JP4188127B2 - 極細繊維の立毛を有する皮革様シートおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐光堅牢度、摩擦堅牢性に優れ、立毛状態の良好な極細繊維立毛シートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
皮革様シートのなかでも、スエード調/ヌバック調等、表面に立毛を有する皮革様シートは、極細繊維に由来する高級感のある表面タッチおよびライティング性が一定の評価を受けており、衣料用途や住居、乗り物等の内装材用途に使用されている。
一般に、表面に立毛を有する繊維製品は、ポリエステル繊維に対しては分散染料、ポリアミド繊維に対しては含金染料等、染料による着色が適用されている。スエード調/ヌバック調の皮革様シートにおいても同様に染料による着色が適用されているが、極細繊維の発色には、通常の繊維よりも多量の染料を吸尽させる必要があり、染料の分解,昇華等が影響する耐光堅牢性は繊度が小さくなるほど悪化する傾向がある。このため、HALS(Hindered Amine Light Stabilizer)等の耐光安定剤添加による耐光性向上が検討されているが、特にカーシート等の高度な耐光性が要求される用途においては、充分な性能を得ることは困難であった。
着色後の耐光性向上には、一般に染料より耐光性の良好である顔料を使用することが考えられ、その一つには繊維形成の際に予め原料樹脂に顔料を混練する方法が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。しかしながら極細繊維の場合には、顔料の粒径が繊維径に比して充分に小さくない限りは紡糸性および繊維物性に悪影響を及ぼすため、適用できる顔料の範囲がカーボンブラック等ごく一部に限定され、そのためカラーバリエーションも限られたものとなるという問題がある。また繊維形成時の着色であるため、複数の工程を経て製造される皮革様シートにおいては製品に近い工程での色調整が必須となるため、補助的な着色には使用できるがこの方法単独での着色は実用上困難である。
極細繊維と高分子弾性体よりなる立毛を有する皮革様シートにおいて、高分子弾性体付与時に顔料を付与することはできるが、高分子弾性体のみを着色しても、一般的な皮革様シートにおいては立毛部分により発色がさえぎられるため、シート全体からみれば補助的な発色となる。製造工程の調整により立毛部分の毛羽密度を落とすことで高分子弾性体からの発色を強調することは可能であるが、この場合には、立毛シートとしての品位が犠牲となる。
【0003】
上述のようにシートの構成成分に予め顔料を含有させる方法とは別に、界面活性剤や荷電ポリマーを用いて顔料を水中に分散させた水性顔料を、染料による染色と類似の工程および染色機により繊維に吸着させる方法が知られている(例えば、特許文献2,3参照)。この方法は最終製品直前の段階で適用でき、耐光堅牢性を付与できるのはもちろんのこと、繊維自身の強度に悪影響を与えることなく着色可能であるとともに、繊維や高分子弾性体の内部よりは表面に顔料粒子が偏在するため発色性の観点からも効率がよい。しかしながら、この方法では顔料が繊維および高分子弾性体の表面付近に多くあり、かつ、あまり強固とは言えないイオン性の結合力に頼っているためそのままでは色落ちが生じやすいため、バインダー樹脂によって繊維に顔料粒子を固着させる工程が必須となる。
表面に立毛を有する皮革様シート、特に極細繊維の立毛を有する皮革様シートにおいて、バインダー樹脂による顔料の固着化工程は、バインダーによる極細繊維同士の固着すなわち集毛を引き起こし、極細繊維由来の高級感のある表面タッチおよびライティング性が失われるという問題がある。かといって集毛を避けるため付与するバインダーの量を少なくした場合にはシートへの顔料固着性が不充分となるため摩擦堅牢性が悪化する。
以上の理由により、表面に立毛を有する皮革様シート、特に極細繊維の立毛を有する皮革様シートにおいて、高度な耐光堅牢性と摩擦堅牢性、および良好な立毛状態を安定的かつ同時に付与することは極めて困難であった。
【0004】
【特許文献1】
特開平5−331782号公報(第1−4頁)
【特許文献2】
特開平6−136672号公報(第4−5頁)
【特許文献3】
特開平10−310718号公報(第1−7頁)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題を解決し、高度な耐光堅牢性と摩擦堅牢性、および良好な立毛状態を併せ持つ極細繊維立毛シートおよびその製造方法に関するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、0.5デシテックス以下の極細繊維からなる絡合不織布とその内部に充填された高分子弾性体からなり少なくとも片面が起毛された極細繊維立毛シートにおいて、該立毛シートが染着性を有する水性顔料により着色されており、さらに該立毛シートの少なくとも製品において表面側となる起毛された表面に、低分子量ポリウレタンおよびシリコーン樹脂からなる配合物が付与され、該立毛シートのキセノンアークランプ耐光堅牢性評価(ブラックパネル温度=83℃、積算照射照度=20MJ、水スプレー無し)4級以上、摩擦堅牢度が乾式および湿式ともに4級以上を満足することを特徴とする極細繊維立毛シートであり、該低分子量ポリウレタンの数平均分子量が1000以上10000以下であることが好ましく、また、該シリコーン樹脂がアミノ変性シリコーンであることが好ましい。
そして本発明は、0.5デシテックス以下の極細繊維からなる絡合不織布とその内部に充填された高分子弾性体からなり、少なくとも片面が起毛された極細繊維立毛シートを染着性を有する水性顔料を用いて着色した後、該極細繊維立毛シートの少なくとも製品において表面側となる起毛された表面に、低分子量ポリウレタンおよびシリコーン樹脂からなる配合物を付与してなる極細繊維立毛シートの製造方法である。
【0007】
以下、本発明について詳述する。
本発明の極細繊維立毛シートを構成する基体は、極細繊維からなる絡合不織布に高分子弾性体が充填された基体の、少なくとも片面が起毛されたものである。
【0008】
本発明において極細繊維は、通常の繊維形成性樹脂、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン等からなり、直接紡糸法、あるいは、混合紡糸法、複合紡糸法による多成分繊維紡糸工程と該多成分繊維からの選択的成分除去または割繊等による極細繊維発生工程の組み合わせ等、従来公知の方法により製造される。繊維形成性樹脂としては、風合いの点でポリアミドあるいはポリエステルが好ましい。繊度としては0.5デシテックス以下の平均単繊度を有するような極細繊維が使用可能であるが、風合いの点で、あるいは優美な立毛感といった外観の点で、平均単繊度0.3デシテックス以下が好ましく用いられ、より好ましくは0.1デシテックス以下の極細繊維が用いられる。また、色相の調整等を目的として、極細繊維中にカーボンブラック等の顔料を添加することができる。ただし顔料の粒径が大きい場合および添加量が多い場合には、極細繊維の強度を著しく損なうため留意する必要がある。それぞれの限度は、繊度、樹脂の種類、樹脂−顔料相互作用の度合い等により異なるが、総体的には粒径は50nm以下、添加量は10%以下であることが望ましい。
【0009】
極細繊維あるいは極細繊維発生型繊維の不織布化にあたっては、ステープルをウェッブ経由でニードルパンチや高圧水流により絡合させる等の公知の不織布製造方法を用いることができる。該不織布は、皮革様シートとした際の厚さ等を考慮して目的に応じた形態にする必要が有るが、目付けとしては200〜1500g/m2、厚みとしては1〜10mmの範囲が工程中での取り扱いの容易さの観点から好ましい。
【0010】
絡合不織布に含有される高分子弾性体としては、公知のもの、例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等が使用可能であるが、極細繊維立毛シートとしたときの感性面や強度面、あるいは素材として使用が想定される環境における特性面、さらには後述する極細繊維立毛シートの表面に塗布する配合物との接着性、さらには樹脂としての価格面などの種々の要因のバランスにおいて、ポリウレタンが最も好ましく、なかでも平均分子量500〜3000のポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルエーテルジオール、ポリラクトンジオール、ポリカーボネートジオールなどから選ばれた少なくとも1種のポリマージオール、芳香族ジイソシアネートまたは脂環族ジイソシアネートから選ばれた少なくとも1種の有機ジイソシアネートを主体に、必要に応じて他の有機ジイソシアネートあるいは有機トリイソシアネートを配合した有機ジイソシアネート、および低分子ジオール、低分子ジアミン、ヒドラジン、ヒドロキシアミンなど活性水素原子2個有する化合物とを溶液重合法、溶融重合法、塊状重合法などによって重合して得たポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステルエーテル系ポリウレタン、ポリラクトン系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタンなどである。
【0011】
これらの高分子弾性体は、溶剤に溶解あるいは分散媒に分散して液状にしたのち、繊維絡合不織布に含浸し、非溶剤で処理して湿式凝固あるいは分散媒を留去することにより、不織布内部の空隙に含有させることができる。シートを濃色に仕上げる場合には、該高分子弾性体中にカーボンブラック等の顔料を添加することで、シート全体の濃色度を底上げかつ基体層の変退色を隠蔽することが可能である。その際の顔料添加量としては高分子弾性体100部に対して0.1〜40部が好ましい。0.1部未満では少量のためシートの色相に影響を与えることができず、40部を超える場合には高分子弾性体の取り扱い性およびシートの柔軟性に悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0012】
極細繊維発生型繊維を用いる場合には、選択的成分除去または割繊等の処理を行なうことにより平均単繊度0.5デシテックス以下極細繊維とするが、この工程は不織布への高分子弾性体付与工程と任意の順序で行なうことができる。
このようにして得られた基体繊維シートを所定の厚さにスライスし、あるいはスライスせずに、少なくとも製品において表面となる一面にはサンドペーパーによるバフィング処理、起毛機による起毛処理、洗浄処理などの工程を経て極細繊維立毛シートとする。極細繊維立毛シートの厚さとしては、目的とする用途の素材として使用するにあたって0.3〜2.0mm程度の厚さとするのが好ましいが、本発明の効果を発揮することにおいては特に限定されるものではない。
【0013】
本発明の特色の一つは、極細繊維立毛シートを染着性を有する水性顔料により着色することにある。染着性の水性顔料とは、吸尽性の水性顔料であり、界面活性剤や荷電系ポリマーにより顔料を水に分散させた、アニオン性あるいはカチオン性のエマルジョンを使用できる。付与方法としては、例えば、浸染法、塗布法等、特に限定されないが、風合いや堅牢度の点で浸染法が好ましい。装置としてはウィンス染色機、サーキュラー染色機、ダッシュライン染色機、ジッガー染色機等、通常の染色機が使用可能である。たとえば、予めカチオン性の前処理剤を付与した極細繊維立毛シートをサーキュラー染色機を用いてアニオン性を帯びた顔料を分散させたエマルジョン浴中で吸着させる。摩擦堅牢性の確保の観点からは、余分に吸着した水性顔料を軽度の水洗により脱落させておくことが有効である。染着性の水性顔料の付与量としては、摩擦堅牢度確保の観点からはowf%で15.0以下であることが好ましく、さらに耐光堅牢性がシート基体の影響を受けにくくするという観点からは1.0owf%以上であることが好ましい。
【0014】
しかるのちに、本発明のもう一つの特色である低分子量ポリウレタンおよびシリコーン樹脂からなる配合物をバインダーとして極細繊維立毛シートの少なくとも表面に付与する。
使用される低分子量ポリウレタンは、数平均分子量が1000〜10000のポリウレタンであり、好ましくはポリアルキレングリコール、脂肪族ジイソシアネート及びN−アルキルジエタノールアミンから得られる低分子量ポリウレタンである。ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリエチレンプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリアルキレンエーテルグリコール類などから選ばれた少なくとも一種のポリアルキレングリコールであって、特に数平均分子量が200〜3000のものが挙げられ、これをソフトソグメント成分とし、また、ハードセグメント成分である脂肪族ジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4、4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)等から選ばれた少なくとも一種の脂肪族ジイソシアネートが挙げられ、これら成分の共重合反応における鎖伸長剤としては、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン等から選ばれた少なくとも一種のN−アルキルジエタノールアミンが挙げられる。また、低分子量ポリウレタンにおけるポリアルキレングリコールと脂肪族ジイソシアネートとN−アルキルジエタノールアミンとの質量比率は、1:1.5〜3:0.5〜2が好ましい。なお低分子量ポリウレタンの平均分子量は、上記質量比率とポリアルキレングリコールの平均分子量を適当に選択することにより容易に所定のものとすることができる。
【0015】
本発明の目的を達成する上で、上記3成分から得られる低分子量ポリウレタンが好適である。ポリアルキレングリコールの替わりにポリエステルグリコールを使用することも可能であるが、耐久性の点でポリアルキレングリコールが好ましい。もちろん本発明の目的や効果を損なわない範囲内で、上記3成分の一部を他の成分に置き換えてもよい。
こうして得られた低分子量ポリウレタンの数平均分子量が1000〜10000のときに、配合物を塗布した極細繊維立毛シートにおいて優れた摩擦堅牢度、集毛の少ない良好な立毛状態が得られ、好ましくは数平均分子量が1500〜5000である。数平均分子量が1000未満の場合には、配合物が易動性を有してしまうためか、染料移動の担体となり、あるいは配合物の粘着性感が強すぎるためかえって極細繊維立毛シート表面に接触する物質へ極細繊維が脱落し易くなってしまうなどの理由により、充分な摩擦堅牢度が得られない傾向にあり、また、数平均分子量が10000を越える場合には、配合物が付与された極細繊維立毛シートの風合いが硬化したり、バランスが崩れたり、あるいは極細繊維が集毛、硬化したり、立毛自身が寝てしまうなど、極細繊維立毛シートの感性面での商品価値が損なわれる傾向にある。
【0016】
本発明で用いられるシリコーン樹脂は、繊維製品の風合い加工剤、柔軟仕上剤等の各種処理剤として通常入手可能なものであればいずれも使用可能であり、配合物としての相溶性や粘度等のマッチング、極細繊維立毛シートとして所望の風合い、タッチ等の要因から適宜選択可能であるが、極細繊維立毛シートの風合いやタッチの点でアミノ変性シリコーンが好ましい。本発明の低分子量ポリウレタンとアミノ変性シリコーンからなる配合物における各成分の質量比率は、50/50〜95/5の範囲が、摩擦堅牢度と風合い、タッチ等の感性面とのバランスにおいて優れた比率であり、より好ましくは70/30〜90/10である。低分子量ポリウレタンの比率が50%未満の場合には、配合物としての易動性の増大により摩擦堅牢度が悪化する傾向があり、95%を越えると滑り性低下に伴い乾式摩擦堅牢度が低下する傾向がある。
【0017】
該配合物は、シート基体の高分子弾性体への影響、取扱性等を考慮すると、有機溶剤を使用せず、水を分散媒として用いた水系分散液として極細繊維立毛シートの表面に付与することが好ましい。固形分20質量%〜70質量%程度の分散液とし、使用時は処理液としての粘度、所望とする付着量、付着状態等の点から必要に応じて水でさらに希釈することで固形分1〜50質量%程度に調節し、極細繊維立毛シートへ付与される。付着量は、付与方法および目的とする摩擦堅牢度等の改良効果と、風合い、タッチ、立毛状態等の感性面でのバランスにおいて適宜選択されるが、通常であれば極細繊維立毛シートに対して1〜30g/m2程度であり、好ましくは2〜10g/m2であって、本発明の目的とする効果を得るためには極細繊維立毛シートの表面部分を主として付着させればよい。付着量が1g/m2に満たない場合には摩擦堅牢度等の改良効果が殆ど期待できず、また30g/m2を越える場合には摩擦堅牢度等の改良効果は充分であるが、表面の立毛状態やタッチ、あるいは風合いが損なわれてしまう傾向にある。
【0018】
配合物を極細繊維立毛シートの表面に主として付与する方法としては、公知の液状処理剤付与方法が何れも使用可能であり、例えば浸漬法、グラビアコーター法、リバースロールコーター法、スプレーコーター法、カーテンフローコーター法などが挙げられるが、中でも、塗布量の制御性、均一性、安定性に優れ、塗布状態としては表面にスポット状に塗布することのできるグラビアコーター法が得られる極細繊維立毛シートの風合い、立毛状態の点で最良である。また、浸漬法も、極細繊維立毛シートの処理剤浸透性との兼ね合いにおいて、処理剤粘度、濃度、浸漬時間など適宜条件選択することにより、表面に多く付着した状態とすることが容易な場合には、付与方法として平易な方法なので好ましく使用される。尚、配合物分散液中には、極細繊維立毛シートの立毛状態、風合い、表面の各種性能を損なわない範囲であって、かつ表面の変退色等の変性をもたらさない種類の添加剤、例えばポリカーボネート系ポリウレタン、無黄変ポリウレタンなどを安定剤の展着剤として適量添加しておくことも本発明における好ましい態様の1つである。
上記配合物の付与の主たる目的は極細繊維および高分子弾性体に付着した染着性顔料を被覆することで脱落を防止し、かつ適度な滑り性を付与することにより摩擦堅牢度を向上させることにあるため、配合物の付与は着色後に行なう必要がある。着色前の付与では充分な脱落防止効果を得ることは困難である。
配合物を付与した極細繊維立毛シートは、必要に応じて風合い、外観の修正のため、揉み処理、立毛表面のブラッシング処理等の各種処理を別途行うことも、目的とする用途における素材としての商品価値を更に付与する上で好ましい。
【0019】
得られた極細繊維立毛シートは、キセノンアークランプ耐光堅牢性評価(ブラックパネル温度=83℃、積算照射照度=20MJ、水スプレー無し)で4級以上であることが必須であり、4級未満の場合には乗用車の室内等の強い陽射しにさらされる機会の多い用途にとって充分な耐久性が得られない。また摩擦堅牢度は、乾式湿式ともに4級以上であることが必須であり、4級未満の場合には、座席シート等の着衣との摩擦機会の多い用途にとって不適格となる。
本発明で得られた極細繊維立毛シートは、耐光堅牢性、摩擦堅牢性に優れ、かつ立毛状態の良好なものであり、ソファー等のインテリア用あるいは車両等の内装といった、接触時に毛羽や色落ちがなく長期間にわたって外観の劣化のないことが求められるような製品用途の素材として好適なものである。
【0020】
【実施例】
以下実施例により、本発明の実施態様を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
なお、極細繊維の平均繊度は、極細繊維形成に使用したポリマーの密度と走査型電子顕微鏡を用いて数百倍〜数千倍程度の倍率にて観察される、繊維質シート基体、あるいは極細繊維立毛シートを構成する極細繊維の断面の面積とから計算されたものである。
また、実施例中で記載される部および%は、特にことわりのない限り質量に関するものである。
[耐光堅牢性]
スエード調人工皮革の表面にキセノンアークランプを100時間照射(ブラックパネル温度:83℃、積算照射照度:20MJ、水スプレー無し)した後の変色度をJIS L0804に規定する変退色グレースケールを用いて号判定を行い、その号判定を級として判定した。
[摩擦堅牢性]
JIS K6547(革の染色摩擦堅牢度試験方法)に準拠して乾式乾燥試験、湿式湿潤試験を行い、汚染状態を判定した。
【0022】
実施例1
ポリエチレン40部(海成分)およびポリエチレンテレフタレート60部(島成分)からなる繊度5.5デシテックスの海島型複合繊維を用いて作った平均目付410g/m2の繊維絡合不織布に、ポリカーボネート系ポリウレタンを主体とするポリウレタン組成物14部、ジメチルホルムアミド86部の組成液を含浸し、湿式凝固してポリウレタンを含有した繊維シートを得た。この繊維シートを熱トルエン中で処理して繊維中のポリエチレン成分を溶解除去し、ポリエチレンテレフタレート極細繊維(平均繊度0.02デシテックス)の絡合不織布内部にポリウレタンエラストマーが多孔質構造となって含有された厚さ0.8mm、目付300g/m2の繊維質シートを得た。
この繊維質シートの一面に200メッシュのグラビアロールを使用して、ジメチルホルムアミドとシクロヘキサノンの50対50混合溶剤を18g/m2塗布し、乾燥した。この混合溶剤塗布面を粒度400番のサンドペーパーでバフィングし、表面の繊維を起毛して、ライティング性の良好な極細繊維立毛が形成された立毛シート基体Iaを得た。
ついで、シート基体Iaを10g/LのTRconc20(山陽色素(株)製、前処理剤)浴中90℃で30分間処理したのち、
CT F 1101(染色助剤)owf3%
Emacol Agent E09(染色助剤) owf5%
Emacol CT Black B801(水性顔料)owf0.8%
Emacol CT Yellow B802(水性顔料)owf1.4%
Emacol CT Red B803(水性顔料)owf0.36%
(以上、山陽色素(株)製)、を順次投入し、浴比1:80にて90℃まで昇温し、顔料をシート基体Ia中に染着吸尽せしめた。軽く水洗を施した後、乾燥してベージュに着色されたシートIbとした。
次に、得られた極細繊維立毛シートの立毛表面に、低分子量ポリウレタンの水分散液(ポリエチレングリコール:ヘキサメチレンジイソシアネート:N−メチルジエタノールアミン=1:2:1、数平均分子量5000、固形分濃度20%)50部、アミノ変性シリコーンエマルジョン(固形分濃度20%)30部からなる配合組成物液を、140メッシュのグラビアロールを使用したグラビアコータ−法により塗布(配合組成液の付着量20g/m2、固形分付着量換算4g/m2)し、乾燥して水分を蒸発させた後、ブラシ掛けで整毛し、極細繊維立毛シート製品Icを得た。得られた極細繊維立毛シートは、着色前のシート基体Iaと同等の立毛状態、風合いを維持しており、耐光堅牢度5級、摩擦堅牢度は乾式:4−5級/湿式:4級であり、カーシート、インテリア等の素材として申し分ないものであった。
【0023】
実施例2
実施例1において、シートIbへの配合組成物液のグラビアコータ−法による塗布にかえて、dip−nip法による含浸(固形分濃度5%、pick−up80%)を行い、固形分換算で12g/m2を付着させた、同様の工程を経て極細繊維立毛シート製品IIcを得た。得られた極細繊維立毛シートは、着色前と比べてやや充実感のある風合いとなったが、同等の立毛状態を維持しており、耐光堅牢度5級、摩擦堅牢度は乾式:4級/湿式:4級であり、カーシート、インテリア等の素材として申し分ないものであった。
【0024】
比較例1
実施例1において、シートIaの水性顔料による着色に換えて、分散染料による染色を適用した。シートIcと同系色となる様に分散染料を配合し(3.8owf%)、高圧下130℃の熱水で60分間染色、温水洗浄後、還元処理、酸化処理、中和処理、温水洗浄、乾燥を順次施し、ベージュに着色されたシートIIIbを得た。次にシートIIIbに対して実施例1のシートIbと同様に配合組成物液を塗布、同様の工程により極細繊維立毛シート製品IIIcを得た。得られた極細繊維立毛シートは、着色前と同等の立毛状態、風合いを維持しており、摩擦堅牢度は乾式:4級/湿式:4−5級と良好であったが、耐光堅牢度が2級と劣っていた。
【0025】
比較例2
実施例1において、シートIbへ塗布する配合物組成中の低分子量ポリウレタンとして数平均分子量30000のものを用いる以外は同様の工程により極細繊維立毛シート製品IIIdを得た。得られた極細繊維立毛シートは、耐光堅牢度5級、摩擦堅牢度は乾式:4級/湿式:4級と良好であったが、着色前と比べて配合組成物塗布による繊維の集毛が激しく、ライティングが失われ、表面のタッチもやや硬いものとなった。
【0026】
【発明の効果】
本発明で得られた極細繊維立毛シートは、耐光堅牢性、摩擦堅牢性に優れ、かつ立毛状態の良好なものであり、ソファー等のインテリア用あるいは車両等の内装といった、接触時に毛羽や色落ちがなく長期間にわたって外観の劣化のないことが求められるような製品用途の素材として好適なものである。
Claims (4)
- 0.5デシテックス以下の極細繊維からなる絡合不織布とその内部に充填された高分子弾性体からなり少なくとも片面が起毛された極細繊維立毛シートにおいて、該立毛シートが染着性を有する水性顔料により着色されており、さらに該立毛シートの少なくとも製品において表面側となる起毛された表面に、低分子量ポリウレタンおよびシリコーン樹脂からなる配合物が付与され、該立毛シートのキセノンアークランプ耐光堅牢性評価(ブラックパネル温度=83℃、積算照射照度=20MJ、水スプレー無し)4級以上、摩擦堅牢度が乾式および湿式ともに4級以上を満足することを特徴とする極細繊維立毛シート。
- 低分子量ポリウレタンの数平均分子量が1000以上10000以下である請求項1に記載の極細繊維立毛シート。
- シリコーン樹脂がアミノ変性シリコーンである請求項1または2に記載の極細繊維立毛シート。
- 0.5デシテックス以下の極細繊維からなる絡合不織布とその内部に充填された高分子弾性体からなり、少なくとも片面が起毛された極細繊維立毛シートを染着性を有する水性顔料を用いて着色した後、該極細繊維立毛シートの少なくとも製品において表面側となる起毛された表面に、低分子量ポリウレタンおよびシリコーン樹脂からなる配合物を付与してなる極細繊維立毛シートの製造方法。
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