JP4149730B2 - スパッタリングターゲット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば反射防止膜における高屈折率膜の形成などに好適に用いられるスパッタリングターゲットに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年のディスプレス装置の進展には著しいものがある。ディスプレイ装置としては陰極線管(CRT)を使用した装置が広く使用されてきたが、CRTはある程度以上の設置スペースが必要とされることから、軽量・薄型のディスプレイ装置として液晶表示素子が急速に普及している。液晶表示素子は携帯電話やPDAなどの表示部、パソコン用モニター、さらには家庭用テレビをはじめとする各種家電製品などの様々な分野で使用されている。
【0003】
また、自発光タイプのディスプレス装置としては、プラズマディスプレイパネル(PDP)が実用化されている。PDPは様々な情報を緻密かつ高精細に映し出すことができ、かつ大画面化や薄型化が可能であるというような特徴を有している。さらに、電界放出型冷陰極などの電子放出素子を用いた表示装置、いわゆる電界放出型表示装置(FED)の実用化も進められている。FEDは基本的な表示原理がCRTと同じであり、CRTと同等の性能を有している。これらの表示装置はいずれも薄型で軽量であるという特徴を有している。
【0004】
ところで、上述したような各種のディスプレイ装置には、当然ながら見やすさが第一に要求される。このため、コントラストの低下要因となる背景の映り込みを防止するために、画面の表面反射を抑制する必要がある。そこで、ディスプレイ装置の表面には一般に反射防止処理が施されている。反射防止膜は高低の屈折率の異なる薄膜を光学設計により交互に積層することで、反射光を干渉させて反射率を減衰させるメカニズムに基づくものである。このような反射防止膜の成膜方法には主として蒸着法やゾル・ゲル法が採用されてきたが、最近では生産能力と膜厚の制御性の観点からスパッタリング法が採用されはじめている。
【0005】
反射防止膜の構成材料としては、高屈折率膜としてTiOx膜が、また低屈折率膜としてSiO2膜が主に用いられてきたが、最近では高屈折率膜としてNb2O5膜などのNb酸化膜(NbOx膜)が使用されるようになってきている(特開平11-171596号公報など参照)。Nb酸化膜はTi酸化膜に比べて屈折率が高く、かつスパッタ成膜する際のスパッタレートが高いと共に、反応性スパッタの安定性に優れるなどの特徴を有するためである。
【0006】
Nb酸化膜の成膜方法としては、(1)Nbターゲットを用いてArとO2の混合ガス中で反応性スパッタしてNb酸化物膜を成膜する方法、(2)Nbターゲットを用いてスパッタ成膜したNb膜をプラズマ酸化する方法、その他に(3)Nb酸化物ターゲット(NbOxターゲット)を高周波スパッタしてNb酸化物膜を成膜する方法、などが知られているが、主として(1)および(2)の方法が適用されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、反射防止膜用の薄膜にとっては特に屈折率が重要となる。しかも、反射防止膜を適用するディスプレス装置などの分野は大量生産が必要とされるため、同レベルの屈折率を有する薄膜を安定的に形成することが求められる。ここで、薄膜の屈折率はその膜厚に強く依存するため、スパッタリング法で反射防止膜用薄膜を形成する工程においては膜厚の安定性を高めることが求められている。特に、スパッタリングターゲットのライフエンドまで薄膜の膜厚のばらつきを抑えること、つまり成膜速度の安定化が重要になる。
【0008】
上述したNbターゲットを用いてNb酸化物膜を反射防止膜用薄膜として形成する工程においては、薄膜の膜厚を管理するために成膜速度の制御などが行われているが、現状ではターゲットのライフエンドに近くなるにしたがって成膜速度が低下していく傾向にあり、この成膜速度の変化に伴って膜厚のばらつきが大きくなることが問題となっている。また、反射防止膜の成膜用ターゲットには、反射防止膜を適用する装置によっては比較的大型のターゲットが用いられることなどに起因して、Nb酸化膜の面内における膜厚のばらつきも大きくなりやすい傾向がある。
【0009】
このように、Nbターゲットを用いて反射防止膜用のNb酸化物膜などをスパッタ成膜する工程においては、ターゲットのライフエンドまで成膜速度を安定的に保つことで薄膜の膜厚のばらつきを低く抑えること、さらにターゲットに起因する薄膜の膜厚の面内ばらつきを抑制することが強く求められている。なお、Nbターゲットに関しては、半導体素子の配線材料などに使用されるNb膜の形成用ターゲットなどが提案されており(特開2000-104164号公報など参照)、例えばダスト発生の抑制などを目的として、不純物量の低減、結晶粒径や結晶粒度の制御などが行われているが、これらのターゲット特性を制御しただけでは膜厚のばらつきを抑制することはできない。
【0010】
本発明はこのような課題に対処するためになされたもので、ターゲットのライフエンドまで成膜速度を安定化させることによって、例えば反射防止膜などの形成工程における膜厚のばらつきの発生を抑制することを可能にしたスパッタリングターゲット(Nbターゲット)を提供することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するために、Nbターゲットを用いてスパッタ成膜したNb酸化膜の膜厚のばらつきと各種のターゲット特性との相関性について種々検討した結果、Nbターゲット表面における結晶面の方位と比率が成膜速度、さらには成膜速度に強く依存する膜厚のばらつきに大きく影響しており、これらの間に重要な相関関係があることが判明した。その結果として、Nbターゲット表面における特定の結晶面の比率、さらにはそのばらつきを適切な範囲に制御することによって、Nbターゲットを用いてNb酸化膜などをスパッタ成膜する際の膜厚のばらつきを大幅に低減することが可能であることを見出した。
【0012】
本発明はこのような知見に基づくものであって、本発明のスパッタリングターゲットは、酸化ニオブ膜の形成用として用いられる、Nb材からなるスパッタリングターゲットであって、前記ターゲットのスパッタ面における(110)面の結晶方位比率が40%以上82.5 %以下であると共に、(200)面の結晶方位比率が6.6 %以上30%以下であり、かつ前記スパッタ面全体としての前記(110)面の結晶方位比率のばらつきが8.8 %以上30%以下であると共に、前記(200)面の結晶方位比率のばらつきが18.5 %以上50%以下であることを特徴としている。
【0014】
本発明のスパッタリングターゲットの具体的な用途としては、反射防止膜における高屈折率膜(酸化ニオブ膜)の形成用途が挙げられる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明のスパッタリングターゲットはNb材からなるターゲットであって、例えば反射防止膜における高屈折率膜などに好適な酸化ニオブ(NbOx)膜の形成などに適用されるものである。Nb酸化膜はNbターゲットを用いて、例えばArとO2の混合ガス中で反応性スパッタを行うことにより得られる。また、Nbターゲットを用いてNb膜をスパッタ成膜し、これにプラズマ酸化処理を施してNb酸化膜を形成することもできる。
【0016】
ここで、スパッタリングターゲットを構成するNb材には、反射防止膜(高屈折率膜)などの使用用途を考慮して、例えば純度が99%以上のNb材を使用することが好ましい。ここで言うNbの純度とは、不純物元素としてのFe、Ni、Cr、Al、Cu、Na、Kなどの元素の各含有量(質量%)の合計量を100%から引いた値を示すものである。このような純度が99〜99.9%の範囲の高純度Nbを用いることがより好ましい。
【0017】
上述したようなスパッタリングターゲット(Nbターゲット)において、本発明ではターゲット表面の(110)面の結晶方位比率を40%以上とすると共に、(200)面の結晶方位比率を30%以下に制御している。ここで、ターゲット表面の結晶方位比率の制御は少なくともスパッタリングされる表面、すなわちターゲット面について実施すればよい。このようなNbターゲットのスパッタ面(表面)における結晶方位とその比率の制御に基づいて、本発明ではスパッタ成膜時の成膜速度のばらつき、さらには成膜速度に強く依存する膜厚のばらつきを大幅に低減することを可能にしている。
【0018】
すなわち、金属材料をスパッタリングした場合、そのスパッタレートは結晶面によって異なることが知られている。例えば、Nbのようなbcc構造を有する金属材料は(110)面が最稠密面であるため、この(110)面のスパッタレート(スパッタ効率)が一番高いと考えられる。ただし、Nbターゲットの表面に現れる結晶面は、その製造工程における工程条件、加工条件、熱処理条件などによって異なり、必ずしも(110)面が主結晶面になるとは限らない。
【0019】
ここで、従来の成膜速度の変化が大きいNbターゲットについて、その表面状態をXRD解析したところ、(200)面を主ピークとするパターンを示すことが確認された。この結果は使用後のNbターゲット表面においても同様であった。この(200)面は鍛造や圧延などの塑性変形に伴う転移のずれによって生じたものと推定される。すなわち、従来のNbターゲットは冷間加工と真空熱処理を行い、所定の形状に加工されて製造されている。冷間で加工を行う理由は、Nbは酸素との親和力が非常に強く、高い温度ではすぐに酸化してしまい、脆化してしまうためである。
【0020】
さらに詳細に述べると、従来のNbターゲットは、まずNbインゴットに冷間鍛造、冷間圧延を行った後、再結晶化を図るために特定温度以上で熱処理を行うことにより製造されている。もしくは、Nbインゴットを一度絞め鍛造した後に熱処理を行い、その後に上記した工程で製造されるものもある。このような従来の製造工程にしたがって得られるNbターゲットの表面は(200)面を主ピークとするパターンを示すことが多い。この(200)面は冷間鍛造や冷間圧延時における転移のずれによって生じるものと考えられる。
【0021】
上述したような表面の結晶方位が(200)面を主とするNbターゲットを用いてスパッタ成膜を行うと、成膜速度が使用初期から徐々に低下する傾向を示すことが確認された。これはNbの(200)面自体のスパッタ効率が低いことや他の結晶面とのスパッタ効率の違いに基づくものと考えられる。さらに、一般的なマグネトロンスパッタリングにおいては、ターゲットの特定領域だけ局所的に減少した形状、いわゆるエロージョンと呼ばれる形状となる。これは特定領域のプラズマ密度を磁場により高くしていることから、この部分が集中してスパッタリングされるためである。エロージョン部は傾斜をもって削られるため、スパッタ粒子は初期状態に比べて広範囲に飛散する傾向を示す。このようなエロージョン部の形状によっても、成膜速度の変化が促進される。
【0022】
そこで、Nbターゲットの製造条件を制御することによって、表面状態をXRD測定した際に(110)面が主ピークなるパターンを示すNbターゲットを作製し、このNbターゲットを用いてスパッタ成膜したところ、成膜速度は初期状態からライフエンド近くまでほとんど変化しないことが確認された。これは、上述したように(110)面がbcc構造を有するNbの最稠密面であり、(110)面のスパッタ効率が一番高いことから、このような(110)面を主結晶方位とするターゲット表面(スパッタ面)をスパッタリングすることによって、成膜速度の変化(具体的には経時的な低下)を抑制し得るものと考えられる。
【0023】
本発明のスパッタリングターゲットにおいては、上記したような実験結果並びに知見に基づいて、Nbターゲット表面の(110)面の結晶方位比率を40%以上に制御している。(110)面の結晶方位比率が40%未満であるということは、(200)面を含む他の結晶面の比率が増加することを意味し、スパッタ効率が低下して成膜速度が低くなると共に、結晶面間のスパッタ効率の違いなどに基づいて、成膜速度の変化(低下)が大きくなる。Nbターゲットの表面における(110)面の結晶方位比率は50%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは60%以上である。
【0024】
また、上記した(110)面以外の結晶面については、特に(200)面の結晶方位比率が高いと成膜速度が小さくなると共に、成膜速度のばらつきも大きくなるため、Nbターゲット表面の(200)面の結晶方位比率は30%以下に制御している。(200)面の結晶方位比率が30%を超えると、(110)面の結晶方位比率が40%以上であっても、成膜速度の低下や変化が大きくなる。Nbターゲット表面における(200)面の結晶方位比率は20%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは15%以下である。
【0025】
上述したように、ターゲット表面の(110)面の結晶方位比率が40%以上であると共に、(200)面の結晶方位比率が30%以下のNbターゲットは、成膜速度に優れるだけでなく、初期状態からライフエンド近くまでの成膜速度の変化が極めて小さい。従って、そのようなNbターゲットを用いて成膜した薄膜、例えばNb酸化膜は、膜厚の安定性に優れるものである。言い換えると、Nb酸化膜などの膜厚をターゲットの初期状態からライフエンド近くまで安定に保つことができ、ターゲットの使用時間の経過に伴う膜厚のばらつきを大幅に低減することができる。前述したように、反射防止膜の用途では薄膜の屈折率の安定化が重要であり、この薄膜の屈折率はその膜厚に強く依存する。従って、膜厚のばらつきを大幅に低減したNbターゲットは、例えば反射防止膜の品質や生産性の向上に大きく寄与するものである。
【0026】
ここで、Nbターゲット表面の各結晶面の比率は、その表面のX線回折パターンから各結晶面((110)面、(200)面、(211)面、(220)面、(310)面、(222)面)のピーク強度比を求め、これら各ピーク強度比(I(abc))から以下の式に基づいて求めるものとする。例えば、(110)面の結晶方位比率は、[I(110)/I(110)+I(200)+I(211)+I(220)+I(310)+I(222)]×100(%)の式により求める。同様に、(200)面の結晶方位比率は、[I(200)/I(110)+I(200)+I(211)+I(220)+I(310)+I(222)]×100(%)の式により求める。
【0027】
さらに、Nbターゲット表面の(110)面や(200)面の結晶方位比率が上述した範囲であっても、ターゲット表面(スパッタ面)全体としての各結晶面比率のばらつきが大きいと成膜速度にむらが生じやすいことから、得られる薄膜の膜厚の面内ばらつきが大きくなるおそれがある。このようなことから、Nbターゲットの表面全体(スパッタ面全体)としての(110)面の結晶方位比率のばらつきを30%以下とすると共に、(200)面の結晶方位比率のばらつきを50%以下とすることが好ましい。
【0028】
ターゲット表面全体における(110)面比率のばらつきが30%を超えると成膜速度のむらが大きくなり、その結果として膜厚の面内ばらつきが増大する。また、(200)面比率のばらつきが50%を超えると、スパッタ粒子の飛散角度が大きくなり、その結果として膜厚の面内ばらつきが増大する。(110)面比率のばらつきは20%以下とすることがより好ましく、さらに好ましくは15%以下である。また、(200)面比率のばらつきは40%以下とすることがより好ましく、さらに好ましくは30%以下である。
【0029】
なお、本発明で規定するNbターゲットの表面(スパッタ面)における結晶方位比率およびその表面全体としてのばらつきは、以下のようにして測定した値を示すものとする。すなわち、例えばターゲットの形状が長方形の場合、まず長方形ターゲットの中心部(位置1)、4つの角部(位置2〜5)、中心部と各角部とを結ぶ直線を3等分した各位置(位置6〜13)、外周の各辺を2等分した各位置(位置14〜17)の合計17個所からそれぞれ試験片(15×15mm)を採取し、これら17個の試験片についてそれぞれXRD測定を実施する。これら各試験片のXRDパターンから、上述した結晶方位比率の算定式に基づいて(110)面比率および(200)面比率を求め、これらの値の各平均値を本発明の(110)面の結晶方位比率および(200)面の結晶方位比率とする。
【0030】
さらに、ターゲット表面(スパッタ面)全体としての各結晶面比率のばらつきは、上記した17個の各試験片から求めた(110)面比率および(200)面比率において、それぞれの最大値および最小値を求め、これら最大値と最小値から{(最大値−最小値)/(最大値+最小値)}×100(%)の式に基づいて算出した値を示すものとする。
【0031】
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、特定の加工条件や熱処理条件などを満足させる以外は特に限定されるものではなく、公知の製造方法を適用して作製することができる。すなわち、EB溶解などにより作製されたNbインゴット(例えば直径200〜250mm)を用意する。Nbインゴットの純度は前述したように99%以上であることが好ましい。
【0032】
このようなNbインゴットに対して、まず径方向に絞め鍛造を施す。絞め鍛造は径方向の加工率を30%以上に設定することが好ましい。絞め鍛造はNbインゴットに所定の歪を与え、母結晶の粒界を破壊する効果を有する。ここでの加工率があまり低いとNbインゴットに与える歪が少なくなり、母結晶の粒界を十分に破壊することができない。絞め鍛造を施した後に、0.1Pa以下の真空雰囲気中にて1200〜1600℃の温度で5〜10時間の熱処理を施す。このような熱処理によって、Nbインゴットの母結晶は完全に除去され、さらに再結晶化させることができる。ここでの熱処理温度があまり低すぎるとNbの回復温度まで到達しないために効果が得られにくく、逆に温度が高すぎると結晶粒が粗大化して、後工程での塑性加工性が低下する。
【0033】
次いで、上記した絞め鍛造および熱処理後のNb材に対して、高さ方向に据え込み鍛造を施す。据え込み鍛造は高さ(厚さ)方向の加工率を50%以上に設定することが好ましい。続いて、0.1Pa以下の真空雰囲気中にて1200〜1600℃の温度で5〜10時間の熱処理を実施する。ここで、据え込み鍛造の加工率があまり低いと、後加工の加工率を高くする必要があり、その結果として所望の結晶方位比率が得られにくくなる。また、熱処理温度があまり低いとNbの回復温度まで到達しないために効果が得られにくく、逆に温度があまり高いと結晶粒が粗大化して、後工程での塑性加工性が低下する。絞め鍛造および据え込み鍛造後の熱処理はいずれも昇温速度を10℃/min以下とすることが好ましい。
【0034】
次に、上記工程を経たNb材に冷間圧延を施す。この冷間圧延は中間圧延工程と最終圧延工程に分け、各圧延工程後に熱処理を施すことが好ましい。中間圧延工程は厚さ方向の加工率が20%以下となるように実施する。このような圧延率(加工率)の段階で一旦熱処理を施す。熱処理は0.1Pa以下の真空雰囲気中にて1200〜1500℃の温度で5〜10時間実施することが好ましい。このような熱処理を施すことによって、冷間圧延に伴う転移のずれが回復され、(200)面の比率を低下させることができる。この際の熱処理温度があまり低いと(200)面の低減効果を十分に得ることができず、逆に温度があまり高いと結晶粒径が粗大化し、後工程において粒界破断を起こす要因になると共に、所望の結晶方位比率が得られにくくなる。
【0035】
続いて、上記した中間圧延材を最終板厚まで冷間圧延(最終圧延)する。この際の加工率は例えばトータルで25%以上とするが、1回当りの加工率(圧延率)は10%以下とすることが好ましい。1回当りの加工率が10%を超えると、ターゲット素材(Nb素材)に与えられる歪が部位によって不均一となるため、ターゲット表面の結晶方位比率のばらつきが大きくなる。
【0036】
この後、上記した冷間圧延材に対して0.1Pa以下の真空雰囲気中にて1200〜1600℃の温度で5〜10時間の熱処理を施す。この際の昇温速度は5℃/min以下とすることが好ましい。このような条件下で熱処理を施すことによって、ターゲット表面の(110)面を主ピークとする配向制御を行うことができ、所望の結晶方位比率が得られる。この際の熱処理温度が1200℃未満であったり、また加工時間が5時間未満であると十分に結晶面の配向制御を行うことができず、所望の結晶方位比率が得られない。一方、熱処理温度が1600℃を超えたり、また加工時間が10時間を超えると結晶粒径が粗大化し、後工程において粒界破断を起こす要因になると共に、所望の結晶方位比率が得られにくくなる。
【0037】
上述したような加工条件および熱処理条件でNbターゲットの基となるターゲット素材を加工することによって、(110)面の結晶方位比率を40%以上とすると共に、(200)面の結晶方位比率を30%以下に再現性よく制御することができる。また、これら各結晶方位比率のばらつきについても同様に再現性よく制御することができる。
【0038】
そして、このようにして得たNbターゲット素材を所定の形状に機械加工し、さらに例えばAlやCuからなるバッキングプレートと接合することで、目的とするスパッタリングターゲット(Nbターゲット)が得られる。バッキングプレートとの接合には一般的な拡散接合やソルダー接合を適用することができる。ソルダー接合を適用する場合には、公知のIn系やSn系の接合材を介してバッキングプレートと接合する。また、拡散接合の温度は600℃以下とすることが好ましい。
【0039】
本発明のスパッタリングターゲット(Nbターゲット)は、例えば反射防止膜の高屈折率膜などとして用いられるNb酸化膜(NbOx膜)の成膜に好適に使用されるものである。NbOx膜は本発明のNbターゲットを用いて、例えばArとO2の混合ガス中で反応性スパッタを行うことにより得ることができる。また、本発明のNbターゲットを用いてNb膜をスパッタ成膜し、これにプラズマ酸化処理を施してNbOx膜を形成することもできる。
【0040】
上述したようなNbOx膜(あるいはNb膜)の成膜にあたって、本発明のスパッタリングターゲット(Nbターゲット)によれば、成膜速度並びにそれに基づく膜厚をターゲットの初期状態からライフエンド近くまで安定に保つことができるため、ターゲットの使用時間の経過に伴う膜厚のばらつきを大幅に低減することができる。これによって、膜厚に強く依存するNb酸化膜の屈折率を安定化することことが可能となるため、例えば反射防止膜の品質や生産性を向上させることができる。これは反射防止膜を有するディスプレイ装置などの各種装置や部品の品質や製造歩留りの向上に大きく寄与するものである。
【0041】
【実施例】
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。
【0042】
実施例1
純度3NのEB溶解製Nbインゴット(直径230mm×Lmm)を用意し、このNbインゴットに対して径方向への加工率を52%に設定した絞め鍛造を施して、直径110mm×LmmのNb素材を作製した。次いで、このNb素材に排気真空度を0.067Paとした真空雰囲気中にて1500℃×6hrの条件で熱処理を施した。この際の昇温速度は10℃/minとした。
【0043】
次いで、熱処理後のNb素材を直径110mm×60mmのサイズに切断し、これに厚さ方向への加工率を62%に設定したすえ込み鍛造を施して、110×229×23mmの形状を有するNb素材を作製した。このNb素材に排気真空度を0.067Paとした真空雰囲気中にて1400℃×5hrの条件で熱処理(昇温速度:10℃/min)を施した。
【0044】
次に、上記した鍛造処理および熱処理により得たNb素材に、厚さ方向への加工率を15%とした中間冷間圧延(1回の圧延率:5%)を施して、110×269×19mmの形状を有するNb素材を作製した。このNb素材に排気真空度を0.13Paとした真空雰囲気中にて1200℃×5hrの条件で熱処理(昇温速度:5℃/min)を施した。
【0045】
さらに、上記した熱処理後の中間冷間圧延材に、1回の圧延率を5%に設定した最終冷間圧延(厚さ方向への加工率:50%)を施して、110×522×10mmの形状を有するNb素材を作製した。このNb素材に排気真空度を0.13Paとした真空雰囲気中にて1400℃×10hrの条件で熱処理(昇温速度:5℃/min)を施して、ターゲット用Nb素材を得た。
【0046】
このようにして得たターゲット用Nb素材を100×500×8mmの形状に機械加工した後、ソルダー接合法を用いて無酸素銅製バッキングプレートと接合して、目的とするNbスパッタリングターゲットを作製した。このNbスパッタリングターゲットの表面(スパッタ面)における(110)面の結晶方位比率とそのばらつき、および(200)面の結晶方位比率とそのばらつきを、前述した方法(XRD測定)にしたがって測定した。表1および表2にターゲットの製造条件を、また表3にターゲット表面の結晶方位比率とそのばらつきの測定結果を示す。このようなNbスパッタリングターゲットを後述する特性評価に供した。
【0047】
なお、ターゲット表面(スパッタ面)の結晶方位比率の測定については、まず各サンプル(前述した試験片)の表面を#120から研磨を行って、#400で仕上げした表面状態でXRD測定を実施した。XRD測定は理学社製のXRD装置・RAD−Bを用いて行った。測定条件は、X線:Cuκ-α1、管電圧:50V、管電流:100A、発散スリット:1deg、散乱スリット:1deg、受光スリット:0.15mm、走査モード:連続、スキャンスピード:5°/min、スキャンステップ:0.05°、測定角度:30〜110°、走査軸:2θ/θ、オフセット:0°、固定角:0°、ゴニオメータ:縦型ゴニオメータ2軸、である。
【0048】
実施例2〜6、参考例1〜6
実施例1と同様なEB溶解製Nbインゴット(実施例6については純度2N)を用いると共に、表1および表2に示す各加工条件および熱処理条件にしたがって、それぞれ実施例1と同様にしてターゲット用Nb素材を作製した。これら各ターゲット用Nb素材を100×500×8mmの形状に機械加工した後、ソルダー接合法を用いて無酸素銅製バッキングプレートと接合して、目的とするNbスパッタリングターゲットをそれぞれ作製した。
【0049】
このようにして得た各Nbスパッタリングターゲット表面の(110)面の結晶方位比率とそのばらつき、および(200)面の結晶方位比率とそのばらつきを、実施例1と同様にして測定した。表3にターゲット表面の結晶方位比率とそのばらつきの測定結果を示す。また、これらの各Nbスパッタリングターゲットを後述する特性評価に供した。
【0050】
比較例1
純度3NのEB溶解製Nbインゴット(直径230mm×Lmm)を用意し、このNbインゴットに対して径方向への加工率を52%に設定した絞め鍛造を施して、直径110mm×LmmのNb素材を作製した。次いで、このNb素材に排気真空度を0.067Paとした真空雰囲気中にて1400℃×10hrの条件で熱処理(昇温速度:10℃/min)を施した。
【0051】
次いで、熱処理後のNb素材を直径110mm×60mmのサイズに切断し、これに厚さ方向への加工率を57%に設定したすえ込み鍛造を施して、110×202×26mmの形状を有するNb素材を作製した。このNb素材に排気真空度を0.067Paとした真空雰囲気中にて1500℃×10hrの条件で熱処理(昇温速度:10℃/min)を施した。
【0052】
次に、上記した鍛造処理および熱処理により得たNb素材に、厚さ方向への加工率を50%とした中間冷間圧延(1回の圧延率:5%)を施して、110×405×13mmの形状を有するNb素材を作製した。このNb素材に排気真空度を0.13Paとした真空雰囲気中にて800℃×10hrの条件で熱処理(昇温速度:5℃/min)を施した。
【0053】
さらに、上記した熱処理後の中間冷間圧延材に、1回の圧延率を20%に設定した最終冷間圧延を施して、110×522×10mmの形状を有するNb素材を作製した。このNb素材に排気真空度を0.13Paとした真空雰囲気中にて800℃×10hrの条件で熱処理(昇温速度:5℃/min)を施して、ターゲット用Nb素材を得た。
【0054】
このようにして得たターゲット用Nb素材を100×500×8mmの形状に機械加工した後、ソルダー接合法を用いて無酸素銅製バッキングプレートと接合して、目的とするNbスパッタリングターゲットを作製した。このようにして得たNbスパッタリングターゲット表面の(110)面の結晶方位比率とそのばらつき、および(200)面の結晶方位比率とそのばらつきを、実施例1と同様にして測定した。このNbスパッタリングターゲットを後述する特性評価に供した。
【0055】
比較例2〜12
上記した比較例1と同様に、表1および表2に示す各加工条件および熱処理条件にしたがって、それぞれターゲット用Nb素材を作製した。これら各ターゲット用Nb素材を100×500×8mmの形状に機械加工した後、ソルダー接合法を用いて無酸素銅製バッキングプレートと接合して、目的とするNbスパッタリングターゲットをそれぞれ作製した。
【0056】
このようにして得た各Nbスパッタリングターゲット表面の(110)面の結晶方位比率とそのばらつき、および(200)面の結晶方位比率とそのばらつきを、実施例1と同様にして測定した。表3にターゲット表面の結晶方位比率とそのばらつきの測定結果を示す。また、これらの各Nbスパッタリングターゲットを後述する特性評価に供した。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
上述した実施例1〜6、参考例1〜6、および比較例1〜12の各Nbスパッタリングターゲットを用いて、スパッタ方式:DCスパッタ、出力DC:2kW、背圧:1×10-5 Pa、基板−ターゲット間距離:100mm、Ar:5sccm、O2:10sccmの条件下で、それぞれNb酸化膜(NbOx膜)をスパッタ成膜した。このNb酸化膜のスパッタ成膜工程において、積算電力が1kwh、100kwh、500kwhとなった時点の成膜速度をそれぞれ測定した。成膜速度は接触式膜厚測定器(αステップ)を用いて膜厚を測定し、この膜厚から求めた。さらに、上記した各時点でのNb酸化膜の面内膜厚分布を測定した。これらの測定結果を表4に示す。
【0061】
なお、Nb酸化膜の面内膜厚分布は、まず長方形の基板の中心部(位置1)、4つの角部(位置2〜5)、中心部と各角部とを結ぶ直線を3等分した各位置(位置6〜13)、外周の各辺を2等分した各位置(位置14〜17)において、それぞれNb酸化膜の膜厚を測定する。これら膜厚の測定値から最大値と最小値を求め、その最大値と最小値から{(最大値−最小値)/(最大値+最小値)}×100(%)の式に基づいて、Nb酸化膜の膜厚分布を算出した。
【0062】
【表4】
【0063】
表4から明らかなように、実施例1〜6の各Nbスパッタリングターゲットを用いることによって、ターゲットの使用初期からライフエンド近くまでの成膜速度をほぼ一定に維持することができる。これによって、Nb酸化膜の膜厚のばらつきを大幅に低減することができる。さらに、Nb酸化膜の面内膜厚分布についても良好な結果が得られている。一方、比較例1〜12からはNbターゲット表面の(110)面の結晶方位比率が40%未満、もしくは(200)面の結晶方位比率が30%を超える場合には、いずれも成膜速度の経時的な変化(低下)が大きいことが分かる。
【0064】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のNbスパッタリングターゲットによれば、スパッタ成膜時における成膜速度の経時的な変化を低減することができるため、例えば反射防止膜の形成工程などにおける膜厚のばらつきの発生を抑制することが可能となる。従って、このような本発明のNbスパッタリングターゲットを用いることによって、例えば反射防止膜に用いられるNbOx膜やNb膜の品質や生産性の向上を図ることができる。
Claims (3)
- 酸化ニオブ膜の形成用として用いられる、Nb材からなるスパッタリングターゲットであって、
前記ターゲットのスパッタ面における(110)面の結晶方位比率が40%以上82.5 %以下であると共に、(200)面の結晶方位比率が6.6 %以上30%以下であり、かつ前記スパッタ面全体としての前記(110)面の結晶方位比率のばらつきが8.8 %以上30%以下であると共に、前記(200)面の結晶方位比率のばらつきが18.5 %以上50%以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。 - 請求項1記載のスパッタリングターゲットにおいて、
前記ターゲットはバッキングプレートと接合されていることを特徴とするスパッタリングターゲット。 - 請求項1または請求項2記載のスパッタリングターゲットにおいて、
前記ターゲットは反射防止膜における高屈折率膜の形成用として用いられることを特徴とするスパッタリングターゲット。
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