JP4119190B2 - 軽油組成物及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は軽油組成物及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、軽油の基材としては、原油の常圧蒸留装置から得られる直留軽油に水素化精製処理や水素化脱硫処理を施したもの、原油の常圧蒸留により得られる直留灯油に水素化精製処理や水素化脱硫処理を施したもの等が知られている。従来の軽油組成物は上記軽油の基材を1種、又は2種以上の混合物を用いて製造される。また、これらの基材には、必要に応じて、セタン価向上剤や清浄剤が配合される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、近年、大気環境改善及び環境負荷低減を目指して、内燃機関用燃料である軽油中の硫黄分含有量及び芳香族分含有量の低減が求められている。また同時に地球温暖化問題に対応するため、一層の燃費向上に貢献する燃料性状が求められており、これには密度が主要な因子であるとされている。
【0004】
しかし、上記従来の軽油基材には、芳香族分が最大40容量%程度、平均的には20容量%程度含まれる。この芳香族分は水素化精製処理や水素化脱硫処理では十分に低減できないため、脱芳香族プロセスを導入する必要があるが、既存設備では所望の軽油基材が得られない場合があり、また精製コストが著しく増加してしまう。
【0005】
なお、一般的に軽油基材よりも灯油基材の方が芳香族分含有量が低い(最大30容量%程度、平均的には15容量%程度含有)ため、灯油基材を軽油基材に混合することで、芳香族分含有量を低減することはできる。しかし、このようにして得られる軽油組成物は、低密度で非常に軽質であり、燃費の悪化や出力の低下を招く原因となる。更には軽油基材と灯油基材との混合により、組成物の動粘度も低下してしまうため、燃料噴射ポンプ等の潤滑面の問題が生じやすくなる。
【0006】
また、天然ガス、アスファルト分、石炭等を原料とする合成軽油及び合成灯油は芳香族分や硫黄分をほとんど含まないが、パラフィン分主体の基材であることから、低温始動時におけるワックス分の析出が懸念される。また、燃料噴射系で使用している部材への影響を鑑みた場合、むしろある程度の芳香族分が必要とされるため、軽油組成物中の合成軽油の配合割合が制限を受けることがある。分子中に酸素原子を持つ含酸素化合物の場合も同様の理由があり、更には、燃焼副生成物であるアルデヒド排出の問題、エンジン構成部材への影響等が指摘されているため、実用に供し得るものとしては必ずしも十分ではない。
【0007】
従って、現状においては密度の低下なく低芳香族分含有量を実現し、低硫黄分含有量、高セタン価、蒸留性状軽質化、動粘度性状幅の限定等の全てを満たした軽油組成物、すなわち内燃機関における環境負荷低減と燃費の向上を高水準で達成できる高品質の燃料を設計することは非常に困難であり、市販燃料油として求められている諸性能を十分満たし、また現実的な製造方法の検討を踏まえた例、知見は存在していない。
【0008】
本発明は、かかる実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、ディーゼル燃料として用いた場合に環境負荷の低減と燃費の向上とを高水準で達成可能な軽油組成物及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の軽油組成物は、90%留出温度が200℃以上380℃以下、15℃における密度が780kg/m3以上870kg/m3以下、且つ硫黄分含有量が10質量ppm以下である水素化分解軽油を含有し、硫黄分含有量が10質量ppm以下、芳香族分含有量が15容量%以下、2環以上の芳香族分含有量が2容量%以下、15℃における密度が820kg/m3以上840kg/m3以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、90%留出温度、15℃における密度及び硫黄分含有量がそれぞれ上記の範囲内にある水素化分解軽油を用いることにより、従来の基材では実現が困難であった、組成物全体の密度、硫黄分含有量、芳香族分含有量の全てを容易に且つ確実に制御することが可能となる。そして、かかる水素化分解軽油を軽油組成物に含有せしめ、軽油組成物の硫黄分含有量、芳香族分含有量、15℃における密度を、それぞれ上記の範囲内とすることにより、将来型ディーゼル燃料としての要求性状を満たし、環境負荷の低減と燃費の向上とを高水準で達成可能な軽油組成物が実現される。
【0011】
本発明の軽油組成物においては、水素化精製軽油、水素化精製灯油及び合成軽油から選ばれる少なくとも1種をさらに含有することが好ましい。
【0012】
また、本発明の軽油組成物においては、水素化分解軽油の芳香族分含有量が15容量%以上である場合、軽油組成物が合成軽油をさらに含有することが好ましい。
【0013】
また、本発明の軽油組成物においては、セタン価が55以上、セタン指数が52以上、30℃における動粘度が2.5mm2/s以上4.5mm2/s以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の軽油組成物においては、90%留出温度が320℃以下、95%留出温度が340℃以下、終点が350℃以下、HFRR摩耗痕径が400μm以下、流動点が−7.5℃以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の軽油組成物の製造方法は、90%留出温度が200℃以上380℃以下、15℃における密度が780kg/m3以上870kg/m3以下、且つ硫黄分含有量が10質量ppm以下である水素化分解軽油と、水素化精製軽油、水素化精製灯油及び合成軽油から選ばれる少なくとも1種とを配合して、硫黄分含有量が10質量ppm以下、芳香族分含有量が15容量%以下、2環以上の芳香族分含有量が2容量%以下、且つ15℃における密度が820kg/m3以上840kg/m3以下である軽油組成物を得ることを特徴とする。
【0016】
上記製造方法によれば、環境負荷の低減と燃費の向上とを高水準で達成可能な本発明の軽油組成物を容易に且つ確実に得ることができる。
【0017】
本発明の製造方法においては、水素化分解軽油の芳香族分含有量が15容量%以上である場合、該水素化分解軽油と合成軽油とを配合して本発明の軽油組成物を得ることが好ましい。
【0018】
また、本発明の製造方法においては、得られる軽油組成物のセタン価が55以上、セタン指数が52以上、30℃における動粘度が2.5mm2/s以上4.5mm2/s以下であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の製造方法においては、得られる軽油組成物の90%留出温度が320℃以下、95%留出温度が340℃以下、終点が350℃以下、HFRR摩耗痕径が400μm以下、流動点が−7.5℃以下であることが好ましい。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
(水素化分解軽油)
本発明においては、90%留出温度が200℃以上380℃以下、15℃における密度が780kg/m3以上870kg/m3以下、且つ硫黄分含有量が10質量ppm以下である水素化分解軽油が用いられる。
【0022】
本発明にかかる水素化分解軽油とは、所定の軽油を水素化分解して得られる軽油留分である。水素化分解に供する軽油としては、原油の常圧蒸留装置から得られる直留軽油;常圧蒸留装置から得られる直留重質油や残査油を減圧蒸留装置で処理して得られる減圧軽油;脱硫又は未脱硫の減圧軽油;減圧重質軽油あるいは脱硫重油を接触分解して得られる接触分解軽油;上記の軽油を水素化処理して得られる水素化精製軽油及び水素化脱硫軽油等が挙げられる。
【0023】
水素化分解軽油を製造する際には、重質軽油、減圧軽油等の重質な原料油を、高温高圧水素条件下で、分解と水素化の二元機能を持つ触媒上に通し、水素化分解と共に脱硫、脱窒素等を行う水素化分解装置を使用することができる。触媒の分解能は、多孔性の固体酸担体に起因する傾向にある。固体酸担体としては、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア等のアモルファス系担体、各種の改質や変性が施されたゼオライト等の結晶系担体が用いられる。水素化能は、Ni、Co、Mo、W、Pd、Pt等の金属を2〜3種類組み合わせて担持されることにより発揮されるが、中でもCo−Mo、Ni−Mo、Ni−Wの組み合わせが好ましい。
【0024】
水素化分解装置を運転する際の水素圧力は、8MPa以上、好ましくは10MPa以上25MPa以下である。また、反応温度は、300℃以上、好ましくは350℃以上500℃以下である。液空間速度は、0.1/h以上2.0/h以下、好ましくは1.0/h以下である。水素化分解率は40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上である。
【0025】
本発明にかかる水素化分解軽油の90%留出温度(以下、場合により「T90」という)は、前述の通り200℃以上であることが必要であり、好ましくは210℃以上、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは230℃以上、さらにより好ましくは240℃以上である。また当該T90は、エンジンより排出される粒子状物質(Particle Matter、以下、PMという)の増加を抑制する点から、前述の通り380℃以下であることが必要であり、好ましくは370℃以下、より好ましくは360℃以下、さらに好ましくは350℃以下、さらにより好ましくは340℃以下である。なお、ここでいう90%留出温度とは、全てJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」により測定される値を意味する。
【0026】
また、本発明にかかる水素化分解軽油の15℃における密度は、前述の通り780kg/m3以上であることが必要であり、好ましくは790kg/m3以上、より好ましくは800kg/m3以上である。また、当該密度は前述の通り870kg/m3以下であることが必要であり、好ましくは860kg/m3以下、より好ましくは850kg/m3以下、さらに好ましくは840kg/m3以下である。なお、ここでいう密度とは、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度を意味する。
【0027】
また、本発明にかかる水素化分解軽油の硫黄分含有量は、前述の通り10質量ppm以下である必要があり、好ましくは5質量ppm以下、より好ましくは3質量ppm以下、さらに好ましくは2質量ppm以下である。なお、ここでいう硫黄分含有量とは、JIS K 2541「硫黄分試験方法」により測定される軽油組成物全量基準の硫黄分の質量含有量を意味する。
【0028】
本発明にかかる水素化分解軽油の芳香族分含有量は特に制限されないが、30容量%以下であることが好ましく、20容量%以下であることがより好ましく、15容量%以下であることがさらに好ましく、12容量%以下であることがさらにより好ましい。水素化分解軽油の芳香族分含有量が前記の範囲内であると、本発明の軽油組成物において規定される性状をより容易に且つ確実に達成することができる。なお、ここでいう芳香族分含有量は、社団法人石油学会により発行されている石油学会誌JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠され測定された、芳香族分含有量の容量百分率(容量%)を意味する。
【0029】
本発明における軽油組成物は、上記特定の水素化分解軽油を含有するものである。水素化分解軽油を含有しない場合は、上記の環境負荷低減と燃費向上を同時に達成することができない。本発明における軽油組成物は、水素化分解軽油に加えて他のベース軽油、合成軽油、灯油基材等の他の燃料基材を1種もしくは2種以上混合して製造することができる。
【0030】
本発明にかかる水素化分解軽油の配合量は、他の基材の配合量や、市販燃料油としての実用性能(例えば低温流動性能や潤滑性能)に応じて適宜設定可能であるが、環境負荷低減効果と燃費向上効果との双方をより高めるためには、好ましくは10容量%以上、より好ましくは15容量%以上、さらに好ましくは20容量%以上、さらにより好ましくは25容量%以上、最も好ましくは30容量%以上である。
【0031】
(その他のベース軽油)
本発明においては、得られる軽油組成物の硫黄分含有量、芳香族分含有量、2環以上の芳香族分含有量及び15℃における密度がそれぞれ上記の範囲内であれば、上記水素化分解軽油以外の軽油基材を配合することができる。
【0032】
具体的には、原油の常圧蒸留装置から得られる直留軽油や常圧蒸留装置から得られる直留重質油や残査油を減圧蒸留装置で処理して得られる減圧軽油;硫黄分含有量に応じて、前述の軽油を水素化精製装置で水素化処理した水素化精製軽油;水素化精製よりも苛酷な条件で一段階または多段階で水素化脱硫して得られる水素化脱硫軽油等が使用可能である。
【0033】
これらの軽油基材の性状は特に制限されないが、本発明の軽油組成物における目的の性状を容易に且つ確実に達成するためには、後述する特定性状を有することが好ましい。
【0034】
すなわち、上記軽油基材のT90は、好ましくは200℃以上、より好ましくは210℃以上、さらに好ましくは220℃以上、さらにより好ましくは230℃以上、最も好ましくは240℃以上である。また、当該T90は、好ましくは380℃以下、より好ましくは370℃以下、さらに好ましくは360℃以下、さらにより好ましくは350℃以下、最も好ましくは340℃以下である。なお、ここでいうT90はJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」により測定される値を意味する。
【0035】
また、上記軽油基材の15℃における密度は、好ましくは780kg/m3以上、より好ましくは790kg/m3以上、さらに好ましくは800kg/m3以上である。また、当該密度は、好ましくは870kg/m3以下、より好ましくは860kg/m3以下、さらに好ましくは850kg/m3以下、さらにより好ましくは840kg/m3以下である。なお、ここでいう密度とはJIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度を意味する。
【0036】
また、上記軽油基材の硫黄分含有量は、好ましくは10質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下、さらに好ましくは3質量ppm以下である。なお、ここでいう硫黄分含有量とは、JIS K 2541「硫黄分試験方法」により測定される軽油組成物全量基準の硫黄分の質量含有量を意味する。
【0037】
また、上記軽油基材の芳香族分含有量は特に制限されないが、30容量%以下であることが好ましく、20容量%以下であることがより好ましく、17容量%以下であることがさらに好ましく、12容量%以下であることがさらにより好ましい。なお、ここでいう芳香族分含有量は、社団法人石油学会により発行されている石油学会誌JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠され測定された、芳香族分含有量の容量百分率(容量%)を意味する。
【0038】
上記軽油基材の配合量は、水素化分解軽油の含有量や、市販燃料油としての実用性能(例えば低温流動性能や潤滑性能)に応じて適宜設定可能である。環境負荷低減効果と燃費の向上効果との双方をより高めるためには、当該軽油基材の配合量は、好ましくは5容量%以上、より好ましくは10容量%以上、さらに好ましくは15容量%以上である。また、当該配合量は好ましくは90容量%以下、より好ましくは85容量%以下、さらに好ましくは80容量%以下、さらにより好ましくは75容量%以下、最も好ましくは70容量%以下である。
【0039】
(合成軽油)
本発明においては、得られる軽油組成物の硫黄分含有量、芳香族分含有量、2環以上の芳香族分含有量及び15℃における密度がそれぞれ上記の範囲内であれば、合成軽油を配合することができる。
【0040】
本発明にかかる合成軽油とは、天然ガス、アスファルト分、石炭等を原料とし、これを化学合成させることで得られる合成軽油をいう。化学合成方法としては間接液化法、直接液化法などがあり、代表的な合成手法として、フィッシャートロップス合成法が挙げられるが、本発明で使用する合成軽油はこれらの製造方法により限定されるものではない。合成軽油は一般に飽和炭化水素類が主成分であり、詳しくはノルマルパラフィン類、イソパラフィン類、ナフテン類から構成されている。すなわち合成軽油は一般に、芳香族分をほとんど含有していない。従って、水素化分解軽油の芳香族分含有量が15容量%を超える場合には、当該合成軽油を用いることによって、軽油組成物の芳香族分含有量を容易に低減できる。
【0041】
本発明の軽油組成物における目的の性状を容易に且つ確実に達成するためには、合成軽油が後述する特定性状を有することが好ましい。
【0042】
すなわち、合成軽油の15℃における密度は、好ましくは720kg/m3以上、より好ましくは730kg/m3以上、さらに好ましくは740kg/m3以上、さらにより好ましくは750kg/m3以上である。また、当該密度は、好ましくは840kg/m3以下、より好ましくは830kg/m3以下、さらに好ましくは820kg/m3以下、さらにより好ましくは810kg/m3以下である。なお、ここでいう密度とはJIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度を意味する。
【0043】
また、合成軽油の硫黄分含有量は、好ましくは5質量ppm以下、より好ましくは3質量ppm以下、さらに好ましくは2質量ppm以下、さらにより好ましくは1質量ppm以下である。なお、ここでいう硫黄分含有量とは、JIS K2541「硫黄分試験方法」により測定される軽油組成物全量基準の硫黄分の質量含有量を意味する。
【0044】
また、配合する水素化分解軽油の芳香族分含有量が15容量%以上である場合、合成軽油を配合することが好ましい。本発明にかかる合成軽油の配合量は、水素化分解軽油の含有量や、市販燃料油としての実用性能(例えば低温流動性能や潤滑性能)に応じて適宜設定可能であるが、環境負荷低減効果と燃費の向上効果との双方をより高めるためには、好ましくは5容量%以上、より好ましくは10容量%以上、さらに好ましくは20容量%以上、さらにより好ましくは30容量%以上である。また、当該配合量は好ましくは80容量%以下、より好ましくは70容量%以下、さらに好ましくは60容量%以下、さらにより好ましくは50容量%以下である。
【0045】
また、水素化分解軽油の芳香族分含有量が15容量%未満である場合であっても、合成軽油を軽油組成物に含有させることができる。
【0046】
(灯油基材)
また、本発明においては、得られる軽油組成物の硫黄分含有量、芳香族分含有量、2環以上の芳香族分含有量、及び15℃における密度がそれぞれ上記範囲内であれば灯油基材を配合することができる。
【0047】
かかる灯油基材としては、原油の常圧蒸留により得られる直留灯油;直留原油の常圧蒸留により得られる軽油留分を分解して得られる分解灯油直留灯油;水素化分解軽油と共に製造される水素化分解灯油;上記の灯油留分を水素化精製して得られる水素化精製灯油;天然ガス、アスファルト分、石炭等を原料とする合成灯油等が使用可能である。
【0048】
これらの灯油基材の性状は特に制限されないが、本発明の軽油組成物における目的の性状を容易に且つ確実に達成するためには、後述する特定性状を有することが好ましい。
【0049】
すなわち、灯油基材のT90は、好ましくは140℃以上、より好ましくは145℃以上、さらに好ましくは150℃以上である。また、当該T90は、好ましくは280℃以下、より好ましく270℃以下、さらに好ましくは260℃以下である。なお、ここでいうT90はJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」により測定される値を意味する。
【0050】
また、灯油基材の15℃における密度は、好ましくは750kg/m3以上、より好ましくは760kg/m3以上、さらに好ましくは770kg/m3以上である。また、当該密度は、好ましくは820kg/m3以下、より好ましくは810kg/m3以下、さらに好ましくは800kg/m3以下である。なお、ここでいう密度とはJIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度を意味する。
【0051】
また、灯油基材の硫黄分含有量は、好ましくは10質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下、さらに好ましくは3質量ppm以下である。なお、ここでいう硫黄分含有量とは、JIS K 2541「硫黄分試験方法」により測定される軽油組成物全量基準の硫黄分の質量含有量を意味する。
【0052】
また、灯油基材の芳香族分含有量は特に制限されないが、30容量%以下であることが好ましく、20容量%以下であることがより好ましく、17容量%以下であることがさらに好ましく、15容量%以下であることがさらにより好ましく、12容量%以下であることが最も好ましい。なお、ここでいう芳香族分含有量は、社団法人石油学会により発行されている石油学会誌JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠され測定された、芳香族分含有量の容量百分率(容量%)を意味する。
【0053】
本発明にかかる灯油基材の配合量は、水素化分解軽油の含有量や、市販燃料油としての実用性能(例えば低温流動性能や潤滑性能)に応じて適宜設定可能であるが、環境負荷低減効果と燃費の向上効果との双方をより高めるためには、好ましくは5容量%以上、より好ましくは10容量%以上である。また、当該配合量は好ましくは60容量%以下、より好ましくは50容量%以下、さらに好ましくは40容量%以下、さらにより好ましくは30容量%以下である。
【0054】
(セタン価向上剤)
本発明においては、必要に応じてセタン価向上剤を適量配合し、得られる軽油組成物のセタン価を55以上とすることができる。
【0055】
セタン価向上剤としては、軽油のセタン価向上剤として知られる各種の化合物を任意に使用することができ、例えば、硝酸エステルや有機過酸化物等が挙げられる。これらのセタン価向上剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0056】
本発明においては、上述のセタン価向上剤の中でも硝酸エステルを用いることが好ましい。かかる硝酸エステルには、2−クロロエチルナイトレート、2−エトキシエチルナイトレート、イソプロピルナイトレート、ブチルナイトレート、第一アミルナイトレート、第二アミルナイトレート、イソアミルナイトレート、第一ヘキシルナイトレート、第二ヘキシルナイトレート、n−ヘプチルナイトレート、n−オクチルナイトレート、2−エチルヘキシルナイトレート、シクロヘキシルナイトレート、エチレングリコールジナイトレートなどの種々のナイトレート等が包含されるが、特に、炭素数6〜8のアルキルナイトレートが好ましい。
【0057】
セタン価向上剤の含有量は、組成物全量基準で500質量ppm以上であることが好ましく、600質量ppm以上であることがより好ましく、700質量ppm以上であることがさらに好ましく、800質量ppm以上であることがさらにより好ましく、900質量ppm以上であることが最も好ましい。セタン価向上剤の含有量が500質量ppmに満たない場合は、十分なセタン価向上効果が得られず、ディーゼルエンジン排出ガスのPM、アルデヒド類、さらにはNOxが十分に低減されない傾向にある。また、セタン価向上剤の含有量の上限値は特に限定されないが、軽油組成物全量基準で、1400質量ppm以下であることが好ましく、1250質量ppm以下であることがより好ましく、1100質量ppm以下であることがさらに好ましく、1000質量ppm以下であることが最も好ましい。
【0058】
セタン価向上剤は、常法に従い合成したものを用いてもよく、また、市販品を用いてもよい。なお、セタン価向上剤と称して市販されているものは、セタン価向上に寄与する有効成分(すなわちセタン価向上剤自体)を適当な溶剤で希釈した状態で入手されるのが通例である。このような市販品を使用して本発明の軽油組成物を調製する場合には、軽油組成物中の当該有効成分の含有量が上述の範囲内となることが好ましい。
【0059】
(その他の添加剤)
本発明の軽油組成物においては、上記セタン価向上剤以外の添加剤を必要に応じて配合することができ、特に、潤滑性向上剤および/または清浄剤が好ましく配合される。
【0060】
潤滑性向上剤としては、例えば、カルボン酸系、エステル系、アルコール系およびフェノール系の各潤滑性向上剤の1種又は2種以上が任意に使用可能である。これらの中でも、カルボン酸系及びエステル系の潤滑性向上剤が好ましい。
【0061】
カルボン酸系の潤滑性向上剤としては、例えば、リノ−ル酸、オレイン酸、サリチル酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ヘキサデセン酸及び上記カルボン酸の2種以上の混合物が例示できる。
【0062】
エステル系の潤滑性向上剤としては、グリセリンのカルボン酸エステルが挙げられる。カルボン酸エステルを構成するカルボン酸は、1種であっても2種以上であってもよく、その具体例としては、リノ−ル酸、オレイン酸、サリチル酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ヘキサデセン酸等がある。
【0063】
潤滑性向上剤の配合量は、HFRR摩耗痕径が上記範囲内であれば特に制限されないが、組成物全量基準で35質量ppm以上であることが好ましく、50質量ppm以上であることがより好ましい。潤滑性向上剤の配合量が前記の範囲内であると、配合された潤滑性向上剤の効能を有効に引き出すことができ、例えば分配型噴射ポンプを搭載したディーゼルエンジンにおいて、運転中のポンプの駆動トルク増を抑制し、ポンプの摩耗を低減させることができる。また、配合量の上限値は、それ以上加えても添加量に見合う効果が得られないことから、組成物全量基準で150質量ppm以下であることが好ましく、105質量ppm以下であることがより好ましい。
【0064】
清浄剤としては、例えば、イミド系化合物;ポリブテニルコハク酸無水物とエチレンポリアミン類とから合成されるポリブテニルコハク酸イミドなどのアルケニルコハク酸イミド;ペンタエリスリトールなどの多価アルコールとポリブテニルコハク酸無水物から合成されるポリブテニルコハク酸エステルなどのコハク酸エステル;ジアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドンなどとアルキルメタクリレートとのコポリマーなどの共重合系ポリマー、カルボン酸とアミンの反応生成物等の無灰清浄剤等が挙げられ、中でもアルケニルコハク酸イミド及びカルボン酸とアミンとの反応生成物が好ましい。これらの清浄剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0065】
アルケニルコハク酸イミドを使用する例としては、分子量1000〜3000程度のアルケニルコハク酸イミドを単独使用する場合と、分子量700〜2000程度のアルケニルコハク酸イミドと分子量10000〜20000程度のアルケニルコハク酸イミドとを混合して使用する場合とがある。
【0066】
カルボン酸とアミンとの反応生成物を構成するカルボン酸は1種であっても2種以上であってもよく、その具体例としては、炭素数12〜24の脂肪酸および炭素数7〜24の芳香族カルボン酸等が挙げられる。炭素数12〜24の脂肪酸には、リノール酸、オレイン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸等が含まれるが、これらに限定されるものではない。また、炭素数7〜24の芳香族カルボン酸には、安息香酸、サリチル酸等が含まれるが、これらに限定されるものではない。また、カルボン酸とアミンとの反応生成物を構成するアミンは、1種であっても2種以上であってもよい。ここで用いられるアミンとしては、オレイルアミンが代表的であるが、これに限定されるものではなく、各種アミンが使用可能である。 清浄剤の配合量は特に制限されないが、清浄剤を配合した効果、具体的には、燃料噴射ノズルの閉塞抑制効果を引き出すためには、清浄剤の配合量を組成物全量基準で30質量ppm以上とすることが好ましく、60質量ppm以上とすることがより好ましく、80質量ppm以上とすることがさらに好ましい。30質量ppmに満たない量を添加しても効果が現れない可能性がある。一方、配合量が多すぎても、それに見合う効果が期待できず、逆にディーゼルエンジン排出ガス中のNOx、PM、アルデヒド類等を増加させる恐れがあることから、清浄剤の配合量は300質量ppm以下であることが好ましく、180質量ppm以下であることがより好ましい。
【0067】
なお、先のセタン価向上剤の場合と同様、潤滑性向上剤又は清浄剤と称して市販されているものは、それぞれ潤滑性向上または清浄に寄与する有効成分が適当な溶剤で希釈された状態で入手されるのが通例である。このような市販品を本発明の軽油組成物に配合する際には、軽油組成物中の当該有効成分の含有量が上述の範囲内となることが好ましい。
【0068】
また、本発明における軽油組成物の性能をさらに高める目的で、後述するその他の公知の燃料油添加剤(以下、便宜上「その他の添加剤」という)を単独で、または数種類組み合わせて添加することもできる。その他の添加剤としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アルケニルコハク酸アミドなどの低温流動性向上剤;フェノール系、アミン系などの酸化防止剤;サリチリデン誘導体などの金属不活性化剤;ポリグリコールエーテルなどの氷結防止剤;脂肪族アミン、アルケニルコハク酸エステルなどの腐食防止剤;アニオン系、カチオン系、両性系界面活性剤などの帯電防止剤;アゾ染料などの着色剤;シリコン系などの消泡剤等が挙げられる。
【0069】
その他の添加剤の添加量は任意に決めることができるが、添加剤個々の添加量は、軽油組成物全量基準でそれぞれ好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下である。
【0070】
(軽油組成物)
上述のように、本発明の軽油組成物は、上記特定の水素化分解軽油、並びに必要に応じて配合されるその他のベース軽油、合成軽油、灯油基材、セタン価向上剤、潤滑性向上剤、清浄剤及びその他の添加剤を含んで構成されるものであり、より詳しくは軽油組成物全体として、硫黄分含有量が10質量ppm以下、芳香族分含有量が15容量%以下、2環以上の芳香族分含有量が2容量%以下、15℃における密度が820kg/m3以上840kg/m3以下のものである。
【0071】
本発明の軽油組成物における硫黄分含有量は、前述の通り10質量ppm以下であることが必要であり、好ましくは7質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下である。当該硫黄分含有量が10質量ppmを超えると、環境負荷の低減効果が不十分となる。なお、ここでいう硫黄分含有量とは、JIS K 2541「硫黄分試験方法」により測定される、軽油組成物全量を基準とした硫黄分の含有量を意味する。
【0072】
また、本発明の軽油組成物における芳香族分含有量は、前述の通り15容量%以下であることが必要であり、好ましくは14容量%以下、より好ましくは13容量%以下である。また、当該芳香族分含有量は好ましくは5容量%以上、より好ましくは7容量%以上、さらに好ましくは10容量%以上である。当該芳香族分含有量が5容量%に満たないと、噴射ポンプに使用されている材料への影響が懸念される。
【0073】
また、当該芳香族分のうち2環以上の芳香族分含有量は、2容量%以下であることが必要であり、好ましくは1.5容量%以下、より好ましくは1容量%以下である。当該芳香族分含有量及び当該2環以上の芳香族分含有量がそれぞれ前記上限値を超えると、排ガス中のNOx、PM排出量が増加し、環境負荷の低減効果が不十分となる。なお、ここでいう芳香族分含有量及び2環以上の芳香族分含有量は、社団法人石油学会により発行されている石油学会誌JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠され測定された芳香族分含有量及び2環以上の芳香族分含有量の容量百分率(容量%)を意味する。
【0074】
また、本発明の軽油組成物における15℃における密度は、燃料消費率及び加速性の点から、前述の通り820kg/m3以上であることが必要であり、好ましくは822kg/m3以上であり、より好ましくは825kg/m3以上である。また、当該密度は、排出ガス中のPM濃度低下の点から、840kg/m3以下であることが必要であり、好ましくは837kg/m3以下、より好ましくは835kg/m3以下である。なお、ここでいう密度とは、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度を意味する。
【0075】
また、本発明の軽油組成物におけるセタン価は、好ましくは55以上であり、より好ましくは57以上である。セタン価が55に満たない場合には、排出ガス中のNOx、PM及びアルデヒド類の濃度が高くなりやすい。なお、ここでいうセタン価とは、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」の「7.セタン価試験方法」に準拠して測定されるセタン価を意味する。
【0076】
また、本発明の軽油組成物におけるセタン指数は、好ましくは52以上であり、より好ましくは53以上であり、さらに好ましくは55以上である。セタン指数が52に満たない場合には、排出ガス中のNOx、PM及びアルデヒド類の濃度が高くなりやすい。ここでいうセタン指数とは、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」の「8.4変数方程式を用いたセタン指数の算出方法」に準拠して算出した値を意味する。上記JIS規格におけるセタン指数は、セタン価向上剤を添加したものに対しては適用されないが、本発明ではセタン価向上剤を添加した軽油組成物についても上記「8.4変数方程式を用いたセタン指数の算出方法」を適用し、当該算出方法により算出される値をセタン指数として表す。
【0077】
また、本発明の軽油組成物の30℃における動粘度は、好ましくは2.5mm2/s以上、より好ましくは2.55mm2/s、さらに好ましくは2.6mm2/s以上、さらにより好ましくは2.65mm2/s以上、最も好ましくは2.7mm2/s以上である。当該動粘度が2.5mm2/sに満たない場合は、燃料噴射ポンプ側の燃料噴射時期制御が困難となる傾向にあり、また燃料噴射ポンプの各部における潤滑性が損なわれる恐れがある。また、当該動粘度は、好ましくは4.5mm2/s以下、より好ましくは4.3mm2/s以下、さらに好ましくは4.2mm2/s以下、さらにより好ましくは4.1mm2/s以下、最も好ましくは4mm2/s以下である。当該動粘度が4.5をmm2/sを超えると、噴射システム内部の抵抗増加により、噴射系が不安定化して、排出ガス中のNOx、PMの濃度が高くなる傾向がある。なお、ここでいう動粘度とは、JIS K2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」により測定される動粘度を意味する。
【0078】
また、本発明の軽油組成物における蒸留性状としては、90%留出温度が好ましくは320℃以下、より好ましくは317℃以下、さらに好ましくは315℃以下、さらにより好ましくは312℃以下、最も好ましくは310℃以下である。95%留出温度は好ましくは340℃以下、より好ましくは335℃以下、さらに好ましくは330℃以下である。終点は好ましくは350℃以下、より好ましくは345℃以下、さらに好ましくは340℃以下である。90%留出温度、95%留出温度及び終点がそれぞれ前記上限値を超えると、PMや微小粒子の排出量が増加する傾向にある。また、90%留出温度は、好ましくは270℃以上、より好ましくは275℃以上、さらに好ましくは280℃以上である。95%留出温度は、好ましくは290℃以上、より好ましくは295℃以上である。終点は、好ましくは300℃以上、より好ましくは305℃以上である。90%留出温度、95%留出温度及び終点がそれぞれ前記下限値に満たないと、燃費向上効果が不十分となり、エンジン出力が低下する傾向にある。なお、ここでいう90%留出温度、95%留出温度及び終点とは、全てJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」により測定される値を意味する。
【0079】
また、本発明の軽油組成物は、潤滑性能を示すHFRR摩耗痕径(WS1.4)が好ましくは400μm以下、より好ましくは390μm以下、さらに好ましくは380μm以下である。HFRR摩耗痕径が400μmを超える場合は、特に分配型噴射ポンプを搭載したディーゼルエンジンにおいて、運転中のポンプの駆動トルク増、ポンプ各部の摩耗増を引き起こし、排ガス性能、微小粒子性能の悪化のみならずエンジン自体が破壊される恐れがある。また、高圧噴射が可能な電子制御式燃料噴射ポンプにおいても、摺動面等の摩耗が懸念される。なお、ここでいうHFRR摩耗痕径とは、社団法人石油学会から発行されている石油学会規格JPI−5S−50−98「軽油−潤滑性試験方法」により測定される値を意味する。
【0080】
また、本発明の軽油組成物における流動点は、低温始動性ないしは低温運転性の観点、並びに電子制御式燃料噴射ポンプにおける噴射性能維持の観点から、−7.5℃以下であることが好ましく、−15℃以下であることがより好ましく、−20℃以下であることがさらにより好ましい。ここで流動点とは、JIS K2269「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」により測定される流動点を意味する。
【0081】
また、本発明の軽油組成物における灰分含有量は、好ましくは0.01質量%未満である。灰分含有量が0.01質量%以上であると、灰分が燃料噴射系に対する夾雑物となり、性能を阻害することが懸念される。なお、ここでいう灰分含有量とは、JIS K 2272「原油及び石油製品の灰分並びに硫酸灰分試験方法」により測定される軽油組成物全量基準の灰分の質量含有量を意味する。
【0082】
また、本発明の軽油組成物における目詰まり点については特に限定されないが、−5℃以下であることが好ましく、−8℃以下であることがより好ましく、−12℃以下であることがさらに好ましく、−19℃以下であることがさらにより好ましい。なお、ここでいう目詰まり点とはJIS K 2288「軽油−目詰まり点試験方法」により測定される目詰まり点を意味する。
【0083】
また、本発明の軽油組成物においては、貯蔵安定性の点から、酸化安定性試験後の全不溶解分が2.0mg/100mL以下であることが好ましく、1.0mg/100mL以下であることがより好ましく、0.5mg/100mL以下であることがさらに好ましく、0.3mg/100mL以下であることがさらにより好ましく、0.1mg/100mL以下であることが最も好ましい。なお、ここでいう酸化安定性試験とは、ASTM D2274−94に準拠して、95℃、酸素バブリング下、16時間の条件で実施するものである。また、ここでいう酸化安定性試験後の全不溶解分とは、前記酸化安定性試験に準拠して測定される値を意味する。
【0084】
また、本発明の軽油組成物は、貯蔵安定性、部材への適合性の点から、上記酸化安定性試験後の過酸化物価は、好ましくは10質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下、さらに好ましくは2質量ppm以下、さらにより好ましくは1質量ppm以下である。なお、ここでいう過酸化物価とは石油学会規格JPI−5S−46−96に準拠して測定される値を意味する。
【0085】
本発明の軽油組成物には、全不溶解分や過酸化物価を低減するために、酸化防止剤や金属不活性剤等の添加剤を適宜添加することができる。
【0086】
また、本発明における軽油組成物における導電率は特に限定されないが、安全性の点から50pS/m以上であることが好ましい。
【0087】
本発明の軽油組成物には、導電率を改善するために、適宜帯電防止剤等を添加することができる。なお、ここでいう導電率とは、JIS K 2276「石油製品−航空燃料油試験方法」に準拠して測定される値を意味する。
【0088】
【実施例】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0089】
[実施例1〜3及び比較例1〜8]
実施例1〜3及び比較例1〜8においては、それぞれ表1に示す水素化分解軽油、水素化精製灯油、水素化精製軽油、及び合成軽油、並びに以下に示す添加剤を用いて軽油組成物を調製した。水素化分解軽油、水素化精製灯油、水素化精製軽油及び合成軽油の15℃における密度、30℃における動粘度、硫黄分含有量、蒸留性状、芳香族分含有量(全芳香族分及び2環以上の芳香族分の各含有量)、ナフテン分含有量、セタン指数を表1に併せて示す。
【0090】
添加剤
セタン価向上剤:2−エチルヘキシルナイトレ−ト
潤滑性向上剤:リノ−ル酸を主成分とするカルボン酸混合物
清浄剤:オレイン酸を主成分とするカルボン酸混合物とオレイルアミンとの反応生成物
低温流動性向上剤:エチレン−酢酸ビニル共重合体
【0091】
【表1】
【0092】
実施例1〜3及び比較例1〜8で得られた軽油組成物の組成(水素化分解軽油、水素化精製灯油、水素化精製軽油及び合成軽油、並びに添加剤の配合割合)を表2に示す。
【0093】
また、実施例1〜3及び比較例1〜8で得られた軽油組成物の15℃における密度、30℃における動粘度、硫黄分含有量、蒸留性状、芳香族分含有量(全芳香族分及び2環以上の芳香族分の各含有量)、ナフテン分含有量、セタン指数、セタン価、流動点、目詰まり点、潤滑性能を示すHFRR摩耗痕径(WS1.4)、灰分含有量、酸化安定度:全不溶分、酸化安定度:過酸化物価、導電率を表3に示す。
【0094】
なお、燃料油の性状は以下の方法により測定した。密度は、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度を意味する。動粘度は、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」により測定される動粘度を意味する。硫黄分含有量は、JIS K 2541「硫黄分試験方法」により測定される、軽油組成物全量を基準とした硫黄分の含有量を意味する。蒸留性状は、全てJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」により測定される値を意味する。芳香族分含有量及び2環以上の芳香族分含有量は、社団法人石油学会により発行されている石油学会誌JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠され測定された芳香族分含有量及び2環以上の芳香族分含有量の容量百分率(容量%)を意味する。ナフテン化合物分含有量は、ASTM D2786「質量分析法」に準拠して測定されるナフテン分の質量百分率(質量%)を意味する。セタン指数は、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」の「8.4変数方程式を用いたセタン指数の算出方法」により算出した値を意味する。なお、上記JIS規格におけるセタン指数は、セタン価向上剤を添加したものに対しては適用されないが、本発明ではセタン価向上剤を添加した軽油組成物のセタン指数についても、上記「8.4変数方程式を用いたセタン指数の算出方法」を適用し、当該算出方法により算出される値をセタン指数として表す。セタン価は、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」の「7.セタン価試験方法」に準拠して測定されるセタン価を意味する。流動点は、JIS K 2269「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」により測定される流動点を意味する。目詰まり点はJIS K 2288「軽油−目詰まり点試験方法」により測定される目詰まり点を意味する。潤滑性能を示すHFRR摩耗痕径(WS1.4)は、社団法人石油学会から発行されている石油学会規格JPI−5S−50−98「軽油−潤滑性試験方法」に準拠され測定される値を意味する。灰分含有量は、JIS K 2272「原油及び石油製品の灰分並びに硫酸灰分試験方法」により測定される軽油組成物全量基準の灰分の質量含有量を意味する。酸化安定度:全不溶解分は、ASTM D2274−94に準拠して測定される値を意味する。酸化安定度:過酸化物価は、石油学会規格JPI−5S−46−96に準拠して測定される値を意味する。導伝率は、JIS K 2276「石油製品−航空燃料油試験方法」に準拠して測定される値を意味する。
【0095】
【表2】
【0096】
【表3】
【0097】
表3に示した通り、実施例1〜3においては、90%留出温度、15℃における密度及び硫黄分含有量がいずれも本発明で規定される範囲内である水素化分解軽油を用いることにより、硫黄分含有量が10容量ppm以下、芳香族分含有量が15容量%以下、2環以上の芳香族分含有量が2容量%以下、且つ15℃における密度が820kg/m3以上840kg/m3以下である軽油組成物を容易に且つ確実に得ることができた。一方、上記特定の水素化分解軽油を用いずに軽油組成物を調製した比較例1〜8においては、上述の性状の全てを同時に満たすことができなかった。
【0098】
次に、実施例1〜3及び比較例1〜8の各軽油組成物について、以下に示すディーゼルエンジンを用いて各種試験を行った。なお、エンジン排ガス測定に使用した試験方法は、旧運輸省監修新型自動車審査関係基準集別添「ディーゼル自動車13モード排出ガス測定の技術規準」に準拠し、13モード中の10モード目(60%回転数、80%負荷)の定常条件で測定を行った。また、DPFとして、フィルタ部に酸化触媒機能を有する連続再生式DPFを用いた。結果を表3に示す。全ての結果は、供試燃料として比較例1の軽油組成物を用いて、DPF未装着時で行ったときの値を100とし、当該値を基準とする相対値で評価した。すなわち、燃費は、当該値が100を越えた場合に改善が見られ、PM、アルデヒド類及び微小粒子数は、当該値が100を下回ると改善が見られたことになる。
【0099】
(エンジン諸元)
エンジンの種類:自然吸気式直列4気筒ディ−ゼル
排気量:5L
圧縮比:19
最高出力:110kW/2900rpm
最高トルク:360Nm/1700rpm
規制適合:平成6年度排ガス規制適合。
【0100】
(PM及びアルデヒド類の濃度測定試験)
上記エンジン単体、又は当該エンジンにDPFを装着した条件について、上述の試験方法に準拠した部分希釈トンネル法を用いた排ガス希釈により、PMサンプル、アルデヒド類サンプルの濃度測定を行った。PMのサンプリングには炭化フッ素被膜ガラス繊維フィルタを、また、アルデヒド類のサンプリングにはDPNHカートリッジを使用し、捕集及び分析した。得られた結果を表4に示す。
【0101】
(微小粒子測定)
上記PM及びアルデヒド類の濃度測定試験に併行して、PMの総粒子数を測定した。
【0102】
粒子数の測定の際には、図1に示す走査型モビリティ粒径分析装置を使用し、粒子の粒径ごと分離と粒子数の検出を行った。すなわち、図1に示した装置において、希釈された排ガスサンプルを通す流路11には、その上流から順に、荷電分布制御部12、分級部13、粒子数計測部14が設けられている。希釈された排ガス中の微小粒子は、荷電分布制御部12で平衡荷電分布状態となり、分級部13で粒子それぞれの電気移動度に従い分級(分離)される。そして、粒子数計測部14において、粒径ごとに分離された粒子が計測される。
【0103】
得られた結果を表4に示す。なお、表4の数値は13モード中に排出された微小粒子の総数について供試燃料として比較例1を用いて、DPF未装着時の結果を100とした場合の相対値で評価している。
【0104】
(燃費特性の評価)
上記PM及びアルデヒド類の濃度測定試験に併行して、軽油組成物の燃費特性の評価を行った。燃費は10モード目に消費した燃料容積流量を燃料温度補正し、重量値に置き換えた値について供試燃料として比較例1を用いて、DPF未装着時の結果を100とした場合の相対値で評価した。得られた結果を表4に示す。
【0105】
【表4】
【0106】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明によれば、90%留出温度、15℃における密度及び硫黄分含有量がそれぞれ上記の範囲内にある水素化分解軽油を用いることにより、従来の基材では実現が困難であった、密度を維持しつつ低硫黄分含有量、低芳香族含有量及び高セタン価を同時に達成することが可能となる。そして、かかる水素化分解軽油を軽油組成物に含有せしめ、軽油組成物の硫黄分含有量、芳香族分含有量、2環以上の芳香族分含有量、15℃における密度、セタン価及びセタン指数をそれぞれ上記の範囲内とすることにより、将来型ディーゼル燃料としての要求性状を具備し、環境負荷の低減と燃費の向上とを高水準で達成可能な軽油組成物が実現される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で用いた走査型モビリティ粒径分析装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
11…流路、12…荷電分布制御部、13…分級部、14…粒子数計測部
Claims (9)
- 90%留出温度が200℃以上380℃以下、15℃における密度が780kg/m3以上870kg/m3以下、且つ硫黄分含有量が10質量ppm以下である水素化分解軽油を含有し、
硫黄分含有量が10質量ppm以下、芳香族分含有量が15容量%以下、2環以上の芳香族分含有量が2容量%以下、且つ15℃における密度が820kg/m3以上840kg/m3以下である
ことを特徴とする軽油組成物。 - 水素化精製軽油、水素化精製灯油及び合成軽油から選ばれる少なくとも1種をさらに含有することを特徴とする、請求項1に記載の軽油組成物。
- 前記水素化分解軽油の芳香族分含有量が15容量%以上であり、前記軽油組成物が合成軽油をさらに含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の軽油組成物。
- セタン価が55以上、セタン指数が52以上、30℃における動粘度が2.5mm2/s以上4.5mm2/s以下であることを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の軽油組成物。
- 90%留出温度が320℃以下、95%留出温度が340℃以下、終点が350℃以下、HFRR摩耗痕径が400μm以下、流動点が−7.5℃以下であることを特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の軽油組成物。
- 90%留出温度が200℃以上380℃以下、15℃における密度が780kg/m3以上870kg/m3以下、且つ硫黄分含有量が10質量ppm以下である水素化分解軽油と、水素化精製軽油、水素化精製灯油及び合成軽油から選ばれる少なくとも1種とを配合して、硫黄分含有量が10質量ppm以下、芳香族分含有量が15容量%以下、2環以上の芳香族分含有量が2容量%以下、且つ15℃における密度が820kg/m3以上840kg/m3以下である軽油組成物を得ることを特徴とする、軽油組成物の製造方法。
- 前記水素化分解軽油の芳香族分含有量が15容量%以上であり、該水素化分解軽油と合成軽油とを配合して前記軽油組成物を得ることを特徴とする、請求項6に記載の軽油組成物の製造方法。
- 前記軽油組成物のセタン価が55以上、セタン指数が52以上、30℃における動粘度が2.5mm2/s以上4.5mm2/s以下であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の軽油組成物の製造方法。
- 前記軽油組成物の90%留出温度が320℃以下、95%留出温度が340℃以下、終点が350℃以下、HFRR摩耗痕径が400μm以下、流動点が−7.5℃以下であることを特徴とする、請求項6〜8のうちのいずれか一項に記載の軽油組成物の製造方法。
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