JP4161175B2 - 十字軸自在継手 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は自在継手に関し、更に詳しくは十字軸を備えてなる十字軸自在継手に関する。
【0002】
【従来の技術】
十字軸自在継手においては、一般に、図5に部分断面図を示すように、十字軸51の各トラニオン52に、それぞれ軸受53を装着した構造を有し、各軸受53は、カップ状の軸受ケース531とその軸受ケース531の内周面とトラニオン52の外周面との間に転動自在に配置された複数のニードルローラ532によって構成されている。また、例えばプロペラシャフト等の比較的高速度で回転する部位に用いられる十字軸自在継手においては、軸受ケース531の内底面531aとトラニオン52の先端面52aとの間に、焼付きの発生を防止するための樹脂材料からなるスラストワッシャ54が配置される(例えば特開平9−229087号公報参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、以上のようにスラストワッシャ54は、トラニオン52と軸受ケース531間に作用するスラスト力を受けることになるが、十字軸継手のコンパクト化のニーズに応えるために、近年、スラストワッシャ54の板厚は減少の傾向にある。
【0004】
しかしながら、スラストワッシャ54の板厚を薄くしていくと、割れが発生する場合があり、板厚の薄型化には限界があり、ひいては十字軸自在継手のコンパクト化にも限界があった。
【0005】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、スラストワッシャの板厚を従来に比してより薄くしても割れが発生する恐れがなく、もって従来に比してよりコンパクト化を達成することのできる十字軸自在継手の提供を目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明の記載の十字軸自在継手は、十字軸の各トラニオンに、カップ状の軸受ケースとローラからなる軸受が装着され、その軸受ケースの内底面とトラニオンの先端面との間にスラストワッシャが配置されてなる十字軸自在継手において、上記各トラニオンの先端部外周に面取りが施され、かつ、上記軸受ケースの内底面の外縁に沿って研削逃げが形成されているとともに、上記スラストワッシャの表裏両面にそれぞれ外周に沿った面取りが形成され、かつ、このスラストワッシャの軸心から面取りまでの径方向寸法は表裏両面で互いに等しく、そのスラストワッシャの軸心から面取りまでの 径方向寸法は、上記トラニオンの軸心からその先端外周部の面取りまでの径方向寸法、および、上記軸受ケースの軸心からその内底面の外縁の研削逃げまでの径方向寸法のいずれよりも小さいことによって特徴づけられる。
【0007】
本発明者らは、スラストワッシャを薄くしていったときにスラスト力による割れ発生の原因をFEM(有限要素法)解析等によって鋭意研究した結果、スラストワッシャの割れ発生の原因は、その表面に形成されている油溝のR寸法や深さ等のパラメータよりも、以下に示すように、スラストワッシャの表裏両面に対するトラニオンと軸受ケースの各接触面の不一致に依存することが大きいことをつきとめ、本発明に至ったものである。
【0008】
すなわち、図6に図5の要部拡大断面図を示すように、各トラニオン52の先端面52aの外周部には面取り52bが形成されているとともに、軸受ケース531の内底面531aの外縁には、この内底面531aの研削加工のために必要な逃げ、つまり研削逃げ531bが形成されている。従来の十字軸自在継手においては、図7に図6におけるA部を更に拡大した図を示すように、軸受ケース531の研削逃げ531bの径方向寸法LB は、トラニオン52の面取り52bの径方向寸法LT よりも大きい。しかも、軸受ケース531の内鍔531cの内径寸法は、トラニオン52の外径寸法よりも若干小さく、従って、スラストワッシャ54の表裏面でのトラニオン52の先端面52a並びに軸受ケース531の内底面531aの接触面は互いに一致せず、トラニオン52の先端面52aのスラストワッシャ54に対する接触面の方が、軸受ケース531の内底面531aのスラストワッシャ54に対する接触面よりも大径の面となる。つまり、両部材のスラストワッシャ54に対する接触面には、図7に示すようなオフセット量が生じる。
【0009】
本発明者らによるFEM解析によれば、スラストワッシャを薄型化していったとき、そのスラストワッシャに作用するスラスト力による割れは、このオフセット量に起因して図7にSで示す部位に作用するせん断力に依存度が高く、薄型化によってその影響が顕著化したものと判明した。
【0010】
そこで、本発明においては、このオフセット量をゼロもしくは可及的に少なくすることによって、所期の目的を達成するものである。
【0011】
本発明においては、スラストワッシャの表裏両面にそれぞれ外周に沿った面取りを形成し、その表裏両面の面取りの当該スラストワッシャの軸心から面取りまでの径方向寸法を互いに同じとし、そのスラストワッシャの軸心から面取りまでの径方向寸法を、トラニオンの軸心からその先端外周部に形成されている面取りまでの径方向寸法、および、軸受ケースの軸心からその内底面外縁に形成されている研削逃げまでの径方向寸法、のいずれよりも小さくする。これにより、スラストワッシャの表裏において、トラニオンの先端面との接触面と、軸受ケースの内底面との接触面とが互いに一致した状態となり、オフセット量はゼロになる(図2参照)。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施の形態の要部断面図であって、図2には図1のA部拡大図を示す。ここで、図1には、十字軸1の4つのトラニオン2のうちの1つのトラニオン2と軸受3の近傍の軸平行断面図を示しており、他の3つのトラニオン2および軸受3の構造もこの図1ないしは図2に示す構造と同等となっている。
【0013】
この実施の形態における十字軸自在継手の基本的構造は、従来のものと同等であって、十字軸1の各トラニオン2のそれぞれに軸受3が装着されており、各軸受3は、カップ状の軸受ケース31の内周面(軌道面)とトラニオン2の外周面との間に転動自在に配置された複数のニードルローラ32によって構成されている。そして、各トラニオン2の先端面2aと、軸受ケース31の内底面31aの間に樹脂製のスラストワッシャ4が挿入されている。なお、各軸受3は、それぞれの軸受ケース31の開放側端部に装着されたシール5と、そのシール5に対向して各トラニオン2の根元部に装着されたスリンガ6によってシールされているとともに、トラニオン2の中心部を通じてグリースが供給されるようになっている。
【0014】
さて、この例において、各トラニオン2の先端面2aの外周部に形成されている面取り2bの径方向寸法LT と、各軸受ケース31の内底面31aの外縁部に形成されている研削逃げ31bの径方向寸法LB の関係は、従来のものと同等であって、
LB >LT
であり、また、軸受ケース31の内鍔31cの内径寸法がトラニオン2の外径寸法よりも若干小さいことも従来と同等である。
【0015】
スラストワッシャ4には、その外周部の表裏両面に面取り4a,4bが施されており、この各面取り4a,4bの径方向寸法は互いに等しく、その寸法LW は、上記したLT およびLB のいずれよりも大きく、従って、
LW >LB >LT
の関係にある。
【0016】
以上のような面取りをスラストワッシャ4の表裏両面に形成することにより、トラニオン2の先端面2aの外周部の面取り2bの径方向外側端部の位置と、軸受ケース31の内底面31aの外縁部の研削逃げ31bの径方向外端部の位置が極端に相違しない限り、図2から明らかなように、スラストワッシャ4の軸心からその表裏両面の面取り4a,4bまでの寸法R1は、軸受ケース31の軸心からその内底面31aの外縁部の研削逃げ31bまでの寸法R2、および、トラニオン2の軸心からその外周部の面取り2bまでの寸法R3の、いずれよりも小さくなる結果、トラニオン2の先端面2aの外周部の面取り2bの径方向寸法LT と軸受ケース31の内底面31aの外縁部の研削逃げ31bの径方向寸法LB が互いに相違していても、スラストワッシャ4の表裏において、トラニオン2の先端面2aとの接触面と、軸受ケース31の内底面31aの接触面とが表裏で互いに一致した状態、つまりオフセット量がゼロの状態となる。
【0017】
従って、この実施の形態によると、オフセットに起因するせん断力がスラストワッシャ4に作用せず、これにより、スラストワッシャ4を従来に比して薄くしても割れが発生せず、その分、十字軸自在継手のコンパクト化を達成することができる。
【0018】
また、この実施の形態において特に注目すべき点は、トラニオン2および軸受カップ3の形状を全く変更することなく、スラストワッシャ4の表裏に面取り4a,4bを施すだけでよい点であり、これにより、コストアップ伴うことなく、しかも自在継手としての性能や、軸受ケース31の内底面の研削工程をはじめとする製造工程に何らの影響を与えることなく、スラストワッシャ4の割れの発生を防止しつつ、自在継手をコンパクト化することができる。
【0019】
次に、参考例について説明する。
図3はその要部断面図であり、図4はそのA部拡大図である。
この参考例の特徴は、スラストワッシャ40は従来と同様に特に面取りを施さず、トラニオン20の先端面20aの外周部の面取り20bの径方向寸法LT ′と、軸受ケース310の内底面310aの外縁の研削逃げ310bの径方向寸法LB ′とを、それぞれ従来の寸法から互いに近づくように変更することにより、トラニオン20の軸心から面取り20bまでの寸法RT と、軸受ケース310の軸心から研削逃げ310bまでの寸法RB とを互いに略同一とした点にある。RT とRB の差は、最も好ましくは図4に示すようにゼロであって、その場合にはオフセット量がゼロとなって上記した実施の形態と同様にスラストワッシャ40にはせん断力が作用しない。しかし、この参考例では、トラニオン20の先端外周部の面取り20bと軸受ケース310の内底面外縁の研削逃げ310bの形状を変更する必要がある。
【0020】
ただし、RT とRB の寸法差を0.5mm以下とすることにより、スラストワッシャ40に作用するせん断力は従来に比して大幅に減少し、スラストワッシャ40の厚みが1mm程度である場合には、割れには至らないことが確認されている。
【0021】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、スラストワッシャの表裏両面に面取りを施し、その面取りのスラストワッシャの軸心からの径方向寸法を、トラニオンの先端外周部に形成されている面取りのトラニオン軸心からの径方向寸法、および、軸受ケースの内底面外縁に形成されている研削逃げの軸受ケース軸心からの径方向寸法、のいずれよりも小さくすることにより、スラストワッシャの表裏へのトラニオン先端面と軸受ケース内底面の接触面のずれ量であるオフセット量をゼロもしくは可及的に小さくしているので、このオフセットに起因してスラストワッシャに作用するせん断力が従来に比して大幅に減少する。その結果、スラストワッシャを従来に比してより薄くしても割れることがなく、十字軸自在継手のコンパクト化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態の要部断面図である。
【図2】 図1のA部拡大図である。
【図3】 参考例の実施の形態の要部断面図である。
【図4】 図3のA部拡大図である。
【図5】 従来の十字軸自在継手の部分断面図である。
【図6】 図5の要部拡大図である。
【図7】 図6のA部拡大図である。
【符号の説明】
1 十字軸
2,20 トラニオン
2a,20a 先端面
2b,20b 面取り
3 軸受
31,310 軸受ケース
31a,310a 内底面
31b,310b 研削逃げ
31c 内鍔
4 スラストワッシャ
4a,4b 面取り
Claims (1)
- 十字軸の各トラニオンに、カップ状の軸受ケースとローラからなる軸受が装着され、その軸受ケースの内底面とトラニオンの先端面との間にスラストワッシャが配置されてなる十字軸自在継手において、
上記各トラニオンの先端部外周に面取りが施され、かつ、上記軸受ケースの内底面の外縁に沿って研削逃げが形成されているとともに、
上記スラストワッシャの表裏両面にそれぞれ外周に沿った面取りが形成され、かつ、このスラストワッシャの軸心から面取りまでの径方向寸法は表裏両面で互いに等しく、そのスラストワッシャの軸心から面取りまでの径方向寸法は、上記トラニオンの軸心からその先端外周部の面取りまでの径方向寸法、および、上記軸受ケースの軸心からその内底面の外縁の研削逃げまでの径方向寸法のいずれよりも小さいことを特徴とする十字軸自在継手。
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