JP4146305B2 - 複合シートおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、折り畳んで拭取りを行うのに適した複合シートに係り、特に湿潤状態で、且つ折り畳んで拭取りをするのに適した複合シートに関する。
【0002】
【従来の技術】
キッチンペーパは、油こしや野菜などの水切り、あるいは流し台やテーブルなどの拭取りなどに使用される。そのために、ある程度の強度を有し、また水分や油分を吸収できることが望まれる。
【0003】
前記キッチンペーパは1枚の面積が広いために、流し台やテーブル、さらには食器に付着した水分を拭取るとき、または、水分を含ませてテーブル面などの拭取りを行う際に、キッチンペーパを2枚重ねまたは4枚重ねに折り畳んで使用するのが一般的である。
【0004】
キッチンペーパを折り畳んで、テーブルなどを拭くときに、シートの重ね面においてシートどうしに滑りが発生すると、効果的な拭取りが行えなくなる。また、シート表面と被拭取り物とが滑りやすいと、適度な拭取り感触(拭き応え)を得ることができず、逆にシート表面に親水性繊維が多く現れていると、水分を含んだ状態でシート表面と被拭取り物とが密着して、拭取りの抵抗力が増大する。このように、拭取り操作はシート表面の摩擦抵抗で左右される。
【0005】
従来のこの種のシートとして、ネット状の搬送帯の上にカード方式で繊維ウエッブを形成し、前記繊維ウエッブにウォータジェットのエネルギーを与えて、繊維どうしを交絡させたスパンレース不織布がよく使用される。このスパンレース不織布には、キッチンペーパとしての強度を保つために合成樹脂繊維が含まれ、さらに吸収性や保水性のためにパルプが含まれる。
【0006】
しかし、ウォータジェットのエネルギーを与えて繊維を交絡させると、パルプは前記エネルギーによって搬送帯側へ移行するのが通常である。そのため、製造されたスパンレース不織布では、ウォータジェットのエネルギーが与えられる第1の面に主に合成樹脂繊維が現れ、搬送帯に向く第2の面に主にパルプが現れるようになり、第1の面と第2の面とで親水度が相違することになる。そのため、湿潤時で使用したときに第1の面の摩擦抵抗と第2の面との摩擦抵抗が著しく相違し、前記のように折り畳んで使用したときに、その折畳み方向によっては、対面するシートどうしの滑りが発生しやすくなったり、さらにはシート表面と被拭取り物との摺動抵抗を適度に設定できなくなる。
【0007】
また、以下の特許文献1には、ポリエステルなどの合成樹脂繊維の繊維ウエッブに、パルプ繊維を抄紙した繊維ウエッブを重ね、パルプ繊維の繊維ウエッブ側からウォータジェットエネルギーを与えて繊維どうしを交絡させたキッチンペーパが開示されている。
【0008】
【特許文献1】
特開平2001−146665号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
前記特許文献1に記載のキッチンペーパは、繊維ウエッブにウォータジェットが与えられたときに、パルプが合成樹脂繊維内に入り込んで、搬送帯に対面する第2の面に合成樹脂繊維のみならずパルプも現れるようになる。しかし、上側にパルプ100%の繊維ウエッブを形成して、ウォータジェットを与えているため、ウォータジェットのエネルギーが与えられる第1の面には、多くのパルプが残るものとなる。よって第1の面の方が第2の面よりも親水度が高い状態になり、前記のように第1の面と第2の面とで摩擦抵抗の差が大きくなってしまう。
【0010】
本発明は前記従来の課題を解決するものであり、2つの表面のそれぞれが互いにバランスのとれた適度な親水度を有するようにして、折り畳んで使用したときに、シート間の対面部での滑りが生じ難く、またシートで被拭取り物を拭くときに適度な拭取り感触が得られる複合シートを提供することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ウォータジェットのエネルギーで繊維が交絡されたものであり、最初にウォータジェットが与えられる第1の面と、前記第1の面と逆側の第2の面とを有し、2枚重ね以上に折り畳んで使用可能な複合シートにおいて、
前記第1の面に向く第1表面層と、前記第2の面に向く第2表面層とを有し、前記第1表面層に合成樹脂繊維と再生セルロース繊維が含まれ、前記第2表面層に合成樹脂繊維とパルプが含まれており、
前記第1表面層に含まれる合成樹脂繊維が63〜87質量%で、前記第1表面層に含まれる再生セルロース繊維が13〜37質量%であり、
前記第1の面に、合成樹脂繊維と再生セルロース繊維が現れ、前記第2の面に、合成樹脂繊維とパルプとが現れていることを特徴とするものである。
【0012】
この複合シートは、ウォータジェットのエネルギーで繊維を交絡させたものであるが、ウォータジェットが最初に与えられる第1表面層を合成樹脂繊維と再生セルロース繊維とで構成することにより、ウォータジェットのエネルギーで、パルプが第2の面に露出したとしても、第1の面に再生セルロース繊維が残って、第1の面と第2の面との親水度の差を少なくできる。よって、湿潤状態で且つ折り畳んで使用したときに、どの向きに折畳んだとしても、複合シートと被拭取り物との滑りや過剰な密着が生じ難くなり、また折畳みの対面部でのシートどうしの滑りも生じにくくなる。
【0014】
また、前記第1表面層と第2表面層との間に中間層が設けられ、この中間層にパルプが含まれていてもよい。
【0019】
また、本発明の複合シートの製造方法は、ネット状の搬送帯の上に、合成樹脂繊維を含む第2の繊維ウエッブと、パルプを含む中間繊維ウエッブと、合成樹脂繊維を63〜87質量%と再生セルロース繊維を13〜37質量%含む第1の繊維ウエッブとを順に形成し、前記第1の繊維ウエッブ側からウォータジェットのエネルギーを与えて繊維を交絡させ、第1の面に前記合成樹脂繊維と前記再生セルロース繊維が現れ、第2の面に前記合成樹脂繊維と前記パルプが現れた複合シートを製造することを特徴とするものである。
【0020】
前記において、第2の繊維ウエッブが合成樹脂繊維100%で、中間繊維ウエッブがパルプ100%であることが好ましい。
【0021】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の一実施の形態の複合シートを示す拡大断面図、図2(A)は前記複合シートを広げた状態の斜視図、図2(B)は前記複合シートを折り畳んだ状態の斜視図、図3(A)(B)は、第1の面が外側に位置するように折り畳んだ状態と第2の面が外側に位置するように折り畳んだ状態での拭取り作業を示す断面図、図4は滑り抵抗指数の測定方法の説明図、図5は繊維ウエッブの構成と滑り抵抗指数との関係を示す線図である。
【0022】
図1に示す複合シート10は、第1の面11と第2の面12を有している。複合シート10の目付けは30〜60g/m2で厚みは0.2〜1.0mmである。この複合シート10の内部は、第1の面11を有する第1表面層1、第2の面12を有する第2表面層2、および第1表面層1と第2表面層2との間に位置する中間層3に区分できる。
【0023】
この複合シート10は、繊維の配合が相違する3層の繊維ウエッブにウォータジェットのエネルギーを与えることで形成される。形成後の複合シート10は、各層間で繊維が交絡し、また中間層のパルプはその多くが第2表面層に移行するために、第1表面層1、第2表面層2および中間層3の各層が必ずしも明確に区別できるものではない。ただし、以下では、説明の便宜上、複合シート10の内部構造を3つの層に区分して説明するが、本発明は内部構造が3つの層に明確に区分されているのものに限定されるものではない。
【0024】
本発明の複合シート10は、合成樹脂繊維と再生セルロース繊維およびパルプを含んでいる。この複合シート10の製造方法は、ネット状の搬送帯の上に、カード法などにより合成樹脂繊維100%の第2の繊維ウエッブを形成する。その上に、パルプ100%の中間繊維ウエッブを形成する。この中間繊維ウエッブは、カード法でパルプを積層してもよいし、または湿式抄紙したシート状のパルプウエッブを重ねてもよい。その上に、カード法などにより、合成樹脂繊維と再生セルロース繊維とが混合された第1の繊維ウエッブを形成する。
【0025】
次に、前記各繊維ウエッブの繊維をウォータジェットのエネルギーを用いて交絡させてスパンレース不織布を形成する。ウォータジェット処理は1回または複数回である。ただし、最初のウォータジェットのエネルギーは、第1の繊維ウエッブ側から与えられる。
【0026】
完成した複合シート10では、ウォータジェットのエネルギーが与えられることによって、中間繊維ウエッブのパルプが第2の繊維ウエッブの合成樹脂繊維の内部に入り込むため、第2表面層2は合成樹脂繊維とパルプが混合されたものとなる。ただし、前記第1の繊維ウエッブは合成樹脂繊維と再生セルロース繊維との混合層であるため、第1表面層1は合成樹脂繊維と再生セルロース繊維とが混在した状態となる。
【0027】
複合シート10の中間層3は、パルプで形成され、あるいは中間層3に第1表面層の合成樹脂繊維や再生セルロース繊維が入り込むこともある。または、中間層3のパルプのほとんどが前記第2表面層2に移行して中間層3が明確に区分されない場合もある。
【0028】
この複合シート10では、第1の面11に合成樹脂繊維と再生セルロース繊維とが露出して、第1の面11は、合成樹脂繊維で所定の摩擦強度が保たれ、再生セルロース繊維で親水度を発揮できる。同様に、第2の面12に合成樹脂繊維とパルプが露出しているため、この第2の面12も所定の摩擦強度と親水度を発揮できる。
【0029】
すなわち、ウォータジェットのエネルギーが最初に与えられる第1の面11に再生セルロース繊維が含まれるために、第1の面11が所定の親水度を発揮できるようになり、前記エネルギーによりパルプが露出した第2の面12の親水度と、前記第1の面11の親水度とに大きな差が生じなくなる。よって、水分を吸収した状態で、第1の面11の摩擦抵抗と第2の面12の摩擦抵抗に大きな差が生じないものにできる。
【0030】
後の実施例に示すように、前記第1表面層1に含まれる合成樹脂繊維は63〜87質量%で、再生セルロース繊維は13〜37質量%であることが好ましく、第1の面11に現れる合成樹脂繊維と再生セルロース繊維の質量比も前記数値範囲と同等である。また、第2表面層2に含まれる、合成樹脂繊維は60〜80質量%程度であり、パルプは20〜40質量%程度である。また、第2の面12に露出する合成樹脂繊維とパルプとの質量比も前記第2表面層2での前記配合と同等である。
【0031】
第1表面層1と第2表面層2に含まれる合成樹脂繊維は、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、あるいはポリエステルとポリエチレンとの複合合成繊維、ポリプロピレンとポリエチレンとの複合合成繊維などであり、これら合成樹脂繊維は、繊度が1.1〜2.2dtex、繊維長が30〜60mmである。また、第1表面層1に含まれる再生セルロースは例えばレーヨン繊維であり、その繊度は1.1〜2.2dtex、繊維長は30〜60mmである。前記合成樹脂繊維および再生セルロース繊維の繊度と繊維長が前記範囲であれば、第1の繊維ウエッブ側から最初にウォータジェットのエネルギーが与えられても、第1表面層1と第1の面11に再生セルロース繊維が存在する状態を維持できるようになる。
【0032】
また、第2表面層2と中間層3に含まれるパルプは、粉砕パルプなどであり、繊維長は1〜4mmである。
【0033】
なお、複合シート10は、第1表面層1に再生セルロース繊維が含まれ、第2表面層2にパルプが含まれていることで、第1の面11と第2の面12の親水度が調整されているが、この機能を損なわない範囲であれば、第2表面層2に再生セルロース繊維が含まれていてもよい。
【0034】
前記複合シート10は、水を含んだ状態での、(第1の面11とガラス表面との滑り抵抗指数)/(第2の面12どうしの滑り抵抗指数)×100、(第2の面12とガラス表面との滑り抵抗指数)/(第1の面11どうしの滑り抵抗指数)×100、(第1の面11とガラス表面との滑り抵抗指数)/(第1の面11どうしの滑り抵抗指数)×100、および(第2の面12とガラス表面との滑り抵抗指数)/(第2の面12どうしの滑り抵抗指数)×100が、全て80%以下であり、さらに好ましくは76.3%以下である。下限は特に規定されないが、41.2以上が好ましい。
【0035】
前記範囲より大きいと、折り畳んで対面したシートどうしが滑りやすくなるが、80%以下とすることにより、シートと被拭取り物との摩擦が適度に発揮できた場合に、折り畳んで対面したシートどうしが滑りにくくなる。
【0036】
また、水を含んだ状態での、第1の面11とガラス表面との滑り抵抗指数と、第2の面12とガラス表面との滑り抵抗指数が、共に20度以上で35度未満であることが好ましい。なお、滑り抵抗指数は、後の実施例において説明する。
【0037】
この複合シート10は、キッチンペーパ(キッチンシート)として、またはトイレットの便器や、家具などを拭くための清掃用シートとして使用される。複合シート10は乾燥状態で拭取りに使用されてもよいし、水分を含ませた湿潤状態での拭取りにも適している。
【0038】
乾燥状態での拭取りでは、第1表面層1に再生セルロース繊維が、中間層3と第2表面層2にパルプが含まれているため、水分や油分を吸収して効果的に拭き取ることができる。また、保水力を有しているため湿潤状態での拭き取りでは、シート表面に滲み出る水分により細かな埃などをシート表面に付着させて効果的に拭取ることができる。また、この拭取りシートは、野菜の水切りや、食用油の油こしなどとして使用することが可能である。
【0039】
図2(A)に示すように、1枚で展開した状態の複合シート10は、面積が広いため、前記のような拭取りを行う際には、折り畳んで使用される。この実施の形態では、第1の折り線21でシートを2枚重ねに折り畳まれ、さらに折り線22で折り畳んで、図2(B)に示すように4枚重ねとして使用される。複合シート10を折り畳んだときに、第1の面11と第2の面12のどちらの面を内側にするかによって、第1の折畳みシート10Aと第2の折畳みシート10Bに区別される。
【0040】
図3(A)は第1の折畳みシート10Aを示し、図3(B)は第2の折畳みシート10Bを示している。第1の折畳みシート10Aおよび第2の折畳みシート10Bは、折り線21で折ったときにシートどうしが対面する1回折りの対面部23,23と、折り線22でさらに折ったときにシートどうしが対面する2回折りの対面部24を有している。
【0041】
図3(A)に示す第1の折畳みシート10Aは、第1の面11が最外面に現れて拭き取り面が形成される。よって、1回折りの対面部23,23では、第2の面12どうしが対面し、2回折りの対面部24では、第1の面11どうしが対面する。第3(B)に示す第2の折畳みシート10Bでは、第2の面12が最外面に現れて拭き取り面が形成される。よって、1回折りの対面部23,23では、第1の面11どうしが対面し、2回折りの対面部24では、第2の面12どうしが対面する。
【0042】
このように、第1の折畳みシート10Aと第2の折畳みシート10Bは、いずれも第1の面11どうしの対面部と、第2の面12どうしの対面部の双方を有している。そして、第1の折畳みシート10Aは拭取り面が第1の面11であり、第2の折畳みシート10Bは拭取り面が第2の面12である。
【0043】
この複合シート10は、第1の面11に合成樹脂繊維と再生セルロース繊維が露出し、第2の面12に合成樹脂繊維とパルプとが露出することで、両面での湿潤時の摩擦抵抗に極端な差が生じないように調整されている。
【0044】
よって、図3(A)に示す第1の折畳みシート10Aでは、拭取り面に現れる第1の面11でテーブルなどの拭取りを行っているときに、第2の面12どうしの対面部23,23と、第1の面11どうしの対面部24の双方で滑りが生じにくくなる。また第1の面11と被拭取り物28との間の滑り具合も良好となり、適度な拭取り感触を得られるようになる。図3(B)に示す第2の折畳みシート10Bも同様であり、第1の面11どうしの対面部23,23と第2の面12どうしの対面部24において滑りが生じ難く、拭取り面に現れている第2の面12と被拭取り物28との滑り具合が適度になる。
【0045】
【実施例】
(1)実施例と比較例
合成樹脂繊維として繊度が1.3dtexで、繊維長が38mmのポリエステル繊維を使用し、再生セルロース繊維として繊度が1.4dtexで、繊維長が44mmのレーヨンを使用した。
【0046】
ネット状の搬送帯に、ポリエステル繊維100%の第2の繊維ウエッブを12〜14g/m2の目付けで形成し、その上にパルプ100%の中間繊維ウエッブを18〜20g/m2の目付けで形成した。その上に第1の繊維ウエッブを、ポリエステル繊維とレーヨンとの配合比を変えて12〜14g/m2の目付けで形成した。なお、比較例4は、第1の繊維ウエッブと中間繊維ウエッブを上下で入れ代えている。
【0047】
第1の繊維ウエッブ側からウォータジェット処理を施して、厚みが、0.3mm〜0.5mmの範囲で、全体の目付けが42〜48g/m2の範囲の複合シート10を得た。
【0048】
表1には、ウォータジェット処理を施す前の、第1の繊維ウエッブ、中間繊維ウエッブおよび第2の繊維ウエッブの繊維構成を示している。表1に示すように、実施例と比較例(ただし比較例4を除く)は、中間繊維ウエブをパルプ100%とし、第2の繊維ウエッブをポリエステル繊維100%とした。第1の繊維ウエッブは、ポリエステル繊維が100%のものを比較例1、比較例2とし、ポリエステル繊維とパルプとの質量比が80%:20%のものを実施例1ないし実施例5とした。また、ポリエステル繊維とパルプとの質量比が60%:40%のものを比較例3とした。
【0049】
(2)滑り抵抗指数
各実施例および比較例で形成された複合シートから50×150mmのサンプルを作成した。ただし、前記複合シートは、繊維ウエッブを形成し且つウォータジェット処理を施す際の流れ方向(MD)と前記流れ方向に直交する方向(CD)とを有する。よって、それぞれのサンプルは、MDを長さ150mmの縦方向に向けたものと、CDを長さ150mmの縦方向に向けたものの双方を準備した。
【0050】
図4は、滑り抵抗指数を測定するためのスリップテスターの説明図である。このスリップテスターは、ガラス板40を有しており、測定時では、水平面Hとガラス板40表面との角度θが毎秒1度の速度で0度から60度まで変化する。試験片押圧体41は、前記ガラス板40との接触面が矩形で、接触面はガラス板40の傾斜方向へ100mm、傾斜方向と直交する方向へ50mmの寸法である。試験片押圧体41の質量は500gである。
【0051】
前記スリップテスターに測定サンプルを保持させて前記接触面の全面にサンプルが位置するようにし、ガラス板40の角度を0度から徐々に変化させていき、試験片押圧体41が動き始めたときの角度が滑り抵抗指数(単位は「度」)である。同じサンプルの同じ条件の測定をそれぞれ2回行い、その平均値を測定値とした。
【0052】
比較例と実施例の測定では、各サンプルに、サンプル自重の200%の水を吸収させた湿潤状態で測定を行った。
【0053】
(a)シートどうしの滑り抵抗指数
表1では、複合シート10の第1の面11を「表」と表示し、第2の面12を「裏」と表示している。
【0054】
表1の「表:表」の欄および「裏:裏」の欄は、同じ比較例どうしおよび同じ実施例どうし、すなわち同種のサンプルどうしの滑り抵抗指数の測定値である。同種のサンプルの一方をガラス板40の表面において長手方向が傾斜方向へ向くように密着させて設置する。他方のサンプルを、試験片押圧体41に保持させる。この場合、ガラス板40に設置されたサンプルが、傾斜方向にMDが向く場合と傾斜方向にCDが向く場合があり、試験片押圧体41に保持されたサンプルが、傾斜方向にMDが向く場合とCDが傾斜方向に向く場合がある。
【0055】
表1での「表:表」欄の測定値は、ガラス板40に設置されたサンプルと試験片押圧体41に保持されたサンプルとが、第1の面11どうしが対面する状態で、その向きが傾斜方向へ共にMDとMDが向けられたときの測定値と、傾斜方向へ共にCDとCDが向けられたときの測定値との平均値である。同様に「裏:裏」欄の測定値は、ガラス板40に設置されたサンプルと試験片押圧体41に保持されたサンプルとが、第2の面12どうしが対面する状態で、その傾斜方向へ共にMDとMDが向けられたときの測定値と、傾斜方向へ共にCDとCDが向けられたときの測定値との平均値である。
【0056】
表1の「表:ガラス」欄は、ガラス板40の表面に何も配置しない状態で、試験片押圧体41に保持したサンプルの第1の面11をガラス板40に向けて測定した値である。この場合、試験片押圧体41に保持されたサンプルが、傾斜方向にMDが向いたときの測定値と、傾斜方向にCDが向いたときの測定値との平均値である。「裏:ガラス」欄は、ガラス板40に何も設置せず、試験片押圧体41に保持したサンプルを、第2の面12がガラス板40に対面するようにし、傾斜方向へMDが向いたときの測定値と、傾斜方向へCDが向いたときの測定値との平均値である。
【0057】
(b)滑り比率
表1の「滑り比率」の欄の「表−ガラス/裏どうし」は、それぞれの比較例と実施例において「表:ガラス」の測定値を「裏:裏」の測定値で除算した値であり、「裏−ガラス/表どうし」は、それぞれの比較例と実施例において、「裏:ガラス」の測定値を「表:表」の測定値で除算した値である。「表−ガラス/表どうし」は、それぞれの比較例と実施例において「表:ガラス」の測定値を「表:表」の測定値で除算した値であり、「裏−ガラス/裏どうし」は、それぞれの比較例と実施例において、「裏:ガラス」の測定値を「裏:裏」の測定値で除算した値である。それぞれの「滑り比率」は「%」で表示している。
【0058】
(3)拭取り試験
各実施例と比較例のシートを用いて第1の折畳みシート10Aと第2の折畳みシート10Bを形成し、それぞれの折畳みシートで、ガラス表面を拭く作業を行った。表1に示すように、各比較例では、拭取り作業に支障があり評価「×」となった。一方各実施例では、拭取り作業がスムーズであり評価「○」となった。
【0059】
ここで、前記「×」の評価の理由を説明する。
図3(A)に示す第1の折畳みシート10Aの形態としたときに、拭取り面に第1の面11が現れるが、比較例1と比較例2では、この第1の面11にポリエステル繊維のみが現れているため、第1の折畳みシート10Aとガラス表面との間が軽い力で滑りすぎてしまい、最適な拭取り感触が得られなかった。よって評価が「×」であった。
【0060】
一方、図3(B)に示す第2の折畳みシート10Bとした場合は、拭取り面にポリエステル繊維とパルプを有する第2の面12が現れているため、第2の面12とガラス面との間に適度な摩擦力が発生した。ただし、比較例1と比較例2では、折畳みの対面部23,23で、ポリエステル繊維のみが現れている第1の面11どうしが対面しているため、第1の面11どうしが滑ってしまい、第2の折畳みシート10Bの形態が保てなくなった。すなわち、いずれも「裏:ガラス」/「表:表」の滑り抵抗摩擦の比が80%を超えているため、折畳みの対面部で第1の面11どうしに滑りが発生した。
【0061】
次に、比較例3では、第1の折畳みシート10Aの形態としたとき、拭取り面である外面に、ポリエステル繊維が60%でレーヨンが40%露出した第1の面11が現れているために、第1の折畳みシート10Aとガラス表面との間にやや貼り付きが感じられ、その評価は「×」であった。
【0062】
一方、比較例3を第2の折畳みシート10Bの形態としたときは拭きやすく、評価は「○」であった。
【0063】
次に、比較例4では、第1の折畳みシート10Aの形態としたときに、パルプが多く現れている第1の面11がガラス表面に貼り付いてしまい、うまく拭取りを行うことができなかった。よって評価は「×」であった。
【0064】
一方、比較例4で、第2の折畳みシート10Bの形態とした場合は拭取りやすく、その評価が「○」であった。これは、第1の繊維ウエッブのパルプがウォータジェットのエネルギーによって第2の面12に現れて、「裏:ガラス」の滑り抵抗指数が「31.5」となり、一方「表:表」の滑り抵抗指数が60を越え、「裏:裏」の滑り抵抗指数も「53」であるため、「裏:ガラス」/「表:表」と「裏:ガラス」/「裏:裏」の滑り抵抗指数の比が、共に80%よりも十分に低い値となるためである。
【0065】
【表1】
【0066】
(4)表1の評価
まず、第1の折畳みシート10Aの形態としたとき、および第2の折畳みシート10Bの形態としたときの双方において、最外面である拭取り面に現れるシート面とガラス表面との間に滑りが発生せず、適度な拭取り感触を実現するための条件は、「表:ガラス」と「裏:ガラス」の双方において比較例1と比較例2の「16.9」と「19.8」を含まない範囲である。すなわち滑り抵抗指数は20度以上であることが好ましく、25度以上であることがさらに好ましい。また、拭取り面とガラス表面とが貼り付くことのない条件は、比較例3において貼り付き感が生じた「表:ガラス」の滑り抵抗指数「35.0」を含まない35度未満である。さらに好ましくは、表1の実施例4から、33.5度以下の範囲である。
【0067】
次に、拭取り作業中に折り畳んだシートの対向面で滑りを生じないためには、「表−ガラス/裏どうし」「裏−ガラス/表どうし」「表−ガラス/表どうし」「裏−ガラス/裏どうし」のそれぞれにおいて、その比率が80%以下であることが好ましく、さらに好ましくは77%以下である。表1の実施例4から76.3%以下がさらに好ましい。下限は、特に規定されないが、表1の比較例2から41.2%以上が好ましい。
【0068】
(5)第1表面層1に含まれる合成樹脂繊維と再生セルロース繊維との配合比の好ましい範囲
図5は、横軸に第1表面層1に含まれるポリエステル繊維の質量比を「%」で示し、縦軸に滑り抵抗指数を「度」で示している。
【0069】
まず、全ての比較例と実施例において、拭取り作業時に第2の面12どうしで滑りが発生しないことに着目し、折畳みの対面部においてシートどうしが滑りを生じないための条件を求めた。
【0070】
第1表面層1(第1の繊維ウエッブ)がポリエステル繊維100%で構成されている比較例1と2において、第2の面12どうしが対面する「裏:裏」での滑り抵抗指数のうち、最も低い値「39」を図5において(i)でプロットしている。第1表面層1(第1の繊維ウエッブ)にポリエステル繊維が80質量%含まれている実施例1,2,3,4,5において、「裏:裏」の滑り抵抗指数の最も低い値「42」を図5において(ii)でプロットしている。さらに、第1表面層1(第1の繊維ウエッブ)がポリエステル繊維を60質量%含んでいる比較例3における「裏:裏」の滑り抵抗指数「48」を図5において(iii)でプロットしている。
【0071】
前記(i)(ii)(iii)を結んだ近似曲線を曲線(I)とする。この曲線(I)は、第1の表面層1(第1の繊維ウエッブ)に含まれるポリエステル繊維の比率と、第2の面12どうしの滑り抵抗指数との関係を示している。図5では横軸をX軸、縦軸をY軸とした前記曲線(I)の近似方程式を記載している。滑り抵抗指数が前記曲線(I)よりも高い値であれば、折畳みの対面部においてシートどうしの滑りが生じないはずである。
【0072】
次に、第1表面層1(第1の繊維ウエッブ)に含まれるポリエステル繊維の質量比と、第1の面11どうし(「表:表」)の滑り抵抗指数との関係を求める。第1表面層1(第1の繊維ウエッブ)がポリエステル繊維100%である比較例1と比較例2での、「表:表」の滑り抵抗指数の平均値「32.4」を図5において(iv)にプロットしている。第1表面層1(第1の繊維ウエッブ)にポリエステル繊維が80質量%含まれている実施例1ないし実施例5での「表:表」の滑り抵抗指数の平均値「43.52」を、図5において(v)でプロットしている。さらに、第1表面層1(第1の繊維ウエッブ)にポリエステル繊維を60質量%含んでいる比較例3での「表:表」の滑り抵抗指数「47」を、図5において(vi)でプロットしている。
【0073】
前記(iv)(v)(vi)を結んだ近似曲線を曲線(II)で示し、その近似方程式を図5に記載している。この曲線(II)は、第1表面層1(第1の繊維ウエッブ)に含まれるポリエステル繊維の比率と、第1の面11どうしの滑り抵抗指数との関係を示している。この曲線(II)が前記曲線(I)よりも大きいときに、第1の面11どうしで滑りが生じなくなると予測できる。よって、第1の面11でのポリエステル繊維の露出面積比は、63〜87%で、前記第1の面に露出しているパルプの面積比が13〜37%であることが好ましいことが解る。
【0074】
【発明の効果】
本発明の複合シートでは、シート自体は吸収機能を有し、しかも第1の面が対面するように折り畳んで使用しても、第2の面が対面するように折り畳んでも、折り畳んだ状態を維持して、良好な拭取り感触を得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態の複合シートの拡大断面図、
【図2】(A)は複合シートを広げた斜視図、(B)は複合シートを折り畳んだ折畳みシートの斜視図、
【図3】(A)は第1の折畳みシートの断面図、(B)は第2の折畳みシートの断面図、
【図4】スリップテスターの説明図、
【図5】第1の面での合成樹脂繊維の比率の好ましい範囲を示す説明図、
【符号の説明】
1 第1表面層
2 第2表面層
3 中間層
10 複合シート
11 第1の面
12 第2の面
10A 第1の折畳みシート
10B 第2の折畳みシート
Claims (4)
- ウォータジェットのエネルギーで繊維が交絡されたものであり、最初にウォータジェットが与えられる第1の面と、前記第1の面と逆側の第2の面とを有し、2枚重ね以上に折り畳んで使用可能な複合シートにおいて、
前記第1の面に向く第1表面層と、前記第2の面に向く第2表面層とを有し、前記第1表面層に合成樹脂繊維と再生セルロース繊維が含まれ、前記第2表面層に合成樹脂繊維とパルプが含まれており、
前記第1表面層に含まれる合成樹脂繊維が63〜87質量%で、前記第1表面層に含まれる再生セルロース繊維が13〜37質量%であり、
前記第1の面に、合成樹脂繊維と再生セルロース繊維が現れ、前記第2の面に、合成樹脂繊維とパルプとが現れていることを特徴とする複合シート。 - 前記第1表面層と第2表面層との間に中間層が設けられ、この中間層にパルプが含まれている請求項1記載の複合シート。
- ネット状の搬送帯の上に、合成樹脂繊維を含む第2の繊維ウエッブと、パルプを含む中間繊維ウエッブと、合成樹脂繊維を63〜87質量%と再生セルロース繊維を13〜37質量%含む第1の繊維ウエッブとを順に形成し、前記第1の繊維ウエッブ側からウォータジェットのエネルギーを与えて繊維を交絡させ、第1の面に前記合成樹脂繊維と前記再生セルロース繊維が現れ、第2の面に前記合成樹脂繊維と前記パルプが現れた複合シートを製造することを特徴とする複合シートの製造方法。
- 第2の繊維ウエッブが合成樹脂繊維100%で、中間繊維ウエッブがパルプ100%である請求項3記載の複合シートの製造方法。
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