JP4107365B2 - タンタル酸リチウム単結晶、およびその光素子、およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学用途のタンタル酸リチウム単結晶とその製造方法、およびその単結晶を用いた光素子、およびその製造方法に係わり、特に、分極反転を利用した素子に使用するための、Li濃度の高い融液から優れた物性を有する定比組成のタンタル酸リチウム単結晶を安定に成長させる製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
電気や光、応力などの外部からの情報信号によって光学的性質を制御できるいわゆる機能性光学単結晶は、光通信、表示記録、計測、光-光制御など様々な光エレクトロニクス分野で必要不可欠な素材となっている。特に、ある種の酸化物単結晶は光学的性質と外部要因との相互作用が特に大きいため、非線形光学効果を使用した波長変換素子や、電気光学効果を使用した、光変調器、スイッチ、偏向器などの光素子として使用されている。
【0003】
こういった結晶は、多くの場合、成長させたままの状態で、素子として使用されるが、一部の強誘電体結晶は、電圧印加により結晶の破壊なしに誘電分極の方向を反転させることができるため、周期的に分極を反転させることで、その機能性を高めることもなされている。
【0004】
例えば、波長変換素子においては、強誘電体分極の分域構造を周期的に反転させることで擬似位相整合法(Quasi-Phase-Matching:QPM)による波長変換が可能となる。この方法は、広い波長域で高効率の変換が可能であるという点で有効な手段であるため、光通信、表示記録、計測、医療などの分野で強く求められている、紫外、可視から赤外に至る広い波長範囲における様々な波長のレーザー光源を実現するための波長変換素子として期待されている。
【0005】
また、電気光学素子においては、例えば、公知文献(M. Yamada et al., Appl.Phys.Lett., 69,p3659,1996)によると、強誘電体結晶中にレンズやプリズム状の分極反転構造を形成し、これを通過したレーザー光を電気光学効果を利用して偏向する光素子やシリンドリカルレンズ、ビームスキャナー、スイッチなどが新しい光素子として注目されている。
【0006】
LiTaO3単結晶(以下LT単結晶と略記する)は、主に表面弾性波素子や光変調器の基板として使用されている強誘電体であるが、可視から赤外の広い波長域で透明であり、電圧を印加することで周期的な分極構造を作成でき、ある程度実用的な光学的非線形性と電気光学特性を有し、さらに、大口径で組成均質性の高い単結晶が比較的安価で供給可能なことから、近年、上述したようなQPMによる波長変換素子(以下QPM素子と略記する)や電気光学素子の基板としても注目されている。
【0007】
これまで入手できるLT単結晶は、表面弾性波素子の基板も含めて、数%程度の不定比欠陥を含み、Li2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が0.483の一致溶融組成に限られていた。この理由は、従来、組成の均質性の高いLT単結晶を製造するためには、結晶と融液が同じ組成で平衡共存する一致溶融組成であるLi2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が0.483の融液から回転引き上げ法で育成するのが良いと考えられていたからである。
また、公知例(F. Nitanda et al.Jpn. J. Appl. Phys. 34, p1546,1995)で示されているように、カットオフ波長を短くすることや、耐光損傷性を高めることを目的として、一致溶融組成のLT結晶に数mol%程度のMgを添加することも行われている。ただし、LTの場合には無添加でもLNに較べると耐光損傷性は比較的大きいことが知られており、また、Mg添加による耐光損傷の改善効果は必ずしも十分には得られていない。
【0008】
QPMによる波長変換素子(以下QPM素子と略記する)を実現する上で重要なことは、小型で高効率の素子を作製することである。素子の小型化や高効率化は素子構造にも大きく依存するが、用いる材料特性、すなわち、その結晶が本質的に持つ物質的な特性に制限される要素が非常に大きい。
例えば、QPM素子の変換効率は非線形光学定数と相互作用長の2乗に比例し、基本波パワー密度に比例する。相互作用長や基本波パワー密度は素子設計や作製プロセスの精度で決定されるものであり、技術の改善などにより向上させる可能性が大きいのに対して、非線形光学定数は材料が本質的に持っている材料特性である。
近年開発された高い精度での絶対値測定、例えば公知文献(I. Shoji et al., J. Opt. Soc. Am. B, 14, p2268, 1997)により、一致溶融組成のLT結晶は、波長1.064ミクロンの基本波に対するd33が13.8pm/Vであるとされている。
【0009】
また、LT単結晶を電気光学素子に用いる場合には、大きな電気光学定数が望まれる。LT単結晶の電気光学定数自体は強誘電体単結晶の中では必ずしも大きくないものの、高品質で大口径の単結晶が安価で安定に製造できることから各種の電気光学効果を利用する光素子の基板材料として用いられてきている。LT単結晶の電気光学定数は一般にマッハツェンダー干渉法を用いて測定されてきた。従来から用いられてきた一致溶融組成のLT単結晶では電気光学定数r13、r33はそれぞれ、約8.0pm/V、約33.0pm/Vであると報告されている。このため、大きな電気光学定数r33を用いる素子構造が素子の小型化や、高効率化において大きなメリットを持つ。
【0010】
近年、一致溶融組成のLT単結晶の不定比欠陥の存在を低減する研究、すなわち、結晶組成比を定比に近付ける研究により、この不定比欠陥の存在が、LT結晶が本来有する光学特性や、周期的な分極構造を作成するのに必要な印加電圧を高くしていることが明らかにされてきた。
例えば、特開平11−35393号公報によると、定比組成に近くすることで、フォトリフラクティブ特性や光の透過特性を向上できるとされている。別の公知文献(K. Kitamura etal. Appl. Phys. Lett.73,p3073,1998)では、定比組成に近くすることで、分極反転電圧が1.5〜1.7kV/mm程度に低減できると報告されている。
【0011】
また、定比組成のLT結晶を実用的なものとするべく、その育成法に関する研究も盛んに行われている。例えば、特開平11−35393で、一致溶融組成あるいは定比組成に6mol%以上のK2Oを添加した融液から結晶を育成することで、この欠陥密度を小さくし、定比に近い組成のものが得られることを提案している。
【0012】
公知文献(K. Kitamura et al. Appl. Phys. Lett. 73, p3073,1998)によると、育成融液のLi2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率を0.58〜0.59とすることで、Li2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が0.5に近い結晶を育成できることが示されている。
しかし、例えば、公知文献(S. Miyazawa et al. J. Crystal Growth10, p276,1971)に示された相図によると、この融液組成比は共晶点に極めて近く、Li濃度が定比よりも高い組成の融液から定比に近い組成の結晶を育成した場合には、結晶の析出に伴ってLi成分の過剰分が坩堝内に残されることになり、融液のLiとTaの組成比が徐々に変化するため、育成開始後すぐに融液組成比は共晶点に至ってしまうと予想される。
そのため、従来から大口径のLT結晶を工業的に大量生産する手段として使用されているチョクラルスキー法(以下CZ法と略記する)を用いた場合には、結晶の固化率がわずか10%程度しか得られないと推定される。
【0013】
この低い固化率を高めるための手段として、例えば、公知文献(Y. Furukawaetal. J. Crystal Growth 197, p889,1999)において、原料を連続的に供給しながら育成する方法(以後連続供給法と略記する)が提案されている。
具体的には、育成融液のLi2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率を58.0〜59.0とし、るつぼを二重構造にして内側のるつぼから結晶を引き上げ、引き上げている結晶の重量を随時測定することで成長レートを求め、そのレートで結晶と同じ成分の粉末を外るつぼと内るつぼの間に連続的に供給するという方法である。この方法を用いることで、長尺の結晶育成が可能となり、原料供給量に対して100%の結晶固化率を実現することができる。
【0014】
また、上記LT単結晶はQPM素子としてよく使用される。高効率を実現する上で重要なプロセス技術として、周期的分極反転ドメインを精度よく生成する技術がある。すなわち、非線形光学特性を最大限に発揮させるために、分極反転の幅(以下分極反転幅と略記する)の比率を1:1に作成するものである。
分極反転幅は目的とする波長変換素子の位相整合波長によって異なる。例えば、赤外域といった長波長の位相整合では分極反転幅は十数ミクロンである。一致溶融組成のLT単結晶の分極反転電圧は、例えば、公知文献(K. Kitamura etal. Appl. Phys. Lett. 73, p3073,1998)によると、21kV/mm以上とされている。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
一致溶融組成のLT単結晶は、現存する非線形光学結晶の中では大きな非線形性を示す結晶の部類に属してはいるが、実際に素子作成を行った場合にはまだ不十分な値である。近年のように素子設計の完成度や作製プロセスの精度が向上するにしたがい、プロセスの改善だけでは素子特性の大幅な向上には限界が見えてきているため、d定数自身をさらに大きな値とすることが望まれている。
【0016】
しかしながら、連続供給法を用いて一致溶融組成よりも高いLi濃度の融液から引き上げる結晶育成法は、工業的観点から見た場合には、歩留まりの点で大きな問題を抱えていることが次第に明らかとなってきた。すなわち、高いLi濃度の融液を使用した場合には、一致溶融組成比で結晶を成長させる場合と異なり、成長する結晶の組成が融液の組成比に強く依存することが我々の調査によりわかったのである。
このことは、光学特性が均一で光学的均質性の良い結晶を高い再現性で育成するには、常に同じ組成比に保った融液からの結晶育成が必要となることを意味しており、LT結晶の場合、非線形光学定数や周期反転構造の形成に必要な電圧、および電気光学定数は結晶組成比に敏感であるため、その最大の特性を引き出すには、結晶のLi2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率を極めて0.500に近い状態に固定しなければならないことになる。
【0017】
例えば、連続供給法は、育成開始から終了までの組成制御性が優れているという特徴を持つが、育成開始時の融液組成比の決定がたいへん重要であり、最初の設定が所望の融液組成から仮にずれていると、育成した結晶全体が必要とする非線形光学定数d33や反転電圧を満足しない。
これを防ぐために、育成前に小さな結晶を引き上げて、その結晶の組成比から融液の組成比を確認し、不足している成分を追加してずれを補正することも可能であるが、この小さな結晶の育成と成分比確認を行うには最低でも数日は必要となり、生産性が大幅に低減することとなる。
また、連続供給法は、組成制御に対して極めて有効な方法であるが、育成時間も数日から1週間程度と長い場合には、高温度に保たれた融液表面からわずかの量の原料の蒸発が起こり得る。これによる融液組成の経時変動も、組成を完全に均一に制御した定比組成の結晶育成が必要な場合には無視できない。
この結晶組成のばらつきのために、同じ特性の結晶を高い歩留まりで育成することは非常に困難となっており、Li濃度の高い融液からの欠陥のない完全な定比組成LT単結晶の育成技術は、工業的に実用化されていない状態にある。
【0018】
また、一致溶融組成のLT結晶では、高い再現性で分極反転幅比を完全な1:1に形成するのは非常に困難であった。すなわち、電圧印加法ではzカットの一致溶融組成のLT単結晶の片面に周期電極を反対面に一様電極を設けてこの電極を通じてパルス電圧を印加することで周期電極直下の部分をz軸方位に向けて分極反転させるが、反転分極幅と電極幅は必ずしも一致するとは限らず、その作製誤差も大きい。
また、反対面のz軸方向に分極反転が形成される途中で、反転が途切れたり分極反転幅がzカット結晶の両面で異なるなどの問題があるため、理想的な分極反転幅比は実現されなかった。
【0019】
可視域から紫外域といった短波長用途の場合には位相整合に必要な分極反転幅は3ミクロン程度となり、長波長用に比べてより作成が困難となる。しかしながら、比較的容易である長波長用のQPM素子でさえ理想的な素子実現に至っていない。
その原因の一つに、一致溶融組成のLT単結晶の分極反転に必要な印加電圧(以下分極反転電圧と略記する)の高さがある。分極反転電圧が21kV/mm以上と高く、この高い反転電圧のために、基板厚みが0.5mmより薄い場合には基板全体に分極反転格子を形成することが可能であるが、厚さが0.5mm以上になると完全な分極反転形成は困難になり、厚さが1.0mm以上では素子実現が可能な精度良い分極形成は達成されていない。
また、たとえ、基板厚みが0.5mmより薄くても、短波長用のような、数ミクロンの分極反転周期は実現されていない。特に、MgOを添加した一致溶融組成LTの場合には内部電場が大きいため強誘電体のヒステリシス曲線(P-E曲線)の対称性が悪く、かつ、抗電場近傍でのP-E曲線の立ち上がりがなだらかで急峻でないため外部から自発分極と反対方向の電場を加えた時の自発分極の反転の制御が悪いという問題がある。
さらに、MgOを添加した一致溶融組成LTの場合には電気抵抗が無添加の場合に比べて低下してしまうので、印加電圧の微妙な制御が難しく、分極反転幅比を1:1に作成することがより困難である。
【0020】
強誘電体単結晶の電気光学効果を利用した光変調素子や、LT単結晶に形成されたレンズやプリズム状の分極反転構造を作製しこれを通過したレーザー光を電気光学効果を利用して偏向する光素子やシリンドリカルレンズ、ビームスキャナー、スイッチなども新しい光素子などを実現する上で、重要なことは小型で高効率の素子を作製することである。
これらの電気光学効果を利用する素子においても、素子の小型化や高効率化は素子構造の作製精度に依存するが、これらも用いる材料特性に制限される要素も大きい。
例えば、分極反転構造による屈折率の反転を形成したLT単結晶の電気光学効果を利用した光素子の性能は、レンズやプリズム状の分極反転構造の設計や分極反転構造の作製プロセスの精度、および材料の持つ電気光学定数の大きさで決定される。従来の一致溶融組成のLT結晶では分極反転に大きな印加電圧が必要なために分極反転構造の制御が困難であった。
さらに、電気光学定数は材料が本質的に持っている特性であり、これを同一結晶で向上させるのは困難であると考えられていた。また、一致溶融組成LT結晶はLN単結晶よりも耐光損傷性は大きいとされているが、使用する光の波長や強度によっては光損傷の発生が大きな難点とされる場合もあり、一致溶融組成LT結晶に5mol%以上のMgOを添加した結晶でも耐光損傷性は十分ではなく、また、QPM素子を作製するのと同じような自発分極の反転の制御が悪いという材料特性の問題から精度の良いレンズやプリズム状の分極反転構造の作製は実現されていなかった。
【0021】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、不定比欠陥を有するも、完全な定比組成のタンタル酸リチウム単結晶と同様の特性を維持したタンタル酸リチウム単結晶を提供することを達成すべく鋭意研究の結果、可視光域で実質的に吸収を持たないMg、Zn、Sc、Inの何れかの元素をトータル量で0.1〜3mol%の範囲で融液に添加することにより、非線形光学定数d33および電気光学特性r33を低下させないで小さな分極反転電圧が得られ、Liの欠陥部分を前記第三の元素により埋めることができ、定比組成に近いもののある程度の不定比欠陥を有するタンタル酸リチウム単結晶であっても、Li2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が0.500の完全LT単結晶が持つ大きさと同じ非線形光学定数や周期的分極構造の作成に必要な印加電圧、および電気光学定数を実現することを発見、さらには、本手段がLi2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が0.490以上0.500未満という広い範囲のタンタル酸リチウム単結晶に対して有効であることを知見、ここに本発明をなしたものである。
【0022】
このd33に対するMg、Zn、Sc、Inの何れかの元素、例えばMgの添加の効果は次のように説明できる。LT結晶の非線形光学特性はLi元素とO元素の結合により発生するため、Li欠陥の増加に伴って非線形性が減少し、Li2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が0.500のLT結晶は含有するLi欠陥が存在しないために最大の非線形性を示す。
定比組成でない結晶の場合は、過剰なTa元素がLi欠陥部分に入り込むが、Ta元素とO元素の結合では非線形性がほとんど発生しないため、全体としての非線形性が小さくなる。それに対して、Mg添加の場合は、MgがLi欠陥部分に入り込み、Mg元素とO元素の結合による非線形性が発生する。
このMg元素とO元素の結合非線形性は、Li元素とO元素の結合で生じる非線形性と同程度であり、さらに育成融液の組成比変化に起因した結晶のLi2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が変化しても、融液中に存在するMg元素がLi欠陥を埋めてくれるために、結晶のLi2O/(Ta2O5+Li2O)のモル比率が多少ばらついても最大の非線形光学性が保たれていると考えられる。
【0023】
また、分極反転電圧に対するMg添加の効果は次のように説明できる。定比結晶の分極反転電圧が従来の一致溶融組成LT単結晶に比べて大幅に低減するのは、分極反転をピンニングするLi欠陥の数が少なくなることにより説明できる。一方、Mg添加の場合に、Li2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が0.490以上0.500未満の範囲でばらついているにも関わらず、最小の電圧値を示すのは、LiサイトにMgが置換している状態のピンニング効果が、Li欠陥のそれに比べて小さいことによると考えられる。
しかし、LiサイトにMgが置換している状態のピンニング効果は、欠陥のない部分のそれに比べると大きいため、この効果が得られるのは結晶のLi2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が0.490以上0.500未満という狭い範囲のみ顕著にあらわれる。
例えば、一致溶融組成の結晶にMgを添加した場合には、分極反転電圧の低下も見られるが、一方では、電気抵抗が無添加の場合に比べて小さくなってしまう問題があるが、Li2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が0.490以上0.500未満の範囲では必要なMg、Zn、Sc、Inの添加量が0.1〜3.0molと小さいので電気抵抗の急激な低下もない。
【0024】
また、r33に対するMg添加の効果については、現時点では解明されていないが、d33に対する効果とほぼ同じように考えられる。すなわち、LT結晶のLi元素とO元素の結合が電気光学特性の主な発現因子とするならば、Li欠陥の増加に伴って電気光学定数が減少し、Li2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が0.500のLT結晶は含有するLi欠陥が存在しないために最大の電気光学定数を示すと期待できる。
定比組成でない結晶の場合は、過剰なTa元素がLi欠陥部分に入り込むが、Ta元素とO元素の結合では電気光学特性がほとんど発生しないため、全体としての電気光学定数が小さくなる。それに対してMg添加の場合は、MgがLi欠陥部分に入り込み、Mg元素とO元素の結合による電気光学特性が発生する。
このMg元素とO元素の結合電気光学特性は、Li元素とO元素の結合で生じる電気光学特性と同程度であるならば、さらに育成融液の組成比変化に起因した結晶のLi2O/(Ta2O5+Li2O))のモル分率が変化しても、融液中に存在するMg元素がLi欠陥を埋めてくれるために、結晶のLi2O/(Ta2O5+Li2O)のモル比率が多少ばらついても最大の電気光学定数が保たれていると説明できる。
【0025】
本発明は、例えば、連続供給法においては、Mg、Zn、Sc、Inを0.1mol%以上添加することで育成開始時の融液組成比の設定が所望の融液組成から仮にずれていたとしても、Li2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が0.500のLT単結晶が持つ大きさと同じ非線形光学定数や分極構造作成電圧、および電気光学定数の単結晶が育成できるため、結果としてその歩留まりを大幅に向上できるものである。
【0026】
さらに、融液の蒸発や育成融液内における組成比の不均質に起因した育成中に発生する融液組成比変動や、るつぼ内の温度分布に起因した結晶と融液の界面における融液温度変動に依存して結晶内にLi2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率の不均質が発生するが、本発明により非線形光学定数や分極構造作成電圧、および電気光学定数がLi2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率に依存しなくなるため、これら特性の不均質は発生せず、結果として高い均質性と優れた性能を合わせ持つLT結晶を安定に生産するための育成条件が極端に緩やかになるものである。
【0027】
ここで、Li2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率を0.490以上0.500未満としたのは、0.490より小さい組成の結晶では分極反転電圧の低下が不十分であったためである。さらに、Li2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が0.490以上0.500未満の組成の結晶では、内部電場が殆ど見られず強誘電体のヒステリシス曲線(P-E曲線)の対称性に優れることと、抗電場近傍でのP-E曲線の立ち上がりが良いため外部から自発分極と反対方向の電場を加えた時の自発分極の反転の制御が極端に容易になるのは大きなメリットである。
また、Li2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が0.490から0.500未満の組成の結晶の場合には、必要なMg添加濃度が3mol%未満となるので、一致溶融組成の結晶に5.0mol%のMgを添加した結晶で見られたような急激な電気抵抗の低下を防ぐことができ、かつ、分極反転幅比がほぼ1:1である非常に高効率のQPM素子を製造することができる。
【0028】
上記構成により単結晶内に入射されたレーザー光波長を変換する光素子において、非線形光学定数d33が15pm/V以上であり、室温で分極反転するために必要な印加電圧が3.5kV/mm未満であることを特徴とするLT単結晶を製造することが可能である。z軸方向の厚みが1.0mm以上で、分極反転の周期が30ミクロン以下であるQPM素子は本発明のLT結晶で始めて実現したものであり、さらに、分極反転の周期が5ミクロン以下であるQPM素子に関しても、本発明により始めて実現したものである。
【0029】
さらに、上記構成により、単結晶の電気光学効果を利用して単結晶内に入射されたレーザー光を制御する光素子において、波長0.633ミクロンにおいて電気光学定数r33が34pm/V以上であることを特徴とするタンタル酸リチウム単結晶を製造することが可能である。タンタル酸リチウム単結晶の強誘電分極を反転させた構造の大きな屈折率変化を利用して光の偏向、焦点、スイッチングを高効率でかつ安定に行うことを特徴とする光素子は本発明のLT結晶により始めて実現したものである。
【0030】
【実施例】
以下に本発明の実施例を示す。本実施例では、前記第三の元素としてMgを使用した場合について示す。
【0031】
(実施例1)
市販の高純度Li2CO3、Ta2O5の原料粉末を準備し、Li2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が0.56〜0.60のLi成分過剰原料と、Li2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が0.50の定比組成原料を混合した。次に、1ton/cm2の静水圧でラバープレス成形し、それぞれを約1050℃の大気中で焼結し原料棒を作成した。また、混合済みの定比組成原料を連続供給用原料として、約1150℃の大気中で焼結し、粉砕し、大きさが50ミクロン以上500ミクロンのサイズの範囲で分級した。
次に、二重るつぼ法による単結晶育成に際して、作成したLi成分過剰原料からなる原料棒を内側および外側るつぼに予め充填し、次に、るつぼを加熱してLi成分過剰な融液を作成した。このMg添加の効果を確認する実験では、この充填の際に、市販の高純度MgCO3を内側および外側るつぼに予め充填した。
充填するMgCO3の重量は、融液中のMg濃度が融液中のTaに対して各々0.1、0.2、0.5、1.0、3.0mol%の5種類の実験を行った。また、比較のためにMg濃度を0、0.05、5.0mol%として実験を行った。
【0032】
ここで、定比組成LT結晶を育成する二重るつぼ法の原理について簡単に説明する。LT単結晶の一致溶融組成融液から通常の引き上げ法で得られるLT単結晶はTa成分過剰となるが、融液の組成を著しくLi成分過剰(例えば、Li2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が0.56〜0.60)にした融液から結晶を育成すると、定比組成に近いLi2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率である0.500、すなわち、不定比欠陥濃度を極力抑えた単結晶を得ることができる。
【0033】
図1は、本発明に用いた育成炉1を示すものである。本実施例に用いた二重るつぼの構造は外るつぼ35の内部に外るつぼより高さが7.5mm高い円筒36(内るつぼと呼ぶ)を設置した構造となっており、内るつぼの底に外るつぼから内るつぼに通じる孔を設けた。この孔は約20mm×30mmの略四角形状で内るつぼに3箇所設けた。ここで、育成に用いたるつぼの材質はイリジウム製のものを用い、かつ周囲を育成炉体47でカバーし外部雰囲気の流入を防止した。
用いた二重るつぼの形状は、外るつぼ35の高さ/直径の比を0.45としており、内るつぼ/外るつぼの直径比は0.8とした。その大きさは外るつぼ35が直径150mm高さ67.5mm、内るつぼ36が直径120mm高さ75mmとした。内るつぼ36と外るつぼ35の間は片側約15mmのスペース34があり、ここに原料45がスムーズに落下できるように原料供給管37を安定に設置した。
融液表面の様子をビデオカメラ(図示せず)で観察した。るつぼを回転しないと融液表面の対流はほとんど見られないが、るつぼの回転数を徐々に上げていくと回転方向への強制的な融液対流が強くなる様子が見られ、るつぼの回転の効果が観察された。
【0034】
Li成分過剰の内側るつぼの融液41から結晶を成長させた。融液の温度を高周波発振機48への投入電力と高周波誘導コイル43により所定の温度に安定させた後、Z軸方位に切り出した5mm×5mm×長さ70mmの単一分極状態にあるLT単結晶を種結晶40として回転支持棒38の下部に接続し、融液41に付け、融液温度を制御しながら結晶を回転させて上方向に引き上げることでLT単結晶42を成長させた。育成雰囲気は1%の酸素を含む窒素とした。
LT単結晶42の回転速度は5〜20rpmの範囲内で一定とし、引き上げ速度は0.5〜3.0mm/hの範囲で変化させた。育成した結晶から2インチ径のウエハーが作成できるよう結晶の直胴部に対し、自動直径制御を行った。育成結晶成長重量をロードセル52により測定し、結晶化した成長量に見合った量のLi2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が0.500の定比の原料45を外側るつぼ35に供給した。ここでは、LT単結晶42の成長量変化がコンピュータ49により求められているので、原料45の供給はLT種結晶40から単結晶42の育成が始まり直径制御が安定化した時点から開始した。
原料45の供給は、予め育成炉体47上部に設置した重量測定センサーを兼ね備えた密封容器46内に保管した原料45をセラミックスあるいは貴金属からなる供給管37を通じて行った。供給管37及び密封容器46に毎分50〜500ccの範囲でガス51を弁を具備するガス管33を介して流入した。ガス51の流量は供給する原料45の単位時間当たりの量と粒径によって最適化した。
これによって、飛散や供給管37内での詰まりのない円滑な原料供給を行った。育成中、貴金属二重るつぼを回転させることで、供給した粉末原料の融液との均質化と同時に、強制定に結晶成長界面を液面に対してフラットもしくは凸になるよう融液の対流を制御した。各々の組成において約1.5週間の育成により、直径60mm、長さ110mmでクラックのない無色透明のLT結晶体を得た。
【0035】
得られた全ての結晶に関して、Li2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率を化学分析より求めた。試料の測定位置は種結晶から15mm離れた結晶の軸中心部を測定位置aとし、また測定位置aから軸中心に沿って種結晶から離れる方向に10mm毎の位置を3点とり、順に測定部b、c、dとした。測定試料は測定位置を中心に7mm角の立方体形状として切りだした。表1は、Li2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率の測定結果を示す。
化学分析では組成比の絶対値を精度良く求めることは難しく、LT結晶の場合Li2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率で約0.001〜0.005程度の誤差を含んでいる。そこで定比に近い組成のLT結晶については非常に慎重に組成を分析した。表1の結果は同一試料について数カ所の異なる分析装置を用いて評価した結果の平均値を示している。
その結果、LT単結晶の場合、定比に近い組成であってもMg等を添加した結晶ではLi2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率の値は0.50超えることはなかった。また、これら試料のMg含有量に関する測定も行い、結晶の含有量が融液に添加したMg濃度とほぼ同じであることを確認した。
【0036】
【表1】
【0037】
次に、これら試料の非線形光学定数を測定した。我々はウェッジ法を用いた絶対測定を行い、測定データに対して多重反射の効果を考慮した解析を行うことによって、非線形光学定数の絶対値を正確に決定した。その結果、LT単結晶のような高屈折率の物質(n>2)に対する従来の値のほとんどは過大評価されていたことを明らかにし、一致溶融組成のLT結晶のd33を測定したところ、文献で求められている結果と良く一致する13.8pm/Vという値が得られた。測定に使用したレーザー光は単一縦モード連続発振の波長は1.064ミクロンである。表2に測定の結果を示す。
Mgの添加量が0.1mol%以上添加した場合には、結晶のLi2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が0.489から0.499の間で大きくばらついているにも関わらず、全てが16.0pm/V以上の値であるのに対し、0.1mol%未満では、それより若干劣る傾向にある。ウェッジ法を用いた絶対測定法では、従来の位相整合法による絶対測定法と異なり、d33などの対角成分も測定可能である。
また、回転型Makerフリンジ法では多重反射を考慮した厳密な解析を行うのは極めて困難であり、非線形光学定数を正確に求めるためには無反射コーティングを行って多重反射が起きない条件下で測定するしかない。以上のことから、ウェッジ法による絶対測定は極めて有効な測定手法であるということができる。
【0038】
【表2】
【0039】
次に、上記と同様にして得られた各々の単結晶に関して、測定位置a〜dの各場所から、断面が10mm×10mmで厚みが1.0mmのz板試料を切り出した。両z軸面に電極を形成した後、電圧を印加し、結晶が分極反転を起こす電圧を測定した。表3に測定の結果を示す。
Mgの添加量が0.1mol%以上添加した場合には全てが3.5kV/mm以下であり、0.2mol以上ではより小さな値2.0kV/mm近傍の一定の値が得られる。これらの結晶では、内部電場が殆ど見られず強誘電体のヒステリシス曲線(P-E曲線)の対称性に優れることと、抗電場近傍でのP-E曲線の立ち上がりが良いため測定値にもばらつきが少ないものと考えられる。
一方、0.1mol%未満では、それ以上の量の添加結晶に比べて分極反転電圧は若干上回る傾向にあることが分かる。一方、Mgの添加量が5mol%以上添加した場合には分極反転は小さくなるが、試料毎のばらつきが大きくなる傾向が見られた。これは、強誘電体のヒステリシス曲線(P-E曲線)の抗電場近傍でのP-E曲線の立ち上がりがなだらかで悪いため分極反転電圧の絶対値測定が困難になること、また、材料の電気抵抗によることが原因であると考えられた。尚、同様の試料形状、測定条件で一致溶融組成結晶の反転電圧を測定したところ場合によっては測定は困難であった。試料厚みが0.2〜0.5mm程度の薄い試料で測定ができ、21.0kV/mmという非常に高い値であった。
【0040】
【表3】
【0041】
次に、上記と同様にして得られた各々の単結晶に関して、測定位置a〜dの各場所から、x、y、z方位に5mm×3mm×2mmの試料を切り出した。両z軸面に電極を形成した後、マッハツェンダー干渉法を用いて試料の電気光学定数を測定した。表4に測定の結果を示す。表4に示すように、これら定数のいくつかは結晶組成に非常に敏感であると言うことが明らかにされた。
すなわち、結晶のLi2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が0.490以上0.500未満のLT単結晶では、従来の一致溶融組成LT単結晶と較べて電気光学定数r13は増大しないが、r33は約6%以上増大し約33pm/V以上となり、一致溶融組成LT単結晶の値の約32.2pm/Vに較べて非常に大きいことが明らかにされた。特に、電気光学定数に関しては定比組成に近づくほど大きくなる傾向が見られた。
また、Mgを添加した結晶では添加量が0.1mol%以上添加した場合には34pm/V以上と更なる増加が見られ、特に約1mol%添加した結晶で最大の35.5pm/Vが得られた。一方、Mgの添加量が1mol%よりも多くなると電気光学定数は徐々に低下する傾向も見られた。
【0042】
【表4】
【0043】
(実施例2)
市販の高純度Li2CO3、Ta2O5の原料粉末を準備し、Li2O/(Li2O+Ta2O5)のモル分率が0.56〜0.60のLi成分過剰原料を混合した。次に、1ton/cm2の静水圧でラバープレス成形し、約1050℃の大気中で焼結し原料棒を作成した。
次に、一重るつぼ法、すなわち、従来のCZ法による単結晶育成に際して、作成したLi成分過剰原料からなる原料棒を予め充填し、次に、るつぼを加熱してLi成分過剰な融液を作成した。Mg添加の効果を確認する実験では、この充填の際に、市販の高純度MgCO3をるつぼに予め充填した。充填するMgCO3の重量は、融液中のMg濃度が融液中のTaに対して決定し、0.1、0.2、0.5、1.0、3.0mol%の5種類の実験を行った。
また、比較として無添加、0.05、0.5mol%添加した以外は同様にして実験を行った。育成に用いたるつぼはイリジウム製のものを用いた。用いたるつぼの形状は、円筒形状であり、その大きさは直径150mm高さ100mmとした。育成の終始に渡り、融液表面の様子をビデオカメラで観察した。実施例1と異なり、るつぼの回転がない場合でも、強い融液対流が観察された。
【0044】
融液液面のるつぼ中心付近から結晶を成長させた。融液の温度を所定の温度に安定させた後、z軸方位に切り出した5mm×5mm×長さ70mmの単一分極状態にあるLT単結晶を種結晶60として融液に付け、融液温度を制御しながら結晶を回転させて上方向に引き上げることで単結晶を成長させた。るつぼは回転させずに固定した状態とした。育成雰囲気は1%の酸素を含む窒素とした。
結晶の回転速度は2rpmで一定とし、引き上げ度は0.5〜3.0mm/hの範囲で変化させた。育成した結晶から2インチ径のウエハーが作成できるように、育成の終始に渡って育成結晶成長重量をロードセルにより測定しながら、結晶の直胴部の直径は約60mmになるよう種付け直後から自動直径制御を行った。本実施例の育成では、実施例1の二重るつぼを用いた場合のような育成中の原料の供給は行わなかった。図2に、得られたLT単結晶の模式図を示す。
Mgを添加しなかった場合も、また各種濃度のMgを添加した場合も、直径60mmで引き上げたところ、育成開始直後から約30mmまでは透明な単結晶部61が育成できたが、その後共晶点と思われる点に達し、それ以後に引き上げた部分は、LT単結晶ではなく、多結晶層62となった。
【0045】
得られた各々の結晶に関して、Li2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率を化学分析より求めた。測定位置は種結晶60から5mm離れた結晶の軸中心部を測定位置gとし、また測定位置gから軸中心に沿って種結晶60から離れる方向に10mm毎の位置で2点とり、順に測定部h、iとした。測定試料は測定位置を中心に7mm角の立方体形状として切りだした。表5は、Li2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率の測定結果を示す。また、これら試料のMg含有量に関する測定も行い、結晶の含有量が融液に添加したMg濃度とほぼ同じであることを確認した。
【0046】
【表5】
【0047】
次に、これら試料の非線形光学定数を測定した。測定にはウエッジ法を使用した。表6に測定の結果を示す。表から、Mgの添加量が0.1mol%未満の場合は、種結晶から共晶点に近づくにしたがって、非線形光学定数d33が徐々に増加している様子が分かる。この増加は、育成中に原料の供給を行わなかったために、融液組成比が経時的に変動し、その結果生じたものと考えられる。
一方、Mgの添加量が0.1mol%未満の場合には、0.1mol%以上の場合に見られたような増加は見られない。測定位置gからiまでの距離10mm間においても非線形光学定数d33はほぼ一定値に収まり、かつ0.2mol%以上では結晶全体でほぼ一様に15pm/V以上という最大の値を示している。
【0048】
【表6】
【0049】
次に、上記と同様にして得られた各々の単結晶を製造し、測定位置g〜iの各場所から、断面が10mm×10mmで厚みが1.0mmのz板試料を切り出した。両z軸面に電極を形成した後、電圧を印加し、結晶が分極反転を起こす電圧を測定した。表7に測定結果を示す。
表から、Mgの添加量が0.1mol%未満の場合は、種結晶から共晶点に近づくにしたがって、分極反転電圧が徐々に減少している様子が分かる。この減少は、育成中に原料の供給を行わなかったために、融液組成比が経時的に変動し、その結果生じたものと考えられる。
一方、Mgの添加量が0.1mol%以上の場合には、0.1mol%未満の場合に見られたような減少は見られず、測定位置gからiまでの距離10mm間においても反転電圧は0.5kV/mm以内に収まり、かつ0.2mol%以上では結晶全体でほぼ一様に1.5kV/mmという最小の値を示している。
【0050】
【表7】
【0051】
(実施例3)
次に、実施例1と同様にして作られたLT単結晶に周期的に分極反転させて種々の光機能素子を製作した。840nmまたは1064nmの近赤外光の基本波に対して青色または緑色光を発生するQPM素子の作成について示す。
実施例1で得られた結晶に関して、各々の濃度でMgを添加した結晶からウエハーを1枚ずつ切り出した。切り出したウエハーは、直径が2インチで、厚みがそれぞれ0.3mm、0.5mm、1.0mm、2.0mm、3.0mmを用意した。両面に研摩を施したz軸方位に切り出し、+z面にリソグラフを用いて、厚み500nmのCr膜を電極として櫛形のパターンを形成した。青色、および緑色光の高調波を高効率で発生させるために1次のQPM構造となるように電極の周期は3.0ミクロンおよび6.8ミクロンとした。
次に、+z面上に厚み0.5ミクロンの絶縁膜をオーバーコートし350℃で8時間保存処理を施した。次に結晶の両z面に塩化リチウム水溶電界液を介して電極に挟み、高電圧パルスを印加した。LT単結晶に流れる電流は1キロオームの抵抗を通してモニターした。
【0052】
分極反転格子を形成した後、側面となる結晶のy面を研摩、フッ酸・硝酸の混合液でエッチングして、分極反転格子の様子を観察した。各試料に関して、この観察と分極反転を繰り返すことで、印加電圧のパルス幅や電流の最適化を行い、試料全体にわたって分極反転格子幅比、およびその分極反転の形が理想的な各々1:1に近づくようにした。
【0053】
実験の結果、試料の厚みは0.3mm、0.5mm、1.0mm、2.0mm、3.0mmのいずれの場合でも、大半の試料に関してはほぼ1:1の分極反転格子幅比を得ることができたが、Mg濃度が3mol%より高い濃度の結晶では得ることができなかった。具体的には、分極反転の直進性が悪く、隣同士がつながった反転格子が多くの場所で形成される傾向が見られた。
これは、Mg濃度が高くなりすぎたために、電気抵抗が低下し微細な周期的電圧印加が困難になったため、結晶の不均質が発生し、特に、Mgが多く含まれた場所が分極反転の直進を妨げたためと思われる。つまり、分極反転させる素子作成を考えた場合には、Mg添加濃度は3mol%以下とすることが望ましい。
【0054】
(実施例4)
直径が2インチ、厚みを1.0mmとした以外は実施例3と同様にして分極反転格子を有する光機能素子を作成した。分極反転格子幅の目標を5ミクロン毎とし、理想的な各々1:1に近づくようにした。実験の結果、大半の試料に関してほぼ1:1の分極反転格子幅比を得ることができたが、Mg濃度が3mol%より高い結晶では得ることができなかった。
【0055】
(実施例5)
次に、実施例1で作成したLT単結晶にレンズやプリズム状の分極反転構造を作製し電気光学効果を利用した偏向素子やシリンドリカルレンズ、ビームスキャナー、スイッチなどの光素子を製作した。直径2インチ、厚み0.2〜2.0mm、両面研摩されたz-カットのLT単結晶を準備し、両z面に厚さ約0.2ミクロンのAl電極をスパッタリングにより形成し、リソグラフを用いて、レンズやプリズム状パターンを形成した。
その後、+z面にパルス状の電圧を約3.5KV/mm印加し分極を反転させた。さらに、500℃で約5時間、空気中で熱処理を施した。これにより分極反転に際して導入された屈折率の不均一性を解消させた。さらに、結晶の端面を鏡面研磨仕上げを行い、レーザー光の入出射面とした。
試作した分極反転構造による屈折率の反転を形成したLT単結晶の電気光学効果を利用した光素子の性能は、レンズやプリズム状の分極反転構造の設計や分極反転構造の作製プロセスの精度、および材料の持つ電気光学定数の大きさで決定された。ここで試作したレンズやプリズム状パターンの分極反転構造で、特筆すべきことは分極反転性の制御が非常に容易であることから良好な素子特性が得られたことである。
従来の一致溶融組成のLT結晶では分極反転に大きな印加電圧が必要なために分極反転構造の制御が困難であった。また、従来の一致溶融組成のLT結晶これにMgOを5mol%以上添加したLT単結晶では自発分極の反転の制御が悪いため精度の良いレンズやプリズム状の分極反転構造の作製は困難だった。
実施例1で作成したLT単結晶にレンズやプリズム状の分極反転構造を作製し電気光学効果を利用した偏向素子やシリンドリカルレンズ、ビームスキャナー、スイッチなどの光素子を製作した場合には、このような問題は見られなかった。さらに、本結晶は一致溶融組成の結晶よりも大きな電気光学定数r33を有しているので、より小さな動作電圧でより優れたデバイス性能が得られた。例えば、偏向素子の場合には約600V/mmの電圧で約6°と大きな偏向角が得られた。また、約100V/mm近傍で動作するレンズや、約500V/mmでのスイッチング動作も得られた。
【0056】
本実施例では、キュリー温度以下の温度で分極反転する実施例として電圧印加方法について詳しく述べたが、本発明によれば、1)Ti内拡散法、2)SiO2装荷熱処理法、3)プロトン交換熱処理法、4)電子ビーム走査照射法、など他の方法を用いた場合でも、結晶の完全性と制御性に優れたLT単結晶を用いることで、高精度に周期分極反転格子を形成した光素子を実現することが可能である。
【0057】
また、ここでは、840nmまたは1064nmの近赤外光の基本波に対して青色または緑色光を発生するQPM素子を作成した実施例に付いて詳しく述べたが、本発明によれば基本波がこの二つの波長に限ることはなく、LT単結晶が透明でかつ位相整合が可能である波長域に関して適用することが可能である。
さらに、本発明のタンタル酸リチウム単結晶の分極構造を周期的に反転させ、可視から近赤外域の波長を持った入射レーザーの波長を短波長化あるいは長波長化させる光機能素子は第二高調波発生素子に限らず光パラメトリック発振器素子など、リモートセンシング、ガス検知をはじめとする各種の応用分野での適用が可能とされる。
【0058】
【発明の効果】
以上詳しく述べたように、本発明によれば、LT結晶のLi2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率を完全に0.500にすることなしに、Li2O/(Ta2O5+Li2O))のモル分率が0.500であるLT結晶の非線形光学定数、分極反転電圧および電気光学定数を有するLT結晶を高効率に与えることができる。これを利用することにより、結晶全体に最高の波長変換特性および電気光学特性を有する定比組成LT結晶を育成することができる。上述の実施例では、第三の元素としてMgについて示したが、ZnやScやInでも同様の結果が得られることも確認している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いたLT単結晶の育成炉を示す一例である。
【図2】一重るつぼを用いた際のLT単結晶の様態を示す模式図である。
【符号の説明】
1 育成炉
35 外るつぼ
36 内るつぼ
37 原料供給管
40 種結晶
41 融液
42 LT単結晶
43 高周波誘導コイル
45 原料
47 育成炉体
51 ガス
52 ロードセル
61 単結晶部
62 セラミック層
Claims (5)
- 原料連続供給を備えた二重るつぼ法を用いて、Liが定比組成よりも過剰な組成の融液から育成された、分極反転構造を利用したレーザー光の波長を変換する光素子用のタンタル酸リチウム単結晶であって、
前記融液は、Mg、Zn、ScおよびInからなる群から少なくとも一種選択される元素を含み、
前記タンタル酸リチウム単結晶は、前記選択された元素を前記タンタル酸リチウム単結晶に対して0.1〜3.0mol%含み、
前記タンタル酸リチウム単結晶におけるLi2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率は、0.490以上0.500未満の間にあり、
室温で分極反転するために必要な印加電圧が3.5kV/mm未満であることを特徴とする、タンタル酸リチウム単結晶。 - 請求項1に記載のタンタル酸リチウム単結晶で、波長1.064μmにおいて非線形光学定数d33が15pm/V以上であることを特徴とするタンタル酸リチウム単結晶。
- 請求項1に記載のタンタル酸リチウム単結晶で、波長0.633μmにおいて電気光学定数r33が34pm/V以上であることを特徴とするタンタル酸リチウム単結晶。
- 原料連続供給を備えた二重るつぼ法を用いて、Li 2 O/(Ta 2 O 5 +Li 2 O)のモル分率が0.490以上0.500未満の間にあり、かつ、室温で分極反転するために必要な印加電圧が3.5kV/mm未満である、分極反転構造を利用したレーザー光の波長を変換する光素子用のタンタル酸リチウム単結晶を製造する方法であって、
前記二重るつぼの内るつぼおよび外るつぼに、Li2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率が0.56〜0.60であるLiが定比組成よりも過剰な組成のLi成分過剰原料と、前記タンタル酸リチウム単結晶に対して0.1〜3.0mol%の範囲を満たすようにMg、Zn、ScおよびInからなる群から少なくとも一種選択される元素とを充填および加熱し、融液とし、
前記融液にタンタル酸リチウム単結晶の種結晶を漬け、回転させつつ引き上げ、
前記引き上げられたタンタル酸リチウム単結晶に見合った量の定比組成原料を、前記原料連続供給によって前記外るつぼに供給する、方法。 - 前記融液におけるLi2O/(Ta2O5+Li2O)のモル分率は0.56〜0.60である、請求項1に記載のタンタル酸リチウム単結晶。
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