JP4116172B2 - 有機溶媒耐性チロシナーゼおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は種々の有機溶媒に耐性を有する新規なチロシナーゼ、該チロシナーゼを生産する微生物および該微生物を培養することによる該チロシナーゼの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、水−有機溶媒混合液中での酵素反応を利用した有用高分子生産の研究が盛んに行われている。水−有機溶媒混合液中での反応は、水溶液中でのそれと比べて、(1)水難溶性物質を基質とすることができる、(2)生成物の溶解度が高まり、重合度および特性の異なる生成物が得られる、等の利点がある。水−有機溶媒系での高分子の酵素合成の報告例としては、特開平7−126354号公報、特開平8−302007号公報、特開平9−12710号公報等がある。これらの報告では、酵素として西洋ワサビペルオキシダーゼ、大豆ペルオキシダーゼ、ラクトペルオキシダーゼ、チロシナーゼ等の酸化還元酵素が用いられている。しかしながら、それらはいずれも従来より市販の酵素であり、水−有機溶媒中での反応を目的として開発されたものではない。そのため、これらの酵素は高濃度の有機溶媒存在下では不安定且つ低反応性となり、効率的な重合反応を行うことができない。したがって、有機溶媒中でも安定で且つ高い反応性を有する酵素の開発が要望されている。
【0003】
有機溶媒耐性の酵素としては、細菌由来のエチルアルコール耐性プロテアーゼがこれまでに報告されているが(例えば、特開平5−211869号公報、特開平9−37781号公報等)、酸化還元酵素、特にチロシナーゼについては有機溶媒耐性のものは知られていない。
【0004】
チロシナーゼは、フェノールを分子状酸素でo−ジフェノール、さらにo−キノンに酸化する酵素で、菌類の子実体、ジャガイモ、リンゴなどの植物および動物のメラノサイト等に広く存在し、生体内ではチロシンを酸化してメラニン形成を行う。したがって、該酵素はフェノール性高分子やメラニン等の有用高分子の合成に利用することができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、水−有機溶媒系での酵素重合による効率的な有用高分子生産を可能にする新規な有機溶媒耐性チロシナーゼ、すなわち有機溶媒存在下においても安定で且つ高い酵素活性を示す新規チロシナーゼを提供することである。また、本発明のさらなる目的は、上記の有機溶媒耐性チロシナーゼを生産する微生物および該微生物を用いた該酵素の製造方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ストレプトミセス属に属する土壌分離菌が生産するチロシナーゼが、アルコール、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の種々の有機溶媒に対して耐性であることを見出した。本発明者らは該微生物を培養し、得られた培養物からこの酵素を単離精製することに成功して、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]下記の理化学的性質を有するチロシナーゼ。
(a)作用:モノフェノールモノオキシゲナーゼ活性およびカテコールオキシダーゼ活性を有する
(b)有機溶媒に対して耐性を有する
[2]該有機溶媒が、メタノール、エタノール、1−プロパノール、DMSOおよびアセトンからなる群より選択される少なくとも1つである上記[1]のチロシナーゼ。
[3]さらに下記の少なくとも1つの理化学的性質を有する上記[1]または[2]のチロシナーゼ。
(a)至適pH:約7.0
(b)安定pH範囲:7.0〜8.0
(c)至適温度:約35℃
(d)熱安定性:約55℃以下で安定
(e)基質特異性:L−DOPA、L−チロシン、エピカテキンを特異的に酸化する
(f)分子量:約32,000(SDS−PAGE)
[4]アミノ末端のアミノ酸配列が、Ala Val Arg Lys Asn Gln Ala Asn Leu Thr Ala(配列表配列番号1)である上記[1]〜[3]のいずれかのチロシナーゼ。
[5]ストレプトミセス属に属する微生物由来である上記[1]〜[4]のいずれかのチロシナーゼ。
[6]該微生物がストレプトミセス・エスピー(Streptomyces sp.)REN−21(FERM P−17053)である上記[5]のチロシナーゼ。
[7]上記[5]または[6]の微生物を培地中で培養し、得られる培養物からチロシナーゼを採取することを特徴とする、上記[1]〜[4]のいずれかのチロシナーゼの製造方法。
[8]上記[1]〜[4]のいずれかのチロシナーゼを生産する微生物ストレプトミセス・エスピー REN−21(FERM P−17053)。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明のチロシナーゼは、モノフェノールモノオキシゲナーゼ活性およびカテコールオキシダーゼ活性を有し、且つ有機溶媒に対して耐性を有する酵素であれば特に制限はないが、好ましくは、メタノール、エタノール、1−プロパノール、DMSOおよびアセトンのうち少なくとも1つの有機溶媒に対して耐性を有するものである。より好ましくは、上記有機溶媒のすべてに対して耐性を有するものであり、就中、さらに2−プロパノールに対して耐性を有するものである。ここで「有機溶媒に対して耐性である」とは、20%有機溶媒の条件下でのカテコールオキシダーゼ活性が、有機溶媒非存在下での活性の約50%以上であり、且つ20%有機溶媒(pH7.0)の条件下で30℃、20時間保持した後の残存カテコールオキシダーゼ活性が約80%以上であることを意味する。好ましくは、本発明のチロシナーゼは、20%有機溶媒の条件下でのカテコールオキシダーゼ活性が、有機溶媒非存在下での活性の約60%以上であり、且つ20%有機溶媒(pH7.0)の条件下で30℃、20時間保持した後の残存カテコールオキシダーゼ活性が約90%以上である。
【0009】
好ましくは、本発明のチロシナーゼは、さらに下記(a)〜(f)の少なくとも1つの理化学的性質を有する。
【0010】
(a)至適pH
30℃で反応させたときのカテコールオキシダーゼ活性を指標とすると、本発明の酵素の反応に好適なpHは6.0〜8.5であり、至適pHは約7.0である。
【0011】
(b)安定pH範囲
30℃で16時間保持した後の残存活性を指標とすると、本発明の酵素の安定pH範囲は7.0〜8.0である。
【0012】
(c)至適温度
pH7.0の緩衝液中で反応させたときのカテコールオキシダーゼ活性を指標とすると、本発明の酵素の反応に好適な温度は30〜40℃、至適温度は約35℃である。
【0013】
(d)熱安定性
pH7.0の緩衝液中で10分間保持した後の残存活性を指標とすると、本発明の酵素は約55℃まで安定である。
【0014】
(e)基質特異性
本発明の酵素はL−DOPA、L−チロシン、エピカテキンを特異的に酸化する一方、D−DOPA、D−チロシンはあまり酸化せず、光学異性体をよく認識する。また、本酵素はフェノール、カテコールをほとんど酸化しない。
【0015】
(f)分子量
ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によると、本発明の酵素の分子量は約32,000である。
【0016】
最も好ましくは、本発明のチロシナーゼは上記(a)〜(f)のすべての性質を有する。このような酵素としては、後述のストレプトミセス・エスピー REN−21由来のチロシナーゼが挙げられる。
【0017】
あるいは、本発明の有機溶媒耐性チロシナーゼは、さらにそのアミノ末端配列がAla Val Arg Lys Asn Gln Ala Asn Leu Thr Ala (配列表配列番号1)であることを特徴とするものであってもよい。このような酵素の例としても、ストレプトミセス・エスピー REN−21由来のチロシナーゼが挙げられる。
【0018】
また、本発明のチロシナーゼの各種阻害剤および金属塩に対する感受性は、従来公知のチロシナーゼ、例えばマッシュルーム由来チロシナーゼのそれと同様である。すなわち、本酵素はコウジ酸、システイン塩酸塩、DL−ジチオスレイトール、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムにより阻害されるが、アルブチン、アジ化ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムによって阻害されない。また、本酵素はCuCl2 、FeCl3 、ZnCl2、MgCl2 、MnCl2 、CaCl2 、KCl、NaClのいずれの金属塩によっても活性に大きな影響を受けない。
【0019】
本発明のチロシナーゼの由来は特に限定されず、動物、植物、あるいは細菌、放線菌、酵母、糸状菌などの微生物由来のものが挙げられる。好ましくはストレプトミセス属に属する微生物、より好ましくはストレプトミセス・エスピー REN−21株由来のチロシナーゼが例示される。
【0020】
本発明のチロシナーゼは、該酵素を生産する細胞または組織の培養物を原料として単離精製することができる。好ましい一実施態様として下記の方法が例示される。
【0021】
まず、適当な場所から採取した土壌試料を、L−DOPAやL−チロシン等の基質を添加した固形培地上にプレーティングして培養し、基質の酸化により周辺が褐変したコロニーを選択して、チロシナーゼ生産菌株を分離する。次いで、得られたチロシナーゼ生産菌株を適当な液体培地を用いて液体振とう培養し、培養濾液を得る。得られた濾液をL−DOPAやL−チロシン等の基質を含有する10〜40%程度の有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、DMSO、アセトン等)に添加し、常法にしたがって酵素活性を測定することにより、有機溶媒中で有意な酵素活性を示すチロシナーゼを生産する菌株をスクリーニングする。
【0022】
このようにして選択された有機溶媒耐性チロシナーゼ生産菌株としては、本発明者らにより京都市左京区の森林の土壌より新たに分離されたREN−21株が例示される。該菌株の菌学的性質は以下の通りである。
【0023】
(1)形態的性質
基生菌糸は各種寒天培地上でよく発達し、分断は観察されない。気菌糸は、イースト・麦芽寒天、ペプトン・イースト・鉄寒天培地上で良好に着生し、胞子形成も豊富である。気菌糸の分岐は、分岐点から同時に複数本の分岐が観察されることから、車軸分岐である。気菌糸先端には、10個以上の胞子連鎖が観察され、その形状は直線または曲線状である。胞子の運動性は観察されない。胞子嚢、菌核などの特殊構造は観察されない。
【0024】
(2)培養的性質
各種培地上での培養性状を表1に示す。結果は、28℃で14日間培養した時の肉眼的観察に基づく。
【0025】
【表1】
【0026】
(3)生理学的性質
(a)生育温度範囲
イースト・麦芽エキス寒天培地で20〜35℃の範囲で良好に生育する。14℃以下、40℃以上では生育しない。
(b)メラニン色素の生成
(i) ペプトン・イースト・鉄寒天(ISP6):陰性
(ii) チロシン寒天(ISP7):陽性
(iii) 改良ペプトン酵母エキス寒天:陽性
(c)炭素源の利用性(プリドハム・ゴードリーブ寒天)
利用する:D−グルコース、D−フラクトース、イノシトール、L−ラムノース、シユークロース
やや利用する:L−アラビノース、D−キシロース
利用しない:D−マンニトール、ラフィノース
【0027】
(4)化学分類学的性質
(a)細胞壁タイプ:I型
LL−ジアミノピメリン酸 +
meso−ジアミノピメリン酸 −
ジアミノ酪酸 −
グリシン +
アスパラギン酸 −
オルニチン −
リジン −
アラビノース −
ガラクトース −
(b)主要キノン系:MK−9(H8 ),−9(H8 )
【0028】
以上の菌学的性質に基づいて、REN−21株は、ストレプトベルティシリウム(Streptoverticillium )属に属すると考えられた。しかし、ストレプトベルティシリウム属は、1990年にWittら(Witt, D. and Stackebrand, E. (1990) Syst. Appl. Microbiol., 13, 361-371 )によって、ストレプトミセス属に統合されていることから、本菌株は、ストレプトミセス属に属すると結論された。そこで、本発明者らは、REN−21株をストレプトミセス・エスピー REN−21(Streptomyces sp. REN-21 )と命名した。ストレプトミセス・エスピーREN−21株の保存サンプルは通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(茨城県つくば市東1丁目1番3号)に1998年11月12日付で国内寄託され、受託番号として、生命研菌寄第17053号(FERM P−17053)を付されている。
【0029】
本発明はまた、REN−21株等の有機溶媒耐性チロシナーゼ生産株を培養することによる該有機溶媒耐性チロシナーゼの製造方法を提供する。
【0030】
まず、上記の方法により選択された有機溶媒耐性チロシナーゼ生産株を適当な液体培地中で培養する。培地は、該生産株の生育に必要な炭素源,無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、例えばグルコース,デキストラン,可溶性デンプン,ショ糖などが、無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類,硝酸塩類,アミノ酸,コーンスチープ・リカー,ペプトン,カゼイン,肉エキス,大豆粕,バレイショ抽出液などが例示される。また所望により他の栄養素〔例えば、無機塩(例えば塩化カルシウム,リン酸二水素ナトリウム,塩化マグネシウム),ビタミン類,抗生物質(例えばテトラサイクリン,ネオマイシン,アンピシリン,カナマイシン等)など〕を含んでいてもよい。
【0031】
培養は、生産株の種類に応じて、当該技術分野において知られている方法により行われる。培養条件、例えば温度,培地のpHおよび培養時間は、本発明のチロシナーゼが大量に生産されるように適宜選択することができる。
【0032】
例えば、宿主が細菌,放線菌,酵母,糸状菌である場合、例えば上記栄養源を含有する液体培地が適当である。好ましくは、pHが5〜8である培地である。培養は必要により通気、攪拌を行いながら、通常15〜40℃、好ましくは20〜35℃で約24〜144時間行なわれる。
【0033】
次いで、得られた培養物を濾過および/または遠心分離して菌体と培養上清(濾液)を分離する。本発明のチロシナーゼは、該酵素活性が存在するいずれかの画分、すなわち該培養上清または該菌体の抽出液から、一般に酵素タンパク質の単離精製に使用されている分離技術を適宜組み合わせることによって精製することができる。具体的には、例えば、塩析、溶媒沈殿法等の溶解度の差を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過、PAGE、SDS−PAGE等の分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー等の荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィー等の特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィー等の疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動等の等電点の差を利用する方法が挙げられる。
【0034】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これらは単なる例示であって何ら本発明の範囲を限定するものではない。
なお、実施例中、チロシナーゼ活性は下記の比色法または酸素電極法のいずれかで行った。
(1) 比色法
全容量が3mlの基質溶液(4mM L−DOPAを含む100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0))を光路長1cmのキュベットに入れ、30℃で10分間保持して温度を均一にした後、適当に希釈した酵素液(10〜100μl)を加えて反応を開始した。活性は、基質L−DOPAの酸化により生成するドーパクローム(dopachrome)の475nmでの吸光度の増加(モル吸光係数3,600)の初速度より求めた。以上の条件で1分間に1μmolのドーパクロームを生成する酵素活性を1単位とした。
(2) 酸素電極法
全容量が3mlの基質溶液(4mM L−DOPAを含む100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0))を30℃で10分間保持して温度を均一にした後、適当に希釈した酵素液(20μl)を加えて反応を開始した。活性は、反応の進行に伴う酸素消費量の初速度より求めた。溶存酸素量の測定は、クラーク型酸素電極(YSI model 5300 biological oxygen monitor)を用いて行った。30℃で空気と平衡状態にある水中の溶存酸素量は228μMとした。以上の条件で1分間に1μmolの酸素を消費する酵素活性を1単位とした。
【0035】
実施例1 REN−21株のスクリーニング
(1)第一次スクリーニング
京都市左京区の森林より採取した土壌を試料とし、表2に示す組成からなる改良ペプトン酵母エキス培地に、0.1mMの濃度となるようにL−DOPAまたはL−チロシンを加えた寒天培地を用いて、30℃で2〜3日間希釈平板培養を行った。約50枚のプレートより、L−DOPAまたはL−チロシンの酸化によりコロニーの周辺を褐変させた菌23株を分離した。
【0036】
【表2】
【0037】
(2)第二次スクリーニング
上記(1)で得られた23株を表2の組成からなる培地を用い、太口試験管にて30℃で3日間液体振とう培養を行った。該培養液を濾過して得られた濾液を適当に希釈して酵素液とし、上記の比色法に準じて基質水溶液および40%エタノール含有基質溶液中でのチロシナーゼ活性を測定した。その結果、REN−21株と命名した分離株の培養濾液は、40%エタノール中でも水溶液中での活性の60%程度の活性を有していた。そのため、REN−21株の生産するチロシナーゼが高い有機溶媒耐性を有していると判断し、以後、本菌株を用いて実験を行った。
【0038】
実施例2 REN−21株由来チロシナーゼの精製
(1)REN−21株の培養
REN−21株を表2の組成からなる寒天培地プレート上で、30℃、3日間培養した。これを表3に示す組成からなるBennet改良培地5mlを含む太口試験管に植菌し、30℃、2日間前培養を行った。前培養液1mlを100mlのBennet改良培地を含む500ml容坂口フラスコに植菌し、30℃、3日間振とう培養した。得られた培養液について、上記比色法にしたがってチロシナーゼ活性を測定したところ、培養液1mlあたり0.1単位であった。
【0039】
【表3】
【0040】
(2)チロシナーゼの精製
上記(1)で得られた培養液を濾過して菌体を除去した。得られた濾液を合わせ(全量5,600ml)、硫酸アンモニウムを80%飽和となるように添加して塩析を行った。生じた沈澱を50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に溶解して一昼夜透析した。透析後の酵素液をDEAE−セルロース(和光純薬(株)製)カラムクロマトグラフィーにかけ、素通りのチロシナーゼ活性画分を回収した。得られた酵素溶液を塩析し、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)にて透析した。透析後の酵素液をQAE−セファデックスA−50(アマシャムファルマシアバイオテク(株)製)カラムクロマトグラフィーにかけ、10(pH8.0)−500(pH7.0)mMリン酸ナトリウムの直線濃度勾配で溶出して、チロシナーゼ活性画分を回収した。得られた酵素溶液を限外濾過にて濃縮した後、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で平衡化したトヨパールHW−55(東ソー(株)製)を用いたゲル濾過カラムクロマトグラフィーにかけることにより精製有機溶媒耐性チロシナーゼを得た。
【0041】
実施例3 有機溶媒耐性チロシナーゼの特性解析
(a)至適pH
実施例2で得られた精製チロシナーゼを用い、pH4.0〜8.5の種々の条件下で、上記の酸素電極法に準じて活性を測定した。各pHにおける酵素の相対活性を図1に示す。該酵素の至適pHは約7.0であった。
【0042】
(b)安定pH範囲
該酵素をpH4.0〜10.5の種々の条件下、30℃で16時間保持した後、上記比色法に準じて活性を測定した。各pHにおける残存活性を図2に示す。該酵素の安定pH範囲は30℃で7.0〜8.0であった。
【0043】
(c)作用適温の範囲
該酵素の活性を、20〜55℃の種々の温度で、上記比色法に準じて測定した。各温度における相対活性を図3に示す。該酵素の至適温度は約35℃であった。
【0044】
(d)熱安定性
該酵素をpH7.0の緩衝液中で20〜70℃の種々の温度にて10分間保持した後、上記比色法に準じて活性を測定した。各温度における残存活性を図4に示す。該酵素はpH7.0で10分間保持した場合、55℃まで安定であった。
【0045】
(e)有機溶媒存在下での活性
REN−21由来チロシナーゼとマッシュルーム由来チロシナーゼ(和光純薬(株)製)を用い、0〜50%濃度のメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、DMSOおよびアセトンを含むリン酸ナトリウム緩衝液中での活性を、上記比色法に準じて測定した。REN−21由来チロシナーゼの各溶媒、各濃度における相対活性を図5(A)に、マッシュルーム由来チロシナーゼの相対活性を図5(B)に示す。REN−21由来チロシナーゼは、2−プロパノールを除くすべての有機溶媒中で、いずれの濃度においてもマッシュルーム由来チロシナーゼより高い活性を保持していた。また、REN−21由来チロシナーゼは、40%以上の濃度で調べたすべての有機溶媒中で有意な活性を有していた。
【0046】
(f)有機溶媒存在下での安定性
REN−21由来チロシナーゼとマッシュルーム由来チロシナーゼ(和光純薬(株)製)をそれぞれ、0〜50%濃度のエタノール、DMSOおよびアセトンを含むリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)中で30℃にて20時間保持した後、上記比色法に準じて活性を測定した。REN−21由来チロシナーゼの残存活性を図6(A)に、マッシュルーム由来チロシナーゼの残存活性を図6(B)に示す。REN−21由来チロシナーゼは、いずれの有機溶媒存在下でもマッシュルーム由来チロシナーゼより高い安定性を有することがわかった。
【0047】
(g)分子量
SDS−PAGEによりREN−21由来チロシナーゼの分子量を測定したところ、分子量は約32,000であった。
【0048】
(h)アミノ末端配列
エドマン分解法によりREN−21由来チロシナーゼのアミノ末端配列を決定した。該アミノ酸配列は、Ala Val Arg Lys Asn Gln Ala Asn Leu Thr Ala (配列表配列番号1)であった。
【0049】
(i)基質特異性
REN−21由来チロシナーゼとマッシュルーム由来チロシナーゼ(和光純薬(株)製)を用い、表4に示す各基質を1mMの濃度で含む溶液中での酵素活性を、上記酸素電極法に準じて測定した。活性は、L−DOPAに対する値を100とした相対値で表した。各基質に対する相対活性値を表4に示す。REN−21由来チロシナーゼはL−DOPA、L−チロシン、エピカテキンをよく酸化する一方、D−DOPA、D−チロシンをあまり酸化せず、マッシュルーム由来チロシナーゼと異なって光学異性体を高度に認識し得ることが分かった。また、マッシュルーム由来チロシナーゼがフェノールおよびカテコールをよく酸化するのに対して、REN−21由来チロシナーゼはそれらをほとんど酸化しなかった。以上より、REN−21由来チロシナーゼはマッシュルーム由来チロシナーゼに比べて厳密な基質特異性を有することがわかった。
【0050】
【表4】
【0051】
(j)阻害剤の影響
REN−21由来チロシナーゼとマッシュルーム由来チロシナーゼ(和光純薬(株)製)を用い、表5に示す各阻害剤0.1mMまたは1mMを含む溶液中での酵素活性を、上記比色法に準じて測定した。各阻害剤存在下での残存活性を表5に示す。REN−21由来チロシナーゼの活性は、コウジ酸、システイン塩酸塩、DL−ジチオスレイトール、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムによって阻害されるが、アルブチン、アジ化ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムによっては阻害されなかった。この特性は、マッシュルーム由来チロシナーゼのそれと同様であった。
【0052】
【表5】
【0053】
(k)金属塩の影響
REN−21由来チロシナーゼとマッシュルーム由来チロシナーゼ(和光純薬(株)製)を用い、表6に示す各金属塩0.2mMを含む溶液中での酵素活性を、上記比色法に準じて測定した。各金属塩存在下での残存活性を表6に示す。REN−21由来チロシナーゼの活性は、CuCl2 、FeCl3 、ZnCl2、MgCl2 、MnCl2 、CaCl2 、KCl、NaClのいずれの金属塩によっても大きな影響を受けないことがわかった。この特性は、マッシュルーム由来チロシナーゼのそれと同様であった。
【0054】
【表6】
【0055】
【発明の効果】
本発明のチロシナーゼは、各種有機溶媒に対して耐性を有するので、メラニンやフェノール性高分子等の有用高分子を、高濃度の有機溶媒存在下で酵素重合により製造することを可能にする点で極めて有用である。
【0056】
【配列表のフリーテキスト】
有機溶媒耐性チロシナーゼのN−末端アミノ酸配列
【0057】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】REN−21由来チロシナーゼの各pHにおける活性を示す図である。活性は最大活性値を100とした相対値で表している。(○)酢酸ナトリウム緩衝液,(●)リン酸ナトリウム緩衝液,(□)トリス−塩酸緩衝液
【図2】REN−21由来チロシナーゼの各pHにおける安定性を示す図である。(○)酢酸ナトリウム緩衝液,(●)リン酸ナトリウム緩衝液,(□)トリス−塩酸緩衝液,(■)グリシン−NaOH緩衝液
【図3】REN−21由来チロシナーゼの各温度における活性を示す図である。活性は最大活性値を100とした相対値で表している。
【図4】REN−21由来チロシナーゼの各温度における安定性を示す図である。
【図5】REN−21由来チロシナーゼ(A)およびマッシュルーム由来チロシナーゼ(B)の各有機溶媒存在下での活性を示す図である。活性は有機溶媒非存在下での活性を100とした相対値で表している。(○)メタノール,(●)エタノール,(□)1−プロパノール,(■)2−プロパノール,(△)DMSO,(▲)アセトン
【図6】REN−21由来チロシナーゼ(A)およびマッシュルーム由来チロシナーゼ(B)の各有機溶媒存在下での安定性を示す図である。(○)エタノール,(●)アセトン,(□)DMSO
Claims (7)
- 下記の理化学的性質を有するチロシナーゼ。
(a)作用:モノフェノールモノオキシゲナーゼ活性およびカテコールオキシダーゼ活性を有する
(b)有機溶媒に対して耐性を有する
(c)至適pH:7.0
(d)安定pH範囲:7.0〜8.0
(e)至適温度:35℃
(f)熱安定性:55℃以下で安定
(g)基質特異性:L−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(L−DOPA)、L−チロシン、エピカテキンを特異的に酸化する
(h)分子量:32,000(SDS−PAGE) - 該有機溶媒が、メタノール、エタノール、1−プロパノール、DMSOおよびアセトンからなる群より選択される少なくとも1つである請求項1記載のチロシナーゼ。
- アミノ末端のアミノ酸配列が、Ala Val Arg Lys Asn Gln Ala Asn Leu Thr Ala (配列表配列番号1)である請求項1または2記載のチロシナーゼ。
- ストレプトミセス属に属する微生物由来である請求項1〜3のいずれかに記載のチロシナーゼ。
- 該微生物がストレプトミセス・エスピー(Streptomyces sp.)REN−21(FERM P−17053)である請求項4記載のチロシナーゼ。
- 請求項4または5記載の微生物を培地中で培養し、得られる培養物からチロシナーゼを採取することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のチロシナーゼの製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のチロシナーゼを生産する微生物ストレプトミセス・エスピー REN−21(FERM P−17053)。
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