JP4142389B2 - 乗用車用空気入りタイヤ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リム組み時のビード部の損傷を防止しうる乗用車用空気入りタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来の一般的な乗用車用ラジアルタイヤのビード部の構造を図5に示す。ビード部aには、ビードコアbと、このビードコアbの周りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返されて係止されたカーカスプライc1からなるカーカスcとが配される。またビード部aには、例えばナイロンコードを用いたプライからなる断面略U字状の補強フィラーfが配されている。
【0003】
一方、近年では車両の燃費性能を改善するために、タイヤのさらなる軽量化が望まれるとともに、自動車のサスペンションなどの向上に伴いタイヤ自体の乗り心地の向上も望まれている。このため、ビード部から前記補強フィラーfを取り除き、ビード部の曲げ剛性を緩和させる構造も実用化されている。なおこのような場合、ビードコアbの形状をそのままとして補強フィラーfを取り除くと、その部分はゴムによって満たされることとなる。
【0004】
ところが、このような構造ではビードコアとリムシート面との間のゴム厚さが大となり、この結果、タイヤがリムからずれ易くなるなど耐リムずれ性能が低下するという傾向がある。
【0005】
またタイヤをリム組みする際には、図6(A)に示すように、ビード部aをリムシートrsに着座させかつ内圧を充填することにより、ビード底面eをテーパ状のリムシートrsに沿って軸方向外側へとスライドさせる。このとき、ビード底面eとリムシートrsとの間の接触圧は、リム組みが進行するに従って徐々に高くなり前記スライドを妨げる一方、ビード部aのタイヤ半径方向外側の部分では空気圧によって軸方向外側へ比較的大きく変形する。
【0006】
このように、ビード部aでは、そのタイヤ半径方向内、外で軸方向外側への移動量が異なる結果、図6(B)に拡大して示すように、ビードコアbにせん断変形が生じる。このようなせん断変形によって、ビードコアbの内面かつタイヤ軸方向内側のコーナ部gがカーカスプライc1を介してビード部aの内腔面iを押圧する。そして、図7に示すように、ビード部の内腔面iに微細な亀裂又は凹凸状の変形といった損傷部xを生じさせる場合がある。特にビード部aに補強フィラーfを設けない構造のタイヤでは、ビード部の剛性が低く、また一般に該補強フィラーfの厚さの分だけビードコアbの内径を小さくしており、前記リムシートrsとの間の接触圧が大となるためこのような損傷が生じやすい。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、カーカスプライの折返し部とビードコアのタイヤ半径方向の内面との間に、硬質ゴムからなるゴム層を設けることを基本として、乗り心地や軽量化を図りつつ上述のようなリム組み作業時に生じるビード部の内面の損傷を防止しうる乗用車用空気入りタイヤを提供することを目的としている
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明のうち請求項1記載の発明は、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至るカーカスを具えた空気入りタイヤであって、前記カーカスは、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至る本体部と、前記ビードコアの周りをタイヤ軸方向内側から外側へ折り返されて係止された折返し部とを一体に有する少なくとも1枚のカーカスプライを含むとともに、前記折返し部と前記ビードコアのタイヤ半径方向の内面の全域との間に硬質ゴムからなるゴム層を設けたことを特徴としている。
【0009】
また請求項1記載の発明は、前記ゴム層は、厚さが0.5〜1.0mmでありかつゴム硬さを70〜95゜とし、しかも前記ビード部は、前記ビードコアと前記カーカスとにより補強されており、これ以外の補強プライを有しないことを特徴としている。
【0010】
また請求項2記載の発明は、前記カーカスのカーカスプライのトッピングゴムのゴム硬さは、55〜70゜であり、かつ前記ビードコアのラッピングゴムのゴム硬さは、75〜85゜であることを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下本発明の実施の一形態を図面に基づき説明する。
図1には、本実施形態の乗用車用空気入りタイヤ1(以下単に空気入りタイヤ1という)の断面図を示している。図において空気入りタイヤ1は、トレッド部2と、その両側からタイヤ半径方向内方にのびる一対のサイドウォール部3と、各サイドウォール部3の内方端に位置するビード部4とを具え、乗用車用のラジアルタイヤとして構成される。この空気入りタイヤ1は、前記ビード部4、4間を跨るトロイド状のカーカス6と、トレッド部2の内方かつ前記カーカス6のタイヤ半径方向の外側に配されたベルト層7とを具える。
【0012】
前記カーカス6は、カーカスコードをタイヤ周方向に対して75゜〜90゜の角度で配列した1枚以上(本例では1枚)のカーカスプライ6Aから形成される。またカーカスプライ6Aは、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至る本体部6aと、その両側に連なりビードコア5の廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返されて係止される折返し部6bとを有する。
【0013】
該カーカスプライ6Aは、図3に拡大して示すように、ナイロン、ポリエステル、レーヨン、芳香族ポリアミド等の有機繊維コードからなるカーカスコード6Cを平行に引き揃えかつその両面を小厚さのトッピングゴム6Gにて被覆して構成されたプライが用いられる。本例ではカーカス6が1枚のカーカスプライ6Aから構成されており、タイヤ重量の軽量化が図られている。なおカーカスプライ6Aの前記本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードコア5のタイヤ半径方向の外面から外方に先細状でのびるビードエーペックスゴム8が配され、ビード部4の曲げ剛性を補強する。
【0014】
なお本実施形態の空気入りタイヤ1は、ビード部4がビードコア5とカーカス6とにより補強されており、これ以外の補強プライ、即ち従来カーカスプライ6Aとビードコア5とをともに包み込むように設けられていたナイロンコード等からなる補強プライなどを有してはいない。ただし、補強プライ(タイヤコードの引き揃え体をゴム被覆したシート状のもの)ではないもの、例えばリムシート面に近接して配されるキャンバス布等は設けられても良い。
【0015】
また前記ベルト層7は、ベルトコードをタイヤ周方向に対して10゜〜35゜の角度で傾斜配列した2枚以上、本例では2枚のベルトプライ7A、7Bから形成される。各ベルトプライ7A、7Bは、ベルトコードがプライ間相互で交差して配されることによりタガ効果を発揮する。ベルトコードとしては、スチールコードが好適であるが、例えば芳香族ポリアミド繊維、芳香族ポリエステル繊維等の高弾性の有機繊維コードも使用できる。
【0016】
また本発明の空気入りタイヤ1は、図1及びその拡大図である図2に示すように、前記カーカスプライ6Aの折返し部6bとビードコア5のタイヤ半径方向の内面5iとの間に、硬質ゴムからなるゴム層9が設けられている。該ゴム層9は、ビードコア5の内面5iの全域に亘って形成されかつタイヤ周方向に連続している。このようなゴム層9は、リム組み時、ビード部4のタイヤ半径方向内、外で生じる軸方向移動量の差に起因したせん断力が生じた場合でも、このゴム層9によってせん断歪を緩和、吸収し、ビードコア5のコーナ部gによってビード部4の内腔面iが損傷を受けるのを効果的に防止しうる。
【0017】
またゴム層9は、硬質のゴムからなるため、リム組み後の変形を小さく維持でき、耐リムずれ性能の悪化をも防止できる。つまり、本実施形態の空気入りタイヤ1は、ビード部4から補強フィラーなどを取り除いて軽量化、乗り心地の向上を図りつつ、この種の空気入りタイヤのリム組み作業時に生じがちであったビード部4の内腔面iでの損傷を効果的に防止するのに役立つ。
【0018】
このような作用をより効果的に発揮させるために、前記ゴム層9は、例えば厚さtが0.5〜2.0mm、より好ましくは0.5〜1.0mmであるのが望ましく、本発明では0.5〜1.0 mm としている。このゴム層9の厚さtは、図3に示すように、カーカスプライ6Aのトッピングゴム6G、ビードコア5の周囲を覆う被覆ゴム5Gとを除いて測定される厚さである。即ちビードコア5はスチールなどの実質的に非伸張性のワイヤ5wを多段多列に巻回しかつその周囲を小厚さの被覆ゴム5Gで被覆され、またカーカスプライ6Aも、平行に引き揃えたカーカスコード6Cを小厚さのトッピングゴム6Gで被覆されてそれぞれ形成されるが、前記ゴム層9はいずれもこれらのトッピングゴムとは異なるものとして設けられる。
【0019】
前記ゴム層9の厚さtが0.5mm未満であると、リム組み作業時にビード部4に生じるせん断力を緩和する効果に劣る傾向があり、逆に2.0mmを越えると、耐リムずれ性能が悪化させる傾向がある。またゴム層9の厚さtは本例ではタイヤ軸方向に均一であるものを示しているが、例えば図4に示すように、カーカスプライの折返し部6bの円弧形状に形状に合わせ、中央部の厚さを大としかつ軸方向の両端部へと厚さが徐々に減少する中膨らみ状をなすようにも構成しうる。この場合、カーカスプライ6Aの屈曲歪を減じ、ビード部4の耐久性の向上にも役立つ。
【0020】
またゴム層9は、そのゴム硬さが70〜95゜、特に好ましくは80〜95゜であることが望ましい。該ゴム層9のゴム硬さが70゜未満であると、ビードコア5のタイヤ半径方向内方の剛性が低くなり耐リムずれ性能の悪化が生じ易くなる傾向があり、逆に95゜を越えるとリム組みが困難となったり、折返し部6bとの間で剛性段差が生じ歪の集中などを招きやすくなる。
【0021】
なおカーカスプライ6Aのトッピングゴムのゴム硬さは、概ね55〜70゜であり、またビードコア5のラッピングゴムのゴム硬さは、概ね75〜85゜であるため、ゴム層9のゴム硬さは、これらとは明瞭に異なっている。なお本明細書で用いるゴム硬さは、JIS−K6253に基づくデュロメータータイプAによる硬さである。
【0022】
このような空気入りタイヤ1は、慣例に従って製造することができる。即ち、円筒状の成形ドラムにカーカスプライ6Aを巻き付け、さらにその外側にゴム層9を構成する小巾のゴムシートを巻回する。しかる後、その外側にビードコア5を外挿し、後は常法に従って製造できる。またこのような、空気入りタイヤ1では、ビードコア5の内径を小さくすることなく、従来、補強フィラーを有する空気入りタイヤに使用されていたビードコア、成形ドラムなどがそのまま用いることが可能となるため、生産性にも優れる。
【0023】
【実施例】
タイヤサイズが195/60R15の乗用車用ラジアルタイヤを図1、表1の仕様に基づき試作するとともに、タイヤ重量、乗り心地、リム組み性能、耐リムずれ性能をテストした。テスト方法は、次の通りである。
【0024】
<タイヤ重量>
タイヤ1本当たりの重量を測定し、従来例1を100とする指数で表示している。指数は小さい方が良好である。
【0025】
<乗り心地>
排気量2000cm3 の国産FF車に、供試タイヤを6JJ×15のリムにリム組みするとともに内圧220kPaを充填して4輪装着し、ドライアスファルト路面の段差路、ベルジャソ路(石畳の路面)、ビッツマン路(小石を敷き詰めた路面)等において、ゴツゴツ感、突き上げ、ダンピングに関して官能評価を行い、従来例1を100とする指数で表示した。数値が大きいほど良好である。
【0026】
<リム組み時の損傷発生率>
各供試タイヤをそれぞれ100本づつリム(6JJ×15)に機械組みし、内圧220kPaを充填するとともに、減圧後、リムからタイヤを取り外し、ビード部の内腔面での損傷の有無を調べた。結果が損傷発生率として表示した。数値が小さいほど良好である。
【0027】
<耐リムずれ性能>
上記乗り心地テストに用いた車両、リム組条件において、ドライアスファルト路面を100km/Hまで加速走行し、急ブレーキにて制動し、停車させる。これを10回繰り返してタイヤとリムとの相対ずれ量を4本の平均値として求め、従来例1を100とする指数で表示した。数値が大きい程良好である。
テストの結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
テストの結果、実施例のものは、いずれもリム組み時の損傷発生率が低くかつ乗り心地、軽量化を向上していることが確認できる。
【0030】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1記載の発明では、カーカスプライの折返し部とビードコアのタイヤ半径方向の内面との間に、硬質ゴムからなるゴム層が設けられているため、リム組み時にタイヤ半径方向内外で生じる軸方向力の差に起因したせん断力が生じた場合、該ゴム層がこのせん断力を緩和し、ビードコアのコーナ部によってビード部の内腔面が損傷を受けるのを効果的に防止するのに役立つ。とりわけ、ビード部に補強フィラーを設けていないため、より顕著に損傷の発生を防止することができる。またゴム層は、硬質のゴムからなるため、リム組み後の変形を小さく維持でき、耐リムずれ性能の悪化をも防止できる。
【0031】
また請求項1記載の発明のように、ゴム層の厚さとゴム硬さとを一定範囲に限定することにより、さらにビード部の内腔面への損傷の発生を防止しつつ軽量化、乗り心地を向上しうる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示す空気入りタイヤの断面図である。
【図2】そのビード部の断面図である。
【図3】さらにビードコア付近の拡大断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態を例示するビード部の断面図である。
【図5】従来のビード部の断面図である。
【図6】(A)はリム組み作業を説明する断面図、(B)はそのときに生じるビードコアせん断変形を例示する断面略図である。
【図7】リム組み時に生じがちなビード部の内腔面の損傷位置を例示するビード部の部分斜視図である。
【符号の説明】
2 トレッド部
3 サイドウォール部
4 ビード部
5 ビードコア
6 カーカス
6A カーカスプライ
6a カーカスプライの本体部
6b カーカスプライの折返し部
7 ベルト層
9 ゴム層
t ゴム層の厚さ
Claims (2)
- トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至るカーカスを具えた乗用車用空気入りタイヤであって、
前記カーカスは、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至る本体部と、前記ビードコアの周りをタイヤ軸方向内側から外側へ折り返されて係止された折返し部とを一体に有する少なくとも1枚のカーカスプライを含むとともに、
前記折返し部と前記ビードコアのタイヤ半径方向の内面の全域との間に硬質ゴムからなるゴム層を設けるとともに、
前記ゴム層は、厚さが0.5〜1.0 mm でありかつゴム硬さを70〜95゜とし、
しかも前記ビード部は、前記ビードコアと前記カーカスとにより補強されており、これ以外の補強プライを有しないことを特徴とする乗用車用空気入りタイヤ。 - 前記カーカスのカーカスプライのトッピングゴムのゴム硬さは、55〜70゜であり、かつ前記ビードコアのラッピングゴムのゴム硬さは、75〜85゜であることを特徴とする請求項1記載の乗用車用空気入りタイヤ。
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