JP4107990B2 - 電気化学素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、セラミックスおよび電気化学素子に関し、さらに詳しくは、特に高温域において優れた絶縁性を有すると共に、ヒーターの形成を容易に行うことができる絶縁層を形成するのに好適なセラミックスおよびこのような絶縁層を有する電気化学素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、セラミック抵抗体として、「アルミナを主成分とし、他にシリカ、カルシア、マグネシアよりなり、さらに導電材としてのカーボンを3〜10重量%含有する焼結体により形成される抵抗部材と、この抵抗部材の外周面に被覆され、アルミナを主成分とし、他にシリカ、カルシア、マグネシアを含む焼結体より形成される絶縁層とからなることを特徴とするセラミック抵抗体」が知られている(特許文献1、特許請求の範囲参照)。
【0003】
この特許文献1によると、前記絶縁層は、「抵抗部材を外界より保護すると共に耐熱性、耐絶縁性を格段に向上でき、さらに熱影響による抵抗部材との熱膨張差が略零となることによって亀裂、剥離が防止」される、とされている(特許文献1の第2頁左下欄第16行〜第20行参照)。また、この特許文献1によると、この絶縁層を構成するアルミナ、シリカ、カルシア、マグネシウムその他粘土等の配合割合は抵抗部材と同配合にすることが望ましい」とされ、また「抵抗部材を構成する・・・配合割合は、アルミナ50〜95重量%、シリカ、カルシア、マグネシアその他粘土等5〜50重量%の範囲にすることが望ましい」といったように、粘土鉱物の配合量についての一般的な記載があるものの(特許文献1の第2頁左下欄第20行〜右下欄第3行、及び第2頁左下欄第5行〜第9行参照)、アルミナに対するカルシアの具体的な配合割合の範囲についての記載がなく、アルミナ粉85重量%、カオリン5重量%、粘土5重量%、及び炭酸カルシウム5重量%からなる混合粉から調製されたセラミック乾燥粉が実施例で開示されているのみである(特許文献1の第3頁左上欄第12行〜第16行参照)。
【0004】
この特許文献1においては、その実施例において、セラミック抵抗体における焼成処理温度の変換に対する比抵抗並びに酸化処理温度の変化に対する耐電圧が、第3図及び第4図に示されているが、抵抗部材の面粗度やヒーターの形成を容易にすることについては具体的評価内容が開示されていない。
【0005】
【特許文献1】
特開昭57−52101号公報
【0006】
特許文献2には、アルミナを主成分としてジルコニアを添加し、これにカルシアを0.02重量%以上0.5重量%以下の割合で添加して作成されたセラミックス焼成体よりなる絶縁性セラミック基板が開示されている(特許文献2の請求項1及び請求項4を参照)。
【0007】
この絶縁性セラミック基板は、機械的強度特に破壊靱性(撓み性)を高め、応力緩和の特殊の構造を採用することなく、基板自身の薄形化による放熱性の改善を図ることを目的とするのであり(特許文献2における[0011]参照)、高温領域における大きな絶縁性を達成し、しかもヒーターの形成を容易にするという課題については、この特許文献2には、何らの記載もない。
【0008】
【特許文献2】
特開平8−195458号公報(請求項4および【0017】)
【0009】
特許文献3には、セラミックス焼結体と、該セラミックス焼結体に埋設された金属製発熱体とを有し、該発熱体への通電により該セラミックス焼結体を加熱するセラミックヒータにおいて、少なくとも酸化カルシウム又は酸化マグネシウムを焼結助剤とするアルミナで形成されているセラミック焼結体が、開示されている(特許文献3の請求項1及び請求項8参照)。
【0010】
この特許文献3には、高温領域における優れた絶縁性及び基板上のヒーターの形成を容易にするセラミック焼結体についての記載も示唆もない。
【0011】
【特許文献3】
特開平6−317550号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、このような従来の問題を解消し、特に高温域において優れた絶縁性を有すると共に、ヒーターを容易に形成することができる絶縁層を有する電気化学素子を提供することをその課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するために、酸化アルミニウムと酸化カルシウムとを含有するセラミックスについて検討したところ、前記特許文献2に記載された含有量よりも遥かに多い量である3質量%を超える酸化カルシウムの含有量であっても、焼結が可能であり、しかも電気化学素子を形成する絶縁層として、かつ表面にヒーターを容易に形成することができる絶縁層と成り得るセラミックスを見出して、この発明を完成するに到った。
【0014】
すなわち、この発明の前記課題を解決するための手段は、
固体電解質基板、絶縁層およびヒーターを有する電気化学素子であって、前記絶縁層が、酸化アルミニウムと、前記酸化アルミニウムに対して酸化物換算で3〜30質量%の酸化カルシウムとを含有し、シリカ及び酸化マグネシウムを含有せず、中心線平均高さRaが大きくとも1.0μmであるセラミックスにより形成されて成ることを特徴とする電気化学素子である。
【0016】
この手段における好ましい態様としては、前記絶縁層が、前記固体電解質基板と前記ヒーターとの間に形成されている電気化学素子および前記電気化学素子が、ガスセンサー用素子である電気化学素子を挙げることができる。さらにまた、好適な態様として、この電気化学素子におけるガスが酸素である電気化学素子を挙げることができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
(1) セラミックス
この発明のセラミックスは、酸化アルミニウムと、前記酸化アルミニウムに対して酸化物換算で3〜30質量%の酸化カルシウムとを含有することを一つの特徴とする有形の焼結体である。
【0018】
この発明のセラミックスを構成する酸化アルミニウムは、Al2O3で表され、アルミナと称される化合物であり、α−アルミナであっても、γ−アルミナであってもよく、両者の混合物であってもよい。また、この発明のセラミックスを構成する酸化カルシウムは、CaOで表される化合物である。
【0019】
この発明のセラミックスは、酸化アルミニウムと、前記酸化アルミニウムに対して酸化物換算で3〜30質量%、好ましくは6〜9質量%という比較的多量の酸化カルシウムとを含有していることを要する。この酸化カルシウムの含有量が3質量%未満では、高温域において十分な絶縁効果が期待できず、30質量%を超えると、他の材料、例えば、固体電解質基板との接合性に劣り、反りを生じることがあり、また、セラミックスの表面が過大に粗くなることもある。
【0020】
この発明に係るセラミックスは、その表面の粗さ、つまり面粗度が大きくとも1.0μmであり、より好ましくは、大きくとも0.83μmであることも特徴の一つとする。このような面粗度を有することにより、この発明に係るセラミックス上に他の層をパターニングしたときに、他の層の形状が乱れることなく容易に形成される。ここに面粗度とは、JIS B 0601に規定の粗さ曲線の中心線平均高さRaをいい、絶縁層表面の粗面化の程度を表す指標である。面粗度は、例えば、このセラミックスに含有される酸化カルシウムの含有量により調整することができる。
【0021】
前記面粗度が1.0μmを越えると、他の層の淵の部分に凹凸が形成される場合があるため、他の層をパターニングしたセラミックスの特性が一様ではなくなり、好ましくない。
【0022】
この発明のセラミックスは、まず、原料粉末に所望によりバインダーを加えて造粒することにより粒状体を得、この粒状体から必要により成形体を製造し、次いで、この成形体を焼成することによって焼結成形体を形成する方法、及び必要に応じて添加されるその他の成分の粉末を混合してなる原料粉末に所望によりバインダー含有水溶液を加えてペーストにし、このペーストを焼成することによって焼結成形体を形成する方法等により製造することができる。
【0023】
原料粉末としては、酸化アルミニウム、酸化カルシウム及び本発明の目的を阻害しない限りの他の成分等を挙げることができ、さらにこれらの代わりに、焼成することによって酸化アルミニウムを生成する化合物、例えば、アルミニウムの炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、炭化物、ホウ化物、ケイ化物または窒化物等の粉末および焼成することによって酸化カルシウムを生成する化合物、例えば、カルシウムの炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、炭化物、ホウ化物、ケイ化物または窒化物等の粉末を挙げることができる。
【0024】
前記の焼成することによって酸化アルミニウムを生成する好適な化合物としては、アルミニウムの炭酸塩、硝酸塩または水酸化物を挙げることができる。また、前記の焼成することによって酸化カルシウムを生成する好適な化合物としては、カルシウムの炭酸塩、硝酸塩、水酸化物を挙げることができ、特に好適な化合物はカルシウムの炭酸塩である。
【0025】
原料粉末は、前記所定割合となるように秤量、採取して、ミキサー等により、5〜30時間、湿式混合することが好ましい。次いで、得られた混合物に所望によりバインダーを加え、スプレードライヤー等の造粒機を用いて造粒する。造粒して得られる粒状体の粒径は50〜100μmであることが好ましい。
【0026】
用いるバインダーとしては、水溶性高分子物質が好ましく、例えば、ポリビニルアセタール、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンイミン、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース等を挙げることができる。このバインダーの使用量に特に制限はないが、通常は、前記混合物100質量部に対し、1〜10質量部、好ましくは、3〜7質量部である。
【0027】
続いて、造粒することにより得られた粒状体を金型に充填し成形する。成形手段としては特に制限はなく、圧縮成形、射出成形、押出成形等が採用され、これらの中でも圧縮成形が好ましい。
【0028】
このようにして得られた成形体を焼成することによって、この発明のセラミックスが製造される。また、前記原料粉末と前記バインダーを含有するバインダー含有液とを混合してペーストにし、このペーストを基材に塗布してから焼成することによっても、この発明のセラミックスが製造される。焼成条件に特別な制限はないが、通常は、大気中、大気圧下に、1300〜1500℃で1〜5時間、焼成処理することによって焼結される。
【0029】
このようにして製造されるこの発明のセラミックスは、高温域で使用される絶縁体として有用であり、電気化学素子に用いられる絶縁層を形成するのに好適なセラミックスである。
【0030】
(2) 電気化学素子
この発明の電気化学素子は、固体電解質基板、絶縁層およびヒーターを有する電気化学素子であって、前記絶縁層が、前記(1)のセラミックスにより形成されていることを特徴とする。
【0031】
図1に示すこの発明の電気化学素子1の一例は、緻密な固体電解質から成る基板である固体電解質基板2と、この固体電界質基板2の一方の片側平面に設置された絶縁層4と、絶縁層4を介して設置されたヒーター3と、他方の片側平面上に並んで設置された陽極5および陰極6とを備えて形成されている。しかし、この発明の電気化学素子はこの形態には制限されない。
【0032】
この発明の電気化学素子1は、まず固体電解質基板2を形成するための固体電解質グリーンシートを作製し、この固体電解質グリーンシートの片側平面に絶縁層4を形成する絶縁ペーストを印刷し、さらに、ヒーター3を形成するヒーターペーストを印刷により積層し、その後、固体電解質グリーンシートの反対面に陽極5および陰極6を形成する電極ペーストを印刷し、続いて、所定の大きさに切断して、250〜350℃にて脱脂し、1300〜1600℃にて焼成して得られる。
【0033】
また、固体電解質基板2を形成する固体電解質グリーンシートを所定の大きさに切断し、固体電解質グリーンシートのみを脱脂し焼成することにより、固体電解質基板2を作製し、その後、絶縁ペースト、ヒーター用ペースト、電極用ペーストを個々に印刷した後、焼き付けすることによっても得られる。
【0034】
ここでいう印刷には、スクリーン印刷、グラビア印刷、転写法、凸版印刷、凹版印刷、メタルマスク法等の印刷があり、好ましくはスクリーン印刷である。スクリーン印刷は、前記ペーストを、スクリーン版を通過させて塗布する方法であり、適度な凹凸により密着性に優れた絶縁層を形成することができ、この発明に好適な印刷方法である。
【0035】
絶縁層4は、前記(1)のセラミックスと同じ組成で形成されている。絶縁層4を形成する絶縁ペーストを製作し、固体電解質グリーンシートに印刷することにより、絶縁層4を電気化学素子内に設置することができる。
【0036】
絶縁ペーストは、前記(1)のセラミックスと同じ組成となるように混合した原料粉末と、バインダーおよび溶剤例えば有機溶剤とを混合して調製される。用いるバインダーとしては、セラミックスの説明欄で例示したとおりであり、前記有機溶剤としては、ブチルカルビトール、α−テルピネオール等を挙げることができる。絶縁ペーストにより電気化学素子に形成された絶縁層4の厚さに制限はないが、通常は10〜100μmであり、好ましくは10〜50μm以下である。
【0037】
形成される絶縁層4の面粗度は、大きくとも1.0μmであることが好ましく、より好ましくは、大きくとも0.83μmである。このような面粗度を有することにより、この絶縁層4に導電性のヒーターパターンを形成したとき、ヒーターパターンの形状が乱れることなく容易に形成されるからである。ここに面粗度とは、JIS B 0601に規定の粗さ曲線の中心線平均高さRaをいい、絶縁層表面の粗面化の程度を表す指標である。この面粗度が1.0μmを越えると、ヒーターパターンの淵の部分に凹凸が形成される場合があるため、ヒーターの抵抗値が均等にならないため温度むらを生じ、好ましくない。
【0038】
この絶縁層4の面粗度は、前述したように、絶縁層に含まれる酸化カルシウムの量によって調整することができ、酸化カルシウムの量を多くするにつれて、面粗度は増大し、絶縁層表面は粗くなってゆく。
【0039】
この発明に用いられる固体電解質基板2を形成する材料に制限はないが、ジルコニア系固体電解質が好ましく用いられる。このジルコニア系固体電解質としては、ジルコニア、全安定化ジルコニア、部分安定化ジルコニア等を挙げることができる。全安定化ジルコニアまたは部分安定化ジルコニアは、希土類元素等を添加して結晶構造を安定化させたジルコニアである。
【0040】
固体電解質基板2を形成する固体電解質グリーンシートは、例えば、まず、ジルコニア粉末、バインダーおよび有機溶剤をボールミル等により混合してスラリーを調製する。次いで、このスラリーから、ドクターブレード法等によって作製される。
【0041】
この固体電解質グリーンシートに用いるバインダーとしては、セルロールアセテートブチレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、エチルセルロース等を挙げることができ、有機溶剤としては、アセトン、エタノール、ブタノール、プロピルアルコール、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、ベンゼン、トルエン、キシレン等を挙げることができる。
【0042】
固体電解質基板2は、固体電解質グリーンシートを任意の大きさに切断した後、絶縁ペースト、ヒーター3を形成するヒーター用ペースト及び陽極5と陰極6とを形成するための電極ペーストを積層させて250〜350℃にて脱脂し、1300〜1600℃にて一体焼成することにより製造することもできるし、固体電解質グリーンシートのみを脱脂し、焼成することによっても製造することもできる。
【0043】
ヒーター3は、Pt、Pd、Rh等から形成されるが、中でもPtが特に好ましい。ヒーター3を形成するヒーター用ペーストを製作し、そのヒーター用ペーストを絶縁ペーストの表面に積層印刷することで、ヒーター3を電気化学素子内に設置することができる。
【0044】
ヒーター用ペーストは、Pt、Pd、Rh等の粉末に、バインダーおよび有機溶剤を混合して調製される。用いるバインダーとしては、エチルセルロース、ブチラール樹脂等を挙げることができ、有機溶剤としては、ブチルカルビトール、α−テルピネオール等を挙げることができる。
【0045】
また、陽極5および陰極6は、Ag、Pd、Pt等が多孔質形状になって形成されている。陽極5および陰極6を形成する材料に特に制限がないが、中でもPtが好ましく用いられる。陽極5および陰極6を形成する電極用ペーストを製作し、そのペーストを前記グリーンシートの絶縁ペーストおよびヒーターペースト印刷面とは反対面に印刷することで、陽極5および陰極6を電気化学素子内に設置することができる。
【0046】
この電極用ペーストは、Ag、Pd、Pt等の材料とバインダーおよび有機溶剤を混合して調製される。用いるバインダーとしては、エチルセルロース、ブチラール樹脂等を挙げることができ、有機溶剤としては、ブチルカルビトール、α−テルピネオール等を挙げることができる。
【0047】
印刷された前記ヒーター用ペースト、前記電極用ペーストは、個別に焼付けてもよいが、好ましくは、それぞれ印刷後、一体的に焼付けられる。
【0048】
このような電気化学素子にあっては、ヒーターに通電して、固体電解質をイオン伝導温度まで加熱し、陽極5と陰極6とに電圧を印加すると、固体電解質基板2と多孔質形状の陰極6との界面において、酸素、水素等の気体分子に電荷が与えられイオンとして取り込まれ、固体電解質基板2内をイオンとして伝導し、固体電解質基板2と多孔質の陽極5との界面において、イオンの電荷が奪われて元の気体分子として放出するポンピングサイクルを繰り返す。
【0049】
この発明の電気化学素子は、ガスセンサー用素子のポンピングセル、特に平面型限界電流式のガスセンサー用素子のポンピングセルとして有用である。
【0050】
この発明の電気化学素子の一例であるガスセンサー用素子は、固体電解質基板、絶縁層およびヒーターを有するガスセンサー用素子であって、前記絶縁層が、前記(1)の絶縁体により形成されていることを特徴とする。
【0051】
この発明におけるガスセンサー用素子の構成は、図2〜5に示すとおりである。図2は、ガスセンサー用素子のセンサー面を示す斜視図であり、図3は、ガスセンサー用素子のヒーター面を示す斜視図であり、図4は図2のA−A’断面図であってガスセンサー用素子を示す断面図である。図5は、ガスセンサー用素子のセンサー面を示す断面図である。図2〜5において、7はガス律速孔を、8はガス出口孔を、9は陽極端子を、10は陰極端子を、12はヒーター端子を表す。
【0052】
ガス律速孔7は、この発明の実施態様においては、多孔質白金から成る。ガス律速孔7は、陰極6とセンサー素子の外部とを繋げており、陰極6へ測定ガスを供給している。しかし、ガス律速孔7は、多孔質形状であれば、多孔質白金に限定されるものではなく、多孔質形状の無機物、例えば、アルミナであってもよく、また、小孔を有する無機物であってもよい。ガス出口孔8は、陽極5をセンサーの外部を繋げており、ガス律速孔7よりも気体の透過が容易な単孔が好ましい。陽極端子9、陰極端子10、ヒーター端子12は白金線から成る。
【0053】
この発明におけるガスセンサー用素子は、以下のように作製される。
まず、固体電解質基板2−2を形成するための固体電解質グリーンシートを作製し、この固体電解質グリーンシートの片側表面に絶縁層4を形成する絶縁ペーストを印刷し、さらに、ヒーター3を形成するヒーターペーストを積層印刷し、その後、固体電解質グリーンシートの反対面に陽極5および陰極6を形成する電極ペーストおよびガス律速孔7を形成するカーボンを主成分とするカーボンペーストを図5に示すパターンとなるように印刷する。
【0054】
続いて、陽極5および陰極6の端部に陽極端子9、陰極端子10を形成する白金線を前記電極ペーストで接着する。その後、一方の固体電解質基板2−1を形成するための固体電解質グリーンシートを製作し、その固体電解質グリーンシートにガス出口孔8を開ける。固体電解質基板2−2を形成するグリーンシートと固体電解質基板2−1を形成するグリーンシートとを、ガス出口孔8が陽極上に配置されるように熱圧着し、所定の大きさに切断し、ヒーター3の端部にヒーター端子12をヒーターペーストで接着する。さらに、一体的に250〜350℃にて脱脂し、1300〜1600℃にて焼成することで、ガスセンサー用素子が得られる。
【0055】
ここでいう固体電解質基板グリーンシート、ヒーターペースト、絶縁ペースト、電極ペーストは、電気化学素子を形成しているものと同様である。また、印刷方法も電気化学素子と同様である。
【0056】
ガス律速孔7を形成するペーストは、多孔質形状の陽極5および陰極6を形成する電極ペーストと同様である。
【0057】
ここで平面型限界電流式のガスセンサー用素子の動作形態を以下に示す。
2つのヒーター端子12間に通電し、固体電解質基板2−2をイオン伝導温度(活性温度:約500〜600℃)まで加熱し、陽極端子9、陰極端子10を介して、陽極5、陰極6に電圧を印加すると、陰極6と固体電解質基板2−2との界面において、ガス律速孔7を介して導入された気体分子に電荷が与えられ、イオン化して固体電解質基板2−2内に取り込まれる。
【0058】
そして、このイオン化した気体が固体電解質基板2−2中を伝導し、固体電解質基板2−2と陽極5との界面において、イオン化した酸素の電荷が奪われて、元の気体分子に戻され、ガス出口孔8を介して気体が排出される。すなわち、陰極6と陽極5との間の酸素のポンピングが行なわれ、結果的にガスセンサー用素子12に電流が流れる。
【0059】
このようなガスセンサー用素子においては、図6に示す曲線aのように、陽極端子9と陰極端子10の間に印加する電圧を0〜V1に増加すると、陰極6から陽極5への測定気体分子のポンピング量が増大し、電流量が増大する。このため、曲線aに示すように、印加電圧の増加により測定気体分子のポンピング量が増大し、陽極端子9と陰極端子10に流れる電流量が増大する。
【0060】
ガスセンサー用素子へ印加する電圧をV1〜V2に増加させると、白金多孔質であるガス律速孔7を介して拡散導入される測定気体の分子数が最大(頭打ち)となり、測定気体量が一定(IL1)となる。つまり、ガスセンサー用素子へ印加する電圧をV1〜V2に増加させても、ガスセンサー用素子に流れる電流は、一定電流値IL1となる。
【0061】
ここで、曲線bを示すときの測定ガス中の測定気体濃度は、曲線aを示すときの測定気体濃度よりも低い場合を示している。測定気体濃度が低い場合には、曲線aよりも低い電流値IL2にて電流が一定になるからである。他方、曲線cを示すときの測定気体濃度は、測定雰囲気中の測定気体濃度が曲線aを示すときの測定気体濃度よりも高い場合を示している。測定気体濃度が高いと、一定電流値IL1よりも高い電流値IL3にて電流が一定になる。これら一定となった際の電流値の違い(差分)により、平面型限界電流式ガスセンサー用素子を用いて測定気体濃度を測定する。上述した実施形態の測定気体分子には、O2、NOx、H2O、CO2、HC等が挙げられる。
【0062】
【実施例】
以下に、実施例を挙げてこの発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例によってこの発明はなんら限定されるものではない。
【0063】
実施例1〜3および比較例1〜3
〔ガスセンサー用素子の製造例〕
(絶縁ペーストの調製例)
酸化アルミニウム粉末に対し、表1に示す割合の酸化カルシウムを配合した混合物5gとバインダーとしてブチラール樹脂1.5gおよび有機溶剤としてブチルカルビトール4gを、ボールミルにより30時間、混合して実施例1〜3および比較例2,3のガスセンサー用素子に用いられる絶縁ペーストを調製した。
【0064】
酸化アルミニウム粉末に対し、表1に示す割合の酸化カルシウムを配合した混合物5gとバインダーとしてブチラール樹脂1.5gおよび有機溶剤としてブチルカルビトール4gを、ボールミルにより30時間、混合して実施例2〜4および比較例2,3のガスセンサー用素子に用いられる絶縁ペーストを調製した。
【0065】
(ヒーターペーストの調製例)
白金粉末5gに、酸化アルミニウム粉末0.5g、バインダーとしてブチラール樹脂0.5gおよび有機溶剤としてブチルカルビトール1.5gを、ボールミルを用いて20時間混合して、ヒーターペーストを調製した。
【0066】
(電極ペーストの調製例)
白金粉末5gにバインダーとしてブチラール樹脂0.5gおよび有機溶剤としてブチルカルビトール1.5gを、ボールミルを用いて20時間混合して、ヒーターペーストを調製した。
【0067】
(固体電解質グリーンシートの製造例)
イットリア部分安定化ジルコニア粉末1000g、バインダーとしてブチラール樹脂150gおよび有機溶剤としてトルエン700gを、ボールミルを用いて50時間混合して、スラリーを調製した。このスラリーを用い、ドクターブレード法によりジルコニア系の固体電解質グリーンシートを作製した。
【0068】
(ガスセンサー用素子の製造例)
固体電解質基板2−2を形成するジルコニア系の固体電解質グリーンシートの一方の面に、絶縁層4を形成する絶縁ペーストをスクリーン印刷し、次いで、絶縁層4上にヒーター3を形成するヒーターペーストを絶縁ペースト上にスクリーン印刷により積層印刷した。続いて、この固体電解質グリーンシートの反対側面に、陽極5、陰極6およびガス律速孔7を形成する電極ペーストを、スクリーン印刷した。その後、陽極5および陰極6の端部に陽極端子9、陰極端子10を形成する白金線を前記電極ペーストで接着した。
【0069】
他方、前記ジルコニア系固体電解質基板2−1を形成する前記(固体電解質グリーンシート製造例)により製造されたジルコニア系の固体電解質グリーンシートに、パンチング機を用いてガス出口孔8を形成する通孔を開けた。さらに、固体電解質基板2−2を形成する固体電解質グリーンシートと固体電解質基板2−1を形成する固体電界質グリーンシートをガス出口孔8が陽極上に配置されるように熱圧着し、所定の大きさに切断し、ヒーター3の端部にヒーター端子12を形成する白金線をヒーターペーストで接着した。さらに、一体的に250〜350℃にて脱脂し、1300〜1600℃にて焼成して、平面型限界電流式のガスセンサー用素子を製造した。
【0070】
〔絶縁性の評価〕
実施例1〜3および比較例1〜3の〔平面型限界電流式ガスセンサー用素子の製造例〕により製造された平面型限界電流式ガスセンサー用素子を用い、素子温度600℃の稼動時におけるセンサー電極端子とヒーター電極端子とのインピーダンスを測定した。結果を表1に示す。
【0071】
〔面粗度の評価〕
また、実施例1〜3および比較例1〜3の〔平面型限界電流式ガスセンサー用素子の製造例〕により製造された平面型限界電流式ガスセンサー用素子を用い、絶縁層の面粗度(Ra)を測定した。この面粗度(Ra)は、ヒーター面の絶縁層部分(ヒーターパターンの掛からない部分)の面粗度(Ra)とした。測定には、表面粗さ測定器(株式会社小坂研究所SE3500)を使用した。結果を表2に示す。
【0072】
【表1】
表1から、実施例1〜3の絶縁体の絶縁性は、比較例1〜2の絶縁体の絶縁性に比してきわめて優れていることが分る。
【0073】
【表2】
ヒーターパターンの形状の評価基準は、次のとおりである。
○ ヒーター3の形状を観察し、淵の部分が滑らかに形成されているもの。
× ヒーター3の形状を観察し、淵の部分に凹凸が認められるもの。
表2から、酸化カルシウムの含有量が増大すると、絶縁層の表面が粗くなる傾向にあることが分る。また、面粗度が1.0μm以下であるときは、ヒーターパターンの形状が滑らかであることが分る。
【0074】
【発明の効果】
この発明によれば、特に高温域において優れた絶縁性を有すると共に、ヒーターパターンが乱れることなく、ヒーターを容易に形成することができる絶縁層を形成するのに好適なセラミックスにより絶縁層を形成して成る電気化学素子が提供され、工業分野または医療分野に用いられる機器の設計および製造に寄与するところはきわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、この発明の電気化学素子の一例を示す断面図である。
【図2】図2は、この発明の電気化学素子の一例であるガスセンサー用素子のセンサー面を示す斜視図である。
【図3】図3は、この発明の電気化学素子の一例であるガスセンサー用素子のヒーター面を示す斜視図である。
【図4】図4は、図2のA−A’断面図であって、この発明の電気化学素子の一例であるガスセンサー用素子のポンピングセル部分の断面図である。
【図5】図5は、この発明の電気化学素子の一例であるガスセンサー用素子の内部の陽極、陰極及びガス律速孔の形状を示す図である。
【図6】図6は、この発明の電気化学素子の一例である平面型限界電流式ガスセンサー用素子の電圧−電流特性のグラフである。
【符号の説明】
1 電気化学素子
2 固体電解質基板
3 ヒーター
4 絶縁層
5 陽極
6 陰極
7 ガス律速孔
8 ガス出口孔
9 陽極端子
10 陰極端子
11 ガスセンサー用素子
12 ヒーター端子
Claims (4)
- 固体電解質基板、絶縁層およびヒーターを有する電気化学素子であって、前記絶縁層が、酸化アルミニウムと、前記酸化アルミニウムに対して酸化物換算で3〜30質量%の酸化カルシウムとを含有し、シリカ及び酸化マグネシウムを含有せず、中心線平均高さRaが大きくとも1.0μmであるセラミックスにより形成されて成ることを特徴とする電気化学素子。
- 前記絶縁層が、前記固体電解質基板と前記ヒーターとの間に形成されている請求項1に記載の電気化学素子。
- 前記電気化学素子が、ガスセンサー用素子である前記請求項1又は2に記載の電気化学素子。
- 前記ガスセンサー用素子におけるガスが酸素である請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気化学素子。
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