JP6005963B2 - アルミナバリア層を有する鋳造製品の製造方法 - Google Patents
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一方、これら金属酸化物としてCr酸化物(主にCr2O3からなる)が形成されてしまうと、緻密性が低いため、酸素や炭素の侵入防止機能が十分ではなく、高温雰囲気下で内部酸化を起こし、酸化物皮膜が肥大化する。また、これらCr酸化物は、加熱と冷却の繰り返しサイクルにおいて剥離し易く、剥離に到らない場合であっても、外部雰囲気からの酸素や炭素の侵入防止機能が十分でないから、皮膜を通じて母材に内部酸化や浸炭を生じる不都合がある。
このため、上記特許文献のオーステナイト系耐熱合金は、Al2O3によるバリア機能の向上を期待することはできても、母材の延性低下を招来する不都合がある。
高温雰囲気で使用される鋳造製品の製造方法であって、
質量%にて、Cr15%以上Ni18%以上を含有し、Alを2〜4%含有する耐熱合金の鋳造体の表面に多価アルコール液を含む酸溶液による酸処理を施すステップ、
上記酸処理を施した鋳造体に熱処理を施すことで、表面にAl2O3を含むアルミナバリア層を形成する熱処理ステップと、
を含んでいる。
鋳造体は、例え小径、長尺の管体等の研磨加工等が難しいものであっても、対象となる部位の全体に亘って表面粗さを調整することができる。
このように表面粗さの調整を行なった後に熱処理を施すことで、対象となる部位の全体にAl2O3を含むアルミナバリア層を形成することができる。
本発明は、Cr15%以上Ni18%以上を含有し、Alを2〜4%含有する耐熱合金について、酸処理による表面処理を施し、その後、熱処理を施すことにより、表面にAl2O3を含む所謂「アルミナバリア層」の形成された鋳造製品を得るものである。なお、本明細書において、「%」は、特に表示がないときは、全て質量%である。
Crは、高温強度及び繰返し耐酸化性へ寄与のため、Crを15%以上含有させる。しかし、含有量があまり多くなると高温クリープ破断強度の低下を招くので上限は50%とする。なお、Crの含有量は23〜35%がより望ましい。
Niは、繰返し耐酸化性及び金属組織の安定性の確保に必要な元素である。また、Niの含有量が少ないと、Feの含有量が相対的に多くなる結果、鋳造体の表面にCr−Fe−Mn酸化物が生成され易くなるため、アルミナバリア層の生成が阻害される。このため、少なくとも18%以上含有させるものとする。70%を超えて含有しても増量に対応する効果が得られないので、上限は70%とする。なお、Niの含有量は28〜45%がより望ましい。
Alは耐浸炭性及び耐コーキング性の向上に有効な元素である。また、本発明では、鋳造体の表面にアルミナバリア層を生じさせるために必要不可欠の元素である。このため、少なくとも2%以上含有させる。しかし、含有量が4%を超えると、前述したように延性が劣化するため、本発明では上限を4%に規定する。なお、Alの含有量は2.5〜3.8%がより望ましい。
Cは、鋳造性を良好にし、高温クリープ破断強度を高める作用がある。このため、少なくとも0.05%を含有させる。しかし、含有量があまり多くなると、Cr7C3の一次炭化物が幅広く形成され易くなり、アルミナバリア層を形成するAlの移動が抑制されるため、鋳造体の表面部へのAlの供給不足が生じて、アルミナバリア層の局部的な寸断が起こり、アルミナバリア層の連続性が損なわれる。また、二次炭化物が過剰に析出するため、延性、靱性の低下を招く。このため、上限は0.7%とする。なお、Cの含有量は0.3〜0.5%がより望ましい。
Siは、溶湯合金の脱酸剤として、また溶湯合金の流動性を高めるために含有させるが、含有量があまり多くなると高温クリープ破断強度の低下を招くので上限は2.5%とする。なお、Siの含有量は2.0%以下がより望ましい。
Mnは、溶湯合金の脱酸剤として、また溶湯中のSを固定するために含有させるが、含有量があまり多くなると高温クリープ破断強度の低下を招くので上限は3.0%とする。なお、Mnの含有量は1.6%以下がより望ましい。
希土類元素とは、周期律表のLaからLuに至る15種類のランタン系列に、YとScを加えた17種類の元素を意味するが、本発明の耐熱合金に含有させる希土類元素は、Ce、La及びNdからなる群のうち少なくとも一種以上が含まれることが好ましい。この希土類元素は、アルミナバリアの生成と安定化の促進に寄与する。
アルミナバリア層の生成を高温の酸化性雰囲気下での加熱処理によって行なう場合は、希土類元素を0.005%以上含有させることでアルミナバリア層生成に有効に寄与する。
一方、あまりに多く含有すると、延性、靱性が悪化するので、上限は0.4%とする。
W、Moは、基地中に固溶し、基地のオーステナイト相を強化することにより、クリープ破断強度を向上させる。この効果を発揮させるために、W及びMoの少なくとも一種を含有させるものとし、Wの場合は0.5%以上、Moの場合は0.1%以上含有させる。
しかし、W及びMoは、含有量があまり多くなると、延性の低下や、耐浸炭性の劣化を招く。また、Cが多い場合と同じように、(Cr,W,Mo)7C3の幅が幅広く形成され易くなり、アルミナバリア層を形成するAlの移動が抑制されるため、鋳造体の表面部分へのAlの供給不足が生じ、アルミナバリア層の局部的な寸断が起こり、アルミナバリア層の連続性が損なわれ易くなる。また、WやMoは原子半径が大きいため、基地中に固溶することにより、AlやCrの移動を抑制してアルミナバリア層の生成を妨げる作用がある。
このため、Wは10%以下、Moは5%以下とする。なお、両元素を含有する場合でも、合計含有量は10%以下とすることが好ましい。
Ti、Zr及びNbは、炭化物を形成し易い元素であり、WやMoほど基地中には固溶しないため、アルミナバリア層の形成には特段の作用は認められないが、クリープ破断強度を向上させる作用がある。必要に応じて、Ti、Zr及びNbの少なくとも一種を含有させることができる。含有量は、Ti及びZrが0.01%以上、Nbが0.1%以上である。
しかし、過剰に添加すると、延性の低下を招く。Nbは、さらに、アルミナバリア層の耐剥離性を低下させる。このため、上限は、Ti及びZrは0.6%、Nbは3.0%とする。
Bは、鋳造体の粒界を強化する作用があるので、必要に応じて含有させることができる。なお、含有量が多くなるとクリープ破断強度の低下を招くため、添加する場合でも0.1%以下とする。
本発明の鋳造製品を構成する鋳造体は、溶湯を溶製し、金型遠心力鋳造、静置鋳造等により上記組成に鋳造される。
鋳造体の形状は、直管、直管を屈曲してなる屈曲部分を有するU字管等を例示できる。なお、直管の場合、研磨加工等による表面処理が困難な内径、長さのものに特に好適であり、この種の鋳造体として、例えば、内径40mm以下及び/又は長さ3000mm以上の直管を例示できる。また、必要に応じて内面加工や内面ホーニング等の所謂仕上げ加工を施すこともできる。
表面処理は、多価アルコール液を含む酸溶液による酸処理である。この酸処理による表面処理は、製品使用時に高温雰囲気と接触することとなる対象部位の全体に行なうことが望ましい。なお、直管やU字管について、研磨加工などにより仕上げ加工等が行なわれている部分については、研磨加工の届かない部分や、U字管の屈曲部分とその近傍のみに酸処理を施すこともできる。
上記酸処理が施された鋳造体に、以下の条件の熱処理を行なう。
熱処理は、酸化性雰囲気下にて加熱処理を施すことで実施される。
酸化性雰囲気とは、酸素を20体積%以上含む酸化性ガス、又はスチームやCO2が混合された酸化性環境である。また、加熱処理は、900℃以上、好ましくは1000℃以上の温度で行ない、より好ましくは1050℃以上の温度で行ない、加熱時間は1時間以上である。
上記のように、酸処理の後に熱処理を順に行なうことで、対象部位の全体にアルミナバリア層が安定して形成された鋳造製品を得ることができる。
本発明の鋳造製品に形成されるアルミナバリア層は、緻密性が高く、外部から酸素、炭素、窒素の侵入を防ぐバリアとしての作用を有する。本発明では、上述のように、鋳造体を、製品使用時に高温雰囲気と接触することとなる部位に酸処理による表面処理を行ない、該部位の表面粗さを調整し、その後に、前記部位を酸化性雰囲気中で加熱処理することにより、鋳造製品の前記表面にアルミナバリア層として連続してAl2O3が形成されるようにする。これにより、鋳造体の対象部位の表面全体にアルミナバリア層を形成することができる。
表1に示すように、発明例である供試No.1〜No.9は、多価アルコール液を含む酸溶液に3分又は10分間浸漬した。
参考例である供試No.11及びNo.12は、多価アルコール液を含まない酸溶液に同様の要領で浸漬した。
酸処理を施した上記発明例及び参考例は、酸処理後に水洗いを行なった。
なお、比較例である供試No.21には酸処理は行なわなかった。
上記各供試管から、幅20mm×長さ30mmの供試片を切り出し、各供試片の内面の表面粗さ(Ra)を測定した。また、供試No.1〜No.7、No.11、No.12及びNo.21について、供試片の内面の表面写真を撮影した。
表面粗さ(Ra)の測定結果を表1に、また、供試片の表面写真を図1乃至図10に示す。
上記表面処理を施した供試管に対し、大気中(酸素約21%)で1050℃、10時間の加熱を施し、加熱後、炉冷する処理を行なった。
前記熱処理を行なった後の各供試片について、形成されたアルミナバリア層の層厚(μm)と試験片表面のAl2O3皮膜の面積率(%)を測定した。その測定結果を前述の表1に記載している。
供試No.1〜No.7の表面写真を図11〜図17、断面SEM写真を図21〜図27、供試No.11、No.12及びNo.21の表面写真を図18〜図20、断面SEM写真を図28〜30に夫々示している。
Claims (8)
- アルミナバリア層を有する鋳造製品の製造方法であって、
質量%にて、Cr15%以上Ni18%以上を含有し、Alを2〜4%含有する耐熱合金の鋳造体の表面に多価アルコール液を含む酸溶液による処理を施すステップ、
上記酸処理を施した鋳造体に熱処理を施すことで、表面にAl2O3を含むアルミナバリア層を形成する熱処理ステップと、
を含んでいる表面にアルミナバリア層を有する鋳造製品の製造方法。 - 上記酸処理は、硝酸、塩酸及びグリセロールを含むグリセリジア液またはグリコールを含むグリコール液により行なわれる請求項1に記載の鋳造製品の製造方法。
- 上記グリセリジア液またはグリコール液に含まれる多価アルコール液が10%を越えて40%以下である請求項1に記載の鋳造製品の製造方法。
- 鋳造体は屈曲部を有する管体であって、酸処理の前に、屈曲加工が施される請求項1乃至請求項3の何れかに記載の鋳造製品の製造方法。
- 熱処理により、鋳造製品の表面に、厚み0.05μm以上のAl2O3を含むアルミナバリア層が形成される請求項1乃至請求項4に記載の鋳造製品の製造方法。
- 鋳造体は、質量%にて、C:0.05〜0.7%、Si:0%を越えて2.5%以下、Mn:0%を越えて3.0%未満、Cr:15〜50%、Ni:18〜70%、Al:2〜4%、希土類元素:0.005〜0.4%、並びに、W:0.5〜10%及び/又はMo:0.1〜5%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる請求項1乃至請求項5の何れかに記載の鋳造製品の製造方法。
- 鋳造体は、さらに、質量%にて、Ti:0.01〜0.6%、Zr:0.01%〜0.6%及びNb:0.1〜3.0%の少なくとも一種を含有する請求項6に記載の鋳造製品の製造方法。
- 鋳造体は、さらに、質量%にて、B:0.1%を越えて0.1%以下を含有する請求項6又は請求項7に記載の鋳造製品の製造方法。
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