JP4207532B2 - ボールねじ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、回転運動を直線運動に変換する装置として、例えば工作機械や射出成形機などで使用されるボールねじに関する。
【0002】
【従来の技術】
工作機械や射出成形機等の各種産業機械では、モータ等の回転運動を直線運動に変換する装置として、ボールねじが従来から使用されている。従来、この種のボールねじは、外周面に螺旋状の内側軌道溝を有するねじ軸と、このねじ軸の外周面に対向する内周面に螺旋状の外側軌道溝を有するナットとを備えており、例えばねじ軸を軸芯回りに回転させるとねじ軸とナットとの間に組み込まれた多数のボールが内側軌道溝と外側軌道溝の溝面を転動し、これに伴ってナットが軸方向に相対移動するようになっている。
【0003】
このようなボールねじは、内側軌道溝および外側軌道溝の溝面を同じ曲率でゴシックアーク状に形成しているものが多い。このため、ねじ軸側の内側軌道溝は主曲率の一方が凸形状であるのに対し、ナット側の外側軌道溝は主曲率の一方が凹形状であることから、内側軌道溝の溝面の曲率半径と外側軌道溝の溝面の曲率半径とが同じである場合には、内側軌道溝の溝面に加わるボールの接触面圧が外側軌道溝の溝面に加わるボールの接触面圧よりも大きくなってしまう。また、ボールは内側軌道溝および外側軌道溝の溝面を滑りながら転動するため、内側軌道溝および外側軌道溝の溝面にボールの滑り摩擦損失が生じる。ここで、単位時間当りの滑り摩擦損失はPV値(P:ボールの接触面圧、V:ボールのすべり速度)と滑り摩擦係数によって計算することができるが、内側軌道溝の溝面の表面粗さと外側軌道溝の溝面の表面粗さがほぼ同じ表面粗さである場合には、溝面の滑り摩擦係数がほぼ同じとなるため、単位時間当りの滑り摩擦損失は外側軌道溝の溝面よりも内側軌道溝の溝面のほうが大きくなる。
【0004】
内側軌道溝の溝面の滑り摩擦損失を低減する方策として、内側軌道溝の溝面の曲率半径を外側軌道溝の溝面の曲率半径よりも大きくする方法が考えられるが、内側軌道溝の溝面に加わる最大接触面圧が大きくなってしまうため、ストロークが小さい場合や極度な高負荷条件で使用する場合には転がり疲労によりボールねじの寿命が短くなる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、従来のボールねじにおいては、内側軌道溝の溝面の滑り摩擦損失を低減するために、内側軌道溝の溝面の曲率半径を外側軌道溝の溝面の曲率半径よりも大きくすると、内側軌道溝の溝面に加わる最大接触面圧が大きくなってしまい、ストロークが小さい場合や極度な高負荷条件で使用する場合に転がり疲労により寿命が短くなるという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、内側軌道溝の溝面の曲率半径を外側軌道溝の溝面の曲率半径よりも大きくすることなくねじ軸側の滑り摩擦損失を小さくすることのできるボールねじを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、外周面に螺旋状の内側軌道溝を有するねじ軸と、このねじ軸の外周面に対向する内周面に螺旋状の外側軌道溝を有するナットと、前記ねじ軸または前記ナットの回転運動に伴って前記内側軌道溝および前記外側軌道溝の溝面を転動する多数のボールとを備えたボールねじにおいて、前記内側軌道溝の溝面、及び前記外側軌道溝の溝面の形状が、同じ曲率半径のゴシックアーチ状であり、前記内側軌道溝の溝面の算術平均表面粗さをRa(s)、前記外側軌道溝の溝面の算術平均表面粗さをRa(n)としたとき、前記内側軌道溝の溝面の算術平均表面粗さをRa(s)≦0.5Ra(n)とし、前記内側軌道溝の溝面の平均表面粗さを前記外側軌道溝の溝面の表面粗さより小さい表面粗さとしたことを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載のボールねじにおいて、前記内側軌道溝の溝面の算術平均表面粗さをRa(s)、前記外側軌道溝の溝面の算術平均表面粗さをRa(n)としたとき、前記内側軌道溝の溝面の算術平均表面粗さをRa(s)≦0.25Ra(n)としたことを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載のボールねじにおいて、前記多数のボールのうち隣り合う二つのボール間に、凹状のボール接触面を両端に有する円盤状のスペーサを設けたことを特徴とするものである。
請求項4の発明は、請求項1又は2に記載のボールねじにおいて、前記多数のボールのうち隣り合う二つのボール間に、該ボールの直径より径の小さい球状スペーサを設けたことを特徴とするものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るボールねじの軸方向に沿う断面図である。同図に示されるように、本発明の一実施形態に係るボールねじ10は、ねじ軸11と、このねじ軸11の外径より径の大きい内径を有するナット12と、このナット12とねじ軸11との間に組み込まれた多数のボール13とを備えており、例えばねじ軸11が軸芯回りに回転するとボール13がねじ軸11の外周面とナット12の内周面に相対向して形成された螺旋状の内側軌道溝14および外側軌道溝15間を転動し、これに伴ってナット12が軸方向に相対移動するようになっている。
【0011】
また、ボールねじ10はボール循環部材としてのボール循環チューブ16を備えており、軌道溝14,15間を転動したボール13はボール循環チューブ16内を通って元の位置に戻るようになっている。さらに、ボールねじ10はボール13よりも軟質の金属材料若しくは樹脂等の高分子材料からなる多数の円盤状スペーサ17を備えており、これらのスペーサ17は隣り合う二つのボール13,13間に配置されている。
【0012】
図2はスペーサ17の軸方向に沿う断面図であり、同図に示されるように、スペーサ17の両端面には凹状のボール接触面18,18が形成されている。このボール接触面18は、スペーサ17の軸方向に沿う断面がボール13の半径より大きい曲率半径で円弧状若しくはゴシックアーチ状に形成されており、これにより、ボール13はボール接触面18の二箇所と線接触するようになっている。
【0013】
図3は、内側軌道溝14および外側軌道溝15の溝面の形状を示す断面図である。同図に示されるように、内側軌道溝14および外側軌道溝15は、二つの円弧をゴシックアーチ状に組み合わせた形状の溝面14a,15aを有しており、これらの溝面14a,15aは、その曲率半径がほぼ同一の曲率半径となっている。また、内側軌道溝14の溝面14aの算術平均表面粗さをRa(s)、外側軌道溝15の溝面15aの算術平均表面粗さをRa(n)とすると、内側軌道溝14の溝面14aはその算術平均表面粗さがRa(s)≦0.5Ra(n)、好ましくはRa(s)≦0.25Ra(n)となっている。
このような構成に基づく本発明の実施例と比較例を表1に示す。
【0014】
【表1】
【0015】
表1において、実施例1〜12は隣り合う二つのボール間にスペーサが介挿されたボールねじであって、内側軌道溝14の溝面14aの算術平均表面粗さRa(s)を外側軌道溝15の溝面15aの算術平均表面粗さRa(n)に対してRa(s)≦0.5Ra(n)としたものである。また、実施例13〜24は隣り合う二つのボール間にスペーサが介挿されていないボールねじであって、内側軌道溝14の溝面14aの算術平均表面粗さRa(s)を外側軌道溝15の溝面15aの算術平均表面粗さRa(n)に対してRa(s)≦0.5Ra(n)としたものである。
【0016】
一方、比較例25〜29は隣り合う二つのボール間にスペーサが介挿されたボールねじであって、内側軌道溝14の溝面14aの算術平均表面粗さRa(s)と外側軌道溝15の溝面15aの算術平均表面粗さRa(n)との比をRa(s)/Ra(n)>0.5としたものである。また、比較例30〜34は隣り合う二つのボール間にスペーサが介挿されていないボールねじであって、内側軌道溝14の溝面14aの算術平均表面粗さRa(s)と外側軌道溝15の溝面15aの算術平均表面粗さRa(n)との比をRa(s)/Ra(n)>0.5としたものである。
【0017】
本発明者らは、表1に示す実施例1〜24及び比較例25〜34に対して下記の試験条件でボールねじの耐久寿命試験を行った。そして、内側軌道溝14の溝面14aまたはボール13に剥離が生じるまでのナット移動距離を測定し、内側軌道溝14の溝面14aの算術平均表面粗さRa(s)と外側軌道溝15の溝面15aの算術平均表面粗さRa(n)との比が1.0に最も近いボールねじ(比較例30)のナット移動距離を基準として、各ボールねじのナット移動距離を寿命比として比較評価した。その結果を表1及び図4に示す。
【0018】
[耐久寿命試験条件]
使用ボールねじ名:NSKボールねじBS2520(ボール径4.7625mm)
使用試験機名:日本精工(株)製ボールねじ耐久寿命試験機
予圧荷重:500N
試験荷重:アキシャル荷重=1000N
回転数:5000min−1
ストローク:500mm
潤滑グリース:アルバニアNo.2(昭和シェル石油(株)製)
図4から明らかなように、内側軌道溝14の溝面14aと外側軌道溝15の溝面15aの曲率半径が同じである場合には、Ra(s)/Ra(n)が小さくなるほどボールねじの耐久寿命が長くなることがわかる。
【0019】
図5は内側軌道溝14の溝面14aの算術平均表面粗さをRa(s)=1.0Ra(n)、0.5Ra(n)、0.25Ra(n)、0.2Ra(n)とした場合におけるPVmaxの変化を示す図であり、同図に示されるように、内側軌道溝14の溝面14aの算術平均表面粗さRa(s)を小さくしてもPVmaxはあまり大きく変化しないことがわかる。つまり、内側軌道溝14の溝面14aの算術平均表面粗さRa(s)を小さくしてもねじ軸側のPV値は大きく変化しないことがわかる。
【0020】
図6は内側軌道溝14の溝面14aの算術平均表面粗さをRa(s)=1.0Ra(n)、0.5Ra(n)、0.25Ra(n)、0.2Ra(n)とした場合における滑り摩擦損失の変化を示す図であり、同図から明らかなように、内側軌道溝14の溝面14aの算術平均表面粗さRa(s)を小さくすると滑り摩擦損失が減少することがわかる。特に、内側軌道溝14の溝面14aの算術平均表面粗さRa(s)を外側軌道溝15の溝面15aの算術平均表面粗さRa(n)に対してRa(s)≦0.5Ra(n)、好ましくはRa(s)≦0.25Ra(n)にすると、Ra(s)/Ra(n)を1.0とした場合に比較して、ねじ軸側の滑り摩擦損失が大きく減少することがわかる。
【0021】
以上のことから、内側軌道溝14の溝面14aの算術平均表面粗さを外側軌道溝15の溝面15aの算術平均表面粗さより小さい表面粗さにすると、内側軌道溝14の溝面14aの算術平均表面粗さが小さくなるほどねじ軸側の滑り摩擦損失が減少する。したがって、ねじ軸側の滑り摩擦損失を小さくするために、内側軌道溝の溝面の曲率半径を外側軌道溝の溝面の曲率半径よりも大きくする必要がないので、内側軌道溝の溝面の曲率半径を外側軌道溝の溝面の曲率半径よりも大きくすることなくねじ軸側のPV値を小さくすることができ、これにより、ストロークが小さい場合や高負荷条件で使用する場合でも耐久寿命の長いボールねじを得ることができる。
【0022】
また、内側軌道溝14の溝面14aの算術平均表面粗さを外側軌道溝15の溝面15aの算術平均表面粗さに対してRa(s)≦0.5Ra(n)、好ましくはRa(s)≦0.25Ra(n)の算術平均表面粗さにすることによって、ねじ軸側の滑り摩擦損失がより大きく減少するので、耐久寿命のより長いボールねじを得ることができる。
【0023】
また、上述した実施形態のように、隣り合う二つのボール13,13間にスペーサ17を設けることで、隣り合うボール同士の競り合いがスペーサ17によって抑制されるので、ボール同士の競り合いによる滑り摩擦損失を低減することができる。
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではない。たとえば、上述した実施形態では、ボール同士の競り合いによる滑り摩擦損失を低減するために、隣り合う二つのボール13,13間に円盤状のスペーサ17を配置したが、隣り合う二つのボール間に該ボールの直径より径の小さい球状スペーサを配置しても同様の効果を得ることができる。
【0024】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明は、内側軌道溝の溝面の算術平均表面粗さを外側軌道溝の溝面の算術平均表面粗さより小さい表面粗さとしたことにより、ねじ軸側の滑り摩擦損失が減少するため、内側軌道溝の溝面の曲率半径を外側軌道溝の溝面の曲率半径よりも大きくすることなくねじ軸側の滑り摩擦損失を小さくすることができる。
【0025】
請求項2及び3の発明によれば、ねじ軸側の滑り摩擦損失が大きく減少するので、ストロークが小さい場合や高負荷条件で使用する場合でも耐久寿命のより長いボールねじを得ることができる。
請求項4及び5の発明によれば、隣り合うボール同士の競り合いがスペーサによって抑制されるため、上述した効果に加え、ボール同士の競り合いによる滑り摩擦損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係るボールねじの軸方向断面図である。
【図2】隣り合う二つのボール間に介挿されたスペーサの軸方向断面図である。
【図3】ねじ軸の外周面に形成された内側軌道溝とナットの内周面に形成された外側軌道溝の溝面形状を示す図である。
【図4】表1に示す各ボールねじの耐久寿命試験結果を示す図である。
【図5】内側軌道溝の溝面の算術平均表面粗さRa(s)を外側軌道溝の溝面の算術平均表面粗さRa(n)に対してRa(s)=1.0Ra(n)、0.5Ra(n)、0.25Ra(n)、0.2Ra(n)とした場合におけるPVmaxの変化を示す図である。
【図6】内側軌道溝の溝面の算術平均表面粗さRa(s)を外側軌道溝の溝面の算術平均表面粗さRa(n)に対してRa(s)=1.0Ra(n)、0.5Ra(n)、0.25Ra(n)、0.2Ra(n)とした場合における滑り摩擦損失の変化を示す図である。
【符号の説明】
11 ねじ軸
12 ナット
13 ボール
14 内側軌道溝
14a 溝面
15 外側軌道溝
15a 溝面
16 ボール循環チューブ
17 スペーサ
Claims (4)
- 外周面に螺旋状の内側軌道溝を有するねじ軸と、このねじ軸の外周面に対向する内周面に螺旋状の外側軌道溝を有するナットと、前記ねじ軸または前記ナットの回転運動に伴って前記内側軌道溝および前記外側軌道溝の溝面を転動する多数のボールとを備えたボールねじにおいて、
前記内側軌道溝の溝面、及び前記外側軌道溝の溝面の形状が、同じ曲率半径のゴシックアーチ状であり、
前記内側軌道溝の溝面の算術平均表面粗さをRa(s)、前記外側軌道溝の溝面の算術平均表面粗さをRa(n)としたとき、前記内側軌道溝の溝面の算術平均表面粗さをRa(s)≦0.5Ra(n)とし、
前記内側軌道溝の溝面の平均表面粗さを前記外側軌道溝の溝面の表面粗さより小さい表面粗さとしたことを特徴とするボールねじ。 - 前記内側軌道溝の溝面の算術平均表面粗さをRa(s)、前記外側軌道溝の溝面の算術平均表面粗さをRa(n)としたとき、前記内側軌道溝の溝面の算術平均表面粗さをRa(s)≦0.25Ra(n)としたことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ。
- 前記多数のボールのうち隣り合う二つのボール間に、凹状のボール接触面を両端に有する円盤状のスペーサを設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載のボールねじ。
- 前記多数のボールのうち隣り合う二つのボール間に、該ボールの直径より径の小さい球状スペーサを設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載のボールねじ。
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