JP4124270B1 - グルコース・マンノース・キシロース並行発酵性菌およびそれを用いるバイオエタノールの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来のホスホマンノースイソメラーゼをコードする遺伝子を相同組換え法によるダブルクロスオーバーによって染色体上のレバンスクラーゼ遺伝子内に組み込み、かつ、エシェリヒア・コリ由来のキシロースイソメラーゼ、キシルロキナーゼ、トランスアルドラーゼおよびトランスケトラーゼをコードする遺伝子を含有するDNA断片をベクターに結合させてなる組換えDNAを導入してなるザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)、および当該ザイモモナス・モビリスを固定化した系でセルロース系バイオマス資源の糖化液を連続的に発酵させるエタノールの製造方法。
【選択図】なし
Description
しかし、セルロース系やリグノセルロース系バイオマス資源を直接分解・発酵してエタノールを生産する発酵菌は自然界に存在しない。そのために、代謝工学(メタボリック・エンジニアリング)技術と細胞表層提示技術を用いてセルロースおよびヘミセルロースの酸処理糖化液に混在するセルロース部分分解物(セロオリゴ糖)、キシロース、マンノースを同時にエタノールに発酵転換できる発酵菌を創製するとともに、育種発酵菌を触媒素子とした連続発酵装置を組み込んだ革新的な省エネルギー型高効率転換プロセスの構築が期待されている。
本発明者らは、先に、ペントースを資化することができないザイモバクター(Zymobactor)属の微生物に、キシロースイソメラーゼ、キシルロキナーゼ、トランスアルドラーゼおよびトランスケトラーゼから選ばれる少なくとも1種の酵素をコードする外来遺伝子を導入することにより、ペントースからエタノールを生産できる形質転換微生物の創製に成功した(特許文献1)。また、マンノースを含有する原料からのエタノールの効率的な生産のために、ホスホマンノースイソメラーゼをコードする外来遺伝子をザイモモナス(Zymomonas)属細菌の染色体に組み込み、安定したマンノース発酵性を付与した組換え微生物の創製にも成功した(特許文献2)。
本発明者らは、ザイモモナス属の優れたエタノール生産性に着目し、上記の本発明者らの特許文献1および2に記載の技術を応用することによって、グルコース・マンノース・キシロース並行発酵性菌を創製することができ、上記目的が達成できると考え、鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
(1)エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来のホスホマンノースイソメラーゼをコードする遺伝子を相同組換え法によるダブルクロスオーバーによって染色体上のレバンスクラーゼ遺伝子内に組み込み、かつ、エシェリヒア・コリ由来のキシロースイソメラーゼ、キシルロキナーゼ、トランスアルドラーゼおよびトランスケトラーゼをコードする遺伝子を含有するDNA断片をベクターに結合させてなる組換えDNAを導入したザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)であるグルコース・マンノース・キシロース並行発酵性菌、
(2)レバンスクラーゼ高産生株を宿主株とする上記(1)記載の発酵性菌、
(3)宿主株がザイモモナス・モビリス ZMcs(FERM P−21341)である上記(2)記載の発酵性菌、
(4)ザイモモナス・モビリス ZM mx42(FERM P−21342)である上記(3)記載の発酵性菌、
(5)セルロース系および/またはリグノセルロース系バイオマス資源の糖化液を、固定化担体に固定化した請求項1記載のグルコース・マンノース・キシロース並行発酵性菌と接触させて発酵させ、得られる発酵液からエタノールを回収することを特徴とするエタノールの製造方法、
(6)発酵性菌が、ザイモモナス・モビリス ZM mx42(FERM P−21342)である上記(5)記載のエタノールの製造方法、
(7)バイオマス資源が木質系バイオマス資源である上記(5)記載のエタノールの製造方法、
(8)固定化した発酵性菌を充填したリアクターに、糖化液を連続的に導入して発酵性菌と接触させ、発酵液を連続的に収集し、エタノールを回収する上記(5)記載のエタノールの製造方法等を提供するものである。
本発明に従ってマンノース発酵性を付与するザイモモナス・モビリス宿主としては、通常、エタノール生産に使用されるザイモモナス・モビリスでよいが、キシロース発酵性を高める点で、後に述べる、野性型株よりもレバンスクラーゼを大量に生産する自然突然変異により生じたレバンスクラーゼ高生産株が好ましい。
マンノース発酵性付与のために使用するホスホマンノースイソメラーゼをコードする遺伝子(manA)は、マンノース分解能を有する供与体微生物であるエシェリヒア・コリから得ることができる。
供与体微生物のホスホマンノースイソメラーゼをコードするDNAを分離、精製した後、種々の方法で切断して得られるDNA断片を調製する。さらに同様にして得られるベクターDNA断片とを、例えばDNAリガーゼなどにより結合させ、ホスホマンノースイソメラーゼ遺伝子を含有する組換えDNAを形成する。DNAの分離、精製、DNA断片の調製、DNAリガーゼによる結合等は、市販のDNA抽出キットなどを用い、当該分野で公知の方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)3rd(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 2001)に記載の方法などに従って行なうことができる。
キシロース分解能を有する微生物として、エシェリヒア・コリをDNA供与体として用い、それからキシロースイソメラーゼ、キシルロキナーゼ、トランスアルドラーゼおよびトランスケトラーゼをコードするDNAを分離、精製した後、種々の方法で切断することにより、該酵素をコードするDNA断片を調製する。このDNA断片を適当なベクターDNA断片と、例えばDNAリガーゼなどにより結合させ、キシロースイソメラーゼ遺伝子、キシルロキナーゼ遺伝子、トランスアルドラーゼ遺伝子およびトランスケトラーゼ遺伝子を含有する組換えDNAを形成する。
得られる供与体微生物のDNAを制限酵素などにより分解し、蔗糖密度勾配法により1kbp未満のDNA断片を除いたものを、供与体DNA断片として用いることができる。このときに用いる制限酵素は特に限定はなく、また、上記の酵素法以外にも超音波処理や物理的剪断力などを用いてDNAを切断することも可能である。その際、例えば、クレノーフラグメントやDNAポリメラーゼ、マングビーンヌクレアーゼなどの酵素で供与体DNA断片の末端を処理しておくと、後のベクターDNAとの結合効率が上がり好ましい。さらに、供与体微生物のDNAやその断片をテンプレートとしてPCR増幅したものについても、そのままあるいは上記の処理を行うことにより供与体DNA断片として使用することができる。
得られるベクターDNA断片は、上記の供与体DNA断片との結合反応に先立ち、アルカリ性フォスファターゼ処理することができる。これにより、該断片と供与体DNA断片との結合効率が向上する。さらに、PCR増幅により供与体DNA断片を調製する場合には、予め増幅断片の両末端にEcoRIなどの制限酵素部位付与プライマーを用い、その制限酵素切断したDNA断片と同じ制限酵素で切断したベクター断片を用いると、結合効率を上げることができる。供与体DNA断片とベクターDNA断片との結合反応は、公知のDNAリガーゼを使用する方法等の常法を用いて行うことができ、例えば、供与体DNA断片とベクターDNA断片とをアニーリングした後、生体外で適当なDNAリガーゼの作用により組換えDNAを作成することができる。また、必要に応じて、アニーリングした後、宿主微生物に導入し、生体内のDNA修復能を利用して組換えDNAにすることもできる。
キシロースイソメラーゼ遺伝子、キシルロキナーゼ遺伝子、トランスアルドラーゼ遺伝子およびトランスケトラーゼ遺伝子を含有する組換えDNAベクターを、上記で得られたマンノース発酵性を付与したザイモモナス・モビリスに導入する。
組み換えDNAベクターを導入する方法は、特に制限されないが、エレクトロポレーションなどの電気的刺激を利用する方法による組換えDNAの導入が好適である。
組換えDNAベクター導入株をキシロース平板培地上で培養し、形成したコロニーを、キシロースおよびマンノースを炭素源とした液体培地で培養し、その生育を観察し、キシロースとマンノースのいずれの炭素源においても高い生育を示した形質転換株を選択することにより、所望のグルコース・マンノース・キシロース並行発酵性菌が得られる。
本発明の発酵性菌は、木質系、草本系いずれのバイオマス資源の糖化液からのエタノール製造にも使用できるが、その高いエタノール生産性から、木質系バイオマス資源の糖化液からのエタノール生産に好適に使用できる。
例えば、原料となる木質を化学的あるいは物理的に処理することにより加水分解して糖化液を調製し、これを発酵原料とする。この木質糖化液には、木質の構成成分であるセルロースとヘミセルロースに由来するグルコース、キシロース、およびマンノースが混在する。
従来は、木質糖化液に対して伝統的な醸造菌として利用される酵母を用いてバイオエタノールを回分式あるいは連続式にて発酵・製造していた。この製造法では、木質糖化液中に含まれるキシロースやマンノース(約20%)はバイオエタノールに変換できない。そのために、木質糖化液からのバイオエタノール回収はグルコース成分(約50%)のみ限定され、バイオエタノールのコスト上昇の一要因なっていた。
本発明では、上記発酵性菌を使用し、これを固定化担体に固定化、充填したリアクターに木質糖化液を連続的に供給して、当該発酵性菌と接触させることにより高速度、且つ高回収でバイオエタノールを製造することができる。これにより、従来の方法に比較してキシロースとマンノース量に相当する約20%のバイオエタノールの回収と低コスト化を達成することが可能となる。
担体としては、中空状、凹凸状、多孔質状等の形態で単位体積当たりの表面積が大きいもの或いは水を吸収して膨潤するものであって、流動性を持ち、容易に反応系から流出しない粒径および比重を有するものが好適であり、担体形状としては、例えば、板状体、繊維状体、円筒などの特殊形状体、スポンジ状体、粒・塊状体、立方体状などいずれでもよいが、中でも、流動性と充分な表面積を確保しやすい微小な粒状体が好ましい。担体素材としては、微生物や酵素などの担体材料として従来から用いられている各種の有機・無機材料を用いることができ、例えば、粒状活性炭、破砕活性炭、木炭、ゼオライト、雲母、砂粒等の無機材料;光硬化性樹脂、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリアクリルアミド、ポリエステル、ポリプロピレン、寒天、アルギン酸、カラギーナン、セルロース、デキストラン、アガロース、イオン交換樹脂等の樹脂材料;シリカゲル等の多孔質セラミックス;アンスラサイト;ケイソウ土;樹脂材料に活性炭等を混入したものなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組合せて用いることができる。
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)エシェリヒア・コリ(E. coli)由来のホスホマンノースイソメラーゼ遺伝子(manA)のクローニング
公知のザイモモナス・モビリス(Zm. mobilis)由来グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素遺伝子配列(J. Bacteriol. Vol.169 (12), 5653-5662, 1987)、公知のE. coli由来のmanAの塩基配列(Gene 32 (1-2), 41-48 (1984))に基づいて設計した表1に示す合成オリゴヌクレオチドの組み合わせにより、目的遺伝子を含むDNA断片をPCRにより増幅した。
まず、Zm. mobilisの野生株(IFO13756)のクロモゾームDNA(Chr. DNA)を鋳型として1次PCRを行い、gapプロモーターを増幅させた。同様に、E. coli K12株のChr. DNAを鋳型とし、manAを増幅させた。次に、2つのPCR産物を用いてヘテロ二本鎖を形成し、2次PCRを行い、gap-manA断片を構築して、ベクターpUC118のHincIIサイトにライゲーションさせ、E. coli JM109株へ形質転換した。
挿入断片のシークエンスを行った結果、データベースに登録されているmanAの塩基配列と一致したことからpUC118-manAとした。
図2にこのクローニング操作をまとめる。
manAプライマー
manA(1)(配列番号1):CGGAATTCGTTCGATCAACAACCCGAATCCTATCG
manA(2)(配列番号2):CTTAATAAGTTAGGAGAATAAACATGCAAAAACTCATTAACTCAGTGCAA
manA(3)(配列番号3):TTGCACTGAGTTAATGAGTTTTTGCATGTTTATTCTCCTAACTTATTAAG
manA(4)(配列番号4): CGCGGATCCTTACAGCTTGTTGTAAACACGCGCTA
染色体組込み用ベクターをE2部位をターゲットにして行った構築図を図3に示す。
ベクターpUZE2d(4.8 kb)をNdeI処理、平滑化、ついでBAPP処理してDNAを切出した。また、pUC118-manA(4.8 kb)からPgap-manA(1.5 kb)をBamHIとEcoRIで消化し、平滑化し、manA断片を切出した。その後ライゲーション・ハイ(Ligation high)とT4リガーゼを用いて4℃、16℃で一晩ライゲーションさせ、ヒート・ショック(Heat shock)法によりE. coli JM109の形質転換を行い、プラスミド抽出を行った。その抽出したプラスミドから、公知のZn. mobilisゲノムE2配列(Biosci. Biotech. Biochem., 59(2), 289-293 (1995) DNAのAccession number D17524 (DDBJ, EMBL))に基づいて設計した表2に示すmanA(1)およびmanA(4)プライマーを用いて1.5 kbpのmanA断片をPCRにより確認した。さらに、EcoRVとKpnIで消化したところ、E2遺伝子と順方向であることを示す4.8 kbp、1.5 kbp断片であることを示す5.3 kbp断片のバンドを検出した。このとから、これをプラスミドpUZE2d’-manAとした。
E2プライマー
E2(1) (配列番号5):ACTTAATAAGTTAGGAGAATAAACATGTTGAATAAAGCAGGCATTGCAGA
E2(2) (配列番号6):GCTCTAGATCATTATTTATTCAATAAAGACAGGGC
E2(3) (配列番号7):AGCAAATAATTTCTGGGATTTCCGC
E2(4) (配列番号8):AGGCCGCTCCGTCTGG
Zm. mobilis IFO13756が自然突然変異によりレバンスクラーゼを大量に生産するようになった株(以下、ZM ms株と称する)を宿主株として選択し、高濃度のプラスミド溶液を用いたエレクトロポレーション法により形質転換を行った。次に、3回の継代培養を行い2%マンノース−RMプレートに塗布した。その後3日から約2週間培養を続け、生育した大きなコロニーを任意に選び出し、2%マンノース−RM液体培地に接種した。生育した菌体懸濁液を集菌し、一度滅菌MilliQ水で洗浄後、1mLの滅菌MilliQ水に懸濁してDNA抽出用サンプルとした。その抽出液50μLの内1μLからmanAプライマーmanA(1)、manA(4)およびE2プライマーE2(1)、E2(2)によるPCR増幅を行った。その結果、manAプライマーによる増幅では、manA断片(1.5 kbp)が、また、E2プライマーによる増幅では2.8 kbpにバンドが検出された。これは、E2(1.3 kbp)にmanA(1.5 kbp)を組込んだ断片の2.8 kbpに合致することから、染色体DNA上のE2部位にmanAが挿入されたことが裏付けられた。
ZM ms株は、平成19年8月13日から、茨城県つくば市東1−1−1 中央第6の、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受託番号FERM P−21341の下で寄託してある。
E. coli由来のキシロース代謝系酵素遺伝子をZm. mobilisに導入するために、まず、E. coli内でベクターpUC118を用いてxylA、xylB、tal、tktAの遺伝子をクローニング後、E. coliとZm. mobilisのシャトルベクター、pZA22に挿入して組換えプラスミドpZA22-xtを構築した。次いで、manAを染色体に組み込むことによりマンノース発酵性を付与したZm. mobilisにpZA22-xtを導入して、グルコース、キシロースおよびマンノースの並行発酵性を付与した。
(1)pUC118-xylABの構築
E.coliのゲノムDNAからPCRを用いてクローニングした。また、導入した4種の酵素遺伝子をZm. mobilis細胞内で発現させるために、Zm. mobilis細胞内で大量発現が報告されているグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素の発現を制御するプロモーター遺伝子(GAP promoter)を利用した。
E. coli由来キシロースイソメラーゼ遺伝子とキシルロキナーゼ遺伝子はPCRによりクローニングした。すなわち、Zm. mobilis由来グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素遺伝子のプロモーター遺伝子の下流にE. coli由来キシロースイソメラーゼ遺伝子とキシルロキナーゼ遺伝子をタンデムに連結し、かつ、そのDNA断片の両末端にクローニングのためのEcoRI制限酵素切断部位を付与したDNA断片を調製するために、公知のZm. mobilis由来グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素遺伝子配列(J. Bacteriol. Vol.169 (12), 5653-5662, 1987)と公知のE. coli由来キシロースイソメラーゼ遺伝子とキシルロキナーゼ遺伝子の塩基配列(Appl. Environ. Microbiol., Vol.47 (1), 15-21, 1984)に基づき、表3に示す4種のPCRプライマーを設計した。
XYLプライマー
XYL1 (配列番号9):CGGAATTCGTTCGATCAACAACCCGAATCCTATCG
XYL2 (配列番号10):TACTGGAATAAATGGTCTTCGTTATGCAAGCCTATTTTGACCAGCCTCGAT
XYL3 (配列番号11):ATCGACTGGTCAAAATAGGCTTGCATAACGAAGACCATTTATTCCAGTA
XYL4 (配列番号12): CGGAATTCATGCATAGTTGCCAAAAGTTGCTGTCA
図4にこの操作をまとめる。
E. coliゲノムDNA上ではトランスアルドラーゼ遺伝子とトランスケトラーゼ遺伝子はオペロンを構成せず、お互いに離れた位置に配座している。そのため、トランスアルドラーゼとトランスケトラーゼを個々にクローニングした後に、Zm. mobilis由来GAPプロモーター制御下になるように連結した。そのため、公知のZm. mobilis由来エノラーゼ酵素遺伝子配列と公知のE. coli由来トランスアルドラーゼ遺伝子(Nucleic Acids Res., Vol.20, 3305-3308, 1992)に基づき、表4に示す4種のPCRプライマーを設計した。
TALプライマー
TAL1 (配列番号13):CGGAATTCTCGAGCTCCAGTTACTCAATACGTAACAATAA
TAL2 (配列番号14):AAGATTTTAAGAAAGGTTTCGATATGACGGACAAATTGACCTCCCTTCGT
TAL3 (配列番号15):ACGAAGGGAGGTCAATTTGTCCGTCATATCGAAACCTTTCTTAAAATCTT
TAL4 (配列番号16):CATTTTGACTACCAGATCTAGATTACAGCAGATCGCCGATCATTTTTTCC
図5にこの操作をまとめる。
TKTプライマー
TKT1 (配列番号17):CGGAATTCTCGAGCTCCAGTTACTCAATACGTAACAATAA
TKT2 (配列番号18):CGGCATGCCTCGAGGCAAACGGACATTATCAAGGTAATAAAAAAGGTCGC
図6にこの操作をまとめる。
図7にこの操作をまとめる。
4種のキシロース代謝系酵素遺伝子をZm. mobilisに導入して発現させるために、これら遺伝子をシャトルベクターに挿入して組換えプラスミドを作製した。組換えプラスミドpUC118-taltktをXhoI制限酵素を用いて切断することにより、Enoプロモーター遺伝子、トランスアルドラーゼ遺伝子、およびトランスケトラーゼ遺伝子含む約3.3kbpDNA断片を調製した。この断片と制限酵素SalIにより切断したシャトルベクターpZA22と混合してT4リガーゼにより連結させて組換えプラスミドを作製した。作製した組換えプラスミドを用いてE. coli JM109を常法に従い形質転換した後、形質転換株を50μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB平板培地(1% Bacto Tripton、0.5%酵母エキス、1%NaCl、1.5%寒天)に塗布して、コロニーを形成させた。コロニーを形成した形質転換株から抽出した組換えプラスミドに、Enoプロモーター、トランスアルドラーゼ遺伝子、トランスケトラーゼ遺伝子が、この順番で連結していることを確認した。一方、pUC118-xylAxylBをEcoRI制限酵素によりGapプロモーター遺伝子、キシロースイソメラーゼ遺伝子、およびキシルロキナーゼ遺伝子を含む約3.4kbpDNA断片を切り出し、その両切断末端を平滑化して調製した。次に、調製したDNA断片をトランスアルドラーゼ遺伝子とトランスケトラーゼ遺伝子を挿入して作製したpZA22組換えプラスミドをEcoRV制限酵素により切断したもの混合してT4リガーゼにより連結させて組換えプラスミドDNAを作製した。作製した組換えプラスミドを用いてE. coli JM109を常法に従い形質転換した後、形質転換株を50μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB平板培地(1% Bacto Tripton、0.5%酵母エキス、1%NaCl、1.5%寒天)に塗布して、コロニーを形成させた。コロニーを形成した形質転換株から抽出した組換えプラスミドに、GAPプロモーター、キシロースイソメラーゼ遺伝子、キシルロキナーゼ遺伝子、Enoプロモーター、トランスアルドラーゼ遺伝子、トランスケトラーゼ遺伝子が、この順番で連結していることを確認して、pZA22-xtとした。
図8にこの操作をまとめる。
xylABとtaltktA遺伝子をプラスミドpZA22にタンデムに挿入した組換えプラスミドpZA22-xtを用いてキシロース発酵性株の育種を検討した。
操作は組換えプラスミドpZA22-xtを用いて、Zm. mobilis IFO13756に常法に従い形質転換を行い、形質転換株をグルコース−RM平板培地(2%グルコース、1.0%酵母エキス、0.2%KH2PO4、1.5%寒天、100μg/mlクロラムフェニコール、pH6.0)に塗布して選択した。コロニーを形成した形質転換株をキシロース−RM培地(2%キシロース、1.0%酵母エキス、0.2%KH2PO4、100μg/mlクロラムフェニコール、pH6.0)に植菌して、キシロースを炭素源とした生育とエタノール発酵性を検討した。しかし、形質転換株はキシロース−RM培地において微弱な生育に留まり、エタノール発酵性を示さなかった。そこで、上記ZM msを宿主株として選択し、pZA22-xtを形質転換してZM ms[pZA22-xt]株を得た。グルコース−RM平板培地に生育したZM ms[pZA22-xt]株をキシロース−RM培地に植菌して、キシロースを炭素源とした生育とエタノール発酵性を検討した。その結果、ZM ms[pZA22-xt]株はキシロースを炭素源としての生育が認められた。
ZM ms[pZA22-xt]株の4%キシロース培地での発酵性試験を実施した。比較対象として、野生株にpZA22-xtを導入した株(ZM [pZA22-xt])の発酵性試験を実施した。ZM ms[pZA22-xt]株では、4%キシロースを48時間で完全に利用して、理論収率のエタノールを生産した。一方、ZM [pZA22-xt]株では、微弱な生育に伴う一部のキシロース分解は認められたが、エタノール生成は全く認められなかった(図9)。
Zm. mobilisの染色体DNAにmanAを組み込み、マンノースとグルコースの並行発酵性の付与に成功したことから、次に、キシロースの並行発酵性付与を検討した。
(1)E. coli由来キシロース代謝系酵素遺伝子とマンノース代謝系酵素遺伝子の共存株の構築
上記実施例1で得られた、manA を染色体に組み込んだZM ms[E2:manA]のコンピテントセルを調製してpZA22-xtで形質転換を行った(図10)。形質転換株はキシロース平板培地上でコロニー形成として選択した。次に、得られたコロニーをキシロース、マンノースを炭素源とした液体培地での生育を観察した。キシロースとマンノースのいずれの炭素源においても高い生育を示した形質転換株を発酵性試験に用いることとした。
発酵性試験用いる共存株におけるキシロース代謝系酵素遺伝子とマンノース代謝系酵素遺伝子の発現を検討した。Zm. mobilis野生株では内因性のフルクトキナーゼ活性は認められたが、キシロースイソメラーゼ、キシルロキナーゼ、トランスアルドラーゼ、およびホスホマンノースイソメラーゼの酵素活性は認められなかった。しかし、ZM ms[E2::manA]株ではホスホマンノースイソメラーゼの活性が、またZm ms [pZA22-xt]では導入したキシロース代謝系酵素遺伝子の発現指標としたキシルコキナーゼとトランスアルドラーゼの活性発現が、さらに共発現株ではキシロース代謝系酵素遺伝子とmanAの遺伝子の発現を確認するとともに、これら遺伝子の発現レベルが大腸菌に比べて高いことも確認できた。すなわち、導入した遺伝子が安定して、効率よく発現していることが明らかになった。
導入した遺伝子の発現を確認した結果を表6示す。
注1)XK:キシルロキナーゼ、1U=1分間にNADH1μmol減少させる酵素活性
TA :トランスアルドラーゼ、1U=1分間にNADH1μmol減少させる酵素活性
PMI:ホスホマンノースイソメラーゼ、1U=1分間にNADPH1μmol生産する酵素活性
染色体にmanAを、プラスミドとしてxylA、xylB、tal、tktAを導入した育種株の発酵性を評価した。図11aおよび図11bに示すように、2%のグルコース、キシロースまたはマンノースを単一炭素源した場合では、グルコースの発酵速度に比べて若干の低下は認められるものの、キシロースとマンノースの速やかな消費に伴う生育と理論収率のエタノール生産を示した。また、グルコース混在でのキシロースやマンノースにおいても速やかなエタノール生産性を示した。グルコース、キシロース、およびマンノース混在下での糖消費においては、グルコース消費が進行した後に、キシロース、マンノースの順に消費され、理論収率のエタノール生成が認められた。
以上のように、酸処理糖化液に含まれる主要な糖質であるグルコース、キシロース、マンノースを効率よくエタノールに変換できるZm. mobilisの育種に成功した。
育種株は、ZM mx42と命名し、平成19年8月13日から、茨城県つくば市東1−1−1 中央第6の、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受託番号FERM P−21342の下で寄託してある。
育種株(ZM ms42 [sucZE2::manA, pZA22-xt])の廃木材酸処理糖化液に対する発酵性試験を実施した。廃木材酸処理糖化液は常法(Applied Biochemistry and Biotechnology, Vol 98-100, 899-907, 2002)に従い調製された、建築廃材の濃硫酸処理糖化液を用いた。酸処理糖化液の1容量に対して2倍濃度のRM培地(C源2%、酵母エキス1%、KH2PO40.2%、pH6.0〜6.5)を1容量添加した場合、あるいは酸処理糖化液の9容量に対して10倍濃度のRM培地を1容量添加した場合の発酵性試験をおこなった。結果を図12aおよび図12bに示した。図12aではグルコール、マンノース、キシロースは消費され、理論収率に近いエタノールを生産した。また、酸処理糖化液の原液に近い場合においても図12bに示すように、ZM ms[pZA22-xt]が3種の糖を速やかに発酵して高収率のエタノールを生産した。
(1)付着固定化増殖菌体とリアクターの調製
付着固定化増殖菌体の調製とそれを充填した発酵用リアクターの調製を以下に示す。
(a)酸処理糖化液培地の調製
1)酸処理糖化液(約pH1.0)をCaCO3によって、pH5.5付近まで中和させた。
2)中和した酸処理糖化液は吸引ろ過によって、沈殿を取り除き4℃で保存した。
3)酸処理糖化液を80℃で1日以上、低温殺菌し、同時に余分な沈殿を沈降させた。
4)連続発酵試験、発酵性試験の培地に用いるため、2倍、2.5倍、10倍のC源を加えていないRM培地およびT培地を調製し、低温殺菌した酸処理糖化液と混ぜ、生成する沈殿を遠心分離(25℃、8000rpm、60分)して取り除いた。
T培地は、C源2%、酵母エキス1%、KH2PO41%、(NH4)2SO40,2%、MgSO4・7H2O0.05%(pH6.0)の組成を有する培地である。
(b)付着固定化増殖菌体の調製
1)大量培養する際に、適当な糖の入った500mlRM培地(T培地)に表7に示す担体を加えてオートクレーブした。
2)室温まで冷却した後、これに植菌し30℃、2日間以上静置培養した。この時、菌体が付着した担体を固定化菌体として用いた。
(d)リアクターを用いた連続発酵試験
カラムに70%の固定化増殖菌体を充填し、上昇法で流動槽型リアクターを用いた。
図13および表8にリアクターの模式図と連続発酵の条件を示す。
[表8]
糖およびエタノール
経時的にサンプリングしたリアクターからの溶出液に含まれるエタノールの生産、糖成分の減少を分析した。この時、カラム抽出液1mlは遠心分離(4℃、15000rpm、15分)を行い、HPLCによって分析を行った。
HPLC分析条件を以下に示した。
条件1
使用カラム:BIO-RAD Aminex HPX-87P
流量 :0.4ml/分
カラム温度:80℃
抽出液 :脱気蒸留水
サンプル量:5μl
条件2
使用カラム:Shodex SUGAR KS-801
流量 :0.5ml/分
カラム温度:50℃
抽出液 :脱気蒸留水
サンプル量:5μl
エタノールの収率は次に示す反応式から求めた。
グルコース+ADP+Pi→2エタノール+2CO2+ATP
3キシロース+3ADP+3Pi→5エタノール+5CO2+3ATP
理論エタノール収量=0.51%エタノール/%グルコースまたはキシロース
(1)モデル酸処理糖化液の連続発酵
実施例5に記載したような組換えザイモモナスの固定化増殖菌体を充填したリアクターを用い、グルコース、マンノースおよびキシロースが混在するモデル糖液からのエタノール連続発酵を評価した。先ず、ZM ms42 [sucZE2::manA,pza22-xyl]を充填したリアクターでの連続発酵性試験を、6%グルコース+2%マンノース+2%キシロースモデル糖液、30℃、pH6.5、D=0.2/時で検討した結果、図14に示すごとく、グルコースおよびマンノースの完全な消費に伴う理論収率のエタノール生産が観察された。しかし、発酵液中にはキシロースが残糖として認められ、3種の糖質の連続並行発酵が困難であることが明らかになった。そこで、キシロース発酵性低下の原因を究明したところ、発酵液のpHがキシロース発酵性に影響を与えることが明らかになった。図15には、育種株による糖発酵性と発酵液初発pHの相関を観察した結果を示す。ZM ms42 [sucZE2::manA,pza22-xyl]では、グルコースとマンノースの発酵においては初発pHの影響は認められないが、キシロースの発酵性には糖液の初発pHが著しく影響を与え、pH5以下ではキシロース発酵性の低下が明らかになった。これらの結果は、混合糖液の連続発酵においてpHコントロールが必要であることを示唆している。
希釈・酸処理糖化液の連続エタノール生産:
付着固定化法によるZM ms42 [sucZE2::manA,pza22-xyl]の固定化増殖菌体の調製を方法で上記したように行い、カラム(内径25mm、長さ130mm)に気泡が入らないように充填後、1:1酸処理糖化液RM培地(pH6.5)を上記の方法で調整し、これを用いて流量16ml/時、D=0.25/時、30℃の恒温槽で連続発酵を行った。結果を図16のaに示す。
この結果より、残糖は始めの頃はマンノースが残っていたが、最終的には残糖はほとんど無く、エタノール平均濃度は1.97%、収率88.79%、エタノール生成速度5.18g/l・時となった。このことから、理論収量に近いエタノールの生産がされた。
そこで、糖濃度を上昇させ、その他は同様に連続発酵試験を行った。図16の結果bから、残糖は無く、エタノール平均濃度は2.45%、収率96.16%、エタノール生成速度6.24g/l・時となった。このことから、理論収量のエタノールが生産された。
これらの結果により、建築廃材酸処理糖化液の連続エタノール発酵が可能であることが明らかになったことから、実用レベルでの酸処理糖化液からの連続エタノール生産を検討した。
すなわち、原液に近い濃度(10:1)で流量16ml/時、D=0.25/時、30℃条件下での連続発酵試験結果を行った。その結果、残糖は少なく理論収量のエタノールが生産され、エタノール平均濃度は3.73%、収率92.20%、エタノール生成速度10.27g/l・時となった(図17のa)。さらに、高速度エタノール連続発酵を検討するために、酸処理糖化液の糖濃度は同様に、流量32ml/時、D=0.50/時、30℃の恒温槽で連続発酵を行った。結果より、グルコースとキシロースは消費され、マンノースにおいても微量が残存した。エタノール平均濃度は3.83%、収率86.56%、エタノール生成速度20.88g/l・時となった(図17のb)。このことから、希釈率0.50/時でも理論収量に近いエタノールを生産した。
配列番号2:E. coliのmanAをコードするDNA増幅用に設計したオルゴヌクレオチド・プライマー。
配列番号3:E. coliのmanAをコードするDNA増幅用に設計したオルゴヌクレオチド・プライマー。
配列番号4:E. coliのmanAをコードするDNA増幅用に設計したオルゴヌクレオチド・プライマー。
配列番号5:Zm. mobilisの染色体E2部位をコードするDNA増幅用に設計したオルゴヌクレオチド・プライマー。
配列番号6:Zm. mobilisの染色体E2部位をコードするDNA増幅用に設計したオルゴヌクレオチド・プライマー。
配列番号7:Zm. mobilisの染色体E2部位をコードするDNA増幅用に設計したオルゴヌクレオチド・プライマー。
配列番号8:Zm. mobilisの染色体E2部位をコードするDNA増幅用に設計したオルゴヌクレオチド・プライマー。
配列番号9:E. coliのxylA、BをコードするDNA増幅用に設計したオルゴヌクレオチド・プライマー。
配列番号10:E. coliのxylA、BをコードするDNA増幅用に設計したオルゴヌクレオチド・プライマー。
配列番号11:E. coliのxylA、BをコードするDNA増幅用に設計したオルゴヌクレオチド・プライマー。
配列番号12:E. coliのxylA、BをコードするDNA増幅用に設計したオルゴヌクレオチド・プライマー。
配列番号13:E. coliのtalをコードするDNA増幅用に設計したオルゴヌクレオチド・プライマー。
配列番号14:E. coliのtalをコードするDNA増幅用に設計したオルゴヌクレオチド・プライマー。
配列番号15:E. coliのtalをコードするDNA増幅用に設計したオルゴヌクレオチド
・プライマー。
配列番号16:E. coliのtalをコードするDNA増幅用に設計したオルゴヌクレオチド・プライマー。
配列番号17:E. coliのtktをコードするDNA増幅用に設計したオルゴヌクレオチド・プライマー。
配列番号18:E. coliのtktをコードするDNA増幅用に設計したオルゴヌクレオチド・プライマー。
Claims (4)
- ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis) ZMcs(FERM P−21341)を宿主株とし、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来のホスホマンノースイソメラーゼをコードする遺伝子を相同組換え法によるダブルクロスオーバーによって染色体上のレバンスクラーゼ遺伝子内に組み込み、かつ、エシェリヒア・コリ由来のキシロースイソメラーゼ、キシルロキナーゼ、トランスアルドラーゼおよびトランスケトラーゼをコードする遺伝子を含有するDNA断片をベクターに結合させてなる組換えDNAを導入したザイモモナス・モビリス ZM mx42(FERM P−21342)であるグルコース・マンノース・キシロース並行発酵性菌。
- セルロース系および/またはリグノセルロース系バイオマス資源の糖化液を、固定化担体に固定化した請求項1記載のグルコース・マンノース・キシロース並行発酵性菌と接触させて発酵させ、得られる発酵液からエタノールを回収することを特徴とするエタノールの製造方法。
- バイオマス資源が木質系バイオマス資源である請求項2記載のエタノールの製造方法。
- 固定化した発酵性菌を充填したリアクターに、糖化液を連続的に導入して発酵性菌と接触させ、発酵液を連続的に収集し、エタノールを回収する請求項2記載のエタノールの製造方法。
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