JP4189202B2 - シート状成形体及び化粧シート - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、難燃性や延焼防止性に優れ、特に燃焼時の形状保持効果によって優れた難燃効果や延焼防止効果を発現し、更に機械的強度や安定性、特にネッキングやひけが少なく、使用時において寸法精度が高く、貼り付け精度に優れ、多品種少量生産に対応できる生産性に優れたシート状成形体及び化粧シートに関する。
【0002】
【従来の技術】
シート状成形体は、テープ基材やフィルム、シート等の様々な用途に応用されており、それぞれの用途に応じた種々の品質が要求される。例えば、化粧シートに用いるシート状成形体には、一般に、下地材の隠蔽性や施工性の他に、火災時に化粧シートを伝わっての延焼を防ぐ目的で難燃性が要求される。このような難燃性の化粧シートに用いるシート状成形体としては、従来から軟質ポリ塩化ビニル系樹脂からなるものが用いられてきた。
【0003】
近年、工業用途に用いられる高分子材料は、廃プラスチックの処理や環境ホルモンの問題等から、いわゆる環境適応型材料への転換が望まれている。具体的には、例えば、燃焼時のダイオキシン発生や添加される可塑剤の毒性等の問題から、軟質ポリ塩化ビニル系樹脂からポリオレフィン系樹脂等のハロゲン原子を含まない材料への転換が検討されている。
シート状成形体の分野においても燃焼時に環境負荷の少ない環境適応型材料へ転換するために、例えば、特許文献1及び特許文献2にポリオレフィン系樹脂からなる化粧シートが開示されている。しかし、ポリオレフィン系樹脂は、最も燃焼性の高い樹脂の一つであり、高い難燃性を実現させることは困難であった。
【0004】
ポリオレフィン系樹脂を難燃化する方法としては、大量の難燃剤を樹脂中に練り込む方法が知られている。
難燃剤の中でも、ハロゲン含有化合物からなる難燃剤を用いれば、難燃化の効果が高く、成形性の低下や得られるシート状成形体の機械的強度の低下も比較的少ない。しかし、ハロゲン含有化合物からなる難燃剤を用いると、成形加工時や燃焼時に多量のハロゲン系ガスを発生する恐れがあり、発生したハロゲン系ガスにより機器が腐食したり、人体への好ましくない影響があったりする。従って、安全性の面からハロゲン含有化合物を使用しない、いわゆるノンハロゲン難燃化技術が強く望まれている。
【0005】
ポリオレフィン系樹脂のノンハロゲン難燃化技術としては、例えば、特許文献3や特許文献4等には燃焼時に有毒なガスを発生しない、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム等の金属化合物を添加する方法が開示されている。
しかしながら、易燃性のポリオレフィン系樹脂に充分な難燃性を付与するためには、多量の金属化合物を添加する必要があり、その結果、得られる成形体の機械的強度(特に延伸性、引裂強度)が著しく低下したり、フィルム・シート状に成形することが困難になったりする等、実用に供することが難しいという問題点があった。
【0006】
ポリオレフィン系樹脂のノンハロゲン難燃化技術としては、その他にも例えば、リン系難燃剤をポリオレフィン系樹脂に添加し、燃焼時に表面に被膜を形成させ、この燃焼被膜による酸素遮断効果を利用することにより難燃性を発現させる方法が提案されている。しかしながら、易燃性のポリオレフィン系樹脂に充分な難燃性を付与するためには、多量のリン系難燃剤を添加する必要があり、その結果、得られる成形体の機械的強度が著しく低下し、実用に供することが難しいという問題点があった。また、リン系難燃剤をポリオレフィン系樹脂に添加した場合は、局所的には被膜を形成するものの強固な被膜層を連続層として形成することは困難であり、局所的な被膜の機械的強度は非常に弱く、燃焼時において脆い灰分が露出し残渣が脱落していくため、断熱層としての機能を早期に失ううえに、材料の変形による延焼を食い止めることができないという問題があった。
【0007】
また、例えば、特許文献5には、ポリオレフィン系樹脂に赤リン又はリン化合物と膨張性黒鉛とを添加した樹脂組成物が開示されている。しかしながら、この樹脂組成物は、酸素指数から見た場合には充分な難燃性を有するものの、実際には局所的にしか被膜を形成できず、強固な被膜層を連続層として形成することができない。局所的な被膜の機械的強度は非常に弱く、燃焼時において脆い灰分が露出し、残渣が脱落していくため、断熱層としての機能を早期に失ううえに、材料の変形による延焼を食い止めることができない。更に、ポリオレフィン系樹脂に充分な難燃性を付与するためには大量の赤リン又はリン化合物と膨張性黒鉛とをを添加する必要があり、シート状成形体として必要な柔軟性や伸度を確保することが困難になるという問題があった。
【0008】
更に、このようなリン系難燃剤を用いた場合、埋立等の処分後にリン系成分が廃棄後の材料から流出、露出し生態系に有害な影響を及ぼしかねないという懸念から、上記ノンハロゲン同様にノンリンによる難燃化を期待する声もあった。
【0009】
ノンハロゲン、ノンリンによる難燃化方法としては、例えば、特許文献6には平板状タルクを配合する方法が開示されている。しかしながら、この方法もポリオレフィン系樹脂に充分な難燃性を付与するためには、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して80〜130重量部という大量の平板状タルクを添加する必要があり、化粧シート用材料として重要な物性である柔軟性や伸度を確保することが困難になるという問題があった。また、このような大量の無機成分を添加することで、溶融状態での伸度、張力が著しく低下し、成形性が損なわれてしまうという問題もあった。
【0010】
【特許文献1】
特開平8−3380号公報
【特許文献2】
特開平8−1897号公報
【特許文献3】
特開昭57−165437号公報
【特許文献4】
特開昭61−36343号公報
【特許文献5】
特開平6−25476号公報
【特許文献6】
特開平6−41371号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑み、難燃性や延焼防止性に優れ、特に燃焼時の形状保持効果によって優れた難燃効果や延焼防止効果を発現し、更に機械的強度や安定性、特にネッキングやひけが少なく、使用時において寸法精度が高く、貼り付け精度に優れ、多品種少量生産に対応できる生産性に優れたシート状成形体及び化粧シートを提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、単層又は複数層からなるシート状成形体であって、熱可塑性樹脂100重量部に対して、層状珪酸塩0.1〜100重量部、金属水酸化物0.1〜70重量部及びグラスファイバー1〜50重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有するシート状成形体である。
以下に本発明を詳述する。
【0013】
本発明のシート状成形体は、単層からなるものであってもよいし、複数層からなるものであってもかまわない。
本発明のシート状成形体は、熱可塑性樹脂、層状珪酸塩、金属水酸化物及びグラスファイバーを含有する熱可塑性樹脂組成物からなる層を少なくとも1層含有する。
【0014】
上記熱可塑性樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂等が挙げられる。なかでもポリオレフィン系樹脂が好適に用いられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
なお、本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルを意味するものとする。
【0015】
上記ポリオレフィン系樹脂とは、分子内に重合性二重結合を有するオレフィン系単量体を単独重合又は共重合してなるものである。
上記オレフィン系単量体としては特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−へプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニル等のα−オレフィン類;ブタジエンやイソプレン等の共役ジエン類等が挙げられる。これらのオレフィン系単量体は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0016】
上記ポリオレフィン系樹脂としては特に限定されず、例えば、エチレンの単独重合体;エチレンと該エチレンと共重合可能なエチレン以外のα−オレフィンとの共重合体;エチレン−(メタ)アクリル酸及び/又は例えば(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル共重合体;エチレン−酢酸ビニル共重合体;エチレン−スチレン共重合体等のポリエチレン系樹脂;プロピレンの単独重合体;プロピレンと該プロピレンと共重合可能なプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体;プロピレン−エチレンランダム共重合体又はブロック共重合体;ポリプロピレン系アロイ樹脂等のポリプロピレン系樹脂;ブテンの単独重合体;ブタジエンやイソプレン等の共役ジエンの単独重合体又は共重合体等が挙げられる。なかでもエチレンの単独重合体、エチレンと該エチレンと共重合可能なエチレン以外のα−オレフィンとの共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレンの単独重合体、プロピレンと該プロピレンと共重合可能なプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体、及びポリプロピレン系アロイ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種類のポリオレフィン系樹脂が好適に用いられる。これらのポリオレフィン系樹脂は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0017】
上記オレフィン系単量体と共重合され得る(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルとしては、下記一般式で示される化合物が挙げられる。
CH2=C(R1)COO−R2
式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は水素原子、脂肪族炭化水素基芳香族炭化水素基、及び、ハロゲン基、アミノ基、グリシジル基等の官能基を含む炭化水素基の中から選ばれる1価の基を示す。
【0018】
上記一般式で示される(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n−へキシル、(メタ)アクリル酸シクロへキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸n−トリデシル、(メタ)アクリル酸トリスチル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸ビニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸2−ナフチル、(メタ)アクリル酸24,6−トリクロロフェニル、(メタ)アクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸2,3−ジプロモプロピル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸ヘキサフルオロイソプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3−トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチル等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0019】
エチレンと(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体やエチレン−酢酸ビニル共重合体における、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルや酢酸ビニルの含有量は、目的とするシート状成形体に要求される性能によって適宜決定されればよく、特に限定されるものではないが、通常、好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は50重量%である。0.1重量%未満であると、シート状成形体の柔軟性改善効果を充分に得られないことがあり、50重量%を超えると、シート状成形体の耐熱性が低下することがある。より好ましくは5〜30重量%である。
【0020】
柔軟性に優れるポリオレフィン系樹脂が要求される場合には、エチレンとエチレン以外のα−オレフィンとの共重合体が一般的に用いられる。特に、α−オレフィンの含有量を高めることによって柔軟性が向上し、柔軟性を必要とするシートとして好適に用いられる。上記エチレン以外のα−オレフィンとしては特に限定されないが、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−へキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等が好適に用いられる。これらのエチレン以外のα−オレフィンは、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0021】
上記エチレンとエチレン以外のα−オレフィンとの共重合体において、エチレン以外のα−オレフィンの含有量は特に限定されるものではないが、好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は50重量%である。0.1重量%未満であると、充分な柔軟性を得られないことがあり、50重量%を超えると、耐熱性が低下することがある。より好ましい下限は2重量%、より好ましい上限は40重量%である。
【0022】
上記エチレンとエチレン以外のα−オレフィンとの共重合体は、IV族、X族又はXI族の遷移金属の錯体を重合触媒として重合することができる。上記遷移金属の錯体とは、遷移金属原子に配位子が結合したものである。
【0023】
上記配位子としては特に限定されず、例えば、炭化水素基、置換炭化水素基、炭化水素−置換メタロイド基等により置換されたシクロペンタジエン環;シクロペンタジエニルオリゴマー環;インデニル環;炭化水素基、置換炭化水素基、炭化水素−置換メタロイド基等により置換されたインデニル環;塩素、臭素等の1価のアニオンリガンド;2価のアニオンキレートリガンド;炭化水素基;アルコキシド;アリールアミド;アリールオキシド;アミド;ホスフィド;アリールホスフィド;シリル基;置換シリル基等が挙げられる。これらの配位子は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0024】
上記炭化水素基としては特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、イソアミル基、へキシル基、イソブチル基、ヘブチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、セチル基、2−エチルへキシル基、フェニル基等が挙げられる。これらの炭化水素基は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0025】
上記配位子が結合した遷移金属の錯体の具体例としては特に限定されず、例えば、シクロペンタジエニルチタニウムトリス(ジメチルアミド)、メチルシクロペンタジエニルチタニウムトリス(ジメチルアミド)、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリド、ジメチルシリルテトラメチルシクロペンタジエニル−t−ブチルアミドジルコニウムジクロリド、ジメチルシリルテトラメチルシクロペンタジエニル−t−ブチルアミドハフニウムジクロリド、ジメチルシリルテトラメチルシクロペンタジエニル−P−n−ブチルフェニルアミドジルコニウムクロリド、メチルフェニルシリルテトラメチルシクロペンタジエニル−t−ブチルアミドハフニウムジクロリド、インデニルチタニウムトリス(ジ−n−プロピルアミド)、インデニルチタニウムビス(ジ−n−ブチルアミド)(ジ−n−プロピルアミド)等のIV族遷移金属の錯体;ビピリジン、置換ビピリジン、ビスオキサゾリン、置換ビスオキサゾリン;一般式ArN=CR3CR4=NAr(式中、Arは、フェニル基又は置換フェニル基等のアリル基を示し、R3及びR4は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリル基、又は、R3、R4が結合した環状炭化水素基を示す)で表される配位子:各種ジイミン:N,N’−ジメチルアミジナト、N,N’−ジエチルアミジナト、N,N’−ジイソプロピルアミジナト、N,N’−ジ−t−ブチルアミジナト、N,N’−トリフルオロメチルアミジナト、N,N’−ジフェニルアミジナト、N,N’−ジ置換フェニルアミジナト、N,N’−ジトリメチルシリルアミジナト、N,N’−ジメチルベンズアミジナト、N,N’−ジエチルベンズアミジナト、N,N’−ジイソプロピルベンズアミジナト、N,N’−ジ−t−ブチルベンズアミジナト、N,N’−トリフルオロメチルベンズアミジナト、N,N’−ジフェニルベンズアミジナト、N,N’−ジトリメチルシリルベンズアミジナト;N,N’−ジ置換フェニルベンズアミジナト配位のニッケル、パラジウム、銅、銀等のX族、XI族遷移金属の錯体等が挙げられる。これらの遷移金属の錯体は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。上記遷移金属の錯体は、通常、有機アルミニウム化合物やホウ素化合物等のルイス酸共存下で得ることができる。
【0026】
このような触媒系で重合されたエチレンとエチレン以外のα−オレフィンとの共重合体は、エチレン以外のα−オレフィンの含有量を高めることが可能であったり、組成分布の制御が可能であったりするため、幅広い要求の柔軟性や機械的強度に対応し得る本発明のシート状成形体を得るための材料として好適に用いられる。
【0027】
更に柔軟性に優れるポリオレフィン系樹脂が要求される場合には、ポリオレフィン系樹脂を主成分とし、これにエラストマー成分(ゴム成分)が微分散されてなるポリオレフィン系アロイ樹脂が用いられる。
【0028】
主成分としてのポリオレフィン系樹脂中にゴム成分であるエラストマー成分を微分散させる方法としては特に限定されず、例えば、加熱溶融したポリオレフィン系樹脂中にエラストマー成分を添加して、均一に共混練する方法や、ポリオレフィン系樹脂の重合系中にエラストマー成分を添加して、ポリオレフィン系樹脂の重合とエラストマー成分の微分散とを同時に一括して行う方法等が挙げられるが、なかでも、エラストマー成分がより高度に微分散したポリオレフィン系アロイ樹脂を得られることから、後者の方法を採ることが好ましい。
【0029】
ゴム成分であるエラストマー成分が高度に微分散したポリオレフィン系アロイ樹脂を用いることにより、得られる熱可塑性樹脂組成物は、他の物性を損なわれることなく、優れた柔軟性や伸度を発現するものとなる。
【0030】
上記ポリオレフィン系アロイ樹脂のなかでも、より優れた柔軟性や伸度を発現する熱可塑性樹脂組成物を得られることから、例えば、プロピレンの単独重合体、プロピレンと該プロピレンと共重合可能なプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体又はブロック共重合体等のポリプロピレン系樹脂を主成分とし、これにエラストマー成分が微分散されてなるポリプロピレン系アロイ樹脂が好適に用いられる。
【0031】
上記ポリプロピレン系アロイ樹脂のなかでも、クロス分別クロマトグラフによる全溶出量のうち、10℃以下での溶出量が30〜80重量%であり、10℃を超え70℃以下での溶出量が5〜35重量%であるポリプロピレン系樹脂を主成分とするポリプロピレン系アロイ樹脂がより好適に用いられる。
【0032】
上記クロス分別クロマトグラフによる溶出量の温度による差は、主としてポリプロピレン系樹脂の結晶性の差を示している。即ち、上記溶出量を有するポリプロピレン系樹脂は、広い結晶性分布を有するものであり、このポリプロピレン系樹脂を主成分とするポリプロピレン系アロイ樹脂は、後述する層状珪酸塩や難燃剤を高充填させても物性の低下が少なく、優れた柔軟性や伸度を発現する。
【0033】
上記クロス分別クロマトグラフによる溶出量の測定方法は特に限定されず、例えば、以下のような方法を用いることができる。即ち、まずポリプロピレン系樹脂を該ポリプロピレン系樹脂が完全に溶解する温度の例えばo−ジクロロベンゼンに溶解した後、この溶液を一定速度で冷却し、予め準備しておいた不活性担体表面に薄いポリプロピレン系樹脂層を結晶性の高い順及び分子量の大きい順に生成させる。次いで、温度上昇分離分別法により、温度を連続的又は段階的に上げ、所定温度範囲毎に順次溶出した成分の濃度を検出し、組成分布(結晶性分布)を測定すると共に、その成分の分子量及びその分布を高温GPCにより測定する。
【0034】
上記クロス分別クロマトグラフによる全溶出量のうち、10℃以下での溶出量が30重量%未満であると、ポリプロピレン系樹脂の柔軟性が不充分となるので、このポリプロピレン系樹脂を主成分とするポリプロピレン系アロイ樹脂は、層状珪酸塩や難燃剤を高充填させ難くなることがあり、10℃以下での溶出量が80重量%を超えると、ポリプロピレン系樹脂が柔軟になり過ぎるので、このポリプロピレン系樹脂を主成分とするポリプロピレン系アロイ樹脂を用いた本発明のシート状成形物の機械的強度が不充分となることがある。
【0035】
また、クロス分別クロマトグラフによる全溶出量のうち、10℃を超え70℃以下での溶出量が5重量%未満であると、ポリプロピレン系樹脂の耐熱性が不充分となるので、このポリプロピレン系樹脂を主成分とするポリプロピレン系アロイ樹脂を用いた本発明のシート状成形物の耐熱性が不充分となることがあり、35重量%を超えると、ポリプロピレン系樹脂の柔軟性が不充分となるので、このポリプロピレン系樹脂を主成分とするポリプロピレン系アロイ樹脂は、層状珪酸塩や難燃剤を高充填させ難くなることがある。
【0036】
上記熱可塑性樹脂の分子量及び分子量分布としては特に限定されないが、重量平均分子量の好ましい下限は5000、好ましい上限は500万であり、より好ましい下限は2万、より好ましい上限は30万である。また、重量平均分子量/数平均分子量で求められる分子量分布の好ましい下限は1.1、好ましい上限は80であり、より好ましい下限は1.5、より好ましい上限は40である。
【0037】
上記熱可塑性樹脂には、本発明の課題達成を阻害しない範囲で必要に応じて、樹脂改質のために熱可塑性エラストマー類やオリゴマー類が配合されてもよい。
上記熱可塑性エラストマー類としては特に限定されず、例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー等が挙げられる。これらの熱可塑性エラストマー類は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。上記オリゴマー類としては特に限定されず、例えば、無水マレイン酸変性ポリエチレンオリゴマー等が挙げられる。これらのオリゴマー類は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。また、上記熱可塑性エラストマー類及びオリゴマー類は、それぞれ単独で用いられてもよいし、両者が併用されてもよい。
【0038】
上記熱可塑性樹脂には、本発明の課題達成を阻害しない範囲で必要に応じて、物性を均一化する補助手段として結晶を微細化するための結晶核となり得る造核剤や、酸化防止剤(老化防止剤)、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、防曇剤等の各種添加剤の1種類又は2種類以上が配合されてもよい。
【0039】
上記熱可塑性樹脂組成物は、層状珪酸塩を含有する。
本明細書において層状珪酸塩とは、層間に交換性金属カチオンを有する珪酸塩鉱物を意味する。
上記層状珪酸塩としては特に限定されず、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト等のスメクタイト系粘土鉱物や、バーミキュライト、ハロイサイト、膨潤性マイカ等が挙げられる。なかでもモンモリロナイト及び/又は膨潤性マイカが好適に用いられる。上記層状珪酸塩は、天然物であってもよいし、合成物であってもよい。また、これらの層状珪酸塩は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0040】
上記層状珪酸塩としては、下記式で定義される形状異方性効果の大きいスメクタイト類や膨潤性マイカを用いることが好ましい。形状異方性効果の大きい層状珪酸塩を用いることにより、熱可塑性樹脂組成物の機械的強度はより優れたものとなる。
形状異方性効果=結晶表面(A)の面積/結晶表面(B)の面積
なお、式中、結晶表面(A)は層表面を意味し、結晶表面(B)は層側面を意味する。
【0041】
上記層状珪酸塩の形状としては特に限定されないが、平均長さの好ましい下限は0.01μm、好ましい上限は3μmであり、厚みの好ましい下限は0.001μm、好ましい上限は1μmである、アスペクト比の好ましい下限は20、好ましい上限は500である。平均長さのより好ましい下限は0.05μm、より好ましい上限は2μmであり、厚みのより好ましい下限は0.01μm、より好ましい上限は0.5μmであり、アスペクト比のより好ましい下限は50、より好ましい上限は200である。
【0042】
上記層状珪酸塩の結晶層間に存在する交換性カチオンとは、結晶表面上に存在するナトリウムやカルシウム等の金属イオンのことであり、これらの金属イオンは、カチオン性物質とカチオン交換性を有するので、カチオン性を有する種々の物質を上記層状珪酸塩の結晶層間に捕捉(インターカレート)することができる。
【0043】
上記層状珪酸塩のカチオン交換容量としては特に限定されないが、好ましい下限は50ミリ等量/100g、上限は200ミリ等量/100gである。50ミリ等量/100g未満であると、カチオン交換により結晶層間に捕捉できるカチオン性物質の量が少なくなるので、結晶層間が充分に非極性化されないことがあり、200ミリ等量/100gを超えると、層状珪酸塩の結晶層間の結合力が強固となり、結晶薄片が剥離し難くなることがある。
【0044】
上記熱可塑性樹脂として例えばポリオレフィン系樹脂のような低極性樹脂が用いられる場合には、予め層状珪酸塩の層間をカチオン性界面活性剤でカチオン交換して、疎水化しておくことが好ましい。予め層状珪酸塩の層間を疎水化しておくことにより、層状珪酸塩と熱可塑性樹脂との親和性が高まり、層状珪酸塩を熱可塑性樹脂中により均一に微分散させることができる。
【0045】
上記カチオン性界面活性剤としては特に限定されず、例えば、4級アンモニウム塩や4級ホスホニウム塩等が挙げられる。なかでも、層状珪酸塩の結晶層間を充分に非極性化し得ることから、炭素数6以上のアルキル鎖を有する4級アンモニウム塩、即ち炭素数6以上のアルキルアンモニウム塩が好適に用いられる。
【0046】
上記4級アンモニウム塩としては特に限定されず、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、ジステアリルジメチルアンモニウム塩、ジ硬化牛脂ジメチルアンモニウム塩、ジステアリルジベンジルアンモニウム塩、N−ポリオキシエチレン−N−ラウリルーN,N−ジメチルアンモニウム塩等が挙げられる。これらの4級アンモニウム塩は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0047】
上記4級ホスホニウム塩としては特に限定されず、例えば、ドデシルトリフェニルホスホニウム塩、メチルトリフェニルホスホニウム塩、ラウリルトリメチルホスホニウム塩、ステアリルトリメチルホスホニウム塩、トリオクチルメチルホスホニウム塩、ジステアリルジメチルホスホニウム塩、ジステアリルジベンジルホスホニウム塩等が挙げられる。これらの4級ホスホニウム塩は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0048】
本発明で用いられる層状珪酸塩は、上述のように化学処理によって熱可塑性樹脂中への分散性を向上させることができる。
上記化学処理は、カチオン性界面活性剤によるカチオン交換法(以下、化学修飾(1)法ともいう)に限定されるものではなく、例えば、以下に示す化学修飾(2)〜化学修飾(6)法の各種化学処理法によっても実施することができる。これらの化学修飾法は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。なお、化学修飾(1)法を含め、以下に示す各種化学処理法によって熱可塑性樹脂中及び/又は熱硬化性樹脂中への分散性を向上させた層状珪酸塩を、以下、「有機化層状珪酸塩」ともいう。
【0049】
化学修飾(2)法は、化学修飾(1)法で化学処理された有機化層状珪酸塩の結晶表面に存在する水酸基を、これと化学結合し得る官能基、又は、化学結合はしなくとも化学的親和性の大きい官能基を分子末端に1個以上有する化合物で化学処理する方法である。このような水酸基と化学結合し得る官能基、又は、化学結合はしなくとも化学的親和性の大きい官能基としては特に限定されず、例えば、アルコキシ基、グリシジル基、カルボキシル基(二塩基性酸無水物も包含する)、水酸基、イソシアネート基、アルデヒド基等の官能基や、水酸基との化学的親和性が高いその他の官能基等が挙げられる。また、上記水酸基と化学結合し得る官能基、又は、化学結合はしなくとも化学的親和性の大きい官能基を有する化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、上記に例示した官能基を有するシラン化合物、チタネート化合物、グリシジル化合物、カルボン酸類、アルコール類等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0050】
上記シラン化合物としては特に限定されず、例えば、ビニルトリメトキシシラン、
ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのシラン化合物は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0051】
化学修飾(3)法は、化学修飾(1)法で化学処理された有機化層状珪酸塩の結晶表面に存在する水酸基を、これと化学結合し得る官能基、又は、化学結合はしなくとも化学的親和性の大きい官能基及び反応性官能基を分子末端に1個以上有する化合物で化学処理する方法である。
【0052】
化学修飾(4)法は、化学修飾(1)法で化学処理された有機化層状珪酸塩の結晶表面を、アニオン性界面活性を有する化合物で化学処理する方法である。
【0053】
化学修飾(5)法は、化学修飾(4)法において、アニオン性界面活性を有する化合物の分子鎖中のアニオン部位以外に反応性官能基を1個以上有する化合物で化学処理する方法である。
【0054】
化学修飾(4)法及び化学修飾(5)法における、アニオン性界面活性を有する化合物、アニオン性界面活性を有し分子鎖中のアニオン部位以外に反応性官能基を1個以上有する化合物としては、イオン相互作用により層状珪酸塩を化学処理できるものであれば特に限定されず、例えば、ラウリル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、高級アルコール硫酸エステル塩、第2級高級アルコール硫酸エステル塩、不飽和アルコール硫酸エステル塩等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0055】
化学修飾(6)法は、上記化学修飾(1)法〜化学修飾(5)法のいずれかの方法で化学処理された有機化層状珪酸塩に、更に、例えば、無水マレイン酸変性ポリフェニレンエーテル系樹脂等の層状珪酸塩と反応可能な官能基を有する樹脂を添加した組成物を分散剤として用いる方法である。これは、層状珪酸塩と親和性の高い部位と熱可塑性樹脂と親和性の高い部位とを持つ分散剤を混合することにより両者の相溶性を高め、層状珪酸塩の分散に必要なエネルギーを低下させる方法である。このような分散剤としては、無水マレイン酸変性ポリオレフィン系オリゴマー等が好適に用いられるが、なかでも両端が異なる性質をもつA−B型・ジブロックポリマー又はジブロックオリゴマーが好適に用いられる。両末端が層状珪酸塩に親和性の高い性質と熱可塑性樹脂に親和性の高い性質とのそれぞれ性質の異なる両末端持ち、かつ、A(層状珪酸塩親和サイト)−B(熱可塑性親和サイト)型であることは、効率的に、それぞれに親和性を発揮しやすいことから好適な分散効果が得られる。このようなA−B型分散剤を用いて高分散状態を得る方法としては特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂と層状珪酸塩を分散剤とともに押出機中で溶融混練する方法等が挙げられる。
【0056】
上記層状珪酸塩は、広角X線回折測定法により測定した(001)面の平均層間距離が3nm以上であり、かつ、一部又は全部が5層以下に分散していることが好ましい。より好ましくは、上記平均層間距離が6nm以上であり、かつ、一部又は全部が5層以下に分散している状態である。なお、本明細書において層状珪酸塩の平均層間距離とは、層状珪酸塩の微細薄片状結晶を層とした場合の平均の層間距離を意味し、X線回折ピーク及び透過型電子顕微鏡撮影、即ち、広角X線回折測定法により、算出することができる。また、層状珪酸塩の分散状態は、透過型電子顕微鏡を用いて5万〜10万倍で観察して、一定面積中において観察できる層状珪酸塩の積層集合体の数(X)のうち5層以下で分散している積層集合体の数(Y)をカウントし下記式により算出することができる。
5層以下に分散している層状珪酸塩の割合(%)=(Y/X)×100
【0057】
本来的には数十層の積層体である層状珪酸塩の層状分子が剥離して分散化すると、層状珪酸塩の結晶薄片層間における相互作用がほとんど無視できるほどに弱まり、結晶薄片は熱可塑性樹脂中で一定の距離を保って微分散状態となり、安定化する。その結果、層状珪酸塩は、結晶薄片層間の平均層間距離が大きくなると共に分散安定化して、燃焼時においては層状珪酸塩の結晶薄片の移動によって焼結体を形成し易くなる。即ち、層状珪酸塩の結晶薄片層が平均層間距離3nm以上、より好ましくは6nm以上で分散した熱可塑性樹脂組成物は難燃被膜となり得る焼結体を形成し易くなる。この焼結体は燃焼時の早い段階で形成されるので、外界からの酸素の供給を遮断するのみならず、燃焼により発生する可燃性ガスも遮断することができ、熱可塑性樹脂組成物の発熱速度を抑制することができる。即ち、優れた延焼防止性を発現することが可能となる。従って、このような層状珪酸塩を熱可塑性樹脂中に配合し分散させて得られる本発明のシート状成形体は著しく優れた難燃性、機械的強度、耐熱性等の諸性能を発現するものとなる。また、層状珪酸塩の結晶薄片層間の平均層間距離が3nm以上、好ましくは6nm以上であると、層状珪酸塩の結晶薄片層が層毎に分離し、層状珪酸塩の結晶薄片層間における相互作用がほとんど無視できるほどに弱まるので、層状珪酸塩を構成する結晶薄片の熱可塑性樹脂中での分散状態が離砕安定化の方向に進行する利点がある。
【0058】
また、層状珪酸塩の一部又は全部が5層以下に分散しているということは、本来的には数十層の積層体である層状珪酸塩の層状分子の一部又は全部が剥離して広く分散しているということを意味しており、これも層状珪酸塩の結晶薄片層間における相互作用が弱まっていることになることから、上記と同様の効果を得ることができる。上記層状珪酸塩の一部又は全部が5層以下に分散しているとは、具体的には、層状珪酸塩の10%以上が5層以下に分散していることが好ましく、層状珪酸塩の20%以上が5層以下に分散していることがより好ましい。層状珪酸塩の積層数は、5層以下に分層していることにより上記効果を得ることができるが、より好ましくは3層以下に分層していることであり、特に好ましくは単層状に薄片化していることである。
【0059】
上記熱可塑性樹脂組成物において、層状珪酸塩の結晶薄片層間の平均層間距離が3nm以上であり、かつ、層状珪酸塩の一部又は全部が5層以下に分散している状態、即ち、熱可塑性樹脂中に層状珪酸塩が高分散している状態であれば、熱可塑性樹脂と層状珪酸塩との界面面積が増大する。熱可塑性樹脂と層状珪酸塩との界面面積が増大すると、層状珪酸塩の表面における熱可塑性樹脂の拘束の度合いが高まり、弾性率等の機械的強度が向上する。また、層状珪酸塩の表面における熱可塑性樹脂の拘束の度合いが高まると、溶融粘度が高まり、成形性も向上する。また、層状珪酸塩の邪魔板効果により、ガスバリア性の発現も可能となる。更に、層状珪酸塩が5層以下の積層数で存在しているということは、層状珪酸塩自体の強度保持の面からも有利であり、特に機械的強度、特に弾性率の発現に有利となる。
【0060】
層状珪酸塩が剥離し結晶薄片が熱可塑性樹脂中に分散すればするほど、結晶薄片間の平均隣接距離が小さくなり、燃焼時において層状珪酸塩の結晶薄片の移動による焼結体の形成が行われ易くなる。また、層状珪酸塩の結晶薄片が熱可塑性樹脂中に分散すればするほど、本発明の熱可塑性樹脂組成物の弾性率やガスバリア性が著しく向上する。
【0061】
上記いずれの現象も、層状珪酸塩と熱可塑性樹脂との界面面積が、結晶薄片の分散の向上に伴って増大することによる。即ち、熱可塑性樹脂と層状珪酸塩との接着面において、熱可塑性樹脂の分子運動が拘束されることにより、熱可塑性樹脂の弾性率等の機械的強度が増大するので、結晶薄片の分散割合が向上すればするほど、本発明の熱可塑性樹脂組成物の機械的強度を増大させる効果が大きくなる。
【0062】
また、一般にポリマー中では無機物に比べてガス分子の方がはるかに拡散しやすいので、熱可塑性樹脂中をガス分子が拡散する際には、無機物を迂回しながら拡散する。従ってこの場合も、層状珪酸塩の結晶薄片の分散割合が向上すればするほど、本発明の熱可塑性樹脂組成物のガスバリア性を効率的に増大させることができる。
【0063】
上記熱可塑性樹脂組成物における層状珪酸塩の配合量の下限は熱可塑性樹脂100重量部に対して0.1重量部、上限は100重量部である。0.1重量部未満であると、燃焼時に連続的な焼結体を形成するのが困難となるので難燃効果が小さいものとなり、100重量部を超えると、機械的強度や成形性を阻害しすぎることから、実用性に乏しくなる。好ましい下限は1重量部、好ましい上限は40重量部であり、より好ましい下限は4重量部、より好ましい上限は30重量部であり、更に好ましい下限は7重量部、更に好ましい上限は20重量部である。4〜30重量部であると、高い機械強度を有する連続被膜が形成され、7〜20重量部であると、より一層高い機械強度を有する連続被膜が形成される。
なお、上記有機化層状珪酸塩についても同様である。
【0064】
熱可塑性樹脂中に層状珪酸塩を分散させる方法としては特に限定されず、例えば、上記有機化層状珪酸塩を用いる方法;熱可塑性樹脂と層状珪酸塩とを常法により混練した後、発泡させる方法;分散剤を用いる方法等が挙げられる。これらの分散方法を用いることにより、熱可塑性樹脂中に層状珪酸塩をより均一かつ微細に分散させることができる。
【0065】
上記熱可塑性樹脂と層状珪酸塩とを常法により混練した後、発泡させる方法について以下に述べる。この方法は、発泡剤を用いて熱可塑性樹脂を発泡させ、その発泡エネルギーを層状珪酸塩の分散エネルギーに転換する方法である。
上記発泡剤としては特に限定されず、例えば、気体状発泡剤、易揮発性液状発泡剤、加熱分解型固体状発泡剤等が挙げられる。これらの発泡剤は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0066】
層状珪酸塩の存在下で熱可塑性樹脂を発泡させることにより層状珪酸塩を熱可塑性樹脂中に分散せしめる具体的な方法としては、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂100重量部及び層状珪酸塩0.1〜100重量部からなる組成物に対し、気体状発泡剤を高圧下で含浸させるか、又は、易揮発性液状発泡剤を混練した後、この気体状発泡剤又は易揮発性液状発泡剤を上記組成物内で気化させることにより、発泡体を形成せしめることによる分散方法;層状珪酸塩の層間に予め加熱分解型固体状発泡剤を含有させ、その加熱分解型固体状発泡剤を加熱により分解せしめ、発泡構造を形成せしめることによる分散方法等が挙げられる。
【0067】
上記熱可塑性樹脂組成物は、更に金属水酸化物を含有する。
上記金属水酸化物は、難燃剤としての役割を有し、上記層状珪酸塩による難燃化効果をより効果的なものとすることができる。
上記金属水酸化物としては特に限定されないが、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム等が好適に用いられる。これらの金属水酸化物は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。より好ましくは水酸化マグネシウムであることが成形条件範囲からも好ましい。
上記金属水酸化物の形状は特に限定されない。また、上記金属水酸化物は、表面処理がなされていてもよい。
【0068】
上記金属水酸化物は、表面にカレンダ成形助剤が処理されていることが好ましい。
これにより、カレンダ成形助剤を樹脂中に均一に分散させることができ、本発明のシート状成形体をカレンダ加工法により製造することができる。また、滑剤としての機能を有するカレンダ成形助剤を用いれば、熱可塑性樹脂と金属水酸化物との相溶性を向上させることもできる。
【0069】
上記カレンダ成形助剤としては特に限定されないが、例えば、脂肪酸系の金属石鹸が好適に用いられる。上記脂肪酸系の金属石鹸としては特に限定されず、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カリウム、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸マグネシウム、ベヘン酸亜鉛、ベヘン酸アルミニウム、ベヘン酸ナトリウム、ベヘン酸リチウム、ベヘン酸カリウムアルミニウム、ベヘン酸ナトリウム、ベヘン酸リチウム、ベヘン酸カリウム、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12−ヒドロキシステアリン酸亜鉛、12−ヒドロキシステアリン酸アルミニウム、12−ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、12−ヒドロキシステアリン酸リチウム、12−ヒドロキシステアリン酸カリウムアルミニウム、12−ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、12−ヒドロキシステアリン酸リチウム、12−ヒドロキシステアリン酸カリウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸アルミニウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸リチウム、モンタン酸カリウムアルミニウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸リチウム、モンタン酸カリウム等が挙げられる。なかでも、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウムが好適に用いられる。これらのカレンダ成形助剤は単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0070】
上記熱可塑性樹脂組成物における上記金属水酸化物の配合量の下限は熱可塑性樹脂100重量部に対して0.1重量部、上限は70重量部である。0.1重量部未満であると、充分な難燃性向上効果は得られず、70重量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物の柔軟性や伸度が極端に低下する。好ましい下限は1重量部、好ましい上限は65重量部であり、より好ましい下限は10重量部、より好ましい上限は60重量部である。
「高分子材料の難燃化技術」(技術情報協会、1993年5月12日発行、52〜53頁)、「高分子材料難燃化技術の新展開」(西沢仁著、ビーケイシー、1998年10月20日発行、78〜80頁)及び「98’難燃剤・難燃プラスチックの市場展望」(シーエムシー、1997年11月30日発行、15〜19頁)によれば、従来、オレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂に充分な難燃性を付与しようとすれば、熱可塑性樹脂成分100重量部に対して少なくとも100重量部、好ましくは200〜300重量部の金属水酸化物を配合することが必要であるとされていた。しかし、本発明のシート状成形体では、層状珪酸塩と金属水酸化物とを併用することにより、大量の金属水酸化物を配合しなくとも充分な難燃性が付与されており、難燃剤の大量添加による弊害を引き起こすことがない。
【0071】
上記熱可塑性樹脂組成物は、更にグラスファイバーを含有する。上記グラスファイバーは、上記熱可塑性重組成物に含有される層状珪酸塩が燃焼時に形成する焼結体の形成を促進したり、又は、これと競合して焼結体を形成したりすることから、難燃助剤としての役割を有する。更に、本発明のシート成形体を成形する際には、溶融粘度・溶融張力の低下を抑制したり向上させたりすることから、成形助剤としての役割も有する。
【0072】
上記グラスファイバーとしては特に限定されないが、例えば、繊維状、細いストランド状に成形したものを、裁断・圧縮する等して得られた鱗片状のものが好適に用いられる。
上記グラスファイバーの大きさとしては特に限定されないが、最大辺長さが50μm以下であることが好ましい。50μmを超えると、得られる本発明のシート状成形体の表面に突出して露出したり、燃焼時に引火点となる表面の粗さの原因となったりすることがある。
上記グラスファイバーの最大辺長さと最小辺長さの比(アスペクト比)は、2.0以上であることが好ましい。2.0以上であると、焼結体となったときの表面の被覆面積が大きくなり、また、成形溶融時には樹脂との界面積が増大して効果的に溶融張力・溶融粘度を増大させることができる。ただし、アスペクト比を単純に向上させるためには薄片状に成形したものを粉砕したものを用いることが考えられるが、鱗片表面部分の面積が大きくなることによって、得られるシート状成形体の表面に露出したグラスファイバーが光沢を放つことにより好ましい意匠性を実現しにくくなることがある。
【0073】
上記熱可塑性樹脂組成物における上記グラスファイバーの配合量の下限は1重量部、上限は50重量部である。1重量部未満であると、上述の効果、特に成形助剤効果が得られず、50重量部を超えると、シート物性の低下を招き、シートとしての風合いが損なわれる。好ましい下限は5重量部、好ましい上限は30重量部である。
【0074】
上記熱可塑性樹脂組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、必要に応じて、例えば、充填剤、軟化剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、着色剤、酸化防止剤(老化防止剤)、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤の1種類又は2種類以上が配合されていてもよい。
【0075】
上記熱可塑性樹脂組成物を調製する方法としては特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂、層状珪酸塩、金属水酸化物及びグラスファイバーの所定量と、必要に応じて配合される各種添加剤の1種類又は2種類以上の各所定量とを、常温下又は加熱下で直接配合して混練する方法(直接混練法);予め熱可塑性樹脂の所定量の一部に所定量の層状珪酸塩を配合して混練したマスターバッチを作製しておき、このマスターバッチと熱可塑性樹脂の所定量の残部及び金属水酸化物、グラスファイバー及び必要に応じて添加される各種添加剤の1種類又は2種類以上の各所定量とを、常温下又は加熱下で混練する方法(マスターバッチ法)等が挙げられ、いずれの方法が採られてもよい。
【0076】
上記マスターバッチにおける層状珪酸塩の配合量としては特に限定されないが、熱可塑性樹脂100重量部に対して好ましい下限は1重量部、好ましい上限は500重量部である。1重量部未満であると、任意濃度に希釈可能なマスターバッチとしての利便性が失われることがあり、500重量部を超えると、マスターバッチ自体の分散性や、特に熱可塑性樹脂によって所定の配合量に希釈する際の層状珪酸塩の分散性が悪くなることがある。より好ましい下限は5重量部、より好ましい上限は300重量部である。
【0077】
上記直接混練法やマスターバッチ法による組成物の具体的な製造方法としては特に限定されず、例えば、押出機、2本ロール、バンバリーミキサー等の混練機を用いて上記熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂、層状珪酸塩、金属水酸化物、グラスファイバー及び必要に応じて配合される各種添加剤を常温下又は加熱下で均一に溶融混練する方法;熱可塑性樹脂、層状珪酸塩、金属水酸化物、グラスファイバー及び必要に応じて配合される各種添加剤をこれらが溶解又は分散し得る溶媒中で均一に混練する方法等が挙げられ、いずれの方法が採られてもよい。
【0078】
また、熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂を使用する場合には、例えば、遷移金属錯体類等の重合触媒(重合開始剤)を含有する層状珪酸塩を用いて、ポリオレフィン系樹脂を構成するオレフィン系単量体と上記重合触媒(重合開始剤)含有層状珪酸塩とを混練し、上記オレフィン系単量体を重合させることにより、ポリオレフィン系樹脂の製造と熱可塑性樹脂組成物の製造とを同時に一括して行う方法が採られてもよい。
【0079】
本発明のシート状成形体は、少なくとも1層の接着/粘着剤層を有することが好ましい。上記接着/粘着剤層を有することにより、施工時に接着/粘着を別途シート状成形体や被貼付体に塗布する必要がなく施工上有利である。
上記接着/粘着剤層を構成する接着/粘着剤としては特に限定されず、例えば、エラストマー系(ゴム系)接着/粘着剤、アクリル樹脂系接着/粘着剤、ポリビニルエーテル樹脂系接着/粘着剤、シリコーン樹脂系接着/粘着剤等が挙げられる。
上記接着/粘着剤の形態としては特に限定されず、例えば、溶剤型接着/粘着剤、非水エマルジョン型接着/粘着剤、エマルジョン型接着/粘着剤、デイスパージョン型接着/粘着剤、ホットメルト型接着/粘着剤、例えば紫外線のような活性エネルギー線で硬化(重合)し得るモノマー型又はオリゴマー型接着/粘着剤等が挙げられる。また、上記接着/粘着剤は、架橋型接着/粘着剤であってもよいし、非架橋型接着/粘着剤であってもよく、1液型接着/粘着剤であってもよいし、2液以上の多液型接着/粘着剤であってもよい。
また、上記接着/粘着剤としては、難燃性を有するものがより好ましい。これにより本発明のシート状成形体の難燃性はより優れたものとなる。
【0080】
上記接着/粘着剤層の厚さとしては特に限定されないが、好ましい下限は固形分の厚さで10μm、好ましい上限は60μmである。10μm未満であると、粘着力が不充分となることがあり、60μmを超えると、本発明のシート状成形体の厚さが増大して化粧シートや装飾粘着シート等の用途に適さなくなることがある。
【0081】
本発明のシート状成形体は、少なくとも1層が透明層であることが好ましい。この場合、特に限定されないが、透明層は上記熱可塑性樹脂組成物からなる層であることがより好ましい。熱可塑性樹脂に層状珪酸塩、金属水酸化物及びグラスファイバーが高度に分散した層はある程度の透明性が維持されるため、透明層として好適である。
【0082】
本発明のシート状成形物は、ASTM E 1354に準拠した燃焼試験において、50kW/m2の輻射加熱条件下で30分間加熱することにより燃焼させた燃焼残渣を速度0.1cm/sで圧縮した際の降伏点応力が4.9kP a以上であることが好ましい。4.9kPa未満であると、微少な力で燃焼残渣の崩壊が起こり易くなって、シート状成形物の難燃性や延焼防止性が不充分となることがある。即ち、第1の本発明のシート状成形物が難燃被膜としての機能を充分に発現するためには、燃焼終了時まで焼結体がその形状を保持していることが好ましい。より好ましくは15.0kPa以上である。
【0083】
本発明のシート状成形体は、厚さが20μm以上であるシート状成形体を、ISO1182に準拠して、不燃性材料に貼り合わせて50kW/m2の輻射加熱条件下で燃焼する際、加熱開始後20分間において、最大発熱速度が連続して200kW/m2以上となる時間が10秒未満であり、かつ総発熱量が8MJ/m2以下であり、厚みが20μm以上であることが好ましい。加熱開始後20分間において、最大発熱速度が連続して200kW/m2以上となる時間が10秒以上、又は、上記総発熱量が8MJ/m2を超えると、シート状成形体の難燃性や延焼防止性が不充分となる。なお、本発明のシート状成形体の厚さが20μm未満である場合には、可燃物量が少ないため総発熱量や最大発熱速度は当然に小さくなるが、このような過度に薄肉化されたシート状成形体は、基本的な力学物性が損なわれ、化粧シート等への実用に適さない。
【0084】
本発明のシート状成形体は、密度が0.90〜1.20g/cm3であることが好ましい。上記熱可塑性樹脂組成物からなる層を有する本発明のシート状成形体は、通常、密度が0.9g/cm3以上となる。また、密度が1.20g/cm3を超えると、ポリ塩化ビニル系樹脂の比重に近くなるため、分別回収時にポリ塩化ビニル系樹脂製の化粧シートと分別に不利になることをはじめ、運搬・施工時の作業性が低下することがある。
【0085】
本発明のシート状成形体を作製する方法としては特に限定されず、例えば、予め作製した組成物を押出機にて溶融混練して押出し、Tダイやサーキュラーダイ等を用いて、シート状に成形する方法;組成物を有機溶剤等の溶媒に溶解又は分散させた後、キャスト方式でシート状に成形する方法;組成物を溶融混練した後ロール成型機によりカレンダリング方式で延転成形するカレンダ成形法等が挙げられる。なかでも、カレンダ成形法により製造されることが好ましい。溶融樹脂をロール成形機上にて混練、延伸するカレンダ成形は、多くの品種を生産する場合、品種/樹脂替え時の原料のロスが少ないことから、多品種・少ロット生産への対応性に優れる。
従来、オレフィン系樹脂は高温での溶融粘度が低いこと等から、カレンダ成形法においては成形適応温度範囲が狭く、カレンダリングに適さないとされていた。しかし、本発明のシート状成形体では、熱可塑性樹脂組成物にグラスファイバーを添加することで溶融粘度を調整することが可能になり、成形範囲を拡大することができる。また、カレンダ成形用助剤を添加すれば、更にカレンダ成形法に適する組成物とすることができる。
【0086】
本発明のシート状成形体が接着/粘着剤層を有する場合には、上記接着/粘着剤層を形成する方法としては特に限定されず、例えば、カレンダ成形法等により作製した板状体の片裏面(非化粧面)に接着/粘着剤を直接的に塗工し、必要に応じて鞋燥、冷却、活性エネルギー線照射等の工程を経て、接着/粘着剤層を形成した後、必要に応じて離型紙(剥離紙)や離型フィルム等の離型材の離型処理面を粘着剤層に積層する方法(直接塗工方法);離型材の離型処理面に接着/粘着剤層を形成した後、この接着/粘着剤層をカレンダ成形法等により作製した板状体の片面に積層して、接着/粘着剤層をシートの片面に転写する方法(転写方法)等が挙げられる。なお、カレンダ成形法等により作製した板状体の片面には、接着/粘着剤層との密着性をより高めるために、予めコロナ放電処理やプライマー(下塗り剤)塗工等の下地処理(前処理)が施されていてもよい。
【0087】
本発明のシート状成形体を用いてなる化粧シートもまた、本発明の1つである。本発明の化粧シートは、表層側から透明フィルム層−印刷層−着色フィルム層−接着/粘着剤層の順に積層されてなることが好ましい。上記透明フィルム層又は着色フィルム層のいずれかを本発明のシート状成形体とすることにより、本発明化粧シートは、種類や用途等に応じた物性及び性質を得ることが可能となる。
また、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン系アロイ樹脂を用いれば、高い柔軟性と耐燃焼性とを兼ね備えたものとなる。柔軟性が高いことは施工時や運搬時においての耐傷付き性が高いこと、施工時の取り扱い易さが向上することを意味し有用である。
【0088】
本発明の化粧シートの厚さとしては種類や用途等に対応して適宜設定されればよく特に限定されないが、接着/粘着剤層を除いた部分の厚さの好ましい下限は100μm、上限は400μmである。100μm未満であると、下地壁材模様等の隠蔽性が不充分となり化粧シートとしての実用に適さないことがあり、また力学強度も維持しにくく、400μmを超えると、単位面積あたりの可燃焼成分量が増大することにより燃焼性を抑制することが困難となったり、単位面積あたりの重量が大きくなること等から施工者への負荷が大きくなったりすることから実用上不利である。より好ましい下限は120μm、より好ましい上限は200μmである。
【0089】
本発明のシート状成形体は、少なくとも1層が特定量の層状珪酸塩を含有する熱可塑性樹脂組成物からなるので、燃焼時に層状珪酸塩による焼結体が形成され、燃焼残渣の形状が保持される。これにより燃焼後も形状崩壊が起こらず、強固な焼結体が非着体からの発熱を効果的に抑制する。また、グラスファイバーを含有することでより強固な焼結体が形成せしめ得ることから、より効果的に発熱量を低減させ得る。また、層状珪酸塩との相乗効果により大量の金属水酸化物を含有なくとも優れた難燃性を付与できるので、優れた機械的強度を保持でき、また、軽量となることから施工時の負荷を軽減できる。
本発明の化粧シートは、本発明のシート状成形体を用いてなることから、弾性率やガスバリア性等の物性が向上していると共に、分子鎖の拘束による耐熱変形温度の上昇に基づく耐熱性の向上や、層状珪酸塩の結晶による造核剤効果に基づく寸法安定性の向上等も図られている。
【0090】
【実施例】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0091】
(実施例1)
ランダムーポリプロピレン樹脂(サンアロマー社製、PC630A)、ポリアクリル酸(/エステル)−ポリプロピレン・ジブロック型オリゴマー及びジステアリルジメチル4級アンモニウム塩で有機化処理が施された合成膨潤性フッ素雲母(コープケミカル社製、MAE−100)、金属石鹸含有表面処理剤によって処理された水酸化マグネシウム(神島化学工業社製、CS−4)、及び、粉砕されたE−ガラス(無アルカリガラス)を主成分とするグラスファイバーフィラー(NSGヴェトロテックス社製、マイクログラスサーフエストランドREV−1)を表1に示した比率で予め混合して、小型押出機(池貝製作所社製、PCM30)中にフィードし設定温度180℃で溶融混練してストランド状に押出し、押出されたストランドをペレタイザーによりペレット化して、熱可塑性樹脂組成物のペレットを作製した。
得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを180℃で熱プレスし圧延して、厚さ3mmの板状成形体及び厚さ100μmの板状成形体を作製した。
【0092】
次いで、得られた板状成形体の一方の面にコロナ放電処理を施して表面濡れ指数を42dyn/cmとした。
一方、シリコーン樹脂系離型剤で離型処理が施された離型紙の離型処理面に、2液架橋型アクリル樹脂系粘着剤をコンマコーターにて乾燥後の厚みが45±10μmとなるように塗工し、乾燥して、粘着剤層を形成した後、この粘着剤層とコロナ放電処理を施した板状成形体のコロナ放電処理面とを積層して、粘着層を有するシート状成形体を作製した。
【0093】
(実施例2)
実施例1においてポリアクリル酸(/エステル)−ポリプロピレン・ジブロック型オリゴマーの代わりに、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA樹脂:VA含量25重量%、MI=5.0)を用いた以外は実施例1と同様にしてシート状成形体を作製した。
【0094】
(比較例1)
層状珪酸塩及び無アルカリグラスファイバーフィラーを添加しなかったこと以外は実施例と同様にシート状成形体を作製した。
【0095】
実施例1、2及び比較例1で作製した板状成形体中における層状珪酸塩の平均層間距離及び5層以下分散比率、燃焼残渣の被膜強度(降伏点応力)、密度を以下の方法で測定した。また、実施例1、2及び比較例1じ作製したシート状成形体の発熱性試験を以下の方法で評価した。
これらの結果を表2に示した。
【0096】
(1)層状珪酸塩の平均層間距離
X線回折測定装置(リガク社製、RINT1100)を用いて、板状成形体中の層状珪酸塩の積層面の回折より得られる回折ピークの2θを測定し、下記のブラックの回折式により、層状珪酸塩の(001)面間隔(d)を算出し、得られたdを平均層間距離(nm)とした。
λ=2dsinθ
式中、λは1.54であり、dは層状珪酸塩の面間隔を表し、θは回折角を表す。
【0097】
(2)層状珪酸塩の5層以下分散比率
板状成形体をダイヤモンドカッターにて切り出し、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEM−1200EXII)写真により単位面積あたりの層状珪酸塩の集合体の分散層数を測定し、5層以下に分散している割合を算出した。
【0098】
(3)燃焼残渣の被膜強度(降伏点応力)
ASTM E 1354「建築材料の燃焼性試験方法」に準拠して、100mm×100mm(厚み3mm)に裁断した板状成形体にコーンカロリーメーターによって50kW/m2の熱線を照射して燃焼させた後、強度測定装置を用いて、燃焼残渣を速度0.1cm/sで圧縮し、燃焼残渣の被膜強度(降伏点応力:kPa)を測定した。
【0099】
(4)密度
常法により、板状成形体の密度(g/cm3)を測定した。
【0100】
(5)発熱性試験
ISO 1182に準拠して、シート状成形体を不燃性材料(100×100×12.5mm 石膏ボード)に貼り合わせて50kW/m2の条件下で加熱開始後20分間燃焼させた。この時の最大発熱速度が連続して200kW/m2以上となる時間及び総発熱量を測定した。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
表2から、実施例1、2で作製した板状成形体中においては、層状珪酸塩の平均層間距離が3nm以上であり、分散層数は多くが5層以下であった。このため難燃被膜となり得る焼結体を形成しやすいことから、燃焼残渣の被膜強度(降伏点応力)が18kPa以上と極めて高かったものと考えられる。また、実施例1、2で作製した板状成形体は、密度が1.18g/cm3以下であったので、ポリ塩化ビニル系樹脂との分別が容易である。更に、実施例1、2で作製したシート状成形体は、優れた発熱性試験の結果、最大発熱速度が連続して200kW/m2以上となる時間が極めて短く、総発熱量も低いことがわかった。
【0104】
これに対し、比較例1で作製した板状成形体においては、燃焼残渣が被膜を形成せず、難燃性及び延焼防止性のいずれもが悪かった。また、比較例1で作製したシート状成形体は、燃焼残渣が被膜を形成しなかったことから発熱性試験の結果、最大発熱速度が連続して200kW/m2以上となる時間が長く、総発熱量も高いことがわかった。
【0105】
【発明の効果】
本発明によれば、難燃性や延焼防止性に優れ、特に燃焼時の形状保持効果によって優れた難燃効果や延焼防止効果を発現し、更に機械的強度や安定性、特にネッキングやひけが少なく、使用時において寸法精度が高く、貼り付け精度に優れ、多品種少量生産に対応できる生産性に優れたシート状成形体及び化粧シートを提供できる。
Claims (10)
- 単層又は複数層からなるシート状成形体であって、
ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、炭素数6以上のアルキルアンモニウムイオンを含有する層状珪酸塩0.1〜100重量部、金属水酸化物0.1〜70重量部及び最大辺長さの平均値が50μm以下であるグラスファイバー1〜50重量部が配合された熱可塑性樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有し、
前記層状珪酸塩は、広角X線回折測定法により測定した(001)面の平均層間距離が3nm以上であり、かつ、一部又は全部が5層以下に分散している
ことを特徴とするシート状成形体。 - ポリオレフィン系樹脂は、エチレンの単独重合体、エチレンと該エチレンと共重合可能なエチレン以外のα−オレフィンとの共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレンの単独重合体、プロピレンと該プロピレンと共重合可能なプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体、及び、ポリプロピレン系アロイ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のシート状成形体。
- 層状珪酸塩は、モンモリロナイト及び/又は膨潤性マイカであることを特徴とする請求項1又は2記載のシート状成形体。
- グラスファイバーは、アスペクト比が2.0以上であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のシート状成形体。
- 請求項1、2、3又は4記載のシート状成形体の少なくとも一方の表面に更に接着/粘着剤層を有することを特徴とするシート状成形体。
- ASTM E 1354に準拠した燃焼試験において、50kW/m2の輻射加熱条件下で30分間加熱することにより燃焼させた燃焼残渣を速度0.1cm/sで圧縮した際の降伏点応力が4.9kPa以上であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載のシート状成形体。
- 厚さが20μm以上であるシート状成形体を、ISO 1182に準拠して、不燃性材料に貼り合わせて50kW/m2の輻射加熱条件下で燃焼する際、加熱開始後20分間において、最大発熱速度が連続して200kW/m2以上となる時間が10秒未満であり、総発熱量が8MJ/m2以下であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載のシート状成形体。
- 密度が0.90〜1.20g/cm3であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載のシート状成形体。
- カレンダ成形法により成形されたものであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載のシート状成形体。
- 請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載のシート状成形体を用いてなることを特徴とする化粧シート。
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