次に、本発明の実施の形態の一例であるセンサ素子101を備えたガスセンサ100の概略構成について説明する。図1は、ガスセンサ100の構成の一例を概略的に示した斜視図である。図2は、図1のA−A断面図である。なお、ガスセンサ100は、例えば自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの所定のガスの濃度を、センサ素子101により検出するものである。また、センサ素子101は長尺な直方体形状をしており、このセンサ素子101の長手方向(図1の左右方向)を前後方向とし、センサ素子101の厚み方向(図1の上下方向)を上下方向とする。また、センサ素子101の幅方向(前後方向及び上下方向に垂直な方向)を左右方向とする。なお、図1は、センサ素子101を右上前方からみた様子を示している。また、図2は、センサ素子101の左右方向の中心に沿った断面図である。
図2に示すように、センサ素子101は、それぞれがジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する素子である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
センサ素子101の一先端部(前方向の端部)であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第2内部空所40に至る部位をガス流通部とも称する。
また、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43には、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
大気導入層48は、多孔質セラミックスからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内や第2内部空所40内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、起電力V0が一定となるように可変電源25のポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所内20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、補助ポンプセル50により酸素濃度が調整された第2内部空所40において、さらに、測定用ポンプセル41の動作によりNOx濃度が測定される。
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101と外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
測定用ポンプセル41は、第2内部空所40内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、第2内部空所40に面する第1固体電解質層4の上面であって第3拡散律速部30から離間した位置に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第2内部空所40内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。さらに、測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。
第4拡散律速部45は、セラミックス多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担うとともに、測定電極44の保護膜としても機能する。測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2に基づいて可変電源46が制御される。
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部45を通じて測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された制御電圧V2が一定となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。したがって、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータコネクタ電極71と、ヒータ72と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、圧力放散孔75と、を備えている。
ヒータコネクタ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータコネクタ電極71を外部電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、スルーホール73を介してヒータコネクタ電極71と接続されており、該ヒータコネクタ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第2内部空所40の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
また、センサ素子101は、図1,2に示すように、コーティング層24を備えている。コーティング層24は、センサ素子101の上面(第2固体電解質層6の上面)を被覆するコーティング層24aと、センサ素子101の下面(第1基板層1の下面)を被覆するコーティング層24bと、を備えている。なお、コーティング層24aは、外側ポンプ電極23の表面も被覆している。コーティング層24bは、センサ素子101の下面のヒータコネクタ電極71は被覆していない。そのため、コーティング層24bは、外部からヒータコネクタ電極71への電力を供給を妨げないようになっている。コーティング層24は、例えばアルミナ、ジルコニア、スピネル、コージェライト,マグネシアなどの多孔質セラミックスからなるものである。本実施形態では、コーティング層24はアルミナからなる多孔質セラミックスであるものとした。特に限定するものではないが、コーティング層24の膜厚は例えば5〜50μmである。コーティング層24の気孔率は、10%〜71%とすることが好ましい。コーティング層24の気孔率は、70%以下としてもよいし、60%以下としてもよい。また、コーティング層24の表面(コーティング層24aの上面及びコーティング層24bの下面)の算術平均粗さRaは2.0〜5.0μmとすることが好ましい。なお、特に限定するものではないが、コーティング層24が形成されるセンサ素子101の本体の表面(第2固体電解質層6の上面及び第1基板層1の下面)の算術平均粗さRaは、例えば0.3〜1.0μmである。
また、センサ素子101は、図1,2に示すように、一部が多孔質保護部90により被覆されている。多孔質保護部90は、センサ素子101の6個の表面のうち5面にそれぞれ形成された多孔質保護層91a〜91eを備えている。多孔質保護層91aは、センサ素子101の上面(コーティング層24aの上面)の一部を被覆している。多孔質保護層91bは、センサ素子101の下面(コーティング層24bの下面)の一部を被覆している。多孔質保護層91cは、センサ素子101の左面の一部を被覆している。多孔質保護層91dは、センサ素子101の右面の一部を被覆している。多孔質保護層91eは、センサ素子101の前端面の全面を被覆している。なお、多孔質保護層91a〜91dの各々は、自身が形成されているセンサ素子101の表面のうち、センサ素子101の前端面から後方に向かって距離L(図2参照)までの領域を全て覆っている。また、多孔質保護層91aは、外側ポンプ電極23が形成された部分も被覆している。多孔質保護層91eは、ガス導入口10も覆っているが、多孔質保護層91eが多孔質体であるため、被測定ガスは多孔質保護層91eの内部を流通してガス導入口に到達可能である。多孔質保護部90は、センサ素子101の一部(センサ素子101の前端面から距離Lまでの部分)を被覆して、その部分を保護するものである。多孔質保護部90は、例えば被測定ガス中の水分等が付着してセンサ素子101にクラックが生じるのを抑制する役割を果たす。また、多孔質保護層91aは、被測定ガスに含まれるオイル成分等が外側ポンプ電極23に付着するのを抑制して、外側ポンプ電極23の劣化を抑制する役割を果たす。なお、距離Lは、ガスセンサ100においてセンサ素子101が被測定ガスに晒される範囲や、外側ポンプ電極23の位置などに基づいて、(0<距離L<センサ素子の長手方向の長さ)の範囲で定められている。以下では、多孔質保護層91a〜91eを特に区別しない場合には多孔質保護層91と表記する場合がある。
なお、本実施形態では、図1に示すように、センサ素子101は前後方向の長さと、左右方向の幅と、上下方向の厚さとがそれぞれ異なっており、長さ>幅>厚さとなっている。また、距離Lはセンサ素子101の幅及び厚さよりも大きい値であるものとした。そのため、多孔質保護層91a〜91eのうち、多孔質保護層91a,91bの形成面積(=距離L×センサ素子101の幅)が最も広く、次に多孔質保護層91c,91dの形成面積(=距離L×センサ素子101の厚さ)が広く、多孔質保護層91eの形成面積(=センサ素子101の幅×厚さ)が最も狭い。
多孔質保護層91は、例えばアルミナ多孔質体、ジルコニア多孔質体、スピネル多孔質体、コージェライト多孔質体,チタニア多孔質体、マグネシア多孔質体などの多孔質体からなるものである。本実施形態では、多孔質保護層91はアルミナ多孔質体からなるものとした。特に限定するものではないが、多孔質保護層91の膜厚は例えば100〜700μmであり、多孔質保護層91の気孔率は例えば10%〜40%である。なお、密着力が高くなるため、コーティング層24a,24bと、その表面に形成される多孔質保護層91a,91bとは、同じ材質であることが好ましい。
次に、こうしたガスセンサ100の製造方法について説明する。ガスセンサ100の製造方法では、まずセンサ素子101を製造し、次にセンサ素子101に多孔質保護部90を形成する。
最初に、多孔質保護部90を形成する前のセンサ素子101を製造する方法について説明する。まず、6枚の未焼成のセラミックスグリーンシートを用意する。そして、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6のそれぞれに対応して、各セラミックスグリーンシートに電極や絶縁層、抵抗発熱体等のパターンを印刷する。また、第2固体電解質層6となるセラミックスグリーンシートの表面(センサ素子101の上面となる面)には、焼成後にコーティング層24aとなるペーストをスクリーン印刷する。同様に、第1基板層1となるセラミックスグリーンシートの表面(センサ素子101の下面となる面)には、焼成後にコーティング層24bとなるペーストをスクリーン印刷する。なお、コーティング層24a,24bとなるペーストは、上述したコーティング層24の材質からなる原料粉末(本実施形態ではアルミナの粉末)と、有機バインダー及び有機溶剤等を混合したものを用いる。また、このペーストは、焼成後のコーティング層24の表面の算術平均粗さRaが2.0〜5.0μmとなるように、予め調整しておくことが好ましい。特にこれに限定するものではないが、例えば、原料粉末の粒径をD50=2〜20μm,体積割合を5〜20vol%とし、バインダー溶液を20〜40vol%とし、助溶剤を30〜50vol%とし、分散剤を1〜5vol%としてこれらを調合し、回転数を50〜250rpmとして2〜6時間混合したペーストを用いることで、焼成後のコーティング層24の表面の算術平均粗さRaを2.0〜5.0μmとすることができる。また、このペーストは、焼成後のコーティング層24の気孔率が10%〜71%となるように、予め調整しておくことが好ましい。例えばペーストに含有させる造孔材の配合割合を調整したり、原料粉末の粒径を調整したり、バインダー溶液の配合割合を調整したりすることで、焼成後のコーティング層24の気孔率が10%〜71%となるように調整することができる。このように各種のパターンを形成したあと、グリーンシートを乾燥する。その後、それらを積層して積層体とする。こうして得られた積層体は、複数個のセンサ素子101を包含したものである。その積層体を切断してセンサ素子101の大きさに切り分け、所定の焼成温度で焼成して、センサ素子101を得る。なお、複数のグリーンシートを積層してセンサ素子101を製造する方法は公知であり、例えば特開2008−164411号公報,特開2009−175099号公報などに記載されている。
次に、センサ素子101に多孔質保護部90を形成する方法について説明する。本実施形態では、プラズマ溶射により多孔質保護部90の多孔質保護層91a〜91eを1層ずつ形成していくものとした。図3は、プラズマガン120を用いたプラズマ溶射の説明図である。なお、図3では、例として多孔質保護層91aを形成する様子を示しており、プラズマガン120を断面で示している。プラズマガン120は、プラズマを発生させる電極となるアノード126及びカソード128と、それらを覆う略円筒状の外周部122と、を備えている。外周部122は、アノード126と絶縁するための絶縁部(インシュレータ)123を備えている。外周部122の下端には、多孔質保護層91の形成材料である粉末溶射材料134を供給するための粉末供給部132が形成されている。外周部122とアノード126との間には水冷ジャケット124が設けられており、これによりアノード126を冷却可能となっている。アノード126は筒状に形成されており、下方に向けて開口したノズル126aを有している。アノード126とカソード128との間には、上方からプラズマ発生用ガス130が供給される。なお、このようなプラズマガン120は公知であり、例えば上述した特許文献1に記載されている。
多孔質保護層91aを形成する際には、プラズマガン120のアノード126とカソード128との間に電圧を印加し、供給されたプラズマ発生用ガス130の存在下でアーク放電を行って、プラズマ発生用ガス130を高温のプラズマ状態にする。プラズマ状態となったガスは、高温且つ高速のプラズマジェットとしてノズル126aから図3の下方へ噴出する。一方、粉末供給部132からは、キャリアガスと共に粉末溶射材料134を供給する。これにより、粉末溶射材料134はプラズマにより加熱溶融及び加速されてセンサ素子101の表面(上面)に衝突し、急速固化することで、多孔質保護層91aが形成される。なお、プラズマガン120の溶射の向き(ノズル126aの向き)は、特に限定されるものではなく、多孔質保護層91aを形成できればよい。多孔質保護層91b〜91eについても、センサ素子101に形成する面が異なる点以外は同様にして1層ずつ形成する。なお、多孔質保護層91a,91bは、上述したようにコーティング層24a,24bの表面にそれぞれ形成する。多孔質保護層91c〜91eは、センサ素子101の本体(各層1〜6)の表面に直接形成する。なお、プラズマ溶射は、例えば大気及び常温の雰囲気にて行う。
ここで、プラズマ発生用ガス130としては、例えばアルゴンガスなどの不活性ガスを用いることができる。また、プラズマが発生しやすくなるため、アルゴンと水素とを混合したものをプラズマ発生用ガス130とすることが好ましい。特に限定するものではないが、アルゴンガスの流量は例えば40〜50L/minであり、水素の流量は例えば9〜11L/minである。アノード126とカソード128との間に印加する電圧は、例えば50〜70Vの直流電圧であり、電流は例えば500〜550Aである。
粉末溶射材料134は、上述した多孔質保護層91の材料となる粉末であり、本実施形態ではアルミナ粉末とした。特に限定するものではないが、粉末溶射材料134の粒径は例えば10μm〜30μmである。粉末溶射材料134の供給に用いるキャリアガスとしては、例えばプラズマ発生用ガス130と同じアルゴンガスを用いることができる。特に限定するものではないが、キャリアガスの流量は例えば3〜4L/minである。
プラズマ溶射を行う際は、プラズマガン120におけるプラズマガスの出口であるノズル126aとセンサ素子101における多孔質保護層91を形成する面(図3ではコーティング層24aの上面)との距離Wを、50mm〜300mmとすることが好ましい。距離Wは120mm〜250mmとしてもよい。また、多孔質保護層91を形成する面積に応じて、適宜プラズマガン120を移動(図3では左右方向に移動)させながらプラズマ溶射を行ってもよいが、その場合も距離Wは上述した範囲に保つことが好ましい。プラズマ溶射を行う時間は、形成する多孔質保護層91の膜厚や面積に応じて、適宜定めればよい。なお、多孔質保護層91a〜多孔質保護層91dのように、センサ素子101の表面の一部(前端から後方に向かって距離Lまでの領域)に多孔質保護層91を形成する場合には、多孔質保護層91を形成しない領域をマスクで覆っておいてもよい。
次に、多孔質保護層91a〜91eの形成順序について説明する。図4は、センサ素子101に多孔質保護部90を形成する様子を示す説明図である。まず、上記のようにして用意したセンサ素子101(図4(a))に対して、多孔質保護部90のうち形成面積の最も広い2つの多孔質保護層91である多孔質保護層91a,91bを先行形成する(図4(b))。なお、多孔質保護層91aと多孔質保護層91bとは、いずれを先に形成してもよい。これにより、センサ素子101の上面及び下面のうち、前端から後方に向かって距離Lまでの領域が多孔質保護層91a,91bで覆われる。
続いて、多孔質保護部90のうち未形成の多孔質保護層91である多孔質保護層91c〜91eをプラズマ溶射により形成する。本実施形態では、まずセンサ素子101の左面及び右面にそれぞれ多孔質保護層91c,91dを形成するものとした(図4(c))。多孔質保護層91cと多孔質保護層91dとは、いずれを先に形成してもよい。これにより、センサ素子101の左面及び右面のうち、前端から後方に向かって距離Lまでの領域が多孔質保護層91c,91dで覆われる。なお、先に多孔質保護層91a,91bが形成済みであるため、例えば多孔質保護層91dを形成する際には、センサ素子101の右面の上端(前後方向に沿った辺部分)には多孔質保護層91a(の右端部分)が存在し、右面の下端(前後方向に沿った辺部分)には多孔質保護層91b(の右端部分)が存在する。多孔質保護層91dは、センサ素子101の右面を覆うと共に、この多孔質保護層91a,91bと接続されるように(多孔質保護層91a,91b間に跨がるように)形成する。同様に、多孔質保護層91cは、多孔質保護層91a(の左端部分)と多孔質保護層91b(の左端部分)とに接続されるように形成する。
次に、多孔質保護部90のうち未形成の多孔質保護層91eをプラズマ溶射により形成する(図3(d))。これにより、センサ素子101の前端面が多孔質保護層91eで覆われる。なお、先に多孔質保護層91a〜91dが形成されており、多孔質保護層91eは、多孔質保護層91a〜91d(の前端部分)と接続されるように形成する。以上により、センサ素子101の上下左右の面及び前端面には多孔質保護層91a〜91eがそれぞれ形成されて多孔質保護部90となり、ガスセンサ100を得る。
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態のセンサ素子101が本発明のセンサ素子に相当し、ガス導入口10がガス導入口に相当し、センサ素子101の本体(各層1〜6)が基体に相当し、多孔質保護部90が多孔質保護部に相当し、コーティング層24がコーティング層に相当する。また、多孔質保護層91a,91bが第1,第2多孔質保護層に相当し、多孔質保護層91c〜91eが第3多孔質保護層に相当する。また、コーティング層24となるペーストを含む各種のパターンを形成したグリーンシートの積層体が未焼成体に相当する。
以上詳述した本実施形態のガスセンサ100では、コーティング層24が、ガス導入口10を除くセンサ素子101の表面の少なくとも一部に配設されて、多孔質保護部90とセンサ素子101とを接着している。これにより、コーティング層24がない場合と比較して多孔質保護部90の剥離をより抑制できる。なお、コーティング層24はガス導入口10を覆っていないため、コーティング層24が被測定ガスの導入を妨げることも抑制されている。
また、センサ素子101の本体(各層1〜6)は、直方体形状であり、コーティング層24a,24bは、センサ素子101の本体の上下左右前後の6つの表面のうち互いに反対側に位置する2面(上面及び下面)に配設されている。そして、多孔質保護部90は、その2面(上面及び下面)に配設されたコーティング層24a,24bの各々を介してセンサ素子101に接着された多孔質保護層91a,91bと、多孔質保護層91a,91bと接続されセンサ素子101の本体のうち上面及び下面以外の1以上の表面を覆う多孔質保護層91c〜91eと、を有している。これにより、多孔質保護部90のうち多孔質保護層91a,91bについては、それぞれコーティング層24a,24bを介してセンサ素子101に接着されているため、剥離がより抑制される。また、多孔質保護層91c〜91eは剥離しにくい多孔質保護層91a,91bと接続されている。そのため、多孔質保護層91c〜91eについても剥離がより抑制される。このように、コーティング層24を互いに反対側に位置する2面に少なくとも形成することで、センサ素子101の本体の3面以上に形成された各多孔質保護層91a〜91eの剥離を抑制できる。
さらに、センサ素子101の本体は、酸素イオン伝導性の複数の固体電解質層(各層1〜6)を積層してなり、コーティング層24は、固体電解質層(各層1〜6)の積層方向を上下方向として、センサ素子101の本体の上下面以外を覆っていない。ここで、上述した実施形態では、ガスセンサ100の製造時に、焼成前のセンサ素子101の本体の表面にペースト状の焼成前のコーティング層24を形成して、焼成前のセンサ素子101の本体と焼成前のコーティング層24とを同時に焼成している。このような場合に、焼成前のセンサ素子101の本体の上下面以外(すなわち前後左右の面)に焼成前のコーティング層24を形成すると、ペースト(焼成前のコーティング層24)が固体電解質層間の隙間に入り込んで固体電解質層間の剥離が生じる場合がある。センサ素子101の本体の上下面以外にコーティング層24を形成しないようにすることで、そのような固体電解質層間の剥離をより抑制できる。
さらにまた、センサ素子101の本体は、直方体形状であり、コーティング層24は、センサ素子101の本体の6つの表面のうちガス導入口10が形成された面(前面)には配設されていない。そのため、ガスセンサ100の製造時にコーティング層24がガス導入口10を塞いでしまうことがなく、コーティング層24が被測定ガスの導入を妨げることがない。
そしてまた、本実施形態のガスセンサ100の製造方法は、焼成後にセンサ素子101となる焼成前センサ素子(6枚の未焼成セラミックスグリーンシートを積層したもの)と、焼成前センサ素子のうち焼成後にガス導入口10となる部分を除く焼成前センサ素子の表面の少なくとも一部に配設され焼成後にコーティング層24となる焼成前コーティング層(セラミックスグリーンシートの表面にスクリーン印刷されたペースト)と、を備えた未焼成体(積層体)を用意する工程(1)と、積層体を焼成してセンサ素子101とコーティング層24とを備えた焼成体とする工程(2)と、コーティング層24の表面の少なくとも一部を含むセンサ素子101の表面を覆うように多孔質保護部90を形成する工程(3)と、を含む。このように、焼成前センサ素子及び焼成前コーティング層の焼成を同時に行うため、両者の接着力を高めることができる。また、焼成前センサ素子及び焼成前コーティング層の焼成と多孔質保護部90の形成とを別工程で行うため、多孔質保護部90の形成方法の自由度が高くなる。そのため、例えば多孔質保護部90の膜厚や気孔率を所望の値に調整しやすい。
以上詳述した本実施形態のガスセンサ100の製造方法では、長尺な直方体形状のセンサ素子の6個の表面のうち5面にそれぞれ形成された多孔質保護層91a〜91eを有する多孔質保護部90を形成するにあたり、形成面積の最も広い2つの多孔質保護層91a,91bを先行形成する。このように、まず形成面積の最も広い2つの多孔質保護層91a,91bを形成するから、形成面積の狭い他の多孔質保護層91c〜91eを形成する場合と比べて、多孔質保護層91a,91bはセンサ素子101と密着しやすい。そして、形成済みの少なくとも2つの多孔質保護層91(91a,91b)と接続されるように、多孔質保護部90のうち未形成の多孔質保護層91c〜91eを形成する。これにより、後から形成した多孔質保護層91c〜91eは、形成済みの少なくとも2つの多孔質保護層91と接続されることで、形成面積が狭くともセンサ素子101から剥離しにくくなる。以上により、多孔質保護層91の剥離をより抑制できる。
また、先行形成される2つの多孔質保護層91a,91bが、センサ素子101の6個の表面のうち互いに反対側の面である上下面に位置している。そのため、先行形成された2つの多孔質保護層91a,91bと接続されるように形成される多孔質保護層91c〜91eは、形成面の両側で2つの多孔質保護層91a,91bに接続されるため、剥離を抑制する効果が高まる。
さらに、2つの多孔質保護層91a,91bを形成する各々の面(上下面)のうち、多孔質保護層91c〜91eが形成される面側の端部(右端,左端,前端)を含む領域に、多孔質保護層91a,91bを先行形成する。そのため、先行形成された2つの多孔質保護層91a,91bと、後から形成する多孔質保護層91c〜91eとを接続しやすくなる。
さらにまた、センサ素子の表面のうち多孔質保護層91a,91bが形成される領域を含む上下面にコーティング層24a,24bが形成されている。このコーティング層24a,24bの表面の算術平均粗さRaを2.0〜5.0μmとすることで、多孔質保護層91a,91bがセンサ素子101の表面(コーティング層24の表面)に密着しやすくなり、多孔質保護層91a,91bの剥離をより抑制できる。
そしてまた、センサ素子の表面のうち多孔質保護層91a,91bが形成される領域を含む上下面にコーティング層24a,24bが形成されている。このコーティング層24の気孔率を10%以上とすることで、多孔質保護層91a,91bがコーティング層24の気孔内に一部入り込んでセンサ素子101の表面(=コーティング層24の表面)に密着しやすくなる。また、このコーティング層24の気孔率を71%以下とすることで、コーティング層24の強度が十分となり、コーティング層24の剥離が抑制できる。
そしてまた、センサ素子101の表面のうち長手方向の一端面である前端面と、前端面に垂直な4つの面である上下左右面と、にそれぞれ多孔質保護層91を形成して、センサ素子101の長手方向の一端から、センサ素子101の長手方向で距離Lまでの領域を覆う多孔質保護部90を形成する。このように5つの面に多孔質保護層91を形成することで、例えば4面以下の面にしか多孔質保護層91を形成しない場合と比べて、多孔質保護部90によりセンサ素子101を保護する効果が高まる。
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
例えば、上述した実施形態では、コーティング層24a,24bは、センサ素子101の本体の上下左右前後の6つの表面のうち上面及び下面に配設されているものとしたが、これに限られない。例えば、図5に示すようにコーティング層24がセンサ素子101の本体の左面及び右面に配設されていてもよい。図5は、センサ素子101を長手方向(前後方向)に垂直に切断した断面を模式的に示している。図5では、コーティング層24として、センサ素子101の本体の互いに反対側の2面(左面及び右面)にコーティング層24c,24dが配設されている。この場合も、多孔質保護層91c,91dがそれぞれコーティング層24c,24dを介してセンサ素子101に接着されているため、剥離がより抑制される。また、多孔質保護層91a,91b,91e(図示省略)は剥離しにくい多孔質保護層91c,91dと接続されている。そのため、多孔質保護層91a,91b,91e(図示省略)についても剥離がより抑制される。また、互いに反対側の2面に限らず、互いに反対側に位置しない2面にコーティング層24が形成されていてもよい。例えば、コーティング層24として、図2に示したコーティング層24aと図5に示したコーティング層24cとを形成してもよい。また、コーティング層24はガス導入口10を除くセンサ素子101の表面の少なくとも一部に配設されていてばよく、センサ素子101の1面のみに形成したり、3面以上に形成したりしてもよい。
例えば、図6に示すようにコーティング層24がセンサ素子101の本体の上下左右の4面に配設されていてもよい。図6は、図5と同様の断面を模式的に示している。図6では、コーティング層24として、センサ素子101の本体の上下左右の4面にコーティング層24a〜24dがそれぞれ配設されている。すなわち、コーティング層24は、センサ素子101の本体の6つの表面のうち最も面積の小さい2面(前面及び後面)以外の4面に配設されている。また、図6では、多孔質保護部90は、4面に配設されたコーティング層24a〜24dの各々を介してセンサ素子101に接着された4つの多孔質保護層91a〜91dを有し、且つ、4つの多孔質保護層91a〜91dのうち隣接するセンサ素子の表面に形成されたもの同士が互いに接続されている。例えば、多孔質保護層91aは隣接する多孔質保護層91c,91dと接続されている。これにより、4つの多孔質保護層91a〜91dとセンサ素子101との密着性が高まり、多孔質保護部90の剥離がより抑制される。ただし、上述したように、コーティング層24がセンサ素子101の本体の上下方向(積層方向)の面以外を覆っている場合には、ガスセンサ100の製造時にペースト(焼成前のコーティング層24)が固体電解質層間の隙間に入り込んで固体電解質層間の剥離が生じる場合がある。そのため、センサ素子101の本体の上下面以外にコーティング層24を形成する場合には、焼成によりセンサ素子101の本体を先に形成し、その後にコーティング層24の形成(例えばスクリーン印刷及び焼成)を行うことが好ましい。
上述した実施形態では、コーティング層24は、センサ素子101の本体の6つの表面のうちガス導入口10が形成された面(前面)には配設されていないものとしたが、ガス導入口10を除く領域に配設されていればよい。例えば、図7に示すように、コーティング層24が、センサ素子101の本体の前面のうちガス導入口10を除く領域に配設されたコーティング層24eを備えていてもよい。この場合でも、コーティング層24が被測定ガスの導入を妨げることは抑制できる。なお、例えばスクリーン印刷でコーティング層24eを形成する際には、コーティング層24eがガス導入口10を避ける形状になるように、スクリーン印刷のパターンを調整すればよい。あるいは、例えばコーティング層24eをディッピングで形成する場合には、予めガス導入口10をマスクで覆っておけばよい。
上述した実施形態では、ガス導入口10は、センサ素子101の前面に配設されているものとしたが、これに限られない。例えば、ガス導入口10がセンサ素子101の上面に配設されて第2内部空所40などのガス流通部と連通していてもよい。この場合も、ガス導入口10を除くセンサ素子101の表面の少なくとも一部にコーティング層24を配設すればよい。
上述した実施形態では、コーティング層24aは、図2に示したように外側ポンプ電極23の表面(上面)も覆っているが、これに限られない。図8に示すように、コーティング層24aは外側ポンプ電極23の表面には配設されていないものとしてもよい。こうすれば、電気化学的ポンプセル(例えば測定用ポンプセル41)としての外側ポンプ電極23の機能をコーティング層24aが阻害することをより抑制できる。また、図8では、多孔質保護層91aは、外側ポンプ電極23の表面を覆っている。そのため、多孔質保護層91aが外側ポンプ電極23を保護することができる。
例えば、上述した実施形態では、コーティング層24は、センサ素子101の上面及び下面のうち多孔質保護層91a,91bが形成されない領域も覆っているものとしたが、これに限られない。コーティング層24a,24bは、それぞれ少なくとも多孔質保護層91a,91bが形成される領域を覆っていればよい。また、センサ素子101の表面のうち、多孔質保護層91c〜91eが形成される領域のうち1以上にコーティング層が形成されていてもよい。
上述した実施形態では、センサ素子101の本体の6つの表面のうちコーティング層24が配設された少なくとも1つの表面において、多孔質保護部90がセンサ素子101を覆う面積S1に対する多孔質保護部90がコーティング層24を覆う面積S2の比である面積比R(=S2/S1×100)が14%〜100%であることが好ましい。図9は、面積S1及び面積S2の説明図である。図9では、センサ素子101の本体の上面(第2固体電解質層6の上面側)を示している。図示するように、センサ素子101の本体の6つの表面のうちコーティング層24aが配設された上面において、多孔質保護層91aがセンサ素子101を覆う面積が面積S1である。また、多孔質保護層91aがコーティング層24aを覆う面積が面積S2である。なお、図9では、コーティング層24aが多孔質保護層91aとセンサ素子101の表面との間の一部にしか存在しない場合を示しており(破線部参照)、面積S2はコーティング層24aがセンサ素子101を覆う面積と等しい。また、面積S1は面積S2を含むため、常に面積S1≧面積S2となる。この面積S1に対する面積S2の比である面積比Rが14%以上であれば、コーティング層24aを介した多孔質保護層91aとセンサ素子101との密着性が十分高くなりやすく、多孔質保護部90の剥離をより抑制できる。面積比Rが大きいほど、多孔質保護部90とセンサ素子101との密着性は高くなる傾向にある。また、コーティング層24が複数の面に形成されている場合、面積比Rが14%以上である面が多いほど好ましい。なお、上述した実施形態では、多孔質保護層91a,91bとセンサ素子101の本体との間には必ずコーティング層24a,24bが存在し、コーティング層24a,24bはセンサ素子101の上面及び下面のうち多孔質保護層91a,91bが形成されない領域もさらに覆っている。そのため、センサ素子101の本体の6つの表面のうち上面及び下面において、いずれも面積比Rは100%である。
上述した実施形態では、コーティング層24a,24bと、その表面に形成される多孔質保護層91a,91bとは、同じ材質であることが好ましい旨を記載したが、コーティング層24a,24bが、多孔質保護層91a,91bと同じ材料を含んでいてもよい。この場合、コーティング層24a,24bは、自身が形成される固体電解質層(上述した実施形態における第2固体電解質層6,第1基板層1)と同じ材料(例えばジルコニア(ZrO2))をさらに含むことが好ましい。コーティング層24a,24bが、自身が形成される固体電解質層と同じ材料を含み、且つ自身の表面に形成される多孔質保護層91と同じ材料を含むことで、コーティング層24a,24bが固体電解質層と多孔質保護層91とをより接着しやすくなる。ただし、これに限らずコーティング層24は多孔質保護層91とセンサ素子101とを接着できればよい。例えばコーティング層24は多孔質セラミックス以外のセラミックスとしてもよい。
上述した実施形態において、コーティング層24の膜厚は例えば5μm〜50μmとしたが、1μm〜100μmとしてもよい。厚さが1μm以上であれば、コーティング層24を介した多孔質保護部90とセンサ素子101との密着性が十分高くなりやすいため、多孔質保護部の剥離をより抑制できる。また、コーティング層24の膜厚は30μm以下としてもよいし、20μm以下,10μm以下,10μm未満としてもよい。コーティング層24の厚さが30μmを超えても密着性はそれほど高くならないため、厚さを30μm以下とすることでコーティング層24の材料の使用量を少なくすることができる。また、コーティング層24の厚さを20μm以下,10μm以下,10μm未満などさらに小さくすれば、その分だけコーティング層24の材料の使用量を少なくすることができる。
上述した実施形態では、コーティング層24の表面の算術平均粗さRaを2.0〜5.0μmとすることで、多孔質保護層91a,91bがセンサ素子101と密着しやすくなることを説明したが、センサ素子101の表面のうち多孔質保護層91が形成される領域の算術平均粗さRaが2.0〜5.0μmであればよい。例えば、コーティング層24を備えない面に多孔質保護層91を形成する場合でも、センサ素子101の本体(層1〜層6)の表面のうち多孔質保護層91が形成される領域の算術平均粗さRaが2.0〜5.0μmであればよい。この場合、例えばセンサ素子101の本体の表面をサンドブラストなどで荒らすことで、算術平均粗さRaを2.0〜5.0μmとしてもよい。なお、コーティング層24の表面やセンサ素子101の表面などの多孔質保護部90との接触面の算術平均粗さRaが2.0〜5.0μmである場合に限らず、算術平均粗さRaが1.0μm〜5.0μmとしても、多孔質保護部90の剥離をより抑制できる効果は得られる。例えば、原料粉末の粒径をD50=0.1μm〜2μmとする点以外は上述した実施形態と同様にしてペーストを調整することで、焼成後のコーティング層24の表面の算術平均粗さRaを1.0μm〜2.0μmとすることができる。また、コーティング層24のうち多孔質保護部90との接触面の算術平均粗さRaがこれらの範囲になくともよい。
上述した実施形態では、多孔質保護部90の多孔質保護層91はプラズマ溶射により形成するものとしたが、これに限られない。他の形成方法であっても、上述した順序で多孔質保護層91a〜91eを形成することで、本実施形態と同様に多孔質保護層91の剥離をより抑制する効果が得られる。例えば、コーティング層24と同様にスクリーン印刷で多孔質保護層91を形成してもよい。この場合、ペーストをスクリーン印刷し、乾燥及び焼成することによって多孔質保護層91a,91bを先行形成し、その後に多孔質保護層91c〜91eの印刷,乾燥及び焼成を行えばよい。また、多孔質保護層91a〜91eのうち1以上を、他と異なる方法や材料で形成してもよい。例えば、焼成後に多孔質保護層91となるペースト(例えば、多孔質保護層91の原料粉末を溶剤に分散させたもの)を用いてディッピングにより多孔質保護層91を形成してもよい。あるいは、ゲルキャスト法を用いて多孔質保護層91を形成してもよい。なお、ゲルキャスト法は、スラリーを、スラリー自身の化学反応により固化して成形体とする方法である。例えば、成形型の内部に形成される空間にセンサ素子101の一部(被覆したい部分)を露出させ、成形型とセンサ素子101との隙間にスラリーを流し込み、固化させる。これにより、上述した実施形態と同様に、多孔質保護層91でセンサ素子101を被覆することができる。なお、ゲルキャスト法を用いる場合、スラリーには、上述した多孔質保護層91の原料粉末や溶剤に加えてさらにゲル化剤を添加することが好ましい。ゲル化剤は、化学反応することで固化反応を引き起こすものであり、これによりスラリーが固化する。ゲル化剤としては、例えばイソシアネート類,ポリオール類及び触媒を含むものが挙げられる。
なお、多孔質保護層91a〜91eの形成順序は、上述した実施形態に限られない。コーティング層24が多孔質保護部90とセンサ素子101とを接着していれば、多孔質保護層91の剥離をより抑制する効果が得られる。例えば、焼成後に多孔質保護層91a〜91eとなるペーストをスクリーン印刷,ディッピング又はゲルキャスト法により形成し、焼成により多孔質保護層91a〜91eを同時に形成してもよい。なお、複数の多孔質保護層91a〜91eを順次形成する場合には、コーティング層24a,24bと接着される多孔質保護層91a,91bの少なくともいずれかを先に形成することが好ましい。また、センサ素子101の表面のうちコーティング層24のない面に多孔質保護層91を形成する際には、形成済みの多孔質保護層91と接続されるように形成することが好ましく、形成済み且つコーティング層24と接着されている多孔質保護層91a,91bの少なくとも一方と接続されるように形成することがより好ましい。
上述した実施形態では、コーティング層24はスクリーン印刷及び焼成により形成するものとしたが、これに限られない。例えば、焼成後にコーティング層24となるとなるペーストを用いてディッピング及び焼成により形成してもよい。焼成後にコーティング層24となるペーストをディッピングにより形成する場合には、センサ素子101(又は焼成前センサ素子)のうちコーティング層24を形成しない部分をマスクで覆ってもよい。
上述した実施形態では、焼成前センサ素子及び焼成前コーティング層の焼成を工程(2)で同時に行い、多孔質保護部90の形成は別の工程(3)で行うこととしたが、これに限られない。例えば、焼成前センサ素子を焼成してセンサ素子101を得た後に、コーティング層24の形成を行ってもよい。あるいは、焼成前センサ素子に焼成前コーティング層を形成し、さらにスクリーン印刷,ディッピングにより焼成前の多孔質保護部90を形成したあと、焼成前センサ素子,焼成前コーティング層及び焼成前の多孔質保護部90を同時に焼成してもよい。
上述した実施形態では、多孔質保護層91a,91bを先行形成した後に、まず多孔質保護層91c,91dを形成するものとしたが、これに限られない。多孔質保護層91a,91bを先行形成した後に、まず多孔質保護層91eを形成してもよい。ただし、上述した実施形態の順序では、多孔質保護層91eを形成する際には多孔質保護層91a〜91dの4つの多孔質保護層91と接続されるように形成することができる。一方、多孔質保護層91a,91bを先行形成した後に、まず多孔質保護層91eを形成すると、多孔質保護層91a,91bのみが形成済みであるため、多孔質保護層91eの形成時には2つの多孔質保護層91と接続されることになる。ここで、形成面積の小さい多孔質保護層91ほど、センサ素子101との密着力が低い傾向にある。そのため、形成面積の最も小さい多孔質保護層91eは、なるべく多くの形成済みの多孔質保護層91と接続されるようにするべく形成順を最後にすることが好ましい。すなわち、多孔質保護部90のうち先行積層したあとの残りの多孔質保護層91を形成する順序は、形成面積の小さい多孔質保護層91ほど、形成時により多くの形成済みの多孔質保護層91と接続される傾向となるような順序とすることが好ましい。
上述した実施形態では、多孔質保護部90は多孔質保護層91a〜91eを有するものとしたが、これに限られない。多孔質保護部90は、センサ素子101の表面の少なくとも一部に配設されたコーティング層24によりセンサ素子101と接着されていればよい。例えば、上述した実施形態において多孔質保護層91eを備えないものとしてもよい。また、多孔質保護層91a〜91dはいずれもセンサ素子101の前端から距離Lまでを覆うものとしたが、これに限られない。例えば、多孔質保護層91a〜91dのうち1以上が、他とは長手方向の形成長さ(本実施形態における距離L)が異なっていてもよい。
上述した実施形態では、多孔質保護層91aは、センサ素子101の上面のうち前端から距離Lまでの領域を覆っており、センサ素子101の上面のうち左端,右端,前端にも多孔質保護層91aが存在するものとしたが、これに限られない。例えば、多孔質保護層91aがセンサ素子101の上面のうち右端(センサ素子101の上面のうち前後方向に沿った辺部分)までは形成されていなくてもよい(例えば多孔質保護層91aが右端から少し離れた位置まで形成されているなど)。このような場合でも、多孔質保護層91dが少しセンサ素子101の上面側まではみ出すように形成するなどにより、多孔質保護層91dが多孔質保護層91aと接続されるように形成することはできる。多孔質保護層91aにおいて、センサ素子101の上面の左端や前端などに関しても同様である。また、多孔質保護層91bについても同様である。
上述した実施形態では、センサ素子101のうち互いに反対側の面である上下面に位置する多孔質保護層91a,91bを先行形成するものとしたが、これに限られない。例えば、センサ素子101の上下の厚さと左右の幅とが同じであり、多孔質保護層91a〜91dの形成面積がいずれも同じ且つ最も広い場合を考える。このような場合、多孔質保護層91a〜91dのうちいずれの2つを先行形成してもよい。例えば、多孔質保護層91a,91cを先行形成してもよい。なお、この場合、多孔質保護層91b,91dでは多孔質保護層91a,91cと接続されるように形成できないため、多孔質保護層91a,91cを形成した後にはまず多孔質保護層91eを形成することになる。その後は、多孔質保護層91a,91eと接続されるように多孔質保護層91dを形成するか、又は多孔質保護層91c,91eと接続されるように多孔質保護層91bを形成する。最後に、残った多孔質保護層91(91b又は91d)を、形成済みの少なくとも2つの多孔質保護層91を接続するように形成する。ただし、剥離を抑制する効果が高まるため、互いに反対側の面に位置する2つの多孔質保護層91を先行形成することが好ましい。
上述した実施形態では、距離Lはセンサ素子101の幅及び厚さよりも大きい値であるものとしたが、これに限られない。例えば距離Lがセンサ素子101の幅及び厚さよりも小さい場合には、多孔質保護層91eの形成面積が最も大きくなる。この場合、多孔質保護層91eと、その次に形成面積の大きい多孔質保護層91と、を先行形成することになる。
上述した実施形態では、ガスセンサ100のセンサ素子101は第1内部空所20,第2内部空所40を備えるものとしたが、これに限られない。例えば、さらに第3内部空所を備えていてもよい。この場合の変形例のガスセンサ100の断面図を図10に示す。図示するように、この変形例のガスセンサ100では、測定電極44が第4拡散律速部45で被覆されていない。代わりに、補助ポンプ電極51と測定電極44との間には、第3拡散律速部30と同様の第4拡散律速部60が形成されている。これにより、第2内部空所40と、第4拡散律速部60と、第3内部空所61とが、この順に連通する態様にて隣接形成されており、ガス流通部の一部を構成している。そして、補助ポンプ電極51は第2内部空所40内に配設されており、測定電極44は第3内部空所61に面する第1固体電解質層4の上面に配設されている。この変形例のガスセンサ100は、第4拡散律速部60が図2の第4拡散律速部45と同様の働きをするため、上述した実施形態と同様に被測定ガス中のNOx濃度を検出することができる。また、この変形例のガスセンサ100も、上述した実施形態と同様の構成や製造方法を採用することで、上述した実施形態と同様の効果が得られる。例えば、変形例のガスセンサ100がコーティング層24を有することで、多孔質保護部90の剥離をより抑制できる。
上述した実施形態では、本発明のガスセンサを、可変電源25,46,52などを備えたガスセンサ100に具体化した例を示したが、本発明のガスセンサは、これら可変電源25,46,52や外部配線などの構成を除いたガスセンサ(例えばセンサ素子101,コーティング層24,及び多孔質保護部90を備えるガスセンサ)として具体化してもよい。
以下には、ガスセンサ100を具体的に作製した例を実験例として説明する。実験例1,2,4〜7,8〜17が本発明の実施例に相当し、実験例3が比較例に相当する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
[実験例1]
実験例1として、図1,2に示したガスセンサ100を10本作製した。具体的には、工程(1)では、まず、安定化剤のイットリアを4mol%添加したジルコニア粉末をテープ状に成形してセラミックスグリーンシートを6枚作製した。スペーサ層5となるセラミックスグリーンシートにはガス導入口10やガス流通部となる空間を予め打ち抜き処理などによって設けておいた。第1固体電解質層4となるセラミックスグリーンシートにも、同様に基準ガス導入空間43となる空間を設けておいた。そして、上述したガスセンサ100の第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6のそれぞれに対応して、電極や絶縁層等のパターンをスクリーン印刷により形成した。また、第2固体電解質層6,第1基板層1となるセラミックスグリーンシートの表面には、焼成後にコーティング層24a,24bとなるペーストをスクリーン印刷した。その後、それらを乾燥したあと積層し一体化して積層体とした。その積層体を切断してガスセンサ100の大きさに切り分けた。この切り分けた後の積層体が、焼成後にセンサ素子101となる焼成前センサ素子と、焼成後にコーティング層24となる焼成前コーティング層と、を備えた未焼成体である。このように工程(1)を行って積層体を用意した。
なお、コーティング層24を形成するためのペーストは、以下のように調整した。まず、原料粉末として、粒径D50=5μmのアルミナ粉末を用意した。そして、アルミナ粉末の体積割合を10vol%とし、バインダー溶液(ポリビニルアセタールとブチルカルビトール)を40vol%とし、助溶剤(アセトン)を45vol%とし、分散剤(ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル)を5vol%としてこれらを調合し、ポットミル混合機の回転数を200rpmとして3時間混合して、ペーストの調整を行った。
次に、工程(2)では、積層体を大気雰囲気下、1400℃で焼成し、コーティング層24を備えたセンサ素子101を得た。なお、作製したセンサ素子101についてコーティング層24の膜厚を測定したところ、コーティング層24a,24bのいずれも約5μm〜10μmであった。また、コーティング層24a,24bの表面の算術平均粗さRaはいずれも約2μmであった。また、コーティング層24を含んだセンサ素子101の寸法は、前後方向の長さが67.5mm、左右方向の幅が4.25mm、上下方向の厚さが1.45mmであった。コーティング層24の気孔率は、約20%であった。
続いて、工程(3)では、センサ素子101の表面に、多孔質保護層91a,91b,91c,91d,91eの順で多孔質保護層91を形成して多孔質保護部90とし、多孔質保護部90,コーティング層24,センサ素子101を備えた実験例1のガスセンサ100を得た。多孔質保護層91を形成するプラズマ溶射の条件は、以下のようにした。プラズマ発生用ガス130として、アルゴンガス(流量50L/min)と水素(流量10L/min)とを混合したものを用いた。アノード126とカソード128との間に印加する電圧は、70Vの直流電圧とした。電流は500Aであった。粉末溶射材料134としては、粒径分布が10μm〜30μmの範囲であるアルミナ粉末を用いた。粉末溶射材料134の供給に用いるキャリアガスは、アルゴンガス(流量4L/min)とした。距離Wは、150mmとした。距離Lは、11.8mmとした。また、プラズマ溶射は、大気及び常温の雰囲気にて行った。プラズマガン120の溶射の向き(ノズル126aの向き)は、センサ素子101における多孔質保護層91の形成面に対して垂直とした。なお、形成された多孔質保護層91a〜91eは、いずれも膜厚が約450μm、気孔率が約20%であった。また、センサ素子101の上面における面積S1は50mm2、面積S2は50mm2(コーティング層24aの形成面積は、287mm2)であり、面積比Rは100%であった。センサ素子101の下面についても、同じく面積比Rは100%であった。実験例1の10本のガスセンサ100は、いずれも多孔質保護層91の剥離が生じていなかった。
[実験例2]
コーティング層24として、コーティング層24a,24bに加えて図7に示したコーティング層24eも形成した点以外は、実験例1と同様にして実験例2のガスセンサ100を10本作製した。なお、コーティング層24eとなるペーストのスクリーン印刷は、ガスセンサ100の大きさに切り分けた積層体の作製後に、積層体の前面に対して行った。また、ペーストがガス導入口10を避ける形状になるように、スクリーン印刷のパターンを調整しておいた。実験例2の10本のガスセンサ100は、いずれも多孔質保護層91の剥離が生じていなかった。
[実験例3]
コーティング層24を形成しない点以外は、実験例1と同様にして実験例3のガスセンサ100を10本作製した。実験例3の10本のガスセンサ100のうち、6本については、多孔質保護層91a〜91eのいずれも剥離が生じていた。
実験例1〜3の結果から、コーティング層24を配設して多孔質保護部90とセンサ素子101とを接着した実験例1,2は、コーティング層24を配設しない実験例3と比較して多孔質保護部90の剥離をより抑制できることが確認できた。
[評価試験]
実験例1,2のガスセンサ100について、センサ静特性を評価した。具体的には、センサ素子101を所定の雰囲気中(窒素ベース,酸素濃度=0%,NO濃度=500ppm,水分=3%)に配置してヒータ72により通常駆動時の温度(800℃)に保ち、所定時間経過させて安定したあとのセンサ信号(測定用ポンプセル41のポンプ電流Ip2)の値を測定した。実験例1,2のいずれについても6本のガスセンサ100について測定を行い、センサ信号の最大値,最小値,平均値をそれぞれ導出した。結果を図11に示す。なお、図11では、実験例1のセンサ信号の平均値を値1としたときの実験例1,2のセンサ信号の値を縦軸で示している。図11に示したように、実験例1のセンサ信号の平均値を1とすると、実験例2のセンサ信号の平均値は0.7であり、実験例2の方が実験例1よりもセンサ信号が全体的に低下していた。また、実験例2の方が最大値と最小値との差が大きく、個体差によるセンサ信号のバラツキが大きかった。実験例1のガスセンサ100は、ガス導入口10が配設されたセンサ素子101の前端面にコーティング層24を形成していない。これにより、実験例1のガスセンサ100ではガス導入口10内へのコーティング層24の侵入が実験例2よりも抑制されて、実験例2と比べてセンサ静特定が向上(被測定ガスの検出感度が高い)し、個体差によるセンサ静特性のばらつきも抑制されていると考えられる。
[実験例4]
実験例4として、上述した実施形態のガスセンサ100の製造方法に従って、ガスセンサ100を20本作製した。具体的には、まず、前後方向の長さが67.5mm、左右方向の幅が4.25mm、上下方向の厚さが1.45mmのセンサ素子101を作製した。なお、センサ素子101を作製するにあたり、コーティング層24を形成するためのペーストは、以下のように調整した。原料粉末(アルミナ粉末)の粒径をD50=5μm,体積割合を10vol%とし、バインダー溶液(ポリビニルアセタールとブチルカルビトール)を40vol%とし、助溶剤(アセトン)を45vol%とし、分散剤(ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル)を5vol%としてこれらを調合し、ポットミル混合機の回転数を200rpmとして3時間混合して、ペーストの調整を行った。また、作製したセンサ素子101についてコーティング層24の膜厚を測定したところ、いずれも約10〜20μmであった。また、コーティング層24a,24bの表面の算術平均粗さRaはいずれも約2.4μmであった。なお、上記のセンサ素子101の寸法は、コーティング層24を含んだ寸法である。コーティング層24の気孔率は、約20%であった。
続いて、センサ素子101の表面に、多孔質保護層91a,91b,91c,91d,91eの順で多孔質保護層91を形成して多孔質保護部90とし、ガスセンサ100とした。多孔質保護層91を形成するプラズマ溶射の条件は、以下のようにした。プラズマ発生用ガス130として、アルゴンガス(流量50L/min)と水素(流量10L/min)とを混合したものを用いた。アノード126とカソード128との間に印加する電圧は、70Vの直流電圧とした。電流は500Aであった。粉末溶射材料134としては、粒径分布が10μm〜30μmの範囲であるアルミナ粉末を用いた。粉末溶射材料134の供給に用いるキャリアガスは、アルゴンガス(流量4L/min)とした。距離Wは、150mmとした。距離Lは、10mmとした。また、プラズマ溶射は、大気及び常温の雰囲気にて行った。プラズマガン120の溶射の向き(ノズル126aの向き)は、センサ素子101における多孔質保護層91の形成面に対して垂直とした。形成された多孔質保護層91a〜91eの膜厚は、いずれも約450μmであった。実験例4の20本のガスセンサ100は、いずれも多孔質保護層91の剥離が生じていなかった。
[実験例5]
実験例4における多孔質保護層91aと多孔質保護層91bとの形成順序を逆にした点以外は、実験例4と同様にして20本のガスセンサ100を作製した。すなわち、実験例5では、多孔質保護層91の形成順序を、多孔質保護層91b,91a,91c,91d,91eの順とした。実験例5の20本のガスセンサ100は、いずれも多孔質保護層91の剥離が生じていなかった。
[実験例6]
多孔質保護層91a〜91eのうち多孔質保護層91c,91dを最初に形成した点以外は、実験例4と同様にして20本のガスセンサ100を作製した。すなわち、実験例6では、多孔質保護層91の形成順序を、多孔質保護層91c,91d,91a,91b,91eの順とした。実験例6の20本のガスセンサ100のうち、2本については、多孔質保護層91a,91dの剥離が生じていた。なお、多孔質保護層91aは、多孔質保護層91dの剥離に伴って剥離したと考えられる。
[実験例7]
多孔質保護層91a〜91eのうち多孔質保護層91eを最初に形成した点以外は、実験例4と同様にして20本のガスセンサ100を作製した。すなわち、実験例7では、多孔質保護層91の形成順序を、多孔質保護層91e,91a,91b,91c,91dの順とした。実験例7の20本のガスセンサ100のうち、3本については、多孔質保護層91eの剥離が生じていた。
実験例4〜7の結果から、形成面積の最も広い多孔質保護層91a,91bを先行形成し、その後に、形成済みの少なくとも2つの多孔質保護層91を接続するように多孔質保護層91c〜91eを形成することで、多孔質保護層91の剥離をより抑制できることが確認できた。また、コーティング層24a,24bと接着される多孔質保護層91a,91bを先に形成し、その後に、形成済み且つコーティング層24と接着されている多孔質保護層91a,91bの少なくとも一方と接続されるように多孔質保護層91c〜91eを形成することで、多孔質保護層91の剥離をより抑制できることが確認できた。
[実験例8〜17]
実験例8〜17では、コーティング層24の気孔率を種々変更した点以外は、実験例4と同様にしてガスセンサ100を20本ずつ作製した。具体的には、コーティング層24を形成するためのペーストの調整において、以下の点以外は実験例4と同様にして実験例11〜20のセンサ素子101を作製した。実験例8では、原料粉末(アルミナ粉末)を粉砕して粒径をD50=0.5μmとした粉末を用い、バインダーの体積割合を1/4(=10vol%)とした。実験例9では、バインダーの体積割合を1/4(=10vol%)とした。実験例10では、バインダーの体積割合を半分(=20vol%)とした。実験例11では、実験例4と同様にしてセンサ素子101を作製した。実験例12では、ペーストに造孔材(テオブロミン)を0.225vol%添加した。実験例13では、ペーストに造孔材(テオブロミン)を0.85vol%添加した。実験例14では、ペーストに造孔材(テオブロミン)を1.75vol%添加した。実験例15では、ペーストに造孔材(テオブロミン)を4.25vol%添加した。実験例16では、ペーストに造孔材(テオブロミン)を6.5vol%添加した。実験例17では、ペーストに造孔材(テオブロミン)を10vol%添加した。実験例8〜17のコーティング層24の気孔率は、それぞれ、5.3%、10.24%,15.36%,20.78%,37.2%,51.1%,60.7%,64.86%,70.1%,75%であった。また、実験例8〜17のセンサ素子101についてコーティング層24の膜厚を測定したところ、いずれも約10μmであった。また、実験例8〜17のコーティング層24a,24bの表面の算術平均粗さRaはいずれも約2μmであった。
実験例8〜17でのコーティング層24を形成するためのペーストの調整における原料粉末の体積割合,原料粉末の粒径,造孔材の体積割合,バインダーの体積割合,コーティング層の気孔率,及び20本中の多孔質保護層91又はコーティング層24の剥離本数を表1にまとめて示す。
表1に示すように、コーティング層24の気孔率が10%未満である実験例8では、20本中2本について、多孔質保護層24の剥離が生じていた。また、コーティング層24の気孔率が71%超過である実験例17では、20本中2本について、コーティング層24の剥離が生じていた。なお、実験例17では、プラズマ溶射時のアルミナ粉末の衝突によってコーティング層24の剥離が生じており、コーティング層24の強度が低かったことが原因で剥離が生じたと考えられる。一方、実験例9〜16は、それぞれ20本のいずれについても多孔質保護層91やコーティング層24の剥離は生じていなかった。以上の結果から、コーティング層の気孔率を10%以上とすることで、多孔質保護層91の剥離を抑制できると考えられる。また、コーティング層24の気孔率を71%以下とすることで、コーティング層24の剥離が抑制でき、ひいては多孔質保護層91の剥離を抑制できると考えられる。