以下において、本発明による種々の実施の形態を説明するに際して、いくつかの用語の意味を予め明らかにしておく。
まず、「溝」とはたとえば図2(a)と(b)に示されているように加工基板表面でストライプ状に加工された凹部を意味し、「丘」とは同様にストライプ状に加工された凸部を意味する。溝と丘の断面形状は、必ずしも図2で示されているような矩形状である必要はなく、凹凸の段差を生じさせるものであればよい。また、図2に示された溝と丘は1方向に沿って加工されたストライプ配列であるが、溝または丘が互いに交差し合った桝目配列(図5参照)であってもよい。なお、本願の図面において、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を表わしてはいない。
「窒化物半導体基板」とは、AlxGayInzN(0≦x≦1;0≦y≦1;0≦z≦1;x+y+z=1)からなる基板を意味する。ただし、窒化物半導体基板の窒素元素のうちで、その約10%以下がAs、P、またはSbの元素で置換されてもよい(ただし、基板の六方晶系が維持されることが前提)。また、窒化物半導体基板中に、Si、O、Cl、S、C、Ge、Zn、Cd、Mg、またはBeがドーピングされてもよい。n型窒化物半導体としては、これらのドーピング材料のうちでも、Si、O、およびClが特に好ましい。窒化物半導体基板の主面方位としては、C面{0001}、A面{11−20}、R面{1−102}、M面{1−100}、または{1−101}面が好ましく用いられ得る。また、これらの結晶面方位から2°以内のオフ角度を有する基板主面であれば、その表面モホロジーが良好であり得る。
「異種基板」とは、窒化物半導体以外の基板を意味する。具体的な異種基板としては、サファイア基板、SiC基板、Si基板、またはGaAs基板などが用いられ得る。
「加工基板」とは、窒化物半導体基板表面上に、または異種基板上で成長した窒化物半導体層表面上に、溝と丘が形成された基板を意味する。溝の幅と丘の幅は、一定の周期を有していてもよいし、種々に異なる幅を有していてもよい。また、溝の深さに関しても、すべての溝が一定の深さを有していてもよいし、種々に異なる深さを有していてもよい。
「窒化物半導体下地層」とは、加工基板の凹凸表面上に成長させられる層であり、AlxGayInzN(0≦x≦1;0≦y≦1;0≦z≦1;x+y+z=1)からなっている。ただし、この窒化物半導体下地層中に、Si、O、Cl、S、C、Ge、Zn、Cd、Mg、およびBeの不純物群のうちの少なくとも1種がドーピングされてもよい。
「発光層」とは、1以上の量子井戸層またはそれと交互に積層された複数の障壁層をも含み、発光作用を生じさせ得る層を意味する。ただし、単一量子井戸構造の発光層は、1つの井戸層のみから構成されるか、または障壁層/井戸層/障壁層の積層から構成されている。
「発光素子構造」とは、発光層に加えてそれを挟むn型層とp型層をさらに含む構造を意味する。
「窒化物半導体多層膜構造」とは、窒化物半導体下地層と発光素子構造とを含むものを意味する。
「窪み」とは、加工基板の凹凸表面上に窒化物半導体下地層または窒化物半導体多層膜構造を成長被覆させたときに、その窒化物半導体下地層または窒化物半導体多層膜構造が平坦に埋められない部分(窪みが窒化物半導体下地層の表面にある一例の図3参照)を意味する。特に、本発明における窪みは、必ず窒化物半導体多層膜構造の表面に存在していなければならない。ただし、加工基板上に窒化物半導体多層膜構造を平坦に被覆させた後にエッチングなどで窪みを形成しても、本願の発明の効果は得られない。窪みが結晶成長後に加工で形成されたか否かは、窒化物半導体多層膜構造の断面を観察すれば明らかになる。なぜならば、結晶成長終了後に窪みを加工で形成したならば発光素子構造中の積層における横方向への連続性がその窪みによって断ち切られるが、結晶成長に伴って窪みが形成されたならば発光素子構造中の積層における横方向の連続性がその窪みによって断ち切られることはなく、その窪みの側壁面に沿って連続しているからである。
「窪み付き基板」とは、加工基板上に窒化物半導体下地層を被覆させ、その上の窪みを含む全体的基板を意味する(図3参照)。
「被覆膜厚」とは、加工基板上に窒化物半導体層を成長させたときの加工基板の溝底部から窪部を除いた窒化物半導体層の表面までの膜厚を意味する。
[実施形態1]本発明者らの検討の結果、本発明によって得られた窒化物半導体発光素子の長寿命化の効果は、その素子に含まれる窒化物半導体多層膜構造結晶中の歪の緩和に起因しているのではないかと考えられる。図2は本発明で用いられる加工基板の形態と各部位の名称を示し、図4(a)は本発明における結晶成長の形態を表わし、図4(b)は従来の加工基板を窒化物半導体多層膜構造で完全かつ平坦に被覆する結晶成長の形態を表わし、そして図4(c)は従来の結晶成長抑制膜を用いた選択結晶成長方法による結晶成長の形態を表わしている。本発明者らが本発明に至るに際して、まず従来の結晶成長形態について調べた。
(従来の結晶成長形態)図4(b)においては、たとえば特開2000−124500に教示されているように、加工基板を窒化物半導体多層膜構造で完全かつ平坦に被覆する場合に、加工基板に形成された溝の側壁から水平方向(以後横方向成長と呼ぶ)に結晶成長が開始する。このような横方向成長が生じれば、下方の基板の結晶格子を反映した結晶が成長しにくく、下方からの結晶歪みが緩和される。しかしながら、両側の溝側壁から成長した結晶は、図4(b)の溝中央でぶつかり合うので、その溝中央において結晶歪みが集中する。溝中央でぶつかり合った結晶はその後に通常の結晶成長方向(基板の主面に対して垂直方向)に成長が進み、そして、まだ被覆されていない丘を完全かつ平坦に埋没させるように、溝中央から丘中央に向かって先ほどと逆の横方向成長が促進される。前述の溝中央におけると同様な結晶のぶつかり合いが丘中央でも発生し、結果的に丘中央でも結晶のぶつかり合いによる結晶歪みの集中が生じる。そして、丘中央を埋没させながら、または丘中央が完全に埋没されれば、結晶成長は通常の結晶成長方向に変化して進む。
したがって、図4(b)に示された従来の結晶成長形態では、加工基板が完全に窒化物半導体多層膜構造で平坦に被覆されれば、溝中央と丘中央に結晶歪みが集中してしまう。しかも、溝中央と丘中央を除く他の領域においても、横方向成長によって下方からの結晶歪みが緩和されていても、溝中央と丘中央の結晶歪みの集中からの影響による残留歪みが生じてしまう。以上のような結晶歪みに起因して、半導体発光素子の発光寿命が短くなっていると考えられる。
他方、図4(c)においては、たとえば特開平9−36473に教示されているように、たとえばSiO2マスクのような成長抑制膜を利用した選択結晶成長(横方向成長に相当する)をさせる場合に、本発明の結晶成長形態(図4(a)参照)に類似して、完全には窒化物半導体膜で被覆されない窪みを成長抑制膜上に形成することが可能である。しかしながら、成長抑制膜を用いた選択結晶成長は、以下で説明する本発明における加工基板を用いた結晶成長形態とは異なる。なぜならば、成長抑制膜を用いた場合、図4(c)に示されているように、成長抑制膜で被覆されていないGaN層の窓領域から窒化物半導体膜の結晶成長が始まる。この窓領域に成長する窒化物半導体膜は通常の結晶成長方向(基板主面に対して垂直方向)に沿って成長する。したがって、窓領域上方に成長した結晶(図4(c)中でハッチングされた部分)は、下方のGaN層およびサファイア基板からの結晶歪み(熱膨張係数差による歪みを含む)を受けてしまう。本発明者らによる詳細な検討の結果、結晶歪みが緩和されていた部分は、図4(c)に示された結晶成長抑制膜上方領域だけであった。
しかしながら、結晶成長抑制膜上方領域に窒化物半導体発光素子を作製しても、後述の本発明による発光素子に比べて発光寿命が短かった。これは、おそらく窒化物半導体膜と成長抑制膜との熱膨張係数差による歪みを受けるとともに、成長抑制膜に含まれる不純物が窪み部分を介して発光素子構造内にドープされたためではないかと考えられる。
たとえば、成長抑制膜が温度変化によって体積膨張または収縮すれば、熱膨張係数差によって、基板の主面に対する垂直方向の歪みや成長抑制膜と窓上方領域の結晶が接する部分の歪みが成長抑制膜上方領域に伝播するものと考えられる。また、成長抑制膜の体積膨張または収縮は、成長抑制膜上方領域を隆起させたり、成長抑制膜上方領域と成長抑制膜との間に隙間を発生させ、その成長抑制膜上方領域が湾曲することがある。このような現象は、成長抑制膜上方領域に結晶歪みを与えるだけなく、結晶の配向性を低下させてしまう。さらには、成長抑制膜がSiO2の場合、そのSiまたはOが窪みを介して過剰に発光素子構造内にドープされるとも考えられる。これらの要因が重なって、成長抑制膜上方領域に半導体発光素子を作製してもレーザ発光寿命が短かったものと考えられる。
(本発明における結晶成長形態)図4(a)に示されている本発明における結晶成長形態でも、図4(b)に示された従来例と同様に、加工基板に形成された溝の側壁から横方向成長が開始し、両側の溝側壁から成長した結晶が図4(a)の溝中央で合わさり、その後に通常の結晶成長方向に成長が進む。しかしながら、本発明における結晶成長形態では、丘の上方に窒化物半導体多層膜構造が完全に埋まらない窪みを有しているので、基板主面に平行な水平方向の結晶歪みをその窪みを介して緩和させることができる。すなわち、その窪みは、図4(b)に示された従来の結晶成長形態では溝中央に集中する結晶歪みを軽減し、窒化物半導体多層膜構造全体の結晶歪みを緩和させることができる。また、本発明における結晶成長形態では、図4(c)に示された成長抑制膜を用いていないので、結晶成長膜に起因する前述の熱膨張係数差や不純物のドーピングによる影響を受けることがない。
本発明における結晶成長形態では、丘中央のみならず溝中央にも窪みが形成されることがさらに好ましい(実施形態3参照)。このような結晶成長形態を利用することによって、結晶歪みの集中する部分がなくなるので、結晶歪みがほとんど緩和された窒化物半導体多層膜構造を形成することが可能になる。
(本発明における効果)上述のように、本発明においては、加工基板上に窒化物半導体多層膜構造を形成するに際してこの膜が完全に埋まらない窪みを形成することによって、その窒化物半導体多層膜構造の結晶歪みを緩和させることができる。
図2(a)に示された窒化物半導体基板(たとえばGaN基板)を利用した本発明における加工基板上に窒化物半導体レーザ素子を形成した場合、レーザ出力30mWで雰囲気温度60℃の条件の下で、その窒化物半導体レーザ素子の発振寿命は約18000時間程度であった。これは、従来の窒化物半導体基板を用いた場合のレーザ発振寿命の約700時間に比べてはるかに長いものである。
他方、図2(b)に示された異種基板(たとえばサファイア基板)を利用した本発明における加工基板上に窒化物半導体レーザ素子を作製した場合、レーザ出力30mWで雰囲気温度60℃の条件の下で、その窒化物半導体レーザ素子の発振寿命は約1000時間程度であった。これは、従来の異種基板を利用した場合のレーザ発振寿命の約200時間に比べて十分に長いものである。
また、本発明における加工基板を用いることによって、発光素子中のクラック発生を抑制し得ることも、本発明者らによって見出された。このことにより、発光素子の生産性において歩留まりが向上した。
たとえば、図2(a)に示された窒化物半導体基板(GaN基板)を利用した本発明における加工基板上に窒化物半導体レーザ素子を形成した場合、クラック密度は0〜3本/cm2であった。他方、従来のGaN基板上に窒化物半導体からなる発光素子構造を形成した場合、ほとんどクラックは生じないものと思われていたが、実際に発光素子構造を成長させた後のエピウエハ面内には多くのクラックが発生していた。これは、発光素子構造が種々の層の積層構造から構成されていることによる歪に起因すると考えられる(たとえば、AlGaN層はGaN層に比べて格子定数が小さく、InGaN層はGaN層に比べて格子定数が大きい)。また、現在の技術で得られるGaN基板には、その基板自体に残留歪みが潜在しているものと考えられる。実際、従来のGaN基板上に窒化物半導体レーザ素子を形成した場合、クラック密度は約5〜8本/cm2であった。このことから、本発明における窒化物半導体の加工基板を利用することによってクラック密度を低減し得ることがわかった。
他方、図2(b)に示された異種基板を利用した本発明における加工基板上に窒化物半導体レーザ素子を形成した場合、クラック密度は約3〜5本/cm2であった。これに対して、異種基板を利用した従来の加工基板上に窒化物半導体レーザ素子を作製した場合、クラック密度は約10〜20本/cm2であった。このことから、異種基板を含む加工基板の場合であっても、本発明における加工基板を利用することによってクラック密度を低減し得ることがわかった。
上述の窪みによるクラックの抑制効果は、窪みの深さが深いほど強く、窪みの密度が高いほど強かった。窪みを深くするためには、加工基板を形成する際に溝を深くするか、または溝幅を広くするか、または丘幅を広くすれば効果的である。他方、窪みの密度を高くするためには、加工基板を形成する際に溝幅を狭くするか、または丘幅を狭くすれば効果的である。これらの溝幅、溝深さ、および丘幅などの具体的な数値に関しては、後でさらに詳細に説明する。
さらに、本発明における窪みのクラック抑制効果は、以下の特徴を有することがわかった。チップ分割された1つの窒化物半導体発光素子内に、窪みが2つ以上含まれることによって、窪みが1つの素子と比較して、クラック発生率が約30%程度軽減されていた。しかも、たとえば図1で示されるリッジストライプ構造を有する窒化物半導体発光素子(レーザ素子)のように、窪み1と窪み2との間にリッジストライプ部が設けられた場合、とりわけその発光素子の歩留まりが向上した。これについて詳細に調べた結果、リッジストライプの長手方向を横切るようなクラックが軽減していたことが判明した。これは、リッジストライプ部の両側に窪みを有することによって、クラックが窒化物半導体発光素子のリッジストライプ部に侵入することを防止し得たためであると考えられる。
また、本発明における窪みは、チップ分割された1つの窒化物半導体発光素子の電極において以下の効果を有することがわかった。1つの窒化物半導体発光素子内に本発明における窪みが2つ以上含まれることによって、窪みが1つの素子に比較して、電極剥がれによる素子不良率が約20%程度軽減されていた。しかも、たとえば図1で示されるリッジストライプ構造を有する窒化物半導体発光素子(レーザ素子)のように、窪み1と窪み2との間にリッジストライプ部が設けられた場合、とりわけリッジストライプ部でのp電極112(パッド電極をも含む)の剥がれが防止され、その発光素子の歩留まりが向上した。このことから、2つ以上の窪みを含む領域上に電極が形成されることが好ましく、より好ましくは窪みと窪みとの間にリッジストライプ部が設けられて、これらの窪みを含む領域上に電極が形成されることが好ましいことがわかった。このリッジストライプ部での電極剥がれの防止効果は、誘電体膜の剥がれについても同様であった。たとえば、図1で示すところのSiO2誘電体膜113についても同様である。SiO2誘電体膜113の代わりに、SiNxのような他の誘電体膜が用いられてもよい。
さらにまた、本発明における窪みは、チップ分割された1つの窒化物半導体素子のワイヤボンドにおいて以下の効果を有することがわかった。ワイヤボンドと窒化物半導体発光素子との間の接合領域に本発明における窪みが1つ以上含まれることによって、ワイヤボンド自体の剥がれまたはワイヤボンドを含む電極の剥がれが約20%程度軽減されていた。このことから、ワイヤボンドと窒化物半導体発光素子との間の接合領域に本発明における窪みが1つ以上含まれることが好ましいことがわかった。
(加工基板について)本発明における加工基板は、窒化物半導体基板または異種基板を利用して構成される。特に、加工基板として窒化物半導体基板を用いる場合、以下の点において好ましい。すなわち、窒化物半導体基板は、その上に形成される窒化物半導体下地層との熱膨張係数差が小さいので、基板の反りが異種基板を利用した場合に比べてはるかに小さくなる。したがって、窒化物半導体基板に形成される溝と丘は、異種基板上の窒化物半導体層に形成されるそれらと比べて、精度よく形成され得る。また、後述の項目(発光部の形成位置について)においてさらに詳細に述べられるが、基板の反りが非常に小さいので、発光寿命の短命化のような素子不良の起きやすい領域(後述の領域IIIとIV)を避けて発光素子構造を精度よく作製することができる。さらに、基板の反りが小さいこと自体が新たな歪みやクラックの発生を防止するように作用し、半導体レーザ素子の長寿命化の効果と他の特性不良を軽減する効果をも生じる。
(加工基板を被覆する窒化物半導体下地層の被覆膜厚について)本発明において、加工基板が窒化物半導体多層膜構造で被覆されない窪みを形成するためには、たとえば窒化物半導体下地層を薄く成長させればよい。ただし、溝上方領域にも窪みを形成する場合は別として、加工基板に形成された溝は平坦に埋没されなければ、その溝上方領域に発光素子を形成することが困難になる。したがって、窒化物半導体下地層の被覆膜厚は、約2μm以上で20μm以下であることが好ましい。被覆膜厚が2μmよりも薄くなれば、加工基板に形成された溝幅や溝深さにも依存するが、窒化物半導体下地層で溝を完全かつ平坦に埋没させることが困難になり始める。他方、被覆膜厚が20μmよりも厚くなれば、特に加工基板が異種基板を含む場合に、窪みによる結晶歪みの緩和効果とクラック抑制効果よりも、加工基板と窒化物半導体下地層(または窒化物半導体多層膜構造)との間の熱膨張係数差による応力歪みの方が強くなりすぎて、本発明による効果が十分に発揮されなくなる可能性が高くなる。
(溝幅について)窒化物半導体基板に形成する溝は、相対的に溝幅が狭ければ窒化物半導体下地層で埋没されやすく、広ければ埋没されにくい。本発明者らの検討結果によれば、加工基板に形成される溝を窒化物半導体下地層で完全かつ平坦に被覆するための溝幅G1は、4μm以上で30μm以下であることが好ましく、4μm以上で25μm以下であることがより好ましかった。他方、加工基板に形成される溝を窒化物半導体下地層で完全には被覆せずに窪みを形成するための溝幅G2は、7μm以上で75μm以下であることが好ましいが、7μm以上で約100μm以下であってもよかった。ただし、加工基板の溝上方に窪みが形成されるか否かは窒化物半導体下地層の被覆膜厚に強く依存するので、溝を完全かつ平坦に被覆する際や溝上方領域に窪みを形成する際には、溝幅G1やG2とともに窒化物半導体下地層の被覆膜厚を調整する必要がある。
溝幅G1の下限値と上限値は、以下の観点から見積もられた。溝の上方に窪みが形成されない溝1の溝幅G1の下限値は、発光素子中の発光部の大きさに依存する。発光素子中の発光部の形成位置については、後述の項目(発光部の形成位置について)において図6を参照しつつさらに詳細に説明される。たとえば、窪み付き基板のうちで平坦に被覆された溝上方領域に窒化物半導体レーザ素子を形成する場合、レーザ発振寿命の観点から、窒化物半導体レーザ素子のリッジストライプ部下方の発光部が図7(a)中の領域Iに属することが好ましい。したがって、少なくとも溝幅G1の下限値は、リッジストライプ幅の2倍よりも広くする必要がある。リッジストライプ幅はおよそ1μm〜3μmの幅で形成されるので、溝幅G1は図7(a)中の領域IIIの幅2μmとストライプ幅(1μm)×2とを加えた4μm以上でなければならないと見積もられる。
他方、溝幅G1に上限値が存在するのは、溝幅G1が25μmを超えれば、窒化物半導体下地層を被覆膜厚10μm以下の積層でその溝幅G1を有する溝1を完全に埋没させることが困難になるからである。同様に、溝幅G1が30μmを超えれば、窒化物半導体下地層を被覆膜厚20μm以上に積層してもその溝1を完全に埋没させることが困難になるからである。
溝幅G2の下限値と上限値は、以下の観点から見積もられた。溝の上方に窪みが形成される溝2の溝幅G2の下限値についても、溝幅G1の下限値と同様に、発光素子中の発光部の大きさに依存する。たとえば、溝幅G2内に窪みが形成される溝2の上方領域に窒化物半導体レーザ素子を作製する場合、レーザ発振寿命の観点から、レーザ素子のリッジストライプ部の下方の発光部は、図7(b)中の領域IIに属することが好ましい。リッジストライプ幅はおおよそ1μm〜3μmで、最小の窪み幅は1μmで見積もることができるので、溝幅G2の下限値は窪みを含む領域IVの幅=窪み幅(1μm)+2μm×2(図7(b)参照)とストライプ幅(1μm)×2とを加えた7μm以上が必要である。ただし、窪みが形成される溝の上方領域にリッジストライプ部が完全に含まれるようには窒化物半導体レーザ素子を形成しない場合はこの限りではなく、その場合の溝幅G2は窪み幅(1μm)以上であればよく、より好ましくは窪みを含む領域IVの幅(5μm)以上であればよい。なお、領域IVの意味は後で図6を参照しつつ説明される。
他方、溝の上方に窪みが形成される溝2の溝幅G2の上限値は、レーザ発振寿命の観点からは特に制約はない。しかしながら、あまりにG2を広くしすぎればウエハの単位面積当りの窪み密度が減少し、結晶歪みの緩和効果やクラックの抑制効果が低減してしまう。これに伴って、ウエハ当りの発光素子チップ収得率も減少してしまう。したがって、上記観点から、溝幅G2の上限値は100μm以下、より好ましくは75μm以下である。
以上では、溝幅のみを変更した加工基板について説明されたが、溝幅のみならず溝深さおよび/または丘幅をも変更して加工基板を形成してもよいことは言うまでもない。
(溝深さについて)窒化物半導体基板に形成する溝は、相対的にその深さが浅ければ窒化物半導体下地層で埋没されやすく、深ければ埋没されにくい。そして、溝深さの調整による窪みの形成は、溝幅を調整して窪みを形成する場合に比べて、ウエハ当りの発光素子チップ収得率が減少しないので好ましい。
本発明者らの検討結果によれば、加工基板に形成される溝を窒化物半導体下地層で完全かつ平坦に被覆するための溝深さH1は、1μm以上で9μm以下であることが好ましく、2μm以上で6μm以下であることがより好ましかった。他方、加工基板の形成される溝を窒化物半導体下地層で完全には被覆せずに窪みを形成するための溝深さH2は、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましかった。溝深さH2の上限値に関しては特に制約はなく、図2(a)に示されているような残し厚hが100μm以上であればよい。ただし、加工基板の溝上方に窪みが形成されるか否かは窒化物半導体下地層の被覆膜厚に強く依存するので、溝を完全かつ平坦に被覆する際や溝上方に窪みを形成する際は、溝深さH1やH2とともに窒化物半導体下地層の被覆膜厚を調整する必要がある。
溝深さH1の下限値と上限値は、以下の観点から見積もられた。溝の上方に窪みが形成されない溝1の溝深さH1の下限値は、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましい。なぜならば、溝深さH1が1μmよりも浅ければ、結晶成長形態における横方向成長よりも基板主面に対して垂直方向の成長が優先的になり、横方向成長による結晶歪みの低減効果が十分に発揮されなくなる可能性があるからである。そして、溝深さH1の下限値が2μm以上になれば、横方向成長による結晶歪みの低減効果が十分に発揮され得るからである。
他方、溝深さH1の上限値としては、9μm以下であることが好ましく、6μm以下であることがより好ましかった。なぜならば、溝深さH1が6μmを超えれば窒化物半導体下地層を被覆膜厚10μm以下の積層でその溝深さH1を有する溝1を完全に埋没させることが困難になり始めるからである。同様に、溝深さH1が9μmを超えれば窒化物半導体下地層を被覆膜厚20μm以上に積層してもその溝1を完全に埋没させることが困難になり始めるからである。
溝深さH2の下限値と上限値は以下の観点から見積もられた。溝の上方に窪みが形成される溝2の溝深さH2の下限値としては、溝深さH1と同じく1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましい。なぜならば、溝深さH1に関して述べたように、横方向成長による結晶歪みの低減効果が十分に得られていなければ、溝2の上方領域に形成した発光素子の特性(たとえばレーザ発振寿命)が低下する可能性があるからである。溝深さH2とH1との下限値が同じでありながら、窒化物半導体膜によって溝上方領域に窪みが形成されるかまたはそれが完全に埋没されるかは、その窒化物半導体下地層の被覆膜厚に依存する。他方、溝深さH2の上限値に関しては特に制約はなく、溝深さH2が深いほど窪みの形成が容易になる。ただし、あまりに溝2を深くしすぎれば加工基板が割れやすくなるので、溝の底部と基板の裏面との間の残し厚hが100μm以上になるようにしなければならない(図2(a)参照)。
以上では溝深さのみを変更した加工基板について説明したが、溝深さのみならず溝幅および/または丘幅をも変更して加工基板を形成してもよいことは言うまでもない。
(丘幅について)加工基板に形成される丘は、相対的に丘幅が狭ければ窒化物半導体下地層で埋没されやすく、広ければ埋没されにくい。本発明者らの検討結果によれば、加工基板に形成される丘を窒化物半導体下地層で完全かつ平坦に被覆するための丘幅L1は、4μm以上で30μm以下であることが好ましく、4μm以上で25μm以下であることがさらに好ましかった。他方、加工基板に形成される丘を窒化物半導体下地層で完全に被覆せずに窪みを形成するための丘幅L2は、7μm以上で75μm以下であることが好ましく、7μm以上で100μm以下であってもよかった。ただし、加工基板の丘上方に窪みが形成されるか否かは窒化物半導体下地層の被覆膜厚に強く依存するので、丘を完全かつ平坦に被覆する際や丘の上方領域に窪みを形成する際に、丘幅L1やL2とともに窒化物半導体下地層の被覆膜厚をも調整する必要がある。
丘幅L1の下限値と上限値は、以下の観点から見積もられた。丘の上方に窪みが形成されない丘1の丘幅L1の下限値は前述の溝幅G1の下限値と同様に発光素子中の発光部の大きさに依存する。たとえば、窪み付き基板のうちで丘上方で平坦に被覆された領域に窒化物半導体レーザ素子を形成する場合、レーザ発振寿命の観点から、そのレーザ素子のリッジストライプ部の下方の発光部が窪みの形成されていない領域I(図7(b)参照)に属することが好ましい。リッジストライプ幅は約1μm〜3μmの幅で形成され、丘上方で窪みの形成されない場合の領域IIIの幅は2μmと見積もることができるので、丘幅L1の下限値はストライプ幅(1μm)×2と領域IIIの幅2μmを加えた4μm以上であることが必要である。他方、丘幅L1の上限値に関しても前述の溝1の幅の上限値と同様に見積もることができる。
さらに、丘幅L2の下限値と上限値は、以下のようにして見積もられた。丘の上に窪みが形成されない丘2の丘幅L2の下限値は、前述の溝幅G2の下限値と同様に、発光素子中の発光部の大きさに依存する。たとえば、窪みを含む丘幅L2の丘2の上方領域に窒化物半導体レーザ素子を形成する場合、レーザ発振寿命の観点から、そのレーザ素子のリッジストライプ部の下方の発光部が図7(a)中の領域IIに属することが好ましい。リッジストライプ部は約1〜3μmの幅で形成され、最小の窪み幅を1μmで見積もることができるので、丘幅L2の下限値は窪みを含む領域IVの幅=窪み幅(1μm)+2μm×2とストライプ幅(1μm)×2とを加えた7μm以上でなければならない。ただし、窪みが形成される丘2の上方領域にリッジストライプ部が完全に含まれるように窒化物半導体レーザ素子を形成しない場合はこの限りでなく、その場合の丘幅L2は窪み幅(1μm)以上であればよく、より好ましくは窪みを含む領域IVの幅(5μm)以上であればよい。他方、丘の上方に窪みが形成される丘2の丘幅L2の上限値は、レーザ発振寿命の観点からは特に制約はない。しかしながら、前述の溝2の溝幅G2の上限値と同様の理由から、丘幅L2の上限値は100μm以下、より好ましくは75μm以下である。
以上では、丘幅のみを変更した加工基板について説明したが、丘幅のみならず溝幅および/または溝深さをも変えて加工基板を形成してもよいことは言うまでもない。
(溝の長手方向について)主面として{0001}C面を有する窒化物半導体基板または異種基板上の窒化物半導体層に形成された溝の長手方向は、<1−100>方向に平行であることが最も好ましく、<11−20>方向に平行であることが次に好ましかった。これらの特定方向に関する溝の長手方向は、{0001}C面内で±5°程度の開き角度を有していても実質的な影響を生じなかった。
窒化物半導体結晶の<1−100>方向に沿って溝が形成されることの優位性は、窪みが埋まりにくくて結晶歪みとクラック発生の抑制効果が非常に高いことである。この方向に沿って形成された溝内に窒化物半導体下地層が成長する場合、窪みの側壁面としては主に{11−20}面が形成されやすい。この{11−20}側壁面は図8(a)に示されているように基板の主面に対して垂直であるので、窪みはほぼ矩形形状の横断面を有しやすくなる。窪みの横断面が矩形形状に近い場合、窒化物半導体を構成する原材料が窪みの奥まで供給されにくく、溝が窒化物半導体下地層で埋まりにくくなる。このことから、加工基板を窒化物半導体下地層で比較的厚く被覆したとしても、窪みが埋没される心配がない。また、窪みの断面が矩形形状であって埋まりにくいので、次に述べる{1−101}側壁面を有する窪みに比べて非常に深くなり(加工基板に形成された溝深さをほぼ維持する)、加工基板上に成長した窒化物半導体下地層の結晶歪みがその深い窪みによって緩和され、クラックの発生も効果的に抑制され得る。
他方、窒化物半導体結晶の<11−20>方向に沿って溝が形成されることの優位性は、窪みの形状が急峻でかつ窪みの位置の揺らぎが小さくなることである。この方向に沿って形成された溝内に窒化物半導体下地層が成長する場合、窪みの側壁面には主に{1−101}面が形成されやすい。この{1−101}側壁面は非常に平坦でかつエッジ部(図3参照)が急峻で蛇行しにくいので、<11−20>方向に沿った窪みもまっすぐになって蛇行しにくい。したがって、後述される発光寿命の長い発光素子を形成するための領域IとIIを広く取ることができ(発光素子収得率の向上)、レーザ素子の形成位置の狂いによる素子歩留まりの低下をも防止することができる。
前述の溝または丘はすべてストライプ状であったが、ストライプ状であることは以下の点において好ましい。すなわち、窒化物半導体レーザ素子の発振に寄与する部分(リッジストライプ部の下方)はストライプ状であり、好ましいリッジストライプ部形成領域IとIIもストライプ状であれば、その発振に寄与する部分をその好ましい領域IまたはII内に作り込むことが容易になる。溝または丘が桝目状であることは、結晶歪みが基板面内で均等に緩和され得る点と、クラック発生の抑制効果が高い点において好ましい。たとえば図5に示されているように、溝が桝目状に形成されてもよい。
図5(a)は、異なる2種類の溝方向が互いに直交するように形成された場合における凹部と凸部を有する加工基板の上面図を表わしている。図5(b)は、異なる2種類の溝方向が互いに60度の角度をなすように形成された場合における凹部と凸部を有する加工基板の上面図を表わしている。そして、図5(c)は、異なる3種類の溝方向が互いに60度の角度をなすように形成された場合における凹部と凸部を有する加工基板の上面図を表わしている。
(窒化物半導体下地層について)加工基板を被覆する窒化物半導体膜からなる下地層としては、たとえばGaN膜、AlGaN膜、またはInGaN膜などを用いることができる。また、窒化物半導体下地層中に、Si、O、Cl、S、C、Ge、Zn、Cd、MgおよびBeの不純物群のうちで少なくとも1種の不純物を添加することができる。
窒化物半導体下地層がGaN膜であれば、以下の点において好ましい。すなわち、GaN膜は2元混晶であるので、結晶成長の制御性が良好である。また、GaN膜の表面マイグレーション長はAlGaN膜に比べて長く、InGaN膜に比べて短いので、溝を埋めて平坦化したい部分は適度にGaN膜で被覆され、窪みを形成したい部分はGaN膜による被覆が適度に制限される。窒化物半導体下地層として利用されるGaN膜の不純物濃度は、1×1017/cm3以上で5×1018/cm3以下が好ましい。このような濃度範囲で不純物を添加すれば、窒化物半導体下地層の表面モホロジーが良好になって、結果的に発光層の層厚が均一化されて素子特性が向上し得る。
窒化物半導体下地層がAlGaN膜であれば、以下の点において好ましい。AlGaN膜においては、Alが含まれているので、GaN膜やInGaN膜に比べて表面マイグレーション長が短い。表面マイグレーション長が短いということは、窪みの横断面形状が急峻な状態を維持し(たとえば、図3中のエッジ部がだれず)、窪みの底に窒化物半導体が流れ込みにくい(窪みが埋まりにくい)ことを意味する。また、溝の被覆の際においても、窒化物半導体が溝の底部に流れ込み難くて、溝の側壁からの結晶成長が促進されるので横方向成長が顕著になって、結晶歪みを一層緩和させることが可能となる。AlxGa1-xN膜のAl組成比xは0.01以上で0.15以下であることが好ましく、0.01以上で0.07以下であることがより好ましい。Alの組成比xが0.01よりも小さければ、前述の表面マイグレーション長が長くなってしまう可能性がある。他方、Alの組成比xが0.15よりも大きくなれば、表面マイグレーション長が短くなりすぎて、溝を埋めて平坦化させたい領域までが平坦に埋まりにくくなる可能性がある。なお、AlGaN膜に限らず、この膜と同等の効果は、窒化物半導体下地層にAlが含まれていれば得られる。また、窒化物半導体下地層として利用されるAlGaN膜の不純物濃度は、3×1017/cm3以上で5×1018/cm3以下が好ましい。このような濃度範囲でAlと同時に不純物が添加されれば、窒化物半導体下地層の表面マイグレーション長が短くなって好ましい。このことによって、結晶歪みを一層緩和させることが可能になる。
窒化物半導体下地層がInGaN膜であれば、以下の点において好ましい。InGaN膜においては、Inが含まれているので、GaN膜やAlGaN膜と比べて弾性的である。したがって、InGaN膜は加工基板の溝に埋まって、基板からの結晶歪みを窒化物半導体多層膜構造全体に拡散させ、効果的に結晶の歪みを緩和させる働きを有する。InxGa1-xN膜のIn組成比xは0.01以上で0.15以下であることが好ましく、0.01以上で0.1以下であることがより好ましい。Inの組成比xが0.01よりも小さければ、Inを含むことによる弾力性の効果が得られにくくなる可能性がある。また、Inの組成比xが0.15よりも大きくなれば、InGaN膜の結晶性が低下してしまう可能性がある。なお、InGaN膜に限らず、この膜と同等の効果は、窒化物半導体下地層にInが含まれていれば得られる。また、窒化物半導体下地層として利用されるInGaN膜の不純物濃度は、1×1017/cm3以上で4×1018/cm3以下が好ましい。このような濃度範囲でInと同時に不純物が添加されれば、窒化物半導体下地層の表面モホロジーが良好であって、かつ弾性力を保有し得るので好ましい。
(発光部の形成位置について)本発明者らによる詳細な検討の結果、窒化物半導体レーザ素子の発光部(リッジストライプ部の下方)が窪み付き基板のどの位置に形成されるかに依存して、レーザ発振寿命が変化することが見出された。ここで発光部とは、発光素子に電流が注入されて、発光層のうちで実質的に発光に寄与する部分である。たとえば、リッジストライプ構造を有する窒化物半導体レーザ素子の場合、電流が狭窄注入されるリッジストライプ部の下方の発光層部分である。
図6において、グラフの横軸は窪み付き基板の溝中央cからその幅方向にリッジストライプ端aまでの距離を表わし、縦軸はレーザ出力30mWと雰囲気温度60℃の条件下でのレーザ発振寿命を表わしている。ここで、溝中央cからリッジストライプ端aまでの距離(以後、c−a距離と呼ぶ)は、溝中央cから幅方向に右側が正で左側が負で表示されている。なお、図6で測定された窒化物半導体レーザ素子の構造と製法は後述の実施形態8と同様であってGaN加工基板が用いられ、リッジストライプ幅は2μmであり、溝幅は18μmであり、丘幅は15μmであり、そして丘上方の窪み幅は3μmであった。
図6からわかるように、リッジストライプ部が溝の上方に形成された窒化物半導体レーザ素子のレーザ発振寿命は、リッジストライプ部が丘の上方に形成されたものよりも長くなる傾向を示した。さらに詳細に調べたところ、溝上方の領域内であっても、c−a距離が−3μmよりも大きくて1μmよりも小さい領域にリッジストライプ部が形成されれば、レーザ発振寿命が劇的に減少することがわかった。ここで、リッジストライプ部の幅が2μmであることを考慮して、c−a距離−3μmが溝中央cからリッジストライプ端bまでの距離(以後、c−b距離と呼ぶ)に換算されれば、c−b距離は−1μmになる。すなわち、窒化物半導体レーザ素子のリッジストライプ部の少なくとも一部が溝中央cから幅方向に左右1μm未満の範囲内に含まれるように形成されたとき、レーザ発振寿命が劇的に減少してしまうことがわかった。
このようなレーザ発振寿命が劇的に減少する領域(溝中央cから幅方向に左右1μm未満の範囲)を領域IIIと呼ぶことにする。したがって、窒化物半導体レーザ素子のリッジストライプ部は、領域IIIを除く範囲に、その全体(a−b幅)が含まれるように形成されることが好ましい。ここで、溝幅範囲内において、溝中央cから幅方向に左右1μm以上の範囲を領域Iと呼ぶことにする。この領域Iは、以下で述べる領域IIに比べても、レーザ発振寿命の長い窒化物半導体レーザ素子を形成することが可能な領域であり、窪み付き基板のうちで最も好ましい領域である。
他方、丘の上方の領域においても溝上方領域に類似して、c−a距離が11μmよりも大きくて20μmよりも小さい領域に窒化物半導体レーザ素子の発光部を形成すれば、そのレーザ発振寿命が劇的に減少することがわかる。ここで、c−a距離11μmの状態を窪み端dからリッジストライプ端bまでの距離で表示すれば2μmであり、同様にc−a距離20μmの状態を窪み端eからリッジストライプ端aまでの距離で表示すれば2μmになる。すなわち、窪み端からその両外側へ2μmまでの範囲内にリッジストライプ部の下方の発光部の少なくとも一部が含まれると、レーザ発振寿命が劇的に減少してしまうことがわかる。このレーザ発振寿命が劇的に減少する領域をIVと呼ぶことにする。したがって、丘の上方の領域内では、領域IVを除く窪み端dからその幅方向の左側に2μm以上または窪み端eから右側へ2μm以上離れた範囲にリッジストライプ部全体(a−b)が含まれるように作製されることが好ましい。ここで、丘の上方の領域において、窪み端dから幅方向に左側へ2μm以上で窪み端eから右側へ2μm以上の範囲の領域を領域IIと呼ぶことにする。この領域IIでは、上述の領域Iに比べてレーザ発振寿命が短くなるものの、数千時間の寿命を有する窒化物半導体レーザ素子を形成することができる。
図7では、上述の領域IからIVが窪み付き基板の模式的な断面図において示されている。すなわち、窪み付き基板に作製される窒化物半導体レーザ素子の発光部は、少なくとも領域IIIとIVを避けた位置に形成されることが好ましく、そのうちでも領域Iが最も好ましくて、領域IIがこれに次いで好ましかった(図6参照)。
図7(a)においては丘の上方の領域内のみに窪みが形成された場合が示されているが、たとえば後述される実施形態5〜7におけるように丘の上方領域が窒化物半導体下地層で完全かつ平坦に被覆される場合の領域Iの範囲は、図7(b)に示されているように丘の上方領域内であってかつ丘中央から幅方向に右または左側へ1μm以上離れた領域であった。なぜならば、丘中央から左右に1μmの範囲(丘上方に窪みを形成しない場合の領域III)内に発光部が含まれるように形成されれば、レーザ発振寿命が劇的に減少してしまうからである。
同様に、図7(a)では溝の上方に窪みが形成されていなかったが、たとえば後述される実施形態3、6、および7におけるように溝上方にも窪みが形成される場合の領域IIの範囲は、溝上方の領域内であってかつ窪みの両端から幅方向に両外側へ2μm以上離れた領域であった(図7(b)参照)。なぜならば、窪みの両端から左右に2μmまでの範囲(溝上方に窪みを有する場合の領域IV)内に発光部が含まれるように形成されれば、レーザ発振寿命が劇的に減少してしまうからである。
なお、溝幅、丘幅、およびリッジストライプ幅を種々に変化させても、図6と同様の傾向を示した。また、加工基板をGaN基板から異種基板を含むものに変えても、レーザ発振寿命はGaN基板の場合に比べて短くなるものの、図6と同様の傾向を示した。したがって、これらの場合においても、窪み付き基板上に形成すべき発光素子の発光部形成領域は図7に示す関係にあるものと考えられる。同様に、発光ダイオード(LED)素子についても、電流注入される発光部の下方に図7に示された領域IまたはIIのいずれかが存在していれば、本発明による効果を得ることが可能である。
また、図6における窒化物半導体レーザ素子はリッジストライプ構造を有するものであったが、電流阻止構造を有する窒化物半導体レーザ素子であっても図6と同様の傾向を得ることも可能である(電流阻止構造の場合では、図6におけるリッジストライプ部は電流狭窄される部分に該当し、リッジストライプ幅は電流狭窄される幅に相当する)。すなわち、窒化物半導体レーザ素子において、発光層に電流が狭窄注入され、レーザ発振に寄与する発光部分の下方に図7に示された領域IまたはIIのいずれかが存在していればよい。
しかしながら、電流阻止構造を有する窒化物半導体レーザ素子の場合、上述されたリッジストライプ構造を有する素子と比較して、レーザ発振寿命は約20〜30%程度低かった。また、電流阻止構造を有する窒化物半導体レーザ素子は、リッジストライプ構造を有する素子と比較して、クラックの発生による歩留まりの低下が大きかった。これらの原因については定かではないが、恐らく、電流阻止層に電流狭窄部分が作製される工程と、その電流狭窄部が作製された電流阻止層上に再び窒化物半導体層を結晶成長させる工程に問題があるのではないかと考えられる。たとえば、電流阻止層に電流狭窄部分が作製される工程は、レジスト材などのマスク材料が用いられるが、これらのマスク材料が本発明に係る窒化物半導体発光素子の窪み内に付着していて、そのまま再成長させることによって発光素子特性に悪影響をもたらしたのではないかと考えられる。また、たとえば、電流狭窄部分が作製された電流阻止層上に再び窒化物半導体を結晶成長させる工程は、電流阻止層に電流狭窄部分を作製するために発光素子構造の作製途中に一度は結晶成長装置から取出し(常温)、再び結晶成長装置に装填して残りの発光素子構造を結晶成長(約1000℃)させる。このように発光素子構造の作製の途中で急激な温度差のある熱履歴を与えれば、本発明に係る窒化物半導体発光素子の窪みを有していても、その窪みによって発光素子構造内の結晶歪みが十分に緩和されなくてクラックが発生するものと考えられる。
[実施形態2]実施形態2としては、本発明における窪み付き基板の作製方法が図3と図8を参照して説明される。なお、本実施形態において特に言及されていない事項に関しては、前述の実施形態1の場合と同様である。図3は窪み付き基板の各部位の名称を示し、図8(a)は窪みの横断面形状が矩形形状の場合の窪み付き基板を表わし、そして図8(b)は窪みの横断面形状が逆台形形状(さらに結晶成長が進めばV字形形状になる)の場合の窪み付き基板を表わしている。
図8における加工基板は以下のようにして作製され得る。まず、主面方位が(0001)面であるn型GaN基板の表面に、SiO2またはSiNxなどの誘電体膜を蒸着した。そして、通常のリソグラフィ技術を用いてその誘電体膜にレジスト材を塗布し、そのレジスト材がストライプ状のマスクパターンに形成された。このマスクパターンに沿って、ドライエッチング法を用いて誘電体膜とGaN基板の表面の一部をエッチングして溝が形成された。その後、レジスト材と誘電体膜を除去した。こうして形成された溝と丘は、n型GaN基板の<1−100>方向に沿っており、溝幅18μm、溝深さ3μm、および丘幅7μmを有していた。なお、同じく主面方位が(0001)面であるサファイア基板上に500〜600℃程度の比較的低温で低温GaNバッファ層が形成され、続いてこの低温GaNバッファ層上にn型GaN層を形成してから前述と同様の手法を用いて加工基板が作製されてもよい(図2(b)参照)。
作製された加工基板は、十分に有機洗浄されてからMOCVD(有機金属気相成長)装置内に搬入され、被覆膜厚6μmのn型GaN膜からなる窒化物半導体下地層が積層された。このn型GaN下地層の形成においては、MOCVD装置内にセットされた加工基板上にV族元素用原料のNH3(アンモニア)とIII族元素用原料のTMGa(トリメチルガリウム)またはTEGa(トリエチルガリウム)が供給され、1050℃の結晶成長温度において、それらの原料にSiH4(Si不純物濃度1×1018/cm3)が添加された。
図8(a)は、上述の方法で作製された窪み付き基板の模式的断面図を表わしている。この図からわかるように、上述の成長条件では丘の上方領域のみに窪みが形成され、溝はn型GaN下地層によって平坦に埋没された。また、その窪みは、丘幅の中央位置と窪み幅の中央位置とがほぼ一致するように形成された。さらに、GaN結晶の<1−100>方向に沿って溝が形成された場合における窪みの横断面形状は、ほぼ矩形形状に近かった。
このようにして作製された窪み付き基板上に、本発明に係る窒化物半導体発光素子が形成される。
上述の本実施形態における溝形成方法以外に、窒化物半導体基板の表面に直接に通常のレジスト材料を塗布して加工基板が作製されてもよい。しかしながら、上述のように、誘電体膜を介して溝を形成した方が、溝の形状が急峻で好ましかった。
なお、図2(b)に示されているように異種基板(たとえば、サファイア基板)を含む加工基板を利用する場合、低温GaNバッファ層は、低温AlNバッファ層であってもよい。ここで、低温バッファ層とは、前述のように約500〜600℃の成長温度で形成されたバッファ層を意味する。このような比較的低い成長温度範囲で形成されたバッファ層は、非晶質または多結晶であった。ただし、異種基板としてSiCまたはSiを用いる場合には、少なくともAlを含む高温窒化物半導体バッファ層(成長温度が比較的高い700〜1000℃)を用いなければ、そのバッファ層上に成長させる窒化物半導体層の結晶性が低下してしまうので好ましくない。
また、本実施形態においては、低温GaNバッファ層上に成長させられるn型GaN層(窒化物半導体下地層)は、これに限られず、AlxGayInzN(0≦x≦1;0≦y≦1;0≦z≦1;x+y+z=1)層であってもよく、Si、O、Cl、S、C、Ge、Zn、Cd、Mg、またはBeなどがドーピングされてもよい。
本実施形態では、ドライエッチング法による溝形成方法が例示されたが、その他の溝形成方法が用いられてもよいことは言うまでもない。たとえば、ウェットエッチング法、スクライビング法、ワイヤソー加工、放電加工、スパッタリング加工、レーザ加工、サンドブラスト加工、またはフォーカスイオンビーム加工などが用いられ得る。
本実施形態では、GaN結晶の<1−100>方向に沿って溝が形成されたが、<11−20>方向に沿って溝が形成されてもよい。GaN結晶の<11−20>方向に沿って溝を形成した場合、図8(b)で示されているように、窪みの横断面形状は逆台形状に近かった。ただし、窪みの底部が埋まってくれば、その断面形状はV字形に近くなる。
本実施形態では、主面として(0001)面を有するGaN基板やサファイアの異種基板が利用されたが、その他の面方位やその他の異種基板が利用されてもよい。また、本実施形態で述べられた加工基板に形成される溝幅、丘幅、および溝深さの数値、ならびに窒化物半導体下地層の被覆膜厚の数値としては、前述の実施形態1で述べた数値範囲条件を満足していれば、他の数値が採用されてもよい。このことは、他の実施形態においても同様である。
[実施形態3]実施形態3においては、丘上方のみならず溝上方にも窪みを有する窪み付き基板の作製方法が、図9を参照して説明される。なお、本実施形態において特に言及されていない事項に関しては、前述の実施形態1および2と同様である。
すなわち、図9における加工基板と窒化物半導体下地層(本実施形態ではGaN下地層)は、実施形態2と同様にして作製される。ただし、GaN下地層の被覆膜厚は比較的薄くされ、3μmであった。
この窪み付き基板は丘上方のみならず溝上方にも窪みを有しているので、先の項目(本発明における結晶成長形態)において説明されたように、横方向成長によって生じた結晶のぶつかり合いによる結晶歪みの集中部分がなく、結晶歪みがほとんど緩和されたGaN下地層で被覆され得る。
このようにして作製された窪み付き基板上に、本発明に係る窒化物半導体発光素子が作製される。
なお、本実施形態3における窪み付き基板は、主に、加工基板を被覆するGaN下地層の被覆膜厚を薄く調整することによって容易に得ることができる。
[実施形態4]実施形態4においては、加工基板に形成された丘幅が一定の値ではなくて種々の異なる値にされたこと以外は、前述の実施形態1および2と同様である。
図10の模式的な断面図は本実施形態における窪み付き基板を表わしており、溝幅G1は12μm、溝深さH1は3μm、そして丘幅のみがL1=8μmとL2=14μmの2通りの数値を有していた。このような加工基板上に被覆膜厚5μmのInGaN膜からなる窒化物半導体下地層が積層されて、本実施形態4の窪み付き基板が作製された。
このようにして作製された窪み付き基板上に、本発明に係る窒化物半導体発光素子が形成される。
図10からわかるように、加工基板に形成される丘幅を種々に変えることによって、相対的に幅の広い丘2の上方に形成される窪み2は、狭い丘1の上方に形成される窪み1に比べて大きくなりやすい。そして、相対的に大きな窪みは、小さな窪みに比べて結晶歪みの緩和効果やクラックの抑制効果が大きい。本実施形態のように、大きさが異なる窪みを含む窪み付き基板は、以下に点において好ましい。
すなわち、窪み付き基板のうちで相対的に小さな窪みは、大きな窪みに比べて結晶歪みの緩和効果やクラックの抑制効果は小さいものの、レーザ発振寿命の長い発光素子を形成することが可能な領域(図7における領域IとII)を広くすることができる(発光素子チップの収得率が高くなる)ので好ましい。他方、窪み付き基板のうちで相対的に大きな窪みは、レーザ発振寿命の長い発光素子を形成することが可能な領域が狭くなるものの、小さな窪みで抑制できなかった残留結晶歪みやクラックの発生を防止することができる(このことによって発光素子チップの歩留まりが高くなる)ので好ましい。すなわち、本実施形態の窪み付き基板は、生産性と歩留まりの観点から好ましいことがわかる。
なお、本実施形態では2種類の異なる丘幅を有する加工基板が例示されたが、2種以上の異なる丘幅を有する加工基板が用いられてもよいことは言うまでもない。
[実施形態5]実施形態5においては、加工基板に形成された丘幅が一定の値ではなくて種々の異なる値にされることによって、上述の実施形態4に示された窪み1(図10参照)が完全かつ平坦に窒化物半導体膜で被覆されたこと以外は、その実施形態4と同様である。また、本実施形態において特に言及されていない事項に関しては、前述の実施形態1および2の場合と同様である。
図11の模式的な断面図は本実施形態における窪み付き基板を示しており、溝幅G1は16μm、溝深さH1は2μm、そして丘幅のみがL1=4μmとL2=24μmの2通りの数値を有していた。このような加工基板上に被覆膜厚4μmのAlGaN膜が積層され、本実施形態5の窪み付き基板が作製された。
このようにして作製された窪み付き基板上に、本発明に係る窒化物半導体発光素子が形成される。
図11からわかるように、加工基板に形成される丘幅を種々に変えることによって、相対的に幅の広い丘2の上方には窪み2が形成され、相対的に幅の狭い丘1の上方は完全かつ平坦にAlGaN膜からなる窒化物半導体下地層で埋没される。このような本実施形態における窪み付き基板は、以下の点において好ましい。
すなわち、窪み付き基板のうちで丘1の上方には窪みが形成されないので、結晶歪みの緩和効果やクラックの抑制効果は小さいものの、レーザ発振寿命の長い発光素子を形成することが可能な領域が実施形態4に比べて広くなり得る(発光素子チップの収得率が高くなる)。他方、窪み付き基板のうちで丘2の上方に形成された窪み2は結晶歪みの緩和効果やクラックの抑制効果を有している(発光素子チップの歩留まりが高くなる)。したがって、加工基板に形成される丘のうちで一部の丘の上方には窪みが形成されなくて他の丘の上方には窪みが形成された窪み付き基板は、生産性の観点から実施形態4に比べて好ましい。
なお、本実施形態においても2種類の異なる丘幅を有する加工基板が例示されたが、2種以上の異なる丘幅を有する加工基板が用いられてもよいことは言うまでもない。
[実施形態6]実施形態6においては、加工基板に形成された溝深さが一定の値ではなくて種々の異なる値にされたこと以外は、前述の実施形態1および2と同様である。
図12の模式的な断面図は本実施形態における窪み付き基板を示しており、溝幅G1は18μm、丘幅L1は5μm、そして溝深さのみがH1=2.5μmとH2=10μmの2通りの数値を有していた。このような加工基板上に被覆膜厚6μmのGaN膜からなる窒化物半導体下地層が積層されて、本実施形態6の窪み付き基板が作製された。
このようにして作製された窪み付き基板上に、本発明に係る窒化物半導体発光素子が形成される。
図12からわかるように、加工基板に形成される溝深さを種々に変えることによって、相対的に深い溝2の上方のみに窪み2が形成される。本実施形態における窪み付き基板は、以下の点において好ましい。
すなわち、窪み付き基板のうちで溝2以外の上方には窪みが形成されないので、結晶歪みの緩和効果やクラックの抑制効果は少ないものの、レーザ発振寿命の長い発光素子を形成することが可能な領域を広くすることができる(発光素子チップの収得率が高くなる)。他方、窪み付き基板のうちで溝2の上方に形成された窪み2は、結晶歪みの緩和効果やクラックの抑制効果を有する。したがって、加工基板に形成された溝のうちで一部の溝の上方には窪みが形成されかつ他の溝の上には窪みが形成されない窪み付き基板は、発光素子チップの生産性の観点から好ましい。
なお、本実施形態では2種類の異なる溝深さを有する加工基板が例示されたが、2種以上の異なる溝深さを有する加工基板が用いられてもよいことは言うまでもない。また、本実施形態が前述の実施形態3〜5の少なくともいずれかと組合わされてもよいことも言うまでもない。
[実施形態7]実施形態7においては、加工基板に形成された溝幅が一定の値ではなくて種々の異なる値にされたこと以外は、前述の実施形態1および2の場合と同様である。
図13の模式的な断面図は本実施形態における窪み付き基板を表わしており、丘幅L1は5μm、溝深さH1は4μm、そして溝幅のみがG1=12μmとG2=24μmの2通りの値を有していた。このような加工基板上に被覆膜厚6μmのGaN膜からなる窒化物半導体下地層が積層されて、本実施形態7の窪み付き基板が作製された。
そして、このようにして作製された窪み付き基板上に、本発明に係る窒化物半導体発光素子が形成される。
図13からわかるように、加工基板に形成される溝幅を種々に変えることによって、相対的に幅の広い溝2の上方のみに窪み2が形成される。本実施形態における窪み付き基板は、上述の実施形態6と同様の効果を有する。
なお、本実施形態では2種類の異なる溝幅を有する加工基板が例示されたが、2種以上の異なる溝幅を有する加工基板が用いられてもよいことは言うまでもない。また、本実施形態は、前述の実施形態3〜6の少なくともいずれかと組合せてよいことも言うまでもない。
[実施形態8]実施形態8においては、実施形態1〜7におけるいずれかの窪み付き基板上に窒化物半導体レーザ素子が作製された。
(結晶成長)図1は窪み付き基板上に成長された窒化物半導体レーザのウエハがチップ分割された後の窒化物半導体レーザ素子を表わしている。図1に示された窒化物半導体レーザ素子は、加工基板(n型GaN基板)101とn型Al0.05Ga0.95N下地層102からなる窪み付き基板100、n型In0.07Ga0.93Nクラック防止層103、n型Al0.1Ga0.9Nクラッド層104、n型GaN光ガイド層105、発光層106、p型Al0.2Ga0.8Nキャリアブロック層107、p型GaN光ガイド層108、p型Al0.1Ga0.9Nクラッド層109、p型GaNコンタクト層110、n電極111、p電極112およびSiO2誘電体膜113を含んでいる。
このような窒化物半導体レーザ素子の作製において、まず、実施形態1〜7のいずれかによる窪み付き基板100が形成された。ただし、本実施形態8では、溝方向はGaN基板の<1−100>方向に沿って形成された。
次に、MOCVD装置を用いて、その窪み付き基板100上において、V族元素用原料のNH3(アンモニア)とIII族元素用原料のTMGa(トリメチルガリウム)またはTEGa(トリエチルガリウム)に、III族元素用原料のTMIn(トリメチルインジウム)と不純物としてのSiH4(シラン)が加えられ、800℃の結晶成長温度でn型In0.07Ga0.93Nクラック防止層103が厚さ40nmに成長させられた。次に、基板温度が1050℃に上げられ、III族元素用原料のTMAl(トリメチルアルミニウム)またはTEAl(トリエチルアルミニウム)が用いられて、厚さ0.9μmのn型Al0.1Ga0.9Nクラッド層104(Si不純物濃度1×1018/cm3)が成長させられ、続いてn型GaN光ガイド層105(Si不純物濃度1×1018/cm3)が厚さ0.1μmに成長させられた。
その後、基板温度が800℃に下げられ、厚さ8nmのIn0.01Ga0.99N障壁層と厚さ4nmのIn0.15Ga0.85N井戸層とが交互に積層された発光層(多重量子井戸構造)106が形成された。この実施形態では、発光層106は障壁層で開始して障壁層で終了する多重量子井戸構造を有し、3層(3周期)の量子井戸層を含んでいた。また、障壁層と井戸層の両方に、Si不純物が1×1018/cm3の濃度で添加された。なお、障壁層と井戸層との間または井戸層と障壁層との間に、1秒以上で180秒以内の結晶成長中断期間が挿入されてもよい。こうすることによって、各層の平坦性が向上し、発光スペクトルの半値幅が減少するので好ましい。
発光層106にAsが添加される場合にはAsH3またはTBAs(ターシャリブチルアルシン)を用い、Pが添加される場合にはPH3またはTBP(ターシャリブチルホスフィン)を用い、そしてSbが添加される場合にはTMSb(トリメチルアンチモン)またはTESb(トリエチルアンチモン)を用いればよい。また、発光層が形成される際に、N原料として、NH3以外にN2H4(ジメチルヒドラジン)が用いられてもよい。
次に、基板が再び1050℃まで昇温されて、厚さ20nmのp型Al0.2Ga0.8Nキャリアブロック層107、厚さ0.1μmのp型GaN光ガイド層108、厚さ0.5μmのp型Al0.1Ga0.9Nクラッド層109、および厚さ0.1μmのp型GaNコンタクト層110が順次に成長させられた。p型不純物としては、Mg(EtCP2Mg:ビスエチルシクロペンタジエニルマグネシウム)が5×1019/cm3〜2×1020/cm3の濃度で添加された。p型GaNコンタクト層110のp型不純物濃度は、p電極112との界面に近づくに従って増大させることが好ましい。こうすることによって、p電極との界面におけるコンタクト抵抗が低減する。また、p型不純物であるMgの活性化を妨げているp型層中の残留水素を除去するために、p型層成長中に微量の酸素が混入されてもよい。
このようにして、p型GaNコンタクト層110が成長させられた後、MOCVD装置のリアクタ内の全ガスが窒素キャリアガスとNH3に変えられ、60℃/分の冷却速度で基板温度が冷却された。基板温度が800℃に冷却された時点でNH3の供給が停止され、5分間だけその基板温度に保持されてから室温まで冷却された。この基板の保持温度は650℃から900℃の間にあることが好ましく、保持時間は3分以上で10分以下であることが好ましかった。また、室温までの冷却速度は、30℃/分以上であることが好ましい。こうして形成された結晶成長膜がラマン測定によって評価された結果、従来のp型化アニールが行なわれていなくても、その成長膜は既にp型化の特性を示していた(すなわち、Mgが活性化していた)。また、p電極112を形成したときのコンタクト抵抗も低減していた。これに加えて従来のp型化アニールが組合わされれば、Mgの活性化率がさらに向上して好ましかった。
なお、本実施形態による結晶成長工程においては、加工基板から窒化物半導体レーザ素子まで連続して結晶成長させてもよいし、加工基板から窪み付き基板までの成長工程が予め行なわれた後に窒化物半導体レーザ素子を成長させるための再成長が行なわれてもよい。
本実施形態におけるIn0.07Ga0.93Nクラック防止層103は、In組成比が0.07以外であってもよいし、InGaNクラック防止層が省略されてもよい。しかしながら、クラッド層とGaN基板との格子不整合が大きくなる場合には、InGaNクラック防止層が挿入される方が好ましい。
本実施形態の発光層106は、障壁層で始まり障壁層で終わる構成であったが、井戸層で始まり井戸層で終わる構成であってもよい。また、発光層中の井戸層数は、前述の3層に限られず、10層以下であればしきい値電流値が低くなって室温連続発振が可能であった。特に、井戸層数が2以上で6以下のときにしきい値電流値が低くなって好ましかった。
本実施形態の発光層106においては、井戸層と障壁層の両方にSiが1×1018/cm3の濃度で添加されたが、Siが添加されなくてもよい。しかしながら、Siが発光層に添加された方が、発光強度が強くなった。発光層に添加される不純物としては、Siに限られず、O、C、Ge、Zn、およびMgの少なくともいずれかが添加されてもよい。また、不純物の総添加量としては、約1×1017〜1×1019/cm3程度が好ましかった。さらに、不純物が添加される層は井戸層と障壁層の両方であることに限られず、これらの片方の層のみに不純物が添加されてもよい。
本実施形態のp型Al0.2Ga0.8Nキャリアブロック層107は、Al組成比が0.2以外であってもよいし、このキャリアブロック層が省略されてもよい。しかしながら、キャリアブロック層を設けたほうがしきい値電流値が低くなった。これは、キャリアブロック層107が発光層106内にキャリアを閉じ込める働きがあるからである。キャリアブロック層のAl組成比を高くすることは、これによってキャリアの閉じ込めが強くなるので好ましい。逆に、キャリアの閉じ込めが保持される範囲内でAl組成比を小さくすれば、キャリアブロック層内のキャリア移動度が大きくなって電気抵抗が低くなるので好ましい。
本実施形態では、p型クラッド層109とn型クラッド層104として、Al0.1Ga0.9N結晶が用いられたが、そのAl組成比は0.1以外であってもよい。そのAlの混晶比が高くなれば発光層106とのエネルギギャップ差と屈折率差が大きくなり、キャリアや光が発光層内に効率よく閉じ込められ、レーザ発振しきい値電流値の低減が可能になる。逆に、キャリアや光の閉じ込めが保持される範囲内でAl組成比を小さくすれば、クラッド層内でのキャリア移動度が大きくなり、素子の動作電圧を低くすることができる。
AlGaNクラッド層の厚みは0.7μm〜1.5μmの範囲内にあることが好ましく、このことによって垂直横モードの単峰化と光閉じ込め効率が増大し、レーザの光学特性の向上とレーザしきい値電流値の低減が可能になる。
クラッド層はAlGaN3元混晶に限られず、AlInGaN、AlGaNP、またはAlGaNAsなどの4元混晶であってもよい。また、p型クラッド層は、電気抵抗を低減するために、p型AlGaN層とp型GaN層を含む超格子構造、またはp型AlGaN層とp型InGaN層を含む超格子構造を有していてもよい。
本実施形態ではMOCVD装置による結晶成長法が例示されたが、分子線エピタキシー法(MBE)、またはハイドライド気相成長法(HVPE)などが用いられてもよい。
(チップ化工程)前述の結晶成長で形成されたエピウエハ(加工基板上に窒化物半導体多層膜構造がエピタキシャル成長させられたウエハ)がMOCVD装置から取出され、レーザ素子に加工される。ここで、窒化物半導体多層膜構造が形成されたエピウエハの表面には窪みが存在し、完全かつ平坦には埋没されていなかった。
加工基板101はn型導電性の窒化物半導体であるので、その裏面側上にHf/Alの順の積層でn電極111が形成された(図1参照)。n電極としては、Ti/Al、Ti/Mo、またはHf/Auなどの積層も用いられ得る。n電極にHfが用いられれば、そのコンタクト抵抗が下がるので好ましい。
p電極部分は加工基板101の溝方向に沿ってストライプ状にエッチングされ、これによってリッジストライプ部(図1参照)が形成された。加工基板の溝が桝目状の場合は、それらの溝の長手方向として窒化物半導体の<1−100>方向と<11−20>方向のいずれかを選択すればよい。リッジストライプ部はストライプ幅W=2.0μmを有し、前述の領域Iに含まれるように形成された(図1参照)。その後、SiO2誘電体膜113が蒸着され、p型GaNコンタクト層110の上面がこの誘電体膜から露出されて、その上にp電極112がPd/Mo/Auの積層として蒸着されて形成された。p電極としては、Pd/Pt/Au、Pd/Au、またはNi/Auなどの積層が用いられてもよい。また、p電極112とワイヤボンドとの間にAuからなるパッド電極を介してもよい。
最後に、エピウエハはリッジストライプの長手方向に対して垂直な面でへき開され、共振器長500μmのファブリ・ペロー共振器が作製された。共振器長は、一般に300μmから1000μmの範囲内であることが好ましい。溝が<1−100>方向に沿って形成された共振器長のミラー端面は、窒化物半導体結晶のM面{1−100}が端面になる。ミラー端面を形成するためのへき開とレーザ素子の分割は、加工基板101の裏面側からスクライバを用いて行なわれた。ただし、へき開はウエハの裏面全体を横断してスクライバによる罫書き傷がつけられて行なわれるのではなく、ウエハの一部、たとえばウエハの両端のみにスクライバによる罫書き傷がつけられてへき開された。これにより、素子端面の急峻性やスクライブによる削りかすがエピ表面に付着しないので、素子歩留まりが向上する。チップ分割された窒化物半導体発光素子(レーザ素子)の表面には、窒化物半導体発光素子のリッジストライプ部を挟んで窪みが2つ以上存在していた。また、p電極112は2つ以上の窪みを含む領域上に、ワイヤボンドは1つ以上の窪みを含む領域上に形成された。
なお、レーザ共振器の帰還手法としては、一般に知られているDFB(分布帰還)、DBR(分布ブラグ反射)なども用いられ得る。
ファブリ・ペロー共振器のミラー端面が形成された後には、そのミラー端面にSiO2とTiO2の誘電体膜を交互に蒸着し、70%の反射率を有する誘電体多層反射膜が形成された。この誘電体多層反射膜としては、SiO2/Al2O3などの多層膜を用いることもできる。
なお、n電極111は加工基板101の裏面上に形成されたが、ドライエッチング法を用いてエピウエハの表側からn型Al0.05Ga0.95N膜102の一部を露出させて、その露出領域上にn電極が形成されてもよい。
(パッケージ実装)得られた半導体レーザ素子は、パッケージに実装される。高出力(30mW以上)の窒化物半導体レーザ素子を用いる場合、放熱対策に注意を払わなければならない。高出力窒化物半導体レーザ素子はInはんだ材を用いて半導体接合を上または下のいずれかにしてパッケージ本体に接続することができるが、半導体接合を下側にして接続するほうが放熱の観点から好ましい。なお、高出力窒化物半導体レーザ素子は、通常は直接パッケージ本体やヒートシンク部に取付けられ得るが、Si、AlN、ダイヤモンド、Mo、CuW、BN、Fe、SiC、Cu、またはAuなどのサブマウントを介して接続されてもよい。
以上のようにして、本実施形態による窒化物半導体レーザ素子が作製された。なお、本実施形態ではGaNの加工基板101が用いられたが、他の窒化物半導体の加工基板が用いられてもよい。たとえば、窒化物半導体レーザの場合、垂直横モードの単峰化のためにはクラッド層よりも屈折率の低い層がそのクラッド層の外側に接している必要があり、AlGaN基板が好ましく用いられ得る。
本実施形態においては、窪み付き基板上に窒化物半導体レーザ素子が形成されることによって、結晶歪みが緩和されるとともにクラック発生が抑制され、雰囲気温度60℃の条件の下で30mWのレーザ出力で約18000時間のレーザ発振寿命が得られるとともに、クラックの抑制効果による素子歩留まりの向上が達成された。
[実施形態9]実施形態9においては、実施形態1〜7におけるいずれかの窪み付き基板上に窒化物半導体発光ダイオード(LED)素子が形成された。この際に、窒化物半導体LED素子層は、従来と同様の方法で形成された。
本実施形態による窒化物半導体LED素子においては、その色むらが低減するとともに発光強度が従来に比べて向上した。特に、窒化物半導体を原材料とする白色窒化物半導体LED素子や琥珀色窒化物半導体LED素子のように、発光波長が短波長(450nm以下)または長波長(600nm以上)のLED素子は、実施形態1〜7における窪み付き基板上に形成されることによって、従来に比較して約2倍以上の発光強度を有することができた。
[実施形態10]実施形態10においては、Nの一部と置換すべきAs、P、およびSbの少なくともいずれかの置換元素を発光層に含ませたこと以外は、実施形態8および9と同様であった。より具体的には、As、P、およびSbの少なくともいずれかの置換元素が、窒化物半導体発光素子の発光層中で少なくとも井戸層のNの一部に置換して含められた。このとき、井戸層に含まれたAs、P、および/またはSbの総和の組成比をxとしてNの組成比をyとするときに、xはyよりも小さくかつx/(x+y)は0.3(30%)以下でなければならず、好ましくは0.2(20%)以下である。また、As、P、および/またはSbの総和の好ましい濃度の下限値は、1×1018/cm3以上であった。
この理由は、置換元素の組成比xが20%よりも高くなれば井戸層内において置換元素の組成比の異なる濃度分離が生じ始め、さらに組成比xが30%よりも高くなれば濃度分離から六方晶系と立方晶系が混在する結晶系分離に移行し始めて、井戸層の結晶性が低下する可能性が高くなるからである。他方、置換元素の総和の濃度が1×1018/cm3よりも小さくなれば、井戸層中に置換元素を含有させたことによる効果が得られ難くなるからである。
本実施形態による効果としては、井戸層にAs、P、およびSbの少なくともいずれかの置換元素を含ませることによって、井戸層中の電子とホールの有効質量が小さくなりかつ移動度が大きくなる。半導体レーザ素子の場合、小さな有効質量は小さい電流注入量でレーザ発振のためのキャリア反転分布が得られることを意味し、大きな移動度は発光層中で電子とホールが発光再結合によって消滅しても新たな電子とホールが拡散によって高速で注入され得ることを意味する。すなわち、発光層にAs、P、およびSbのいずれをも含有しないInGaN系窒化物半導体レーザ素子に比べて、本実施形態では、しきい値電流密度が低くかつ自励発振特性の優れた(雑音特性に優れた)半導体レーザを得ることが可能である。
他方、本実施形態が窒化物半導体LEDに適用された場合、井戸層にAs、P、および/またはSbの置換元素を含ませることによって、従来のInGaN井戸層を含む窒化物半導体LED素子と比較して、井戸層中のIn組成比が低減され得る。これは、Inの濃度分離による結晶性の低下が抑制され得ることを意味する。したがって、置換元素の添加による効果は、実施形態8の窒化物半導体LEDに関する効果と相乗され、より一層の発光強度の向上と色むらの低減を生じる。特に、窒化物半導体を原材料とする白色窒化物半導体LED素子や琥珀色窒化物半導体LED素子のように、発光波長が短波長(450nm以下)または長波長(600nm以上)の窒化物半導体LED素子の場合、In組成比が低いか全く含有されることなく井戸層が形成され得るので、従来のInGaN系窒化物半導体LED素子と比較して色むらが小さく、強い発光強度が得られる。
[実施形態11]実施形態11においては、実施形態8または10の窒化物半導体レーザ素子が光学装置において適用された。実施形態8または10による青紫色(380〜420nmの波長)の窒化物半導体レーザ素子は、種々の光学装置において好ましく利用することができ、たとえば光ピックアップ装置に利用すれば以下の点において好ましい。すなわち、そのような窒化物半導体レーザ素子は、高温雰囲気中(60℃)において高出力(30mW)で安定して動作し、素子不良が少なくかつレーザ発振寿命が長いことから、信頼性の高い高密度記録再生用光ディスク装置に最適である(光波長が短いほど、より高密度の記録再生が可能である)。
図14において、実施形態8または10による窒化物半導体レーザ素子が光学装置に利用された一例として、たとえばDVD装置のように光ピックアップを含む光ディスク装置が模式的なブロック図で示されている。この光学情報記録再生装置において、窒化物半導体レーザ素子を含む光源1から射出されたレーザ光3は入力情報に応じて光変調器4で変調され、走査ミラー5およびレンズ6を介してディスク7上に記録される。ディスク7は、モータ8によって回転させられる。再生時にはディスク7上のビット配列によって光学的に変調された反射レーザ光がビームスプリッタ9を介して検出器10で検出され、これによって再生信号が得られる。これらの各要素の動作は、制御回路11によって制御される。レーザ素子1の出力については、通常は記録時に30mWであり、再生時には5mW程度である。
本発明によるレーザ素子は上述のような光ディスク記録再生装置に利用され得るのみならず、レーザプリンタ、バーコードリーダ、光の3原色(青色、緑色、赤色)レーザによるプロジェクタなどにも利用し得る。
[実施形態12]実施形態12においては、実施形態9または10による窒化物半導体発光ダイオード素子が半導体発光装置において利用された。すなわち、実施形態9または10による窒化物半導体発光ダイオード素子は、少なくとも光の3原色(赤色、緑色、青色)の1つとして、たとえば表示装置のような(半導体発光装置)において利用可能である。そのような窒化物半導体発光ダイオード素子を利用することによって、色むらが少なくかつ発光強度の高い表示装置が作製され得る。
また、そのような光の3原色を生じ得る窒化物半導体発光ダイオード素子は、白色光源装置においても利用され得る。他方、発光波長が紫外領域から紫色領域(380〜420nm程度)にある本発明による窒化物半導体発光ダイオード素子は、蛍光塗料を塗布することによって白色光源素子としても利用し得る。
このような白色光源を用いることによって、従来の液晶ディスプレイに用いられてきたハロゲン光源に代わって、低消費電力で高輝度のバックライトの実現が可能になる。これは、携帯ノートパソコンや携帯電話におけるマン・マシンインターフェイスの液晶ディスプレイ用バックライトとしても利用することができ、小型で高鮮明な液晶ディスプレイを提供することができる。