JP7078900B2 - 形質転換酵母及びこれを用いたエタノールの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、キシロース等の五炭糖代謝能を有する形質転換酵母及びこれを用いたエタノールの製造方法に関する。
セルロース系バイオマスは、エタノール等の有用なアルコールや有機酸の原料として有効に利用されている。セルロース系バイオマスを利用したエタノール製造において、エタノール生産量を向上させるため、基質として五炭糖のキシロースを利用できる酵母が開発されている。例えば、特許文献1は、Pichia stipitis由来のキシロースリダクターゼ(XR)遺伝子及びキシリトールデヒドロゲナーゼ(XDH)遺伝子を染色体に組み込んだ酵母を開示している。一方、キシロースイソメラーゼ(XI)遺伝子(シロアリの腸内原生生物由来)を導入したキシロース資化酵母に関する報告(特許文献2)がある。XRとXDHとを導入した場合又はXIを導入した場合のいずれも、キシロース資化経路においてキシルロースが生成し、キシルロキナーゼによりキシルロースがキシルロース5リン酸となる。そして、キシルロース5リン酸は、ペントースリン酸経路において代謝され、グリセルアルデヒド3リン酸となる。グリセルアルデヒド3リン酸は、解糖系に合流することにより最終的にエタノールになる。
ところで、グリセリンは、エタノール生産における代表的な副生物であり、エタノールの収率を上げるにはグリセリンを低減することが重要である。酵母においてグリセリンは、解糖系の中間産物であるジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)からグリセリン3リン酸を経て生合成される。グリセリン生産経路における主要酵素であるグリセリン3リン酸脱水素酵素の活性を低減させることで、グリセリン生産量を低減させることが可能である。しかし、本酵素の活性と増殖及びエタノール生産速度との相関性が高いため(非特許文献1、Fig.3参照)、グリセリン3リン酸脱水素酵素の活性低減株はエタノールの生産性が悪いといった問題がある。
グリセリン生産量を低減させる別の方法としては、生産されたグリセリンを代謝してエタノールに変換する方法が考えられる。これまでに、Saccharomyces cerevisiaeの内在性のグリセリン代謝経路に関与する遺伝子を過剰発現する方法で、グリセリンの資化を促進する報告がある(非特許文献2)。しかし、内在性のグリセリン代謝経路は、NADPの還元をする経路であるが、グリセリン生産経路はNADHを酸化する経路であるため、グリセリンの生産と代謝の一連の反応において、酸化還元のバランスが悪い。そこで、NADを還元する細菌由来のグリセリン代謝経路を導入することで、グリセリンの生産と代謝で使用されるNAD及びNADHをバランスさせ、グリセリンの代謝を促進させた報告がされている(特許文献3)。
特開2009-195220号公報 特開2011-147445号公報 WO 2013/081456
Ding, W.T., et al., Appl. Environ. Microbiol. 79 (2013): 3273-3281. Yu, K.O., et al., Bioresour. Technol. 101 (2010): 4157
しかしながら、上述したようなグリセリンの代謝促進を企図する技術によっても、グリセリン生産量を低減する効果は不十分であり、エタノール発酵において副産物として生成されるグリセリン量を更に低減する技術が求められていた。
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、特に、エタノール発酵における副産物であるグリセリンの生産量が著しく低い形質転換酵母及びこれを用いたエタノール製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、ミトコンドリア移行シグナルを有するグリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子を導入した形質転換酵母は、当該遺伝子を導入していない酵母と比較してグリセリン生産量が少ないことを見いだし、本発明を完成するに至った。
本発明は以下を包含する。
(1)五炭糖の資化能を有し、ミトコンドリア移行シグナルを有するグリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子を導入したことを特徴とする形質転換酵母。
(2)上記グリセリン脱水素酵素は、NADをNADPHに変換する活性を有する依存型グリセリン脱水素酵素であることを特徴とする(1)記載の形質転換酵母。
(3)上記グリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子は、以下(a)又は(b)のタンパク質をコードすることを特徴とする(1)記載の形質転換酵母。
(a)配列番号2のアミノ酸を有するタンパク質
(b)配列番号2のアミノ酸に対して70%以上の同一性を有し、ミトコンドリア局在性を有し、グリセリンを基質としてジヒドロキシアセトンを生成する活性を有するタンパク質
(4)上記グリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子は、ミトコンドリア移行シグナルと以下(a)又は(b)のタンパク質との融合タンパク質をコードすることを特徴とする(1)記載の形質転換酵母。
(a)配列番号4のアミノ酸を有するタンパク質
(b)配列番号4のアミノ酸に対して70%以上の同一性を有し、ミトコンドリア局在性を有し、グリセリンを基質としてジヒドロキシアセトンを生成する活性を有するタンパク質
(5)上記五炭糖はキシロース及び/又はアラビノースであることを特徴とする(1)記載の形質転換酵母。
(6)キシロースイソメラーゼ遺伝子が導入されキシロース資化能を有することを特徴とする(1)記載の形質転換酵母。
(7)更にキシルロキナーゼ遺伝子が導入されたものであることを特徴とする(6)記載の形質転換酵母。
(8)ペントースリン酸経路における非酸化過程の経路を構成する酵素群から選ばれる酵素をコードする遺伝子が導入されたものであることを特徴とする(1)記載の形質転換酵母。
(9)上記ペントースリン酸経路における非酸化過程の経路を構成する酵素群は、リボース-5-リン酸イソメラーゼ、リブロース-5-リン酸-3-エピメラーゼ、トランスケトラーゼ及びトランスアルドラーゼであることを特徴とする(8)記載の形質転換酵母。
(10)上記(1)から(9)いずれかに記載の形質転換酵母を、資化可能な五炭糖を含有する培地にて培養してエタノール発酵を行う工程を有するエタノールの製造方法。
(11)上記培地はセルロースを含有しており、上記エタノール発酵では、少なくとも上記セルロースの糖化が同時に進行することを特徴とする(10)記載のエタノールの製造方法。
本発明に係る形質転換酵母は、細胞質局在型のグリセリン脱水素酵素遺伝子を導入した形質転換酵母と比較するとグリセリン代謝能が大幅に向上している。すなわち、本発明に係る形質転換酵母を利用することで、エタノール発酵において副産物として生成されるグリセリン量を著しく低減することができ、優れたエタノール収率を達成することができる。
以下、本発明を図面及び実施例を用いてより詳細に説明する。
<形質転換酵母>
本発明に係る形質転換酵母は、五炭糖の資化能を有し、且つ、ミトコンドリア移行シグナルを有するグリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子を導入したものである。ここで、五炭糖の資化能を有するとは、本来的には五炭糖資化能(代謝能と同義)を有しない酵母に対して五炭糖資化関連酵素遺伝子を導入することで五炭糖資化能を獲得すること、或いは、本来的に五炭糖資化関連酵素遺伝子を備えており五炭糖資化能を有していることの両方を意味する。より具体的に、五炭糖としては、特に限定されないが、リボース、アラビノース、キシロース及びリキソース等のアルドペントース並びにリブロース及びキシルロース等のケトペントースを意味する。本発明に係る形質転換酵母は、五炭糖の中でもキシロース及び/又はアラビノースの資化能を有することが好ましく、特にキシロースの資化能を有することが好ましい。
例えば、キシロース資化能を有する酵母としては、本来的にはキシロース資化能を有しない酵母に対して、キシロースイソメラーゼ遺伝子が導入されることによりキシロース資化能が付与された酵母、その他のキシロース代謝関連遺伝子が導入されることによりキシロース資化能が付与された酵母を挙げることができる。また、アラビノース資化能を有する酵母としては、本来的にはアラビノース資化能を有しない酵母に対して、例えば、原核生物由来のL-アラビノースイソメラーゼ遺伝子、L-リブロキナーゼ遺伝子、L-リブロース-5-ホスフェート4-エピメラーゼ遺伝子や、真核生物由来のL-アラビトール-4-デヒドロゲナーゼ遺伝子、L-キシロースレダクターゼ遺伝子が導入されることにより、アラビノース資化能が付与された酵母を挙げることができる。
[グリセリン脱水素酵素遺伝子]
本発明に係る形質転換酵母は、ミトコンドリア移行シグナルを有するグリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子を有している。ここで、宿主の酵母に導入するグリセリン脱水素酵素遺伝子としては、ミトコンドリア局在型グリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子、或いは、細胞質局在型グリセリン脱水素酵素にミトコンドリア移行シグナルを融合した融合タンパク質をコードする遺伝子の何れであっても良い。すなわち、ミトコンドリア局在型グリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子は、本来的にミトコンドリア移行シグナルを有するものである。
ここで、本発明に係る形質転換酵母において、ミトコンドリア局在型グリセリン脱水素酵素及び細胞質局在型グリセリン脱水素酵素は、特に、NAD依存型グリセリン脱水素酵素であることが好ましい。NAD依存型グリセリン脱水素酵素とは、グリセリンを基質としてジヒドロキシアセトンを生成する活性において補酵素としてNADを還元する(NAD→NADH)タイプの酵素を意味する。これは、グリセリン生産経路はNADHを酸化する経路であるため、グリセリンの生産と代謝の一連の反応において補酵素がバランスするためである。
ミトコンドリア局在型グリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子としては、例えば、分裂酵母Schizosaccharomyces pombeのgld1遺伝子(NAD依存型)、Schizosaccharomyces octosporus のGld1遺伝子(NAD依存型)(NCBIアクセッション番号:XP_013020646)等を挙げることができる。これ以外にも、ミトコンドリア移行シグナルアミノ酸配列について、TargetP(http://www.cbs.dtu.dk/services/TargetP/)等のタンパクの細胞内局在予測ツールを用いることで、簡単に調べることができる。
具体的に、Schizosaccharomyces pombeのgld1遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号1に示し、gld1タンパク質(ミトコンドリア移行シグナルを含む)のアミノ酸配列を配列番号2に示す。ただし、ミトコンドリア移行シグナルを有するグリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子としては、これら配列番号1及び2で規定されるgld1遺伝子に限定されず、塩基配列やアミノ酸配列は異なるがgld1遺伝子に対してパラログの関係又は狭義のホモログの関係にある遺伝子であっても良い。
また、グリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子は、これら配列番号1及び2にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号2のアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列類似性又は同一性を有するアミノ酸配列を有し、ミトコンドリアに局在してグリセリンを基質としてジヒドロキシアセトンを生成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。配列類似性及び同一性の値は、BLASTアルゴリズムを実装したBLASTNやBLASTXプログラムにより算出することができる(デフォルトの設定)。なお、配列類似性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基と、物理化学的に機能が類似するアミノ酸残基との合計を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記合計数の割合として算出される。なお、同一性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記アミノ酸残基数の割合として算出される。
さらに、グリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子は、これら配列番号1及び2にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号2のアミノ酸配列に対して、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、ミトコンドリアに局在してグリセリンを基質としてジヒドロキシアセトンを生成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子でも良い。ここで、数個とは、例えば、2~30個、好ましくは2~20個、より好ましくは2~10個、最も好ましくは2~5個である。
さらにまた、グリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子は、これら配列番号1及び2にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号1の塩基配列からなるDNAの相補鎖の全部又は一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつミトコンドリアに局在してグリセリンを基質としてジヒドロキシアセトンを生成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子でもよい。ここでいう「ストリンジェントな条件」とはいわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual(Third Edition)を参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェンシーを設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム濃度が25~500mM、好ましくは25~300mMであり、温度が42~68℃、好ましくは42~65℃である。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
また、細胞質局在型グリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)由来のgldA遺伝子(NAD依存型)、Klebsiella pneumoniaeやThermoanaerobacterium thermosaccharolyticum由来のgldA遺伝子等を挙げることができる。なお、NAD依存型のグリセリン脱水素酵素の大部分は原核生物由来であり、細胞質に局在する。
具体的に、大腸菌由来のgldA遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号3に示し、gldAタンパク質(ミトコンドリア移行シグナルを有しない)のアミノ酸配列を配列番号4に示す。ただし、細胞質局在型グリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子としては、これら配列番号3及び4で規定されるgldA遺伝子に限定されず、塩基配列やアミノ酸配列は異なるがgldA遺伝子に対してパラログの関係又は狭義のホモログの関係にある遺伝子であっても良い。
また、グリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子は、これら配列番号3及び4にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号4のアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列類似性又は同一性を有するアミノ酸配列を有し、グリセリンを基質としてジヒドロキシアセトンを生成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。配列類似性及び同一性の値は、BLASTアルゴリズムを実装したBLASTNやBLASTXプログラムにより算出することができる(デフォルトの設定)。なお、配列類似性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基と、物理化学的に機能が類似するアミノ酸残基との合計を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記合計数の割合として算出される。なお、同一性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記アミノ酸残基数の割合として算出される。
さらに、グリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子は、これら配列番号3及び4にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号4のアミノ酸配列に対して、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、グリセリンを基質としてジヒドロキシアセトンを生成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子でも良い。ここで、数個とは、例えば、2~30個、好ましくは2~20個、より好ましくは2~10個、最も好ましくは2~5個である。
さらにまた、グリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子は、これら配列番号3及び4にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号3の塩基配列からなるDNAの相補鎖の全部又は一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつグリセリンを基質としてジヒドロキシアセトンを生成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子でもよい。ここでいう「ストリンジェントな条件」とはいわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual(Third Edition)を参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェンシーを設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム濃度が25~500mM、好ましくは25~300mMであり、温度が42~68℃、好ましくは42~65℃である。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
上述のような細胞質局在型グリセリン脱水素酵素に融合するミトコンドリア移行シグナルとしては、特に限定されないが、例えば、上述したミトコンドリア局在型グリセリン脱水素酵素におけるN末端側に含まれる所定の領域(ミトコンドリア移行シグナル)を挙げることができる。N末端側の領域としては、例えばN末端から15~70アミノ酸残基とすることができ、N末端から20~50アミノ酸残基とすることが好ましく、N末端から25~45アミノ酸残基とすることがより好ましい。一例として、ミトコンドリア移行シグナルとしては、Schizosaccharomyces pombeのgld1遺伝子がコードするグリセリン脱水素酵素(配列番号2)のN末端から30アミノ酸残基を使用することができる。
また、ミトコンドリア移行シグナルとしては、特に限定されず、従来公知の各種配列を使用することができる。一例として、ミトコンドリア移行シグナルとしてはThe EMBO Journal vol.5 no.6 pp. 1335 -1342, 1986を参照することができる。また、TargetP(http://www.cbs.dtu.dk/services/TargetP/)等のタンパクの細胞内局在予測ツールを用いることで、ミトコンドリアに局在するタンパクから、ミトコンドリア移行シグナルを予測することができる。
上述したように、配列番号1又は3と異なる塩基配列からなる遺伝子、若しくは配列番号2又は4とは異なるアミノ酸配列をコードする遺伝子が、グリセリン脱水素酵素遺伝子として機能するか否かは、当該遺伝子を適当なプロモーターとターミネーター等の間に組み込んだ発現ベクターを作製し、この発現ベクターを用いて例えば大腸菌等の宿主を形質転換し、発現するタンパク質のグリセリン脱水素酵素活性を測定すればよい。グリセリン脱水素酵素活性とは、グリセリンを基質としてジヒドロキシアセトンを生成する活性を意味する。よって、グリセリン脱水素酵素活性は、基質としてグリセリンを含む溶液を準備し、検査対象のタンパク質を適当な温度で作用させ、グリセリンの減少量及び/又はジヒドロキシアセトンの生成量を測定することで評価できる。
[キシロース代謝関連遺伝子]
本発明に係る形質転換酵母は、五炭糖のうち例えばキシロースに対する資化能(キシロース資化能)、すなわち培地中に含まれるキシロースを資化してエタノールを生産することができる。なお、培地中に含まれるキシロースとは、キシロースを構成糖とするキシランやヘミセルロース等を糖化するプロセスによって得られたものでも良いし、培地に含まれるキシランやヘミセルロース等が糖化酵素により糖化されることで培地に供給されるものであってもよい。後者の場合は、所謂、同時糖化発酵の系を意味する。
キシロース代謝能を有するとは、本来的にはキシロース代謝能を有しない酵母に対してキシロースイソメラーゼ遺伝子が導入されることによりキシロース資化能が付与された酵母、その他のキシロース代謝関連遺伝子が導入されることによりキシロース資化能が付与された酵母を挙げることができる。
キシロースイソメラーゼ遺伝子(XI遺伝子)としては、特に限定されず、如何なる生物種由来の遺伝子を使用しても良い。例えば、特開2011-147445号公報に開示されたシロアリの腸内原生生物由来の複数のキシロースイソメラーゼ遺伝子を、特に制限されることなく使用することができる。また、キシロースイソメラーゼ遺伝子としては、嫌気性のカビであるピロマイセス(Piromyces)sp. E2種由来(特表2005-514951号公報)、嫌気性のカビであるシラマイセス・アベレンシス(Cyllamyces aberensis)由来、バクテリアであるバクテロイデス・セタイオタミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)由来、バクテリアであるクロストリディウム・ファイトファーメンタス由来、ストレプトマイセス・ムリナスクラスター由来の遺伝子を利用することもできる。
具体的に、キシロースイソメラーゼ遺伝子としては、ヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)腸内原生生物由来のキシロースイソメラーゼ遺伝子を使用することが好ましい。このヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)腸内原生生物由来のキシロースイソメラーゼ遺伝子のコーディング領域の塩基配列及び当該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号5及び6に示す。
ただし、キシロースイソメラーゼ遺伝子としては、配列番号5及び6にて特定されるものに限定されず、塩基配列やアミノ酸配列は異なるがパラログの関係又は狭義のホモログの関係にある遺伝子であっても良い。
また、キシロースイソメラーゼ遺伝子は、これら配列番号5及び6にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号6のアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列類似性又は同一性を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものでも良い。配列類似性及び同一性の値は、BLASTアルゴリズムを実装したBLASTNやBLASTXプログラムにより算出することができる(デフォルトの設定)。なお、配列類似性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基と、物理化学的に機能が類似するアミノ酸残基との合計を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記合計数の割合として算出される。なお、同一性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記アミノ酸残基数の割合として算出される。
さらに、キシロースイソメラーゼ遺伝子は、これら配列番号5及び6にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号6のアミノ酸配列に対して、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものでも良い。ここで、数個とは、例えば、2~30個、好ましくは2~20個、より好ましくは2~10個、最も好ましくは2~5個である。
さらにまた、キシロースイソメラーゼ遺伝子は、これら配列番号5及び6にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号5の塩基配列からなるDNAの相補鎖の全部又は一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつキシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものでもよい。ここでいう「ストリンジェントな条件」とはいわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual(Third Edition)を参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェンシーを設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム濃度が25~500mM、好ましくは25~300mMであり、温度が42~68℃、好ましくは42~65℃である。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
上述したように、配列番号5と異なる塩基配列からなる遺伝子、又は配列番号6とは異なるアミノ酸配列をコードする遺伝子が、キシロースイソメラーゼ遺伝子として機能するか否かは、当該遺伝子を適当なプロモーターとターミネーター等の間に組み込んだ発現ベクターを作製し、この発現ベクターを用いて例えば大腸菌等の宿主を形質転換し、発現するタンパク質のキシロースイソメラーゼ活性を測定すればよい。キシロースイソメラーゼ活性とは、キシロースをキシルロースに異性化する活性を意味する。よって、キシロースイソメラーゼ活性は、基質としてキシロースを含む溶液を準備し、検査対象のタンパク質を適当な温度で作用させ、キシロースの減少量及び/又はキシルロースの生成量を測定することで評価できる。
特に、キシロースイソメラーゼ遺伝子としては、配列番号6に示すアミノ酸配列における特定のアミノ酸残基に対して特定の変異を導入したアミノ酸配列からなり、キシロースイソメラーゼ活性が向上した変異型キシロースイソメラーゼをコードする遺伝子を使用することが好ましい。具体的に、変異型キシロースイソメラーゼをコードする遺伝子としては、配列番号6に示すアミノ酸配列における337番目のアスパラギンがシステインに置換されたアミノ酸配列をコードする遺伝子を挙げることができる。配列番号6に示すアミノ酸配列における337番目のアスパラギンがシステインに置換されたアミノ酸配列からなるキシロースイソメラーゼは、野生型のキシロースイソメラーゼと比較して優れたキシロースイソメラーゼ活性を有する。なお、変異型キシロースイソメラーゼは、上記337番目のアスパラギンをシステインに置換したものに限定されず、上記337番目のアスパラギンをシステイン以外のアミノ酸に置換したものでも良いし、上記337番目のアスパラギンに加えて更に異なるアミノ酸残基を他のアミノ酸に置換したものでも良いし、上記337番目のアスパラギン以外の他のアミノ酸残基を置換したものでも良い。
一方、キシロースイソメラーゼ遺伝子以外のキシロース代謝関連遺伝子とは、キシロースをキシリトールに変換するキシロースリダクターゼをコードするキシロースリダクターゼ遺伝子、キシリトールをキシルロースに変換するキシリトールデヒドロゲナーゼをコードするキシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子及びキシルロースをリン酸化してキシルロース5-リン酸を生成するキシルロキナーゼをコードするキシルロキナーゼ遺伝子を含む意味である。なお、キシルロキナーゼにより生成されたキシルロース5-リン酸は、ペントースリン酸経路に入り代謝されることとなる。
キシロース代謝関連遺伝子としては、特に限定されないが、Pichia stipitis由来のキシロースリダクターゼ遺伝子及びキシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子、Saccharomyces cerevisiae由来のキシルロキナーゼ遺伝子を挙げることができる(Eliasson A. et al., Appl. Environ. Microbiol, 66:3381-3386及びToivari MN et al., Metab. Eng. 3:236-249参照)。その他にも、キシロースリダクターゼ遺伝子としては、Candida tropicalisやCandida parapsilosis由来のキシロースリダクターゼ遺伝子を利用することができる。キシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子としては、Candida tropicalisやCandida parapsilosis由来のキシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子を利用することができる。キシルロキナーゼ遺伝子としては、Pichia stipitis由来のキシルロキナーゼ遺伝子を利用することもできる。
また、キシロース代謝能を本来的に有する酵母としては、特に限定されないが、Pichia stipitis、Candida tropicalis及びCandida parapsilosis等を挙げることができる。
[アラビノース代謝関連遺伝子]
ところで、本発明に係る形質転換酵母は、五炭糖のうち例えばアラビノースに対する資化能(アラビノース資化能)、すなわち培地中に含まれるアラビノースを資化してエタノールを生産することができるものであってもよい。アラビノース資化能は、原核生物由来のL-アラビノースイソメラーゼ遺伝子、L-リブロキナーゼ遺伝子、L-リブロース-5-ホスフェート4-エピメラーゼ遺伝子や、真核生物由来のL-アラビトール-4-デヒドロゲナーゼ遺伝子、L-キシロースレダクターゼ遺伝子といったアラビノース代謝関連遺伝子を、アラビノース資化能を有しない酵母に導入することで当該酵母に付与することができる。
L-アラビノースイソメラーゼ遺伝子としては、例えば、Lactobacillus plantarum由来のaraA遺伝子を挙げることができる。Lactobacillus plantarum由来のaraA遺伝子のコーディング領域の塩基配列及び当該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号7及び8に示す。
ただし、L-アラビノースイソメラーゼ遺伝子としては、配列番号7及び8にて特定されるものに限定されず、塩基配列やアミノ酸配列は異なるがパラログの関係又は狭義のホモログの関係にある遺伝子であっても良い。
また、L-アラビノースイソメラーゼ遺伝子は、これら配列番号7及び8にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号8のアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列類似性又は同一性を有するアミノ酸配列を有し、L-アラビノースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものでも良い。配列類似性及び同一性の値は、BLASTアルゴリズムを実装したBLASTNやBLASTXプログラムにより算出することができる(デフォルトの設定)。なお、配列類似性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基と、物理化学的に機能が類似するアミノ酸残基との合計を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記合計数の割合として算出される。なお、同一性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記アミノ酸残基数の割合として算出される。
さらに、L-アラビノースイソメラーゼ遺伝子は、これら配列番号7及び8にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号8のアミノ酸配列に対して、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、L-アラビノースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものでも良い。ここで、数個とは、例えば、2~30個、好ましくは2~20個、より好ましくは2~10個、最も好ましくは2~5個である。
さらにまた、L-アラビノースイソメラーゼ遺伝子は、これら配列番号7及び8にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号7の塩基配列からなるDNAの相補鎖の全部又は一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつL-アラビノースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものでもよい。ここでいう「ストリンジェントな条件」とはいわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual(Third Edition)を参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェンシーを設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム濃度が25~500mM、好ましくは25~300mMであり、温度が42~68℃、好ましくは42~65℃である。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
上述したように、配列番号7と異なる塩基配列からなる遺伝子、又は配列番号8とは異なるアミノ酸配列をコードする遺伝子が、L-アラビノースイソメラーゼ遺伝子として機能するか否かは、当該遺伝子を適当なプロモーターとターミネーター等の間に組み込んだ発現ベクターを作製し、この発現ベクターを用いて例えば大腸菌等の宿主を形質転換し、発現するタンパク質のL-アラビノースイソメラーゼ活性を測定すればよい。L-アラビノースイソメラーゼ活性とは、L-アラビノースをL-リブロースに異性化する活性を意味する。よって、L-アラビノースイソメラーゼ活性は、基質としてL-アラビノースを含む溶液を準備し、検査対象のタンパク質を適当な温度で作用させ、L-アラビノースの減少量及び/又はL-リブロースの生成量を測定することで評価できる。
一方、L-リブロキナーゼ遺伝子としては、例えば、Lactobacillus plantarum由来のaraB遺伝子を挙げることができる。Lactobacillus plantarum由来のaraB遺伝子のコーディング領域の塩基配列及び当該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号9及び10に示す。
ただし、L-リブロキナーゼ遺伝子としては、配列番号9及び10にて特定されるものに限定されず、塩基配列やアミノ酸配列は異なるがパラログの関係又は狭義のホモログの関係にある遺伝子であっても良い。
また、L-リブロキナーゼ遺伝子は、これら配列番号9及び10にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号10のアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列類似性又は同一性を有するアミノ酸配列を有し、L-リブロキナーゼ活性を有するタンパク質をコードするものでも良い。配列類似性及び同一性の値は、BLASTアルゴリズムを実装したBLASTNやBLASTXプログラムにより算出することができる(デフォルトの設定)。なお、配列類似性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基と、物理化学的に機能が類似するアミノ酸残基との合計を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記合計数の割合として算出される。なお、同一性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記アミノ酸残基数の割合として算出される。
さらに、L-リブロキナーゼ遺伝子は、これら配列番号9及び10にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号10のアミノ酸配列に対して、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、L-リブロキナーゼ活性を有するタンパク質をコードするものでも良い。ここで、数個とは、例えば、2~30個、好ましくは2~20個、より好ましくは2~10個、最も好ましくは2~5個である。
さらにまた、L-リブロキナーゼ遺伝子は、これら配列番号9及び10にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号9の塩基配列からなるDNAの相補鎖の全部又は一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつL-リブロキナーゼ活性を有するタンパク質をコードするものでもよい。ここでいう「ストリンジェントな条件」とはいわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual(Third Edition)を参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェンシーを設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム濃度が25~500mM、好ましくは25~300mMであり、温度が42~68℃、好ましくは42~65℃である。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
上述したように、配列番号9と異なる塩基配列からなる遺伝子、又は配列番号10とは異なるアミノ酸配列をコードする遺伝子が、L-リブロキナーゼ遺伝子として機能するか否かは、当該遺伝子を適当なプロモーターとターミネーター等の間に組み込んだ発現ベクターを作製し、この発現ベクターを用いて例えば大腸菌等の宿主を形質転換し、発現するタンパク質のL-リブロキナーゼ活性を測定すればよい。L-リブロキナーゼ活性とは、L-リブロースをリン酸化してL-リブロース-5-リン酸を形成する反応を触媒する活性を意味する。よって、L-リブロキナーゼ活性は、基質としてL-リブロースを含む溶液を準備し、検査対象のタンパク質を適当な温度で作用させ、L-リブロースの減少量及び/又はL-リブロース-5-リン酸の生成量を測定することで評価できる。
一方、L-リブロース-5-ホスフェート4-エピメラーゼ遺伝子としては、例えば、Lactobacillus plantarum由来のaraD遺伝子を挙げることができる。Lactobacillus plantarum由来のaraD遺伝子のコーディング領域の塩基配列及び当該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号11及び12に示す。
ただし、L-リブロース-5-ホスフェート4-エピメラーゼ遺伝子としては、配列番号11及び12にて特定されるものに限定されず、塩基配列やアミノ酸配列は異なるがパラログの関係又は狭義のホモログの関係にある遺伝子であっても良い。
また、L-リブロース-5-ホスフェート4-エピメラーゼ遺伝子は、これら配列番号11及び12にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号12のアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列類似性又は同一性を有するアミノ酸配列を有し、L-リブロース-5-ホスフェート4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものでも良い。配列類似性及び同一性の値は、BLASTアルゴリズムを実装したBLASTNやBLASTXプログラムにより算出することができる(デフォルトの設定)。なお、配列類似性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基と、物理化学的に機能が類似するアミノ酸残基との合計を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記合計数の割合として算出される。なお、同一性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記アミノ酸残基数の割合として算出される。
さらに、L-リブロース-5-ホスフェート4-エピメラーゼ遺伝子は、これら配列番号11及び12にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号12のアミノ酸配列に対して、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、L-リブロース-5-ホスフェート4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものでも良い。ここで、数個とは、例えば、2~30個、好ましくは2~20個、より好ましくは2~10個、最も好ましくは2~5個である。
さらにまた、L-リブロース-5-ホスフェート4-エピメラーゼ遺伝子は、これら配列番号11及び12にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号11の塩基配列からなるDNAの相補鎖の全部又は一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつL-リブロース-5-ホスフェート4-エピメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものでもよい。ここでいう「ストリンジェントな条件」とはいわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual(Third Edition)を参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェンシーを設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム濃度が25~500mM、好ましくは25~300mMであり、温度が42~68℃、好ましくは42~65℃である。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
上述したように、配列番号11と異なる塩基配列からなる遺伝子、又は配列番号12とは異なるアミノ酸配列をコードする遺伝子が、L-リブロース-5-ホスフェート4-エピメラーゼ遺伝子として機能するか否かは、当該遺伝子を適当なプロモーターとターミネーター等の間に組み込んだ発現ベクターを作製し、この発現ベクターを用いて例えば大腸菌等の宿主を形質転換し、発現するタンパク質のL-リブロース-5-ホスフェート4-エピメラーゼ活性を測定すればよい。L-リブロース-5-ホスフェート4-エピメラーゼ活性とは、L-リブロース-5-リン酸とD-キシルロース-5-リン酸のエピマー化を触媒する活性を意味する。よって、L-リブロース-5-ホスフェート4-エピメラーゼ活性は、基質としてL-リブロース-5-リン酸を含む溶液を準備し、検査対象のタンパク質を適当な温度で作用させ、L-リブロース-5-リン酸の減少量及び/又はD-キシルロース-5-リン酸の生成量を測定することで評価できる。
[その他遺伝子]
本発明に係る形質転換酵母は、更に他の遺伝子が導入された酵母であってもよい。他の遺伝子としては特に限定されないが、例えば、グルコース等の糖代謝に関与する遺伝子を導入したものであっても良い。一例として形質転換酵母は、β-グルコシダーゼ遺伝子を導入することでβ-グルコシダーゼ活性を有する酵母とすることができる。
ここでβ-グルコシダーゼ活性とは、糖のβ-グリコシド結合を加水分解する反応を触媒する活性を意味する。すなわち、β-グルコシダーゼは、セロビオース等のセロオリゴ糖をグルコースに分解することができる。β-グルコシダーゼ遺伝子は、細胞表層提示型遺伝子として導入することもできる。ここで、細胞表層提示型遺伝子とは、当該遺伝子がコードするタンパク質が細胞の表層にディスプレイされるように発現するように改変された遺伝子である。例えば、細胞表層提示型βグルコシダーゼ遺伝子とは、βグルコシダーゼ遺伝子と細胞表層局在タンパク質遺伝子とを融合した遺伝子である。細胞表層局在タンパク質とは、酵母の細胞表層に固定され、細胞表層に存在するタンパク質をいう。例えば、凝集性タンパク質であるα-またはa-アグルチニン、FLOタンパク質などが挙げられる。一般に細胞表層局在タンパク質は、N末端側に分泌シグナル配列及びC末端側にGPIアンカー付着認識シグナルを有している。分泌シグナルを有する点では分泌性タンパク質と共通しているが、細胞表層局在タンパク質はGPIアンカーを介して細胞膜に固定されて輸送される点が分泌性タンパク質と異なる。細胞表層局在タンパク質は、細胞膜通過の際、GPIアンカー付着認識シグナル配列が選択的に切断され、新たに突出したC末端部分でGPIアンカーと結合して細胞膜に固定される。その後ホスファチジルイノシトール依存性ホスホリパーゼC(PI-PLC)によりGPIアンカーの根元部分が切断される。ついで、細胞膜から切り離されたタンパク質は細胞壁に組み込まれて細胞表層に固定され、細胞表層に局在する(例えば、特開2006-174767号公報参照)。
βグルコシダーゼ遺伝子としては、特に限定されないが、例えば、Aspergillus aculeatus由来のβグルコシダーゼ遺伝子(Murai et al., Appl. Environ. Microbiol. 64:4857-4861)を挙げることができる。その他にも、βグルコシダーゼ遺伝子としては、Aspergillus oryzae由来のβグルコシダーゼ遺伝子、Clostridium cellulovorans由来のβグルコシダーゼ遺伝子及びSaccharomycopsis fibuligera由来のβグルコシダーゼ遺伝子等を利用することができる。
また、本発明に係る形質転換酵母は、βグルコシダーゼ遺伝子に加えて、或いはβグルコシダーゼ遺伝子以外に、セルラーゼを構成する他の酵素をコードする遺伝子を導入したものでもよい。βグルコシダーゼ以外にセルラーゼを構成する酵素としては、結晶セルロースの末端からセロビオースを遊離するエキソ型のセロビオハイドロラーゼ(CBH1及びCBH2)、結晶セルロースを分解できないが非結晶セルロース(アモルファスセルロース)鎖をランダムに切断するエンド型のエンドグルカナーゼ(EG)を挙げることができる。
さらに、導入する他の遺伝子としては、培地中のキシロースの利用を促進できるような遺伝子を挙げることができる。具体的には、キシルロースを基質としてキシルロース-5-リン酸を生成する活性を有するキシルロキナーゼをコードする遺伝子を挙げることができる。キシルロキナーゼ遺伝子を導入することによって、ペントースリン酸経路の代謝流束を向上させることができる。
さらにまた、本発明に係る形質転換酵母は、ペントースリン酸経路における非酸化過程の経路を構成する酵素群から選ばれる酵素をコードする遺伝子が導入することができる。ペントースリン酸経路における非酸化過程の経路を構成する酵素としては、リボース-5-リン酸イソメラーゼ、リブロース-5-リン酸-3-エピメラーゼ、トランスケトラーゼ及びトランスアルドラーゼを挙げることができる。これら酵素をコードする遺伝子を1種以上導入することが好ましい。また、これら遺伝子のうち2種以上組み合わせて導入することがより好ましく、3種以上組み合わせて導入することが更に好ましく、全種類の遺伝子を導入することが最も好ましい。
より具体的にキシルロキナーゼ(XK)遺伝子としては、特に由来生物を限定せずに用いることができる。なおXK遺伝子は、キシルロースを資化する細菌や酵母など多くの微生物が保持している。XK遺伝子に関する情報は、NCBIのHP等の検索により適宜入手できる。好ましくは、酵母、乳酸菌、大腸菌、植物などに由来するXK遺伝子が挙げられる。XK遺伝子としては、例えば、S. cerevisiae S288C 株由来のXK遺伝子であるXKS1(GenBank:Z72979)(CDSのコード領域の塩基配列及びアミノ酸配列)が挙げられる。
また、より具体的にトランスアルドラーゼ(TAL)遺伝子、トランスケトラーゼ(TKL)遺伝子、リブロース-5-リン酸エピメラーゼ(RPE)遺伝子、リボース-5-リン酸ケトイソメラーゼ(RKI)遺伝子は、特に由来生物を限定せずに用いることができる。これら遺伝子はペントースリン酸経路を備える多くの生物であれば保持している。例えば、S.cerevisiaeなど汎用酵母もこれらの遺伝子を保持している。これらの遺伝子に関する情報は、NCBI等のHPにアクセスすることにより適宜入手できる。好ましくは、真核細胞又は酵母等、宿主真核細胞と同一の属、さらに好ましくは宿主真核細胞と同一種に由来の各遺伝子が挙げられる。TAL遺伝子としてはTAL1遺伝子、TKL遺伝子としてはTKL1遺伝子及びTKL2遺伝子、RPE遺伝子としてはRPE1遺伝子、RKI遺伝子としてはRKI1遺伝子を好ましく用いることができる。例えば、これら遺伝子としては、S. cerevisiae S288 株由来のTAL1遺伝子であるTAL1遺伝子(GenBank:U19102)、S. cerevisiae S288 株由来のTKL1遺伝子(GenBank:X73224)、S. cerevisiae S288 株由来のRPE1遺伝子(GenBank:X83571)、S. cerevisiae S288 株由来のRKI1遺伝子(GenBank:Z75003)が挙げられる。
<形質転換酵母の作製>
本発明に係る形質転換酵母は、上述したミトコンドリア移行シグナルを有するグリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子を、キシロースやアラビノース等の五炭糖に関する代謝能を有する酵母に導入するか、当該代謝能を有しない酵母に対して、上述したキシロース代謝関連酵素遺伝子やアラビノース代謝関連遺伝子をとともに導入することで作製される。なお、本発明に係る形質転換酵母を作製するに際して、上述した他の遺伝子を導入しても良い。
また、グリセリン脱水素酵素遺伝子、キシロース代謝関連遺伝子、アラビノース代謝関連遺伝子及び他の遺伝子等を酵母に導入する際、全ての遺伝子を同時に導入しても良いし、異なる発現ベクターを利用して逐次導入しても良い。
宿主として用いることができる酵母としては、特に限定するものではないがCandida Shehatae、Pichia stipitis、Pachysolen tannophilus、Saccharomyces cerevisiae及びSchizosaccharomyces pombeなどの酵母が挙げられ、特にSaccharomyces cerevisiaeが好ましい。また、酵母としては、実験面での利便性のために使われる実験株でも良いし、実用面での有用性のために使われている工業株(実用株)でも良い。工業株としては、例えば、ワイン、清酒や焼酎作りに用いられる酵母株を挙げることができる。
また、宿主となる酵母としては、ホモタリック性を有する酵母を使用することが好ましい。特開2009-34036号公報に開示される手法によれば、ホモタリック性を有する酵母を利用することで、簡便にゲノムへの多コピー遺伝子導入が可能となる。ホモタリック性を有する酵母とは、ホモタリックな酵母と同義である。ホモタリック性を有する酵母としては、特に限定されず、如何なる酵母をも使用することができる。ホモタリック性を有する酵母としては、Saccharomyces cerevisiae OC-2株(NBRC2260)を挙げることができるが、これに限定されるものではない。その他にもホモタリック性を有する酵母としては、アルコール酵母(台研396号、NBRC0216)(出典:「アルコール酵母の諸特性」酒研会報、No37、p18-22(1998.8))、ブラジルと沖縄で分離したエタノール生産酵母(出典:「ブラジルと沖縄で分離したSaccharomyces cerevisiae野生株の遺伝学的性質」日本農芸化学会誌、Vol.65、No.4、p759-762(1991.4))及び180(出典「アルコール発酵力の強い酵母のスクリーニング」日本醸造協会誌、Vol.82、No.6、p439-443(1987.6))を挙げることができる。また、ヘテロタリックな表現型を示す酵母においても、HO遺伝子を発現可能に導入することによってホモタリック性を有する酵母として使用することができる。すなわち、本発明において、ホモタリック性を有する酵母とは、HO遺伝子を発現可能に導入された酵母も含む意味である。
また、導入する遺伝子のプロモーターとしては、特に限定されないが、例えばグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(TDH3)のプロモーター、3-ホスホグリセレートキナーゼ遺伝子(PGK1)のプロモーター、高浸透圧応答7遺伝子(HOR7)のプロモーターなどが利用可能である。なかでもピルビン酸脱炭酸酵素遺伝子(PDC1)のプロモーターが下流の目的遺伝子を高発現させる能力が高いために好ましい。
すなわち、上述した遺伝子は、発現を制御するプロモーターやその他の発現制御領域とともに酵母のゲノムに導入してもよい。または、上述した遺伝子は、宿主となる酵母のゲノムに本来的に存在する遺伝子のプロモーターやその他の発現制御領域により発現制御されるように導入してもよい。
また、上述した遺伝子を導入する方法としては、酵母の形質転換方法として知られている従来公知のいかなる手法をも適用することができる。具体的には、例えば、例えば、エレクトロポレーション法“Meth. Enzym., 194, p182 (1990)”、スフェロプラスト法“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 p1929(1978)”、酢酸リチウム法“J.Bacteriology, 153, p163(1983)”、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 p1929 (1978)、Methods in yeast genetics, 2000 Edition : A Cold Spring Harbor Laboratory Course Manualなどに記載の方法で実施可能であるが、これに限定されない。
<エタノール製造>
以上で説明した形質転換酵母を使用してエタノールを製造する際には、少なくともキシロースやアラビノース等の五炭糖を含有する培地にてエタノール発酵培養を行う。すなわち、エタノール発酵を行う培地とは、炭素源として少なくとも代謝可能な五炭糖を含有することとなる。なお、培地には、予めグルコース等の他の炭素源が含まれていても良い。
また、エタノール発酵に利用する培地に含まれるキシロースやアラビノース等の五炭糖は、バイオマス由来とすることができる。言い換えると、エタノール発酵に利用する培地は、セルロース系バイオマスと、セルロース系バイオマスに含まれるヘミセルロースを糖化してキシロースやアラビノース等の五炭糖を生成するヘミセルラーゼとを含む組成であってもよい。ここで、セルロース系バイオマスとしては、従来公知の前処理を施したものであっても良い。前処理としては、特に限定されないが、例えば、リグニンを微生物によって分解する処理や、セルロース系バイオマスの粉砕処理等を挙げることができる。また、前処理としては、例えば、粉砕したセルロース系バイオマスを希硫酸溶液やアルカリ溶液、イオン液体に浸漬する処理、水熱処理、微粉砕処理といった処理を適用しても良い。これら前処理により、バイオマスの糖化率を向上させることができる。
なお、以上で説明した形質転換酵母を使用してエタノールを製造する際には、上記培地が更にセルロース及びセルラーゼを含む組成であってもよい。この場合、上記培地には、セルラーゼがセルロースに作用することで生成するグルコースを含有することとなる。エタノール発酵に利用する培地がセルロースを含有する場合、当該セルロースは、バイオマス由来とすることができる。言い換えると、エタノール発酵に利用する培地は、セルロース系バイオマスに含まれるセルラーゼを糖化できるセルラーゼを含む組成であってもよい。
また、エタノール発酵に利用する培地は、セルロース系バイオマスを糖化処理した後の糖化液を添加してもよい。この場合、糖化液には、残存するセルロースやセルラーゼとセルロース系バイオマスに含まれるヘミセルロースに由来するキシロースやアラビノース等の五炭糖とが含まれる。
以上のように、本発明に係るエタノールの製造方法は、少なくともキシロースやアラビノース等の五炭糖を糖源とするエタノール発酵の工程を含むこととなる。本発明に係るエタノールの製造方法は、キシロースやアラビノース等の五炭糖を糖源としたエタノール発酵によりエタノールを製造することができる。本発明に係る形質転換酵母を利用したエタノールの製造方法では、エタノール発酵の後、培地からエタノールを回収する。エタノールの回収方法は、特に限定されず、従来公知のいかなる方法も適用することができる。例えば、上述したエタノール発酵が終了した後、固液分離操作によってエタノールを含む液層と、形質転換酵母や固形成分を含有する固層とを分離する。その後、液層に含まれるエタノールを蒸留法によって分離・精製することで、純度の高いエタノールを回収することができる。なお、エタノールの精製度は、エタノールの使用目的にあわせて適宜調整することができる。
一般に、酵母を用いたエタノール発酵生産において、グリセリンは代表的な副産物として知られている。このエタノール発酵生産においてエタノール収率を向上させるには、グリセリン生産量を低減することが重要である。しかし、グリセリン生産量を低減するため、グリセルアルデヒド3リン酸からのグリセリン生産経路に関与する遺伝子(GPD1、GPD2、GPP1及びGPP2)を破壊・発現低下した場合、エタノール生産速度が低下するなどの問題が指摘されていた(Appl Environ Microbiol. 2011, 77, 5857-5867, Appl Environ Microbiol. 2013 ,79, 3273-3281)。
しかしながら、本発明に係る形質転換酵母は、後述の実施例に示すように、グリセリン生産量が非常に低いといった特徴を有している。一般に、グリセリンは、細胞質において生合成され蓄積されることが知られている。したがって、グリセリンの代謝を促進して生産量を抑えるためには、細胞質におけるグリセリン脱水素酵素活性を高めることが考えられる。しかしながら、本発明に係る形質転換酵母は、ミトコンドリア移行シグナルを有するグリセリン脱水素酵素遺伝子を導入しており、ミトコンドリアにおけるグリセリン脱水素酵素活性が高められているものの、細胞質における同活性は高められていない。
言い換えると、本発明に係る形質転換酵母は、ミトコンドリアにおけるグリセリン脱水素酵素活性が高いにも拘わらず、細胞質において生合成されるグリセリンの代謝が促進され、その結果、グリセリン生産量が大幅に低下することとなる。細胞質局在型グリセリン脱水素酵素遺伝子を導入した形質転換酵母と比較しても、本発明に係る形質転換酵母は、グリセリン生産量がより大幅に低下するといった特徴を有している。
また、本発明に係るエタノールの製造方法は、培地に含まれるセルロースをセルラーゼにより糖化する工程と、キシロースやアラビノース等の五炭糖と糖化により生成されたグルコースとを糖源とするエタノール発酵の工程とが同時に進行する、いわゆる同時糖化発酵処理としても良い。ここで、同時糖化発酵処理とは、セルロース系バイオマスを糖化する工程とエタノール発酵工程とを区別せずに同時に実施する処理を意味する。
なお、糖化方法としては、特に限定されないが、セルラーゼやヘミセルラーゼ等のセルラーゼ製剤を利用する酵素法等を挙げることができる。セルラーゼ製剤は、セルロース鎖及びヘミセルロース鎖の分解に関与する複数の酵素を含んでおり、エンドグルカナーゼ活性、エンドキシラナーゼ活性、セロビオヒドロラーゼ活性、グルコシダーゼ活性及びキシロシダーゼ活性等の複数の活性を示す。セルラーゼ製剤としては、特に限定されないが、例えば、Trichoderma reeseiや、Acremonium cellulolyticusなどが生産するセルラーゼを挙げることができる。セルラーゼ製剤としては、市販されているものを使用しても良い。
同時糖化発酵処理では、セルロース系バイオマス(前処理後であってもよい)を含む培地にセルラーゼ製剤と上述した組換え微生物とを加え、所定の温度範囲で当該形質転換酵母を培養する。培養温度としては特に限定されないが、エタノール発酵の効率を考慮して25~45℃とすることができ、30~40℃とすることが好ましい。また、培養液のpHを4~6とすることが好ましい。また、培養に際して、攪拌や振とうしてもよい。さらに、先に酵素の至適温度(40~70℃)で糖化を行い、その後、温度を所定の温度(30~40℃)に下げて酵母を添加するといった変則的な同時糖化発酵でもよい。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
本実施例では、キシロース等の五炭糖代謝能を有する形質転換酵母に対して、ミトコンドリア移行シグナルを有するグリセリン脱水素酵素遺伝子を導入することによるグリセリン低減効果を調べた。
1.方法
1.1.供試株
グリセリン低減効果の発酵試験に供試した菌株は、キシロース及びアラビノース代謝能を有する親株に、NAD依存型の分裂酵母Schizosaccharomyces pombe由来グリセリン脱水素酵素遺伝子(gld1遺伝子)を導入した株、同gld1遺伝子からミトコンドリア移行シグナルを除去した遺伝子を導入した株、大腸菌Escherichia coli由来グリセリン脱水素酵素遺伝子(gldA遺伝子)を導入した株、同gldA遺伝子に上記gld1遺伝子のミトコンドリア移行シグナルに相当する配列をコードする領域を融合させたミトコンドリア局在型gldA遺伝子を導入した株である。なお、上記親株は、ワイン酵母S. cerevisiae OC-2株にキシロース代謝遺伝子であるヤマトシロアリ腸内原生生物由来のキシロースイソメラーゼ(XI)並びにアラビノース代謝遺伝子である乳酸菌Lactobacillus plantarum由来のアラビノースイソメラーゼ(araA)、リブロキナーゼ(araB)及びブロース5リン酸エピメラーゼ(araD)を導入し、ペントースリン酸経路遺伝子(TKL1 TAL1 RPE1 RKI1)、キシルロキナーゼ遺伝子(XKS1)とキシロースとアラビノースのトランスポーター遺伝子(GAL2)を強化し、キシロースを副生成物のキシリトールに変換するGRE3遺伝子を破壊した株である。
表1に本実施例で使用した菌株の遺伝子型を示した。
Figure 0007078900000001
1.2. XI・TKL1・TAL1・RPE1・RKI1・XKS1遺伝子発現及びGRE3遺伝子破壊用プラスミド
GRE3遺伝子座にGRE3遺伝子を破壊しながら、ヤマトシロアリ腸内原生生物由来の変異型XI遺伝子(337番目のアミノ酸がアスパラギンからシステインに変換され、全長を酵母のコドン使用頻度に合わせてコドンを変換した配列を全合成したもの、Katahira, S. et al., Biotechnology for Biofuels 10 (2017): 203参照)と、S. cerevisiae由来のTKL1・TAL1・RPE1・RKI1・XKS1遺伝子を酵母に導入するために必要な配列を含むプラスミド、pUC-5U_GRE3-P_HOR7-TKL1-TAL1-P_FBA1-P_ADH1-RPE1-RKI1-TEF1_P-P_TDH1-XIN337C-T_DIT1-P_TDH3-XKS1-LoxP-G418-LoxP-3U_GRE3を作製した。なお、ヤマトシロアリ腸内原生生物由来の野生型XI遺伝子の塩基配列及び当該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号5及び6に示した。
このプラスミドには、HOR7プロモーターが付加されたADH1遺伝子、FBA1プロモーターが付加されたTAL1遺伝子、ADH1プロモーターが付加されたTAL1遺伝子、TEF1プロモーターが付加されたRKI1遺伝子、TDH3プロモーターとHIS3ターミネーターが付加されたXKS1遺伝子、TDH1プロモーターとDIT1ターミネーターが付加された変異型XI遺伝子、酵母ゲノム上への相同組換え領域として、GRE3遺伝子の5’側末端より上流約700bpの領域の遺伝子配列(5U_GRE3)及びGRE3遺伝子3’側末端より下流の約1000bpの領域のDNA配列(3U_GRE3)、マーカーとして、G418耐性遺伝子を含む遺伝子配列(G418マーカー)が含まれるように構築した。マーカー遺伝子は2つのLoxP配列間に挟まれており、Cre遺伝子を発現すると、マーカー遺伝子を除去することが可能である。
なお、各DNA配列は下記表2のプライマーを用いたPCRにより増幅することが可能である。各DNA断片を結合するため、プライマーは隣接DNA配列と約15bp重複するようにDNA配列を付加されており、それらを用いて、S. cerevisiae OC-2株ゲノム又はXI合成遺伝子DNAを鋳型に目的のDNA断片を増幅、In-Fusion HD Cloning Kit等を用いて順次DNA断片を結合、プラスミドpUC19にクローニングして最終目的のプラスミドを作製した。
1.3.GAL2・araA・araB・araD遺伝子発現用プラスミド
GAD1遺伝子座に、L. plantarum由来のaraA遺伝子、araB遺伝子及びaraD遺伝子(WO2008/041840参照)及び、S. cerevisiae由来のGAL2遺伝子を酵母に導入するために必要な配列を含むプラスミド、pUC-5U500_GAD1-P_SED1-GAL2-T_RPL15A-P_TDH3-LParaB-T_DIT1-P_HOR7-LParaA-T_RPL41B-T_RPL3-LParaD-P_FBA1-LoxP71-T_CYC1-Crei-P_GAL1-T_LEU2-Bla-P_TEF1-LoxP66-5U_GAD1を作製した。なお、araA遺伝子の塩基配列及び当該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号7及び8に示し、araB遺伝子の塩基配列及び当該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号9及び10に示し、araDの塩基配列及び当該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号11及び12に示した。また、本実施例では、これらaraA遺伝子、araB遺伝子及びaraD遺伝子について、酵母におけるコドン使用頻度に合わせてコドンを変換した配列を全合成したものを使用した。
このプラスミドには、TDH3プロモーターとDIT1ターミネーターが付加されたaraB遺伝子、HOR7プロモーターとRPL41B ターミネーターが付加されたaraA遺伝子、FBA1プロモーターとRPL3ターミネーターが付加されたaraD遺伝子、SED1プロモーターとRPL15Aターミネーターが付加されたGAL2遺伝子、酵母ゲノム上への相同組換え領域として、GAD1遺伝子の5’側末端より上流約500-1250bpの領域の遺伝子配列(5U500_GAD1)、及びGAD1遺伝子5’側末端より上流約500bpより下流の約500bpの領域のDNA配列(3U_GAD1)、マーカーとして、ブラストサイジン耐性遺伝子を含む遺伝子配列(blaマーカー)並びに、loxP配列部位特異的に組換え反応を行うDNA組換え酵素Cre遺伝子が含まれるように構築した。Cre遺伝子(NCBIアクセスNo.2777477、全長を酵母のコドン使用頻度に合わせてコドンを変換した配列を全合成したもの)はGAL1プロモーターが付加されており、ガラクトースが含まれる培地で、発現誘導が可能であり、大腸菌での発現を抑制するために、S. cerevisiae BY4742株のCOX5B遺伝子に含まれるイントロンの配列を融合したもの(Cre誘導発現カセット)を使用した。
マーカー遺伝子とCre遺伝子は2つのLoxP配列間に挟まれており、Cre遺伝子を発現することで、マーカーとCre遺伝子を同時に除去することが可能である。
各DNA配列は表2のプライマーを用いたPCRにより増幅することが可能である。各DNA断片を結合するため、プライマーは隣接DNA配列と約15bp重複するようにDNA配列を付加されており、それらを用いて、S. cerevisiae BY4742株とOC-2株ゲノム若しくはaraA・araB・araD合成遺伝子DNA、プラスミドpYES6/CT(blaマーカー、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を鋳型に目的のDNA断片を増幅、In-Fusion HD Cloning Kit等を用いて順次DNA断片を結合、プラスミドpUC19にクローニングして最終目的のプラスミドを作製した。
1.4.gld1遺伝子発現用プラスミド
PFK1遺伝子座にPFK1遺伝子を残しながら、S. pombe由来のgld1遺伝子(ミトコンドリア移行シグナルを含む遺伝子)を酵母に導入するために必要な配列を含むプラスミド、pUC-3U_PFK1-P_TDH3-gld1-T_RPL41B-LoxP66-P_TEF1-SAT-T_LEU2-P_GAL1-Crei-T_CYC1-LoxP71-3U300_PFK1を作製した。S. pombe由来のgld1遺伝子の塩基配列及び当該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1及び2に示した。
このプラスミドには、TDH3プロモーターとRPL41Bターミネーターが付加されたgld1遺伝子、酵母ゲノム上への相同組換え領域として、PFK1遺伝子の3’側末端より下流約300bpからの上流領域4000bpのDNA配列(3U_PFK1)、及びPFK1遺伝子3’側末端より下流約300bpから下流領域500bpのDNA配列(3U300_PFK1)、マーカーとして、nourseothricin耐性遺伝子を含む遺伝子配列(natマーカー)並びに、Cre誘導発現カセットが含まれるように構築した。マーカー遺伝子とCre遺伝子は2つのLoxP配列間に挟まれており、Cre遺伝子を発現することで、マーカーとCre遺伝子を同時に除去することが可能である。
各DNA配列は表2のプライマーを用いたPCRにより増幅することが可能である。各DNA断片を結合するため、プライマーは隣接DNA配列と約15bp重複するようにDNA配列を付加されており、それらを用いて、S. cerevisiae OC-2株ゲノムDNA、大腸菌K-12株ゲノムDNA、S. pombeゲノムDNA及びpUC-5U500_GAD1-P_SED1-GAL2-T_RPL15A-P_TDH3-LParaB-T_DIT1-P_HOR7-LParaA-T_RPL41B-T_RPL3-LParaD-P_FBA1-LoxP71-T_CYC1-Crei-P_GAL1-T_LEU2-Bla-P_TEF1-LoxP66-5U_GAD1を鋳型に目的のDNA断片を増幅、In-Fusion HD Cloning Kit等を用いて順次DNA断片を結合、プラスミドpUC19にクローニングして最終目的のプラスミドを作製した。
1.5.細胞質局在型gld1遺伝子発現用プラスミド
PFK1遺伝子座にPFK1遺伝子を残しながら、ミトコンドリア移行シグナルを除去したgld1遺伝子を酵母に導入するために必要な配列を含むプラスミド、pUC-3U_PFK1-P_TDH3-gld1cy-T_RPL41B-LoxP66-P_TEF1-SAT-T_LEU2-P_GAL1-Crei-T_CYC1-LoxP71-3U300_PFK1を作製した。
このプラスミドには、TDH3プロモーターとRPL41Bターミネーターが付加された細胞質局在型gld1遺伝子(ミトコンドリア移行シグナルに相当する5’側末端から30アミノ酸分のDNA配列を除去)、酵母ゲノム上への相同組換え領域として、酵母ゲノム上への相同組換え領域として、3U_PFK1、及び3U300_PFK1、マーカーとして、natマーカー並びに、Cre誘導発現カセットが含まれるように構築した。マーカー遺伝子とCre遺伝子は2つのLoxP配列間に挟まれており、Cre遺伝子を発現することで、マーカーとCre遺伝子を同時に除去することが可能である。
各DNA配列は表2のプライマーを用いたPCRにより増幅することが可能である。各DNA断片を結合するため、プライマーは隣接DNA配列と約15bp重複するようにDNA配列を付加されており、それらを用いて、pUC-3U_PFK1-P_TDH3-gld1-T_RPL41B-LoxP66-P_TEF1-SAT-T_LEU2-P_GAL1-Crei-T_CYC1-LoxP71-3U300_PFKを鋳型に目的のDNA断片を増幅、In-Fusion HD Cloning Kit等を用いて順次DNA断片を結合、プラスミドpUC19にクローニングして最終目的のプラスミドを作製した。
1.6.gldA遺伝子発現用プラスミド
PFK1遺伝子座にPFK1遺伝子を残しながら、E. coli由来のgldA遺伝子を酵母に導入するために必要な配列を含むプラスミド、pUC-3U_PFK1-P_TDH3-gldA-T_RPL41B-LoxP66-P_TEF1-SAT-T_LEU2-P_GAL1-Crei-T_CYC1-LoxP71-3U300_PFK1を作製した。E. coli由来のgldA遺伝子の塩基配列及び当該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号3及び4に示した。
このプラスミドには、TDH3プロモーターとRPL41Bターミネーターが付加されたgldA遺伝子、酵母ゲノム上への相同組換え領域として、PFK1遺伝子の3’側末端より下流約300bpからの上流領域4000bpのDNA配列(3U_PFK1)、及びPFK1遺伝子3’側末端より下流約300bpから下流領域500bpのDNA配列(3U300_PFK1)、マーカーとして、nourseothricin耐性遺伝子を含む遺伝子配列(natマーカー)並びに、Cre誘導発現カセットが含まれるように構築した。マーカー遺伝子とCre遺伝子は2つのLoxP配列間に挟まれており、Cre遺伝子を発現することで、マーカーとCre遺伝子を同時に除去することが可能である。
各DNA配列は表2のプライマーを用いたPCRにより増幅することが可能である。各DNA断片を結合するため、プライマーは隣接DNA配列と約15bp重複するようにDNA配列を付加されており、それらを用いて、gldA合成遺伝子とpUC-3U_PFK1-P_TDH3-gld1-T_RPL41B-LoxP66-P_TEF1-SAT-T_LEU2-P_GAL1-Crei-T_CYC1-LoxP71-3U300_PFKを鋳型に目的のDNA断片を増幅、In-Fusion HD Cloning Kit等を用いて順次DNA断片を結合、プラスミドpUC19にクローニングして最終目的のプラスミドを作製した。
1.7.ミトコンドリア局在型gldA遺伝子発現用プラスミド
PFK1遺伝子座にPFK1遺伝子を残しながら、E. coli由来のgldA遺伝子にミトコンドリア移行シグナル(配列番号2のアミノ酸配列におけるN末端~30アミノ酸残基)をコードする領域を付加した融合遺伝子を酵母に導入するために必要な配列を含むプラスミド、pUC-3U_PFK1-P_TDH3-gldAmt-T_RPL41B-LoxP66-P_TEF1-SAT-T_LEU2-P_GAL1-Crei-T_CYC1-LoxP71-3U300_PFK1を作製した。
このプラスミドには、TDH3プロモーター、RPL41Bターミネーター、S. pombe由来gld1遺伝子のミトコンドリア移行シグナルが付加されたgldA遺伝子、酵母ゲノム上への相同組換え領域として、PFK1遺伝子の3’側末端より下流約300bpからの上流領域4000bpのDNA配列(3U_PFK1)、及びPFK1遺伝子3’側末端より下流約300bpから下流領域500bpのDNA配列(3U300_PFK1)、マーカーとして、nourseothricin耐性遺伝子を含む遺伝子配列(natマーカー)並びに、Cre誘導発現カセットが含まれるように構築した。マーカー遺伝子とCre遺伝子は2つのLoxP配列間に挟まれており、Cre遺伝子を発現することで、マーカーとCre遺伝子を同時に除去することが可能である。
各DNA配列は表2のプライマーを用いたPCRにより増幅することが可能である。各DNA断片を結合するため、プライマーは隣接DNA配列と約15bp重複するようにDNA配列を付加されており、それらを用いて、S. pombeゲノムDNAとpUC-3U_PFK1-P_TDH3-gldA-T_RPL41B-LoxP66-P_TEF1-SAT-T_LEU2-P_GAL1-Crei-T_CYC1-LoxP71-3U300_PFK1を鋳型に目的のDNA断片を増幅、In-Fusion HD Cloning Kit等を用いて順次DNA断片を結合、プラスミドpUC19にクローニングして最終目的のプラスミドを作製した。
Figure 0007078900000002
Figure 0007078900000003
Figure 0007078900000004
Figure 0007078900000005
1.8.XI・TKL1・TAL1・RPE1・RKI1・XKS1・GAL2・araA・araB・araD遺伝子発現及びGRE3遺伝子ヘテロ破壊株の作製
2倍体酵母のS. cerevisiae OC-2株(NBRC2260)を宿主とし、酵母の形質転換はFrozen-EZ Yeast Transformation II(ZYMO RESEARCH)を用い、添付のプロトコルに従って行った。
プラスミドpUC-5U_GRE3-P_HOR7-TKL1-TAL1-P_FBA1-P_ADH1-RPE1-RKI1-TEF1_P-P_TDH1-XIN337C-T_DIT1-P_TDH3-XKS1-LoxP-G418-LoxP-3U_GRE3の相同組換え部位をPCRで増幅した断片を用いて、OC2株の形質転換を行い、G418を含むYPD寒天培地に塗布し、生育したコロニーを純化した。さらに、プラスミドpUC-5U500_GAD1-P_SED1-GAL2-T_RPL15A-P_TDH3-LParaB-T_DIT1-P_HOR7-LParaA-T_RPL41B-T_RPL3-LParaD-P_FBA1-LoxP71-T_CYC1-Crei-P_GAL1-T_LEU2-Bla-P_TEF1-LoxP66-5U_GAD1の相同組換え部位をPCRで増幅した断片を用いて、上記の株の形質転換を行い、ブラストサイジンを含むYPD寒天培地に塗布し、生育したコロニーを純化した。これをUz2937株とした。なお、選抜した株はそれぞれの導入遺伝子がヘテロに(1コピー)組換えが起こっていることを確認し、GRE3遺伝子はヘテロに破壊されていることを確認した。
1.9.グリセリン脱水素酵素遺伝子導入株の作製
上記1.4.で作製したプラスミド(pUC-3U_PFK1-P_TDH3-gld1-T_RPL41B-LoxP66-P_TEF1-SAT-T_LEU2-P_GAL1-Crei-T_CYC1-LoxP71-3U300_PFK1)の相同組換え部位間をPCRで増幅した断片を用いて、上記Uz2937株の形質転換を行った。その後、nourseothricinを含むYPD寒天培地に塗布し、生育したコロニーを純化した。純化された株をUz3102とした。
同様に、上記1.5.で作製したプラスミド(pUC-3U_PFK1-P_TDH3-gld1cy-T_RPL41B-LoxP66-P_TEF1-SAT-T_LEU2-P_GAL1-Crei-T_CYC1-LoxP71-3U300_PFK1)の相同組換え部位間をPCRで増幅した断片を用いて、上記Uz2937株の形質転換を行った。その後、nourseothricinを含むYPD寒天培地に塗布し、生育したコロニーを純化した。純化された株をUz3084とした。
同様に、上記1.6.で作製したプラスミド(pUC-3U_PFK1-P_TDH3-gldA-T_RPL41B-LoxP66-P_TEF1-SAT-T_LEU2-P_GAL1-Crei-T_CYC1-LoxP71-3U300_PFK1)の相同組換え部位間をPCRで増幅した断片を用いて、上記Uz2937株の形質転換を行った。その後、nourseothricinを含むYPD寒天培地に塗布し、生育したコロニーを純化した。純化された株をUz3040とした。
同様に、上記1.7.で作製したプラスミド(pUC-3U_PFK1-P_TDH3-gldAmt-T_RPL41B-LoxP66-P_TEF1-SAT-T_LEU2-P_GAL1-Crei-T_CYC1-LoxP71-3U300_PFK1)の相同組換え部位間をPCRで増幅した断片を用いて、上記Uz2937株の形質転換を行った。その後、nourseothricinを含むYPD寒天培地に塗布し、生育したコロニーを純化した。純化された株をUz3083とした。
作製したUz3102、Uz3084、Uz3040、Uz3083それぞれの株はヘテロに(1コピー)組換えが起こっていることを確認した。
1.10.フラスコ発酵試験
グルコース濃度20g/LのYPD液体培地(イーストエキストラクト10g/L、ペプトン20g/L、グルコース20g/L)を20ml分注した100ml容バッフル付きフラスコに供試株(Uz3102、Uz3084、Uz3040又はUz3083)を植菌し、30℃、120rpmで24時間培養を行った。集菌後、エタノール生産用の培地を4.9ml分注した24穴ディープウエルプレートに植菌し(菌濃度0.3g乾燥菌体/L)、振盪培養(230rpm、振幅25mm)、温度を31度で発酵試験を行った。なお、24穴ディープウエルプレートは各処理区に逆止弁のついたシリコン製の蓋を被せ、発生した二酸化炭素ガスは外気に抜けるものの、外部から酸素は入らないようにすることで、各処理区が嫌気的に保たれるようにした。
なお、本実施例では、エタノール生産用の培地として、グルコースを糖源として含有する培地(培地:グルコース227g/L、イーストエキストラクト10g/L、酢酸2.3g/L)と、糖蜜を糖源として含有する培地(培地:糖蜜(スクロース、グルコースとフルクトースの合計値)260g/L)をそれぞれ使用した。
発酵液中のグリセリン、エタノールについては、HPLC(Prominence;島津製作所)を使用して、下記条件にて測定した。
カラム:AminexHPX-87H
移動相:0.01N H2SO4
流量:0.6ml/min
温度:50℃
検出器:示差屈折率検出器 RID-10A
また、糖蜜を含む発酵液中のスクロース、フルクトース及びグルコースについては、HPLC(Prominence;島津製作所)を使用して、下記条件にて測定した。
カラム:SHIMADZU Shim-pack SPR-Na
移動相:0.01N H2SO4
流量:0.6ml/min
温度:60℃
検出器:示差屈折率検出器 RID-10A
ミトコンドリア局在型gld1遺伝子を導入したUz3102及び細胞質局在型gld1遺伝子を導入したUz3084について、グルコースを糖源として含有する培地を用いたときの発酵試験結果を表3に示した。なお、グリセリン収率は消費した糖(g)に対して生成したグリセリン(g)の比率を示す。
Figure 0007078900000006
また、Uz3102及びUz3084について、糖蜜を糖源として含有する培地を用いたときの発酵試験結果を表4に示した。
Figure 0007078900000007
さらに、ミトコンドリア局在型gldA遺伝子を導入したUz3083及び細胞質局在型gldA遺伝子を導入したUz3040について、糖蜜を糖源として含有する培地を用いたときの発酵試験結果を表5に示した。
Figure 0007078900000008
表3~5に示したように、糖蜜やグルコースのみを糖源とした培地において、グリセリン脱水素酵素のミトコンドリア局在型遺伝子の導入株(Uz3102、Uz3083)は、コントロールの株(Uz2937)及び、同酵素の細胞質局在型遺伝子を導入した株(Uz3084、Uz3040)と比較して、グリセリン収率は同程度であるが、糖の消費速度が速く、且つエタノール生産量がより優れていることが分かった。
一般的にエタノール発酵の副産物であるグリセリンは、細胞質において生合成され蓄積される。また、酵母のグリセリン代謝経路においてグリセリン脱水素酵素の下流の酵素に相当するジヒドロキシアセトンキナーゼは細胞質局在型である。したがって、細胞質局在型のグリセリン脱水素酵素遺伝子を導入した株のほうが、グリセリン濃度が低く、且つ、エタノール濃度が高いと予測される。しかしながら、本実施例で示したように、この予測とは異なり、ミトコンドリア局在型のグリセリン脱水素酵素遺伝子を導入しても、グリセリンの代謝は大差がなく、エタノール収率は大幅に向上できることが明らかとなった。

Claims (11)

  1. 五炭糖の資化能を有し、ミトコンドリア移行シグナルを有するグリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子を導入した、形質転換サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)
  2. 上記グリセリン脱水素酵素は、NADをNADHに変換する活性を有する依存型グリセリン脱水素酵素であることを特徴とする請求項1記載の形質転換サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)
  3. 上記グリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子は、以下(a)又は(b)のタンパク質をコードすることを特徴とする請求項1記載の形質転換サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)
    (a)配列番号2のアミノ酸を有するタンパク質
    (b)配列番号2のアミノ酸に対して90%以上の同一性を有し、ミトコンドリア局在性を有し、グリセリンを基質としてジヒドロキシアセトンを生成する活性を有するタンパク質
  4. 上記グリセリン脱水素酵素をコードする遺伝子は、ミトコンドリア移行シグナルと以下(a)又は(b)のタンパク質との融合タンパク質をコードすることを特徴とする請求項1記載の形質転換サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)
    (a)配列番号4のアミノ酸を有するタンパク質
    (b)配列番号4のアミノ酸に対して90%以上の同一性を有し、グリセリンを基質としてジヒドロキシアセトンを生成する活性を有するタンパク質
  5. 上記五炭糖はキシロース及び/又はアラビノースであることを特徴とする請求項1記載の形質転換サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)
  6. キシロースイソメラーゼ遺伝子が導入されキシロース資化能を有することを特徴とする請求項1記載の形質転換サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)
  7. 更にキシルロキナーゼ遺伝子が導入されたものであることを特徴とする請求項6記載の形質転換サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)
  8. ペントースリン酸経路における非酸化過程の経路を構成する酵素群から選ばれる酵素をコードする遺伝子が導入されたものであることを特徴とする請求項1記載の形質転換サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)
  9. 上記ペントースリン酸経路における非酸化過程の経路を構成する酵素群は、リボース-5-リン酸イソメラーゼ、リブロース-5-リン酸-3-エピメラーゼ、トランスケトラーゼ及びトランスアルドラーゼであることを特徴とする請求項8記載の形質転換サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)
  10. 請求項1から9いずれか一項記載の形質転換サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を、資化可能な五炭糖を含有する培地にて培養してエタノール発酵を行う工程を有するエタノールの製造方法。
  11. 上記培地はセルロースを含有しており、上記エタノール発酵では、少なくとも上記セルロースの糖化が同時に進行することを特徴とする請求項10記載のエタノールの製造方法。
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