JP4194688B2 - アシルオキシ安息香酸の連続的製造法 - Google Patents
アシルオキシ安息香酸の連続的製造法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸素系漂白剤における漂白活性化剤として有用なアシルオキシ安息香酸の連続的製造法に関する。さらに詳しくは、多量体およびカルボン酸含量が少ないアシルオキシ安息香酸を製造するにあたり、実質上のカルボン酸の使用量を低減させた工業的に安価かつ容易に、アシルオキシ安息香酸を得るための連続的製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
アシルオキシ安息香酸塩は、アシルオキシベンゼンスルホン酸塩と同様に過炭酸ナトリウムや過ほう酸ナトリウム等に代表される過酸化水素発生基質や過酸化水素と、水中で接触させることにより低温でも容易に有機過酸を生成し、衣類等の汚れ、シミ汚れに対して有効に漂白性能を発揮するため、漂白活性化剤として特に有用な化合物である(特開平6 −211746号、特開平6 −145697号)。
【0003】
このアシルオキシ安息香酸塩は、上記いずれの公報でも、酸無水物とヒドロキシ安息香酸を多量のピリジン中で反応させて製造しており、コスト高、ピリジン臭などの問題があった。さらにこれらの製造法では高純度の製品が得られず、溶媒を使用しての精製操作/が必要不可欠であり、その結果、収率は63〜90%と低いものであり、アシルオキシ安息香酸の商業生産プロセスとして不向きであった。
【0004】
なお、特開平8 −188553号公報には、ヒドロキシ安息香酸とカルボン酸ハライドとを、カルボン酸中で反応させ、アシルオキシ安息香酸を製造する方法が記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
カルボン酸を溶媒として反応させると副反応が少なく結果として高収率で、アシルオキシ安息香酸を得ることができる。特開平8 −188553号公報ではこのカルボン酸の存在は、漂白剤組成物にした際、泡切れ剤として作用する旨の記載があり問題視していなかった。しかしながら、上記製造法で得られた、カルボン酸を含有したアシルオキシ安息香酸を、漂白活性剤に配合したところ、カルボン酸に由来する臭気がきつく、商品価値を下げることが判明した。
【0006】
そこで、反応で使用するカルボン酸の量を臭気的に許容できる量まで減らすと多量体の副生が顕著となることが判明した。多量体とは、例えばp −モノヒドロキシ安息香酸を用いた場合の多量体は下の一般式で表される。
【0007】
【化7】
【0008】
〔式中、R1は炭素数5 〜21の、ハロゲンで置換されていてもよく、エステル基、アミド基、エーテル基あるいはフェニレン基が挿入されていてもよい直鎖または分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基、あるいは無置換もしくは炭素数1 〜22のハロゲンで置換されていてもよく、エステル基、アミド基、エーテル基あるいはフェニレン基が挿入されていてもよい直鎖または分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基あるいはハロゲンで置換されていてもよいフェニル基を示す。n=1の時が2量体、n=2 の時が3量体〕
【0009】
多量体には、各種溶媒に対する溶解性がほとんどないことから、多量体を多く含むアシルオキシ安息香酸を漂白活性剤に配合した場合、沈殿物、白濁あるいはオリといった現象が起き、配合安定性が悪くなり商品価値を下げることがわかった。
【0010】
このように、臭気が許容できるようにカルボン酸使用量を減らすと、多量体が多くなり、結果として漂白剤の配合安定性が低下する。逆に多量体の副生を抑制するためカルボン酸を大過剰に用いると、臭気が問題となる。したがって、臭気および副生する多量体が影響を与える配合安定性の両方を同時に満足する製造方法は未だ知られていなかった。
【0011】
特開平8−217721号には、カルボン酸クロライドとヒドロキシ安息香酸とを、カルボン酸の存在下で反応させるアシルオキシ安息香酸の製造法が開示されている。この実施例の中では、反応終了後、カルボン酸を減圧で留去したのちヘキサンを加え、析出したアシルオキシ安息香酸の結晶を濾取すると記されている。このような方法では、高沸点のカルボン酸を用いた場合、減圧では除去しきれない。また、ヘキサンなどの精製溶媒を必要としコスト高になり工業的生産には不向きであった。なお、カルボン酸を溶媒に用い、アシルオキシ安息香酸を得たのち、溶媒のカルボン酸を留去しようとすると、着色といった問題や、カルボン酸が少なくなった時点から、不均化反応が起き、結果的に多量体が多くなってしまうことが本発明者による実験で判明した。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく、ヒドロキシ安息香酸とカルボン酸ハライドとの反応について鋭意検討の結果、特定のカルボン酸の存在下に反応を行ったのち、アシルオキシ安息香酸を結晶として析出させ、さらに、公知の方法によって結晶と母液に分離することによって、カルボン酸及び多量体含量の少ないアシルオキシ安息香酸を得るとともに、母液、すなわち、少量のアシルオキシ安息香酸を含有するカルボン酸を酸ハロゲン化剤で処理しカルボン酸をカルボンハライドに導き、再度ヒドロキシ安息香酸とエステル反応させるという、リサイクル反応を繰り返すと、驚くべきことに、実質上のカルボン酸の使用量が少なくこれまでになく高い転化率、高い選択性で、カルボン酸含量及び多量体含量が少なくしかも臭気の少ない配合安定性に優れた高純度のアシルオキシ安息香酸を定量的かつ工業的に容易かつ安価に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、一般式(1)
【0014】
【化8】
【0015】
〔式中、R1は炭素数5 〜21の、ハロゲンで置換されていてもよく、エステル基、アミド基、エーテル基あるいはフェニレン基が挿入されていてもよい直鎖または分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基、あるいは無置換もしくは炭素数1 〜22のハロゲンで置換されていてもよく、エステル基、アミド基、エーテル基あるいはフェニレン基が挿入されていてもよい直鎖または分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基あるいはハロゲンで置換されていてもよいフェニル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。〕
で表されるカルボン酸ハライドと一般式(2)
【0016】
【化9】
【0017】
〔式中、n は1 〜3 の整数を示す。〕
で表されるヒドロキシ安息香酸とをエステル化反応させて、該エステル化反応を繰返して一般式(3)
【0018】
【化10】
【0019】
〔式中、R1、n は前記定義に同じ。j は1 〜3 の数を示し、k はn からj を引いた数を示す。〕
で表されるアシルオキシ安息香酸を連続的に製造する方法であって、一般式(4)
【0020】
【化11】
【0021】
〔式中、R1は前記定義に同じ。〕
で表されるカルボン酸の存在下に前記エステル化反応を行ない、エステル化反応後の反応液を晶析処理して、前記一般式(3)のアシルオキシ安息香酸を濾別し、一般式(5)
【0022】
【化12】
【0023】
〔式中、R1は前記定義に同じ。h は1 〜3 の数を示し、i は0 〜3 の数を示し、h +i =1 〜3 の数である。〕
で表されるアシルオキシ安息香酸および前記一般式(4)で表されるカルボン酸を含む母液に、酸ハロゲン化剤を反応させ、前記一般式(4)で表されるカルボン酸を前記一般式(1)で表されるカルボン酸ハライドに変換した後、次回のエステル化反応に循環使用することを特徴とする一般式(3)
【0024】
【化13】
【0025】
〔式中、R11、j 、k 、n は前記定義に同じ。〕
で表されるアシルオキシ安息香酸の連続的製造法に関するものである。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0027】
本発明は、ヒドロキシカルボン酸とカルボン酸ハライドとのエステル化反応の反応母液を回収再利用することを特徴としているが、母液中に含まれる前記一般式(5)で表されるアシルオキシ安息香酸はカルボン酸とヒドロキシ安息香酸が縮合したエステルである。式中、R1COで表されるカルボン酸残基としては、一般式(4)で表されるカルボン酸残基であるが、具体的にはn −ヘキサン酸、n −ヘプタン酸、i −ヘプタン酸、n −オクタン酸、2 −エチルヘキサン酸、n −ノナン酸、i −ノナン酸、3 ,5 ,5 −トリメチルヘキサン酸、n −デカン酸、i −デカン酸、n −ウンデカン酸、i −ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘン酸等に代表される脂肪酸、安息香酸、メチル安息香酸、オクチル安息香酸等に代表される芳香族カルボン酸、クロロカプロン酸、ブロモカプロン酸、クロロウンデカン酸等に代表されるハロゲン化アルキルカルボン酸、フェニル酢酸、フェニルプロピオン酸等に代表されるアリールアルキルカルボン酸等のカルボン酸残基が挙げられる。
【0028】
一方、一般式(5)中のヒドロキシ安息香酸としては、一般式(1)で表されるモノ、ジあるいはトリヒドロキシ安息香酸である。具体的には、サリチル酸、p −ヒドロキシ安息香酸、2 ,4 −ジヒドロキシ安息香酸、2 ,5 −ジヒドロキシ安息香酸、3 ,4 ,5 −トリヒドロキシ安息香酸などが挙げられる。ポリヒドロキシ安息香酸の場合、少なくともひとつのヒドロキシ基がエステル化されているものである。
【0029】
一般式(4)で表されるカルボン酸に対する一般式(5)で表されるアシルオキシ安息香酸の含有量は特に制限がないが、60重量%以下が好ましい。60重量%を越えると、多量体の生成割合が多くなってしまう。
【0030】
一般式(5)で表されるアシルオキシ安息香酸は、後述するエステル化反応で得られた一般式(3)で表されるアシルオキシ安息香酸を晶析したのち、濾過によって得られた母液中に含まれるアシルオキシ安息香酸である。
【0031】
本発明で用いられる一般式(4)で表されるカルボン酸の具体例としては、n −ヘキサン酸、n −ヘブタン酸、i −ヘプタン酸、n −オクタン酸、2 −エチルヘキサン酸、n −ノナン酸、i −ノナン酸、3 ,5 ,5 −トリメチルヘキサン酸、n −デカン酸、i −デカン酸、n −ウンデカン酸、i −ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘン酸等に代表される脂肪酸、安息香酸、メチル安息香酸、オクチル安息香酸等に代表される芳香族カルボン酸、クロロカプロン酸、ブロモカプロン酸、クロロウンデカン酸等に代表されるハロゲン化アルキルカルボン酸、フェニル酢酸、フェニルプロピオン酸等に代表されるアリールアルキルカルボン酸等が挙げられる。これらのカルボン酸の中では、n −ヘキサン酸、n −ヘブタン酸、i −ヘブタン酸、n −オクタン酸、2 −エチルヘキサン酸、n −ノナン酸、i −ノナン酸、n −デカン酸、i −デカン酸、n −ウンデカン酸、i −ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等の炭素数6 〜16の直鎖または分岐の脂肪酸が良好で、特に、親水性汚れ、疎水性汚れに対する効果及び水溶性の良好なものを得るために、炭素数6 〜14の直鎖または分岐の脂肪酸が好ましい。例えば、特に親水性汚れ、疎水性汚れに対する効果のバランスの良好なラウロイルオキシ安息香酸を得るためには、ラウリン酸が特に好ましい。
【0032】
本発明において使用する一般式(4)で表されるアシルオキシ安息香酸を含有するカルボン酸の使用量は、一般式(2)で表されるヒドロキシ安息香酸に対して、1 .5 〜100 当量で良好な結果が得られる。1 .5 当量未満では多量体の生成が顕著となりアシルオキシ安息香酸の収率が低下するとともに、漂白剤に配合した際問題となる。100 当量を越えると生産性が低下する。また、晶析後のアシルオキシ安息香酸結晶の収率が低下する。より高い収率と多量体の副生を抑え反応選択性を上げるために、2 〜20当量がより好ましい。また、生産性及び晶析のし易さを考えると、最も好ましくは3 〜10当量である。
【0033】
晶析して得られた母液を出発原料にしてリサイクル反応を行う場合は、エステル化でヒドロキシ安息香酸と反応したカルボン酸分が、原料となる母液から、すでに減少しているので、酸ハロゲン化前に、その減少分に見合う量のカルボン酸を追加することが好ましい。また、濾過の際、結晶に付着したカルボン酸によるロスもあるので、その分も考慮して追加しておくとよい。このように、ヒドロキシ安息香酸に対するカルボン酸使用量を一定にしておくと、リサイクルを繰り返しても一定の品質のアシルオキシ安息香酸が得られ易くなる。なお、カルボン酸を追加するタイミングは、酸ハロゲン化反応前、エステル化反応前のいずれでも構わない。
【0034】
本発明で用いられる酸ハロゲン化剤は公知の化合物で本発明方法のプロセスを阻害することのないものであればいかなるものでも構わない。酸ハロゲン化剤の具体例としては、塩化チオニル、臭化チオニルなどのハロゲン化チオニル、塩化ホスホリル、三塩化リン、三臭化リンなどの三ハロゲン化リン、五塩化リンなどの五ハロゲン化リン、アセチルクロライドなどのアセチルハライド、シュウ酸塩化物、シュウ酸臭化物などのシュウ酸ハライド、α,α−ジクロロアルキルエーテルなどのα,α−ジハロゲノエーテル、トリフェニルホスフイン−四塩化炭素錯体などの有機リンハロゲン化物、ホスホハロゲン化物、ホスゲンなどが挙げられる。これら酸ハロゲン化剤の中では、副生物の沸点が低くて除去の容易な塩化チオニルが好ましい。三塩化リンや五塩化リンなども適しているが、副生してくる亜リン酸や塩化ホスホリルをエステル化反応前に除去しておく必要がある。
【0035】
酸ハロゲン化剤の使用量は、一般式(2)で表されるヒドロキシ安息香酸に対して0 .5 〜5 当量で良好な結果が得られる。0 .5 当量未満では、エステル化反応が十分進行せず未反応ヒドロキシ安息香酸が残存し、アシルオキシ安息香酸の収率低下を招く。5 当量を越える量では、必要以上の過剰なカルボン酸ハライドが生成し、エステル化反応後も残存することになり、アシルオキシ安息香酸の臭気に悪影響を及ぼす。また、生産コストの点からも好ましくない。反応収率および生産性を考慮すると、0 .8 〜1 .6 当量が好ましい。
【0036】
本発明において、酸ハロゲン化剤は、一般式(5)で表されるアシルオキシ安息香酸を含有した一般式(4)で表されるカルボン酸に滴下あるいは投入する。酸ハロゲン化剤の滴下あるいは投入は、使用するカルボン酸の融点以上の温度で行うことが出来る。酸ハロゲン化剤として塩化チオニルを用いた場合は、0 〜70℃で滴下することが好ましい。0 ℃未満では、反応が遅い。70℃を越えると副生する塩化水素ガスおよび亜硫酸ガスにより反応系内の発泡が激しくなり、温度制御が難しくなる。三塩化リンを用いた場合は塩化チオニルの場合より高めの温度が必要である。30〜100 ℃で滴下することが好ましい。滴下時間は基本的には上記温度が維持できる範囲内で設定が可能である。バッチ式反応装置の場合は、反応スケールおよび反応槽、攪拌のタイプに応じ1 分〜10時間であるが、特に制約はない。バッチ式反応装置以外に連続式反応装置を使用することもできる。この場合、酸ハロゲン化剤の滴下ゾーンの温度管理、および熟成ゾーンの温度管理を、複数のゾーンに分割し任意に制御できることが良好な結果を与える。熟成は、使用するカルボン酸の融点以上で、150 ℃以下の温度がよい。反応を短時間で終了させ、かつ副反応を抑制するという点で20〜100 ℃が更に好ましい。
【0037】
この反応では酸ハロゲン化剤に由来する副生物が発生する。例えば塩化チオニルを用いた場合は、塩化水素ガスおよび亜硫酸ガスが副生する。これら副生物は次工程のエステル化を阻害するものではないので、この段階で除去する必要はないが、アシルオキシ安息香酸の臭気を特に問題にするのであれば、除去しておくことも可能である。除去は常圧ないし減圧で加熱することによって容易に行うことが出来る。三塩化リンを用いた場合は亜リン酸、五塩化リンを用いた場合はさらに塩化ホスホリルが副生する。これらは、分液によって容易に除去可能であるので、エステル化反応前に除去しておくことが望ましい。酸ハロゲン化剤をカルボン酸に対して過剰に用いた場合は、エステル化反応前に常庄または減圧で除去しておくことが望ましい。
【0038】
こうして得られたカルボン酸ハライドは、一般式(1)で表される。ヤシ油脂肪酸などの混合脂肪酸を用いた場合は、鎖長の異なるカルボン酸ハライドの混合物が得られる。この場合は2 種以上のアシルオキシ安息香酸の混合物が得られる。混合物の場合、得られたアシルオキシ安息香酸混合物中の各アシル基組成は、用いたカルボン酸の組成に近くなるが、炭素鎖長や立体障害などの要因から、酸無水物化およびエステル化の反応性において差違が生じるので、幾らか異なる場合がある。直鎖蝕和カルボン酸では、炭素鎖が短い方が長いものより反応性が若干高い傾向がある。
【0039】
本発明方法によって得られたカルボン酸ハライドは、一般式(4)で表されるカルボン酸中に存在する。通常の反応条件であれば酸ハロゲン化はほば定量的に進行するので、用いた酸ハロゲン化剤とほば当量のカルボン酸ハライドが生成することになる。なお、酸ハロゲン化工程において、一般式(5)で表されるアシルオキシ安息香酸は酸ハロゲン化剤とほとんど反応せず、そのままの形で存在する。すなわち、酸ハロゲン化が完了した時点では、一般式(1)で表されるカルボン酸ハライド、一般式(5)で表されるアシルオキシ安息香酸および、一般式(4)で表されるカルボン酸の混合物となっている。
【0040】
本発明の原料となるヒドロキシ安息香酸は前記一般式(2)で表されるが、カルボン酸ハライドと反応しうる活性点の置換基数n は1 〜3 であり、目的物の水溶性に応じて選択することができるが、好ましくは1 である。
【0041】
本発明の原料となる一般式(2)で表されるヒドロキシ安息香酸の具体例としては、サリチル酸、p −ヒドロキシ安息香酸、2 ,4 −ジヒドロキシ安息香酸、2 ,5 −ジヒドロキシ安息香酸、3 ,4 ,5 −トリヒドロキシ安息香酸が挙げられる。この中で原料供給面から、サリチル酸、p −ヒドロキシ安息香酸、2 ,4 −ジヒドロキシ安息香酸の使用が好ましく実用的である。更に、原料コストの面でサリチル酸、p −ヒドロキシ安息香酸が特に好ましい。
【0042】
一般式(1)で表されるカルボン酸ハライドは、一般式(2)で表されるヒドロキシ安息香酸と反応させエステル化される。反応方法としては、ヒドロキシ安息香酸にカルボン酸ハライドを含んだカルボン酸を加え加熱するが、好ましくは、ヒドロキシ安息香酸を一般式(4)で表されるカルボン酸によく分散させたスラリーに、カルボン酸ハライドを含んだカルボン酸を滴下する。滴下は使用するカルボン酸の融点以上の温度で行うことができる。カルボン酸ハライド由来の副反応を抑制するために、滴下時の温度は150 ℃以下が好ましい。120 ℃以下が更に好ましい結果を与える。滴下時間は、基本的には上記の温度が維持できる範囲内で設定が可能である。またカルボン酸ハライドの滴下とともに塩酸などのハロゲン化水素が副生するため、その除去が十分出来るように滴下時間を調整することが望ましい。具体的には、バッチ式反応装置の場合は、反応スケール及び反応槽、攪拌のタイプに応じ1 分〜10時間であるが、特に制約はない。バッチ式反応装置以外に連続式反応装置を使用することもできる。この場合、カルボン酸ハライドの滴下ゾーンの温度管理、及び熟成ゾーンの温度管理を、複数のゾーンに分割し任意に制御できることが良好な結果を与える。熟成は、使用するカルボン酸の融点以上で、150 ℃以下の温度がよい。反応を短時間で終了させ、かつ副反応を抑制するという点で、60〜120 ℃が更に好ましい。熟成時間は、その温度に依存するが、例えば、150 ℃では約1 時間、100 ℃では約1 〜4 時間、80℃では約1 〜6 時間が適当である。
【0043】
なお、原料の一つであるモノヒドロキシ安息香酸においては、一般的にo −体であるサリチル酸はp −ヒドロキシ安息香酸に比べ、カルボン酸ハライドとの反応性が低い。したがって、サリチル酸を原料として使用する場合は、長時間反応を行う等の対応が必要である。
【0044】
エステル化反応ではカルボン酸ハライドに由来するハロゲン化水素が発生する。通常の反応温度であれば、これらハロゲン化水素はガスとして系外に排出されるが、溶存ハロゲン化水素は臭気や濾過装置の腐食などの問題を引き起こすので、エステル化反応終了後可能な限り除去しておくことが望ましい。除去の方法としては、減圧で除去する方法や窒素などの不活性ガスを流通させる方法、水を加え分液水洗する方法などが挙げられる。
【0045】
エステル化反応において、溶媒は基本的には使用することなしに本発明の反応を行うことができるが、必要に応じて、例えばヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、クメン等の炭化水素系溶媒、クロロホルム、1 ,2 −ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、四塩化炭素などのハロゲン系溶媒、N ,N −ジメチルホルムアミド、N ,N −ジメチルアセトアミド、1 ,3 −ジメチル−2 −イミダゾリジノン等の非プロトン性極性溶媒、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶媒等の溶媒を、一般式(2)で表されるヒドロキシ安息香酸に対し 0 .1 〜20重量倍使用してもよい。
【0046】
エステル化反応終了後、反応液からアシルオキシ安息香酸を取り上げるため、アシルオキシ安息香酸を晶析する。晶折方法は特に限定されないが、冷却晶析法、溶媒を加え結晶を析出させる方法、カルボン酸を留去して結晶を析出させる方法などいずれの方法でも構わない。用いたカルボン酸の融点が低い場合には、エステル化反応終了後、反応液をそのまま冷却し結晶を析出させる冷却晶析法が最も容易である。用いたカルボン酸の融点が高い場合には、溶媒を加えてから冷却晶析するとよい。
【0047】
アシルオキシ安息香酸の結晶の取り上げ法は、自然濾過、吸引濾過、加圧濾過、遠心分離など公知の方法で行うことができる。いずれの方法によっても、結晶中にカルボン酸が含まれるが、その量はわずかであり、配合品にした際、臭気が問題になることはない。
【0048】
微量のカルボン酸をも嫌う場合には、以下の操作を行う。すなわち、低沸点のカルボン酸を用いた場合は、得られた結晶を減圧で乾燥しカルボン酸を除去する。高沸点のカルボン酸を用いた場合は、濾過後、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチルなどのエステル系溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素などのハロゲン系溶剤、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの炭化水素系溶媒で結晶を洗浄することによって、容易にカルボン酸を除去することができる。
【0049】
一方、濾過して得られた母液には、少なからずアシルオキシ安息香酸が含まれている。すなわちこの母液は、アシルオキシ安息香酸を含有したカルボン酸である。カルボン酸中のアシルオキシ安息香酸の含有量は、晶析液中のアシルオキシ安息香酸濃度や濾過方法、濾過温度、洗浄の有無によって異なる。このカルボン酸はアシルオキシ安息香酸を含んだまま、既述したように、酸ハロゲン化剤と反応させ、カルボン酸ハライドとしたのち、ヒドロキシ安息香酸と反応させ、アシルオキシ安息香酸を得るための原料として循環的に使うことができる。
【0050】
なお、晶析液からの結晶の分離後、先に述べた溶媒を用いて結晶を洗浄した場合、洗浄によって得られた洗液中にもカルボン酸およびアシルオキシ安息香酸が含まれているのではじめの母液に合わせて使用すると収率のロスがなくなり好ましい。ただし、このような洗浄溶媒やエステル化反応時に溶媒を用いた場合については、母液は次のような処理を施してから酸ハロゲン化剤と反応させることが好ましい。すなわち、水で洗浄した場合は、分液によって水を除去したのち、減圧で水分を完全除去する。有機溶媒を反応溶媒や洗浄溶媒に用いた場合は、減圧で除去するだけでよい。水やアルコール系溶剤を用いた場合、これら溶媒が残存すると、酸ハロゲン化剤と反応し、酸ハロゲン化剤を無駄に消費してしまうため、酸ハロゲン化反応の前に完全に除去しておくことが好ましい。
【0051】
【発明の作用】
本発明方法において、晶析母液をリサイクルすることによって、カルボン酸の使用量はリサイクルをしない場合に比べ著しく低減させることができる。このことを具体的な事例を挙げて説明する。下図に本発明方法の反応式を模式的に簡単なスキームで示した。酸ハロゲン化剤としては三塩化リン、ヒドロキシ安息香酸としてはp −ヒドロキシ安息香酸を例にとって示した。なお反応における具体的なモル比も併記した。
【0052】
【化14】
【0053】
はじめのカルボン酸使用量は、ヒドロキシ安息香酸に対して過剰であるが、このうちの1 モルは酸クロライド化されカルボン酸クロライドとなる。これが、エステル化反応でヒドロキシ安息香酸と反応し、アシルオキシ安息香酸を生成する。したがって、エステル化反応終了時には、はじめのカルボン酸量より1 モル少ない5 モルのカルボン酸が存在することになる。リサイクル反応を行う場合、次のバッチでも同量のヒドロキシ安息香酸を用いて反応を行う場合は、カルボン酸の初期使用量を合わせるため、1 モルのカルボン酸を新たに加え、計6 モルにしてから反応を行うとよい。このようにしてリサイクルを繰り返せば、常に一定のモル比で反応を行えることになる。ちなみに、リサイクルを行わなかった場合とリサイクルを行った場合で、カルボン酸の使用量を比べてみると、表1 に示したように、リサイクルを行った方が圧倒的に少ない。リサイクルを繰り返していくと1 バッチ当たりのカルボン酸使用量は限りなく1 にすることが可能である。これは、多量体含量を極端に下げるため、ヒドロキシ安息香酸に対するカルボン酸使用量をさらに多くした場合には非常に有効な手段となる。すなわち、本発明方法はより少ないカルボン酸使用量で、多量体の副生を少なくした製造プロセスと云える。
【0054】
【表1】
【0055】
実際には、アシルオキシ安息香酸の結晶部にカルボン酸が付着しロスすることがあるので、その分に見合ったカルボン酸をさらに追加する必要がある。しかしながら、結晶へのカルボン酸の付着量は、仕込みカルボン酸量に比べれば少ないものであり、付着によるロスを考慮してもなお、本発明方法で使用するカルボン酸量は少ない。また、結晶に付着したカルボン酸は、濾過後の結晶を既述したような方法で洗浄することで、母液側に洗い流すことができる。特に、高価なカルボン酸を用いる場合、洗浄処理によりカルボン酸を出来るだけ回収し、次の反応でのカルボン酸仕込み量を減らすことも可能である。
【0056】
つぎにリサイクルをした場合のアシルオキシ安息香酸の収率について説明する。酸ハロゲン化およびエステル化の反応収率ははば定量的であるが、濾過の際、母液側にエステル化反応で生成したアシルオキシ安息香敢の一部が抜けてしまう。このため、得られた結晶中に含まれるアシルオキシ安息香酸の収率は定量的とはならない。通常、1 回目の反応では、エステル化反応で生成したアシルオキシ安息香酸の純分は、濾過によって、結晶側:80%、母液側:20%程度に分別される。しかし、この母液をリサイクル反応させて取り上げたアシルオキシ安息香酸には、もともと母液に含有されていたアシルオキシ安息香酸分が加わってくる。リサイクル反応の間、原料のヒドロキシ安息香酸を各バッチ同量用い、エステル化反応で消費された分に見合う量のカルボン酸を追加して反応していった場合、仕込みヒドロキシ安息香酸量に対するアシルオキシ安息香酸結晶の取り上げの収率は、こうしたリサイクル反応を繰り返すほど向上し、最終的にはほぼ定量的な収率となる。
【0057】
典型的な例では1 回目:80%、2 回目:96%、3 回目:102 %、4 回目:101 %と収率が推移・向上し、3 〜4 回反応させれば定量的な収率となる。収率が100 %を越えているのは、母液中に含まれていたアシルオキシ安息香酸が徐々に回収されていることを示している。1 〜2 回目の収率ロス分はリサイクルの回数が増えれば、上乗せされる形になり、実質上のアシルオキシ安息香酸の収率は定量的となる。
【0058】
リサイクルの回数については制限がなく、何度でも母液を回収して再反応することができる。母液は回収しているうちに着色してくる場合もあるが、この場合には、活性炭あるいは活性白土などを用い、脱色処理を施してから酸ハロゲン化剤と反応するとよい。既述したように、特に商業生産プロセスとしては、リサイクルを繰り返せば繰り返すほど、安価にアシルオキシ安息香酸を製造できることになり、極めて優れた製造プロセスであると云える。
【0059】
本発明方法の優れた特徴として、得られたアシルオキシ安息香酸結晶中の多量体含量の少ない点が挙げられる。エステル化反応で副生した多量体はろ過によって、かなりの部分が母液側に抜けてしまう。このため、得られたアシルオキシ安息香酸中のアシルオキシ安息香酸に対する多量体含量は、エステル化反応が終了した時点での、アシルオキシ安息香酸に対する多量体含量よりもかなり少なくなる。この結果、本発明方法によって得られたアシルオキシ安息香酸は漂白剤組成物に配合しても、オリや白濁が認められないという優れた特徴を発揮する。一方、母液には、多量体が濃縮された形になる。この母液をリサイクルしていくと、徐々に多量体が蓄積し多量体濃度が上がっていくが、3 〜4 回リサイクル反応をすると頭打ちになる。この理由は明らかではないが、おそらく多量体とカルボン酸の間に、下記反応式に示したような均一化反応が一部、おきていることによるものと考えられる。
【0060】
【化15】
【0061】
て存在していた多量体を目的物であるアシルオキシ安息香酸に変換できることを意味する。つまり、原料のヒドロキシ安息香酸が多量体の生成に消費される割合が従来法に比べ少なくなっており、結果として、ヒドロキシ安息香酸からのアシルオキシ安息香酸の収率が高くなっていると言える。このように、本発明方法は、多量体含量を少なくしたばかりでなく、従来法で副生していた多量体を、アシルオキシ安息香酸に還元することも可能にした優れた製法であるといえる。
【0062】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0063】
製造例1
攪拌棒、温度計、還流コンデンサーを備えた蒸留ヘッドを具備するフラスコに、オクタン酸865 .3gを量りとり、30℃に加温した。これに塩化チオニル130 .9gを30℃の温度を維持させつつ、1 時間かけて滴下した。その後、50℃まで加熱し2 時間熟成した。酸クロライド化反応終了後、減圧にて塩酸ガスおよび亜硫酸ガスを除去した。釜残のオクタノイルクロライドを含有するオクタン酸の重量は885 .6gであった。一方、攪拌棒、温度計、窒素ガス流通バルブおよび還流コンデンサーを具備したフラスコに、p −ヒドロキシ安息香酸138 .1gおよびオクタン酸144 .2gを量りとり、良く攪拌して均一のスラリーとし、60℃に加熱しておいたところに、先のオクタノイルクロライドを含有するオクタン酸を60℃で1 時間かけて滴下した。滴下から熟成までの間、塩酸ガスの排出を促進し着色を防止するために窒素ガスを流通させた。滴下終了後、反応温度を80℃に上げ、4 時間熟成した。反応終了後、80℃を保持したまま200To r r に減圧し溶存していた塩酸ガスを除去した。この時、この反応物は均一溶液であった。反応液を液体クロマトグラフィーにより定量した結果、p −ヒドロキシ安息香酸に対するp −オクタノイルオキシ安息香駿の純分は261 .7gで収率は99%であった。p−オクタノイルオキシ安息香酸に対する二量体含量は1 .4 %であり、三量体含量は0 .1 %であった。この時点での配合安定性試験は◎であったが、匂い試験は×であった。
【0064】
この反応液を、攪拌しながら水浴にて冷却し晶析した。20℃まで冷却したのち、析出したp −オクタノイルオキシ安息香酸の結晶を吸引濾過によって濾別した。得られた結晶を分析したところ、目的物のp −オクタノイルオキシ安息香酸の純分は209 .4gであった。よって、濾過による収率は80%であり、仕込んだp −ヒドロキシ安息香酸に対する全収率は79%であった。一方、母液についても同様に分析したところ、母液中のp −オクタノイルオキシ安息香酸の純分は52.3gで、収率に換算すると20%であった。
【0065】
ガスクロマトグラフィーで、オクタン酸の含量を定量したところ、結晶中には31.4g、母液中には819 .5g含まれていた。また結晶の色相はAPHA10であった。配合安定性試験は◎であった。また匂い試験は◎であった。
【0066】
なお、反応物中のアシルオキシ安息香酸および脂肪酸の分析、色相、配合安定性試験、匂い試験は下記のように行った。
【0067】
1 ) アシルオキシ安息香酸の分析
反応液、結晶および母液中のアシルオキシ安息香酸の分析は、液体クロマトグラフィーにより、以下のカラム、溶離液および検出器を用い、絶対検量線法にて行った。
【0068】
カラム:GL−サイエンス社製イナートシルODS −2 、4 .6 φ×150mm
溶離液:0 .03M −NaH2PO4 (リン酸でpH2 .1 に調整)/CH33CN=3 /7
検出器:UV254nm
【0069】
2 ) 脂肪酸の分析
反応液、結晶および母液中の脂肪敢の分析はガスクロマトグラフィーにより、以下のカラムおよび検出器を用い、内部標準法にて行った。
【0070】
カラム:島津製Thermon−3000、担持量5 %、1m(担体:SHINCARBON A)
キャリアーガス:ヘリウム
キャリアー流量:40ml/min
初期温度:170 ℃
昇温速度:5 ℃/min
最終温度:280 ℃
注入口温度:280 ℃
検出器:FID
【0071】
3 ) 色相
アシルオキシ安息香酸純分で5 重量%を、アセトニトリル/水=50/50(vol /vol)溶液に溶かし、APHA標準と比較した。
【0072】
4)配合安定性試験
2 %過炭酸ナトリウム水溶液100gに、アシルオキシ安息香酸純分として1g相当を40℃に加温して溶解したのち、5 ℃にて10日間保存した。10日後の状態を目視で観察した。
【0073】
評価の基準を次のように設定した。
◎ …無色透明液体
○ …わずかに白濁してしている
△ …白濁している
× …沈殿が見られる
【0074】
5)匂い試験
配合安定性試験で調製した試料を20℃に調整したのち、匂いのパネラー10名に匂いをかがせ、脂肪酸由来の臭気がするかどうか判定させ評価した。
【0075】
評価の基準を次のように設定した。
【0076】
◎ …10ないし9 名が脂肪酸由来の臭気がないと判定
○ …8 ないし7 名が脂肪酸由来の臭気がないと判定
△ …6 ないし5 名が脂肪酸由来の臭気がないと判定
× …6 名以上が脂肪酸由来の臭気があると判定
【0077】
実施例1
攪拌棒、温度計、還流コンデンサーを備えた蒸留ヘッドを具備するフラスコに、製造例1 で得られたp −オクタノイルオキシ安息香酸52.3gおよびオクタン酸819 .4gを含む母液を温度30℃に加温した。これに、塩化チオニル130 .9gを30℃の温度を維持させつつ、1 時間かけて滴下した。その後、50℃まで加熱し2 時間熟成した。酸クロライド化反応終了後、減圧にて塩酸ガスおよび亜硫酸ガスを除去した。釜残のp −オクタノイルオキシ安息香酸およびオクタノイルクロライドを含有するオクタン酸の重量は892 .0g であった。一方、攪拌棒、温度計、窒素ガス流通バルブおよび還流コンデンサーを具備したフラスコに、p −ヒドロキシ安息香酸138 .1gおよびオクタン酸144 .2gを量りとり、良く攪拌して均一のスラリーとし、60℃に加熱しておいたところに、先のp −オクタノイルオキシ安息香酸およびオクタノイルクロライドを含有するオクタン酸を60℃で1 時間かけて滴下した。滴下から熟成までの間、塩酸ガスの排出を促進し着色を防止するために窒素ガスを流通させた。滴下終了後、反応温度を80℃に上げ、4 時間熟成した。反応終了後、80℃を保持したまま200To r r に減圧し溶存していた塩酸ガスを除去した。この時、この反応物は均一溶液であった。反応液を液体クロマトグラフィーにより定量した結果、p −オクタノイルオキシ安息香酸の純分は314 .0g で、添加したp −ヒドロキシ安息香酸に対する収率は119 %であった。p −オクタノイルオキシ安息香酸に対する二量体含量は2 .0 %であり、三量体含量は0 .2 %であった。この反応液を配合安定性試験および匂い試験に供したところ、配合安定性試験:△、匂い試験:×であった。
【0078】
この反応液を、攪拌しながら水浴にて冷却し晶析した。20℃まで冷却したのち、析出したp −オクタノイルオキシ安息香酸の結晶を吸引ろ過によって濾別した。得られた結晶を分析したところ、目的物のp −オクタノイルオキシ安息香酸の純分は251 .2gで、仕込んだp −ヒドロキシ安息香酸に対する収率は95%であった。一方、母液についても同様に分析したところ、母液中のp −オクタノイルオキシ安息香酸の純分は62.8gで、仕込んだp −ヒドロキシ安息香酸に対する収率に換算すると24%であった。ガスクロマトグラフィーでオクタン酸の含量を定量したところ、結晶中には35.2g、母液中には769 .8g含まれていた。また結晶の色相はAPHA10であり、配合安定性試験および匂い試験に供したところ、配合安定性試験は◎、匂い試験でも◎であった。
【0079】
実施例2 〜8
実施例1 で得られた母液を用い、表2 に示した仕込量で実施例1 と同様な反応条件でリサイクル反応を行った。各反応に用いた塩化チオニル、オクタン酸およびp −ヒドロキシ安息香酸の使用量および、得られたp −オクタノイルオキシ安息香酸の純分および収率、p −オクタノイルオキシ安息香酸に対する多量体含量、さらに結晶および母液中のp −オクタノイルオキシ安息香酸、オクタン酸の純分量および多量体含量、さらには得られた結晶の色相、配合安定性試験、匂い試験の結果を表2 に示した。
【0080】
【表2】
【0081】
表2の結果から明らかなように、p−オクタノイルオキシ安息香酸の得量収率はほば定量的であった。また、多量体含量も0 .6 %以下で極めて少なかった。このため、配合安定性試験も良好であった。また、匂い試験も良好であった。さらに、色相についても良好であった。なお、オクタン酸の追加量は、理論量が144 .2 g であるところ、その1 .2 〜1 .3 倍量であり、アシル化に必要なカルボン酸を除けば、0 .2 〜0 .3 倍量と極めて少ない量でリサイクルが可能であった。
【0082】
比較例1
製造例1 と同様の条件で、オクタン酸使用量を減らした反応を行った。すなわち、攪拌棒、温度計、還流コンデンサーを備えた蒸留ヘッドを具備するフラスコに、オクタン酸201 .9gを量りとり、攪拌しながら30℃まで加熱した。30℃の温度を維持させつつ、塩化チオニル130 .9gを1 時間かけて滴下した。その後、60℃まで加熱し4 時間熟成した。酸クロライド化反応終了後、減圧にて塩酸ガスおよび亜硫酸ガスを除去した。
【0083】
一方、撹拌棒、温度計、窒素ガス流通バルブおよび還流コンデンサーを具備したフラスコに、p −ヒドロキシ安息香酸138 .1gを量りとり、ニーダーで攪拌しながら、先のオクタノイルクロライドを含有したオクタン酸を60℃の温度で1 時間かけて滴下した。滴下から熟成までの問、塩酸ガスの排出を促進し着色を防止するために窒素ガスを流通させた。滴下終了後、反応温度を100 ℃に上げ、2 時間熟成した。反応終了後、100 ℃を保持したまま200To r r に減圧し溶存していた塩酸ガスを除去した。反応液を液体クロマトグラフィーにより定量した結果、p −オクタノイルオキシ安息香酸の純分は237 .9gで、p −ヒドロキシ安息香酸に対する収率は90%であった。p −オクタノイルオキシ安息香酸に対する二量体含量は15.4 %であり、三量体含量は3 .1 %であった。
【0084】
得られた反応物の色相はAPHA100であった。また、配合安定性試験および匂い試験に供したところ、配合安定性試験:×、匂い試験:△であった。
【0085】
製造例2
攪拌棒、温度計、窒素ガス吹き込み管、塩化カルシウム管を備えたコンデンサー、滴下ロートを具備するフラスコに、ラウリン酸801 .3gを量りとり、60℃に加温した。これに三塩化リン67.3gを2 時間かけて滴下した。滴下終了後60℃で2 時間、さらに80℃に加熱したのち30分間熟成した。反応液は二層分離していたので、分液ロートに移し70℃の温度で分液し、下層の亜リン酸を除去した。上層はラウロイルクロライドを含有したラウリン酸であるが、これの重量は866 .7gであった。一方、撹拌棒、温度計、窒素ガス流通バルブおよび還流コンデンサーを具備したフラスコに、サリチル酸138 .1gおよびラウリン酸200 .3gを量りとり、攪拌しながら80℃に加熱し、均一のスラリーとした。85℃に到達後、先のラウロイルクロライドを含有したラウリン酸を80℃で3 時間かけて滴下した。滴下から熟成までの間、塩酸ガスの排出を促進し着色を防止するために窒素ガスを流通させた。滴下終了後、反応温度を100 ℃に上げ、4 時間熟成した。反応終了後、100 ℃を保持したまま100To r r に減圧し溶存していた塩酸ガスを除去した。この時、この反応物は均一溶液であった。反応液を液体クロマトグラフィーで定量したところ、サリチル酸に対するo −ラウロイルオキシ安息香酸の純分は310 .8gで収率は97%であった。o −ラウロイルオキシ安息香酸に対する二量体含量は1 .8 %であり、三量体含量は0 .1 %であった。この時点での配合安定性試験は○で、匂い試験は×であった。
【0086】
この反応液を攪拌しながら水浴にて冷却し晶析した。50℃まで冷却したのち、析出したo −ラウロイルオキシ安息香酸の結晶を加圧ろ過によって濾別した。得られた結晶を分析したところ、目的物のo −ラウロイルオキシ安息香酸の純分は2 64.2gであった。よってろ過による収率は85%であり、仕込んだサリチル酸に対する全収率は82%であった。一方、母液についても同様に分析したところ、母液中のo −ラウロイルオキシ安息香酸の純分は46.6gで収率に換算すると15%であった。ガスクロマトグラフィーでラウリン酸の含量を定量したところ、結晶中には39.6g、母液中には743 .2g含まれていた。配合安定性試験は◎、匂い試験は◎であった。また結晶の色相はAPHA30であった。
【0087】
実施例9 〜15
製造例2 で得られた母液を用い、表3 に示した仕込量で製造例2 と同様な反応条件でリサイクル反応を行った。また、晶析温度は50℃とし、濾過は50℃で行った。各リサイクル反応で得られたo −ラウロイルオキシ安息香酸の純分および収率、o−ラウロイルオキシ安息香酸に対する多量体含量、さらに結晶および母液中のo −ラウロイルオキシ安息香酸、ラウリン酸の純分量および多量体含量、更には得られた結晶の色相、配合安定性試験、匂い試験の結果を表3に示した。
【0088】
【表3】
【0089】
表3の結果から明らかなように、o−ラウロイルオキシ安息香酸の得量収率は、3 回目のリサイクル以降、すなわち実施例11よりほぼ定量的であった。また、多量体含量も0 .8 %以下で極めて少なかった。このため、配合安定性試験は全て良好で、匂い試験も良好であった。また、色相についても良好であった。なお、ラウリン酸の追加量は、理論量が200 .3gであるところ、実施例9 以降のバッチでは1 .2 〜1 .3 倍量であり、アシル化に必要なラウリン酸を除けば、0 .2 〜0 .3 倍量と極めて少ない量でリサイクルが可能であった。
【0090】
【発明の効果】
本発明方法によれば、実質的に少ないカルボン酸使用量で、カルボン酸含量が極めて少なくかつ多量体の副生が少ない高純度のアシルオキシ安息香酸を、定量的な収率で、工業的に容易かつ安価に製造することが可能となった。
Claims (5)
- 一般式(1)
で表されるカルボン酸ハライドと一般式(2)
で表されるヒドロキシ安息香酸とをエステル化反応させて、該エステル化反応を繰返して一般式(3)
で表されるアシルオキシ安息香酸を連続的に製造する方法であって、一般式(4)
で表されるカルボン酸の存在下に前記エステル化反応を行ない、エステル化反応後の反応液を晶析処理して、前記一般式(3)のアシルオキシ安息香酸を濾別し、一般式(5)
で表されるアシルオキシ安息香酸および前記一般式(4)で表されるカルボン酸を含む母液に、酸ハロゲン化剤を作用させ、前記一般式(4)で表されるカルボン酸を前記一般式(1)で表されるカルボン酸ハライドに変換した後、次回のエステル化反応に循環使用することを特徴とする一般式(3)
で表されるアシルオキシ安息香酸の連続的製造法。 - 酸ハロゲン化剤が、ハロゲン化チオニルおよびハロゲン化リンより選ばれる少なくとも1 種であることを特徴とする請求項1 に記載のアシルオキシ安息香酸の連続的製造法。
- 一般式(4)で表されるカルボン酸が、炭素数6〜14の直鎖または分岐の脂肪酸である請求項1または請求項2に記載のアシルオキシ安息香酸の連続的製造法。
- 酸ハロゲン化剤を、一般式(2)で表されるヒドロキシ安息香酸に対し0 .8 〜1 .6 当量使用することを特徴とする請求項1 ないし請求項3 のいずれか1 項に記載のアシルオキシ安息香酸の連続的製造法。
- 一般式(4)で表されるカルボン酸を、一般式(2)で表されるアシルオキシ安息香酸に対し1 .5 〜100 当量使用することを特徴とする請求項1 ないし請求項4 のいずれか1 項に記載のアシルオキシ安息香酸の連続的製造法。
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WO2012019742A1 (de) | 2010-08-13 | 2012-02-16 | Clariant International Ltd | Verfahren zur herstellung von acyloxybenzoesäuren |
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