以下、本発明の実施例を説明する。
実施例1
図1に、本実施例で用いられた平行平板型プラズマCVD装置を示す。図1において、チャンバー11内のガスはポンプ12により排気され、チャンバー11内へ石英ノズル13からそれぞれ反応ガスが導入される。チャンバー11内部には平板型の電極14、15が互いに平行に設置されている。電極14にはマッチングボックスを介して高周波電源16が接続されている。電極15は接地されている。電極15上にSi基板10が載せられる。
ソースガスとしてTEOS、O2およびNF3ガスを用い、多層配線の層間絶縁膜を形成した例を、図2(a)〜(c)に示す工程断面図を参照して説明する。
まず、Si基板10を電極15上にセットし、抵抗加熱ヒータにより400℃に加熱する。ソースガスとして、TEOS(テトラエトキシシラン)を50sccm、O2を500sccm、NF3ガスを0〜500sccmの流量でチャンバー11内に同時に導入し、圧力を5Torrに設定する。電極14に13.56MHzのRF電力を導入して放電させる。こうして、図2(a)に示すように、Si基板21上に500nmのSiO2膜22を堆積する。
次に、図2(b)に示すように、DCマグネトロンスパッタリングにより400nmのAl膜を成膜し、パターニングして幅500nm×高さ400nmの1層目のAl配線23を形成する。その後、図2(c)に示すように、前記と同じ成膜方法で800nmのSiO2膜24を成膜する。さらに、前記と同様に400nmのAl膜を成膜し、パターニングして2層目のAl配線25を形成した後、前記と同じ成膜方法で800nmのSiO2膜26を成膜する。
図3にNF3の流量を150sccmに設定して成膜されたSiO2膜の赤外吸収スペクトルを示す。この赤外吸収スペクトルには、1080cm-1、810cm-1、450cm-1にSi−O結合に由来するピーク、約940cm-1にSi−F結合に由来するピークが観察された。この結果から、Si−F結合を含むSiO2膜が成膜されていることがわかる。
図4に、NF3ガスの流量を種々変化させて形成されたSiO2膜について、NF3ガスの流量と940cm-1に観察されるSi−F吸収ピーク面積との関係を示す。この図から、NF3ガスの流量が多くなるほど、膜中のSi−F結合が多くなることがわかる。また、NF3ガスの流量を種々変化させて形成されたSiO2膜中のFを定量したところ、NF3ガスの流量が50sccmではF濃度は約2at%、100sccmでは約3at%、150sccmでは約4at%、200sccmでは約5at%であった。
また、NF3ガスの流量を種々変化させて形成されたSiO2膜と0.1mm2程度にパターニングされたAl膜とで構成されるMOSキャパシタのC−V特性を測定し、SiO2膜の比誘電率を求めた。図5に、SiO2膜中のF濃度とSiO2膜の比誘電率との関係を示す。この図から、SiO2膜中にFを導入することにより、誘電率を低下させる効果があることがわかる。ただし、SiO2膜中のF濃度とSiO2膜の吸湿性との関係を示す図6から明らかなように、SiO2膜中のF濃度が高くなると、SiO2膜の吸湿性が増加する傾向がある。
図7に、SiO2膜中のF濃度とMOSキャパシタに一定電圧(電界強度3MV/cm)を印加した時のリーク電流との関係を示す。図7からわかるように、F濃度が5at%以下のSiO2膜は、Fが添加されていないSiO2膜に比べて、リーク電流が減少している。
以上のように、F濃度が5at%以下の場合には、SiO2の誘電率が低下しかつリーク電流が少なくなる。
ソースガスとして、TEOS、O2およびNF3の代わりに、SiH4を50sccm、N2Oを500sccm、NF3を0〜500sccmの流量で導入し、成膜圧力を1Torrとした以外は、前記と同様の方法でSiO2膜を得た。このSiO2膜中のF濃度が5at%以下の場合には、誘電率が低下し、かつリーク電流が少ないことが確認された。
この他、TEOSの代わりに、HSi(OC2H5)3、H2Si(C4H9)2などの有機シランガスを用いてもよい。また、NF3の代わりに、CF4、ClF3、SiF4などのFを含む化合物ガスを用いてもよい。
ソースガスとして、TEOS、O2およびNF3の代わりに、FSi(OC2H5)3を50sccm、O2を500sccmの流量で導入し、成膜圧力を1Torrとした以外は、前記と同様の方法でSiO2膜を得た。このSiO2膜中のF濃度は5at%、このSiO2膜の比誘電率は約3.4であり、かつリーク電流が少ないことが確認された。この場合、O2の流量を制御するか、または放電電力を制御することによっても、SiO2膜中のF濃度を制御できる。
また、Fを含まない有機シランガスにFを含む有機シランガスを添加し、この混合ガスを用いてもよい。例えば、ソースガスとしてFSi(OC2H5)3、O2およびTEOSを用いても上記効果と同様な効果が得られる。この場合、FSi(OC2H5)3とTEOSとの流量比を変えることにより、SiO2膜中のF濃度を容易に制御できる。
また、酸化剤であるO2を導入しなくとも、FSi(OC2H5)3ガスのみ、またはこれにTEOSを添加したガスのいずれを用いても、Si−F結合を持つSiO2膜を成膜でき、同様な効果が得られる。
この他、FSi(OC2H5)3の代わりに、SiH3F、SiH2F2、SiHF3などのFを含む無機シランガスを用いてもよい。
実施例2
図8を参照して、Fが添加されたSiO2とFが添加されていないSiO2とを積層する方法を説明する。このような積層構造の絶縁膜を形成すれば、吸湿を極力抑えることができ、金属配線の信頼性を向上できる。
図8(a)に示すように、Si基板81上に、800nmのBPSG膜(borophosphosilicate glass)82、その上に幅500nm×高さ400nmのAl配線83を順次形成する。
図8(b)に示すように、ソースガスとしてTEOSおよびO2を用い、Fが添加されていないSiO2膜84を100nm成膜する。その上に、実施例1と同様にソースガスとしてTEOS、O2およびNF3を用い、Fが添加されたSiO2膜85を500nm成膜する。その後、ソースガスとしてTEOSおよびO2を用い、Fが添加されていないSiO2膜86を100nm成膜する。
図8(c)に示すように、レジストを塗布して露光・現像した後、ドライエッチングによりAl配線83上のSiO2膜に開孔87を形成する。
図8(d)に示すように、開孔部87に、WF6とSiH4を用いた選択CVD法によりW88を埋め込む。その後、スパッタリング法によりAl膜を形成し、パターニングしてAl配線89を形成する。その後、図8(b)と同様な工程により、Fが添加されていないSiO2膜810を100nm、Fが添加されたSiO2膜811を500nm、Fが添加されていないSiO2膜812を100nm成膜する。
Fが添加されていないSiO2膜は、Fが添加されたSiO2膜に比べて、吸湿性が小さい。このため、図8(d)の半導体装置では金属配線が吸湿された水分と接触しにくくなり、信頼性の低下を防止できる。
実施例3
図1と同様な平行平板型プラズマCVD装置を用い、ソースガスとしてHSi(N(CH3)2)3ガス、FSi(OC2H5)3ガス、O2ガスを用い、図2と同様に多層配線の層間絶縁膜を形成した例を説明する。
まず、Si基板10を電極15上にセットし、抵抗加熱ヒーターにより400℃に加熱する。ソースガスとして、FSi(OC2H5)3ガスを50sccm、O2を500sccm、およびHSi(N(CH3)2)3を0〜300sccmの流量で反応容器11に同時に導入し、成膜圧力を5Torrに設定する。電極14に13.56MHzのRF電力を印加し、ソースガスをプラズマ化して成膜する。こうして、Si基板21上にF、Nを含む500nmのSiO2膜を堆積した(図2(a))。
次に、図2(b)に示すように、DCマグネトロンスパッタリングにより400nmのAl膜を成膜し、パターニングして幅500nm×高さ400nmの1層目のAl配線23を形成する。
その後、図2(c)に示すように、前記と同じソースガスを用いて、800nmのSiO2膜24を成膜する。前記と同様に、400nmのAl膜を成膜し、パターニングして2層目のAl配線25を形成する。さらに、前記と同じソースガスを用い、800nmのSiO2膜26を成膜する。
図9(a)は、HSi(N(CH3)2)3ガスの流量とSiO2膜中のNとFの濃度との関係を示す特性図である。HSi(N(CH3)2)3ガスの流量が増すと、N濃度は増すがF濃度は変わらない。
図9(b)は、HSi(N(CH3)2)3ガスの流量とSiO2膜の比誘電率との関係を示す特性図である。HSi(N(CH3)2)3ガスが0sccmの場合は、比誘電率は3.4であるが、Nの濃度が増えることにより、膜の密度は徐々に上がり比誘電率は上昇する。
図9(c)は、HSi(N(CH3)2)3ガスの流量とSiO2膜の吸湿性との関係を示す特性図である。この図のようにSiO2膜にNを導入することにより、吸湿性を低下させる効果があることが分かった。
以上の図から、HSi(N(CH3)2)3ガスの流量を100sccmとすることにより、比誘電率が3.5、かつ吸湿性のないF、Nを含有したSiO2が成膜できる。
なお、HSi(N(CH3)2)3ガスの代わりに、他のNを構成元素として含むシランガス、例えばSi(N(CH3)2)4、(CH3)3SiN3などの有機シランガスを用いてもよい。また、FSi(OC2H5)3ガス等の有機シランガスの代わりに、Fを構成元素として含む無機シランガス、例えばSiH3F、SiH2F2、SiHF3、SiF4などを用いてもよい。さらに、O2ガスの代わりに、他の酸化剤ガス、例えばN2O、O3などを用いてもよい。
また、HSi(N(CH3)2)3ガスとFSi(OC2H5)3ガスの代わりに、NH3を50sccm、FSi(OC2H5)3ガスを50sccmの流量で導入し、前記と温度、圧力が同じ条件でSiO2を得た。この場合も、比誘電率が3.5、かつ吸湿性のないF、Nを含有したSiO2が成膜できる。
また、HSi(N(CH3)2)3ガスとFSi(OC2H5)3ガスの代わりに、HSi(N(CH3)2)3ガスを100sccm、NF3ガスを50sccmの流量で導入し、前記と温度、圧力が同じ条件でSiO2を得た。この場合も、比誘電率が3.5、かつ吸湿性のないF、Nを含有したSiO2が成膜できる。NF3ガスの代わりに、CF4、ClF3などのFを構成元素として含む化合物ガスを用いても同様の効果がある。
実施例4
図10に示すホットウォール型のバッジ式熱CVD装置を用い、ソースガスとしてNH3ガス、ClF3ガス、SiH4ガス、O2ガスを用いた例について説明する。
図10に示すように、石英チューブ41の排気口42aの下流に排気ポンプ42bが接続されており、抵抗加熱ヒーター43が石英チューブ41の周囲に配置されている。石英チューブ41内には石英ボート45が設置されており、この石英ボート45上にSi基板44がガスの流れ方向に並べられている。Si基板44はヒーター43により、600〜700℃に加熱可能となっている。一方、チューブ41の排気口42aと反対側の管口部には、ソースガスを導入するための石英ノズル46が設けられている。
次に、この装置を用いてゲート電極上に熱CVD酸化膜を形成する例を説明する。図11は、その工程断面図である。この場合、比誘電率が3.5かつ吸湿性のないF、Nを含有したSiO2が成膜できる。
まず、図11(a)に示すようにSi基板51上に素子分離領域52を形成し、ゲート酸化膜53、ポリSiゲート54、不純物ドーピング層55を形成した後に、SiO2膜56を300nm成膜する。ここで、各ガスの流量は、NH3ガス1000sccm、ClF3ガス100sccm、SiH4ガス500sccm、O2ガス100sccmであり、成膜温度は700℃、成膜圧力は0.4Torrとする。
次に、図11(b)に示されるように、BPSG膜57を500nm形成し、850℃でメルトリフローし、その後に前記と同じ方法によりSiO2膜58を300nm成膜する。本実施例によれば、ゲートと上層配線(図示せず)間の容量が減少し、信号伝達の遅延が改善される。
なお、ClF3ガスの代わりに、他のFを構成元素として含む化合物ガス、例えばNF3、CF4などを用いてもよい。また、SiH4ガスの代わりに、他のシランガス、例えばTEOS、HSi(OC2H5)3、H2Si(C4H9)2などの有機シランガスを用いても同様な効果が得られる。
また、NH3ガス、ClF3ガス、SiH4ガス、O2ガスの代わりに、Nを構成元素として含むシランガス、例えばHSi(N(CH3)2)3、Si(N(CH3)2)4、(CH3)3SiN3など、Fを構成元素として含むシランガス、例えばSiH3F、SiH2F2、SiHF3、SiF4、FSi(OC2H5)3など、酸化剤ガスとしてO2ガスの混合ガスを用いても同様の効果がある。
また、NH3ガスを50sccm、FSi(OC2H5)3ガスを50sccm、O2ガスを50sccmの流量で導入し、前記と温度、圧力が同じ条件でSiO2を得た。この場合、比誘電率が3.5、かつ吸湿性のないF、Nを含有したSiO2が成膜できる。
さらに、HSi(N(CH3)2)3ガスを100sccm、ClF3ガスを50sccm、O2ガスを50sccmの流量で導入し、前記と温度、圧力が同じ条件でSiO2を得た。この場合、比誘電率が3.5、かつ吸湿性のないF、Nを含有したSiO2が成膜できる。ClF3ガスの代わりに、CF4、NF3などのFを構成元素として含む化合物ガスを用いても同様の効果がある。
実施例5
図12に示すコールドウォール型枚葉式の熱CVD装置を用い、ソースガスとしてNF3ガス、TEOSガス、N2Oガスを用いた例について説明する。
図12に示すように、反応容器61には、無声放電により酸素をオゾン化するオゾナイザー62が接続されており、NF3、N2Oをオゾナイザー62に導入し、N2Oの酸素をオゾン化し、ガス導入管62bを通じて反応容器61に導入することができる。62c、62dはそれぞれFSi(OC2H5)3、HSi(N(CH3)2)3を導入するためのガス導入管であり、64は排気ポンプである。この容器61内には試料台63が設置されており、この内部にはヒーター63aが埋設されている。
まず、ガス流量をNF3ガス200sccm、TEOSガス100sccm、N2Oガス1000sccmとする。さらに、基板をヒーター63aにより温度350℃で加熱し、成膜圧力を5Torrとする。こうして、成膜したSiO2膜はリフロー形状を示し、比誘電率が3.5、かつ吸湿性のないF、Nを含有したSiO2を成膜できる。
この場合、NF3ガスの代わりに、他のFを構成元素とする化合物ガス、例えばCF4、ClF3などを用いても同様の効果がある。
上記実施例3〜5において、本発明者が鋭意研究した結果、Nを含んだSiO2膜を形成する場合、成膜装置としては、図1のような平行平板型プラズマCVD装置を用いて、さらにソースガスとしては、Si−N結合が化合物中に含まれているNを構成元素として含むシランガス、例えばHSi(N(CH3)2)3、Si(N(CH3)2)4、(CH3)3SiN3などを用いることにより、より比誘電率の低いかつより吸湿性のないSiO2膜が得られることを確認した。この理由は、Si−N結合を含んでいるソースガスを用いれば、プラズマによりソースガスの解離が進んでも、形成されるSiO2膜中にNが残る確率が高くなるからであると思われる。
図13(a)および(b)はそれぞれNを構成元素として含むシランガスとしてHSi(N(CH3)2)3を用いた場合に形成されるSiO2膜の特性図である。
例えばFの濃度が5at%であるSiO2膜の比誘電率を3.8以下にしようとすると、図13(a)に示されるようにSiO2膜中に含まれるNの濃度は15at%以下であることが望ましい。また、図7(b)に示されるように、SiO2膜中のNの濃度が2.9at%以上であれば、吸湿性のないSiO2膜が形成されることがわかった。
本発明によれば、酸化シリコン膜中にNの濃度が1at%以上であれば吸湿性の少ないSiO2膜を形成することができる。またFの濃度が3at%以上であれば、誘電率の低いSiO2膜を形成することができる。
実施例6
図14に、本実施例で用いられた、異なる2つの周波数で励起可能な平行平板型プラズマCVD装置の概略図を示す。図14において、チャンバー11内のガスはポンプ12により排気され、チャンバー11内へ石英ノズル13からそれぞれ反応ガスが導入される。チャンバー11内部には平板型の電極14、15が互いに平行に設置されている。電極14には、マッチングボックス17を介して13.56MHzの高周波電源16、及びローパスフィルター18を介して400kHzの高周波電源19が接続されている。電極15は接地されている。電極15上にSi基板10が載せられる。
この装置を用いてSiO2膜を形成する方法について説明する。Si基板10を、電極15上に載置して、抵抗加熱ヒーターにより400℃加熱する。次に、ソースガスとして、FSi(OC2H5)3、O2を用い、それぞれ石英ノズル13からFSi(OC2H5)3を10sccm、O2を20sccmの流量で同時に導入し、圧力を5Torrとする。電極14に、13.56MHz、0.86W/cm2及び400kHz、1.14W/cm2という異なる2つの高周波を印加し、2周波励起プラズマを発生させてSiO2膜を堆積する。
赤外吸収スペクトルによりFが5at%含まれるSiO2膜が成膜されていることが分かった。また、このF添加SiO2膜の比誘電率は、3.4と低いことが分かった。SiO2膜中のF濃度は、ソースガスの流量比、圧力、基板温度、RF電力で制御できることが分かった。また、SiO2膜中のF濃度が増加すると、比誘電率が低下する傾向があることが分かった。
比較のために、ソースガスは同じであるが、13.56MHz、0.86W/cm2の高周波のみを印加してSiO2膜を堆積した。上記方法により堆積した2種のF添加SiO2膜について、1週間大気に暴露(温度25℃、湿度50%)した後、赤外吸収スペクトルを測定して、吸湿性を調べた結果を図15に示す。図15より、いずれの場合でもF濃度の増加に伴って吸湿性は増加する傾向がある。ただし、同じF含有量のSiO2膜どうしで比較すると、2周波励起により堆積されたSiO2膜の吸湿性が明らかに小さいことが分かる。
また、ソースガスとしてFSi(OC2H5)3、O2を用いた場合と、ソースガスとしてTEOS、O2、NF3を用いた場合とについて、比較検討した。図16に、それぞれのソースガスを用いた場合の、13.56MHzのRF電力とSiO2膜中のF濃度との関係を示す。ソースガスとしてTEOS、O2、NF3を用いた場合には、印加するRF電力を下げると、添加されるF濃度が減少する。したがって、一定のF濃度を保持するためには、RFパワーを高くする必要がある。しかし、RFパワーを高くすると、荷電粒子によるゲート破壊の問題が発生する。一方、ソースガスとしてFSi(OC2H5)3、O2を用いた場合には、RF電力を下げるとF濃度が増加するため、容易にSiO2膜中のF濃度を高めることができる。したがって、荷電粒子によるゲート破壊の問題が生じにくい。
以上のように、ソースガスとしてFSi(OC2H5)3、O2を用い、2周波励起すれば、荷電粒子によるゲート破壊の問題を引き起こすことなく、低誘電率かつ低吸湿性のSiO2膜が得られる。
なお、FSi(OC2H5)3の代わりに、F2Si(OC2H5)2などのFを含む有機シランガスを用いても、前記と同様な効果を得ることができる。
実施例7
図17に、本実施例で用いられたプラズマCVD装置の概略図を示す。この装置は、Al合金製チャンバー101、石英製放電管102と真空ポンプ103より構成されている。ソースガスは、石英製放電管102の一端に設けられたノズル104と、チャンバー11内に設けられたリング状ノズル105から導入される。チャンバー101の圧力は、ガス排気口に設置されたコンダクタンスバルブ106と真空ポンプ103により任意に設定できる。石英製放電管102内には、図18に示すダブルループ状の放電アンテナ107が設けられている。この放電アンテナ107の一端にはマッチングボックスを介してRF電源108が接続されて、他端は接地されている。電磁コイル109は、放電管102に400ガウスの均一磁場を与える。電磁コイル109による磁界は、放電管102内では均一であるが、チャンバー101内では発散するような勾配を持っている。Si基板10は、放電管102から約5cm離れた支持台111上に載置される。支持台110は加熱機構と直流及び交流電圧を印加できる機構を有し、Si基板10に任意の温度と基板バイアスを与えることができる。
この装置を用いてSiO2膜を形成する方法について説明する。Si基板10を支持台110上に乗せ、基板温度を200℃に保ち、基板に20Vの電位を印加する。ソースガスとしてTEOS、O2、NF3を用い、ノズル104からO2を10sccm、NF3を10sccmの流量で、リング状ノズル105からTEOSを5sccmの流量で同時に導入し、放電アンテナ107に13.56MHz、1000WのRFを印加し、電磁コイル19により放電管102内に400ガウスの一様な磁場を作る。成膜圧力は5mTorrとする。この結果、放電管102内部にはヘリコン波が発生し、放電管102の内部に高密度のプラズマが生成する。
この条件では、基板バイアスが20V、プラズマポテンシャルが30Vであり、イオンエネルギーは10eVである。プラズマ状態をラングミュア・プローブを用いてモニターすると、圧力5mTorrでSi基板10上でのプラズマ密度は3.5×1011atom/cm3(イオン化率0.2%)であった。また、Si酸化膜の堆積速度は、20nm/minであった。
得られたSiO2膜の赤外吸収スペクトルは、図3と同様であった。すなわち、Si−Oに由来する吸収が、1080cm-1、810cm-1、450cm-1に観察され、Si−Fに由来する吸収が940cm-1に観察された。また、3200〜3800cm-1におけるH−OH、Si−OHに由来する吸収は全くみられなかった。このSiO2膜について、F濃度は3at%であり、比誘電率は3.6と低いことが分かった。
得られたSiO2膜を1週間大気に暴露(温度25℃、湿度50%)した後、赤外吸収スペクトルを測定したところ、3200〜3800cm-1におけるH−OH、Si−OHに由来する吸収の増加は全く認められなかった。
この方法でも、NF3流量を変化させることにより、SiO2膜のF濃度及び誘電率を制御できることが分かった。また、NF3ガスの代わりに、CF4、C2F6、FSi(OC2H5)3、F2Si(OC2H5)2などのガスを用いても同様の効果を得ることができる。F濃度を増加するためには、特にFSi(OC2H5)3とNF3、CF4などのガスとを組み合わせる方法が有効である。
さらに、本実施例の方法により成膜されたSiO2膜中のF濃度と吸湿性との関係を図19に示す。本実施例の方法を用いた場合には、F濃度が8at%まで増加しても、吸湿性の増加は見られなかった。
実施例8
図20に、本実施例で用いられたプラズマCVD装置の概略図を示す。図20において、チャンバー11内のガスはポンプ12により排気され、チャンバー11内へ石英ノズル13から反応ガスが導入される。チャンバー11内部には平板型の電極14、15が互いに平行に設置されている。電極14にはマッチングボックスを介して高周波電源16が接続されている。電極15は接地されている。電極15上にSi基板10が載せられる。また、放電領域に400ガウスの磁場を印加できる永久磁石または電磁磁石120を備えている。
この装置を用いてSiO2膜を形成する方法について説明する。Si基板10を、電極15上にセットして、抵抗加熱ヒーターにより400℃に保つ。ソースガスとして、TEOS、O2およびNF3を用い、ノズル13からTEOSを5sccm、O2を10sccm、NF3を10sccmの流量で同時に導入し、電極に13.56MHz、500WのRFを印加し、放電させSiO2膜を堆積する。この時、磁場により電子がドリフト運動し、Si基板上でのr効果により2次電子が増加してイオン化を促進する。
この条件では、基板バイアスが10V、プラズマポテンシャルが50Vであり、イオンエネルギーは−40eVである。プラズマ状態をモニターすると、圧力5mTorrでSi基板20上でのプラズマ密度は1.8×1011atom/cm3(イオン化率0.1%)であった。また、SiO2膜の堆積速度は、100nm/minであった。赤外吸収スペクトルから、得られたSiO2膜には、Fが3at%含まれていることが分かった。また、このSiO2膜の比誘電率は、3.6と低いことが分かった。
得られたSiO2膜を1週間大気に暴露(温度25℃、湿度50%)した後、赤外吸収スペクトルを測定したところ、波数3200〜3800cm-1におけるH−OH、Si−OHに由来する吸収の増加は認められなかった。
更に、NF3流量、ソースガスの種類を変化させることにより、堆積膜中のF濃度、誘電率を制御できることが分かった。
実施例9
図21は、本実施例において用いられた、電子線励起プラズマCVD装置の概略構成図である。この装置は大きく分けて3室の真空容器より構成される。すなわち、放電によりプラズマを発生させるための真空容器206と、真空容器206で発生したプラズマより電子を引き出し加速する真空容器205と、及び真空容器205で加速された電子の照射により反応性ガスを電離・活性化しプラズマを発生させ、Si基板10に絶縁膜を成膜させるための真空容器201とで構成される。
真空容器206の一端には電極212が設けられている。電極212の中央部にはガス導入口213が設けられ、放電用ガス214が導入される。ガス導入口213の周囲には熱電子放出材料221が設けられている。真空容器206と真空容器205との間は電極211で仕切られている。電極211はコイル216を備えており、その中央部にはオリフィス218が設けられている。真空容器205と真空容器201との間は電極211で仕切られている。電極211はコイル215を備えており、その中央部にはオリフィス218が設けられている。
Si基板10は支持台203に支持される。支持台203は加熱機構を備え、電源に接続されており、Si基板10に任意の温度及びバイアスを与えることができる。ソースガス220はガス導入口219より真空容器201に導入され、排気口204より排気される。排気口204はコンダクタンスを制御でき、真空容器201に任意の圧力を与えることができる。
この成膜装置を用い、SiO2膜を形成する方法について説明する。Si基板10を支持台203に載せて400℃に加熱する。真空容器201内は約10-5Torrの真空度となるように排気する。ソースガスとして、TEOSを5〜10sccm、O2を10〜30sccm、NF3を5〜20sccmの流量でガス導入口219より導入する。排気口204のコンダクタンスを制御して、真空容器201内の圧力を0.5mTorrとする。支持台203に−80Vの電位を印加する。真空容器206及び真空容器205から、加速された電子線を例えば100eVのエネルギー、10Aの電流で真空容器201に導入し、ソースガスを電離・活性化しプラズマを発生させる。
この条件では、基板バイアスが−80V、プラズマポテンシャルが10Vであり、イオンエネルギーは−70eVである。プラズマ状態をモニターすると、圧力0.5mTorrでプラズマ密度3×1010atom/cm3(イオン化率0.2%)であった。
この方法により、フッ素濃度が3at%、比誘電率が3.6のフッ素添加SiO2膜を形成できる。得られたSiO2膜を1週間大気に暴露した後、赤外吸収スペクトルを測定したところ、成膜直後と同様であった。特に、H−OH、Si−OHの振動を示す3200〜3800cm-1の領域での吸収が見られないことから、1週間大気暴露に対して安定なフッ素添加SiO2膜が得られることが判明した。さらに、1週間の大気暴露後において、比誘電率も成膜直後と同様であることがわかった。
次に、他の反応ガスを用い、同様にして大気暴露に対して安定なフッ素添加SiO2膜の成膜方法について説明する。
反応ガスとしてFSi(OC2H5)3を10sccm、O2を40sccmの流量で導入し、基板バイアスを−70Vとした以外は前記と同様にして、フッ素添加SiO2膜を成膜した。この方法によって形成された膜を調べたところ、膜中フッ素濃度が3at%、比誘電率が3.6のフッ素添加SiO2膜であることが判明した。この膜を1週間大気暴露して、赤外吸収スペクトル及び比誘電率を調べたところ、変化がみられず、成膜直後と同様であることがわかった。なお、SiF(C2H5)3及びO2に、F2ガスを0〜1000sccm導入することにより膜中フッ素濃度を10at%程度まで変化させることができる。このようにフッ素濃度を変化させても、大気暴露に対して安定なフッ素添加SiO2膜が得られる。Siを含む類似のガスとしてSiFn(C2H5)4-n(n=1〜3)を用いた場合、膜中フッ素濃度及び比誘電率に差異は生じるが、大気暴露に対して安定なフッ素添加SiO2膜が得られる。
また、SiH4を10sccm、O2を40sccm、CF4を10sccmの流量で導入し、基板バイアスを−70Vとした以外は前記と同様にして、フッ素添加SiO2膜を成膜した。これらのソースガスを用いても、大気暴露に対して安定なフッ素添加SiO2膜を形成することができる。その他、Siを含むソースガスとして、SiF4、SiCl4、SiH2Cl2、Si2H8などを用いても、前記と同様の効果が得られる。
以上の実施例に基づいて、フッ素添加SiO2膜の比誘電率及び吸湿性について議論し、好適なフッ素添加SiO2膜が得られる条件を検討する。
まず、図22に示すように、SiO2膜の比誘電率は、形成方法によらずにSiO2膜中のF濃度で決まることが分かった。
一方、SiO2膜の吸湿性は、形成方法に大きく依存する。すなわち、通常の平行平板型プラズマCVDにより形成されたフッ素添加SiO2膜では、例えば図6に示されるように、F濃度の増加にしたがって吸湿量が増加する。これに対して、実施例7〜9のような方法で形成されたフッ素添加SiO2膜では、例えば図19に示されるように、8at%のF濃度まで吸湿性がほとんどない。
そこで、実施例7〜9の方法において、印加電力、圧力、基板バイアスを変えてフッ素添加SiO2膜を成膜した。そして、1週間大気放置した後にも吸湿性を示されないフッ素添加SiO2膜を得るのに好適な、イオンエネルギー、プラズマ密度、圧力の条件を求めた。この結果を図23及び図24に斜線部として表示する。例えば、実施例7〜9において、圧力5mTorr、イオンエネルギー20eV、プラズマ密度1011atom/cm3の条件でF添加SiO2膜を形成すれば、吸湿性を非常に小さくできる。これに対して、通常の平行平板型プラズマCVDにおいて、圧力5Torr、イオンエネルギー50eV、プラズマ密度109atom/cm3の条件でF添加SiO2膜を形成すれば、吸湿性が非常に大きくなる。
さらに、F添加SiO2膜の化学構造と、その物性との関係について詳細に検討する。ここで、赤外吸収スペクトルからもわかるように、SiO2膜中のFは、プラズマの形成方法によらず、Siに結合した形で存在する。また、図25にF濃度の異なる3種のSiO2膜のラマンスペクトルを示す。ラマンスペクトルには、600cm-1近傍に3員環(−Si−O−)3に由来するピークが、500cm-1近傍に4員環(−Si−O−)4に由来するピークが認められる。図25に示されるように、SiO2中のF濃度が増加するのに伴い、3員環に起因するピーク強度が減少し、4員環に起因するピーク強度が増加している。
SiO2膜中のF濃度が増加すると、比誘電率が低下する理由は以下のように考えられる。SiO2膜中のF濃度が増加すると、Si−F結合が増加し、3員環が減少する結果、SiO2膜の密度が減少し、比誘電率が低下すると考えられる。このような効果は、SiO2膜の形成方法に依存せず、SiO2膜中のF濃度だけで決定される。
また、SiO2膜の形成方法に応じて吸湿性が変化する理由は次のように考えられる。図26にF無添加SiO2膜及び3at%F添加SiO2膜について、SiO2膜の形成方法と、ESR(電子サイクロトン共鳴)分析により測定したSiダングリングボンド密度及び吸湿性との関係を示す。Siダングリングボンドでは、以下に示す反応機構によりH2Oがトラップされるため、吸湿性と相関関係があると考えられる。
2Si・+H2O → Si−OH+Si−H
通常の平行平板型プラズマCVDで成膜した場合には、3at%F添加SiO2膜のほうがF無添加SiO2膜よりも、Siダングリングボンド密度も吸湿性もともに高くなっている。すなわち、ダイグリングボンドの増加により水との反応が起こりやすくなる。しかも、F濃度の増加にともなって環構造が広がっていることから、水が拡散しやすくなっている。したがって、通常の平行平板型プラズマCVDで成膜したSiO2膜は、F濃度の増加とともに吸湿性が増加する。
これに対して、実施例7〜9のように図23及び図24の条件を満たす範囲で成膜した場合には、3at%F添加SiO2膜のほうがF無添加SiO2膜よりも、Siダングリングボンド密度も吸湿性もともに低くなっている。特に、Siダングリングボンド密度は1016/cm3以下である。さらに、図23及び図24の条件を満たす範囲で成膜したSiO2膜について、F濃度と、Siダングリングボンド密度及び吸湿性との関係を図27に示す。図27から明らかなように、F濃度が高くなるにつれて、Siダングリングボンド密度は減少する。そして、F濃度が1〜8at%の範囲では、F添加SiO2膜の吸湿性は非常に小さい。このようにSiダングリングボンド密度が減少する理由は、図23及び図24に示した範囲でF添加SiO2膜を堆積すると、イオン化率が高いために活性なFラジカルが多く存在し、これがSiダングリングボンドと反応するためである。なお、F濃度8at%以上で吸湿性が高くなるのは、Siダングリングボンドは少ないが、環構造の広がりの影響が非常に大きくなるためである。
以上で考察したように、図23及び図24の条件を満たす範囲で成膜すれば、ソースガスの種類によらず、低誘電率と低吸湿性とを兼ね備えたF添加SiO2膜を得ることができる。