JP5154817B2 - 軽油基材および軽油組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、従来軽油基材として活用されていなかったコーカー軽油の有効利用に関し、かつ貯蔵安定性、低温における白煙防止性能に優れた軽油組成物を提供する。
従来、ディーゼルエンジン用軽油(ディーゼル軽油)としては、原油の常圧蒸留装置から得られる直留軽油を水素化精製したものや、水素化精製した直留軽油に同じく原油の常圧蒸留装置から得られる直留灯油またはこれの水素化精製物を混合したものなどが用いられてきた。
また、近年では、軽油の増産という観点から、原油の常圧蒸留装置から得られる直留重質油や常圧蒸留残油を減圧蒸留して得られる減圧軽油を接触分解する際に得られる接触分解軽油(LCO)と呼ばれる重質留分やコーカー熱分解装置から得られる熱分解軽油を軽油に配合することが知られている(特許文献1、2参照)。
特開平6−27184号公報 特開平10−8070号公報
しかしながら、いずれも軽質留分を利用する、配合量を少量とするなど、中間留分の有効利用という観点からみると、十分に活用されていない現状である。また、分解系の軽油基材は硫黄分が高く、近年の軽油のサルファーフリーという観点からも軽油への配合が好ましくなく、軽油基材としての利用が困難であった。
このような状況のもと、本発明は軽油基材への利用が困難と考えられていたコーカー熱分解装置から得られるコーカー油の中間留分(コーカー軽油)について新たな視点で詳細な研究を行い、新たな軽油基材を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、直留軽油100容量部に対し、コーカー熱分解装置から得られる沸点範囲110〜400℃、硫黄分3.0質量%以下、全芳香族含有量が35容量%以下、2環以上の多環芳香族含有量が20容量%以下、オレフィン分40容量%以下のコーカー軽油15〜40容量部を軽油脱硫装置に混合通油し水素化脱硫処理して得られる、硫黄分10質量ppm以下、セタン指数50以上、全芳香族含有量25容量%以下、オレフィン分1容量%以下であることを特徴とする軽油基材に関するものである。
また、本発明は、水素の存在下、水素化脱硫触媒を用い、水素圧力3〜8MPa、反応温度300〜380℃、液空間速度(LHSV)0.3〜2h−1、水素/油比100〜500NL/Lの条件下で水素化脱硫処理することを特徴とする前記記載の軽油基材に関するものである。
さらに、本発明は、上述の軽油基材を60容量%以上含有して成る、硫黄分10質量ppm以下、HFRR摩耗痕径(WS1.4)が460μm以下であることを特徴とする軽油組成物に関するものである。
さらにまた、本発明は、引火点が50℃以上、蒸留性状90%留出温度が350℃以下、動粘度(30℃)が2.5mm/s以上、セタン指数が45以上、密度が750kg/m以上850kg/m以下、潤滑性向上剤含有量が50mg/L以上200mg/L以下であることを特徴とする前記記載の軽油組成物に関するものである。
本発明によれば、従来軽油基材として活用されていなかったコーカー軽油を有効に利用できるとともに、かつ貯蔵安定性、低温における白煙防止性能に優れた軽油組成物が提供される。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の軽油基材は、直留軽油100容量部に対し、コーカー熱分解装置から得られる沸点範囲110〜400℃、硫黄分3.0質量%以下、全芳香族含有量が35容量%以下、2環以上の多環芳香族含有量が20容量%以下、オレフィン分40容量%以下のコーカー軽油15〜40容量部を軽油脱硫装置に混合通油し水素化脱硫処理して得られる、硫黄分10質量ppm以下、セタン指数50以上、全芳香族含有量25容量%以下、オレフィン分1容量%以下であることが必要である。
本発明の軽油基材に係る直留軽油とは、原油の常圧蒸留装置から得られる軽油留分のことを指し、通常沸点が140〜350℃くらいの範囲に入る軽油留分のことをいう。
本発明の軽油基材に係るコーカー軽油とは、重質油に熱を加え、ラジカル反応を主体とした反応を起こすことで、重質な炭化水素を軽質炭化水素に分解して得られる軽油留分のことをいう。原料油の重質油としては、常圧蒸留装置から得られる残渣油(常圧残油)、減圧蒸留装置から得られる残渣油(減圧残油)、接触分解残渣油(CLO)、残油直接脱硫残渣油(RDSボトム)、重質原油、オイルサンド、ビチューメン等が好ましいが、製油所における原油処理の効率性の面で、常圧蒸留残油、減圧蒸留残油がより好ましく使用される。
本発明の軽油基材に係るコーカー軽油を得るために用いるコーカー熱分解装置は特に限定されるものではなく、通常の熱分解プロセスで用いられる装置を使用することができ、例えば、ディレードコーキングプロセス、ビスブレーキングプロセス、ユリカプロセス、HSCプロセス等が挙げられる。また、熱分解条件は特に限定されるものではないが、前述の重質油を原料としてコーカー熱分解装置を用い、反応圧力0.04〜0.5MPa、分解温度450〜550℃で処理することが好ましい。本発明の軽油基材をより得られやすくする観点から、原料油として常圧残油または減圧残油を用い、反応圧力0.15〜0.25MPa、分解温度460〜500℃で処理することがより好ましい。
本発明の軽油基材に係るコーカー軽油の沸点範囲は、軽油基材として好適な範囲とするために110〜400℃であることが必要であり、下限は120℃以上が好ましく、上限は370℃以下が好ましく、360℃以下がより好ましい。
本発明の軽油基材に係るコーカー軽油の硫黄分は、3.0質量%以下であることが必要である。コーカー軽油の硫黄分が3.0質量%を超えると、水素化脱硫後に硫黄分が十分に低下せず、サルファーフリー軽油基材として不適になるおそれがあるため好ましくない。
なお、ここでいう硫黄分とは、JIS K 2541「硫黄分試験方法」により測定されるコーカー軽油全量基準の硫黄分の質量百分率(質量%)をいう。
本発明の軽油基材に係るコーカー軽油の全芳香族含有量は、35容量%以下であることが必要である。コーカー軽油の全芳香族含有量が35容量%を超えると、軽油基材のセタン価が低下するおそれがあるため好ましくない。かかる理由から30容量%以下がより好ましい。
なお、ここでいう全芳香族含有量とは、社団法人石油学会により発行されている石油学会法JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠され測定されるコーカー軽油全量基準の全芳香族含有量の容量百分率(容量%)をいう。
本発明の軽油基材に係るコーカー軽油の2環以上の多環芳香族含有量は、20容量%以下であることが必要である。コーカー軽油の2環以上の多環芳香族含有量が20容量%を超えると、軽油基材中の多環芳香族含有量が増加し、排出ガスの悪化につながるおそれがあるため好ましくない。かかる理由から15容量%以下が好ましく、13容量%以下がより好ましい。
なお、ここでいう2環以上の多環芳香族含有量とは、社団法人石油学会により発行されている石油学会法JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠され測定されるコーカー軽油全量基準の2環以上の多環芳香族含有量の容量百分率(容量%)をいう。
本発明の軽油基材に係るコーカー軽油のオレフィン分は、40容量%以下であることが必要である。コーカー軽油のオレフィン分が40容量%を超えると、水素化脱硫処理における発熱が大きくなるため、反応制御が困難となる他、反応器への原料供給ラインにおけるスラッジ生成の懸念があるため好ましくない。かかる理由から35容量%以下が好ましく、30容量%以下がより好ましい。
なお、ここでいうオレフィン分とは、社団法人石油学会により発行されている石油学会法JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠され測定されるコーカー軽油全量基準のオレフィン分の容量百分率(容量%)をいう。
本発明の軽油基材に係る水素化脱硫処理には、前述の直留軽油100容量部に対しコーカー軽油を15〜40容量部を軽油脱硫装置に混合通油することが必要である。コーカー軽油の混合量が前述の範囲外であると軽油基材が所定の性状を満たさなくなるおそれがあるため好ましくない。コーカー軽油の混合通油量は、直留軽油100容量部に対し、20容量部以上が好ましく、25容量部以上がより好ましい。
なお、ここでいう混合通油とは、直留軽油とコーカー軽油を軽油脱硫装置に導入する前に混合して通油する場合に限られず、軽油脱硫装置の中で混合される場合も含む。
本発明の軽油基材に係る水素化脱硫処理は、所定の軽油基材を得るために、水素の存在下、水素化脱硫触媒を用い、水素圧力2〜13MPa、反応温度180〜480℃、液空間速度(LHSV)0.1〜3h−1、水素/油比100〜1500NL/Lで行なうことが好ましい。
反応温度は低温ほど水素化反応には有利であるが、脱硫反応には好ましくない。水素圧力、水素/油比は高いほど脱硫、水素化反応とも促進されるが、経済的に最適点が存在する。LHSVは低いほど反応に有利であるが、低すぎる場合には極めて大きな反応塔容積が必要となり過大な設備投資となるので不利である。このような理由から、水素圧力は3〜8Mpaが、反応温度は300〜380℃が、LHSVは0.3〜2h−1、水素/油比は100〜500NL/Lで水素化脱硫処理することが特に好ましい。
本発明に係る水素化脱硫触媒には、一般的な水素化脱硫用触媒を適用することができる。活性金属としては、通常、周期律表第6A族および第8族金属が好ましく用いられ、例えば、Co−Mo、Ni−Mo、Co−W、Ni−Wなどが挙げられる。担体としてはアルミナを主成分とした多孔質無機酸化物が用いられる。
本発明の軽油基材の硫黄分は、10質量ppm以下であることが必要であり、エンジンから排出される有害排気成分低減と排出ガス後処理装置の性能向上の観点から、8質量ppm以下が好ましく、5質量ppm以下がさらに好ましい。なお、ここでいう硫黄分は、JIS K 2541「硫黄分試験方法」により測定される軽油基材全量基準の硫黄分の質量百分率(質量%)をいう。
本発明の軽油基材のセタン指数は、50以上であることが必要であり、排出ガス中のNOx、PMおよびアルデヒド類の濃度を低減するために、53以上が好ましく、54以上がより好ましく、55以上がさらに好ましい。なお、ここでいうセタン指数は、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」の「8.4変数方程式を用いたセタン指数の算出方法」によって算出される値をいう。
本発明の軽油基材の全芳香族含有量は、25容量%以下であることが必要であり、排出ガス中のNOx、PMおよびアルデヒド類の濃度を低減するために、20容量%以下が好ましい。なお、ここでいう全芳香族含有量は、社団法人石油学会により発行されている石油学会法JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠され測定される全芳香族含有量の容量百分率(容量%)をいう。
本発明の軽油基材のオレフィン分は、1容量%以下であることが必要であり、貯蔵安定性を高めるために、0.8容量%以下が好ましく、0.5容量%以下がより好ましい。なお、ここでいうオレフィン分は、社団法人石油学会により発行されている石油学会法JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠され測定されるオレフィン分の容量百分率(容量%)をいう。
本発明の軽油組成物は、本発明の軽油基材を60容量%以上含有して成る、硫黄分10質量ppm以下、HFRR摩耗痕径(WS1.4)が460μm以下の軽油組成物である。
また、前記の本発明の軽油組成物は、好ましくは、引火点が50℃以上、蒸留性状90%留出温度が350℃以下、動粘度(30℃)が2.5mm/s以上、セタン指数が45以上、密度が750kg/m以上850kg/m以下であり、かつ潤滑性向上剤を50〜200mg/L含有する軽油組成物である。
本発明の軽油組成物の硫黄分は、エンジンから排出される有害排気成分低減と排ガス後処理装置の性能向上の点から10質量ppm以下であることが必要であり、好ましくは5質量ppm以下、より好ましくは3質量ppm以下、さらに好ましくは1質量ppm以下である。なお、ここでいう硫黄分とは、JIS K 2541「硫黄分試験方法」により測定される軽油組成物全量基準の硫黄分の質量百分率(質量%)を意味する。
本発明の軽油組成物の引火点は、50℃以上であることが好ましい。引火点が50℃に満たない場合には、安全上の理由により軽油組成物として取り扱うことができない。同様の理由により、引火点は54℃以上であることが好ましく、58℃以上であることがより好ましい。なお、ここでいう引火点は、JIS K 2265「原油及び石油製品引火点試験方法」で測定される値を示す。
本発明の軽油組成物のセタン指数は、45以上であることが好ましい。セタン指数が45に満たない場合には、排出ガス中のPM、アルデヒド類、あるいはさらにNOxの濃度が高くなる傾向にある。また、同様の理由により、セタン指数は48以上であることが好ましく、50以上であることが最も好ましい。なお、ここでいうセタン指数とは、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」の「8.4変数方程式を用いたセタン指数の算出方法」によって算出される値を意味する。ここで、上記JIS規格におけるセタン指数は、一般的にはセタン価向上剤を添加していない軽油に対して適用されるが、本発明ではセタン価向上剤を添加した軽油組成物についても上記「8.4変数方程式を用いたセタン指数の算出方法」を適用し、当該算出方法により算出される値をセタン指数として表す。
本発明の軽油組成物の15℃における密度は、発熱量確保の点から、750kg/m以上であることが好ましく、760kg/m以上がより好ましく、770kg/m以上がさらに好ましい。また、当該密度は、NOx、PMの排出量を低減する点から、850kg/m以下であることが好ましく、845kg/m以下がより好ましく、840kg/m以下がさらに好ましい。なお、ここでいう密度とは、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度を意味する。
本発明の軽油組成物は、HFRR摩耗痕径(WS1.4)は460μm以下であることが必要であり、好ましくは430μm以下、より好ましくは410μm以下となる潤滑性能を有することが望ましい。HFRR摩耗痕径(WS1.4)が460μmを超える場合は、特に分配型噴射ポンプを搭載したディーゼルエンジンにおいて、運転中のポンプの駆動トルク増、ポンプ各部の摩耗増を引き起こし、排ガス性能、微小粒子性能の悪化のみならずエンジン自体が破壊される恐れがある。また、高圧噴射が可能な電子制御式燃料噴射ポンプにおいても、摺動面等の摩耗が懸念される。なお、ここでいうHFRR摩耗痕径(WS1.4)とは、社団法人石油学会から発行されている石油学会規格JPI−5S−50−98「軽油−潤滑性試験方法」により測定される値を意味する。
本発明の軽油組成物における芳香族含有量には特に制限はないが、環境負荷低減効果を高め、NOx及びPM低減の観点から、25容量%以下であることが好ましく、より好ましくは19容量%以下、さらに好ましくは18容量%以下である。なお、ここでいう芳香族分含有量とは、社団法人石油学会により発行されている石油学会法JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠され測定された芳香族含有量の容量百分率(容量%)を意味する。
本発明の軽油組成物における蒸留性状としては、90%留出温度350℃以下であることが好ましく、より好ましくは345℃以下、さらに好ましくは340℃以下である。90%留出温度(T90)が前記上限値を超えると、PMや微小粒子の排出量が増加する傾向にある。また、T90は、好ましくは300℃以上、より好ましくは310℃以上、さらに好ましくは315℃以上、さらにより好ましくは320℃以上である。T90が前記下限値に満たないと、燃費向上効果が不十分となり、エンジン出力が低下する傾向にある。
本発明の軽油組成物の初留点(IBP)が低すぎる場合は、一部の軽質留分が気化して噴霧範囲が広がりすぎ、未燃分として排出ガスに同伴されるHCが増加する懸念があること、および高温における始動性、アイドリング時のエンジン回転の安定性確保の観点から、IBPは140℃以上であることが好ましく、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは155℃以上、最も好ましくは160℃以上である。一方、IBPが高すぎる場合は低温始動性および低温運転性に不具合を生じる可能性があることから、IBPは230℃以下であることが好ましく、より好ましくは220℃以下、最も好ましくは215℃以下である。
本発明の軽油組成物の10%留出温度(T10)が低すぎると、IBPが低すぎる場合と同様に、排出ガスに同伴されるHCが増加する懸念があること、および高温における始動性、アイドリング時のエンジン回転の安定性確保の観点から、T10は165℃以上であることが好ましく、より好ましくは170℃以上、最も好ましくは175℃以上である。一方、T10が高すぎる場合は低温始動性および低温運転性に不具合を生じる可能性があることから、T10は260℃以下であることが好ましく、より好ましくは255℃以下、最も好ましくは250℃以下である。
本発明の軽油組成物の50%留出温度(T50)は、燃費、エンジン出力、高温における始動性、アイドリング時のエンジン回転の安定性確保の観点から、240℃以上であることが好ましく、より好ましくは250℃以上、最も好ましくは260℃以上である。一方、エンジンから排出されるPM増加防止の観点から、T50は310℃以下であることが好ましく、より好ましくは300℃以下、最も好ましくは295℃以下である。
本発明の軽油組成物の終点(EP)は、高温における始動性、アイドリング時のエンジン回転の安定性確保、および燃費の観点から、310℃以上であることが好ましく、より好ましくは320℃以上、最も好ましくは325℃以上である。一方、エンジンから排出されるPM増加防止の観点から、EPは380℃以下であることが好ましく、より好ましくは375℃以下、さらに好ましくは370℃以下である。
なお、ここでいうT90、IBP、T10、T50、EPとは、JIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法−常圧法」に準拠して測定される値を意味する。
本発明の軽油組成物の30℃における動粘度は特に制限はないが、2.5mm/s以上であることが好ましく、2.7mm/s以上であることがより好ましく、2.9mm/s以上であることがさらに好ましい。当該動粘度が2.5mm/sに満たない場合は、燃料噴射ポンプ側の燃料噴射時期制御が困難となる傾向にあり、またエンジンに搭載された燃料噴射ポンプの各部における潤滑性が損なわれるおそれがある。また、本発明の軽油組成物の30℃における動粘度は5mm/s以下であることが好ましく、4.7mm/s以下であることがより好ましく、4.5mm/s以下であることがさらに好ましい。当該動粘度が5mm/sを超えると、燃料噴射システム内部の抵抗が増加して噴射系が不安定化し、排出ガス中のNOx、PMの濃度が高くなってしまう。なお、ここでいう動粘度とは、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」により測定される動粘度を意味する。
本発明の軽油組成物の全芳香族分含有量は、PM排出量低減並びに環境負荷の低減の観点から、25容量%以下であることが好ましく、20容量%以下がより好ましい。また、2環以上の多環芳香族含有量(2環以上芳香族分)は、同様の理由から3容量%以下が好ましく、2容量%以下がより好ましく、1容量%以下がさらに好ましい。
なお、ここでいう全芳香族分含有量および2環以上の多環芳香族含有量は、社団法人石油学会により発行されている石油学会法JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠され測定される軽油組成物全量基準の容量百分率(容量%)をいう。
本発明の軽油組成物においては、必要に応じて潤滑性向上剤を適量配合し、得られる軽油組成物の潤滑性を向上させることができる
潤滑性向上剤としては、例えば、カルボン酸系、エステル系、アルコール系およびフェノール系の各潤滑性向上剤の1種又は2種以上が任意に使用可能である。これらの中でも、カルボン酸系及びエステル系の潤滑性向上剤が好ましい。
カルボン酸系の潤滑性向上剤としては、例えば、リノ−ル酸、オレイン酸、サリチル酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ヘキサデセン酸及び上記カルボン酸の2種以上の混合物が例示できる。
エステル系の潤滑性向上剤としては、グリセリンのカルボン酸エステルが挙げられる。カルボン酸エステルを構成するカルボン酸は、1種であっても2種以上であってもよく、その具体例としては、リノ−ル酸、オレイン酸、サリチル酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ヘキサデセン酸等がある。
潤滑性向上剤の配合量は、50mg/L以上200mg/L以下であることが好ましく、より好ましくは75mg/L以上200mg/L以下、さらに好ましくは100mg/L以上150mg/L以下である。潤滑性向上剤の配合量が前記の範囲内であると、配合された潤滑性向上剤の効能を有効に引き出すことができ、例えば分配型噴射ポンプを搭載したディーゼルエンジンにおいて、運転中のポンプの駆動トルク増を抑制し、ポンプの摩耗を低減させることができる。
なお、潤滑性向上剤と称して市販されているものは、それぞれ潤滑性向上に寄与する有効成分が適当な溶剤で希釈された状態で入手されるのが通例である。このような市販品を本発明の軽油組成物に配合する際には、軽油組成物中の当該有効成分の含有量が上述の範囲内となることが好ましい。
本発明の軽油組成物においては、上記潤滑性向上剤以外の添加剤を必要に応じて配合することができ、特に、セタン価向上剤および/または清浄剤が好ましく配合される。
セタン価向上剤としては、軽油のセタン価向上剤として知られる各種の化合物を任意に使用することができ、例えば、硝酸エステルや有機過酸化物等が挙げられる。これらのセタン価向上剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
本発明においては、上述のセタン価向上剤の中でも硝酸エステルを用いることが好ましい。かかる硝酸エステルには、2−クロロエチルナイトレート、2−エトキシエチルナイトレート、イソプロピルナイトレート、ブチルナイトレート、第一アミルナイトレート、第二アミルナイトレート、イソアミルナイトレート、第一ヘキシルナイトレート、第二ヘキシルナイトレート、n−ヘプチルナイトレート、n−オクチルナイトレート、2−エチルヘキシルナイトレート、シクロヘキシルナイトレート、エチレングリコールジナイトレートなどの種々のナイトレート等が包含されるが、特に炭素数6〜8のアルキルナイトレートが好ましい。
セタン価向上剤の含有量は、組成物全量基準で500mg/L以上であることが好ましく、600mg/L以上であることがより好ましく、700mg/L以上であることがさらに好ましく、800mg/L以上であることが特に好ましく、900mg/L以上であることが最も好ましい。セタン価向上剤の含有量が500mg/Lに満たない場合は、十分なセタン価向上効果が得られず、ディーゼルエンジン排出ガスのPM、アルデヒド類、さらにはNOxが十分に低減されない傾向にある。また、セタン価向上剤の含有量の上限値は特に限定されないが、軽油組成物全量基準で、1400mg/L以下であることが好ましく、1250mg/L以下であることがより好ましく、1100mg/L以下であることがさらに好ましく、1000mg/L以下であることが最も好ましい。
先の潤滑性向上剤の場合と同様に、セタン価向上剤は、常法に従い合成したものを用いてもよく、また、市販品を用いてもよい。なお、セタン価向上剤と称して市販されているものは、セタン価向上に寄与する有効成分(すなわちセタン価向上剤自体)を適当な溶剤で希釈した状態で入手されるのが通例である。このような市販品を使用して本発明の軽油組成物を調製する場合には、軽油組成物中の当該有効成分の含有量が上述の範囲内となることが好ましい。
清浄剤としては、例えば、イミド系化合物;ポリブテニルコハク酸無水物とエチレンポリアミン類とから合成されるポリブテニルコハク酸イミドなどのアルケニルコハク酸イミド;ペンタエリスリトールなどの多価アルコールとポリブテニルコハク酸無水物から合成されるポリブテニルコハク酸エステルなどのコハク酸エステル;ジアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドンなどとアルキルメタクリレートとのコポリマーなどの共重合系ポリマー、カルボン酸とアミンの反応生成物等の無灰清浄剤等が挙げられ、中でもアルケニルコハク酸イミド及びカルボン酸とアミンとの反応生成物が好ましい。これらの清浄剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
アルケニルコハク酸イミドを使用する例としては、分子量1000〜3000程度のアルケニルコハク酸イミドを単独使用する場合と、分子量700〜2000程度のアルケニルコハク酸イミドと分子量10000〜20000程度のアルケニルコハク酸イミドとを混合して使用する場合とがある。
カルボン酸とアミンとの反応生成物を構成するカルボン酸は1種であっても2種以上であってもよく、その具体例としては、炭素数12〜24の脂肪酸および炭素数7〜24の芳香族カルボン酸等が挙げられる。炭素数12〜24の脂肪酸としては、リノール酸、オレイン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、炭素数7〜24の芳香族カルボン酸としては、安息香酸、サリチル酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、カルボン酸とアミンとの反応生成物を構成するアミンは、1種であっても2種以上であってもよい。ここで用いられるアミンとしては、オレイルアミンが代表的であるが、これに限定されるものではなく、各種アミンが使用可能である。
清浄剤の配合量は特に制限されないが、清浄剤を配合した効果、具体的には、燃料噴射ノズルの閉塞抑制効果を引き出すためには、清浄剤の配合量を組成物全量基準で30mg/L以上とすることが好ましく、60mg/L以上とすることがより好ましく、80mg/L以上とすることがさらに好ましい。30mg/Lに満たない量を添加しても効果が現れない可能性がある。一方、配合量が多すぎても、それに見合う効果が期待できず、逆にディーゼルエンジン排出ガス中のNOx、PM、アルデヒド類等を増加させる恐れがあることから、清浄剤の配合量は300mg/L以下であることが好ましく、180mg/L以下であることがより好ましい。
なお、先の潤滑性向上剤の場合と同様、清浄剤と称して市販されているものは、清浄に寄与する有効成分が適当な溶剤で希釈された状態で入手されるのが通例である。このような市販品を本発明の軽油組成物に配合する際には、軽油組成物中の当該有効成分の含有量が上述の範囲内となることが好ましい。
また、本発明における軽油組成物の性能をさらに高める目的で、後述するその他の公知の燃料油添加剤(以下、便宜上「その他の添加剤」という。)を単独で、または数種類組み合わせて添加することもできる。その他の添加剤としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アルケニルコハク酸アミドなどの低温流動性向上剤;フェノール系、アミン系などの酸化防止剤;サリチリデン誘導体などの金属不活性化剤;ポリグリコールエーテルなどの氷結防止剤;脂肪族アミン、アルケニルコハク酸エステルなどの腐食防止剤;アニオン系、カチオン系、両性系界面活性剤などの帯電防止剤;アゾ染料などの着色剤;シリコン系などの消泡剤等が挙げられる。
その他の添加剤の添加量は任意に決めることができるが、添加剤個々の添加量は、軽油組成物全量基準でそれぞれ好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下である。
本発明の軽油組成物には、本発明が必要とする上述の燃料特性を満たす範疇において、本発明の軽油基材以外のその他の軽油留分、灯油留分、合成軽油及び合成灯油を1種または2種以上配合することができる。
その他の軽油留分とは、具体的には、原油の常圧蒸留装置から得られる直留軽油や、常圧蒸留装置から得られる直留重質油や残査油を減圧蒸留装置で処理して得られる減圧軽油、硫黄分含有量に応じて前述の直留または減圧軽油を水素化精製装置で水素化処理した水素化精製軽油、水素化精製よりも苛酷な条件で一段階または多段階で水素化脱硫して得られる水素化脱硫軽油、上記の種々の軽油留分を水素化分解して得られる水素化分解軽油、動植物油を水素化処理して得られる軽油留分、天然ガス、アスファルト分、石炭、バイオマスなどを原料とする合成軽油などを挙げることができる。
また、前記灯油留分は、所定の原料油を水素化処理して得られるものである。該原料油としては、原油の常圧蒸留により得られる直留灯油が主であるが、水素化分解軽油と共に製造される水素化分解灯油、前述の灯油留分を水素化精製して得られる水素化精製灯油を用いることができる。また、天然ガス、アスファルト分、石炭、バイオマスなどを原料とする合成灯油を使用することも可能である。前述の原料油を水素化触媒の存在下で水素化処理(脱硫及び精製)したものを灯油留分として用いることができる。
水素化処理条件は、通常、反応温度220〜350℃、水素圧力1〜6MPa、LHSV0.1〜10h−1、水素/油比10〜300NL/Lである。好ましくは反応温度250℃〜340℃、水素圧力2〜5MPa、LHSV1〜10h−1、水素/油比30〜200NL/Lであり、さらに好ましくは反応度270℃〜330℃、水素圧力2〜4MPa、LHSV2〜10h−1、水素/油比50〜200NL/Lである。反応温度は低温ほど水素化反応には有利であるが、脱硫反応には好ましくない。水素圧力、水素/油比は高いほど脱硫、水素化反応とも促進されるが、経済的に最適点が存在する。LHSVは低いほど反応に有利であるが、低すぎる場合には極めて大きな反応塔容積が必要となり過大な設備投資となるので不利である。
水素化処理に用いる触媒の活性金属としては周期律表第6A族金属から選ばれる少なくとも1種類の金属である。好ましくはMoおよびWから選ばれる少なくとも1種類である。活性金属としては第6A族金属と第8族金属を組み合わせたものでよく、具体的にはMoまたはWと、CoまたはNiの組み合わせであり、例えばCo−Mo、Co−W、Ni−Mo、Ni−W、Co−Ni−Mo、Co−Ni−Wなどの組み合わせを採用することができる。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1〜4及び比較例1〜2の調整)
表1に示す性状を有する直留軽油およびコーカー軽油を表2に示す水素化脱硫条件1で反応させ表3に示す軽油基材1を、表1の直留灯油を表2の水素化精製条件で反応させ表3に示す水素化精製灯油を調製した。
表3に示した軽油基材1および水素化精製灯油を適宜調合して表4に示す実施例1〜4の軽油組成物を製造した。
同様に、表1に示す性状を有する直留軽油および接触分解軽油を表2に示す水素化脱硫条件2、3で反応させ、それぞれ表3に示す軽油基材2、軽油基材3を調製した。そして、表3に示した軽油基材2、3および水素化精製灯油を適宜調合して表4に示す比較例1〜2の軽油組成物を製造した。
なお、潤滑性向上剤には市販のエステル系潤滑性向上剤を、低温流動性向上剤には市販のエチレン−酢酸ビニル共重合体を主体にしたものを用いた。
調合した軽油組成物の調合比率、及びこの調合した軽油組成物に対して、15℃における密度、30℃における動粘度、硫黄分、蒸留性状、飽和分、オレフィン分、全芳香族分、1環芳香族分、2環以上芳香族分、セタン指数、引火点、HFRR摩耗痕径(WS1.4)を測定した結果を表4に示す。
なお、燃料油の性状は以下の方法により測定した。
密度は、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度を指す。
蒸留性状は、全てJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」によって測定される値である。
硫黄分は、JIS K 2541「硫黄分試験方法」により測定される軽油組成物全量基準の硫黄分の質量含有量を指す。
飽和分、オレフィン分、全芳香族分、および1環芳香族分、2環芳香族分は社団法人石油学会により発行されている石油学会法JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠され測定された各組成の容量百分率(容量%)を指す。
動粘度は、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」により測定される動粘度を指す。
セタン指数は、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」の「8.4変数方程式を用いたセタン指数の算出方法」によって算出した値を指す。
引火点はJIS K 2265「原油及び石油製品引火点試験方法」で測定される値を示す。
HFRR摩耗痕径(WS1.4)とは、社団法人石油学会から発行されている石油学会規格JPI−5S−50−98「軽油−潤滑性試験方法」により測定される値を意味する。
(酸化安定性試験)
ASTM D2274−03「Standard Test Method for Oxidation Stability of Distillate Fuel Oil(Accelerated Method)」に準拠して、評価燃料350mLを95℃、酸素バブリング下、16時間の条件で燃料サンプルを加速劣化させた(酸化安定性試験)後、室温まで冷却し、同ASTM試験法に準拠して全不溶解分を、石油学会規格JPI−5S−46−96「灯油の過酸化物価試験方法」に準拠して過酸化物価を測定する。
実施例1〜4および比較例1〜2の軽油組成物を用いて、上述の酸化安定性試験後の全不溶解分、過酸化物価の測定を行なった。
コーカー軽油系基材由来の軽油組成物実施例1〜4は、接触分解油系基材由来の比較例1及び2より、酸化安定性試験後の全不溶解分および過酸化物価ともに値が小さく、貯蔵安定性に優れることが分かる。
(白煙測定)
環境温度の制御が可能な室内で、以下の試験車両に評価燃料を15L給油し、環境温度を−5℃に設定した後、エンジンを始動させアイドリングにて保持し、JIS D8005に準拠したディーゼル自動車排気煙濃度測定用光透過式スモークメータを使用して白煙を測定した。エンジン始動後、アイドリングで白煙濃度が低下して5%に達する時間(秒)を計測し、白煙5%消滅時間と定義した。すなわち、白煙5%消滅時間が長いほど、白煙が消えにくく、白煙防止性能に劣ることを意味する。
(試験車両諸元)
エンジン種類:インタークーラー付き過給直列4気筒ディ−ゼル
排気量:3.0L
燃料噴射システム:コモンレール方式
適合規制:長期排出ガス規制適合
排出ガス後処理装置:酸化触媒
コーカー軽油系基材由来の軽油組成物実施例1〜4は、接触分解油系基材由来の比較例1及び2より、白煙の排出量が少なく、低温時の白煙防止性能に優れることが分かる。
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Claims (2)

  1. 直留軽油100容量部に対し、コーカー熱分解装置から得られる沸点範囲110〜400℃、硫黄分3.0質量%以下、全芳香族含有量が35容量%以下、2環以上の多環芳香族含有量が20容量%以下、オレフィン分40容量%以下のコーカー軽油15〜40容量部を軽油脱硫装置に混合通油し、水素の存在下、水素化脱硫触媒を用い、水素圧力3〜8MPa、反応温度300〜380℃、液空間速度(LHSV)0.3〜2h −1 、水素/油比100〜500NL/Lの条件下で水素化脱硫処理して得られる、硫黄分10質量ppm以下、セタン指数50以上58.4以下、全芳香族含有量25容量%以下、オレフィン分1容量%以下である軽油基材を60容量%以上含有して成る、硫黄分10質量ppm以下、HFRR摩耗痕径(WS1.4)が460μm以下、密度が750kg/m以上830.1kg/m以下、2環以上の多環芳香族含有量が1容量%以下であることを特徴とする軽油組成物。
  2. 引火点が50℃以上、蒸留性状90%留出温度が350℃以下、動粘度(30℃)が2.5mm/s以上、セタン指数が45以上、潤滑性向上剤含有量が50mg/L以上200mg/L以下であることを特徴とする請求項に記載の軽油組成物。
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