JP4133309B2 - ガラスブランク、並びに情報記録媒体用基板及び情報記録媒体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、平坦性、平滑性および平行性に優れた情報記録媒体用基板を得るための、基板形状に近い、極めて肉薄のガラスブランク、前記ガラスブランクを用いた情報記録媒体用基板の製造方法、及び前記情報記録媒体用基板を用いた情報記録媒体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ガラス又は結晶化ガラスは、アルミニウムとともに磁気ディスク用基板として広く使用されている。ガラス製基板の製法の一例としては、溶融ガラスを成形型で直接プレスして円盤状に成形して基板の中間成形体である基板ブランクを作り(ダイレクトプレス法)、このブランクに機械加工を施す方法が知られている。
【0003】
磁気ディスクなどの情報記録媒体用基板は極めて高い平坦性、平滑性、平行性が要求されるため、プレス成形後に機械加工が行われる。しかし、生産性を向上し、さらに低コストで基板を製造するためには、ブランクの両主表面を平坦、平滑、平行にするためのラッピング加工、研磨加工を簡略化したり、一部省略することが有効である。そのためには、基板形状に近いブランクを成形しなければならず、ブランクのさらなる肉薄化が求められている。
【0004】
しかし、溶融ガラスをプレス成形する前記ダイレクトプレスでは、ガラスと金型の融着を防止するために、ガラス転移点よりも低い温度の金型を使用する。そのため、プレスによりガラスが伸びて薄くなる過程でガラスの冷却が進み、ガラスの粘度が上昇する。特に、供給された溶融ガラスが成形型と最初に接触する部分は、成形型への熱伝導により、いち早く冷却され厚みが固定され、ガラスの広がりを阻害する。その結果、厚みが薄いプレス成形品の場合、ガラスが所望の形状に十分広がらないという問題がある。そのため、磁気ディスク基板のように、直径に比べて厚みが極めて薄いプレス成形品を溶融ガラスから成形することは極めて困難であった。
【0005】
そこで、いち早く肉厚が固定されてしまう成形型と最初に接触する部分の溶融ガラス量を多くして、肉厚部分と肉薄部分を有するガラスブランクを製造することが考えられる。これによれば、肉厚部分(ガラスが供給された部分)と肉薄部分との冷却速度が異なるため、肉薄部分をより薄く広げることが可能になると予想される。実際に、例えば、特許文献1には、下型成形面に窪みを設け、この下型と、平坦な成形面を有する上型によってプレス成形した、肉厚部分と肉薄部分を有する板状ガラスが開示されている。そして、特許文献1に記載のように、窪みを有する下型と平坦な成形面を有する上型を用いてプレス成形すると、肉厚部分と肉薄部分を有するガラスブランクが得られる。しかし、本発明者らが、平坦性、平滑性及び平行性に優れ、かつ極めて肉薄のガラスブランクを得るために、より肉薄のガラスブランクの製法について検討したところ、特許文献1に記載の製法では、ガラスの広がりに偏りが生じ、その結果、溶融ガラスが均一に広がらず、依然として肉薄のガラスブランクは得られないことがわかった。
【0006】
また、特許文献2には、いち早く肉厚が固定されてしまう成形型と最初に接触する部分の溶融ガラス量を多くして、所望の厚さの肉薄部分を有するガラスブランクを得ることが開示されている。しかし、特許文献2に記載のガラスブランクは、内径加工を容易にするために、肉厚部分と肉薄部分との境界部に、肉厚部分の厚さよりも薄い部分が形成されるように、ノッチが形成されている。本発明者らの検討によれば、このノッチが、プレス時にガラスの広がりを妨げるため、特許文献2に記載のガラスブランクでは、肉薄化が困難であることがわかった。
【0007】
さらに、肉薄のガラスブランクを得るために溶融ガラスをプレスする場合には、熱伝導によりガラスが冷却されてガラスの広がりが困難となる前にプレスを完了する必用があるため、短時間でプレスを行わなければならない。そのため、この場合には、プレス後のガラス内部の温度がガラス表面に比べて顕著に高い状態にある。このような状態から、ガラスの冷却が進むと、ガラスの体積収縮により、設計形状が維持できなくなることによる窪み(「ヒケ」という)が生じ、所望の平坦性、平滑性および平行性を有する基板を得ることができないという問題もあった。
【0008】
【特許文献1】
特開2001−192216号公報
【特許文献2】
特開2000−53431号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、平坦性、平滑性および平行性に優れ、かつ極めて肉薄のガラスブランク、前記ガラスブランクを用いた情報記録媒体用基板の製造方法、及び前記情報記録媒体用基板を用いた情報記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、周辺肉薄部分と中心肉厚部分を有する円盤状ガラスブランクにおいて、中心肉厚部分を両凸状とし、肉薄部分と肉厚部分の厚みの比が、所定の範囲内であれば、プレス時にガラスが良好に広がり、かつ中心穴付き基板に加工されることになる周辺肉薄部分にヒケの影響が現れないガラスブランクが得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、上記目的を達成するための手段は、以下の通りである。
(1) 周辺肉薄部分と中心肉厚部分を有する円盤状ガラスブランクであって、
前記肉厚部分の両方の面は、前記肉薄部分に対して凸状(以下、「凸状面」という)であり、かつ、
前記周辺肉薄部分の厚みと中心肉厚部分の厚みの比(周辺肉薄部分の厚み/中心肉厚部分の厚み)が、0.33〜0.90であることを特徴とするガラスブランク。
(2) 前記肉厚部分の厚みが前記肉薄部分の厚みより0.5〜3.0mm厚いことを特徴とする(1)に記載のガラスブランク。
(3) 前記肉厚部分の体積が、ガラスブランクの総体積の6.0〜13.1%であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のガラスブランク。
(4) 前記肉厚部分が、前記肉薄部分の外周で形成される仮想平面より凸に出っ張る形状を有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のガラスブランク。
(5) 中心穴付き情報記録媒体用基板に加工される(1)〜(4)のいずれかに記載のガラスブランク。
(6) 前記肉厚部分が前記中心穴が開けられる領域内にあることを特徴とする(5)に記載のガラスブランク。
(7) 前記肉薄部分の厚みが、前記基板の厚みより0.05〜0.4mm厚いことを特徴とする(5)又は(6)に記載のガラスブランク。
(8) 溶融ガラスを下型と前記下型と対向する上型を用いてプレス成形して円盤状ガラスブランクを作製する(1)〜(7)のいずれかに記載のガラスブランクの製造方法であって、
前記下型及び上型は、いずれも中央部に凹部を有し、かつ
前記下型の成形面中央に溶融ガラスを供給してプレス成形を行うことを特徴とするガラスブランクの製造方法。
(9) (1)〜(7)のいずれかに記載のガラスブランク又は(8)に記載の製造方法によって製造されたガラスブランクに、中心穴を開ける加工、並びに前記肉薄部分の表面を平坦及び/又は平滑化する加工を施して、中心穴付き情報記録媒体用基板を作製する情報記録媒体用基板の製造方法。
(10) 前記肉薄部分の表面を平坦及び/又は平滑化する加工を、前記中心穴を開ける加工の後に行うことを特徴とする(9)に記載の製造方法。
(11) (9)又は(10)に記載の方法により作製された情報記録媒体用基板に情報記録層を形成する情報記録媒体の製造方法。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明において「ガラスブランク」とは、機械加工などによる取り代分を考慮して、目的とする基板よりも大きめに作製されるガラス成形品であり、機械加工などを施すことによってディスク状の中心穴付き情報記録媒体用基板を得るためのガラス母材のことである。結晶化ガラス製の情報記録媒体用基板を提供する場合は、上記ガラスブランクから前記基板を作製する過程に、ガラスに熱処理を施して結晶化する工程を加えることになる。ガラスブランクは、上記基板と同様、円盤形状である。ただし、ガラスブランクには、上記基板のような中心穴は形成されていない。
【0012】
本発明のガラスブランクは、周辺肉薄部分と中心肉厚部分を有する円盤状ガラスブランクである。本発明のガラスブランクは、前記肉厚部分の両方の面は、前記肉薄部分に対して凸状(凸状面)であり、かつ、前記周辺肉薄部分の厚みと前記中心肉厚部分の厚みの比(周辺肉薄部分の厚み/中心肉厚部分の厚み)が0.33〜0.90の範囲であることを特徴とする。
【0013】
本発明では、所定量の溶融ガラスをプレス成形型に供給し、ガラスがプレス成形可能な粘度にある間にプレス成形する方法(ダイレクトプレス)によってガラスブランクを成形する。ガラスブランクの互いに対向する表裏面は互いに対向する下型と上型により成形される。プレス成形では上下型によりガラスを加圧することによりガラスを下型成形面と上型成形面の間に形成される空間(以下、「キャビティ」という)に均等に広げるため、溶融ガラスを下型成形面の中央部に供給(以下、「キャスト」という)する。上記機械加工により基板主表面(ディスク状基板の表裏面)を平坦、平滑化する加工、例えばラッピング加工やポリッシング加工による取り代を削減するためには、ガラスブランクの平坦度、表裏面の平行度、肉厚の均一性(偏肉度)を良好に保ちつつ、基板の肉厚により近い肉厚を有するガラスブランクを得る必要がある。したがって、ダイレクトプレスでは、上記キャビティ内にガラスを均一に行き渡らせること、及びより薄いガラスブランクを成形することの2点を両立しなければならない。
【0014】
ダイレクトプレスでは、溶融ガラスがプレス成形型の成形面に焼きつかないようにするため、下型および上型の成形面の温度はガラスの転移点近傍又は転移点未満とする。したがって、ガラスは大気中への放熱に加え、キャスト以降、大気中への放熱よりも圧倒的に大きな熱量が熱伝導によってプレス成形型に奪われ、粘度が急激に上昇する。ガラスブランクの肉厚減少に伴い、ガラスの体積に対するガラスの成形型と接触する面積の割合(ガラスと型の接触面積/ガラスの体積)は増加する。熱伝導による放熱スピードは前記接触面積が大きくなると増加し、ガラスのもつ熱量はガラスの体積が大きいほうが大きい。したがって、(ガラスと型の接触面積/ガラスの体積)が大きくなると、プレスによりガラスがキャビティ内に均一に広がる前にガラスが粘性流動しない温度にまで冷却し、所望の形状にガラスブランクが得られなくなってしまう。これを、伸び不良という。
【0015】
本発明者らは、ガラスをキャビティ内に均一に広がるまで粘性流動可能な状態にしつつ、肉厚を薄くして基板両主表面の平坦、平滑化加工による取り代を削減するために、次の点を考慮した。
(a)キャストされる溶融ガラスの量を極端に減らすと、上記理由により伸び不良が発生してしまうので、プレスされるガラスの量を伸び不良が発生しないよう確保する必要がある。
(b)情報記録媒体用基板になる部分には上記平坦、平滑化加工を施すことは避けられないので、この部分に大きなガラス体積を割り当てるのは取り代削減という目的に反する。
(c)ガラスブランクの中央部は、中心穴開け加工によって除去される部分なので、この部分に大きなガラス体積を割り当てても、加工の手間に大きな変動はなく、かつ上記取り代削減とは無関係であり、その目的には反さない。
(d)溶融ガラスは下型成形面の中央部にキャストされ、プレスされて押し広げられる。プレスでは中央部のガラスが周辺へと広げられるので中央部の体積割り当てを多くすれば、粘性流動性を有するガラスをプレスによって周辺へ供給することができる。
【0016】
本発明者らは、上記(a)〜(d)を勘案し、ガラスブランクの形状は中心に肉厚部分を有し、その周辺に肉薄部分を有するものが望ましいとの知見を得た。そこで、本発明のガラスブランクは、周辺肉薄部分と中心肉厚部分を有する形状とする。特に、本発明では、肉厚部分の両方の面を、凸状面とすることにより、肉厚部分が占める体積を大きくすることができるので、肉薄部分の厚さをより薄くしても、ガラスの伸び不良を起こすことなく、成形することができる。また、両凸状であれば、上下対称の形状にすることができ、プレス後の熱収縮による平坦性の悪化を防止することができる。
【0017】
更に、本発明では、前記周辺肉薄部分の厚みと中心肉厚部分の厚みの比(周辺肉薄部分の厚み/中心肉厚部分の厚み)を0.33〜0.90の範囲とし、好ましくは、0.6〜0.8の範囲とする。上記厚みの比が0.33未満では、中心肉厚部分が厚くなりすぎてプレス後の熱収縮の影響が周辺肉薄部分に現れやすくなる。また、中心部の金型温度が高くなりすぎて、金型とガラスの融着が生じる。一方、上記厚みの比が0.90を超えると、薄くプレスすることができない。
【0018】
本発明のガラスブランクでは、前記肉厚部分の厚みが、前記肉薄部分の厚みより、0.2〜0.7mm厚いことが好ましく、0.3〜0.5mm厚いことがより好ましい。また、本発明のガラスブランクにおいて、前記肉厚部分の体積は、ガラスブランクの総体積の6.0〜13.1%であることが好ましく、10.0〜11.6%であることがより好ましい。中心肉厚部分の厚み、及びガラスの総体積に対する中心肉厚部分が占める体積の割合が上記範囲よりも小さいと、伸び不良が発生しやすく、薄くプレスすることが困難になる。また、上記範囲よりも大きくても既に伸び不良抑制効果は十分得られているので、中心穴開け加工によって除去されるガラスの量が多くなるという問題が生じ、更に、中心肉厚部分の冷却の遅れが顕著になるという問題も生じる。ガラスブランクのプレス成形型の取りだし(テイクアウトという)はガラスブランクが変形しない温度にまで冷却してから行う必要があることから、上記冷却の顕著な遅れはテイクアウトまでの時間を不必要に長くしなければならないという事態を招き、生産性の低下につながる。また、冷却後の変形が大きくなったり、金型とガラスの融着が生じるという問題もある。従って、本発明では、中心肉厚部分の厚み、及びガラスの総体積に対する中心肉厚部分が占める体積の割合を上記範囲とすることが好ましい。
【0019】
本発明のガラスブランクにおいて、一方の主表面における中心肉厚部分と周辺肉薄部分の段差をd1、他方の主表面における中心肉厚部分と周辺肉薄部分の段差をd2とすると、d1とd2は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0020】
前記肉薄部分の厚みは、最終的に製造される基板の厚みより0.05〜0.4mm厚いことが好ましい。より好ましくは、0.05〜0.2mmであり、更に好ましくは0.05〜0.1mmである。一般に、プレス成型後の平坦、平滑化加工は、#400ラップ、#100ラップ、プレポリッシュ、ポリッシュの4工程からなる(ここで、#は研磨剤の番手を表す)。肉薄部分と基板の厚みとの差が0.4mm以下であれば、基板主表面の平坦、平滑化加工におけるラッピング工程を1工程に簡略化することができる。ラッピング工程を1工程に簡略化することができることは、生産性向上及び低コスト化にとって極めて有利である。また、肉薄部分の厚みが基板の厚みより0.05mm以上厚ければ、平坦、平滑化加工時に最低限必要な取り代を確保することができる。また、肉薄部分の厚みと基板の厚みとの差が小さいことにより、基板主表面平坦化のための機械加工時の取り代を削減することができる。具体的には、例えば、本発明のガラスブランクにおいて、肉薄部分の厚みが最終的に製造される基板の厚みより0.05mm厚ければ、ラップ工程を省略することができ、0.1mm厚ければ、#1000ラップで基板の厚み+0.05mmの厚さに加工することができる。
【0021】
さらに、本発明において、ガラスブランクは、図1に示すように、肉厚部分が肉薄部分の外周で形成される仮想平面より凸に出っ張る形状を有すること、即ち、ガラスブランクの反りが低減されていることが好ましい。ガラスブランクの反りは、ブランク全体が均一に肉薄部分と同じ厚さをもつと仮定したとき、凹形状になっている一方の主表面の外周で形成される仮想の平面と前記主表面の距離の最大値を意味する。本発明によれば、肉薄部分の厚みを均一に薄くすることができるため、ガラスブランクの反りを、例えば50μm以下に抑えることができる。具体的には、加工代が0.1〜0.2mmの場合は、ガラスブランクの反りが10μm以下であることが好ましく、加工代を0.05mm取る場合には、ガラスブランクの反りが5μm以下であることが好ましい。
【0022】
中心肉厚部分の直径は、以下の点を考慮しつつ大きいほうが伸び不良を抑制する上から好ましい。但し、中心肉厚部分の直径を決める上では、中心肉厚部分の体積がガラスブランクの総体積に占める割合も考慮する必要がある。中心肉厚部分は基板両主表面の平坦、平滑化加工前に除去されることが望ましいから、中心肉厚部分は、中心穴が設けられる領域内にあることが好ましく、中心肉厚部分の直径は中心穴内径以下とすることが好ましい。さらに、中心穴となるべき部分に貫通穴を開けた後、所定の内径仕上げ加工を行う場合、この内径仕上げ加工の取り代を中心穴の内径から差し引いた径を中心肉厚部分の直径の上限とすることが望ましい。さらに、周辺肉厚部分の厚みは均一であることが望ましく、円盤状ガラスブランクの形状は、円盤の中心軸のまわりに回転対称形状となっていることが好ましい。更に、回転対称軸に垂直な対称面を有する形状であることが好ましい。
【0023】
さらに、ガラスブランクの形状を決めるには、次の点をも考慮することが好ましい。
ガラスブランクを情報記録媒体用基板に加工する場合、ガラスブランクの中心に中心穴を形成した後、内径加工と呼ばれる中心穴内径の仕上げ加工を施す。また、ガラスブランクの外周部についても一定半径のディスク形状になるよう外径加工と呼ばれる仕上げ加工を施す。その際、中心穴の中心(内径の中心)と外周部の中心(外径の中心)を高精度に一致させる必要がある。2つの中心が僅かでもずれた基板を用いて情報記録媒体を作ると、安定した回転が得られないなどの問題が発生してしまう。そのため、内径の中心と外径の中心を如何にして一致させるかという点に注意を払わなければならない。
【0024】
まず、本発明のガラスブランクを得るためには、上述のように中心肉厚部分の直径が中心穴内径以下となるように、中心穴の位置にあわせて肉厚部分を成形することが好ましい。更に、形成しようとする中心穴の中心軸が、凸状面の中心と一致するように肉厚部分を成形することが好ましい。このような成形は、肉厚部分を転写成形する上下型成形面の中心軸が少なくともプレス時には一致するように設定し、下型成形面の中央に溶融ガラスをキャストすることによって達成することができる。より好ましくは、キャストされた溶融ガラスゴブが下型成形面の中心軸に対し全方位に対称な形状になるようにキャストする。
【0025】
本発明のガラスブランクを製造するに当たり、前記外周部を胴型などで規制しない(プレス成形過程において前記外周部が成形型に接触しない)ような成形法を用いて、外周部を自由表面とすることが、熱伝導による外周部からの熱放出量が低減され、プレス中のガラスの面内(プレス方向に対して垂直な面)の温度分布を低減することができるという観点から好ましい。これにより、肉薄部分に生じるうねりを低減することができるという利点がある。
【0026】
本発明において、ガラスブランクの下型成形面によって成形される主表面を主表面1、上型成形面によって成形される主表面を主表面2とすると、図2に示すように、下型成形面の中央部及び上型成形面の中央部に凹部を設けてプレス成形することにより、主表面1及び2において周辺肉薄部分に対して中心肉厚部分が凸である形状を有するガラスブランクを得ることができる。さらに、本発明では、中心肉厚部分と周辺肉薄部分の厚みの関係や、中心肉厚部分が占める体積の割合を所望の範囲とするように成形型の凹部の容積と周辺肉薄部分の厚みを設計してプレス成形することにより、所望の形状のガラスブランクを得ることができる。
【0027】
ガラスブランクの成形に使用される成形型としては、公知の金型を用いることができる。ダイレクトプレス成形に使用する成形型成形面の形状はガラスブランクに転写(反転)されるので、成形される薄板ガラスの形状、各部寸法をもとに、型成形面の形状、寸法を定めることができる。
キャスト、プレス成形型の搬送、ガラスブランクのテイクアウト、テイクアウトされたガラスブランクのアニールも公知の方法を適用することができる。
また使用するガラスとしては、情報記録媒体用基板のガラス材料として、又は熱処理による結晶化によって結晶化ガラス基板が得られるガラス材料として、それぞれ公知のガラス材料であって、プレス成形可能なものを用いることができる。
このようなガラス材料としては、アルカリ金属酸化物含有のアルミノシリケートガラス、さらに上記ガラスにアルカリ土類金属酸化物や酸化チタンを導入したガラス、希土類酸化物含有ガラスなどを例示することができる。
【0028】
アニールされたガラスブランクには、例えば、中心穴開け加工、内外径を仕上げる加工(面取り加工を含む)、両主表面の平坦、平滑化加工(ラッピング加工、粗研磨加工、仕上げ研磨加工)を施すことができる。本発明では、平坦、平滑化加工時の取り代を削減することができるので、上記ラッピング加工は番手#1000の研磨剤によるラッピング加工のみで十分となり、従来必要とされていた番手#400の研磨剤によるラッピング加工を省略することができる。
なお、中心穴開け加工後に両主表面の平坦、平滑化加工を行えば、肉厚部分が除去されたガラスブランクを平坦、平滑化すればよいので、平坦、平滑化加工の時間を短縮化することもできる。一方、中心穴開け加工の前に両主表面の平坦化加工、例えばラッピング加工を行う場合は、肉厚部分が研削板からの圧力を受けとめ、ラッピング開始時より肉薄部分のみに圧力が加わることを防ぐことができる。ガラスブランクに反りがあると、肉薄部分を弾性変形させた状態で平坦化加工を施しても、圧力を取り除くと上記変形が戻ってしまい、反りを低減できないという問題がある。本件出願人は先に、特開平10−194760号公報において、上記のような圧力を受けとめる部位を有するガラスブランクを提案している。加工順序を中心穴開け加工前に両主表面の平坦化加工を行えば、上記圧力を受けとめる部位として肉厚部分を利用することもできる。
【0029】
結晶化ガラス基板を得る際には、結晶化の熱処理工程を両主表面の平坦、平滑化加工前に行うことが望ましい。結晶化しない場合は、イオン交換法などによりガラスに化学強化を施して基板としてもよい。上記各工程の間には適宜、洗浄工程を設けてもよい。
【0030】
本発明では、このようにして取り代が必要最小限の範囲にあり、伸び不良のないガラスブランクを提供することができるとともに、このガラスブランクを使用することにより、比較的短時間かつ低労力で両主表面の平坦、平滑化加工を行い、生産性よく磁気記録媒体用基板、光磁気記録媒体用基板、光記録媒体用基板などの情報記録媒体用基板を提供することができる。
また、上記記録方式に応じて、磁気記録層、光磁気記録層、光記録層などを基板主表面上に設けることにより磁気記録媒体、光磁気記録媒体、光記録媒体などの情報記録媒体を提供することができる。
【0031】
情報記録媒体用基板として主に使用されているディスクの直径は、一般に、25〜97mmの範囲にある。従って、それに合わせて外径φ026〜98mmのガラスブランクとして、本発明のガラスブランクは好適である。以下、特に好適なものを例示する。
▲1▼外径φ0が27.4〜30mmのガラスブランク(直径1インチの情報記録媒体基板用)の場合、周辺肉薄部分の厚みtbが0.8mm以下、好ましくは0.44〜0.8mm;中心肉厚部分の厚みtaが0.8〜1.0mm;両主表面の平坦、平滑化加工における取り代が0.05〜0.4mm;中心肉厚部分の直径が4〜6mm;ガラスの総体積に対する中心肉厚部分が占めるガラス体積の割合が5.0〜8.0%であることが好ましい。このガラスブランクからは、例えば、外径27.4mm、厚み0.381mm、中心穴内径7.0mmの基板を得ることができる。
【0032】
▲2▼外径φ0が65〜68mmのガラスブランク(直径2.5インチの情報記録媒体基板用)の場合、周辺肉薄部分の厚みtbが1.0mm以下、好ましくは0.7〜1.0mm;中心肉厚部分の厚みtaが1.1〜1.5mm;両主表面の平坦、平滑化加工における取り代が0.05〜0.4mm;中心肉厚部分の直径が16〜19mm;ガラスの総体積に対する中心肉厚部分が占めるガラス体積の割合が8.0〜12.0%であることが好ましい。このガラスブランクからは、例えば、外径65.0mm、厚み0.635mm、中心穴内径20.0mmの基板を得ることができる。
【0033】
▲3▼外径φ0が95〜98mmのガラスブランク(直径3.5インチの情報記録媒体基板用)の場合、周辺肉薄部分の厚みtbが1.4mm以下、好ましくは1.05〜1.4mm;中心肉厚部分の厚みtaが1.5〜2.1mm;両主表面の平坦、平滑化加工における取り代が0.05〜0.4mm;中心肉厚部分の直径が21〜24mm;ガラスの総体積に対する中心肉厚部分が占めるガラス体積の割合が6.0〜10.0%であることが好ましい。このガラスブランクからは、例えば、外径95.0mm、厚み1.0mm、中心穴内径25.0mmの基板を得ることができる。
【0034】
【実施例】
(実施例1、2)
まず、周知のガラス溶解方法により溶融ガラスを用意し、鋳鉄からなる金型を上型、下型、胴型に用いてダイレクトプレス成形によってガラスブランクを成形した。ガラスブランクを構成するガラス材料は、転移温度(Tg)485℃、100〜300℃における平均線膨張係数が95×10-7/K、300℃〜Tgの範囲内でガラスの伸び率が温度変化に対して比例する範囲における線膨張係数が98×10-7/K、Tg〜530℃の範囲内でガラスの伸び率が温度変化に対して比例する範囲における線膨張係数が37×10-6/KであるSiO2、Al2O3、Li2O、Na2O、ZrO2よりなるガラスとした。成形の条件は、溶融ガラス塊を受ける下型の温度を500℃、下型上に投入される溶融ガラスの粘度を400ポアズ、プレス時間(ガラスに圧力を加える時間)を1秒以内とした。上型を上方へ退避して成形されたガラスブランクの上面から上型を離し、下型成形面上にてガラスブランクの温度がガラス転移温度付近まで下がるのを待つ。この間に、下型上でガラスブランクが反るのを修正するため、ガラスが塑性変形可能な状態にある間、適宜、押圧体により上面から圧力を加えて反りを直すとともに、押圧体によりガラスブランクから熱を奪って冷却を早めてもよい。ガラスブランクの温度がガラス転移温度付近まで下がってから、下型上の薄板ガラスを大気中へ取り出す。ダイレクトプレス成形は大気中で行われるが、ガラスブランクは高温の下型に接している間は急冷されないが、その下型からテイクアウトされた瞬間にガラス転移温度付近から全面が室温雰囲気に晒されることになり、急冷される。
【0035】
ダイレクトプレス成形された円盤状のガラスブランクの回転対称軸cを含む断面の概略を図3に示す。ここで、φ0は円盤状の薄板ガラスの外径、φ1は、図3の中心肉厚部分の主表面1(下面)の凸部の直径、φ2は、図3において中心肉厚部分の主表面2(上面)の凸部の直径、taは中央肉厚部分の厚さ、tbは周辺肉薄部分の厚さ、d1は主表面1(下面)における中心肉厚部分と周辺肉薄部分の段差、d2は主表面2(上面)における中心肉厚部分と周辺肉薄部分の段差に相当する。
実施例1及び2として、表1に示す形状、寸法のガラスブランクをダイレクトプレス成形により成形した。面取りの寸法はC0.3とした。
【0036】
テイクアウトされたガラスブランクは、アニール炉へ入れられてアニールされ、歪が取り除いた。その後、中央肉厚部分を機械加工により除去し、周辺肉薄部分からなるガラスに内外径加工を施し、番手#1000の研磨剤によるラッピング加工、粗研磨加工、精密研磨加工を両主表面に施し、磁気記録媒体用ガラス基板を得た。これらの工程中、適宜、洗浄工程を入れることもできる。
ガラスブランク、ガラス基板の平坦度、平面度、偏肉度、平行度を表1に示す。また、ガラス基板の中心線平均粗さRaを表1に示す。このように、本実施例によれば、基板両主表面の平坦、平滑化加工における取り代を削減しつつ、良好な形状のガラスブランクならびにガラス基板を作製することができた。
得られたガラス基板には必要の応じて、アルカリ金属溶融塩に浸漬してイオン交換による化学強化を施してもよい。
また、ガラスの種類を加熱処理によって結晶化ガラスが得られるもの、例えば、SiO2、Al2O3、TiO2、Na2O、MgO、CaO、Y2O3などの各成分を含むガラスが得られる溶融ガラスをダイレクトプレス成形し、実施例1、2と同様にしてガラスブランクを作り、このガラスブランクに結晶化のための熱処理工程、研削、研磨工程を適宜施して、結晶化ガラスよりなる中央穴付きディスク状基板を得ることもできる。
このようにして得られた各基板は磁気記録媒体用基板としてだけではなく、光磁気記録媒体用基板、光ディスクなどの情報記録媒体用基板としても好適である。
【0037】
【表1】
【0038】
(比較例1)
全面にわたり均一な肉厚を有するガラスブランクが得られるよう、上下型成形面とも平坦なプレス成形型を用い、肉厚0.7mm、外径66mmのガラスブランクのダイレクトプレス成形を試みた。成形条件は上記実施例に準じる。その結果、伸び不良が発生し、ガラスを円盤形状に成形することができなかった。
【0039】
(比較例2)
次に、下型中央部に窪みを設け、上型が平坦なプレス成型型を用いて、プレス成型を行いガラスブランクを作製し、このガラスブランクから、直径2.5インチの情報記録媒体用基板を作製した。得られた基板は、外周部と最もくぼんだ部分との高低差が10μmであり、平坦性に劣っていた。
【0040】
(実施例3)
実施例1、2で得られたガラス基板および結晶化ガラス基板の表面に磁性層(情報記録層)を含む多層膜を形成して磁気記録媒体(磁気ディスク)を作製した。作製された媒体はいずれも良好に機能することが確認された。
なお、情報記録層を含む多層膜の種類を周知の方法により適宜選択することにより光磁気記録媒体や光ディスクなどの他の情報記録媒体を作製することもできる。
【0041】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、基板両主表面の平坦、平滑化加工における取り代を削減可能にしつつ、良好な形状のガラス製基板ブランクを製造する方法を提供することができる。
さらに、上記ガラスブランクを使用することにより、生産性よく情報記録媒体用基板及び情報記録媒体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ガラスブランクの反りの概略図である。
【図2】 本発明のガラスブランクを作製するための成形型の概略図である。
【図3】 ダイレクトプレス法の説明図及びこの方法で得られる成形された円盤状のガラスブランクの断面図の概略である。
Claims (11)
- 周辺肉薄部分と中心肉厚部分を有する円盤状ガラスブランクであって、
前記肉厚部分の両方の面は、前記肉薄部分に対して凸状(以下、「凸状面」という)であり、かつ、
前記周辺肉薄部分の厚みと中心肉厚部分の厚みの比(周辺肉薄部分の厚み/中心肉厚部分の厚み)が、0.33〜0.90の範囲であることを特徴とするガラスブランク。 - 前記肉厚部分の厚みが前記肉薄部分の厚みより0.5〜3.0mm厚いことを特徴とする請求項1に記載のガラスブランク。
- 前記肉厚部分の体積が、ガラスブランクの総体積の6.0〜13.1%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラスブランク。
- 前記肉厚部分が、前記肉薄部分の外周で形成される仮想平面より凸に出っ張る形状を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラスブランク。
- 中心穴付き情報記録媒体用基板に加工される請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラスブランク。
- 前記肉厚部分が前記中心穴が開けられる領域内にあることを特徴とする請求項5に記載のガラスブランク。
- 前記肉薄部分の厚みが、前記基板の厚みより0.05〜0.4mm厚いことを特徴とする請求項5又は6に記載のガラスブランク。
- 溶融ガラスを下型と前記下型と対向する上型を用いてプレス成形して円盤状ガラスブランクを作製する請求項1〜7のいずれか1項に記載のガラスブランクの製造方法であって、
前記下型及び上型は、いずれも中央部に凹部を有し、かつ
前記下型の成形面中央に溶融ガラスを供給してプレス成形を行うことを特徴とするガラスブランクの製造方法。 - 請求項1〜7のいずれか1項に記載のガラスブランク又は請求項8に記載の製造方法によって製造されたガラスブランクに、中心穴を開ける加工、並びに前記肉薄部分の表面を平坦及び/又は平滑化する加工を施して、中心穴付き情報記録媒体用基板を作製する情報記録媒体用基板の製造方法。
- 前記肉薄部分の表面を平坦及び/又は平滑化する加工を、前記中心穴を開ける加工の後に行うことを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
- 請求項9又は10に記載の方法により作製された情報記録媒体用基板に情報記録層を形成する情報記録媒体の製造方法。
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