JP4104917B2 - 偏光フィルムの製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶ディスプレイ装置の部品として用いられる偏光板の材料として有用な偏光フィルムの製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
光の透過および遮蔽機能を有する偏光板は、光のスイッチング機能を有する液晶とともに、液晶ディスプレイ装置(LCD)の基本的な構成要素である。このLCDの適用分野も、開発初期の頃の電卓および腕時計などの小型機器から、近年では、ラップトップパソコン、ワープロ、液晶カラープロジェクター、車載用ナビゲーションシステム、液晶テレビ、パーソナルホンおよび屋内外の計測機器などの広範囲に広がり、従来品以上に大面積で、かつ偏光性能の均一性に優れた偏光板が求められるようになってきている。
【0003】
偏光板は、一般にポリビニルアルコールフィルム(以下、ポリビニルアルコールを「PVA」、ポリビニルアルコールフィルムを「PVAフィルム」と略記することがある)を一軸延伸して染色するか、または染色して一軸延伸した後、ホウ素化合物で固定処理を行うことにより(染色と固定処理が同時の場合もある)得られた偏光フィルムに、三酢酸セルロース(TAC)フィルムや酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルムなどの保護膜を貼り合わせた構成となっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来偏光フィルムを製造するには、10〜100μmの厚さのPVAフィルムが使用されてきたが、原料のPVAからPVAフィルムを製膜するのに必要な熱エネルギー、PVAフィルムを延伸して偏光フィルムを製造するのに必要な熱エネルギー、薬品コスト、環境負荷などを低減し、さらに軽量化による輸送コストを節減するためには、PVAフィルムの厚みを薄くする方が有利である。さらに、液晶ディスプレイ製品の薄型化を実現するため、接着材や保護フィルムなどを含めた偏光フィルムの厚みをより薄くできるPVAフィルムが求められるようになってきており、比較的薄い領域である厚さ10〜50μmのPVAフィルムの製造が必要になっている。
【0005】
ところが、PVAフィルムの厚みを薄くすると熱容量が小さくなるために、加熱時および冷却時における温度変化が早く、加熱時の延伸ロールに温度斑があると敏感に反映して、延伸ロールに接触するPVAフィルムの温度にも斑ができ易くなる。PVAフィルムのヤング率は、フィルムの温度が高いほど低くなるという特性を持っているため、温度斑によってフィルムの幅方向のヤング率斑が引き起こされ、局部的にフィルムの延伸倍率が不均一になる。このような現象は、PVAフィルムを延伸して偏光フィルムを製造する際に厚み斑および色斑を発生させ、偏光フィルムの加工収率が低下する原因となる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の目的は、厚さ10〜50μmの比較的厚みの薄いPVAフィルムを用いても、色斑が少なくて、高品質な液晶ディスプレイに適した偏光フィルムが得られる偏光フィルムの製造法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明にかかる偏光フィルムの製造法は、厚さが10〜50μmのポリビニルアルコールフィルムを誘電加熱ロールを用いて乾式法で延伸することを特徴とするものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明において用いられるPVAフィルムは厚さが10〜50μmであることが必要である。本発明によれば、このようにPVAフィルムの厚みが薄いので、熱の伝達が早く、このため、従来よりも低い温度で延伸することが可能になる。フィルムの厚みが10μmよりも小さいと、フィルムの強度が低過ぎて延伸を十分に行うことができない。また、フィルムの厚みが50μmよりも大きいと、温度斑によって局部的にフィルムの延伸倍率が不均一になりやすい。
【0009】
本発明は偏光フィルムを誘電加熱ロールを用いて乾式法で延伸することが必要である。このように温度精度に優れた誘電加熱ロールを用いることで、従来よりも低い温度で延伸することができ、これによりフィルムの熱処理の程度を低く抑えることができることから、染色時における染料等の進入速度を高めたり、さらには湿式法による延伸時の延伸倍率を高めることができ、色斑が少なくて、偏光性能の優れた偏光フィルムを製造することができる。
本発明において誘電加熱ロールは延伸ロールとして用いられ、10本〜100本の幅方向に伸びるヒートパイプを内蔵していて、300mm〜1000mmの直径を有しているのがよい。直径が300mmより小さいと、周囲の空気の温度の影響を受けやすくなり、温度精度が低下しやすくなる。また、直径が1000mmよりも大きいと、温度を制御するための装置が大きくなり過ぎて、PVAフィルムを延伸するという目的に対しては工業的に不利となる。内臓されるヒートパイプの直径は1mm〜50mmであり、また、加工の容易さおよび耐圧性の点から断面の形状は通常円形であるが、多角形でもよい。ヒートパイプの中に封入される熱媒は、使用温度において気化する物質を選択することができる。本ロールはヒートパイプの内側に設置されたコイルに通電することによって加熱され、通常は温度制御のため温度センサーを内蔵している。温度センサーとして熱電対、測温抵抗体などを使用することができ、とりわけ測定精度にすぐれた白金製の測温抵抗体を用いることが望ましい。温度制御は、温度センサーの測定値に基づいて、高精度のコントローラーがコイルに与える電気エネルギーの大きさを調節することによって行なわれる。コントローラーには比例制御、微分制御、積分制御、フィードバック制御、フィードフォワード制御などの機能を有するPID制御装置などが望ましい。
【0010】
誘電加熱ロールの表面温度は70〜120℃であり、80〜110℃がより好ましく、90〜100℃が特に好ましい。表面温度が70℃より低いと、PVAフィルムのヤング率が十分に低くなっていないために、延伸斑ができやすくなる。表面温度が120℃より高いと、フィルムが柔軟になり過ぎて有効な延伸を実現することができず、得られる偏光フィルムの偏光性能が十分に上がらないことがある。
誘電加熱ロールの表面温度斑は±1℃以下であり、±0.5℃以下がさらに好ましく、±0.2℃以下が特に好ましい。ポリビニルアルコールフィルムの幅および延伸加熱ロール上のフィルムの位置は変動することがあるので、誘電加熱ロールについて設定した表面温度が、フィルムが通過する最外端にまで及ぶようにするのが良い。
【0011】
空気の対流による熱放散、輻射などによって誘電加熱ロールの表面温度が変動することがないよう、該ロールの周囲に断熱設備を設けることが望ましい。
【0012】
水分によって調湿されたPVAフィルムと誘電加熱ロールの表面が接触することによって発生する恐れのある腐食を防止するため、誘電加熱ロールの表面をステンレス合金、ニッケル合金、クローム合金などで被覆したり、あるいは該ロールの表面を構成する材質としてこれらの合金の無垢材を用いるのが良く、さらには耐摩耗性を付与する目的で該ロールの表面にクロームメッキ、焼き入れなどの処理を施すこともできる。
【0013】
本発明において用いられるPVAは、例えば、ビニルエステルを重合して得られたポリビニルエステルをけん化することにより製造される。また、PVAの主鎖に不飽和カルボン酸またはその誘導体、不飽和スルホン酸またはその誘導体、炭素数2〜30のα−オレフィンなどを5モル%未満の割合でグラフト共重合させた変性PVAや、ビニルエステルと不飽和カルボン酸またはその誘導体、不飽和スルホン酸またはその誘導体、炭素数2〜30のα−オレフィンなどを15モル%未満の割合で共重合させた変性ポリビニルエステルをけん化することにより製造される変性PVAや、未変性または変性PVAをホルマリン、ブチルアルデヒド、ベンツアルデヒドなどのアルデヒド類で水酸基の一部を架橋したいわゆるポリビニルアセタール樹脂などを挙げることができる。
【0014】
前記のビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニルなどが例示される。
【0015】
変性PVAに使用されるコモノマーは、主としてPVAの変性を目的に共重合させるもので、本発明の趣旨を損なわない範囲で使用される。このようなコモノマーとして、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンなどのα−オレフィン類;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体などのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体などのメタクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドンなどのN−ビニルアミド類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル類;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸およびその塩またはそのエステル;イタコン酸およびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどを挙げることができる。これらの中でもα−オレフィンが好ましく、特にエチレンが好ましい。変性PVAの変性量は15モル%未満であるのが好ましい。
【0016】
PVAのけん化度は、偏光性能と耐久性の点から95モル%以上が好ましく、98モル%以上がより好ましく、99モル%以上がさらに好ましく、特に99.5モル%以上が最も好ましい。
【0017】
前記PVAのけん化度とは、ポリビニルエステルをけん化した際にビニルアルコール単位に変換されうる単位の中で、実際にビニルアルコール単位にけん化された単位の割合を示したものである。なお、PVAのけん化度は、JIS記載の方法により測定を行った。
【0018】
PVAの重合度は、偏光性能と耐久性の点から500以上が好ましく、1000以上がより好ましく、1500以上がさらに好ましく、特に2500以上が最も好ましい。PVA重合度の上限は8000以下が好ましく、6000以下がより好ましい。
【0019】
前記PVAの重合度は、JIS K 6726に準じて測定される。すなわちPVAを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度から求められる。
【0020】
以上のPVAを使用してPVAフィルムを製造する方法として、含水PVAを使用した溶融押出方式による製膜法の他に、例えばPVAを溶剤に溶解したPVA溶液(ポリビニルアルコールフィルムの原液)を使用してキャスト面に流延する流延製膜法、湿式製膜法(貧溶媒中への吐出)、ゲル製膜法(PVA水溶液を一旦冷却ゲル化した後、溶媒を抽出除去し、PVAフィルムを得る方法)、およびこれらの組み合わせによる方法などを採用することができる。これらの中でも流延製膜法および溶融押出製膜法が、良好な偏光フィルムが得られることから好ましい。
【0021】
PVAフィルムを製造する際に使用されるPVAを溶解する溶剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、グリセリン、水などを挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を使用することができる。これらのなかでも、ジメチルスルホキシド、水、またはグリセリンと水の混合溶媒が好適に使用される。
【0022】
PVAフィルムを製造する際に使用されるPVA溶液または含水PVAにおけるPVAの割合は、PVA重合度によっても変わってくるが、20〜70重量%が好適であり、25〜60重量%がより好適であり、30〜55重量%がさらに好適であり、35〜50重量%が最も好適である。PVAの割合が多いと、粘度が高くなり過ぎて濾過や脱泡が困難となり、異物や欠点のないフィルムを得るのが困難になる。PVAの割合が少ないと、乾燥に多くの時間やエネルギーがかかるため工業的見地から好ましくない。また、このPVA溶液または含水PVAには、必要に応じて可塑剤、界面活性剤、二色性染料などが含有されていてもよい。
【0023】
PVAフィルムを製造する際に、可塑剤として多価アルコールを添加することが好ましい。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどを挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を使用することができる。これらの中でも、延伸性を向上させる効果が優れていることから、ジグリセリン、エチレングリコールおよびグリセリンが好適に使用される。
【0024】
可塑剤の添加量は、PVA100重量部に対して1〜30重量部が好ましく、3〜25重量部がさらに好ましく、5〜20重量部が最も好ましい。1重量部より少ないと、染色性や延伸性が低下する場合があり、30重量部より多いと、PVAフィルムが柔軟になりすぎて、取り扱い性が低下する場合がある。
【0025】
PVAフィルムを製造する際には、界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤の種類としては特に限定はないが、アニオン性またはノニオン性の界面活性剤が好ましい。アニオン性界面活性剤としては、たとえば、ラウリン酸カリウムなどのカルボン酸型、オクチルサルフェートなどの硫酸エステル型、ドデシルベンゼンスルホネートなどのスルホン酸型のアニオン性界面活性剤が好適である。ノニオン性界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどのアルキルエーテル型、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのアルキルフェニルエーテル型、ポリオキシエチレンラウレートなどのアルキルエステル型、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルなどのアルキルアミン型、ポリオキシエチレンラウリン酸アミドなどのアルキルアミド型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルなどのポリプロピレングリコールエーテル型、オレイン酸ジエタノールアミドなどのアルカノールアミド型、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルなどのアリルフェニルエーテル型などのノニオン性界面活性剤が好適である。これらの界面活性剤は1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
界面活性剤の添加量は、PVA100重量部に対して0.01〜1重量部が好ましく、0.02〜0.5重量部がさらに好ましく、0.05〜0.3重量部が最も好ましい。0.01重量部より少ないと、界面活性剤の添加によってもたらされるべき製膜性や剥離性向上の効果が現れにくく、1重量部より多いと、PVAフィルムの表面に界面活性剤が溶出してブロッキングの原因になり、取り扱い性が低下する場合がある。
【0027】
本発明において使用されるPVAフィルムは、フィルムの幅が2m以上であることが好ましく、2.5m以上がより好ましく、2.8m以上がさらに好ましく、3m以上が特に好ましい。フィルムの幅が2mより小さいPVAフィルムは元々幅方向への均一な延伸が比較的容易であるために、色斑が発生し難く、本発明の効果が現れにくい。
【0028】
本発明によるPVAフィルムの延伸は乾式法で行われることが必要であり、誘電加熱ロールを用いることによる効果と相まって、色斑の少ない偏光フィルムを製造することができる。
なお、本発明において乾式法による延伸とはPVAフィルムを空気中で延伸する操作のことを指しており、一方、湿式法による延伸とはPVAフィルムを水中やホウ酸水溶液などの水溶液中や可塑剤などの溶剤中で延伸する操作のことを指しており、両者は区別される。
【0029】
偏光フィルムの製造法としては、例えば、PVAフィルムを乾式法による一軸延伸、染色、必要に応じて乾式法または湿式法による二段目の一軸延伸、固定処理、乾燥処理、さらに必要に応じて熱処理を行えばよく、染色、乾式法または湿式法による二段目の一軸延伸、固定処理の操作の順番に特に制限はない。また、乾式法または湿式法による二段目の一軸延伸は二回またはそれ以上の回数行っても良い。
【0030】
PVAフィルムの染色は、一軸延伸の前、一軸延伸時、一軸延伸後のいずれの段階で行っても良い。染色に用いる染料としては、ヨウ素−ヨウ化カリウム;ダイレクトブラック 17、19、154;ダイレクトブラウン 44、106、195、210、223;ダイレクトレッド 2、23、28、31、37、39、79、81、240、242、247;ダイレクトブルー 1、15、22、78、90、98、151、168、202、236、249、270;ダイレクトバイオレット 9、12、51、98;ダイレクトグリーン 1、85;ダイレクトイエロー 8、12、44、86、87;ダイレクトオレンジ 26、39、106、107などの二色性染料などが、1種または2種以上の混合物で使用できる。PVAフィルムの染色は、PVAフィルムを上記染料を含有する溶液中に浸漬させることにより行われるのが一般的であるが、染料をPVAフィルムに混ぜて製膜するなど、その処理方法や処理条件は特に制限されるものではない。
【0031】
二段目の一軸延伸を乾式法で行う場合、上記した誘電加熱ロールを用いることができる。その場合の延伸温度は50〜180℃が好適である。乾式法による一軸延伸後に、ホウ酸水溶液などの温水溶液中(前記染料を含有する溶液中や後述する固定処理浴中でもよい)で延伸する湿式延伸法を組合わせて行うことができ、その場合の延伸温度は特に限定されないが、30〜90℃が好適である。
また、一軸延伸の延伸倍率(一軸延伸を多段で行う場合には、合計の延伸倍率)は、偏光性能の点から4倍以上が好ましく、5倍以上が特に好ましい。延伸倍率の上限について特に制限はないが、8倍以下であると均一な延伸が得られやすいので好ましい。特に幅方向に均一な延伸を行うためには、一段目の延伸が4倍を超えることが好ましく、4.2倍以上がさらに好ましく、4.5倍以上が特に好ましい。延伸後のフィルムの厚さは、3〜45μmが好ましく、5〜30μmがより好ましい。
【0032】
PVAフィルムへの上記染料の吸着を強固にすることを目的にして、固定処理を行うことが多い。固定処理に使用する処理浴には、通常、ホウ酸および/またはホウ素化合物が添加される。また、必要に応じて処理浴中にヨウ素化合物を添加してもよい。
【0033】
得られた偏光フィルムの乾燥処理(熱処理)は、30〜150℃で行うのが好ましく、50〜150℃で行うのがより好ましい。
【0034】
以上のようにして得られた偏光フィルムは、通常、その両面または片面に、光学的に透明で、かつ機械的強度を有した保護膜を貼り合わせて偏光板として使用される。保護膜としては、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルムなどが使用される。また、貼り合わせに用いられる接着剤としては、PVA系の接着剤やウレタン系の接着剤などを挙げることができるが、なかでもPVA系の接着剤が好適である。このようにして得られる偏光板において、接着剤層の厚みは0.5〜10μmが好ましく、0.8〜8μmがさらに好ましく、1〜5μmが特に好ましい。接着層の厚みはフィルムの微細な凹凸より大きくして、接着後の偏光板の厚みを一定にすることが好ましい。厚みが0.5μmより小さいと均一な接着が困難となりやすく、気泡を形成したりして、光学的欠点が形成されやすい。厚みが10μmより大きい場合には、乾燥に時間がかかりやすく、乾燥が不十分なうちに不用意な力が加わると光学的欠点に成りやすいため、工業的生産に難点がある。
【0035】
以上のようにして得られた偏光板は、アクリル系等の粘着剤をコートした後、ガラス基板に貼り合わせて液晶ディスプレイ装置の部品として使用される。ガラス基板に偏光板を貼り合わせる際に、位相差フィルム、視野角向上フィルム、輝度向上フィルム等を同時に貼り合わせてもよい。
【0036】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、実施例および比較例において、PVAフィルムの平均厚み、誘電加熱ロールの表面温度、偏光フィルムの光学性能、および偏光板の色斑をは以下の方法により評価した。
【0037】
PVAフィルムの平均厚み:
接触式厚み計(K−402B、ヘッドサイズ5mm、アンリツ社製)を用いてPVAフィルムの幅方向の厚みを連続測定し、平均値を求めた。
【0038】
誘電加熱ロールの表面温度:
ロール表面にPVAフィルムを巻付け、その外側に測温抵抗体を張りつけて測定した。フィルムの幅方向の測定ピッチは100mmで30秒間測定した。
【0039】
偏光フィルムの光学性能:
約4cm×4cmの偏光フィルムのサンプルを島津製作所製の分光光度計UV−2200(積分球付属)を用い、日本電子機械工業会規格(EIAJ)LD−201−1983に準拠して、C光源、2度視野の可視光領域の視感度補正したY値を測定し、偏光フィルムの延伸軸方向に対して45度と−45度方向の平均値から透過率を求めた。これと同様の方法でパラレルニコルとクロスニコルのY値を測定し、偏光度を求めた。
【0040】
偏光板の色斑:
全幅の偏光板を観察用偏光板(平行に2枚重ねたもの、偏光度99.99%以上)の間に直交方向に置き、色斑の程度を目視観察で判定した。
【0041】
実施例1
けん化度99.95モル%、重合度2400のPVA100重量部に、グリセリン10重量部および水170重量部を含浸させたものを溶融混練し、脱泡後、Tダイから金属ロールに溶融押出し、製膜した。その後、乾燥・熱処理してPVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムは幅が3mであり、平均厚みが38μmであった。
前記したPVAフィルムを延伸ロールとして誘電加熱ロールを用いた乾式法による一軸延伸、染色、固定処理、乾燥、熱処理の順番で連続的に処理して偏光フィルムを作成した。PVAフィルムを105.2℃の温度に設定した延伸ロールを用いて4.5倍に一軸延伸を行ない、緊張状態に保ったまま、ヨウ素濃度0.8g/リットル、ヨウ化カリウム濃度40g/リットル、ホウ酸60g/リットルの55℃の水溶液中に1分間浸した。次に、ヨウ化カリウム濃度60g/リットル、ホウ酸濃度60g/リットルの55℃の水溶液中に5分間浸漬して固定処理を行った。その後、20℃の蒸留水で10秒間水洗した後、定長下、40℃で熱風乾燥し、さらに100℃で5分間熱処理を行った。誘電加熱ロールはヒートパイプを内蔵し、断熱カバーを設置してあり、表面の温度は105℃〜105.4℃の範囲であった。得られた偏光フィルムの偏光性能は、透過率44.61%、偏光度99.06%、2色性比45.87であった。
得られた偏光フィルムを10%のPVA水溶液の接着剤を用いて、トリアセテートフィルムと貼り合わせ、偏光板を得た。偏光板の色斑を観察したところ、偏光板の全面にわたって色斑はなく良好であった。この偏光板を液晶ディスプレイ装置に組み込んだところ、色斑はなく良好であった。
【0042】
実施例2
けん化度99.95モル%、重合度2400のPVA100重量部に、グリセリン10重量部および水170重量部を含浸させたものを溶融混練し、脱泡後、Tダイから金属ロールに溶融押出し、製膜した。その後、乾燥・熱処理してPVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムは幅が3mであり、平均厚みが38μmであった。
前記したPVAフィルムを延伸ロールとして誘電加熱ローラーを用いた乾式法による一軸延伸、染色、固定処理、乾燥、熱処理の順番で連続的に処理して偏光フィルムを作成した。PVAフィルムを105.5℃の温度に設定した延伸ロールを用いて4.5倍に一軸延伸を行ない、緊張状態に保ったまま、ヨウ素濃度0.8g/リットル、ヨウ化カリウム濃度40g/リットル、ホウ酸60g/リットルの55℃の水溶液中に1分間浸した。次に、ヨウ化カリウム濃度60g/リットル、ホウ酸濃度60g/リットルの55℃の水溶液中に5分間浸漬して固定処理を行った。その後、20℃の蒸留水で10秒間水洗した後、定長下、40℃で熱風乾燥し、さらに100℃で5分間熱処理を行った。誘電加熱ロールはヒートパイプを内蔵しているが、断熱カバーを外してあり、表面の温度は105℃〜105.9℃の範囲であった。得られた偏光フィルムの偏光性能は、透過率44.73%、偏光度98.92%、2色性比45.40であった。
得られた偏光フィルムを10%のPVA水溶液の接着剤を用いて、トリアセテートフィルムと貼り合わせ、偏光板を得た。偏光板の色斑を観察したところ、偏光板全面にわたって色斑はなく良好であった。この偏光板を液晶ディスプレイ装置に組み込んだところ、弱い色斑が見られたが比較的小さく良好であった。
【0043】
実施例3
けん化度99.95モル%、重合度2400のPVA100重量部に、グリセリン10重量部および水170重量部を含浸させたものを溶融混練し、脱泡後、Tダイから金属ロールに溶融押出し、製膜した。その後、乾燥・熱処理してPVAフィルムを得た。PVAフィルムは幅が3mであり、平均厚みが38μmであった。
前記したフィルムを延伸ロールとして誘電発熱ローラーを用いた乾式法による一軸延伸、染色、固定処理、乾燥、熱処理の順番で連続的に処理して偏光フィルムを作成した。PVAフィルムを106.0℃の温度に設定した延伸ロールを用いて4.5倍に一軸延伸を行ない、緊張状態に保ったまま、ヨウ素濃度0.8g/リットル、ヨウ化カリウム濃度40g/リットル、ホウ酸60g/リットルの55℃の水溶液中に1分間浸した。次に、ヨウ化カリウム濃度60g/リットル、ホウ酸濃度60g/リットルの55℃の水溶液中に5分間浸漬して固定処理を行った。その後、20℃の蒸留水で10秒間水洗した後、定長下、40℃で熱風乾燥し、さらに100℃で5分間熱処理を行った。誘電加熱ロールは試作品でヒートパイプが無く、断熱カバーも設置しておらず、表面の温度は105℃〜106.8℃の範囲であった。得られた偏光フィルムの偏光性能は、透過率44.85%、偏光度98.77%、2色性比45.03であった。
得られた偏光フィルムを10%のPVA水溶液の接着剤を用いて、トリアセテートフィルムと貼り合わせ、偏光板を得た。偏光板の色斑を観察したところ、偏光板の全面にわたって流れ方向に目視観察で判別可能な色斑が存在したが、許容できる範囲であった。この偏光板を液晶ディスプレイ装置に組み込んだところ、色斑は目視観察の場合より大きくなったが、許容できる下限であった。
【0044】
実施例4
けん化度99.95モル%、重合度2400のPVA100重量部に、グリセリン10重量部および水170重量部を含浸させたものを溶融混練し、脱泡後、Tダイから金属ロールに溶融押出し、製膜した。その後、乾燥・熱処理してPVAフィルムを得た。PVAフィルムは幅が3mであり、平均厚みが38μmであった。
前記したPVAフィルムを延伸ロールとして誘電発熱ローラーを用いた乾式法による一軸延伸、染色、固定処理、乾燥、熱処理の順番で連続的に処理して偏光フィルムを作成した。PVAフィルムを105.7℃の温度に設定した延伸ロールを用いて4.5倍に一軸延伸を行ない、緊張状態に保ったまま、ヨウ素濃度0.8g/リットル、ヨウ化カリウム濃度40g/リットル、ホウ酸60g/リットルの55℃の水溶液中に1分間浸した。次に、ヨウ化カリウム濃度60g/リットル、ホウ酸濃度60g/リットルの55℃の水溶液中に5分間浸漬して固定処理を行った。この後、20℃の蒸留水で10秒間水洗した後、定長下、40℃で熱風乾燥し、さらに100℃で5分間熱処理を行った。誘電加熱ロールは試作品でヒートパイプが無いが、断熱カバーを設置しており、表面の温度は105℃〜106.3℃の範囲であった。得られた偏光フィルムの偏光性能は、透過率44.79%、偏光度98.85%、2色性比45.22であった。
得られた偏光フィルムを10%のPVA水溶液の接着剤を用いて、トリアセテートフィルムと貼り合わせ、偏光板を得た。偏光板の色斑を観察したところ、偏光板の全面にわたって目視観察でなんとか判別できる色斑は小さく良好であった。この偏光板を液晶ディスプレイ装置に組み込んだところ、色斑は目視観察の場合より大きくなったが比較的小さく良好であった。
【0045】
比較例1
けん化度99.95モル%、重合度2400のPVA100重量部に、グリセリン10重量部および水120重量部を含浸させたものを溶融混練し、脱泡後、金属ロールに溶融押出し、製膜した。その後、乾燥・熱処理してPVAフィルムを得た。PVAフィルムは幅が3mであり、平均厚みが38μmであった。
前記したPVAフィルムを延伸ロールとしてスチームローラーを用いた乾式法による一軸延伸、染色、固定処理、乾燥、熱処理の順番で連続的に処理して偏光フィルムを作成した。PVAフィルムを106.4℃の温度に設定した延伸ロールを用いて4.5倍に一軸延伸を行ない、緊張状態に保ったまま、ヨウ素濃度0.8g/リットル、ヨウ化カリウム濃度40g/リットル、ホウ酸60g/リットルの55℃の水溶液中に1分間浸した。次に、ヨウ化カリウム濃度60g/リットル、ホウ酸濃度60g/リットルの55℃の水溶液中に5分間浸漬して固定処理を行った。その後、20℃の蒸留水で10秒間水洗した後、定長下、40℃で熱風乾燥し、さらに100℃で5分間熱処理を行った。スチームローラーには断熱カバーを設置しておらず、表面の温度は105.0℃〜107.7℃の範囲であった。得られた偏光フィルムの偏光性能は、透過率44.95%、偏光度98.57%、2色性比44.18であった。
得られた偏光フィルムを10%のPVA水溶液の接着剤を用いて、トリアセテートフィルムと貼り合わせ、偏光板を得た。偏光板の色斑を観察したところ、偏光板の全面にわたって流れ方向にスジ状の目視観察で目立つ色斑が存在し、商品レベルの偏光板として不適であった。この偏光板を液晶ディスプレイ装置に組み込んだところ、流れ方向の色斑が目視で認識可能であり、液晶ディスプレイ装置として不適であった。
【0046】
【発明の効果】
本発明によれば、比較的厚みの薄いポリビニルアルコールフィルムを用いた場合でも、色斑が少ない偏光フィルムを製造することができ、このようにして得られる偏光フィルムはその優れた特性を活かして、表示画面が大型化している液晶ディスプレイ装置の部品として有効に用いることができる。
Claims (2)
- 厚さが10〜50μmのポリビニルアルコールフィルムを、表面温度が70℃〜120℃、表面温度斑が±1℃以下である誘電加熱ロールを用いて、乾式法で延伸することを特徴とする偏光フィルムの製造法。
- 誘電加熱ロールがヒートパイプを内蔵していることを特徴とする請求項1に記載の偏光フィルムの製造法。
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