JP4643873B2 - 耐熱性ラッカーゼおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、大量生産可能な新規耐熱性ラッカーゼ、該ラッカーゼの生産微生物および該微生物を培養することによる該ラッカーゼの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ラッカーゼは、ポリフェノールオキシダーゼ、ウルシオールオキシダーゼとも呼ばれ、酸素の存在下、フェノール性化合物を酸化する酵素である。さらに、ラッカーゼは、リグニン分解作用、ウルシオールやラッコール等のフェノール性化合物、p-フェニレンジアミン等の芳香族アミン、タンパク質等の酸化重合作用を有するため、例えば、毒性の強いフェノール性化合物や芳香族アミンを含む廃液の処理、パルプ製造処理等におけるリグニンの除去、人工漆の製造、コンクリート混和剤の合成、ココア、コーヒーおよび紅茶の褐変処理、化粧品用メラニン製造、食品のゲル化剤、臨床検査試薬、漂白剤としての利用等、多くの産業分野への利用が期待されている。
【0003】
ラッカーゼおよびポリフェノールオキシダーゼは、一般に自然界に広く存在しており、微生物起源のものも多く知られている。その生産菌としては、真核生物であるピクノポラス・コクシネウス、コリオラス・ヴェルシカラー、トラメテス・エスピーHal等の担子菌類、ボツチリス・シネレア等の不完全菌類に属する糸状菌等が知られている。これらの菌は、培養時の生育速度が非常に遅く、概して大量培養が困難である。また、これらの菌由来のラッカーゼの生産性を向上させるためには、遺伝子操作や変異体の作製が必要となるが、菌類が有する複雑な生活環や、イントロンの存在等の遺伝子構造の複雑さ、該酵素が糖タンパク質であるため生育速度が早い原核生物を宿主とした発現が難しい等、多大な労力を必要とする。このような理由から、これらの菌類より安定かつ安価にラッカーゼを大量生産することは非常に困難であった。また、これらの酵素は、概して熱安定性が低く(<60℃)、毒性廃液の処理、パルプ製造処理におけるリグニンの除去等、夏期の屋外での使用には不適であった。以上の理由より、産業上利用の観点から、遺伝子操作や変異体の作製が容易な原核生物由来であって、耐熱性に優れたラッカーゼまたはポリフェノールオキシダーゼが望まれていた。
【0004】
近年、原核生物の一種である細菌由来のポリフェノールオキシダーゼが、バチルス・リケニホルミスSD−3003(特開平9−206071号公報)から見出されている。しかしながら、現在のところ生産性等の問題から実用化には至っていない。
【0005】
一方、原核生物の一種である放線菌は、さまざまな抗生物質の生産に利用されており、培養も比較的容易である。また、遺伝子組換え操作における宿主としても利用されており、タンパク質の発現系が確立されていることから、酵素を大量に生産させるのに適している。このような利点を有する放線菌からは、未だラッカーゼおよびポリフェノールオキシダーゼは見出されていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、従来の酵素とは異なり遺伝子操作等により大量生産することが可能であり、かつ広範な用途に使用可能であるような高い耐熱性を有する新規ラッカーゼ、その生産微生物および製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、放線菌の一種であるストレプトミセス属に属する土壌分離菌が耐熱性の新規ラッカーゼを生産することを見出した。さらに、該微生物を培養し、得られた培養物から該酵素を単離精製することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
〔1〕放線菌由来のラッカーゼ。
〔2〕放線菌が、ストレプトミセス属に属するものである〔1〕記載のラッカーゼ。
〔3〕ストレプトミセス属に属する放線菌が、ストレプトミセス・ラベンデュラエに属するものである〔2〕記載のラッカーゼ。
〔4〕ストレプトミセス・ラベンデュラエに属する放線菌が、ストレプトミセス・ラベンデュラエ REN−7(FERM P−18026)である〔3〕記載のラッカーゼ。
〔5〕下記の性質を有するラッカーゼ:
(a)作用:フェノール性化合物を酸化する
(b)至適反応pH:約4.5
(c)安定pH範囲:7.0〜10.5
(d)至適反応温度:約50℃
(e)熱安定性:約70℃以下で安定
(f)基質特異性:カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロガロール、クレゾール、グアヤコール、p-フェニレンジアミン、p-トルイジン、L-チロシン、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン、L-アスコルビン酸を酸化する
(g)分子量:約73,000(SDS−PAGE)。
〔6〕アミノ末端のアミノ酸配列がAla Pro Ala Ala Ala Asp Gly Glu Leu Thr Pro Tyr Ala Ala Pro Leu Thr Val(配列表配列番号1)である〔5〕記載のラッカーゼ。
〔7〕〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のラッカーゼを生産し得るストレプトミセス属に属する放線菌を培地中で培養し、得られる培養物から該ラッカーゼを採取することを特徴とする〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のラッカーゼの製造方法。
〔8〕ストレプトミセス属に属する放線菌が、ストレプトミセス・ラベンデュラエに属するものである〔7〕記載のラッカーゼの製造方法。
〔9〕ストレプトミセス・ラベンデュラエに属する放線菌が、ストレプトミセス・ラベンデュラエ REN−7(FERM P−18026)である〔8〕記載のラッカーゼの製造方法。
〔10〕〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のラッカーゼを生産し得るストレプトミセス・ラベンデュラエ。
〔11〕ストレプトミセス・ラベンデュラエ REN−7(FERM P−18026)。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明のラッカーゼは、放線菌由来のものである。ここでいう「放線菌由来のラッカーゼ」には、天然の放線菌またはその培養物より単離精製されるラッカーゼばかりでなく、該酵素と等しい性質を有する酵素を天然に生産可能であるか、または人工的に生産可能なように改変された微生物もしくは動植物細胞またはその培養物から単離精製される、該酵素と等しい性質を有する酵素も包含される。好ましくはストレプトミセス(Streptomyces)属に属する放線菌由来のもの、より好ましくはストレプトミセス・ラベンデュラエ(Streptomyces lavendulae)に属する放線菌由来のもの、特に好ましくは後記ストレプトミセス・ラベンデュラエ REN−7(Streptomyces lavendulae REN-7)株由来のものが挙げられる。
【0010】
本発明のラッカーゼは、下記(a)〜(g)の性質を有する。
【0011】
(a)作用
フェノール性化合物を酸化する。
【0012】
(b)至適反応pH
30℃でカテコールを基質としたときの活性を指標とすると、本発明の酵素の反応に好適なpHは4.0〜6.0であり、至適反応pHは約4.5である。
【0013】
(c)安定pH範囲
30℃で20時間保持した後の残存活性を指標とすると、本発明の酵素の安定pH範囲は7.0〜10.5である。
【0014】
(d)至適反応温度
pH4.5の緩衝液中でカテコールを基質としたときの活性を指標とすると、本発明の酵素の反応に好適な温度は30〜70℃であり、至適反応温度は約50℃である。
【0015】
(e)熱安定性
pH7.0の緩衝液中で10分間保持した後の残存活性を指標とすると、本発明の酵素は約70℃まで安定である。
【0016】
(f)基質特異性
pH4.5の緩衝液中で30℃で反応させたときの活性を指標とすると、本発明の酵素は、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロガロール、クレゾール、グアヤコール、p-フェニレンジアミン、p-トルイジン、L-チロシン、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン、L-アスコルビン酸を酸化する。
【0017】
(g)分子量
ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によると、本発明の酵素の分子量は、約73,000である。
【0018】
上記性質を有するラッカーゼの一例としては、後記ストレプトミセス・ラベンデュラエ REN−7株から得られるラッカーゼが挙げられる。
【0019】
好ましくは上記ラッカーゼのアミノ末端のアミノ酸配列は、Ala Pro Ala Ala Ala Asp Gly Glu Leu Thr Pro Tyr Ala Ala Pro Leu Thr Val(配列表配列番号1)である。このようなラッカーゼの一例としても後記ストレプトミセス・ラベンデュラエ REN−7株から得られるラッカーゼが挙げられる。
【0020】
また、好ましくは上記ラッカーゼは、L-システイン塩酸塩、DL-ジチオスレイトール、アジ化ナトリウム、コウジ酸によって阻害される。また、本酵素はCuCl2、ZnCl2、MgCl2、MnCl2、CaCl2、KCl、NaClのいずれの金属塩によっても活性に大きな影響を受けない。このようなラッカーゼの一例としても後記ストレプトミセス・ラベンデュラエ REN−7株から得られるラッカーゼが挙げられる。
【0021】
好ましくは上記ラッカーゼは、放線菌から得られ得る。ここでいう「放線菌から得られ得る」とは、少なくとも放線菌から得ることができる(単離精製することができる)ことを意味し、放線菌以外のものからは得ることができないことを意味しない。従って、放線菌から得られるばかりでなく、他の微生物等からも得られるラッカーゼもここでいう「放線菌から得られ得る」ラッカーゼに含まれる。放線菌としては、好ましくはストレプトミセス属に属する放線菌、より好ましくはストレプトミセス・ラベンデュラエに属する放線菌、特に好ましくは後記ストレプトミセス・ラベンデュラエ REN−7株が挙げられる。
【0022】
本発明のラッカーゼは、該酵素を生産可能な放線菌またはその培養物、あるいは該酵素を本来的に生産可能であるか、もしくは人工的に生産可能なように改変された微生物もしくは動植物細胞またはその培養物から単離精製することにより得られる。
以下、本発明のラッカーゼ生産微生物(ラッカーゼ生産菌株)を得る方法の好ましい一実施態様を説明する。
【0023】
まず、適当な場所から採取した土壌試料を、グアヤコールやシリンガルダジン等のラッカーゼの基質を添加した固形培地上にプレーティングして培養し、基質の酸化により周辺が褐色または赤色に変化したコロニーを選択する。次いで、得られた菌株を適当な液体培地を用いて液体振とう培養し、培養物を得る。培養物を濾紙にて濾過し、菌体と培養濾液に分離する。菌体については、超音波破砕後の遠心上清を酵素粗試料とし、濾液についてはそのままを酵素粗試料とし、シリンガルダジンを基質として活性の有無を調べることにより、ラッカーゼ生産菌株を見出す。
【0024】
このようにして選択されたラッカーゼ生産菌株としては、本発明者らにより京都市左京区の森林の土壌より新たに分離されたREN−7株が例示される。該菌株の菌学的性質は以下の通りである。
【0025】
(1)形態的性質
気菌糸は、Rectiflexibiles型で灰白色から淡黄色を呈し、基底菌糸は分断しない。胞子のうは形成せず、分生子は直状連鎖を示し、胞子表層は滑面を呈する。
【0026】
(2)培養的性質
ISP培地上での培養性状を表1に示す。なお、結果は30℃で14日間培養した時の肉眼的観察に基づく。
【0027】
【表1】
【0028】
(3)生理学的性質
REN−7株の生理学的性質を表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
(4)化学分類学的性質
▲1▼脂肪酸組成
REN−7株菌体の脂肪酸組成のプロファイルをMIDIのデータベースと照合したところ、相同率0.518でストレプトミセス・ラベンデュラエ(Streptomyces lavendulae)が最も近縁な菌群であると示唆された。
▲2▼16S rRNA遺伝子解析
REN−7株の16S rRNA遺伝子の部分塩基配列を解析し、MicroSeqのデータベースと照合したところ、相同率96.39%でストレプトミセス・ラベンデュラエ・エスエスピー・ラベンデュラエ(Streptomyces lavendulae ssp. lavendulae)が最も近縁な菌群であるとの知見が得られた。
【0031】
以上の菌学的性質に基づいて、REN−7株は、ストレプトミセス・ラベンデュラエに属すると結論された。そこで、本発明者らは、REN−7株をストレプトミセス・ラベンデュラエ REN−7(Streptomyces lavendulae REN-7)と命名した。ストレプトミセス・ラベンデュラエ REN−7株の保存サンプルは、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(茨城県つくば市東1丁目1番3号)に2000年9月8日付で国内寄託され、受託番号として、生命研菌寄第18026号(FERM P−18026)を付されている。
【0032】
また、本発明は、ラッカーゼ生産微生物を培養し、得られる培養物からラッカーゼを採取することを特徴とするラッカーゼの製造方法を提供する。ラッカーゼ生産微生物としては、好ましくはストレプトミセス属に属する放線菌、より好ましくはストレプトミセス・ラベンデュラエに属する放線菌、特に好ましくは上記ストレプトミセス・ラベンデュラエ REN−7株が挙げられる。
以下、当該製造方法の一実施態様を説明する。
【0033】
まず、上述した方法等により選択されたラッカーゼ生産株(微生物)を適当な液体培地中で培養する。培地は、該生産株の生育に必要な炭素源、無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、例えばグルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖等が、無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスティープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液等が例示される。また所望により他の栄養素〔無機塩(例えば塩化カルシウム、リン酸水素二ナトリウム、塩化マグネシウム等)、ビタミン類、抗生物質(例えばテトラサイクリン、ネオマイシン、アンピシリン、カナマイシン等)等〕を含んでいてもよい。
【0034】
培養は、生産株の種類に応じて、当該技術分野において知られている方法により行われる。培養条件、例えば温度、培地のpHおよび培養時間は、本発明のラッカーゼが大量に生産されるように適宜選択することができる。
【0035】
例えば、生産株が細菌、放線菌、酵母、糸状菌である場合、例えば上記栄養源を含有する液体培地が適当である。好ましくは、pHが5〜8である培地である。培養は必要により、通気、攪拌を行いながら、通常15〜40℃、好ましくは20〜35℃で約24〜144時間行なわれる。
【0036】
次いで、得られた培養物を濾過および/または遠心分離して菌体(微生物)と培養上清(濾液)を分離する。本発明のラッカーゼは、該酵素活性が存在するいずれかの画分、すなわち該培養上清または該菌体の抽出液から、一般に酵素タンパク質の単離精製に使用されている分離技術を適宜組み合わせることによって精製することができる。具体的には、例えば、塩析、溶媒沈殿法等の溶解度の差を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過、PAGE、SDS−PAGE等の分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー等の荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィー等の特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィー等の疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動等の等電点の差を利用する方法が挙げられる。
【0037】
以上のようにして得られる本発明のラッカーゼは、原核生物の一種であり、培養も比較的容易で、遺伝子組換え操作における宿主としても使用される放線菌由来であるので、従来の酵素とは異なり遺伝子操作等により大量生産することが可能である。また、該酵素は、約70℃以下の温度で安定であるように耐熱性にも優れ、さらにポリフェノール化合物(カテコール等)のみならず、モノフェノール化合物(クレゾール等)、芳香族アミン化合物(p-フェニレンジアミン等)、L-アスコルビン酸等、様々な化合物を酸化可能であるように基質特異性も幅広いので、毒性の強いフェノール性化合物や芳香族アミンを含む廃液の処理、パルプ製造処理等におけるリグニンの除去、人工漆の製造、コンクリート混和剤の合成、ココア、コーヒーおよび紅茶の褐変処理、化粧品用メラニン製造、食品のゲル化剤、臨床検査試薬、漂白剤としての利用等、広範な用途に好適に使用することができる。なお、これらの用途によっては、精製した当該ラッカーゼばかりでなく、当該ラッカーゼを当該分野で公知の手段を用いて担体等に固定化したものや、当該ラッカーゼを生産し得る微生物等の培養物または細胞破砕液等であって、当該ラッカーゼを含有するもの等も使用することができる。
【0038】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これらは単なる例示であって何ら本発明の範囲を限定するものではない。
なお、実施例中、ラッカーゼ活性は、下記の比色法または酸素電極法のいずれかで測定した。
【0039】
(1)酸素電極法
全容量が5mlの基質溶液(5mMカテコールを含む50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5))を30℃で10分間保持して温度を均一にした後、適当に希釈した酵素液(20〜100μl)を加えて反応を開始した。活性は、反応の進行に伴う酸素消費量の初速度より求めた。溶存酸素量の測定は、クラーク型酸素電極(YSI model 5300 biological oxygen monitor)を用いた。30℃で空気と平衡状態にある水中の溶存酸素量は228μMとした。以上の条件で1分間に1μmolの酸素を消費する酵素活性を1単位とした。
【0040】
(2)比色法
全容量が5mlの基質溶液(5mMカテコールを含む50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5))を30℃で10分間保持して温度を均一にした後、適当に希釈した酵素液(20〜100μl)を加え、30分間反応させた。活性は、反応の進行に伴う基質カテコールの酸化により生成するo-ベンゾキノンの475nmでの吸光度の増加より求めた。以上の条件で1分間に基質溶液1lあたり吸光度を0.001増加させる酵素活性を1単位とした。
【0041】
実施例1 REN−7株のスクリーニング
(1)第一次スクリーニング
京都市左京区の森林より採取した土壌を試料とし、表3に示す組成からなる改良ペプトン酵母エキス培地に、10nMの濃度のシリンガルダジンまたは0.1mMの濃度のグアヤコールを加えた寒天培地を用いて、30℃で2〜3日間希釈平板培養を行った。約100枚のプレートより、シリンガルダジンまたはグアヤコールの酸化によりコロニーの周辺を褐色または赤色に変化させた菌38株を分離した。
【0042】
【表3】
【0043】
(2)第二次スクリーニング
上記(1)で得られた38株を表3の組成からなる培地を用い、太口試験管にて30℃で3日間液体振とう培養を行った。該培養液を濾過して、菌体と濾液に分離した。菌体については、超音波破砕後の遠心上清を酵素粗試料とし、濾液についてはそのまま酵素粗試料とし、シリンガルダジンを基質として、ラッカーゼ活性を測定した。その結果、REN−7株と命名した分離株の菌体破砕上清中に、唯一ラッカーゼ活性を見出した。そのため、REN−7株が菌体内にラッカーゼを生産していると判断し、以後、本菌株を用いて実験を行った。
【0044】
実施例2 REN−7株由来ラッカーゼの精製
(1)REN−7株の培養
REN−7株を表4の組成からなる酵母エキス−麦芽エキス寒天培地プレート上で、30℃、3日間培養した。これを表3に示す組成からなる改良ペプトン酵母エキス培地100mlを含む500ml容坂口フラスコに植菌し、30℃、3日間振とう培養した。
【0045】
【表4】
【0046】
(2)ラッカーゼの精製
上記(1)で得られた培養液より、濾紙にて菌体を集めた。得られた菌体(湿重量200g)に50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を加え、超音波菌体破砕器にて菌体を破砕した。不溶物を遠心分離にて取り除いた後、得られた上清850mlを70℃、30分間熱処理した。さらに析出した不溶物を遠心分離にて取り除いた後、得られた上清820mlに硫酸アンモニウムを加え塩析を行い、20〜80%飽和画分を回収した。塩析により得た酵素沈殿物を50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に溶解して一昼夜透析した。透析後の酵素液をDEAE−セルロース(和光純薬(株)製)カラムクロマトグラフィーにかけ、0〜500mM塩化ナトリウムの直線濃度勾配で溶出して、ラッカーゼ活性画分を回収した。得られた酵素溶液を塩析し、0.1mM塩化カルシウムを含む1mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)にて透析した。透析後の酵素液をヒドロキシアパタイト(和光純薬(株)製)カラムクロマトグラフィーにかけ、1〜500mMリン酸ナトリウムの直線濃度勾配で溶出して、ラッカーゼ活性画分を回収した。得られた酵素溶液を限外濾過にて濃縮した後、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で平衡化したSephadex G-150(アマシャムファルマシア(株)製)を用いたゲル濾過カラムクロマトグラフィーにかけることにより精製ラッカーゼを得た。
【0047】
実施例3 ラッカーゼの特性解析
(1)至適反応pH
実施例2で得られた精製ラッカーゼを用い、pH3.5〜7.0の種々の条件下で、上記酸素電極法に準じて活性を測定した。各pHにおける酵素の相対活性を図1に示す。該酵素の至適反応pHは約4.5であった。
【0048】
(2)安定pH範囲
該酵素をpH3.5〜11.0の種々の条件下、30℃で20時間保持した後、上記比色法に準じて活性を測定した。各pHにおける残存活性を図2に示す。
該酵素の安定pH範囲は30℃で7.0〜10.5であった。
【0049】
(3)至適反応温度
該酵素の活性を、30〜75℃の種々の温度で、上記比色法に準じて測定した。各温度における相対活性を図3に示す。該酵素の至適反応温度は約50℃であった。
【0050】
(4)熱安定性
該酵素を50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)中で20〜95℃の種々の温度にて10分間保持した後、上記酵素電極法に準じて活性を測定した。
各温度における残存活性を図4に示す。該酵素はpH7.0で10分間保持した場合、70℃まで安定であった。
【0051】
(5)分子量
SDS−PAGEにより該酵素の分子量を測定したところ、分子量は約73,000であった。
【0052】
(6)アミノ末端のアミノ酸配列
エドマン分解法により該酵素のアミノ末端のアミノ酸配列を決定したところ、該アミノ酸配列は、Ala Pro Ala Ala Ala Asp Gly Glu Leu Thr Pro Tyr Ala Ala Pro Leu Thr Val(配列表配列番号1)であった。
【0053】
(7)基質特異性
該酵素を用い、表1に示す各基質を5mMの濃度(L-チロシンは1mMとした)で含む溶液中での酵素活性を、上記酸素電極法に準じて測定した。活性は、カテコールに対する値を100とした相対値で表した。各基質に対する相対活性値を表5に示す。該酵素は、今回用いた基質の中でピロガロールを最もよく酸化した。また、該酵素は、ポリフェノール化合物(カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロガロール、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)のみならず、モノフェノール化合物(クレゾール、グアヤコール、L-チロシン)、芳香族アミン化合物(p-フェニレンジアミン、p-トルイジン)、L-アスコルビン酸等、様々な化合物を幅広く酸化することがわかった。
【0054】
【表5】
【0055】
(8)阻害剤の影響
該酵素を用い、表6に示す各阻害剤0.1mMまたは1mMを含む溶液中での酵素活性を、上記比色法に準じて測定した。各阻害剤存在下での残存活性を表6に示す。該酵素の活性は、1mMの濃度のL-システイン塩酸塩、DL-ジチオスレイトール、アジ化ナトリウムによって完全に阻害された。また、1mMの濃度のコウジ酸によって70%程度阻害された。
【0056】
【表6】
【0057】
(9)金属塩の影響
該酵素を用い、表7に示す各金属塩0.2mMを含む溶液中での酵素活性を、上記比色法に準じて測定した。各金属塩存在下での残存活性を表7に示す。該酵素の活性は、CuCl2、ZnCl2、MgCl2、MnCl2、CaCl2、KCl、NaClのいずれの金属塩によっても大きな影響を受けないことがわかった。
【0058】
【表7】
【0059】
【発明の効果】
本発明のラッカーゼは、原核生物の一種である放線菌由来であるので、遺伝子操作等により大量生産することが可能であるばかりでなく、耐熱性にも優れ、さらに基質特異性も幅広いので、広範な用途に好適に使用することができる。
【0060】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】REN−7由来ラッカーゼの各pHにおける活性を示す図である。活性は最大活性値を100とした相対値で表している。(○)は酢酸ナトリウム緩衝液、(●)はリン酸ナトリウム緩衝液を示す。
【図2】REN−7由来ラッカーゼの各pHにおける安定性を示す図である。(○)は酢酸ナトリウム緩衝液、(●)はリン酸ナトリウム緩衝液、(□)はトリス−塩酸緩衝液、(▲)はグリシン−NaOH緩衝液を示す。
【図3】REN−7由来ラッカーゼの各温度における活性を示す図である。活性は最大活性値を100とした相対値で表している。
【図4】REN−7由来ラッカーゼの各温度における安定性を示す図である。
Claims (9)
- 下記の性質を有する耐熱性ラッカーゼ:
(a)作用:フェノール性化合物を酸化する
(b)至適反応pH:約4.5
(c)安定pH範囲:7.0〜10.5
(d)至適反応温度:約50℃
(e)熱安定性:70℃以下で安定
(f)基質特異性:カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロガロール、クレゾール、グアヤコール、p-フェニレンジアミン、p-トルイジン、L-チロシン、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン、L-アスコルビン酸を酸化する
(g)分子量:約73,000(SDS−PAGE)。 - アミノ末端のアミノ酸配列がAla Pro Ala Ala Ala Asp Gly Glu Leu Thr Pro Tyr Ala Ala Pro Leu Thr Val(配列表配列番号1)である、請求項1記載の耐熱性ラッカーゼ。
- ストレプトミセス属に属する放線菌由来である、請求項1または2に記載の耐熱性ラッカーゼ。
- ストレプトミセス属に属する放線菌が、ストレプトミセス・ラベンデュラエに属する放線菌である、請求項3記載の耐熱性ラッカーゼ。
- ストレプトミセス・ラベンデュラエに属する放線菌が、ストレプトミセス・ラベンデュラエ REN−7(FERM P−18026)である、請求項4記載の耐熱性ラッカーゼ。
- ストレプトミセス属に属する放線菌を培地中で培養し、得られる培養物から耐熱性ラッカーゼを採取することを特徴とする、請求項1または2に記載の耐熱性ラッカーゼの製造方法。
- ストレプトミセス属に属する放線菌が、ストレプトミセス・ラベンデュラエに属する放線菌である、請求項6記載の耐熱性ラッカーゼの製造方法。
- ストレプトミセス・ラベンデュラエに属する放線菌が、ストレプトミセス・ラベンデュラエ REN−7(FERM P−18026)である、請求項7記載の耐熱性ラッカーゼの製造方法。
- 請求項1または2に記載の耐熱性ラッカーゼの生産に適する、ストレプトミセス・ラベンデュラエ REN−7(FERM P−18026)。
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