JP4157893B2 - 耐高温酸化性に優れた表面処理チタン材およびエンジン排気管 - Google Patents
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Description
本発明では、チタン材の800℃を越える、より高温の耐高温酸化性(以下、単に耐高温酸化性とも言う)を向上させるために、アルミ酸化物粒子を、ショットブラスト処理により、チタン材表面に高速で噴射投射する。そして、チタン材である純チタンまたはチタン合金の表面に、アルミ酸化物粒子を埋め込み、アルミ酸化物を主体とする基材チタンと一体となった処理層を形成する。前記した通り、このアルミ酸化物を主体とする基材チタンと一体となった処理層が、800℃を越える850℃などの、より高温の耐高温酸化性を向上させる。
このアルミ酸化物粒子の埋め込み層(ショットブラスト処理層)のアルミ酸化物含有量(アルミ酸化物濃度)は、アルミニウムとしての濃度として4at%以上とする。このアルミニウム平均濃度が4at%未満の場合、アルミ酸化物粒子のショットブラスト処理層における、アルミ酸化物含有量が不足し、純チタンやチタン合金などのチタン材の耐高温酸化性が不足する。また、耐高温酸化性も低下する。
ショットブラスト処理層中のアルミニウム平均濃度 (含有量:at%) は、X線マイクロアナリシス分析(Electron Probe Micro Analysis 、略してEPMA)の中の波長分散方式(Wave Dispersive Spectroscopy、略してWDS )での表面定量分析により測定できる。より詳細には、最表面の分析部をX500〜X1000 に拡大し、まず定性分析により存在元素を調べた後、それぞれの存在量をZAF 法を用いた半定量分析により定量的に濃度を求めることが出来る。最表面の濃度は分析時の電子線の侵入深さにより変わるが、分析時の加速電圧を15kvの一定にすることで、1 〜2.5 μm 程度の電子線侵入深さとなる。したがって、本発明におけるアルミニウム平均濃度とは、ショットブラスト処理層表面から1 〜2.5 μm 程度の深さまでのアルミニウム平均濃度を意味する。以下、ショットブラスト処理層中のアルミニウム平均濃度とは、このように定義される濃度を意味する。
ショットブラスト処理層は、チタン表面における連続的な厚みを有する膜乃至層ではなく、不連続な厚みが大きく異なる膜乃至層となりやすい。このため、ショットブラスト処理層の実際の厚みを計測し、平均化して定量化する、あるいは好ましい厚みとして数値的に規定することは非常に困難である。また、連続的な厚みを有する膜乃至層となったとしても、厚みが大きく異なるために、同じく定量化することは非常に困難である。この点、チタン表面の任意の数箇所の100倍程度の光学顕微鏡による断面観察から計測して平均化した厚みとして敢えて言うならば、連続的な厚みを有する膜乃至層にせよ、不連続な膜乃至層にせよ、ショットブラスト処理層は平均で1 μm 以上の厚さが好ましい。一方、ショットブラスト処理層をあまり厚くすると、過度のショットブラストによりチタン基材の変形を招く恐れがあり、平均で20μm を越えて厚くする必要は無い。
チタン材である純チタンまたはチタン合金の表面に、アルミ酸化物粒子を埋め込み、アルミ酸化物を主体とする基材チタンと一体となった処理層を形成するためには、前提として、ショットブラスト処理を選択する。ショットブラスト処理によれば、チタン材表面に高速でアルミ酸化物粒子を噴射、投射でき、アルミ酸化物の基材へ埋め込むことができる。この結果、アルミ酸化物を主体とする基材チタンと一体となった処理層を形成できる。
本発明でショットブラスト用に使用できるアルミ酸化物粒子としては、実質的に、アルミ酸化物が有効に作用する粒子集合体(粉体、粉末)であればよい。この具体的な態様として、粒子の集合体が100%アルミ酸化物粒子からならずとも、他の酸化物粒子や化合物粒子を含んでも良い。また、アルミ酸化物の単一粒子が、100%アルミ酸化物組成からならずとも、アルミ酸化物の単一粒子中に他の酸化物や化合物を含んでも良い。
本発明で言うチタン材とは、圧延などの塑性加工や成形加工によって、板、条、線、管などの種々の形状とされた、純チタンまたはチタン合金のことを言う。本発明では、表面処理される対象となるチタン材を限定するものではなく、用途の要求特性 (機械的性質等) に応じて、α合金、α−β合金、β合金などのチタン合金あるいは純チタン(JIS 1種〜4種)が使用できる。チタン合金としては、汎用される、Ti-1.5Al、Ti-0.5Al-0.45Si-0.2Nb 、Ti-6Al-4V 、Ti-3Al-2.5V 、Ti-15V-3Al-3Sn-3Cr、Ti-1Cu等や、これら合金成分を変更した合金が使用できる。
また、特に排気管用途に使用する場合は、基材(母材)となるチタン材自身が上記した汎用されるチタン合金あるいは純チタンに対して、耐高温酸化性に優れていることが好ましい。これらの耐高温酸化性に優れるチタン材の好ましい態様を以下に説明する。
成分的には、チタン合金がSiを0.15〜2質量%含む場合に、850℃などのより高温での耐高温酸化性が向上する。即ち、チタン合金として、Siを0.15〜2質量%含み、残部チタンおよび不可避的不純物からなることが好ましい。
Nb、Mo、Crも、Siよりは効果が劣るが、耐高温酸化性向上に有効であり、Siと複合添加(共存)することで相乗効果が期待できる。このため、更に、Nb、Mo、Crの内から選択される1種または2種以上を、前記Siとの合計含有量で2質量%以下含んでも良い。これらの元素のSiとの合計量が2質量%を超えると、成形性が劣化し、排気管への成形加工が困難となる。
チタン材を、耐高温酸化性に優れさせるためには、以上説明した成分組成の他に、本発明のチタン材組織を以下に説明する好ましい態様とする。即ち、Si含有チタン合金最表面のSiの平均濃度を高める、チタン材組織の平均結晶粒径を大きくする、チタン材を針状組織とする、の内から1種または2種以上選択されるチタン合金組織とすることが好ましい。これらの組織を上記成分組成と適宜組み合わせて用いることで、相乗効果も期待できる。また、Alの添加は800℃以上の酸化環境では酸化スケールの剥離を誘発するので、例えば0.30質量%未満に添加量を制限する必要がある。これに対して、上記Si含有チタン合金最表面のSiの平均濃度を高める、チタン材組織の平均結晶粒径を大きくする、チタン材を針状組織といった方策を併用することで、高温等での機械的特性の調整のためのAlの添加を例えば0.30質量%以上に積極的に行うことができるようになる。
上記Si含有チタン合金最表面にSiを濃化させ、Siの平均濃度を高めるほど、耐高温酸化性に優れる。このためには、チタン合金最表面のSiの平均濃度を0.5at%以上とすることが好ましい。この最表面に濃化しているSiはチタン中に固溶したSiであってもよく、Ti5 Si3 等のTiとSiとの金属間化合物や、Siの酸化物、炭化物等の化合物形で存在してもよい。
常法により製造した場合、チタン材組織は等軸粒となる。この等軸粒組織により、チタン合金の成形性や機械的特性(強度)などの特性が確保される。
一方、この等軸粒組織の場合に、チタンの高温酸化性に対しては、その平均結晶粒径が大きく関与する。すなわち平均結晶粒径がある程度大きい方が耐高温酸化性が向上する。具体的には平均結晶粒径が15μm以上でこの効果が現れ、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上でこの効果は顕著になる。一方で、平均結晶粒径が過度に大きくなると、成形時の肌荒れの問題が生じるので、この問題が重要視される用途の場合には、平均結晶粒径の上限は150〜200μm程度となる。
ここで、チタン材の組織を、その平均結晶粒径を15μm以上とした比較的粗大な等軸結晶粒組織とすれば、前記した通り、Alを0.30質量%未満に規制しなくても良い。即ち、これら比較的粗大な等軸結晶粒組織の作用により、耐高温酸化性が向上する分、Alによる耐高温酸化性低下作用が抑制される。そして、この効果は、チタン材の前記した平均結晶粒径が大きいほど大きくなる。
本発明で言う結晶粒径とは、チタン合金や純チタンなどのチタン材の圧延(L) 方向断面の平均結晶粒径である。この結晶粒径は、チタン材から採取した試料 (試験片) 断面を0.05〜0.1mm 粗研磨した後、鏡面研磨し、この後エッチングした表面を、100 倍の光学顕微鏡を用いて観察し、前記L 方向にラインインターセプト法で測定する。1 測定ライン長さは0.95mmとし、1 視野当たり各3 本で合計5 視野を観察することにより、全測定ライン長さを0.95×15mmとする。このように、板の先端部と後端部とを除く、チタン材中央部の任意の10箇所において測定した各平均結晶粒径を、更に平均化したものをチタン材の平均結晶粒径とする。
ここで、これら等軸粒により、チタン合金や純チタンなどのチタン材の上記成形性や機械的特性などの特性を多少犠牲にしても差し支えのない用途の場合には、耐高温酸化性の更なる向上のために、チタン材をβ変態点以上で加熱して生成させた針状組織にしても良い。
本発明で用いるチタン材の製造方法は、上記製造方法の好ましい態様や、組織作り分けの条件はあるものの、その工程自体は、鋳塊溶製、熱間鍛造、熱延、焼鈍、冷間圧延、焼鈍あるいは熱処理等からなる常法により製造できる。そして、耐高温酸化性を向上させるための好ましい組織などの作り分けは、前記した通り、冷間圧延、焼鈍あるいは熱処理条件を変えて行なう。
各チタン材については、各成分組成の約120gの鋳塊をボタンアーク炉にて溶製し、これら各鋳塊を、熱間鍛造、熱延、焼鈍、冷間圧延を常法にて行い、共通して、厚さ2mmの冷間圧延板を作製した。この冷延板を脱脂し、所定の温度と条件で焼鈍を行い組織を各々調整した。また、必要に応じて脱スケールを行なった。この冷間圧延板から2mmt ×25mmw ×25mml の試験片を採取した。なお、表3の中の21〜24の汎用純チタン、25〜29の汎用チタン合金は市販のものを用い、この中でも、21、22の汎用純チタンのみは、下記加熱による針状組織への調整のみを行なった。
ショットブラスト処理条件は、表4〜7に示す、各投射圧条件で行い、試験片面とショットブラストノズル間の距離は共通して約5cmとした。そして、共通して、試験片表面がほぼ均一なショットブラスト肌になるまで、各アルミ酸化物粒子粉末を、繰り返し、チタン材表面に高速で噴射投射した。投射時間は、各試験片について、共通して、片面2〜5秒とした。
表2、3に記載したチタン材の内、試験片の平均結晶粒径が10μm以下(表1、2に<10と記載)の例は、チタン材の冷間圧延の圧下率を、常法の範囲内の概ね40%とした。また、その後実施される焼鈍条件も、800℃×均熱時間6 分の真空焼鈍とした。
また、表2、3に示す、針状組織を得た例は、冷間圧延の圧下率は常法の範囲内の概ね40%とし、冷延板を、チタン材のβ変態点を超える950℃で均熱時間6分間の真空加熱をした。なお、21、22の市販の汎用純チタンのみは、この加熱による針状組織への調整のみを行なった。針状組織を得た例は供試材から採取した試験片全体の組織が針状組織であった。
表2に示す、チタン合金最表面のSiの平均濃度が0.5at%以上である、最表面Siの濃化例は、概ね圧下率が40%の冷間圧延後、真空焼鈍に代えて、850℃で6分間大気焼鈍した後、チタン合金最表面に酸素や炭素等の表面汚染層を数μm の深さまで存在させないように、600℃の溶融ソルト(NaNO3 55質量% 、NaOH35質量% 、残KCl 、NaCl等を含有)に1分間浸漬した後、HF 1質量% 、HNO3 20 質量% 、60℃の水溶液に浸漬して、板厚で片面50μm 酸洗除去した後、直ちに水流により十分に撹拌された流水中に2 分浸漬し、次いで撹拌された80℃の水に3 分間浸漬し湯洗を実施して供試材とした。なお、酸洗後十分な流水浸漬と湯銭を実施したのは、酸洗後の洗浄が不十分となり、酸洗後のチタン表面に厚い酸化皮膜や酸洗液中の不純物の付着膜が形成され、表面Si濃度が低下するのを防ぐためである。
表2に示す、各試験片の最表面のSi平均濃度(at%)は以下の方法で分析した。すなわち分析前のチタン試料に数分間アセトンによる超音波洗浄を施し、表面に付着している油分等の汚染物を除去した後、日本電子社製EPMA分析装置JXA-8900RLを用い分析した。分析倍率はX500、加速電圧は15kvとし、定性分析により表面に存在する元素を調べた後、存在元素の存在量をZAF 法を用いた半定量分析により求めた。
表4〜7に示す、ショットブラスト処理層のアルミニウム平均濃度(表には平均Al含有量at%と記載)も、EPMA分析装置を用いた前記した分析方法により行なった。
表4〜7に示す各例とも、ショットブラスト処理層の厚みは、前記した断面観察による測定結果では、共通して、好ましい平均厚み1 μm 〜20μm の範囲内であった。
表4〜7に示す、各試験片の耐高温酸化性は、高温酸化試験により評価した。即ち、これらの試験片を、800℃を越える850℃で100時間の高温大気中に曝した場合の、高温酸化試験前後における試験片の重量増加(酸化増量:mg/cm2 )を測定した。そして、重量増加が少ないものほど、850℃での耐高温酸化性に優れると評価した。
なお、表4に示す発明例(比較例)1〜11、表5に示す発明例(比較例)12、13、19は、表2に示す通り、母材のチタン材が、Siを単独で含有させたり、更に、SiをNb、Mo、Crと複合添加した、Si入りチタン合金である。また、これに加えて、等軸粒平均結晶粒径を15μm以上に大きくしたり、最表面Si濃度を濃化させたり、等軸粒を針状組織化させたりしている。
Claims (9)
- 純チタンまたはチタン合金であるチタン材の表面に、アルミ酸化物粒子によるショットブラスト処理層を有し、この処理層のアルミニウム平均濃度が4at%以上であることを特徴とする耐高温酸化性に優れた表面処理チタン材。
- 前記ショットブラスト処理されるアルミ酸化物粒子集合体が全体でアルミ酸化物を80質量%以上含む、請求項1に記載の耐高温酸化性に優れた表面処理チタン材。
- 前記ショットブラスト処理されるアルミ酸化物粒子が単一粒子中にアルミ酸化物を80質量%以上含む、請求項1または2に記載の耐高温酸化性に優れた表面処理チタン材。
- 前記チタン材がSiを0.15〜2質量%含むチタン合金である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の耐高温酸化性に優れた表面処理チタン材。
- 前記チタン材が等軸結晶粒組織の平均結晶粒径が15μm以上であるチタン合金である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の耐高温酸化性に優れた表面処理チタン材。
- 前記チタン材が針状組織を有するチタン合金である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の耐高温酸化性に優れた表面処理チタン材。
- 前記チタン材が針状組織を有する純チタンである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の耐高温酸化性に優れた表面処理チタン材。
- 前記チタン材の用途がエンジン排気管である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の耐高温酸化性に優れた表面処理チタン材。
- 請求項1乃至8のいずれか1項の表面処理チタン材で構成されたエンジン排気管。
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