙げることができる。前述したように、2価基Rは芳香族基であれば、特に限定されるものではないが、このように、2価芳香族炭化水素基であることが好ましい。
【0027】
本発明において、ポリエーテルケトンの重量平均分子量は、好ましくは、2万から100万、更に好ましくは、20万から50万の範囲である。ポリエーテルケトンの重量平均分子量は、ポリスチレン換算のゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法で求めることができる。
【0028】
次に、本発明による感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物について説明する。本発明による感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物は、上述したようなポリエーテルケトンとこのポリエーテルケトン100重量部に対して、前記一般式(II)で表される1,4−ジヒドロピリジン誘導体0.01重量部以上、10重量部未満とを含むものである。
【0029】
本発明によれば、このように、ポリエーテルケトンに感光剤として上記1,4−ジヒドロピリジン誘導体を配合してなる感光性樹脂組成物は、これに紫外線照射した後、加熱すれば、紫外線露光部と未露光部との間でポリエーテルケトンの屈折率に有効な差を生じる。
【0030】
即ち、本発明による感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物は、その層乃至被膜を形成し、これに紫外線を照射し、加熱すれば、非露光部のポリエーテルケトン樹脂組成物中の感光剤は、例えば、200℃程度の温度で揮発するのに対して、露光部のポリエーテルケトン樹脂組成物中の感光剤は、例えば、200℃では、殆ど揮発せず、このように、紫外線露光部と紫外線非露光部との間で感光性樹脂組成物中に残存する上記感光剤の分解物の残存成分とその量が相違することとなって、加熱後の紫外線露光部のポリエーテルケトンの屈折率が加熱後の紫外線非露光部のポリエーテルケトンの屈折率よりも高くなる。一般に、本発明によれば、感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物層に紫外線を照射した後、加熱する際に、その加熱温度や昇温速度を調節することによって、得られたポリエーテルケトン層中の感光剤の分解物の残存量を調節することができ、かくして、露光部と非露光部との間に目標とする屈折率差を得ることができる。
【0031】
本発明においては、このように、紫外線照射した後、加熱することによって、紫外線露光部と未露光部との間でポリエーテルケトンの屈折率に有効な差を生じる性質を感光性という。そして、本発明によれば、このようにして生じる屈折率差を利用して、感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物からコア層とクラッド層とを形成して、光導波路を得るものである。
【0032】
本発明において、上記感光剤の具体例として、例えば、1−エチル−3,5−ジメトキシカルボニル−4−(2−ニトロフェニル)−1,4−ジヒドロピリジン、1−メチル−3,5−ジメトキシカルボニル−4−(2−ニトロフェニル)−1,4−ジヒドロピリジン、1−プロピル−3,5−ジメトキシカルボニル−4−(2−ニトロフェニル)−1,4−ジヒドロピリジン、1−プロピル−3,5−ジエトキシカルボニル−4−(2−ニトロフェニル)−1,4−ジヒドロピリジン、3,5−ジメトキシカルボニル−4−(2−ニトロフェニル)−2,6−ジメチル−1,4−ジヒドロピリジン(ニフェジピン)等を挙げることができる。
【0033】
このような1,4−ジヒドロピリジン誘導体は、例えば、置換ベンズアルデヒドとその2倍モル量のアルキルプロピオレート(プロパルギル酸アルキルエステル)と相当する第1級アミンとを氷酢酸中で還流下に反応させることによって得ることができる(Khim. Geterotsikl. Soed., pp. 1067-1071, 1982)。
【0034】
このような感光剤は、本発明によれば、前記ポリエーテルケトン100重量部に対して、0.01重量部以上、10重量部未満の範囲で用いられ、好ましくは、0.1〜5重量部の範囲で用いられる。本発明によれば、前記ポリエーテルケトン100重量部に対して、感光剤を10重量部以上用いて、感光性樹脂組成物とすれば、これに紫外線を照射、加熱したとき、ポリエーテルケトンが近赤外領域において光吸収するようになる。しかし、感光剤の配合割合が前記ポリエーテルケトン100重量部に対して、0.01重量部未満では、得られる感光性樹脂組成物に紫外線照射し、加熱しても、露光部と非露光部との間に光導波路構造を可能とするような有効な屈折率差を与えることができない。
【0035】
本発明によれば、感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物に紫外線照射して、露光部と非露光部との間に光導波路構造を可能とするような有効な屈折率差を与えるには、5mJ/cm2 以上を照射すればよく、通常、5〜1000mJ/cm2 の範囲の露光量で十分である。また、感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物に紫外線照射した後、加熱する温度は、通常、100〜250℃の範囲であり、好ましくは、150〜200℃の範囲である。
【0036】
次に、本発明によるポリマー光導波路の製造について説明する。本発明によれば、適宜の基板上にアンダークラッド層を形成した後、上述したような本発明による感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物の溶液を上記アンダークラッド層上に塗布し、乾燥させて、感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物の層乃至膜を形成し、次いで、この感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物層の所要のコアパターンに対応する領域にマスクを介して紫外線を照射して、感光性樹脂組成物層に上記コアパターンに対応する紫外線露光部と紫外線非露光部とを形成し、この後、この感光性樹脂組成物層の上記紫外線露光部と紫外線非露光部を共に加熱して、上記紫外線露光部のポリエーテルケトンからなるコア層と紫外線非露光部のポリエーテルケトンからなるクラッド層とを含むポリエーテルケトン層を形成し、更に、このようなポリエーテルケトン層上に適宜にオーバークラッド層を形成して、ポリエーテルケトン光導波路を得る。
【0037】
このように、適宜の基板上にアンダークラッド層を形成し、このアンダークラッド層の上に上述したようにしてコア層とクラッド層とを有するポリエーテルケトン層を形成し、更に、このポリエーテルケトン層上にオーバークラッド層を形成して、埋め込み型の光導波路構造とする場合、コア層の周囲のクラッド層は、対照性の点から、すべて同じ屈折率を有することが好ましい。従って、例えば、オーバークラッド層とアンダークラッド層とを同じポリエーテルケトンから形成することが好ましい。
【0038】
以下に、本発明によるポリマー光導波路の製造方法を詳細に説明する。
【0039】
本発明の方法によれば、第1の工程(a)として、適宜の基板上にアンダークラッド層を形成する。このアンダークラッド層は、例えば、常法に従って、ポリエーテルケトンから形成すればよく、この場合、特に、用いるポリエーテルケトンやその方法において、特に、限定されるものではない。しかし、前述したような感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物を基板上に塗布し、乾燥させた後、露光せずに、そのまま加熱して、アンダークラッド層を形成してもよい。
【0040】
本発明において、上記基板としては、従来より知られているもの、例えば、ガラスエポキシ基板、シリコン基板、石英基板、金属箔、ガラス板、高分子フィルム等が適宜に用いられるが、しかし、これらに限定されるものではない。
【0041】
次いで、第2の工程(b)として、上記アンダークラッド層の上に前述した感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物を塗布し、乾燥させて、感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物層を形成する。感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物を基材の表面に塗布する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スピンコート法やキャスティング法等の一般的な成膜方法を用いることができる。
【0042】
次いで、第3の工程(c)として、上記感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物層の所要のコアパターンに対応する領域にマスクを介して紫外線を照射する。紫外線の照射手段としては、一般に、感光性樹脂の紫外線照射に用いられている通常の高圧水銀灯を用いることができる。
【0043】
本発明によれば、前述したポリエーテルケトンへの感光剤の配合量をポリエーテルケトン100重量部に対して、0.01重量部以上、10重量部未満の範囲内で調整することによって、得られる感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物の露光部と非露光部の加熱(露光後加熱)後の屈折率差を調節することができる。即ち、一般に、ポリエーテルケトンへの感光剤の配合量を多くするほど、露光部の加熱後の屈折率は大きくなる。更に、露光部の残存感光剤(分解物)の揮発しやすさと、非露光部の残存感光剤(分解物)の揮発のしやすさは異なるので、加熱工程での熱プロファイルを変化させることによっても、両者での残存量に差異をもたせることができ、結果として、屈折率に有効な差異を有せしめることができる。
【0044】
そこで、本発明の方法によれば、第4の工程(d)として、上記感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物層の紫外線露光部と紫外線非露光部を共に加熱して、上記コアパターンに対応する紫外線露光部のポリエーテルケトンからなるコア層と紫外線非露光部のポリエーテルケトンからなるクラッド層とを有するポリエーテルケトン層を形成する。
【0045】
本発明によれば、このように、感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物のコアパターンに対応する領域に紫外線を照射し、紫外線非露光部と共に加熱する。即ち、紫外線非露光部を除去しないで、そのまま、紫外線露光部と共に加熱して、クラッド層を形成させるので、コアパターンの形成に現像工程を要する従来のウェットプロセスとは相違して、コア層によって段差が形成されない。即ち、コア層とクラッド層を有するポリエーテルケトン層は平坦な表面を有する。
【0046】
感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物からこのようにして形成されるポリエーテルケトンの膜厚は、感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物の固形分濃度、粘度、成膜条件等によって制御することができる。
【0047】
次いで、第5の工程(e)として、上記コア層とクラッド層を有するポリエーテルケトン層上にオーバークラッド層を形成する。このオーバークラッド層も、アンダークラッド層と同じく、例えば、常法に従って、ポリエーテルケトンから形成すればよく、この場合、特に、用いるポリエーテルケトンやその方法において、特に、限定されるものではない。しかし、アンダークラッド層の場合と同様に、前述した感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物を塗布し、乾燥させた後、露光せずに、そのまま加熱して、オーバークラッド層を形成してもよい。
【0048】
本発明による感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物層の紫外線非露光部は、これを加熱すれば、その際に、感光剤は揮発して消失する。かくして、後工程において、紫外線非露光部に対応して形成されたクラッド層に如何に紫外線を照射しようとも、このクラッド層は紫外線に対して不活性であり、この点は、通常のレジストと異なる。
【0049】
前述したように、コア層の周囲のクラッド層はすべて同じ屈折率を有することが好ましく、この観点からは、クラッド層はすべて同じ樹脂から形成されるのが好ましいが、しかし、必要に応じて、アンダークラッド層とオーバークラッド層は、ポリエーテルケトン以外の樹脂、例えば、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂等を用いることもできる。
【0050】
次に、光導波路の一例として埋め込み型光導波路をとって、本発明によるポリエーテルケトン光導波路の製造方法を図面に基づいて説明する。
【0051】
図1(A)に示すように、基板1上に前述したようにして、例えば、ポリエーテルケトンからなるアンダークラッド層2を形成する。次いで、図1(B)に示すように、上記アンダークラッド層2上に感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物を塗布し、乾燥させて、感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物層3を形成する。
【0052】
この後、図1(C)に示すように、所要のコアパターンが得られるように、ガラスマスク4を介して、上記感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物層3に紫外線を照射する。このようにして、上記感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物層に紫外線を照射した後、露光部と非露光部を共に加熱すれば、その間に有効な屈折率差を有するポリエーテルケトンからなる露光部と非露光部が形成される。
【0053】
このようにして、図1(D)に示すように、露光部に対応してコア層5aが形成されると共に、非露光部に対応して、クラッド5bが形成されて、このようなコア層5aとクラッド5bを有するポリエーテルケトン層7をアンダークラッド層上に得る。最後に、図1(E)に示すように、上記ポリエーテルケトン層7上に前述したようにして、オーバークラッド層6を形成すれば、埋め込み型光導波路を得ることができる。
【0054】
埋め込み型フレキシブル光導波路も、上記埋め込み型光導波路と同様に製造することができる。即ち、先ず、最終工程でのエッチングが可能であり、且つ、後述するアンダークラッド層との剥離が可能な材質からなる基板上に、前述した埋め込み型光導波路の場合と同様にして、アンダークラッド層を形成する。上記基板としては、上記要求特性を満たせば、特に、限定されるものではないが、例えば、金属、無機材料、有機フィルム等が用いられる。
【0055】
次に、このアンダークラッド層上に、このアンダークラッド層よりも屈折率の高いポリエーテルケトンを与える感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物層を形成する。次いで、前述した埋め込み型光導波路の製造方法と同様にして、所望のパターンが得られるように、所要のコアパターンに対応する感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物層の領域にガラスマスクを介して紫外線を照射した後、加熱して、紫外線露光部に対応するポリエーテルケトンからなるコア層と紫外線非露光部のポリエーテルケトンからなるクラッド層を有するポリエーテルケトン層を形成させる。
【0056】
次に、上記ポリエーテルケトン層上に上記コア層よりも屈折率の低い材料からなるオーバークラッド層を前述した埋め込み型光導波路の製造方法と同様にして形成する。この後、前記基板をエッチング除去することによって、フレキシブル光導波路を得ることができる。
【0057】
上述したように、光導波路においては、コア層はクラッド層よりも屈折率が高いことが必要である。通常、両者の比屈折率差Δは、シングルモードの場合、0.2〜1.0%程度あればよい。ここに、比屈折率差Δは、n(コア)をコアの屈折率とし、n(クラッド)をクラッドの屈折率とするとき、
Δ=((n(コア)−n(クラッド))/n(コア)))×100(%)
で表される。例えば、シングルモード導波路を作製する場合には、両者の屈折率に0.2〜1.0%程度の屈折率の差をもたせるようにすればよい。
【0058】
本発明による光導波路としては、例えば、直線光導波路、曲がり光導波路、交差光導波路、Y分岐光導波路、スラブ光導波路、マッハツェンダー型光導波路、AWG型光導波路、グレーティング、光導波路レンズ等を挙げることができる。そして、これら光導波路を用いた光素子としては、波長フィルタ、光スイッチ、光分岐器、光合波器、光合分波器、光アンプ、波長変換器、波長分割器、光スプリッタ、方向性結合器、更には、レーザダイオードやフォトダイオードをハイブリッド集積した光伝送モジュール等を挙げることができる。
【0059】
【発明の効果】
以上のように、本発明による感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物は、例えば、前述した感光性ポリイミド樹脂組成物を用いる場合と異なり、ポリアミド酸のイミド化のための高温処理を必要とせず、感光性樹脂組成物に紫外線を照射した後の加熱によって、紫外線露光部と紫外線非露光部との間で屈折率に有効な差が生じる程度の温度に加熱すれば足りるので、比較的低い温度で光導波路に加工することができ、しかも、得られた光導波路はポリエーテルケトンからなるので、耐熱性にすぐれている。
【0060】
しかも、本発明に従って、感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物を基板上に被膜化し、これに紫外線を照射して、紫外線露光部と紫外線非露光部とを形成した後、加熱すれば、紫外線露光部がコア層となり、紫外線非露光部がクラッド層となるので、コアパターンの形成に現像工程を要する従来のウェットプロセスと相違して、工程が簡単であるのみならず、現像に伴う種々の不都合、例えば、現像ばらつき等のプロセス上の問題が回避されるので、パターン形成の歩留まりを向上させることができ、そのうえ、同時に形成したコア層とクラッド層は平坦な表面を有する樹脂からなる。従って、このような樹脂層上にオーバークラッド層を形成する際に、コア層によって形成される段差を均してオーバークラッド層を形成する必要がなく、かくして、段差中に気泡を噛込むような不都合なしに、容易に表面の平坦なオーバークラッド層を形成することができる。
【0061】
【実施例】
以下に比較例と共に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0062】
参考例1
滴下漏斗と塩化カルシウム乾燥管を備えた250mL容量三つ口フラスコにジフェニルエーテル6.8g、塩化アルミニウム26.8g及び乾燥ジクロロエタン60mLを仕込んだ。2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾクロライド18.5gを乾燥ジクロロエタン15mLに溶解させた溶液を攪拌しながらゆっくりとフラスコ中に滴下した。
【0063】
滴下終了後、得られた反応混合物を室温で一晩、攪拌した後、これに少量の水をゆっくりと加え、15分間攪拌した。次いで、反応混合物を水250mL中に加えた後、ジクロロメタンで抽出し、得られた抽出層(有機層)を水洗し、硫酸ナトリウム上で乾燥し、濾過し、抽出溶剤を蒸発させた。得られた固体をメタノールから再結晶して、BPDE13.4g(収率60%)を白色結晶として得た。
【0064】
次に、還流管とディーン・スターク・トラップを備えた10mL容量のフラスコに2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールF)0.43g、炭酸カリウム0.18g、N−メチル−2−ピロリドン4.6mL及びトルエン3.6mLを仕込み、窒素気流下、攪拌しながら、160℃に加熱し、3時間共沸脱水して、ビスフェノールFのカリウム塩を得た。量論量を水が得られた後、トルエンを蒸留し、徐冷した。80℃に達したとき、上記BPDE0.75gを加え、そのまま、20時間加熱攪拌して、重縮合を行った。
【0065】
反応終了後、得られた反応混合物をメタノール中に注ぎ、生成したポリエーテルケトンを沈殿させた。これを濾過し、蒸留水、次いで、メタノールで洗浄した後、減圧乾燥した。得られたポリエーテルケトンをN,N−ジメチルアセトアミドに溶解させた後、メタノール中に攪拌下にゆっくりと注ぎ、再沈殿させ、これを濾過し、減圧乾燥した。更に、このようにして得られたポリエーテルケトンを蒸留水に浸漬し、沸騰させて、残存塩と溶剤を沸水抽出した。この沸水抽出を3回繰り返した後、ポリエーテルケトンを濾過し、メタノールで洗浄し、減圧乾燥して、ポリエーテルケトン0.8g(収率70%)を得た。このポリエーテルケトンの重量平均分子量をポリスチレン換算のGPC法で求めたところ、257000であった。
【0066】
このようにして得られたポリエーテルケトン20gをトルエン80gに溶解させ、得られたポリエーテルケトン溶液をガラス板上にキャスティングした後、90℃で15分、続いて、180℃で30分間、加熱乾燥して、フィルムを形成させた。このフィルムのガラス転移温度は190℃、屈折率は1.560であった。
【0067】
実施例1
参考例1で得られたポリエーテルケトンのトルエン溶液にニフェジピンをポリエーテルケトン100重量部に対して5重量部加え、溶解させて、感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物溶液を得た。この感光性樹脂組成物溶液をガラス板上にキャスティングした後、90℃で15分間、加熱乾燥して、フィルムを形成させた。このフィルムに波長365nmの紫外線を200mJ/cm2 の割合で照射し、引続き、180℃で10分間加熱した。このようにして、紫外線を照射した後、加熱したフィルムのガラス転移温度は191℃、屈折率は1.565であった。
【0068】
実施例2
実施例1で得たポリエーテルケトン溶液を厚み1.0mmのガラスエポキシ基板上にスピンコート法にて塗布し、90℃で15分間、続いて、200℃で10分間、加熱乾燥させて、膜厚10μmのアンダークラッド層を形成した。
【0069】
次に、実施例1で得た感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物溶液を上記アンダークラッド層上にスピンコート法にて塗布し、90℃で15分間乾燥させて、上記感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物層を形成した。この層の上に線幅2〜16μm、長さ50mm、間隔200mmを有するマスクを設置し、上方から紫外線を30mJ/cm2 照射した後、180℃で30分間、加熱して、膜厚6μmのパターン化されたコア層とクラッド層とを形成した。
【0070】
次いで、上記と同じポリエーテルケトン溶液を上記コア層とクラッド層とからなるポリエーテルケトン層上に塗布し、90℃で15分間、続いて、200℃で10分間、加熱乾燥させて、膜厚10μmのオーバークラッド層を形成して、埋め込み型光導波路を得た。
【0071】
この光導波路の端面をダイサーにて裁断した後、波長1.55μmにてカットバック法を用いて、この光導波路の損失評価を行ったところ、伝播損失は0.5dB/cmであった。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)から(E)は、本発明による感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物を用いる埋め込み型ポリマー光導波路の製造工程を示す図である。
【符号の説明】
1…基板
2…アンダークラッド層
3…感光性ポリエーテルケトン樹脂組成物層
4…ガラスマスク
5a…コア層
5b…クラッド層
6…オーバークラッド層
7…ポリエーテルケトン層

Claims (3)

  1. (a)一般式(I)
    Figure 0004215582
    (式中、Rは2価の芳香族基を示す。)
    で表される繰返し単位からなるポリエーテルケトンと、
    (b)上記ポリエーテルケトン100重量部に対して、一般式(II)
    Figure 0004215582
    (式中、Arは1,4−ジヒドロピリジン環への結合位置に対してオルソ位にニトロ基を有する1価の芳香族基を示し、R1 は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示し、R2、R3、R4 及びR5 はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1若しくは2のアルキル基を示す。)
    で表される1,4−ジヒドロピリジン誘導体0.01重量部以上、10重量部未満とを含むことを特徴とする感光性樹脂組成物。
  2. (A)基板上にアンダークラッド層を形成する工程、
    (B)(a) 一般式(I)
    Figure 0004215582
    (式中、Rは2価の芳香族基を示す。)
    で表される繰返し単位からなるポリエーテルケトンと、
    (b)上記ポリエーテルケトン100重量部に対して、一般式(II)
    Figure 0004215582
    (式中、Arは1,4−ジヒドロピリジン環への結合位置に対してオルソ位にニトロ基を有する1価の芳香族基を示し、R1 は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示し、R2、R3、R4 及びR5 はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1若しくは2のアルキル基を示す。)
    で表される1,4−ジヒドロピリジン誘導体0.01重量部以上、10重量部未満とを含む感光性樹脂組成物層を上記アンダークラッド層上に形成する工程、
    (C)上記感光性樹脂組成物層のコアパターンに対応する領域にマスクを介して紫外線を照射して、上記感光性樹脂組成物層に紫外線露光部と紫外線非露光部とを形成する工程、
    (D)上記感光性樹脂組成物層の紫外線露光部と紫外線非露光部とを加熱する工程、
    (E)上記加熱後の感光性樹脂組成物層の上にオーバークラッド層を形成する工程
    を含むことを特徴とするポリマー光導波路の製造方法。
  3. 基板がガラスエポキシ基板である請求項2に記載のポリマー光導波路の製造方法。
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