JP4106721B2 - ポリエステルブロック共重合体組成物 - Google Patents

ポリエステルブロック共重合体組成物 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は柔軟性や弾性回復性などのゴム的性質、機械的物性、耐屈曲疲労性などの耐久性、成形性に加え、摺動特性、特にスティックスリップの抑制効果に優れたポリエステルブロック共重合体組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリブチレンテレフタレート単位のような結晶性芳香族ポリエステル単位をハードセグメントとし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールのような脂肪族ポリエーテル単位および/またはポリラクトンのような脂肪族ポリエステル単位をソフトセグメントとするポリエステルブロック共重合体は、機械強度、耐衝撃性、弾性回復性、柔軟性などの機械的性質や低温、高温特性が優れ、さらに熱可塑性で成形加工が容易であることから、自動車部品および電気・電子部品、繊維、フィルムなどに用途を拡大している。
【0003】
しかし、ポリエステルブロック共重合体の成形品が使用環境において、他の部品、あるいはそれ自身と擦れあうような用途においては、上記の特性に加え、摺動性が重要となる。つまり、ポリエステルブロック共重合体成形品が他材あるいは自材との摩擦を受けながら使用される用途で、特に摺動時にかかる荷重が大きい場合、摩耗によってポリエステルブロック共重合体からなる部品が摩滅・破損に至ることがある。また、摺動時の荷重が小さく、重大な摩耗が起こらない場合でも、スティックスリップによる成形品摺動時の作業感触不良、動作不良、きしみ音が発生し、極端な場合成形品に変形が生ずる。
【0004】
かかる摺動時の不良を低減するために、成形部品の形状を変更したり、成形品の摺動面に微細な凹凸を生じせしめるような表面処理をしたり、潤滑剤を塗布したりする等の処置が必要であった。しかし、これらの技術では成形品の形状が制限されたり、特殊な加工や手間が必要であったりするうえ、必ずしも十分効果を得られないことがある。したがって、これらの方法の実施には制限がある。
【0005】
そこで、ポリエステルブロック共重合体に摺動性を付与することによって、成形品が摩擦を受けて使用される場合の問題を解消することが提案されている。ポリエステルブロック共重合体自体に摺動性を付与する方法として、種々の摺動性改良剤を配合することが提案されており、例えば、特開昭52−65552号公報には、固体潤滑剤および酸アミドのような高級脂肪酸誘導体を、特開昭58−129046号公報には無機微粉末を、また、特開平3−139557号公報にはポリ(アルキレンオキシド)モノアルキルエーテルを、また、特開平3−229753号公報にはシリコーン樹脂を、さらに、特開平5−279557号公報には飽和脂肪族炭化水素基置換アマイド等の長鎖炭化水素基置換アマイドを摺動性改良剤として添加することが提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
これらの摺動性改良剤を添加することによって、ポリエステルブロック共重合体からなる成形品表面の摩擦係数は低減し、摺動時にかかる荷重が大きい場合の摺動による摩耗を低減させ、部品の破損等を防止できる。しかし、ここに開示された内容によって、摺動時にかかる荷重が小さい場合のスティックスリップを抑制すること、特に成形品表面が水で濡れた状態でのスティックスリップの抑制については、効果が不十分である。
【0007】
スティックスリップの発生原因は種々あるが、そのひとつに摺動表面の摩擦係数が一定でなく、場所によって摩擦係数が異なる場合があげられる。そのように、場所によって摩擦係数が異なる表面に対して、他材あるいは自材を相手材として摺動させた場合、摩擦係数が小さい部分では、摺動抵抗が小さくなめらかに相手材が移動していく。ところが、表面の滑りが悪い部分では、摺動抵抗が急激に大きくなる。さらに移動が進み、摩擦係数の小さい部分にさしかかると、摺動抵抗は急激に小さくなる。この繰り返しによって、スティックスリップが発生すると考えられる。
【0008】
また、特に成形品表面が水で濡れた場合、表面に水が介在する部分では水が潤滑剤の働きをするため、摩擦係数が小さい。ところが、その状態で摺動が進行していくと、接触面に介在する水が摺動によって排除され、急激に摺動抵抗が発生する。さらに摺動が進行すると、あるところで接触面が離れ、再び水が介在するようになり摺動抵抗が非常に小さくなる。このように、表面が水で濡れた状態でのスティックスリップは、水による潤滑層が厚く介在する場合の摩擦係数とその潤滑層が薄い場合の摩擦係数の差によって発生するため、抑制が困難である。
【0009】
かかるスティックスリップの抑制に関して、特開昭52−65552号公報に摺動性改良剤として開示されている、高級アルコールあるいは高級脂肪酸の誘導体は、成形品表面に均一に滲出するまでの時間が長く、また均一に滲出する途中の段階では、逆にスティックスリップを起こしやすいという問題がある。さらに、滲出した摺動性改良剤が表面で結晶化・白化し成形品表面が白粉で覆われ、外観不良を起こす。
【0010】
同様に、特開平5−279557号公報に開示されている、長鎖炭化水素置換アマイドを配合したポリエステルブロック共重合体の場合、配合した摺動性改良剤が成形品表面に均一に滲出するまでに時間を要し、均一に摺動性改良剤が滲出するまでは、逆にスティックスリップを起こしやすいという問題がある。
【0011】
特開平3−139557号公報、特開平3−229753号公報に開示されているポリ(アルキレンオキシド)モノアルキレンエーテルやシリコーン樹脂を摺動性改良剤として添加した場合、スティックスリップを抑制するためには、成形品表面が十分に滲出物で覆われる必要がある。そのため、かかるポリ(アルキレンオキシド)モノアルキレンエーテルやシリコーン樹脂を大量に添加する必要があるが、ポリエステルブロック共重合体とこれらポリ(モノアルキレンオキシド)モノアルキレンエーテルやシリコーン樹脂の相溶性が悪いため、成形品表面の層状剥離やウエルドラインなどの成形品外観不良を起こす。
【0012】
また、特開昭58−129046号公報に開示される硬質微粉末を添加する方法では、十分な摺動性改良効果を得るため添加量を増すと、耐衝撃性、引張り破断伸びに代表されるポリエステルブロック共重合体の弾性体としての機械的性質を著しく損なうため満足し得るものではない。
【0013】
また、いずれの方法においても、成形品表面が水で濡れた場合のスティックスリップの抑制効果は、不十分である。
【0014】
本発明者らは、ポリエステルブロック共重合体成形品の摺動性改良に関し、スティックスリップの抑制、特に成形品表面が水で濡れた場合においてもスティックスリップを抑制するべく検討した結果、特定の摺動性改良剤を配合したポリエステルブロック共重合体は、それからなる成形品の摩擦係数が小さいだけでなく、いかなる使用条件下においてもスティックスリップが抑制されることを見いだし本発明に到達した。
【0015】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a)と、主として脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(b)とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体(A)に、下記構造式(I)で表されるアルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物(B)を1種類または、2種類以上、および下記構造式(II)で表されるアルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物(C)を1種類または、2種類以上配合してなるポリエステルブロック共重合体組成物であって、アルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物(B)とアルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物(C)の配合量が下記一般式(1)で定められるポリエステルブロック共重合体組成物である。
式(1) 0.01<b+c<5
(ただし、一般式(1)中、bおよびcは、それぞれポリエステルブロック共重合体(A)100重量部に対する、アルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物(B)およびアルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物(C)の配合量を重量部数で表したもので、それぞれ、0<b<5、および、0<c<5、である。)
【0016】
【化4】
Figure 0004106721
【化5】
Figure 0004106721
【0017】
【作用】
本発明のポリエステルブロック共重合体組成物は、アルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物(B)を摺動特性改良剤として含有するが、かかるアルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物(B)は、従来から知られている脂肪酸エステル、脂肪酸アミド等の脂肪酸誘導体、アルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物および、特開平5−279557号公報に開示されている長鎖炭化水素置換アマイドにくらべて、ポリエステルブロック共重合体表面への滲出が特異的に速い。そのため、成形後短時間で、かかるアルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物が成形品表面を均一に覆い、摩擦係数が一定でかつ小さく、滑らかな成形品表面を形成する。したがって、本発明のポリエステルブロック共重合体組成物からなる成形品は、摩擦摩耗性に優れ、スティックスリップが抑制された物品となる。
【0018】
さらに驚くべきことに、本発明のポリエステルブロック共重合体組成物からなる成形品は、表面が水で濡れた状態での静摩擦係数と動摩擦係数の差が小さい。これは、かかる成形品が水に覆われた状態で、水による潤滑層の厚みに関係なく一定の摩擦係数を示すことを示唆する。したがって、水で濡れた表面での摺動によって水潤滑層の厚みが変化し、摩擦係数が変化することによって起こるスティックスリップは、本発明のポリエステルブロック共重合体組成物からなる成形品において発生しない。
【0019】
このように本発明のポリエステルブロック共重合体組成物は、摩擦係数が小さく、表面が水で濡れた場合などいかなる使用条件下においてもスティックスリップが抑制された成形品を与えることができるのである。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳述する。
【0021】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)の高融点結晶性重合体セグメント(a)は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と脂肪族ジオールから形成されるポリエステルであり、好ましくはテレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレートであるが、この他に、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、あるいはこれらのエステル形成性誘導体などのジカルボン酸成分と、分子量300以下のジオール、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロールなどの脂環式ジオール、キシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシ−p−タ−フェニル、4,4’−ジヒドロキシ−p−クオ−タ−フェニルなどの芳香族ジオールなどから誘導されるポリエステル、あるいはこれらのジカルボン酸成分およびジオール成分を2種以上併用した共重合ポリエステルであっても良い。また、3官能以上の多官能カルボン酸成分、多官能オキシ酸成分および多官能ヒドロキシ成分などを5モル%以下の範囲で共重合することも可能である。
【0022】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)の低融点重合体セグメント(b)は、脂肪族ポリエーテルおよび/または脂肪族ポリエステルである。脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などが挙げられる。また、脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが挙げられる。これらの脂肪族ポリエーテルおよび/または脂肪族ポリエステルのなかで得られるポリエステルブロック共重合体の弾性特性からポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが好ましい。また、これらの低融点重合体セグメントの数平均分子量としては共重合された状態において300〜6000程度であることが好ましい。
【0023】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)における低融点重合体セグメント(b)の共重合量は、好ましくは10〜80重量%、更に好ましくは15〜75重量%である。
【0024】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)は公知の方法で製造することができる。例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコール、および低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法。あるいはジカルボン酸と過剰量のグリコールおよび低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法。また、あらかじめ高融点結晶性セグメントを作っておき、これに低融点セグメント成分を添加してエステル交換反応によりランダム化せしめる方法。高融点結晶性セグメントと低融点重合体セグメントを鎖連結剤でつなぐ方法。さらにポリ(ε−カプロラクトン)を低融点重合体セグメントに用いる場合は、高融点結晶性セグメントにε−カプロラクトンモノマを付加反応させるなど、いずれの方法をとってもよい。
【0025】
本発明のポリエステルブロック共重合体組成物に用いられる成分の一つであるアルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物(B)は、下記構造式(I)で表され、
【化6】
Figure 0004106721
構造式(I)における置換基R1、R2としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプシル基、オクチル基、カプリル基、ラウリル基、ウンデカニル基、ミリスチル基、パルミチル基、ヘプタデカニル基、ステアリル基、アラキジル基、ベヘニル基などの飽和脂肪族炭化水素基、パルミトレイル基、ヘプタデセニル基、オレイル基、エイコセニル基、エルシル基、リノール基、リノレン基、などの不飽和脂肪族炭化水素基、シクロペンチル基、シクロペンテニル基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基、フェニル基、フェニルプロパン基、フェニルスルホン基、ベンジル基、トルイル基、キシリル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基が挙げられる。なお、アルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物(B)のR1とR2は必ず異なる置換基でなければならない。また、構造式(I)における置換基Rとしては、置換基R1、R2の例として挙げた上記の炭化水素基からさらに1水素取り除いた置換基が挙げられる。これらのうち、置換基Rがエチレンであるエチレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物が好ましい。また置換基R1、R2はパルミチル基、ステアリル基、ヘプタデカニル基、パルミトレイル基、ヘプタデシル基、オレイル基、エイコセニル基などの組合せからなるものが好ましい。
【0026】
本発明のポリエステルブロック共重合体組成物において、これらのアルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物(B)は、1種類または、2種類以上の化合物を組み合わせて配合し、ポリエステルブロック共重合体(A)100重量部に対し、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜5重量部を配合する。アルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物(B)の配合量が0.01重量部未満では摩擦係数の低減やスティックスリップの抑制効果が十分でなく、5重量部を越えるとポリエステルブロック共重合体との相溶不良が著しくなり、成形品表面に剥離等が発生するため機械物性などが損なわる。
【0027】
ポリエステルブロック共重合体(A)100重量部に、アルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物(B)0.01〜5重量部を配合した本発明の樹脂組成物は、摺動性に優れ、摩擦係数が低いだけでなく、スティックスリップが抑制されるが、アルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物(C)と組み合わせて配合することによって、摺動性をさらに向上させることができる。具体的には、本発明のポリエステルブロック共重合体組成物の優れた摺動特性の持続性が向上する。ここで用いるアルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物(C)は、下記構造式(II)に示される。
【0028】
【化7】
Figure 0004106721
構造式(II)における置換基R3としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプシル基、オクチル基、カプリル基、ラウリル基、ウンデカニル基、ミリスチル基、パルミチル基、ヘプタデカニル基、ステアリル基、アラキジル基、ベヘニル基などの飽和脂肪族炭化水素基、パルミトレイル基、ヘプタデセニル基、オレイル基、エイコセニル基、エルシル基、リノール基、リノレン基、などの不飽和脂肪族炭化水素基、シクロペンチル基、シクロペンテニル基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基、フェニル基、フェニルプロパン基、フェニルスルホン基、ベンジル基、トルイル基、キシリル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基が挙げられる。また、構造式(II)における置換基Rとしては、置換基R3の例として挙げた上記の炭化水素基からさらに1水素取り除いた置換基が挙げられる。これらのうち、置換基Rが、エチレンであるエチレン対称ビス脂肪酸アミド化合物が好ましい。また、置換基R3はパルミチル基、ステアリル基、ヘプタデカニル基、パルミトレイル基、ヘプタデシル基、オレイル基、エイコセニル基からなるものが好ましく、オレイル基、ステアリル基からなるものがさらに好ましい。
【0029】
本発明のポリエステルブロック共重合体組成物において、これらのアルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物(C)は、1種類または、2種類以上の化合物を組み合わせて配合し、ポリエステルブロック共重合体(A)100重量部に対し、アルキレンビス非対称脂肪酸アミド化合物(B)との合計が0.01〜5重量部、好ましくは、0.05〜5重量部を配合する。アルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物(B)とアルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物(C)の合計配合量が0.01重量部未満では摩擦係数の低減やスティックスリップの抑制効果が十分でなく、5重量部を越えるとポリエステルブロック共重合体との相溶不良が著しくなり、成形品表面に剥離等が発生するため機械物性などが損なわれる。
【0030】
本発明のポリエステルブロック共重合体組成物の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステルブロック共重合体、アルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物、必要に応じてアルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物をはじめとする他の添加物を一緒に配合した原料をスクリュー型押出機に供給し溶融混練する方法が挙げられる。
【0031】
また本発明のポリエステルブロック共重合体組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、公知のヒンダードフェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系、芳香族アミン系などの酸化防止剤、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系などの耐光剤、ガラス繊維などの補強剤、難燃剤などを任意に含有せしめることができる。
【0032】
本発明のポリエステルブロック共重合体組成物は射出成形、ブロー成形、押出成形、圧縮成形などにより成形品とされるが、これらの成形品は摩擦係数が小さく、また成形品表面が水で濡れた場合などいかなる使用条件下においてもスティックスリップが抑制されており、ポリエステルブロック共重合体本来のゴム弾性、耐久性、機械的強度も損なわれていない。
【0033】
【実施例】
以下に実施例によって本発明の効果を説明する。なお、実施例中の%および部とは、ことわりのない場合すべて重量基準である。また、例中に示される物性は次のように測定した。
【0034】
・融点:差動走査熱量計(Du Pont社製DSC-910型)を使用して、窒素ガス雰囲気下、10℃/分の昇温速度で加熱した時の融解ピークの頂上温度を測定した。
【0035】
・溶融粘度指数(MFR値):ASTM D−1238にしたがって、荷重2160gで測定した。
【0036】
・硬度(デュロメーターDスケ−ル):ASTM D−2240にしたがって、測定した。
【0037】
参考例
ポリエステルブロック共重合体(A−1)の製造
テレフタル酸453部、1,4−ブタンジオール490部および数平均分子量約1000のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール200部をチタンテトラブトキシド0.15部と共にヘリカルリボン型攪拌翼を備えた反応容器に仕込み、190〜225℃で3時間加熱して反応水を系外に留出しながらエステル化反応をおこなった。反応混合物に”イルガノックス”1010(チバガイギー社製ヒンダ−ドフェノ−ル系酸化防止剤)0.75部を添加した後、245℃に昇温し、次いで50分かけて系内の圧力を0.2mmHgの減圧とし、その条件下で2時間30分重合をおこなった。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングをおこなってペレットとした。
【0038】
ポリエステルブロック共重合体(A−2)の製造
テレフタル酸362部、1,4−ブタンジオール392部および数平均分子量約1000のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール134部を、チタンテトラブトキシド0.15部と共にヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、190〜225℃で3時間加熱して反応水を系外に留出しながらエステル化反応をおこなった。反応混合物に”イルガノックス”1010(チバガイギー社製ヒンダ−ドフェノ−ル系酸化防止剤)0.75部を添加した後、245℃に昇温し、次いで50分かけて系内の圧力を0.2mmHgの減圧とし、その条件下で2時間30分重合をおこなった。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングをおこなってペレットとした。
【0039】
ポリエステルブロック共重合体(A−3)の製造
テレフタル酸302部、1,4−ブタンジオール327部および数平均分子量約1400のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール216部を、チタンテトラブトキシド0.15部と共にヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、190〜225℃で3時間加熱して反応水を系外に留出しながらエステル化反応をおこなった。反応混合物に”イルガノックス”1010(チバガイギー社製ヒンダ−ドフェノ−ル系酸化防止剤)0.75部を添加した後、245℃に昇温し、次いで50分かけて系内の圧力を0.2mmHgの減圧とし、その条件下で2時間45分重合をおこなった。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングをおこなってペレットとした。
【0040】
ポリエステルブロック共重合体(A−4)の製造
ジメチルテレフタレ−ト245部、1,4−ブタンジオール171部およびポリ(テトラメチレンオキシド)グリコ−ル(数平均分子量約1400)239部を、チタンテトラブトキシド0.15部と共にヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、210℃で2時間加熱して、理論メタノ−ル量の95%のメタノ−ルを系外に留出させた。反応混合物に”イルガノックス”1010 0.75部を添加した後、245℃に昇温し、次いで50分かけて系内の圧力を0.2mmHgの減圧とし、その条件下で2時間20分重合をおこなった。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングをおこなってペレットとした。
【0041】
ポリエステルブロック共重合体(A−5)の製造
ジメチルテレフタレート162部、1,4−ブタンジオール113部、エチレンオキサイドで末端をキャッピングしたポリ(プロピレンオキシド)グリコール(数平均分子量約2200、EO含量26.8%)332部を、チタンテトラブトキシド0.15部およびトリメリット酸無水物3部と共にヘリカルリボン型攪拌翼を備えた反応容器に仕込み、210℃で2時間30分加熱して、理論メタノール量の95%のメタノールを系外に留出させた。反応混合物に”イルガノックス”1010 0.75部を添加した後、245℃に昇温し、次いで50分かけて系内の圧力を0.2mmHgの減圧とし、その条件下で1時間50分重合をおこなった。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングをおこなってペレットとした。
【0042】
ポリエステルブロック共重合体(A−6)の製造
テレフタル酸100部、1,4−ブタンジオール110部、テトラブチルチタネート0.05部を精留塔およびヘリカルリボン型攪拌翼を備えた反応容器に仕込み、190〜225℃で加熱して反応水を系外に留出しながらエステル交換反応をおこなった。その後、反応物を重合缶に移液し、250℃に昇温しつつ、系内の圧力を0.2mmHgの減圧とし、その条件下で2時間重合をおこなった。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングをおこなって融点225℃のポリブチレンテレフタレートを得た。該ポリブチレンテレフタレートとε−カプロラクトンをそれぞれ0.9kg/hr、1.7kg/hrで内径30mm、L/D=40、中間部と先端部に長さ200mmの混練ユニットを有する3条ネジタイプスクリューを備えた2軸押し出し機の最後部供給口に供給し、シリンダー中間部の設定温度を240℃、スクリュー回転数30rpmで付加重合反応をおこなった。ダイスからポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングをおこなってペレットとした。該ペレット100部、トリフェニルホスフィン0.1部を内径30mm、L/D=40でフルフライトスクリューを備えたベント付き単軸押し出し機を使用して、ベント口の真空度10mmHg、押し出し温度200℃で混練し、脱ε−カプロラクトンと触媒失活をおこない、ダイスからポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングをおこなってペレットとした。プロトンNMR分析の結果ポリカプロラクトンからなるセグメントの共重合量は55wt%であった。
【0043】
表1にA−1、A−2、A−3、A−4、A−5、A−6の組成と物性を示す。なお、表中、低融点重合体セグメントの種類で、PTMGはポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを、EOPPGはエチレンオキサイドで末端をキャッピングしたポリ(プロピレンオキシド)グリコールを表し、数字は、数平均分子量を示す。
【0044】
【表1】
Figure 0004106721
実施例および比較例の組成物を構成するアルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物、アルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物、および他の摺動性改良剤を表2に示す。
【0045】
【表2】
Figure 0004106721
参考例1〜6、実施例1〜2
ポリエステルブロック共重合体(A−1)、(A−2)、(A−3)、(A−4)、(A−5)、(A−6)、それぞれ100重量部に、表2に示すアルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物(B)を単独で、または、アルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物(C)と組み合わせて、表3に示す割合でV−ブレンダーで混合し、45mmのスクリューを有する二軸押出機を用いて表3に示す温度で溶融混練しペレット化した。
【0046】
【表3】
Figure 0004106721
これらのペレットを80℃の熱風乾燥機で5時間乾燥後、射出成形機をもちいて、溶融混練温度と同じシリンダー温度、60℃の金型温度で、直径100mm、厚さ3mmの円板試験片および幅70mm、長さ125mm、厚さ2mmの角板試験片を射出成形した。これらの射出成形片を用いて下記の評価を次に示す方法で実施した。結果を表4に示す。
【0047】
・摩擦係数:上記射出成形角板を用い、相手材も試験材料自身として、ASTMD1894にしたがって測定した物性値を下記のように定める。ただし、試験は、射出成形後3日後におこない、試験片表面は水を散布し、表面が濡れた状態で測定する。
【0048】
試験荷重:410g
試験速度:150mm/分
Fs:試験片が動き出す際、試験片を引く最大力
Fd:試験片が動いている時の試験片を引く力
M:試験片にかかる垂直荷重
μsw=Fs/M、μdw=Fd/M
・スティックスリップ試験:射出成形後23℃に所定の時間静置した1組の円板試験片から直径50mmの小径円板1枚を打ち抜く。直径100mmの円板試験片をテーバー摩耗試験機にセットし、直径50mmの円板試験片を該試験機の摩耗輪回転軸にセットする。摩耗輪回転軸に2631gの荷重をかけた状態でテーバー摩耗試験をおこない、該試験機が100回転する間の騒音を測定する。暗騒音(約60dB)に対して騒音が増加した場合にスティックスリップが発生すると判断する。測定は、直径100mmの円板試験片表面が乾燥状態と水で濡らした状態について行なう。
【0049】
【表4】
Figure 0004106721
比較例1〜6
ポリエステルブロック共重合体(A−1)、(A−3)、および(A−5)100重量部に表2に示す摺動性改良剤を、表3に示す割合でV−ブレンダーで混合し、45mmのスクリューを有する二軸押出機を用いて表3に示す温度で溶融混練し、ペレット化した。これらのペレットを用いて実施例と同じ評価をおこなった。結果を表4に示す。
【0050】
表4の実施例に示すように、本発明のポリエステルブロック共重合体組成物は、ベースとなるポリエステルブロック共重合体や比較例に比べ、摩擦係数が大幅に改善されている。特に、アルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物とアルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物を組み合わせて配合した場合、少ない配合量で、さらに摩擦係数が改善できる。
【0051】
スティックスリップ試験において、参考例1および2は、表面が濡れた状態で成形後1日ではスティックスリップが発生した。実施例1〜2では、成形後1日から安定してスティックスリップが抑制されている。それに対し、比較例1のようにアルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物だけを含むポリエステルブロック共重合体組成物では、短時間でスティックスリップを抑制することはできない。また、比較例2では、アルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物の配合量が少ないため、短時間にはスティックスリップを抑制することができない。比較例3のようにアルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物の配合量が多すぎる場合、成形品表面に層状剥離が発生する。
【0052】
比較例4〜6のポリエステルブロック共重合体組成物の場合、本発明のポリエステルブロック共重合体組成物に比べ、スティックスリップ抑制効果発現までに時間を要する。
【0053】
【発明の効果】
本発明は、ポリエステルブロック共重合体に特定の化合物を溶融混合することで、良好な摺動性を有するポリエステルブロック共重合体組成物を得ることができる。さらに、本発明のポリエステルブロック共重合体組成物は、表面が水で濡れた場合などいかなる使用条件下においても、スティックスリップが抑制された成形品を与えることができる。

Claims (5)

  1. 主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a)と、主として脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(b)とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体(A)に、下記構造式(I)で表されるアルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物(B)を1種類または、2種類以上、および下記構造式(II)で表されるアルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物(C)を1種類または、2種類以上配合してなるポリエステルブロック共重合体組成物であって、アルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物(B)とアルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物(C)の配合量が下記一般式(1)で定められるポリエステルブロック共重合体組成物。
    Figure 0004106721
    Figure 0004106721
    (式中、R1、R2、R3は、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基を表し、R1とR2は互いに異なっている。R3は、R1またはR2と同一でも良い。Rはそれらの基からさらに1水素を取り除いた炭化水素基を表す。)
    式(1) 0.01<b+c<5
    (ただし、一般式(1)中、bおよびcは、それぞれポリエステルブロック共重合体(A)100重量部に対する、アルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物(B)およびアルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物(C)の配合量を重量部数で表したもので、それぞれ、0<b<5、および、0<c<5、である。)
  2. アルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物(B)および/またはアルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物(C)の構造式(I)および/または構造式(II)における置換基Rが、炭素数1〜4の飽和脂肪族炭化水素基、または炭素数1〜4の不飽和脂肪族炭化水素基である請求項1記載のポリエステルブロック共重合体組成物。
  3. アルキレン非対称ビス脂肪酸アミド化合物(B)の構造式(I)における置換基R1、R2およびアルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物(C)の構造式(II)における置換基R3が炭素数6以上の飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基である請求項1または2記載のポリエステルブロック共重合体組成物。
  4. アルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物(C)がエチレンビスオレイン酸アミドまたは、エチレンビスオレイン酸アミドを含む2種類以上のアルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物を配合した請求項1〜3いずれか記載のポリエステルブロック共重合体組成物。
  5. アルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物(C)がエチレンビスステアリン酸アミドまたは、エチレンビスステアリン酸アミドを含む2種類以上のアルキレン対称ビス脂肪酸アミド化合物を配合した請求項1〜3いずれか記載のポリエステルブロック共重合体組成物。
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