以下、本発明を図面及び実施例を用いてより詳細に説明する。
本発明に係る変異遺伝子は、キシロース代謝能を有する組換え酵母を長期連続培養することで得られた、エタノール発酵能に優れた変異株で同定したものである。後述の実施例に示すように、具体的に3つの異なる変異遺伝子を同定している。なお、これら3つの変異遺伝子を便宜的にそれぞれ変異遺伝子1~3と称する場合がある。
<変異遺伝子1>
変異遺伝子1は、CDC(Cell Division Cycle)123タンパク質における特定のアミノ酸が他のアミノ酸に置換した変異CDC123タンパク質をコードする。CDC123は、eIF2翻訳開始因子複合体の会合因子(集合因子や構築因子、アセンブリ因子とも称される)であり、翻訳開始を調節する機能を有している。なお、CDC123をコードする遺伝子のsystematic nameはYLR215Cである。
変異CDC123タンパク質は、D123ドメインのC末端側における特定のアミノ酸残基の置換変異を有している。当該置換変異が存在する領域は、異なる生物由来の多くのCDC123タンパク質で保存されている。当該置換変異を含むD123ドメイン内の保存領域を配列番号1に示す(コンセンサス配列)。変異CDC123タンパク質は、配列番号1におけるN末端側から数えて30番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したものと定義することができる。
ここで、配列番号1のアミノ酸配列からなる保存領域は、後述する表1の第2行目から第13行目に示したアミノ酸配列におけるN末端(左端)から34アミノ酸残基として定義している。ここで、配列番号1のアミノ酸配列における1番目のXaaで示したアミノ酸残基はグルタミン酸、アルギニン、グルタミン、リシン又はアスパラギン酸である。配列番号1のアミノ酸配列における5番目のXaaで示したアミノ酸残基はロイシン又はフェニルアラニンである。配列番号1のアミノ酸配列における7番目のXaaで示したアミノ酸残基はロイシン又はイソロイシンである。配列番号1のアミノ酸配列における8番目のXaaで示したアミノ酸残基はバリン、イソロイシン又はロイシンである。配列番号1のアミノ酸配列における9番目のXaaで示したアミノ酸残基はトレオニン、リシン、プロリン又はロイシンである。配列番号1のアミノ酸配列における10番目のXaaで示したアミノ酸残基はアルギニン、セリン又はグルタミン酸である。配列番号1のアミノ酸配列における11番目のXaaで示したアミノ酸残基はヒスチジン、アスパラギン又はトレオニンである。配列番号1のアミノ酸配列における13番目のXaaで示したアミノ酸残基はトレオニン、イソロイシン又はバリンである。配列番号1のアミノ酸配列における14番目のXaaで示したアミノ酸残基はグリシン、システイン又はアラニンである。配列番号1のアミノ酸配列における17番目のXaaで示したアミノ酸残基はアラニン又はバリンである。配列番号1のアミノ酸配列における18番目のXaaで示したアミノ酸残基はセリン、トレオニン、ヒスチジン又はシステインである。配列番号1のアミノ酸配列における23番目のXaaで示したアミノ酸残基はグルタミン酸又はグルタミンである。配列番号1のアミノ酸配列における25番目のXaaで示したアミノ酸残基はヒスチジン又はグルタミンである。配列番号1のアミノ酸配列における28番目のXaaで示したアミノ酸残基はグルタミン、リシン、アルギニン、イソロイシン又はトレオニンである。配列番号1のアミノ酸配列における30番目のXaaで示したアミノ酸残基はロイシン、バリン又はイソロイシンである。配列番号1のアミノ酸配列における31番目のXaaで示したアミノ酸残基はロイシン、バリン又はイソロイシンである。配列番号1のアミノ酸配列における32番目のXaaで示したアミノ酸残基はグルタミン酸又はアスパラギン酸である。配列番号1のアミノ酸配列における34番目のXaaで示したアミノ酸残基はセリン、アラニン又はトレオニンである。
ここで、配列番号1におけるN末端側から数えて30番目のアミノ酸を置換した後の「他のアミノ酸」とは、野生型のCDC123タンパク質におけるアミノ酸とは異なるアミノ酸であることを意味する。野生型のCDC123タンパク質において、上記30番目のアミノ酸は、特に限定さないが、ロイシン、バリン及びイソロイシンのいずれかである場合が多い。例えば、ある野生型のCDC123タンパク質において上記30番目のアミノ酸がロイシンである場合、変異CDC123タンパク質は、当該30番目のロイシンがロイシン以外の他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を有する。この例において、ロイシン以外の他のアミノ酸としては、特に限定されないが、更にバリン及びイソロイシン以外のアミノ酸であることが好ましい。また、変異CDC123タンパク質において、置換変異後のアミノ酸がシステインであることがより好ましい。
配列番号1におけるN末端側から数えて30番目のアミノ酸を他のアミノ酸に置換する方法としては、従来公知の遺伝子工学的手法を適宜使用することができる。要するに、変異導入対象のタンパク質をコードする野生型の遺伝子の塩基配列を特定し、部位特異的突然変異導入キット等を用いて上記置換後のタンパク質をコードするように変異を導入することができる。また、変異を導入した遺伝子は、定法に従って、例えば発現ベクターに組み込んだ状態で回収することができる。遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法又はGapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA Bio社製)やMutan-G(TAKARA Bio社製))などを用いて、あるいは、TAKARA Bio社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキットを用いて変異が導入される。
更に具体的に、サッカロマイセス・セレビシアエ由来のCDC123タンパク質においては当該30番目のアミノ酸がロイシンである。当該30番目のロイシンをシステインに置換変異したサッカロマイセス・セレビシアエ由来の変異CDC123タンパク質をコードする塩基配列及び変異CDC123タンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号2及び3に示す。なお、配列番号3に示した変異CDC123タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号1における30番目のアミノ酸はN末端から数えて324番目に相当する。すなわち、配列番号3のアミノ酸配列における324番目のシステインが、野生型においてはロイシンとなる。
ところで、変異CDC123タンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列からなるタンパク質に限定されず、例えば、上記324番目のシステインが維持されているならば、配列番号3のアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。ここで、同一性は、上述のように70%以上であればよく、好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、最も好ましくは95%以上である。同一性の値は、BLASTアルゴリズムを実装したBLASTNやBLASTXプログラムにより算出することができる(デフォルトの設定)。なお、同一性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記アミノ酸残基数の割合として算出される。
また、変異CDC123タンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列からなるタンパク質に限定されず、例えば、上記324番目のシステインが維持されているならば、配列番号3のアミノ酸配列において1又は複数個、好ましくは1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。ここで、複数個とは、例えば、2~40個とすることができ、2~30個とすることが好ましく、2~20個とすることが好ましく、2~10個とすることがより好ましく、2~5個とすることが最も好ましい。
さらに、変異CDC123タンパク質は、配列番号2の塩基配列によりコードされるタンパク質に限定されず、例えば、上記324番目のシステインを維持したタンパク質をコードするならば、配列番号2の塩基配列からなるDNAの相補鎖の全部又は一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質であってもよい。ここで「ストリンジェントな条件」とはいわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual(Third Edition)を参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェンシーを設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム濃度が25~500mM、好ましくは25~300mMであり、温度が42~68℃、好ましくは42~65℃である。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
なお、上述のように、配列番号3のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列からなる変異CDC123タンパク質や、配列番号2の塩基配列とは異なる塩基配列によりコードされる変異CDC123タンパク質では、上述した置換変異後のシステイン残基の位置は324番目とは異なる位置になる場合がある。
ところで、変異CDC123タンパク質は、サッカロマイセス・セレビシアエ由来のものに限定されず、配列番号1のアミノ酸配列からなる保存領域を有するCDC123タンパク質であって、配列番号1におけるN末端側から数えて30番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質であれば、その由来等に限定されない。例えば、サッカロマイセス・セレビシアエ由来のCDC123タンパク質のアミノ酸配列や、当該CDC123タンパク質をコードする塩基配列に基づいて、アミノ酸配列や塩基配列を格納したデータベースより種々の生物由来の野生型CDC123タンパク質を同定することができる。このように同定した野生型CDC123タンパク質のうち、配列番号1のアミノ酸配列からなる保存領域を有するものについて、上記30番目のアミノ酸を置換変異することで変異型CDC123タンパク質及び当該変異型CDC123タンパク質をコードする変異遺伝子1を取得することができる。
一例として、サッカロマイセス・セレビシアエ由来のCDC123タンパク質のアミノ酸配列に基づいてデータベースを検索することによって、表1に示すように、配列番号1のアミノ酸配列からなる保存領域を有する野生型CDC123タンパク質(表1の第2行目から第13行目)を同定することができる。なお、表1には、当該保存領域を含むアミノ酸配列を掲載した。
すなわち、変異CDC123タンパク質は、例えば、配列番号11~22のうちいずれか1つのアミノ酸配列において、配列番号1におけるN末端側から数えて30番目のアミノ酸に相当するアミノ酸が他のアミノ酸に、好ましくはシステインに置換したアミノ酸配列を有するものであってもよい。
<変異遺伝子2>
変異遺伝子2は、翻訳開始因子eIF2のβサブユニットにおける特定のアミノ酸が他のアミノ酸に置換した変異SUI3タンパク質をコードする。SUI3タンパク質は、翻訳開始因子eIF2のβサブユニットとして、eIF2が開始コドンを見つけることに関与している。なお、SUI3タンパク質をコードする遺伝子のsystematic nameはYPL237Wである。
変異SUI3タンパク質は、転写開始因子としての機能ドメインにおけるN末端の近傍における特定のアミノ酸残基の置換変異を有している。当該置換変異が存在する領域は、異なる生物由来の多くのSUI3タンパク質で保存されている。当該置換変異を含む保存領域を配列番号4に示す(コンセンサス配列)。変異SUI3タンパク質は、配列番号4におけるN末端側から数えて43番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したものと定義することができる。
ここで、配列番号4のアミノ酸配列からなる保存領域は、後述する表2の第2行目から第13行目に示したアミノ酸配列におけるN末端(左端)から48アミノ酸残基として定義している。ここで、配列番号4のアミノ酸配列における2番目のXaaで示したアミノ酸残基はアスパラギン酸又はグルタミン酸である。配列番号4のアミノ酸配列における3番目のXaaで示したアミノ酸残基はイソロイシン、バリン、ロイシン又はアラニンである。配列番号4のアミノ酸配列における4番目のXaaで示したアミノ酸残基はアラニン、トレオニン又はセリンである。配列番号4のアミノ酸配列における5番目のXaaで示したアミノ酸残基はグルタミン酸又はアスパラギン酸である。配列番号4のアミノ酸配列における6番目のXaaで示したアミノ酸残基はアラニン又はバリンである。配列番号4のアミノ酸配列における7番目のXaaで示したアミノ酸残基はロイシン又はフェニルアラニンである。配列番号4のアミノ酸配列における9番目のXaaで示したアミノ酸残基はグルタミン酸又はロイシンである。配列番号4のアミノ酸配列における11番目のXaaで示したアミノ酸残基はセリン、トレオニン又はリシンである。配列番号4のアミノ酸配列における19番目のXaaで示したアミノ酸残基はトレオニン、セリン又はアラニンである。配列番号4のアミノ酸配列における20番目のXaaで示したアミノ酸残基はリシン、アラニン又はプロリンである。配列番号4のアミノ酸配列における21番目のXaaで示したアミノ酸残基はアスパラギン酸、ヒスチジン、グルタミン酸又はバリンである。配列番号4のアミノ酸配列における22番目のXaaで示したアミノ酸残基はセリン、バリン、トレオニン又はアラニンである。配列番号4のアミノ酸配列における23番目のXaaで示したアミノ酸残基はセリン、アラニン、トレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸又はアスパラギンである。配列番号4のアミノ酸配列における24番目のXaaで示したアミノ酸残基はバリン又はロイシンである。配列番号4のアミノ酸配列における26番目のXaaで示したアミノ酸残基はアラニン、アスパラギン酸又はグルタミン酸である。配列番号4のアミノ酸配列における29番目のXaaで示したアミノ酸残基はリシン又はグルタミン酸である。配列番号4のアミノ酸配列における30番目のXaaで示したアミノ酸残基はグルタミン又はグルタミン酸である。配列番号4のアミノ酸配列における33番目のXaaで示したアミノ酸残基はリシン、アルギニン又はセリンである。配列番号4のアミノ酸配列における36番目のXaaで示したアミノ酸残基はロイシン又はバリンである。配列番号4のアミノ酸配列における37番目のXaaで示したアミノ酸残基はアスパラギン酸、アスパラギン又はリシンである。配列番号4のアミノ酸配列における38番目のXaaで示したアミノ酸残基はアスパラギン、セリン又はバリンである。配列番号4のアミノ酸配列における39番目のXaaで示したアミノ酸残基はバリン、イソロイシン、アスパラギン酸又はアラニンである。配列番号4のアミノ酸配列における40番目のXaaで示したアミノ酸残基はアスパラギン酸、グルタミン酸、トレオニン、セリン、グリシン又はバリンである。配列番号4のアミノ酸配列における41番目のXaaで示したアミノ酸残基はアラニン、グリシン、セリン、グルタミン酸、トレオニン、アラニン、アスパラギン酸又はバリンである。配列番号4のアミノ酸配列における42番目のXaaで示したアミノ酸残基はグルタミン酸、アスパラギン又はアスパラギン酸である。配列番号4のアミノ酸配列における43番目のXaaで示したアミノ酸残基はセリン又はアスパラギンである。配列番号4のアミノ酸配列における44番目のXaaで示したアミノ酸残基はリシン、セリン、グルタミン酸又はアスパラギンである。配列番号4のアミノ酸配列における45番目のXaaで示したアミノ酸残基はグルタミン酸、リシン又はアスパラギン酸である。配列番号4のアミノ酸配列における46番目のXaaで示したアミノ酸残基はグリシン、アラニン、トレオニン、アスパラギン酸、セリン又はグルタミン酸である。配列番号4のアミノ酸配列における47番目のXaaで示したアミノ酸残基はトレオニン又はセリンである。配列番号4のアミノ酸配列における48番目のXaaで示したアミノ酸残基はプロリン又はトレオニンである。
ここで、配列番号4におけるN末端側から数えて43番目のアミノ酸が置換した「他のアミノ酸」とは、野生型のSUI3タンパク質におけるアミノ酸とは異なるアミノ酸であることを意味する。野生型のSUI3タンパク質において、上記43番目のアミノ酸は、特に限定さないが、セリン又はアスパラギンである場合が多い。例えば、ある野生型のSUI3タンパク質において上記43番目のアミノ酸がセリンである場合、変異SUI3タンパク質は、当該43番目のセリンがセリン以外の他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を有する。この例において、セリン以外の他のアミノ酸としては、特に限定されないが、更にアスパラギン以外のアミノ酸であることが好ましい。また、変異SUI3タンパク質において、置換変異後のアミノ酸がトレオニンであることがより好ましい。
配列番号4におけるN末端側から数えて43番目のアミノ酸を他のアミノ酸に置換する方法としては、従来公知の遺伝子工学的手法を適宜使用することができる。要するに、変異導入対象のタンパク質をコードする野生型の遺伝子の塩基配列を特定し、部位特異的突然変異導入キット等を用いて上記置換後のタンパク質をコードするように変異を導入することができる。また、変異を導入した遺伝子は、定法に従って、例えば発現ベクターに組み込んだ状態で回収することができる。遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法又はGapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA Bio社製)やMutan-G(TAKARA Bio社製))などを用いて、あるいは、TAKARA Bio社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキットを用いて変異が導入される。
更に具体的に、サッカロマイセス・セレビシアエ由来のSUI3タンパク質においては当該43番目のアミノ酸がセリンである。当該43番目のセリンをトレオニンに置換変異したサッカロマイセス・セレビシアエ由来の変異SUI3タンパク質をコードする塩基配列及び変異SUI3タンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号5及び6に示す。なお、配列番号6に示した変異SUI3タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号4における43番目のアミノ酸はN末端から数えて112番目に相当する。すなわち、配列番号6のアミノ酸配列における112番目のトレオニンが、野生型においてはセリンとなる。
ところで、変異SUI3タンパク質は、配列番号6のアミノ酸配列からなるタンパク質に限定されず、例えば、上記112番目のトレオニンが維持されているならば、配列番号6のアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。ここで、同一性は、上述のように70%以上であればよく、好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、最も好ましくは95%以上である。同一性の値は、BLASTアルゴリズムを実装したBLASTNやBLASTXプログラムにより算出することができる(デフォルトの設定)。なお、同一性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記アミノ酸残基数の割合として算出される。
また、変異SUI3タンパク質は、配列番号6のアミノ酸配列からなるタンパク質に限定されず、例えば、上記112番目のトレオニンが維持されているならば、配列番号6のアミノ酸配列において1又は複数個、好ましくは1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。ここで、複数個とは、例えば、2~30個とすることができ、2~20個とすることが好ましく、2~10個とすることがより好ましく、2~5個とすることが最も好ましい。
さらに、変異SUI3タンパク質は、配列番号5の塩基配列によりコードされるタンパク質に限定されず、例えば、上記112番目のトレオニンを維持したタンパク質をコードするならば、配列番号5の塩基配列からなるDNAの相補鎖の全部又は一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質であってもよい。ここで「ストリンジェントな条件」とはいわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual(Third Edition)を参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェンシーを設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム濃度が25~500mM、好ましくは25~300mMであり、温度が42~68℃、好ましくは42~65℃である。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
なお、上述のように、配列番号6のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列からなる変異SUI3タンパク質や、配列番号5の塩基配列とは異なる塩基配列によりコードされる変異SUI3タンパク質では、上述した置換変異後のトレオニン残基の位置は112番目とは異なる位置になる場合がある。
ところで、変異SUI3タンパク質は、サッカロマイセス・セレビシアエ由来のものに限定されず、配列番号4のアミノ酸配列からなる保存領域を有するSUI3タンパク質であって、配列番号4におけるN末端側から数えて43番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質であれば、その由来等に限定されない。例えば、サッカロマイセス・セレビシアエ由来のSUI3タンパク質のアミノ酸配列や、当該SUI3タンパク質をコードする塩基配列に基づいて、アミノ酸配列や塩基配列を格納したデータベースより種々の生物由来の野生型SUI3タンパク質を同定することができる。このように同定した野生型SUI3タンパク質のうち、配列番号4のアミノ酸配列からなる保存領域を有するものについて、上記43番目のアミノ酸を置換変異することで変異型SUI3タンパク質及び当該変異型SUI3タンパク質をコードする変異遺伝子2を取得することができる。
一例として、サッカロマイセス・セレビシアエ由来のSUI3タンパク質のアミノ酸配列に基づいてデータベースを検索することによって、表2に示すように、配列番号4のアミノ酸配列からなる保存領域を有する野生型SUI3タンパク質を同定することができる(表2の第2行目から第13行目)を同定することができる。なお、表2には、当該保存領域を含むアミノ酸配列を掲載した。
すなわち、変異SUI3タンパク質は、例えば、配列番号24~35のうちいずれか1つのアミノ酸配列において、配列番号4におけるN末端側から数えて43番目のアミノ酸に相当するアミノ酸が他のアミノ酸に、好ましくはトレオニンに置換したアミノ酸配列を有するものであってもよい。
<変異遺伝子3>
変異遺伝子3は、セリン/トレオニン・プロテインキナーゼにおける特定のアミノ酸が他のアミノ酸に置換した変異FPK1タンパク質をコードする。FPK1タンパク質は、アミノリン脂質トランスロカーゼファミリーメンバーをリン酸化し、リン脂質の転位置及び膜の非対称性を調節する機能を有する。また、FPK1タンパク質は、上流の阻害性キナーゼYpk1pをリン酸化し及び阻害する機能を有する。なお、FPK1タンパク質をコードする遺伝子のsystematic nameはYNR047Wである。
変異FPK1タンパク質は、セリン/トレオニン・プロテインキナーゼの触媒ドメイン内におけるATP結合部位及び活性部位近傍における特定のアミノ酸残基の置換変異を有している。当該置換変異が存在する領域は、異なる生物由来の多くのFPK1タンパク質で保存されている。当該置換変異を含む触媒ドメイン内の保存領域を配列番号7に示す(コンセンサス配列)。変異FPK1タンパク質は、配列番号7におけるN末端側から数えて31番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したものと定義することができる。
ここで、配列番号7のアミノ酸配列からなる保存領域は、後述する表3の第2行目から第13行目に示したアミノ酸配列におけるN末端(左端)から80アミノ酸残基として定義している。ここで、配列番号7のアミノ酸配列における41番目のXaaで示したアミノ酸残基はプロリン又はイソロイシンである。配列番号7のアミノ酸配列における46番目のXaaで示したアミノ酸残基はグリシン又はアラニンである。配列番号7のアミノ酸配列における47番目のXaaで示したアミノ酸残基はアスパラギン酸、グルタミン酸又はセリンである。配列番号7のアミノ酸配列における48番目のXaaで示したアミノ酸残基はアスパラギン、グルタミン酸又はセリンである。配列番号7のアミノ酸配列における49番目のXaaで示したアミノ酸残基はトレオニン又はセリンである。配列番号7のアミノ酸配列における51番目のXaaで示したアミノ酸残基はグルタミン酸、グルタミン、アルギニン又はロイシンである。配列番号7のアミノ酸配列における54番目のXaaで示したアミノ酸残基はトレオニン、セリン又はシステインである。配列番号7のアミノ酸配列における56番目のXaaで示したアミノ酸残基はイソロイシン又はバリンである。配列番号7のアミノ酸配列における59番目のXaaで示したアミノ酸残基はアスパラギン、リシン又はセリンである。配列番号7のアミノ酸配列における60番目のXaaで示したアミノ酸残基はグルタミン酸又はアスパラギン酸である。配列番号7のアミノ酸配列における62番目のXaaで示したアミノ酸残基はセリン、トレオニン、イソロイシン又はアスパラギンである。配列番号7のアミノ酸配列における68番目のXaaで示したアミノ酸残基はグルタミン酸又はアスパラギン酸である。配列番号7のアミノ酸配列における69番目のXaaで示したアミノ酸残基はイソロイシン又はバリンである。配列番号7のアミノ酸配列における70番目のXaaで示したアミノ酸残基はセリン又はグリシンである。配列番号7のアミノ酸配列における72番目のXaaで示したアミノ酸残基はトレオニン、アスパラギン、アラニン又はセリンである。配列番号7のアミノ酸配列における78番目のXaaで示したアミノ酸残基はリシン又はアルギニンである。配列番号7のアミノ酸配列における79番目のXaaで示したアミノ酸残基はリシン又はアルギニンである。
ここで、配列番号7におけるN末端側から数えて31番目のアミノ酸が置換した「他のアミノ酸」とは、野生型のFPK1タンパク質におけるアミノ酸とは異なるアミノ酸であることを意味する。野生型のFPK1タンパク質において、上記31番目のアミノ酸は、特に限定さないが、グリシンである場合が多い。例えば、ある野生型のFPK1タンパク質において上記31番目のアミノ酸がグリシンである場合、変異FPK1タンパク質は、当該31番目のグリシンがグリシン以外の他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を有する。この例において、グリシン以外の他のアミノ酸としては、特に限定されないが、グルタミン酸であることがより好ましい。
配列番号7におけるN末端側から数えて31番目のアミノ酸を他のアミノ酸に置換する方法としては、従来公知の遺伝子工学的手法を適宜使用することができる。要するに、変異導入対象のタンパク質をコードする野生型の遺伝子の塩基配列を特定し、部位特異的突然変異導入キット等を用いて上記置換後のタンパク質をコードするように変異を導入することができる。また、変異を導入した遺伝子は、定法に従って、例えば発現ベクターに組み込んだ状態で回収することができる。遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法又はGapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA Bio社製)やMutan-G(TAKARA Bio社製))などを用いて、あるいは、TAKARA Bio社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキットを用いて変異が導入される。
更に具体的に、サッカロマイセス・セレビシアエ由来のFPK1タンパク質においては当該31番目のアミノ酸がグリシンである。当該31番目のグリシンをグルタミン酸に置換変異したサッカロマイセス・セレビシアエ由来の変異FPK1タンパク質をコードする塩基配列及び変異FPK1タンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号8及び9に示す。なお、配列番号9に示した変異FPK1タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号7における31番目のアミノ酸はN末端から数えて704番目に相当する。すなわち、配列番号9のアミノ酸配列における704番目のグルタミン酸が、野生型においてはグリシンとなる。
ところで、変異FPK1タンパク質は、配列番号9のアミノ酸配列からなるタンパク質に限定されず、例えば、上記704番目のグルタミン酸が維持されているならば、配列番号9のアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。ここで、同一性は、上述のように70%以上であればよく、好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、最も好ましくは95%以上である。同一性の値は、BLASTアルゴリズムを実装したBLASTNやBLASTXプログラムにより算出することができる(デフォルトの設定)。なお、同一性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記アミノ酸残基数の割合として算出される。
また、変異FPK1タンパク質は、配列番号9のアミノ酸配列からなるタンパク質に限定されず、例えば、上記704番目のグルタミン酸が維持されているならば、配列番号9のアミノ酸配列において1又は複数個、好ましくは1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。ここで、複数個とは、例えば、2~90個とすることができ、2~80個とすることが好ましく、2~70個とすることが好ましく、2~60個とすることが好ましく、2~50個とすることが好ましく、2~40個とすることが好ましく、2~30個とすることが好ましく、2~20個とすることが好ましく、2~10個とすることがより好ましく、2~5個とすることが最も好ましい。
さらに、変異FPK1タンパク質は、配列番号8の塩基配列によりコードされるタンパク質に限定されず、例えば、上記704番目のグルタミン酸を維持したタンパク質をコードするならば、配列番号8の塩基配列からなるDNAの相補鎖の全部又は一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質であってもよい。ここで「ストリンジェントな条件」とはいわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual(Third Edition)を参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェンシーを設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム濃度が25~500mM、好ましくは25~300mMであり、温度が42~68℃、好ましくは42~65℃である。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
なお、上述のように、配列番号9のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列からなる変異SUI3タンパク質や、配列番号8の塩基配列とは異なる塩基配列によりコードされる変異SUI3タンパク質では、上述した置換変異後のトレオニン残基の位置は704番目とは異なる位置になる場合がある。
ところで、変異FPK1タンパク質は、サッカロマイセス・セレビシアエ由来のものに限定されず、配列番号7のアミノ酸配列からなる保存領域を有するFPK1タンパク質であって、配列番号7におけるN末端側から数えて31番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質であれば、その由来等に限定されない。例えば、サッカロマイセス・セレビシアエ由来のFPK1タンパク質のアミノ酸配列や、当該FPK1タンパク質をコードする塩基配列に基づいて、アミノ酸配列や塩基配列を格納したデータベースより種々の生物由来の野生型FPK1タンパク質を同定することができる。このように同定した野生型FPK1タンパク質のうち、配列番号7のアミノ酸配列からなる保存領域を有するものについて、上記31番目のアミノ酸を置換変異することで変異型FPK1タンパク質及び当該変異型FPK1タンパク質をコードする変異遺伝子3を取得することができる。
一例として、サッカロマイセス・セレビシアエ由来のFPK1タンパク質のアミノ酸配列に基づいてデータベースを検索することによって、表3に示すように、配列番号7のアミノ酸配列からなる保存領域を有する野生型FPK1タンパク質を同定することができる(表3の第2行目から第13行目)を同定することができる。なお、表3には、当該保存領域を含むアミノ酸配列を掲載した。
すなわち、変異FPK1タンパク質は、例えば、配列番号37~48のうちいずれか1つのアミノ酸配列において、配列番号7におけるN末端側から数えて31番目のアミノ酸に相当するアミノ酸が他のアミノ酸に、好ましくはトレオニンに置換したアミノ酸配列を有するものであってもよい。
<変異酵母>
本発明に係る変異酵母は、上述した変異遺伝子を有しており、キシロース代謝能を有している。上述した変異遺伝子を有する変異酵母は、例えば、ゲノム中に内在する野生型遺伝子を上記変異が導入されるように改変する方法によって作製できる。すなわち、本発明に係る変異遺伝子を有する変異酵母は、上述したような部位特異的突然変異誘発法によって作出することができる。
また、予め準備した変異遺伝子とゲノム中の野生型遺伝子の間の相同組換えによって変異酵母を作出することもできる。或いは、本発明に係る変異遺伝子を有する変異酵母は、ゲノム内の野生型遺伝子を欠損させるとともに当該変異型遺伝子を発現可能なように導入することで作出しても良い。さらに、本発明に係る変異遺伝子を有する変異酵母は、ゲノム内の野生型遺伝子を欠損させず、当該変異型遺伝子が過剰発現するように導入することで作出しても良い。さらにまた、変異原処理によって上述した変異遺伝子を有する変異酵母を作出することもできる。
変異原処理の方法としては、EMS(エチルメタンスルホン酸)、5-ブロモウラシル、2-アミノプリン、ヒドロキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-Nニトロソグアニジン、その他の発ガン性化合物に代表されるような化学的変異剤を使用する方法でも良いし、X線、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、イオンビームに代表されるような放射線処理や紫外線処理による方法でも良い。
ここで、キシロース代謝能を有するとは、本来的にはキシロース代謝能(資化能と同義)を有しない酵母に対してキシロース代謝関連酵素遺伝子を導入することでキシロース資化能を獲得すること、或いは、本来的にキシロース代謝関連酵素遺伝子を備えておりキシロース代謝能を有していることの両方を意味する。
例えば、キシロース代謝能を有する酵母としては、本来的にはキシロース代謝能を有しない酵母に対して、キシロースイソメラーゼ遺伝子が導入されることによりキシロース資化能が付与された酵母、その他のキシロース代謝関連遺伝子が導入されることによりキシロース代謝能が付与された酵母を挙げることができる。
ところで、本発明に係る変異酵母は、キシロースに対する代謝能(キシロース代謝能)、すなわち培地中に含まれるキシロースを資化してエタノールを生産することができる。なお、培地中に含まれるキシロースとは、キシロースを構成糖とするキシランやヘミセルロース等を糖化するプロセスによって得られたものでも良いし、培地に含まれるキシランやヘミセルロース等が糖化酵素により糖化されることで培地に供給されるものであってもよい。後者の場合は、所謂、同時糖化発酵の系を意味する。
キシロースイソメラーゼ遺伝子(XI遺伝子)としては、特に限定されず、如何なる生物種由来の遺伝子を使用しても良い。例えば、特開2011-147445号公報に開示されたシロアリの腸内原生生物由来の複数のキシロースイソメラーゼ遺伝子を、特に制限されることなく使用することができる。また、キシロースイソメラーゼ遺伝子としては、嫌気性のカビであるピロマイセス(Piromyces)sp. E2種由来(特表2005-514951号公報)、嫌気性のカビであるシラマイセス・アベレンシス(Cyllamyces aberensis)由来、バクテリアであるバクテロイデス・セタイオタミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)由来、バクテリアであるクロストリディウム・ファイトファーメンタス由来、ストレプトマイセス・ムリナスクラスター由来の遺伝子を利用することもできる。
具体的に、キシロースイソメラーゼ遺伝子としては、ヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)腸内原生生物由来のキシロースイソメラーゼ遺伝子を使用することが好ましい。このヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)腸内原生生物由来のキシロースイソメラーゼ遺伝子のコーディング領域の塩基配列及び当該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号49及び50に示す。
ただし、キシロースイソメラーゼ遺伝子としては、配列番号49及び50にて特定されるものに限定されず、塩基配列やアミノ酸配列は異なるがパラログの関係又は狭義のホモログの関係にある遺伝子であっても良い。
また、キシロースイソメラーゼ遺伝子は、これら配列番号49及び50にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号50のアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列類似性又は同一性を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものでも良い。配列類似性及び同一性の値は、BLASTアルゴリズムを実装したBLASTNやBLASTXプログラムにより算出することができる(デフォルトの設定)。なお、配列類似性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基と、物理化学的に機能が類似するアミノ酸残基との合計を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記合計数の割合として算出される。なお、同一性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記アミノ酸残基数の割合として算出される。
さらに、キシロースイソメラーゼ遺伝子は、これら配列番号49及び50にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号50のアミノ酸配列に対して、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものでも良い。ここで、数個とは、例えば、2~30個、好ましくは2~20個、より好ましくは2~10個、最も好ましくは2~5個である。
さらにまた、キシロースイソメラーゼ遺伝子は、これら配列番号49及び50にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号49の塩基配列からなるDNAの相補鎖の全部又は一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつキシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものでもよい。ここでいう「ストリンジェントな条件」とはいわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual(Third Edition)を参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェンシーを設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム濃度が25~500mM、好ましくは25~300mMであり、温度が42~68℃、好ましくは42~65℃である。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
上述したように、配列番号49と異なる塩基配列からなる遺伝子、又は配列番号50とは異なるアミノ酸配列をコードする遺伝子が、キシロースイソメラーゼ遺伝子として機能するか否かは、当該遺伝子を適当なプロモーターとターミーネータ等の間に組み込んだ発現ベクターを作製し、この発現ベクターを用いて例えば大腸菌等の宿主を形質転換し、発現するタンパク質のキシロースイソメラーゼ活性を測定すればよい。キシロースイソメラーゼ活性とは、キシロースをキシルロースに異性化する活性を意味する。よって、キシロースイソメラーゼ活性は、基質としてキシロースを含む溶液を準備し、検査対象のタンパク質を適当な温度で作用させ、キシロースの減少量及び/又はキシルロースの生成量を測定することで評価できる。
特に、キシロースイソメラーゼ遺伝子としては、配列番号50に示すアミノ酸配列における特定のアミノ酸残基に対して特定の変異を導入したアミノ酸配列からなり、キシロースイソメラーゼ活性が向上した変異型キシロースイソメラーゼをコードする遺伝子を使用することが好ましい。具体的に、変異型キシロースイソメラーゼをコードする遺伝子としては、配列番号50に示すアミノ酸配列における337番目のアスパラギンがシステインに置換されたアミノ酸配列をコードする遺伝子を挙げることができる。配列番号50に示すアミノ酸配列における337番目のアスパラギンがシステインに置換されたアミノ酸配列からなるキシロースイソメラーゼは、野生型のキシロースイソメラーゼと比較して優れたキシロースイソメラーゼ活性を有する。なお、変異型キシロースイソメラーゼは、上記337番目のアスパラギンをシステインに置換したものに限定されず、上記337番目のアスパラギンをシステイン以外のアミノ酸に置換したものでも良いし、上記337番目のアスパラギンに加えて更に異なるアミノ酸残基を他のアミノ酸に置換したものでも良いし、上記337番目のアスパラギン以外の他のアミノ酸残基を置換したものでも良い。
一方、キシロースイソメラーゼ遺伝子以外のキシロース代謝関連遺伝子とは、キシロースをキシリトールに変換するキシロースリダクターゼをコードするキシロースリダクターゼ遺伝子、キシリトールをキシルロースに変換するキシリトールデヒドロゲナーゼをコードするキシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子及びキシルロースをリン酸化してキシルロース5-リン酸を生成するキシルロキナーゼをコードするキシルロキナーゼ遺伝子を含む意味である。なお、キシルロキナーゼにより生成されたキシルロース5-リン酸は、ペントースリン酸経路に入り代謝されることとなる。
キシロース代謝関連遺伝子としては、特に限定されないが、Pichia stipitis由来のキシロースリダクターゼ遺伝子及びキシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子、Saccharomyces cerevisiae由来のキシルロキナーゼ遺伝子を挙げることができる(Eliasson A. et al., Appl. Environ. Microbiol, 66:3381-3386及びToivari MN et al., Metab. Eng. 3:236-249参照)。その他にも、キシロースリダクターゼ遺伝子としては、Candida tropicalisやCandida prapsilosis由来のキシロースリダクターゼ遺伝子を利用することができる。キシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子としては、Candida tropicalisやCandida prapsilosis由来のキシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子を利用することができる。キシルロキナーゼ遺伝子としては、Pichia stipitis由来のキシルロキナーゼ遺伝子を利用することもできる。
また、キシロース代謝能を本来的に有する酵母としては、特に限定されないが、Pichia stipitis、Candida tropicalis及びCandida prapsilosis等を挙げることができる。
一方、本発明に係る変異酵母は、更に他の遺伝子が導入された酵母であってもよい。他の遺伝子としては特に限定されないが、例えば、グルコース等の糖代謝に関与する遺伝子を導入したものであっても良い。一例として変異酵母は、β-グルコシダーゼ遺伝子を導入することでβ-グルコシダーゼ活性を有する酵母とすることができる。
ここでβ-グルコシダーゼ活性とは、糖のβ-グリコシド結合を加水分解する反応を触媒する活性を意味する。すなわち、β-グルコシダーゼは、セロビオース等のセロオリゴ糖をグルコースに分解することができる。β-グルコシダーゼ遺伝子は、細胞表層提示型遺伝子として導入することもできる。ここで、細胞表層提示型遺伝子とは、当該遺伝子がコードするタンパク質が細胞の表層にディスプレイされるように発現するように改変された遺伝子である。例えば、細胞表層提示型βグルコシダーゼ遺伝子とは、βグルコシダーゼ遺伝子と細胞表層局在タンパク質遺伝子とを融合した遺伝子である。細胞表層局在タンパク質とは、酵母の細胞表層に固定され、細胞表層に存在するタンパク質をいう。例えば、凝集性タンパク質であるα-またはa-アグルチニン、FLOタンパク質などが挙げられる。一般に細胞表層局在タンパク質は、N末端側に分泌シグナル配列及びC末端側にGPIアンカー付着認識シグナルを有している。分泌シグナルを有する点では分泌性タンパク質と共通しているが、細胞表層局在タンパク質はGPIアンカーを介して細胞膜に固定されて輸送される点が分泌性タンパク質と異なる。細胞表層局在タンパク質は、細胞膜通過の際、GPIアンカー付着認識シグナル配列が選択的に切断され、新たに突出したC末端部分でGPIアンカーと結合して細胞膜に固定される。その後ホスファチジルイノシトール依存性ホスホリパーゼC(PI-PLC)によりGPIアンカーの根元部分が切断される。ついで、細胞膜から切り離されたタンパク質は細胞壁に組み込まれて細胞表層に固定され、細胞表層に局在する(例えば、特開2006-174767号公報参照)。
βグルコシダーゼ遺伝子としては、特に限定されないが、例えば、Aspergillus aculeatus由来のβグルコシダーゼ遺伝子(Murai et al., Appl. Environ. Microbiol. 64:4857-4861)を挙げることができる。その他にも、βグルコシダーゼ遺伝子としては、Aspergillus oryzae由来のβグルコシダーゼ遺伝子、Clostridium cellulovorans由来のβグルコシダーゼ遺伝子及びSaccharomycopsis fibuligera由来のβグルコシダーゼ遺伝子等を利用することができる。
また、本発明に係る変異酵母は、βグルコシダーゼ遺伝子に加えて、或いはβグルコシダーゼ遺伝子以外に、セルラーゼを構成する他の酵素をコードする遺伝子を導入したものでもよい。βグルコシダーゼ以外にセルラーゼを構成する酵素としては、結晶セルロースの末端からセロビオースを遊離するエキソ型のセロビオハイドロラーゼ(CBH1及びCBH2)、結晶セルロースを分解できないが非結晶セルロース(アモルファスセルロース)鎖をランダムに切断するエンド型のエンドグルカナーゼ(EG)を挙げることができる。
さらに、変異酵母に導入する他の遺伝子としては、培地中のキシロースの利用を促進できるような遺伝子を挙げることができる。具体的には、キシルロースを基質としてキシルロース-5-リン酸を生成する活性を有するキシルロキナーゼをコードする遺伝子を挙げることができる。キシルロキナーゼ遺伝子を導入することによって、ペントースリン酸経路の代謝流束を向上させることができる。
さらにまた、本発明係る変異酵母は、ペントースリン酸経路における非酸化過程の経路を構成する酵素群から選ばれる酵素をコードする遺伝子が導入することができる。ペントースリン酸経路における非酸化過程の経路を構成する酵素としては、リボース-5-リン酸イソメラーゼ、リブロース-5-リン酸-3-エピメラーゼ、トランスケトラーゼ及びトランスアルドラーゼを挙げることができる。これら酵素をコードする遺伝子を1種以上導入することが好ましい。また、これら遺伝子のうち2種以上組み合わせて導入することがより好ましく、3種以上組み合わせて導入することが更に好ましく、全種類の遺伝子を導入することが最も好ましい。
より具体的にキシルロキナーゼ(XK)遺伝子としては、特に由来生物を限定せずに用いることができる。なおXK遺伝子は、キシルロースを資化する細菌や酵母など多くの微生物が保持している。XK遺伝子に関する情報は、NCBIのHP等の検索により適宜入手できる。好ましくは、酵母、乳酸菌、大腸菌、植物などに由来するXK遺伝子が挙げられる。XK遺伝子としては、例えば、S. cerevisiae S288C 株由来のXK遺伝子であるXKS1(GenBank:Z72979)(CDSのコード領域の塩基配列及びアミノ酸配列)が挙げられる。
また、より具体的にトランスアルドラーゼ(TAL)遺伝子、トランスケトラーゼ(TKL)遺伝子、リブロース-5-リン酸エピメラーゼ(RPE)遺伝子、リボース-5-リン酸ケトイソメラーゼ(RKI)遺伝子は、特に由来生物を限定せずに用いることができる。これら遺伝子はペントースリン酸経路を備える多くの生物であれば保持している。例えば、S.cerevisiaeなど汎用酵母もこれらの遺伝子を保持している。これらの遺伝子に関する情報は、NCBI等のHPにアクセスすることにより適宜入手できる。好ましくは、真核細胞又は酵母等、宿主真核細胞と同一の属、さらに好ましくは宿主真核細胞と同一種に由来の各遺伝子が挙げられる。TAL遺伝子としてはTAL1遺伝子、TKL遺伝子としてはTKL1遺伝子及びTKL2遺伝子、RPE遺伝子としてはRPE1遺伝子、RKI遺伝子としてはRKI1遺伝子を好ましく用いることができる。例えば、これら遺伝子としては、S. cerevisiae S288 株由来のTAL1遺伝子であるTAL1遺伝子(GenBank:U19102)、S. cerevisiae S288 株由来のTKL1遺伝子(GenBank:X73224)、S. cerevisiae S288 株由来のRPE1遺伝子(GenBank:X83571)、S. cerevisiae S288 株由来のRKI1遺伝子(GenBank:Z75003)が挙げられる。
また、上記変異遺伝子やキシロース代謝関連遺伝子を酵母に導入する際、全ての遺伝子を同時に導入しても良いし、異なる発現ベクターを利用して逐次導入しても良い。
宿主として用いることができる酵母としては、特に限定するものではないがCandida Shehatae、Pichia stipitis、Pachysolen tannophilus、Saccharomyces cerevisiae及びSchizosaccharomyces pombeなどの酵母が挙げられ、特にSaccharomyces cerevisiaeが好ましい。また、酵母としては、実験面での利便性のために使われる実験株でも良いし、実用面での有用性のために使われている工業株(実用株)でも良い。工業株としては、例えば、ワイン、清酒や焼酎作りに用いられる酵母株を挙げることができる。
また、宿主となる酵母としては、ホモタリック性を有する酵母を使用することが好ましい。特開2009-34036号公報に開示される手法によれば、ホモタリック性を有する酵母を利用することで、簡便にゲノムへの多コピー遺伝子導入が可能となる。ホモタリック性を有する酵母とは、ホモタリックな酵母と同義である。ホモタリック性を有する酵母としては、特に限定されず、如何なる酵母をも使用することができる。ホモタリック性を有する酵母としては、Saccharomyces cerevisiae OC-2株(NBRC2260)を挙げることができるが、これに限定されるものではない。その他にもホモタリック性を有する酵母としては、アルコール酵母(台研396号、NBRC0216)(出典:「アルコール酵母の諸特性」酒研会報、No37、p18-22(1998.8))、ブラジルと沖縄で分離したエタノール生産酵母(出典:「ブラジルと沖縄で分離したSaccharomyces cerevisiae野生株の遺伝学的性質」日本農芸化学会誌、Vol.65、No.4、p759-762(1991.4))及び180(出典「アルコール発酵力の強い酵母のスクリーニング」日本醸造協会誌、Vol.82、No.6、p439-443(1987.6))を挙げることができる。また、ヘテロタリックな表現型を示す酵母においても、HO遺伝子を発現可能に導入することによってホモタリック性を有する酵母として使用することができる。すなわち、本発明において、ホモタリック性を有する酵母とは、HO遺伝子を発現可能に導入された酵母も含む意味である。
また、導入する遺伝子のプロモーターとしては、特に限定されないが、例えばグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(TDH3)のプロモーター、3-ホスホグリセレートキナーゼ遺伝子(PGK1)のプロモーター、高浸透圧応答7遺伝子(HOR7)のプロモーターなどが利用可能である。なかでもピルビン酸脱炭酸酵素遺伝子(PDC1)のプロモーターが下流の目的遺伝子を高発現させる能力が高いために好ましい。
すなわち、上述した変異遺伝子は、発現を制御するプロモーターやその他の発現制御領域とともに酵母のゲノムに導入してもよい。または、上述した変異遺伝子は、宿主となる酵母のゲノムに本来的に存在する遺伝子のプロモーターやその他の発現制御領域により発現制御されるように導入してもよい。
また、上述した変異遺伝子等を導入する方法としては、酵母の形質転換方法として知られている従来公知のいかなる手法をも適用することができる。具体的には、例えば、例えば、エレクトロポレーション法“Meth. Enzym., 194, p182 (1990)”、スフェロプラスト法“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 p1929(1978)”、酢酸リチウム法“J.Bacteriology, 153, p163(1983)”、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 p1929 (1978)、Methods in yeast genetics, 2000 Edition : A Cold Spring Harbor Laboratory Course Manualなどに記載の方法で実施可能であるが、これに限定されない。
<エタノール製造>
以上で説明した変異酵母を使用してエタノールを製造する際には、少なくともキシロースを含有する培地にてエタノール発酵培養を行う。すなわち、エタノール発酵を行う培地とは、炭素源として少なくとも代謝可能なキシロースを含有することとなる。なお、培地には、予めグルコース等の他の炭素源が含まれていても良い。
また、エタノール発酵に利用する培地に含まれるキシロースは、バイオマス由来とすることができる。言い換えると、エタノール発酵に利用する培地は、セルロース系バイオマスと、セルロース系バイオマスに含まれるヘミセルロースを糖化してキシロースやアラビノース等の五炭糖を生成するヘミセルラーゼとを含む組成であってもよい。ここで、セルロース系バイオマスとしては、従来公知の前処理を施したものであっても良い。前処理としては、特に限定されないが、例えば、リグニンを微生物によって分解する処理や、セルロース系バイオマスの粉砕処理等を挙げることができる。また、前処理としては、例えば、粉砕したセルロース系バイオマスを希硫酸溶液やアルカリ溶液、イオン液体に浸漬する処理、水熱処理、微粉砕処理といった処理を適用しても良い。これら前処理により、バイオマスの糖化率を向上させることができる。
なお、以上で説明した変異酵母を使用してエタノールを製造する際には、上記培地が更にセルロース及びセルラーゼを含む組成であってもよい。この場合、上記培地には、セルラーゼがセルロースに作用することで生成するグルコースを含有することとなる。エタノール発酵に利用する培地がセルロースを含有する場合、当該セルロースは、バイオマス由来とすることができる。言い換えると、エタノール発酵に利用する培地は、セルロース系バイオマスに含まれるセルラーゼを糖化できるセルラーゼを含む組成であってもよい。
また、エタノール発酵に利用する培地は、セルロース系バイオマスを糖化処理した後の糖化液を添加してもよい。この場合、糖化液には、残存するセルロースやセルラーゼとセルロース系バイオマスに含まれるヘミセルロースに由来するキシロース等が含まれる。
以上のように、本発明に係るエタノールの製造方法は、少なくともキシロースを糖源とするエタノール発酵の工程を含むこととなる。本発明に係る変異酵母を利用したエタノールの製造方法では、エタノール発酵の後、培地からエタノールを回収する。エタノールの回収方法は、特に限定されず、従来公知のいかなる方法も適用することができる。例えば、上述したエタノール発酵が終了した後、固液分離操作によってエタノールを含む液層と、組換え酵母や固形成分を含有する固層とを分離する。その後、液層に含まれるエタノールを蒸留法によって分離・精製することで、純度の高いエタノールを回収することができる。なお、エタノールの精製度は、エタノールの使用目的にあわせて適宜調整することができる。
また、本発明に係るエタノールの製造方法は、培地に含まれるセルロースをセルラーゼにより糖化する工程と、キシロースと糖化により生成されたグルコースとを糖源とするエタノール発酵の工程とが同時に進行する、いわゆる同時糖化発酵処理としても良い。ここで、同時糖化発酵処理とは、セルロース系バイオマスを糖化する工程とエタノール発酵工程とを区別せずに同時に実施する処理を意味する。
なお、糖化方法としては、特に限定されないが、セルラーゼやヘミセルラーゼ等のセルラーゼ製剤を利用する酵素法等を挙げることができる。セルラーゼ製剤は、セルロース鎖及びヘミセルロース鎖の分解に関与する複数の酵素を含んでおり、エンドグルカナーゼ活性、エンドキシラナーゼ活性、セロビオヒドロラーゼ活性、グルコシダーゼ活性及びキシロシダーゼ活性等の複数の活性を示す。セルラーゼ製剤としては、特に限定されないが、例えば、Trichoderma reeseiや、Acremonium cellulolyticusなどが生産するセルラーゼを挙げることができる。セルラーゼ製剤としては、市販されているものを使用しても良い。
同時糖化発酵処理では、セルロース系バイオマス(前処理後であってもよい)を含む培地にセルラーゼ製剤と上述した組換え微生物とを加え、所定の温度範囲で当該組換え酵母を培養する。培養温度としては特に限定されないが、エタノール発酵の効率を考慮して25~45℃とすることができ、30~40℃とすることが好ましい。また、培養液のpHを4~6とすることが好ましい。また、培養に際して、攪拌や振とうしてもよい。さらに、先に酵素の至適温度(40~70℃)で糖化を行い、その後、温度を所定の温度(30~40℃)に下げて酵母を添加するといった変則的な同時糖化発酵でもよい。
本発明に係るエタノールの製造方法は、上述した変異遺伝子を有する変異酵母を使用しているため、変異遺伝子を有しないキシロース代謝酵母を使用した場合と比較して高濃度のエタノールを製造することができる。すなわち、上述した変異遺伝子を有する変異酵母はキシロースからのエタノール発酵能が大幅に向上しているため、当該変異酵母を使用することでエタノール生産性を向上することができる。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
[キシロース資化酵母の作製方法]
特開2014-193152号公報に記載された方法に従って、キシロース代謝能を有する酵母Uz736株を作製した。詳細は以下の通りである。
先ず、ホモタリックなワイン酵母Saccharomyces cerevisiae OC2株のウラシル要求性株(OC2-U)をUV変異により取得した。OC2-U株のリボゾーマルRNA遺伝子座、HIS3遺伝子座、LEU2遺伝子座、TRP1遺伝子座、GRE3遺伝子座を各々破壊しながら、シロアリ腸内共生原生生物由来のキシロースイソメラーゼ(XI)遺伝子、酵母由来TAL1遺伝子、酵母由来TKL1遺伝子、酵母由来PRE1遺伝子、酵母由来RKI1遺伝子、酵母由来XKS1遺伝子をマーカー遺伝子(ハイグロマイシン耐性遺伝子、HIS3遺伝子、LEU2遺伝子、URA3遺伝子、TRP1遺伝子)を用いて導入することで、OC700株を作製した。OC700株のADH2遺伝子座にADH2遺伝子を破壊しながら、E. coli由来のアセトアルデヒド脱水素酵素(mhpF)遺伝子及び酵母由来のADH1遺伝子を導入し、Uz736株を作製した。
[キシロース資化酵母の育種方法]
次に、Uz736株を長期培養することでエタノール発酵能が向上した酵母を育種した。先ず、バイオマスを糖化した液体培地中でUz736株を30日~60日間長期培養した。培養した酵母をYPD寒天培地(10g/L乾燥酵母エキス、20g/Lバクトペプトン、20g/Lグルコース、20g/L寒天)に撒くことで、シングルコロニーを獲得した。これら、シングルコロニーのエタノール発酵能を評価することで、エタノール発酵能の向上した育種酵母を獲得した。
具体的には、シングルコロニーをYPD液体培地(イーストエキストラクト 10g/L、ペプトン 20g/L、グルコース 20g/L)に播種し、30℃で24時間、振盪培養 (80rpm、振幅35mm、30℃)、もしくは静置培養を行った。その後、成分が異なる各種エタノール生産用の培地に各シングルコロニーの植菌量を合わせて播種し、31度の恒温槽内で振盪培養 (80rpm、振幅35mm、30℃)、もしくは静置培養にて発酵試験を行った。なお、容器は嫌気的に保たれるようにした。
発酵液中のエタノールについて下記条件でバイオセンサー (BF-5;王子製作機器)、もしくは、HPLC (LC-10A;島津製作所) 等で測定した。
[バイオセンサー]
・温度:37℃
・流速:0.8 mL/分
[HPLC]
・カラム:AminexHPX-87H
・移動相:0.01N H2SO4
・流量:0.6ml/min
・温度:30℃
・検出器:示差屈折率検出器(RID-10A)
次に、発酵能の向上した酵母を胞子形成培地にて25度、5日間培養した後に回収した。そして、50mMリン酸バッファー(pH7.5)に125Uのザイモリアーゼとなるに調整した1mL反応液で回収した酵母を2時間処理することで細胞壁の溶解を行った。その後、Tween80を1%になるように添加し、激しく攪拌する事で各胞子を分離し、その分離した胞子を寒天培地に播種する事でシングルコロニー化した。シングルコロニー化した酵母を繰り返して長期培養~シングルコロニー化を経ることで、エタノール発酵能の向上したUz1015、Uz1229、Uz1230、Uz1235の4種類の育種株を獲得した。
[変異解析方法]
本実施例で使用したOC700及びUz736、本実施例で作出したUz1015、Uz1229、Uz1230及びUz1235を各々タカラバイオ社の次世代シークエンス(Hiseq)解析を行った。得られたシークエンスデータは、SoftGenetics社の解析ソフトNextGENeで変異箇所を解析した。なお、リファレンスはSaccharomyces cerevisiae S288Cの遺伝子配列データを使用し、解析パラメーターはデフォルトで設定した。得られた変異データを比較し、エタノール発酵性能が特に優れているUz1230及びUz1235で共通で有していて、かつ、その他4株では有していない6遺伝子の変異を同定した。
すなわち、CDC123遺伝子における324番目のロイシンのシステインへの置換変異(L324C)、FPK1遺伝子におけるG704E、SUI3遺伝子におけるS112T、YPR1遺伝子におけるV195*、EPO1遺伝子におけるG599D及びYPL150w遺伝子におけるG328Eを同定した。
[変異導入酵母作製方法]
上述したUz736株と同様にして、実験室酵母Saccharomyces cerevisiae BY4742株のリボゾーマルRNA遺伝子座、GRE3遺伝子座を各々破壊しながら、シロアリ腸内共生原生生物由来のキシロースイソメラーゼ(XI)遺伝子、酵母由来XKS1遺伝子をマーカー遺伝子(ハイグロマイシン耐性遺伝子、URA3d遺伝子)を用いて導入することで、キシロース代謝能を有するUz2443株を作製した。Uz2443株のCDC123遺伝子、FPK1遺伝子、SUI3遺伝子、YPR1遺伝子、EPO1遺伝子、YPL150w遺伝子に変異を導入するために必要なプラスミドを6種類作製した。
すなわち、Uz1230株のゲノムを鋳型に各々の変異遺伝子のORFの上流500bp、下流500bpを含むようにPCRで個別に増幅した。
具体的には、表4に示したプライマーを用いて、Uz2443株のゲノムを鋳型に増幅することで、変異が導入されたCDC123遺伝子、FPK1遺伝子、SUI3遺伝子、YPR1遺伝子、EPO1遺伝子、YPL150w遺伝子を増幅した。各増幅した断片をハイグロマイシン耐性遺伝子を有するベクターにクローニングし6種類のベクターを作製した。
Uz2443株内在性のCDC123遺伝子、FPK1遺伝子、SUI3遺伝子、YPR1遺伝子、EPO1遺伝子、YPL150w遺伝子を各々ノックアウトし、変異CDC123遺伝子、FPK1遺伝子、SUI3遺伝子、YPR1遺伝子、EPO1遺伝子、YPL150w遺伝子を各々導入するために、表5に示したプライマーを用いて、作製した各ベクターを鋳型にPCRした。6種類のベクターを線状化した。Uz2443株にそれら線状化ベクターを各々形質転換し、ハイグロマイシンを含む選択培地にて増殖してきた酵母をスクリーニングした、Uz2443株に各変異を導入された酵母を6種類獲得した。
[変異遺伝子の評価]
6種類の変異遺伝子を個別に導入したキシロース代謝能を有する6種類の変異酵母及び変異を導入していないキシロース代謝能を有する酵母を寒天培地より白金耳で1ループ取り、三角フラスコにて8mlのYPD(10g/L乾燥酵母エキス、20g/Lバクトペプトン、20g/Lグルコース)培地で32℃、150rpmで24時間振とう培養した。その後、それら酵母を初期PCV=0.12にそろえて8mlの培地(グルコース80g/L、キシロース100g/L、バニリン0.3g/L、シリンガアルデヒド0.2g/L、酢酸10g/L、フルフラール0.8g/L、乾燥酵母エキス10g/L)で35℃、80rpmで90時間振とう培養した。
培養終了後、エタノール濃度をHPLC(カラム:AminexHPX-87H、移動相:0.01N H2SO4、流量:0.6ml/min、温度:30℃、検出器:示差屈折率検出器RID-10A)にて分析した。結果を図1に示した。図1に示したように、6種類の変異遺伝子のうちCDC123遺伝子におけるL324C、FPK1遺伝子におけるG704E、SUI3遺伝子におけるS112Tは、エタノール発酵能を向上させる変異遺伝子であることが明らかとなった。これに対して、本実施例で同定した他の遺伝子変異は、エタノール発酵能を向上させるものではないか、エタノール発酵能を向上させたとしても僅かであった。このように、CDC123遺伝子におけるL324C、FPK1遺伝子におけるG704E、SUI3遺伝子におけるS112Tは、エタノール発酵能の向上にとって極めて優れた遺伝子変異であることが明らかとなった。