JP4130078B2 - カルバペネム誘導体結晶と注射製剤 - Google Patents
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Description
本発明は、カルバペネム化合物の塩又は塩の水和物結晶、その製造方法および粉末充填注射用製剤に関する。カルバペネム化合物は、抗菌剤、抗生物質として有用である。
従来の技術
カルバペネム化合物又はその塩は、グラム陰性菌から陽性菌にわたる強力かつ幅広い抗菌スペクトルを有することが知られているが、体内での安定性及びその毒性による人体への安全性などの点については問題があった。
しかし、特開平8−73462号公報には、カルバペネム化合物、すなわち(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸、又はその塩が強力な抗菌活性を有すると共に、人体に対する安全性が高く医薬として有用な化合物であることが開示されている。
また、その塩酸塩は、溶解性に優れており、強力な抗菌活性を有する薬剤として、望ましい塩形の一つである。
一般に、薬物を注射剤にするためには、水を始めとする液体に溶解、乳化又は分散させた液体注射剤にしたり、または、使用時に液体に溶解、乳化又は分散させて使用する用時溶解型の粉末注射剤にすることなどが必要である。
しかし、このカルバペネム化合物又はその塩酸塩は、溶液中で不安定であり加温条件下で分解が促進される為、液体注射剤にすることは困難である。
またカルバペネム化合物又はその塩酸塩を用時溶解型の粉末注射剤として繁用される凍結乾燥製剤とする場合、例えば、マンニトールを主賦形剤として凍結乾燥製剤とした場合には、加温条件下で分解が促進される。したがって、凍結乾燥製剤にすることは困難である。
また、粉末充填製剤とした場合には、カルバペネム化合物又はその塩酸塩は凍結乾燥法により製造したもので非晶質であり、化学的に不安定である。
また、カルバペネム化合物またはその塩酸塩は、当時の技術では容易に結晶化しなかったため、最終的に逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して非晶質を得た。このようなカラム精製は溶媒を多量に使用するために製造コストを上昇させるだけでなく、工業的大量処理が困難である上、フラクションの濃縮時に熱虐待(熱分解)が起こる可能性や、残留溶媒の問題、廃液の問題、さらには溶媒蒸散による環境汚染など多くの問題がある。また、この非晶質の物質は溶液中で不安定であり、前記のように加温条件下で分解が促進されるため製剤化においても問題があった。
用語の定義
(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸又はIUPACの命名によると(+)−(4R,5S,6S)−6−[(R)−1−hydroxyethyl]−3−[(2S,4S)−2−[(R)−1−hydroxy−1−[(R)−pyrrolidin−3−yl]methyl]pyrrolidin−4−yl]thio−4−methyl−7−oxo−1−azabicyclo[3.2.0]hept−2−ene−2−carboxylic acid((+)−(4R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−3−[(2S,4S)−2−[(R)−1−ヒドロキシ−1−[(R)−ピロリジン−3−イル]メチル]ピロリジン−4−イル]チオ−4−メチル−7−オキソ−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプト−2−エン−2−カルボン酸)は、カルバペネム化合物と呼ぶ。その塩酸塩などの塩、塩の水和物結晶、これらを合成するためのその出発塩やカルバペネム骨格を有する他の出発化合物などをカルバペネム誘導体と呼ぶ。例えば、(+)−(4R,5S,6S)−6−[(R)−1−hydroxyethyl]−3−[(2S,4S)−2−[(R)−1−hydroxy−1−[(R)−pyrrolidin−3−yl]methyl]pyrrolidin−4−yl]thio−4−methyl−7−oxo−1−azabicyclo[3.2.0]hept−2−ene−2−carboxylic acid monohydrochloride monohydrate ((+)−(4R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−3−[(2S,4S)−2−[(R)−1−ヒドロキシ−1−[(R)−ピロリジン−3−イル]メチル]ピロリジン−4−イル]チオ−4−メチル−7−オキソ−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプト−2−エン−2−カルボン酸・一塩酸塩・一水和物)や(+)−(4R,5S,6S)−6−[(R)−1−hydroxyethyl]−3−[(2S,4S)−2−[(R)−1−hydroxy−1−[(R)−pyrrolidin−3−yl]methyl]pyrrolidin−4−yl]thio−4−methyl−7−oxo−1−azabicyclo[3.2.0]hept−2−ene−2−carboxylic acid monohydrochloride trihydrate ((+)−(4R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−3−[(2S,4S)−2−[(R)−1−ヒドロキシ−1−[(R)−ピロリジン−3−イル]メチル]ピロリジン−4−イル]チオ−4−メチル−7−オキソ−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプト−2−エン−2−カルボン酸・一塩酸塩・三水和物)である。
発明の開示
本発明者らは、上記の問題点を解決すべくさらに鋭意検討を重ねた結果、カルバペネム化合物の塩に1水和物結晶体や3水和物結晶体が存在し、これが化学的にも安定な結晶体であり、しかも不純物との分離が容易で、工業的にも有用な化合物であることを見い出し本発明を完成した。
本発明は、(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩であって、下記式(1−1)で表され、9.0、4.1及び2.8オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有する3水和物結晶または、下記式(1−2)で表され、5.2、4.3及び4.0オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有する1水和物結晶である。
3水和物結晶は、9.0、5.4、5.2、5.0、4.1、4.0、3.8、3.6、3.4、3.1、2.8及び2.6オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有することが好ましい。
本発明は更に、上記の水和物結晶体の製造方法も提供する。すなわち、本発明は、(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸(以下、カルバペネム化合物という)またはその誘導体をジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、1−アセトキシ−2−メチルエタン、3−メトキシブタノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−エトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、テトラヒドロフラン、n−プロパノール、t−ブタノール、2−ブトキシエタノール、エタノール、イソプロパノールおよびアセトニトリルからなる群より選ばれる少なくとも1種の結晶化溶媒および水からなる溶媒系に溶かして、その溶液より結晶化することを特徴とする(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・3水和物結晶の製造方法である。
好ましい形態においては、結晶化溶媒としてイソプロパノールと水からなる系を使用する。50%〜90%(v/v)イソプロパノール水溶液を結晶化溶媒として使用する。0〜20℃の温度で結晶化する。10℃の温度で結晶化する。溶媒中の(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸の濃度が7から10%(w/w)の溶液を使用して結晶化する。結晶化に際して(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸の定量値に対して約3から5%(wt%)の(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・3水和物の種結晶を使用する。
得られた3水和物結晶は、9.0、4.1及び2.8オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有することが好ましい。9.0、5.4、5.2、5.0、4.1、4.0、3.8、3.6、3.4、3.1、2.8及び2.6オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有することがさらに好ましい。
3水和物結晶は別の方法でも得られる。すなわち、(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・1水和物結晶を、50%〜90%(v/v)イソプロパノール水溶液に溶解し、0から20℃の温度で結晶化することを特徴とする(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・3水和物結晶の製造方法である。
本発明は、上記の1水和物結晶も含む。上記の回折パターンを有することが好ましく、更に、9.4、6.2、5.4、5.2、4.8、4.7、4.4、4.3、4.0、3.8、3.6、3.4及び3.3オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有することが好ましい。
この1水和物結晶は、次のようにして得られる。すなわち、(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸またはその誘導体をメタノール/水系、ジメチルスルホキシド/水系、ジメチルホルムアミド/水系、2−メトキシエタノール/水系、またはジメチルアセトアミド/水系の結晶化溶媒に溶かし、結晶化することを特徴とする(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・1水和物結晶の製造方法である。
1水和物結晶の製造方法の好ましい形態において、結晶化溶媒としてメタノールと水からなる系を使用する。結晶化溶媒として50から90%(v/v)メタノール水溶液を使用する。溶媒中の(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸の濃度が5から10%(w/w)の溶液を使用して結晶化する。得られた1水和物結晶は、5.2、4.3及び4.0オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有することが好ましい。さらに、9.4、6.2、5.4、5.2、4.8、4.7、4.4、4.3、4.0、3.8、3.6、3.4及び3.3オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有することが好ましい。
1水和物結晶は、別の方法でも得られる。すなわち、50%〜90%(v/v)イソプロパノール水溶液を結晶化溶媒として使用し、(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸の定量値に対して20%(wt%)量以上の(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・1水和物結晶を種結晶として加えることを特徴とする(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・1水和物結晶の製造方法である。この方法の好ましい形態としては、20〜50℃の温度で結晶化する。22℃の温度で結晶化する。
上記3水和物結晶や1水和物結晶の製造における結晶化では、カルバペネム化合物(フリー体、カルボン酸体)やその誘導体を出発物質として溶媒などに溶かす。誘導体は、塩や水和物,塩の水和物である。塩は、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、フタル酸塩、リン酸塩、蓚酸塩等の通常用いられる塩を含む。塩が塩酸塩以外の場合は塩化カルシウムなどの塩酸塩形成剤を用いてもよい。また、カルバペネム化合物の置換基が他の置換基に代わった誘導体であって、結晶化工程において目的のカルバペネム化合物骨格を有するようなものでもよい。
結晶化工程ではへ塩形成と結晶化とを一連に行うこともできる。塩より結晶化もできる。また、1水和物を3水和物に結晶化できるし、3水和物を1水和物に結晶化することもできる。
次に、本発明は、下記式(式2)で示される(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸(以下、カルバペネム化合物と称する)その塩、その塩の結晶、その塩の水和物またはその塩の水和物結晶(以下、カルバペネム誘導体と称する)を薬剤としてバイアル瓶に充填し、打栓した粉末充填注射用製剤を提供する。
好ましくは、バイアル瓶内の空気の一部又は全ての脱気及び/又は窒素若しくはアルゴンでの置換を施す。薬剤の好ましい形態は塩酸塩3水和物結晶であり、9.0、4.1及び2.8オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有する。また塩酸塩1水和物結晶であり、5.2、4.3及び4.0オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有する結晶でもよい。
更に、本発明は、上記の製剤を水等の注射剤用液体に溶かして、薬剤が安定であるうちに、すぐ患者に注射投与する製剤の投与方法、いわゆる用時溶解である。
発明の詳細な説明
まず、3水和物および1水和物結晶とそれらの製造方法について説明する。
すなわち本発明は、9.0、4.1及び2.8オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有するカルバペネム化合物の1塩酸塩・3水和物結晶、9.0、5.4、5.2、5.0、4.1、4.0、3.8、3.6、3.4、3.1、2.8及び2.6オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有するカルバペネム化合物の1塩酸塩・3水和物結晶、ならびに結晶化溶媒としてジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、1−アセトキシ−2−メチルエタン、3−メトキシブタノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−エトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、テトラヒドロフラン、n−プロパノール、t−ブタノール、2−ブトキシエタノール、エタノール、イソプロパノールおよびアセトニトリルからなる群より選ばれる1または2以上の混合溶媒および水からなる系を使用することを特徴とする上記1塩酸塩・3水和物結晶の製造方法、結晶化溶媒としてイソプロパノールと水からなる系を使用することを特徴とする上記1塩酸塩・3水和物結晶の製造方法、50%〜90%(v/v)イソプロパノール水溶液を結晶化溶媒として使用することを特徴とする上記1塩酸塩・3水和物結晶の製造方法、0から20℃の温度で結晶化することを特徴とする上記1塩酸塩・3水和物結晶の製造方法、10℃の温度で結晶化することを特徴とする上記1塩酸塩・3水和物結晶の製造方法、溶媒中の(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸の濃度が7から10%(w/w)の溶液を使用して結晶化することを特徴とする上記1塩酸塩・3水和物結晶の製造方法、結晶化に際してカルバペネム化合物の定量値に対して約3から5%(wt%)のカルバペネム化合物の1塩酸塩・3水和物の種結晶を使用することを特徴とする上記1塩酸塩・3水和物結晶の製造方法、結晶が、9.0、4.1及び2.8オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有する上記1塩酸塩・3水和物結晶の製造方法である。
また、結晶化溶媒にメタノール/水系、ジメチルスルホキシド/水系、ジメチルホルムアミド/水系、2−メトキシエタノール/水系、またはジメチルアセトアミド/水系を使用することを特徴とするカルバペネム化合物の1塩酸塩・1水和物結晶の製造方法、結晶化溶媒としてメタノールと水からなる系を使用することを特徴とする上記1塩酸塩・1水和物結晶の製造方法、結晶化溶媒として50から90%(v/v)メタノール水溶液を使用することを特徴とする上記1塩酸塩・1水和物結晶の製造方法、溶媒中のカルバペネム化合物の濃度が5から10%(w/w)の溶液を使用して結晶化することを特徴とする上記1塩酸塩・1水和物結晶の製造方法、50%〜90%(v/v)イソプロパノール水溶液を結晶化溶媒として使用し、カルバペネム化合物の定量値に対して20%(wt%)量以上の上記1塩酸塩・1水和物結晶を種結晶として加えることを特徴とする上記1塩酸塩・1水和物結晶の製造方法、20から50℃の温度で結晶化することを特徴とする上記1塩酸塩・1水和物結晶の製造方法、22℃の温度で結晶化することを特徴とする上記1塩酸塩・1水和物結晶の製造方法である。
また、上記1塩酸塩・1水和物結晶を、50%〜90%(v/v)イソプロパノール水溶液に溶解し、0から20℃の温度で結晶化することを特徴とする上記1塩酸塩・3水和物結晶の製造方法である。
上記いずれの製造方法においても、上記1塩酸塩・3水和物結晶が、9.0、4.1及び2.8オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有する結晶でありうる。
以下本発明の内容および本明細書中に使用されている語句等について詳細に説明する。
本発明化合物である、(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・3水和物結晶は以下の一般式
で表される。
また、カルバペネム化合物の1塩酸塩・3水和物の結晶の面間隔(d)は、粉末X線回折評価で得られた各回折ピークの走査軸の2θ値から、計算で求めることができる。即ち、主要回折ピークの各々のθ値を基にして、該結晶の面間隔(d)をブラッグ式(1/d=2sinθ/λ、ただしλ=1.5418オングストローム)により求めることができる。
尚、粉末X線回折による評価は、理学(株)の装置(INT−2500 Ultrax18)を用いて以下の測定条件で行ったものである。
使用X線:Cu K アルファ線
カウンター:シンチレーションカウンター
ゴニオメーター:縦形ゴニオメーター(RINT2000)
加電圧:40KV
加電流:200mA
スキャンスピード:2°/分
走査軸:2θ
走査範囲:2θ=5〜30°
発散スリット:1°
散乱スリット:1°
受光スリット:0.15mm
本発明にかかる(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・3水和物結晶は、好ましくは9.0、4.1及び2.8オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有し、さらに好ましくは9.0、5.4、5.2、5.0、4.1、4.0、3.8、3.6、3.4、3.1、2.8及び2.6オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有する。
本発明において、結晶の晶析の為に、最初に溶解させる抗生物質であるカルバペネム化合物またはその塩は、常法によりまたは公知の有機化学合成方法により製造することができる。例えば特開平8−73462号公報、特開平11−35556号公報記載の方法によっても製造することができる。
本発明にかかる抗生物質・塩酸塩の水和物結晶は前記の公知方法を利用して、以下のような一般的なスキームで製造することができる。
〔式中、PNBはp−ニトロベンジル基を意味する。〕
以下、具体的に結晶化の条件を述べる。
本発明にかかるカルバペネム化合物の1塩酸塩・3水和物結晶は以下の条件で製造することができる。
前記3水和物結晶の結晶化溶媒としては、好ましくはジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、1−アセトキシ−2−メチルエタン、3−メトキシブタノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−エトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、テトラヒドロフラン、n−プロパノール、t−ブタノール、2−ブトキシエタノール、エタノール、イソプロパノールおよびアセトニトリルからなる群より選ばれる1または2以上の混合溶媒および水からなる系を、より好ましくはジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、1−エトキシ−2−プロパノール、2−エトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、テトラヒドロフラン、n−プロパノール、t−ブタノール、イソプロパノールおよびアセトニトリルからなる群より選ばれる1または2以上の混合溶媒および水からなる系を、さらに好ましくはジエチレングリコールモノエチルエーテル、2−エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、t−ブタノール、イソプロパノールおよびアセトニトリルからなる群より選ばれる1または2以上の混合溶媒および水からなる系を、さらにより好ましくはジエチレングリコールモノエチルエーテルまたはイソプロパノールからなる群より選ばれる1または2以上の混合溶媒および水からなる系を、もっとも好ましくはイソプロパノール/水系を使用することができる。
前記1または2以上の有機溶媒の混合比またはそれらと水の混合比は特に限定されない。水が多い方が当該抗生物質の溶解度は高くなるが、例えば有機溶媒水溶液濃度(v/v)1〜95%、好ましくは10〜90%、より好ましくは40〜90%、さらに好ましくは50〜90%、さらにより好ましくは55〜85%の溶媒を使用することができる。イソプロパノール水溶液を結晶化溶媒として使用する場合は例えば50%〜90%(v/v)イソプロパノール水溶液を使用することができる。
また、結晶化の温度は特に限定されないが、当該抗生物質の安定性を考慮すると20℃以下の温度が好ましく、より好ましくは0から20℃の温度であり、さらに好ましくは10℃の温度である。
結晶を析出させる母液溶媒中のカルバペネム化合物の濃度も特に限定されない。好ましくは7から10%(w/w)の濃度である。
結晶化に際してカルバペネム化合物の1塩酸塩・3水和物の種結晶を使用することもでき、その量は特に限定されないが、好ましくはカルバペネム化合物の定量値に対して約3から5%(wt%)の量の種結晶であり、更に好ましくは3%の量の種結晶である。
カルバペネム化合物の1塩酸塩・1水和物結晶の製造については以下の条件で行うことができる。
1水和物結晶の結晶化溶媒としてはメタノール/水系、ジメチルスルホキシド/水系、ジメチルホルムアミド/水系、2−メトキシエタノール/水系、またはジメチルアセトアミド/水系を使用することができる。好ましくはメタノール/水系、ジメチルスルホキシド/水系、またはジメチルホルムアミド/水系である。より好ましくはメタノール/水系である。
これらの混合比は特に限定されない。水が多い方が当該抗生物質の溶解度は高くなるが、例えば有機溶媒水溶液濃度(v/v)1〜95%、好ましくは10〜90%より好ましくは40〜90%、さらに好ましくは50〜90%、さらにより好ましくは55〜85%の溶媒を使用することができる。結晶化温度も特に限定されない。また、1水和物結晶の結晶化にあたっては50%〜90%(v/v)イソプロパノール水溶液を結晶化溶媒として使用し、カルバペネム化合物の定量値に対して20%(wt%)量以上のカルバペネム化合物の1塩酸塩・1水和物結晶を種結晶として加えることによっても行うことができる。ここでイソプロパノールと水の割合、種結晶の量は適当に調節できるが、上記で示したような量がより好ましい。このとき、さらに結晶化温度として20から50℃の温度で結晶化することがより好ましい。さらに好ましくは22℃である。
上記のようにして得られた1水和物結晶は、例えば50%〜90%(v/v)イソプロパノール水溶液に溶解し、0から20℃の温度で再度結晶化することにより3水和物結晶に変換することができる。
本発明に係るカルバペネム化合物の1塩酸塩・3水和物結晶は安定であり、医薬品の品質保持の観点から保管が容易で且つ長期間一定の品質を保持でき、しかも生産上も不純物が抜けやすく精製が容易であるというメリットを有している。特に3水和物は、1水和物では分離が難しかった不純物を容易に精製することが可能であり、工業的にも非常に有用である。
次に1水和物結晶について説明する。
本発明は、5.2、4.3及び4.0オングストロームの面間隔(d)を含むX線回折パターンを有する下記構造式(式1)で示されるカルバペネム化合物の1・塩酸塩・1水和物の結晶である。
さらに、本発明は、9.4、6.2、5.4、5.2、4.8、4.7、4.4、4.3、4.0、3.8、3.6、3.4及び3.3オングストロームの面間隔(d)を含むX線回折パターンを有する(式1)で示されるカルバペネム化合物の塩酸塩・1水和物結晶である。 これは粉末X線回折において、19.4、6.2、5.4、5.2、4.8、4.7、4.4、4.3、4.0、3.8、3.6、3.4及び3.3オングストロームの面間隔(d)における回折強度を有することが特徴的な結晶であり、より特徴的には、3つの面間隔(d)、即ち5.2、4.3及び4.0オングストロームにおける強い回折強度を有する結晶である。
このカルバペネム化合物の塩酸塩・1水和物の結晶は、加温、加湿条件下において安定である。
カルバペネム化合物の塩酸塩・1水和物結晶は、水とエタノール又はイソプロピルアルコールの混合溶媒により晶析させ、ついで乾燥させることによって得てもよい。 この塩酸塩・1水和物結晶は、水とエタノール又はイソプロピルアルコール等の貧溶媒の混合溶媒により晶析させ、ついで、水分含量が3%〜8%(w/w)、好ましくは4%〜6%(w/w)になるまで乾燥させることにより製造してもよい。カルバペネム化合物の塩酸塩又はその1水和物を最初に水に溶解させた後に貧溶媒を添加して晶析させてもよいし、最初から水と貧溶媒の混合溶媒に溶解後に晶析させてもよい。尚、水に溶解させる場合や貧溶媒を添加して晶析させる場合には、0〜15℃に液温を保つことが望ましく、例えば、氷冷下で溶解させる。貧溶媒は、例えば、エタノール、イソプロピルアルコールが挙げられるが、もちろんこれらに限定される訳ではない。
本発明に係る結晶を晶析させる為に使用する溶媒中の水とエタノール又はイソプロピルアルコールの組成比は、水1重量部に対して、エタノール又はイソプロピルアルコール0.1〜100重量部、好ましくは5〜20重量部である。晶析後の乾燥は、例えば、真空乾燥、窒素気流による乾燥、乾燥空気気流による乾燥、風乾などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。
本発明において、結晶の晶析の為に、最初に溶媒に溶解させる(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸又はその塩酸塩,他の塩、他の誘導体は、公知の方法により製造することができる。例えば、特開平8−73462号公報に開示される方法により製造することができる。
本発明はまた、5.2、4.3及び4.0オングストロームの面間隔(d)、又は、9.4、6.2、5.4、5.2、4.8、4.7、4.4、4.3、4.0、3.8、3.6、3.4及び3.3オングストロームの面間隔(d)を含むX線回折パターンを有する(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・塩酸塩・1水和物の結晶又は、又は、9.0、4.1及びオングストロームの面間隔(d)、又は、9.0、5.4、5.2、5.0、4.1、4.0、3.8、3.6、3.4、3.1、2.8及び2.6オングストロームの面間隔(d)を含むX線回析パターンを有する(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・塩酸塩・3水和物結晶をバイアル瓶に充填し、打栓した粉末充填注射用製剤である。即ち、本発明に係るこの塩酸塩・1水和物及び3水和物の結晶は、加温、加湿条件下において安定である為、該結晶をバイアル瓶に充填し打栓することにより、安定な粉末充填製剤とすることができる。
(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・塩酸塩・1水和物の結晶の面間隔(d)は、粉末X線回折評価で得られた各回折ピークの走査軸の2θ値から、計算で求めることができる。即ち、主要回折ピークの各々のθ値を基にして、該結晶の面間隔(d)をブラッグ式(1/d=2sinθ/λ、ただしλ=1.5418オングストローム)により求めることができる。
また、本発明は、その粉末充填注射用製剤において、バイアル瓶内の空気の一部又は全ての脱気、及び/又は、窒素若しくはアルゴンでの置換を施した粉末充填注射用製剤である。
本発明に係る(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・塩酸塩・1水和物及び3水和物の結晶は安定性には優れている。しかし、製造条件の変動や製造ロットの差異により、加温条件下及び/又は加温加湿条件下において、経時的に結晶表面の外観の着色変化が認められる場合がある。この際には、その粉末充填注射用製剤において、1)バイアル瓶内の空気の一部又は全ての脱気により、残存する酸素の一部又は全てを取り除く。又は、2)バイアル瓶内の空気の一部又は全てを、窒素又はアルゴンで置換する。又は、3)バイアル瓶内の空気の一部又は全ての脱気により、残存する酸素の一部又は全てを取り除いた後に、窒素又はアルゴンで置換する。ことにより、着色変化を抑制できることが本発明の特徴の一つである。
バイアル瓶内の空気の脱気は、例えば、空気吸引装置、真空吸引装置などを用いて行うが、特に限定されない。バイアル瓶内の空気の一部又は全てを脱気し、残存する酸素の一部又は全てを取り除く場合のバイアル瓶内の圧力は、100hPa(ヘクトパスカル)以下が望ましく、さらに望ましくは、10hPa(ヘクトパスカル)以下である。バイアル瓶内の空気の酸素濃度は、5%以下が望ましく、さらに望ましくは0.5%以下である。
本発明に係る(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・塩酸塩・1水和物及び3水和物の結晶の粉末充填注射用製剤は安定であり、医薬品の品質保持の観点から保管が容易で且つ長期間一定の品質を保持できるというメリットを有している。
本発明に係る粉末充填用注射用製剤を人間又は動物に投与する場合には、一連の製造工程を、無菌条件下で行うことが望ましい。
本発明に係る粉末充填用注射用製剤の製造法の概略の1例を図8に示した。即ち、(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・塩酸塩を計量し、水とイソプロピルアルコールの混合溶媒等に溶解させ、フィルターで無菌濾過を行った後に、水とイソプロピルアルコール等の貧溶媒の混合溶媒により晶析させる。結晶濾過器で結晶を濾取し洗浄、乾燥後に、該結晶をあらかじめ洗浄滅菌を施したバイアル瓶に粉末充填を行う。次にバイアル瓶にゴム栓を半打栓し、窒素置換後にゴム栓を完全に打栓し、最後にバイアルキャップの巻き締めを行うものである。
本発明は、また、下記構造式(式2)で示される(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸又はその塩又はその水和物の結晶をバイアル瓶に充填し、打栓した粉末充填注射用製剤である。尚、塩は酸性塩であればいずれの塩でも良く、例えば、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、フタル酸塩、リン酸塩などが挙げられるが、もちろんこれらの塩に限定されるわけではない。
この結晶を用いた粉末充填注射用製剤においても、バイアル瓶内の空気の一部又は全てを脱気して、残存する酸素の一部又は全てを取り除くか、更に、窒素又はアルゴンで置換しても良い。
本発明に係る(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・塩酸塩・1水和物及び3水和物の結晶は、製剤の種々の剤形に用いることにより、化学的に安定な製剤を製造することが可能である。即ち、粉末充填製剤以外にも、例えば、凍結乾燥工程中に晶析させた安定な凍結乾燥製剤(注射剤、経口剤)や安定な経口製剤(錠剤、顆粒剤、カプセル剤等)とすることができる。
以下に本発明を更に詳しく説明するためにいくつかの実施例を示すが、本発明はこれらのものに限定されるものではない。
本発明により安定で、不純物と分離が容易な新規カルバペネム誘導体塩酸塩水和物結晶が提供される。その効果例を以下に示す。
本発明によると新規カルバペネム誘導体塩酸塩の安定な注射用製剤の提供が可能である。その効果例を以下に示す。
実施例
実施例において、塩酸塩水和物結晶は、一例として以下のスキームで製造した。
〔式中、PNBは前記定義に同じ基を、IPAはイソプロピルアルコールをそれぞれ意味する。〕
実施例1−1.(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・3水和物
p−ニトロベンジル(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボキシラート・1シュウ酸塩(29.0g,フリー体換算:23.11g;42.3mmol)の還元的脱保護を以下のとおり二分割して反応を実施した。
pHスタットと撹拌器を装備した500mL4頚フラスコにp−ニトロベンジル(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボキシラート・1シュウ酸塩(14.5g)、20%水酸化パラジウム−カーボン(3.08g,50%湿体)とH2O(333.5mL)を投入し、水浴(10℃)で冷却しながら懸濁撹拌した。窒素置換を3回行った後に、水素雰囲気下(常圧、バルーンより水素供給)pHスタットに接続した定量ポンプより1N水酸化ナトリウム水溶液を滴下して反応液のpHを5.5に調節しながら2.5時間激しく撹拌した。1N水酸化ナトリウムの消費が止まった時点(total 24.5mL)で水素をブレーク後、セライト(14.5g)を撹拌下投入して7分間撹拌した。同様に反応を行って得られた反応液のセライト懸濁状態と併せ、セライト(87g)を敷いたブフナー漏斗にて減圧濾過し、ケークをH2O(188mL)で洗浄して標記化合物の水溶液(892.9g)を得た。HPLCによる定量より、得られた水溶液には標記化合物のフリー体が13.2g(収率75.8%)が含まれていた。
得られた上記水溶液を清澄濾過し(濾紙はGA100を使用、濾液重量:996.8g)、一部抜き出した溶液(147.7g)を活性炭(太閤FCS社製,0.66g)で10分間処理後、活性炭を濾過した(標記化合物のフリー体は1.881g含有)。この溶液に氷冷下撹拌しながら塩化カルシウム水溶液(5.76g,7.5%w/w)を加え、さらにフリー体の10%相当量の活性炭(0.495g)を加えた。塩化カルシウム水溶液(3.10g,7.0%w/w)を追加後、0.9gのセライトを敷いたブフナー漏斗で濾過して濾液(174.8g,標記化合物フリー体1.82g含有)を得た。この水溶液を24gまで濃縮後、加水して36gに調節した。この溶液を10℃に冷却し、攪拌下IPA(50mL)を滴下し、標記化合物の種結晶(0.08g)を添加した。15分後に結晶の析出を確認し、1時間熟成後にIPA(94mL)を滴下した。1時間熟成後、吸引濾過にて結晶を濾取し、80%(v/v)IPA水溶液(20mL)、アセトン(10mL)の順で結晶を洗浄し、窒素通風下30分間吸引乾燥して標記化合物を1.95g(フリー体換算:1.61g,回収率:85.5%)を得た。
この新規カルバペネム誘導体塩酸塩の結晶について、粉末X線回折(INT−2500 Ultrax18、理学(株)製)による評価を行った。図1に粉末X線回折パターンを示した。
また、その特徴的な主要3ピークのθ(°)、面間隔(d)、強度(cps)を表1に、主要ピークのθ(°)、面間隔(d)、強度(cps)及び相対強度を表2に示した。尚、各ピークの相対強度は、(相対強度=各ピークの強度/最大ピーク(d=4.0)の強度)の式により求めた。
実施例1−2.(+)−(1R,5S−6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシ エチル]−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・3水和物(1水和物→3水和物への変換)
(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・1水和物17.4g(フリー体として150g含有)の水溶液1,500gを10L四頚フラスコに投入し、10℃で冷却下撹拌しながらこの溶液に2−プロパノール1,766gを1時間かけて滴下した。結晶の析出し始めたことを確認後1時間熟成し、さらに2−プロパノール2,944g(totalで水溶液の4倍体積量の2−プロパノールに調整した;81.6%(v/v)IPA水溶液)を1時間かけて滴下した。1時間熟成後、析出した結晶を濾取し、80%(v/v)の2−プロパノール水溶液750mL、2−プロパノール750mLで順次結晶を洗い、濾過器上で窒素気流下減圧通風乾燥して(1時間)、目的とする3水和物結晶を175.7g得た(結晶回収率96%)。水分値11.6%,得られた結晶の粉末x線回折のパターンは3水和物のもの(図1)と一致した。HPLC純度99.3%。
実施例1−3.(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・1水和物
実施例1−1でグラスフィルター(GA100)で清澄濾過して得られた溶液(996.8g)のうち、849.1g(フリー体:10.79g)を1N水酸化ナトリウム水溶液でpH8.5に調整し、その溶液(871.4g)を樹脂(SP850)カラムにチャージして精製した(5cmΦx50cm,流速50mL/min,あらかじめ0.05Mリン酸緩衝液で初期化済み)。0.05Mリン酸緩衝液、水、1.0当量の塩酸を含む20%メタノール−水溶液、20%(v/v)メタノール−水溶液の順にチャージし、得られた主フラクションを一晩10℃以下で保管した(回収率81%)。この溶液(1,985g,フリー体8.74g含有)から1,621.1gを分注し、125.2gまで濃縮した(フリー体7.08g含有)。この溶液のうちの93.9gに活性炭531mgを加えて脱色し、濾液に水を添加してフリー体濃度5%に調節した(液重量102.67g)。この溶液をさらに33.9g(A)と67.8g(B)に分けた。
溶液(A)を22℃で撹拌しながら2−プロパノール26.6gを1時間かけて滴下し、1水和物結晶0.4g(フリー体((+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸の定量値に対して)の20%(wt%)量に相当)を種結晶として加えた。結晶の析出を確認後1時間熟成し、この懸濁液に2−プロパノール53.2gと混合済みの溶液(B)を22℃で1時間かけて滴下した。30分熟成後、2−プロパノール239gを1時間かけて滴下し、10℃で一晩熟成した。析出した結晶を濾取し、80%(v/v)2−プロパノール水溶液30mL、2−プロパノール30mL、アセトン30mLで順次洗浄した。窒素気流下1時間通風乾燥して、目的の1水和物結晶を5.71g(回収率92%)で得た。HPLC純度98.8%。粉末x線回折のパターンは、以下に述べる実施例2−1の1水和物の図2と一致した。
実施例1−4.(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・1水和物
(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・1水和物2.00gを8.0mlの蒸留水と6.0mlのメタノールとの混液に20℃で溶解後不溶物を濾去、次いで20℃攪拌下にメタノール30mlを7分かけて滴下した。滴下終了1時間後生成した結晶を濾取した。メタノール5mlで洗浄後窒素気流下1時間通風乾燥することにより目的の1水和物結晶1.70gを得た(回収率85%)。粉末x線回折のパターンは、図2の通りであった。
実施例1−5.(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・1水和物および3水和物の各種有機溶媒水溶液に対する溶解度の検討
20℃で62.5%(v/v)有機溶媒/水濃度で(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・1水和物および3水和物の各種有機溶媒水溶液に対する溶解度をHPLCにより以下の方法で求めた。
30mlの2頚コルベンに1水和物結晶(または、3水和物結晶)200mgを入れ、62.5%(v/v)有機溶媒/水濃度の溶媒6.4mlを加え、20℃で30min.羽根撹拌後、HPLC定量により溶解度を調べた。その結果を表3に示す。
この結果から、1水和物結晶の結晶化溶媒としてはメタノール/水系、ジメチルスルホキシド/水系、ジメチルホルムアミド/水系、2−メトキシエタノール/水系、またはジメチルアセトアミド/水系が好ましく、3水和物結晶の結晶化溶媒としては、ジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、1−アセトキシ−2−メチルエタン、3−メトキシブタノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−エトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、テトラヒドロフラン、n−プロパノール、t−ブタノール、2−ブトキシエタノール、エタノール、イソプロパノールおよびアセトニトリルからなる群より選ばれる1または2以下の混合溶媒および水からなる系が好ましい。
実施例1−6.(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン− 3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジシ−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・1水和物および3水和物のMeOH水溶液に対する溶解度の検討
実施例1−5と同様の方法により、(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・1水和物および3水和物のMeOH水溶液に対する溶解度を、温度範囲4℃〜40℃、MeOH水溶液濃度(v/v)範囲54%〜84%の条件下で調べた。
その結果を図3(at40℃)、図4(at20℃)、図5(at10℃)、図6(at4℃)、図7(at62.5%(v/v)MeOH水溶液)に示す。1水和物の溶解度は“■”、3水和物の溶解度は“□”で表す。このような広い範囲で1水和物および3水和物を作り分けることができることがわかる。
実施例1−7 3水和物・製剤無菌晶析
非無菌の新規カルバペネム誘導体塩酸塩2000g力価相当量に注射用水を添加し全量を20Kgとする。これを氷零下で撹拌溶解して仕込液を調製した。その後、0.2μmメンブランフィルター(MCGL20S03、0.2μm、ミリポア)で無菌濾過し、晶析タンク(ジャケット付)に供給した。次に、晶析タンクを0〜15℃で窒素バブリング撹拌し、これにイソプロピルアルコール25Lを無菌的に添加した。結晶析出後更にイソプロピルアルコール55Lを約1時間かけて無菌的に添加した。一定時間熟成後、析出した結晶を無菌的に濾過採取した。この結晶を、イソプロピルアルコール及びアセトンで洗浄後、調湿窒素気流下(20〜40RH%)で10時間以上乾燥し、無菌の新規カルバペネム誘導体塩酸塩の3水和物結晶を得た。
実施例1−8
実施例1−7で得た結晶を、無菌環境下で滅菌処理済みのガラス製バイアルに小分け充填(25mg/vial,50mg/vial,100mg/vial,150mg/vial、180mg/vial,200mg/vial)し、滅菌処理済みのゴム栓にて密封し、更にアルミキャップで巻き締めし、新規カルバペネム誘導体塩酸塩の結晶の粉末充填注射用製剤を得た。
実施例1−9
実施例1−7で得た結晶を、重量式自動粉末微量充填機(池田機械(株))を用いて、無菌環境下で滅菌処理済みのガラス製バイアルに小分け充填(25mg/vial,50mg/vial,100mg/vial,150mg/vial,180mg/vial,200mg/vial)し、滅菌処理済みのゴム栓にて密封し、更にアルミキャップで巻き締めし、カルバペネム誘導体の結晶性粉末の粉末充填注射用製剤を得た。
実施例2−1
実施例1−3と同様にして、1水和物結晶を得た。この結晶について、粉末X線回折(INT−2500 Ultrax18、理学)による評価を行った。
これを回折パターンで示すと、図2の通りである。
また、その特徴的な主要3ピークのθ(°)、面間隔(d)、強度(cps)を表4に、主要ピークのθ(°)、面間隔(d)、強度(cps)及び相対強度を表5に示した。尚、各ピークの相対強度は、(相対強度=各ピークの強度/最大ピーク(d=4.0)の強度)の式により求めた。
実施例2−2
実施例2−1で得た結晶を、無菌環境下で滅菌処理済みのガラス製バイアルに小分け充填(25mg/vial,50mg/vial,100mg/vial,150mg/vial,180mg/vial,200mg/vial)し、滅菌処理済みのゴム栓にて密封し、更にアルミキャップで巻き締めし、新規カルバペネム誘導体塩酸塩の結晶の粉末充填注射用製剤を得た。
実施例2−3
実施例2−1で得た結晶を、重量式自動粉末微量充填機(池田機械(株))を用いて、無菌環境下で滅菌処理済みのガラス製バイアルに小分け充填(25mg/vial,50mg/vial,100mg/vial,150mg/vial,180mg/vial,200mg/vial)し、滅菌処理済みのゴム栓にて半打栓した後に、バイアル瓶内の空気を窒素置換処理し、その後に該ゴム栓にて密封し、更にアルミキャップで巻き締めし、カルバペネム誘導体の結晶性粉末の粉末充填注射用製剤を得た。
実施例2−4
原薬、即ち、非無菌の新規カルバペネム化合物塩酸塩900gを計量し、氷冷下で注射用蒸留水(WFI)8500gに溶解して仕込み液を調製した後に、0.2μmのメンブランフィルター(MCGL10S03,0.2μm,ミリポア)で無菌濾過した。次に、晶析タンク(ジャケット付)内で、無菌条件下で、濾液にエチルアルコール40Lを添加し、5℃で、マグネチックスターラーを回転させ、窒素バブルによる撹拌条件下での結晶を析出させた。次に、この新規カルバペネム化合物の3水和物結晶を無菌条件下で結晶濾過器で濾取し、乾燥空気で、エチルアルコールが1%以下になるまで乾燥した。その後に、無菌環境下でバイアル瓶に小分け充填(50mg/vial,100mg/vial)し、滅菌処理済みのゴム栓にて密封し、更にアルミキャップで巻き締めし、新規カルバペネム誘導体塩酸塩の結晶の粉末充填注射用製剤を得た。
実験例
1)粉末充填注射用製剤による安定化効果
カルバペネム化合物塩酸塩250mgを注射用蒸留水10mLに溶解させ水性注射剤を調製した。尚、この水性注射剤のpHは、5.04であった。
また、用時溶解型の注射剤として、以下の方法により凍結乾燥製剤を調製した。カルバペネム化合物塩酸塩3.5g、塩化ナトリウム456mg及び乳糖2.815gを注射用蒸留水250mLに溶解した。この溶液を、2mLのガラス製バイアルに0.25mLずつ充填し、ゴム栓を半打栓した後、1日間の凍結乾燥を行った。乾燥を確認後に、凍結乾燥庫内で打栓し、アルミキャップで巻き締めを行なって得た。
非晶質原薬の粉末充填製剤製剤は、特開平8−73462号公報に記載されている方法で調製されたカルバペネム化合物塩酸塩を用いた。
一方、1水和物結晶の結晶質の粉末充填製剤製剤は、実施例2−2により得られた製剤(25mg/vial)を用いた。また、3水和物結晶の結晶質の粉末充填製剤製剤は、実施例1−8により得られた製剤(25mg/vial)を用いた。
この5種類の注射用製剤について、水性注射剤は25℃で24時間、凍結乾燥製剤及び粉末充填製剤は40℃相対湿度75%(40℃−75%RH)で1ヶ月間、各々保存し、高速液体クロマトグラフィーにより新規カルバペネム誘導体塩酸塩の含量を測定した。冷所保存品の含量を100%としたときの各条件下における残存率を下記表6に示した。
表6の含量安定性の結果から、本願発明に係る新規カルバペネム誘導体塩酸塩の結晶の粉末充填製剤は、非晶質の粉末充填注射用製剤、又は、他の剤形の注射用製剤(水性注射剤、凍結乾燥製剤)と比較して、極めて安定な注射用製剤であることが明らかである。
2)バイアル瓶内空気の脱気及び/又は窒素置換の効果
1水和物結晶に関しては、実施例2−3の方法(窒素置換処理)で得られた新規カルバペネム誘導体塩酸塩の結晶の粉末充填注射用製剤(25mg/vial),実施例2−3の窒素置換処理の代わりに酸素置換処理を施した粉末充填製剤(25mg/vial)及び置換処理をしていない実施例2−2の粉末充填注射用製剤(25mg/vial)を、60℃で5日間保存(N=3)し、色差(△E)、水分含量、粉末X線回折パターン、含量残存率及びHPLC不純物量を測定した。また、3水和物結晶に関しては、実施例1−9の方法(窒素置換処理)で得られた新規カルバペネム誘導体塩酸塩の結晶の粉末充填製剤(25mg/vial)及び置換処理をしていない実施例1−8の粉末充填製剤(25mg/vial)を40℃で1ヶ月間保存し、色差(△E)、水分含量及び含量残存率を測定した。尚、色差は色差計(ZE−200、日本電装)で、水分含量はカールフィシャー水分計(CA−05、三菱化学工業)で、粉末X線回折は実施例1−1又は2−1の方法条件で、含量残存率及びHPLC不純物量は、高速液体クロマトグラフィー(島津製作所)で評価した。色差(△E)は、結晶の外観の色の変化を示すパラメーターであり、その値が大きいほど初期(製造直後)と比較して色の着色変化が大きいことを意味する。1水和物と3水和物の結果を各々表7と表8に示した。
新規カルバペネム誘導体塩酸塩の結晶を充填した粉末充填製剤は、いずれの処理を施した場合においても、水分含量、粉末X線回折パターン、含量残存率及びHPLC不純物量の変化はなく安定であった。しかし、結晶表面の色差(△E)に関しては、窒素置換処理を施すことにより酸素置換処理や置換処理なしと比較して小さくなった。即ち、窒素置換処理により、熱による結晶表面の色の着色変化を防止できた。
バイアル瓶内の空気の一部又は全てを窒素で置換することにより、粉末充填注射用製剤の熱(温度)に対する安定性、特に外観の安定性が向上することは明らかである。
また、新規カルバペネム誘導体塩酸塩の結晶30mgを広口の25mLガラス瓶に各々計量し、蓋をしない状態で1水和物に関しては、40℃相対湿度0%、19.2%、53%及び75%で1週間保存し、3水和物に関しては、25℃相対湿度11%、33%、51%、75%及び93%で2週間保存した。該結晶の色差(△E)、水分含量、粉末X線回折パターン、含量残存率を測定した。尚、1水和物に関しては、各相対湿度保存下で、酸素吸収剤(商品名:エージレス、三菱瓦斯化学)の挿入の有無による比較も行った。尚、酸素吸収剤を入れた時には、各製剤は脱酸素条件下に置かれることになる。1水和物と3水和物の結果を各々表9と表10に示した。
新規カルバペネム誘導体塩酸塩の結晶を充填した粉末充填製剤は、40℃又は25℃で相対湿度が大きくなるほど、水分含量はわずかに増加したが、含量残存率や粉末X線回折パターンの大きな変化は認めなかった。また、水分含量、含量残存率及び粉末X線回折パターンに関しては、酸素吸収剤の挿入の有無による差はなかった。しかし、色差(△E)は、同じ湿度条件下では、酸素吸収剤を挿入した場合の方が挿入しない場合と比較して小さくなった。即ち、脱酸素処理により、湿度による結晶表面の色の着色変化を防止できた。
バイアル瓶内の空気の一部又は全てを脱気して脱酸素処理を施すことにより、粉末充填注射用製剤の湿度に対する安定性、特に外観の安定性が向上することは明らかである。
さらに、1水和物に関しては、実施例2−2で得られた新規カルバペネム誘導体塩酸塩の結晶の粉末充填注射用製剤(25mg/vial)、実施例2−3(バイアル瓶内空気の窒素置換処理)で得られた粉末充填注射用製剤(25mg/vial)を、3水和物に関しては、実施例1−8で得られた新規カルバペネム誘導体塩酸塩の結晶の粉末充填製剤、実施例1−9(バイアル瓶内の空気の窒素置換処理)で得られた粉末充填製剤を、各々冷所(5℃)、25℃相対湿度60%(25℃/60%RH)、40℃相対湿度75%(40℃/75%RH)及び60℃で、1週間、1ヶ月、3ヶ月保存し、該結晶の外観変化(着色変化)を目視で評価した。1水和物及び3水和物の結果を各々表11と表12に示した。
冷所(5℃)では窒素置換の有無による外観変化の差はなかったが、加温条件下(60℃)及び加湿条件下(25℃/60%RH、40℃/75%RH)では、バイアル瓶内空気の窒素置換により、着色変化の軽減が認められた。
バイアル瓶内の空気を窒素で置換して脱酸素処理を施すことにより、粉末充填注射用製剤の熱(温度)及び湿度に対する外観の安定性が向上することは明らかである。
また、1水和物に関しては、バイアル瓶内の空気を各々100、10、1、0.1、0.01hPa(ヘクトパスカル)まで脱気し、実施例2−3の方法(窒素置換処理)に基づいて窒素で置換して得られた新規カルバペネム誘導体塩酸塩の結晶の粉末充填注射用製剤(25mg/vial)を、60℃で1週間及び4週間保存(N=6)し、色差(△E)を測定した。また、バイアル瓶内の空気を各々100、10、1、0.1、0.01hPa(ヘクトパスカル)まで脱気した製剤の酸素濃度は、酸素分析計(RO−101、飯島工業)で測定した。3水和物に関しても、同様の脱気を行い、実施例1−9の方法(窒素置換処理)に基づいて得られた新規カルバペネム化合物塩酸塩の結晶の粉末充填製剤(25mg/vial)を、80℃で1週間保存(N=6)し、色差(△E)を測定した。尚、対照として、脱気及び窒素置換処理を施さない新規カルバペネム誘導体塩酸塩の結晶の粉末充填注射用製剤(25mg/vial)を用いた。1水和物と3水和物の結果を各々表13と表14に示した。
バイアル瓶内の空気を脱気したいずれの粉末充填製剤も、60℃で1週間及び4週間保存時又は80℃で1週間保存時において、対照製剤と比較して、結晶表面の色差(△E)は小さくなった。特に、バイアル瓶内の空気を10hPa(ヘクトパスカル)以下まで脱気することにより、換言すればバイアル瓶内の酸素濃度を0.5%以下まで低下させることにより、著しく熱による結晶表面の色の着色変化を防止できた。
バイアル瓶内の空気の酸素濃度を0.5%以下まで低下させ、窒素で置換することにより、粉末充填注射用製剤の熱(温度)に対する外観の安定性が向上することは明らかである。
【図面の簡単な説明】
図1は、(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・3水和物結晶の粉末X線回折パターンを示す図である。
図2は、(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・塩酸塩・1水和物結晶の粉末X線回折パターンである。
図3は、(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・1水和物(■)および3水和物(□)のMeOH水溶液に対する温度40℃での溶解度を示す図である。
図4は、(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・1水和物(■)および3水和物(□)のMeOH水溶液に対する温度20℃での溶解度を示す図である。
図5は、(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・1水和物(■)および3水和物(□)のMeOH水溶液に対する温度10℃での溶解度を示す図である。
図6は、(+)−(1R,5S、6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・1水和物(■)および3水和物(□)のMeOH水溶液に対する温度4℃での溶解度を示す図である。
図7は、(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・1塩酸塩・1水和物(■)および3水和物(□)の62.5%(v/v)MeOH水溶液に対する各温度での溶解度を示す図である。
図8は、(+)−(1R,5S,6S)−6−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−1−メチル−2−[(2S,4S)−2−[(3R)−ピロリジン−3−イル−(R)−ヒドロキシメチル]ピロリジン−4−イル]チオ−1−カルバペン−2−エム−3−カルボン酸・塩酸塩・1水和物及び3水和物の粉末充填注射用製剤の製造法の概略の1例である。
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明がこれらに限定されるわけではない。
Claims (16)
- (+)-(1R,5S,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチル-2-[(2S,4S)-2-[(3R)-ピロリジン-3-イル-(R)-ヒドロキシメチル]ピロリジン-4-イル]チオ-1-カルバペン-2-エム-3-カルボン酸・1塩酸塩・1水和物結晶を、50%〜90%(v/v)イソプロパノール水溶液に溶解し、0から20℃の温度で結晶化することを特徴とする(+)-(1R,5S,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチル-2-[(2S,4S)-2-[(3R)-ピロリジン-3-イル-(R)-ヒドロキシメチル]ピロリジン-4-イル]チオ-1-カルバペン-2-エム-3-カルボン酸・1塩酸塩・3水和物結晶の製造方法。
- 3水和物結晶が、9.0、4.1及び2.8オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有する結晶である請求項1記載の製造方法。
- 3水和物結晶が9.0、5.4、5.2、5.0、4.1、4.0、3.8、3.6、3.4、3.1、2.8及び2.6オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有する結晶である請求項1記載の製造方法。
- 1水和物であり、9.4、6.2、5.4、5.2、4.8、4.7、4.4、4.3、4.0、3.8、3.6、3.4及び3.3オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有する請求項4記載の結晶。
- (+)-(1R,5S,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチル-2-[(2S,4S)-2-[(3R)-ピロリジン-3-イル-(R)-ヒドロキシメチル]ピロリジン-4-イル]チオ-1-カルバペン-2-エム-3-カルボン酸またはその誘導体をメタノール/水系、ジメチルスルホキシド/水系、ジメチルホルムアミド/水系、2-メトキシエタノール/水系、またはジメチルアセトアミド/水系の結晶化溶媒に溶かし、結晶化することを特徴とする(+)-(1R,5S,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチル-2-[(2S,4S)-2-[(3R)-ピロリジン-3-イル-(R)-ヒドロキシメチル]ピロリジン-4-イル]チオ-1-カルバペン-2-エム-3-カルボン酸・1塩酸塩・1水和物結晶の製造方法。
- 結晶化溶媒としてメタノールと水からなる系を使用することを特徴とする請求項6記載の製造方法。
- 結晶化溶媒として50から90%(v/v)メタノール水溶液を使用することを特徴とする請求項7記載の製造方法。
- 溶媒中の(+)-(1R,5S,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチル-2-[(2S,4S)-2-[(3R)-ピロリジン-3-イル-(R)-ヒドロキシメチル]ピロリジン-4-イル]チオ-1-カルバペン-2-エム-3-カルボン酸の濃度が5から10%(w/w)の溶液を使用して結晶化することを特徴とする請求項6記載の製造方法。
- 1水和物結晶が5.2、4.3及び4.0オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有する結晶である請求項6記載の製造方法。
- 50%〜90%(v/v)イソプロパノール水溶液を結晶化溶媒として使用し、(+)-(1R,5S,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチル-2-[(2S,4S)-2-[(3R)-ピロリジン-3-イル-(R)-ヒドロキシメチル]ピロリジン-4-イル]チオ-1-カルバペン-2-エム-3-カルボン酸の定量値に対して20%(wt%)量以上の(+)-(1R,5S,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチル-2-[(2S,4S)-2-[(3R)-ピロリジン-3-イル-(R)-ヒドロキシメチル]ピロリジン-4-イル]チオ-1-カルバペン-2-エム-3-カルボン酸・1塩酸塩・1水和物結晶を種結晶として加えることを特徴とする(+)-(1R,5S,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチル-2-[(2S,4S)-2-[(3R)-ピロリジン-3-イル-(R)-ヒドロキシメチル]ピロリジン-4-イル]チオ-1-カルバペン-2-エム-3-カルボン酸・1塩酸塩・1水和物結晶の製造方法。
- 20〜50℃の温度で結晶化することを特徴とする請求項11記載の製造方法。
- 22℃の温度で結晶化することを特徴とする請求項11記載の製造方法。
- 1水和物結晶が5.2、4.3及び4.0オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有する結晶である請求項11記載の製造方法。
- 請求項15記載の式(式2)で示される (+)-(1R,5S,6S)-6-[(R)-1- ヒドロキシエチル ]-1- メチル -2-[(2S,4S)-2-[(3R)- ピロリジン -3- イル -(R)- ヒドロキシメチル ] ピロリジン -4- イル ] チオ -1- カルバペン -2- エム -3- カルボン酸の塩酸塩1水和物結晶であり、5.2、4.3及び4.0オングストロームの面間隔(d)を含む粉末X線回折パターンを有する結晶をバイアル瓶に充填し、打栓した粉末充填注射用製剤。
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