JP4132272B2 - アシルオキシ安息香酸の製造法 - Google Patents
アシルオキシ安息香酸の製造法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸素系漂白剤における漂白活性化剤として有用なアシルオキシ安息香酸の環境に温和でコスト的に有利な製造法に関する。さらには、実質上のカルボンの使用量を低減させた工業的に安価かつ容易に高純度のアシルオキシ安息香酸を得るための連続的製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
アシルオキシ安息香酸塩は、アシルオキシベンゼンスルホン酸塩と同様に過炭酸ナトリウム、過ほう酸ナトリウム等に代表される過酸化水素発生基質や過酸化水素と、水中で接触することにより低温でも容易に有機過酸を生成し、衣類等の汚れ、シミ汚れに対して有効に漂白性能を発揮するため、漂白活性化剤として特に有用な化合物である(特開平6 −211746号、特開平6 −145697号)。
【0003】
このアシルオキシ安息香酸は、上記いずれの公報でも、酸無水物とヒドロキシ安息香酸を多量のピリジン中で反応させて製造しており、コスト高、ピリジン臭などの問題があった。さらにこれらの製造法では高純度の製品が得られず、溶媒を使用しての精製操作が必要不可欠であり、その結果、収率は63〜90%と低いものであり、アシルオキシ安息香酸の商業生産プロセスとして不向きであった。
【0004】
なお、特開平8 −188553号には、ヒドロキシ安息香酸とカルボン酸ハライドあるいはカルボン酸無水物とを、カルボン酸中で反応させ、アシルオキシ安息香酸を製造する方法が記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
カルボン酸を溶媒として反応させると副反応が少なく結果として高収率で、アシルオキシ安息香酸を得ることができる。特開平8 −188553号公報ではこのカルボン酸の存在は、漂白剤組成物にした際、泡切れ剤として作用する旨の記載があり問題視していなかった。しかしながら、上記製造法で得られた、カルボン酸を含有したアシルオキシ安息香酸を、漂白活性剤に配合したところ、カルボン酸に由来する臭気がきつく、商品価値を下げることが判明した。
【0006】
そこで、反応で使用するカルボン酸の量を少なくし、臭気的に許容できる量まで減らすと多量体の副生が顕著となることが判明した。多量体とは、例えばp −モノヒドロキシ安息香酸を用いた場合の多量体は下の一般式で表される。
【0007】
【化7】
【0008】
〔式中、R1は炭素数5 〜21の、ハロゲンで置換されていてもよく、エステル基、アミド基、エーテル基あるいはフェニレン基が挿入されていてもよい直鎖または分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基、あるいは無置換もしくは炭素数1 〜22のハロゲンで置換されていてもよく、エステル基、アミド基、エーテル基あるいはフェニレン基が挿入されていてもよい直鎖または分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基あるいはハロゲンで置換されていてもよいフェニル基を示す。n=1の時が2量体、n=2 の時が3量体〕
【0009】
多量体には、各種溶媒に対する溶解性がほとんどないことから、多量体を多く含むアシルオキシ安息香酸を漂白活性剤に配合した場合、沈殿物、白濁あるいはオリといった現象が起き、配合安定性が悪くなり商品価値を下げることがわかった。
【0010】
このように、臭気が許容できるようにカルボン酸使用量を減らすと、多量体が多くなり、結果として漂白剤の配合安定性が低下する。逆に多量体の副生を抑制するためカルボン酸を大過剰に用いると、臭気が問題となる。したがって、臭気および副生する多量体が影響を与える配合安定性の両方を同時に満足する製造方法は未だ知られていなかった。
【0011】
更に、特開平8 −188553号公報記載の方法では、カルボン酸ハライドをアシル化剤に用いた場合、副生するハロゲン化水素ガスによる反応液の発泡やハロゲン化水素ガスの除害、さらにはハロゲン化水素ガスによる強度の装置腐食など問題をかかえており、工業的生産には適さず、環境にも問題を与え、製造装置の施設・維持がコスト高になる。また、カルボン酸無水物をアシル化剤として用いようとした場合、炭素数6 以上のカルボン酸無水物は通常工業的規模では販売されておらず、カルボン酸無水物をアシル化剤として用い、アシルオキシ安息香酸の製造を工業的規模で実施するのは困難であった。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、高純度のアシルオキシ安息香酸を製造するにあたり、高選択性でしかも高収率で、かつ安価で入手容易な原料を用い、廉価にアシルオキシ安息香酸を製造できる工業的に容易な製造法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、ヒドロキシ安息香酸とカルボン酸無水物との反応について鋭意検討の結果、ヒドロキシ安息香酸に特定のカルボン酸の存在下、低級カルボン酸無水物を反応させると、目的物であるアシルオキシ安息香酸の他に、低級アシルオキシ安息香酸および低級カルボン酸が副生した混合物となるが、この混合物を酸触媒の存在下、加熱し低級カルボン酸を留去することにより、低級アシルオキシ安息香酸の低級アシル基がカルボン酸のアシル基と交換反応を起こし、目的のアシルオキシ安息香酸のみが得られることを見出し、特殊な反応設備、反応原料を用いること無く、多量体を実質的に含まない目的のアシルオキシ安息香酸を得ることのできる本発明を完成するに至った。
【0014】
さらに、本発明のアシルオキシ安息香酸には、カルボン酸が含まれていたので、反応液を晶析し、結晶として取り上げることにより、カルボン酸含量の少ないアシルオキシ安息香酸を得、また、その母液を回収し次の反応のカルボン酸源として用いリサイクル反応を繰り返すと、驚くべきことに、実質上の収率が定量的となり、かつ実質上のカルボン酸使用量も低減出来ることを見いだし本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、一般式(1)
【0016】
【化8】
【0017】
〔式中、R1は炭素数5 〜21の、ハロゲンで置換されていてもよく、エステル基、アミド基、エーテル基あるいはフェニレン基が挿入されていてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基、あるいは無置換もしくは炭素数1 〜22の、ハロゲンで置換されていてもよく、エステル基、アミド基、エーテル基あるいはフェニレン基が挿入されていてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基あるいはハロゲンで置換されていてもよいフェニル基を示す。h は1 〜3 の数を示し、i は0 〜3 の数を示し、h +i =1 〜3 の数である。〕
で表されるアシルオキシ安息香酸を製造するに際し、一般式(2)
【0018】
【化9】
【0019】
〔式中、n :1 〜3 の数を示し、n =h +i である。ここで、h およびi は前記と同じ意味を示す。〕
で表されるヒドロキシ安息香酸と、一般式(3)
【0020】
【化10】
【0021】
〔式中、R1は前記と同じ意味を示す。〕
で表されるカルボン酸と、一般式(4)
【0022】
【化11】
【0023】
〔式中、R2は炭素数1 〜3 の、ハロゲンで置換されていてもよい、直鎖又は分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基を示す。〕
で表される低級カルボン酸無水物とを反応させ、一般式(1)で表されるアシルオキシ安息香酸と一般式(5)
【0024】
【化12】
【0025】
〔式中、R2は前記と同じ意味を示す。j は1 〜3 の数を示し、k は0 〜3 の数を示し、j +k =1 〜3 の数であり、かつ、j +k =n である。〕
で表される低級アシルオキシ安息香酸の混合物を得たのち、酸触媒の存在下、一般式(6)
【0026】
【化13】
【0027】
〔式中、R2は前記と同じ意味を示す。〕
で表される低級カルボン酸を留去しながら反応を行うことを特徴とする、一般式(1)のアシルオキシ安息香酸の製造法に関するものである。
【0028】
さらには、反応終了後、晶析によってアシルオキシ安息香酸を結晶として濾別したのちに、得られた母液を、次の反応の一般式(3)で表されるカルボン酸源として使用することを特徴とする、一般式(1)で表されるアシルオキシ安息香酸の連続的製造法に関するものである。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0030】
本発明の原料となるヒドロキシ安息香酸は前記一般式(2)で表されるが、カルボン酸と反応しうる活性点の置換基数n は1 〜3 であり、目的物の水溶性に応じて選択することができるが、好ましくは1 である。
【0031】
一般式(2)で表されるヒドロキシ安息香酸の具体例としては、サリチル酸、p −ヒドロキシ安息香酸、2 ,4 −ジヒドロキシ安息香酸、2 ,5 −ジヒドロキシ安息香酸、3 ,4 ,5 −トリヒドロキシ安息香酸が挙げられる。この中で原料供給面から、サリチル酸、p−ヒドロキシ安息香酸、2 ,4 −ジヒドロキシ安息香酸の使用が好ましく実用的である。更に、原料コストの面でサリチル酸、p−ヒドロキシ安息香酸が特に好ましい。
【0032】
なお、原料の一つであるモノヒドロキシ安息香酸においては、一般的にo−体であるサリチル酸はp −ヒドロキシ安息香酸に比べ、アシル化剤との反応性が低い。したがって、サリチル酸を原料として使用する場合は、長時間反応を行う等の対応が必要である。
【0033】
本発明で用いられる一般式(3)で表されるカルボン酸の具体例としては、n −ヘキサン酸、n −ヘプタン酸、i −ヘプタン酸、n −オクタン酸、2 −エチルヘキサン酸、n −ノナン酸、i −ノナン酸、3 ,5 ,5 −トリメチルヘキサン酸、n −デカン酸、i −デカン酸、n −ウンデカン酸、i −ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘン酸等に代表される脂肪酸、安息香酸、メチル安息香酸、オクチル安息香酸等に代表される芳香族カルボン酸、クロロカプロン酸、ブロモカプロン酸、クロロウンデカン酸等に代表されるハロゲン化アルキルカルボン酸、フェニル酢酸、フェニルプロピオン酸等に代表されるアリールアルキルカルボン酸等が挙げられる。これらのカルボン酸の中では、n −ヘキサン酸、n −ヘプタン酸、i −ヘプタン酸、n −オクタン酸、2 −エチルヘキサン酸、n −ノナン酸、i −ノナン酸、n −デカン酸、i −デカン酸、n −ウンデカン酸、i −ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等の炭素数6 〜16の直鎖又は分岐の脂肪酸が良好で、特に、親水性汚れ、疎水性汚れに対する効果及び水溶性の良好なものを得るために、炭素数6 〜14の直鎖又は分岐の脂肪酸が好ましい。例えば、特に親水性汚れ、疎水性汚れに対する効果のバランスの良好なラウロイルオキシ安息香酸を得るためには、ラウリン酸が特に好ましい。
【0034】
本発明において使用する一般式(3)で表されるカルボン酸の使用量は、一般式(2)で表されるヒドロキシ安息香酸に対して、1 〜100 当量で良好な結果が得られる。1 当量未満ではエステル化反応で未反応のヒドロキシ安息香酸が多く残存し好ましくない。100 当量を越えると生産性が低下し、多量に含まれるカルボン酸の影響で漂白剤組成物の臭気および安定性が低下する。より高い収率と副反応により生成する多量体の副生を抑え反応選択性を上げるために、2 〜20当量がより好ましい。また、生産性及び連続的製造法において晶析のし易さを考えると、最も好ましくは3 〜10当量である。なお、カルボン酸使用量は、取り上げ方法によって適切な量を選択することが好ましい、すなわち、反応液をそのまま漂白剤組成物に配合する場合は、カルボン酸使用量は少なくした方がよいが、反応液を晶析しろ過によってアシルオキシ安息香酸を取り上げる場合は、カルボン酸の使用量は多くても構わない。
【0035】
晶析して得られた母液を出発原料にしてリサイクル反応を行う場合は、反応でアシルオキシ安息香酸と反応したカルボン酸分が、原料となる母液から、すでに減少しているので、再反応前に、その減少分に見合う量のカルボン酸を追加することが好ましい。また、ろ過の際、結晶に付着したカルボン酸のよるロスもあるので、その分も考慮して追加しておくとよい。このように、ヒドロキシ安息香酸に対するカルボン酸使用量を一定にしておくと、リサイクルを繰り返しても一定の品質のアシルオキシ安息香酸が得られ易くなる。
【0036】
本発明で用いられる一般式(4)で表される低級カルボン酸無水物の具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水トリフルオロ酢酸、無水クロロ酢酸、無水トリクロロ酢酸などが挙げられる。これら酸無水物の中では、価格や副生してくる低級カルボン酸の沸点が低くて除去の容易な点から、無水酢酸が好ましい。
【0037】
低級カルボン酸無水物の使用量は、一般式(2)で表されるヒドロキシ安息香酸に対して0 .5 〜5 当量で良好な結果が得られる。0 .5 当量未満では、反応が十分進行せず未反応ヒドロキシ安息香酸が残存し、アシルオキシ安息香敢の収率低下を招く。5 当量を越える量では、低級アシルオキシ安息香酸の生成割合が増大し、転移反応に時間を要してしまう。また、生産コストの点からも好ましくない。反応収率および生産性を考慮すると、0 .8 〜1 .6 当量が好ましい。
【0038】
本発明において、一般式(2)で表されるヒドロキシ安息香酸、一般式(3)で表されるカルボン酸および一般式(4)で表される低級カルボン酸無水物の混合方法は、三成分全てを同時に混合、ヒドロキシ安息香酸とカルボン酸のスラリー液に低級カルボン酸無水物を加える、カルボン酸と低級カルボン酸無水物の混合物にヒドロキシ安息香酸を投入する、ヒドロキシ安息香酸に、低級カルボン酸無水物とカルボン酸の混合物を加える、などいずれの方法でもよい。好ましくは、ヒドロキシ安息香酸をカルボン酸によく分散させたスラリーに低級カルボン酸無水物を滴下する。滴下の温度は、カルボン酸の融点以上で行うことが出来るが、着色を抑えるために、150 ℃以下が好ましい。120 ℃以下がさらに好ましい結果を与える。滴下時間は、基本的には上記の温度が維持できる範囲内で設定が可能である。具体的には、バッチ式反応装置の場合は、反応スケールおよび反応槽攪拌のタイプに応じ1 分〜10時間であるが、特に制約はない。バッチ式反応装置以外に連続式反応装置を使用することもできる。この場合、低級カルボン酸無水物の滴下ゾーンの温度管理、および熟成ゾーンの温度管理を、複数のゾーンに分割し任意に制御できることが良好な結果を与える。熟成は使用するカルボン酸の融点以上で、150 ℃以下の温度がよい。反応を短時間で終了させ、かつ副反応を抑制するという点で、60〜120 ℃がさらに好ましい。熟成時間は、その温度に依存するが、例えば、150 ℃では約10分〜1 時間、100 ℃では約10分〜4 時間、80℃では約10分〜6 時間が適当である。なお、このアシル化反応では、低級カルボン酸無水物の滴下とともに、低級カルボン酸無水物に由来する低級カルボン酸が副生する。
【0039】
アシル化反応は、酸触媒がなくても進行するが、着色を抑制したいなどの理由により、より穏和な条件で反応したいときは、微量の酸触媒を添加するとよい。酸触媒としては、後述する転移反応で用いられる酸などが使用できる。添加量としては、次の転移反応より少ない量でも効果がある。具体的には、一般式(2)で表されるヒドロキシ安息香酸1 重量部に対し、0 .00001 〜0 .05重量部でよい。
【0040】
この反応で、一般式(2)で表されるヒドロキシ安息香酸は、一般式(1)で表されるアシルオキシ安息香酸と一般式(5)で表される低級アシルオキシ安息香酸とにアシル化される。この両者の比率は、使用したカルボン酸および低級カルボン酸無水物の種類、反応温度、酸触媒の種類などの条件によって異なる。カルボン酸として、直鎖アルキルカルボン酸を用いた場合は、カルボン酸の使用量が多いほど、アシルオキシ安息香酸の割合が高くなり、逆に低級カルボン酸無水物の使用量が多い場合は、低級アシルオキシ安息香酸の割合が高くなる傾向がある。したがって、次の転移反応の時間を短縮し着色を抑制するためには、臭気などの問題が許容されるならばカルボン酸の使用量は多い方がよい。なお、晶析して母液をリサイクルするのであればカルボン酸の使用量は多くすることができる。
【0041】
本発明においては、低級アシルオキシ安息香酸のアシルオキシ安息香酸への転移反応には酸触媒を用いる。この転移反応は、酸触媒なしでも進行するが、高い温度が必要で、かつ反応により多くの時間を要してしまう。反応時間を短縮する目的で反応温度を高くすると着色しやすくなることから、酸触媒を添加する。酸触媒の添加は、より低い温度で反応を完結させる作用を有することから、製品の着色を少なくする効果がある。
【0042】
本反応で用いられる酸触媒としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸などの鉱酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸などの有機スルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸などのハロゲン化酢酸、強酸性のイオン交換樹脂などが用いられる。これら混合物でも構わない。この内、有機スルホン酸が反応液への溶解性に富み、揮発性が低い点や、製品着色がより少ない点で好ましい。添加量としては、一般式(2)で表されるヒドロキシ安息香酸1 重量部に対し、0 .0001〜0 .1 重量部が好ましい。0 .0001重量部未満では転移反応が遅く、0 .1 重量部を越えて添加すると製品へのコンタミが無視できなくなり問題である。また、着色も激しくなる。
【0043】
なお、イオン交換樹脂を用いた場合は転移反応終了後、濾別する必要がある。また、硫酸などの揮発性の少ない酸触媒を用いた場合で、晶析母液を次の反応の出発原料に用いリサイクル反応する場合は、はじめに添加した酸触媒のほとんどが母液中に抜けるため、次バッチの反応では、添加する必要がないか、結晶側に付着しロスした分を補う程度でよい。
【0044】
低級アシルオキシ安息香酸のアシルオキシ安息香酸への転移反応は、副生する低級カルボン酸を留去しながら行う。低級カルボン酸の除去は、常圧あるいは減圧のいずれの方法でも行いうるが、減圧で留去する方が反応が速い。反応の温度は、80〜150 ℃が好ましい。80℃未満では反応が遅く、150 ℃を越えると着色が激しくなる。反応時間は、反応温度にも依存するが、150 ℃で約1 時間、100 ℃で1 〜4 時間、80℃では1 〜24時間が適当である。最終的には、カルボン酸が留出しない範囲の滅圧度、具体的は1 〜40mmHgの減圧度で完全に低級カルボン酸を留去する。低級カルボン酸が残存すると、漂白剤組成物に配合した場合、低級カルボン酸独特の臭気が問題となるので、できるだけ完全に除去しておくことが望ましい。
【0045】
溶媒は基本的には使用することなしに本発明の反応を行うことができるが、必要に応じて、例えばヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、クメン等の炭化水素系溶媒、クロロホルム、1 ,2 −ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、四塩化炭素などのハロゲン系溶媒、N ,N −ジメチルホルムアミド、N ,N −ジメチルアセトアミド、1 ,3 −ジメチル−2 −イミダゾリジノン等の非プロトン性極性溶媒、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶媒等の溶媒を、一般式(2)で表されるヒドロキシ安息香酸に対し 0 .1 〜20重量倍使用してもよい。
【0046】
こうして得られたアシルオキシ安息香酸には、使用したカルボン酸が含有される。しかし、例えば、衣料用洗剤などへの配合の場合は、これらカルボン酸は、洗剤中のアルカリ剤により、洗浄成分のひとつとして作用するとともに、すすぎ時の泡切れにも有効に作用しうる。したがって、本発明における反応終了物はそのままで洗剤の配合用にあるいは要すれば造粒操作に直接供給することが可能である。
【0047】
しかしながら、含有されるカルボン酸は臭気などの点で漂白剤組成物に配合した場合問題となることがある。臭気が許容できるところまでカルボン酸使用量を少なくすると、アシル化で低級アシルオキシ安息香酸の生成割合が増大し、転移反応にも時間を要したり、さらには二量体などの多量体の副生が顕著になり配合安定性に悪影響をおよぼすこともある。
【0048】
このようにカルボン酸の含有が問題となる場合は、以下の方法でカルボン酸を除くことができる。低沸点のカルボン酸を用いた場合は、減圧でカルボン酸を留去すればよい。高沸点のカルボン酸を用いた場合は、反応液を晶析したのちアシルオキシ安息香酸を結晶としてろ取する。晶折方法には制約はないが、冷却晶析法、溶媒を加え結晶を析出させる方法などいずれの方法でも構わない。用いたカルボン酸の融点が低い場合には、反応液をそのまま冷却し結晶を析出させる冷却晶析法がもっとも容易である。用いたカルボン酸の融点が高い場合は、既述したような溶媒を加えてから冷却晶析するとよい。
【0049】
連続的製造法における結晶の取り上げ方法は、自然ろ過、吸引ろ過、加圧ろ過、遠心分離など公知の方法で行うことができる。いずれの方法によっても、結晶中にカルボン酸が含まれるが、その量は極わずかであり、配合品にした際、臭気が問題になることはない。なお、このろ過操作によって、不純物の多量体や未反応ヒドロキシ安息香酸、低級アシルオキシ安息香酸も除去されるので、得られたアシルオキシ安息香酸は高純度のものが得られる。
【0050】
結晶中の微量のカルボン酸をも嫌う場合には、以下の操作を行う。すなわち、低沸点のカルボン酸を用いた場合は、得られた結晶を減圧で乾燥しカルボン酸を除去する。高沸点のカルボン酸を用いた場合は、ろ過後、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチルなどのエステル系溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素などのハロゲン系溶剤、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの炭化水素系溶媒で結晶を洗浄することによって、容易にカルボン酸を除去することができる。
【0051】
一方、ろ過して得られた母液には、少なからずアシルオキシ安息香酸が含まれている。このことはすなわち、結晶のアシルオキシ安息香酸純分の収率が少なくなっていることを意味する。母液中のアシルオキシ安息香酸の含有量は、晶析液中のアシルオキシ安息香酸濃度やろ過方法、ろ過温度、洗浄の有無によって異なる。このカルボン酸はアシルオキシ安息香酸を含んだまま、次のバッチの反応でのカルボン酸源として用いることができる。このリサイクルによって、母液に含まれていたアシルオキシ安息香酸は次の反応時に回収される。
【0052】
なお、晶析液からの結晶の分離後、先に述べた溶媒を用いて結晶を洗浄した場合、洗浄によって得られた洗液中にもカルボン酸およびアシルオキシ安息香酸が含まれているのではじめの母液に合わせて使用すると収率のロスがなくなり好ましい。ただし、このような洗浄溶媒や反応時に溶媒を用いた場合については、母液は次のような処理を施してからヒドロキシ安息香酸および低級カルボン酸無水物と反応させることが好ましい。すなわち、水で洗浄した場合は、分液によって水を除去したのち、減圧で水分を完全除去する。有機溶媒を反応溶媒や洗浄溶媒に用いた場合は、減圧で除去するだけでよい。水やアルコール系溶剤を用いた場合、これら溶媒が残存すると、低級カルボン酸無水物と反応し、低級カルボン酸無水物を無駄に消費してしまうため、酸無水物化反応の前に完全に除去しておくことが好ましい。
【0053】
【発明の作用】
本発明の反応において、低級カルボン酸無水物は、見かけ上、下記の反応式で表されるようなヒドロキシ安息香酸とカルボン酸とのエステル化反応における脱水剤として作用している。
【0054】
【化14】
【0055】
しかし、カルボン酸無水物とカルボン酸の混合物では、一般に混合酸無水物が形成されて平衡状態になっていると云われている。
【0056】
【化15】
【0057】
本発明のアシル化反応でも低級カルボン酸無水物とカルボンの間にはこのような平衡が成り立っていると考えられる。アシル化後では、一般式(1)で表されるアシルオキシ安息香酸と一般式(5)で表される低級アシルオキシ安息香酸の混合物が得られていることを考えると、この平衡で生成した各酸無水物がヒドロキシ安息香酸と反応していると考えるのが妥当である。酸無水物としては、反応で使用した一般式(4)で表される低級カルボン酸無水物、上記一般式(7 )で表されるカルボン酸と低級カルボン酸との混合酸無水物、そして上記一般式(8 )で表されるカルボン酸無水物である。低級カルボン酸無水物とヒドロキシ安息香酸とが反応すると、一般式(5)で表される低級アシルオキシ安息香酸が生成する。同様に、カルボン酸と低級カルボン酸との混合酸無水物とヒドロキシ安息香酸とが反応すると、一般式(1)で表されるアシルオキシ安息香酸と低級アシルオキシ安息香酸の混合物が生成する。カルボン酸無水物とヒドロキシ安息香酸が反応すると、アシルオキシ安息香酸が生成する。この結果、アシル化後の反応液はアシルオキシ安息香酸と低級アシルオキシ安息香酸の混合物となる。
【0058】
次の転移反応を容易にするには、アシル化反応で低級アシルオキシ安息香酸の生成を少なくしておくとよい。一般的には、カルボン酸より低級カルボン酸無水物のモル比が大きいと、低級アシルオキシ安息香酸の生成が多くなってしまう。よって、ヒドロキシ安息香酸とほば当量の低級カルボン酸無水物を用い、これに対して当量以上の過剰のカルボン酸を用い、目的のアシルオキシ安息香酸の割合を多くすることが望ましい。
【0059】
このように本反応では、腐食性の強いハロゲン化水素などの副生物は発生せず、腐食性の弱い低級カルボン酸が副生するのみであるので、グラスライニングなどの高価な耐食性材料の装置を用いずとも反応が可能である。さらに、アシル化反応および転移反応は同じ反応装置を用い連続的に処理することができるので、ひとつの反応槽で完結させることが可能となった。
【0060】
次に、母液をリサイクルすることによる作用効果について述べる。本発明方法において過剰のカルボン酸を用いた場合、晶析母液をリサイクルすることによって、実質的なカルボン酸の使用量はリサイクルをしない場合に比べ著しく低減させることができる。このことを具体的な事例を挙げて説明する。下図に本発明方法の反応式を模式的に簡単なスキームで示した。低級カルボン酸無水物としては無水酢酸、ヒドロキシ安息香酸としてはp −ヒドロキシ安息香酸を例にとって示した。なお反応における具体的なモル比も併記した。
【0061】
【化16】
【0062】
はじめのカルボン酸使用量は、ヒドロキシ安息香酸に対して過剰であるが、このうちの0 .8 モルはヒドロキシ安息香酸と反応しアシルオキシ安息香酸となる。このとき、0 .2 モルのアセチルオキシ安息香酸が副生する。次にこれら混合物に酸触媒を加え、酢酸を除去すると転移反応が進行し、この際、0 .2 モルのカルボン酸が消費される。当初のカルボン酸から1 モル減少することになるので、結果的に反応終了時には、カルボン酸は5 モルとなる。リサイクル反応を行う場合、次のバッチでも同量のヒドロキシ安息香酸を用いて反応を行う場合は、カルボン酸の初期使用量を合わせるため、1 モルのカルボン酸を新たに加え、計6 モルにしてから反応を行う。このようにしてリサイクルを繰り返せば、常に一定のモル比で反応を行えることになる。ちなみに、リサイクルを行わなかった場合とリサイクルを行った場合で、カルボン酸の使用量を比ペてみると、表1 に示したように、リサイクルを行った方が圧倒的に少ない。リサイクルを繰り返していくと1 バッチ当たりのカルボン酸使用量は限りなく1 にすることが可能である。これは、アシル化反応でアシルオキシ安息香酸の生成割合を高くし、転移反応を短時間で終了させるため、さらには、多量体含量を極端に下げるため、ヒドロキシ安息香酸に対するカルボン酸使用量をさらに多くした場合には非常に有効な手段となる。すなわち、本発明方法はより少ないカルボン酸使用量で、多量体の副生をも少なくした製造プロセスと云える。
【0063】
【表1】
【0064】
実際には、アシルオキシ安息香酸の結晶部にカルボン酸が付着しロスすることがあるので、その分に見合ったカルボン酸をさらに追加する必要がある。しかしながら、結晶へのカルボン酸の付着量は、仕込みカルボン酸量に比べれば少ないものであり、付着によるロスを考慮してもなお、本発明方法で使用するカルボン酸量は少ない。また、結晶に付着したカルボン酸は、ろ過後の結晶を既述したような方法で洗浄することで、母液側に洗い流すことができる。特に、高価なカルボン酸を用いる場合、洗浄処理によりカルボン酸を出来るだけ回収し、次の反応でのカルボン酸仕込み量を減らすことも可能である。
【0065】
つぎにリサイクルをした場合のアシルオキシ安息香酸の収率について説明する。アシル化および転移反応の反応収率はほば定量的であるが、ろ過の際、母液側に反応で生成したアシルオキシ安息香酸の一部が抜けてしまう。このため、得られた結晶中に含まれるアシルオキシ安息香酸の収率は定量的とはならない。通常、1 回目の反応では、転移反応で生成したアシルオキシ安息香酸の純分は、ろ過によって、結晶側:80%、母液側:20%程度に分別される。しかし、この母液をリサイクル反応させて取り上げたアシルオキシ安息香酸には、もともと母液に含有されていたアシルオキシ安息香酸分が加わってくる。リサイクル反応の間、原料のヒドロキシ安息香酸を各バッチ同量用い、反応で消費された分に見合う量のカルボン酸を追加して反応していった場合、仕込みヒドロキシ安息香酸量に対するアシルオキシ安息香酸結晶の取り上げの収率は、こうしたリサイクル反応を繰り返すほど向上し、最終的にははぼ定量的な収率となる。典型的な例では1 回目:78%、2 回目:95%、3 回目:102 %、4 回目:101 %と収率が推移・向上し、3 〜4 回反応させれば定量的な収率となる。収率が100 %を越えているのは、母夜中に含まれていたアシルオキシ安息香酸及び多量体が徐々に回収されていることを示している。1 〜2 回目の収率ロス分はリサイクルの回数が増えれば、上乗せされる形になり、実質上のアシルオキシ安息香酸の収率は定量的となる。リサイクルの回数については制限がなく、何度でも母液を回収して再反応することができる。
【0066】
母液には、多量体が濃縮された形になる。この母液をリサイクルしていくと、徐々に多量体が蓄積し多量体濃度が上がっていくが、3 〜4 回リサイクル反応をすると頭打ちになる(表2参照)。この理由は明らかではないが、おそらく多量体とカルボン酸の間に、下記反応式に示したような均一化反応が一部、おきていることによるものと考えられる。
【0067】
【化17】
【0068】
このことは、これまで不純物として存在していた多量体を目的物であるアシルオキシ安息香酸に変換できることを意味する。つまり、原料のヒドロキシ安息香酸が多量体の生成に消費される割合が従来法に比べ少なくなっており、結果として、ヒドロキシ安息香酸からのアシルオキシ安息香酸の収率が高くなっていると言える。このように、本発明方法は、多量体含量を少なくしたばかりでなく、従来法で副生していた多量体を、アシルオキシ安息香酸に還元することも可能にした優れた製法であるといえる。
【0069】
母液は回収使用しているうちに着色してくる場合もあるが、この場合には、活性炭あるいは活性白土などを用い、脱色処理を施してから低級カルボン酸無水物と反応するとよい。既述したように、特に商業生産プロセスとしては、リサイクルを繰り返せば繰り返すほど、安価にアシルオキシ安息香酸を製造できることになり、極めて優れた製造プロセスであると云える。
【0070】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0071】
実施例1
攪拌棒、温度計、滴下ロート、還流コンデンサーを具備するSUS 製フラスコに、オクタン酸288 .4g、p −ヒドロキシ安息香酸138 .2gを量りとり、攪拌しながら加熱した。85℃に達した時点で、無水酢酸102 .1gを滴下ロートより30分かけて滴下した。滴下終了後100 ℃まで昇温し30分間保持しアシル化した。液体クロマトグラフィーにより反応液を定量した結果、この時点での、p −オクタノイルオキシ安息香酸およびp −アセトキシ安息香酸の純分含有量は、各々、148 .0g (収率56%)、77.5gであった。次に、濃硫酸0 .2gを添加したのち、140 ℃まで温度を上げてから、反応系内を徐々に減圧し、80〜120mmHg の減圧度で酢酸を留去した。約0 .7 時間で酢酸の留出がほぼ終了したが、さらに20mmHgまで減圧し140 ℃で2 時間かけて完全に酢酸を除去した。留出物の重量は、118 .9gであり、これは用いた無水酢酸量から計算される理論量の99%であった。転移反応の終わった反応液を液体クロマトグラフィーにより定量した結果。p−ヒドロキシ安息香酸に対するp −オクタノイルオキシ安息香酸の純分は256 .4gで収率は97%であった。また、p−アセトキシ安息香酸の純分は、0 .5gであった。さらに、p−オクタノイルオキシ安息香酸に対する二量体含量は4 .2 %、三量体含量は0 .3 %であった。脂肪酸含有量は、145 .2gであった。色相はAPHA30であった。また、配合安定性試験および匂いの試験に供したところ、配合安定性:△、匂い試験:×であった。
【0072】
なお、反応物中のアシルオキシ安息香酸および脂肪酸の分析、色相は下記のように行った。
【0073】
1 )アシルオキシ安息香酸の分析
反応液、結晶および母液中のアシルオキシ安息香酸、および多量体の分析は、液体クロマトグラフィーにより、以下のカラム、溶離および検出器を用い、絶対検量線法にて行った。
【0074】
カラム:GL−サイエンス社製イナートシルODS −2 、4 .6 φ×150mm
溶離液:0 .03M −NaH2PO3 。(リン酸でpH2 .1 に調整)/CH3CN =3 /7 (vol /vol)
検出器:UV254nm
【0075】
2 )脂肪酸の分析
反応液、結晶および母液中の脂肪酸の分析はガスクロマトグラフィーにより、以下のカラムおよび検出器を用い、内部標準法にて行った。
【0076】
カラム:島津製Thermon −3000、担持量5 %、1m(担体SHINCARBON A)
キャリアーガス:ヘリウム
キャリアー流量:40ml/min
初期温度:170 ℃
昇温速度:5 ℃/min
最終温度:280 ℃
注入口温度:280 ℃
検出器:FID
【0077】
3 )色相
アシルオキシ安息香酸純分で5 重量%を、アセトニトリル/水=50/50(vol /vol)溶液に溶かし、APHA標準と比較した。
【0078】
4)配合安定性試験
2 %過炭酸ナトリウム水溶液100gに、アシルオキシ安息香酸純分として1g相当を40℃に加温して溶解したのち、5 ℃にて10日間保存した。10日後の状態を目視で観察した。
【0079】
評価の基準を次のように設定した。
◎ …無色透明液体
○ …わずかに白濁してしている
△ …白濁している
× …沈殿が見られる
【0080】
5)匂い試験
配合安定性試験で調製した試料を20℃に調整したのち、匂いのパネラー10名に匂いをかがせ、脂肪酸由来の臭気がするかどうか判定させ評価した。
【0081】
評価の基準を次のように設定した。
【0082】
◎ …10ないし9 名が脂肪酸由来の臭気がないと判定
○ …8 ないし7 名が脂肪酸由来の臭気がないと判定
△ …6 ないし5 名が脂肪酸由来の臭気がないと判定
× …6 名以上が脂肪酸由来の臭気があると判定
【0083】
比較例1
攪拌棒、温度計、滴下ロート、還流コンデンサーを具備するガラス製フラスコに、オクタン酸144 .2g、p−ヒドロキシ安息香酸138 .1gを量りとり、攪拌しながら加熱し均一のスラリーとした。80℃まで加熱したのち、オクタノイルクロライド(東京化成製)170 .8gを80℃の温度を保ちつつ1 時間かけて滴下した。滴下から熟成までの間、塩酸ガスの排出を促進し着色を防止するために窒素ガスを流通させた。滴下終了後、フラスコ内の温度を100 ℃に上げ、4 時間熟成した。反応終了後、100 ℃を保持したまま200mmHg に減圧し溶存していた塩酸ガスを除去した。反応液を液体クロマトグラフィーにより定量した結果、p−オクタノイルオキシ安息香酸の純分は240 .5gで、p−ヒドロキシ安息香酸に対する収率は91%であった。p−オクタノイルオキシ安息香酸に対する二量体含量は15.0 %であり、三量体含量は2 .9 %であった。脂肪酸含有量は162 .8gで、得られた反応物の色相はAPHA100であった。また、配合安定性試験および匂いの試験に供したところ、配合安定性:×、匂い試験:△であった。
【0084】
実施例2
攪拌棒、温度計、滴下ロート、還流コンデンサーを具備するSUS 製フラスコに、オクタン酸865 .3g、p−ヒドロキシ安息香酸138 .2gを量りとり、攪拌しながら加熱した。60℃に達した時点で、無水酢酸112 .3gを滴下ロートより1 時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1 時間、60℃で攪拌し、アシル化を行った。液体クロマトグラフィーにより定量した結果、この時点での、p−オクタノイルオキシ安息香酸およびp −アセトキシ安息香酸の含有量は、各々、216 .7g(収率82%)、32.4gであった。次に、p−トルエンスルホン酸一水和物0 .2gを添加したのち、120 ℃まで温度を上げてから、反応系内を徐々に100mmHg の減圧にし酢酸を留去した。約1 時間で酢酸の留出がほとんど終了したが、さらに10mmHgまで減圧し120 ℃で3 時間かけて完全に酢酸を除いた。留出物の重量は、134 .7gであり、これは用いた無水酢酸量から計算される理論量の102 %であった。反応液を液体クロマトグラフィーにより定量した結果、p−ヒドロキシ安息香酸に対するp −オクタノイルオキシ安息香酸の純分は259 .0g で収率は98%であった。また、p−アセトキシ安息香酸の純分は0 .4gであった。さらに、p−オクタノイルオキシ安息香酸に対する二量体含量は1 .1 %であり、三量体含量は0 .1 %であった。
【0085】
この反応液を、攪拌しながら水浴にて冷却し晶析した。30℃まで冷却したのち、析出したp −オクタノイルオキシ安息香酸の結晶を吸引ろ過によってろ別した。得られた結晶を分析したところ、目的物のp −オクタノイルオキシ安息香酸の純分は207 .2gであった。よって、ろ過による収率は80%であり、仕込んだp −ヒドロキシ安息香酸に対する全収率は78%であった。一方、母液についても同様に分析したところ、母液中のp −オクタノイルオキシ安息香酸の純分は51.8gで、収率に換算すると20%であった。ガスクロマトグラフィーで、オクタン酸の含量を定量したところ、結晶中には20.7g、母液中には698 .0g 含まれていた。また結晶の色相はAPHA10であった。また、配合安定性試験および匂いの試験に供したところ、配合安定性:◎、匂い試験:◎であった。
【0086】
実施例3 〜9
実施例2 で得られた母液を用い、表2 に示した仕込量で実施例2 と同様な反応条件でリサイクル反応を行った。各反応に用いた無水酢酸、オクタン酸およびp −ヒドロキシ安息香酸の使用量および、得られたp −オクタノイルオキシ安息香酸の純分および収率、p−オクタノイルオキシ安息香酸に対する多量体含量、さらに結晶および母液中のp −オクタノイルオキシ安息香酸、オクタン酸の純分量および多量体含量、さらには得られた結晶の色相、配合安定性試験、匂い試験の結果を表2 に示した。
【0087】
【表2】
【0088】
表2の結果から明らかなように、p−オクタノイルオキシ安息香酸の得量収率はほぼ定量的であった。また、多量体含量も1 %以下で極めて少なかった。色相についても良好であった。配合安定試験および匂い試験も良好であった。なお、オクタン酸の追加量は、理論量が144 .2gであるところ、その1 .16〜1 .29倍量であり、アシル化に必要なカルボン酸を除けば、0 .16〜0 .29倍量と極めて少ない量でリサイクルが可能であった。
【0089】
実施例10
攪拌棒、温度計、滴下ロート、還流コンデンサーを具備するSUS 製フラスコに、ラウリン酸801 .3g、サリチル酸138 .2gを量りとり、攪拌しながら加熱した。80℃に達した時点で、無水酢酸122 .5gを滴下ロートより1 時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに2 時間、80℃で撹拌し、アシル化を行った。液体クロマトグラフィーにより定量した結果、この時点での、o−ラウロイルオキシ安息香酸およびo−アセトキシ安息香酸の含有量は、各々、224 .3g(収率70%)、54.0g であった。次に、ベンゼンスルホン酸0 .4gを添加したのち、130 ℃まで温度を上げてから、反応系内を徐々に100mmHg の減圧にし酢酸を留去した。約1 時間で酢酸の留出がほとんど終了したが、さらに10mmHgまで滅圧し130 ℃で5 時間かけて完全に酢酸を除いた。留出物の重量は、149 .9gであり、これは用いた無水酢酸量から計算される理論量の104 %であった。反応液を液体クロマトグラフィーにより
定量した結果、サリチル酸に対するo−ラウロイルオキシ安息香酸の純分は310 .8gで収率は97%であった。また、o−アセトキシ安息香酸の純分は0 .4gであった。さらに、o−ラウロイルオキシ安息香酸に対する二量体含量は2 .7 %であり、三量体含量は0 .3 %であった。
【0090】
この反応液を、攪拌しながら水浴にて冷却し晶析した。50℃まで冷却したのち、析出したo−ラウロイルオキシ安息香酸の結晶を吸引ろ過によってろ別した。得られた結晶を分析したところ、目的物のo−ラウロイルオキシ安息香酸の純分は269 .2gであった。よって、ろ過による収率は84%であり、仕込んだサリチル酸に対する全収率は81%であった。一方、母液についても同様に分析したところ、母液中のo−ラウロイルオキシ安息香酸の純分は41.7gで、収率に換算すると13%であった。ガスクロマトグラフィーで、ラウリン酸の含量を定量したところ、結晶中には25.4g、母液中には571 .6g含まれていた。また結晶の色相はAPHA10であった。また、配合安定性試験および匂いの試験に供したところ、配合安定性:◎、匂い試験:◎であった。
【0091】
実施例11〜17
実施例10で得られた母液を用い、衰3 に示した仕込量で実施例10と同様な反応条件でリサイクル反応を行った。各リサイクル反応で得られたo−ラウロイルオキシ安息香酸の純分および収率、o−ラウロイルオキシ安息香酸に対する多量体含量、さらに結晶および母液中のo−ラウロイルオキシ安息香酸、ラウリン酸の純分量および多量体含量、さらには得られた結晶の色相、配合安定性試験、匂い試験の結果を表3 に示した。
【0092】
【表3】
【0093】
表3の結果から明らかなように、o −ラウロイルオキシ安息香酸の得量収率は4 回目のリサイクル以降ほば定量的であった。また、多量体含量も1 %以下で極めて少なかった。配合安定性試験および匂い試験は良好であった。色相についても非常に良好であった。なお、ラウリン酸の追加量は、理論量が200 .3gであるところ、実施例11以降のバッチでは1 .1 〜1 .2 倍量であり、アシル化に必要なカルボン酸を除けば、0 .1 〜0 .2 倍量と極めて少ない量でリサイクルが可能であった。
【0094】
【発明の効果】
本発明によれば、塩化水素ガスなどの腐食性の強い副生物の発生がないことからグラスライニングなどの耐食材料の装置を用いずとも、高収率かつ高純度のアシルオキシ安息香酸を得ることができる。さらに、晶析母液をリサイクル反応することによって、実質的に少ないカルボン酸使用量で、カルボン酸含量が極めて少なく、多量体の副生も少ない高純度のアシルオキシ安息香酸を、定量的な収率で、工業的に容易かつ安価に製造することが可能となった。
Claims (7)
- 一般式(1)
で表されるアシルオキシ安息香酸を製造するに際し、一般式(2)
で表されるヒドロキシ安息香酸と、一般式(3)
で表されるカルボン酸と、一般式(4)
で表される低級カルボン酸無水物とを反応させ、一般式(1)で表されるアシルオキシ安息香酸と一般式(5)
で表される低級カルボン酸を留去しながら反応を行うことを特徴とする、一般式(1)で表されるアシルオキシ安息香酸の製造法。 - 一般式(4)で表される低級カルボン酸無水物が無水酢酸であることを特徴とする請求項1 に記載のアシルオキシ安息香酸の製造法
- 一般式(3)で表されるカルボン酸が、炭素数6 〜14の直鎖又は分岐の脂肪酸である請求項1 又は2 記載のアシルオキシ安息香酸の製造法。
- 一般式(4)で表される低級カルボン酸酸無水物を、一般式(2)で表されるヒドロキシ安息香酸に対し0 .8 〜1 .6 当量使用することを特徴とする請求項1 ないし請求項3 のいずれか1 項に記載のアシルオキシ安息香酸の製造法
- 一般式(3)で表されるカルボン酸を、一般式(2)で表されるヒドロキシ安息香酸に対し1 〜100 当量使用することを特徴とする請求項1 ないし請求項4 のいずれか1 項に記載のアシルオキシ安息香酸の製造法。
- 酸触媒が、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、スルホン酸、トリフルオロ酢酸および強酸性イオン交換樹脂から選ばれる1 種または2 種以上の混合物であることを特徴とする、請求項1 ないし請求項5 のいずれか1 項に記載のアシルオキシ安息香酸の製造法。
- 請求項1ないし請求項6に記載の反応終了後、晶析によってアシルオキシ安息香酸を結晶として濾別したのちに得られた母液を、次の反応の一般式(3)で表されるカルボン酸源として使用することを特徴とする、アシルオキシ安息香酸の連続的製造法。
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