JP4122810B2 - ワンウェイクラッチのスプライン係合装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ワンウェイクラッチの固定側レースを固定部材に固定するスプライン係合装置に係り、特に自動変速機に適用して好適なワンウェイクラッチのスプライン係合装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、車輌に搭載される自動変速機にあっては、変速に際し、摩擦係合要素の解放によりエンジン回転数が上昇して、回転要素の回転方向が逆になった瞬間に該回転要素を停止して、変速のタイミングを自動的に合せるためにワンウェイクラッチが用いられている。該ワンウェイクラッチは、その固定側となるレース(一般にアウタレース)がミッションケース等の固定部材にスプライン係合装置により固定されている。
【0003】
該ミッションケースは、一般に、アルミダイカスト等の鋳造により成形されており、該ケース内周面に形成される上記スプライン係合装置用のスプライン凹溝は、鋳型の抜き勾配により両側面等がテーパ面からなり、かつ該テーパ面は、ワンウェイクラッチのアウタレース外周面に形成されるスプライン突起の挿入方向に対して奥側に拡がる関係となり、鋳造に起因して高い寸法精度を確保することが困難であることと相俟って、上記スプライン凹溝とスプライン突起との間に、周方向に隙間(ガタ)を生じる。
【0004】
上記ワンウェイクラッチは、空転時(フリー時)、回転側レースの一方向回転による引きずりトルクにより、上記回転側レースに該回転方向のトルクが作用し、上記スプライン突起がスプライン凹溝の一側面に当接し、また固定時(ロック時)、回転側レースの他方向回転のトルクを上記固定側レースで担持するため、上記スプライン突起が上記スプライン凹溝の他側面に当接する。これにより、ワンウェイクラッチは、空転時と係止時との切換えの度に、固定側レースに作用するトルクの方向が切換わり、上記スプライン凹溝とスプライン突起との間のガタにより、異音の発生を生ずる。
【0005】
従来、該異音対策として、例えば実開平6−30536号公報に示すものが案出されており、このものは、上記スプライン凹溝とスプライン突起との間に板バネを介在し、該板バネは、上記ワンウェイクラッチの空転時の引きずりトルクに抗してスプライン突起を付勢し、上記ガタによるスプライン凹溝とスプライン突起の衝突による異音の発生を防止している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
図4は、上記異音対策の一例を示す図で、ミッションケースに形成したスプライン凹溝1と、ワンウェイクラッチの固定側レース(アウタレース)に形成したスプライン突起2との間に、U字状の湾曲部3aを有する板バネ3を介在している。該装置は、板バネ3がAに示す位置にて取付けられ、該板バネ3は、該取付け位置A付近において、上記ワンウェイクラッチ空転時の引きずりトルクに見合ったスプリング荷重を有するように設計されている。
【0007】
しかし、ワンウェイクラッチ及び板バネ等の各製品間のバラツキ、及び経年変化等により、ワンウェイクラッチの空転時に作用するスプライン突起2からの荷重が増大し、板バネ3の変形量を徐々に増大する。これにより、該板バネ3は、上記変形量に応じて徐々にその応力を増大するが、図4にB位置に示すように、板バネ3の直線部3bが、スプライン突起2の軸方向全長Lに亘って平坦面からなる一側面2aと略々平行となり、上記直線部3bの略々全面lに亘って上記スプライン突起2の一側面2aに当接すると、該スプライン突起2から作用する荷重が、板バネ3の湾曲部3aに集中して作用し、板バネ3の変形量に対する応力が急激に増大する。
【0008】
このように、板バネ3の湾曲部3aに集中して大きな応力が繰返して作用すると、板バネ3がへたって、上述した異音対策としての機能を失ってしまう。
【0009】
そこで、本発明は、板バネの湾曲部に集中して応力が作用しないように構成し、もって上述課題を解決したワンウェイクラッチのスプライン係合装置を提供すること目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る本発明は(例えば図1及び図2参照)、ワンウェイクラッチ(12)の固定側レース(6)に形成した突起(2)を固定部材(11)の凹溝(1)に係合して、前記固定側レースを前記固定部材に対して周方向移動を阻止するスプライン係合装置(S)において、
前記突起(2)の一側面(2a)と前記凹溝(1)の一側面(1a)との間に、バネ体を構成する湾曲部(13a)及び直線部(13b)を有する板バネ(13)を介在し、
前記突起(2)の一側面(2a)における前記湾曲部(13)が位置する側に、軸方向所定長さ(m)に亘って凹部(15)を形成し、
前記突起の他側面(2b)に、軸方向全長に亘って前記凹溝の他側面(1b)に当接する係合面を形成し、
前記凹部(15)は、軸方向において前記湾曲部(13a)に対向する部分まで延設され、
前記板バネ(13)の直線部(13b)が、前記突起(2)の一側面(2a)の凹部(15)を形成していない部分(14)に当接して、前記ワンウェイクラッチ(12)の空転状態に作用する引きずりトルクに抗して前記板バネ(13)の付勢力を前記突起(2)及び凹溝(1)の両一側面(2a)(1a)が離間するように作用すると共に、前記ワンウェイクラッチの係止状態に作用するトルクを前記突起及び凹溝の他側面(2b)(1b)で担持する、
ことを特徴とするワンウェイクラッチのスプライン係合装置にある。
【0012】
請求項2に係る本発明は(例えば図2参照)、前記固定側レースは、アウタレース(6)であり、前記固定部材は、ミッションケース(11)であり、
前記突起(2)が、上記アウタレースの外周面に形成され、前記凹溝(1)が、上記ミッションケースの内周面に形成され、
前記板バネ(13)は、前記凹溝(1)の一側面(1a)に略々全面にて当接する固定部(13c)を有し、該固定部に対して変形して、前記湾曲部(13a)と共にバネ体となる直線部(13b)が、前記突起の一側面(2a)の前記凹部(15)を形成していない平坦部分(14)に当接してなる、
請求項1記載のワンウェイクラッチのスプライン係合装置にある。
【0013】
請求項3に係る本発明は(例えば図3参照)、前記板バネ(13)は、前記固定部(13c)に直交して前記凹溝(1)の底面に密接する底部(13d)と、該底部から延長するつまみ部(13f)と、前記固定部(13c)の前記湾曲部(13a)と反対側の端に直交する鍔部(13e)と、を有してなる、請求項2記載のワンウェイクラッチのスプライン係合装置にある。
【0014】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより、各請求項の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【0015】
【発明の効果】
請求項1に係る本発明によると、板バネによりスプライン係合装置のガタがなくなり、ワンウェイクラッチの空転(フリー)及び係止(ロック)状態の切換えに際して異音の発生を防止できるものでありながら、突起の一側面に凹部を形成したので、板バネが大きく撓んでも、板バネは凹部にて当接することはなく、湾曲部と当接部との間に、常に所定距離を存するので、板バネの湾曲部に応力が集中することを防止して、板バネのへたりを阻止して、上記異音の発生防止を長期に亘って維持することができると共に、ワンウェイクラッチの係合(ロック)状態では、突起の軸方向全長からなる長い係合面にて、上記係合状態における大きなトルクを担持することができる。
【0016】
前記凹部は、板バネの湾曲部まで延びているので、どのような状態でも当接部と湾曲部との距離を長く設定することができ、板バネの所定付勢力を長期に亘って維持することができる。
【0017】
請求項2に係る本発明によると、アウタレースをミッションケースにスプライン係合したワンウェイクラッチにあっては、該スプライン係合がミッションケースの外周側にあって、異音の発生が顕在化し易いが、該異音の発生及び振動発生を確実に抑え、かつ板バネは、その固定部を略々全面に亘って凹溝の一側面に当接し、該固定部に対して、湾曲部及び直線部を変形してバネ体を構成するので、該直線部の当接による変形を前記凹部内にて許容することが相俟って、湾曲部での応力集中を排除し、長期に亘って上記効果を確実に維持することができる。
【0018】
請求項3に係る本発明によると、板バネは、底部を凹溝底面に密接すると共に、鍔部をアウタレース端面に着座して、所定位置に確実に挿入して装着することができ、かつ分解等により該板バネを取外す際は、つまみ部をもって容易に引き抜くことができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図面に沿って、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明を自動変速機に適したワンウェイクラッチのスプライン係合装置を示す図であり、11は、固定部材を構成するミッションケース(ハウジング)であり、アルミダイカスト等の鋳造部品からなり、その内周面にスプライン凹溝1が形成されている。該ミッションケース11にはワンウェイクラッチ12が収納されており、該ワンウェイクラッチ12は、プラネタリギヤのリングギヤ等の回転部材に連結して回転側となるインナレース5と、固定側となるアウタレース6と、これら両レース間に介在するスプラグ(図示せず)とを有しており、更に端面に、上記スプラグ等の脱落を防止するリング状の鍔板7が上記アウタレース6に一体に取付けられている。
【0020】
そして、前記アウタレース6の外周面には、多数のスプライン突起2が形成されており、該スプライン突起2が上記ミッションケース11のスプライン凹溝1に係合することにより、スプライン係合装置Sが構成されている。なお、上記アウタレース6は、軸方向奥側(図1の反対側)がミッションケース11の段部又はスナップリングに当接され、かつ軸方向前側(図1に示す側)がスナップリング(図示せず)により抜け止めされて、ミッションケース11に軸方向に位置決めされて装着されている。そして、上記ワンウェイクラッチ12は、インナレース5の矢印R方向の回転に対して、空転状態(フリー回転)となり、かつインナレースの反矢印R方向の回転に対して係止する。
【0021】
前記スプライン係合装置Sにおいて、多数の凹溝1及び突起2の1個又は数個(例えば2個)に、本発明に係る板バネ13が介在している。該板バネ13は、ワンウェイクラッチ12の空転状態においてトルクが作用する側の側面1a,2a間に挿入されており、突起2の他側面2bを凹溝1の他側面1b、即ちロック(係止)時においてトルクを担持する面に当接するように付勢している。該板バネ13は、図3に詳示するように、1枚のバネ鋼からなり、直線状の固定部13c、該固定部の一側面から直交して立上る底部13d、上記固定部の一端から形成されるアール形状の湾曲部13a、該湾曲部から延び、該湾曲部と共にバネ体となる直線部13bを有しており、更に前記固定部13cの他端から直交して立上り、側方に延びる鍔部13eと、前記底部13dから延長して形成されるつまみ部13fとが一体に形成されている。
【0022】
一方、図2に示すように、前記スプライン凹溝1は、両側面1a(1b)及び前記スプライン突起2の他側面2bは、板バネ3を介在しない他の凹溝及び突起と同様に、軸方向全長に亘って直線状の平坦面からなるが、前記スプライン突起1の前記板バネ13が介在する部分の一側面2aは、例えば軸方向の前側の略々1/3程度がそのままの平坦面で凸部14を構成し、残りの軸方向奥側部分は、機械加工等により削られて切欠かれ、凹部15となっている。また、アウタレース6の前側端面6aには、前記板バネ鍔部13eを収納する浅い凹部16が形成されている。
【0023】
そして、上記スプライン突起2の凹部15を有する一側面2aと、スプライン凹溝1の一側面1aとの間に、前記板バネ13が、つまみ部13fをもって、その湾曲部13aを先にして前側端面6aから挿入される。該板バネ13は、その底部13dを凹溝1の底面に密接しつつ、その固定部13cを凹溝1の一側面1aに当接すると共に、そのバネ体となる直線部13bを突起2の一側面2aに当接して、鍔部13eが端面6aの凹部16に着座することにより装着される。なお、自動変速機の分解等でワンウェイクラッチ12をミッションケース11から取外す際、板バネ13は、上記つまみ部13fをもって引き抜かれる。
【0024】
本実施の形態は、以上のような構成からなるので、板バネ13は、その固定部13cの略々全長をスプライン凹溝1の一側面1aに密着して固定・支持されており、湾曲部13aと共に、バネ体となる直線部13bがスプライン突起2の一側面凸部14に当接し、そして上記取付けた状態Aにあっては、ワンウェイクラッチ12の空転時(フリー時)の引きずりトルクに見合ったスプリング荷重が作用するように設計されている。従って、ワンウェイクラッチ12は、回転部材と共にインナレース5が矢印R方向に回転する空転(フリー)状態では、板バネ13は、スプラグ等の引きずりトルクに抗してスプライン突起2の他側面2bをスプライン凹溝1の他側面1bに当接するように付勢している。
【0025】
上記回転部材と共にインナレース5が反矢印R方向に回転して、ワンウェイクラッチ12が係止(ロック)状態に切換わると、回転部材(インナレース5)のトルクは、スプラグを介してアウタレース6に伝達され、そのスプライン突起2の他側面2bを、固定部材であるミッションケース11のスプライン凹溝1の他側面1bに押付けて、上記回転部材のトルクを担持して停止状態に保持する。この際、上記停止トルクを担持するスプライン係合装置Sは、上記板バネ13を介在している少数のものに限らず、すべての突起2及び凹溝1であることは勿論である。これにより、ワンウェイクラッチ12が空転及び停止に切換えられても、スプライン係合装置Sは、スプライン突起2とスプライン凹溝1の他側面2b,1b同士が常に当接した状態に保持され、突起2および凹溝間にガタが存在していても、これらが相互に衝突して異音を発生したり、振動を発生することを防止している。
【0026】
そして、上記ワンウェイクラッチ12の空転及び係止が繰返されるが、板バネ13及びワンウェイクラッチ12の製品間バラツキ、並びに経年変化、例えば板バネのヘタリ、及びワンウェイクラッチのスプラグ部分の摩耗等による引きずりトルクの増加により、板バネ13が撓んで、図2のAに示す状態からBに示す状態に変形することがある。この場合、更にそれ以上に板バネ13が撓み変形した場合にあっても、板バネ13は、その直線部13bが上記スプライン突起2の一側面2aの凸部14に当接して、該直線部13bの当接位置Cと湾曲部13aとの間に所定長さmを維持して、撓み変形量に応じた所定応力を保ち、上述したガタによる異音を発生等の阻止効果を保持すると共に、凹部15の存在により、上記直線部13bに撓み変形する余裕を与えて、湾曲部13aに、スプライン突起1からの荷重を集中して作用することはない。これにより、板バネ13は、上記Bに示す状態、更にそれ以上の異形状態が繰返し作用しても、湾曲部13aへの応力集中により、板バネ13がへたることを防止し得る。
【0027】
なお、上述実施の形態は、板バネ13は、湾曲部13aから直接直線部13bを形成してバネ体としたが、湾曲部と直線部との間に膨出部との曲線部を介在してもよい。また、ワンウェイクラッチは、アウタレースを固定側とし、インナレースを回転側とするものに適用したが、これは、インナレースを固定側とし、アウタレースを回転側とするものに適用してもよい。更に、上記スプライン突起2の一側面を所定長さを有する凸部14及び凹部15により形成したが、上記一側面に、図2の紙面に直交する方向に延びる円筒形状の凸部を形成し(従って該凸部の後端側一側面が凹部となる)、板バネ13の直線部13bが同じ円筒形状の凸部に線接触により常に当接するようにしてもよい
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を自動変速機に適用したワンウェイクラッチのスプライン係合装置部分を示す横断面図。
【図2】その板バネが介在したスプライン凹溝と突起部分を示す平面図。
【図3】その板バネを示す斜視図。
【図4】本発明に関連する先行技術を示す図2と同様な図。
【符号の説明】
1 スプライン凹溝
1a 一側面
1b 他側面
2 スプライン突起
2a 一側面
2b 他側面
5 回転側レース(インナレース)
6 固定側レース(アウタレース)
11 固定部材(ミッションケース)
12 ワンウェイクラッチ
13 板バネ
13a 湾曲部
13b 直線部
13c 固定部
13d 底部
13e 鍔部
13f つまみ部
14 凹部を形成していない部分(凸部)
15 凹部
Claims (3)
- ワンウェイクラッチの固定側レースに形成した突起を固定部材の凹溝に係合して、前記固定側レースを前記固定部材に対して周方向移動を阻止するスプライン係合装置において、
前記突起の一側面と前記凹溝の一側面との間に、バネ体を構成する湾曲部及び直線部を有する板バネを介在し、
前記突起の一側面における前記湾曲部が位置する側に、軸方向所定長さに亘って凹部を形成し、
前記突起の他側面に、軸方向全長に亘って前記凹溝の他側面に当接する係合面を形成し、
前記凹部は、軸方向において前記湾曲部に対向する部分まで延設され、
前記板バネの直線部が、前記突起の一側面の凹部を形成していない部分に当接して、前記ワンウェイクラッチの空転状態に作用する引きずりトルクに抗して前記板バネの付勢力を前記突起及び凹溝の両一側面が離間するように作用すると共に、前記ワンウェイクラッチの係止状態に作用するトルクを前記突起及び凹溝の他側面で担持する、
ことを特徴とするワンウェイクラッチのスプライン係合装置。 - 前記固定側レースは、アウタレースであり、前記固定部材は、ミッションケースであり、
前記突起が、上記アウタレースの外周面に形成され、前記凹溝が、上記ミッションケースの内周面に形成され、
前記板バネは、前記凹溝の一側面に略々全面にて当接する固定部を有し、該固定部に対して変形して、前記湾曲部と共にバネ体となる直線部が、前記突起の一側面の前記凹部を形成していない平坦部分に当接してなる、
請求項1記載のワンウェイクラッチのスプライン係合装置。 - 前記板バネは、前記固定部に直交して前記凹溝の底面に密接する底部と、該底部から延長するつまみ部と、前記固定部の前記湾曲部と反対側の端に直交する鍔部と、を有してなる、
請求項2記載のワンウェイクラッチのスプライン係合装置。
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