次に、この発明を添付図面に基づいて詳細に説明する。図1はこの発明のハイブリッド車Aの一実施例を示す概略的な平面図である。図1に示すハイブリッド車Aの前部には、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどの内燃機関により構成されるエンジン1が搭載されている。エンジン1は吸気管、燃焼室、燃料供給装置、シリンダ、ピストンなどの公知の機構(いずれも図示せず)を備えている。また、エンジン1のクランクシャフト1Aの後端に取り付けられたフライホイール(図示せず)は、第1バッテリ43からの給電により動作するスターティングモータ44により初期回転される。そして、エンジン1は燃焼室に供給される燃料の爆発により発生した熱エネルギーが機械エネルギー、つまりピストンの往復運動に変換され、ピストンの往復運動がクランクシャフト1Aの回転運動に変換される。
この実施例では、クランクシャフト1Aがハイブリッド車Aの走行方向に対してほぼ直交する方向に配置された、いわゆるエンジン横置き型が採用されている。前記吸気管にはアクセルペダルの操作により動作されるスロットルバルブと、スロットルバルブの上流側に位置し、かつ、アクセルペダルの操作にかかわりなく別のアクチュエータにより動作されるサブスロットルバルブとが設けられている。このサブスロットルは車両の走行状態に応じて開閉され、エンジン1のパワーオン・オフを制御可能である。
さらに、エンジン1の出力側には、自動変速機2が同一軸線上に配置されている。この自動変速機2は、いわゆる横置きタイプの周知の構成のものであり、ロックアップクラッチ2Dを内蔵したトルクコンバータ2Bを介して、遊星歯車機構を主体とした歯車変速装置2Eに入力するように構成されている。上記トルクコンバータ2Bが発進装置に相当する。なお、ロックアップクラッチ2Dは、入力部材であるフロントカバー(図示せず)と、出力部材であるタービンランナもしくはそのハブ(図示せず)とを選択的に連結するように構成されている。
また、歯車変速装置2Eは、クラッチやブレーキなどの摩擦係合装置の係合・解放によって変速を実行するものであって、中間軸2Aと平行に配置したカウンタ軸2Cを備え、エンジン1から自動変速機2に入力されたトルクが歯車変速装置2Eにより減速・増速された後、カウンタ軸2Cから差動装置4に出力されるようになっている。さらに、差動装置4に連結されたドライブシャフト5,6には前輪7,8が取り付けられている。このドライブシャフト5,6と、エンジン1および自動変速機2とはほぼ平行に配置されている。
一方、ハイブリッド車Aの後部には、機械エネルギを電気エネルギーに変換することで回生制動力を発生させる回生機能と、電気エネルギーを機械エネルギーに変換させる力行機能とを備えたモータジェネレータ9が配設されている。モータジェネレータ9は、中空の出力軸10と、出力軸10の外周に巻き付けたコイル10Aと、コイル10Aの周囲に配置した磁石(図示せず)とを備えた公知の構造のものであり、出力軸10が公知の差動機構11に連結され、差動機構11に連結されたドライブシャフト12,13に後輪14,15が取り付けられている。
さらに、ハイブリッド車Aには第2バッテリ16が搭載されており、第2バッテリ16から出力された直流電流はインバータ17により交流電流に変換された後、モータジェネレータ9に給電されてモータジェネレータ9が駆動される。なお、モータジェネレータ9やインバータ17は、第1コントローラ18により制御される。さらに、第2バッテリ16は変圧器45、第2コントローラ46を介してスターティングモータ44に接続されており、第2バッテリ26の直流電流を変圧してスターティングモータ44に給電することも可能となっている。
図2は上記ハイブリッド車Aの主要な制御回路を示すブロック図であり、前記第1コントローラ18は、中央演算処理装置(CPU)や、メモリ(ROM,RAM)ならびに入出力インタフェースを備えたマイクロコンピュータにより構成されている。そして、第1コントローラ18に対しては、エンジン1のクランクシャフト1Aの回転数よりも自動変速機2のカウンタ軸2Cの回転数を高くするためのオーバードライブスイッチ19のオン・オフ信号、エンジン1のエンジンブレーキ力を設定するためのエンジンブレーキ設定ダイヤル20の信号、自動変速機2のシフトポジション(変速段)を検出するシフトポジションセンサ21の信号、車速を検出する車速センサ22の信号、前方または後方の車両との車間距離を検出する車間距離センサ23の信号、エンジン1のクランクシャフト1Aの回転数を検出するエンジン回転数センサ24の信号、自動変速機2のトルクコンバータ2Dのタービン回転数を検出するタービン回転数センサ25の信号などが入力される。
また、第1コントローラ18には、運転者の手動操作または車両の状態により自動的に設定されるモード設定スイッチ26の信号、道路の勾配を検出する勾配センサ27の信号、自動変速機2のトルクコンバータ2Bでのトルク増幅作用により車両の駆動力を生じさせるクリープトルクをオン・オフさせるクリープオン・オフスイッチ28の信号、運転者の脇見を監視する脇見監視カメラ29の信号、ハイブリッド車Aの前後方向の加速度を検出する加速度センサ30の信号、自動変速機2の摩擦係合装置を動作させるサーボアクチュエータ(図示せず)の油圧を検出する油圧センサ31の信号、運転者のイグニッションキー操作により出力されるイグニッションスイッチ32の信号、エンジン1のスロットルバルブ開度を検出するスロットルセンサ35の信号、運転者により選択される自動変速機2のレンジを検出するレンジポジションセンサ36、降坂時の車速を制御するため降坂車速制御スイッチ37、車両と前方または後方の車両との車間距離を一定に維持させるための車間距離制御スイッチ38の信号、自動変速機2のカウンタ軸2Cの回転数を検出する出力軸回転数センサ40の信号、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルスイッチ41の信号などが入力される。
一方、コントローラ18からは、自動変速機2の摩擦係合装置の係合・解放を制御するシフトソレイドバルブ33、トルクコンバータ2Bのロックアップクラッチ2Dの係合・解放を制御するロックアップクラッチソレノイドバルブ34、直流電流を交流電流に変換するインバータ17、モータジェネレータ9、エンジン1の吸気管に設けられたサブスロットルバルブを開閉させるサブスロットルバルブアクチュエータ39、エンジン1の燃焼室に燃料を供給する燃料供給装置42のそれぞれに対して制御信号が出力される。モータジェネレータ9の駆動力または回生制動力は、バッテリ16から給電する電流値により調整される。
上記ハイブリッド車Aは、モード設定スイッチ26により選択される走行モード、たとえばノーマルモード、エコノミーモード、パワーモード、スノーモード、スポーツモード、緊急避難モードなどや、車両の走行状態に基づいて、エンジン1およびモータジェネレータ9の制御や自動変速機2の制御が行われる。このため、第1コントローラ18には、走行状態を判断する基準となるデータ、例えば車速、エンジンブレーキ力、スロットル開度、車間距離、自動変速機2の出力トルクなどや、走行状態に応じてモータジェネレータ9の回生制動力の大きさを制御するデータ、例えば自動変速機2の各変速段に応じた回生制動力、カウンタ軸2Cのトルク変化に応じた回生制動力や駆動力、車両に対する駆動力の増加要求に応じた駆動力、燃料の遮断状態から供給状態に変更される場合のエンジン1の回転数に応じた駆動力などが記憶されている。
上記のように構成されたハイブリッド車Aは、エンジン1またはモータジェネレータ9の少なくとも一方から出力される駆動力により走行する。エンジン1の駆動力は、自動変速機2、差動装置4、ドライブシャフト5,6を介して前輪7,8に伝達される一方、モータジェネレータ9の駆動力は、出力軸10、減速機構11、ドライブシャフト12,13を介して後輪14,15に伝達される。一方、選択される走行モードや走行状態に応じてエンジン1またはモータジェネレータ9のいずれか一方の停止させる制御や、ハイブリッド車Aの減速時にモータジェネレータ9を発電機として機能させる、つまり出力軸10の慣性エネルギーを電気エネルギーに変換することで回生制動力を発揮させる制御が行われる。なお、モータジェネレータ9の回生制動により発電された電気エネルギはー第2バッテリ16に充電される。
(第1制御例)
つぎに、ハイブリッド車Aでおこなわれる制御例を図3のフローチャートに基づいて説明する。ハイブリッド車Aの走行中は第1コントローラ18により、自動変速機2のレンジポジションがD(ドライブ)レンジにあるか否かが判断され(ステップ1)、ステップ1の判断結果が“イエス”の場合には、第1コントローラ18により、自動変速機2が最高変速段にアップシフトされているか否か、具体的には高速走行中であるか否かが判断される(ステップ2)。
ステップ2の判断結果が“イエス”の場合には、第1コントローラ18により、エンジン1のスロットルバルブ開度(以下、この明細書ではスロットル開度と略す)θが0、つまり、パワーオフ(アイドリング)状態にあるか否かが判断され(ステップ3)、ステップ3の判断結果が“イエス”の場合は、運転者が車両を減速させようとしてエンジン1でエンジンブレーキ力が発生しているため、第1コントローラ18により、車速が増加しているか否かが判断される(ステップ4)。
ステップ4の判断結果が“イエス”の場合は、例えばハイブリッド車Aが坂道を降坂しており、坂道の勾配が大きく現在のエンジンブレーキ力では減速されず、運転者の意図を満たすことができないため、モータジェネレータ9により回生制動が開始され、その回生制動力によりハイブリッド車Aの車速の上昇が抑制されるとともに、回生制動が開始された時点の車速V0 が第1コントローラ18に記憶される(ステップ5)。なお、すでにモータジェネレータ9により回生制動が行われていた場合は、その回生制動力を増加する制御が行われる。
そして、回生制動が開始されてから所定時間後、回生制動力の有効性を確認するため、第1コントローラ18によりハイブリッド車Aの車速Vが検出され、車速Vが増加しているか、具体的には回生制動の開始時の車速V0 を越えているか否かが判断され(ステップ6)、このステップ6の判断結果が“ノー”の場合には、さらに所定時間後に車速Vが車速V0 以下となったか否かが判断される(ステップ7)。ステップ7の判断結果が“イエス”の場合、例えば、坂道の勾配が比較的緩やかな道路状況になった場合には、モータジェネレータ9による回生制動が終了する(ステップ8)。
また、ステップ1ないしステップ4の判断結果が“ノー”の場合、例えば平坦路での減速時には、モータジェネレータ9による回生制動は行われずリターンされる。さらに、ステップ6の判断結果が“イエス”の場合、またはステップ7の判断結果が“ノー”の場合、例えばステップ5で開始された回生制動力の大きさでは不充分な急勾配の降坂路においては、ステップ5に戻り回生制動力を増加させる制御が行われる。上記ステップ5において設定する車速V0 は、発生しているエンジンブレーキ力の大きさに対応して、減速側または加速側のいずれの値にも変更可能である。このように、図3の制御例によれば、ハイブリッド車Aの走行中、エンジン1がアイドリング状態となりエンジンブレーキ力が発生する制動要求において、エンジンブレーキ力がモータジェネレータ9の回生制動力により補われ、車速の上昇が抑制される。したがって、坂道を降坂する場合においても運転者によるブレーキ操作やその頻度が減少し、制動性能やドライバビリティが向上する。
(第2制御例)
図4はハイブリッド車Aでおこなわれる他の制御例を示すフローチャートである。まず、ハイブリッド車Aの走行中、第1コントローラ18により、オーバードライブスイッチ19がオフされているか否かが判断される(ステップ11)。ステップ11の判断結果が“ノー”の場合には、エンジンブレーキ力が発生しない走行状態であるため、制動要求がないことになりリターンされる。なお、この判断は自動変速機2でDレンジ、2レンジ、Lレンジのいずれのポジションが選択されていても実行可能である。
ステップ11の判断結果が“イエス”の場合、つまり制動要求がある場合には、第1コントローラ18により、自動変速機2の変速段が最高速段の1段下の変速段、つまりエンジンブレーキ力が発生する変速段か否かが判断される(ステップ12)。ステップ12の判断結果が“イエス”の場合、つまり制動要求がある場合には、ステップ13ないしステップ18の制御に進む。このステップ13ないしステップ18は、図3のステップ3ないしステップ8と同様の制御内容となっている。なお、ステップ12ないしステップ14の判断結果が“ノー”の場合には、制動要求がないためモータジェネレータ9による回生制動は行われずリターンされる。
このように、図4の制御例によれば、ハイブリッド車Aの走行中、エンジン1がアイドリング状態となりエンジンブレーキ力が発生する制動要求において、エンジンブレーキ力がモータジェネレータ9の回生制動力により補われて車速の上昇が抑制されるため。したがって、例えば車両が坂道を降坂する場合でも運転者によるブレーキ操作やその頻度が減少し、制動性能やドライバビリティが向上する。
(第3制御例)
図5はハイブリッド車Aでおこなわれる他の制御例を示すフローチャートである。この制御例では、ハイブリッド車Aの走行中、第1コントローラ18により、降坂車速制御スイッチ37がオンされているか否かが判断され(ステップ21)、ステップ21の判断結果が“イエス”の場合には、第1コントローラ18により、エンジン1がアイドリング(パワーオフ)運転されて制動要求があるか否かが判断される(ステップ22)。
このステップ22の判断結果が“イエス”の場合には、エンジン1によるエンジンブレーキ力が発生しているとともに、第1コントローラ18により、パワーオフ時の車速V0 が記憶され(ステップ23)、所定時間後に検出される車速Vが車速V0 を越えているか否か、例えばハイブリッド車Aが坂道を降坂中であり、エンジンブレーキ力では減速できない状況か否かが判断される(ステップ24)。ステップ24の判断結果が“イエス”の場合には、運転者の意図する減速を行えないためモータジェネレータ9の回生制動力が付加される。なお、すでにモータジェネレータ9による回生制動が行われていた場合は、回生制動力を増加させる制御が行われる(ステップ25)。
このステップ25の処理実行から所定時間後、回生制動力の有効性を確認するため第1コントローラ18により車速Vが車速V0 と等しいか否かが判断され(ステップ26)、ステップ26の判断結果が“イエス”の場合には、モータジェネレータ9の回生制動力がそのままの値に維持され(ステップ27)、リターンされる。また、ステップ26の判断結果が“ノー”の場合、つまり回生制動力が不足している場合は、ステップ25に戻り回生制動力が増加される。なお、ステップ21、ステップ22、ステップ24の判断結果が“ノー”の場合、例えば平坦路などを走行している場合には回生制動を行わず(ステップ28)、リターンされる。さらに、予めモータジェネレータ9により回生制動が行われている状態でステップ21、ステップ22、ステップ24の判断結果が“ノー”の場合にはそのままの回生制動力が維持される。このように、図5の制御例によれば、例えばハイブリッド車Aが坂道を降坂する場合の制動要求に基づいて、エンジンブレーキ力がモータジェネレータ9の回生制動力により補われて車速の上昇が抑制され、かつ、降坂車速がパワーオフ時の車速に維持される。したがって、運転者によるブレーキ操作やその頻度が減少し、制動性能やドライバビリティが一層向上する。
(第4制御例)
図6はハイブリッド車Aでおこなわれる他の制御例を示すフローチャートである。図6の制御例ではハイブリッド車Aの走行中、第1コントローラ18により、降坂車速制御スイッチ37がオンされているか否かが判断され(ステップ31)、ステップ31の判断結果が“イエス”の場合には、第1コントローラ18により、エンジン1がアイドリング(パワーオフ)されているか否かが判断される(ステップ32)。
このステップ32の判断結果が“イエス”の場合には、エンジン1によりエンジンブレーキ力が発生しており、第1コントローラ18により、パワーオフ時の車速Vが、予めエンジンブレーキ設定ダイヤル20により設定されている車速V0 であるか否か、例えばハイブリッド車Aが坂道を降坂中であるか否かが判断される(ステップ33)。ステップ33の判断結果が“イエス”の場合には、エンジンブレーキ力が不足して減速要求を満たせないため、エンジンブレーキ力をモータジェネレータ9の回生制動力により補う制御が行われる。なお、すでにモータジェネレータ9による回生制動が行われていた場合は、回生制動力を増加させる制御が行われる(ステップ34)。
このステップ34の処理から所定時間後、回生制動力の有効性を確認するため第1コントローラ18により現在の車速Vが車速V0 と等しいか否かが判断され(ステップ35)、ステップ35の判断結果が“イエス”の場合には、モータジェネレータ9の回生制動力がそのままの値に維持され(ステップ36)、リターンされる。また、ステップ35の判断結果が“ノー”の場合、つまり減速の程度が不足している場合は、ステップ33に戻り、車速Vが車速V0 になるまで回生制動力が増加される。なお、ステップ31、ステップ32、ステップ33の判断結果が“ノー”の場合は回生制動が行われない一方、予め回生制動力が発生した状態において、ステップ31、ステップ32、ステップ33の判断結果が“ノー”の場合にはそのままの回生制動力が維持され(ステップ37)、リターンされる。このように、図6の制御例によればハイブリッド車Aの制動要求において、エンジンブレーキ力がモータジェネレータ9の回生制動力により補われて車速の上昇が抑制され、かつ、降坂車速が、エンジンブレーキ設定ダイヤル20の操作により任意に設定された車速に維持される。したがって、運転者によるブレーキ操作やその頻度が減少し、制動性能やドライバビリティが一層向上する。
(第5制御例)
図7はハイブリッド車Aでおこなわれる他の制御例を示すフローチャートである。図7の制御例によれば、ハイブリッド車Aの走行中、第1コントローラ18により、車間距離制御スイッチ38がオンされているか否かが判断され(ステップ41)、ステップ41の判断結果が“イエス”の場合には、車間距離センサ23により、障害物、例えば前方の車両との車間距離Lが検出されるとともに、第1コントローラ18により、車間距離Lが予め設定されている車間距離L0 未満であるか否かが判断される(ステップ42)。
このステップ42の判断結果が“イエス”の場合には、第1コントローラ18により、エンジン1がパワーオン状態かパワーオフ状態かが判断され(ステップ43)、パワーオフであることが検出された場合は、モータジェネレータ9の回生制動力が発生し、車速の上昇が抑制される。なお、予めモータジェネレータ9の回生制動が行われていた場合は、回生制動力を増加させる制御が行われる(ステップ44)。ここで与えられる回生制動力は、車間距離Lの値によっては初期制動力を段階的に可変とする制御を行うことも可能である。ステップ44の所定時間後に車間距離Lと車間距離L0 が等しくなったか否かが判断され(ステップ45)、ステップ45の判断結果が“イエス”の場合には、モータジェネレータ9による回生制動が終了(ステップ46)してリターンされる。
なお、ステップ43において、パワーオン状態が検出された場合には、第1コントローラ18からサブスロットルバルブアクチュエータ39に信号が出力されてサブスロットルバルブが閉じられてエンジン1がパワーオフ状態となり(ステップ47)、ステップ44に進む。また、ステップ41、ステップ42の判断結果が“ノー”の場合には制動力を発生させる必要がないため、モータジェネレータ9による回生制動が行われないか、または予めモータジェネレータ9による回生制動が行われていた場合はそのまま回生制動が維持され、車間距離の制御は行われず、リターンされる。このように、図7の制御例によればハイブリッド車Aの走行中、ハイブリッド車Aと前方車両との車間距離が狭くなった場合にはモータジェネレータ9の回生制動力により車両が制動されて車間距離が一定に保持されるから、運転者によるブレーキ操作やその頻度が減少し、制動性能やドライバビリティが向上する。
なお、図7の制御例において、車間距離Lは車間距離L0 以上であれば一定に維持されなくともよい。また、周囲の車両が検出された時点で車間距離にかかわりなく、モータジェネレータ9の回生制動力が発生する制御を行うことも可能である。ハイブリッド車Aが坂道に停車中、勾配により不用意に移動した場合でも同様の効果を得られるし、平坦路に停車中、エンジン1がアイドリング状態に維持され、トルクコンバータ2Bを用いたことによるクリープ現象によりハイブリッド車Aが移動した場合でも同様の効果を得られる。さらに、車間距離センサ以外の障害検出センサを設け、建築物、樹木、人間などとの距離を一定以上に保持する制御を行うことも可能である。
(第6制御例)
図8は、ハイブリッド車Aでおこなわれる制御例を示すフローチャートであり、図9は、図8の制御例における自動変速機2のトルクコンバータ2Bの入力部材(フロントカバーもしくはポンプインペラ)と出力部材(例えばタービンランナ)とのトルク比tと、入力部材と出力部材との速度比eとの関係を示す特性線図であり、図10はタービントルクFと車速Vとの関係を示す特性線図、図11は時間tとハイブリッド車Aの加速度Gとの関係を示す特性線図である。
まず、ハイブリッド車Aが走行を開始すると、エンジン回転数センサ24によりエンジン1の回転数が検出され、タービン回転数センサ25により自動変速機2のタービン回転数が検出され、車速センサ22によりハイブリッド車Aの車速が検出され、加速度センサ30によりハイブリッド車Aの前後加速度が検出され、これらの検出信号が第1コントローラ18に入力される。そして、エンジン回転数とタービン回転数との比、つまり速度比に基づいて、第1コントローラ18により、所定のアクセル開度におけるエンジン1の出力トルクが推定される(ステップ51)とともに、エンジン回転数とタービン回転数との比に基づいて、所定のアクセル開度におけるタービントルクの変化が演算処理される(ステップ52)。
ついで、タービントルクの変化割合が変化する走行状態に対応してモータジェネレータ9から出力される駆動力の大きさが設定される(ステップ53)。この駆動力の大きさは、加速度などの要求値に基づいて例えば0〜400N・m程度に設定される。そして、モータジェネレータ9が停止されていた場合には、ステップ53で設定された駆動力がモータジェネレータ9から出力され、ハイブリッド車Aの走行中における駆動力にモータジェネレータ9の出力が付加される(ステップ54)。また、すでにモータジェネレータ9が駆動されていた場合は、その駆動力を増大させる制御が行われる。
上記のようにしてハイブリッド車Aが走行すると、トルクコンバータ2Bのトルク比は、図9に示すようにコンバータレンジにおいて徐々に低下し、カップリングポイントを経てカップリングレンジへ移行するとほぼ一定に維持される。また、タービントルクは図10に示すように車速の上昇にともないカップリングポイントを境としてその変化割合が変化する。したがって、ハイブリッド車Aの走行中はタービントルクの変化に応じ、その加速度の変化割合が図11に示すようにトルクコンバータのカップリングポイントを境界として急激に変動する。
そこで、この制御例では、ステップ52で検出されるタービントルクの変化割合の変化に基づいて、カップリングポイントを含むトルク伝達領域、例えば図9、図10、図11において斜線で示す領域B、C、Dに相当する駆動力をモータジェネレータ9から出力させて車両の駆動力に付加させ、タービントルクの変動を補わせているため、ハイブリッド車Aの加速度の変化割合が安定して加速性が良好となり、走行性能や乗り心地およびドライバビリティが向上する。
なお、図8の制御例ではタービントルクの変化割合の変動が顕著なカップリングポイントを基準としてモータジェネレータ9を駆動させたりその駆動力を増大させる制御が行われているが、これ以外の走行状態、例えばハイブリッド車Aの発進時や加速時にエンジン1の出力トルクを抑制し、出力トルクの不足分をモータジェネレータ9の駆動力により補う制御を行い加速性を向上させることも可能である。
(第7制御例)
図12は、ハイブリッド車Aでおこなわれる他の制御例を示すフローチャートであり、図13は図12の制御例における自動変速機2の出力トルクT0 と時間(t)との関係を示す特性線図である。まず、ハイブリッド車Aが走行中は、走行状態(例えばスロットル開度、車速など)が第1コントローラ18により検出される。そして、第1コントローラ18により、自動変速機2でダウンシフトを行う走行状態であるか否かが判断される(ステップ61)。ステップ61の判断結果が“イエス”の場合、例えばハイブリッド車Aが登坂路などにさしかかり、運転者によりアクセルペダルが深く踏み込まれてスロットル開度が全開となったことが検出された場合には、自動変速機2においてダウンシフト、いわゆるキックダウンが開始される。
このダウンシフトは、自動変速機2に設けられている摩擦係合装置、例えば高速段側のクラッチと低速段側の一方向クラッチとの係合・解放状態を切り換えることで実行される。具体的には、図13に示すように高速段側のクラッチが解放されると同時に出力トルクが急激に減少し、その後、低速段側の一方向クラッチのロックにより、ダウンシフト前の出力トルクよりも大きな出力トルクが発生してダウンシフトが完了する。このため、高速段側のクラッチが解放されてから低速段側の一方向クラッチがロックされるまでの間は、過渡的に自動変速機2の出力トルクT0 が0の状態が存在する。
そこで、この制御例では高速段側のクラッチが解放されてから低速段側の一方向クラッチがロックされて反力が発生するまでの間、モータジェネレータ9から駆動力を出力させるか、またはすでにモータジェネレータ9が駆動中の場合にはその駆動力を増大させる制御を行う(ステップ62)。そして、第1コントローラ18によりダウンシフトが完了したか否かが判断され(ステップ63)、ステップ63の判断結果が“イエス”の場合には、モータジェネレータ9を停止するかまたは駆動力を元の値に復帰させる制御が行われる(ステップ64)。なお、ステップ61の判断結果が“ノー”の場合には、ダウンシフトおよびモータジェネレータ9の駆動力の出力または増大は行わずにリターンされる。
上記のように自動変速機2の出力トルクの減少による車両の駆動力の減少を、モータジェネレータ9の駆動力により補う場合、図13の点線TM1 のように高速段における出力トルクから急勾配となるようにモータジェネレータ9の駆動力を発生させ、その後、緩やかに低速段の出力トルクに移行するようにモータジェネレータ9の駆動力を制御して加速感を速めに運転者に体感させてもよいし、点線TM2 のように高速段における出力トルクから一定の変化で低速段の出力トルクに移行するようにモータジェネレータ9の駆動力を制御して変速ショックを抑制してもよい。なお、図12の制御例において、ステップ61でダウンシフトする走行状態が検出された時点、すなわち高速段クラッチの解放前にモータジェネレータ9の駆動力を発生たり、または増加させる制御を行ってもよい。
また、図12の制御を行うにあたり、モード設定スイッチ26によりパワーモードが設定されていた場合は、パワーモード以外の走行モードに比べてモータジェネレータ9の駆動力を大きい値に設定したり、パワーモードが設定されていた場合のみモータジェネレータ9の駆動力を出力または増加させる制御を行い、各走行モード毎に異なる加速感が得られる制御を行ってもよい。このように、図12の制御例によれば、自動変速機2でダウンシフトが行われて車両の駆動力が減少する場合に、モータジェネレータ9の出力を車両の駆動力に付加しているため、ダウンシフト時における過渡的な加速応答性が良好となり、変速ショックが抑制されて走行性能や乗り心地およびドライバビリティが向上する。
(第8制御例)
図14は、ハイブリッド車Aでおこなわれる他の制御例を示すフローチャートであり、この制御例では、ハイブリッド車Aの走行中、例えば、アクセルペダルが解放されてスロットル開度が0%とされた状態において、第1コントローラ18により、運転者の操作によりDレンジから2レンジ、またはDレンジからLレンジへとマニュアルシフト操作が行われた(オーバードライブスイッチ19がオフ)か否かが判断される(ステップ71)。ステップ71の判断結果が“イエス”の場合には、自動変速機2のシフトソレノイドバルブ33の動作によりサーボアクチュエータ(図示せず)が動作し、摩擦係合装置が係合および解放されて高速段から低速段に切り換えられてダウンシフトが行われる。
このダウンシフトに伴い低速段側の摩擦係合装置を動作させるサーボアクチュエータの油圧が図15に示すように徐々に上昇する。このため、自動変速機2はオーバードライブ用の摩擦係合装置が解放されて低速段側の摩擦係合装置が係合されるまでの間に一時的にニュートラル状態に近づき、エンジンブレーキ力が低下する。その後、低速段側の摩擦係合装置が充分なトルク容量になり、エンジンブレーキ力が増大する。このように、トルク変動が大きく、過渡的に制動力が不足する。
そこで、この制御例ではステップ71の判断結果が“イエス”の場合には、車速センサ22により検出される車速、シフトポジションセンサ21により検出されるシフトポジション、油圧センサ31により検出されるサーボアクチュエータの油圧などの条件に基づいてモータジェネレータ9の回生制動力を演算し(ステップ72)、自動変速機2の出力トルクが局所的に増大される領域Eに対応して回生制動力を発生させる。なお、予め回生制動力が発生していた場合は、これを増加させる制御が行われる。
その後、自動変速機2のカウンタ軸2Cの回転数の変動、経過時間、油圧センサ31により検出される油圧などに基づいて、モータジェネレータ9による回生制動力の解除または元の回生制動力への復帰タイミングが演算処理され(ステップ74)、演算処理されたタイミングでモータジェネレータ9の回生制動力の復帰処理が行われ(ステップ75)、リターンされる。なお、ステップ71の判断結果が“ノー”の場合にはリターンされる。このように、図14の制御例によれば、自動変速機2のダウンシフト時に、モータジェネレータ9の駆動力を車両の駆動力に付加する制御が行われるため、車両の駆動力の変化が抑制されて変速ショックを防止でき、加速性能や乗り心地およびドライバビリティが向上する。
(第9制御例)
図16は、ハイブリッド車Aでおこなわれる他の制御例を示すフローチャートである。まず、ハイブリッド車Aの走行中、第1コントローラ18により、スロットルセンサ35の信号に基づいてエンジン1がパワーオンされ、かつ、フルスロットル状態か否か、例えば高速道路の合流路から本線への進入や、坂道を登坂する場合などのように、加速性や駆動力が要求される走行状態か否かが判断されるとともに、その走行状態での車速Vが検出される(ステップ81)。ステップ81の判断結果が“イエス”の場合には、所定時間後に検出される車速Vがステップ81で検出された車速よりも低下しているか否かが判断され、低下していることが検出された場合には、自動変速機2のダウンシフトにより駆動力が上昇したか否かの判断が行われる(ステップ82)。
ステップ82の判断結果が“イエス”の場合には、ダウンシフトによりハイブリッド車Aが加速されて自動変速機2が変速パターンに基づいてアップシフトされたか否かが判断され、アップシフト後の車速Vが維持されているか否かが判断される(ステップ83)。ステップ83の判断結果が“ノー”の場合、つまり、加速性が不足している場合にはモータジェネレータ9の駆動力を発生させるか、すでにモータジェネレータ9が駆動されていた場合はその駆動力を増加する制御が行われ(ステップ84)、リターンされる。この場合のモータジェネレータ9の駆動力は、自動変速機2でダウンシフトが行われない程度の車速に維持される値に設定される。なお、ステップ81またはステップ82の判断結果が“ノー”の場合や、ステップ83の判断結果が“イエス”の場合には、モータジェネレータ9による駆動力が発生されないか、既に駆動力が発生されている場合はそのままの駆動力に維持される制御が行われ(ステップ85)、リターンされる。
この制御例によれば、ハイブリッド車Aの走行中に車速が低下してダウンシフトが実行され、その後アップシフトして車速を維持できないような道路状況の場合には、車両の駆動力不足がモータジェネレータ9の駆動力により補われて自動変速機2の変速が行われにくい状態となるため、頻繁な変速、つまりハンチングが防止されて乗り心地やドライバビリティが向上する。なお、この制御例において、所定時間以内に自動変速機2のアップシフトとダウンシフトとが繰り返される走行状態で、車両の駆動力にモータジェネレータ9の出力を付加する制御を行うことも可能である。
(第10制御例)
図17は、ハイブリッド車Aでおこなわれる他の制御例を示すフローチャートであり、図18は図17の制御例におけるエンジン2の出力トルク(点線で示す)Teと自動変速機2の出力トルク(実線で示す)Toとの関係を示す特性線図である。まず、第1コントローラ18によりハイブリッド車Aの走行状態が検出され、自動変速機2のアップシフト、例えば第2速から第3速への変更される走行状態か否かが判断される(ステップ91)。
このステップ91の判断結果が“イエス”の場合には、第1コントローラ18からシフトソレノイドバルブ33に制御信号が出力され、自動変速機2の摩擦係合装置の切り換えが行われてトルクの伝達経路が切り換えられるとともに、第1コントローラ18により、自動変速機2から変速出力が開始されたか否かが判断される(ステップ92)。このステップ92の判断結果が“イエス”の場合には、図18に示すように自動変速機2の出力トルクがエンジントルクとほぼ均等な状態まで低下する。そこで、第1コントローラ18によりモータジェネレータ9が駆動され、その駆動力が後輪14,15に伝達されることで、車両の駆動力の低下が補われる(ステップ93)。
さらに、第1コントローラ18により、自動変速機2においてトルク相が終了してイナーシャ相が開始されたか否かが判断される(ステップ94)。このイナーシャ相は、タービン回転数センサ25により検出されるタービン回転数、出力軸回転数センサ40により検出される出力軸回転数、各変速段のギヤ比に基づいて公知の方法により検出される。前記ステップ94の判断結果が“イエス”の場合には、図18に示すように自動変速機2の出力トルクが上昇するため、所定の出力トルクが検出された時点でモータジェネレータ9の駆動力を解除する一方、モータジェネレータ9により回生制動力が発生される(ステップ95)。
その後、図18に示すように自動変速機2の出力トルクがほぼ一定に維持され、第1コントローラ18により、第3速の同期回転数に到達したか否かが判断される(ステップ96)。同期回転数に到達すれば図18に示すように自動変速機2の出力トルクが急激に減少し、エンジントルクとほぼ均等になり、モータジェネレータ9の回生制動を終了させる制御が行われ(ステップ97)、リターンされる。なお、ステップ91、ステップ92、ステップ94、ステップ96の判断結果が“ノー”の場合にはいずれもリターンされる。
このように、図17の制御例によれば、自動変速機2のアップシフト時、トルク相での出力トルクの減少に対応する領域Fにおいてモータジェネレータ9の出力を車両の駆動力に付加する一方、出力トルクが上昇する領域Gに対応してモータジェネレータ9から回生制動力を出力させることで車両の駆動力、つまり、前輪7,8と後輪14,15とに伝達されるトルクの和の変化が一点鎖線で示すような安定したものとなり、変速ショックが防止されて走行性能や乗り心地およびドライバビリティが向上する。
(第11制御例)
図19は、ハイブリッド車Aでおこなわれる他の制御例を示すフローチャートであり、図20は、図19の制御例における自動変速機2の出力トルクと車速との関係を示す特性線図、図21は、図19の制御例におけるハイブリッド車Aの加速度と時間との関係を示す特性線図である。まず、ハイブリッド車Aの走行中、第1コントローラ18により自動変速機2の変速、具体的には摩擦係合装置が係合・解放されてアップシフトが実行されたか否かが判断される(ステップ101)。ステップ101の判断結果が“イエス”の場合は、図20のように変速段が他の変速段へ切り換えられるれ際に出力トルクの急激な低下が発生し、図21に示すように過渡的に加速度が急激に減少する。
この制御例では、図20に示すように自動変速機2の変速により発生する出力トルクの低下領域Hに相当する駆動力をモータジェネレータ9から出力させる。なお、予めモータジェネレータ9が駆動されていた場合は、その駆動力を増加させる制御が行われる。その結果、図21に示すように加速度の低下領域Iに相当する加速度が補われる。
そして、第1コントローラ18により、モータジェネレータ9の駆動力の補助が所定時間行われたか否かが判断され(ステップ103)、ステップ103の判断結果が“イエス”の場合には、モータジェネレータ9の駆動が終了するかまたは元の駆動力に復帰させる制御が行われ(ステップ104)、リターンされる。前記ステップ103の処理に用いる所定時間t1、t2は、予め各変速段ごとに所定の加速度が得られるように設定され、第1コントローラ18に記憶されている。
上記ステップ101またはステップ103の判断結果が“ノー”の場合にはリターンされる。このように、図19の制御例によれば、自動変速機2の変速時の出力トルクの変化に基づいてモータジェネレータ9の出力が車両の駆動力に付加されるため、変速ショックが緩和されて加速性が良好となり、走行性能や乗り心地およびドライバビリティが向上する。
(第12制御例)
図22は、ハイブリッド車Aでおこなわれる他の制御例を示すフローチャートであり、図23、図24は、図22の制御例における自動変速機2の出力トルクと時間との関係を示す特性線図である。図22の制御例では、ハイブリッド車Aの走行中に、第1コントローラ18により、エンジン1のスロットルバルブの開閉動作、具体的にはパワーオンがパワーオフ、またはパワーオフからパワーオンに変更されたか否かが判断される(ステップ111)。
ステップ111の判断結果が“イエス”の場合には、例えば図23、図24のように自動変速機2の出力トルクが変化する。つまり、パワーオンからパワーオフへと変更された場合には、図23のように出力トルクが急激に減少し、その後、所定量上昇してからほぼ一定状態となる。一方、パワーオフからパワーオンへと変更された場合には、図24のように出力トルクが急激に増加し、その後、所定量減少してからほぼ一定状態となる。このように、出力トルクが瞬時に増減(反転)する現象は、自動変速機2の変速機構またはトルク伝達機構に存在するガタや回転時の慣性力などにより発生する。そこで、この制御例では、車速、変速段、アクセル開度、ロックアップクラッチの係合・解放状態などに基づいて、第1コントローラ18により、出力トルクの増減領域J,Kに応じ、この出力トルクの変化幅を抑制する方向の回生制動力または駆動力が演算処理されるとともに、その回生制動力または駆動力の付与時間が演算処理される(ステップ112)。
そして、ステップ112で演算処理された結果に基づいて、出力トルクの増加時にはモータジェネレータ9による回生制動力が付加され、出力トルクの減少時にはモータジェネレータ9による駆動力が付加されて車両の駆動力の変化が抑制される(ステップ113)。さらに、モータジェネレータ9の回生制動力または駆動力の付加時間が、ステップ112で設定された付加時間t以上になったか否かが判断され(ステップ114)、ステップ114の判断結果が“イエス”の場合には、モータジェネレータ9の回生制動または駆動力の付与を終了させる復帰処理が行われ(ステップ115)、リターンされる。
なお、ステップ111の判断結果が“ノー”の場合にはリターンされ、ステップ114の判断結果が“ノー”の場合には、ステップ113に戻る。このように、図22の制御例によれば、エンジン1でパワーオンとパワーオフとの切り換えが行われて自動変速機2の出力トルクが変化すると、モータジェネレータ9の駆動力または回生制動力が車両の駆動力に付加されることで車両の駆動力変化が抑制されて急激な加減速や振動を防止でき、走行性能や乗り心地およびドライバビリティが向上する。
(第13制御例)
図25は、ハイブリッド車Aでおこなわれる他の制御例を示すフローチャートであり、図26は、図25の制御例における自動変速機2の出力トルクと時間との関係を示す特性線図である。この制御例では、ハイブリッド車Aの停車状態において、第1コントローラ18により自動変速機2のレンジが検出され、ニュートラル(N)レンジを境としてドライブ(D)レンジまたはリバース(R)レンジに操作(いわゆるガレージシフト)されたか否かが判断される(ステップ131)。なお、ステップ131の判断結果が“ノー”の場合にはリターンされる。
ところで、ステップ131の判断結果が“イエス”の場合、仮にニュートラル(N)レンジからドライブ(D)レンジに操作されてそのままアクセルペダルを踏み込むと、自動変速機2の変速機構およびトルク伝達機構同士のガタや振動により図27の実線で示すように、出力トルクに急激な変化が発生する。また、エンジン1のクランクシャフト1Aおよび自動変速機2の中間軸2Aにも急激なトルク変動(ローリング)が発生し、車両を前方向に振動させる力が働く。
そこで、この制御例では、出力トルクの変化量に応じてモータジェネレータ9の回生制動力を発生させることで、上記カウンタ軸2Cの出力トルクの変化およびローリングが吸収され、前輪7,8に伝達されるトルクと、後輪14,15に付与される回生制動力との和、つまり車両の駆動力は点線で示す値に維持される。なお、ニュートラル(N)レンジからリバース(R)レンジに操作された場合も上記と同様の制御が行われる。このように、図25の制御例によれば、例えばハイブリッド車Aをガレージに収納するために前進と後進とを繰り返した場合においても、急激な発進および車両の振動が防止されて乗り心地やドライバビリティが向上する。
(第14制御例)
図27は、ハイブリッド車Aでおこなわれる他の制御例を示すフローチャートである。この制御例では、ハイブリッド車Aの走行中、第1コントローラ18により、自動変速機2のロックアップクラッチ2Dがオン(係合)されているか否かが判断され(ステップ121)、ステップ121の判断結果が“イエス”の場合には、アクセル開度θが予め第1コントローラ18に記憶されているアクセル開度θ10を越えているか否かが判断される(ステップ122)。このアクセル開度θ10はカウンタ軸2Cのトルク変動が発生する値である。
ステップ122の判断結果が“イエス”の場合には、アクセル開度θが予め第1コントローラ18に記憶されているアクセル開度θ20を越えているか否かが判断される(ステップ123)。このアクセル開度θ20は、運転者による加速の意図の有無を判断するための値である。ステップ123の判断結果が“ノー”の場合には、運転者が緩やかな加速を求めていることになるため、エンジン1の出力トルクを維持したままモータジェネレータ9の出力を車両の駆動力に付加することで加速させる(ステップ124)。なお、すでにモータジェネレータ9から駆動力が出力されている場合は、その駆動力を増加させる制御が行われる。
一方、ステップ123の判断結果が“イエス”の場合には、そのまま急激にエンジン1の出力トルクが上昇すれば自動変速機2のカウンタ軸2Cに急激なトルク変化が発生するため、ロックアップクラッチ2Dがオフされた状態で加速される(ステップ125)。つまり、トルクコンバータ2Bによるトルク増幅が行われて加速性がアップする。なお、ステップ121、ステップ122の判断結果が“ノー”の場合にはリターンされる。上記ステップ121が、この発明の検出手段に相当し、ステップ122が、この発明の増加要求検出手段に相当し、ステップ124が、この発明の制御手段に相当し、アクセル開度θ10が、この発明の第1の基準開度に相当し、アクセル開度θ20が、この発明の第2の基準開度に相当する。
このように、図27の制御例によれば、ロックアップクラッチ2Dのオン状態を維持したまま車両の振動防止と車両の加速とを同時に達成できる加速が要求されている場合には、ロックアップクラッチ2Dのオン状態を維持したままのトルク伝達効率を維持して燃費を向上させ、かつ、エンジン1の出力トルクを上昇させずに振動を防止し、さらに、モータジェネレータ9の出力を車両の駆動力に付加することで加速性が向上する。したがって、急激な加減速や振動が防止され走行性能や乗り心地およびドライバビリティが向上する。
(第15制御例)
図28は、ハイブリッド車Aでおこなわれる他の制御例を示すフローチャートである。この制御例では、ハイブリッド車Aのエンジン1がアイドリング状態で停車中に第1コントローラ18により、クリープオン・オフスイッチ28のオン・オフが判断され(ステップ141)、オフ、つまり運転者の意図がハイブリッド車Aの停車にあることが検出された場合は、ハイブリッド車Aが車速Vで前進または後進しているか否かが判断される(ステップ142)。このステップ142の判断結果が“イエス”の場合、つまり、トルクコンバータ2Bを介して伝達されるクリープトルクによりハイブリッド車Aが徐々に移動している場合は、車両の駆動力にモータジェネレータ9の回生制動力が付加される(ステップ143)。
そして、ハイブリッド車Aが停車して車速Vが0となったか否かが判断され(ステップ144)、ステップ144の判断結果が“イエス”の場合には、そのままの回生制動力が保持されて停車状態が維持される(ステップ145)。なお、ステップ141でオンが検出された場合や、ステップ141の判断結果が“ノー”の場合には、モータジェネレータ146の回生制動を行わず(ステップ146)、リターンされる。また、ステップ144の判断結果が“ノー”の場合には、ステップ143に戻り、回生制動力がさらに増加される。
このように、図28の制御例によれば、トルクコンバータ2Bを介して出力されるクリープトルクにより車両が移動した場合において、停車要求が検出されるとモータジェネレータ9の出力が車両の制動力として付加されるため、運転者によるブレーキ操作やその頻度が減少し、制動性能やドライバビリティが向上する。なお、図28の制御例において、車両の停車要求が検出された時点からモータジェネレータ9を逆回転させて制動力を発生させたり、モータジェネレータ9の回生制動力により車両が停車した時点からモータジェネレータ9を逆回転させて制動力を増大させることも可能である。
(第16制御例)
図29は、ハイブリッド車Aでおこなわれる他の制御例を示すフローチャートである。この制御例では、ハイブリッド車Aのエンジン1がアイドリング状態で停車中に第1コントローラ18により、クリープオン・オフスイッチ28のオン・オフが判断され(ステップ151)、オン、つまり運転者の意図がハイブリッド車Aを徐々に移動させようとしていることが検出された場合は、車速Vが0(つまり停車)であるか否かが判断される(ステップ152)。このステップ152の判断結果が“ノー”の場合、つまり、クリープ現象により車両が徐々に移動している場合は、運転者が脇見したか否か判断される(ステップ153)。この判断は脇見監視カメラ29などの信号により判断される。ステップ153の判断結果が“イエス”の場合には、モータジェネレータ9により回生制動力が発生し、車両と周囲の障害物との距離が狭くなることが防止される(ステップ154)。
そして、第1コントローラ18により、車両が停止して車速が0となったか否かが判断され(ステップ155)、ステップ155の判断結果が“イエス”の場合には、そのままの回生制動力が保持されるとともに、運転者に脇見を止めさせるためのアラームが発生する(ステップ156)。また、ステップ155の判断結果が“ノー”の場合には、ステップ154に戻り、回生制動力がさらに増加される。なお、ステップ151でオフが検出された場合や、ステップ152の判断結果が“ノー”の場合、またはステップ153の判断結果が“ノー”の場合には、いずれも回生制動が行われず(ステップ157)、リターンされる。
このように、図29の制御例によれば、運転者の意図が車両をクリープ現象により徐々に前進または後進させることにあっても、運転者が脇見をしていた場合には、モータジェネレータ9の回生制動力により車両を停車させ、周囲の車両や障害物との距離を保持できるため、運転者によるブレーキ操作やその頻度が減少し、制動性能やドライバビリティが向上する。なお、図29の制御例において、車両の停車要求が検出された時点からモータジェネレータ9を逆回転させて制動力を発生させたり、モータジェネレータ9の回生制動力により車両が停車した時点からモータジェネレータ9を逆回転させて制動力を増大させることも可能である。
(第17制御例)
図30は、ハイブリッド車Aでおこなわれる他の制御例を示すフローチャートである。この制御例では、エンジン1が駆動された状態で走行中に、第1コントローラ18により、フューエルカットが実行中か否かが判断される(ステップ161)。このフューエルカットは、例えばエンジン1のスロットルバルブが全閉された状態で減速走行する場合などに実行される公知の制御であり、スロットルバルブの開度とエンジン1の回転数とに基づいてエンジン1の燃焼室に対する燃料供給が遮断され、触媒の過熱防止や燃料の節約が図られる。前記ステップ161の判断結果が“イエス”の場合には、第1コントローラ18により、車速センサ22で検出される車速Vが復帰車速V0 以下であるか否かが判断され(ステップ162)、ステップ162の判断結果が“イエス”の場合には、第1コントローラ18により、エンジン1の回転数NEの状態が正常であるか否かが判断される(ステップ163)。
ここで、エンジン1の回転数が正常であるとの判断は、例えばエンジン1の燃焼室が爆発状態にあることや、後に行われるパワーオン、つまり燃料の遮断状態から燃料の供給状態への変更時にエンジン1の各気筒の一つが爆発のタイミングになってエンジン回転数を立ちあげる力を維持できることなどを基準として行われる。なお、パワーオン後にエンジン回転数を立ち上げる力を維持できるか否かは、第1コントローラ18により演算処理すれば予測可能である。
ステップ163の判断結果が“ノー”の場合、例えばエンジン1の回転状態がエンジンストールに至る寸前のラフアイドル状態にある場合には、第1コントローラ18により、運転者によりアクセルペダルが踏み込まれてパワーオンされたか否か、具体的にはエンジン1の燃焼腟に対する燃料の遮断状態から供給状態に変更されたか否かが判断される(ステップ164)。ステップ164の判断結果が“イエス”の場合には、第1コントローラ18により、スロットル開度θに応じてエンジン1の駆動力を補助すべき駆動力の値が演算処理されるとともに、演算処理された駆動力がモータジェネレータ9から出力されてエンジン1の駆動力が補われる(ステップ165)。
その後、第1コントローラ18により、エンジン1の回転数NEが正常になったか否かが判断され(ステップ166)、ステップ166の判断結果が“イエス”の場合にはモータジェネレータ9による駆動力の補助が終了される(ステップ167)。上記制御例のステップ161、ステップ162、ステップ164の判断結果が“ノー”の場合や、ステップ163の判断結果が“イエス”の場合には、エンジン1の駆動力を補助する必要性がないためモータジェネレータ9による駆動力の補助は行われずリターンされる。
また、ステップ166の判断結果が“ノー”の場合にはエンジン1の駆動力が不足状態であるため、ステップ165に戻りモータジェネレータ9による駆動力の補助が継続される。このように、図30の制御例によれば、エンジン1に対する燃料の遮断状態から供給状態に変更される場合に、燃焼室の爆発タイミングの遅れにより発生するエンジン1の駆動力不足をモータジェネレータ9の駆動力により補う制御が行われるから、ハイブリッド車Aの加速性が良好となり走行性能やドライバビリティが向上する。なお、エンジン1の燃料の供給状態から供給状態への変更制御は、エンジン1の全ての気筒に対して行われる場合、あるいは全ての気筒のうちのいくつかに対して行われる場合、またはバンク切り換えなど、いずれの場合にも適用可能である。
図31はハイブリッド車Aでおこなわれる他の制御例を示すフローチャートである。この制御例によれば、ハイブリッド車Aの走行中または停止中に、第1コントローラ18により、各種の入力信号に基づいてエンジン1または自動変速機2が故障して走行不能な状態にあるか否かが判断される(ステップ171)。故障としては、例えばエンジン1の燃料系統、吸気系統の故障や、自動変速機2の油圧系統の故障などがあげられる。これらの故障が検出された場合は、エンジン1の駆動力では車両の走行が不可能である旨の警告が行われる。
前記ステップ171の判断結果が“イエス”の場合には、現在の走行モードから緊急避難モードに切り換えられたか否かが判断される(ステップ172)。この切り換えは第1コントローラ18により自動的に行われる場合と、運転者による手動操作による場合のいずれでも可能である。このステップ172の判断結果が“イエス”の場合には、第2コントローラ46のマニュアル操作により、第2バッテリ16とスターティングモータ44とが接続されたか否かが判断され(ステップ173)、ステップ173の判断結果が“イエス”の場合には、エンジン1は駆動されずにモータジェネレータ9の駆動力によりハイブリッド車Aが移動が開始されたか否かが判断される(ステップ174)。
このステップ174の判断結果が“イエス”の場合には、所定時間後に車両が他の車両などに支障のない場所への避難が終了したか否かが判断される(ステップ175)。この判断は、例えばハイブリッド車Aの停車状態でのパーキングブレーキの動作などを基準として行われる。なお、前記ステップ171、ステップ172の判断結果が“ノー”の場合にはリターンされ、前記ステップ173、ステップ174、ステップ175の判断結果が“ノー”の場合には、ステップ172に戻る。このように、図31の制御例によればエンジン1または自動変速機2が故障してエンジン1の駆動力により走行することが不可能な状態となった場合でも、モータジェネレータ9の駆動力によりハイブリッド車Aが走行可能である。
図32はハイブリッド車Aでおこなわれる他の制御例を示すフローチャートである。この制御例では、第2コントローラ46により、第1バッテリ43の容量(電圧)が検出されており、第1バッテリ43の容量不足により、スターティングモータ44を動作させることができない状態か否かが判断される(ステップ181)。このステップ181の判断結果が“イエス”の場合には、スターティングモータ44と第2バッテリ16とがスイッチ(図示せず)などにより接続されたか否かが判断され(ステップ182)、ステップ182の判断結果が“イエス”の場合には、運転者によりイグニッションキーがオンされると(ステップ183)、第2バッテリ16からスターティングモータ44に給電されて、スターティングモータ44が動作される(ステップ184)。なお、第2バッテリ16の電圧は電圧器45で変圧されてエンジン1の回転速度が調整される。なお、ステップ181、ステップ182の判断結果が“ノー”の場合にはリターンされる。このように、図32の制御例によれば、第1バッテリ43の容量が不足した場合には、第2バッテリ16の直流電流がスターティングモータ44に給電される制御が行われるから、支障なくエンジン1を起動させて走行を開始することができる。
なお、図3、図5、図6、図7、図19、図30、図31、図32の制御例は、自動変速機2に代えて選択歯車式変速機、例えば摺動噛み合い式、常時噛み合い式、等速噛み合い式などを用いたハイブリッド車にも適用可能である。また、図7、図8、図12、図14、図16、図17、図19、図22、図25、図27、図28、図29、図31、図32の制御例は、エンジン1に代えて他の動力源、例えば電動機システム、フライホイールシステム、ガスタービン、燃料電池システムなどを用いたハイブリッド車にも適用可能である。さらに、図8、図12、図14、図16、図17、図19、図22、図25、図27、図30、図31、図32の制御例は、モータジェネレータ9に代えて他の動力源、例えば力行機能のみを備えた電動モータ、油圧モータ、フライホイールシステム、ガスタービンなどを用いたハイブリッド車にも適用可能である。
さらにまた、この実施例では同一種類の動力源を複数用いてもよいし、異なる種類の動力源を組み合わせてもよい。さらに、各動力源の接続方法としては直列型、並列型のいずれを採用することも可能である。また、ハイブリッド車の駆動方式としては、各動力源の駆動力が全ての車輪にに伝達される構成の四輪駆動車、あるいは各動力源の駆動力が各々異なる車輪に伝達される構成の四輪駆動車、各動力源の駆動力が一部の車輪にのみ伝達される構成の二輪駆動車のいずれを採用してもよい。四輪駆動車の駆動方式としては、パートタイムまたはフルタイムのいずれでもよい。
1…エンジン、 2…自動変速機、 2B…トルクコンバータ(発進装置)、 2D…ロックアップクラッチ、 7,8…前輪、 9…モータジェネレータ、 14,15…後輪、 18…第1コントローラ、 A…ハイブリッド車。