JP4101049B2 - 塗装成形物製造用金型および塗装成形物の製造方法 - Google Patents

塗装成形物製造用金型および塗装成形物の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は軽量で耐衝撃性に優れたノルボルネン系架橋重合体の成形に関するものである。さらに詳しくは、インモールドコーティング(IMC)法で塗装した成形物の製造を効果的に行うための技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
ノルボルネン系架橋重合体は、軽量で耐衝撃性が高いことから、自動車のバンパー、建機のカバー、医療機の外装品などに幅広く使われている。しかしノルボルネン系架橋重合体は分子構造中に二重結合を有しており、それが酸化されるため時間が経つにつれ変色する。そのためノルボルネン系架橋重合体は一般には重合体表面を塗装して使用する。
【0003】
しかし塗装は、ノルボルネン系架橋重合体が分子中に二重結合を持ちその一部が酸化され極性基をもった後でないと塗膜が密着しないので、通常、成形後塗装前に48時間以上放置する必要がある。しかしながらそのようにしても架橋重合体のベースはオレフィンであり、長期間使用した場合塗装剥がれを起こすことも多く、そのため塗装前にプライマーを塗布したり、サンディングなどの塗装前処理をおこなっている。特にサンディングは、ロボットの使用も一部できるが多くは人手によるものであり、また微粉末の飛散もあり、経済的観点からも衛生上も改善が望まれている。かかる問題点を解決するためにに樹脂成形物を作成した後、同じ金型内に塗料を注入して成形物表面に塗装を施すIMC法が提案されている(たとえば特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、従来のIMC法では塗料を成形物の表面全域に均等に塗布することが難しく、また塗装できてもその塗膜厚さが部分的に数百μmになる問題点があり、成形、塗装後の製品表面への付加的な塗装や処理が必要となる問題点や、塗料使用量が増加しコストアップの原因になる問題が残されていた。
【0005】
さらに、IMCでは成形物の成形収縮で発生する空間を利用して塗料を注入するので、成形物厚さが厚いと成形収縮も大きく従って塗膜厚さも厚くなる問題点がある。
【0006】
【特許文献1】
特開2001−71345号公報号公報(特許請求の範囲)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題を解決し、無駄のない厚さで均一な塗装面を有する塗装成形物を効率的に得る技術を提供することを目的とする。本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の一態様によれば、ノルボルネン系モノマーを含む混合物をキャビティ金型とコア金型とからなる金型内に注入し、架橋重合せしめて成形物となし、当該成形物にインモールドコーティング法で塗装をおこない塗装成形物を製造するための塗装成形物製造用金型において、塗料注入後当該金型の型締め圧を増大させたときにキャビティ金型とコア金型との間の空間を減少できるようになした塗装成形物製造用金型が提供される。
【0009】
キャビティ金型とコア金型との合わせ面に横バリが生じないようにするための縦バリ形成領域を形成したものであること、前記縦バリ形成領域が、キャビティ金型とコア金型との合わせ面に近いほど薄くなるようになしたものであること、ベント部、リザーバ部、ランナーおよびゲートよりなる群から選ばれた少なくとも一つの部位に弾性体を設置したものであることが好ましい。前記弾性体は耐熱性ゴムであることが好ましい。
【0010】
本発明の他の一態様によれば、上記の塗装成形物製造用金型を使用し、ノルボルネン系モノマーを含む混合物を当該金型内で成形物となし、インモールドコーティング法で塗料を注入し、ついで当該金型の型締め圧を増大させる、塗装成形物の製造方法が提供される。
【0011】
本発明に係る金型や製造方法の採用により、無駄のない厚さで均一な塗装面を有する塗装成形物を効率的に得ることが可能となる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を図、表、実施例等を使用して説明する。なお、これらの図、表、実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0013】
本発明のノルボルネン系モノマーはノルボルネン骨格を分子中に少なくとも1つ有し、触媒を使用して架橋重合して、ノルボルネン系架橋重合体を得る。そして重合と成形を同時におこなう反応射出成形(Reaction Injection Molding、略してRIM)法やレジントランスファー成形(Resin transfer Molding、略してRTM)法で寸法精度良く成形することができる。触媒としては、タングステン(W)、モリブデン(Mo)など、あるいは、ルテニウム(Ru)など金属をベースとしたものが知られている。
【0014】
この重合体は成形原料が液状であるため、複雑な形状もこのRIMやRTM成形法で、比較的安価にかつ容易に成形できる。また、この樹脂は、スチレン−ブタジエン、エチレン−プロピレン−ジエンなどのエラストマーを添加して耐衝撃性を向上させることができ、あるいはガラス繊維、炭素繊維などの繊維補強やガラス微粒子などを添加して補強することができる。
【0015】
本発明のノルボルネン系モノマーの具体例としては、ジシクロペンタジエン、トリシクロペンタジエン、シクロペンタジエン−メチルシクロペンタジエン共二量体、5−エチリデンノルボルネン、ノルボルネン、ノルボルナジエン、5−シクロヘキセニルノルボルネン、1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,4−メタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4−メタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a,−オクタヒドロナフタレン、1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,8,8a−ヘキサヒドロナフタレン、エチレンビス(5−ノルボルネン)などを挙げることができ、これらの混合物も使用することができる。特にジシクロペンタジエンまたはそれを50モル%以上、好ましくは70モル%以上含む混合物が好適に用いられる。
【0016】
また、必要に応じて、酸素、窒素などの異種元素を含有する極性基を有するメタセシス重合性環状オレフィンを共重合モノマーとして用いることができる。かかる共重合モノマーも、ノルボルネン構造単位を有するものが好ましくかつ極性基としてはエステル基、エーテル基、シアノ基、N−置換イミド基、ハロゲン基などが好ましい。かかる共重合モノマーの具体例としては、5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−(2−エチルヘキシロキン)カルボニル−5−メチルノルボルネン、5−フェニロキシメチルノルボルネン、5−シアノノルボルネン、6−シアノ−1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン,N−ブチルナディック酸イミド、5−クロルノルボルネンなどを挙げることができる。
【0017】
本発明の架橋重合体を得るための触媒としては、メタセシス触媒系としてよく知られているものを使うことができる。触媒成分としてタングステン、レニウム、タンタル、モリブデンなどの金属のハライドやアンモニウム塩などの塩類と活性化剤成分として周期律表第I〜第III族の金属のアルキル化物を中心とする有機金属化合物、特にテトラアルキル錫、アルキルアルミニウム化合物、アルキルアルミニウムハライド化合物などからなる複合触媒を例示することができ、あるいはルテニウムカルベン錯体からなる触媒が挙げられる。前者は一般的には触媒成分を含むモノマー液Aと活性化剤成分Bを含むモノマー液Bの2液を混合せしめることにより短時間で重合せしめる場合に使用し、後者は、一般的にはモノマー液と触媒成分とを混合せしめるあるいは混合過熱せしめることにより重合せしめる場合に使用する。
【0018】
本発明において2液混合せしめて重合せしめる場合、モノマー液A(溶液A)中には、メタセシス重合触媒系の触媒成分が含有されている。かかる触媒成分としては、タングステン、レニウム、タンタル、モリブデンなどの金属のハライドやアンモニュウム塩が用いられるが、特にタングステン化合物が好ましい。かかるタングステン化合物としては、タングステンヘキサハライド、タングステンオキシハライドなどが好ましく、より具体的にはタングステンヘキサクロライド、タングステンオキシクロライドなどが好ましい。かかるタングステン化合物は、直接モノマーに添加すると、直ちにカチオン重合を開始することが分かっており好ましくない。従って、かかるタングステン化合物は不活性溶媒、たとえばベンゼン、トルエン、クロロベンゼンなどに予め懸濁し、少量のアルコール系化合物および/またはフェノール系化合物を添加することによって可溶化させて使用するのが好ましい。
【0019】
さらに上述した如き好ましくない重合を予防するために、タングステン化合物1モルに対し約1〜5モルのルイス塩基またはキレート化剤を添加することが好ましい。かかる添加剤としてはアセチルアセトン、アセト酢酸アルキルエステル類、テトラヒドロフラン、ベンゾニトリルなどを挙げることができる。極性モノマーを用いる場合には、前述の如く、そのものがルイス塩基である場合があり、上記の如き化合物を特に加えなくてもその作用を有している場合もある。前述の如くして、触媒成分を含むモノマー液A(溶液A)は、実質上充分な安定性を有することになる。
【0020】
一方、本発明におけるモノマー液B(溶液B)中には、メタセシス重合触媒系の活性化剤成分が含有されている。この活性化剤成分は、周期律表第I〜第III族の金属のアルキル化物を中心とする有機金属化合物、特にテトラアルキル錫、アルキルアルミニウム化合物、アルキルアルミニウムハライド化合物が好ましく、具体的には塩化ジエチルアルミニウム、ジ塩化エチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、ジオクチルアルミニウムアイオダイド、テトラブチル錫などを挙げることができる。これら活性化剤成分としての有機金属化合物をモノマーに溶解することにより、モノマー液B(溶液B)が形成される。
【0021】
基本的には前記溶液Aおよび溶液Bを混合し、金型内に注入することによって、架橋重合体成形物を得ることができるが、上記組成のままでは、重合反応が非常に速く開始されるので、成形金型に十分流れ込まない間に硬化が起こることもあり問題となる場合もある。このような場合には活性調節剤を用いることが好ましい。かかる調節剤としてはルイス塩基類が一般に用いられ、なかんずく、エーテル類、エステル類、ニトリル類などが用いられる。具体例としては安息香酸エチル、ブチルエーテル、ジグライムなどを挙げることができる。かかる調節剤は一般的に、有機金属化合物の活性化剤の成分の溶液(溶液B)の側に添加して用いられる。前述と同様にルイス塩基を有するモノマーを使用する場合には、それに調節剤の役目を兼ねさせることができる。
【0022】
メタセシス重合触媒系の使用量は、たとえば触媒成分としてタングステン化合物を用いる場合は、上記原料モノマーに対するタングステン化合物の比率は、モル基準で約1,000対1〜15,000対1、好ましくは2,000対1の付近であり、また、活性化剤成分はアルキルアルミニウム類を用いる場合には、上記原料モノマーに対するアルミニウム化合物の比率は、モル基準で約100対1〜10,000対1、好ましくは200対1〜1,000対1の付近が用いられる。さらに上述した如きキレート化剤や調節剤については、実験によって上記触媒系の使用量に応じて、適宜調節して用いることができる。
【0023】
本発明における架橋重合体の成形物には、実用に当たってその特性を改良または維持するために更にその目的に応じた各種添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、充填剤、顔料、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、高分子改良剤などがある。このような添加剤は、本発明の架橋重合体が成形されて後は添加することが不可能であるから添加する場合には予め前述した原料溶液に添加しておく必要がある。
【0024】
その最も容易な方法としては、前記溶液Aおよび溶液Bのいずれかまたは両方に前もって添加しておく方法を挙げることができるが、その場合、その液中の反応性の強い触媒成分、活性化剤成分と実用上差支えある程度には反応せず、かつ重合を阻害しないものでなくてはならない。どうしても、その反応が避け得ないものが共存しても、重合を実質的に阻害しないものあるいは短時間には阻害しないものの場合は、モノマーと混合して、第三液を調製し、重合直前に混合使用することもできる。また、重合触媒または活性化剤を第三液とし、これを含まない溶液Aまたは溶液Bに上記添加物を添加する方法も考えられる。さらに、固体の充填剤の場合であって、両成分が混合されて、重合反応を開始する直前あるいは重合しながら、その空隙を充分に埋め得る形状の物については、成形金型内に充填しておくことも可能である。また、本発明による成形物は、酸化防止剤を添加しておくことが好ましく、そのため、フェノール系またはアミノ系の酸化防止剤を予め溶液中に加えておくことが望ましい。これら酸化防止剤の具体例としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、テトラキス[メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシシンナメート)]メタンなどが挙げられる。
【0025】
また、本発明における成形物は、添加剤として他の重合体をモノマー溶液状態の時に添加しておいて得てもよい。かかる添加剤としてはエラストマーが、成形物の耐衝撃性を高めることおよび溶液の粘度を調節する上で効果がある。かかる目的に用いられるエラストマーとしては、スチレン−ブタジエン−スチレントリブロックゴム、スチレン−イソプレン−スチレントリブロックゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブチルゴム、エチレンプロピレン−ジエンターポリマー、ニトリルゴムなど広範なエラストマーを挙げることができる。
【0026】
本発明の成形方法は、ノルボルネン系モノマー成分と触媒系成分(活性化剤がある場合は活性化剤も含む)との混合物をキャビティ金型とコア金型とからなる金型内に注入し重合せしめる。通常二つの金型には温度差をつける。それは成形物が高温金型側に密着し、収縮によって生じるヒケは低温金型側に集中し高温金型側には発現しないためであり、通常キャビティ金型が高温金型になり、成形物の意匠面を形成する役割を担う。
【0027】
金型温度は25〜120℃であり、金型間の温度差は5〜100℃が一般的であるが、成形物の意匠面になる側の金型温度は40〜120℃、一方成形物の裏側となる側の金型温度は25〜85℃、金型間の温度差は20〜85℃が好ましい。成形時の型締め圧力は0.35〜0.7MPa程度が好ましく用いられる。
【0028】
金型の材質は、スチール、鋳造あるいは鍛造のアルミニウム、亜鉛合金などの鋳造や溶射、ニッケルや銅などの電鋳、および樹脂などが挙げられる。金型表面が塗装表面になるので、#800以上の鏡面仕上げが好ましい。また金型にはつなぎ目の無い一体品が好ましい。
【0029】
本発明のIMC法は、成形物の架橋が充分進行した段階、すなわち成形物の表面が塗料の注入圧力、流動圧力に耐え得る段階で、すなわち液が成形物になる時に生じる成形収縮で生じる空間に、インジェクターにより金型に設けた塗料注入口から、塗料を型内に注入する。通常は成形物の意匠面は高温側の金型であり、塗装面となるので注入口は高温側金型に設ける。
【0030】
塗料の注入圧力は3〜45MPaが適当である。3MPa未満では金型と成形物表面との間に塗料が充分浸透、流動せず、逆に45MPaを越えると塗料注入設備を強化しなければならず、また金型の強度も上げる必要が出る。7〜35MPaがより好ましい。
【0031】
塗料を注入後、塗料を成形物に充分密着させ硬化させるために、塗料の硬化時間は20秒〜10分であり、好ましくは60秒〜4分である。20秒より短いと塗料の硬化が早すぎて塗料の廻りが不十分であり、10分以上を越えると生産性が悪化する。
【0032】
本発明で使用される塗料は、(a)不飽和ポリエステル樹脂、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマーまたはウレタンアクリレートオリゴマー、(b)それらと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーからなるビヒクル成分および(c)重合開始剤を含有する。
【0033】
不飽和ポリエステル樹脂、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマーまたはウレタンアクリレートオリゴマーは、いずれも分子内に不飽和二重結合を有しており、エチレン性不飽和モノマーからなるビヒクル成分との間で、重合開始剤である有機過酸化物の熱分解で発生する活性ラジカルにより硬化反応が始まるが、この活性化ラジカルがノルボルネン架橋重合体(成形物)に残存する不飽和結合と反応する結果、成形物と塗料とが化学結合し、塗料の強固な密着性が発現するものと推察される。
【0034】
特に好ましい塗料は、エポキシアクリレートオリゴマーまたはウレタンアクリレートオリゴマーを主成分とする塗料である。
【0035】
塗料のビヒクル成分であるエチレン性不飽和モノマーとしては、たとえばスチレン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、メチル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、シリコンアクリレート、シリコンジアクリレートなどが挙げられる。エチレン性不飽和モノマーの配合量は、前記の不飽和ポリエステル樹脂またはオリゴマー100重量部に対し20〜200重量部、好ましくは40〜160重両部である。
【0036】
ビヒクル成分を重合するための重合開始剤は有機過酸化物が好ましい。その具体例としては、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ラウロイルパーオキサイド、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどを挙げることができる。有機過酸化物の配合量は、ビヒクル成分100重量部に対し、0.1〜15重量部である。
【0037】
本発明で使用される塗料には、前記成分のほかに着色用の顔料および/または染料成分が加わり、その他必要に応じ離型剤、硬化促進剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、改質樹脂、表面調整剤などを配合する。
【0038】
IMC法で塗装される場合、成形物表面上で希望する全領域が完全に塗装されていることが必要であり、無駄のない厚さで均一な塗装面となることが好ましい。このためには、ノルボルネン系モノマーを含む混合物をキャビティ金型とコア金型とからなる金型内に注入し、架橋重合せしめて成形物となし、当該成形物にインモールドコーティング法で塗装をおこない塗装成形物を製造するための塗装成形物製造用金型において、塗料注入後当該金型の型締め圧を増大させたときにキャビティ金型とコア金型との間の空間を減少できるようになしてあることが有効であることが判明した。
【0039】
この塗装成形物製造用金型を使用すれば、塗料注入後に金型の型締め圧を増加させて成形収縮で発生したキャビティ金型とコア金型との間の空間を狭めることで、塗料を広い範囲に広げ、かつ膜厚を無駄なく薄く、かつ均一にできることが可能となる。
【0040】
成形後、キャビティ金型とコア金型との間には、成形収縮による空間が生じるが、成形直後には、この空間は主に成形物と低温側の金型であるコア金型の間に発生し、高温側の金型であるキャビティ金型と成形物との間には生じていない。
【0041】
従って、キャビティ金型と接する成形物表面に塗装を行う場合は、キャビティ金型と成形物との間に塗料を注入すると、成形物をコア金型側に押しのけつつ塗料が成形物表面に広がっていくことになる。この際、成形物をコア金型側に押しのけにくい部分があると、その部分では塗装できなかったり、塗膜の厚さが不十分となったりする。また、他の場所に比べで成形物をコア金型側に押しのけ易い部分があると、その部分では塗膜の厚さが過剰になることがある。また、成形物をコア金型側に押しのけようとすれば、余分の塗料を注入せざるを得なくなり、無駄が生じる。
【0042】
一方、低温側の金型であるコア金型と接する成形物表面に塗装を行う場合には、コア金型と成形物との間に生じた空間に塗料を注入することになり、塗装できないというトラブルは減少する。しかしながら、生じた空間の大きさのバラツキに応じて塗膜の厚さが不十分となったり過剰になるという問題は残されている。さらに、生じた空間を全て満たす必要があり、無駄が生じる。
【0043】
塗料注入後に金型の型締め圧を増加させて成形収縮で発生したキャビティ金型とコア金型との間の空間を狭めることができれば、余分の塗料を注入することなく上記のような不十分な塗膜厚と過剰な塗膜厚とを均一化することが可能となる。また、塗装できなかった場所にも塗料を行き渡らせることが可能となる。
【0044】
しかしながら、現状の金型では、金型内の場所によっては、成形収縮で発生した空間が小さく、金型の型締め圧を増加させても、その空間が小さい場所がネックとなり、キャビティ金型とコア金型との間の空間を十分減少できない。
【0045】
このような空間が小さい場所の発生を防止でき、あるいは、このような空間が小さい場所であってもキャビティ金型とコア金型との間の空間を十分減少できる塗装成形物製造用金型であれば上記の効果を得ることができるのである。
【0046】
成形収縮によって生じる空間が小さい場所としてはキャビティ金型とコア金型との合わせ面を例示できる。この部分における成形物部分は通常横バリと呼ばれ、金型の端部にまで十分成形物が充填されるようにするために設けるもので、仕上げの際に除去されるが、通常、厚さが1mm以下と薄く、従って成形収縮によって生じる空間も小さい。キャビティ金型とコア金型との合わせ面には通常O−リングが設けてあるため、横バリが無ければ型締め圧力の増加でO−リングが圧縮され金型空間を狭くできるが、横バリの成形収縮によって生じる空間を超えて金型空間を狭くすることはできない。
【0047】
この合わせ面に横バリが生じないようにすることで、キャビティ金型とコア金型との間の空間を狭めることが容易になる。具体的には、キャビティ金型とコア金型との合わせ面と成形物本体が形成される領域との間に縦バリ形成領域を形成し、その形状を適宜選択して、キャビティ金型とコア金型との合わせ面に横バリが生じないようにすることが有用である。縦バリがあれば、金型の端部にまで十分成形物が充填されるので、横バリが生じないことは成形上不都合ではない。
【0048】
この様子を図1を使用して説明する。図1は、キャビティ金型1とコア金型2の間の空間に成形物3がある状態を示している。成形物3は縦バリ形成領域4の途中まで及んでいるがキャビティ金型とコア金型との合わせ面5までは至っていない。
【0049】
このようになっていると、型締め圧力の増加でO−リング6が圧縮され、金型空間を狭くできる。このようにすると、塗膜7を無駄なく薄く、かつ均一に形成することができる。また、塗膜が未硬化の内に型締め圧力を増加すれば、塗膜が十分行き渡らなかった部分にも塗料が押し込まれ、塗膜の厚すぎた部分では膜厚さを減少できるようになる。
【0050】
縦バリ形成領域の形状の選択としては、縦バリ形成領域を長くすることや、縦バリ形成領域が、キャビティ金型とコア金型との合わせ面に近いほど薄くなるようになすことが考えられる。図1では、縦バリ形成領域は上の方に行くに従って狭くなっている。後者は、より積極的に横バリがキャビティ金型とコア金型との合わせ面まで達することができないようにできるため、より好ましい場合が多い。
【0051】
なお、横バリの「横」は、金型に型締め圧を与える方向を縦、それに直交する方向を横とした場合の「横」を意味する。つまり横バリとは、金型に型締め圧を与える方向に直交する方向に広がるバリを意味する。同様に縦バリとは、金型に型締め圧を与える方向に広がるバリを意味する。ただし、この縦横はそれほど厳密なものではない。目で見て、金型に型締め圧を与える方向と感じるか、それに直交する方向と感じるか程度の差異で十分である。実際には、横バリと思われるバリのせいでキャビティ金型とコア金型との間の空間を十分減少できない場合に、縦バリと思われるバリを設けて問題が解決できれば、本発明により問題が解決されたと考えればよい。
【0052】
成形収縮によって生じる空間が小さい場所としては、さらにベント部、リザーバ部、ランナーおよびゲートを例示できる。これらの部位も成形収縮によって生じる空間が小さい場所を有し、従ってそのような場所では成形収縮によって生じる空間が小さく、この成形収縮によって生じる空間を超えて金型空間を狭くすることはできない。しかも、これらの部位は、バリと異なり成形に必須の部分であり、なくすことはできない。
【0053】
このような場合には、これらの部位に弾性体を設置することが有効である。弾性体を設置すれば、この弾性体が変形するためにキャビティ金型とコア金型との間の空間を十分減少させることが可能となるからである。弾性体は公知のものから適宜選択することができるが、これらの部位が、金型加熱の他に、ノルボルネン系モノマーの重合発熱にも曝されるため、耐熱性の弾性体が好ましい。さらに具体的には耐熱性ゴムが好ましい。
【0054】
図2,3はこの様子を具体的に説明するためのものである。図2は、通常の金型の樹脂注入口部分であり、ランナー8、ゲート9が示されている。このランナー8およびゲート9の内、成形収縮によって生じる空間が小さい場所が、キャビティ金型とコア金型との間の空間の減少の障害となる。特にゲートは薄く形成するのが一般的であるため障害となり易い。
【0055】
これに対し、図3では弾性体11が設置してある。このように弾性体を設置すれば、金型の型締め圧を増加させたときに、弾性体が変形するため、キャビティ金型とコア金型との間の空間の減少が可能となるのである。
【0056】
なお、樹脂注入口では図2に示すようにランナーからゲートを経て直接成形物本体につながっていると、塗料の注入の際、塗料が成形物端部まで廻りきらない場合が多いので、これを防ぐためには、図3に示すように、ゲートから縦バリ形成領域10を介して成形物本体につながっていることが好ましい。
【0057】
上記の構造の金型で成形物を形成し、その後型を開くことなく塗料を注入し、該塗料が硬化する前に金型の型締め圧を増加してキャビティ金型とコア金型の空間を狭めることで塗料を成形物表面の全域に広げ、かつ塗料膜厚を数μmから数十μmの厚さに制御することができる。
【0058】
本発明は、上記のバリやベント部、リザーバ部、ランナーおよびゲートの全ての部位に関して適用してもよいが、そのいずれかでもよく、たとえばバリの一部というように各部位の一部についてに適用してもよい。具体的には、過大な塗膜厚さ、不均等な塗膜厚さ、塗膜なし部分の発生等の具体的問題が発生したときに、上記対象について、逐次本発明を適用していってもよい。
【0059】
なお、成形物には時として開口部が設けられることが多い。ノルボルネン樹脂で開口部付きの成形物を作成する場合は、金型にO−リング等を使用して樹脂が流れ込まない部分を作成し、これを成形物の開口部としている。しかしながらIMCにおいてはO−リングで十分塗料の進入を防止できない場合が多く、開口部を経由してコア金型側に塗料が回り込むことが多い。この場合、コア金型は通常金型温度がキャビティ金型より低いために塗料が短時間で硬化せず、未硬化の塗料で成形物内面や金型が汚れる問題が発生する。
【0060】
上記問題点を解決するためには成形物に開口部を設けないことがもっともよいが、どうしても開口部を設ける必要がある場合には、開口部予定部分に成形物本来の厚さより薄い皮膜を設けてキャビティ金型側からコア金型側に塗液の流れるのを防止することが必要である。
【0061】
該薄皮部分は成形後後処理で切り取る必要があるの作業性を勘案して0.5以上〜2mm程度の厚さが良好である。更に好ましくは1mm以下の厚さが好ましい。
【0062】
かくして得られた塗装処理(下塗り処理)をした成形物は、次いでトップコートをすることでノルボルネン系架橋重合体の製品となる。もちろん下塗り処理とトップコートを兼用し、一度のIMCで最終の塗装品を作成することもできる。
【0063】
下塗り処理の場合には本発明の塗料注入後の型締め圧の増加による塗料膜厚の低減が更にコストダウン上有効である。すなわち下塗りでは数μmから数十μmの無駄のない薄い塗膜で十分その効果を発揮できるので、従来のIMCで塗装した時の数百μmの厚さを必要としないからである。
【0064】
トップコート用の塗料は、その種類は幅広く使用でき、特に限定されず、ウレタン系、アクリルウレタン系、アルキド樹脂系、アミノ樹脂系、エポキシ樹脂系、アクリル系、ビニル樹脂系、脂肪酸エステル系、シリコン樹脂系など広く使われる。これらの中でウレタン系、アクリルウレタン系が好適である。
【0065】
トップコート塗装は1層塗りでも多層塗り(品種の異なった多層塗りも含む)でもその用途に応じて実施される。
【0066】
かくして得られたトップコート後の成形物は、軽量で耐衝撃性に優れ、また色彩に富んだ成形物であり、かつ該色彩が耐久性に優れており、バンパーやエアーデフレクターなどの自動車部品、建機やゴルフカートなどの外装部品、浴室用洗い場、浴槽等の浴室構成品、MRなどの医療機器の外装部品など幅広く使われる。
【0067】
【実施例】
以下実施例を掲げて本発明をより具体的に説明する。なお、評価は下記のように行った。
【0068】
(塗装の外観、厚さ、耐久テスト)
塗装の密着性をJIS K5400記載の碁盤の目テスト法で調べた。1次密着性は初期値、2次密着性は50℃の温水に7日間浸漬後に測定した結果である。
【0069】
塗装性は目視で検査し、塗膜厚さは断面を切り出し顕微鏡観察で測定した。
【0070】
[実施例1]
(溶液Aの調製)
六塩化タングステン28重量部を窒素気流中下で乾燥トルエン80重量部に添加し、次いでt−ブタノール1.3重量部を乾燥トルエン1重量部に溶解した溶液を加えて1時間撹拌し、次いでノニルフェノール18重量部およびトルエン14重量部よりなる溶液を添加し、5時間窒素パージ下撹拌した。
【0071】
さらにアセチルアセトン14重量部を加え、副生する塩化水素ガスを追い出しながら窒素パージ下に一晩撹拌を継続し、重合用触媒溶液を調製した。
【0072】
次いで精製ジシクロペンタジエン(純度99.7重量%、以下同様)95重量部、精製エチリデンノルボルネン(純度99.5重量%、以下同様)5重量部よりなるモノマー混合物に対し、エチレン含有70モル%のエチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合ゴム3重量部、酸化安定剤としてエチル社製エタノックス702の2重量部を加えた溶液に上記重合用触媒溶液をタングステン含量が0.01モル/Lになるように加えて触媒成分を含有するモノマー液A(溶液)を調製した。
【0073】
(溶液Bの調製)
精製ジシクロペンタジエン83重量部、精製エチリデンノルボルネン5重量部よりなるモノマー混合物に対し、エチレン含有70モル%のエチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合ゴム3重量部を溶解した溶液に、トリオクチルアルミニウム85、ジオクチルアルミニウムアイオダイド15、ジグライム100のモル割合で混合調製した重合用活性化剤混合液をアルミニウム含量が0.03モル/Lになる割合で添加し、活性化剤成分を含有するモノマー液B(溶液B)を調製した。
【0074】
(成形およびIMC)
図4に示す、長さ800mm、幅600mm、深さ600mmの船外機のカバー成形用の金型(キャビティ金型はニッケル電鋳製、コア金型はアルミニウム鋳造製)を使用した。金型41はキャビティ金型42とコア金型43とからなり、塗料注入口44は、キャビティ金型43底部の中央付近に設けた。成形物の端部に相当する場所では縦バリを20mm程度設けた(図示されていない)。縦バリは、さらにキャビティ金型とコア金型との合わせ面側(図1の上方)で0.1mm厚さに、成形物側(図1の下方)で0.5mmの厚さとして、連続的に厚さが変化する形状とした。樹脂注入側のライナーおよびゲート部分(図示されていない)では1mm厚さの耐熱ゴムシート(シリコーンゴム)を貼付した状態で液が流れるように1mmのゲート厚さを設けた。さらにベント部およびリザーバ−部(図示されていない)にも1mm厚さの同様の耐熱ゴムシートを設け、液が流れ出るように0.5mmのベント厚さを確保した。
【0075】
キャビティ金型温度は85〜89℃、コア金型温度は40℃とし、金型を成形物の投影面積あたり約1MPaの圧力で型締めした。
【0076】
RIM成形機を用い、先のモノマー液Aとモノマー液Bとを等量、ミキシングヘッド中で衝突混合し、得られた混合液を型内に注入し、60秒間保持した。その後ウレタンアクリルオリゴマー100重量部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート65重量部、酸化チタン150重量部、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシカーボネート3.0重量部からなる塗料を15MPaの圧力で型内に注入した。注入直後に型締め圧を2MPaに増加させた。その後、型内で3分間保持してから型を開き成形物を取り出した。成形物には横バリは生じていなかった。
【0077】
上記前処理塗装品は全面にわたって塗装が完全に行われ未塗装部分は生じなかった。塗装膜厚を測定すると8〜20μmであった。
【0078】
(塗装)
前記成形物を金型から取り出した30分後、トップコート層を形成するために大橋化学(株)製ポリナール800Nの塗料(グリーン色)を塗布し80℃の乾燥機を通し焼き付けた。
【0079】
[比較例1]
実施例1の船外機カバーの金型を使い、実施例1と同様にして、モノマー液Aとモノマー液Bとから架橋重合体を成形し、IMCをすることなしにそのまま取り出した。取り出して30分後に、脱脂の後大橋化学(株)製のポリナールプライマーを塗布し、乾燥の後ポリナール800Nを塗布し80℃の乾燥機を通し焼き付けた。
【0080】
[比較例2]
塗料注入後に型締め圧を増加させなかった以外は、実施例1と同様にした。その結果塗装膜厚は300μmから400μmと厚くなり塗料注入口付近の成形物エッジで未塗装領域が発生した。
【0081】
上記例の比較から示される如く、本発明の金型では良好なインモールドコートが可能であった。
【0082】
上記各例の評価結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
Figure 0004101049
【0084】
【発明の効果】
本発明により、無駄のない厚さで均一な塗装面を有する塗装成形物を効率的に得る技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】キャビティ金型とコア金型の間の空間に成形物がある状態を示す模式図である。
【図2】通常の金型の樹脂注入口部分を示す模式図である。
【図3】図2の金型に弾性体を設置した様子を示す模式図である。
【図4】船外機のカバー成形用の金型を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
1 キャビティ金型
2 コア金型
3 成形物
4 縦バリ形成領域
5 合わせ面
6 O−リング
7 塗膜
8 ランナー
9 ゲート
10 縦バリ形成領域
11 弾性体
41 金型
42 キャビティ金型
43 コア金型
44 塗料注入口

Claims (3)

  1. ノルボルネン系モノマーを含む混合物をキャビティ金型とコア金型とからなる金型内に注入し、架橋重合せしめる反応射出成形法またはレジントランスファー成形法にて成形物となし、当該金型の型締め圧を維持したまま当該成形物にインモールドコーティング法で塗装をおこない塗装成形物を製造するための塗装成形物製造用金型において、ベント部、リザーバ部、ランナーおよびゲートよりなる群から選ばれた少なくとも一つの部位に弾性体を設置することにより、塗料注入後当該金型の型締め圧を増大させてキャビティ金型とコア金型との間の空間を減少できるようになした塗装成形物製造用金型。
  2. 前記弾性体が耐熱性ゴムである請求項1に記載の塗装成形物製造用金型。
  3. 請求項1または2に記載の塗装成形物製造用金型を使用し、ノルボルネン系モノマーを含む混合物を当該金型内で反応射出成形法またはレジントランスファー成形法にて成形物となし、当該金型の型締め圧を維持したままインモールドコーティング法で塗料を注入し、ついで当該金型の型締め圧を増大させ形成される塗膜の厚みを8〜20μmにする、塗装成形物の製造方法。
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