次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態であるガスセンサ10が配管58に取り付けられた様子を示す縦断面図である。図2は、センサ素子20を右上前方から見た斜視図である。図3は、図2のA-A断面図である。図4は、センサ素子20の上面図である。図5は、センサ素子20の下面図である。図6は、第1特定保護層92の周辺を拡大した部分断面図である。本実施形態において、図2,3に示すように、センサ素子20の素子本体60の長手方向を前後方向(長さ方向)とし、素子本体60の積層方向(厚さ方向)を上下方向とし、前後方向及び上下方向に垂直な方向を左右方向(幅方向)とする。
図1に示すように、ガスセンサ10は、組立体15と、ボルト47と、外筒48と、コネクタ50と、リード線55と、ゴム栓57とを備えている。組立体15は、センサ素子20と、保護カバー30と、素子封止体40とを備えている。ガスセンサ10は、例えば車両の排ガス管などの配管58に取り付けられて、被測定ガスとしての排気ガスに含まれるNOxやO2等の特定ガスの濃度(特定ガス濃度)を測定するために用いられる。本実施形態では、ガスセンサ10は特定ガス濃度としてNOx濃度を測定するものとした。センサ素子20の長手方向に沿った両端(前端,後端)のうち、前端側が被測定ガスに晒される側である。
保護カバー30は、図1に示すように、センサ素子20の前端側を覆う有底筒状の内側保護カバー31と、この内側保護カバー31を覆う有底筒状の外側保護カバー32とを備えている。内側,外側保護カバー31,32の各々には、被測定ガスを流通させるための複数の孔が形成されている。内側保護カバー31で囲まれた空間として素子室33が形成されており、センサ素子20の第5面60e(前端面)はこの素子室33内に配置されている。
素子封止体40は、センサ素子20を封止固定する部材である。素子封止体40は、主体金具42及び内筒43を備えた筒状体41と、碍子44a~44c(緻密体の一例)と、圧粉体45a,45bと、メタルリング46と、を備えている。センサ素子20は素子封止体40の中心軸上に位置しており、素子封止体40を前後方向に貫通している。
主体金具42は、筒状の金属製部材である。主体金具42は、前側が後側よりも内径の小さい肉厚部42aとなっている。主体金具42のうちセンサ素子20の前端と同じ側(前側)には、保護カバー30が取り付けられている。主体金具42の後端は内筒43のフランジ部43aと溶接されている。肉厚部42aの内周面の一部は段差面である底面42bとなっている。この底面42bは碍子44aが前方に飛び出さないようにこれを押さえている。
内筒43は、筒状の金属製部材であり、前端にフランジ部43aを有している。内筒43と主体金具42とは同軸に溶接固定されている。また、内筒43には、圧粉体45bを内筒43の中心軸方向に押圧するための縮径部43cと、メタルリング46を介して碍子44a~44c,圧粉体45a,45bを図1の下方向に押圧するための縮径部43dとが形成されている。
碍子44a~44c及び圧粉体45a,45bは、筒状体41の内周面とセンサ素子20との間に配置されている。碍子44a~44cは、圧粉体45a,45bのサポーターとしての役割を果たす。碍子44a~44cの材質としては、例えばアルミナ、ステアタイト、ジルコニア、スピネル、コージェライト、ムライトなどのセラミックス、又はガラスを挙げることができる。碍子44a~44cは緻密な部材であり、気孔率は例えば1%未満である。碍子44a~44cの各々は、軸方向(ここでは前後方向)に沿って自身を貫通する貫通孔を有しており、この貫通孔の内部をセンサ素子20が貫通している。碍子44a~44cの各々の貫通孔は、本実施形態ではセンサ素子20の形状に合わせて軸方向に垂直な断面が四角形状になっている。圧粉体45a,45bは、例えば粉末を成型したものであり、封止材としての役割を果たす。圧粉体45a,45bの材質としては、タルクのほか、アルミナ粉末、ボロンナイトライドなどのセラミックス粉末が挙げられ、圧粉体45a,45bはそれぞれこれらの少なくともいずれかを含んでいてもよい。圧粉体45aは碍子44a,44b間に充填され、碍子44a,44bにより軸方向の両側(前後)から挟まれて押圧されている。圧粉体45bは碍子44b,44c間に充填され、碍子44b,44cにより軸方向の両側(前後)から挟まれて押圧されている。碍子44a~44c,圧粉体45a,45bは縮径部43d及びメタルリング46と、主体金具42の肉厚部42aの底面42bと、に挟まれて前後から押圧されている。縮径部43c,43dからの押圧力により、圧粉体45a,45bが筒状体41とセンサ素子20との間で圧縮されることで、圧粉体45a,45bは保護カバー30内の素子室33と外筒48内の空間49との間を封止すると共に、センサ素子20を固定している。
ボルト47は、主体金具42と同軸に主体金具42の外側に固定されている。ボルト47の外周面には雄ネジ部が形成されている。この雄ネジ部は、配管58に溶接され内周面に雌ネジ部が設けられた固定用部材59内に挿入されている。これにより、ガスセンサ10のうちセンサ素子20の前端側や保護カバー30の部分が配管58内に突出した状態で、ガスセンサ10が配管58に固定できるようになっている。
外筒48は、筒状の金属製部材であり、内筒43と、センサ素子20の後端側と、コネクタ50とを覆っている。外筒48の内側には主体金具42の上部が挿入されている。外筒48の下端は主体金具42と溶接されている。外筒48の上端からは、コネクタ50に接続された複数のリード線55が外部に引き出されている。コネクタ50は、センサ素子20の後端側の表面に配設された上側コネクタ電極71及び下側コネクタ電極72に接触して電気的に接続されている。このコネクタ50を介して、リード線55はセンサ素子20の各電極64~68及びヒータ69と電気的に導通している。外筒48とリード線55との隙間はゴム栓57によって封止されている。外筒48内の空間49は基準ガスで満たされている。空間49にはセンサ素子20の第6面60f(後端面)が配置されている。
センサ素子20は、図2~5に示すように、素子本体60と、検出部63と、ヒータ69と、上側コネクタ電極71と、下側コネクタ電極72と、保護層80と、を備えている。素子本体60は、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層を複数(図3では6個)積層した積層体を有している。素子本体60は、長手方向が前後方向に沿っている長尺な直方体形状をしており、上下左右前後の各々の外表面として第1~第6面60a~60fを有している。第1面~第4面60a~60dは、素子本体60の長手方向に沿った表面であり、素子本体60の側面に相当する。第5面60eは、素子本体60の前端面であり、第6面60fは、素子本体60の後端面である。素子本体60の寸法は、例えば長さが25mm以上100mm以下、幅が2mm以上10mm以下、厚さが0.5mm以上5mm以下としてもよい。素子本体60には、第5面60eに開口して被測定ガスを自身の内部に導入する被測定ガス導入口61と、第6面60fに開口して特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガス(ここでは大気)を自身の内部に導入する基準ガス導入口62と、が形成されている。
検出部63は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのものである。検出部63は、素子本体60の前端側に配設された複数の電極を有している。本実施形態では、検出部63は、第1面60aに配設された外側電極64と、素子本体60の内部に配設された内側主ポンプ電極65,内側補助ポンプ電極66,測定電極67,及び基準電極68とを備えている。内側主ポンプ電極65及び内側補助ポンプ電極66は、素子本体60の内部の空間の内周面に配設されておりトンネル状の構造を有している。
検出部63が被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する原理は周知であるため詳細な説明は省略するが、検出部63は例えば以下のように特定ガス濃度を検出する。検出部63は、外側電極64と内側主ポンプ電極65との間に印加された電圧に基づいて、内側主ポンプ電極65周辺の被測定ガス中の酸素の外部(素子室33)への汲み出し又は汲み入れを行う。また、検出部63は、外側電極64と内側補助ポンプ電極66との間に印加された電圧に基づいて、内側補助ポンプ電極66周辺の被測定ガス中の酸素の外部(素子室33)への汲み出し又は汲み入れを行う。これらにより、酸素濃度が所定値に調整された後の被測定ガスが、測定電極67周辺に到達する。測定電極67は、NOx還元触媒として機能し、到達した被測定ガス中の特定ガス(NOx)を還元する。そして、検出部63は、還元後の酸素濃度に応じて測定電極67と基準電極68との間に発生する起電力又はその起電力に基づいて測定電極67と外側電極64との間に流れる電流を、電気信号として発生させる。このように検出部63が発生させた電気信号は、被測定ガス中の特定ガス濃度に応じた値(特定ガス濃度を導出可能な値)を示す信号であり、検出部63が検出した検出値に相当する。
ヒータ69は、素子本体60内部に配設された電気抵抗体である。ヒータ69は、外部から給電されることにより発熱して素子本体60を加熱する。ヒータ69は、素子本体60を形成する固体電解質層の加熱及び保温を行って、固体電解質層が活性化する温度(例えば800℃)に調整することが可能となっている。
上側コネクタ電極71及び下側コネクタ電極72は、それぞれ素子本体60の側面のいずれかの後端側に配設されており、外部と電気的に導通するための電極である。上側,下側コネクタ電極71,72は、いずれも保護層80に被覆されず露出している。本実施形態では、上側コネクタ電極71として上側コネクタ電極71a~71dの4個が左右方向に沿って並べられて、第1面60aの後端側に配設されている。下側コネクタ電極72として下側コネクタ電極72a~72dの4個が、左右方向に沿って並べられて、第1面60a(上面)に対向する第2面60b(下面)の後端側に配設されている。コネクタ電極71a~71d,72a~72dは、各々が検出部63の複数の電極64~68及びヒータ69のいずれかと電気的に導通している。本実施形態では、上側コネクタ電極71aが測定電極67と導通し、上側コネクタ電極71bが外側電極64と導通し、上側コネクタ電極71cが内側補助ポンプ電極66と導通し、上側コネクタ電極71dが内側主ポンプ電極65と導通し、下側コネクタ電極72a~72cがそれぞれヒータ69と導通し、下側コネクタ電極72dが基準電極68と導通している。上側コネクタ電極71bと外側電極64とは、第1面60aに配設された外側リード線75を介して導通している(図3,4参照)。それ以外のコネクタ電極は、素子本体60内部に配設されたリード線やスルーホールなどを介して、対応する電極又はヒータ69と導通している。
外側リード線75は、例えば白金(Pt)等の貴金属又はタングステン(W),モリブデン(Mo)等の高融点金属を含む導電体である。外側リード線75は、貴金属又は高融点金属と、素子本体60に含まれる酸素イオン伝導性固体電解質(本実施形態ではジルコニア)と、を含むサーメットの導電体であることが好ましい。本実施形態では、外側リード線75は白金とジルコニアとを含むサーメットの導電体とした。外側リード線75の気孔率は、例えば5%以上40%以下としてもよい。外側リード線75の線幅(太さすなわち左右方向の幅)は、例えば0.1mm以上1.0mm以下である。外側リード線75と素子本体60の第1面60aとの間には、外側リード線75と素子本体60の固体電解質層とを絶縁するための図示しない絶縁層が配設されていてもよい。
保護層80は、上側,下側コネクタ電極71,72が配設された素子本体60の側面すなわち第1,第2面60a,60bのうち、少なくとも前端側を被覆している。本実施形態では、保護層80は、第1,第2面60a,60bをそれぞれ被覆する内側保護層81と、内側保護層81の外側に配設された外側保護層85と、を備えている。
内側保護層81は、第1面60aを被覆する第1内側保護層83と、第2面60bを被覆する第2内側保護層84とを備えている。第1内側保護層83は、上側コネクタ電極71が存在する領域を除いて、上側コネクタ電極71a~71dが配設された第1面60aの前端から後端までの領域を全て覆っている(図2~4参照)。第1内側保護層83の左右の幅は第1面60aの左右の幅と同じであり、第1内側保護層83は第1面60aのうち左端から右端までに亘って第1面60aを被覆している。第1内側保護層83は、第1特定保護層92と、第1特定保護層92よりも前端側に位置する前端側部分83aと、第1特定保護層92よりも後端側に位置する後端側部分83bと、を備えている。前端側部分83aの後端と第1特定保護層92の前端とは接しており、第1特定保護層92の後端と後端側部分83bの前端とは接している。第1内側保護層83は、外側電極64及び外側リード線75のそれぞれ少なくとも一部を被覆している。本実施形態では、図3,4に示すように、第1内側保護層83の前端側部分83aが外側電極64全体を被覆している。また、第1内側保護層83が外側リード線75を全て被覆している。第1内側保護層83は、素子本体60の第1面60a側を保護する役割を果たす。第1内側保護層83は、例えば被測定ガス中の硫酸などの成分から外側電極64及び外側リード線75を保護して、これらの腐食などを抑制することができる。また、詳細は後述するが、第1内側保護層83のうち特に第1特定保護層92は、水分が素子本体60の長手方向に沿って移動して上側コネクタ電極71に到達するのを抑制する役割を果たす。
第1特定保護層92は、外側電極64も含めた検出部63が有する複数の電極64~68のいずれよりも、後方に配設されている(図3参照)。第1特定保護層92は、被測定ガスに晒されない位置、すなわち素子室33に露出しない位置に配設されている。本実施形態では、第1特定保護層92は素子封止体40と素子本体60との間に位置している。より具体的には、第1特定保護層92は、前後方向で碍子44bと重複する位置に配置されている(図1参照)。言い換えると、第1特定保護層92の前端から後端までの領域が、碍子44bの前端から後端までの領域内に位置している。
第2内側保護層84は、下側コネクタ電極72が存在する領域を除いて、下側コネクタ電極72a~72dが配設された第2面60bの前端から後端までの領域を全て覆っている(図2,3,5参照)。第2内側保護層84の左右の幅は第2面60bの左右の幅と同じであり、第2内側保護層84は第2面60bのうち左端から右端までに亘って第2面60bを被覆している。第2内側保護層84は、第2特定保護層95と、第2特定保護層95よりも前端側に位置する前端側部分84aと、第2特定保護層95よりも後端側に位置する後端側部分84bと、を備えている。前端側部分84aの後端と第2特定保護層95の前端とは接しており、第2特定保護層95の後端と後端側部分84bの前端とは接している。第2内側保護層84は、素子本体60の第2面60b側を保護する役割を果たす。また、詳細は後述するが、第2内側保護層84のうち特に第2特定保護層95は、水分が素子本体60の長手方向に沿って移動して下側コネクタ電極72に到達するのを抑制する役割を果たす。
第2特定保護層95は、外側電極64も含めた検出部63が有する複数の電極64~68のいずれよりも、後方に配設されている(図3参照)。第2特定保護層95は、被測定ガスに晒されない位置、すなわち素子室33に露出しない位置に配設されている。本実施形態では、第2特定保護層95は素子封止体40と素子本体60との間に位置している。より具体的には、第2特定保護層95は、前後方向で碍子44bと重複する位置に配置されている(図1参照)。言い換えると、第2特定保護層95の前端から後端までの領域が、碍子44bの前端から後端までの領域内に位置している。
外側保護層85は、第1~第5面60a~60eを被覆している。外側保護層85は、第1面60a及び第2面60bについては、内側保護層81を被覆することでこれらの面を被覆している。外側保護層85は、内側保護層81と比べて前後方向の長さが短くなっており、内側保護層81とは異なり素子本体60の前端及び前端付近の領域だけを被覆している。これにより、外側保護層85は、素子本体60のうち検出部63の各電極64~68の周辺部分、言い換えると素子本体60のうち素子室33内に配置されて被測定ガスに晒される部分、を被覆している。これにより、外側保護層85は、例えば被測定ガス中の水分等が付着して素子本体60にクラックが生じるのを抑制する役割を果たす。外側保護層85の厚さは、例えば40μm以上800μm以下としてもよい。
第1内側保護層83のうちの第1特定保護層92は、厚さT1が10μm以下である。また、第1内側保護層83のうち第1特定保護層92の前側部分88(図6参照)の厚さを厚さT2として、厚さT1と厚さT2との比T1/T2が1.0以下になっている。このように第1特定保護層92の厚さT1が10μm以下と比較的薄いことで、第1特定保護層92内の水分の流路が狭くなるから、第1特定保護層92は素子本体60の長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制する水侵入抑制部として機能する。これにより、水分が保護層80の前端側部分83a内を毛細管現象によって後方に移動してきた場合に、水分が第1特定保護層92を通過するのを抑制して、水分が上側コネクタ電極71に到達するのを抑制することができる。前側部分88は、保護層80のうち第1特定保護層92に最も近く且つ第1特定保護層92の前側に位置する部分である。本実施形態では、図6に示すように、前側部分88は前端側部分83aの一部であり、前端側部分83aのうちの後端側の部分である。
比T1/T2は1.0未満が好ましい。すなわち、第1特定保護層92は前側部分88よりも薄いことが好ましい。また、比T1/T2は0.6以下がより好ましい。比T1/T2が0.6以下では、保護層80のうち第1特定保護層92は比較的薄いことで水分の通過をより抑制する効果を果たし、前端側部分83a(特に前側部分88)が比較的厚いことで前端側部分83a内に水分を保持する役割を果たす。そのため、比T1/T2が0.6以下では、水分が第1特定保護層92を通過することをより抑制できる。比T1/T2は0.1以上としてもよい。
第1特定保護層92の厚さT1は1μm以上であることが好ましい。厚さT1が1μm以上であることで、第1特定保護層92が外側リード線75及び第1面60aを保護する役割を果たすことができる。厚さT1は5μm未満であることが好ましく、4.5μm以下であることがより好ましい。厚さT1が5μm未満では、水分が第1特定保護層92を一層通過しにくくなる。したがって、水分が保護層80を介して上側コネクタ電極71に到達するのを一層抑制できる。また、厚さT1が5μm未満である場合は、比T1/T2が1.0であっても、すなわち1.0未満でなくても、水分が第1特定保護層92を通過して上側コネクタ電極71に到達するのを十分抑制できる。
厚さT2は、5μm以上としてもよいし、7μm以上としてもよいし、10μm以上としてもよい。厚さT2は、40μm以下としてもよいし、20μm以下としてもよい。
厚さT1,厚さT2及び比T1/T2は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して得られた画像(SEM画像)を用いて以下のように測定した値とする。図7は、厚さT1,T2の観察面である断面C1~C4の位置を示す上面図であり、図8は、断面C1のSEM画像の模式図である。断面C1~C4の位置は図6にも示した。まず、図7に示すように、第1特定保護層92の前後の両端を基準として、第1特定保護層92を4等分する3つの断面C1,C2,C3を決定する。また、第1特定保護層92の前端すなわち前端側部分83aの後端からLe/4だけ前方の位置を、断面C4の位置とする。なお、長さLeは第1特定保護層92の前後方向の長さである(図4,6,7参照)。次に、断面C1~C4を観察面とするように第1特定保護層92及び前端側部分83aの厚さ方向に沿ってセンサ素子20を切断し、切断面(断面C1~C4)の各々の樹脂埋め及び研磨を行って観察用資料とする。続いて、SEMの倍率を200倍から500倍に設定して観察用試料の観察面を撮影することで断面C1~C4のSEM画像を得る。断面C1~C4は切断されたセンサ素子20の前面とする。すなわち、断面C1~C4を観察する方向は、前方から後方に向かう方向とする。次に、断面C1のSEM画像のうち厚さを測定する5点を決定する。具体的には、図8に示すように、断面C1のSEM画像の左右方向をX軸とし、断面C1内の第1特定保護層92の左右両端のX座標を-10,+10とする。そして、断面C1のうちX座標が-5,-2.5,0,+2.5,及び+5である5点を、厚さの測定点とする。そして、この測定点の各々における第1特定保護層92の厚さを測定する。断面C2,C3についても、同じ方法で5点の測定点の各々における第1特定保護層92の厚さを測定する。こうして測定された計15点の第1特定保護層92の厚さの平均値を厚さT1とする。断面C4についても、前端側部分83a(前側部分88)の左右両端のX座標を-10,+10として、断面C1~C3と同様に厚さの5点の測定点を決定する。そして、この断面C4の5点の測定点における前端側部分83a(前側部分88)の厚さの平均値を厚さT2とする。そして、測定された厚さT1,T2に基づいて比T1/T2の値を算出する。なお、図8に示すように、第1特定保護層92は位置によって厚さが異なっている場合や、外側リード線75の真上に位置する部分では他の部分よりも厚さが薄かったりする場合があるため、上記のように厚さT1は15点の平均値とする。同様の理由で、厚さT2は5点の平均値とする。また、上述した前端側部分83aが厚いことで前端側部分83a内に水分を保持できるという機能の観点から、前端側部分83aのうち第1特定保護層92に最も近い部分である前側部分88の厚さを厚さT2と定義し、上記のように定めた断面C4の位置で厚さT2を測定することとした。
前端側部分83a全体が前側部分88の厚さT2と同じ厚さであってもよい。また、前端側部分83aと後端側部分83bとは同じ厚さであってもよい。後端側部分83bの厚さは第1特定保護層92の厚さT1よりも薄くてもよい。
本実施形態では、第2内側保護層84の厚さについても、第1内側保護層83の厚さと同様であるものとした。すなわち、第2特定保護層95の厚さT1が10μm以下である。また、第2内側保護層84のうち第2特定保護層95の前側部分(ここでは前端側部分84aのうちの後端側の部分)の厚さを厚さT2として、厚さT1と厚さT2との比T1/T2が1.0以下になっている。これにより、第2特定保護層95は、第1特定保護層92と同様に素子本体60の長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制する水侵入抑制部として機能する。そのため、水分が保護層80の前端側部分84a内を毛細管現象によって後方に移動してきた場合に、水分が第2特定保護層95を通過するのを抑制して、水分が下側コネクタ電極72に到達するのを抑制することができる。上述した第1内側保護層83の厚さT1,厚さT2,及び比T1/T2の数値範囲は、第2内側保護層84の厚さT1,厚さT2,及び比T1/T2についても適用できる。例えば第2内側保護層84についても比T1/T2は1.0未満が好ましく、0.6以下がより好ましい。厚さT1は5μm未満が好ましい。第1内側保護層83の厚さT1,T2と第2内側保護層84の厚さT1,T2とは、それぞれ同じ値であってもよいし、互いに異なる値であってもよい。
第1特定保護層92及び第2特定保護層95は、それぞれ、前後方向の長さLe(図4,5参照)が0.5mm以上であることが好ましい。長さLeが0.5mm以上であることで、水分が第1特定保護層92及び第2特定保護層95を通過することを十分抑制できる。長さLeは5mm以上としてもよい。長さLeは25mm以下としてもよく、20mm以下としてもよい。第1特定保護層92の長さLeと第2特定保護層95の長さLeとは本実施形態では同じ値としたが、両者が異なる値でもよい。
保護層80は、例えばアルミナ、ジルコニア、スピネル、コージェライト,チタニア、マグネシアなどのセラミックスからなるものである。本実施形態では、保護層80はアルミナからなるものとした。本実施形態では第1特定保護層92は前端側部分84aと同じ材質(アルミナ)としたが、両者が異なる材質であってもよい。第2特定保護層95についても同様である。保護層80のうち、第1特定保護層92,第2特定保護層95以外の部分は、気孔率が10%以上の多孔質体である。すなわち、前端側部分83a,後端側部分83b,前端側部分84a,後端側部分84b,及び外側保護層85は、多孔質体である。また、第1特定保護層92は、多孔質体であってもよいし、気孔率が10%未満の緻密な層であってもよい。第1特定保護層92が緻密であれば水分が第1特定保護層92を一層通過しにくくなるため、第1特定保護層92は緻密であることが好ましい。同様に、第2特定保護層95は多孔質体であってもよいが、緻密であることが好ましい。
内側保護層81のうち多孔質体である部分の気孔率は、10%以上50%以下としてもよい。外側保護層85の気孔率は、10%以上85%以下としてもよい。外側保護層85は、内側保護層81よりも気孔率が高くてもよい。
第1特定保護層92及び第2特定保護層95の各々が緻密である場合、気孔率は8%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。気孔率が小さいほど、第1特定保護層92及び第2特定保護層95は素子本体60の長手方向に沿った水の毛細管現象をより抑制することができる。
第1特定保護層92の気孔率は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して得られた画像(SEM画像)を用いて以下のように導出した値とする。まず、第1特定保護層92の断面を観察面とするように第1特定保護層92の厚さ方向に沿ってセンサ素子20を切断し、切断面の樹脂埋め及び研磨を行って観察用試料とする。続いて、SEMの倍率を1000倍から10000倍に設定して観察用試料の観察面を撮影することで第1特定保護層92のSEM画像を得る。次に、得た画像を画像解析することにより、画像中の画素の輝度データの輝度分布から判別分析法(大津の2値化)で閾値を決定する。その後、決定した閾値に基づいて画像中の各画素を物体部分と気孔部分とに2値化して、物体部分の面積と気孔部分の面積とを算出する。そして、全面積(物体部分と気孔部分の合計面積)に対する気孔部分の面積の割合を、気孔率(単位:%)として導出する。保護層80のうち第1特定保護層92以外の気孔率も、同様にして導出した値とする。
こうして構成されたガスセンサ10の製造方法を以下に説明する。まず、センサ素子20の製造方法について説明する。センサ素子20を製造する際には、まず、素子本体60に対応する複数(ここでは6枚)の未焼成のセラミックスグリーンシートを用意する。各グリーンシートには、必要に応じて切欠や貫通孔や溝などを打ち抜き処理などによって設けたり、電極や配線パターンをスクリーン印刷したりする。配線パターンには、焼成後に外側リード線75となる未焼成リード線のパターンも含まれる。また、焼成後に第1内側保護層83及び第2内側保護層84となる未焼成保護層についても、スクリーン印刷によりグリーンシートのうち第1,第2面60a,60bに対応する面に形成する。その後、複数のグリーンシートを積層する。積層された複数のグリーンシートは、焼成後に素子本体となる未焼成素子本体であり、未焼成保護層を備えている。そして、この未焼成素子本体を焼成して、外側リード線75,第1内側保護層83,第2内側保護層84を備えた素子本体60を得る。続いて、プラズマ溶射により外側保護層85を形成して、センサ素子20を得る。なお、保護層80の製造方法としては、スクリーン印刷やプラズマ溶射の他に、ゲルキャスト法,ディッピングなどを用いることもできる。
第1内側保護層83のうち前端側部分83a,後端側部分83b及び第1特定保護層92について互いに材質と気孔率との少なくとも一方を異ならせる場合には、これらの各々に対応する未焼成保護層を別々にスクリーン印刷で形成する。また、前端側部分83a,後端側部分83b及び第1特定保護層92を全て同じ材質及び気孔率としつつ第1特定保護層92のみ厚さを薄くする場合には、第1特定保護層92となる未焼成保護層を形成する領域のみスクリーン印刷を行う回数を少なくするなど、印刷回数を調整することで厚さを調整してもよい。あるいは、第1特定保護層92に対応する未焼成保護層の粘度を調整することで厚さT1を調整してもよい。
次に、センサ素子20を組み込んだガスセンサ10を製造する。まず、筒状体41の内部にセンサ素子20を軸方向に貫通させ、且つ筒状体41の内周面とセンサ素子20との間に碍子44a,圧粉体45a,碍子44b,圧粉体45b,碍子44c,メタルリング46をこの順に配置する。次に、メタルリング46を押圧して圧粉体45a,45bを圧縮し、その状態で縮径部43c,43dを形成することで素子封止体40を製造して、筒状体41の内周面とセンサ素子20との間を封止する。その後、素子封止体40に保護カバー30を溶接し、ボルト47を取り付けて組立体15を得る。そして、ゴム栓57内を通したリード線55と、これに接続されたコネクタ50とを用意して、コネクタ50をセンサ素子20の後端側に接続する。その後、外筒48を主体金具42に溶接固定して、ガスセンサ10を得る。
次に、こうして構成されたガスセンサ10の使用例を以下に説明する。ガスセンサ10が図1のように配管58に取り付けられた状態で、配管58内を被測定ガスが流れると、被測定ガスは保護カバー30内を流通して素子室33内に流入し、センサ素子20の前端側が被測定ガスに晒される。そして、被測定ガスが保護層80を通過して外側電極64に到達及び被測定ガス導入口61からセンサ素子20内に到達すると、上述したようにこの被測定ガス中のNOx濃度に応じた電気信号を検出部63が発生させる。この電気信号を上側,下側コネクタ電極71,72を介して取り出すことで、電気信号に基づきNOx濃度が検出される。
このとき、被測定ガス中には水分が含まれている場合があり、この水分が毛細管現象によって保護層80内を移動していく場合がある。この水分が露出した上側,下側コネクタ電極71,72まで到達すると、水や水に溶けた硫酸などの成分によって上側,下側コネクタ電極71,72の錆や腐食が発生したり上側,下側コネクタ電極71,72のうち隣接する電極間の短絡が生じたりする場合がある。しかし、本実施形態では、被測定ガス中の水分が毛細管現象によって保護層80内(特に第1内側保護層83内及び第2内側保護層84内)を素子本体60の後端側に向かって移動したとしても、水分は上側,下側コネクタ電極71,72に到達する前に第1特定保護層92及び第2特定保護層95に到達する。そして、第1内側保護層83に関して厚さT1が10μm以下、且つ比T1/T2が1.0以下となっていることで、第1特定保護層92は、水分が前端側部分83a側から第1特定保護層92を通過して上側コネクタ電極71(上側コネクタ電極71a~71d)まで到達することを抑制できる。そのため、センサ素子20では、上側コネクタ電極71に水が付着することによる上述した不具合の発生が抑制される。同様に、第2内側保護層84に関して厚さT1が10μm以下、且つ比T1/T2が1.0以下となっていることで、第2特定保護層95は、水分が前端側部分84a側から第2特定保護層95を通過して下側コネクタ電極72(下側コネクタ電極72a~72d)まで到達することを抑制できる。そのため、センサ素子20では、下側コネクタ電極72に水が付着することによる上述した不具合の発生が抑制される。
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の素子本体60が本発明の素子本体に相当し、上側コネクタ電極71a~71d及び下側コネクタ電極72a~72dの各々がコネクタ電極に相当し、第1面60a及び第2面60bがコネクタ電極が配設された側面に相当し、保護層80が保護層に相当し、第1特定保護層92及び第2特定保護層95がそれぞれ特定保護層に相当する。また、外側電極64が外側電極に相当する。また、検出部63が検出部に相当し、外側リード線75が外側リード部に相当する。
以上詳述した本実施形態のセンサ素子20によれば、第1内側保護層83について、第1特定保護層92の厚さT1が10μm以下であり且つ厚さT1と前側部分88の厚さT2との比T1/T2が1.0以下であることで、水分が保護層80を介して上側コネクタ電極71に到達するのを抑制できる。同様に、第2内側保護層84について、第2特定保護層95の厚さT1が10μm以下であり且つ比T1/T2が1.0以下であることで、水分が保護層80を介して下側コネクタ電極72に到達するのを抑制できる。
また、第1内側保護層83について比T1/T2が0.6以下であることで、水分が第1特定保護層92を通過することをより抑制できる。同様に、第2内側保護層84について比T1/T2が0.6以下であることで、水分が第2特定保護層95を通過することをより抑制できる。
さらに、第1特定保護層92の厚さT1が5μm未満であることで、水分が保護層80を介して上側コネクタ電極71に到達するのを一層抑制できる。同様に、第2特定保護層95の厚さT1が5μm未満であることで、水分が保護層80を介して下側コネクタ電極72に到達するのを一層抑制できる。
さらにまた、第1特定保護層92の気孔率が10%未満すなわち緻密であることで、水分が第1特定保護層92を一層通過しにくくなる。同様に、第2特定保護層95の気孔率が10%未満すなわち緻密であることで、水分が第2特定保護層95を一層通過しにくくなる。
そして、保護層80(特に第1内側保護層83)が外側リード線75を被覆しているため、保護層80によって外側リード線75を保護することができる。
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
例えば、上述した実施形態では、第1特定保護層92及び第2特定保護層95は、それぞれ、前後方向で碍子44bと重複する位置に配置されていたが、これに限られない。例えば、第1特定保護層92及び第2特定保護層95の少なくとも一方が、前後方向で碍子44a又は碍子44cと重複する位置に配置されていてもよいし、メタルリング46よりも後方に配置されていてもよい。第1特定保護層92及び第2特定保護層95は、上述した実施形態では素子室33に露出しない位置に配置されていたが、第1特定保護層92及び第2特定保護層95の少なくとも一方が、素子室33に露出する位置、すなわち被測定ガスに晒される位置に配設されていてもよい。例えば、第1特定保護層92及び第2特定保護層95の少なくとも一方が、外側保護層85よりも後方且つ素子室33に露出する位置に配設されていてもよい。
上述した実施形態では、第1内側保護層83と第2内側保護層84とがそれぞれ「厚さT1が10μm以下且つ比T1/T2が1.0以下」という条件を満たしていたが、第1内側保護層83と第2内側保護層84との一方のみがこの条件を満たしていてもよい。
上述した「厚さT1が10μm以下且つ比T1/T2が1.0以下」という条件に関して、比T1/T2が1.0である場合には、第1特定保護層92は前端側部分83a(特に前側部分88)と同じ厚さであることになる。この場合、第1特定保護層92と前端側部分83aとが区別できなくてもよい。このような場合でも、保護層80のうち第1面60aを被覆する部分の少なくとも一部に厚さが10μm以下の部分が存在すれば、その部分が第1特定保護層92であることになり、「厚さT1が10μm以下且つ比T1/T2が1.0以下」という条件を満たすことになる。例えば、第1内側保護層83全体の厚さが同じであり且つ厚さが10μm以下である場合や5μm未満である場合も、「厚さT1が10μm以下且つ比T1/T2が1.0以下」という条件を満たすことになる。
上述した実施形態において、保護層80は外側保護層85を備えなくてもよい。
上述した実施形態において、第2内側保護層84が存在せず素子本体60の第2面60bが露出する部分があってもよい。図9は、第2特定保護層95の前後に隣接して隙間領域96が存在する場合の例である。図9の隙間領域96は、第2特定保護層95の前方に隣接して配置された前側隙間領域96aと、第2特定保護層95の後方に隣接して配置された後側隙間領域96bと、を備えている。隙間領域96が存在する部分では、第2面60bが露出している。隙間領域96は、第2内側保護層84が存在しない空間であるから、素子本体60の長手方向に沿った水の毛細管現象が生じにくい。そのため、隙間領域96も、水分が素子本体60の長手方向に沿って移動して下側コネクタ電極72に到達するのを抑制する役割を果たす。隙間領域96は、前側隙間領域96aと後側隙間領域96bとの一方のみを有していてもよい。隙間領域96の長手方向の長さLgは、1mm以下であることが好ましい。図9のように隙間領域96が前側隙間領域96aと後側隙間領域96bとを有する場合は、前側隙間領域96aの長手方向の長さLg1と後側隙間領域96bの長手方向の長さLg2との合計値を長さLgとする。なお、素子本体60の第1面60a側にも隙間領域が存在してもよい。
上述した実施形態では、第1内側保護層83は、第1特定保護層92の後方に配設された後端側部分83bを備えていたが、後端側部分83bを備えなくてもよい。同様に、第2内側保護層84は後端側部分84bを備えなくてもよい。ただし第1内側保護層83については、後端側部分83bが存在しない場合には外側リード線75の一部が露出することになるため、第1内側保護層83は後端側部分83bを備えることが好ましい。
上述した実施形態において、センサ素子20が第2内側保護層84を備えず、第2面60bが保護層80で被覆されていなくてもよい。素子本体が有する側面(上述した実施形態では第1~第4面60a~60d)のうち、コネクタ電極が配設された側面(上述した実施形態では第1,第2面60a,60b)の少なくとも1つについて、特定保護層を有する保護層が配設されていればよい。こうすれば、少なくとも特定保護層を有する保護層が配設された側面においては、水分がコネクタ電極に到達するのを抑制できる。
上述した実施形態では、第1内側保護層83は上側コネクタ電極71が存在する領域を除いて第1面60aの前端から後端までの領域を被覆していたが、これに限られない。例えば、第1内側保護層83は、第1面60aの前端から上側コネクタ電極71a~71dの前端までの領域を覆っていてもよい。第2内側保護層84についても同様である。
上述した実施形態では、素子本体60は直方体形状としたが、これに限られない。例えば、素子本体60は円筒又は円柱状であってもよい。この場合、素子本体60は側面を1つ有することになる。
上述した実施形態では、ガスセンサ10は特定ガス濃度としてNOx濃度を検出したが、これに限らず他の酸化物濃度を特定ガス濃度としてもよい。特定ガスが酸化物の場合には、上述した実施形態と同様に特定ガスそのものが測定電極67の周辺で還元されたときに酸素が発生するから、この酸素に応じた検出部63の検出値に基づいて特定ガス濃度を検出できる。また、特定ガスがアンモニアなどの非酸化物であってもよい。特定ガスが非酸化物の場合には、特定ガスが例えば内側主ポンプ電極65の周辺で酸化物に変換(例えばアンモニアであれば酸化されてNOに変換)されることで、変換後の酸化物が測定電極67の周辺で還元されたときに酸素が発生するから、この酸素に応じた検出部63の検出値に基づいて特定ガス濃度を検出できる。このように、特定ガスが酸化物と非酸化物とのいずれであっても、ガスセンサ10は、特定ガスに由来して測定電極67の周辺で発生する酸素に基づいて特定ガス濃度を検出できる。
以下には、センサ素子を具体的に作製した例を実施例として説明する。実験例1~8,11~18が本発明の実施例に相当し、実験例9,10,19,20が比較例に相当する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実験例1]
図9に示したように素子本体60の第2面60b側に隙間領域96(前側隙間領域96a及び後側隙間領域96b)が存在し、且つ外側保護層85を備えない態様とした点以外は、図2~4,6に示したセンサ素子20と同様のセンサ素子を作製して、実験例1とした。実験例1のセンサ素子20は以下のように作製した。まず、安定化剤のイットリアを4mol%添加したジルコニア粒子と有機バインダーと有機溶剤とを混合してテープ成形により成形したセラミックスグリーンシートを6枚用意した。各々のグリーンシートには各電極及び外側リード線75等のパターンを印刷した。また、焼成後に第1内側保護層83及び第2内側保護層84となる未焼成保護層を、スクリーン印刷により形成した。未焼成保護層は、原料粉末(アルミナ粉末),バインダー溶液(ポリビニルアセタールとブチルカルビトール),溶媒(アセトン),及び造孔材を混合して調合したスラリーを用いて形成した。また、第1内側保護層83となる未焼成保護層は、焼成後に第1特定保護層92となる部分も含めて同じスラリーを用いて形成して、第1内側保護層83が全体に同じ材質及び気孔率となるようにした。また、未焼成保護層のうち焼成後に第1特定保護層92となる部分とそれ以外の部分とで印刷回数を異ならせることで、第1特定保護層92が前端側部分83a及び後端側部分83bよりも薄くなるようにした。その後、6枚のグリーンシートを積層及び焼成した。これにより、外側リード線75、第1内側保護層83及び第2内側保護層84を備えたセンサ素子20を作製して、実験例1のセンサ素子20とした。素子本体60の寸法は、長さが67.5mm、幅が4.25mm、厚さが1.45mmとした。第1特定保護層92の前後方向の長さLeは5mmとした。実験例1のセンサ素子20について第1内側保護層83の厚さT1,T2を上述した方法で測定したところ、厚さT1が4.5μm,厚さT2が18.0μm、比T1/T2は0.25であった。また、第1内側保護層83(前端側部分83a及び第1特定保護層92)の気孔率を上述した方法で測定したところ、気孔率は30%であった。
[実験例2~10]
厚さT1,T2及び比T1/T2を表1に示すように種々変更した点以外は実験例1と同様のセンサ素子20を作製して、実験例2~10とした。実験例2~10では、焼成後に前端側部分83a及び第1特定保護層92となる未焼成保護層用のスラリーについて溶媒の添加量を実験例1から種々変更して各々のスラリーの粘度を調整したり、未焼成保護層を形成する際の印刷回数を調整したりすることで、厚さT1,T2を調整した。なお、実験例2~10のいずれにおいても、前端側部分83aと第1特定保護層92とは同じ材質とし、さらに同じ気孔率(30%)となるようにした。実験例2~10についても、実験例1と同様に、厚さT1,T2及び比T1/T2の値を測定した。
[実験例11~20]
第1特定保護層92の気孔率が0%となるようにした点以外は実験例1と同じであるセンサ素子20を作製して、実験例11とした。実験例11のセンサ素子20を作製するにあたり、焼成後に第1特定保護層92となる未焼成保護層用のスラリーは、造孔材を添加せず溶媒の添加量を変更して粘度を調整した点以外は、前端側部分83aの未焼成保護層用のスラリーと同じスラリーを用いた。実験例11のセンサ素子20の厚さT1,T2及び比T1/T2については、実験例1と同じ値になるように未焼成保護層用のスラリーの粘度や印刷回数を調整した。同様に、第1特定保護層92の気孔率が0%となるようにした点以外は実験例2~10の各々と同じであるセンサ素子20を作製して、実験例12~20とした。
なお、実験例1~20のいずれにおいても、第1特定保護層92の前端が素子本体60の前端から30mmの位置に配置されるようにした。第1特定保護層92の長さLeは5mmであるため、第1特定保護層92は素子本体60の前端からの距離が30~35mmの領域に存在することになる。
[液体侵入試験]
実験例1~20のセンサ素子20について、素子本体60の前端側を液体に浸した場合に毛細管現象によって素子本体60の後端側にどの程度液体が浸入するかを調べる液体侵入試験を行った。まず、センサ素子20の長手方向が鉛直方向に沿うようにした状態で、センサ素子20の素子本体60の前端(第5面60e)から後端側に向かって25mmの位置(以下、浸漬位置)までの部分を、レッドチェック液に浸した。その状態で24時間放置し、レッドチェック液が浸漬位置よりも後端側にどの程度まで到達したかを示す到達位置を目視にて測定した。到達位置は、素子本体60の前端からの距離として測定した。24時間後の到達位置が35mm以下であった場合、すなわちレッドチェック液が第1特定保護層92を通過しなかった場合に「非常に良い(A)」と判定し、到達位置が35mm超過40mm以下であった場合に「良い(B)」と判定し、到達位置が40mm超過45mm以下であった場合に「悪い(C)」と判定し、到達位置が45mm超過であった場合に「非常に悪い(D)」と判定した。レッドチェック液は、シヤチハタ株式会社製のスタンプインキ(ゾルスタンプ台専用)(製品型番:S-1,色種:赤)を用いた。レッドチェック液は、水を50~60wt%,グリセリンを30~40wt%,染料を5~15wt%含む。レッドチェック液の成分及び組成は、シヤチハタ株式会社の安全データシート(SDS)に記載されている。
実験例1~20の各々の厚さT1,厚さT2,比T1/T2,及び液体侵入試験の評価結果を、表1及び表2にまとめて示す。
表1,2から分かるように、厚さT1が10μm以下且つ比T1/T2が1.0以下である実験例1~8,11~18は、いずれも液体侵入試験の結果が「非常に良い(A)」又は「良い(B)」であった。これに対し、厚さT1が10μmを超えている実験例9,10,19,20はいずれも液体侵入試験の結果が「悪い(C)」又は「非常に悪い(D)」であった。これらの結果から、厚さT1が10μm以下且つ比T1/T2が1.0以下であれば、水分が第1内側保護層83内を後方に向かって移動するのを抑制することができることが確認された。
また、表1において厚さT1が互いに同じ値である実験例1~2間の比較,実験例3~5間の比較及び実験例6~8間の比較から、比T1/T2が小さいほど液体侵入試験の評価が向上する傾向が確認された。特に、比T1/T2が0.6以下である実験例1,3,4,6は厚さT1の大小に関わらず全て結果が「非常に良い(A)」であった。これらの結果から、比T1/T2は0.6以下が好ましいと考えられる。表2においても同様の傾向が確認された。
表1において比T1/T2が同じである実験例2,5,8,10の比較から、厚さT1が小さいほど液体侵入試験の評価が向上する傾向が確認された。特に、厚さT1が5μm未満である実験例2は比T1/T2が1.0であっても結果が「非常に良い(A)」であった。これらの結果から、厚さT1は5μm未満が好ましいと考えられる。また、厚さT1が5μm未満であれば、比T1/T2が1.0であっても、すなわち第1特定保護層92が前側部分88と同じ厚さであっても、水分が第1特定保護層92を通過して上側コネクタ電極71に到達することが十分抑制されると考えられる。
表1と表2とで厚さT1,厚さT2,比T1/T2の値が互いに同じ実験例である実験例7,17間の比較、実験例9,19間の比較、実験例10,20間の比較からわかるように、表1の実験例7,9,10と比べて、第1特定保護層92の気孔率が10%未満すなわち緻密である表2の実験例17,19,20の方が、液体侵入試験の評価が向上する傾向が確認された。他の実験例についても、表1と表2とで厚さT1,厚さT2,比T1/T2の値が互いに同じ実験例間を比較すると、表2の実験例の方が液体侵入試験の到達位置[mm]が小さい値となる傾向が確認された。これらの結果から、第1特定保護層92が緻密であることで、水分が第1特定保護層92を一層通過しにくくなることが確認された。
本出願は、2021年3月30日に出願された日本国特許出願第2021-057627号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。