JP4152127B2 - 軽油組成物(1) - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は軽油組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、環境問題等の観点から、ディーゼル排ガス中に含まれる粒子状物質(Particle Matter、以下、PMという)やアルデヒド類等を低減する技術が検討されている。
【0003】
PMは、燃料の燃焼によるすす(煤)、燃料や潤滑油からの未燃焼成分及び中間生成分等からなり、黒色煙の状態で排出される微小粒子である。特に、日本においては、直径10μm以下の大気浮遊粒子状物質(Suspended Particle Matter、SPM)について環境規定がなされている。PMを低減する技術としては、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、DPFという)を排気系に装着してPMを物理的に捕集・除去する方法や、燃料を高圧で噴射して燃焼させる方法等が提案されている。
【0004】
また、アルデヒド類も大気汚染等の原因物質として考えられており、これを低減する方法として酸化触媒等を用いた排ガス後処理装置を排気系に装着する方法等が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の方法であってもPM及びアルデヒド類を低減する技術として必ずしも十分とは言えない。特に、PMを構成する微小粒子の総粒子数及び当該微小粒子のうち直径の分布中心が50nm付近である微小粒子(以下、ナノ粒子という)の粒子数を低減しつつ、同時にアルデヒド類をも低減することは非常に困難である。
【0006】
また、上記の方法はいずれも所定の装置を用いるものであるが、一方、ディーゼルエンジンの燃料である軽油については排ガス中のPM量、アルデヒド類、微小粒子の総数及びナノ粒子数を全て同時に低減するための検討は十分になされていない。
【0007】
本発明は、かかる実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、ディーゼル排ガス中に含まれるPM全体の量、PMを構成する微小粒子の総粒子数及びナノ粒子数、並びにアルデヒド類の量を同時に且つ十分に低減することが可能な軽油組成物を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の軽油組成物は、硫黄分含有量が10質量ppm以下であり、セタン指数が45以上であり、セタン価が50以上であり、90%留出温度が330℃以下であり、芳香族分含有量が5容量%以上であり、灰分が0.01質量ppm未満であり、体積弾性率が1300MPa以上1600MPa以下であり、且つ下記式(1):
10≦(A×D/1000+N/5)≦30 (1)
[式(1)中、Aは軽油組成物中の1環芳香族分含有量(容量%)を示し、Dは軽油組成物の15℃における密度(kg/m3)を示し、Nは軽油組成物中のナフテン化合物含有量(質量%)を示す]
で表される条件を満たすことを特徴とする。
【0009】
本発明の軽油組成物によれば、硫黄分含有量、セタン指数、セタン価、90%留出温度、灰分及び体積弾性率をそれぞれ上記の範囲内とし、さらに軽油組成物中の1環芳香族分含有量A、軽油組成物の15℃における密度D及び軽油組成物中のナフテン化合物含有量Nが上記式(1)で表される条件を満たすようにすることによって、ディーゼル排ガス中に含まれるPM全体の量、PMを構成する微小粒子の総粒子数及びナノ粒子数、並びにアルデヒド類の量を同時に且つ十分に低減することが可能となる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0011】
(硫黄分)
本発明の軽油組成物においては、硫黄分含有量が10質量ppm以下であることが必要である。硫黄分含有量が10質量ppmを超えると、排ガス後処理装置の耐久性の悪化並びにPM排出量及び微小粒子排出量の増加が起こりやすくなる。また、上述の理由により、硫黄分含有量は7質量ppm以下であることが好ましく、5質量ppm以下であることがより好ましい。
【0012】
なお、本発明でいう硫黄分含有量とは、JIS K 2541「硫黄分試験方法」により測定される、軽油組成物全量を基準とした硫黄分の含有量を意味する。
【0013】
(セタン指数及びセタン価)
本発明の軽油組成物のセタン指数は45以上であることが必要である。セタン指数が45に満たない場合には、排出ガス中のPM、アルデヒド類、あるいはさらにNOxの濃度が高くなりやすい。また、同様の理由により、セタン指数は48以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましい。
【0014】
なお、本発明でいうセタン指数とは、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」の「8.4変数方程式を用いたセタン指数の算出方法」によって算出される価を意味する。ここで、上記JIS規格におけるセタン指数は、一般的にはセタン価向上剤を添加していない軽油に対して適用されるが、本発明ではセタン価向上剤を添加した軽油組成物についても上記「8.4変数方程式を用いたセタン指数の算出方法」を適用し、当該算出方法により算出される値をセタン指数として表す。
【0015】
また、本発明の軽油組成物においては、排出ガス中のPM、アルデヒド、あるいはさらにNOxの各濃度をより低減させることが出来ることから、セタン価は50以上であることが必要であり、52以上であることが好ましく、54以上であることがより好ましい。
【0016】
なお、ここでいうセタン価とは、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」の「7.セタン価試験方法」に準拠して測定されるセタン価を意味する。
【0017】
(90%留出温度)
本発明の軽油組成物において、90%留出温度(以下、場合によりT90という)は330℃以下であることが必要である。T90が330℃より高い場合はPMや微小粒子排出量の増加が起こりやすくなる。また、同様の理由により、T90は325℃以下であることが好ましく、320℃以下であることがより好ましく、315℃以下であることがさらに好ましい。
【0018】
また、T90の下限値に対しては特に制限はないが、燃費をより向上させてエンジン出力をより高めるという効果が得られる点から、T90は270℃以上が好ましく、275℃以上がより好ましく、280℃以上が最も好ましい。
【0019】
なお、本発明でいう90%留出温度(T90)とは、全てJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」によって測定される値を意味する。
【0020】
(灰分)
本発明の軽油組成物においては、灰分の含有量が0.01質量%未満であることが必要である。灰分の含有量が前記上限値を超えると、エンジンでの燃焼過程中に灰分がPMの核となり、PM全体の量及びナノ粒子の量が増加してしまう。また、灰分のまま排出された場合であっても、灰分が排ガス後処理装置に堆積してしまい、後処理装置の性能低下を招いてしまうことがある。さらには、燃料噴射系に対する悪影響も考えられる。
【0021】
なお、本発明でいう灰分とは、全てJIS K 2272「原油及び石油製品の灰分並びに硫酸灰分試験方法」によって測定される値を意味する。
【0022】
(体積弾性率)
本発明の軽油組成物において、体積弾性率は1300MPa以上1600MPa以下である必要がある。
【0023】
一般に、軽油のような圧縮性のある流体に高い圧力を加えた場合、雰囲気の温度、圧力に応じて流体が圧縮し、その結果、流体の密度(流量あたりの体積)が変化する。本発明では、このような流体の圧縮弾性率を体積弾性率(単位:MPa)と定義している。
【0024】
例えばディーゼル燃料噴射を想定した場合、燃料流体の体積弾性率は、燃料がおかれている雰囲気の温度や圧力、さらには燃料自体の物理特性や組成に応じて一定の割合で変化する。従って、電子制御式燃料噴射ポンプのように、高圧で高精度な噴射特性を有する噴射系において、設定通りの燃料噴射量や噴射率を維持するためには、体積弾性率が安定した数値を示す燃料が必要である。この体積弾性率の安定化がPM全体及びナノ粒子、あるいはさらにNOx等の低減に繋がる。かかる理由により、本発明の軽油組成物では、その体積弾性率が1300MPa以上1600MPa以下であることが必要であり、1300MPa以上1500MPa以下であることが好ましく、1350MPa以上1450MPa以下であることがより好ましい。
【0025】
なお、体積弾性率は単一の燃料物理特性、組成によって支配されるものではなく、複数の物理特性、組成の影響を複合的に受けた結果として定義されるものであるため、他の物理特性、組成と並行して捉えるべき燃料特性と考えることが、技術的見地から妥当である。
【0026】
ここで、本発明にかかる体積弾性率の測定方法について説明する。図1は体積弾性率測定装置の一例を示す概略構成図である。図1中、定容容器1の上面には定容容器1内に連通するように供給弁2が設けられており、供給弁2の所定の位置には排出弁3が接続されている。また、定容容器1の側面には温度センサ4及び圧力センサ5、定容容器1の下面にはピストン6がそれぞれ定容容器1内に連通するように設けられている。ここで、定容容器1及びピストン6は、雰囲気の温度及び圧力が所定量変化したときに、その容量変化が燃料の体積変化に比べて十分に小さい材料及び構造からなるものである。
【0027】
図1に示した測定装置を用いる場合、先ず、測定対象である軽油組成物100を供給弁2から定容容器1内に導入し、定容容器1内を軽油組成物で充満させる。次に、ピストン6により定容容器1内の容積を変化させる。このとき、軽油組成物はその圧縮弾性特性に従って圧縮されるので、結果として定容容器1内の圧力が変化することになる。この圧縮工程の際の温度及び圧力を温度センサ4及び圧力センサ5で測定し、得られた測定値に基づいて体積弾性率を算出することができる。
【0028】
(1環芳香族分、ナフテン分及び密度の関係)
本発明の軽油組成物において、軽油組成物中の1環芳香族分含有量、ナフテン分含有量及び密度は、下記式(1):
【0029】
10≦(A×D/1000+N/5)≦30 (1)
で表される条件を満たすことが必要である。ここで、Aは軽油中の1環芳香族分含有量(容量%)、Dは15℃における密度(kg/m3)、Nは軽油中のナフテン化合物含有量(質量%)を示す。また、本発明では、以下、式(1)中の{A×D/1000+N/5}を「AN指数」という。
【0030】
AN指数が30を越える場合は、大きな粒径分布を持つ微小粒子及びPM排出が増加しやすい。また、AN指数が10未満となる場合、軽油組成物中に芳香族化合物やナフテン化合物があまり存在しないことになり、結果として燃費や出力性能の低下や噴射ポンプ等の部品に使用されている材料類、特にゴム部材等に対する影響が懸念される。
【0031】
本発明の軽油組成物において、1環芳香族分含有量は上記式(1)を満たせば特に制限されないが、排ガス中のPM、あるいはさらにNOxの低減効果の点から、1環芳香族分含有量は40容量%以下であることが好ましく、35容量%であることがより好ましく、30容量%以下であることがさらに好ましく、25容量%以下であることが特に好ましい。また、噴射ポンプに使用されているゴム部材等への影響の点から、1環芳香族分含有量は5容量%以上であることが好ましく、7容量%以上であることがより好ましく、10容量%以上であることがさらに好ましい。
【0032】
また、本発明の軽油組成物において、ナフテン化合物含有量は上記式(1)を満たせば特に制限されないが、他の燃料基材とのバランスや過度の混合による排ガス性能への影響の点から、ナフテン化合物含有量は95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85容量%以下であることがさらに好ましく、80容量%以下であることが最も好ましい。
【0033】
さらに、本発明の軽油組成物において、2環以上の多環芳香族分の含有量が5容量%以下であることが好ましく、3容量%以下であることがより好ましく、2容量%以下であることがさらに好ましい。2環以上の多環芳香族分の含有量が前記上限値を超えると、排ガス中のPM、あるいはさらにNOxが増加する傾向にある。
【0034】
また、本発明の軽油組成物においては、飽和分、オレフィン分および芳香族分の各含有量について特に制限はないが、飽和分含有量は60〜100容量%、オレフィン分含有量は0〜5容量%、芳香族分含有量は5〜40容量%であることがそれぞれ好ましい。
【0035】
飽和分含有量は、排出ガス中のPM及びNOxの各濃度を低下させる点で、好ましくは60容量%以上、より好ましくは65容量%以上、さらに好ましくは70容量%以上、最も好ましくは75容量%以上であることが望ましい。また、飽和分含有量の上限に関しては特に制限はないが、本発明の軽油組成物がJIS2号軽油に相当する蒸留性状を有する場合には、低温始動性および低温運転性を良好に維持する点から、飽和分含有量は好ましくは95容量%以下、より好ましくは90容量%以下、さらにより好ましくは85容量%以下であることが望ましい。ここで、本発明でいう飽和分には、ノルマルパラフィン類、イソパラフィン類及びナフテン類が包含される。
【0036】
また、オレフィン分含有量は、本発明の軽油組成物の安定性の点から、好ましくは0〜5容量%、より好ましくは0〜1容量%であることが望ましい。
【0037】
また、芳香族分含有量は、排ガス中のPM及びNOxの低減効果の点から、好ましくは40容量%以下、より好ましくは35容量%以下、さらに好ましくは30容量%以下、最も好ましくは25%以下であることが望ましい。また、噴射ポンプに使用されている材料への影響等の点から、芳香族分含有量は、好ましくは5容量%以上、より好ましくは7容量%以上、さらに好ましくは10容量%以上であることが望ましい。
【0038】
なお、本発明でいう飽和分含有量(容量%)、オレフィン分含有量(容量%)及び芳香族分含有量(容量%)とは、それぞれ社団法人石油学会から発光されている石油学会企画JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠して測定される値を意味する。また、本発明でいうナフテン化合物含有量は、ASTM D2786「質量分析法」に準拠して測定されるナフテン分の質量百分率(質量%)を意味する。
【0039】
(動粘度)
本発明の軽油組成物の30℃における動粘度は1.7mm2/s以上であることが好ましく、1.72mm2/s以上であることがより好ましく、1.75mm2/s以上であることがさらに好ましく、1.78mm2/s以上であることがさらにより好ましく、1.80mm2/s以上であることが最も好ましい。当該動粘度が1.7mm2/sに満たない場合は、燃料噴射ポンプ側の燃料噴射時期制御が困難となる傾向にあり、またエンジンに搭載された燃料噴射ポンプの各部における潤滑性が損なわれるおそれがある。
【0040】
また、本発明の軽油組成物の30℃における動粘度の上限値については特に制限はないが、排出ガス中のPM濃度をより一層低減できることから、当該動粘度は4.0mm2/s以下であることが好ましく、3.5mm2/s以下であることがより好ましく、3.0mm2/s以下であることがさらに好ましく、2.5mm2/s以下であることがさらにより好ましく、2.4mm2/s以下であることが特に好ましく、2.2mm2/s以下であることが最も好ましい。
【0041】
なお、本発明でいう動粘度とは、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」により測定される動粘度を意味する。
【0042】
(密度)
本発明の軽油組成物において、15℃における密度(D)は上記式(1)を満たせば特に制限されないが、燃料消費率および加速性の点から、当該密度は770kg/m3以上であることが好ましい。また、排出ガス中のPM濃度をより低下できる点から、当該密度は840kg/m3以下であることが好ましく、835kg/m3以下であることがより好ましく、830kg/m3以下であることがさらに好ましく、820kg/m3以下であることさらにより好ましく、815kg/m3以下であることが最も好ましい。
【0043】
ここで密度とはJIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度を意味する。
【0044】
(潤滑性能)
本発明の軽油組成物は、HFRR摩耗痕径(WS1.4)が好ましくは460μm以下、より好ましくは440μm以下、さらに好ましくは420μm以下、さらにより好ましくは400μm以下、最も好ましくは380μm以下となる潤滑性能を有することが望ましい。HFRR摩耗痕径が460μmを超える場合は、特に分配型噴射ポンプを搭載したディーゼルエンジンにおいて、運転中のポンプの駆動トルク増、ポンプ各部の摩耗増を引き起こし、排ガス性能、微小粒子性能の悪化のみならずエンジン自体が破壊される恐れがある。また、高圧噴射が可能な電子制御式燃料噴射ポンプにおいても、摺動面等の摩耗が懸念される。
【0045】
なお、本発明でいうHFRR摩耗痕径とは、社団法人石油学会から発行されている石油学会規格JPI−5S−50−98「軽油−潤滑性試験方法」により測定される値を意味する。
【0046】
(流動点)
本発明の軽油組成物の流動点は、低温始動性ないしは低温運転性の観点、並びに電子制御式燃料噴射ポンプにおける噴射性能維持の観点から、−7.5℃以下であることが好ましく、−15℃以下であることがより好ましく、−20℃以下であることがさらにより好ましい。
【0047】
ここで流動点とは、JIS K 2269「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」により測定される流動点を指す。
【0048】
(目詰まり点)
本発明の軽油組成物は、その目詰まり点については特に限定条件はない。しかし、一般的には組成物の目詰まり点は−5℃以下であることが好ましく、−8℃以下であることがより好ましく、−12℃以下であることがさらにより好ましく、−19℃以下であることが最も好ましい。
【0049】
ここで目詰まり点とはJIS K 2288「軽油−目詰まり点試験方法」により測定される目詰まり点を指す。
【0050】
(貯蔵安定性)
本発明の軽油組成物は、貯蔵安定性の点から、酸化安定性試験後の全不溶解分が2.0mg/100mL以下であることが好ましく、1.0mg/100mL以下であることがより好ましく、0.5mg/100mL以下であることがさらに好ましく、0.3mg/100mL以下であることがさらにより好ましく、0.2mg/100mL以下であることが特に好ましく、0.1mg/100mL以下であることが最も好ましい。なお、ここでいう酸化安定性試験とは、ASTMD2274−94に準拠して、95℃、酸素バブリング下、16時間の条件で実施する試験である。
【0051】
また、貯蔵安定性、部材への適合性の点から、上記酸化安定性試験後における当該軽油組成物の過酸化物価は10質量ppm以下であることが好ましく、5質量ppm以下であることがより好ましく、3質量ppm以下であることがさらに好ましく、2質量ppm以下であることがさらにより好ましく、1質量ppm以下であることが最も好ましい。なお、ここでいう過酸化物価とは石油学会規格JPI−5S−46−96に準拠して測定される値を意味する。全不溶解分や過酸化物価を低減するために、本発明の軽油組成物に酸化防止剤や金属不活性化剤等の添加剤を適宜添加することができる。
【0052】
(導電率)
本発明の軽油組成物の導電率は特に限定されるものではないが、安全性の観点から50pS/m以上であることが好ましい。本発明の軽油組成物には、導電率を改善するために、帯電防止剤等を適宜添加することができる。なお、ここでいう導電率とは、JIS K2276「石油製品−航空燃料油試験方法」に準拠して測定される値を意味する。
【0053】
(ベース軽油)
本発明の軽油組成物は任意の方法で製造することができる。典型的には、ベース軽油の1種又は2種以上に、必要に応じてセタン価向上剤と潤滑油向上剤、清浄剤、その他の添加剤を所定量配合して製造される。
【0054】
ベース軽油としては、例えば、原油の常圧蒸留装置から得られる直留軽油;常圧蒸留装置から得られる直留重質油や残査油を減圧蒸留装置にかけて得られる減圧軽油;減圧蒸留装置から得られる減圧軽油を水素化精製して得られる水素化精製軽油;減圧蒸留装置から得られる減圧軽油等を水素化分解して得られる水素化分解軽油;直留軽油を通常の水素化精製より苛酷な条件で一段階または多段階で水素化脱硫して得られる水素化脱硫軽油;脱硫または未脱硫の減圧軽油、減圧重質軽油あるいは脱硫重油を接触分解して得られる接触分解軽油;原油の常圧蒸留により得られる直留灯油;直留灯油を水素化精製して得られる水素化精製灯油;天然ガスなどを原料としこれを化学合成させることで得られる合成軽油および合成灯油;直留原油の常圧蒸留によって得られる軽油留分を分解して得られる分解灯油等が挙げられる。これらのベース軽油は、軽油組成物の硫黄分含有量、セタン指数、セタン価、90%留出温度、灰分及び体積弾性率をそれぞれ上記の範囲内とし、且つ上記式(1)で表される条件を満たすように調製可能であれば、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
本発明の軽油組成物の製造に関しては、上記ベース軽油の中でも水素化分解軽油を用いることが好ましい。このようにして得られる水素化分解軽油の具体例としては、その蒸留性状として50%留出温度が200℃から320℃であり、15℃における密度が780kg/m3から870kg/m3の範囲のものが挙げられる。なお、これらの値は水素化分解軽油の製造条件によって変化し得る。また、水素化分解軽油よりも軽い留分である水素化分解灯油も本発明の軽油組成物の基材として有効である。
【0056】
水素化分解軽油を製造する際には、重質軽油等をアモルファス系ニッケル−モリブデン触媒等を用い、8〜25MPaの運転水素圧力のもと、300℃から500℃の運転反応温度で、液空間速度0.1〜1.0/hの条件で、水素化分解と共に脱硫、脱窒素を行う水素化分解装置を使用することができる。
【0057】
水素化分解軽油を用いる場合の配合量は、組成物全量を基準として15容量%以上であることが好ましく、30容量%以上であることがより好ましく、50容量%以上であることがさらに好ましい。
【0058】
上記ベース軽油の硫黄分含有量が10質量ppmを超える場合には、後述する添加剤等の配合に先立ち、水素化精製などの適当な手段で硫黄分含有量を10質量ppm以下に低減させる脱硫処理を行うことが好ましい。
【0059】
(セタン価向上剤)
本発明においては、必要に応じてセタン価向上剤を適量含有し、得られる軽油組成物のセタン価を50以上とすることができる。
【0060】
かかるセタン価向上剤としては、軽油のセタン価向上剤として知られる各種の化合物を任意に使用することができ、例えば、硝酸エステルや有機過酸化物等が挙げられる。これらのセタン価向上剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0061】
本発明においては、上述のセタン価向上剤の中でも硝酸エステルを用いることが好ましい。かかる硝酸エステルには、2−クロロエチルナイトレート、2−エトキシエチルナイトレート、イソプロピルナイトレート、ブチルナイトレート、第一アミルナイトレート、第二アミルナイトレート、イソアミルナイトレート、第一ヘキシルナイトレート、第二ヘキシルナイトレート、n−ヘプチルナイトレート、n−オクチルナイトレート、2−エチルヘキシルナイトレート、シクロヘキシルナイトレート、エチレングリコールジナイトレートなどの種々のナイトレート等が包含されるが、特に、炭素数6〜8のアルキルナイトレートが好ましい。
【0062】
セタン価向上剤の含有量は、組成物全量基準で500質量ppm以上であることが好ましく、600質量ppm以上であることがより好ましく、700質量ppm以上であることがさらに好ましく、800質量ppm以上であることがさらにより好ましく、900質量ppm以上であることが最も好ましい。セタン価向上剤の含有量が500質量ppmに満たない場合は十分なセタン価向上効果が得られず、ディーゼルエンジン排出ガスのPM、アルデヒド、さらにはNOxが十分に低減されない傾向にある。また、セタン価向上剤の含有量の上限値は特に限定されないが、軽油組成物全量基準で、1400質量ppm以下であることが好ましく、1250質量ppm以下であることがより好ましく、1100質量ppm以下であることがさらに好ましく、1000質量ppm以下であることが最も好ましい。
【0063】
セタン価向上剤は、常法に従い合成したものを用いてもよく、また、市販品を用いてもよい。なお、セタン価向上剤と称して市販されているものは、セタン価向上に寄与する有効成分(すなわちセタン価向上剤自体)を適当な溶剤で希釈した状態で入手されるのが通例である。このような市販品を使用して本発明の軽油組成物を調製する場合には、軽油組成物中の当該有効成分の含有量が上述の範囲内となることが好ましい。
【0064】
(潤滑性向上剤及び清浄剤)
本発明の軽油組成物においては、上記セタン価向上剤以外の添加剤を必要に応じて配合することができ、特に、潤滑性向上剤および/または清浄剤が好ましく配合される。
【0065】
潤滑性向上剤としては、例えば、カルボン酸系、エステル系、アルコール系およびフェノール系の各潤滑性向上剤の1種又は2種以上が任意に使用可能である。これらの中でも、カルボン酸系及びエステル系の潤滑性向上剤が好ましい。
【0066】
カルボン酸系の潤滑性向上剤としては、例えば、リノ−ル酸、オレイン酸、サリチル酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ヘキサデセン酸及び上記カルボン酸の2種以上の混合物が例示できる。
【0067】
また、エステル系の潤滑性向上剤としては、グリセリンのカルボン酸エステルが挙げられる。カルボン酸エステルを構成するカルボン酸は、1種であっても2種以上であってもよく、その具体例としては、リノ−ル酸、オレイン酸、サリチル酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ヘキサデセン酸等がある。
【0068】
潤滑性向上剤の配合量は、HFRR摩耗痕径が上記範囲内であれば特に制限されないが、組成物全量基準で35質量ppm以上であることが好ましく、50質量ppm以上であることがより好ましい。潤滑性向上剤の配合量が前記の範囲内であると、配合された潤滑性向上剤の効能を有効に引き出すことができ、例えば分配型噴射ポンプを搭載したディーゼルエンジンにおいて、運転中のポンプの駆動トルク増を抑制し、ポンプの摩耗を低減させることができる。また、配合量の上限値は、それ以上加えても添加量に見合う効果が得られないことから、組成物全量基準で150質量ppm以下であることが好ましく、105質量ppm以下であることがより好ましい。
【0069】
清浄剤としては、例えば、イミド系化合物;ポリブテニルコハク酸無水物とエチレンポリアミン類とから合成されるポリブテニルコハク酸イミドなどのアルケニルコハク酸イミド;ペンタエリスリトールなどの多価アルコールとポリブテニルコハク酸無水物から合成されるポリブテニルコハク酸エステルなどのコハク酸エステル;ジアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドンなどとアルキルメタクリレートとのコポリマーなどの共重合系ポリマー、カルボン酸とアミンの反応生成物等の無灰清浄剤等が挙げられ、中でもアルケニルコハク酸イミド及びカルボン酸とアミンとの反応生成物が好ましい。これらの清浄剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0070】
アルケニルコハク酸イミドを使用する例としては、分子量1000〜3000程度のアルケニルコハク酸イミドを単独使用する場合と、分子量700〜2000程度のアルケニルコハク酸イミドと分子量10000〜20000程度のアルケニルコハク酸イミドとを混合して使用する場合とがある。
【0071】
カルボン酸とアミンとの反応生成物を構成するカルボン酸は1種であっても2種以上であってもよく、その具体例としては、炭素数12〜24の脂肪酸および炭素数7〜24の芳香族カルボン酸等が挙げられる。炭素数12〜24の脂肪酸には、リノール酸、オレイン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸等が含まれるが、これらに限定されるものではない。また、炭素数7〜24の芳香族カルボン酸には、安息香酸、サリチル酸等が含まれるが、これらに限定されるものではない。また、カルボン酸とアミンとの反応生成物を構成するアミンは、1種であっても2種以上であってもよい。ここで用いられるアミンとしては、オレイルアミンが代表的であるが、これに限定されるものではなく、各種アミンが使用可能である。
【0072】
清浄剤の配合量は特に制限されないが、清浄剤を配合した効果、具体的には、燃料噴射ノズルの閉塞抑制効果を引き出すためには、清浄剤の配合量を組成物全量基準で30質量ppm以上とすることが好ましく、60質量ppm以上とすることがより好ましく、80質量ppm以上とすることがさらにより好ましい。30質量ppmに満たない量を添加しても効果が現れない可能性がある。一方、配合量が多すぎても、それに見合う効果が期待できず、逆にディーゼルエンジン排出ガス中のNOx、PM、アルデヒド等を増加させる恐れがあることから、清浄剤の配合量は300質量ppm以下であることが好ましく、180質量ppm以下であることがより好ましい。
【0073】
なお、先のセタン価向上剤の場合と同様、潤滑性向上剤又は清浄剤と称して市販されているものは、それぞれ潤滑性向上または清浄に寄与する有効成分が適当な溶剤で希釈された状態で入手されるのが通例である。このような市販品を本発明の軽油組成物に配合する際には、軽油組成物中の当該有効成分の含有量が上述の範囲内となることが好ましい。
【0074】
また、本発明の軽油組成物には、その性能をさらに高める目的で、後述するその他の公知の燃料油添加剤(以下、便宜上「その他の添加剤」という)を単独で、または数種類組み合わせて添加することもできる。その他の添加剤としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アルケニルコハク酸アミドなどの低温流動性向上剤;フェノール系、アミン系などの酸化防止剤;サリチリデン誘導体などの金属不活性化剤;ポリグリコールエーテルなどの氷結防止剤;脂肪族アミン、アルケニルコハク酸エステルなどの腐食防止剤;アニオン系、カチオン系、両性系界面活性剤などの帯電防止剤;アゾ染料などの着色剤;シリコン系などの消泡剤等が挙げられる。
【0075】
その他の添加剤の添加量は任意に決めることができるが、添加剤個々の添加量は、軽油組成物全量基準でそれぞれ好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下である。
【0076】
(排ガス後処理装置)
上記の構成を有する本発明の軽油組成物は、ディーゼル排ガス中に含まれるPM全体の量、PMを構成する微小粒子の総粒子数及びナノ粒子数、並びにアルデヒド類の量を同時に且つ十分に低減することが可能なものであり、新型車両だけでなく、エンジン部品や燃焼システム等の改良が施されていない既販車のディーゼル燃料としても非常に有用なものである。
【0077】
さらに、本発明の軽油組成物を後述する排ガス後処理装置や電子制御式燃料噴射ポンプと組み合わせて使用することによって、PMやアルデヒド、あるいはさらにNOx、未燃炭化水素、一酸化炭素等の低減効果を一層高めることができる。
【0078】
排ガス後処理装置としては、排ガス中からPMをろ過のようにして物理的に捕集、除去するDPFや、アルデヒド類等の低減効果を有する酸化触媒、NOx還元触媒等を利用した排ガス処理装置等が挙げられる。これらの形状、構造、担持金属種類、担持金属量、再生方法、制御方法等に関する制約はない。また、現在研究開発が進められている新規の排ガス後処理装置に対しても、本発明の軽油組成物を適用することは可能である。
【0079】
DPFの場合、その捕集および再生機構は、現在検討されているもの全てに対して使用可能である。捕集および再生機構の例としては、交換式、交互式、順送り式、連続式、手動式等が挙げられる。また、現在研究開発が進められている新規の捕集および再生機構に対しても、本発明の軽油組成物を適用することは可能である。DPFの再生方式は、現在検討されているもの全てに対して使用可能である。再生方式の例としては、電気ヒータ式、バーナ式、触媒燃焼式、逆洗浄式、酸化触媒式、燃料添加剤式等が挙げられる。また、現在研究開発が進められている新規の再生方式に対しても、本発明の軽油組成物を適用することは可能である。
【0080】
排ガス後処理装置の本体材料は、現在検討されているもの全てに対して使用可能である。材料の例としては、コージェライト、炭化珪素、多孔体金属、金属繊維等が挙げられる。また、現在研究開発が進められている新規の材料に対しても、本発明の軽油組成物を適用することが可能である。
【0081】
排ガス後処理装置の本体形状は、現在検討されているもの全てに対して使用可能である。形状の例としては、モノリスハニカム状、不織布蛇腹状、多重円筒状等が挙げられる。また、現在研究開発が進められている新規の形状に対しても、本発明の軽油組成物を適用することは可能である。
【0082】
排ガス後処理装置の1平方インチあたりのセル数(孔数)に関しては特に限定されないが、一般にはセル数が著しく多い場合は反応するための表面積は増加するものの背圧の上昇を招いてしまい、また著しく少ないと反応するための表面積が少なくなりまたDPFの場合はPM捕集能力が低下する傾向にある。従って当該セル数は自ずと排ガス後処理装置製造会社によって制約されていることが多い。また、セル数に応じて、また技術的根拠を持ってセル間壁厚やセル自体の大きさ(セル径)は変化するが、本発明の軽油組成物と組み合わせる排ガス後処理装置においては特に限定はなく、全てに対して使用可能である。同様に排ガス後処理装置のセルの形状も、現在検討されているもの全てに対して使用可能である。形状の例としては、四角形、六角形等の多角形、円形、不均等形等が挙げられる。また、現在研究開発が進められている新規の形状に対しても、本発明の軽油組成物を適用することは可能である。
【0083】
排ガス後処理装置に担持される金属類及びその担持量に関しては、現在検討されているもの全てに対して使用可能である。金属の例としては、白金、パラジウム、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛、鉄、ゼオライト等が挙げられる。また、現在研究開発が進められている新規の担持金属及び担持量に対しても、本発明の軽油組成物を適用することは可能である。
排ガス後処理装置の十分な性能を発揮させるために用いる制御方式は、現在検討されているもの全てに対して使用可能である。制御方式の例としては、背圧式、時間式、排気温度式、エンジン回転速度式、エンジン負荷式、排ガス式、堆積量検出式等が挙げられ、還元剤として燃料もしくは他の化合物を投入する方法、複数の制御方法を組み合わせて使用する方法も挙げられる。また、複数の排ガス後処理装置を複数組み合わせて制御する方式も存在する。また、現在研究開発が進められている新規の制御方式に対しても、本発明の軽油組成物を適用することは可能である。
【0084】
また、燃料を高圧噴射することで燃料を微細化し、良好な燃焼を行い、PM及び微小粒子数等の低減を図ることができる。例えば、高圧かつ高精度な燃料噴射を可能とする電子制御式燃料噴射ポンプをディーゼルエンジンに適用することも可能である。高圧かつ高精度な燃料噴射を可能とする電子制御式燃料噴射ポンプの例としては、コモンレール型、高圧分配型、高圧列型、ユニットインジェクタ型、PLD型等が挙げられる。これらはDPF等の排ガス後処理装置との組み合わせ装着を前提にしている場合も多い。この噴射ポンプにおいては高圧条件下で電磁弁による噴射制御が必要となるため、使用に際しては潤滑性能に優れ、電子制御化された燃料噴射率に誤差を及ぼしにくい特性を持ち、また夾雑物や低温条件下でのワックスを抑制した軽油が求められている。噴射精度の乱れも微小粒子増加に繋がっているため、この噴射ポンプの性能を阻害する因子を極力減らす必要がある。
【0085】
なお、従来の軽油をDPFと組み合わせて用いた場合、DPFの孔径(セルサイズ)によっては小粒径の微小粒子はこれを通り抜けてしまうことがある。また、微小粒子はすすを中心核としてその表面に未燃炭化水素分が付着した構造である場合が多く、中心核のすすがDPFに捕集されたとしても、その表面に付着した未燃炭化水素成分がミストとして放出されるため、ナノ粒子の排出量が増加しやすい。さらに、貴金属を担持させ連続再生機能を有したDPFを使用する場合、特に日本の都市部のように渋滞の多い地域では排気温度があまり高くならないため、再生機能を維持するのに十分な組成・温度条件を維持できず、ナノ粒子の低減は一層困難となる。
【0086】
また、従来の軽油を、酸化触媒を利用した排ガス後処理装置と組み合わせて使用した場合には、ディーゼルエンジンの始動時や低負荷時等のように排ガス温度が低い領域では触媒が十分に活性化しないため、アルデヒド類等の低減効果が不十分となりやすい。特に、PM低減のために提案されている含酸素化合物混合軽油の使用は、むしろアルデヒド類排出量の増加に繋がってしまうため、有効な手法とは言い難い。
【0087】
さらに、従来の軽油の場合、軽油中に含まれる硫黄分から派生する硫黄酸化物が、PM構成要素の1つ(サルフェート)であると共に、上述の触媒を被毒し、さらには再生性能及び耐久性能を低下せしめる原因物質となり得る。
【0088】
またさらに、従来の軽油を燃料高圧噴射装置と組み合わせて使用した場合、PM全体の量や粒径の大きな粒子の量に低減効果が認められるものの、ナノ粒子については却って増加させてしまうことが多い。
【0089】
これに対して、本発明の軽油組成物は、ディーゼル排ガス中に含まれるPM全体の量、PMを構成するナノ粒子の量、アルデヒド類の量等を十分に低減し、排ガス後処理装置等の性能を低下する原因物質の発生を十分に抑制することが可能なものである。従って、本発明の軽油組成物を排ガス後処理装置と組み合わせて使用する場合においても、PMの全体量、PMを構成する微小粒子の総粒子数及びナノ粒子数、並びにアルデヒド類の量等の低減効果を一層高めることができる。
【0090】
【実施例】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0091】
[実施例1〜6、比較例1〜3]
実施例1〜6及び比較例1〜3においては、それぞれ以下に示すベース軽油及び添加剤を用いて表1に示す組成を有する軽油組成物を調製した。
【0092】
ベース軽油
A1:水素化精製軽油(留分幅:230〜320℃)
A2:水素化脱硫軽油(留分幅:200〜340℃)
A3:水素化脱硫軽油(留分幅:240〜380℃)
A4:水素化脱硫軽油(留分幅:200〜310℃)
A5:水素化分解軽油(留分幅:180〜320℃)
A6:水素化分解軽油(留分幅:200〜310℃)
A7:水素化分解軽油(留分幅:150〜260℃)
B1:水素化精製灯油(留分幅:150〜260℃)
B2:水素化精製灯油(留分幅:170〜250℃)
B3:水素化分解灯油(留分幅:160〜260℃)
C1:合成軽油と合成灯油との混合物(留分幅:200〜320℃)
添加剤
セタン価向上剤:2−エチルヘキシルナイトレ−ト
潤滑性向上剤:リノ−ル酸を主成分とするカルボン酸混合物
清浄剤:オレイン酸を主成分とするカルボン酸混合物とオレイルアミンとの反応生成物
低温流動性向上剤:エチレン−酢酸ビニル共重合体。
【0093】
【表1】
【0094】
得られた軽油組成物の15℃における密度、硫黄分、蒸留性状、セタン指数、セタン価、30℃における動粘度、流動点、目詰まり点、組成(飽和分、オレフィン分、芳香族分の含有量、並びに1環芳香族分及び2環以上の芳香族分の含有量)、ナフテン分の含有量、AN指数、灰分、体積弾性率、HFRR摩耗痕径(WS1.4)、酸化安定試験後の全不溶解分及び過酸化物価、導電率をそれぞれ表2に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
次に、実施例1〜6及び比較例1〜3の各軽油組成物について、以下に示すディーゼルエンジンを用いて各種試験を行った。なお、全ての試験において、13モード中の10モード目(60%回転数、80%負荷)の定常条件で測定を行った。また、DPFとして、フィルタ部に酸化触媒機能を有する連続再生式DPFを用いた。また、エンジン排ガス測定は、旧運輸省監修新型自動車審査関係基準集別添「ディーゼル自動車13モード排出ガス測定の技術規準」に準拠した試験方法により行った。全ての結果は、比較例1の軽油組成物を用いてDPF未装着時で行ったときの値を100とし、その値を基準とする相対値で評価した。
エンジン諸元
エンジンの種類:自然吸気式直列4気筒ディ−ゼル
排気量:5L
圧縮比:19
最高出力:110kW/2900rpm
最高トルク:360Nm/1700rpm
規制適合:平成6年度排ガス規制適合。
【0097】
(PM及びアルデヒド類の濃度測定試験)
上記エンジン単体、又は当該エンジンにDPFを装着した条件について、上述の試験方法に準拠した部分希釈トンネル法を用いた排ガス希釈により、PMサンプル、アルデヒド類サンプルの濃度測定を行った。PMのサンプリングには炭化フッ素被膜ガラス繊維フィルタを、また、アルデヒド類のサンプリングにはDPNHカートリッジを使用した。得られた結果を表3に示す。なお、実施例1〜6においてはいずれも、触媒反応機構を有するDPF使用時のPM中サルフェート分の著しい増加は認められなかった。
【0098】
(総粒子数及びナノ粒子数の測定)
上記PM及びアルデヒド類の濃度測定試験に併行して、PMの総粒子数及びナノ粒子数を測定した。
【0099】
粒子数の測定の際には、図2に示す走査型モビリティ粒径分析装置を使用し、粒子の粒径ごとに分離と粒子数の検出を行った。すなわち、図2に示した装置において、希釈された排ガスサンプルを通す流路21には、その上流から順に、荷電部22、分級部23、粒子数計測部24が設けられている。希釈された排ガス中の微小粒子は、荷電分布制御部22で平衡荷電分布状態となり、分級部23で粒子それぞれの電気移動度に従い分級(分離)される。そして、粒子数計測部24において、粒径ごとに分離された粒子が計測される。
【0100】
このようにして得られた結果を表3に示す。
【表3】
【0101】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明の軽油組成物によれば、ディーゼル排ガス中に含まれるPM全体の量、PMを構成するナノ粒子の量、並びにアルデヒド類の量を同時に且つ十分に低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる体積弾性率の測定に使用される装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】実施例で用いた走査型モビリティ粒径分析装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
1…定容容器、2…供給弁、3…排出弁、4…温度センサ、5…圧力センサ、6…ピストン、21…流路、22…荷電部、23…分級部、24…粒子数計測部、100…軽油組成物。
Claims (2)
- 硫黄分含有量が10質量ppm以下であり、セタン指数が45以上であり、セタン価が50以上であり、90%留出温度が330℃以下であり、芳香族分含有量が5容量%以上であり、灰分が0.01質量ppm未満であり、体積弾性率が1300MPa以上1600MPa以下であり、且つ下記式(1):
10≦(A×D/1000+N/5)≦30 (1)
[式(1)中、Aは軽油組成物中の1環芳香族分含有量(容量%)を示し、Dは軽油組成物の15℃における密度(kg/m3)を示し、Nは軽油組成物中のナフテン化合物含有量(質量%)を示す]
で表される条件を満たすことを特徴とする軽油組成物。 - 30℃における動粘度が1.7mm2/s以上であり、HFRR摩耗痕径が460μm以下であり、流動点が−7.5℃以下であり、2環以上の多環芳香族分含有量が5%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の軽油組成物。
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