JP2021156729A - ガスセンサ素子の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】工程の簡略化および先端保護層の密着力の向上を図ることができるガスセンサ素子の製造方法を提供する。【解決手段】ガスセンサ素子の製造方法は、固体電解質を有する素子基体10と、前記素子基体の少なくとも一部を覆う先端保護層180と、前記素子基体と前記先端保護層との間に配置される緩衝層190と、を備えるガスセンサ素子100を製造するものであり、前記固体電解質を含むシートを積層して積層体を形成する工程と、前記積層体上に緩衝層形成用物質を含む緩衝層パターンを形成する工程と、前記緩衝層パターンが形成された積層体を焼成し、緩衝層が形成された焼成体を作製する工程と、前記焼成体の緩衝層上に先端保護層を形成する工程と、を具備する。【選択図】図3

Description

本発明は、ガスの濃度を測定するガスセンサ素子の製造方法に関する。
ガスセンサ素子の製造方法が開発されている。特許文献1には、複数のセラミックシートを積層して焼成し、素子本体部を作製した後、その素子本体部にペースト状の先端保護層形成用材料を塗布して焼成し、先端保護層を形成する手法が開示されている。
特許第5387550号公報
しかしながら、このような手法では、複数回の焼成が必要であり工程が複雑となる。また、先端保護層と素子本体部の密着性がよいとは限らない。
本発明は、工程の簡略化および先端保護層の密着力の向上を図ることができるガスセンサ素子の製造方法を提供することにある。
一態様によるガスセンサ素子の製造方法は、固体電解質を有する素子基体と、前記素子基体の少なくとも一部を覆う先端保護層と、前記素子基体と前記先端保護層との間に配置される緩衝層と、を備えるガスセンサ素子を製造するものであり、前記固体電解質を含むシートを積層して積層体を形成する工程と、前記積層体上に緩衝層形成用物質を含む緩衝層パターンを形成する工程と、前記緩衝層パターンが形成された積層体を焼成し、緩衝層が形成された焼成体を作製する工程と、前記焼成体の緩衝層上に先端保護層を形成する工程と、を具備する。
本発明によれば、工程の簡略化および先端保護層と素子本体(素子基体)の密着力の向上を図ることができるガスセンサ素子の製造方法を提供することができる。
ガスセンサ素子の長手方向に沿った垂直断面図である。 ガスセンサ素子の長手方向に垂直な断面についての概略断面図である。 実施形態に係るガスセンサ素子の製造方法を示す図である。 比較例Aに係るガスセンサ素子の製造方法を示す図である。 分解温度を示すグラフである。 実施例および比較例に係るガスセンサ素子の緩衝層の表面SEM写真である。 実施例および比較例に係るガスセンサ素子の緩衝層近傍(先端保護層形成前)の断面SEM写真である。 実施例および比較例に係るガスセンサ素子の緩衝層近傍(先端保護層形成後)の断面SEM写真である。
<センサ素子の概要>
図1は、本実施形態に係るガスセンサ素子(以下、単にセンサ素子とも称する)100の構造を模式的に示す。ここでは、センサ素子100の長手方向に沿った垂直断面を表す。センサ素子100は、ガスセンサ素子であり、被測定ガス中の所定ガス成分を検知し、その濃度を測定するための図示しないガスセンサの主たる構成要素である。
図1に示すセンサ素子100では、長尺板状の素子基体10の外部および内部に種々の構成要素が設けられる。素子基体10は、複数の固体電解質層(例えば、酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニア、一例として、イットリウム安定化ジルコニアを主成分とするセラミックス)が積層されてなる。固体電解質は、ジルコニアを50wt%以上含有すること(すなわち、ジルコニアを主成分とすること)が好ましく、70wt%以上含有することがより好ましい。なお、図1に示すセンサ素子100の構成は、例示であり、具体的構成はこれに限られない。
図1に示すセンサ素子100は、素子基体10の内部に設けられた内部空間である内部空室102、103、104を有する(いわゆる直列三室構造型)。ガス導入口105が、セラミックス体101の端部E1側において外部に対し開口する(厳密には先端保護層180を介して外部と連通する)。内部空室102は、ガス導入口105と拡散律速部110、120を通じて連通する。内部空室103は、拡散律速部130を通じて内部空室102と連通する。内部空室104は、拡散律速部140を通じて内部空室103と連通する。
なお、ガス導入口105から内部空室104に至るまでの経路を、ガス流通部と称する。本実施形態に係るセンサ素子100においては、係るガス流通部が素子基体10の長手方向に沿って一直線状に設けられてなる。
拡散律速部110、120、130、140はいずれも、図面視で上下2つのスリットとして設けられ、通過する被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する。なお、拡散律速部110、120の間に、被測定ガスの脈動を緩衝する緩衝空間115が設けられる。
素子基体10の外面に外側ポンプ電極141が備わり、内部空室102に内側ポンプ電極142が備わっている。内部空室103に、補助ポンプ電極143が備わっている。素子基体10の端部E2側に、外部に連通し基準ガスが導入される基準ガス導入口106が備わる。素子基体10内において基準ガス導入口106内に、基準電極147が設けられている。
例えば、センサ素子100の測定対象がNOxである場合、以下のようなプロセスによって、被測定ガス中のNOxガス濃度が算出される。
内部空室102に導入された被測定ガスは、主ポンプセルP1のポンピング作用(酸素の汲み入れあるいは汲み出し)によって、酸素濃度が略一定に調整され、内部空室103に導入される。主ポンプセルP1は、外側ポンプ電極141と、内側ポンプ電極142と、セラミックス層101a(両電極間に存在するセラミックス体101の一部)と、によって構成される電気化学的ポンプセルである。内部空室103では、同じく電気化学的ポンプセルである、補助ポンプセルP2のポンピング作用により、被測定ガス中の酸素が素子外部へと汲み出されて、低酸素分圧状態となる。補助ポンプセルP2は、外側ポンプ電極141と、補助ポンプ電極143と、セラミックス層101b(両電極間に存在するセラミックス体101の一部)と、によって構成される。
外側ポンプ電極141、内側ポンプ電極142、および補助ポンプ電極143は、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極142および補助ポンプ電極143は、NOx成分に対する還元能力を弱めた、あるいは、還元能力のない材料を用いて形成される。
補助ポンプセルP2によって低酸素分圧状態とされた被測定ガス中のNOxは、内部空室103中の測定電極145において還元ないし分解される。測定電極145は、多孔質サーメット電極であり、NOxを還元する触媒として機能する。還元ないし分解の際に、測定電極145と基準電極147との間の電位差が、一定に保たれる。
還元ないし分解によって生じた酸素イオンが、測定用ポンプセルP3によって素子外部へと汲み出される。測定用ポンプセルP3は、外側ポンプ電極141と、測定電極145と、セラミックス層101c(両電極の間に存在するセラミックス体101の一部)と、によって構成される。測定用ポンプセルP3は、NOxの分解によって生じた酸素を汲み出す。
センサ素子100は、汲み出される酸素の量に応じて、測定電極145と外側ポンプ電極141との間を流れるポンプ電流Ip2を検出する。このポンプ電流Ip2の電流値(NOx信号)と、NOx濃度との間に線形関係があることに基づいて、NOxの濃度が求められる。
主ポンプセルP1、補助ポンプセルP2、および測定用ポンプセルP3におけるポンピング(酸素の汲み入れあるいは汲み出し)は、センサ素子100と同様に、実現される。すなわち、ガスセンサの構成要素である図示しない可変電源によって、各ポンプセルに備わる電極間に電圧が印加される。測定用ポンプセルP3の場合、測定電極145と基準電極147の間の電位差が適正に保たれるように、外側ポンプ電極141と測定電極145の間に電圧が印加される。可変電源は通常、ポンプセル毎に設けられる。
素子基体10の内部にヒータ150が埋設されている。ヒータ150は、ガス流通部の図1における図面視下方側に、端部E1近傍から測定電極145および基準電極147の形成位置の近傍に至る範囲に設けられる。ヒータ150は、使用時にセンサ素子100を加熱し、固体電解質の酸素イオン伝導性を高める。このとき、内部空室102付近の温度が、例えば、800℃〜850℃程度となる。ヒータ150は、例えば、白金などからなる抵抗発熱体であり、絶縁層151に覆われる。
以降、素子基体10の2つの主面(外面)のうち、図1の図面視上方側および図面視下方側の主面をそれぞれ、ポンプ面、ヒータ面と称することがある。ポンプ面は、主ポンプセルP1、補助ポンプセルP2、および測定用ポンプセルP3を備え、ガス導入口105、内部空室102〜104、および各ポンプセルに近接する。ヒータ面は、ヒータ150を備える。
素子基体10の端部E2側の主面上に、センサ素子100と外部の間を電気的に接続する複数の電極端子160が形成されている。ポンプ面側に4つの電極端子160(160a〜160d)、ヒータ面側に4つの電極端子160(160e〜160h)が備わる。これらの電極端子160は、素子基体10内の図示しないリード線を通じて、上述した5つの電極、ヒータ150の両端、図示しないヒータ抵抗検出用のリード線と、電気的に接続される。センサ素子100における各ポンプセルへの電圧の印加や、ヒータ150の加熱は、電極端子160を通じてなされる。
センサ素子100中、内部空間(内部空室や基準ガス空間など)を含む素子基体10、素子基体10中の種々の電極やリード線、電極端子160、ヒータ150、および絶縁層151を、センサ素子要部と称する。
素子基体10のポンプ面およびヒータ面には、外側(ポンプ)電極保護層170(170a、170b)が備わる。外側(ポンプ)電極保護層170は、アルミナからなり、厚みが5μm〜30μm程度で、かつ緩衝層190よりも気孔率が低い比較的緻密な層である。外側(ポンプ)電極保護層170は、素子基体10の表面や、ポンプ面側に備わる外側ポンプ電極141への、異物や被毒物質の付着を防ぐ。
図1において、電極端子160の一部を除く、ポンプ面およびヒータ面の略全面に外側(ポンプ)電極保護層170が設けられている。これは例示であり、図1よりも、端部E1側に偏在させてもよい。また、ヒータ面側の外側(ポンプ)電極保護層170bの形成を省略してもよい。
素子基体10の端部E1から所定範囲の最外周部に、先端保護層180が設けられる。外側(ポンプ)電極保護層170と先端保護層180の間に、緩衝層190が介在する。
図2は、センサ素子100の長手方向に垂直な概略断面図であり、素子基体10、外側(ポンプ)電極保護層170、先端保護層180、および緩衝層190の配置関係を示す。ただし、図2においては、電極や内部空室は記載を省略している。
図1および図2からわかるように、先端保護層180は、素子基体10の端部E1の全部および素子基体10の側面の一部(素子長手方向の所定範囲)を被覆し、素子基体10のポンプ面側およびヒータ面側には限られない。
図1、図2に示すように、先端保護層180は、先端保護層181、182の二層構造とすることができる。先端保護層180を単層構造とすることも可能であり、先端保護層180を単層構造とした場合を先に説明する。
単層構造の場合、先端保護層180は、例えば、純度99.0%以上のアルミナからなる多孔質層であり、センサ素子100のいわゆる被水割れを防止する。被水割れは、使用中のセンサ素子100に水滴が付着したときに(例えば、排ガス中の水蒸気が凝縮し、水滴となる)、割れが生じることをいう。センサ素子100は、ヒータ150にて高温に加熱されているため、水滴の付着によって熱衝撃が発生する。この結果、センサ素子100、特に素子基体10にクラックが生じる(素子基体10が割れる)可能性がある。
先端保護層180は、センサ素子100の全体ではなく、水滴が付着する可能性のある、端部E1から所定範囲に設ければ足りる。先端保護層180は、例えば、先端から素子長手方向に0mm〜25mm程度の範囲に形成される。センサ素子100の構成によっては、より端部E2側に先端保護層180を形成してもよい。
先端保護層180は、200μm以上、1800μm以下の厚みを有する。厚みが200μmよりも小さいと、先端保護層180自体の強度が十分には確保されない。また、先端保護層180中の気孔が繋がって、先端保護層180を貫通し、被測定ガス中の水蒸気が外側(ポンプ)電極保護層170(さらには素子基体10)に到達するおそれもある。一方、厚みが1800μmより大きいと、被測定ガスが先端保護層180を通過してガス導入口105に到達しづらくなり、ガスセンサ素子100の応答性が悪くなる。また、コスト面からも不利となる。
先端保護層180の気孔率は、15%〜80%程度が好適である。作製の容易さおよび均一性、さらにはガス導入口105から素子基体10内部への被測定ガスの取り込みに影響を与えないためである。しかし、被水割れが好適に抑制され、センサ素子100の応答性に影響を及ぼさないなら、当該範囲外でもよい。
以下、先端保護層180を先端保護層181、182の二層構造とした場合を説明する。
この場合、先端保護層181、182は、素子基体10の端部E1側の先端面101eと4つの側面とを覆うように(素子基体10の端部E1側の外周に)、内側から順に設けられる。先端保護層181のうち、先端面101e側の部分を特に先端部221と称し、ポンプ面側とヒータ面側の部分を特に主面部222と称する。同様に、先端保護層182のうち、先端面101e側の部分を特に先端部231と称し、ポンプ面側とヒータ面側の部分を特に主面部232と称する。
先端保護層181は、アルミナにて、30%〜80%の気孔率を有しかつ緩衝層190の厚みの30倍〜50倍の厚みを有する。先端保護層182は、アルミナにて、15%〜30%の気孔率を有し、かつ緩衝層190の5倍〜10倍の厚みを有する。熱伝導率の小さい先端保護層181が、気孔率の小さい先端保護層182に、被覆される。なお、先端保護層181の先端部221の厚みと先端保護層182の先端部231の厚みの総和は、先端保護層181の主面部222の厚みと先端保護層182の主面部232の厚みの総和よりも大きい。
先端保護層181は、比較的低熱伝導率であり、外部から素子基体10への熱伝導を抑制する。一方、先端保護層182は全体の強度を維持し、内部への水の浸入を抑制する。この結果、高温のセンサ素子100(使用時)の先端保護層180(先端保護層182)表面に水が付着しても、内部への浸入は抑制され、かつ付着に伴う冷熱(急冷)が、素子基体10に伝わりにくくなる。すなわち、先端保護層180は優れた耐熱衝撃性を有し、センサ素子100は、被水割れが起こりにくく、耐被水性に優れたものとなる。
ここで、先端保護層181の厚みを緩衝層190の厚みの30倍〜50倍とし、先端保護層182の厚みを緩衝層190の厚みの5倍〜10倍としている。
先端保護層181、182の厚みが大きいほど熱衝撃が素子基体10に伝わりにくくなり、センサ素子100の耐被水性が向上する。しかし、この厚みを大きくし過ぎると、ヒータ150によって先端保護層180を含むセンサ素子100全体を加熱する際に、ヒータ150の熱的負荷が大きくなり、センサ素子100が割れるおそれがある。このため、先端保護層181の厚みは1500μm以下とし、先端保護層182の厚みは300μm以下とするのが好ましい。
先端保護層181、182は、表面に緩衝層190が形成された素子基体10に、例えば、それぞれの構成材料を順次に溶射(プラズマ溶射)して形成される。緩衝層190と先端保護層181の間にアンカー効果を発現させ、緩衝層190に対する(外側に形成される先端保護層182も含めた)先端保護層181の接着性(密着性)が確保される。緩衝層190は、先端保護層181との接着性(密着性)を確保する。接着性(密着性)が確保されることで、水滴の付着による熱衝撃に起因した、素子基体10からの先端保護層180の剥離が抑制される。
なお、先端保護層181、182は、緩衝層190(190a、190b)全体を被覆するものではない。先端保護層181、182は、緩衝層190のうち、センサ素子100の長手方向において端部E1側とは反対側の端部を露出させる。これは、緩衝層190に対する(外側に形成される先端保護層182も含めた)先端保護層181の接着性(密着性)を、より確実に確保するためである。
緩衝層190は、先端保護層180を構成するアルミナと素子基体10を構成するジルコニアとの熱膨張率の差に起因して、センサ素子100の使用時に先端保護層180に剥離や破壊が生じることを防ぐ。緩衝層190は、その上に形成される先端保護層180との接着性(密着性)を確保する。
ヒータ150によって加熱されると、素子基体10(熱膨張係数の大きいジルコニアからなる)は、熱膨張し、先端保護層180に引張応力が印加される。緩衝層190を有しない場合、この引張応力により、先端保護層180が破壊されるおそれがある。緩衝層190は、素子基体10と先端保護層180との熱膨張差を緩和し、先端保護層180の破壊を抑制する。
緩衝層190は、外側(ポンプ)電極保護層170と同様、素子基体10のポンプ面側およびヒータ面側に、先端保護層180の存在する範囲よりもわずかに広い範囲に形成される。すなわち、緩衝層190は、ポンプ面側の緩衝層190aとヒータ面側の緩衝層190bとを備える。素子基体10と先端保護層180との熱膨張差の緩和のためには、先端保護層180に対応させて、緩衝層190を形成すればよい。すなわち、緩衝層190は、素子基体10の側面の一部(素子長手方向の所定範囲)を被覆し、素子基体10のポンプ面側およびヒータ面側には限られない。
このような(1)素子基体10と先端保護層180の熱膨張差の緩和に加えて、緩衝層190には、(2)先端保護層180との密着性、(3)ガス透過性も求められる。後述のように、緩衝層190用のペースト中の造孔材として、ペーストやシート中の有機バインダーよりも、分解温度Tdが低い材料を用いることで、これら(1)〜(3)を向上できる。
緩衝層190は、先端保護層180と同様にアルミナなどで構成される多孔質層であり、8μm〜50μmの厚みを有する。
<センサ素子の製造プロセス>
センサ素子100を製造するプロセスにつき説明する。図3は、係るセンサ素子100を作製する際の、処理の流れを示す。
1.積層体の作製(ステップS1〜S4)
以下、(a)〜(d)の手順により、積層体を作製する。
(a)6つ以上のブランクシート(パターンが形成されていないグリーンシート、図示省略)を用意する(ステップS1)。ここでは、センサ素子100の素子基体10は、複数の固体電解質層が積層された構成を有する。例えば、6つの固体電解質層からなる素子基体10を作製する場合、各層に対応させて6枚のブランクシートを用意する。なお、ブランクシートの厚みは、全て同じである必要はない。
ブランクシートに、印刷時や積層時の位置決めに用いる複数のシート穴が設けられている。シート穴は、パターン形成に先立つブランクシートの段階で、パンチング装置による打ち抜き処理などで、あらかじめ形成されている。なお、対応する層が内部空間を有するグリーンシートの場合、該内部空間に対応する貫通部も、同様の打ち抜き処理などによって、あらかじめ設けられる。
(b)各ブランクシートに各種のパターンを印刷し、乾燥する(ステップS2)。これらのパターンは、例えば、各種ポンプ電極や測定電極145、基準電極147その他の電極パターン、外側(ポンプ)電極保護層170のパターン、ヒータ150やその周囲を覆う絶縁層151のパターン、図示を省略している内部配線のパターンである。
パターン印刷のタイミングで、拡散律速部110、拡散律速部120、および拡散律速部130を形成するための昇華性材料の塗布あるいは配置も併せてなされる。
スクリーン印刷技術などを用いて、ブランクシートにパターン形成用ペーストを塗布する(パターンの印刷)。その後、適宜の乾燥手段で乾燥できる。
(c)各グリーンシートに接着用ペースト(接着剤)を印刷し、乾燥する(ステップS3)。スクリーン印刷技術などを用いて、グリーンシートに接着用ペーストを塗布する(接着剤の印刷)。その後、適宜の乾燥手段で乾燥できる。
(d)接着剤が塗布されたグリーンシートを積層、圧着し、一の積層体とする(ステップS4)。例えば、治具(積層治具)に、グリーンシートをシート穴により位置決めし積み重ねて保持し、油圧プレス機などによって治具ごと加熱・加圧する。加熱・加圧の圧力・温度・時間については、良好な積層が実現できるよう、適宜の条件が定められる。
2.緩衝層パターンの形成(ステップS5)
積層体の上下面の所定範囲に、緩衝層190のパターンを形成するためのペースト(緩衝層用ペースト)を印刷し、乾燥する(ステップS5)。
緩衝層用ペーストは、少なくとも、セラミック粉末、造孔材、有機バインダー、溶剤を混合したものである。緩衝層用ペーストには、可塑剤と、分散助剤との少なくとも一方が混合されてもよい。
セラミック粉末は、最終的に得られるセンサ素子100の緩衝層190を構成する緩衝層形成用物質である。セラミック粉末の材質は、特に限定されるものではないが、例えば、ジルコニウム、アルミニウム、イットリウム、マグネシウム、珪素の酸化物、窒化物、炭化物、複合酸化物またはこれらの混合物などが挙げられる。緩衝層形成用物質(または作製された緩衝層190)は、アルミナを50wt%以上含有すること(すなわち、アルミナを主成分とすること)が好ましく、80wt%以上含有することがより好ましい。
造孔材は、焼成によって消滅し、緩衝層190に気孔を形成するための樹脂材料である。造孔材には、直径(D50)が、焼成前の緩衝層パターンの印刷膜厚の2倍以下程度である、球状の粉末(粒子体)を用いるのが好適である。なお、粒子体の構造は、中空であっても中実であってもよい。なお、直径(D50)は、メジアン径であり、粉末(造孔材)中での粒子の直径の頻度の累積が50%になる粒子径(直径)を意味する。
造孔材は、焼成時に焼失される成分であればよく、高分子系(アクリル系、ブチラール系、エポキシ系、ポリエステル系など)などがあげられる。
有機バインダーとしては、例えば、アクリル系、ブチラール系、エポキシ系のバインダーなどが、単独または混合された状態で使用できる。また、イソシアネート、エチレングリコールなどのポリオールも用いることができる。
後述のように、造孔材、有機バインダーの分解温度Tdは、前者が後者より低いことが好ましい。
このような組み合わせの例として、造孔材をアクリル系とし、有機バインダーをブチラール系とする組み合わせが挙げられる。
溶剤としては、有機バインダーを溶解するものであれば特に限定はされないが、エーテル(エチレングリコールモノエチルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテートなど)、アルコール(イソプロパノール、1−ブタノール、エタノール、2−エチルヘキサノール、テルピネオール、エチレングリコール、グリセリンなど)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル(酢酸ブチル、グルタル酸ジメチル、トリアセチンなど)、多塩基酸(グルタル酸など)が使用され得る。
可塑剤としては、使用する有機バインダーに対して可塑性を付与するものであれば特に限定はされないがフタル酸エステル、アジピン酸エステル、ポリエステルなどを用いることができる。
分散助剤としては、セラミック粉末を有機溶剤中に均一に分散するものであれば、特に限定されないが、例えば、ポリカルボン酸系共重合体、ポリカルボン酸塩、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、リン酸エステル塩系共重合体、スルホン酸塩系共重合体、3級アミンを有するポリウレタンポリエステル系共重合体などを用いることができる。
可塑剤や分散助剤は、その機能上、セラミック粉末や有機バインダーとの形成性などのバランスに応じて、添加の要否ならびに添加量を設定すればよい。
3.焼成(ステップS6、S7)
素子体を切り出し(ステップS6)、1300℃〜1500℃程度の焼成温度で焼成する(ステップS7)。固体電解質層、電極、緩衝層190が焼成される。固体電解質層を別個に焼成する工程を有しないことから、製造工程の簡略化がなされる。また、一体焼成がなされることで、センサ素子100の緩衝層190の密着強度を確保できる。
4.先端保護層180の形成(ステップS8)
切り出された素子体に先端保護層180を形成する(ステップS8)。先端保護層180は、プラズマ溶射、スプレーコーティング、ゲルキャスト、ディッピングなどの手法により形成される。いずれも、先端保護層180の厚み(膜厚)を容易に制御することができる。なお、スプレーコーティング、ゲルキャスト、ディッピングでは、必要に応じて、焼成が行われる。プラズマ溶射の場合は、焼成を必要としない。
得られたセンサ素子100は、所定のハウジングに収容され、ガスセンサの本体(図示せず)に組み込まれる。
プラズマ溶射の場合、形成される溶射膜には気孔が含まれ、出力パワー、照射角度、粉末原材料の性状などを調整することで、気孔率を制御できる。また、原料にアルミナスラリーを用いるゲルキャストおよびディッピングの場合、スラリーに添加する造孔材の条件を調整することで、気孔率を制御できる。
(比較例A)
以下、比較例を説明する。図4は、比較例Aに係るセンサ素子100の製造方法での、処理の流れを示す。比較例Aでは、緩衝層190のパターンを形成する前に、素子体を切り出し(ステップS6)、焼成する(ステップS11)。その後に、緩衝層190のパターンを形成して(ステップS12)、焼成し(ステップS13)、先端保護層180を形成する(ステップS14)。すなわち、比較例Aでは、2回の焼成(緩衝層190のパターンを有しない素子体の焼成と、緩衝層190のパターンの焼成)を行っている。
これに対して、実施形態では、焼成前の素子体(グリーン体)の段階で、緩衝層190のパターンを形成し、焼成して緩衝層190を作製している。すなわち、素子体と緩衝層190のパターンを同時に焼成している。この結果、実施形態は、比較例Aに対して、(a)工数を削減でき、かつ(b)緩衝層190と素子基体10の密着性が良好となる。
既述のように、実施形態は、比較例Aに対して、焼成工程を低減できる。また、緩衝層190および素子基体10は、焼成前の未硬化な状態で接触するため、親和性が良好であり、焼成後の緩衝層190と素子基体10の密着性の確保が容易となる。また、緩衝層190(さらには素子基体10)の界面に対する焼成時の応力集中が緩和される。比較例Aでは、1回目の焼成によって硬化した素子基体10上に、緩衝層190のグリーン体が形成され、焼成されるため、この2回目の焼成時に大きな応力が印加される(応力集中)可能性がある。
(比較例B)
既述のように、実施形態では、造孔材として、有機バインダーよりも、分解温度Tdが低い材料を用いる。比較例Bでは、実施形態と同様、焼成前の素子体に先端保護層180のパターンを形成し、焼成するが、造孔材として、有機バインダーよりも、分解温度Tdが高い材料を用いる。
次の実施例に示すように、造孔材と有機バインダーの分解温度Tdの大小関係に起因して、実施形態と比較例Bの緩衝層190には、先端保護層180と熱負荷をかけた際の密着性、ガス透過性に差異が見られた。
以下、実験例を比較例Bと比較した結果を示す。焼成前の素子体(グリーン体)に、緩衝層190のパターンを形成して、加圧し、その後、先端保護層180を形成してから、焼成した。緩衝層190の形成には、セラミック粉末、造孔材、有機バインダー、可塑剤、溶剤を混合した緩衝層用ペーストを用いた。
ここでは、タイプA、Bの造孔材を用いて、実施例、比較例のセンサ素子100を作製した。タイプAの造孔材は、アクリル系高分子材料からなり、分解温度Tdは約220℃である。タイプBの造孔材は、ポリエステル系高分子材料からなり、分解温度Tdは約360℃である。後述の有機バインダーの分解温度Tdに対して、タイプAの分解温度Tdは低く、タイプBの分解温度Tdは高い。
図5に示すように、分解温度Tdは、対象物の重量が50%減少したときの温度である。
タイプA、Bいずれの造孔材も直径(D50)を約15μmとした。
作製した緩衝層190を評価した。
A. SEM観察
図6A、図6Bはそれぞれ、実施例、比較例の緩衝層190表面のSEM(走査型電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)写真であり、先端保護層180を作製せずに、焼成を行った状態を示す。図7A、図7Bは、実施例および比較例に係るサンプルをカットした断面のSEM写真である。図8A、図8Bは、先端保護層180を形成せずに焼成した実施例および比較例に係るサンプルをカットした断面のSEM写真である。
これらの図に示されるように、実施例と比較例とで、緩衝層190の構造(および気孔率)が異なっている。比較例では、緩衝層190に比較的大きい気孔(粗大孔)が明瞭に観察され、それ以外の領域は緻密な傾向にある(図6B〜図8B参照)。一方、実施例では、緩衝層190に比較的大きい気孔(粗大孔)は明瞭には観察されない(図6A〜図8A参照)。すなわち、様々な気孔が比較的均一に配置されていると考えられる。
この構造の相違が、緩衝層190の気孔率にも影響を与え、実施例の方が、比較例よりも、気孔率が大きくなっている。この構造の相違は、造孔材と有機バインダーの分解温度Tdの相違により説明できる。
実施例では、焼成時に造孔材、有機バインダーの順に分解が進む。すなわち、造孔材の分解後でも、有機バインダーによりセラミック粉末の形状および粉末間の距離が保持される(有機バインダーがセラミック粒子を繋ぎ合わせる)。その後、有機バインダーが分解しても、セラミック粒子間の距離、すなわち、空隙が確保される。この結果、気孔が比較的均一に配置され、気孔率も高くなると考えられる。
一方、比較例では、焼成時に有機バインダー、造孔材の順に分解が進む。このため、有機バインダーの分解後に、造孔材の粒子間にセラミック粒子が入り込み、セラミックス粒子間の距離が近くなる。そして、造孔材の分解後も、セラミック粒子間の距離が近い状態が保持され、造孔材があった箇所が大きな気孔として残るのを除き、緻密な状態となる。この結果、緻密な領域(気孔が実質的に存在しない)中に粗大な気孔が点在する状態となり、全体としては気孔率が低下すると考えられる。
B.ガス透過性
実施例、比較例のガス透過性を評価した。実施例ではガス透過性が良好であったが、比較例ではガス透過性が良好ではなかった。この結果は、実施例、比較例の緩衝層190の気孔率と対応しており、造孔材と有機バインダーの分解温度Tdの大小関係に起因して、ガス透過性が変化することが判る。
C.密着強度
実施例、比較例のセンサ素子100について、密着強度の測定を行った。
先に、常温での密着強度をセバスチャン法で測定した。すなわち、先端保護層180の表面に接着剤を用いてピンを接着し、ピンに引張力を加え、先端保護層180が剥離したときの引張力(密着強度)を測定した。この結果、常温では実施例、比較例の密着強度に有意な差異は見られなかった。
さらに、高温での密着強度を引き抜き法で測定した。センサ素子100を駆動時以上の高温(1000℃)とし、先端保護層180の根本付近を把持し、センサ素子100の長手方向に引っ張り、先端保護層180が剥離したときの引張力(密着強度)を測定した。5つのサンプルを用い、平均引張力を算出した。
実施例、比較例ではそれぞれ、532、432[N]の平均引張力が得られた。すなわち、造孔材と有機バインダーの分解温度Tdの大小関係に起因して、高温での密着強度が変化することが判る。
実施例では、緩衝層190中に気孔が比較的均一に形成され、緩衝層190中に明確な境界は発生しない。このため、高温下でも、熱応力の集中が回避される。一方、比較例では、緩衝層190中に大きな気孔が孤立して形成され、その他の箇所は緻密な状態となり、その間に境界が存在する。このため、高温下において、境界に応力が集中しやすくなる。
なお、焼成時に発生するクラックも密着強度に影響する可能性がある。実施例においては、セラミック粉末間を保持する有機バインダーが残留している間(有機バインダーの消失前)に造孔材が除去されることで、気孔形成時の収縮クラックを抑制できる(焼成収縮差の低減)。
[本実施形態から得られる発明]
上記実施形態から把握しうる発明について、以下に記載する。
[1] 本実施形態に係るガスセンサ素子(100)の製造方法は、固体電解質を有する素子基体(10)と、前記素子基体の少なくとも一部を覆う先端保護層(180)と、前記素子基体と前記先端保護層との間に配置される緩衝層(190)と、を備えるガスセンサ素子を製造するものであり、前記固体電解質を含むシート(グリーンシート)を積層して積層体を形成する工程と、前記積層体上に緩衝層形成用物質を含む緩衝層パターンを形成する工程と、前記緩衝層パターンが形成された積層体を焼成し、緩衝層が形成された焼成体を作製する工程と、前記焼成体の緩衝層上に前記先端保護層を形成する工程と、を具備する。
前記緩衝層パターンが形成された後で、積層体を焼成することから、焼成の回数を低減し、工程の簡略化を図ることができる。また、緩衝層と先端保護層間の密着性を向上できる。
[2] 本実施形態において、前記緩衝層パターンを形成する工程が、前記緩衝層形成用物質、造孔材、および有機バインダーを含むペースト(緩衝層用ペースト)を印刷する工程を有し、前記造孔材の分解温度Tdが、前記有機バインダーの分解温度Tdより低い。
これにより、焼成時に造孔材が有機バインダーよりも先に消失する。この結果、造孔材の分解時にセラミック粉末の形状が保持され、比較的均一な気孔の形成が可能となる。比較的均一な気孔による密着性の向上が図れる。
[3] 本実施形態において、前記造孔材の直径(D50)は、前記緩衝層パターンの膜厚の2倍以下である。これにより、密着性向上に寄与する気孔の形成が可能となる。
[4] 本実施形態において、前記固体電解質がジルコニアを主成分とし、前記緩衝層形成用物質がアルミナを主成分とする。これにより、固体電解質を用いたガスセンサ素子を作製できる。
なお、本発明の実施に当たっては、本発明の思想を損なわない範囲で自動車用部品としての信頼性向上のための諸手段が付加されてもよい。
10…素子基体 100…ガスセンサ素子
101a〜101c…セラミックス層 102〜104…内部空室
105…ガス導入口 110、120、130…拡散律速部
115…緩衝空間 141…外側ポンプ電極
142…内側ポンプ電極 143…補助ポンプ電極
145…測定電極 147…基準電極
150…ヒータ 151…絶縁層
160…電極端子
170、170a、170b…外側(ポンプ)電極保護層
180…先端保護層 190…緩衝層

Claims (4)

  1. 固体電解質を有する素子基体と、
    前記素子基体の少なくとも一部を覆う先端保護層と、
    前記素子基体と前記先端保護層との間に配置される緩衝層と、を備えるガスセンサ素子の製造方法であって、
    前記固体電解質を含むシートを積層して積層体を形成する工程と、
    前記積層体上に緩衝層形成用物質を含む緩衝層パターンを形成する工程と、
    前記緩衝層パターンが形成された積層体を焼成し、緩衝層が形成された焼成体を作製する工程と、
    前記焼成体の緩衝層上に先端保護層を形成する工程と、
    を具備するガスセンサ素子の製造方法。
  2. 請求項1に記載のガスセンサ素子の製造方法であって、
    前記緩衝層パターンを形成する工程が、前記緩衝層形成用物質、造孔材、および有機バインダーを含むペーストを塗布する工程を有し、
    前記造孔材の分解温度が、前記有機バインダーの分解温度より低い、ガスセンサ素子の製造方法。
  3. 請求項2に記載のガスセンサ素子の製造方法であって、
    前記造孔材の直径(D50)は、前記緩衝層パターンの膜厚の2倍以下である、ガスセンサ素子の製造方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスセンサ素子の製造方法であって、
    前記固体電解質がジルコニアを主成分とし、
    前記緩衝層形成用物質がアルミナを主成分とする、ガスセンサ素子の製造方法。
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