JP4121583B2 - 抗酸化性組成物およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は牡蠣肉熱水抽出物から得られる抗酸化性組成物およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
酸素は紫外線や放射線の影響で、強い毒性を持つ活性酸素と呼ばれるスーパーオキシドアニオンラジカルを生成する。これは、過酸化水素やヒドロキシラジカルに変換され、人体に様々な酸化的障害を引き起こす。そのために老化やガンの発生をはじめとする様々な疾病が引き起こされるのではないかと考えられている。
このような酸化的障害に対する生体の防御作用としてスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)などの抗酸化酵素や生体内の抗酸化物質の重要性が認識されている。また、食品として摂取される抗酸化物質も、酸化的障害の防止の面で大きな役割を果たしているのではないかと注目されている。
【0003】
ところで牡蠣肉は海のミルクとも呼ばれ、タウリン、グリコーゲン、蛋白質、その他有用な物質が多量に含まれている。本発明者らは従来牡蠣肉の成分について種々研究を重ね、牡蠣肉中に存在する抗酸化性組成物を高純度に得ることに成功した。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は牡蠣肉熱水抽出物から得られる抗酸化性組成物を提供することである。
本発明の他の目的は当該抗酸化性組成物の製造方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、アルコール分画におけるアルコール濃度の調整ならびに固形分含量の調整により、優れた抗酸化性組成物を得ることができることを見出し本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記の通りである。
(1)1)牡蠣肉の熱水分画に終濃度40(W/W)%以上になるようにエタノールを加えることによって得た上清(第1工程)を2)固形分含量30〜45(W/W)%に濃縮する工程(第2工程)に付した後、3)終濃度55〜70(W/W)%になるようにエタノールを加え、沈澱物を回収すること(第3工程)を特徴とする抗酸化性組成物の製造方法。
(2)工程3)に付す前に、pHを3以下に調整することを特徴とする上記(1)記載の抗酸化性組成物の製造方法。
(3)下記条件から選ばれる少なくとも1つの条件を満足する上記(1)または(2)記載の抗酸化性組成物の製造方法。
▲1▼第1工程におけるエタノール終濃度が40〜50(W/W)%である。
▲2▼第2工程における固形分含量が35〜40(W/W)%である。
▲3▼第3工程におけるエタノール終濃度が60(W/W)%程度である。
(4)以下の特性を有する抗酸化性組成物。
i)分子量1000〜5000のものを多く含有する画分である
ii)UV吸収スペクトル:(図1参照)
λmax (水溶液):267.5nm、198nm
iii)ニンヒドリン反応:陽性
iv)主成分:低分子ペプチド
v)溶解性:水溶性
vi)色:濃褐色。
(5)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法にて調製される上記(4)記載の抗酸化性組成物。
【0006】
本発明において牡蠣肉熱水分画は、例えば次のようにして調製される。
即ち、牡蠣肉に熱水を加え、沈澱物を除去した上清画分を得ることによって行われる。本発明の原料となる牡蠣肉は当該抗酸化活性を保持している限りはその形状は特に限定されず、生、凍結状態はもとより、牡蠣肉を乾燥し粉末状に製したものも用いることができる。熱水分画における熱水温度は、通常50〜90℃、好ましくは70〜80℃程度であり、抽出時間は、通常2〜3時間である。
【0007】
当該上清画分における固形分含量は、通常4〜5(W/W)%程度であるから、濃縮によって当該固形分含量を20〜40(W/W)%とすることが好ましい。この濃縮率が上記の範囲外であると、蛋白質、糖質等の沈澱が効率よく行われない。
【0008】
エタノールはその溶媒の極性を変化させる、即ち疎水性と親水性の割合を変化させることにより沈澱を生じさせることが知られている。
本発明の第1工程において、熱水分画で得た上清を終濃度40(W/W)%以上、好ましくは40〜50(W/W)%程度のエタノール分画に付す。エタノール終濃度が40(W/W)%未満の場合は、抗酸化活性には余分な高分子量の蛋白質や糖質が十分に除去されない。さらに、得られる上清および沈澱の抗酸化活性に差が見られない。終濃度が50(W/W)%を超える場合は、エタノール分画による効果が飽和される。分画処理時間は、通常、1〜24時間、好ましくは5〜12時間である。
【0009】
本発明における第2工程において、固形分含量を変えることにより、分子間結合力が変化する。分子間結合力が強すぎても弱すぎても沈澱しにくくなる。固形分含量が低くなると、イオン強度も低くなり分子間結合力が低下するため沈澱する量が少なくなる。本発明の第2工程においては、上記のエタノール分画に付して得られた上清を、固形分含量30〜45(W/W)%、好ましくは35〜40(W/W)%になるまで濃縮する。固形分含量が30(W/W)%未満の場合、沈澱量が少なく、沈澱の抗酸化活性も低い。固形分含量が45(W/W)%よりも多い場合、抗酸化活性には余分な不純物も沈澱するため沈澱物の抗酸化活性の比活性は低下する。濃縮は、例えば、加熱濃縮、膜濃縮、冷凍濃縮などによって、特に好適には減圧加熱濃縮によって行われる。さらに固形分含量は例えばブリックス計(例えばアタゴ社製手持屈折計等)を用いてブリックス(糖度)として求めることができる。
【0010】
さらに好ましくは、当該濃縮液をpH3以下、好ましくはpH3程度に調整する。当該pH調整は、通常酸(例えば、塩酸、クエン酸など)を添加することによって行われる。蛋白質、ペプチドは等電点のpHにおいて最も沈澱し易くなり、pHが3よりも高い場合、得られる沈澱量が少ない。
【0011】
pH調整後、当該溶液に、エタノールを終濃度が55〜70(W/W)%、好ましくは60(W/W)%程度となるように添加し、遠心分離し、沈澱物を回収する。当該沈澱物は高濃度に抗酸化性組成物を含有し、抗酸化作用を示す。エタノール終濃度が55(W/W)%未満では抗酸化性組成物の収率が低く、得られる沈澱と上清において抗酸化活性に差がない。70(W/W)%よりも濃い場合では沈澱物の量は多くなるが混在する余分な成分も同様に沈澱するため抗酸化活性の比活性が低下する。
【0012】
かくして得られた抗酸化性組成物はその抗酸化活性の他には、以下のような特性を有する。
i)分子量1000〜5000のものを多く含有する画分である
ii)UV吸収スペクトル:
λmax (水溶液):267.5nm、198nm
iii)ニンヒドリン反応:陽性
iv)主成分:低分子ペプチド
v)溶解性:水溶性
vi)色:濃褐色。
【0013】
上記の特性を確認するためには、それぞれ公知の方法が用いられる。すなわち、分子量はアルコール分画に付した場合の、沈澱形成の有無という挙動により推定される。UV吸収スペクトルは通常使用される吸光度計を用いて測定することが可能である。水に対する溶解性ならびに色の観察は、日本薬局方に規定される方法に準じて観察される。さらに、主成分を確認する方法としては、通常用いられている、各成分に特異的な呈色反応や定性反応あるいは定量反応を利用することができる。ニンヒドリン反応は蛋白質、ポリペプチドやアミノ酸の存在を確認することができ、又ペプチドの存在は高速液体クロマトグラフ法により確認し得る。
【0014】
【実施例】
以下に本発明の抗酸化性組成物の実施例および実験例を述べることによって更に詳細に本発明を説明するが、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。
【0015】
実施例1
冷凍生牡蠣50gに水50gを加え、80〜90℃で2〜3時間熱水抽出し、1500rpm(日立製作所)、10分間遠心分離に付す。その上清を加熱濃縮にて固形分含量が20〜40(W/W)%になるまで濃縮する。得られた濃縮液にエタノールを終濃度が40(W/W)%になるように加え、12時間静置後、3000rpm(日立製作所)、10分間遠心分離し上清を回収する(第1工程)。さらにその上清を50℃でロータリーエバポレーターを用いて減圧加熱濃縮にて固形分含量が37(W/W)%になるまで濃縮する(第2工程)。得られた上清に0.1Mの塩酸を加えてpHを3に調整する。固形分含量およびpHを調整した当該溶液にエタノールを終濃度が60(W/W)%になるように加え、12時間静置した後、3000rpm(日立製作所)、10分間遠心分離し、沈澱物を抗酸化性組成物として回収した(第3工程)。得られた沈澱物の特性を調べた。
【0016】
i)牡蠣肉熱水抽出物を40(W/W)%のアルコール分画に付して得られる上清をさらに60(W/W)%のアルコール分画に付した後に得られた沈澱物であることから分子量1000〜5000のものを多く含む画分であると推定される。
ii)得られた沈澱物の少量を水に溶かし、そのUV吸収スペクトルをUV2400 PC(島津製作所製)を用いて測定した。結果を図1に示す。結果、吸収ピークは267.5nmおよび198nmにあった。
iii)得られた沈澱物の少量を水に溶かし、ニンヒドリン試薬(0.2gニンヒドリンを水10mlに溶解したもの)を添加し、加熱冷却すると、青紫色(陽性)を呈した。
iv)以下の条件で高速液体クロマトグラフ法を用いて分析したところ、ピークが検出され、ペプチドの存在を確認した。
条件:
カラム:Shodex Asahipak ODP−50 6E
溶出液:0.1M過塩素酸ナトリウム+0.1%リン酸ナトリウム緩衝液(pH2)/アセトニトリル=90/10
0.1M過塩素酸ナトリウム+0.1%リン酸ナトリウム緩衝液(pH2)/アセトニトリル=60/40
の60分間のリニアグラジエント(linear gradient)
流速:1.0ml/分
検出器:SPD−10A(島津製作所製)
カラム温度:30℃
v)水への溶解性は常温で、色は白紙上において確認した。結果、水に対して可溶であり、又色は濃褐色であった。
以上の結果より前述の抗酸化性組成物の特性と一致していた。
【0017】
実施例2
実施例1における第2工程で、固形分含量が45(W/W)%になるように濃縮する点以外は実施例1と同じ操作を繰り返し、沈澱物を得た。得られた沈澱は上述の抗酸化性組成物の特性と同一の特性を有していた。
【0018】
実施例3
実施例1における第3工程で、固形分含量およびpHを調整して得られる溶液にエタノールを終濃度が70(W/W)%になるように加える点以外は実施例1と同じ操作を繰り返し、沈澱物を得た。得られた沈澱は上述の抗酸化性組成物と同一の特性を有していた。
【0019】
比較例1
実施例1における第1工程で、牡蠣肉熱水分画上清にエタノールを加えない点以外は実施例1と同じ操作を繰り返し、沈澱物を得た。
【0020】
比較例2
実施例1における第2工程で、固形分含量が18.5(W/W)%になるように濃縮する点以外は実施例1と同じ操作を繰り返し、沈澱物を得た。
【0021】
比較例3
実施例1における第3工程で、固形分含量およびpHを調整して得られる溶液にエタノールを終濃度が80(W/W)%になるように加える点以外は実施例1と同じ操作を繰り返し、沈澱物を得た。
【0022】
実験例1 抗酸化活性の測定
実施例1〜3および比較例1〜3で得られた、100gの牡蠣肉熱水抽出物あたりに得られる沈澱物の量およびその沈澱の抗酸化活性を調べた。本実験例においては抗酸化活性の測定は、活性酸素(スーパーオキシドアニオン)の消去活性を測定することにより行なった。活性酸素消去活性の測定は、ESRスピントラップ法にて行なった。ESRスピントラップ法とは、非常に不安定なラジカルをトラップ剤と反応させて、比較的安定なラジカルとして検出する方法である。本実験例では、活性酸素をキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系により生成させ、スピントラップ剤としてDMPO(5,5−ジメチル−1−ピローレン−1−オキシド)を用いて測定した。生成させた活性酸素を50%消去するのに要する試料の量(IC50)を活性酸素の消去活性、即ち抗酸化活性とした。結果を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
【発明の効果】
本発明により牡蠣肉熱水抽出物より抗酸化性組成物が効率よく、高い収率で得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の抗酸化性組成物のUV吸収スペクトル図である。
Claims (4)
- 1)牡蠣肉の熱水分画に終濃度40(W/W)%以上になるようにエタノールを加えることによって得た上清(第1工程)を2)固形分含量30〜45(W/W)%に濃縮する工程(第2工程)に付した後、3)終濃度55〜70(W/W)%になるようにエタノールを加え、沈澱物を回収すること(第3工程)を特徴とする抗酸化性組成物の製造方法。
- 工程3)に付す前に、pHを3以下に調整することを特徴とする請求項1記載の抗酸化性組成物の製造方法。
- 下記条件から選ばれる少なくとも1つの条件を満足する請求項1または2記載の抗酸化性組成物の製造方法。
(1)第1工程におけるエタノール終濃度が40〜50(W/W)%である。
(2)第2工程における固形分含量が35〜40(W/W)%である。
(3)第3工程におけるエタノール終濃度が60(W/W)%である。 - 請求項1〜3のいずれかに記載の方法にて調製された抗酸化性組成物であって、以下の特性を有する抗酸化性組成物。
(1)分子量1000〜5000のものを多く含有する画分である
(2)UV吸収スペクトル
λmax(水溶液):267.5nm、198nm
(3)ニンヒドリン反応:陽性
(4)主成分:低分子ペプチド
(5)溶解性:水溶性
(6)色:濃褐色。
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