JP4116706B2 - セメント添加剤とそれに用いる親水性グラフト重合体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、セメント添加剤と、それに用いる親水性グラフト重合体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
セメント水ペースト(セメント水スラリー)、モルタル、コンクリート等のセメント組成物は、多くの建築、土木建造物にとって不可欠な材料である。
一般に、セメント組成物の良好な作業性を得るためには、セメントに対する水の量(W/C)を大きくしてセメント組成物の流動性を高めればよいが、W/Cを大きくするにつれてセメント組成物の硬化体の強度が低下してしまう。そこで、逆にW/Cを低くしても良好な作業性を確保でき、所望の高強度を任意に得ることのできる様々な減水剤(セメント分散剤)をセメント組成物に添加することが提案されてきた。このような減水剤としては、たとえば、ナフタレン系の減水剤が広く知られている。しかし、この減水剤には、到達減水率が低いという問題点があった。
【0003】
一方、セメント組成物に含まれる空気は連行空気と呼ばれ、その量が多いと硬化後のセメント組成物の強度が低下し、逆に連行空気量が少ないと凍結融解に対する抵抗性が低下する。したがって、連行空気の量には最適な量が存在し、過大に空気を連行してしまう減水剤は好ましくない。
このような理由で、高い減水性能(セメント分散性能)と適度な空気連行性(AE性)を併せ持つ減水剤が求められている。また、減水剤は、できるだけ安価で入手しやすいものが好ましい。
【0004】
特開昭55−71710号公報、特開昭59−62614号公報、特開平7−53645号公報、特開平8−208769号公報、特開平8−208770号公報等には、ポリエーテル化合物に(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸系単量体をグラフト重合して得られる親水性グラフト重合体が開示されており、特開平7−53645号公報、特開平8−208769号公報、特開平8−208770号公報に、この重合体がセメントの水スラリー用分散剤として使用できることが記載されている。
【0005】
しかし、特開昭55−71710号公報、特開昭59−62614号公報、特開平7−53645号公報、特開平8−208769号公報、特開平8−208770号公報等に開示の上記親水性グラフト重合体は、セメントの水スラリーに実際に添加した場合、セメント分散性能を十分に得ることができないという問題点があった。また、この親水性グラフト重合体がセメント水スラリー以外のセメント組成物、たとえば、モルタルやコンクリートにもセメント添加剤として使用できるかどうかは前記公報には全く開示されていない。
【0006】
他方、欧州特許公開第0271435(A2)号公報には、数平均分子量200〜30,000のポリエーテル化合物に不飽和カルボン酸系単量体をグラフト重合して得られる数平均分子量50,000以下の親水性グラフト重合体を、モルタルやコンクリート等のセメント組成物の流動化剤(減水剤)として用いた例が開示されている。上記欧州公報では、この親水性グラフト重合体が少ない添加量で流動化剤として機能するとされている(第2頁第13行)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記欧州公報に開示の親水性グラフト重合体は、セメント添加剤を安く提供する目的には適っているが、充分な流動性を得るためには、実際にはたくさん使わなければならず、もう一つ経済的効果が充分に出ない。
そこで、本発明の第1の課題は、上記問題点を解消し、少ない添加量でセメント分散性(減水性)が高い新規なセメント添加剤と、それに用いる親水性グラフト重合体の製造方法を提供することにある。
【0008】
また、本発明の第2の課題は、上記問題点を解消し、少ない添加量でセメント分散性(減水性)が高く、しかも適度な空気連行性(AE性)を持つ新規なセメント添加剤と、それに用いる親水性グラフト重合体の製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、充分なセメント分散性を得るのに必要な親水性グラフト重合体の添加量を減らすためにはどうすればよいかと種々検討を重ねた。その結果、親水性グラフト重合体の分子量を高い方に持っていけばよいと考えついた。しかしながら、上記欧州公報に開示の実施例のように不飽和カルボン酸系単量体としてアクリル酸のみを用い、分子量の高い親水性グラフト重合体を作ろうとしても、増粘してうまくいかない。これは、アクリル酸のように重合速度の非常に速い不飽和カルボン酸系単量体を用いると、不飽和カルボン酸系単量体がポリエーテル主鎖の異なる結合点にグラフトされる反応よりも、一旦形成された同じグラフト鎖(側鎖)に不飽和カルボン酸系単量体が次々に重合してグラフト鎖が長くなるグラフト鎖延長反応の方が優先的に進み、その結果、グラフト鎖の数が少なく、しかもグラフト鎖の長い親水性グラフト重合体しか生成しないためと推定される。そこで、不飽和カルボン酸系単量体として、アクリル酸よりも重合速度の遅いマレイン酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸を入れてみると、グラフト鎖延長反応が抑えられ、不飽和カルボン酸系単量体がポリエーテル主鎖の異なる結合点にグラフトされる反応の方が優先して起きて、グラフト鎖の数が多く、しかもグラフト鎖の短い親水性グラフト重合体が生成した。その結果、増粘が起きずに分子量が高いものがうまく作れた。
【0010】
さらに、(1)α,β−不飽和ジカルボン酸を用いて得られる上記親水性グラフト重合体の中でも、下記特定値以上の重量平均分子量を持つ親水性グラフト重合体を用いれば、少ない添加量で高いセメント分散性が得られることと、(2)上記(1)の親水性グラフト重合体において、ポリエーテル化合物として下記特定値以上の重量平均分子量を持つものを用い且つ不飽和カルボン酸系単量体をポリエーテル化合物に対して下記特定範囲の量使用しグラフト重合させて得られた親水性グラフト重合体を用いれば、少ない添加量で、高いセメント分散性だけでなく、適度なAE性も併せて得られることを実験で確認して、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明のセメント添加剤は、α,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物を必須とする不飽和カルボン酸系単量体を必須成分として含むエチレン性不飽和単量体をポリエーテル化合物にグラフト重合してなる重量平均分子量15,000以上の親水性グラフト重合体を必須成分として含み、前記ポリエーテル化合物が重量平均分子量10,000以上のものであり、前記不飽和カルボン酸系単量体中の前記α,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物の割合が20〜80重量%であり、前記エチレン性不飽和単量体中の前記不飽和カルボン酸系単量体の割合が60重量%以上であり、前記エチレン性不飽和単量体の使用量は、当該エチレン性不飽和単量体中の前記不飽和カルボン酸系単量体の前記ポリエーテル化合物に対する割合が0.1〜45重量%となる使用量である、ことを特徴とする。
【0012】
本発明のセメント添加剤用親水性グラフト重合体の製造方法は、α,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物を必須とする不飽和カルボン酸系単量体を必須成分として含むエチレン性不飽和単量体をポリエーテル化合物にグラフト重合することにより重量平均分子量15,000以上の親水性グラフト重合体を得る工程を含み、前記ポリエーテル化合物として重量平均分子量10,000以上のものを用いるとともに、前記不飽和カルボン酸系単量体中の前記α,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物の割合を20〜80重量%とし、前記エチレン性不飽和単量体中の前記不飽和カルボン酸系単量体の割合を60重量%以上とし、前記エチレン性不飽和単量体の使用量を、当該エチレン性不飽和単量体中の前記不飽和カルボン酸系単量体の前記ポリエーテル化合物に対する割合が0.1〜45重量%となる使用量とする、ことを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下では、まず、ポリエーテル化合物とエチレン性不飽和単量体を説明した後、親水性グラフト重合体とその製造方法について説明し、最後に、セメント添加剤と、それを用いたセメント組成物全体の構成について説明する。
〔ポリエーテル化合物〕
ポリエーテル化合物は、本発明のセメント添加剤の必須成分として用いられる親水性グラフト重合体を得るための原料として用いられる。
【0015】
ポリエーテル化合物は、得られる親水性グラフト重合体のグラフト率向上、セメント分散性能の向上、親水性の向上等のためには、構成単位として、下記一般式(1)で示される繰り返し単位(すなわち、エチレンオキシド単位および/またはプロピレンオキシド単位)を、ポリエーテル化合物全体に対し、好ましくは40mol%以上、より好ましくは60mol%以上、さらに好ましくは80mol%以上有する。
【0016】
−RCH−CH2 −O− (1)
(但し、Rは水素原子およびメチル基からなる群から選ばれた少なくとも1種であり、1分子中に混在してもよい。)
ポリエーテル化合物は、特に限定されるわけではないが、たとえば、アルキレンオキシド(好ましくはエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシド、さらには必要に応じてそれらと共重合可能な他のアルキレンオキシド)を、水、アミン類、アルコール類およびフェノール類からなる群から選ばれた少なくとも1種を開始点として公知の方法で重合することにより得ることができる。ポリエーテル化合物を得るための前記アルコール類としては、特に限定はされないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール等の炭素数1〜22の1級アルコール;iso−プロピルアルコールや、n−パラフィンを酸化して得られるアルコール等の炭素数3〜18の2級アルコール;tert−ブタノール等の3級アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、プロピレングリコール等のジオール類;グリセリン、トリメチロールプロパン等のトリオール類;ソルビトール等のポリオール類等が例示され、これらを1種のみまたは2種以上使用できる。また、ポリエーテル化合物を得るためのフェノール類としては、特に限定はされないが、例えば、フェノール、クレゾール、ビスフェノールA、サリチル酸、トリメチロールフェノール、レゾール、ノボラック等が挙げられ、これらを1種のみまたは2種以上使用できる。また、ポリエーテル化合物を得るためのアミン類としては、特に限定はされないが、たとえば、アニリン、ナフチルアミン、エチレンジアミン等が挙げられ、これらを1種のみまたは2種以上使用できる。
【0017】
エチレンオキシドやプロピレンオキシドと共重合可能な他のアルキレンオキシドとしては、特に限定はないが、たとえば、ブチレンオキシド、スチレンオキシド、テトラヒドロフラン等を挙げることができ、これらが1種または2種以上使用される。しかし、これらの共重合可能な他のアルキレンオキシドは、親水性が極端に低いため、ポリエーテル化合物全体に対し、好ましくは60mol%未満、より好ましくは40mol%未満、さらに好ましくは20mol%未満である。他のアルキレンオキシド構成単位の割合が60mol%を超えると、粘度が高くなって取扱いにくくなるとともに、親水性が低下してセメント分散能が低下することがある。
【0018】
本発明で用いられる親水性グラフト重合体がより高いセメント分散性能を発現するためには、その原料のポリエーテル化合物の親水性が高いほど好ましい。ポリエーテル化合物の親水性をより高くするためには、ポリエーテル化合物の有する繰り返し単位がエチレンオキシドだけからなることが最も好ましい。
さらに、ポリエーテル化合物の例として、上記のようにして得られたポリエーテルから誘導された誘導体も挙げられる。このような誘導体としては、特に限定はされないが、たとえば、ポリエーテルの末端官能基を変換してなる末端基変換体や、ポリエーテルと、カルボキシル基、イソシアネート基、アミノ基、ハロゲン基等の基を1分子中に複数個有する架橋剤とを反応させて得られる架橋体等を挙げることができる。末端基変換体としては、特に限定はされないが、たとえば、上記ポリエーテルのすべての末端、または一部の末端の水酸基を、(1)炭素数2〜22の脂肪酸、コハク酸、無水コハク酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アジピン酸等のジカルボン酸(無水物)でエステル化したものや、(2)ハロゲン化アルキルを用いた脱ハロゲン化水素反応でアルコキシ化したもの(すなわちアルコキシポリアルキレングリコール)等も挙げられる。
【0019】
ポリエーテル化合物の重量平均分子量は、特に限定はされないが、得られる親水性グラフト重合体がそのポリエーテル部分の立体反発によって高いセメント分散性能を発現し、且つ、適度なAE性を発揮するためには、好ましくは6,000以上、より好ましくは10,000以上、さらに好ましくは20,000以上である。
〔エチレン性不飽和単量体〕
ポリエーテル化合物にグラフト重合するエチレン性不飽和単量体は、得られる親水性グラフト重合体のセメントへの吸着性を向上させてセメント分散能を向上させる等のために、不飽和カルボン酸系単量体を必須成分として含む。
【0020】
不飽和カルボン酸系単量体は、適度な速度でポリエーテル化合物にグラフト重合させて増粘を防止するために、α,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物を必須とする。α,β−不飽和ジカルボン酸としては、特に限定はされないが、たとえば、マレイン酸、フマル酸、メサコン酸、シトラコン酸等が挙げられ、これらを1種のみまたは複数種用いることができる。α,β−不飽和ジカルボン酸の無水物としては、特に限定はされないが、たとえば、無水マレイン酸、無水シトラコン酸等が挙げられ、これらを1種のみまたは複数種用いることができる。α,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物の中でも、マレイン酸、フマル酸および無水マレイン酸からなる群から選ばれた少なくとも1種が、容易に入手できる点から好ましい。
【0021】
不飽和カルボン酸系単量体としては、α,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物が必ず用いられるが、必要に応じ、その他の不飽和カルボン酸系単量体をα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物と併用してもよい。
併用可能な他の不飽和カルボン酸系単量体としては、特に限定はされないが、たとえば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、(無水)イタコン酸等が挙げられ、これらを1種のみまたは複数種用いることができる。
【0022】
用いられる不飽和カルボン酸系単量体全量に対してα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物が占める割合は、特に限定はされないが、適度な速度でポリエーテル化合物にグラフト重合させて増粘を防止するためには、好ましくは0.1〜99.9重量%、より好ましくは1〜99重量%、さらに好ましくは10〜90重量%、さらにより好ましくは20〜80重量%である。
【0023】
セメント分散能のさらなる向上等のためには、不飽和カルボン酸系単量体が(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸および無水マレイン酸からなる群から選ばれた少なくとも1種を必須成分として含むことが好ましく、不飽和カルボン酸系単量体がマレイン酸、フマル酸および無水マレイン酸からなる群から選ばれた少なくとも1種と、(メタ)アクリル酸とを必須成分として含むことがより好ましく、不飽和カルボン酸系単量体がマレイン酸および無水マレイン酸のうちの少なくとも1種とアクリル酸とを必須成分として含むことがさらに好ましい。
【0024】
ポリエーテル化合物にグラフト重合するエチレン性不飽和単量体としては、不飽和カルボン酸系単量体が必ず用いられるが、必要に応じ、不飽和カルボン酸系単量体とともに、それと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体も使用できる。不飽和カルボン酸系単量体と共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体としては、不飽和カルボン酸系単量体以外のエチレン性不飽和単量体であれば、特に限定はされないが、たとえば、エチレン性不飽和カルボン酸エステル類(たとえば、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル等のマレイン酸のアルキルエステル類;フマル酸モノメチル、フマル酸ジメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル等のフマル酸のアルキルエステル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等のような水酸基を有する不飽和カルボン酸エステル類;(メトキシ)ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ナフトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、モノフェノキシポリエチレングリコールマレエート、カルバゾールポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類等);スチレン等の芳香族ビニル系単量体類;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド等のアミド基含有ビニル系単量体類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン類;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のトリアルキルオキシシリル基含有ビニル系単量体類;γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン等のケイ素含有ビニル系単量体類;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド誘導体;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系単量体類;(メタ)アクロレイン等のアルデヒド基含有ビニル系単量体類;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート類等のアミノ基含有ビニル系単量体類;(メトキシ)ポリエチレングリコール(メタ)アリルエーテル、(メトキシ)ポリエチレングリコールイソプロペニルエーテル等の不飽和エーテル類;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、ビニルスルホン酸、ヒドロキシアリルオキシプロパンスルホン酸、2−ヒドロキシ−3−ブテンスルホン酸、スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有ビニル系単量体類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール等のその他の官能基含有ビニル系単量体類等を挙げることができ、これらを1種のみまたは2種以上使用できる。不飽和カルボン酸系単量体以外のエチレン性不飽和単量体が、アルキル(メタ)アクリレートから選ばれた少なくとも1種であると、スランプ保持性能の向上のため好ましい。
【0025】
エチレン性不飽和単量体中の不飽和カルボン酸系単量体の割合は、特に限定はないが、セメント分散能の向上等のためには、エチレン性不飽和単量体全量に対して、好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、最も好ましくは100重量%である。
不飽和カルボン酸系単量体およびその他のエチレン性不飽和単量体は、そのままの形で使用できるが、酸基、酸エステル基またはアミン基を有する場合には、その一部あるいは全部をアルカリ性物質や酸性物質により塩に変換して用いることもできる。
〔親水性グラフト重合体〕
本発明のセメント添加剤の必須成分として用いられる親水性グラフト重合体は、セメント分散能を高める成分であり、ポリエーテル化合物にエチレン性不飽和単量体をグラフト重合して得られる重合体である。親水性グラフト重合体は、ポリエーテル化合物に由来するポリエーテル部分と、ポリエーテル部分にエチレン性不飽和単量体がグラフト重合したグラフト鎖部分とからなっている。
【0026】
親水性グラフト重合体の重量平均分子量は、少ない添加量で高いセメント分散性能を得るためには、大きい値が好ましい。具体的には、通常6,000以上、好ましくは7,000以上、より好ましくは10,000以上、さらに好ましくは15,000以上である。
〔親水性グラフト重合体の製造方法〕
本発明で用いられる親水性グラフト重合体を製造する方法については、ポリエーテル化合物にエチレン性不飽和単量体をグラフト重合する方法であれば、特に限定はないが、グラフト率を上げてセメント分散能を向上させる等の点から、たとえば、重合開始剤の存在下で、ポリエーテル化合物にエチレン性不飽和単量体をグラフト重合させる方法が好ましい。重合開始剤としては、特に限定はされず、公知のラジカル開始剤を使用することができるが、特に有機過酸化物が、反応性等の点から好ましい。
【0027】
有機過酸化物としては、特に限定はされないが、たとえば、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、2−(4−メチルシクロヘキシル)−プロパンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類;ジ−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(tert−ブチルパーオキシ)p−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(tert−ブチルパーオキシ)p−イソプロピルヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキサイド類;tert−ブチルパーオキシアセテート、tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−tert−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ブチルパーオキシビバレート、tert−ブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルエキサノエート、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルシクロヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシマレイン酸、クミルパーオキシオクトエート、tert−ヘキシルパーオキシビバレート、tert−ヘキシルパーオキシネオヘキサノエート、クミルパーオキシネオヘキサノエート等のパーオキシエステル類;n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレエート、2,2−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ブタン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(tert−ブチルパーオキシ)オクタン等のパーオキシケタール類;アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノイルパーオキサイド、サクシニックアシッドパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m−トルイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ビス−(4−tert−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジミリスチルパーオキシジカーボネート、ジ−メトキシイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジ−アリルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類;アセチルシクロヘキシルスルフォニルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシアリルカーボネート等のその他の有機過酸化物類等を挙げることができ、これらが1種または2種以上使用される。
【0028】
なお、有機過酸化物とともに、有機過酸化物の分解触媒や、還元性化合物を併用してもよい。
重合開始剤の量は特に制限はないが、エチレン性不飽和単量体に対して好ましくは0.1〜15重量%、より好ましくは0.5〜10重量%である。これより少なくても多くても、ポリエーテル化合物へのグラフト率が低下する。また、重合開始剤は予めポリエーテル化合物に添加しておくこともできるが、エチレン性不飽和単量体に添加しておいたり、エチレン性不飽和単量体と同時に反応系へ添加したりすることもできる。
【0029】
重合方法としては、特に限定はされず、たとえば、重合開始剤を用いての溶液重合や塊状重合等の公知の重合方法を採用できる。溶液重合を行う際に用いられる溶媒としては、特に限定はされないが、重合効率に悪影響を及ぼさない溶媒が好ましい。そのような溶媒としては、特に限定はされないが、たとえば、水;n−ブタン、プロパン、ベンゼン、シクロヘキサン、ナフタレン等の炭化水素系;塩化メチル、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系;プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、イソアミルアルコール等のアルコール系;エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル等のエーテル系;メチルエチルケトン、エチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系;酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸エチル、乳酸エチル等のエステル系;ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の酸系;(ポリ)エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコール、プロピレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールとその誘導体系等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0030】
重合方法は、回分式でも連続式でも行うことができる。
グラフト重合の温度は80℃以上であることが好ましく、より好ましくは100℃以上160℃以下である。80℃より低いと、グラフト重合が進行しにくく、ポリエーテル化合物へのエチレン性不飽和単量体のグラフト効率が低下する恐れがある。他方、160℃より高い温度では、原料のポリエーテル化合物および得られた親水性グラフト重合体の熱分解が起こる恐れがある。
【0031】
グラフト重合の際、ポリエーテル化合物は、その一部または全量を初期に仕込むことが好ましい。また、エチレン性不飽和単量体として、マレイン酸、フマル酸および無水マレイン酸からなる群より選ばれた少なくとも一つの単量体と、(メタ)アクリル酸とを併用して、ポリエーテル化合物にグラフト重合する場合、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸のうちの半量以上を予めポリエーテル化合物に混合し、これらをポリエーテル化合物の流動点(温度)以上に加熱した後、得られた混合物に残部のエチレン性不飽和単量体および重合開始剤を別々に添加して、グラフト重合することが好ましい。この方法により、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸の親水性グラフト重合体への導入率を大幅に向上させることができる。
【0032】
ポリエーテル化合物にエチレン性不飽和単量体をグラフト重合させる際に用いられるエチレン性不飽和単量体の量は、特に限定はされないが、エチレン性不飽和単量体中に含まれる不飽和カルボン酸系単量体が、ポリエーテル化合物に対し、好ましくは0.1〜45重量%、より好ましくは1〜40重量%、さらに好ましくは2〜35重量%となる量である。上記量が0.1重量%未満だと、得られる親水性グラフト重合体がセメントに吸着しにくくなってセメント分散能が低下したり、適度なAE性が得られなかったりする傾向があり、45重量%を超えると、得られる親水性グラフト重合体のセメント分散能が低下したり、適度なAE性が得られなかったり、反応混合物の粘度が高くなって取り扱いにくくなったりする傾向がある。
【0033】
上記製造方法で得られた親水性グラフト重合体は、そのままセメント添加剤として使用してもよいが、水やアルコール等の溶剤に溶解させたものをセメント添加剤として使用することもできる。また、親水性グラフト重合体がカルボキシル基、スルホン酸基等の酸基やそのエステル基を有する場合、塩基を添加して酸基やそのエステル基を塩に変換したものをセメント添加剤として使用してもよい。塩基としては、特に限定はされないが、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属の炭酸塩;アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類等を挙げることができ、これらが1種または2種以上使用される。また、溶剤としては水が好ましい。
【0034】
親水性グラフト重合体の製造方法は、上記方法に限定されるものではなく、たとえば、特開平7−53645号公報、特開平8−208769号公報、特開平8−208770号公報等に記載される公知の方法でもよい。
〔セメント添加剤〕
本発明のセメント添加剤は、前記親水性グラフト重合体を必須成分として含み、必要に応じて、前述の溶剤や下記のその他の成分をさらに含む。セメント添加剤中、親水性グラフト重合体の濃度は特に限定はされない。
【0035】
本発明のセメント添加剤は、必要に応じ、公知の添加剤をさらに含むことができる。そのような添加剤としては、特に限定はされないが、たとえば、減水剤、AE減水剤、流動化剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、増粘剤、消泡剤、収縮低減剤、膨張剤、防錆剤、強度増進剤、防カビ剤、セメント分散剤、AE(空気連行)剤、セメント湿潤剤、水溶性高分子物質、防水剤、硬化遅延剤、硬化促進剤、急結剤、凝集剤等を挙げることができる。これらは1種類のみを用いてよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。その配合割合は特に限定されるものではない。
【0036】
本発明のセメント添加剤は、たとえば、従来公知のコンクリート工法等に広く使用される。そのような工法としては、特に限定はされないが、たとえば、高強度コンクリート工法、超高強度コンクリート工法、高流動コンクリート工法、フローイングコンクリート工法等を挙げることができる。
本発明のセメント添加剤の使用形態は、特に限定はされず、たとえば、そのまま固形状または粉末状等の形で用いたり、水と混合して水溶液または水分散液等の形で使用したりすることができる。
【0037】
本発明のセメント添加剤の中でも、下記の評価方法でモルタルフロー値110mmかつ空気連行量11±2vol%を得るのに必要な添加量が親水性グラフト重合体のセメントに対する固形分換算で0.5重量%以下であるものが、経済性の点で好ましい。
(評価方法):
普通ポルトランドセメント400重量部と豊浦産標準砂800重量部とをホバート型モルタルミキサー(型番N−50、テスコ(株)製)で30秒間空練りした後、前記セメント添加剤を含む水240重量部を添加し、3分間混練することにより、モルタルを得る。
【0038】
得られたモルタルを、水平なテーブルに置かれた内径と高さが共に55mmの中空円筒に擦り切りまで充填し、この円筒を静かに垂直に持ち上げた後にテーブルに広がったモルタルの長径と短径を測定し、その平均値をモルタルフロー値とする。
なお、連行空気量の少ないセメント組成物の評価に際しては、AE(空気連行)剤を用いてモルタルの連行空気量を約11%に調整する。また、空気量は、得られたモルタルの容積、重量および用いた材料の比重から算出する。
〔セメント組成物〕
本発明のセメント添加剤が配合されるセメント組成物としては、従来公知のものを使用でき、特に限定はされないが、たとえば、セメントと水とを含むセメント水ペースト(セメント水スラリー);セメントと水と砂とを含むモルタル;セメントと水と砂と石とを含むコンクリート等が挙げられる。
【0039】
セメント組成物に配合されるセメントとしては、従来公知のものを使用でき、特に限定はされないが、たとえば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント等のポルトランドセメントや、シリカセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメント、ビーライト高含有セメント、各種混合セメント等が挙げられる。その中でも、ポルトランドセメントが通常よく使用されるため好ましい。なお、セメントは1種のみを使用してよいし、2種以上を適宜組み合わせて使用してよい。
【0040】
セメント組成物におけるセメント添加剤の配合割合は、特に限定はされないが、たとえば、セメント添加剤の必須成分である親水性グラフト重合体のセメントに対する固形分換算で、好ましくは0.0001〜10重量%、より好ましくは0.001〜5重量%、さらに好ましくは0.005〜3重量%、最も好ましくは0.01〜1重量%である。セメント添加剤の配合割合が0.0001重量%未満だと、セメント分散性向上効果が小さいことがあり、また、10重量%を超えると、セメント組成物の硬化遅延が生じやすくなることがある。
【0041】
セメント組成物における水の配合割合は、特に限定はされないが、たとえば、セメントに対して、好ましくは10〜80重量%、より好ましくは15〜75重量%、さらに好ましくは20〜70重量%、最も好ましくは25〜65重量%である。水の配合割合が10重量%未満だと、各種成分の混合が不十分となって成形できなかったり、強度が低下したりする場合がある。また、80重量%を超えると、セメント組成物の硬化体の強度が低下する場合がある。
【0042】
セメント組成物をモルタルやコンクリートとして用いる場合にセメント組成物に配合される砂としては、従来のセメント組成物に用いられるものを使用でき、特に限定はされないが、たとえば、自然作用によって岩石からできた川砂、海砂、山砂等の天然の細骨材;これらの岩石やスラブを粉砕した人工の細骨材;軽量細骨材等が挙げられる。砂の配合量についても、従来のセメント組成物と同様でよく、特に限定はされない。
【0043】
セメント組成物をコンクリートとして用いる場合にセメント組成物に配合される石としては、従来のセメント組成物に用いられるものを使用でき、特に限定はされないが、たとえば、自然作用によって岩石からできた川砂、海砂、山砂等の天然の粗骨材;これらの岩石やスラブを粉砕した人工の粗骨材;軽量粗骨材等が挙げられる。石の配合量についても、従来のセメント組成物と同様でよく、特に限定はされないが、たとえば、細骨材率として、好ましくは20〜60%、より好ましくは30〜50%である。細骨材率が20%未満だと、がさがさのコンクリートとなり、スランプの大きいコンクリートでは粗骨材とモルタル分が分離しやすくなる場合がある。また、60%を超えると、単位セメント量および単位水量を多く必要とし、また、流動性の悪いコンクリートとなる場合がある。
【0044】
セメント組成物には、必要に応じて、その他の材料が配合されていてもよい。その他の材料としては、従来のセメント組成物と同様のものを用いることができ、特に限定はされないが、たとえば、シリカヒューム、高炉スラブ、シリカ粉末、鋼繊維、ガラス繊維等の繊維質材料等が挙げられる。これらの材料の配合量は、特に限定はされず、従来のセメント組成物と同様でよい。
【0045】
本発明のセメント添加剤を配合したセメント組成物を作製する方法としては、特に限定はされないが、従来のセメント組成物と同様の方法、たとえば、セメントと水と必要に応じその他の配合材料とを混合する時に本発明のセメント添加剤、その水分散液または水溶液を配合して一緒に混合する方法;セメントと水と必要に応じその他の配合材料とを予め混合しておき、得られた混合物に本発明のセメント添加剤、その水分散液または水溶液を添加混合する方法;セメントと必要に応じその他の配合材料とを予め混合しておき、得られた混合物に本発明のセメント添加剤、その水分散液または水溶液と水とを添加混合する方法;セメントと、本発明のセメント添加剤、その水分散液または水溶液と、必要に応じその他の配合材料とを予め混合しておき、得られた混合物に水を添加混合する方法等が挙げられる。
【0046】
なお、本発明のセメント添加剤が親水性グラフト重合体以外の添加剤をも含む場合には、親水性グラフト重合体とその他の添加剤を別々に添加することもできる。
前記親水性グラフト重合体を必須成分とする本発明のセメント添加剤をセメント組成物に配合すると、セメント添加剤に含まれる親水性グラフト重合体の分子構造中、ポリエーテル化合物にグラフト重合したエチレン性不飽和単量体に由来するグラフト鎖部分がセメントに吸着し、ポリエーテル化合物に由来するポリエーテル部分の立体反発(静電気的反発)および親水性により、セメントの分散性が向上する。そのため、セメント添加剤の配合による大きな硬化遅延をもたらすことなく、セメント組成物に高い流動性が付与され、かつ、その可使時間が長くなるので、セメント組成物を用いた工事の作業性が著しく改善される。したがって、本発明のセメント添加剤は、たとえば、レディミクストコンクリートをはじめとするコンクリートの流動化剤等として使用できる。特に、プラント同時添加型の高性能AE減水剤として高減水率配合のレディミクストコンクリートの製造を容易に実現できる。
【0047】
本発明のセメント添加剤は、コンクリート二次製品製造用高性能減水剤としても使用することができ、水を減らし、強度を高くすることができる。
【0048】
【実施例】
以下に本発明の具体的な実施例、参考例、および比較例を示すが、本発明は下記実施例に限定されない。なお、下記例中、重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、測定機種として日本ウォーターズ(株)製のLC Module 1 plusを用いて、標準ポリエチレンオキシドで検量線を作成し、その換算値として測定したものである。
【0049】
まず、セメント添加剤を以下の方法により調製した。
<実施例1>
温度計、攪拌機、窒素導入管、環流冷却器を備えたガラス製反応器に、重量平均分子量13,000のポリエチレングリコール214重量部、無水コハク酸6.2重量部およびマレイン酸7.3重量部を仕込んで、窒素気流下、120℃まで加熱して溶融混合した。次に、温度を128±3℃に保ちながら、アクリル酸10.6重量部、t−ブチルパーオキシベンゾエート1.8重量部を別々に30分間にわたって連続的に滴下し、その後1時間攪拌を続けた。冷却後、水200重量部を加え、さらに水酸化ナトリウム水溶液(30重量%溶液)をpH8となる量加えることにより、親水性グラフト重合体1のナトリウム塩水溶液を得た。これをセメント添加剤(1)と称する。
【0050】
得られた親水性グラフト重合体1の重量平均分子量(Mw)は17,400であった。
<実施例2>
実施例1と同様の反応器に、重量平均分子量20,000のポリエチレングリコール100重量部、無水コハク酸2重量部および無水マレイン酸11.5重量部を仕込んで、窒素気流下、120℃まで加熱して溶融混合した。次に、温度を128±3℃に保ちながら、アクリル酸6重量部、t−ブチルパーオキシベンゾエート1重量部を別々に15分間にわたって連続的に滴下し、その後45分間攪拌を続けた。冷却後、水480重量部を加え、さらに水酸化ナトリウム水溶液(30重量%溶液)をpH8となる量加えることにより、親水性グラフト重合体2のナトリウム塩水溶液を得た。これをセメント添加剤(2)と称する。
【0051】
得られた親水性グラフト重合体2の重量平均分子量(Mw)は32,500であった。
<参考例1>
実施例1と同様の反応器に、重量平均分子量5,000のメトキシポリエチレングリコール100重量部および無水マレイン酸23.8重量部を仕込んで、窒素気流下、120℃まで加熱して溶融混合した。次に、温度を128±3℃に保ちながら、アクリル酸26.2重量部、t−ブチルパーオキシベンゾエート5重量部を別々に15分間にわたって連続的に滴下し、その後45分間攪拌を続けた。冷却後、水600重量部を加え、さらに水酸化ナトリウム水溶液(30重量%溶液)をpH8となる量加えることにより、親水性グラフト重合体3のナトリウム塩水溶液を得た。これをセメント添加剤(3)と称する。
【0052】
得られた親水性グラフト重合体3の重量平均分子量(Mw)は57,100であった。
<参考例2>
実施例1と同様の反応器に、重量平均分子量13,000のポリエチレングリコール100重量部、無水コハク酸3.1重量部および無水マレイン酸23.8重量部を仕込んで、窒素気流下、120℃まで加熱して溶融混合した。次に、温度を128±3℃に保ちながら、アクリル酸26.2重量部、t−ブチルパーオキシベンゾエート5重量部を別々に15分間にわたって連続的に滴下し、その後45分間攪拌を続けた。冷却後、水600重量部を加え、さらに水酸化ナトリウム水溶液(30重量%溶液)をpH8となる量加えることにより、親水性グラフト重合体4のナトリウム塩水溶液を得た。これをセメント添加剤(4)と称する。
【0053】
得られた親水性グラフト重合体4の重量平均分子量(Mw)は50,900であった。
<参考例3>
実施例1と同様の反応器に、重量平均分子量1,100のポリエチレングリコール252.1重量部およびマレイン酸20.9重量部を仕込んで、窒素気流下、120℃まで加熱して溶融混合した。次に、温度を128±3℃に保ちながら、アクリル酸59重量部、ジ−t−ブチルパーオキシド3.8重量部を別々に15分間にわたって連続的に滴下し、その後45分間攪拌を続けた。冷却後、水1300重量部を加え、さらに水酸化ナトリウム水溶液(30重量%溶液)をpH8となる量加えることにより、親水性グラフト重合体5のナトリウム塩水溶液を得た。これをセメント添加剤(5)と称する。
【0054】
得られた親水性グラフト重合体5の重量平均分子量(Mw)は6,700であった。
<比較例1>
実施例1と同様の反応器に、重量平均分子量250のメトキシポリエチレングリコール100重量部および無水マレイン酸43.8重量部を仕込んで、窒素気流下、120℃まで加熱して溶融混合した。次に、温度を128±3℃に保ちながら、アクリル酸48.2重量部、t−ブチルパーオキシベンゾエート4.6重量部を別々に15分間にわたって連続的に滴下し、その後45分間攪拌を続けた。冷却後、水770重量部を加え、さらに水酸化ナトリウム水溶液(30重量%溶液)をpH8となる量加えることにより、比較用親水性グラフト重合体1のナトリウム塩水溶液を得た。これを比較用セメント添加剤(1)と称する。
【0055】
得られた比較用親水性グラフト重合体1の重量平均分子量(Mw)は3,960であった。
親水性グラフト重合体の調製条件および調製結果を表1に示す。
<比較例2>
市販品の重量平均分子量20,000のポリエチレングリコール(和光純薬(株)製試薬)を比較用セメント添加剤(2)とした。
<比較例3>
市販品の重量平均分子量5,000のポリアクリル酸ソーダ((株)日本触媒製DL−40S)を比較用セメント添加剤(3)とした。
<比較例4>
市販品の花王(株)製減水剤マイティ150(ナフタレン系減水剤)を比較用セメント添加剤(4)とした。
<比較例5>
実施例1と同様の反応器に、重量平均分子量7500のポリエチレングリコール70重量部を仕込んで、窒素気流下、120℃まで加熱して溶融混合した。次に、温度を150±3℃に保ちながら、アクリル酸30重量部、ジ−t−ブチルパーオキシド0.6重量部を別々に60分間にわたって連続的に滴下した。
【0056】
反応物は、アクリル酸と開始剤の滴下を開始してから55分後位から急激に増粘し始め、攪拌羽根に沿って巻き上がってきた。
このため、攪拌の続行が不可能となり、予定していた1時間の熟成も完了することができなかった(そのため、反応物はモノマー臭が強烈であった)。
以上のようにして得られたセメント添加剤について、以下に示すモルタルフロー試験を行ってセメント分散性を評価した。
(モルタルフロー試験):
秩父小野田セメント(株)製の普通ポルトランドセメント400重量部と豊浦産標準砂800重量部とをホバート型モルタルミキサー(型番N−50、テスコ(株)製)で30秒間空練りした後、表2に示す所定量のセメント添加剤を秤量して水で希釈したもの240重量部を添加し(後述の理由で、必要に応じ、表2に示す所定量のAE(空気連行)剤(山宗化学(株)の商品名「ヴィンソル」)をも添加した)、3分間混練することにより、モルタルを得た。
【0057】
得られたモルタルを、水平なテーブルに置かれた内径と高さが共に55mmの中空円筒に擦り切りまで充填し、この円筒を静かに垂直に持ち上げた後にテーブルに広がったモルタルの長径と短径を測定し、その平均値をモルタルフロー値とした。この値が大きいほどセメント分散性(減水性)が良好であることを示す。なお、連行空気量が多いとフロー値が見かけ上大きくなるので、連行空気量を一定の条件にしてフロー値の測定を行う必要がある。そこで、連行空気量の少ないセメント組成物の評価に際しては、AE(空気連行)剤(山宗化学(株)の商品名「ヴィンソル」)を用いてモルタルの連行空気量を約11%に調整した。なお、空気量は、得られたモルタルの容積、重量および用いた材料の比重から算出した。
【0058】
結果を表2および図1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
表1、2および図1から、以下のことがわかる。
重量平均分子量6千以上のポリエーテル化合物に不飽和カルボン酸系単量体をポリエーテル化合物に対して1〜45重量%の範囲内の使用量でグラフト重合してなり且つ6千以上の重量平均分子量を有する親水性グラフト重合体を含む実施例1および2のセメント添加剤(1)および(2)は、比較例1〜4の比較用セメント添加剤(1)〜(4)のいずれと比べても、少ない添加量で高いセメント分散性が得られており、しかも空気連行性(AE性)が小さい。モルタル等のセメント組成物の連行空気量は、AE剤を用いて増やす方向で設定値に調整するのは容易だが、消泡剤を用いて減らす方向で設定値に調整するのは困難である。そのため、一定量、過剰量の消泡剤を用いる等して、予めAE性の小さな減水剤を用意しておき、全国各地の骨材や配合等に応じてAE剤で連行空気量を調整するのが常法である。AE性が小さい剤は、予め消泡剤でAE性を小さくする必要がないため、使いやすい剤と言える。
【0062】
また、参考例1〜3のセメント添加剤(3)〜(5)は、それらに含まれる親水性グラフト重合体の原料のポリエーテル化合物の重量平均分子量が6千未満であるか、あるいは、親水性グラフト重合体のもう一つの原料である不飽和カルボン酸系単量体の使用量がポリエーテル化合物に対して45重量%を超えるものの、親水性グラフト重合体の重量平均分子量が6千以上であるため、比較例1〜4の比較用セメント添加剤(1)〜(4)のいずれと比べても、少ない添加量で高いセメント分散性が得られており、しかも到達減水率が大きい。
【0063】
これに対し、比較例1の比較用セメント添加剤(1)は、それに含まれる親水性グラフト重合体の原料のポリエーテル化合物の重量平均分子量が6千未満であり、ポリエーテル化合物に対する不飽和カルボン酸系単量体の使用量が45重量%を超え、しかも親水性グラフト重合体の重量平均分子量が6千未満であるため、添加量を増やしてもフロー値が頭打ちしている(到達減水率が小さい)。無理に添加量を増やすと、材料分離(水分とセメント、骨材が不均一化(局在化)すること)を引き起こす。
【0064】
ポリエチレングリコールからなる比較例2の比較用セメント添加剤(2)と、ポリアクリル酸ソーダからなる比較例3の比較用セメント添加剤(3)は、いずれも添加量が多いにも関わらず、セメント分散性が低い。
市販の減水剤マイティ150からなる比較例4の比較用セメント添加剤(4)は、AE(空気連行)性は小さいものの、減水率が小さい。
【0065】
なお、比較例5では、不飽和カルボン酸系単量体として、重合速度の非常に速いアクリル酸を単独で用いたため、増粘が起き、親水性グラフト重合体をうまく作ることができなかった。
【0066】
【発明の効果】
本発明のセメント添加剤は、高いセメント分散性を持つ前記特定の親水性グラフト重合体を必須成分として含むため、大きな硬化遅延をもたらすことなく、セメント組成物に高い流動性を付与し、かつ、その可使時間を長くすることができるので、セメント組成物を用いた工事の作業性を著しく改善することができる。
【0067】
また、本発明のセメント添加剤は、高いセメント分散性だけでなく適度な空気連行性(AE性)も併せ持つ前記特定の親水性グラフト重合体を必須成分として含むため、高いセメント分散性による上記効果を持つとともに、適度なAE性により、硬化後のセメント組成物の強度を保持し、且つ、凍結融解に対する抵抗性も保持することもできる。
【0068】
本発明のセメント添加剤は、いずれも、少ない添加量で上記優れた性能を発揮できるため、経済性も高い。また、これらのセメント添加剤に用いられる親水性グラフト重合体は、その原料のエチレン性不飽和単量体の必須成分である不飽和カルボン酸系単量体がα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物を含み、このα,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物のグラフト重合速度が適度に遅いため、不飽和カルボン酸系単量体としてアクリル酸を単独で用いた場合のような増粘を起こすことなく容易かつ安価に得ることができる。
【0069】
本発明のセメント添加剤用親水性グラフト重合体の製造方法によれば、それぞれ、上記優れた性能を発揮する本発明のセメント添加剤に用いられる親水性グラフト重合体を、増粘が起こらずに容易かつ安価に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例1,2、参考例1〜3、および比較例1〜4のセメント添加剤について、その添加量とモルタルフロー値との関係を示すグラフである。このグラフ中、各プロットの脇に示された数値は、括弧がないものは空気量(vol%)であり、括弧内のものはAE剤の添加量(wt%)である。
Claims (6)
- α,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物を必須とする不飽和カルボン酸系単量体を必須成分として含むエチレン性不飽和単量体をポリエーテル化合物にグラフト重合してなる重量平均分子量15,000以上の親水性グラフト重合体を必須成分として含み、
前記ポリエーテル化合物が重量平均分子量10,000以上のものであり、
前記不飽和カルボン酸系単量体中の前記α,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物の割合が20〜80重量%であり、
前記エチレン性不飽和単量体中の前記不飽和カルボン酸系単量体の割合が60重量%以上であり、
前記エチレン性不飽和単量体の使用量は、当該エチレン性不飽和単量体中の前記不飽和カルボン酸系単量体の前記ポリエーテル化合物に対する割合が0.1〜45重量%となる使用量である、
ことを特徴とする、セメント添加剤。 - 前記不飽和カルボン酸系単量体は、マレイン酸、フマル酸および無水マレイン酸からなる群から選ばれた少なくとも1種を必須成分として含む、請求項1に記載のセメント添加剤。
- 前記不飽和カルボン酸系単量体は、マレイン酸、フマル酸および無水マレイン酸からなる群から選ばれた少なくとも1種と、(メタ)アクリル酸とを必須成分として含む、請求項2に記載のセメント添加剤。
- α,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物を必須とする不飽和カルボン酸系単量体を必須成分として含むエチレン性不飽和単量体をポリエーテル化合物にグラフト重合することにより重量平均分子量15,000以上の親水性グラフト重合体を得る工程を含み、
前記ポリエーテル化合物として重量平均分子量10,000以上のものを用いるとともに、
前記不飽和カルボン酸系単量体中の前記α,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物の割合を20〜80重量%とし、
前記エチレン性不飽和単量体中の前記不飽和カルボン酸系単量体の割合を60重量%以上とし、
前記エチレン性不飽和単量体の使用量を、当該エチレン性不飽和単量体中の前記不飽和カルボン酸系単量体の前記ポリエーテル化合物に対する割合が0.1〜45重量%となる使用量とする、
ことを特徴とする、セメント添加剤用親水性グラフト重合体の製造方法。 - 前記不飽和カルボン酸系単量体は、マレイン酸、フマル酸および無水マレイン酸からなる群から選ばれた少なくとも1種を必須成分として含む、請求項4に記載のセメント添加剤用親水性グラフト重合体の製造方法。
- 前記不飽和カルボン酸系単量体は、マレイン酸、フマル酸および無水マレイン酸からなる群から選ばれた少なくとも1種と、(メタ)アクリル酸とを必須成分として含む、請求項5に記載のセメント添加剤用親水性グラフト重合体の製造方法。
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