JP4175049B2 - 重合性液晶組成物及び光学異方体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は重合性液晶組成物、及び、該重合性液晶組成物中の重合性化合物を重合して得られる光学異方体に関する。
【0002】
【従来の技術】
重合性液晶化合物、又は、液晶化合物と混合することで液晶相を示す重合性化合物を含有する重合性液晶組成物は、ネマチック相を保持した状態で重合させると、液晶分子の配向状態を固定化した重合体を作製することができる。この重合体は、屈折率、誘電率、磁化率、弾性率、熱膨張率等の物理的性質の異方性を有していることから、特に光学異方体として応用が検討されている。
【0003】
液晶分子の配向状態を固定化させるための重合方法の1つとして光重合がある。光重合においては、液晶分子の配向に対して外乱要因となる熱を加えることなしに重合反応が進行するので、液晶分子の配向状態を乱すことなく固定化することができる。
しかしながら、該重合性液晶組成物の固相−ネマチック相転移温度(以下、C−N転移温度と略す。)が高い場合は、ネマチック相を保持させるために該重合性液晶組成物を加熱する必要があるが、この加熱によって、光重合を開始する前に部分的な熱重合がおこり、配向乱れの原因となることがある。従って、通常は加熱しなくてもネマチック相を保持できるように、25℃〜40℃の温度範囲でネマチック相を示すように重合性液晶組成物の組成を調整する。
【0004】
一方、液晶分子の配向状態を固定化した重合体を光学異方体に応用する場合には、該重合体には、透明性や耐熱性に優れることが求められている。
特開2000−327632号公報には、C−N転移温度が94℃の式Aで表されるスワローテイル型の重合性液晶化合物に、式Bで表される重合性液晶化合物及び式Cで表される重合性液晶化合物を混合することによって、25℃でネマチック相を示す重合性液晶組成物を調製し、これを25℃以下で重合して、光学異方体が得られると記載されている。
【0005】
【化4】
【0006】
【化5】
【0007】
【化6】
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、式Aで表される化合物と、式Bで表される化合物及び式Cで表される化合物は相溶性が低く、いったん均一に混合したように見えても、短時間内に相分離を起こすといった問題があった。これは、式Aで表される化合物は分子末端にシアノ基を有しており双極子モーメントが大きく、式Bで表される化合物や式Cで表される化合物のような、電子吸引基を持たない双極子モーメントの小さい重合性化合物とは一般に相溶性が低いことや、式Aで表される化合物と、式Bで表される化合物や式Cで表される化合物とは、液晶骨格が大きく異なるため、相溶性が低いことが、理由として考えられる。
式Bで表される化合物及び式Cで表される化合物の配合量を多くした場合には、相溶性は幾分向上する反面、系全体のスワローテイル型化合物の濃度が下がってしまうために、これを重合して得られる光学異方体の透明性が低下するといった問題があった。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、双極子モーメントの小さい液晶化合物との相溶性にも優れるスワローテイル型の重合性化合物を含有する重合性液晶組成物を提供することにあり、且つ、該重合性液晶組成物が液晶相を示す温度範囲内で、該重合性液晶組成物中の重合性化合物を重合させて得られる、透明性に優れた光学異方体を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
分子末端にシアノ基を有するスワローテイル型重合性化合物は双極子モーメントが大きいため、双極子モーメントの小さい重合性化合物と相溶性が低い。本発明者らは、同じスワローテイル型の重合性化合物であるが、分子末端に極性の高いシアノ基ではなく、水素原子、アルキル基又はアルコキシ基を有する一般式(1)で表される重合性化合物が、双極子モーメントの小さい液晶化合物との相溶性に優れると同時に、骨格構造が類似し、分子末端にシアノ基を持ち、双極子モーメントの大きい前記スワローテイル型重合性化合物ともよく相溶することを見いだした。
即ち、一般式(1)で表される重合性化合物を含有する重合性液晶組成物は、成分として双極子モーメントの大きいスワローテイル型重合性化合物を含有していても、C−N転移温度が小さく、双極子モーメントの低い重合性化合物とも相溶し、これを、液晶相を示す温度範囲内で、該重合性液晶組成物中の重合性化合物を重合させて得られた光学異方体は、より透明性に優れる。本発明は、該重合性液晶組成物を提供することで上記課題を解決した。
【0011】
【化7】
【0012】
(式中、R1は、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシ基を表し、A、B及びDは六員環であり、各々独立的にベンゼン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、ヘテロ原子として酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含有するヘテロ環を表す。六員環A、B及びDは、該環上の一つ以上の水素原子が、炭素原子数1〜7のアルキル基、炭素原子数1〜7のアルコキシ基、炭素原子数1〜7のアルカノイル基、又はハロゲン原子で置換されていても良い。Y1及びY2は、各々独立的に、単結合、−CH2CH2−、−CH2O−、−OCH2−、−CO−O−、−OCO−、−C≡C−、−CH=CH−、−CF=CF−、−(CH2)4−、−CH2CH2CH2O−、−OCH2CH2CH2−、−CH=CH−CH2CH2−、−CH2CH2−CH=CH−、−CH=CH−CO−O−及び−OCO−CH=CH−からなる群から選ばれる連結基を表わす。X1及びX2は、各々独立的に単結合、−O−、−CO−O−、又は−OCO−を表し、S1及びS2は、各々独立的に−CmH2m−、又は−(CmH2m−O)n−CmH2m−を表わす(ここで、mは1〜20の整数を表し、nは1〜10の整数を表す。)。L1及びL2は、各々独立的に水素原子又はメチル基を表す。)
【0013】
【発明の実施の形態】
前記一般式(1)において、六員環A、六員環B、及び六員環Dのうち、ヘテロ環としては、例えば、ピラン環、ジオキサン環、ピリジン環、ピラゾン環、ピリミジン環、ピリダジン環等があげられる。
前記六員環A、六員環B、及び六員環Dとして、ベンゼン環、ピリジン環、ピリミジン環等の、液晶分子の長軸方向に共役するような環を選択すれば、複屈折率の大きな重合性化合物が得られ、シクロヘキサン環、ジオキサン環、ピラン環等の、液晶分子の長軸方向に共役しない環を選択すれば、複屈折率の小さな重合性化合物が得られる。
【0014】
前記一般式(1)において、Y1及びY2に、単結合、−CO−O−、−OCO−、−C≡C−、−CH=CH−、−CF=CF−等の、液晶分子の長軸方向に共役するような構造を選択すれば、複屈折率の大きな重合性化合物を得ることができ、−CH2CH2−、−CH2O−、−OCH2−、−(CH2)4−、−CH2CH2CH2O−、−OCH2CH2CH2−等の、液晶分子の長軸方向に共役しない構造を選択すれば、複屈折率の小さな重合性化合物が得られる。
【0015】
前記一般式(1)において、S1及びS2は、液晶骨格と(メタ)アクリロイルオキシ基とを隔てるスペーサーとしての役割を持つ。具体的には、例えば、メチレン基、プロピレン基、ヘキサメチレン基、あるいはこれらの基がエーテル結合によって連結された基があげられる。中でも、mが2〜15であることが好ましく、mが3〜11であることが特に好ましい。
【0016】
前記一般式(1)で表される重合性化合物としては、具体的には下記一般式(ア)〜(ウ)の化合物が挙げられる。
【0017】
【化8】
【0018】
【化9】
【0019】
【化10】
【0020】
(式(ア)〜(ウ)において、Rは炭素数1〜20のアルキル基又はアルコキシ基を表し、sは1〜20の整数を表し、Lは水素原子又はメチル基を表す)。
【0021】
前記一般式(1)で表される重合性化合物は、液晶化合物の技術分野で公知の合成方法を適用して合成することができる。合成例としては、ワイリー社刊のハンドブックオブリキッドクリスタルズ(Handboook of liquid crystals)全4巻中の第1巻の第4章や、第2巻の第3〜5章に記載されているような一般的な合成方法を適用できる。
【0022】
例えば、式(ア)で表される化合物は、次のようにして合成することができる。即ち、3,4−ジヒドロキシ安息香酸をハロゲン化アルコールでエーテル化した後、アクリル酸やメタクリル酸と脱水縮合反応させることによって、式(エ)で表される化合物を得る。さらに該式(エ)で表される化合物と、4−ヒドロキシビフェニルとを脱水縮合反応させて、式(ア)で表される化合物が得られる。
【0023】
【化11】
【0024】
(式中、sは1〜20の整数を表し、Lは水素原子又はメチル基を表す。)
【0025】
また、式(イ)で表される化合物は、次のようにして合成することができる。即ち、1−ヨード−3,4−ジメトキシベンゼンとフェニルグリニアール試薬とを反応させてビフェニル誘導体を得、これに塩化アセチルを反応させる。アルカリで加水分解後、メトキシ基のメチル基を臭化水素酸で切断して式(オ)で表される化合物を得る。次に、式(オ)で表される化合物をハロゲン化アルコールでエーテル化した後、アクリル酸やメタクリル酸と脱水縮合反応させ、最後に4−アルキルフェノールや4−アルコキシフェノールを脱水縮合反応させて、式(イ)で表される化合物が得られる。
【0026】
【化12】
【0027】
また、式(ウ)で表される化合物は、次のようにして合成することができる。即ち、前記式(エ)で表される化合物と4−(トランス−4−アルキルシクロヘキシル)フェノールや4−(トランス−4−アルコキシシクロヘキシル)フェノールを脱水縮合反応させて得られる。
【0028】
前記一般式(1)で表される重合性化合物は、シアノ基等の極性基を持たないことから双極子モーメントが小さく、重合性液晶組成物に配合することによって、系全体の極性を低く抑えることができる。この結果、前記一般式(1)で表される重合性化合物を配合した本発明の重合性液晶組成物は、C−N転移温度を下げる効果のある双極子モーメントの小さい液晶化合物との相溶性がよい。
また、前記一般式(1)で表される重合性化合物は、スワローテイル骨格を有している。仮に、本発明の重合性液晶組成物に、分子末端にシアノ基等の極性基を有するスワローテイル型の重合性液晶化合物を添加しても、前記一般式(1)で表される重合性化合物が類似した分子構造を持つため、相分離しにくい。
【0029】
本発明の重合性液晶組成物は、前記一般式(1)で表される重合性化合物以外に、公知慣用の重合性液晶化合物、又は、公知慣用の液晶化合物と混合することによって液晶相を示す重合性化合物を適宜配合させることができる。中でも、一般式(1)で表される重合性化合物に構造が類似した、スワローテイル型の重合性化合物を配合すると、重合して得られる光学異方体の透明性が向上する効果が見られる。特に、一般式(2)で表されるスワローテイル型の重合性化合物を使用する場合にその効果が大きい。
【0030】
【化13】
【0031】
前記一般式(2)において、L3、L4、及びL5は各々独立的に水素原子又はメチル基を表す。S3、S4、及びS5は、各々独立的に−CmH2m−、又は−(CmH2m−O)n−CmH2m−を表わす(ここで、mは1〜20の整数を表し、nは1〜10の整数を表す。)。X3、X4、及びX5は各々独立的に、単結合、−O−、−CO−O−、又は−OCO−を表す。E、G及びJは六員環であり、各々独立的にベンゼン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、ヘテロ原子として酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含有するヘテロ環を表す。六員環E、G及びJは、該環上の一つ以上の水素原子が、炭素原子数1〜7のアルキル基、炭素原子数1〜7のアルコキシ基、炭素原子数1〜7のアルカノイル基、又はハロゲン原子で置換されていても良い。Y3及びY4は、各々独立的に、単結合、−CH2CH2−、−CH2O−、−OCH2− 、−CO−O−、−OCO−、−C≡C−、−CH=CH−、−CF=CF−、−(CH2)4−、−CH2CH2CH2O− 、 −OCH2CH2CH2−、−CH=CH−CH2CH2−、−CH2CH2−CH=CH−、−CH=CH−CO−O−、及び−OCO−CH=CH−からなる群から選ばれる連結基を表わす。
【0032】
前記一般式(2)で表される重合性化合物としては、具体的には、特開2000−178233号公報に開示されている化合物を挙げることができ、例えば下記式(カ)〜(ク)の化合物が挙げられる。
【0033】
【化14】
【0034】
【化15】
【0035】
【化16】
【0036】
(式(カ)〜(ク)において、s及びtは1〜20の整数を表し、L1及びL2は水素原子又はメチル基を表す。)
【0037】
例えば、式(カ)で表される化合物は、次のようにして合成することができる。即ち、4,4’−ビフェノールをハロゲン化アルコールでエーテル化した後、アクリル酸やメタクリル酸を脱水縮合反応させることによって式(ケ)で表される化合物を得る。さらに式(ケ)で表される化合物と、前記式(エ)で表される化合物とを脱水縮合反応させて、式(カ)で表される化合物が得られる。
【0038】
【化17】
【0039】
(式中、tは1〜20の整数を表し、L2は水素原子又はメチル基を表す。)
【0040】
また、式(キ)で表される化合物は、次のようにして合成することができる。即ち、カフェイン酸のメチルエステルをハロゲン化アルコールでエーテル化した後、アルカリ水溶液で脱エステル化し、次にアクリル酸やメタクリル酸を脱水縮合反応させることによって式(コ)で表される化合物を得る。式(コ)で表される化合物と、前記式(ケ)で表される化合物とを脱水縮合反応させて、式(キ)で表される化合物が得られる。
【0041】
【化18】
【0042】
また、式(ク)で表される化合物は、次のようにして合成することができる。即ち、前記式(オ)で表される化合物をハロゲン化アルコールでエーテル化した後、アクリル酸やメタクリル酸を脱水縮合反応させることによって式(サ)で表される化合物を合成する。一方、ヒドロキノンをハロゲン化アルコールでエーテル化した後、アクリル酸やメタクリル酸を脱水縮合反応させることによって式(シ)で表される化合物を合成する。式(サ)で表される化合物及び式(シ)で表される化合物とを脱水縮合させて、式(ク)で表される化合物が得られる。
【0043】
【化19】
【0044】
【化20】
【0045】
(式(サ)、(シ)において、s及びtは1〜20の整数を表し、L1及びL2は水素原子又はメチル基を表す。)
【0046】
一般式(2)で表される重合性化合物は、本発明の重合性液晶組成物中の一般式(1)で表される重合性化合物との比率が、(1)で表される化合物:(2)で表される化合物=7:3〜1:9となるように配合することで、より透明性に優れた光学異方体が得られる。
【0047】
40℃以上のC−I転移温度を示す本発明の重合性液晶組成物に、一般式(3)で表される重合性化合物を、本発明の重合性液晶組成物の40〜80質量%を占めるように配合すると、C−I転移温度を25℃付近まで下げることができる。本発明の重合性液晶組成物は、一般式(3)で表されるような双極子モーメントの小さい重合性化合物を配合しても、長時間相分離することがない。
【0048】
【化21】
【0049】
前記一般式(3)において、L6は水素原子又はメチル基を表す。K、M及びNは六員環であり、各々独立的にベンゼン環、シクロヘキサン環又はシクロヘキセン環を表す。Y5及びY6は、各々独立的に、単結合、−CH2CH2−、−CH2O−、−OCH2− 、−CO−O−、−OCO−、−C≡C−、−CH=CH−、−CF=CF−、−(CH2)4−、−CH2CH2CH2O− 、−OCH2CH2CH2−、−CH=CH−CH2CH2−、−CH2CH2−CH=CH−、−CH=CH−CO−O−及び−OCO−CH=CH−からなる群から選ばれる連結基を表わし、rは0又は1の整数を表す。Y7は、単結合、−O−、−CO−O−、又は−OCO−を表し、Z1は、Y7が単結合の場合に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、又は炭素数2〜20のアルケニル基を表し、Y7が−O−、−CO−O−、又は−OCO−の場合に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、又は炭素数2〜20のアルケニル基を表す。
【0050】
前記一般式(3)で表される重合性液晶化合物としては、具体的には、式(ス)〜(タ)で表される化合物があげられる。中でも、式(ス)で表される化合物と式(セ)で表される化合物を併用することが好ましく、式(ス)で表される化合物と式(セ)で表される化合物との比が、75:25〜25:75であるとなお好ましい。中でも、式(ス)で表される化合物と式(セ)で表される化合物との比が、40:60〜60:40であることが好ましい。この範囲において、25℃でネマチック相を示し、長時間相分離することのない重合性液晶組成物が得られる。
【0051】
【化22】
【0052】
【化23】
【0053】
【化24】
【0054】
【化25】
【0055】
一般式(1)で表される重合性化合物、一般式(2)で表される重合性化合物、及び一般式(3)で表される重合性化合物を併用すると、25℃でネマチック相を示し、長時間相分離しない重合性液晶組成物が得られる。また、該重合性液晶組成物が液晶相を示す温度範囲内で、該重合性液晶組成物中の重合性化合物を重合させて得られる重合体は特に透明性に優れる。具体的には、一般式(1)で表される重合性化合物が4質量%〜20質量%、一般式(2)で表される重合性化合物が15質量%〜36質量%、及び一般式(3)で表される重合性化合物が60質量%〜70質量%で併用すると、特に好ましい。
【0056】
その他、本発明の重合性液晶組成物に配合することのできる、公知慣用の重合性化合物としては、下記構造の化合物が挙げられる。
【0057】
【化26】
【0058】
【化27】
【0059】
(式中、Lは水素原子又はメチル基を、n及びmは各々独立して1〜20の整数を表す)
【0060】
本発明の重合性液晶組成物には、重合性官能基を有していない液晶化合物を必要に応じて添加することもできる。しかし、添加量が多すぎると、得られる重合体の耐熱性が劣る傾向にあるので、添加する場合は、本発明の重合性液晶組成物に対して80質量%以下とすることが好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましい。
【0061】
本発明の重合性液晶組成物には、重合性官能基を有する液晶性骨格を持たない化合物を添加することもできる。このような化合物としては、通常、この技術分野で重合性モノマーあるいは重合性オリゴマーとして認識されるものであれば特に制限なく使用することができる。添加する場合は、本発明の重合性液晶組成物に対して、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下が更に好ましい。
【0062】
本発明の重合性液晶組成物には、光学活性を有する化合物、すなわちキラル化合物を添加してもよい。該キラル化合物は、それ自体が液晶相を示す必要は無く、また、重合性官能基を有していても、有していなくても良い。また、キラル化合物の螺旋の向きは、重合体の使用用途によって適宜選択することができる。
具体的には、例えば、キラル基としてコレステリル基を有するペラルゴン酸コレステロール、ステアリン酸コレステロール、キラル基として2−メチルブチル基を有するビーディーエイチ社製の「CB−15」、「C−15」、メルク社製の「S−1082」、チッソ社製の「CM−19」、「CM−20」、「CM」、キラル基として1−メチルヘプチル基を有するメルク社製の「S−811」、チッソ社製の「CM−21」、「CM−22」などを挙げることができる。
キラル化合物を添加する場合は、該重合性液晶組成物の用途によるが、得られる重合体の厚み(d)を重合体中での螺旋ピッチ(P)で除した値(d/P)が0.1〜100の範囲となる量を添加することが好ましく、0.1〜20の範囲となる量がさらに好ましい。
【0063】
本発明の重合性液晶組成物には、熱重合開始剤、光重合開始剤等の重合開始剤を添加することもできる。熱重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。また、光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインエーテル類、ベンゾフェノン類、アセトフェノン類、ベンジルケタール類等が挙げられる。添加する場合は、該重合性液晶組成物に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下が特に好ましく、0.5〜1.5質量%の範囲が更に好ましい。
【0064】
本発明の重合性液晶組成物には、その保存安定性を向上させるために、安定剤を添加することもできる。安定剤としては、例えば、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノアルキルエーテル類、第三ブチルカテコール類、ピロガロール類、チオフェノール類、ニトロ化合物類、β−ナフチルアミン類、β−ナフトール類等が挙げられる。添加する場合は、該重合性液晶組成物に対して、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下が特に好ましい。
【0065】
本発明の重合性液晶組成物を偏光フィルムや配向膜の原料、又は印刷インキ及び塗料、保護膜等の用途に利用する場合には、その目的に応じて、金属、金属錯体、染料、顔料、色素、蛍光材料、燐光材料、界面活性剤、レベリング剤、チキソ剤、ゲル化剤、多糖、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、抗酸化剤、イオン交換樹脂、酸化チタン等の金属酸化物、などを添加してもよい。
【0066】
本発明の重合性液晶組成物が液晶相を示す温度範囲内で、該重合性液晶組成物中の重合性化合物を重合させることで、本発明の光学異方体が得られる。具体的には、本発明の重合性液晶組成物を、配向機能を付与した基板上に塗布するか、又は二枚の基板間に挟持させた後、該重合性液晶組成物中の液晶分子をネマチック相を保持した状態で均一に配向させ、重合させることによって、本発明の光学異方体が得られる。
【0067】
前記基板は、有機、無機を問わず、公知慣用の材質の基板を使用することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート板、ポリカーボネート板、ポリイミド板、ポリアミド板、ポリメタクリル酸メチル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニル板、ポリテトラフルオロエチレン板、セルロース板、シリコン板、ガラス板、方解石板等が挙げられる。基板の形状としては、平板の他、曲面を有するものであっても良い。これらの基板は、必要に応じて、電極層を有していてもよい。
【0068】
前記基板に液晶分子の配向機能を付与する方法としては特に限定はなく、公知慣用の方法が挙げられる。具体的には、布等で基板表面をラビング処理する方法、ポリイミド薄膜又はポリビニルアルコール薄膜等の有機薄膜を基板表面に形成し、これを布等でラビング処理する方法、基板にSiO2を斜方蒸着して配向膜を形成する方法、分子内に光二量化反応する官能基を有する有機薄膜や光で異性化する官能基を有する有機薄膜に、偏光した光を照射することによって、配向膜を形成する光配向法等を挙げることができる。特に、通常のツイステッド・ネマチック素子又はスーパー・ツイステッド・ネマチック素子で使用されているプレチルト角を与えるポリイミド薄膜を使用すると、液晶分子の配向状態の制御を容易にすることができ、特に好ましい。
【0069】
本発明の重合性液晶組成物を基板上に塗布する場合は、スピンコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、スプレーコーティング、ディッピング法等の公知慣用のコーティング法を利用すればよい。このとき、塗工性を高めるために、該重合性液晶組成物に公知慣用の有機溶媒を添加しても良い。この場合は、該重合性液晶組成物を基板上に塗布後、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥、減圧加熱乾燥等で有機溶媒を除去する。本発明の重合性液晶組成物を基板間に挟持させる場合は、毛細管現象あるいは真空注入法を利用した注入法等を利用すればよい。
【0070】
本発明の重合性液晶組成物を重合させる方法としては、活性エネルギー線を照射する方法や熱重合法等が挙げられるが、加熱を必要とせず、室温で反応が進行することから活性エネルギー線を照射する方法が好ましく、中でも、操作が簡便なことから、紫外線等の光を照射する方法が好ましい。紫外線強度は、0.1mW/cm2〜2W/cm2の範囲が好ましい。紫外線強度が0.1mW/cm2未満の場合、重合を完了させるのに多大な時間がかかり、一方、2W/cm2を超える強度では、重合性液晶組成物中の液晶分子が劣化する傾向にある。照射時の温度は、本発明の重合性液晶組成物が液晶相を保持できる温度とし、重合性液晶組成物の熱重合の誘起を避けるため、可能な限り25℃以下とすることが好ましい。尚、液晶組成物は、通常、昇温過程において、C−N転移温度から、N(ネマチック相)−I(等方性液体相)転移温度(以下、N−I転移温度と略す。)範囲内で液晶相を示す。一方、降温過程においては、熱力学的に非平衡状態を取るため、C−N転移温度以下でも凝固せず液晶状態を保つ場合がある。この状態を過冷却状態という。本発明においては、過冷却状態にある液晶組成物も液晶相を保持している状態に含めるものとする。
また、本発明の重合性液晶組成物を二枚の基板間に挟持させた状態で重合させる場合は、光照射面側の基板として、透明性を有する基板を使用する。
【0071】
マスクを使用して特定の部分のみを紫外線照射で重合させた後、該未重合部分の配向状態を、電場、磁場又は温度等をかけて変化させ、その後該未重合部分を重合させることで、異なる配向方向を複数有する光学異方体を得ることもできる。
【0072】
本発明の重合性液晶組成物を重合させて得られる重合体は、基板から剥離して単体で光学異方体として使用することも、基板から剥離せずにそのまま光学異方体として使用することもできる。剥離した場合は、それらを積層することも、他の基板に貼り合わせて使用することもできる。
【0073】
本発明の重合性液晶組成物は、双極子モーメントの小さい液晶化合物を添加して25℃でネマチック相を示すように調製し、加温せずに重合させることができる。双極子モーメントの小さい液晶化合物の配合量を増やさなくとも、25℃で長時間安定にネマチック相を示すように重合性液晶組成物を調製できるので、重合性液晶組成物中のスワローテイル骨格の濃度は下がらない。そのため、得られた光学異方体は異方性及び透明性に優れる。
本発明の光学異方体は、光学補償板、光学的ローパスフィルタ、又は偏光プリズム材料としては勿論のこと、位相差板、偏光板、光導波路、圧電素子、非線形光学素子、各種光フィルター、コレステリック液晶相等の選択反射を利用した顔料、光ファイバー等の被覆剤等への応用が可能である。
【0074】
【実施例】
以下、実施例及び比較例によって、本発明を具体的に説明する。
【0075】
[評価項目]
重合性液晶組成物のC−N転移温度、及びN−I転移温度は、偏光顕微鏡観察及び示差走査熱量測定により決定した。
相溶性は、相溶後の安定性で評価し、重合性液晶組成物を封入したサンプル瓶を25℃に放置し、相分離や結晶の析出が見られるか否かを目視にて観察し、その時間を測定した。
透明度は、JIS K−7136に準拠し、ヘーズ値で表した。ヘーズ値の小さいものほど透明度に優れることを表す。
リタデーション値は、ヘリウム−ネオンレーザー(He−Ne LASER)とフォトエラスティックモジュレーター(Photo Elastic Modulator)を使用した偏光解析装置により測定した。値が高いものほどリタデーションに優れることを表す。
【0076】
<合成例1>
3,4−ジヒドロキシ安息香酸10g、6−ブロモ−1−ヘキサノール26g、水酸化ナトリウム8.2g、ヨウ化カリウム1g、エタノール45ml及び水45mlからなる混合物を、80℃で8時間攪拌した。室温まで冷却した後、反応液に飽和食塩水500mlを加え、反応液の水層が弱酸性になるまで希塩酸を加えた。この反応溶液に酢酸エチル300mlを加えて反応生成物を抽出した。有機層を水洗した後、抽出溶媒を減圧留去し、さらに風乾させて、下記式で表わされる化合物(a)23.5gを得た。
【0077】
【化28】
【0078】
得られた化合物(a)23.5g、アクリル酸30g、p−トルエンスルホン酸5g、ヒドロキノン1g、トルエン100ml、n−ヘキサン60ml及びテトラヒドロフラン40mlからなる混合物を加熱撹拌し、生成してくる水を留去しながら6時間還流させた。室温まで冷却した後、反応液に飽和食塩水500ml及び酢酸エチル300mlを加えて反応生成物を抽出した。有機層を水洗した後、有機溶媒を減圧留去して粗生成物40.1gを得た。次に、この粗生成物を、n−ヘキサン100mlとトルエン20mlの混合溶媒からの再結晶を2回行い、下記式で表わされる化合物(b)8.0gを得た。
【0079】
【化29】
【0080】
4−ヒドロキシビフェニル7.1g、式(b)で表わされる化合物16.1g及び塩化メチレン300mlの溶液に1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩8.9g及び4−ジメチルアミノピリジン2.3gを加えて、室温で約48時間攪拌した。薄層クロマトグラフィー(展開層;シリカゲル、展開溶媒;トルエンと酢酸エチルが4:1の混合溶媒)によって反応が終了したことを確認した後、飽和食塩水200mlで2回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水し、減圧下溶媒留去した後、粗生成物をカラムクロマトグラフィー(展開層;シリカゲル、展開溶媒;トルエンと酢酸エチルが3:1の混合溶媒)で分離して下記式で表わされる重合性化合物(c)10.5gを得た。得られた重合性化合物(c)の固相−等方相転移温度(以下、C−I転移温度と略す)は80℃であり、単独では液晶相を示さない重合性化合物であった。
【0081】
【化30】
【0082】
<合成例2>
4−(4−プロピルシクロヘキシル)−フェノール9.1g、式(b)で表わされる化合物16.1g及び塩化メチレン300mlの溶液に、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩8.9g及び4−ジメチルアミノピリジン2.3gを加え、室温で約48時間攪拌した。薄層クロマトグラフィー(展開層;シリカゲル、展開溶媒;トルエンと酢酸エチルが4:1の混合溶媒)によって反応が終了したことを確認した後、飽和食塩水200mlで2回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水し、減圧下溶媒留去した後、粗生成物をカラムクロマトグラフィー(展開層;シリカゲル、展開溶媒;トルエンと酢酸エチルが4:1の混合溶媒)で分離して下記式で表わされる重合性化合物(d)11.5gを得た。
得られた重合性化合物(d)は、昇温時に、C−I転移温度47℃を示し、降温時に、等方相−ネマチック相転移温度(以下、I−N相転移温度と略す)28℃、ネマチック相−等方相転移温度(以下、N−C転移温度と略す)−10℃を示す、モノトロピック液晶相を示す重合性化合物であった。
【0083】
【化31】
【0084】
<調製例>
スワローテイル型の重合性化合物としては、前記合成例1及び2で得た式(c)及び(d)で表される重合性化合物、及び式(e)で表される重合性化合物を使用した。電子吸引基を持たない双極子モーメントの小さい液晶組成物としては、式(f)の重合性化合物50質量部と式(g)の重合性化合物50質量部とからなる重合性液晶組成物(A)を調製した。
【0085】
【化32】
【0086】
【化33】
【0087】
【化34】
【0088】
[実施例1]
式(c)で表される重合性化合物30質量部及び重合性液晶組成物(A)70質量部からなる重合性液晶組成物(B)を調製した。重合性液晶組成物(B)は、C−N転移温度は25℃であり、N−I転移温度は45℃であった。重合性液晶組成物(B)は、室温で1ヶ月間静置しても相分離することがなく、相溶性に優れていた。
【0089】
[実施例2]
式(d)で表される重合性化合物30質量部及び重合性液晶組成物(A)70質量部からなる重合性液晶組成物(C)を調製した。重合性液晶組成物(C)は、C−N転移温度は−30℃であり、N−I転移温度は47℃であった。重合性液晶組成物(C)は、室温で4ヶ月間静置しても相分離することがなく、相溶性に優れていた。
【0090】
[実施例3]
式(d)で表される重合性化合物15質量部、式(e)で表される重合性化合物15質量部及び重合性液晶組成物(A)70質量部からなる重合性液晶組成物(D)を調製した。重合性液晶組成物(D)は、C−N転移温度は11℃であり、N−I転移温度は47℃であった。重合性液晶組成物(D)は、室温で1ヶ月間静置しても相分離することがなく、相溶性に優れていた。
【0091】
[比較例1]
下記式で表される重合性化合物(h)30質量部、及び重合性液晶組成物(A)70質量部からなる重合性液晶組成物(E)を調製した。重合性液晶組成物(E)は、C−N転移温度は41℃であり、N−I転移温度は64℃であった。重合性液晶組成物(D)は、冷却過程で25℃に於いて過冷却によるネマチック相を呈したが、室温で約2時間静置したところ、相分離してしまった。
【0092】
【化35】
【0093】
[実施例4]
実施例2で調製した重合性液晶組成物(C)99質量部、チバガイギー社製の光重合開始剤「イルガキュアー907」1質量部からなる重合性液晶組成物(F)を調製した。液晶分子を一軸配向するよう配向処理を施した、セルギャップ50μmのガラスセル「アンチパラレル配向液晶ガラスセル」に、重合性液晶組成物(F)を25℃で注入した。注入後、1分以内に配向が安定し、均一な一軸配向が得られているのが確認できた。次に、目白プレシジョン製の超高圧水銀灯750Wを使用し、波長366nm、140W/m2の紫外線を200秒間照射して、重合性液晶組成物(F)を重合させ、光学異方体を得た。ガラスセルにいれたままの光学異方体の平行光透過率は86.5%で、ヘーズ値は1.9%、リタデーション値は2.9μmであった。
【0094】
[実施例5]光学異方体製造例
実施例3で調製した重合性液晶組成物(D)99質量部、光重合開始剤「イルガキュアー907」1質量部からなる重合性液晶組成物(G)を調製した他は、実施例4と同様にして光学異方体を得た。ガラスセルにいれたままの光学異方体の平行光透過率は88.8%で、ヘーズ値は1.4%、リタデーション値は3.1μmであった。
【0095】
[比較例2]光学異方体作製例
比較例1で調製した重合性液晶組成物(E)99質量部、光重合開始剤「イルガキュアー907」1質量部からなる重合性液晶組成物(H)を調製した他は、実施例5と同様にして光学異方体を得た。ガラスセルにいれたままの光学異方体の平行光透過率は83.4%で、ヘーズは4.7%であった。リタデーション値は2.7ミクロンであった。
【0096】
この結果、実施例1、2で得た重合性液晶組成物は、比較例1で得た重合性液晶組成物と比較し、相溶性に優れていた。また、実施例4、5で得た光学異方体は、比較例2で得た光学異方体と比較し、更に透明性及びリタデーションに優れていた。
【0097】
【発明の効果】
本発明の重合性液晶組成物は、分子末端に水素原子、アルキル基、又はアルコキシ基を有する一般式(1)で表される重合性化合物を含有する。該重合性化合物は、シアノ基等の極性基を持たないことから双極子モーメントが小さく、重合性液晶組成物に配合することによって、系全体の極性を低く抑えることができる。
この結果、前記一般式(1)で表される重合性化合物を配合した本発明の重合性液晶組成物は、前記一般式(3)で表される重合性化合物のような、C−N転移温度を下げる効果のある双極子モーメントの小さい液晶化合物と相溶性がよく、混合しても長時間安定に液晶相を示す。また、仮に、本発明の重合性液晶組成物に、シアノ基等を有するような双極子モーメントの大きい化合物を配合しても、系全体の極性が極端にあがることもない。前記一般式(1)で表される重合性化合物は、スワローテイル骨格を有するので、骨格の類似している、分子末端にシアノ基等の極性基を有するスワローテイル型の重合性液晶化合物との相溶性に優れる。
本発明の重合性液晶組成物は、双極子モーメントの小さいスワローテール型ではない液晶化合物の配合量を少なくしても、25℃で長時間安定にネマチック相を示すように重合性液晶組成物を調製できるので、重合性液晶組成物中のスワローテイル型の液晶化合物の濃度を高くすることができる。そのため、異方性及び透明性に優れた光学異方体を得ることができる。特に、前記一般式(2)で表される重合性化合物を配合すると、より透明性に優れた光学異方体を得ることができる。
Claims (4)
- 一般式(1)で表される重合性化合物を含有することを特徴とする重合性液晶組成物。
- 一般式(2)で表される重合性化合物を含有する請求項1に記載の重合性液晶組成物。
- 一般式(3)で表される重合性化合物を含有する請求項1に記載の重合性液晶組成物。
- 請求項1に記載の重合性液晶組成物が液晶相を示す温度範囲内で、該重合性液晶組成物中の重合性化合物を重合させて得られる光学異方体。
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