JP4117094B2 - セルロースエステルフィルムの乾燥方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶表示装置の偏光板保護膜や光学補償膜等に使用されるセルロースエステルフィルムの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
溶液製膜法により製造されたセルロースエステルフィルム、特にセルローストリアセテートフィルムは、透明性、光学的な等方性が優れているので、液晶表示装置の偏光板保護膜や光学補償膜等に使用されている。この溶液製膜法は、セルローストリアセテート及び可塑剤さらに必要により紫外線吸収剤等の添加剤を有機溶剤に溶解して調製したポリマー溶液(ドープ)を流延支持体上に流延し、そして、流延支持体から固化したフィルムを剥ぎ取った後、フィルム中の残留溶剤を除去するために、高温の乾燥ケーシング内を搬送させつつ乾燥させるものである。
【0003】
このような溶液製膜法に関して、従来、各種技術が提案されており、例えば、特開平11−5226号公報には、溶媒が爆発することなく安全にポリマーフィルムを製造することができる製造方法が提案されており、特開平9−187828号公報には、光学特性の優れた光学用フィルムを製造することができる製造方法が提案されており、特開平6−161026号公報には、フィルムに欠陥を与えることなく効率よく製造することができるセルロースエステル写真フィルムベースの製造方法が提案されており、特開平9−230316号公報には、光学特性の優れたフィルムを生産性よく製造することができる光学用フィルムの製造方法が提案されており、特開平8−57897号公報には、可塑剤の析出を防止できるようにしたセルロースエステルフィルムの処理方法が提案されており、特開平7−108547号公報には、製造速度が速く、かつ力学的特性を向上させることができるようにしたセルローストリアセテートフィルムの製造方法が提案されており、特開平7−112446号公報には、複屈折を小さくできるようにした偏光板用保護膜の製造方法が提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、溶液製膜法においてフィルムを乾燥させる際、フィルム中に添加されている低分子量物質が溶剤とともに揮発する。そして、この低分子量物質は、溶剤より沸点が高く、乾燥ケーシングの内壁面に付着し、液状となって落下したり飛散したりして乾燥中のフィルムに付着することがあり、その結果、製品フィルムに重大な欠陥を与えることがあった。このような低分子量物質としては、例えば、可塑剤、染料、紫外線吸収剤等があり、これらの分子量は一般的には1000以下である。
【0005】
上記低分子量物質の中で、セルロースエステルフィルムに含まれる比率の最も高いのは可塑剤であり、通常、リン酸エステル系、フタル酸エステル、その他の脂肪酸エステル化合物等が用いられている。代表的な可塑剤としてはTPP(トリフェニルフォスフェート)があり、沸点が399℃、100℃における蒸気圧が32.0Pa(0.24mmHg)で、通常、セルロースエステルフィルムには難燃性と疎水性付与のために5〜20%程度添加されている。このようなトリフェニルフォスフェートが乾燥ケーシング内でのフィルムへの付着故障の主要な原因となっている。
【0006】
したがって、低分子量物質のフィルムへの付着を防止するために、乾燥ケーシングの内壁面を定期的に掃除して低分子量物質の付着物を除去する必要があり、フィルムの生産性を低下させるものとなっていた。また、大量の新鮮風を乾燥風として導入し、乾燥ケーシング内の低分子量物質の気相濃度を十分に低下させることが考えられる。しかしながら、大量の新鮮風を導入すると、乾燥に要する動熱費が膨大になるという問題が生じるものであった。
【0007】
本発明は、以上の問題点を解決し、乾燥ケーシングの内壁面の温度を低分子量物質の気相濃度の飽和温度より高く保持することにより、低分子量物質の気化したものが内壁面に付着することを抑制し、簡単かつ安価に、低分子量物質がフィルムに付着するのを防止できるようにしたセルロースエステルフィルムの乾燥方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明のセルロースエステルフィルムの乾燥方法は、乾燥ケーシング内でフィルムを搬送させつつ乾燥風を循環させてフィルムを乾燥させる方法において、前記乾燥ケーシング内の乾燥風に接触する部分の温度が、乾燥風に含まれる低分子量物質の飽和温度より5℃以上高いことを特徴として構成されている。
【0009】
本発明のセルロースエステルフィルムの乾燥方法においては、乾燥ケーシング内の乾燥風に接触する部分の温度が、乾燥風に含まれる低分子量物質の飽和温度より5℃以上高く保持することにより、低分子量物質が乾燥ケーシング内の乾燥風に接触する部分、例えば内壁面等に付着するのを抑制し、落下又は飛散によりフィルムに付着するのを防止する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明においては、乾燥ケーシング内の乾燥風に接触する部分の温度が、乾燥風に含まれる低分子量物質の飽和温度より5℃以上高いことを要し、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上高くする。低分子量物質の飽和温度より5℃以上高くない場合は、乾燥風中に含まれる低分子量物質が壁面に凝縮付着したり、エアロゾル状になった低分子量物質が壁面で付着・合一して液滴状になって製品フィルム上に落下したり、乾燥風により飛散し製品フィルムに付着し、製品の品質を著しく損なう。また、乾燥風に接触する部分は、内壁面、天井等であり、フィルムより低い位置にある床面等は5℃以上高くする必要は特にない。
【0011】
乾燥風に接触する部分を飽和温度より5℃以上高くする手段としては、加熱手段を設けたり、断熱手段を設けたり特に限定されないが、設備コストが安価であるので、断熱手段を設けることが好ましい。断熱手段としては、従来用いられている各種断熱材を用いることができる。
【0012】
乾燥ケーシング内の乾燥風に接触する部分の温度が低分子量物質の飽和温度より5℃以上高ければ、乾燥風の乾燥温度、低分子量物質の飽和温度等は特に限定されないが、乾燥風による乾燥温度が100℃以上であって、かつ、乾燥ケーシング内の低分子量物質の飽和温度が60℃以下にすることが好ましい。
【0013】
乾燥温度は100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。乾燥温度が100℃未満であると、乾燥速度が著しく減少し、乾燥時間を長くすることが必要となり、生産性が低下するという問題が生ずる。また、バンド上あるいはテンター内で固定化されたままで乾燥することにより生ずる残留応力を十分に緩和できないために、熱収縮性を損なうという問題も生ずる。
【0014】
また、乾燥ケーシング内の低分子量物質の飽和温度は60℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましい。すなわち、セルロースエステルフィルムを溶液製膜法で製造する場合、乾燥速度を増加させるためにできるだけ高い温度で乾燥させるが、溶剤残留量が多い場合には実質のガラス転移温度(Tg)が低下し軟膜化して搬送に不都合が生ずるために80℃〜150℃の温度で操作している。したがって、乾燥風に接触する部分の温度をそれ以上に保持することで低分子量物質の付着を抑制しうるが、乾燥ケーシングの内壁面等をすべてを強制的に高温に加熱するのは設備コストがかかり問題である。そこで、通常の断熱法や簡易的な保温方法により保温できる温度である約60℃〜80℃程度であっても、飽和温度を60℃以下とすることにより、低分子量物質が付着しないようにしたものである。飽和温度を60℃以下にするには、後述する低分子量物質を除去する手段により行うことができる。
【0015】
また、フィルムを連続的に乾燥させると、乾燥ケーシング内の低分子量物質の気相濃度が増加するので、気相濃度を一定以下に保つことができるように、増加した低分子量物質を除去することが好ましい。低分子量物質を除去するには、乾燥エネルギーが許容できる範囲で新鮮風を導入するとともに、同量の乾燥風を排気したり、冷却装置等で凝縮分離したり又は吸着分離したりすることにより行うことができる。例えば、乾燥風の循環経路において新鮮風を導入するとともに、乾燥ケーシング内の低分子量物質を含む乾燥風を外部へ排気する方法、乾燥風の循環経路において低分子量物質を凝縮分離する方法、乾燥ケーシング内および送風経路において低分子量物質を凝縮分離する方法がある。
【0016】
低分子量物質の除去方法に関しては、凝縮法の他に活性炭、ゼオライトその他の吸着剤により吸着分離する方法、あるいは断熱膨張やランク効果を利用して液滴化させサイクロン、衝突型分離装置により捕収する方法を利用することができる。また、これらの分離方法を2以上組合せて効率化することも可能であり、気相中の低分子状物の分離が可能な他の一般的な方法を用いることもできる。一般的にこれら低分子量物質は溶剤ガスの吸着分離に使用する吸着剤、例えば活性炭、ゼオライトなどに付着するとその吸着能力を損なうことが知られており、溶剤ガス吸着装置に入る前に低分子量物質を除去することは極めて重要である。分離回収した低分子量物質は、可塑剤、UV吸収剤、高沸点溶剤などであるが、これらはそれぞれ精製することにより原料として再利用が可能である。例えば、可塑剤はドープ調整工程で再び添加して利用することができる。これらの所謂再生原料の使用比率に特に限定はないが、全体量に対して0.1〜50%の範囲が好ましく、更に好ましくは、0.1〜10%である。
【0017】
なお、新鮮風を乾燥ケーシングに直接導入するとともに、乾燥ケーシングから直接排気してもよい。
【0018】
本発明のセルロースエステルフィルムの乾燥方法においては、乾燥中のフィルムの搬送テンションが98N/m(10kg/m)以下であることが好ましく、78.4N/m(8kg/m)以下であることがより好ましく、58.8N/m(6kg/m)以下であることが最も好ましい。搬送テンションが98N/m(10kg/m)を超えると、寸度の安定性を得ることができない。すなわち、通常行われている搬送テンション(例えば、196N/m(20kg/m))では、乾燥温度を上げると完成したセルロースエステルフィルムに残留応力が残り、その結果、熱収縮特性が劣化するものであった。したがって、搬送テンションを小さくすることにより、高温度で迅速に乾燥させた場合であっても、製品としての寸度の安定性を確保することができる。
【0019】
低分子量物質としては、可塑剤、紫外線吸収剤、染料等があり、可塑剤としては、リン酸エステル系可塑剤が代表的である。代表的なリン酸エステル系可塑剤を下記式(Ia)および(Ib)で示す。
【0020】
【化1】
Figure 0004117094
【0021】
式(Ia)および(Ib)において、R1,R2,R3,R4,R5,R6およびR7は、それぞれ、アルキル基(シクロアルキル基を含む)、アリール基またはアラルキル基である。角基は置換基を有していてもよい。アルキル基の炭素原子数は1乃至12であることが好ましい。アルキル基の例としては、メチル、エチル、ブチル、シクロヘキシルおよびオクチルを挙げることができる。アリール基の例としてはフェニルを挙げることができる。アラルキル基の例としてはベンジルを挙げることができる。上記置換基の例としては、アルキル基(例:メチル)、アリール基(例:フェニル)、アルコキシ基(例:メトキシ、ブトキシ)およびアリールオキシ基(例:フェノキシ)を挙げることができる。式(Ib)において、Rは、アルキレン基、アリーレン基、スルホニル基およびそれらの組み合わせから選ばれる2価の連結基である。nは1以上の整数であり、1乃至10であることが好ましい。
【0022】
リン酸エステル系可塑剤の例には、トリフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリエチルホスフェートおよびトリブチルホスフェートが含まれる。また、カルボン酸エステル系可塑剤が利用される場合もある。カルボン酸エステル系可塑剤の例には、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジエチルヘキシルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、グリセロールトリアセテート、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレートおよびトリアセチンが含まれる。またクエン酸エステルとしては、クエン酸アセチルトリエチル(OACTE)、クエン酸トリブチル(OACTB)等が、その他のカルボン酸エステルの例としては、オレイン酸ブチル(BO)、リノール酸メチルアセチル(MAL)、セバチン酸ジブチル(DBS)、種々のトリメリット酸エステル等がある。その他の低分子可塑剤の例としては、o−またはp−トルエンエチルスルフォンアミドを挙げることができる。
【0023】
また、トリメリット酸やピロメリット酸のエステルを、リン酸エステル系可塑剤と併用してもよい。トリメリット酸やピロメリット酸のエステルは、リン酸エステル系可塑剤のブリードアウトを防止する作用がある。これらの酸のエステルについては、特開平5−5047号公報に記載がある。
【0024】
前記紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、サリチレート系およびベンゾトリアゾール系の化合物がある。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の例には、2,2’−ジヒドロキシ−4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンおよび2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノンが含まれる。サリチレート系紫外線吸収剤の例としては、4−t−ブチルフェニルサリチレートが挙げられる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の例には、2−(ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールおよび2−(2'−ヒドロキシ−3,5'−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールが含まれる。その他の紫外線吸収剤の例としては、[2,2'−チオビス(4−t−オクチルフェノラート)]n−ブチルアミンニッケルIIを挙げることができる。
【0025】
本発明において、セルロースエステルとしては、セルロースの低級脂肪酸エステル(例:セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレートおよびセルロースアセテートプロピオネート)が代表的である。低級脂肪酸は、炭素原子数6以下の脂肪酸を意味する。セルロースアセテートには、セルローストリアセテート(TAC)やセルロースジアセテート(DAC)が含まれる。
【0026】
本発明によるセルロースエステルフィルムの乾燥方法を実施する溶液製膜装置の一実施形態を図面を参照して説明する。
【0027】
図1は第1の溶液製膜装置の概略模式図である。図1において、符号10はドープ調整工程、符号20はドープ流延工程10で調製されたドープを流延する流延工程、符号30は剥がしたフィルムを乾燥させる乾燥工程である。
【0028】
ドープ調製工程10は、セルローストリアセテート、添加剤(可塑剤、紫外線吸収剤等)及び溶剤が導入されて溶解混合する混合機11が設けられ、この溶解混合機11には、ポンプ12及びフィルター13が連結されている。流延工程20は、流延ダイ21が設けられており、この流延ダイ21が前記フィルター13と連結されている。流延ダイ21の下方には流延支持体としての流延バンド22が設けられおり、流延バンド22のフィルム排気側にはフィルム剥ぎ取り用のローラ23が設けられている。
【0029】
乾燥工程30は、乾燥ケーシング31が設けられるとともに、乾燥ケーシング31の内部にセルローストリアセテートフィルム1を搬送する搬送ローラ32が多数設けられている。この乾燥ケーシング31の壁及び天井には、断熱材、加温手段等が設けられ、壁及び天井を所望温度に保持できるようになっている。
【0030】
乾燥風は天井部から供給され、ダウンフローにより床部から排気させる方式が低分子量物質の付着落下には有利である。
【0031】
また、乾燥ケーシング31には、乾燥風排気管33及び乾燥風供給管34が給気ファン35を介して設けられており、乾燥風を循環させつつセルローストリアセテートフィルム1を乾燥させるようになっている。さらに、乾燥風排気管33には新鮮風導入口36が設けられるとともに、乾燥風供給管34には乾燥風排気口37が設けられており、高濃度の低分子量物質(可塑剤等)を含む乾燥風を乾燥風排気口37から循環経路外へ排気するとともに、新鮮風導入口36から略同量の新鮮風を循環経路内に取り入れ、乾燥風における低分子量物質の濃度の上昇を抑制し、濃度を一定以下に調製できるようになっている。
【0032】
図2は第2の溶液製膜装置の概略模式図である。図2において、ドープ調製工程10及び流延工程20は、図1に示す第1の溶液製膜装置と同一に構成されている。第2の溶液製膜装置における乾燥工程40は、第1の溶液製膜装置における乾燥工程と同様に、乾燥ケーシング41、搬送ローラ42、乾燥風排気管43、乾燥風供給管44及び給気ファン45が設けられている。
【0033】
前記乾燥風排気管43には凝縮装置46が設けられており、この凝縮装置46において乾燥風中の低分子量物質を分離回収し、乾燥風における低分子量物質の濃度の上昇を抑制して濃度を調製できるようになっている。
【0034】
凝縮装置の2次側には、種々のミストセパレーター、例えばサイクロン、ボルテックスチューブなどを用いることにより微小滴化した低分子量物質を効率よく捕捉することが可能となり、高い回収率が得られる。
【0035】
また、乾燥風供給管44には溶剤吸着装置47が設けられており、この溶剤吸着装置47において溶剤を吸着して分離回収するようになっている。
【0036】
【実施例】
[実施例1〜3、比較例1]
図1に示す溶液製膜装置を用い、セルローストリアセテートフィルムを製造した。
【0037】
流延するドープの組成は以下の通りである。
セルローストリアセテート 18重量部
トリフェニルフォスフェート 2.7重量部
塩化メチレン 73.8重量部
メタノール 5.5重量部
【0038】
以上の組成で調製したドープを、ドープ乾燥厚さ80μmとなるように流延ダイ21より流延バンド(ステンレススチール製)22に流延し、これを連続的に剥ぎ取り乾燥ケーシング31内を搬送ローラー32で搬送しつつ乾燥させた。
【0039】
この時、乾燥ケーシング31内の雰囲気温度を120℃に保持した。また、乾燥風として、新鮮風と循環風の一部を系外に排気した循環風とを用い、新鮮風の比率を調整することにより、乾燥ケーシング31内のトリフェニルフォスフェートの飽和温度が55℃になるように制御した。なお、乾燥時間は10分であった。
【0040】
[実施例1]
乾燥ケーシングを、厚さ100mmの通常のガラスウール断熱材をステンレススチール板で挟んだ壁構造とした。この乾燥ケーシングの内壁面の温度は61℃であった。また、乾燥ケーシング内の搬送テンションは58.8N/m(6kg/m)〜98N/m(10kg/m)に調節した。
【0041】
実施例1においては、流延開始から48時間後でも内壁面への液状の付着物は認められなかった。
【0042】
[実施例2]
乾燥ケーシングを、厚さ50mmの通常のガラスウール断熱材をステンレススチール板で挟み、かつ、内側に配置されたステンレススチール板のガラスウール断熱材側の面に面発熱体を貼りつけた壁構造とした。この乾燥ケーシングの内面壁の温度は76℃であった。また、乾燥ケーシング内の搬送テンションは58.8N/m(6kg/m)〜98N/m(10kg/m)に調節した。
【0043】
実施例2においては、流延開始から96時間後でも内壁面への液状の付着物は認められなかった。
【0044】
[実施例3]
乾燥ケーシングを、厚さ10mmの真空断熱部及び厚さ50mmのガラスウール断熱材をステンレススチール板で挟んだ壁構造とした。この乾燥ケーシングの内壁面の温度は65℃であった。また、乾燥ケーシング内の搬送テンションは58.8N/m(6kg/m)〜98N/m(10kg/m)に調節した。
【0045】
実施例3においては、流延開始から48時間後でも内壁面への液状の付着物は認められなかった。
【0046】
[比較例1]
乾燥ケーシングを、ステンレススチール板で厚さ50mmの通常のガラスウール断熱材を挟んだ壁構造とした。この乾燥ケーシングの内壁面の温度は50℃であった。また、乾燥ケーシング内の搬送テンションは156.8N/m(16kg/m)〜215.6N/m(22kg/m)に調節した。
【0047】
比較例1においては、流延開始から36時間後に内壁面に液状物の付着が認められ、液滴として内壁面を流れ落ちることを確認した。
【0048】
[実施例4,5、比較例2,3]
図2に示す溶液製膜装置を用い、セルローストリアセテートフィルムを製造した。
【0049】
流延するドープの組成は以下の通りである。
セルローストリアセテート 17重量部
トリフェニルフォスフェート 2.7重量部
UV吸収剤 1.0重量部
塩化メチレン 73.8重量部
メタノール 5.5重量部
【0050】
以上の組成で調製したドープを、ドープ乾燥厚さ80μmとなるように流延ダイ21より流延バンド(ステンレススチール製)22に流延し、これを連続的に剥ぎ取り乾燥ケーシング51内を搬送ローラー52で搬送しつつ乾燥させた。
【0051】
この時、乾燥ケーシング31内の雰囲気温度を120℃に保持した。また、乾燥風はすべて循環して使用し、凝縮装置でトリフェニルフォスフェート及びUV吸収剤を乾燥風から除去するとともに、溶剤吸着装置で塩化メチレン及びメタノールを活性炭吸着層により吸着除去し、トリフェニルフォスフェートとUV吸収剤との混合物の飽和温度が58℃になるように制御した。なお、乾燥時間は10分であであった。
【0052】
[実施例4]
実施例2と同様な乾燥ケーシングを用いた。内壁面の温度は76℃であった。また、乾燥ケーシング内の搬送テンションは58.8N/m(6kg/m)〜98N/m(10kg/m)に調節した。
【0053】
実施例4においては、流延開始から96時間後でも内壁面への液状の付着物は認められなかった。
【0054】
[実施例5]
実施例3と同様な乾燥ケーシングを用いた。内壁面の温度は66℃であった。また、乾燥ケーシング内の搬送テンションは58.8N/m(6kg/m)〜98N/m(10kg/m)に調節した。
【0055】
実施例5においては、流延開始から48時間後でも内壁面への液状の付着物は認められなかった。
【0056】
[比較例2]
実施例1と同様な乾燥ケーシングを用いた。内壁面の温度は62℃であった。また、乾燥ケーシング内の搬送テンションは58.8N/m(6kg/m)〜98N/m(10kg/m)に調節した。
【0057】
比較例2においては、流延開始から20時間後に内壁面への液状物の付着が認められ、液滴として内壁面を流れ落ちることを確認した。
【0058】
[比較例3]
比較例1と同様な乾燥ケーシングを用いた。内壁面の温度は50℃であった。また、乾燥ケーシング内の搬送テンションは156.8N/m(16kg/m)〜215.6N/m(22kg/m)に調節した。
【0059】
比較例3においては、流延開始から15時間後に内壁面に液状物の付着が認められ、液滴として内壁面を流れ落ちることを確認した。
【0060】
[寸度変化率]
実施例1〜5及び比較例1〜3で製造したそれぞれのサンプルフィルムを90℃で120時間処理した際の寸度変化率(%)を調べた。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
Figure 0004117094
【0062】
以上の結果より、比較例では低分子量物質の液状付着および滴下が認められたが、実施例では長時間に亘って液状物の付着は認められなかった。また、製品フィルムの寸度変化を調べた結果、搬送テンションが大きい比較例では大きな熱収縮による寸度の変化が認められたのに対し、実施例では寸度変化は非常に小さく、比較例の約1/2であることが分かった。
【0063】
【発明の効果】
本発明は、セルロースエステルフィルムを溶液製膜法で製造する際、乾燥ケーシング内において可塑剤、紫外線吸収剤等の低分子量物質がフィルムに付着するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明によるセルロースエステルフィルムの乾燥方法を実施する溶液製膜装置の概略模式図である。
【図2】 本発明によるセルロースエステルフィルムの乾燥方法を実施する溶液製膜装置の概略模式図である。
【符号の説明】
1…セルローストリアセテートフィルム
10…ドープ調製工程
20…流延工程
30…乾燥工程
31…乾燥ケーシング
32…搬送ローラー
33…乾燥風排気管
34…乾燥風供給管
35…給気ファン
36…新鮮風導入口
37…乾燥風排気管
40…乾燥工程
41…乾燥ケーシング
42…搬送ローラー
43…乾燥風排気管
44…乾燥風供給管
45…給気ファン
46…凝縮装置
47…溶剤吸着装置

Claims (8)

  1. 乾燥ケーシング内でフィルムを搬送させつつ乾燥風を循環させてフィルムを乾燥させる方法において、前記乾燥ケーシング内の乾燥風に接触する部分の温度が、乾燥風に含まれる低分子量物質の飽和温度より5℃以上高いことを特徴とするセルロースアセテートフィルムの乾燥方法。
  2. 前記乾燥風による乾燥温度が100℃以上であって、かつ、乾燥ケーシング内の低分子量物質の飽和温度が60℃以下である請求項1に記載のセルロースエステルアセテートフィルムの乾燥方法。
  3. 前記乾燥ケーシング内に新鮮風を導入するとともに、乾燥ケーシング内の低分子量物質を含む乾燥風を外部へ排気することにより、乾燥ケーシング内の低分子量物質の濃度を一定以下に保つ請求項1又は2に記載のセルロースエステルフィルムの乾燥方法。
  4. 前記乾燥風の循環経路において新鮮風を導入するとともに、乾燥ケーシング内の低分子量物質を含む乾燥風を外部へ排気する請求項3に記載のセルロースエステルフィルムの乾燥方法。
  5. 前記乾燥風の循環経路において低分子量物質を凝縮又は吸着することにより、乾燥ケーシング内の低分子量物質の濃度を一定以下に保つ請求項1又は2に記載のセルロースエステルフィルムの乾燥方法。
  6. 前記乾燥ケーシング内において発生した低分子量物質を凝縮又は吸着分離することにより、乾燥ケーシング内の低分子量物質の濃度を一定以下に保つ請求項1又は2に記載のセルロースエステルフィルムの乾燥方法。
  7. 前記乾燥ケーシング内で発生し、凝縮又は吸着分離された低分子量物質を原料の一部としてリサイクル利用することを特徴とする請求項1又は2に記載のセルロースエステルフィルムの乾燥方法。
  8. 乾燥中のフィルム搬送テンションが98N/m(10kg/m)以下である請求項1、2、3、4、5又6に記載のセルロースエステルフィルムの乾燥方法。
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