JP4062197B2 - 車両および車両の制御方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両およびその制御方法に関し、詳しくは、駆動輪に接続された駆動軸への動力の出力により走行可能な車両および蓄電装置の電力を用いて駆動輪に接続された駆動軸に動力を出力可能な電動機を備える車両の制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種の車両としては、駆動輪の回転角速度の変化率(回転角加速度)が所定値以上のときに駆動輪の空転によるスリップが発生したとして駆動軸に出力されるトルクを制限するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開平10−304514号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、こうした車両では、例えば、低μ路にける車両の発進時などにアクセルペダルを強く踏み込んだとき、駆動軸への要求トルクが急増して大きなトルクにより駆動輪が空転し、二次電池などの蓄電装置に過大電流が流れる場合がある。こうした問題は、電動機の最大出力に対して蓄電装置の最大出力の余裕が少ない電力系統、即ち過電流に対して余裕の少ない電力系統をもつ車両では、特に重要な問題として挙げられる。
【0005】
本発明の車両および車両の制御方法は、こうした問題を解決し、蓄電装置に過大電流が流れるのを防止することを目的の一つとする。また、本発明の車両および車両の制御方法は、蓄電装置に過大電流が流れるのを防止しながら運転者の意思を反映したトルクが駆動軸に出力されるようにすることを目的の一つとする。
【0006】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
本発明の車両および車両の制御方法は、上述の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の車両は、
駆動輪に接続された駆動軸への動力の出力により走行可能な車両であって、
蓄電装置の電力を用いて前記駆動軸に動力を出力可能な電動機と、
要求駆動力が前記駆動軸に出力されるよう前記電動機を駆動制御する駆動制御手段と
を備え、
前記駆動制御手段は、前記要求動力が急増したとき、前記駆動軸に出力される駆動力を一時的に制限してから前記要求駆動力が前記駆動軸に出力されるよう前記電動機を駆動制御する手段である
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明の車両では、駆動軸への要求駆動力が急増したとき、駆動軸に出力される駆動力を一時的に制限してから要求駆動力が駆動軸に出力されるよう蓄電装置の電力を用いて駆動軸に動力を出力する電動機を駆動制御する。したがって、大きな駆動力による駆動輪の空転により蓄電装置に過大電流が流れるのを防止することができると共に要求駆動力に対処することができる。
【0009】
こうした本発明の車両において、前記駆動輪の空転によるスリップを検出するスリップ検出手段を備え、前記駆動制御手段は、前記駆動軸に出力される駆動力を制限している最中に前記スリップ検出手段によりスリップが検出されなかったときに該駆動力の制限を解除して前記要求駆動力が前記駆動軸に出力されるよう前記電動機を駆動制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、スリップの発生に伴って蓄電装置に過大電流が流れるのをより確実に防止することができる。この態様の本発明の車両において、前記駆動制御手段は、前記駆動軸に出力される駆動力を制限している最中に前記スリップ検出手段によりスリップが検出されたときには、前記駆動力の制限を継続して前記電動機を駆動制御する手段であるものとすることもできる。更に、この態様の本発明の車両において、前記駆動制御手段は、前記スリップ検出手段により検出されたスリップが収束したときに前記駆動力の制限の継続を解除して前記要求駆動力が前記駆動軸に出力されるよう前記電動機を駆動制御する手段であるものとすることもできる。
【0010】
また、本発明の車両において、前記駆動制御手段は、所定の初期トルクをもって前記駆動軸に出力される駆動力を制限する手段であるものとすることもできる。この態様の本発明の車両において、前記所定の初期トルクは、雪路などの低μ路においてスリップが発生しうるトルク近傍の値として設定されてなるものとすることもできる。こうすれば、低μ路で要求駆動力が急増したときでもこれに対処することができる。
【0011】
更に、本発明の車両において、内燃機関と、該内燃機関からの動力の少なくとも一部を電力に変換して前記電動機に供給可能な発電手段とを備え、前記駆動制御手段は、前記駆動軸に出力される駆動力を制限している最中に前記内燃機関の運転が開始されたときには、該駆動力の制限を解除する手段であるものとすることもできる。内燃機関の運転中は、蓄電装置からの電力に加えて発電手段による発電電力も用いることができ、蓄電装置の過電流のおそれも少ない。したがって、内燃機関の運転が開始されたときには要求駆動力の急増に対する要求駆動力の制限を解除することにより、運転者の意思に反映した駆動力を迅速に駆動軸に出力することができる。
【0012】
本発明の車両の制御方法は、
蓄電装置の電力を用いて駆動輪に接続された駆動軸に動力を出力可能な電動機を備える車両の制御方法であって、
(a)要求駆動力が前記駆動軸に出力されるよう前記電動機を駆動制御するステップと、
(b)前記要求動力が急増したとき、前記駆動軸に出力される駆動力が一時的に制限されるよう前記電動機を駆動制御するステップと、
(c)前記駆動軸に出力される駆動力が制限されている最中に前記駆動輪の空転によるスリップを検出するステップと、
(d)前記ステップ(c)によりスリップが検出されなかったときに前記ステップ(b)による駆動力の制限を解除して前記要求駆動力が前記駆動軸に出力されるよう前記電動機を駆動制御するステップと
を備えることを要旨とする。
【0013】
この本発明の車両の制御方法では、駆動軸への要求駆動力が急増したとき、駆動軸に出力される駆動力を一時的に制限すると共にスリップが検出されないことを確認してから要求駆動力が駆動軸に出力されるよう蓄電装置の電力を用いて駆動軸に動力を出力する電動機を駆動制御する。したがって、大きな駆動力による駆動輪の空転により蓄電装置に過大電流が流れるのを防止することができると共に要求駆動力に対処することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を実施例を用いて説明する。図1は、本発明の一実施例である動力出力装置を搭載したハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに取り付けられた減速ギヤ35と、この減速ギヤ35に接続されたモータMG2と、動力出力装置全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。
【0015】
エンジン22は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、エンジン22の運転状態を検出する各種センサから信号を入力するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24により燃料噴射制御や点火制御,吸入空気量調節制御などの運転制御を受けている。エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0016】
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構30は、キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1が、リングギヤ32にはリングギヤ軸32aを介して減速ギヤ35がそれぞれ連結されており、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構60およびデファレンシャルギヤ62を介して、最終的には車両の駆動輪63a,63bに出力される。
【0017】
モータMG1およびモータMG2は、いずれも発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。インバータ41,42とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2のいずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。したがって、バッテリ50は、モータMG1,MG2のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、モータMG1,MG2により電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ50は充放電されない。モータMG1,MG2は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0018】
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば,バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51からの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、バッテリECU52では、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)も演算している。
【0019】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0020】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。
【0021】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に、アクセルペダル83が大きく踏み込まれてリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクが急増したときの動作について説明する。図2は、実施例のハイブリッド自動車20のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行されるトルク急増時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、上述のモータ運転モードによる運転の最中にアクセルペダル83が大きく踏み込まれてリングギヤ軸32aへの要求トルクが急増したときから所定時間毎(例えば、8msec毎)に繰り返し実行される。リングギヤ軸32aへの要求トルクが急増したか否かは、例えば、アクセルペダルポジションセンサ84からの前回と今回のアクセル開度Accと車速センサ88からの前回と今回の車速Vとに基づいて設定されるリングギヤ軸32aへの要求トルクの変化に基づいて判定することができる。
【0022】
トルク急増時制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや車速センサ88からの車速V、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2など制御に必要なデータを入力し(ステップS100)、入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいてリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクTr*を設定する処理を行なう(ステップS102)。ここで、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2は、実施例では、回転位置検出センサ43,44に基づいて演算された回転数Nm1,Nm2をモータECU40から通信により入力するものとした。また、要求トルクTr*の設定は、実施例では、アクセル開度Accと車速Vと要求トルクTr*との関係を予め求めてマップとしてROM74に記憶しておき、アクセル開度Accと車速Vとが与えられると、マップから対応する要求トルクTr*を導出して行なうものとした。このマップの一例を図3に示す。
【0023】
次に、エンジン22の運転が開始されたか否かを判定する処理を行なう(ステップS104)。本ルーチンはモータ運転モードによる運転の最中に起動されるから、エンジン22の運転が開始されたか否かの判定は、本ルーチンが繰り返し実行している間にエンジン22の始動条件が成立してエンジン22が始動したか否かの判定となる。なお、始動条件が成立したか否かの判定は、リングギヤ軸32aに要求されるパワー(要求トルクTr*とリングギヤ軸32aの回転数Nrとの積)やバッテリ50の残容量SOCなどに基づいて行なわれる。エンジン22の運転が開始されたか否かを判定する理由については後述する。
【0024】
エンジン22の運転が開始されていないと判定されると、設定したリングギヤ軸32aの要求トルクTr*を減速ギヤ35のギヤ比Gr(モータMG2の回転数Nm2/リングギヤ軸32aの回転数Nr)で割ってモータMG2が出力すべきトルクとしてのトルク指令値Tm2*を設定し(ステップS106)、トルクガードフラグFgdが値1であるか否かを調べる(ステップS108)。ここで、トルクガードフラグFgdは、本ルーチンの実行が初回であるか否かを識別するためのフラグであり、後述するステップS112により値0から値1に設定される。いま、本ルーチンの実行が初回であるときを考えているから、トルクガードフラグFgdとしては値0が設定されており、ステップS108では否定的な判定がなされる。
【0025】
トルクガードフラグFgdが値1でないと判定されると、トルクガード値Tmaxとして初期トルクT0を設定する処理を行なう(ステップS110)。ここで、トルクガード値Tmaxは、バッテリ50に過大電流が流れるのを防止するために要求トルクTr*の増加に対する制限として設定される。図4は、モータMG2の出力特性とバッテリ50の出力制限Woutとの関係を示す説明図である。例えば、エンジン22を停止してバッテリ50からの出力だけでモータMG2から比較的大きなトルクを出力しているときに駆動輪63a,63bが空転してモータMG2の回転数が急増したとき、図4中の太線矢印で示すように、バッテリ50の出力制限Woutを超えてバッテリ50に過大電流が流れるおそれがある。本発明は、こうした大トルクによる駆動輪63a,63bの空転のおそれがある要求トルクTr*の急増時に事前にトルクガード値Tmaxを設定して要求トルクTr*に対して制限をかけることで、バッテリ50に過大電流が流れるのを防止しているのである。トルクガード値Tmaxとして設定される初期トルクT0は、実施例では、雪路などの低μ路でスリップが発生しうるトルクを実験的に求め、求めたトルクよりも若干大きなトルクとして設定するものとした。これにより、低μ路において急激なスリップの発生を防止してバッテリ50に過大電流が流れるのを効果的に防止することができる。初期トルクT0を設定すると、トルクガードフラグFgdを値1に設定すると共に(ステップS112)、タイマによる計時を開始する(ステップS114)。
【0026】
そして、ステップS106で設定したトルク指令値Tm2*を設定したトルクガード値Tmaxを上限としてガードする処理を行なうと共に(ステップS116)、トルクガード値Tmaxでガードした後のトルク指令値Tm2*をモータECU40に送信する処理を行なって(ステップS118)、本ルーチンを終了する。これによりトルク指令値Tm2*を受け取ったモータECU40は、トルク指令値Tm2*に見合うトルクがリングギヤ軸32aに出力されるようインバータ42のスイッチング素子をスイッチング制御する。
【0027】
本ルーチンの初回の実行によりトルクガードフラグFgdが値1に設定された後の次回の本ルーチンの実行により、ステップS108でトルクガードフラグFgdが値1であると判定されると、スリップ判定処理を行なう(ステップS120)。スリップ判定処理は、例えば、モータMG2の回転数Nm2を時間微分して得られるモータMG2の回転加速度が所定の閾値を上回ったか否かによりスリップが発生したか否かを判定したり、駆動輪63a,63bの回転速度と図示しない非駆動輪の回転速度とをそれぞれ図示しない車輪速センサにより検出すると共に検出した駆動輪63a,63bの回転速度と非駆動輪の回転速度との偏差が所定の閾値を上回ったか否かによりスリップが発生したか否かを判定したりすることができる。スリップ判定処理では、スリップが発生したと判定した後は発生したスリップが収束したか否かの判定が行なわれる。このとき、スリップの収束の判定に用いる条件は、スリップの発生の判定に用いる条件と同一の条件を用いてもよいし、異なる条件を用いてもよい。
【0028】
スリップ判定処理によりスリップが発生していないと判定されると、ステップS114でタイマによる計時が開始されてから所定時間trefが経過したか否かを判定し(ステップS124)、所定時間trefが経過していないと判定されると、ステップS110で初期トルクT0として設定されたトルクガード値Tmaxを所定のレート(Trate/8msec)をもって更新する処理、すなわちトルクガード値Tmaxを時間の経過と共に徐々に引き上げる処理を行なって(ステップS126)、ステップS106で設定したトルク指令値Tm2*を更新したトルクガード値Tmaxでガードすると共に(ステップS116)、ガード後のトルク指令値Tm2*をモータECU40に送信する処理を行なって(ステップS118)、本ルーチンを終了する。ステップS124でタイマによる計時が開始されてから所定時間trefが経過したと判定されると、タイマがスタートしてから所定時間に亘ってスリップが発生しておらずバッテリ50の過電流のおそれがないと判断し、トルクガードフラグFgdを値0に戻してトルクガードを解除する処理を行なって(ステップS128)、本ルーチンを終了する。これにより、上述した通常のモータ運転モードによる制御に戻り、トルクガード値TmaxによるガードのないモータMG2の駆動制御が実施されることになる。
【0029】
ステップS122において、タイマの計時が開始されてから所定時間trefが経過する前にスリップが発生したと判定されると、トルクガード値Tmaxを更新する処理を行なうことなく、前回のルーチンで設定または更新されたトルクガード値Tmaxが維持されてモータMG2が駆動制御されることになる。これにより、発生したスリップを早期に収束させることが可能となる。
【0030】
このトルクガード値Tmaxの維持によるトルク指令値Tm2*の制限の結果、ステップ122で発生したスリップが収束したと判定されたときには、ステップS124によりタイマによる計時が開始されてから所定時間trefが経過したと判定されたときに、トルクガードフラグFgdを値0に戻してトルクガードを解除する処理を行なって(ステップS128)、本ルーチンを終了する。
【0031】
ステップS104において、本ルーチンが繰り返し実行されている最中にエンジン22の始動条件が成立してエンジン22の運転が開始されたと判定されると、モータMG2は、バッテリ50からの蓄電電力と併せてエンジン22からの動力を用いて発電するモータMG1の発電電力によりリングギヤ軸32aにトルクを出力できバッテリ50に過大電流が流れるおそれは小さいと判断して、トルクガードフラグFgdを値0に戻してトルクガードを解除する処理を行なって(ステップS128)、本ルーチンを終了する。これにより、上述した通常のトルク変換運転モードや充放電運転モードによるエンジン22やモータMG1,MG2の駆動制御が実施されることになる。
【0032】
図5は、要求トルクTr*とスリップの発生がないときのモータMG2のトルク指令値Tm2*とスリップの発生があるときのモータMG2のトルク指令値Tm2*とにおける時間変化の様子を示す説明図である。まず、スリップの発生がないときの要求トルクTr*に対するモータMG2のトルク指令値Tm2*の時間変化の様子を説明し、その後、スリップの発生があるときの要求トルクTr*に対するモータMG2のトルク指令値Tm2*の時間変化の様子を説明する。スリップの発生がないときでは、時刻t0において車両の発進時などに運転者によりアクセルペダル83が強く踏み込まれて要求トルクTr*が急増したとき、まず、要求トルクTr*の急増に対してトルク指令値Tm2*が初期トルクT0に制限される(時刻t1)。そして、トルク指令値Tm2*を初期トルクT0に制限した時刻t1から時刻t2までの所定時間trefの間は、値Trateずつ徐々にトルク指令値Tm2*の引き上げが許容され、所定時間trefが経過した時刻t2の時点でトルクの制限が解除されて要求トルクTr*がトルク指令値Tm2*として設定される。一方、スリップの発生があるときでは、要求トルクTr*の急増に対してトルク指令値Tm2*が初期トルクT0に制限されそこから値Trateずつ徐々にトルク指令値Tm2*の引き上げが許容されるところまでは、スリップの発生がないときと同様であるが、スリップが発生すると(時刻t2)、発生したスリップが収束するまでスリップ発生時点(時刻t2)で制限されていたトルクの制限が維持される。発生したスリップが収束し且つ所定時間trefが経過すると、トルクの制限が解除され、要求トルクTr*がトルク指令値Tm2*として設定される(時刻t3)。
【0033】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、モータ運転モードによる運転中にアクセルペダル83が強く踏み込まれて要求トルクTr*が急増したとき、モータMG2から出力するトルクを一時的に制限して駆動輪63a,63bの空転によるスリップの発生の有無を確認し、スリップが発生していない場合にトルクの制限を解除して要求トルクTr*をモータMG2から出力するから、モータMG2からの大トルクによるスリップの発生によりバッテリ50に過大な電流が流れるのを防止することができる。しかも、モータMG2におけるトルクの制限にも拘わらずスリップが発生したときには、スリップが収束するまでトルクの制限を継続するから、バッテリ50に過大電流が流れるのをより確実に防止することができる。また、モータMG2から出力するトルクの制限の最中にエンジン22の運転が開始されたときにはトルクの制限を解除するから、エンジン22からの動力によるモータMG1の発電電力を用いることによりバッテリ50に過大電流が流れるおそれが小さいときに運転者によるトルクの要求に迅速に対処することができる。
【0034】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2のトルク指令値Tm2*の制限に用いるトルクガード値Tmaxを初期トルクT0に設定した後、駆動輪63a,63bの空転によるスリップが発生したか否かを判定すると共にスリップが発生していないと判定したときにトルクガードを解除するものとしたが、スリップの発生を行なわずにトルクガード値Tmaxを初期トルクT0に設定してから所定時間trefが経過したときにトルクガードを解除するものとしてもよい。
【0035】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2のトルク指令値Tm2*の制限に用いるトルクガード値Tmaxを初期トルクT0に設定してからトルクガードを解除するまでの間に亘ってトルクガード値Tmaxを徐々に引き上げるものとしたが、初期トルクT0に固定するものとしてもよい。
【0036】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2の制限に用いるトルクガード値Tmaxを初期トルクT0に設定した後、エンジン22の運転が開始されたときには所定時間trefの経過に拘わらず、トルクガードを解除するものとしたが、エンジン22の運転の開始に拘わらず所定時間trefの経過後にトルクガードを解除するものとしてもよい。
【0037】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2の動力を減速ギヤ35により変速してリングギヤ軸32aに出力するものとしたが、図6の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、モータMG2の動力をリングギヤ軸32aが接続された車軸(駆動輪63a,63bが接続された車軸)とは異なる車軸(図6における車輪64a,64bに接続された車軸)に接続するものとしてもよい。
【0038】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の動力を動力分配統合機構30を介して駆動輪63a,63bに接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力するものとしたが、図7の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、エンジン22のクランクシャフトに接続されたインナーロータ224aと駆動輪63a,63bに動力を出力する駆動軸に接続されたアウターロータ224bとを有し、エンジン22の動力の一部を駆動軸に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機224を備えるものとしてもよい。
【0039】
この他、図8の変形例のハイブリッド自動車320に例示するように、駆動輪63a,63bに接続された駆動軸に変速機326(無段変速機や有段の自動変速機など)を介して接続されたモータ324と、クラッチCLを介してモータ324の回転軸とクランクシャフトが接続されたエンジン22とを備えるハイブリッド自動車320に適用することもできるし、駆動輪に接続された駆動軸に取り付けられたモータを備える単純な電気自動車など種々の自動車に適用することもできる。また、こうした自動車の他、列車や航空機などの車両にも適用可能である。
【0040】
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例であるハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】 実施例のハイブリッド自動車20のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行されるトルク急増時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】 アクセル開度Accと車速Vと要求トルクTr*との関係を示すマップである。
【図4】 モータMG2の出力特性とバッテリ50の出力制限Woutとの関係を説明する説明図である。
【図5】 要求トルクTr*とスリップの発生がないときのモータMG2のトルク指令値Tm2*とスリップの発生があるときのモータMG2のトルク指令値Tm2*とにおける時間変化の様子を説明する説明図である。
【図6】 変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図7】 変形例のハイブリッド自動車220の構成の概略を示す構成図である。
【図8】 変形例のハイブリッド自動車320の構成の概略を示す構成図である。
【符号の説明】
20,120,220,320 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、35 減速ギヤ、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、51 温度センサ、52バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、60 ギヤ機構、62 デファレンシャルギヤ、63a,63b,64a,64b 駆動輪、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、224 対ロータ電動機、224a インナーロータ、224b アウターロータ、324 モータ、326 変速機、MG1,MG2 モータ、CL クラッチ。

Claims (6)

  1. 駆動輪に接続された駆動軸への動力の出力により走行可能な車両であって、
    蓄電装置の電力を用いて前記駆動軸に動力を出力可能な電動機と、
    要求駆動力が前記駆動軸に出力されるよう前記電動機を駆動制御する駆動制御手段と
    前記駆動輪の空転によるスリップを検出するスリップ検出手段と
    を備え、
    前記駆動制御手段は、前記要求駆動力が急増したとき、前記駆動軸に出力される駆動力が一時的に制限されるよう前記電動機を駆動制御し、前記駆動軸に出力される駆動力を制限している最中に前記スリップ検出手段によりスリップが検出されなかったときには該駆動力の制限を解除して前記要求駆動力が前記駆動軸に出力されるよう前記電動機を駆動制御し前記スリップ検出手段によりスリップが検出されたときには前記駆動力の制限が継続されるよう前記電動機を駆動制御する手段である
    車両。
  2. 前記駆動制御手段は、前記スリップ検出手段により検出されたスリップが収束したときに前記駆動力の制限の継続を解除して前記要求駆動力が前記駆動軸に出力されるよう前記電動機を駆動制御する手段である請求項記載の車両。
  3. 前記駆動制御手段は、所定の初期トルクをもって前記駆動軸に出力される駆動力を制限する手段である請求項1または2記載の車両。
  4. 前記所定の初期トルクは、雪路などの低μ路においてスリップが発生しうるトルク近傍の値として設定されてなる請求項記載の車両。
  5. 請求項1ないしいずれか1項に記載の車両であって、
    内燃機関と、
    該内燃機関からの動力の少なくとも一部を電力に変換して前記電動機に供給可能な電力変換供給手段と
    を備え、
    前記駆動制御手段は、前記駆動軸に出力される駆動力を制限している最中に前記内燃機関の運転が開始されたときには、該駆動力の制限を解除する手段である
    車両。
  6. 蓄電装置の電力を用いて駆動輪に接続された駆動軸に動力を出力可能な電動機を備える車両の制御方法であって、
    (a)要求駆動力が前記駆動軸に出力されるよう前記電動機を駆動制御するステップと、
    (b)前記要求動力が急増したとき、前記駆動軸に出力される駆動力が一時的に制限されるよう前記電動機を駆動制御するステップと、
    (c)前記駆動軸に出力される駆動力が制限されている最中に前記駆動輪の空転によるスリップを検出するステップと、
    (d)前記ステップ(c)によりスリップが検出されなかったときに前記ステップ(b)による駆動力の制限を解除して前記要求駆動力が前記駆動軸に出力されるよう前記電動機を駆動制御し、前記ステップ(c)によりスリップが検出されたときには前記駆動力の制限が継続されるよう前記電動機を駆動制御するステップと
    を備える車両の制御方法。
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