JP4169474B2 - セルロースアセテート積層体と、それを用いた位相差板、偏光板および液晶表示装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、セルロースアセテート積層体と、それを用いた位相差板、偏光板、液晶表示装置およびハロゲン化銀写真感光材料、並びにセルロースアセテートフイルムと親水性ポリマーの接着方法とに関する。
【0002】
【従来の技術】
セルロースアセテートフイルムは、液晶表示装置に用いられる偏光板の保護膜や位相差板(光学補償シート)、そしてハロゲン化銀写真感光材料の支持体などに使用されている。このような用途においては、機械的な物性などの面でアセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテートフイルムが一般に用いられている。
液晶表示装置は、液晶セル、偏光板、および位相差板からなる。透過型液晶表示装置は、二枚の偏光板を液晶セルの両側に取り付け、一枚または二枚の位相差板を液晶セルと偏光板の間に配置して構成される。反射型液晶表示装置は、反射板、液晶セル、一枚の位相差板(通常はλ/4板が用いられる)、そして一枚の偏光板から構成される。
【0003】
偏光板は、偏光膜とその両側に配置された二枚の透明保護膜からなる。偏光膜は、一般に、ポリビニルアルコールにヨウ素または二色性染料の水溶液を含浸させ、さらにこのフイルムを一軸延伸することにより得られる。偏光板の透明保護膜としては、セルロースアセテートフイルムを用いることが一般的である。
【0004】
液晶セルは、棒状液晶性化合物、それを封入するための二枚の基板および棒状液晶性化合物に電圧を加えるための電極層からなる。液晶セルは、棒状液晶性化合物の配向状態の違いで、透過型については、TN(Twisted Nematic)、IPS(In-Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、MVA(Multidomain Vertically Aligned)、反射型については、HAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。
【0005】
位相差板は、画像着色を解消したり、視野角を拡大するために、上記の様々なモードの液晶セルを用いた液晶表示装置に利用されている。位相差板としては、合成ポリマー延伸フイルムが従来から使用されていた。
合成ポリマー延伸フイルムからなる位相差板に代えて、透明支持体上に液晶性化合物から形成された光学異方性層を有する位相差板を使用することが提案されている。
光学異方性層は、液晶性化合物を配向させ、その配向状態を固定化することにより形成する。一般に、重合性基を有する液晶性化合物を用いて、重合反応により配向状態を固定化する。液晶性化合物は、大きな複屈折を有する。そして、液晶性化合物には、多様な配向形態がある。位相差板に液晶性化合物を用いることで、従来の合成ポリマー延伸フイルムでは得ることができない光学的性質を実現することが可能になった。液晶性化合物としては、棒状液晶性化合物および円盤状液晶性化合物が利用される。
【0006】
位相差板の光学的性質は、液晶セルの光学的性質、具体的には上記のような液晶セルの表示モードの違いに応じて決定する。位相差板に円盤状液晶性化合物を用いると、液晶セルの様々な表示モードに対応する様々な光学的性質を有する位相差板を製造することができる。
円盤状液晶性化合物を用いた位相差板は、様々な表示モードに対応するものが既に提案されている。例えば、TNモードの液晶セル用位相差板は、特開平6−214116号、米国特許5583679号、同5646703号、およびドイツ特許公報3911620A1号の各明細書に記載がある。また、IPSモードまたはFLCモードの液晶セル用位相差板は、特開平10−54982号公報に記載がある。さらに、OCBモードまたはHANモードの液晶セル用位相差板は、米国特許5805253号および国際特許出願WO96/37804号に記載がある。さらにまた、STNモードの液晶セル用位相差板は、特開平9−26572号公報に記載がある。そして、VAモードの液晶セル用位相差板は、特許番号第2866372号公報に記載がある。
【0007】
液晶性化合物を用いた位相差板と偏光膜とを積層して楕円偏光板とすれば、位相差板を、偏光板の一方の透明保護膜として機能させることができる。そのような楕円偏光板は、透明保護膜、偏光膜、透明支持体、そして液晶性化合物から形成された光学異方性層がこの順序で積層された層構成を有する。液晶表示装置は薄型で軽量との特徴があり、構成要素の一つを兼用(偏光板の透明保護膜と位相差板)によって削減すれば、装置をさらに薄く軽量にすることができる。また、液晶表示装置の構成要素を一つ削減すれば、構成要素の貼り付け工程も一つ削減され、装置を製造する際に故障が生じる可能性が低くなる。液晶性化合物を用いた位相差板の透明支持体と偏光板の一方の保護膜を共通化した一体型楕円偏光板については、特開平7−191217号、同8−21996号、および同8−94838号の各公報に記載がある。
光学的に異方性のセルロースアセテートフイルムは、従来位相差板として用いられている合成ポリマー延伸フイルムの代わりとして、光学的に等方性もしくは異方性のセルロースアセテートフイルムは、液晶性化合物を利用した光学補償シートの支持体として用いられている。
【0008】
一方、セルロースアセテートフイルムは、ハロゲン化銀写真感光材料にも用いられる。ハロゲン化銀写真感光材料は、支持体上にハロゲン化銀乳剤が塗布されてなる。セルロースアセテートフイルムは、ハロゲン化銀写真感光材料の支持体として用いられる。
【0009】
このように、セルロースアセテートフイルムを様々な用途に用いる場合、(通常アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にある)セルロースアセテートフイルムとその表面に設けられる他の材料との接着性が問題となる。
偏光板を作製するために、偏光膜とその透明保護膜として用いられるセルロースアセテートフイルムを接着剤を用いて貼り合わせる。その場合、セルロースアセテートフイルムと接着剤(ポリビニルアルコール系接着剤などが用いられる)の界面における接着性が問題となる。
液晶性化合物から形成される光学異方性層を有する位相差板の支持体としてセルロースアセテートフイルムの場合、液晶性化合物を配向させるためにセルロースアセテートフイルム上に設ける配向膜との接着性が問題となる。
また位相差板を偏光膜と一体化して楕円偏光板を作製する際には、前述の偏光板の作製と同様に、接着剤と位相差板に用いられるセルロースアセテートフイルムの界面での接着性が問題となる。光学異方性層を有する位相差板を用いる場合は、さらに上記と同様にセルロースアセテートフイルムと配向膜との接着性も問題となる。
ハロゲン化銀写真感光材料の支持体としてセルロースアセテートフイルムを用いる場合には、その上に設けられるハロゲン化銀乳剤層との接着性が問題となる。
【0010】
このようなセルロースアセテートフイルムの接着性の低さは、セルロースアセテートフイルムの表面が疎水性であり、偏光膜との接着に用いる接着剤、配向膜、写真乳剤が親水性ポリマーから形成されているためである。
セルロースアセテートフイルムと親水性ポリマーの接着性を改良するために、セルロースアセテートフイルムに、下塗り層の塗設や、鹸化などの表面処理が従来より行われている。前者は下塗り層塗布工程でのフイルムの面状の悪化や、可塑剤のブリードアウトの懸念がある。後者はエネルギーコストの増大や工程汚染などの問題がある。また、特開平5−193502号公報に記載のように、セルロースアセテートフイルムの表面を部分加水分解して接着性の改良を試みる方法も開示されている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
上記のセルロースアセテートフイルムに対する表面処理の方法は、接着性の改良には好ましい方法であるが、いずれもフィルムに対する表面処理が必要となる。
本発明の目的は、親水性ポリマーに対する良好な接着性を有するセルロースアセテートフイルムを提供することである。
別の本発明の目的は、セルロースアセテートフイルムと親水性ポリマーの優れた接着方法を提供することである。
さらに別の本発明の目的は、セルロースアセテートフイルムを用いて接着性に優れ、製造が容易で、そして低コストの位相差板、液晶表示装置、およびハロゲン化銀写真感光材料を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者の鋭意研究の結果、セルロースアセテートフイルムの製造時に、その表面に低アセチル置換度のセルロースアセテート層を設けることにより、親水性材料との接着性を改良できることを見出した。またこのようなフイルムを用いることで、従来の接着性を損なうことなく、位相差板、偏光板、液晶表示装置、写真感光材料を簡単かつ低コストで製造できることを見出した。
【0013】
従って本発明の目的は、下記(1)〜(7)のセルロースアセテート積層体、下記(8)〜(11)の位相差板、下記(12)〜(15)の偏光板、下記(16)〜(19)の液晶表示装置により達成された。
(1)アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテートから形成されたセルロースアセテートフイルム、アセチル置換度が0.5以上2.2未満の範囲にあるセルロースアセテートから形成され0.1乃至100g/m2の範囲で設けられているセルロースアセテート層、そして、ポリビニルアルコールからなる膜をこの順序で有するセルロースアセテート積層体。
(2)前記のセルロースアセテート層が、アセチル置換度が0.5以上2.2未満の範囲にあるセルロースアセテートと有機溶媒を含む塗布液を塗布することにより設けられた層であることを特徴とする(1)に記載のセルロースアセテート積層体。
(3)前記のセルロースアセテート層が、セルロースアセテートフイルムとの共流延により設けられた層であることを特徴とする(1)に記載のセルロースアセテート積層体。
(4)前記のセルロースアセテート層の表面エネルギーが55mN/m以上であることを特徴とする(1)に記載のセルロースアセテート積層体。
【0014】
(5)前記のセルロースアセテート層の表面抵抗率が10 11 Ω/□以下であることを特徴とする(1)に記載のセルロースアセテート積層体。
(6)前記のポリビニルアルコールからなる膜が、変性ポリビニルアルコールからなる配向膜であることを特徴とする(1)に記載のセルロースアセテート積層体。
(7)前記のポリビニルアルコールからなる膜が、ヨウ素をドーピングしたポリビニルアルコールからなる偏光膜であることを特徴とする(1)に記載のセルロースアセテート積層体。
【0015】
(8)アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテートから形成されたセルロースアセテートフイルム、アセチル置換度が0.5以上2.2未満の範囲にあるセルロースアセテートから形成され0.1乃至100g/m2の範囲で設けられているセルロースアセテート層、変性ポリビニルアルコールからなる配向膜、そして円盤状液晶性化合物から形成した光学異方性層をこの順序で有することを特徴とする位相差板。
(9)前記のセルロースアセテートフイルムが、アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテート、およびセルロースアセテート100質量部に対して、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を0.01乃至20質量部含み、さらにセルロースアセテート積層体の、面内のレターデーション値が−20乃至20nmの範囲にあり、そして厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmの範囲にあることを特徴とする(8)に記載の位相差板。
【0016】
(10)アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテートから形成されたセルロースアセテートフイルム、アセチル置換度が0.5以上2.2未満の範囲にあるセルロースアセテートから形成され0.1乃至100g/m2の範囲で設けられているセルロースアセテート層、変性ポリビニルアルコールからなる配向膜、そして水平配向した棒状液晶性化合物の配向状態を架橋により固定化した光学異方性層をこの順序で有することを特徴とする位相差板。
(11)前記のセルロースアセテートフイルムが、アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテート、およびセルロースアセテート100質量部に対して、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を0.01乃至20質量部含み、さらにセルロースアセテート積層体の、面内のレターデーション値が−20乃至20nmの範囲にあり、そして厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmの範囲にあることを特徴とする(10)に記載の位相差板。
【0017】
(12)ヨウ素をドーピングしたポリビニルアルコールからなる偏光膜とその両側に配置された二枚の透明保護膜からなる偏光板において、透明保護膜のそれぞれが、アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテートから形成されたセルロースアセテートフイルム、そしてアセチル置換度が0.5以上2.2未満の範囲にあるセルロースアセテートから形成され0.1乃至100g/m2の範囲で設けられているセルロースアセテート層を有するセルロースアセテート積層体であって、セルロースアセテート積層体が、セルロースアセテート層が偏光膜側となるように配置されていることを特徴とする偏光板。
(13)ヨウ素をドーピングしたポリビニルアルコールからなる偏光膜とその両側に配置された二枚の透明保護膜からなる偏光板において、透明保護膜の一方が、アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテートから形成されたセルロースアセテートフイルム、そしてアセチル置換度が0.5以上2.2未満の範囲にあるセルロースアセテートから形成され0.1乃至100g/m2の範囲で設けられているセルロースアセテート層を有するセルロースアセテート積層体であって、セルロースアセテートフイルムが、アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテート、およびセルロースアセテート100質量部に対して、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を0.01乃至20質量部含み、さらにセルロースアセテート積層体の、面内のレターデーション値が−20乃至20nmの範囲にあり、そして厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmの範囲にあり、そしてセルロースアセテート積層体が、そのセルロースアセテート層が偏光膜側となるように配置されていることを特徴とする偏光板。
【0018】
(14)偏光膜とその両側に配置された二枚の透明保護膜からなる偏光板において、透明保護膜の一方が、アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテートから形成されたセルロースアセテートフイルム、アセチル置換度が0.5以上2.2未満の範囲にあるセルロースアセテートから形成され0.1乃至100g/m2の範囲で設けられているセルロースアセテート層、変性ポリビニルアルコールからなる配向膜、そして円盤状液晶性化合物から形成した光学異方性層をこの順序で有することを特徴とする偏光板。
(15)前記のセルロースアセテートフイルムが、アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテート、およびセルロースアセテート100質量部に対して、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を0.01乃至20質量部含み、さらにセルロースアセテート積層体の、面内のレターデーション値が−20乃至20nmの範囲にあり、そして厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmの範囲にあることを特徴とする(14)に記載の偏光板。
【0019】
(16)MVAモードの液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなるMVA型液晶表示装置において、偏光板のうちの少なくとも一方が、(13)に記載の偏光板であって、偏光板が、そのセルロースアセテート積層体が液晶セル側となるように配置されていることを特徴とするMVA型液晶表示装置。
(17)TNモードの液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなり、偏光板が偏光膜およびその両側に配置された二枚の透明保護膜からなるTN型液晶表示装置において、液晶セルと偏光膜の間に配置された二枚の透明保護膜のうちの少なくとも一方が(9)に記載の位相差板であって、位相差板が、その光学異方性層が液晶セル側となるように配置されていることを特徴とするTN型液晶表示装置。
(18)OCBモードの液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなり、偏光板が偏光膜およびその両側に配置された二枚の透明保護膜からなるOCB型液晶表示装置において、液晶セルと偏光膜の間に配置された二枚の透明保護膜のうちの少なくとも一方が、(9)または(11)に記載の位相差板であって、位相差板が、その光学異方性層が液晶セル側となるように配置されていることを特徴とするOCB型液晶表示装置。
【0020】
(19)反射板、液晶セルおよびヨウ素をドーピングしたポリビニルアルコールからなる偏光膜がこの順に積層されている反射型液晶表示装置において、さらにλ/4板が反射板と偏光膜との間に配置されており、λ/4板が、アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテートから形成されたセルロースアセテートフイルムの偏光膜側の面に、アセチル置換度が0.5以上2.2未満の範囲にあるセルロースアセテートから形成され0.1乃至100g/m2の範囲で設けられているセルロースアセテート層を有するセルロースアセテート積層体であり、セルロースアセテートフイルムが、アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテート、およびセルロースアセテート100質量部に対して、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を0.01乃至20質量部含み、さらにセルロースアセテート積層体面内の、波長450nmで測定したレターデーション値(Re450)が100乃至125nmの範囲にあり且つ波長590nmで測定したレターデーション値(Re590)が120乃至160nmの範囲にあり、そしてRe590−Re450≧2nmの関係を満足することを特徴とする反射型液晶表示装置。
【0022】
なお、本明細書において、「実質的に平行」とは、厳密な角度よりも±5゜未満の範囲内であることを意味する。この範囲は、±4゜未満であることが好ましく、±3゜未満であることがさらに好ましく、±2゜未満であることが最も好ましい。
また、面内および厚み方向のレターデーション値は、測定波長550nmに対する値である。
【0023】
【発明の効果】
本発明のセルロースアセテート積層体は、セルロースアセテートフイルムの表面に低アセチル置換度のセルロースアセテート層を設けることにより、親水性材料との優れた接着性を達成している。フィルムが生産されたと同時に、その表面は親水性材料に対して優れた接着性を有しているため、様々な用途に好ましく用いることができる。
位相板、偏光板、液晶表示装置、および写真感光材料などに、本発明のセルロースアセテート積層体を用いることで、表面処理を行わなくても充分な接着性を得ることができる。そのため、これらの製品を簡単にかつ低コストで作製することができる。
また、本発明のセルロースアセテート積層体に設けられた低アセチル置換度のセルロースアセテート層の上に様々な親水性ポリマーを積層することで、セルロースアセテートフイルムと親水性ポリマーを良好に接着することができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明のセルロースアセテート積層体は、アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテートフイルムの少なくとも片面に、アセチル置換度が0.5以上2.2未満の範囲にあるセルロースアセテート層が0.1乃至100g/m2 の範囲設けられた構成を有する。
【0025】
[セルロースアセテート]
セルロースアセテートフイルムは、アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテートから形成される。セルロースアセテートフイルムを形成するセルロースアセテートのアセチル置換度は、2.6乃至2.9の範囲にあることが好ましい。
また、セルロースアセテートフイルムを形成するセルロースアセテートの重合度は、250乃至350の範囲にあることが好ましく、270〜330の範囲にあることがより好ましい。
セルロースアセテート層は、アセチル置換度が0.5以上2.2未満の範囲にあるセルロースアセテートから形成される。セルロースアセテート層を形成するセルロースアセテートのアセチル置換度は、0.5以上2.0未満であることが好ましく、1.5以上2.0未満の範囲にあることがより好ましい。
セルロースアセテート層を形成するセルロースアセテートの重合度は、250乃至350の範囲にあることが好ましく、270乃至330の範囲にあることがより好ましい。
【0026】
[セルロースアセテートフイルムの製造]
セルロースアセテートフイルムは、(アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にある)セルロースアセテートを含む溶液を用いて製膜することが好ましい。
このような製膜方法のうち、ソルベントキャスト法によりセルロースアセテートフイルムを製造することが好ましい。ソルベントキャスト法では、セルロースアセテートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフイルムを製造する。
有機溶媒は、炭素原子数が3乃至12のエーテル、炭素原子数が3乃至12のケトン、炭素原子数が3乃至12のエステルおよび炭素原子数が1乃至6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。
エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0027】
炭素原子数が3乃至12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3乃至12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3乃至12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25乃至75モル%であることが好ましく、30乃至70モル%であることがより好ましく、35乃至65モル%であることがさらに好ましく、40乃至60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
二種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0028】
一般的な方法でセルロースアセテート溶液を調製できる。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温または高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。
セルロースアセテートの量は、得られる溶液中に10乃至40質量%含まれるように調整する。セルロースアセテートの量は、10乃至30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0乃至40℃)でセルロースアセテートと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースアセテートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60乃至200℃であり、さらに好ましくは80乃至110℃である。
【0029】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶剤中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0030】
冷却溶解法により、溶液を調製することもできる。冷却溶解法では、通常の溶解方法では溶解させることが困難な有機溶媒中にもセルロースアセテートを溶解させることができる。なお、通常の溶解方法でセルロースアセテートを溶解できる溶媒であっても、冷却溶解法によると迅速に均一な溶液が得られるとの効果がある。
冷却溶解法では最初に、室温で有機溶媒中にセルロースアセテートを撹拌しながら徐々に添加する。
セルロースアセテートの量は、この混合物中に10乃至40質量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースアセテートの量は、10乃至30質量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
【0031】
次に、混合物を−100乃至−10℃(好ましくは−80乃至−10℃、さらに好ましくは−50乃至−20℃、最も好ましくは−50乃至−30℃)に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30乃至−20℃)中で実施できる。このように冷却すると、セルロースアセテートと有機溶媒の混合物は固化する。
冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。冷却速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
【0032】
さらに、これを0乃至200℃(好ましくは0乃至150℃、さらに好ましくは0乃至120℃、最も好ましくは0乃至50℃)に加温すると、有機溶媒中にセルロースアセテートが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよし、温浴中で加温してもよい。
加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。加温速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、加温速度は、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。
以上のようにして、均一な溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
【0033】
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時の減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
【0034】
調製したセルロースアセテート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースアセテートフイルムを形成する。
ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフイルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18乃至35%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延および乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。流延してから2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフイルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0035】
[セルロースアセテート層の形成]
セルロースアセテート層は、作製したセルロースアセテートフイルムの少なくとも一方の面に設ければよい。このセルロースアセテート層が親水性ポリマーに対する接着性を向上させる。
セルロースアセテート層は、(アセチル置換度が0.5以上2.2未満の範囲にある)セルロースアセテートと有機溶媒を含む塗布液を塗布することにより形成することができる。また、前記のセルロースアセテートフイルムを製造する際に、セルロースアセテートフイルムとセルロースアセテート層とを共流延法(逐次流延法も含む)により積層して製造することもできる。
セルロースアセテート層は、セルロースアセテートフイルム上に0.1乃至100g/m2 (乾燥重量)の範囲で設ける。
【0036】
セルロースアセテート層を塗布により形成する場合、セルロースアセテートと有機溶媒を含む溶液を公知の塗布方法により塗布、そして乾燥することにより形成する。塗布液は、アセチル置換度の低いセルロースアセテートを用いること以外は、上記のセルロースアセテートフイルムのドープの調整と同様にして調整できる。塗布は、セルロースアセテートフイルム表面に、調整した溶液を、例えばスピンコート法、ロールコート法、ダイコート法、プリント法、浸漬引き上げ法、カーテンコート法、バーコート法などによって塗布、そして乾燥することで行うことができる。それぞれの塗布方法に応じて、用いる塗布液の粘度を調整することが好ましい。
【0037】
セルロースアセテート層を共流延法によりセルロースアセテートフイルムの表面に設けることもできる。この場合、アセチル置換度がが0.5以上2.2未満の範囲にあるセルロースアセテートを用いる以外は、前記のセルロースアセテートフイルムの場合と同様にしてセルロースアセテート層用のドープを調整する。そしてセルロースアセテートフイルム用のドープと、セルロースアセテート層用のドープを用いて、二層以上の流延を行う共流延法によりフイルム化することができる。
この場合、ソルベントキャスト法によりセルロースアセテートフイルムを共流延法により積層して製膜することが好ましい。ドープは、支持体(ドラムまたはバンド)上に流延し、溶媒を蒸発させてフイルムを形成する。
流延前のセルロースアセテートフイルム用のドープは、固形分量が10乃至40%となるように濃度を調整することが好ましい。
流延前のセルロースアセテート層用のドープは、固形分量が10乃至40%となるように濃度を調整することが好ましい。
ドラムまたはバンドなど支持体の表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。
【0038】
複数のドープを流延するには、支持体の進行方向に間隔をおいて設けられた複数の流延口からセルロースアセテートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフイルムを作製してもよい。例えば、特開昭61−158414号、特開平1−122419号、および特開平11−198285号の各明細書に記載の流延方法を用いることができる。
また、二つ以上の流延口からセルロースアセテート溶液を同時に積層して流延することによってもフイルムを作製してもよい。例えば、特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、および特開平6−134933号の各明細書に記載の方法を用いることができる。
また、二個の流延口を用いて、第一の流延口により支持体に成形したフイルムを剥ぎ取り、支持体面に接していた側に第二の流延を行うことにより、フイルムを作製してもよい。例えば、特公昭44−20235号明細書に記載の方法を用いることができる。
【0039】
また、セルロースアセテートフイルムを同様の方法により共流延法により製膜して積層体とし、その積層体の少なくとも一方の面に低アセチル置換度のセルロースアセテート層を設けることによりセルロースアセテート積層体を形成してもよい。
セルロースアセテートフイルムを単層で流延した場合、必要なフイルム厚さにするためには高濃度で高粘度のセルロースアセテート溶液を押し出すことが必要であり、その場合セルロースアセテート溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良となったりして問題となることがある。複数のセルロースアセテート溶液を流延口から流延してセルロースアセテートフイルムを製膜することにより、高粘度の溶液を同時に支持体上に押し出すことができ、平面性に優れたフイルムを得ることができる。また、濃厚なセルロースアセテート溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フイルムの生産スピードを高めることができる。
上記のように塗布または共流延により、セルロースアセテートフイルムの少なくとも一方の面にセルロースアセテート層を設けて乾燥することにより、本発明のセルロースアセテート積層体が得られる。
セルロースアセテート層の表面エネルギーは、55mN/m以上である。表面エネルギーの値は高いほど好ましいが、75mN/m以下であるのが一般的である。
【0040】
セルロースアセテート積層体には、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルフォスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEPおよびDPPが特に好ましい。
可塑剤の添加量は、セルロースアセテートフイルムおよびセルロースジアセテート層のうちのいずれかの層のセルロースアセテートに対し、0.1乃至25質量%の範囲にあることが好ましく、1乃至20質量%の範囲にあることがさらに好ましく、3乃至15質量%の範囲にあることが最も好ましい。セルロースアセテートフイルムおよびセルロースジアセテート層のそれぞれが、この添加量の範囲を満足すれば両者に添加することもできる。
【0041】
セルロースアセテート積層体には、劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。
劣化防止剤の添加量は、調製する溶液(ドープ)の0.01乃至1質量%であることが好ましく、0.01乃至0.2質量%であることがさらに好ましい。この添加量の範囲を満足する限り、劣化防止剤はセルロースアセテートフイルム用ドープおよびセルロースジアセテート層用ドープのいずれか、または両者に添加することができる。
添加量が0.01質量%未満であると、劣化防止剤の効果がほとんど認められない。添加量が1質量%を越えると、フイルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)が認められる場合がある。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリベンジルアミン(TBA)を挙げることができる。
【0042】
[透明導電層]
セルロースアセテート積層体には、界面活性剤や酸化スズなどの導電性微粒子分散物などを用いて、透明導電膜を設けても構わないし、セルロースアセテート積層体全体または一部分に導電性が付与されていても構わないが、帯電防止性付与のためには、透明導電膜を設ける方がより好ましい。セルロースアセテート積層体を形成するセルロースアセテートフイルム用のドープおよびセルロースアセテート層用ドープのうちの一方あるいは両方に導電性微粒子を添加してもよい。
透明導電膜は、塗布によって設けても構わないし、セルロースアセテート積層体流延時に共流延することによって設けても構わない。また、スパッタリング、真空蒸着法、イオンプレーティング法などの真空成膜法によって透明導電膜を成膜しても構わない。セルロースアセテート積層体の片面に透明導電膜を設けても構わないし、両面に設けても構わない。また、これらの方法を併用することも可能である。
本発明においては、接着剤層または易接着層として透明導電膜を形成するところに特徴があり、これによってゴミが付着しにくく、かつ接着性が良好なセルロースアセテート積層体を得ることができる。セルロースアセテート積層体の表面抵抗率は1011Ω/□以下であることが好ましい。
透明導電膜として使用される界面活性剤としては、ノニオン性、イオン性(アニオン、カチオン、ベタイン)いずれも使用できる。さらにフッ素系界面活性剤も有機溶媒中での塗布剤としたり、帯電防止剤として好ましく用いられる。
【0043】
界面活性剤は、界面活性剤の応用(幸書房、刈米孝夫著、昭和55年9月1日発行)に記載されている。本発明においては、好ましい界面活性剤はその使用量において特に限定されず、目的とする界面活性特性が得られる量であればよい。なお、これらな界面活性剤の塗設量は、1m2 当り0.02〜1000mgが好ましく、0.05〜200mgが好ましい。
【0044】
導電性微粒子分散物を塗布する方法としては、基本的には少なくとも1種以上の金属および、または金属酸化物、金属窒化物からなる微粒子を含有する層からなる。1種以上の金属からなる微粒子としては、金、銀、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、パラジウム、プラチナ等の金属あるいはこれらの合金が挙げられる。特に銀が好ましく、さらに耐候性の観点からパラジウムと銀の合金が好ましい。パラジウムの含有量としては5〜30質量%が好ましく、パラジウムが少ないと耐候性が悪く、パラジウムが多くなると導電性が低下する。金属微粒子の作成方法としては、低真空蒸発法による微粒子の作製方法や金属塩の水溶液を鉄(II)、ヒドラジン、ボロンハイドライド、ヒドロキシエチルアミン等のアミン等の還元剤で還元する金属コロイド作製方法が挙げられる。
金属酸化物としてはIn2 O3 系(Snなどドープ品含む)、SnO2 系(F、Sbなどドープ品含む)、ZnO系(Al、Gaなどのドープ品含む)、TiO2 、Al2 O3 、SiO2 、MgO、BaO、MoO3 、V2 O5 、またはこれらの複合品などが挙げられる。金属窒化物としてはTiNなどが挙げられる。
【0045】
これら導電性微粒子の平均粒径は1.0〜700nmが好ましく、2.0〜300nmが更に好ましく、5.0〜100nmが最も好ましい。粒径が大きすぎると、導電性微粒子による光の吸収が大きくなり、このために粒子層の光透過率が低下すると同時にヘイズが大きくなり、また、これら導電性微粒子の平均粒径が1nm未満の場合には微粒子の分散が困難になること、微粒子層の表面抵抗が急激に大きくなるため、低抵抗値を有する被膜を得ることができない。
【0046】
スパッタなどで透明導電膜を成膜する際にはその表面をフッ素系樹脂、アクリル系樹脂、シリコン系樹脂、プロピレン系樹脂、ビニル系樹脂などの高分子や、SiO2 、TiO2 、ZrO2 、SnO2 などの無機物でコートすることが好ましい。コートする膜厚としては10nm以上100μm以下が好ましく、さらに好ましくは10nm以上50μm以下であり、特に好ましくは10nm以上10μm以下である。
スパッタなどの際には基板を冷却することが好ましい。好ましくは−30℃以上30℃以下であり、さらに好ましくは−30℃以上20℃以下であり、特に好ましくは−30℃以上10℃以下である。
【0047】
スパッタ法により酸化インジウムを主として含む膜を成膜する方法としては、インジウムを主成分とする金属ターゲット、または酸化インジウムを主成分とする焼結体であるターゲットを用いた反応性スパッタリングを行うことができる。反応の制御上、後者が好ましい。反応性スパッタリング法においてはスパッタリングガスとしては、アルゴンなどの不活性ガスを用い、反応性ガスとしては酸素を用いる。放電形式としてはDCマグネトロンスパッタ、RFマグネトロンスパッタなどが利用できる。
また、酸素の流量を制御する方法としてはプラズマエミッションモニター法で行うことが好ましい。
【0048】
[積層フイルム]
本発明において、セルロースアセテートフイルム上に共流延法または逐次流延法により、微粒子の少ない層(以下、「内層」と呼ぶ)の外側に、微粒子の多い層(以下、「外層」と呼ぶ)を積層して製造することができる。外層は片側のみ設けても構わないし、両側に設けても構わない。
内層の微粒子の添加量は、セルロースアセテートの量の0乃至0.01質量%であることが好ましく、0乃至0.001質量%であることがさらに好ましい。外層の微粒子の添加量は、内層よりも多く、かつ、セルロースアセテートの量の0乃至0.05質量%であることが好ましく、0乃至0.02質量%であることがさらに好ましい。
内層と外層のセルロースアセテートの種類は同じであっても構わないし、異なっていても構わない。
外層の厚みは0.2乃至50μmが好ましく、0.5乃至20μmが更に好ましく、0.5乃至5μmが特に好ましい。
流延するための装置は、共流延の場合は、内部合流ダイ、先端合流ダイ等があり、逐次流延の場合は、エクストルージョンダイ等がある。
【0049】
以上のようにして、本発明のセルロースアセテート積層体を製造することができる。本発明のセルロースアセテート積層体は、親水性ポリマーとの接着性が優れているため、様々な用途に応用ができる。
そしてセルロースアセテート積層体の光学特性を調整することにより、液晶表示装置に用いられる(接着性に優れた)位相差板を作製することができる。
光学特性の調整はセルロースアセテート積層体に後述のレターデーション上昇剤を添加剤を添加したり、積層体を延伸することにより調節することができる。
【0050】
[セルロースアセテート積層体のレターデーション]
セルロースアセテート積層体の面内のレターデーション値(Re)、および厚み方向のレターデーション値(Rth)は、それぞれ、下記式(I)および(II)で定義される。
(I) Re=(nx−ny)×d
(II) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
式(I)および(II)において、nxは、積層体面内の機械方向の屈折率である。
式(I)および(II)において、nyは、積層体面内の機械方向に垂直な方向の屈折率である。
式(II)において、nzは、積層体の厚み方向の屈折率である。
式(I)および(II)において、dは、単位をnmとする積層体の厚さである。
【0051】
液晶表示装置の視野角特性を改善するために、位相差板として用いられるセルロースアセテート積層体のレターデーション値(ReおよびRth)を調節する。
本発明では、セルロースアセテート積層体のReレターデーション値を−20乃至20nmの範囲に、そしてRthレターデーション値を60乃至1000nmの範囲に調節する。
セルロースアセテート積層体をλ/4板(位相差板)として使用する場合は、波長450nmで測定したReレターデーション値(Re450)が100乃至125nmであり、かつ波長590nmで測定したReレターデーション値(Re590)が120乃至160nmであり、そして、Re590−Re450≧2nmの関係を満足よう調整する。
Re590−Re450≧5nmであることがさらに好ましく、Re590−Re450≧10nmであることが最も好ましい。
セルロースアセテート積層体の複屈折率(Δn:nx−ny)は、0.00乃至0.002であることが好ましい。また、セルロースアセテート積層体の厚み方向の複屈折率{(nx+ny)/2−nz}は、0.001乃至0.04であることが好ましい。
【0052】
[レターデーション上昇剤]
セルロースアセテート積層体のレターデーションを調整するため、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物をレターデーション上昇剤として使用する。レターデーション上昇剤は、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する。
芳香族化合物は、セルロースアセテート100質量部に対して、0.01乃至20質量部の範囲で使用する。芳香族化合物は、セルロースアセテート100質量部に対して、0.05乃至15質量部の範囲で使用することが好ましく、0.1乃至10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。
芳香族化合物は上記の添加量を満足する限り、セルロースアセテートフイルムおよびセルロースアセテート層のいずれに添加しても構わない。両者に添加することもできる。芳香族化合物はセルロースアセテートフイルムに添加することが好ましい。
芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。
【0053】
芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。
芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。
芳香族環としては、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が好ましく、ベンゼン環および1,3,5−トリアジン環がさらに好ましい。
芳香族化合物は、少なくとも一つの1,3,5−トリアジン環を有することが特に好ましい。
【0054】
芳香族化合物が有する芳香族環の数は、2乃至20であることが好ましく、2乃至12であることがより好ましく、2乃至8であることがさらに好ましく、2乃至6であることが最も好ましい。
二つの芳香族環の結合関係は、(a)縮合環を形成する場合、(b)単結合で直結する場合および(c)連結基を介して結合する場合に分類できる(芳香族環のため、スピロ結合は形成できない)。結合関係は、(a)〜(c)のいずれでもよい。
【0055】
(a)の縮合環(二つ以上の芳香族環の縮合環)の例には、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、アセナフチレン環、ナフタセン環、ピレン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドリジン環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、プリン環、インダゾール環、クロメン環、キノリン環、イソキノリン環、キノリジン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フタラジン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェナントリジン環、キサンテン環、フェナジン環、フェノチアジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環およびチアントレン環が含まれる。ナフタレン環、アズレン環、インドール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環およびキノリン環が好ましい。
(b)の単結合は、二つの芳香族環の炭素原子間の結合であることが好ましい。二以上の単結合で二つの芳香族環を結合して、二つの芳香族環の間に脂肪族環または非芳香族性複素環を形成してもよい。
【0056】
(c)の連結基も、二つの芳香族環の炭素原子と結合することが好ましい。連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−CO−、−O−、−NH−、−S−またはそれらの組み合わせであることが好ましい。組み合わせからなる連結基の例を以下に示す。なお、以下の連結基の例の左右の関係は、逆になってもよい。
c1:−CO−O−
c2:−CO−NH−
c3:−アルキレン−O−
c4:−NH−CO−NH−
c5:−NH−CO−O−
c6:−O−CO−O−
c7:−O−アルキレン−O−
c8:−CO−アルケニレン−
c9:−CO−アルケニレン−NH−
c10:−CO−アルケニレン−O−
c11:−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−
c12:−O−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−O−
c13:−O−CO−アルキレン−CO−O−
c14:−NH−CO−アルケニレン−
c15:−O−CO−アルケニレン−
【0057】
芳香族環および連結基は、置換基を有していてもよい。
置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル、カルボキシル、シアノ、アミノ、ニトロ、スルホ、カルバモイル、スルファモイル、ウレイド、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂肪族アシル基、脂肪族アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、脂肪族アミド基、脂肪族スルホンアミド基、脂肪族置換アミノ基、脂肪族置換カルバモイル基、脂肪族置換スルファモイル基、脂肪族置換ウレイド基および非芳香族性複素環基が含まれる。
【0058】
アルキル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、直鎖状アルキル基が特に好ましい。アルキル基は、さらに置換基(例、ヒドロキシ、カルボキシ、アルコキシ基、アルキル置換アミノ基)を有していてもよい。アルキル基の(置換アルキル基を含む)例には、メチル、エチル、n−ブチル、n−ヘキシル、2−ヒドロキシエチル、4−カルボキシブチル、2−メトキシエチルおよび2−ジエチルアミノエチルが含まれる。
アルケニル基の炭素原子数は、2乃至8であることが好ましい。環状アルケニル基よりも鎖状アルケニル基の方が好ましく、直鎖状アルケニル基が特に好ましい。アルケニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルケニル基の例には、ビニル、アリルおよび1−ヘキセニルが含まれる。
アルキニル基の炭素原子数は、2乃至8であることが好ましい。環状アルキケニル基よりも鎖状アルキニル基の方が好ましく、直鎖状アルキニル基が特に好ましい。アルキニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルキニル基の例には、エチニル、1−ブチニルおよび1−ヘキシニルが含まれる。
【0059】
脂肪族アシル基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アシル基の例には、アセチル、プロパノイルおよびブタノイルが含まれる。
脂肪族アシルオキシ基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アシルオキシ基の例には、アセトキシが含まれる。
アルコキシ基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。アルコキシ基は、さらに置換基(例、アルコキシ基)を有していてもよい。アルコキシ基の(置換アルコキシ基を含む)例には、メトキシ、エトキシ、ブトキシおよびメトキシエトキシが含まれる。
アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニルおよびエトキシカルボニルが含まれる。
アルコキシカルボニルアミノ基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。アルコキシカルボニルアミノ基の例には、メトキシカルボニルアミノおよびエトキシカルボニルアミノが含まれる。
【0060】
アルキルチオ基の炭素原子数は、1乃至12であることが好ましい。アルキルチオ基の例には、メチルチオ、エチルチオおよびオクチルチオが含まれる。
アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。アルキルスルホニル基の例には、メタンスルホニルおよびエタンスルホニルが含まれる。脂肪族アミド基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アミド基の例には、アセトアミドが含まれる。
脂肪族スルホンアミド基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。脂肪族スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド、ブタンスルホンアミドおよびn−オクタンスルホンアミドが含まれる。
脂肪族置換アミノ基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族置換アミノ基の例には、ジメチルアミノ、ジエチルアミノおよび2−カルボキシエチルアミノが含まれる。
脂肪族置換カルバモイル基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。脂肪族置換カルバモイル基の例には、メチルカルバモイルおよびジエチルカルバモイルが含まれる。
脂肪族置換スルファモイル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。脂肪族置換スルファモイル基の例には、メチルスルファモイルおよびジエチルスルファモイルが含まれる。
脂肪族置換ウレイド基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。脂肪族置換ウレイド基の例には、メチルウレイドが含まれる。
非芳香族性複素環基の例には、ピペリジノおよびモルホリノが含まれる。
レターデーション上昇剤の分子量は、300乃至800であることが好ましい。
レターデーション上昇剤の具体例としては、特開2000−111914、同2000−275434号、PCT/JP00/02619号明細書に記載の化合物があげられる。
【0061】
[延伸処理]
セルロースアセテート積層体を、機械方向およびそれに垂直な方向のいずれかの方向に10%以上延伸することでレターデーション値を調節することができる。また両方向に延伸してレターデーション値を調節することもできる。
積層体の乾燥工程において、セルロースアセテート積層体を、機械方向に10%以上延伸することが好ましい。
積層体の乾燥工程において、セルロースアセテート積層体を、機械方向に垂直な方向に10%以上延伸することが好ましい。
この垂直方向への延伸は、セルロースアセテート積層体における、残留溶媒が5乃至3質量%の状態で行うことが好ましい。また、それぞれの延伸方向で高延伸倍率で延伸を行うこともできるが、積層体の白化や破断などが生じるため、延伸倍率は50%以下とすることが好ましい。
【0062】
さらに、機械方向に垂直に延伸する積層体の乾燥工程において、積層体の温度がセルロースアセテートフイルムのガラス転移温度以上の温度となる状態では、積層体を機械方向には実質的に延伸しない(延伸率0乃至0.1%とする)ことが好ましい。言い換えると、上記の10%以上の延伸処理は、積層体の温度がセルロースアセテートフイルムのガラス転移温度よりも低い温度で実施することが好ましい。そのためには、セルロースアセテート積層体の残留溶媒量が5乃至3質量%の状態では、フイルムの温度をセルロースアセテートフイルムのガラス転移温度よりも低い温度まで低下させる。セルロースアセテートフイルムのアセチル置換度によりガラス転移温度は多少上下するが、概ね150度以下で延伸処理を行うことが好ましい。
機械方向に垂直な方向(横方向)の延伸率/機械方向の延伸率の比は、0.70乃至8.0であることが好ましく、0.7乃至6.0であることがさらに好ましい。上記の延伸率比を得るためには、セルロースアセテート積層体に横方向の延伸処理を実施することが好ましい。
横方向の延伸処理は、ピンテンターを用いてロール状のフイルムの幅を規制しながらフイルムを乾燥することにより実施できる。ピンテンターを用いる横方向の延伸処理については、特開昭61−158413号、同61−158414号および特開平4−1009号の各公報に記載がある。
【0063】
[セルロースアセテート積層体の表面処理]
本発明のセルロースアセテート積層体は、その上に設けられたセルロースアセテート層により親水性ポリマーとの接着性に優れるが、さらにその接着性を改良するために、表面処理や下塗り層を施すこともできる。
具体的方法としては、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理または紫外線照射処理が挙げられる。また、特開平7−333433号明細書に記載のように、下塗り層を設けることもできる。
積層体の平面性を保持する観点から、これら処理においてセルロースアセテート積層体の温度をセルロースアセテートフイルムのガラス転移温度以下とすることが好ましい。
【0064】
以上述べたレターデーション上昇剤を添加しないセルロースアセテート積層体、またはレターデーション上昇剤を添加したセルロースアセテート積層体を支持体として、その上に液晶性化合物から形成される光学異方性層を設けることで、液晶セルの様々なモードに対応する位相差板を得ることができる。
【0065】
[光学異方性層]
本発明において、液晶性化合物から形成される光学異方性層は、セルロースアセテート層の上に設けられた配向膜上に形成することが好ましい。
光学異方性層に用いる液晶性化合物には、棒状液晶性化合物および円盤状液晶性化合物が含まれる。棒状液晶性化合物および円盤状液晶性化合物は、高分子液晶でも低分子液晶でもよく、さらに、低分子液晶が架橋され液晶性を示さなくなったものも含まれる。
光学異方性層は、液晶性化合物および必要に応じて重合性開始剤や任意の成分を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成できる。
【0066】
塗布液の調整に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
塗布液の塗布は、公知の方法(例、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
光学異方性層の厚さは、0.1乃至20μmであることが好ましく、0.5乃至15μmであることがさらに好ましく、1乃至10μmであることが最も好ましい。
【0067】
[棒状液晶性化合物]
棒状液晶性化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。
なお、棒状液晶性化合物には、金属錯体も含まれる。また、棒状液晶性化合物を繰り返し単位中に含む液晶ポリマーも、棒状液晶性化合物として用いることができる。言い換えると、棒状液晶性化合物は、(液晶)ポリマーと結合していてもよい。
棒状液晶性化合物については、季刊化学総説第22巻液晶の化学(1994)日本化学会編の第4章、第7章および第11章、および液晶デバイスハンドブック日本学術振興会第142委員会編の第3章に記載がある。
棒状液晶性化合物の複屈折率は、0.001乃至0.7の範囲にあることが好ましい。
棒状液晶性化合物は、その配向状態を固定するために、重合性基を有することが好ましい。重合性基(Q)の例を、以下に示す。
【0068】
【化1】
【0069】
重合性基(Q)は、不飽和重合性基(Q1〜Q7)、エポキシ基(Q8)またはアジリジニル基(Q9)であることが好ましく、不飽和重合性基であることがさらに好ましく、エチレン性不飽和重合性基(Q1〜Q6)であることが最も好ましい。
棒状液晶性化合物は、短軸方向に対してほぼ対称となる分子構造を有することが好ましい。そのためには、棒状分子構造の両端に重合性基を有することが好ましい。
以下に、棒状液晶性化合物の例を示す。
【0070】
【化2】
【0071】
【化3】
【0072】
【化4】
【0073】
【化5】
【0074】
【化6】
【0075】
【化7】
【0076】
【化8】
【0077】
【化9】
【0078】
【化10】
【0079】
【化11】
【0080】
【化12】
【0081】
【化13】
【0082】
【化14】
【0083】
光学異方性層は、棒状液晶性化合物あるいは後述の重合性開始剤や任意の添加剤(例、可塑剤、モノマー、界面活性剤、セルロースエステル、1,3,5−トリアジン化合物、カイラル剤)を含む液晶組成物(塗布液)を、配向膜の上に塗布することで形成する。
【0084】
[円盤状液晶性化合物]
円盤状(ディスコティック)液晶性化合物の例としては、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physics lett,A,78巻、82頁(1990)に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体及びJ.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルなどを挙げることができる。さらに、円盤状液晶性化合物としては、一般的にこれらを分子中心の母核とし、直鎖のアルキル基やアルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基等がその直鎖として放射線状に置換された構造のものも含まれ、液晶性を示す。ただし、分子自身が負の一軸性を有し、一定の配向を付与できるものであればこれらに限定されるものではない。また、本発明において、円盤状液晶性化合物から形成する光学異方性層は、最終的にできた物が前記化合物である必要はなく、例えば、低分子の円盤状液晶性化合物が熱、光等で反応する基を有しており、結果的に熱、光等で反応により重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失ったものも含まれる。円盤状液晶性化合物の好ましい例は、特開平8−50206号公報に記載されている。また、円盤状液晶性化合物の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。
【0085】
円盤状液晶性化合物を重合により固定するためには、円盤状液晶性化合物の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基との間に、連結基を導入する。従って、重合性基を有する円盤状液晶性化合物は、下記式(III)で表わされる化合物であることが好ましい。
【0086】
(III) D(−L−P)n
式中、Dは円盤状コアであり;Lは二価の連結基であり、Pは重合性基であり、そして、nは4乃至12の整数である。
円盤状コア(D)の例を以下に示す。以下の各例において、LP(またはPL)は、二価の連結基(L)と重合性基(P)との組み合わせを意味する。
【0087】
【化15】
【0088】
【化16】
【0089】
【化17】
【0090】
【化18】
【0091】
【化19】
【0092】
【化20】
【0093】
【化21】
【0094】
【化22】
【0095】
【化23】
【0096】
式(III)において、二価の連結基(L)は、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−CO−、−NH−、−O−、−S−およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。二価の連結基(L)は、アルキレン基、アリーレン基、−CO−、−NH−、−O−および−S−からなる群より選ばれる二価の基を少なくとも二つ組み合わせた二価の連結基であることがさらに好ましい。二価の連結基(L)は、アルキレン基、アリーレン基、−CO−および−O−からなる群より選ばれる二価の基を少なくとも二つ組み合わせた二価の連結基であることが最も好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1乃至12であることが好ましい。アルケニレン基の炭素原子数は、2乃至12であることが好まし。アリーレン基の炭素原子数は、6乃至10であることが好ましい。
【0097】
二価の連結基(L)の例を以下に示す。左側が円盤状コア(D)に結合し、右側が重合性基(P)に結合する。ALはアルキレン基またはアルケニレン基、ARはアリーレン基を意味する。なお、アルキレン基、アルケニレン基およびアリーレン基は、置換基(例、アルキル基)を有していてもよい。
L1:−AL−CO−O−AL−
L2:−AL−CO−O−AL−O−
L3:−AL−CO−O−AL−O−AL−
L4:−AL−CO−O−AL−O−CO−
L5:−CO−AR−O−AL−
L6:−CO−AR−O−AL−O−
L7:−CO−AR−O−AL−O−CO−
L8:−CO−NH−AL−
L9:−NH−AL−O−
L10:−NH−AL−O−CO−
【0098】
L11:−O−AL−
L12:−O−AL−O−
L13:−O−AL−O−CO−
L14:−O−AL−O−CO−NH−AL−
L15:−O−AL−S−AL−
L16:−O−CO−AR−O−AL−CO−
L17:−O−CO−AR−O−AL−O−CO−
L18:−O−CO−AR−O−AL−O−AL−O−CO−
L19:−O−CO−AR−O−AL−O−AL−O−AL−O−CO−
L20:−S−AL−
L21:−S−AL−O−
L22:−S−AL−O−CO−
L23:−S−AL−S−AL−
L24:−S−AR−AL−
【0099】
式(III)の重合性基(P)は、重合反応の種類に応じて決定する。重合性基(P)の例を以下に示す。
【0100】
【化24】
【0101】
【化25】
【0102】
【化26】
【0103】
【化27】
【0104】
【化28】
【0105】
【化29】
【0106】
重合性基(P)は、不飽和重合性基(P1、P2、P3、P7、P8、P15、P16、P17)またはエポキシ基(P6、P18)であることが好ましく、不飽和重合性基であることがさらに好ましく、エチレン性不飽和重合性基(P1、P7、P8、P15、P16、P17)であることが最も好ましい。
式(III)において、nは4乃至12の整数である。具体的な数字は、円盤状コア(D)の種類に応じて決定される。なお、複数のLとPの組み合わせは、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0107】
円盤状液晶性化合物を用いる場合、光学異方性層は負の複屈折を有する層であって、そして円盤状構造単位の面が、セルロースアセテート積層体表面に対して傾き、且つ円盤状構造単位の面とセルロースアセテート積層体表面とのなす角度が、光学異方性層の深さ方向に変化していることが好ましい。
【0108】
円盤状構造単位の面の角度(傾斜角)は、一般に、光学異方性層の深さ方向でかつ光学異方性層の底面からの距離の増加と共に増加または減少している。傾斜角は、距離の増加と共に増加することが好ましい。さらに、傾斜角の変化としては、連続的増加、連続的減少、間欠的増加、間欠的減少、連続的増加と連続的減少を含む変化、及び増加及び減少を含む間欠的変化などを挙げることができる。間欠的変化は、厚さ方向の途中で傾斜角が変化しない領域を含んでいる。傾斜角は、傾斜角が変化しない領域を含んでいても、全体として増加または減少していることが好ましい。さらに、傾斜角は全体として増加していることが好ましく、特に連続的に変化することが好ましい。
【0109】
セルロースアセテート積層体側の円盤状単位の傾斜角は、一般に円盤状液晶性化合物あるいは配向膜の材料を選択することにより、またはラビング処理方法の選択することにより、調整することができる。また、表面側(空気側)の円盤状単位の傾斜角は、一般に円盤状液晶性化合物あるいは円盤状液晶性化合物とともに使用する他の化合物を選択することにより調整することができる。円盤状液晶性化合物とともに使用する化合物の例としては、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー及びポリマーなどを挙げることができる。更に、傾斜角の変化の程度も、上記と同様の選択により調整できる。
【0110】
円盤状液晶性化合物とともに使用する可塑剤、界面活性剤及び重合性モノマーとしては、円盤状液晶性化合物と相溶性を有し、円盤状液晶性化合物の傾斜角の変化を与えられるか、あるいは配向を阻害しない限り、どのような化合物も使用することができる。これらの中で、重合性モノマー(例、ビニル基、ビニルオキシ基、アクリロイル基及びメタクリロイル基を有する化合物)が好ましい。上記化合物の添加量は、円盤状液晶性化合物に対して一般に1〜50質量%の範囲にあり、5〜30質量%の範囲にあることが好ましい。
【0111】
円盤状液晶性化合物とともに使用するポリマーとしては、円盤状液晶性化合物と相溶性を有し、円盤状液晶性化合物に傾斜角の変化を与えられる限り、どのようなポリマーでも使用することができる。ポリマーの例としては、セルロースエステルを挙げることができる。セルロースエステルの好ましい例としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、ヒドロキシプロピルセルロース及びセルロースアセテートブチレートを挙げることができる。円盤状液晶性化合物の配向を阻害しないように、上記ポリマーの添加量は、円盤状液晶性化合物に対して一般に0.1〜10質量%の範囲にあり、0.1〜8質量%の範囲にあることがより好ましく、0.1〜5質量%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0112】
光学異方性層は、一般に円盤状液晶性化合物および他の化合物を溶剤に溶解した溶液を配向膜上に塗布し、乾燥し、次いでディスコティックネマチック相形成温度まで加熱し、その後配向状態(ディスコティックネマチック相)を維持して冷却することにより得られる。あるいは、上記光学異方性層は、円盤状液晶性化合物及び他の化合物(更に、例えば重合性モノマー、光重合開始剤)を溶剤に溶解した溶液を配向膜上に塗布し、乾燥し、次いでディスコティックネマチック相形成温度まで加熱したのち重合させ(UV光の照射等により)、さらに冷却することにより得られる。本発明に用いる円盤状液晶性化合物のディスコティックネマティック液晶相−固相転移温度としては、70〜300℃が好ましく、特に70〜170℃が好ましい。
【0113】
[液晶性化合物の配向状態の固定]
配向させた液晶性化合物を、配向状態を維持して固定することができる。固定化は、重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)が含まれる。
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01乃至20質量%の範囲にあることが好ましく、0.5乃至5質量%の範囲にあることがさらに好ましい。
液晶性化合物の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。
照射エネルギーは、20mJ/cm2 乃至50J/cm2 の範囲にあることが好ましく、20乃至5000mJ/cm2 の範囲にあることがより好ましく、100乃至800mJ/cm2 の範囲にあることがさらに好ましい。また、光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。保護層を、光学異方性層の上に設けてもよい。
【0114】
[配向膜]
配向膜は、本発明のセルロースアセテート積層体のセルロースアセテート層の上に形成する。セルロースアセテート層を介して、セルロースアセテートフイルムと配向膜は良好な接着性を示す。
配向膜は、液晶性化合物の配向方向を規定する機能を有する。配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で、設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成することが好ましい。
【0115】
配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成することが好ましい。ポリビニルアルコールが、好ましいポリマーである。疎水性基が結合している変性ポリビニルアルコールが特に好ましい。
配向膜は、一種類のポリマーからなる層をラビング処理することにより形成することもできるが、架橋された二種類のポリマーからなる層をラビング処理することにより形成することがさらに好ましい。少なくとも一種類のポリマーとして、それ自体架橋可能なポリマーか、架橋剤により架橋されるポリマーのいずれかを用いることが好ましい。
配向膜は、官能基を有するポリマーあるいはポリマーに官能基を導入したものを、光、熱、PH変化等によりポリマー間で反応させて形成するか、あるいは、反応活性の高い化合物である架橋剤を用いてポリマー間に架橋剤に由来する結合基を導入して、ポリマー間を架橋することにより形成することができる。
【0116】
このような架橋は、上記ポリマーまたはポリマーと架橋剤の混合物を含む配向膜塗布液を、セルロースアセテート層の上に塗布したのち、加熱等を行なうことにより実施される。最終商品(位相差板)で耐久性が確保できれば良いので、配向膜をセルロースアセテート層の上に塗設した後から、位相差板を得るまでのいずれの段階で架橋させる処理を行なっても良い。
配向膜上に形成される液晶性化合物からなる層(光学異方性層)の配向性を考えると、液晶性化合物を配向させたのちに、充分架橋を行なうことも好ましい。
配向膜の架橋は、セルロースアセテート層の上に配向膜塗布液を塗布し、加熱乾燥することで行われることが一般的である。この塗布液の加熱温度を低く設定して、光学異方性層を形成する際の加熱処理の段階で配向膜の充分な架橋を行うことが好ましい。
【0117】
配向膜に用いるポリマーとしては、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができる。勿論両方可能なポリマーもある。ポリマーの例としては、ポリメチルメタクリレート、アクリル酸/メタクリル酸共重合体、スチレン/マレインイミド共重合体、ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、スチレン/ビニルトルエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン、ニトロセルロース、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリカーボネート等のポリマー、およびシランカップリング剤等の化合物を挙げることができる。
好ましいポリマーの例としては、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーが挙げられる。ゼラチン、ポリビルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールを用いることが好ましく、ポリビルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールを用いることがさらに好ましい。
また、重合度の異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを二種類併用することが最も好ましい。
【0118】
ポリビニルアルコールの例としては、鹸化度が70乃至100%の範囲にあるポリビニルアルコールが挙げられる。一般に鹸化度は80乃至100%の範囲にあり、85乃至95%の範囲にあることがさらに好ましい。また、ポリビニルアルコールの重合度は、100乃至3000の範囲にあることが好ましい。
変性ポリビニルアルコールの例としては、共重合変性、連鎖移動による変性、またはブロック重合による変性をしたポリビニルアルコールなどを挙げることができる。共重合変性する場合の変性基の例としては、COONa、Si(OX)3 、N(CH3 )3 ・Cl、C9 、H19COO、SO3 、Na、C12H25などが挙げられる。連鎖移動による変性をする場合の変性基の例としては、COONa、SH、C12H25などが挙げられる。また、ブロック重合による変性をする場合の変性基の例としては、COOH、CONH2 、COOR、C6 H5 などが挙げられる。
これらの中でも、鹸化度が80乃至100%の範囲にある未変性もしくは変性ポリビニルアルコールが好ましい。また、鹸化度が85乃至95%の範囲にある未変性ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましい。
【0119】
変性ポリビニルアルコールとしては、特に、下記一般式で表わされる化合物によるポリビニルアルコールの変性物を用いることが好ましい。この変性ポリビニルアルコールを、以下、特定の変性ポリビニルアルコールと記載する。
【0120】
【化30】
【0121】
式中、R1 は、アルキル基、アクリロイルアルキル基、メタクリロイルアルキル基、またはエポキシアルキル基を表わし;Wは、ハロゲン原子、アルキル基、またはアルコキシ基を表わし;Xは、活性エステル、酸無水物、または酸ハロゲン化物を形成するために必要な原子群を表わし;pは、0または1を表わし;そしてnは、0乃至4の整数を表わす。
上記の特定の変性ポリビニルアルコールは、さらに下記一般式で表わされる化合物によるポリビニルアルコールの変性物であることが好ましい。
【0122】
【化31】
【0123】
式中、X1 は、活性エステル、酸無水物、または酸ハロゲン化物を形成するために必要な原子群を表わし、そしてmは2乃至24の整数を表わす。
【0124】
これらの一般式により表される化合物と反応させるために用いるポリビニルアルコールとしては、前述の、未変性のポリビニルアルコール、および、共重合変性したもの、即ち連鎖移動により変性したもの、ブロック重合による変性をしたものなどのポリビニルアルコールの変性物を挙げることができる。特定の変性ポリビニルアルコールの好ましい例は、特開平9−152509号明細書に詳しく記載されている。
これらポリマーの合成方法、可視吸収スペクトル測定、および変性基導入率の決定方法等は、特開平8−338913号公報に詳しく記載がある。
【0125】
これらのポリマーと共に用いられる架橋剤の例としては、アルデヒド類、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、イソオキサゾール類、およびジアルデヒド澱粉などを挙げることができる。アルデヒド類の例としては、ホルムアルデヒド、グリオキザール、およびグルタルアルデヒドが挙げられる。N−メチロール化合物の例としては、ジメチロール尿素およびメチロールジメチルヒダントインが挙げられる。ジオキサン誘導体の例としては、2,3−ジヒドロキシジオキサンが挙げられる。カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物の例としては、カルベニウム、2−ナフタレンスルホナート、1,1−ビスピロリジノ−1−クロロピリジニウム、および1−モルホリノカルボニル−3−(スルホナトアミノメチル)が挙げられる。活性ビニル化合物の例としては、1,3,5−トリアクロイル−ヘキサヒドロ−s−トリアジン、ビス(ビニルスルホン)メタン、およびN,N’−メチレンビス−[βー(ビニルスルホニル)プロピオンアミド]が挙げられる。そして、活性ハロゲン化合物の例としては、2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−S−トリアジンが挙げられる。これらは、単独または組合せて用いることができる。
これらは上記水溶性ポリマー、特にポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコール(上記特定の変性物も含む)と併用する場合に好ましい。生産性を考慮した場合、反応活性の高いアルデヒド類、とりわけグルタルアルデヒドの使用が好ましい。
【0126】
ポリマーに対する架橋剤の添加量に特に限定はない。耐湿性は、架橋剤を多く添加した方が良化傾向にある。しかし、架橋剤をポリマーに対して50質量%以上添加した場合には、配向膜としての配向能が低下する。従って、ポリマーに対する架橋剤の添加量は、0.1乃至20質量%の範囲にあることが好ましく、0.5乃至15質量%の範囲にあることがさらに好ましい。
配向膜は、架橋反応が終了した後でも、反応しなかった架橋剤をある程度含んでいるが、その架橋剤の量は、配向膜中に1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。配向膜中に1.0質量%を超える量で未反応の架橋剤が含まれていると、充分な耐久性が得られない。即ち、液晶表示装置に使用した場合、長期使用、あるいは高温高湿の雰囲気下に長期間放置した場合に、レチキュレーションが発生することがある。
【0127】
配向膜は、上記ポリマーを含む溶液、あるいは上記ポリマーと架橋剤を含む溶液を、セルロースアセテート層の上に塗布した後、加熱乾燥し(架橋させ)、ラビング処理することにより形成することができる。架橋反応は、溶液をセルロースアセテート層の上に塗布した後、任意の時期に行なっても良い。
ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーを配向膜形成材料として用いる場合、その塗布液を調整するための溶媒は、消泡作用のあるメタノール等の有機溶媒とするか、あるいは有機溶媒と水の混合溶媒とすることが好ましい。有機溶媒としてメタノールを用いる場合、その比率は質量比で水:メタノールが、0:100〜99:1が一般的であり、0:100〜91:9であることがさらに好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、更には光学異方性層の表面の欠陥が著しく減少する。
塗布方法としては、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法及びE型塗布法を挙げることができる。この中でも、特にE型塗布法が好ましい。
【0128】
配向膜の膜厚は、0.1乃至10μmの範囲にあることが好ましい。加熱乾燥は、加熱温度が20乃至110℃の範囲で行なうことができる。充分な架橋を形成させるためには、加熱温度は60乃至100℃の範囲にあることが好ましく、80乃至100℃の範囲にあることが好ましい。乾燥は、1分〜36時間の範囲で行うことができ、5乃至30分間の範囲で行うことが好ましい。溶液のpHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用する場合、pHは4.5乃至5.5の範囲にあることが好ましく、特にpH5であることが好ましい。
【0129】
配向膜は、前記のようにポリマー層を架橋したのち、表面をラビング処理することにより得ることができる。
ラビング処理は、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を利用することができる。即ち、配向膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムあるいはナイロン、ポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより配向を得る方法を用いることができる。一般的には、長さ及び太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。
配向膜は、その上に設けられる液晶性化合物の配向方向を規定するように機能する。
【0130】
[偏光板]
偏光板は、偏光膜およびその両側に配置された二枚の透明保護膜からなる。
本発明のセルロースアセテート積層体または位相差板を偏光板の保護膜の代わりに用いることで様々な液晶セルに対応する偏光板を得ることができる。
【0131】
(偏光板の保護膜としてのセルロースアセテート積層体の使用)
偏光板の二枚の透明保護膜の代わりとして、セルロースアセテート積層体を用いることができる。この場合、セルロースアセテート層はそれぞれのセルロースアセテート積層体の偏光膜側に一層設けられていればよい。セルロースアセテート積層体の偏光膜側と反対の面にセルロースアセテート層を設けてもよい。偏光板は通常の直線偏光板と同様の機能を有する。
【0132】
(一体型偏光板1)
偏光板の透明保護膜のうちの一方の代わりとして、本発明の光学特性が調整されたセルロースアセテート積層体(位相差板)を用いることができる。この場合、セルロースアセテート層は少なくともセルロースアセテート積層体の偏光膜側に一層設けられていればよい。セルロースアセテート積層体の偏光膜側と反対の面にセルロースアセテート層を設けてもよい。
他方の保護膜としては通常の偏光板用保護膜か光学的に等方性(光学特性を調整していないセルロースアセテート積層体)を用いることができる。
このようにして一体型(楕円)偏光板を作製することができる。
この一体型偏光板は、VA型およびMVA型、およびTN、STN、HAN型などの反射型の液晶表示装置に有利に用いることができる。
【0133】
(一体型偏光板2)
偏光板の透明保護膜のうちの一方の代わりとして、本発明の光学特性が調整されていないセルロースアセテート積層体のセルロースアセテート層の上に、円盤状液晶性化合物から形成した光学異方性層が設けられた位相差板を用いることができる。
この場合、セルロースアセテート積層体を、光学異方性層が偏光膜に対して外側となるように配置する。セルロースアセテート積層体の偏光膜側にはセルロースアセテート層を設けることが好ましい。
他方の保護膜としては通常の偏光板用保護膜か光学的に等方性(光学特性を調整していないセルロースアセテート積層体)を用いることができる。
このようにして一体型(楕円)偏光板を作製することができる。
この一体型偏光板は、TN型、OCB型、および水平配向型の液晶表示装置に有利に用いることができる。
この場合、セルロースアセテート積層体の遅相軸方向および光学異方性層の遅相軸が、偏光膜の透過軸と実質的に平行であることが好ましい。
【0134】
(一体型偏光板3)
偏光板の透明保護膜のうちの一方の代わりとして、本発明の光学特性が調整されたセルロースアセテート積層体のセルロースアセテート層の上に、円盤状液晶性化合物から形成した光学異方性層が設けられた位相差板を用いることができる。
この場合、セルロースアセテート積層体を、光学異方性層が偏光膜に対して外側となるように配置する。セルロースアセテート積層体の偏光膜側にはセルロースアセテート層を設けることが好ましい。
他方の保護膜としては通常の偏光板用保護膜か光学的に等方性(光学特性を調整していないセルロースアセテート積層体)を用いることができる。
このようにして一体型(楕円)偏光板を作製することができる。
この一体型偏光板は、TN型、OCB型、および水平配向型の液晶表示装置に有利に用いることができる。
この場合、セルロースアセテート積層体の遅相軸方向および光学異方性層の遅相軸が、偏光膜の透過軸と実質的に平行であることが好ましい。
【0135】
(一体型偏光板4)
偏光板の透明保護膜のうちの一方の代わりとして、本発明の光学特性が調整されていないセルロースアセテート積層体のセルロースアセテート層の上に、棒状液晶性化合物から形成した光学異方性層が設けられた位相差板を用いることができる。
この場合、セルロースアセテート積層体を、光学異方性層が偏光膜に対して外側となるように配置する。セルロースアセテート積層体の偏光膜側にはセルロースアセテート層を設けることが好ましい。
他方の保護膜としては通常の偏光板用保護膜か光学的に等方性(光学特性を調整していないセルロースアセテート積層体)を用いることができる。
このようにして一体型(楕円)偏光板を作製することができる。
この一体型偏光板は、OCB型液晶表示装置に有利に用いることができる。
【0136】
(一体型偏光板5)
偏光板の透明保護膜のうちの一方の代わりとして、本発明の光学特性が調整されたセルロースアセテート積層体のセルロースアセテート層の上に、棒状液晶性化合物から形成した光学異方性層が設けられた位相差板を用いることができる。
この場合、セルロースアセテート積層体を、光学異方性層が偏光膜に対して外側となるように配置する。セルロースアセテート積層体の偏光膜側にはセルロースアセテート層を設けることが好ましい。
他方の保護膜としては通常の偏光板用保護膜か光学的に等方性(光学特性を調整していないセルロースアセテート積層体)を用いることができる。
このようにして一体型(楕円)偏光板を作製することができる。
この一体型偏光板は、OCB型および水平配向型の液晶表示装置に有利に用いることができる。
【0137】
本発明のセルロースアセテート積層体を用いた(直線または楕円)偏光板は、従来から行われていた表面処理工程を行わなくても充分な接着性が得られるため、製造の際の工程数を少なくすることができ、従って偏光板を簡単且つ低コストで製造できる。
【0138】
[液晶表示装置]
本発明のセルロースアセテート積層体またはそれを用いる位相差板および偏光板は、反射型液晶表示装置あるいは透過型液晶表示装置に有利に用いられる。
反射型液晶表示装置は、反射板、液晶セルおよび偏光膜がこの順に積層されており、そしてさらにλ/4板が反射板と偏光膜との間に配置されている。本発明のセルロースアセテート積層体面内の、波長450nmで測定したレターデーション値(Re450)が100乃至125nmの範囲にあり且つ波長590nmで測定したレターデーション値(Re590)が120乃至160nmの範囲にあり、そしてRe590−Re450≧2nmの関係を満足するように光学特性を(レターデーション上昇剤の添加や延伸処理により)調節することで、上記のλ/4板として有利に用いることができる。
【0139】
透過型液晶表示装置の例としては、TN、MVAおよびOCB型の液晶表示装置液晶が挙げられる。これらの液晶表示装置は、セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなる。液晶セルは、二枚の電極基板の間に液晶を坦持している。
本発明の位相差板を液晶表示装置に用いる場合は、位相差板を、液晶セルと一方の偏光板との間に、一枚配置するか、あるいは液晶セルと双方の偏光板との間に二枚配置する。このように、通常の偏光板と液晶セルとの間に、本発明の位相差板を挿入して、従来と同様に液晶セルを光学的に補償することができる。
本発明の偏光板を液晶表示装置に用いる場合は、液晶表示装置の二枚の偏光板のうちの少なくとも一方の偏光板を、本発明の偏光板とすればよい。その場合には偏光板を、その位相差板が液晶セル側となるように配置する。
本発明の位相差板あるいは偏光板を液晶表示装置に用いることで、液晶表示装置を簡易に、そして低コストで生産することができる。
【0140】
VAモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性化合物が実質的に垂直に配向している。VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性化合物を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性化合物を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58〜59(1998)記載)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)が含まれる。
【0141】
OCBモードの液晶セルは、棒状液晶性化合物を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルである。
ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensatory Bend) 液晶モードとも呼ばれる。棒状液晶性化合物が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶表示装置は、応答速度が速いとの利点がある。
ベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置は、米国特許4583825号、同5410422号の各明細書に開示されている。
【0142】
TNモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性化合物が実質的に水平配向し、さらに60乃至120゜にねじれ配向している。
TNモードの液晶セルは、カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。
【0143】
[写真感光材料]
一般的なハロゲン化銀写真感光材料は、支持体上に下塗り層およびハロゲン化銀乳剤層が設けられてなる。また、下塗り層を設ける代わりに、支持体の表面に親水化処理を行う場合もある。
支持体として本発明のセルロースアセテート積層体を用い、そのセルロースアセテート層上にハロゲン化銀乳剤層を設けることにより、従来と同等の接着性が得られるが、積層体に表面処理や、下塗り層の塗設を行っても構わない。
ハロゲン化銀写真感光材料には、さらに非感光性層(保護層、中間層、バッキング層)を設けることが好ましい。
ハロゲン化銀乳剤層および非感光性層は、一般に親水性コロイド層である。親水性コロイドとして用いられる親水性ポリマーの例には、蛋白質(例、ゼラチン、コロイド状アルブミン、カゼイン)、セルロース誘導体(例、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース)、多糖類(例、寒天、アルギン酸ソーダ、澱粉誘導体)および合成親水性コロイド(例、ポリビニルアルコール、ポリN−ビニルピロリドン、ポリアクリル酸共重合体、ポリアクリルアミド、こえらの誘導体または部分加水分解物)が含まれる。必要に応じて、二種類以上のポリマーの相溶性混合物を使用してもよい。
最も一般的に用いられる親水性ポリマーは、ゼラチンである。
【0144】
ハロゲン化銀乳剤層および非感光性層には、合成ポリマーを添加してもよい。合成ポリマーとしては、一般にビニル系ポリマーが用いられる。合成ポリマーは、ラテックス状の水性乳化物として各層に添加することができる。合成ポリマーは、写真感光材料の寸度安定性を向上させる機能を有する。二種類以上の合成ポリマーを併用してもよい。前記の親水性コロイドと合成ポリマーを併用しても良い。合成ポリマーについては、米国特許2376005号、同2739137号、同2853457号、同3062674号、同3411911号、同3488708号、同3525620号、同3635715号、同3607290号、同3645740号、英国特許1186699号、同1307373号の各明細書に記載がある。
好ましい合成ポリマーの例には、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリスルホアルキルアクリレート、ポリスルホアルキルメタクリレート、ポリグリシジルアクリレート、ポリグリシジルメタクリレート、ポリヒドロキシアルキルアクリレート、ポリヒドロキシアルキルメタアクリレート、ポリアルコキシアルキルアクリレート、ポリアルコキシアルキルメタクリレート、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニルおよびポリ塩化ビニリデンが含まれる。また、無水マレイン酸や無水イタコン酸のポリマーを用いてもよい。これらを組み合わせたコポリマーを用いてもよい。
【0145】
ハロゲン化銀乳剤層および非感光性層には、硬膜剤を用いる硬膜処理を実施してもよい。
硬化剤の例には、アルデヒド類(例、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド)、ケトン類(例、ジアセチル、シクロペンタンジオン)、ビス(2−クロロエチル尿素)、2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン、反応性ハロゲン化合物類(米国特許3288775号、同2732303号、英国特許974723号、同1167207号の各明細書記載)、ジビニルスルホン、5−アセチル−1,3−ジアクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、反応性のオレフィン化合物類(米国特許3635718号、同3232763号、同3490911号、同3642486号、英国特許994869号の各明細書記載)、N−ヒドロキシメチルフタルイミド、N−メチロール化合物(米国特許2732316号、同2586168号の各明細書記載)、イソシアナート類(米国特許3103437号明細書記載)、アジリジン化合物類(米国特許3017280号、同2983611号の各明細書記載)、酸誘導体類(米国特許2725294号、同2725295号の各明細書記載)、カルボジイミド系化合物類(米国特許3100704号明細書記載)、エポキシ化合物類(米国特許3091537号明細書記載)、イソオキサゾール系化合物類(米国特許3321313号、同3543292号の各明細書記載)、ジオキサン誘導体(例、ジヒドロキシジオキサン、ジクロロジオキサン)、N−カルバモイルピリジニウム塩類、ハロアミジニウム塩類および無機硬膜剤(例、クロム明バン、硫酸ジルコニウム)が含まれる。硬膜剤は、プレカーサーとして添加してもよい。硬膜剤プレカーサーの例には、アルカリ金属ビサルファイトアルデヒド付加物、ヒダントインのメチロール誘導体および第一級脂肪酸ニトロアルコールが含まれる。
【0146】
ハロゲン化銀乳剤は、一般に、水溶性銀塩(例、硝酸銀)溶液と水溶性ハロゲン塩(例、臭化カリウム)溶液とを、水溶性高分子(例、ゼラチン)の溶液の存在下で混合して製造する。ハロゲン化銀としては、塩化銀および臭化銀に加えて、塩臭化銀、沃臭化銀、塩沃臭化銀のような混合ハロゲン化銀も用いることができる。
ハロゲン化銀乳剤には、感光材料の製造工程、保存中あるいは処理中の感度低下やカブリの発生を防ぐために、種々の化合物を添加することができる。それらの添加剤の例には、複素環化合物(例、4−ヒドロキシ−6−メチル−1,3,3a,7−テトラザインデン、3−メチル−ベンゾチアゾール、1−フェニル−5−メルカプトテトラゾール)、含水銀化合物、メルカプト化合物および金属塩類が含まれる。
ハロゲン化銀乳剤には、一般に化学増感を実施する。化学増感は、貴金属増感、硫黄増感および還元増感に分類される。貴金属増感では、塩化金酸塩、三塩化金のような金化合物や、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウムのようなその他の貴金属の塩類が増感剤として用いられる。硫黄増感では、銀塩と反応して硫化銀を形成するイオウ化合物が増感剤として用いられる。還元増感では、第1スズ塩やアミン類のような還元性物質が増感剤として用いられる。
ハロゲン化銀乳剤には、分光増感や強色増感を行うことができる。分光増感は、シアニン、メロシアニン、カルボシアニンのようなシアニン色素類を用いて実施する。二種類以上の増感色素を組み合わせて用いてもよい。シアニン色素類とスチリル染料を組み合わせて使用してもよい。
【0147】
非感光性層中に、増白剤(例、スチルベン、トリアジン、オキサゾール、クマリン系化合物)、紫外線吸収剤(例、ベンゾトリアゾール、チアゾリジン、桂皮酸エステル系化合物)や光吸収剤を添加してもよい。光吸収剤としては、公知の種々の写真用フィルター染料を用いることができる。
スベリ剤もしくは接着防止剤(米国特許2732305号、同4042399号、同3121060号、英国特許14466304号の各明細書に記載)、水不溶性物質(米国特許312106号明細書記載)あるいは界面活性物質(米国特許3617286号明細書記載)を各層に添加してもよい。スベリ剤もしくは接着防止剤としては、脂肪酸アミド、脂肪酸エステルおよびポリエステルが用いられる。
【0148】
ハロゲン化銀乳剤層または非感光性層へ、特にハロゲン化銀写真感光材料の最も外側に設けられた非感光性層(帯電防止層)に帯電防止剤を添加してもよい。
帯電防止剤の例には、親水性ポリマー(米国特許2725297号、同2972535号、同2772536号、同2972537号、同2972538号、同3033679号、同3072484号、同3262807号、同3525621号、同3615531号、同3630743号、同3653906号、同3655384号、同3655386号、英国特許1222154号、同1235075号の各明細書記載)、疎水性ポリマー(米国特許2973263号、同2976148号の各明細書記載)、ビグアニド化合物(米国特許2584362号、同2591590号の各明細書記載)、スルホン酸型アニオン化合物(米国特許2639234号、同2649372号、同3201251号、同3457076号の各明細書記載)、リン酸エステルと第4級アンモニウム塩類(米国特許3317344号、同3514291号の各明細書記載)、カチオン性化合物(米国特許2882157号、同2982651号、同3399995号、同3549369号、同3564043号)、ノニオン性化合物(米国特許3625695号明細書記載)、両性化合物(米国特許3736268号明細書記載)、錯化合物(米国特許2647836号明細書記載)および有機塩類(米国特許2717834号、同3655387号明細書記載)が含まれる。
【0149】
ハロゲン化銀乳剤層の構成は、黒白またはカラーあるいは感光材料の用途に応じて決定する。
ハロゲン化銀乳剤は、オルソ乳剤、パンクロ乳剤、赤外線用乳剤、X線のような不可視光記録用乳剤、カラー写真用乳剤(例えば色形成カプラーを含む乳剤)、染料現像薬を含む乳剤あるいは漂白可能な染料を含有する乳剤として調製してもよい。
カラー写真用乳剤には、2当量もしくは4当量の色形成カプラーを添加することができる。色形成カプラーの例には、開鎖型ケトメチレン系イエロー形成カプラー(例、ベンゾイルアセトアニライド系カプラー、ピバロイルアセトアニライド系カプラー)、マゼンタ形成カプラー(例、ピラゾロン系カプラー、インダゾロン系カプラー)およびシアン形成カプラー形成カプラー(例、フェノール系カプラー、ナフトール系カプラー)が含まれる。イエローカプラーについては、特公昭48−18256号公報(一般式〔I〕)に記載がある。マゼンタカプラーについては、特公昭48−38416号公報に記載がある。シアンカプラーについては、特開昭48−42732号号公報に記載がある。
カラードカプラー(米国特許2428054号、同2449966号、同2455170号、同2600788号、同2983608号、同3148062号の各明細書記載)や離脱抑制型カプラー(米国特許3227554号明細書記載)を用いてもよい。
【0150】
バッキング層(ハロゲン化銀乳剤層とは反対側の面に設けられた非感光性層)中にカーボンブラックを添加してもよい。そのようなバッキング層は、現像処理において、前浴(プレバス)を経て水洗工程に入った段階で除去される。前浴は通常pHが9.25±0.10のアルカリ水溶液である。アルカリ性水溶液には水混和性の有機溶媒を添加していてもよい。
バッキング層に用いられるバインダーは、アルカリ水溶液に可溶性または膨潤性のポリマーである。ポリマーの例には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースヘキサヒドロフタレート、セルロースアセテートヘキサヒドロフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセチルフタレートおよびポリアクリル酸エステルが含まれる。
【0151】
処理工程は、処理浴の時間を含めて、全体のスケジュールを設計しておくことが好ましい。迅速処理型のカラー印画紙処理(例えば、富士写真フイルム(株)のCP25Q、CP40FA、CP43FA)の場合は、処理浴は最終リンス工程に合わせて、60乃至80秒で行われる。カラーネガフィルムの処理(例えば、富士写真フイルム(株)のCN−16)の場合は、画像安定浴の時間を60秒に調整する。
カラー印画紙や黒白フイルムの処理では、非節水型の水洗工程の後、乾燥工程に入り、安定浴のような、処理浴工程がない場合もある。
処理浴の時間は、その対象処理の設計工程と調和が取れることが好ましい。処理浴の時間は、10秒乃至5分が好ましく、20秒乃至1分がさらに好ましい。マイクロフイルムの処理で3タンクのプロセサーを使用する場合は、水洗工程に3タンクを使用するよりも、2タンクを水洗処理とし残りの1タンクを安定化浴とすることが好ましい。
濃厚液の塗り付け処理を実施してもよい。塗り付け処理の時間は、1乃至2秒であることが好ましい。
【0152】
ハロゲン化銀写真感光材料の処理方法および処理液については、リサーチ・ディスクロージャー(Research Disclosure)176号、28〜30頁(RD−17643)に記載されている。写真処理は、目的に応じて、銀画像を形成する写真処理(黒白写真処理)あるいは色素像を形成する写真処理(カラー写真処理)のいずれかを選択する。処理温度は、一般に18乃至50℃である。
黒白用現像液の現像主薬の例には、ジヒドロキシベンゼン類(例、ハイドロキノン)、3−ピラゾリドン類(例、1−フェニル−3−ピラゾリドン)およびアミノフェノール類(例、N−メチル−p−アミノフェノール)が含まれる。二種類以上の現像主薬を組み合わせて用いてもよい。現像液には、その他の公知の添加剤を加えてもよい。現像液の添加剤の例には、保恒剤、アルカリ剤、pH緩衝剤、カブリ防止剤、溶解助剤、色調剤、現像促進剤(例、4級塩、ヒドラジン、ベンジルアルコール)、界面活性剤、消泡剤、硬水軟化剤、硬膜剤(例、グルタルアルデヒド)および粘性付与剤が含まれる。
ハロゲン化銀写真感光材料に、黒白反転現像処理を実施してもよい。黒白反転現像処理の処理温度は、一般に18乃至65℃である。18℃より低い温度や、65℃を越える温度で実施する場合もある。
【0153】
反転現像処理は、一般に、第1現像−水洗−漂白−清浄−全面露光−第2現像−定着−水洗−乾燥の工程からなる。
第1現像の黒白写真処理に用いる現像主薬の例には、ジヒドロキシベンゼン類(例、ハイドロキノン)、3−ピラゾリドン類(例、1−フェニル−3−ピラゾリドン)、アミノフェノール類(例、N−メチル−p−アミノフェノール)、1−フェニル−3−ピラゾリン類、アスコルビン酸および1,2,3,4−テトラヒドロキノリン環とインドレン環とが縮合した複素環化合物(米国特許4067872号明細書記載)が含まれる。二種類以上の現像主薬を併用してもよい。ジヒドロキシベンゼン類とピラゾリドン類またはアミノフェノール類の併用が特に好ましい。現像液には、そのたの公知の添加剤を加えてもよい。現像液の添加剤の例には、保恒剤、アルカリ剤、pH緩衝剤、カブリ防止剤、溶解助剤、色調剤、現像促進剤、界面活性剤、消泡剤、硬水軟化剤、硬膜剤および粘性付与剤が含まれる。保恒剤としては亜硫酸イオンが代表的である。亜硫酸イオンは、現像液中に0.15モル/リットル以上含まれることが好ましい。
【0154】
第1現像液のpHは、8.5乃至11であることが好ましく、9.5乃至10.5であることがさらに好ましい。
第1現像液は、ハロゲン化銀溶剤(例、NaSCN)を0.5乃至6g/リットルの量で含むことが好ましい。
第2現像液としては、一般の黒白現像処理液を用いることができる。すなわち、第1現像液からハロゲン化銀溶剤を除去した組成のものである。第1現像液のpHは、9乃至11であることが好ましく、9.5乃至10.5であることがさらに好ましい。
漂白液に用いる漂白剤の例には、重クロム酸カリウムおよび硫酸セリウムが含まれる。
定着液には、チオ硫酸塩およびチオシアン酸塩を添加することが好ましい。必要により、水溶性アルミニウム塩を定着剤に添加してもよい。
【0155】
現像主薬を感光材料中、例えばハロゲン化銀乳剤層中に添加し、感光材料をアルカリ水溶液中で処理して現像してももよい。疎水性の現像主薬をハロゲン化銀乳剤層に添加する方法は、リサーチディスクロージャー169号(RD−16928)、米国特許2739890号、英国特許813253号、西独国特許1547763号の各明細書に記載がある。
定着液に用いる定着剤としては、チオ硫酸塩チオシアン酸塩が一般に用いられる。また、有機硫黄化合物も定着剤としての作用があることが知られている。定着液には、硬膜剤として水溶性アルミニウム塩を添加してもよい。
【0156】
カラー反転現像処理は、一般に(ア)発色現像、(イ)黒白現像、(ウ)漂白、(エ)定着、(オ)漂白定着、(カ)水洗、(キ)安定、(ク)前硬膜および(ケ)各種促進浴からなる。
(ア)に用いる発色現像液は、芳香族第一級アミン系発色現像主薬を主成分とするアルカリ性水溶液であることが好ましい。発色現像主薬としては、アミノフェノール系化合物およびp−フェニレンジアミン系化合物が用いられる。p−フェニレンジアミン系化合物の方が好ましい。p−フェニレンジアミン系化合物の例には、3−メチル−4−アミノ−N,N−ジエチルアニリン、3−メチル−4−アミノ−N−エチル−N−β−ヒドロキシエチルアニリン、3−メチル−4−アミノ−N−エチル−N−β−メタンスルホンアミドエチルアニリン、3−メチル−4−アミノ−N−エチル−N−β−メトキシエチルアニリン、これらの硫酸塩、塩酸塩もしくはp−トルエンスルホン酸塩が含まれる。二種類以上の化合物を併用してもよい。
【0157】
発色現像液は、一般に、pH緩衝剤(例、アルカリ金属の炭酸塩、ホウ酸塩もしくはリン酸塩)や現像抑制剤またはカブリ防止剤(例、臭化物塩、沃化物塩、ベンズイミダゾール類、ベンゾチアゾール類、メルカプト化合物)を含む。発色現像液には、保恒剤(例、ヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン、亜硫酸塩ヒドラジン類、フェニルセミカルバジド類、トリエタノールアミン、カテコールスルホン酸類、トリエチレンジアミン、1,4−ジアザビシクロ〔2,2,2〕オクタン)、有機溶剤(例、エチレングリコール、ジエチレングリコール)、現像促進剤(例、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール、四級アンモニウム塩、アミン類)、色素形成カプラー、競争カプラー、かぶらせ剤(例、ナトリウムボロンハイドライド)、補助現像主薬(例、1−フェニル−3−ピラゾリドン)、粘性付与剤およびキレート剤(例、アミノポリカルボン酸、アミノポリホスホン酸、アルキルホスホン酸、ホスホノカルボン酸)を添加してもよい。キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、シクロヘキサンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、ニトリロ−N,N,N−トリメチレンホスホン酸、エチレンジアミン−N,N,N′,N′−テトラメチレンホスホン酸、エチレンジアミン−ジ(o−ヒドロキシフェニル酢酸)およびそれらの塩が代表的である。
【0158】
反転処理を実施する場合は、通常(イ)の黒白現像を行ってから発色現像する。黒白現像液の現像主薬の例には、ジヒドロキシベンゼン類(例、ハイドロキノン)、3−ピラゾリドン類(例、1−フェニル−3−ピラゾリドン)およびアミノフェノール類(例、N−メチル−p−アミノフェノール)が含まれる。二種類以上の現像主薬を併用することが好ましい。
発色現像液および黒白現像液のpHは、9乃至12であること好ましい。現像液の補充量は、一般に感光材料1平方メートル当たり3リットル以下である。なお、補充液中の臭化物イオン濃度を低減させておくことにより、補充量を500ミリリットル以下にすることもできる。補充量を低減する場合には、処理槽内の処理液と空気との接触面積を小さくすることによって、液の蒸発および空気酸化を防止することが好ましい。また、現像液中の臭化物イオンの蓄積を抑える手段を用いることにより補充量を低減することもできる。
【0159】
発色現像後の写真感光材料は、通常漂白処理される。漂白処理は定着処理と同時に行なわれてもよいし(漂白定着処理)、個別に行なわれてもよい。処理の迅速化を図るため、漂白処理後に漂白定着処理する処理方法を用いてもよい。二槽の連続した漂白定着浴で処理すること、漂白定着処理の前に定着処理すること、あるいは漂白定着処理後に漂白処理することも可能である。
漂白剤としては、多価金属(例、鉄(III)、コバルト(III) 、クロム(IV)、銅(II))の化合物、過酸類、キノン類やニトロ化合物が用いられる。漂白剤の例には、フェリシアン化物、重クロム酸塩、鉄(III) もしくはコバルト(III)の有機錯塩、過硫酸塩、臭素酸塩、過マンガン酸塩およびニトロベンゼン類が含まれる。上記有機錯塩を構成する有機酸としては、アミノポリカルボン酸(例、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、シクロヘキサンジアミン四酢酸、メチルイミノ二酢酸、1,3−ジアミノプロパン四酢酸、グリコールエーテルアミン四酢酸)、クエン酸、酒石酸やリンゴ酸が用いられる。アミノポリカルボン酸鉄(III)錯塩(例、エチレンジアミン四酢酸鉄(III)錯塩)および過硫酸塩は、迅速処理が可能で、環境への影響が少ないため好ましく用いられる。アミノポリカルボン酸鉄(III)錯塩は、漂白液においても漂白定着液においても特に有効である。アミノポリカルボン酸鉄(III)錯塩を用いた漂白液または漂白定着液のpHは、一般に5.5乃至8である。処理の迅速するために、5.5よりも低いpHで処理してもよい。
【0160】
漂白液、漂白定着液およびそれらの前浴には、漂白促進剤を添加してもよい。漂白促進剤の例には、メルカプト基またはジスルフィド結合を有する化合物(米国特許3893858号、西独特許1290812号各明細書、特開昭53−95630号公報、リサーチ・ディスクロージャーNo. 17,129号(1978年7月)記載)、チアゾリジン誘導体(特開昭50−140129号公報記載)、チオ尿素誘導体(米国特許3706561号明細書記載)、沃化物塩(特開昭58−16235号公報記載)、ポリオキシエチレン化合物類(西独特許2748430号明細書記載)、ポリアミン化合物(特公昭45−8836号公報記載)および臭化物イオンが含まれる。メルカプト基またはジスルフィド基を有する化合物は、漂白促進効果が大きい。特に好ましい漂白促進剤は、米国特許3893858号、同4552834号、西独特許1290812号の各明細書、特開昭53−95630号公報に記載がある。漂白促進剤は、ハロゲン化銀写真感光材料に添加してもよい。通常のカラー写真フイルムを漂白定着する場合に、漂白促進剤は特に有効である。
【0161】
定着剤の例には、チオ硫酸塩、チオシアン酸塩、チオエーテル系化合物、チオ尿素類および多量の沃化物塩が含まれる。チオ硫酸塩が好ましい。チオ硫酸アンモニウムが、最も一般的に使用されている。漂白定着液の保恒剤の例には、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、スルフィン酸類およびカルボニル重亜硫酸付加物が含まれる。
ハロゲン化銀カラー写真感光材料は、脱銀処理後、一般に水洗または安定工程を実施する。水洗工程での水洗水量は、感光材料の特性(例えば、カプラーのような使用素材)、用途、さらには水洗水温、水洗タンクの数(段数)、向流、順流等の補充方式のような条件に従い設定する。多段向流方式における水洗タンク数と水量の関係は、Journal of the Society of Motion Picture and Television Engineers 第64巻、248〜253頁(1955年5月号)に記載がある。
【0162】
多段向流方式によれば、水洗水量を大幅に減少することができる。ただし、タンク内における水の滞留時間の増加により、バクテリアが繁殖し、生成した浮遊物が感光材料に付着するような問題が生じる。ハロゲン化銀カラー写真感光材料の処理において、このような問題の解決策として、カルシウムイオンをマグネシウムイオンを低減させることが好ましい(特願昭61−131632号明細書記載)。また、イソチアゾロン化合物(特開昭57−8542号公報記載)、サイアベンダゾール類、塩素化イソシアヌール酸ナトリウムのような塩素系殺菌剤を使用してもよい。また、ベンゾトリアゾールも殺菌作用がある。その他の殺菌剤については、堀口博著「防菌防黴剤の化学」、衛生技術会編「微生物の滅菌、殺菌、防黴技術」、日本防菌防黴学会編「防菌防黴剤事典」に記載がある。
【0163】
水洗水のpHは、4乃至9であることが好ましく、5乃至8であることがさらに好ましい。水温と水洗時間は、感光材料の特性や用途に応じて設定する。水温と水洗時間は、一般には15乃至45℃かつ20秒乃至10分の範囲、好ましくは25乃至40℃かつ30秒乃至5分の範囲内である。
水洗の代りに、直接安定液によって処理することもできる。このような安定化処理については、特開昭57−8543号、同58−14834号、同60−220345号の各公報に記載がある。
水洗処理に続いて、さらに安定化処理を実施してもよい。例えば、ホルマリンと界面活性剤を含有する安定浴を、通常のカラー写真フイルムの最終浴として実施してもよい。最終安定浴にも、各種キレート剤や防黴剤を加えることができる。
【0164】
ハロゲン化銀カラー写真感光材料は、処理の簡略化および迅速化の目的で、発色現像主薬を内蔵してもよい。内蔵する場合には、発色現像主薬のプレカーサーを用いるのことが好ましい。プレカーサーの例には、インドアニリン系化合物(米国特許3342597号明細書記載)、シッフ塩基型化合物(米国特許3342599号明細書、リサーチ・ディスクロージャー14850号、同15159号記載)、アルドール化合物(リサーチ・ディスクロージャー13924号記載)、金属塩錯体(米国特許3719492号明細書記載)およびウレタン系化合物(特開昭53−135628号公報記載)が含まれる。
【0165】
ハロゲン化銀カラー写真感光材料は、発色現像を促進する目的で、1−フェニル−3−ピラゾリドン類を内蔵してもよい。1−フェニル−3−ピラゾリドン類については、特開昭56−64339号、同57−144547号、同58−115438号の各公報に記載がある。
処理液は、10乃至50℃において使用する。通常は33乃至38℃の温度であるが、より高温にして処理を促進し処理時間を短縮したり、逆により低温にして画質の向上や処理液の安定性の改良を達成することができる。また、感光材料の節銀のため、コバルト補力もしくは過酸化水素補力を用いた処理(西独特許2226770号、米国特許3674499号の各明細書に記載)を行ってもよい。
【0166】
【実施例】
[実施例1]
(セルロースアセテートフイルム用ドープの調整)
ミキシングタンクに、アセチル置換度2.9のセルロースアセテート(重合度300)17.9質量部、トリフェニルホスフェート2.1質量部、メチレンクロライド66質量部、メタノール12質量部、およびn−ブタノール2質量部を投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液(ドープ)を調整した。
【0167】
(セルロースアセテート層用ドープの調整)
別のミキシングタンクに、アセチル置換度1.8のセルロースジアセテート(重合度250)20質量部、金属酸化物、二酸化珪素微粒子(平均粒径0.1μm)0.0012質量部、メチレンクロライド74質量部、およびメタノール6質量部を投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液(ドープ)を調整した。
【0168】
(セルロースアセテート積層体の作製)
これらのドープを三層共流延ダイを用い、セルロースアセテートフイルム用ドープが内側に、セルロースアセテート層用ドープが両外側になるように配置してステンレス製ドラム上に同時に吐出させて共流延した。
このとき、セルロースアセテートフイルム用ドープの厚さが470μm、セルロースアセテート層用ドープの厚さが各15μmになるように設定して流延した。流延膜を残留溶媒量が30質量%以下になるまで風乾した後、ドラムより剥ぎ取り、さらに乾燥して残留溶剤量が実質的に0%(0.5%以下を意味する)となるまで50〜140℃まで段階的に温度を上げて乾燥し、セルロースアセテート積層体を製造した。
得られたセルロースアセテート積層体の、セルロースアセテートフイルムの厚さは100μm、セルロースアセテート層の厚さは各3μmであった。
また、セルロースアセテート層の塗設量は、4g/m2 であった。
また、25℃60%RH条件下においてセルロースアセテート層の表面エネルギーを、水/ヨウ化メチレンでの接触角測定から算出した結果、60mN/mであった。また、表面抵抗率は0.5×1010Ω/□であった。
【0169】
[実施例2]
流延時のセルロースアセテートフイルム用ドープの厚さが370μm、セルロースアセテート層用ドープの厚さが各15μmになるように設定する以外は実施例1と同様にしてセルロースアセテート積層体を作製した。
得られたセルロースアセテート積層体の、セルロースアセテートフイルムの厚さは74μm、セルロースアセテート層の厚さは各3μmであった。
また、セルロースアセテート層の塗設量は、4g/m2 であった。
また、セルロースアセテート層の表面エネルギーを測定した結果、65mN/mであった。また、表面抵抗率は0.7×1010Ω/□であった。
【0170】
[実施例3]
流延時のセルロースアセテートフイルム用ドープの厚さが570μm、セルロースアセテート層用ドープの厚さが各15μmになるように設定する以外は実施例1と同様にしてセルロースアセテート積層体を作製した。
得られたセルロースアセテート積層体の、セルロースアセテートフイルムの厚さは117μm、セルロースアセテート層の厚さは各3μmであった。
また、セルロースアセテート層の塗設量は、4g/m2 であった。
また、セルロースアセテート層の表面エネルギーを測定した結果、63mN/mであった。また、表面抵抗率は0.6×1010Ω/□であった。
【0171】
[比較例1]
実施例1で調整したセルロースアセテートフイルム用ドープを、単層型ダイを用いて、ステンレス製ドラム上に吐出させて流延した。
このとき、セルロースアセテートフイルム用ドープの膜厚が530μmになるように設定して流延した。流延膜を残留溶剤量が30質量%以下となるまで風乾し、ドラムより剥ぎ取り、セルロースアセテートフイルムを製造した。
得られたフイルムの厚さは106μmであった。
また、表面エネルギーを測定した結果、50mN/mであった。また、表面抵抗率は0.6×1012Ω/□であった。
さらに、得られたフイルムの片面に、0.1μmの厚さのゼラチン下塗り層を設けた。
【0172】
[比較例2]
得られるセルロースアセテートフイルムの厚みが80μmとなるように流延量を調整する以外は比較例1と同様にして、セルロースアセテートフイルムを作製した。
さらに得られたフイルムを、規定濃度2Nの水酸化ナトリウム水溶液(液温:50℃)中に10秒間浸漬した後、硫酸で中和して、さらに水洗乾燥する処理を行い、アルカリ鹸化処理を行った。
また、表面エネルギーを測定した結果、60mN/mであった。また、表面抵抗率は0.4×1012Ω/□であった。
【0173】
[比較例3]
得られるセルロースアセテートフイルムの厚みが123μmとなるように流延量を調整する以外は比較例1と同様にして、セルロースアセテートフイルムを作製した。
また、表面エネルギーを測定した結果、52mN/mであった。また、表面抵抗率は0.7×1012Ω/□であった。
さらに、得られたフイルムの片面に、0.1μmの厚さのゼラチン下塗り層を設けた。
【0174】
[実施例4]
実施例1で作製したセルロースアセテート積層体の一方のセルロースアセテート層の上に、アルキル変性PVA(MP203、クラレ(株)製)を、厚みが0.8μmとなるように塗設、そして乾燥し、その表面にラビング処理を行い配向膜を形成した。形成した配向膜の上に、下記の円盤状(ディスコティック)液晶性化合物0.4g、トリメチロールプロパントリアクリレート0.04g、光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製)0.004gを1.6gのメチルエチルケトンに溶解した溶液を、スピンコーターで塗布(回転数150rpmで2分間保持)して乾燥した。さらに室温から147℃まで10分間で昇温加熱して、円盤状液晶性化合物を配向させた後、147℃のまま高圧水銀灯を用いて2分間UV照射し、次いで室温まで放冷して、光学異方性層を形成した。このようにして位相差板を作製した。
得られた位相差板をTN型TFT液晶表示装置の偏光板の内側に、偏光板を、偏光板の吸収軸と位相差板の機械方向とが一致し、光学異方性層が液晶セル側を向くように貼り合わせた。その結果、位相差板が存在しない場合に比べて視野角特性が向上した。
【0175】
【化32】
【0176】
[比較例4]
比較例1で作製したゼラチン下塗り層が設けられたセルロースアセテートフイルムを用いる以外は実施例4と同様にして配向膜と光学異方性層の形成を行い、位相差板を作製した。
得られた位相差板をTN型TFT液晶表示装置の偏光板の内側に、偏光板の吸収軸と位相差板の機械方向とが一致し、光学異方性層が液晶セル側を向くように貼り合わせた。その結果、フイルムが存在しない場合に比べて視野角特性が向上した。
【0177】
[実施例5]
ヨウ素をドーピングしたポリビニルアルコールを延伸して偏光膜を作製した。
偏光膜の両面に、実施例2で作製したセルロースアセテート積層体を、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて接着し、(直線)偏光板を作製した。得られた偏光板は良好な二色性を示し、楕円偏光板として好適に使用し得るものであった。
【0178】
[比較例5]
ヨウ素をドーピングしたポリビニルアルコールを延伸して偏光膜を作製した。偏光膜の両面に、比較例2で作製したセルロースアセテートフイルムを、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて接着し、(直線)偏光板を作製した。得られた偏光板は良好な二色性を示し、楕円偏光板として好適に用いられるが、後述のように接着性がよくなかった。
【0179】
[実施例6]
実施例3で作製したセルロースアセテート積層体の表面に、カラーネガ用写真感光乳剤(富士フイルム(株)製、SUPERIA 100用乳剤)を塗布乾燥し、感光材料を作製した。得られた感光材料の写真性に問題はなく良好な特性を示した。
【0180】
[実施例6]
比較例3で作製したセルロースアセテートフイルムのゼラチン下塗り層の上に、カラーネガ用写真感光乳化剤(富士フイルム(株)製、SUPERIA 100用乳剤)を塗布乾燥し、感光材料を作製した。得られた感光材料の写真性に問題はなく良好な特性を示した。
【0181】
[実施例7]
セルロースアセテートフイルム用ドープに、下記のレターデーション上昇剤をセルロースアセテート100質量部に対し3.3質量部添加した以外は実施例1と同様にしてセルロースアセテート積層体を作製した。さらにセルロースアセテート積層体をドラムから剥離した直後に130℃で機械方向に垂直な方向に30%延伸して位相差板を作製した。
得られた位相差板について、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて、波長550nmにおけるReレターデーション値およびRthレターデーション値を測定した。その結果、位相差板のReレターデーション値は40nmであり、Rthレターデーション値は130nmであった。
また、セルロースアセテート層の表面エネルギーを測定した結果、60mN/m、表面抵抗率は0.5×1010Ω/□であった。
得られた位相差板をMVA型液晶表示装置の偏光板の内側に吸収軸と位相差板の機械方向が一致するように貼り合わせた。その結果、位相差板が存在しない場合に比べて視野角特性が向上した。
【0182】
【化33】
【0183】
[比較例7]
実施例7で用いたレターデーション上昇剤を、セルロースアセテートフイルム用ドープのセルロースアセテート100質量部に対して3.3質量部添加した以外は比較例1と同様にしてセルロースアセテートフイルムを作製した。さらにセルロースアセテートフイルムをドラムから剥離した直後に130℃で機械方向に垂直な方向に30%延伸して位相差板を作製した。さらに、得られた位相差板の片面に、0.1μmの厚さのゼラチン下塗り層を設けた。
得られた位相差板について、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて、波長550nmにおけるReレターデーション値およびRthレターデーション値を測定した。その結果、位相差板のReレターデーション値は40nmであり、Rthレターデーション値は130nmであった。
得られた位相差板をMVA型液晶表示装置の偏光板の内側に吸収軸とフイルムの機械方向が一致するように貼り合わせた。その結果、位相差板が存在しない場合に比べて視野角特性が向上した。
【0184】
[実施例8]
セルロースアセテートフイルム用ドープに、実施例7で用いたレターデーション上昇剤をセルロースアセテート100質量部に対し2.7質量部添加した以外は実施例1と同様にしてセルロースアセテート積層体を作製した。さらにセルロースアセテート積層体をドラムから剥離した直後に130℃で機械方向に垂直な方向に25%延伸して位相差板を作製した。
得られた位相差板について、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて、波長550nmにおけるReレターデーション値およびRthレターデーション値を測定した。その結果、位相差板のReレターデーション値は40nmであり、Rthレターデーション値は110nmであった。
また、セルロースアセテート層の表面エネルギーを測定した結果、61mN/m、表面抵抗率は0.4×1010Ω/□であった。
(配向膜の形成)
作製した位相差板の上に、下記の組成の配向膜塗布液を#16のワイヤーバーコーターで28ml/m2 塗布した。60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥した。次に位相差板の遅相軸(波長632nmで測定)と45℃の方向に、形成した膜にラビング処理を実施した。
【0185】
【0186】
【化34】
【0187】
(光学異方性層の形成)
配向膜上に、実施例4で用いた円盤状(ディスコティック)液晶性化合物41.01g、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(V#360、大阪有機化学(株)製)4.06g、セルロースアセテートブチレート(CAB551−0.2、イーストマンケミカル社製)0.90g、セルロースアセテートブチレート(CAB531−1、イーストマンケミカル社製)0.23g、光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製)1.35g、増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)0.45gを、102gのメチルエチルケトンに溶解した塗布液を、#3のワイヤーバーで塗布した。これを金属の枠に貼り付けて、130℃の恒温槽中で2分間加熱し、円盤状(液晶性)化合物を配向させた。次に、130℃で120W/cm高圧水銀灯を用いて、1分間UV照射し円盤状化合物を重合させた。その後、室温まで放冷した。このようにして、光学異方性層を設けて、本発明の(光学異方性層を有する)位相差板を作製した。
得られた位相差板と配向膜、光学異方性層を形成していない状態の位相差板を、OCB型液晶表示装置の偏光板の内側に、偏光板の吸収軸とフイルムの機械方向が一致し、光学異方性層を形成していない位相差板、している位相差板の順に位相差板の光学異方性層が液晶セル側を向くようにして貼り合わせた。その結果、フイルムが存在しない場合に比べて視野角特性が向上した。
【0188】
[比較例8]
セルロースアセテートフイルム用ドープに、実施例7で用いたレターデーション上昇剤をセルロースアセテート100質量部に対し2.7質量部添加した以外は比較例1と同様にしてセルロースアセテートフイルムを作製した。さらにセルロースアセテートフイルムをドラムから剥離した直後に130℃で機械方向に垂直な方向に25%延伸して位相差板を作製した。さらに、得られた位相差板の片面に、0.1μmの厚さのゼラチン下塗り層を設けた。
得られた位相差板について、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて、波長550nmにおけるReレターデーション値およびRthレターデーション値を測定した。その結果、位相差板のReレターデーション値は40nmであり、Rthレターデーション値は110nmであった。
さらにゼラチン下塗り層の上に、実施例8と同様に配向膜および光学異方性層を形成し(光学異方性層を有する)位相差板を作製した。
得られた位相差板を、OCB型液晶表示装置の偏光板の内側に、偏光板の吸収軸とフイルムの機械方向が一致し、位相差板の光学異方性層が液晶セル側を向くように貼り合わせた。その結果、フイルムが存在しない場合に比べて視野角特性が向上した。
【0189】
(接着性の評価)
実施例1〜3で作製したセルロースアセテート積層体を、ポリビニルアルコール系親水性接着剤を用いてガラス板に貼り付けた。
貼り付けたセルロースアセテート積層体の表面を、片刃カミソリで5mm各で格子状に切りつけて、9個の正方形に切断した。その上から粘着テープを貼り付けて、勢い良く粘着テープを剥離した。その結果セルロースアセテート積層体のセルロースアセテート層と親水性接着剤との界面で剥離は生じなかった。
同様に比較例1〜3で作製したセルロースアセテートフイルムの表面処理を施した面とガラス板を貼り付けた。粘着テープを用いて同様に接着性の評価を行った結果、表面処理面と親水性接着剤の界面での剥離は生じなかった。
【0190】
同様に、実施例7で作製した位相差板をガラス板に貼り付け、粘着テープを用いて接着性の評価を行った結果、位相差板のセルロースアセテート層と親水性接着剤の界面での剥離は生じなかった。
同様に、比較例7で作製した位相差板の表面処理を施した面をガラス板に貼り付け、粘着テープを用いて接着性の評価を行った結果、位相差板の表面処理を施した面と親水性接着剤の界面での剥離は生じなかった。
【0191】
同様に、実施例8で作製した位相差板の光学異方性層が設けられていない面をガラス板に貼り付け、粘着テープを用いて接着性の評価を行った結果、位相差板のセルロースアセテート層(ガラス板側)と親水性接着剤の界面での剥離は生じなかった。また位相差板の配向膜とセルロースアセテート層の界面でも剥離は生じなかった。
同様に、比較例8で作製した位相差板の光学異方性層が設けられていない面をガラス板に貼り付け、粘着テープを用いて接着性の評価を行った結果、位相差板と親水性接着剤の界面で剥離が生じた。また位相差板の配向膜とゼラチン下塗り層の界面では剥離は生じなかった。さらに同様に実施例5では偏光膜との間に剥離を生じなかったが、比較例5では剥離が生じた。
【0192】
同様に、実施例6で作製した感光材料の感光乳剤層が設けられていない面をガラス板に貼り付け、粘着テープを用いて接着性の評価を行った結果、感光材料のセルロースアセテート層(ガラス板側)と親水性接着剤の界面での剥離は生じなかった。また感光乳化剤層とセルロースアセテート層の界面でも剥離は生じなかった。
同様に、比較例8で作製した感光材料の感光乳化剤が設けられていない面をガラス板に貼り付け、粘着テープを用いて接着性の評価を行った結果、感光材料と親水性接着剤の界面で剥離が生じた。また感光材料の感光乳化剤層とゼラチン下塗り層の界面では剥離は生じなかった。
【0193】
[実施例9]
実施例1のフイルム用ドープを単層用流延ダイを用いて流延して乾燥膜厚100μmのフイルムを形成した上に、実施例1のアセテート層用ドープをディップコートを用いて実施例1と同様の乾燥膜厚となるように塗布によって形成した。得られた膜の光学特性や表面物性(表面エネルギー、抵抗率)は、流延の他に塗布工程が増えて繁雑になった他は、実施例1と同様であった。
これを用いて実施例7、8と同様の処理を施したところ、いずれも実施例6〜8と同様の特性と接着性を得ることができた。また膜厚を実施例2、3と同様にした他は実施例9と同様にして形成したフイルム積層体について、実施例5、6と同様の特性と接着性を得ることができた。
Claims (19)
- アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテートから形成されたセルロースアセテートフイルム、アセチル置換度が0.5以上2.2未満の範囲にあるセルロースアセテートから形成され0.1乃至100g/m2の範囲で設けられているセルロースアセテート層、そして、ポリビニルアルコールからなる膜をこの順序で有するセルロースアセテート積層体。
- 前記のセルロースアセテート層が、アセチル置換度が0.5以上2.2未満の範囲にあるセルロースアセテートと有機溶媒を含む塗布液を塗布することにより設けられた層であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアセテート積層体。
- 前記のセルロースアセテート層が、セルロースアセテートフイルムとの共流延により設けられた層であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアセテート積層体。
- 前記のセルロースアセテート層の表面エネルギーが55mN/m以上であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアセテート積層体。
- 前記のセルロースアセテート層の表面抵抗率が10 11 Ω/□以下であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアセテート積層体。
- 前記のポリビニルアルコールからなる膜が、変性ポリビニルアルコールからなる配向膜であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアセテート積層体。
- 前記のポリビニルアルコールからなる膜が、ヨウ素をドーピングしたポリビニルアルコールからなる偏光膜であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアセテート積層体。
- アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテートから形成されたセルロースアセテートフイルム、アセチル置換度が0.5以上2.2未満の範囲にあるセルロースアセテートから形成され0.1乃至100g/m2の範囲で設けられているセルロースアセテート層、変性ポリビニルアルコールからなる配向膜、そして円盤状液晶性化合物から形成した光学異方性層をこの順序で有することを特徴とする位相差板。
- 前記のセルロースアセテートフイルムが、アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテート、およびセルロースアセテート100質量部に対して、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を0.01乃至20質量部含み、さらにセルロースアセテート積層体の、面内のレターデーション値が−20乃至20nmの範囲にあり、そして厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmの範囲にあることを特徴とする請求項8に記載の位相差板。
- アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテートから形成されたセルロースアセテートフイルム、アセチル置換度が0.5以上2.2未満の範囲にあるセルロースアセテートから形成され0.1乃至100g/m2の範囲で設けられているセルロースアセテート層、変性ポリビニルアルコールからなる配向膜、そして水平配向した棒状液晶性化合物の配向状態を架橋により固定化した光学異方性層をこの順序で有することを特徴とする位相差板。
- 前記のセルロースアセテートフイルムが、アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテート、およびセルロースアセテート100質量部に対して、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を0.01乃至20質量部含み、さらにセルロースアセテート積層体の、面内のレターデーション値が−20乃至20nmの範囲にあり、そして厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmの範囲にあることを特徴とする請求項10に記載の位相差板。
- ヨウ素をドーピングしたポリビニルアルコールからなる偏光膜とその両側に配置された二枚の透明保護膜からなる偏光板において、透明保護膜のそれぞれが、アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテートから形成されたセルロースアセテートフイルム、そしてアセチル置換度が0.5以上2.2未満の範囲にあるセルロースアセテートから形成され0.1乃至100g/m2の範囲で設けられているセルロースアセテート層を有するセルロースアセテート積層体であって、セルロースアセテート積層体が、セルロースアセテート層が偏光膜側となるように配置されていることを特徴とする偏光板。
- ヨウ素をドーピングしたポリビニルアルコールからなる偏光膜とその両側に配置された二枚の透明保護膜からなる偏光板において、透明保護膜の一方が、アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテートから形成されたセルロースアセテートフイルム、そしてアセチル置換度が0.5以上2.2未満の範囲にあるセルロースアセテートから形成され0.1乃至100g/m2の範囲で設けられているセルロースアセテート層を有するセルロースアセテート積層体であって、セルロースアセテートフイルムが、アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテート、およびセルロースアセテート100質量部に対して、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を0.01乃至20質量部含み、さらにセルロースアセテート積層体の、面内のレターデーション値が−20乃至20nmの範囲にあり、そして厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmの範囲にあり、そしてセルロースアセテート積層体が、そのセルロースアセテート層が偏光膜側となるように配置されていることを特徴とする偏光板。
- 偏光膜とその両側に配置された二枚の透明保護膜からなる偏光板において、透明保護膜の一方が、アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテートから形成されたセルロースアセテートフイルム、アセチル置換度が0.5以上2.2未満の範囲にあるセルロースアセテートから形成され0.1乃至100g/m2の範囲で設けられているセルロースアセテート層、変性ポリビニルアルコールからなる配向膜、そして円盤状液晶性化合物から形成した光学異方性層をこの順序で有することを特徴とする偏光板。
- 前記のセルロースアセテートフイルムが、アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテート、およびセルロースアセテート100質量部に対して、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を0.01乃至20質量部含み、さらにセルロースアセテート積層体の、面内のレターデーション値が−20乃至20nmの範囲にあり、そして厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmの範囲にあることを特徴とする請求項14に記載の偏光板。
- MVAモードの液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなるMVA型液晶表示装置において、偏光板のうちの少なくとも一方が、請求項13に記載の偏光板であって、偏光板が、そのセルロースアセテート積層体が液晶セル側となるように配置されていることを特徴とするMVA型液晶表示装置。
- TNモードの液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなり、偏光板が偏光膜およびその両側に配置された二枚の透明保護膜からなるTN型液晶表示装置において、液晶セルと偏光膜の間に配置された二枚の透明保護膜のうちの少なくとも一方が請求項9に記載の位相差板であって、位相差板が、その光学異方性層が液晶セル側となるように配置されていることを特徴とするTN型液晶表示装置。
- OCBモードの液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなり、偏光板が偏光膜およびその両側に配置された二枚の透明保護膜からなるOCB型液晶表示装置において、液晶セルと偏光膜の間に配置された二枚の透明保護膜のうちの少なくとも一方が、請求項9または11に記載の位相差板であって、位相差板が、その光学異方性層が液晶セル側となるように配置されていることを特徴とするOCB型液晶表示装置。
- 反射板、液晶セルおよびヨウ素をドーピングしたポリビニルアルコールからなる偏光膜がこの順に積層されている反射型液晶表示装置において、さらにλ/4板が反射板と偏光膜との間に配置されており、λ/4板が、アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテートから形成されたセルロースアセテートフイルムの偏光膜側の面に、アセチル置換度が0.5以上2.2未満の範囲にあるセルロースアセテートから形成され0.1乃至100g/m2の範囲で設けられているセルロースアセテート層を有するセルロースアセテート積層体であり、セルロースアセテートフイルムが、アセチル置換度が2.5乃至3.0の範囲にあるセルロースアセテート、およびセルロースアセテート100質量部に対して、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を0.01乃至20質量部含み、さらにセルロースアセテート積層体面内の、波長450nmで測定したレターデーション値(Re450)が100乃至125nmの範囲にあり且つ波長590nmで測定したレターデーション値(Re590)が120乃至160nmの範囲にあり、そしてRe590−Re450≧2nmの関係を満足することを特徴とする反射型液晶表示装置。
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