JP4103505B2 - 電気自動車およびこれに搭載された電動機の制御方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気自動車およびこれに搭載された電動機の制御方法に関し、詳しくは、駆動輪に接続された駆動軸に動力を出力可能な電動機を備える電気自動車およびこれに搭載された電動機の制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種の電気自動車としては、駆動軸にトルクを出力する電動機に印加される電流値が所定値以上となったときには電動機の制御における積分動作を停止すると共に制御量を増減または固定するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この電気自動車では、こうした制御を行なうことにより駆動輪の空転時に電動機に過大電流が印加されるのを防止している。
【0003】
【特許文献1】
特開2000−50419号公報(第4〜5頁)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この電気自動車では、電動機に印加される電流値のみによって電動機の過負荷を判断するため、電流値として検出される検出信号にノイズが混入したときや検出誤差などにより誤判断が生じる場合がある。また、駆動輪の空転に基づいて電動機に印加される電流が所定値以上となったときには、単に電動機に過大電流が印加されるのを防止するだけでなく、駆動輪の空転を迅速に収束させると共に駆動輪の空転の収束時でも運転者の意思を反映したものとする必要もある。
【0005】
本発明の電気自動車およびこれに搭載された電動機の制御方法は、誤判断を抑止してより適正に電動機に過大電流が印加されるのを防止することを目的の一つとする。また、本発明の電気自動車およびこれに搭載された電動機の制御方法は、駆動輪の空転を迅速に収束させることを目的の一つとする。さらに、本発明の電気自動車およびこれに搭載された電動機の制御方法は、駆動輪の空転の収束時においても運転者の意思を反映したトルクが駆動軸に出力されるようにすることを目的の一つとする。
【0006】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
本発明の電気自動車およびこれに搭載された電動機の制御方法は、上述の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の電気自動車は、
駆動輪に接続された駆動軸に動力を出力可能な電動機を備える電気自動車であって、
運転者の操作と車両の走行状態に基づいて前記電動機から前記駆動軸にトルクが出力されるよう該電動機を駆動制御する駆動制御手段と、
前記電動機に印加される電流値を検出する電流値検出手段と、
該検出された電流値の単位時間当たりの変化量を演算する変化量演算手段と、
を備え、
前記駆動制御手段は、前記電流値検出手段により検出された電流値が所定電流値以上で前記変化量演算手段により演算された変化量が所定変化量以上であるときには、前記電動機から前記駆動軸に出力するトルクを制限する手段である
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明の電気自動車では、電動機に印加される電流値が所定電流値以上でこの電流値の単位時間当たりの変化量が所定変化量以上であるときには、電動機から駆動軸に出力するトルクを制限するから、電動機に印加される電流値のみによって判定するものに比してノイズや検出誤差に基づく誤判定を抑止してより適正に電動機に過大電流が印加されるのを防止することができる。また、トルク制限がなされても、運転者の操作と車両の走行状態に基づいたトルクがトルク制限の範囲内であれば、そのトルクが電動機から駆動軸に出力されるから、運転者の意思を反映させることができる。
【0009】
こうした本発明の電気自動車において、前記駆動制御手段は、前記検出された電流値に基づいて第1トルク上限値を設定し、前記電動機から前記駆動軸に出力するトルクを該設定した第1トルク上限値以下となるよう制限する手段であるものとすることもできる。こうすれば、電動機に印加される電流値に基づいて電動機から駆動軸に出力するトルクを制限することができる。
【0010】
この電流値に基づいて設定された第1トルク上限値を用いてトルク制限する態様の本発明の電気自動車において、前記駆動制御手段は、前記検出された電流値が大きいほど小さくなる傾向で前記第1トルク上限値を設定する手段であるものとすることもできる。こうすれば、電動機に印加される電流値が大きいほど、駆動軸の空転時には空転の程度が大きいほど第1トルク上限値を設定するから、駆動軸の空転を迅速に収束させることができる。
【0011】
また、電流値に基づいて設定された第1トルク上限値を用いてトルク制限する態様の本発明の電気自動車において、前記駆動軸の回転角加速度を検出する回転角加速度検出手段と、該検出された回転角加速度に基づいて前記駆動輪の空転によるスリップを検出するスリップ検出手段とを備え、前記駆動制御手段は、前記スリップ検出手段によりスリップが検出されたときには、前記回転角加速度検出手段により検出された回転角速度に基づいて第2トルク上限値を設定し、該設定された第2トルク上限値以下となるよう前記電動機から前記駆動軸に出力するトルクを制限する手段であるものとすることもできる。こうすれば、駆動軸の回転角加速度に基づいて駆動輪の空転を迅速に収束させることができる。この態様の本発明の電気自動車において、前記駆動制御手段は、前記第1トルク上限値の設定の際に用いる電流値とトルク上限値との関係と前記第2トルク上限値の設定の際に用いる回転角加速度とトルク上限値との関係とを同一の関係として共用して前記第1トルク上限値と前記第2トルク上限値とを設定する手段であるものとすることもできる。こうすれば、第1トルク上限値と第2トルク上限値とを同一の関係に基づいて設定することができるから、別個の関係を記憶する必要がなく、制御の簡素化を図ることができる。
【0012】
本発明の電動機の制御方法は、
車両に搭載され駆動輪に接続された駆動軸に動力を出力可能な電動機の制御方法であって、
前記電動機に印加される電流値を検出し、
該検出された電流値の単位時間当たりの変化量を演算し、
前記検出された電流値が所定電流値未満か前記演算された変化量が所定変化量未満のときには運転者の操作と車両の走行状態に基づいて前記電動機から前記駆動軸にトルクが出力されるよう該電動機を駆動制御し、前記検出された電流値が所定電流値以上で前記演算された変化量が所定変化量以上のときには前記運転者の操作と車両の走行状態に基づいて前記電動機から前記駆動軸に出力されるトルクを前記検出された電流値に基づいて設定されるトルク上限値以下となるよう制限して該電動機から前記駆動軸にトルクが出力されるよう該電動機を駆動制御する
ことを要旨とする。
【0013】
この本発明の電動機の制御方法によれば、電動機に印加される電流値が所定電流値以上でこの電流値の単位時間当たりの変化量が所定変化量以上であるときに電動機から駆動軸に出力するトルクを制限するから、電動機に印加される電流値のみによって判定するものに比してノイズや検出誤差に基づく誤判定を抑止してより適正に電動機に過大電流が印加されるのを防止することができる。また、トルク制限は電動機に印加された電流値に基づいて設定されるトルク上限値によって行なわれるから、駆動輪の空転時には空転が迅速に収束するようにトルク上限値を設定することにより空転を迅速に収束させることができる。さらに、トルク制限がなされても、運転者の操作と車両の走行状態に基づいたトルクがトルク制限の範囲内であれば、そのトルクが電動機から駆動軸に出力されるから、運転者の意思を反映させることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を実施例を用いて説明する。図1は、本発明の一実施例である電気自動車10の構成の概略を示す構成図である。実施例の電気自動車10は、図示するように、バッテリ16からインバータ回路14を介して供給された電力を用いて駆動輪18a,18bに接続された駆動軸に動力の出力が可能なモータ12と、車両全体をコントロールする電子制御ユニット40とを備える。
【0015】
モータ12は、例えば、電動機として機能すると共に発電機としても機能する周知の同期発電電動機として構成され、インバータ回路14は、バッテリ16からの電力をモータ12の駆動に適した電力に変換する複数のスイッチング素子により構成されている。
【0016】
電子制御ユニット40は、CPU42を中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPU42の他に処理プログラムを記憶したROM44と、一時的にデータを記憶するRAM46と、入出力ポート(図示せず)とを備える。この電子制御ユニット40には、インバータ回路14からモータ12への電力ラインに取り付けられた電流センサ15からのモータ電流Imや駆動軸に取り付けられた回転角センサ22により検出されたモータ12の回転軸の回転角θ、車速センサ24により検出される電気自動車10の車速V、車輪速センサ26a,26b,28a,28bにより検出される駆動輪18a,18bの車輪速Vf1,Vf2および従動輪19a,19bの車輪速Vr1,Vr2、シフトレバー31のポジションを検出するシフトポジションセンサ32からのシフトポジション、アクセルペダル33の踏み込み量に応じたアクセル開度Accを検出するアクセルペダルポジションセンサ34からのアクセル開度Acc、ブレーキペダル35の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ36からのブレーキ踏込量などが入力ポートを介して入力されている。また、電子制御ユニット40からは、モータ12を駆動制御するインバータ回路14のスイッチング素子へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、電流センサ15により検出される電流はモータ12のuvwの各相の相電流であるが、実施例では、説明の容易のために、モータ電流Imについては実効値、即ち、バッテリ16の放電電流と同意として扱うものとする。
【0017】
次に、こうして構成された実施例の電気自動車10の動作、特にモータ電流Imが過大にならないようモータ12を制御する際の動作について説明する。図2は、実施例の電子制御ユニット40により実行されるモータ駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば、8msec毎)に繰り返し実行される。
【0018】
モータ駆動制御ルーチンが実行されると、電子制御ユニット40のCPU42は、まず、アクセルペダルポジションセンサ34からのアクセル開度Accや車速センサ24からの車速V、回転角センサ22の回転角θに基づいて算出されるモータ回転数Nm、電流センサ15からのモータ電流Imなどを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、車速Vについては、実施例では、車速センサ24により検出されたものを用いたが、車輪速センサ26a,26b,28a,28bにより検出される車輪速Vf1,Vf2,Vr1,Vr2から算出するものとしても構わない。
【0019】
次に、入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいてモータ12の要求トルクTm*を設定する(ステップS102)。モータ要求トルクTm*の設定は、実施例では、アクセル開度Accと車速Vとモータ要求トルクTm*との関係を予め求めて要求トルク設定マップとしてROM44に記憶しておき、アクセル開度Accと車速Vとが与えられると、マップから対応するモータ要求トルクTm*を導出するものとした。この要求トルク設定マップの一例を図3に示す。
【0020】
こうしたモータ要求トルクTm*を設定すると、ステップS100で読み込んだモータ電流Imに基づいてモータ12から出力するトルクの上限値であるトルク上限値Tmax1を設定し(ステップS104)、設定したトルク上限値Tmax1以下となるようモータ要求トルクTm*を制限する(ステップS106,S108)。ここで、トルク上限値Tmax1の設定は、図4に例示するトルク上限値設定処理ルーチンに基づいて行なわれる。このルーチンが実行されると、まず、モータ電流Imの変化量dIを計算する処理を実行する(ステップS130)。変化量dIの計算は、実施例では、今回のルーチンで入力されたモータ電流Imから前回のルーチンで入力された前回モータ電流Imを減じる(現モータ電流Im−前回モータ電流Im)ことにより行なうものとした。この変化量dIは、モータ電流Imの時間変化率と同様に考えることができ、その単位は本ルーチンの実行時間間隔は8msecであるから、[A/8msec]となる。勿論、モータ電流Imの時間変化率として示すことができれば、如何なる単位を採用するものとしても構わない。こうして変化量dIを計算すると、モータ電流Imを閾値Irefと比較すると共に(ステップS132)、計算した変化量dIを閾値dIrefと比較する(ステップS134)。ここで、閾値Irefは、モータ12のトルク制限を開始する電流値の下限として設定されており、モータ12の定格電流より小さな値、例えばその80%の値などを用いることができる。また、閾値dIrefは、モータ12のトルク制限を開始するモータ電流Imの変化量の下限として設定されており、例えば車両がグリップ走行している際に通常生じるモータ電流Imの変化量より大きな値を用いることができる。モータ電流Imが閾値Iref未満か変化量dIが閾値dIref未満のときには、モータ12のトルク制限の必要はないと判断してモータ12の定格トルクをトルク上限値Tmax1に設定して(ステップS136)、このルーチンを終了し、モータ電流Imが閾値Iref以上で変化量dIが閾値dIref以上のときには、モータ12のトルク制限が必要と判断してモータ電流Imに基づいてトルク上限値Tmax1を設定して(ステップS138)、このルーチンを終了する。トルク上限値Tmax1は、実施例では、図5に例示するトルク上限値設定マップを用いて設定するものとした。図5の例では、モータ電流Imが大きくなるほど小さな値のトルク上限値Tmaxが導出されてトルク上限値Tmax1として設定され、モータ電流Imがモータ12の定格電流(定格最大電流)Imaxに至るとトルク上限値Tmax1は値0に設定される。これにより、モータ12に過大電流が印加されるのをより確実に防止することができる。なお、図5に例示したトルク上限値設定マップは、後述する回転角加速度αによるトルク上限値Tmax2の設定やトルク制限量δ1によるトルク上限値Tmax3の設定にも用いられる。
【0021】
続いて、ステップS100で入力したモータ回転数Nmに基づいて回転角加速度αを計算し(ステップS110)、計算した回転角加速度αに基づいて駆動輪18a,18bのスリップ状態を判定する(ステップS112)。このスリップ状態の判定は、図6のスリップ状態判定処理ルーチンに基づいて行なわれる。このスリップ状態判定処理ルーチンが実行されると、まず、図2のルーチンのステップS110で計算された回転角加速度αが、空転によるスリップが発生したとみなすことのできる閾値αslipを超えているか否かを判定する(ステップS140)。回転角加速度αが閾値αslipを超えていると判定されたときには、駆動輪18a,18bにスリップが発生したと判断して、スリップの発生を示すスリップ発生フラグF1を値1にセットして(ステップS142)、本ルーチンを終了する。一方、回転角加速度αが閾値αslipを超えていないと判定されたときには、次にスリップ発生フラグF1の値を調べる(ステップS144)。スリップ発生フラグF1が値1のときには、回転角加速度αが負の値であり且つそれが所定時間継続しているか否かを判定し(ステップS146)、回転角加速度αが負の値であり且つそれが所定時間継続したと判定されたときには駆動輪18a,18bに発生したスリップは収束したと判断してスリップ収束フラグF2に値1をセットして(ステップS148)、本ルーチンを終了する。スリップ発生フラグF1が値1であって、回転角加速度αが負の値でないと判定されたり、回転角加速度αが負の値であってもそれが所定時間継続していないと判定されたときには、発生したスリップは未だ収束していないと判断してそのまま本ルーチンを終了する。
【0022】
こうした図6のスリップ状態判定処理ルーチンによりスリップ発生フラグF1やスリップ収束フラグF2がセットされると、このスリップ発生フラグF1とスリップ収束フラグF2とに基づいてスリップ発生時やスリップ収束時が判定され(ステップS114)、判定結果に応じた処理(ステップS116,S118)、即ち、スリップ発生フラグF1が値1でスリップ収束フラグF2が値0のスリップ発生時と判定されたときにはスリップ発生時処理を行ない(ステップS116)、スリップ発生フラグF1とスリップ収束フラグF2とが共に値1の発生したスリップが収束していると判定されたときにはスリップ収束時処理を行なって(ステップS118)、最終的に得られたモータ要求トルクTm*でモータ12が駆動されるようモータ12を駆動制御して(ステップS120)、モータ駆動制御ルーチンを終了する。
【0023】
ステップS116のスリップ発生時処理は、図7に例示するスリップ発生時制御ルーチンにより行なわれる。このルーチンが実行されると、まず、回転角加速度αがピーク値αpeakを超えているか否かを判定し(ステップS150)、回転角加速度αがピーク値αpeakを超えていると判定されたときにはピーク値αpeakの値を回転角加速度αに更新する処理を行なう(ステップS152)。ここで、ピーク値αpeakは、基本的には、スリップにより回転角加速度αが上昇してピークを示すときの回転角加速度の値であり、初期値として値0が設定されている。したがって、回転角加速度αが上昇してピークに達するまでの間はピーク値αpeakを回転角加速度αの値に順次更新していき、回転角加速度αがピークに達した時点でその回転角加速度αがピーク値αpeakとして固定されることになる。こうしてピーク値αpeakが設定されると、このピーク値αpeakに基づいてモータ12が出力できるトルクの上限であるトルク上限値Tmax2を設定する処理を行なう(ステップS154)。このトルク上限値Tmax2の設定は、上述したモータ電流Imに基づいてトルク上限値Tmax1を設定する際に用いた図5に例示したトルク上限値設定マップを用いて行なわれる。このマップでは、図示するように、回転角加速度のピーク値αpeekが大きくなるほどトルク上限値Tmaxは小さくなる特性を有している。したがって、回転角加速度αが上昇してピーク値αpeakが大きくなるほど、即ちスリップの程度が大きいほど、トルク上限値Tmax2として小さな値が設定され、その分モータ12から出力されるトルクが制限されることになる。トルク上限値Tmax2が設定されると、モータ要求トルクTm*を設定したトルク上限値Tmax2で制限して(ステップS236,S238)、本ルーチンを終了する。こうした処理により、スリップ発生時においてモータ12から出力されるトルクは、スリップを抑制するための低いトルク(具体的には、図5のマップにおいて回転角加速度のピーク値αpeakに対応するトルク上限値Tmax)に制限されるから、スリップを効果的に抑制することができる。
【0024】
ステップS118のスリップ収束時処理は、図8に例示するスリップ収束時制御ルーチンにより行なわれる。このルーチンが実行されると、まず、トルク制限量δ1(単位は、回転角加速度と同じ単位の[rpm/8msec])を入力する処理を行なう(ステップS160)。ここで、トルク制限量δ1は、スリップ発生時制御において角加速度のピーク値αpeakに対応して設定されたトルク上限値Tmaxを引き上げてトルク制限から復帰させる際の復帰の度合いを設定するために用いるパラメータであり、図9のトルク制限量設定処理ルーチンに基づいて設定される。このトルク制御量設定処理ルーチンは、図6に例示するスリップ状態判定処理ルーチンのステップS142でスリップ発生フラグF1に値1がセットされたとき(即ち、回転角加速度αが閾値αslipを超えたとき)に実行される。このルーチンでは、回転角センサ22により検出された回転角θに基づいて算出されたモータ回転数Nmを入力し、入力したモータ回転数Nmに基づいて回転角加速度αを計算し、回転角加速度αが閾値αslipを超えた時点からの回転角加速度αの時間積分値αintを計算する処理を回転角加速度αが閾値αslip未満になるまで繰り返す(ステップS180〜S186)。回転角加速度αの時間積分値αintの計算は、実施例では、次式(1)を用いて行なうものとした。ここで、Δtは本ルーチンのステップS180〜S186の繰り返しの実行時間間隔であり、実施例では8msecである。
【0025】
【数1】
αint←αint+(α−αslip)・Δt (1)
【0026】
そして、回転角加速度αが閾値αslip未満となると、計算した時間積分値αintに所定の係数k1を乗じてトルク制限量δ1を設定して(ステップS188)、本ルーチンを終了する。なお、このルーチンでは、トルク制限量δ1は、所定の係数k1を用いて計算により求めたが、トルク上限値Tmaxと時間積分値αintとの関係を示すマップを用意しておき、計算された時間積分値αintからマップを適用して導出するものとしても構わない。
【0027】
図8のスリップ収束時制御ルーチンに戻って、こうして設定されたトルク制限量δ1を入力すると、トルク制限量δ1を解除する解除要求を入力し(ステップS162)、解除要求があったか否かを判定する(ステップS164)。この処理は、トルク制限からの復帰の度合いを設定する際に用いるパラメータであるトルク制限量δ1を解除(復帰の度合いを徐々に大きく)するための要求の入力があったか否かを判定する処理であり、実施例では、本ルーチンが最初に実行されてから所定の待機期間が経過する度にゼロから一定の増加量だけ増加していくように設定される解除量Δδ1による解除の要求が入力されるものとした。なお、この待機期間や解除量Δδ1の増加量は、運転者自らによる解除の要求、例えば、運転者が欲するトルクの出力要求を表わすアクセル開度の大きさに応じて変更するものとしても構わない。解除要求が判定されると、ステップS160で入力したトルク制限量δ1から解除量Δδ1を減じてトルク制限量δ1を解除する(ステップS166)。解除要求が無いと判定されたとき、即ち本ルーチンの実行が開始されてから前述の所定の待機期間が経過するまでは、トルク制限量δ1の解除は行なわれない。
【0028】
続いて、トルク制限量δ1に基づいてモータ12が出力できるトルクの上限であるトルク上限値Tmax3を前述した図5のトルク上限値設定マップを用いて設定し(ステップS168)、設定したトルク上限値Tmax3でモータ要求トルクTm*を制限する(ステップS170,S172)。そして、トルク制限量δ1の値0以下に解除されたか否かを判定し(ステップS174)、値0以下に解除されたときにはスリップ発生フラグF1とスリップ収束フラグF2とを値0にリセットして(ステップS176)、本ルーチンを終了する。このように、回転角加速度αの時間積分値に応じて設定されたトルク制限量δ1に基づいてモータ12のトルクを制御するのは、発生したスリップが収束したときに、発生したスリップの状況に応じて適切な量のトルクを復帰させるためである。即ち、回転角加速度αの時間積分値が大きく、再スリップが発生しやすい状況では、スリップが収束したときに復帰させるトルクを低くし、回転角加速度αの時間積分値が小さく、再スリップが発生しにくい状況では、スリップが収束したときに復帰させるトルクを高くすることにより、過剰なトルクの制限を伴うことなくより確実に再スリップの発生を防止することができるのである。
【0029】
いま、駆動輪18a,18bの空転によるスリップが生じたときを考える。このスリップに対しては、図2のモータ駆動制御ルーチンでは、ステップS116のスリップ発生時処理によりトルク上限値Tmax2でモータ12のトルク制限が行なわれてスリップが抑制される。一方、駆動輪18a,18bの空転は、モータ12に印加されるモータ電流Imの急増として現われるから、モータ電流Imが閾値Iref以上となると共に変化量dIが閾値dIref以上となることによりトルク上限値Tmax1でモータ12のトルク制限も行なわれる。こうしたスリップ時にはトルク上限値Tmax1によるトルク制限とトルク上限値Tmax2によるトルク制限とが同時に行なわれることになるが、図2のモータ駆動制御ルーチンでは、トルク上限値Tmax1とトルク上限値Tmax2のいずれか小さい方でトルク制限がなされることになり、モータ12の過大電流の印加の防止とスリップの抑制と同時に行なわれる。なお、閾値Irefや閾値dIref,閾値αslipの値にもよるが、スリップによるモータ電流Imの急増の現象と回転角加速度αの変化の現象とのうちいずれの現象が速く現われるかによって、いずれのトルク上限値を用いて最初のトルク制限がなされるかが定まる。
【0030】
以上説明した実施例の電気自動車10によれば、モータ電流Imとその変化量dIとに基づいてモータ12に過大電流が流れないようにモータ12から出力されるトルクを制限するから、モータ電流Imに基づいて制御するだけのものに比して検出信号に混入し得るノイズや誤検出による誤判定を抑制することができる。即ち、より適格にモータ12に過大電流が印加されるおそれを判定して過大電流の印加を抑止することができるのである。しかも、モータ電流Imが大きくなるほど小さな値となるようトルク上限値Tmax1を設定してモータ12のトルクを制限するから、より確実にモータ12に過大電流が印加されるのを防止することができる。また、こうしたトルク制限下においても、トルク制限の範囲内で運転者の意思に応じたトルクをモータ12から駆動軸に出力させることができる。
【0031】
また、実施例の電気自動車10によれば、モータ12に過大電流が印加されるのを防止するためにモータ電流Imに基づいてトルク上限値Tmax1を設定する際に用いるトルク上限値設定マップと、空転によるスリップを抑制するために回転角加速度のピーク値αpeakに基づいてトルク上限値Tmax2を設定する際に用いるトルク上限値設定マップと、スリップの抑制のために制限されたモータ12のトルクを復帰させるときに過大なトルクが作用しないようにするためにトルク制限量δ1に基づいてトルク上限値Tmax3を設定する際に用いるトルク上限値設定マップとを共用するから、モータ12のトルク制限の処理を簡素化することができる。
【0032】
もとより、実施例の電気自動車10によれば、駆動輪18a,18bの空転によるスリップを迅速により確実に収束することができると共にスリップ抑制直後の再スリップをより確実に抑制することができる。また、こうしたスリップを抑制する制御におけるトルク制限下においても、トルク制限の範囲内で運転者の意思に応じたトルクをモータ12から駆動軸に出力させることができる。
【0033】
実施例の電気自動車10では、モータ12に過大電流が印加されるのを防止するためのトルク上限値Tmax1の設定や空転によるスリップを抑制するためのトルク上限値Tmax2の設定、モータ12のトルク復帰時のトルク上限値Tmax3の設定に図5に例示したトルク上限値設定マップを共用して用いるものとしたが、それぞれのトルク上限値の設定には、異なるトルク上限値設定マップを用いるものとしても差し支えない。
【0034】
実施例の電気自動車10では、モータ12の駆動制御をモータ12に過大電流が印加されるのを防止するためにトルク制限を行なう過大電流防止制御と駆動輪18a,18bの空転によるスリップを抑制するスリップ制御とを組み込んだものとしたが、過大電流防止制御は組み込むがスリップ制御は組み込まないものとしても差し支えない。この場合でも、上述したように、過大電流防止制御がそのまま駆動輪18a,18bの空転によるスリップを抑制する制御にも成り得るから、駆動輪18a,18bの空転によるスリップを抑制することができる。
【0035】
実施例では、駆動輪18a,18bに接続された駆動軸に直接的に動力の出力が可能に機械的に接続されたモータ12を備える自動車10におけるモータ12の制御として説明したが、駆動軸や車軸に直接的に動力の出力が可能な電動機を備える車両であれば、如何なる構成の車両に適用するものとしても構わない。例えば、エンジンと、エンジンの出力軸に接続されたジェネレータと、ジェネレータからの発電電力を充電するバッテリと、駆動輪に接続された駆動軸に機械的に接続されバッテリからの電力の供給を受けて駆動するモータとを備えるいわゆるシリーズ型のハイブリッド自動車に適用するものとしてもよい。この場合、モータは駆動軸に取り付けられる必要はなく、車軸に取り付けるものとしてもよいし、いわゆるホイールインモータのように駆動輪に直接取り付けるものとしてもよい。また、図12に示すように、エンジン111と、エンジン111に接続されたプラネタリギヤ117と、プラネタリギヤ117に接続された発電可能なモータ113と、同じくプラネタリギヤ117に接続されると共に駆動輪に接続された駆動軸に直接動力が出力可能に駆動軸に機械的に接続されたモータ112とを備えるいわゆる機械分配型のハイブリッド自動車110に適用することもできるし、図13に示すように、エンジンの211の出力軸に接続されたインナーロータ213aと駆動輪218a,218bに接続された駆動軸に取り付けられたアウターロータ213bとを有しインナーロータ213aとアウターロータ213bとの電磁的な作用により相対的に回転するモータ213と、駆動軸に直接動力が出力可能に駆動軸に機械的に接続されたモータ212と備えるいわゆる電気分配型のハイブリッド自動車210に適用することもできる。あるいは、図12に示すように、駆動輪318a,318bに接続された駆動軸に変速機314(無段変速機や有段の自動変速機など)を介して接続されたエンジン311と、エンジン311の後段であって駆動軸に変速機314を介して接続されたモータ312(または駆動軸に直接接続されたモータ)とを備えるハイブリッド自動車310に適用することもできる。このとき、駆動輪にスリップが発生したときの制御としては、トルクの出力応答性などから主に駆動軸に機械的に接続されたモータを制御することにより駆動軸に出力されるトルクを制限するが、このモータの制御と協調して他のモータを制御したりエンジンを制御したりするものとしてもよい。
【0036】
実施例では、モータ12の過大電流を防止するハイブリッド車として説明したが、モータ12の制御方法としての形態としてもよいのは勿論である。
【0037】
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例である電気自動車10の構成の概略を示す構成図である。
【図2】実施例の電子制御ユニット40により実行されるモータ駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】要求トルク設定マップの一例を示す説明図である。
【図4】トルク上限値設定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図5】トルク上限値設定マップの一例を示す説明図である。
【図6】スリップ状態判定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図7】スリップ発生時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図8】スリップ収束時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図9】トルク制限量設定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図10】ハイブリッド型の自動車110の構成の概略を示す構成図である。
【図11】ハイブリッド型の自動車210の構成の概略を示す構成図である。
【図12】ハイブリッド型の自動車310の構成の概略を示す構成図である。
【符号の説明】
10,110,210,310 電気自動車、12,112,212,312モータ、14,114 インバータ回路、15 電流センサ、16 バッテリ、18a,18b,118a,118b,218a,218b,318a,318b 駆動輪、19a,19b,119a,119b,219a,219b,319a,319b 従動輪、22 回転角センサ、24 車速センサ、26a,26b,28a,28b 車輪速センサ、31 シフトレバー、32 シフトポジションセンサ、33 アクセルペダル、34 アクセルポジションセンサ、35 ブレーキペダル、36 ブレーキペダルポジションセンサ、40 電子制御ユニット、42 CPU、44 ROM、46 RAM、111,211,311 エンジン、113 モータ、117 プラネタリギア,213a インナーロータ、213b アウターロータ、213 モータ、314 変速機。
Claims (2)
- 駆動輪に接続された駆動軸に動力を出力可能な電動機を備える電気自動車であって、
運転者の操作と車両の走行状態に基づいて前記電動機から前記駆動軸にトルクが出力されるよう該電動機を駆動制御する駆動制御手段と、
前記電動機に印加される電流値を検出する電流値検出手段と、
該検出された電流値の単位時間当たりの変化量を演算する変化量演算手段と、
前記駆動軸の回転角加速度を検出する回転角加速度検出手段と、
該検出された回転角加速度に基づいて前記駆動輪の空転によるスリップを検出するスリップ検出手段と、
を備え、
前記駆動制御手段は、前記電流値検出手段により検出された電流値が所定電流値以上で前記変化量演算手段により演算された変化量が所定変化量以上であるときには前記検出された電流値に基づいて第1トルク上限値を設定すると共に前記電動機から前記駆動軸に出力するトルクを該設定した第1トルク上限値以下となるよう制限し、前記スリップ検出手段によりスリップが検出されたときには前記回転角加速度検出手段により検出された回転角加速度に基づいて第2トルク上限値を設定すると共に該設定した第2トルク上限値以下となるよう前記電動機から前記駆動軸に出力するトルクを制限する手段であり、且つ、前記第1トルク上限値の設定の際に用いる電流値とトルク上限値との関係と前記第2トルク上限値の設定の際に用いる回転角加速度とトルク上限値との関係とを同一の関係として共用して前記第1トルク上限値と前記第2トルク上限値とを設定する手段である、
電気自動車。 - 前記駆動制御手段は、前記検出された電流値が大きいほど小さくなる傾向で前記第1トルク上限値を設定する手段である請求項1記載の電気自動車。
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