JP4126986B2 - クラッチ装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、入力側部材と出力側部材間に配設されて、これら両部材間の駆動力伝達可能な連結を断続するクラッチ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
クラッチ装置の一形式として、入力側部材および出力側部材のいずれか一方である第1の部材といずれか他方である第2の部材間に介在し付与される作用力にて第1の部材に係合するクラッチ部材と、クラッチ部材を第1の部材から離間する方向に付勢するばね部材と、クラッチ部材と第2の部材間に介在しこれら両部材間に生じる相対回転により作動してクラッチ部材の第1の部材に対する係合力を増大させるカム機構を備える形式のクラッチ装置がある。
【0003】
当該形式のクラッチ装置においては、その作動時には、第1の部材と第2の部材を、クラッチ部材およびカム機構を介して互いに結合して、駆動力伝達可能な連結状態にするものである。当該形式のクラッチ装置においては、その非作動時には、クラッチ部材が第1の部材から確実に離間していて、第1の部材と第2の部材間の駆動力伝達可能な連結状態が確実に遮断されていること、および、かかる連結遮断状態が非作動中確実に保持されていることが肝要である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、当該形式のクラッチ装置は、各種の駆動機構内に配設されて、種々の環境の下で使用されるため、環境によっては、潤滑油等のオイルの粘性抵抗やその他の要因に起因して、クラッチ部材と第2の部材間に相対回転が発生することがある。クラッチ部材と第2の部材間に相対回転が発生すると、クラッチ装置が非作動時にあってもカム機構が作動して、カム機構はクラッチ部材を第1の部材に係合させ、かつ、その係合力を増大すべく機能する。このため、当該形式のクラッチ装置においては、使用する環境によっては、クラッチ装置を非作動状態に保持すべき場合にあっても、作動状態になり得るという問題がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、この種形式のクラッチ装置において、クラッチ装置の作動時には、第1の部材と第2の部材の結合を確実に保持するとともに、クラッチ装置の非作動状態を保持すべき場合には、クラッチ部材と第2の部材間の相対回転の発生を阻止または大きく抑制して、クラッチ装置が作動状態に形成されるのを防止することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明はクラッチ装置に関するもので、入力側部材および出力側部材のいずれか一方である第1の部材といずれか他方である第2の部材間に介在し付与される作用力にて前記第1の部材に係合するクラッチ部材と、同クラッチ部材を前記1の部材から離間する方向に付勢するばね部材と、前記クラッチ部材と前記第2の部材間に介在しこれら両部材間に生じる相対回転により作動して前記クラッチ部材の前記第1の部材に対する係合力を増大させるカム機構を備え、作動時には、前記第1の部材と第2の部材を、前記クラッチ部材および前記カム機構を介して互いに結合させる形式のクラッチ装置を適用対象とするものである。
【0007】
しかして、本発明に係るクラッチ装置においては、上記した形式のクラッチ装置を構成する前記クラッチ部材と前記第2の部材間に、非作動時には、前記クラッチ部材を前記第2の部材に係合させてこれら両部材間の相対回転を規制する係合手段を備え、前記カム機構は、作動時、前記クラッチ部材を前記第1の部材に自縛的に係合させるカム角に設定されてセルフロック機能を有していることを特徴とするものである。
【0008】
本発明に係るクラッチ装置においては、前記係合手段を、前記クラッチ部材に形成された係合部と、前記第2の部材に形成され前記係合部に離脱可能に係合する係合部にて構成することができ、また、前記クラッチ部材に形成されたテーパ面と、前記第2の部材に形成され前記テーパ面に離脱可能に係合するテーパ面からなるコーンクラッチにて構成することができる。また、本発明に係るクラッチ装置においては、前記クラッチ部材として、磁力の吸引作用で前記第1の部材に係合するアーマチャを採用して電磁クラッチ装置に構成することができる。
【0009】
本発明に係るクラッチ装置においては、前記カム機構として、前記第2の部材を第1カム部材とし、前記クラッチ部材を第2カム部材として、これら両カム部材のカム溝にカムフォロアを介在して構成されたたカム機構を採用することができ、この場合には、前記カム溝のカム角θを、θ<tan -1 (μ・R 2 /R 1 )の条件を満たすように設定して、セルフロック機能を有する構成とすることができる。但し、(R 1 :カム半径、R 2 :第2カム部材における摩擦面の有効半径、θ:各カム部材におけるカム溝のカム角、F:カム作用力、μ:摩擦面の摩擦係数)である。
【0010】
本発明に係るクラッチ装置においては、当該クラッチ装置を駆動手段と被駆動手段間に配設して、これら両手段間の駆動力伝達可能な連結を断続する駆動装置を構成するようにすることができる。
【0011】
本発明に係るクラッチ装置においては、駆動手段である電動モータから出力される駆動力を減速ギヤ列を介して非駆動手段に伝達する駆動装置に採用することができ、当該クラッチ装置を、前記減速ギヤ列における入力側と出力側間に配設してこれら入力側と出力側間の駆動力伝達可能な連結を断続するように機能させることができる。
【0012】
本発明に係るクラッチ装置は、前後輪の一方を駆動する駆動手段と、前後輪の他方を駆動する電動モータと、前記電動モータと前後輪の他方との間に設けられた減速ギヤ列とを備えた前後輪駆動車の前記減速ギヤ列に組込まれる電磁クラッチ装置に構成することができる。当該クラッチ装置は、前記減速ギヤ列を構成する出力軸上に一体回転可能に組付けられた回転部材と、前記出力軸上に回転可能に組付けられた入力側ギヤと、前記回転部材と前記入力側ギヤ間に介在されたアーマチャと、前記アーマチャと前記入力側ギヤ間に介在されれこれらアーマチャと入力側ギヤとの相対回転により前記アーマチャを入力側ギヤに対して前記回転部材に摩擦係合させるカム機構と、前記入力側ギヤと前記アーマチャとの間に形成された係合手段と、前記アーマチャと前記回転部材との間に介在され前記係合手段によって前記アーマチャを前記入力側ギヤに係合させるばね部材と、電磁コイルへの電流の印加によって前記係合手段による係合を解除すべく前記アーマチャを前記入力側ギヤから離脱する方向に吸引する電磁クラッチとを備える構成とし、かつ、前記カム機構を、作動時、前記アーマチャを前記回転部材に自縛的に係合させるカム角に設定されてセルフロック機能を有する構成とすることができる。
【0013】
【発明の作用・効果】
本発明に係るクラッチ装置は、入力側部材および出力側部材のいずれか一方である第1の部材といずれか他方である第2の部材間に介在し付与される作用力にて第1の部材に係合するクラッチ部材と、クラッチ部材を第1の部材から離間する方向に付勢するばね部材と、クラッチ部材と第2の部材間に介在しこれら両部材間に生じる相対回転により作動してクラッチ部材の第1の部材に対する係合力を増大させるカム機構を備えることを基本構成とし、カム機構として、クラッチ部材を第1の部材に自縛的に係合させるセルフロック機能を有するカム機構を採用している。
【0014】
このため、本発明に係るクラッチ装置は、作動時には、従来のこの種形式のクラッチ装置と同様に作動して、第1の部材と第2の部材を互いに結合すべく機能する。また、非作動時には、従来のこの種形式のクラッチ装置と同様に、ばね部材の作用によりクラッチ部材を第1の部材から離間させて、クラッチ装置を非作動状態にしかつ非作動状態を保持するものである。特に、カム機構は、クラッチ部材を第1の部材に自縛的に係合させるセルフロック機能を有することから、クラッチ装置の作動時には、第1の部材と第2の部材の結合を確実に保持することができる。
【0015】
この場合、当該クラッチ装置は種々の環境の下で使用されることから、当該クラッチ装置の非作動時、潤滑油等のオイルの粘性抵抗や異物の食い込み等によってクラッチ部材が第1の部材に係合する等して、クラッチ部材と第2の部材間に相対回転を生じさせるおそれがある。
【0016】
しかしながら、本発明に係るクラッチ装置においては、クラッチ部材と第2の部材間に、非作動時には、クラッチ部材を第2の部材に係合させてこれら両部材間の相対回転を規制する係合手段を備えている。このため、当該クラッチ装置の非作動時には、クラッチ部材と第2の部材間に位置する係合手段が、クラッチ部材を第2の部材に係合させてクラッチ部材と第2の部材間の相対回転を規制することから、たとえ、これら両部材間の相対回転を惹起させる要因が発生しても、当該要因によって、クラッチ部材と第2の部材間に相対回転が発生するようなことはない。従って、当該クラッチ装置においては、たとえ上記した要因が発生しても、クラッチ部材と第2の部材の相対回転の発生は防止され、非作動状態が確実の保持される。
【0017】
本発明に係るクラッチ装置においては、具体的には、前記係合手段を、クラッチ部材に形成された係合部と、第2の部材に形成され前記係合部に離脱可能に係合する係合部にて構成することができ、また、クラッチ部材に形成されたテーパ面と、第2の部材に形成されテーパ面に離脱可能に係合するテーパ面からなるコーンクラッチにて構成することができる。かかる構成の係合手段によれば、クラッチ部材と第2の部材間の相対回転を、必要時には確実に規制することができ、かつ、不要時には確実に規制を解除することができる。
【0018】
本発明に係るクラッチ装置においては、前記クラッチ部材として、磁力の吸引作用で第1の部材に係合するアーマチャを採用することにより、電磁クラッチ装置に容易に構成することができる。また、本発明に係るクラッチ装置においては、前記カム機構のカム角を、同カム機構の作動時、クラッチ部材を第1の部材に自縛的に係合させるカム角に設定することにより、、セルフロック式のクラッチ装置に容易に構成することができる。
【0019】
なお、本発明に係るクラッチ装置においては、駆動手段と被駆動手段間に配設されてこれら両手段間の駆動力伝達可能な連結を断続する駆動装置を構成する使用形態を採ることができる。この場合、前記駆動装置としては、前後輪駆動車用の駆動装置を採用することができる。また、当該クラッチ装置を前後輪駆動車用の駆動装置に配設する使用形態においては、電動モータから出力する駆動力を減速ギヤ列を介して前後輪の他方に伝達する駆動装置であっては、当該クラッチ装置を、前記減速歯車機構における入力側と出力側間に配設して、これら入力側と出力側間の駆動力伝達可能な連結を断続するようにすることができる。
【0020】
特に、本発明に係るクラッチ装置を上記した電磁クラッチ装置に構成すれば、前後輪駆動車を構成する補助駆動装置が必要とする電磁クラッチ装置を、同補助駆動装置を構成する減速ギヤ列内にコンパクトに組込むことができて、良好に作動させることができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明は、クラッチ装置に関するものである。図1は、本発明の一例に係るクラッチ装置を組込んて構成されている駆動装置を搭載した前後輪駆動車を示している。当該前後輪駆動車は、主駆動輪である前輪側を駆動する主駆動装置10と、補助駆動輪である後輪側を駆動する補助駆動装置20と、補助駆動装置20を制御する制御装置30を備えている。当該前後輪駆動車においては、補助駆動装置20を構成するクラッチ装置として、本発明に係るクラッチ装置の一例である電磁クラッチ装置が採用されている。図2には、当該補助駆動装置20の詳細を示し、かつ、図3には、当該電磁クラッチ装置の詳細を示している。
【0022】
当該前後輪駆動車を構成する主駆動装置10は、内燃機関であるエンジン11およびジェネレータ17を備えている。主駆動装置10においては、エンジン11の駆動力は、トランスミッション12、減速ギヤ列13、および、フロントディファレンシャル14を経て各ドライブシャフト15に分配され、各ドライブシャフト15にて前輪16が駆動される。
【0023】
補助駆動装置20は、電動モータ20a、減速ギヤ列20b、電磁クラッチ装置20c、および、リヤディファレンシャル20dを備えている。補助駆動装置20においては、電磁クラッチ装置20cが本発明の一例に係るクラッチ装置に該当する。補助駆動装置20においては、電動モータ20aが駆動手段を構成する。
【0024】
ジェネレータ17は、エンジン11のクランク軸に連結されていて、エンジン11によって駆動されて電力を発電する。ジェネレータ17にて発電された電力は、バッテリー18に蓄電される。バッテリー18に蓄電されている電力は、必要時、制御装置30からの指令信号に基づいて電動モータ20aに供給され、これにより、電動モータ20aは駆動される。電磁クラッチ装置20cは、減速ギヤ列20b内に配設されて、減速ギヤ列20b内の入力側と出力側間の駆動力伝達可能な連結を断続すべく機能するもので、必要時、制御装置30からの指令信号に基づいて入力側と出力側間の駆動力伝達可能な連結を断続する。
【0025】
補助駆動装置20においては、電動モータ20aは、減速ギヤ列20b内の入力側と出力側間が電磁クラッチ装置20cを介して駆動力伝達可能に連結している場合に駆動制御される。電動モータ20aの駆動力は減速ギヤ列20bに入力され、減速ギヤ列20bに入力側から電磁クラッチ装置20cを介して減速ギヤ列20bの出力側へ伝達されて、減速ギヤ列20bの出力側からリヤディファレンシャル20dに伝達される。伝達された駆動力は、リヤディファレンシャル20dにて各ドライブシャフト21aに分配されて、各ドライブシャフト21aにて後輪21bが駆動される。
【0026】
制御装置30は、シフトポジションセンサS1、スロットル開度センサS2、車輪速センサS3等に接続されているもので、MPU(マイクロプロセッサ)および駆動回路を備えている。MPUは、CPUおよびメモリーを備え、メモリーは、電磁クラッチ装置20cや電動モータ20a等を制御する制御プログラムやデータを保持している。制御装置30においては、各センサS1〜S3から出力される検出信号を、インタフェースを介して取込み、MPUは、取込んだ各検出信号に基づいて補助駆動装置20の作動すべき状態を判定し、補助駆動装置20を作動すべきであると判定した場合には、電動モータ20aや電磁クラッチ装置20cを動作すべき指令信号を、インタフェースを介して駆動回路に出力する。
【0027】
駆動回路は、MPUからの指令信号に基づいて、電磁クラッチ装置20cのON(結合)−OFF(遮断)を制御するとともに、電動モータ20aに対する電力の供給を制御するもので、MPUが補助駆動装置20を作動すべきであると判定した場合には、MPUからの指令信号に基づいて、電磁クラッチ装置20cをONして、設定された電圧の電力を電動モータ20aに供給する。これにより、補助駆動装置20は作動して後輪21b側を駆動させ、車両を前後輪駆動状態に形成する。
【0028】
しかして、補助駆動装置20は、図2に示すように、駆動手段である電動モータ20aと被駆動手段である後輪21b側とを駆動力伝達可能に連結する駆動力伝達手段である減速歯車機構である減速ギヤ列20b、および、リヤディファレンシャル20dを備えている。減速ギヤ列20bは、入力側と出力側に分割されていて、入力側と出力側間に、本発明に係るクラッチ装置である電磁クラッチ装置20cが配設されている。
【0029】
減速ギヤ列20bを構成する入力側は、ミッションケース21c内にて回転可能に支持されている入力軸22a、入力軸22a上に一体回転可能に組付けられている第1ギヤ22b、入力軸22a上に一体に形成されている第2ギヤ22c、出力側を構成する出力軸23a上に回転可能に組付けられている第3ギヤ22dにて構成されている。第1ギヤ22bは、ミッションケース21cに設置された電動モータ20aの出力軸に一体に形成されている出力ギヤ22eに噛合している。
【0030】
減速ギヤ列20bを構成する出力側は、ミッションケース21c内にて回転可能に支持されている出力軸23a、出力軸23a上に一体回転可能に組付けられている第4ギヤ23bにて構成されている。出力軸23aは、入力軸22aとは並列的に支持されていて、第4ギヤ23bはリヤディファレンシャル20dの入力手段であるリングギヤ24に噛合し、かつ、出力軸23a上に回転可能に組付けられている入力側の第3ギヤ22dは入力側の第2ギヤ22cに噛合している。
【0031】
リヤディファレンシャル20dは、それ自体公知のもので、ミッションケース21c内にて回転可能に支持されているディファレンシャルケース25a、同ケース25a内に収容されている一対のピニオン25b、および、両ピニオン25bに噛合する一対のサイドギヤ25cを備えている。当該リヤディファレンシャル20dにおいては、リングギヤ24を介して駆動力が伝達され、入力された駆動力を各サイドギヤ25cに連結する各ドライブシャフト21a側へ分配する。これにより、両後輪21bが駆動して、車両が前後輪駆動状態に形成される。
【0032】
減速ギヤ列20bの入力側と出力側間に配置されている電磁クラッチ装置20cは、出力軸23a上に組付けられている。電磁クラッチ装置20cは、図3に示すように、出力軸23aの外周上に一体的に組付けられている第1の部材である円盤状の回転部材26a、回転部材26aの環状凹所にヨークに支持されて嵌合して組付けられている電磁コイル26b、出力軸23aの外周上に回転可能に組付けられて回転部材26aの外側面側に位置するクラッチ部材であるアーマチャ26c、回転部材26aとアーマチャ26c間に介装されているリターンスプリング26dを備えるとともに、アーマチャ26cと第2の部材である第3ギヤ22d間に配置されているカム機構Cを備えている。
【0033】
電磁クラッチ装置20cにおいては、回転部材26aとアーマチャ26c間が摩擦クラッチに構成されている。当該摩擦クラッチを構成するアーマチャ26cは、非作動時には、ばね部材を構成するリターンスプリング26dの付勢作用にて回転部材26aとは離間していて、電磁コイル26bへの電流の印加によって生じる磁力の作用により、リターンスプリング26dに抗して回転部材26aの外側面側に吸引されて、回転部材26aの外側面に摩擦係合する。
【0034】
また、電磁クラッチ装置20cにおいては、第3ギヤ22dの外周側縁部が環状の内向きのテーパ面22d1に形成され、かつ、アーマチャ26cの外周側縁部が環状の外向きのテーパ面26c1に形成されている。これら両テーパ面22d1,26c1は互いに対向していて、コーンクラッチ27を構成している。コーンクラッチ27は、本発明の主要部をなす係合手段を構成している。
【0035】
コーンクラッチ27は、電磁クラッチ装置20cの非作動時、リターンスプリング26dの作用にて回転部材26aから離間しているアーマチャ26cを、第3ギヤ22dに係合すべく機能する。このため、アーマチャ26cは、電磁クラッチ装置20cの非作動時には、コーンクラッチ27を介して第3ギヤ22dに係合している。アーマチャ26cは、電磁クラッチ装置20cの作動時には、第3ギヤ22dから離間して、コーンクラッチ27による第3ギヤ22dに対する係合を自ら解除する。
【0036】
カム機構Cは、減速ギヤ列20bを構成する入力側の第3ギヤ22dを第1カム部材とし、これに対向するアーマチャ26cを第2カム部材とするもので、第1カム部材である第3ギヤ22dと第2カム部材であるアーマチャ26cの互いの対向面に形成されている互いに対向するカム溝にカムフォロア26eを嵌合して構成されている。
【0037】
かかる構成の電磁クラッチ装置20cにおいては、電磁コイル26bへの電流の印加が停止されている非作動時には、アーマチャ26cはリターンスプリング26dによって第3ギヤ22d側へ付勢されていて、コーンクラッチ27の作用にて、アーマチャ26cは第3ギヤ22dに係合していて、第3ギヤ22dに対する相対回転を規制されている。この状態にある電磁クラッチ装置20cにおいて、その電磁コイル26bへ電流を印加すると、電磁クラッチ装置20cは作動する。
【0038】
すなわち、非作動中の電磁クラッチ装置20cにおいて、その電磁コイル26bへ電流を印加すると、これにより生じる磁力の作用にて、アーマチャ26cがリターンスプリング26dに抗して回転部材26aの外側面側に吸引されて、アーマチャ26cは、第3ギヤ22dに対する係合を自ら解除して回転部材26aの外側面に摩擦係合し、減速ギヤ列20bの入力側である第3ギヤ22dと出力側である出力軸23aを駆動力伝達可能に連結する。この際、カム機構Cが作動して、アーマチャ26cの回転部材26aの外側面に対する摩擦係合力を増大して、アーマチャ26cと回転部材26aを互いに結合させる。
【0039】
カム機構Cは、第3ギヤ22dとアーマチャ26c間の相対回転によって作動し、作動時には、カムフォロア26eがカム溝に乗り上げてアーマチャ26cを回転部材26aの外側面側へ押圧するが、当該カム機構Cにあっては、そのカム角が的確に設定されていて、アーマチャ26cの回転部材26aに対する外側面の摩擦係合力に起因する摩擦トルクで発生する軸方向の力が、第3ギヤ22dの回転力に起因して摩擦トルクに還元されて、摩擦トルクを増大させる。当該カム機構Cにおいては、この摩擦トルクの増大作用を、循環して繰り返し行う。
【0040】
このため、電磁クラッチ装置20cは、電磁コイル26bに電流を印加してアーマチャ26cを回転部材26aの外側面に摩擦係合させると、第3ギヤ22dの回転力によって自縛的に瞬時にロック状態を形成する。換言すれば、電磁クラッチ装置20cは、第3ギヤ22dの回転力によってセルフロックする。図4には、当該電磁クラッチ装置20cがセルフロック機能を有するための、カム機構Cの構成条件を示している。
【0041】
電磁クラッチ装置20cにおいては、セルフロックした状態において、電磁コイル26bへの電流の印加を停止した場合には、アーマチャ26cに対する吸引作用が解除され、リターンスプリング26dの作用によって、セルフロック状態が解除される。換言すれば、当該電磁クラッチ装置20cは、セルフロック機能を有するとともに、セルフロック解除機能を有している。セルフロックを解除された状態では、アーマチャ26cは回転部材26aから離間して、コーンクラッチ27を介して第3ギヤ22dに係合し、第3ギヤ22dに対する相対回転が規制される。
【0042】
図4は、カム機構Cを模式的に示している。カム機構Cは、入力側の第3ギヤ22dである第1カム部材C1と、アーマチャ26cである第2カム部材C2と、カムフォロア26dであるカムフォロアC3からなるもので、カム半径R1、第2カム部材C2における摩擦面の有効半径R2、各カム部材C1,C2におけるカム溝のカム角をθ、カム作用力をF、摩擦面の摩擦係数をμとした場合、セルフロックするためには、F・sinθ・R1<F・cosθ・μ・R2の関係を成立させる必要がある。従って、セルフロック条件は、θ<tan-1(μ・R2/R1)となる。当該電磁クラッチ20cにおいては、カム機構Cを当該構成条件に設定して、セルフロック機能を付与している。
【0043】
かかる構成の当該補助駆動装置20においては、基本的には、駆動力伝達手段を構成する電磁クラッチ装置20cを、電動モータ20aとリヤディファレンシャル20dを駆動力伝達可能に連結する減速ギヤ列20bにおける入力側と出力側間に配置している。当該配置によれば、隣接しているリヤディファレンシャル20dとは別体に構成し得て、電磁クラッチ装置20cのクラッチ構造を単純化できるとともに、リヤディファレンシャル20d等他の機構として標準構成の機構を採用することができて、装置の大型化および大重量化を抑制して、補助駆動装置20を小型で廉価に構成することができる。
【0044】
また、当該補助駆動装置20においては、電磁クラッチ装置20cを、減速ギヤ列20bにおける入力側と出力側の相対回転により作動してクラッチの摩擦係合力を増強するカム機構Cを備える構成としているので、電磁クラッチ装置20cの係合力をカム機構Cの作用にて倍力することができ、小型で軽量なクラッチ装置の使用を可能としている。しかも、当該カム機構Cを、電磁クラッチ装置20cの必須不可欠の構成部材であるアーマチャ26cと、減速ギヤ列20bの必須不可欠の構成部材である第3ギヤ22dとを共用して構成していることから、カム機構Cを有する電磁クラッチ装置20cそれ自体を小型で軽量に構成することができる。
【0045】
また、電磁クラッチ装置20cとして、セルフロック式の電磁クラッチ装置を採用している。セルフロック機能を有するクラッチは、伝達トルクを判断基準とすれば、通常のクラッチ装置に比較して小型、軽量かつ廉価に構成することができる。このため、当該補助駆動装置20においては、上記した基本的な配置関係に加えて、小型で軽量なクラッチ装置を採用することにより、装置の大型化および大重量化を一層抑制することができるとともに、補助駆動装置20を一層廉価に構成することができる。
【0046】
しかして、当該電磁クラッチ装置20cにおいては、入力側部材である第3ギヤ22dと摩擦クラッチを構成するアーマチャ26cとの間にコーンクラッチ27を備えている。コーンクラッチ27は、電磁クラッチ装置20cの非作動時、リターンスプリング26dの作用にて回転部材26aから離間しているアーマチャ26cを第3ギヤ22dに係合すべく機能する。アーマチャ26cは、電磁クラッチ装置20cの非作動時には、コーンクラッチ27を介して第3ギヤ22dに係合して、第3ギヤ22dに対する相対回転を規制される。
【0047】
このため、電磁クラッチ装置20cはその非作動時、使用する環境下で、潤滑油等のオイルの粘性抵抗や異物の食い込み等によってアーマチャ26cと第3ギヤ22d間の相対回転を生じさせる要因が発生しても、コーンクラッチ27はその係合作用にて、アーマチャ26cと第3ギヤ22d間の相対回転を阻止する。
【0048】
従って、電磁クラッチ装置20cにおいては、その非作動時にたとえ相対回転を生じさせる要因が発生しても、アーマチャ26cと第3ギヤ22d間の相対回転は防止され、電磁クラッチ装置20cの非作動状態は確実に保持される。アーマチャ26cの第3ギヤ22dに対する係合は、電磁クラッチ装置20cの作動時における、アーマチャ26cの回転部材26a側への吸引移動により自動的に解除される。このため、コーンクラッチ27が電磁クラッチ装置20cの作動時に、障害となることはない。
【0049】
図5(a)には、コーンクラッチ27とは異なる係合手段であるクラッチAを備える電磁クラッチ装置20cを示している。各係合手段としては、図5(b)〜(d)のクラッチを採用することができる。
【0050】
図5(b)に示す第1の変形例である係合手段は、環状で平面状の摩擦係合面を有する摩擦クラッチ27aであって、摩擦クラッチ27aは、第3ギヤ22dの外周縁部の外側面に形成された環状で平面状の摩擦係合面22d2と、アーマチャ26cの外周縁部の外側面に形成された環状で平面状の摩擦係合面26c2にて構成されている。これら摩擦係合面22d2,26c2は互いに対向して、摩擦クラッチ27aを構成している。当該摩擦クラッチ27aにおいては、アーマチャ26cと回転部材26a間に相対回転を生じさせる要因が発生しても、アーマチャ26cは第3ギヤ22dとの摩擦係合によって当該要因に打ち勝って、アーマチャ26cの第3ギヤ22dに対する係合状態を保持する。なお、当該摩擦クラッチ27aにおいては、電磁クラッチ装置20cの作動時には、アーマチャ26cが第3ギヤ22dから完全に離間して、アーマチャ26cの第3ギヤ22dに対する係合が容易に解除される。
【0051】
図5(c)に示す第2の変形例である係合手段は、噛合式のドッグクラッチ27bであって、ドッグクラッチ27bは、第3ギヤ22dの外周縁部の外側面に形成された環状の凹凸面22d3と、アーマチャ26cの外周縁部の外側面に形成された環状の凹凸面26c3にて構成されている。これら凹凸面22d3,26c3は断面V字状の凹凸にて形成されているもので、互いに対向して凹凸面22d3,26c3同士が互いに噛合して係合するドッグクラッチ27bを構成している。当該ドッグクラッチ27bにおいては、アーマチャ26cと回転部材26a間に相対回転を生じさせる要因が発生しても、アーマチャ26cは第3ギヤ22dとの噛合によって当該要因に打ち勝って、アーマチャ26cの第3ギヤ22dに対する係合状態を保持する。なお、当該摩擦クラッチ27aにおいては、電磁クラッチ装置20cの作動時には、アーマチャ26cが第3ギヤ22dから離間して噛合状態を緩和して、アーマチャ26cの第3ギヤ22dに対する係合が解除される。
【0052】
図5(d)に示す第3の変形例である係合手段も、噛合式のドッグクラッチ27cであって、ドッグクラッチ27cは、第3ギヤ22dの外周縁部の外側面に形成された凸部22d4と、アーマチャ26cの外周縁部の外側面に形成された凹部26c4にて構成されている。これらの凸凹部22d4,26c4は断面方形状を呈するもので、第3ギヤ22dの外周縁部の外側面またはアーマチャ26cの外周縁部の外側面に、周方向の複数形成されている。これら凸凹部22d4,26c4は、互いに対向して互いに噛合して係合するドッグクラッチ27cを構成している。当該ドッグクラッチ27cにおいては、アーマチャ26cと回転部材26a間に相対回転を生じさせる要因が発生しても、アーマチャ26cは第3ギヤ22dとの噛合によって当該要因に打ち勝って、アーマチャ26cの第3ギヤ22dに対する係合状態を保持する。なお、当該ドッグクラッチ27cにおいては、電磁クラッチ装置20cの作動時には、アーマチャ26cが第3ギヤ22dから離間して、その凹部26c4から第3ギヤ22dの凸部22d4を完全に引き抜くことによって、アーマチャ26cの第3ギヤ22dに対する係合が解除される。
【0053】
なお、本実施形態では、本発明に係るクラッチ装置をセルフロック式の電磁クラッチ装置20cに構成した例について示しているが、本発明に係るクラッチ装置は、非セルフロック式の電磁クラッチ装置や、非電磁式のクラッチ装置等各種形式のクラッチ装置に適用することができる。
【0054】
また、本実施形態では、本発明に係るクラッチ装置を、前後輪駆動車用の補助駆動装置20に組込む使用形態を示しているが、本発明に係るクラッチ装置は、前後輪駆動車用の主駆動装置に組込む使用形態、二輪駆動車用の駆動装置に組込む使用形態、車両に搭載される補機部品を駆動するための駆動装置に組込む使用形態、その他の産業機械を駆動するための駆動装置に組込む使用形態等、各種の使用形態を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るクラッチ装置の一例である電磁クラッチ装置を組込んだ駆動装置を補助駆動装置とする前後輪駆動車の概略的構成図である。
【図2】同補助駆動装置を構成する駆動力伝達手段の全体を示す横断平面図である。
【図3】同駆動力伝達手段を構成する減速ギヤ列における電磁クラッチ装置の配設部位を拡大して示す横断平面図である。
【図4】同電磁クラッチ装置を構成するカム機構を模式的に示す説明図である。
【図5】異なる係合手段を有する電磁クラッチ装置の一部を示す横断平面図(a)、同電磁クラッチ装置の係合手段の変形例を示す一部を展開した横断平面図(b),(c),(d)である。
【符号の説明】
10…主駆動装置、11…エンジン、12…トランスミッション、13…減速ギヤ列、14…フロントディファレンシャル、15…ドライブシャフト、16…前輪、17…ジェネレータ、18…バッテリー、20…補助駆動装置、20a…電動モータ、20b…減速ギヤ列、20c…電磁クラッチ装置、20d…リヤディファレンシャル、21a…ドライブシャフト、21b…後輪、21c…ミッションケース、22a…入力軸、22b…第1ギヤ、22c…第2ギヤ、22d…第3ギヤ、22d1…テーパ面、22d2…摩擦係合面、22d3…凹凸面、22d4…凸部、23a…出力軸、23b…第4ギヤ、24…リングギヤ、25a…ディファレンシャルケース、25b…ピニオン、25c…サイドギヤ、26a…回転部材、26b…電磁コイル、26c…アーマチャ、26c1…テーパ面、26c2…摩擦係合面、26c3…凹凸面、26c4…凹部、26d…リターンスプリング、26e…カムフォロア、27…コーンクラッチ、27a…摩擦クラッチ、27b,27c…ドッグクラッチ、30…制御装置、A…クラッチ、C…カム機構、C1…第1カム部材、C2…第2カム部材、C3…カムフォロアー。
Claims (8)
- 入力側部材および出力側部材のいずれか一方である第1の部材といずれか他方である第2の部材間に介在し付与される作用力にて前記第1の部材に係合するクラッチ部材と、前記クラッチ部材を前記1の部材から離間する方向に付勢するばね部材と、前記クラッチ部材と前記第2の部材間に介在しこれら両部材間に生じる相対回転により作動して前記クラッチ部材の前記第1の部材に対する係合力を増大させるカム機構を備え、作動時には、前記第1の部材と前記第2の部材を、前記クラッチ部材および前記カム機構を介して互いに結合させるクラッチ装置であり、当該クラッチ装置は、前記クラッチ部材と前記第2の部材間に、非作動時には、前記クラッチ部材を前記第2の部材に係合させてこれら両部材間の相対回転を規制する係合手段を備え、前記カム機構は、作動時、前記クラッチ部材を前記第1の部材に自縛的に係合させるカム角に設定されてセルフロック機能を有していることを特徴とするクラッチ装置。
- 請求項1に記載のクラッチ装置であり、前記係合手段は、前記クラッチ部材に形成された係合部と、前記第2の部材に形成され前記係合部に離脱可能に係合する係合部から構成されていることを特徴とするクラッチ装置。
- 請求項2に記載のクラッチ装置であり、前記係合手段は、前記クラッチ部材に形成されたテーパ面と、前記第2の部材に形成され前記テーパ面に離脱可能に係合するテーパ面からなるコーンクラッチにて構成されていることを特徴とするクラッチ装置。
- 請求項1に記載のクラッチ装置であり、前記クラッチ部材には磁力の吸引作用で前記第1の部材に係合するアーマチャが採用されていて、電磁クラッチ装置に構成されていることを特徴とするクラッチ装置。
- 請求項1に記載のクラッチ装置であり、当該クラッチ装置が有するカム機構は、前記第2の部材を第1カム部材とし、前記クラッチ部材を第2カム部材として、これら両カム部材のカム溝にカムフォロアを介在して構成されていて、 前記カム溝のカム角θがθ<tan -1 (μ・R 2 /R 1 )の条件を満たすように設定されて、セルフロック機能を有していることを特徴とするクラッチ装置。(但し、R 1 :カム半径、R 2 :第2カム部材における摩擦面の有効半径、θ:各カム部材におけるカム溝のカム角、F:カム作用力、μ:摩擦面の摩擦係数)。
- 請求項1〜5のいずれか一項に記載のクラッチ装置であり、当該クラッチ装置は駆動手段と被駆動手段間に配設されて、これら両手段間の駆動力伝達可能な連結を断続する駆動装置を構成するものであることを特徴とするクラッチ装置。
- 請求項6に記載のクラッチ装置であり、前記駆動手段は電動モータであって、同電動モータから出力される駆動力を減速ギヤ列を介して被駆動手段に伝達する駆動装置を構成し、当該クラッチ装置は、前記減速ギヤ列における入力側と出力側間に配設されてこれら入力側と出力側間の駆動力伝達可能な連結を断続するものであることを特徴とするクラッチ装置。
- 前後輪の一方を駆動する駆動手段と、前後輪の他方を駆動する電動モータと、前記電動モータと前後輪の他方との間に設けられた減速ギヤ列とを備えた前後輪駆動車の前記減速ギヤ列に組込まれたクラッチ装置であって、前記減速ギヤ列を構成する出力軸上に一体回転可能に組付けられた回転部材と、前記出力軸上に回転可能に組付けられた入力側ギヤと、前記回転部材と前記入力側ギヤ間に介在されたアーマチャと、前記アーマチャと前記入力側ギヤ間に介在され前記アーマチャと前記入力側ギヤとの相対回転により前記アーマチャを前記入力側ギヤに対して前記回転部材に摩擦係合させるカム機構と、前記入力側ギヤと前記アーマチャとの間に形成された係合手段と、前記アーマチャと前記回転部材との間に介在され前記係合手段によって前記アーマチャを前記入力側ギヤに係合させるばね部材と、電磁コイルへの電流の印加によって前記係合手段による係合を解除すべく前記アーマチャを前記入力側ギヤから離脱する方向に吸引する電磁クラッチとを備え、前記カム機構は、作動時、前記アーマチャを前記回転部材に自縛的に係合させるカム角に設定されてセルフロック機能を有していることを特徴とするクラッチ装置。
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