JP4197591B2 - ステアリングダンパ装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、走行時におけるハンドルの振れを抑制するために用いられる自動2輪車などの鞍乗り車両等に好適な車両用液圧式ステアリングダンパ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
外乱時のキックバックによるハンドルの振れに対して減衰力を発生する液圧式ステアリングダンパ装置が公知である(一例として特許2593461号)。また、必要なときのみ減衰力を発生し、その他の場合は余計な減衰力を発生しないように減衰力を可変とするものも公知であり、例えば、ステアリング角と走行速度に基づいて制御するもの(特開昭63−64888号)、前輪荷重の変化に基づいて制御するもの(特公平7−74023号)等がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来例の減衰力可変式ステアリングダンパにおいては、減衰力制御に用いる検出センサー量と減衰力発生量が直線的な対応関係になっているものと考えられる。しかし、このような直線的対応では、外乱によって発生すべきキックバックが大きくなればなる程、必要な減衰力が発生するまでに前輪操舵系が大きく転舵してしまうので、それ程大きく転舵させることなく、迅速かつ的確な減衰力の発生により大きなキックバックを阻止することが望まれる。
また、必要以上に大きな減衰力の発生を許容すると、ステアリングダンパに過大な減衰力に耐えるべく必要以上の強度が要求されることになるから、過大な減衰力を発生しないようにすることも望まれる。そこで、本願発明は係る諸要請の実現を目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本願のステアリングダンパ装置に係る請求項1の発明は、車体フレームの前端部へ回動自在に支持されたステアリング軸に連動する隔壁と、この隔壁によって区画された2室と、これら2室間を連通し、前記隔壁の移動により2室内の作動液が移動するバイパス通路と、このバイパス通路の一部を絞ることにより減衰力を発生し、かつこの減衰力を可変にするための制御バルブとを備えた液圧式のステアリングダンパ装置において、
前記制御バルブは、前記作動液の通路内を進退動するニードルを備え、このニードルは長手方向へ太さが一様に変化し、進退動によってニードル周囲に形成される間隙通路の隙間面積を可変にするとともに、
この隙間面積を前記ニードルが進退するストローク変化に対して非線形的に変化させることにより、前記間隙通路において発生する減衰力を前記ストロークの変化に対して2次曲線状に増大させ、かつ前記ステアリング軸の回転角度を検出し、この回転角度を微分して計算される操舵速度に基づいて前記ニードルを進退させ、
前記バイパス通路は、互いに作動液を反対方向へ流す第1通路と第2通路を備え、第1通路には前記制御バルブを構成する第1制御バルブと第1流量センサーが設けられ、第2通路には前記制御バルブを構成する第2制御バルブと第2流量センサーが設けられ、これら第1及び第2流量センサーにより検出されたステアリング軸の回転方向に基づいて、前記第1又は第2制御バルブを制御することを特徴とする。
【0005】
請求項2の発明は、上記請求項1において、前記間隙通路の断面形状が環状であることを特徴とする。
【0007】
請求項3の発明は、上記請求項1において、前記制御バルブが電磁バルブであり、この電磁バルブの電磁力に上限を設定することにより減衰力が上限規制されることを特徴する。
【0008】
【発明の効果】
請求項1の発明によれば、弁体周囲に形成される間隙通路の隙間面積変化を、進退動する弁体のストローク量に対して非線形的に変化させ、間隙通路において発生する減衰力をストロークの変化に対して2次曲線状に増大させるようにしたので、発生するキックバックが大きくなればなる程、減衰力が急増するため、前輪操舵系をそれ程大きく転舵させることなく、迅速かつ的確な減衰力の発生により大きなキックバックを有効に防止できる。
【0009】
請求項2の発明によれば、間隙通路を環状にしたので、弁体の進退動に伴ってそのストローク量と比例する間隙通路の半径変化に対して隙間面積は2乗で変化するから、上記2次曲線状の隙間面積変化を容易に実現でき、かつ絞り通路及び弁体をそれぞれ円形断面にすればよいので比較的簡単な構造で実現できる。
【0011】
請求項3の発明によれば、制御バルブを電磁バルブとすることにより、電磁バルブの電磁力より大きな減衰力が発生しようとしても、液圧によって電磁バルブが開放されるため、過大な減衰力の発生を阻止する。したがって、単に制御バルブを電磁バルブとするだけの簡単な構造で上限規制手段を構成でき、特別な上限規制手段を別個に設けなくても済むことになる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて第1実施例を説明する。図1は本実施例の適用される自動2輪車を示す斜視図、図2はステアリングダンパが設けられた車体前部構造側面図、図3は同部分の平面図、図4はステアリングダンパの概略構造を示す図、図5は電磁バルブの断面図、図6は図5の6−6線断面図、図7は作用を示すグラフである。
【0013】
図1において、前輪1を下端に支持するフロントフォーク2の上部は車体フレーム3の前部へ連結され、ハンドル4にて回動自在になっている。車体フレーム3上には燃料タンク5が支持されている。符号6はシート、7はリヤカウル、8はリヤスイングアーム、9は後輪である。
【0014】
次に、ステアリングダンパについて説明する。図2、3に示すように、ステアリングダンパ10はハンドル4が取付けられているトップブリッジ11の上方に配置されている。トップブリッジ11は車体フレーム3の前端部であるヘッド部3aへ軸支されている。トップブリッジ11は下方のボトムブリッジ12と対をなして、ヘッドパイプ13に支持されているステアリング軸14を上下に挟んで一体化され、これらトップブリッジ11、ボトムブリッジ12及びステアリング軸14は一体に回動する。
【0015】
本実施例におけるヘッドパイプ13はヘッド部3aの前部中央に上下方向へ一体形成された筒状部である。但しヘッドパイプ13は予め車体フレームと別体のパイプ部材で形成し、これを溶接等で車体フレームの前端部へ一体化した公知のものであってもよい。ステアリングダンパ10はヘッド部3aの上方に車体中心C(図3)に沿って、ヘッドパイプ13の上方からその後方へかけて、前後方向へ長く配置されている。
【0016】
トップブリッジ11とボトムブリッジ12には左右一対のフロントフォーク2の各上部が支持される。ヘッドパイプ13は車体フレーム3のヘッド部3aへ一体に形成されたパイプ状部分である。なお車体フレーム3はヘッド部3aとその後端部左右から対をなして左右後方へ延出するメインフレーム部3bを備える(図3)。トップブリッジ11の前部中央には前方へ一体に突出するステー11aが設けられ、ここにハンドルロックと一体のメインスイッチ15が支持され、キー16によりON/OFF及び解錠等操作される。
【0017】
本実施例のステアリングダンパ10はキックバックを防止するための液圧式減衰器であり、本体部17とフタ18を備え(図2)、その後部側はボルト20により、ヘッドパイプ13近傍における車体フレーム3のヘッド部3a上面に上方へ突出して一体に形成されたボス21へ締結され、このとき、本体部17とフタ18が共締めで一体化される。ボス21には予めナット部が形成されている。
【0018】
ボス21の左右でヘッド部3aの後部上面には一段高くなった段部3cが形成され、ここに燃料タンク5の前端部左右に形成されたステー5aが、ラバー22aを介してボルト22bにより防振取付されている。図3に示すように、ステー5aは燃料タンク5の前部中央に前方及び上方へ向かって開放されて設けられた凹部5bの前端部両側から車体中央側へ突出して形成され、メインフレーム部3bの前端部が接続する部分近傍にて段部3cへ重なるようになっている。
【0019】
再び図2において、燃料タンク5の下にはエアクリーナ19が配置され、その前端部も凹部5bの下方位置にて、ヘッド部3a後端の取付部3dへボルト19aにより取付けられている。取付部3dは段部3cから連続して後方かつ凹部5bの下方へ張り出した部分である。
【0020】
ステアリングダンパ10の前部にはシャフト23が軸線を図の上下方向に向けて貫通し、ステアリングダンパ10に対して回動自在に支持されている。シャフト23の下端はステアリングダンパ10の本体部18から下方へ突出してステアリング軸14の上端へ嵌合し、一体回転可能に連結され、シャフト23とステアリング軸14が同軸上に配置される。
【0021】
符号24はステアリングナットであり、ステアリング軸14の上端をトップブリッジ11へ締結している。シャフト23の下端はこのステアリングナット24の中央部に形成された穴を貫通する。
【0022】
シャフト23の上部側はフタ18を上方へ貫通し、その上端部はフタ18の上へ固定された回転角度センサー25内へ入り込んでいる。回転角度センサー25は電気抵抗等を用いた公知のものであり、シャフト23とステアリングダンパ10の本体部17側との相対的な回動に対する回転角度を検出し、これによりシャフト23と一体に回転するステアリング軸14の回転角度を検出してこの検出信号を操舵速度を算出するためのセンサー量として後述する制御部へ出力するようになっている。
【0023】
図3のステアリングダンパ10はフタ18を除いて本体部17側の構造を示しており、符号26は本体部17に設けられた凹部によって形成される略扇形の液室であり、その内部はさらに右液室27と左液室28に区画される。30はこれら左右の液室を区画する翼状の隔壁であり、一端がシャフト23と一体化し、シャフト23と一体に回動する。31は制御バルブ、32は制御部である。これら制御バルブ31及び制御部32はステアリングダンパ10の後端部に後方へ突出して設けられ、ステアリングダンパ10の後端部と共に燃料タンク5の凹部5b内へ収容されている。
【0024】
なお、ステアリングロック15とステアリング軸14及びシャフト23は車体中心線Cに対して略同一直線上に位置し、ステアリングロック15と制御バルブ31及び制御部32はステアリングダンパ10を挟んで前後方向反対側に位置し、制御バルブ31と制御部32は車体中心線Cを挟んで左右に配置され、これら制御バルブ31と制御部32は本体部17の後部へ取付けられている。
【0025】
図4はステアリングダンパ10の構造を概略的に示し、ステアリングダンパ10の内部は車体後方(図の下方)へ向かって広がる扇状の液室26が設けられ、その扇の要に相当する位置にシャフト23が位置し、シャフト23から一体に後方へ翼状に延出する隔壁30により液室26の内部は右液室27と左液室28に2分される。ステアリングダンパ10は揺動ピストンを隔壁30としたベーン型である。
【0026】
隔壁30の先端30aは液室26の弧状壁29の内面との間に右液室27及び左液室28を連通する若干の間隙26aを形成する。右液室27及び左液室28にはオイル等の非圧縮性の作動液が封入され、間隙26aで連通するとともにバイパス通路33により相互に連絡されている。
【0027】
したがって、前輪が左右方向へ首振り回動することにより前輪操舵系が回動し、これと連動して隔壁30が回動するとき(図中の仮想線)、隔壁30の回動が比較的ゆっくりとしたものであるときは、作動液が間隙26aを通って容積が狭くなった方の液室から反対側の拡大した液室へ移動して液室の容積変化に対応する。このとき間隙26aではほとんど減衰力を発生せず若しくは微少な発生に止どめる。
【0028】
一方、隔壁30の回動が早くなると、作動液の移動量が間隙26aにおける通過許容量を越えるため、作動液はバイパス通路33を通って容積が狭くなった方の液室から他方の液室へ移動する。このバイパス通路33の中間部には制御バルブ31が設けられている。
【0029】
この制御バルブ31は減衰力を生ずるための可変絞り通路を有する。このため絞り通路の通路断面積を変化させることにより、上記左右の液室間における容積変化に伴う作動液の作動液移動を制限して可変減衰力を発生させることができる。
【0030】
本実施例における制御バルブ31は、右液室27から左液室28へ向かう作動液の減衰力を調整する第1制御バルブ31aと、逆向きの左液室28から右液室27へ向かう作動液の減衰力を調整する第2制御バルブ31bとで構成されている。但し、これら別体の第1制御バルブ31aと第2制御バルブ31bに代えて単一の制御バルブにすることもできる。
【0031】
バイパス通路33も第1制御バルブ31aを通る第1通路33aと第2制御バルブ31bを通る第2通路33bからなり、第1通路33aにおける第1制御バルブ31aの入力側に第1流量センサー37aが設けられ、第2通路33bにも第2制御バルブ31bの入力側に第2流量センサー37bが設けられる。また、隔壁30の回動量を検出するためのストロークセンサー38がステアリングダンパ10に設けられる。
【0032】
これらの流量センサー37a,37bはステアリング軸14の回転方向を検出するとともに、流量及び流速を検出する。ストロークセンサー38はステアリング軸14の回転量を検出するものであり、ステアリング軸14の操舵速度を算出するためにも補助的に使用できる。これら各センサーの検出値は、キックバックの大きさに関連づけられたセンサー量として利用でき、その検出結果は制御部32へ出力されて必要により減衰力制御に使用される。
【0033】
図5は制御バルブ31の構造を示す。なお、第1制御バルブ31a及び第2制御バルブ31bのいずれにおいても同様構造であるから、両者を区別せずに共通の制御バルブ31として説明する。この制御バルブ31はケース40内にコイル41,スプリング42及びプランジャー43を収めてあり、プランジャー43の一端に形成された略円錐状をなすニードル部44が絞り部45内を図の上下方向へ進退動するようになっている。ニードル部44は軸線方向へ太さが漸増(又は漸減)する。絞り部45はバイパス通路33における通路断面積の一部を絞るための部分である。
【0034】
制御バルブ31はセンサー量と比例したストロークで直線的に移動する駆動部を備えたリニヤソレノイドとして構成され、コイル41の励磁による電磁力に応じて、プランジャー43を図の下方へスプリング42に抗して移動させ、絞り部45の内壁とニードル部44の周囲との間に形成される間隙通路46の通路断面積を変化させることにより、この間隙通路46を通過する作動液によって発生する減衰力の大きさを変化させるようになっている。コイル41が消磁するとスプリング42によりプランジャー43が図の上方へ移動付勢され、絞り部45を開放して減衰力を発生しない状態になる。
【0035】
図6に示すニードル部44及び絞り部45の各軸線方向に対する横断面に明らかなように、ニードル部44及び絞り部45の各断面はそれぞれ円形をなし、それらの間に形成される間隙通路46は環状をなしている。符号R1はある断面におけるニードル部44の半径、R2は間隙通路46の半径、Sは間隙通路46の通路断面積に相当する隙間面積であり、それぞれ同一の任意断面(図示は図5の6−6相当断面)内における値を示す。
【0036】
隙間面積Sはプランジャー43の進退動により可変であり、プランジャー43の進退動時のストロークdに対して、ある断面におけるニードル部44の半径R1が比例して線形的に対応変化する。これに伴って間隙通路46の半径R2は、絞り部45の内径が一定であるから、半径R1と逆比例に変化する。
【0037】
その結果、隙間面積Sは半径R2の2乗に比例するから、隙間面積Sの変化はニードル部44の半径R1の変化量に対してその2乗で変化することになる。したがって、ニードル部44のストローク量に対してバイパス通路33の絞り量を2乗で変化させ、減衰力の発生を非線形的な2次曲線状に変化させる。
【0038】
再び図5において、符号47は絞り部45の入口、48は出口であり、この出口48はボール49とチェックスプリング50からなるチェックバルブにより開閉され、出口48の液圧が所定値未満で閉じられ、所定値以上で開いて作動液を入口47から出口48へ通すようになっている。但しこのチェックバルブは第1制御バルブ31a及び第2制御バルブ31b(図4参照)のそれぞれに設けられ、第1制御バルブ31a側に設けられるチェックバルブは右液室27から左液室28側へのみ作動液を通して逆流を防止する。第2制御バルブ31b側のチェックバルブはその反対になっている。
【0039】
なお、コイル41によって発生する電磁力には上限が設定され、電磁力が上限のとき間隙通路46に発生する減衰力の大きさが要求されるレベルの上限値になるように設定される。すなわち、操舵速度が著しく大きくなってこの減衰力の上限値よりも高い減衰力を発生すべき状態になると、減衰力が電磁力にうち勝ってニードル部44を図の上方へ移動させることにより間隙通路46の隙間面積Sを拡大させるため、それ以上に減衰力が高くならない。したがって、要求レベル以上の減衰力をカットすることになる。
【0040】
次に、減衰力の制御方法を説明する。図4において、外乱によりステアリング軸が回動すると、これと一体のシャフト23が回動する。仮に隔壁30が左液室28側へ回動すると、制御部32は回転角度センサー25の検出する回転角度を微分して操舵速度を演算し,第2流量センサー37b及びストロークセンサー38の検出結果により回転方向を検出し、これらに基づいて第2制御バルブ31bに対して第2通路33bを操舵速度に対応した所定量だけ絞るよう指令する。なお隔壁30が逆方向へ回動する場合も同様に第1制御バルブ31aに対して絞りが指令される。
【0041】
この指令は、図5に示す制御バルブ31のプランジャー43を制御部32における計算量だけ進退動させるものであり、具体的にはプランジャー43を下降させて絞り部45の間隙通路46を絞る。これにより間隙通路46の隙間面積Sが変化して必要な減衰力が発生して隔壁30の回動を阻止し、これと一体のシャフト23及びステアリング軸14の回動に減衰力を加えて、キックバックによるハンドルの振れを減衰させる。
【0042】
このとき、間隙通路46が環状通路をなすとともにニードル部44が略円錐状をなして軸線方向へ太さが漸増(又は漸減)するので、ニードル部44が操舵速度に比例したストローク量dで進退動すると、絞り部4の任意断面におけるニードル部44の半径R1は、ストローク量dに比例して変化し、間隙通路46の半径R2はの半径R1の変化に逆比例する。
【0043】
また、隙間面積Sは間隙通路46の半径R2を2乗したものに比例し、減衰力の発生量は隙間面積Sの大きさに逆比例するから、結局、発生する減衰力の変化は、ニードル部44のストローク変化の2乗、さらには操舵速度変化の2乗に比例する。このため減衰力の発生量は操舵速度が大きくなるにしたがって急激に増大する。
【0044】
その結果、図7の減衰力曲線D1に示すように、操舵速度の増大に対する減衰力の発生量は非線形的である2次曲線をなして急激に増大する。ここでグラフの横軸は操舵速度ω、縦軸は減衰力Dを示す。また、減衰力曲線D1は上限規制のない本願発明の理想的な減衰力曲線であり、減衰力曲線D2は本実施例における電磁バルブで上限規制された減衰力曲線である。
【0045】
また、L0は減衰力を操舵速度ωに対して線形的に変化させた基準ラインである。L1は上限ライン、L2は下限ラインであり、それぞれある操舵速度において要求される減衰力の上限値及び下限値を示す。軸方向基準ラインL0上の値はこれら上限値及び下限値の中間値である。ω1は減衰力を低くしてライダー操作をスムーズにさせるライダー操作域であり、ω2は減衰力を高くして積極的に外乱を収束させることが必要な外乱収束域である。ω3は減衰力の不必要に過大化した分をカットすべき上限規制域である。
【0046】
この図に示すように、減衰力曲線D1及び減衰力曲線D2共に、減衰力は操舵速度ωの増大に伴って2次曲線を描いて増大する。但し、ライダー操作域ω1では基準ラインL0を下回るように変化し、ライダーの操作をできるだけスムーズになるよう配慮する。外乱収束域ω2では逆に基準ラインL0を上回るように変化し、効果的に外乱を収束させるよう配慮する。
【0047】
このように、操舵速度に基づいて減衰力の発生を制御するので、キックバックの大きさを事前に予測して的確な減衰力を発生させることができる。このとき外乱によって発生すべきキックバックが大きくなればなる程前輪操舵系における操舵角が大きくなるはずであるところ、実際の操舵角があまり大きくならないうちに必要な減衰力を発生させることができる。
【0048】
そのうえ、操舵速度ωに対して減衰力は非線形的に変化するため、操舵速度に対する減衰力の発生を、より大きな減衰力が必要な範囲ω2においては、基準ラインL0を上回る減衰力を急激に増大させてキックバックを有効に防止でき、ライダー操作域ω1では基準ラインL0を下回るように減衰力の発生を抑え気味にしてライダーの操作性を優先させることができる。したがって実際の走行状況に最適な減衰力の発生制御が可能になる。
【0049】
しかも、2次曲線である減衰力曲線D1の2次係数等を調整することにより、2次曲線である減衰力曲線D1と直線である基準ラインL0の交点がライダー操作域ω1と外乱収束域ω2の境界になるように設定すれば、上記のような基準ラインL0に対して減衰力の発生割合がライダー操作域ω1と外乱収束域ω2で異ならせる補正を簡単に実現できる。
【0050】
上限規制域ω3においては、減衰力曲線D1と減衰力曲線D2に相違があり、減衰力曲線D1はω2に引き続いて連続的に減衰力の発生を増大させる。一方、減衰力曲線D2では減衰力の発生が十分な上限値に達し、操舵速度ωがそれ以上増大しても減衰力の発生を増大させる必要がない場合、それ以上の減衰力増大が抑えられ、ほぼ横這い状態で一定に保たれる。
【0051】
具体的には、図5において制御バルブ31における電磁力の最大出力を減衰力の上限値に見合う程度に設定することにより、操舵速度ωがω3になって上限値を越える減衰力を発生させるおそれが生じると、絞り部45にて発生する減衰力による液圧が電磁力にうち勝つため、プランジャー43が図の上方へ移動して隙間面積Sを拡大変化させ、これにより減衰力を上限値に保つ。
【0052】
したがって、減衰力の発生に上限を設け、キックバック防止に必要な上限値より大きな減衰力を発生させないようにしたので、キックバック防止にとって不必要な高いレベルの減衰力発生を防止でき、ステアリングダンパ10に要求される強度を適正なものにすることができる。そのうえ特別な機構の上限規制手段を設けなくても、単に電磁力を調整するだけで、簡単かつ安価に上限規制手段を構成できる。
【0053】
また、上記左液室28から右液室27側へ作動液が流動する例示の場合、図4に示すように、2系統のバイパス通路33のうち、一方の第2通路33bを第2制御バルブ31bで絞るだけであり、他方の第1通路33aは第1制御バルブ31aが開弁状態にあって絞られていないから、第1通路33aを通って右液室27から左液室28側へ向かう作動液の流動はスムーズに行われる。このとき第1制御バルブ31aのチェックバルブもこの流動を許容する。したがって、キックバックによる前輪操舵系の回動を阻止できるとともに、ハンドルを直進位置へ戻すための回動を速やかに行えるようになっている。
【0054】
なお、本願発明は上記の各実施例に限定されるものではなく、発明の原理内
において種々に変形や応用が可能である。例えば、本願発明の適用されるステアリングダンパは実施例のような揺動隔壁を備えたベーン型にみならず、進退動するピストンを備えたシリンダ式であってもよい。
また、間隙通路46の断面形状は環状に限定されず、隙間面積Sが弁体のストローク量に対して2乗の割合で変化するものであれば多角形断面であってもよい。制御バルブ31は電磁バルブに限定されず、他の公知のものを利用できる。この場合は上限規制手段を別に設けることになる。但し、上限規制手段は必ずしも必要ではなく減衰力曲線D1に示すような2次曲線状とすることも可能である。
また、減衰力制御は必ずしも操舵速度に基づくものではなく、操舵角その他のキックバックの大きさに関連づけられた各種センサー量に基づくものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例の適用される自動2輪車を示す斜視図
【図2】ステアリングダンパが設けられた車体前部構造側面図
【図3】同部分の平面図
【図4】ステアリングダンパの概略構造を示す図
【図5】電磁バルブの断面図
【図6】図5の6−6線断面図
【図7】作用を示すグラフ
【符号の説明】
10:ステアリングダンパ、14:ステアリング軸、23:シャフト、25:回転角度センサー、30:隔壁、31:制御バルブ、33:バイパス通路、42:スプリング、43:プランジャー、44:ニードル部、45:絞り部、46:間隙通路
Claims (3)
- 車体フレームの前端部へ回動自在に支持されたステアリング軸に連動する隔壁と、この隔壁によって区画された2室と、これら2室間を連通し、前記隔壁の移動により2室内の作動液が移動するバイパス通路と、このバイパス通路の一部を絞ることにより減衰力を発生し、かつこの減衰力を可変にするための制御バルブとを備えた液圧式のステアリングダンパ装置において、
前記制御バルブは、前記作動液の通路内を進退動するニードルを備え、このニードルは長手方向へ太さが一様に変化し、進退動によってニードル周囲に形成される間隙通路の隙間面積を可変にするとともに、
この隙間面積を前記ニードルが進退するストローク変化に対して非線形的に変化させることにより、前記間隙通路において発生する減衰力を前記ストロークの変化に対して2次曲線状に増大させ、かつ前記ステアリング軸の回転角度を検出し、この回転角度を微分して計算される操舵速度に基づいて前記ニードルを進退させ、
前記バイパス通路は、互いに作動液を反対方向へ流す第1通路と第2通路を備え、第1通路には前記制御バルブを構成する第1制御バルブと第1流量センサーが設けられ、第2通路には前記制御バルブを構成する第2制御バルブと第2流量センサーが設けられ、これら第1及び第2流量センサーにより検出されたステアリング軸の回転方向に基づいて、前記第1又は第2制御バルブを制御することを特徴とするステアリングダンパ装置。 - 前記間隙通路の断面形状が環状であることを特徴とする請求項1のステアリングダンパ装置。
- 前記制御バルブが電磁バルブであり、この電磁バルブの電磁力に上限を設定することにより減衰力が上限規制されることを特徴する請求項1のステアリングダンパ装置。
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