JP4171244B2 - 磁性セラミック焼結体及びその製造方法 - Google Patents

磁性セラミック焼結体及びその製造方法 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、携帯電話などの移動体通信端末等に用いられる高周波回路用積層セラミック基板に用いることができる磁性セラミック焼結体及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年普及している携帯電話などの移動体通信機器及び携帯通信端末においては、その小型化への要求から、使用される高周波回路部品の小型化及び高性能化が求められている。
【0003】
高周波回路部品においては、プリント基板にコンデンサやインダクタを表面実装した従来の回路基板に代わるものとして、積層セラミック基板が検討されている。この積層セラミック基板においては、誘電体セラミック基板にコンデンサのパターン配線を形成し、磁性体セラミック基板にインダクタのパターン配線を形成し、これらの基板を積層することにより、小型化が図られている。
【0004】
図6は、このような積層セラミック基板の一例を示す斜視図であり、図7は、分解斜視図である。図6及び図7に示すように、積層セラミック基板は、複数のセラミック基板3及び4を積層することにより構成されている。各セラミック基板3及び4の表面には、インダクタやコンデンサを構成する複数の配線パターン11がスクリーン印刷法等により形成されている。
【0005】
セラミック基板3が磁性セラミック基板であり、セラミック基板4が誘電体セラミック基板である場合、インダクタを構成する配線パターン11は磁性セラミック基板3の上に形成され、コンデンサを構成する配線パターン11は誘電体セラミック基板4の上に形成される。基板間の配線パターン11は、バイアホール12により接続される。
【0006】
これらのセラミック基板3及び4は、積層した後、高温で焼成することにより、一体化され、積層セラミック基板とすることができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
配線パターン11を、導電率の高いAg等で形成する場合、900℃程度の低温で焼成する必要がある。高温で焼成すると、Ag等の配線パターンの形状が崩れてしまい、所望の回路を各基板上に形成することができない。
【0008】
しかしながら、従来のフェライト等の磁性セラミック材料の焼成温度は1300℃以上であり、900℃程度の低温で焼成した場合には、良好な磁気特性を得ることができないという問題があった。
【0009】
本発明の目的は、低温焼成で製造することができ、かつ良好な磁気特性を示す磁性セラミック焼結体及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の磁性セラミック焼結体は、BaCoFe2441の組成を有する六方晶系フェライトからなる磁性セラミック材料の粉末とCaCl2からなる添加剤のみを混合した後、これを950℃以下で焼成することにより得られるものであって、前記添加剤の添加量が、前記磁性セラミック材料の粉末と前記添加剤との合計重量に対して25重量%以下である。
【0011】
本発明において、添加剤が混合される、磁性セラミック材料の粉末は、磁性セラミック材料の原料粉末を混合して得られる粉末を用いることが好ましく、さらに好ましくは原料粉末を混合した混合粉末を仮焼成して得られる粉末が用いられる。
【0012】
磁性セラミック材料の原料粉末としては、磁性セラミック材料を構成する金属元素を含む化合物が挙げられ、具体的には構成金属元素のそれぞれの酸化物などが挙げられる。磁性セラミック材料の原料粉末の混合は、好ましくはボールミルなどの粉砕機中で原料粉末を粉砕しながら混合する方法が採用される。また好ましくは、粒径が1μm以下となるように粉砕しながら混合される。
【0013】
本発明における添加剤は、このような混合粉末に添加してもよいが、上述のように好ましくは、このような混合粉末を仮焼成した後添加される。仮焼成は、混合粉末を加熱処理して結晶化するために行われる焼成である。仮焼成後、再度粉砕した粉末に対して添加剤を添加することが好ましい。
【0014】
本発明においては、磁性セラミック材料の粉末に添加剤を混合した後、混合粉末を基板状に成形し、この成形体を焼成することが好ましい。また、誘電体セラミック基板等との積層セラミック基板を製造する場合には、この成形体を、誘電体セラミック材料などの他のセラミック材料からなる成形体と積層した後、この積層体を焼成することが好ましい。なお、基板状の成形体には、積層前に、配線パターンやバイアホールを形成しておくことが好ましい。
【0015】
本発明において用いられる添加剤は、周期律表Ia族元素またはIIa族元素とVIIb族元素との化合物からなる。Ia族元素としては、Li、Na、K、Rb、Cs、及びFrなどが挙げられ、特に好ましくはK及びNaが挙げられる。IIa族元素としては、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、及びRaなどが挙げられ、特に好ましくはCa、Ba、及びSrが挙げられる。VIIb族元素としては、F、Cl、Br、I、及びAtなどが挙げられ、特に好ましくはF、Cl、Br、及びIが挙げられる。本発明における添加剤は、このようなIa族元素またはIIa族元素と、VIIb族元素との組み合わせからなる化合物を用いることができる。
【0016】
また、本発明で用いる添加剤の融点は、900℃以下であることが好ましい。融点が900℃以下である添加剤の具体例としては、CaCl2(融点772℃)、KF(融点830℃)、KI(融点723℃)、NaCl(融点800℃)、NaI(融点651℃)、SrBr2(融点643℃)、SrCl2(融点873℃)、BaBr2(融点847℃)、及びBaI2(融点740℃)などが挙げられる。これらの中でも、CaCl2が特に好ましく用いられる。
【0017】
本発明において、添加剤の添加量は、磁性セラミック材料の粉末と添加剤との合計重量に対して25重量%以下であることが好ましい。すなわち、磁性セラミック材料の粉末100重量部に対し、33.3重量部以下であることが好ましい。添加剤の添加量が25重量%を超えると、相対的に磁性セラミック材料の割合が減少するので、磁気特性が低下する傾向にある。添加剤のさらに好ましい添加量は、0.05〜25重量%であり、さらに好ましくは0.05〜1重量%である。添加剤の添加量が少なすぎると、低温焼成で、良好な磁気特性が得られるという本発明の効果が十分に得られない場合がある。
【0018】
本発明においては、上記添加剤とともに、金属酸化物からなる第2の添加剤を磁性セラミック材料の粉末に添加し混合した後、これを焼成してもよい。第2の添加剤としては、Bi、Si、B、Al、及びSrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物が挙げられる。具体的には、Bi23、SiO2、B23、Al23、及びSrOなどの金属酸化物が挙げられる。第2の添加剤を添加することにより、焼成の際の焼結収縮を促進させることができる。
【0019】
第2の添加剤の添加量としては、磁性セラミック材料の粉末と添加剤との合計重量に対して、0.1〜10重量%であることが好ましい。すなわち、磁性セラミック材料の粉末100重量部に対して、約0.1〜11.1重量部添加することが好ましい。
【0020】
本発明における磁性セラミック材料は、特に限定されるものではないが、高周波回路基板に本発明の磁性セラミック焼結体を用いる場合、Ba、Sr、及びCaのうちの少なくとも1種類の元素を含む六方晶系フェライトであることが好ましい。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、Mn−Znフェライト、Ni−Znフェライト、Ni−Cu−Zn系フェライトなどを磁性セラミック材料として用いてもよい。
【0021】
本発明の製造方法は、上記本発明の磁性セラミック焼結体を製造することができる方法であり、磁性セラミック材料の粉末に、周期律表のIa族元素またはIIa族元素と、VIIb族元素の化合物からなる添加剤を混合する工程と、この混合粉末を焼成する工程とを備えることを特徴としている。
【0022】
本発明の製造方法において、焼成工程は、上記混合粉末を基板状に成形し、この成形体を焼成する工程を含んでいてもよい。さらには、焼成工程が、上記混合粉末を基板状に成形し、この成形体を誘電体セラミック材料などの他のセラミック材料からなる成形体と積層した後、この積層体を焼成する工程を含んでいてもよい。混合粉末を基板状に成形するにあたっては、混合粉末にバインダーを添加し、グリーンシートを形成することにより基板状に成形してもよいし、プレス成形等により基板状に成形してもよい。
【0023】
本発明の製造方法において、磁性セラミック材料の粉末は、磁性セラミック材料の原料粉末を混合して調製されるものであってもよい。また、磁性セラミック材料の原料粉末を混合した後、これを仮焼成して調製されるものであってもよい。
【0024】
本発明の製造方法における添加剤は、上記本発明の磁性セラミック焼結体に用いるものを用いることができ、また、同様の添加量で添加することができる。
また、本発明の製造方法においても、添加剤とともに、上記第2の添加剤を添加混合してもよい。
【0025】
本発明の製造方法においては、上記混合粉末を、1000℃以下の温度で焼成することが好ましく、さらに好ましくは950℃以下の温度で焼成する。このような温度で焼成することにより、導電率の高いAg等を配線パターンの形成材料として用いることができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
原料粉末としてのBaO粉末18.21重量部、CoO粉末5.93重量部、及びFe23粉末75.86重量部を、ボールミルにより粉砕しながら混合し、その後1300℃で2時間仮焼成した後、これを再びボールミルにより粉砕して、Ba系六方晶フェライト(Ba3Co2Fe2441)の仮焼成粉末を得た。この仮焼成粉末に対し、添加剤としてのCaCl2を0.1重量%添加し、再びボールミル中で混合した。得られた混合粉末を基板状にプレス成形し、この成形体を900℃で2時間焼成した。
得られたフェライト焼結体の透磁率を測定し、図1に示した。
【0028】
(比較例1)
実施例1において、仮焼成粉末に対してCaCl2を添加しない以外は、実施例1と同様にしてフェライト焼結体を作製した。得られたフェライト焼結体の透磁率を図1に示す。
【0029】
図1から明らかなように、本発明に従いCaCl2を添加して焼成した実施例1のフェライト焼結体が、比較例1のフェライト焼結体よりも、高い透磁率を示している。
【0030】
(参考例1)
実施例1と同様の仮焼成粉末に対し、添加剤としてのCaCl20.1重量%と第2の添加剤としてのBi23を5重量%を添加する以外は、実施例1と同様にしてフェライト焼結体を作製した。実施例1に比べ、得られたフェライト焼結体の焼結収縮率は、5%向上しており、第2の添加剤を添加することによる焼結促進の効果が認められた。
【0031】
参考例2
原料粉末として、SrO粉末6.77重量部、BaO粉末10.02重量部、CoO粉末6.53重量部、及びFe23粉末83.46重量部を用い、実施例1と同様にして、Sr−Ba系六方晶フェライト(Sr1.5Ba1.5Co2Fe2441)の仮焼成粉末を得た。この仮焼成粉末に対し、添加剤としてのCaCl20.1重量%と第2の添加剤としてのBi235重量%を添加し、実施例1と同様にしてフェライト焼結体を作製した。
【0032】
(比較例2)
仮焼成粉末にCaCl2及びBi23を添加しない以外は、上記参考例1と同様にしてフェライト焼結体を作製した。
【0033】
参考例2及び比較例2のフェライト焼結体の磁気特性を図4に示す。縦軸に示す1/tanδは、μ′(透磁率の実数成分)/μ″(透磁率の虚数成分)であり、材料の磁気的損失の程度を示すものである。この値が大きいほど磁気的損失が少ない。図4に示すように、参考例2のフェライト焼結体においては、比較例2のフェライト焼結体よりもこの値が高くなっており、磁気的損失が少ないことがわかる。
【0034】
実施例2
実施例1において作製したBa系六方晶フェライトの仮焼成粉末に対して、CaCl2を、0.05重量%、0.1重量%、0.5重量%、1重量%、10重量%、及び25重量%となるように添加し、実施例1と同様にしてCaCl2の添加量の異なるフェライト焼結体を作製した。
【0035】
図3は、得られたフェライト焼結体の透磁率及びμ′/μ″(=1/tanδ)を示す図である。図3から明らかなように、CaCl2の添加量が25重量%を超えると、フェライト焼結体の磁性が失われてしまうことがわかる。従って、CaCl2の添加量としては、25重量%以下が好ましいことがわかる。また、インダクタの小型化等の用途では、磁気的損失よりも透磁率が重視されるので、CaCl2の添加量としては、0.05〜0.5重量%の範囲が好ましいことがわかる。また、高いQ値のインダクタの得るためには、透磁率よりも磁気的損失が重視されるので、CaCl2の添加量の範囲としては、0.5〜25重量%が好ましいことがわかる。
なお、図3は、比較例1のフェライト焼結体の透磁率及びμ′/μ″を1とした場合の相対値を示している。
【0036】
参考例3
参考例2と同様にして得られたSr系六方晶フェライトの仮焼成粉末に対し、添加剤としてのCaCl20.1重量%と、第2の添加剤であるBi235重量%及びSiO21重量%を添加する以外は、参考例2と同様にしてフェライト焼結体を作製した。
【0037】
図4は、得られたフェライト焼結体の透磁率を示す図である。また、図4には、添加剤及び第2の添加剤を添加していない比較例2のフェライト焼結体の透磁率も併せて示している。
図4から明らかなように、本発明に従うフェライト焼結体においては、高い透磁率が得られている。
【0038】
参考例4
実施例1と同様にして得られたBa系六方晶フェライトの仮焼成粉末に対し、添加剤としてNaIを0.1重量%を添加する以外は、実施例1と同様にしてフェライト焼結体を作製した。
【0039】
図5は、得られたフェライト焼結体の透磁率を示す図である。なお、図5には、比較例1のフェライト焼結体の透磁率も併せて示している。
図5から明らかなように、本実施例においても、高い透磁率を示すフェライト焼結体が得られている。
【0040】
実施例3
実施例1で得られた混合粉末(Ba系六方晶フェライト仮焼成粉末にCaCl2を添加混合した粉末)を用いてグリーンシートを作製し、このグリーンシートの上にスクリーン印刷法によりAgの配線パターンを形成した。この未焼成の磁性体セラミック基板を、未焼成の誘電体セラミック基板と積層し、900℃で焼成することにより、良好な焼結状態の積層セラミック基板を作製することができた。
【0041】
【発明の効果】
本発明によれば、低温焼成で製造することができ、かつ良好な磁気特性を示す磁性セラミック焼結体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に従う実施例1で得られたフェライト焼結体の透磁率を示す図。
【図2】 本発明に従う参考例2で得られたフェライト焼結体の磁気的損失を示す図。
【図3】 本発明に従う実施例2で得られたフェライト焼結体の透磁率及び磁気的損失を示す図。
【図4】 本発明に従う参考例3で得られたフェライト焼結体の透磁率を示す図。
【図5】 本発明に従う参考例4で得られたフェライト焼結体の透磁率を示す図。
【図6】 積層セラミック基板の一例を示す斜視図。
【図7】 積層セラミック基板の一例を示す分解斜視図。
【符号の説明】
3…磁性体セラミック基板
4…誘電体セラミック基板
11…配線パターン
12…バイアホール

Claims (3)

  1. Ba Co Fe 24 41 の組成を有する六方晶系フェライトからなる磁性セラミック材料の粉末とCaCl 2 からなる添加剤のみを混合した後、これを950℃以下で焼成することにより得られる磁性セラミック焼結体であって、前記添加剤の添加量が、前記磁性セラミック材料の粉末と前記添加剤との合計重量に対して25重量%以下であることを特徴とする磁性セラミック焼結体。
  2. 複数のセラミック基板が、積層されてなる積層セラミック基板であって、前記請求項1に記載の磁性セラミック焼結体を前記セラミック基板の少なくとも1つとして用いることを特徴とする積層セラミック基板。
  3. Ba CO Fe 24 41 の組成を有する六方晶系フェライトからなる磁性セラミック材料の粉末を調製する工程と、前記磁性セラミック材料の粉末とCaCl 2 からなる添加剤のみを混合した後、これを950℃以下で焼成する工程と、を備える製造方法であって、
    前記添加剤の添加量が、前記磁性セラミック材料の粉末に対して25重量%以下であることを特徴とする磁性セラミック焼結体の製造方法。
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