JP4096234B2 - 加工糸芯地用基布およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリエステルハイマルチフィラメント仮撚加工糸を用いた加工糸芯地用基布及びその製造方法に関し、さらに詳しくは可縫性を援助し、表地のふくらみを助成可能な加工糸芯地用基布およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステルマルチフィラメント仮撚加工糸を使用した芯地はストレッチ芯地として使用されており、伸長性には優れるものの、使用される仮撚加工糸は単糸1デニール以上の通常の糸であるため、風合はソフト性に欠けているものであった。これを改善する目的で特開平4−11070号公報に見られるような単糸繊度の細い仮撚り加工糸をアルカリ減量することで表地のソフトでドレープ性に富む風合いを損なうことのない芯地用基布が提案されている。しかし、特に表地が薄地織物の場合、この芯地では不十分な点が多い。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は近年レディースのブラウス、ドレス地で風合のソフトな生地に接着芯地として使用するためには、表生地のソフト性、ト゛レーフ゜性を害することなく可縫性を向上させ、ふくらみを助成可能な芯地が必要であることに着眼し、芯地の力学特性と要求性能の関係を鋭意検討の結果、本発明に至った。
【0004】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は以下の構成よりなる。
1.アルカリ減量加工後の単糸繊度が0.6〜1.5デシテックスであるポリエステルフィラメント糸の仮撚加工糸を経糸及び/又は緯糸に配し、下記式(1)で定義されるカバーファクター(CF)が650〜1300である織物であって、定荷重伸長率が10%以上、比容積が8.5cc/g以上、圧縮率が38%以上、せん断剛性/目付が6.5×10−3以下、せん断ヒステリシス/目付が6.5×10−3以下であり、アイロン収縮率が5%以下あることを特徴とする加工糸芯地用基布。
【化2】
2.総繊度が20〜100デシテックスであることを特徴とする上記第1に記載の加工糸芯地用基布。
3.単糸繊度が0.7〜1.8デシテックスで捲縮堅牢度が10%以上であるポリエステルフィラメント糸の仮撚加工糸を経糸及び/又は緯糸に配したカバーファクター(CF)が500から950の生機織物を精練、プレセット後にアルカリ減量加工をし、経糸と緯糸の交差点に空隙を作ることを特徴とする加工糸芯地用基布の製造方法。
4.単糸繊度が0.7〜1.5デシテックスで捲縮堅牢度が10%以上であるポリエステルフィラメント糸の仮撚加工糸と溶出可能繊維との混繊又は交撚糸を経糸及び/又は緯糸に配したカバーファクター(CF)が500から950の生機織物を熱セット後、精練、染色工程で前記溶出可能繊維を溶出させ、経糸と緯糸の交差点に空隙を作ることを特徴とする加工糸芯地用基布の製造方法。
【0005】
以下、本発明を詳述する。発明者らは薄地のストレッチ芯地で表地のドレープ性を損なうことなく、ふくらみおよび可縫性の補助が可能な芯地を追求した結果、本発明に到達した。「新合繊」と呼ばれる新規な織物の出現以来、ふくらみがあり、ドレープ性に富む薄地の婦人衣料の表地が多く用いられている。これらの織物は糸長差混繊技術と減量加工を組合せた弾発性のあるドレーピーでソフトな触感に特徴がある。これらの極限を追求した結果、より薄く、目付の非常に軽い布帛が多くなった。これらの布帛は身ごろを形成する部材として非常に有用であるが、縫製品の保型性や可縫性、肩、襟、前立て部分のふくらみが欠ける問題がある。これを補助するのが芯地であり、この芯地の品質が縫製品の出来栄えを左右する。特に近年、縫製の自動化、高速化、単能化より接着芯地化が進む中、より表地と同等の風合い計測特性が要求されてきている。
【0006】
加工糸芯地の最も重要な特性は伸縮性であり、用途や表地の特徴により縦方向と横方向の定荷重伸長率バランスは様々であるがその定荷重伸長率の平均値が10%以上であり、それを下回ると表地の伸縮性に追従しづらくなる。好ましくは15%以上である。逆に定荷重伸長率が大きすぎると縫製時の取り扱いが面倒になるため、25%以下であることが好ましい。
【0007】
芯地用基布を構成する加工糸の単糸繊度は非常に重要であり、後述するふくらみ、せん断、圧縮特性にも影響するが、特に曲げ柔らかさには直接影響し、表地のソフトさを損なわないために1.5デシテックス以下とする。勿論、表地の張りこしや保型性を補う目的でさらに太い単糸のものも必要な場合があるが、必要な場合はそれらと組み合わせて用いれば良い。ここで重要なことは繊度の下限であり、細ければ細いほど良いというものではない。細くなればなるほど不都合な点が多い。本発明の要点はここにある。
【0008】
前述のように、本発明の基布を用いた芯地を用いる目的は、表地のドレープ性を損なうことなく、可縫性を保ち、保型性を補助し、部分的にふくらみを付与することであり、表地全面に用いるものではなく、縫製する部分のみに主に用いる部分芯用の基布であり、柔らかすぎると反って前記の特性を十分には満足しなくなる。
【0009】
最も重要な要件はドレープ性であり、この特性は曲げ柔らかいこととせん断柔らかいことが重要である。特に静的ドレープ性は上記特性であるが、動的ドレープ性はこれにせん断ヒステリシスが加わる。曲げ柔らかさは繊維の柔らかさがほぼ支配的であり、より細いことが好ましい。せん断柔らかさと同ヒステリシスは織物構造中の繊維間拘束力、しいていえば経糸と緯糸の拘束力の弱さが主要素であり、経糸と緯糸の交差点の空隙率が支配する。この空隙は減量加工前にポリエステル加工糸織物を熱セットする時に形成される織りクリンプと仮撚り加工時に形成される捲縮クリンプの自重相当の伸長に対する形体保持性に支配される。溶出加工により繊維間またはヤーン間に溶出率に相当する空隙は同等に形成されるものの、単糸繊度が低すぎる場合、この形体保持性が低くなり、結果的に空隙率を低くし、せん断剛性および同ヒステリシスを大きくさせる。加えて単糸繊度が低すぎる場合は捲縮特性が低くなることもこの一因となる。またハイマルチ糸になるほど、織物中の繊維束が偏平になり易いこともドレープ性を損なう1つの理由でもある。これを防ぐ意味で経糸及び/又は緯糸に300T/m程度の弱撚を入れることも有効な手段でもある。ドレープ性を良くするためには自重あたりのせん断特性を低くすれば良く、せん断剛性/目付は6.5×10−3以下にする。この値より高くなるとドレープ性が悪くなり、表地のドレープ性を阻害する。この値は低いことが好ましいが低くなりすぎると表地との接着前の接合に手間取る問題や過度の溶出処理が必要になり、機械的特性の低下を招く問題につながるので、好ましくは5.5×10−3以上である。せん断ヒステリシス/目付は前記と同様の理由から6.5×10−3以下にする。好ましくは6.5×10−3から5.5×10−3である。これらの要件と後述する捲縮特性を確保する意味で単糸繊度は0.6デシテックス以上とすることが必要である。
【0010】
せん断剛性およびせん断ヒステリシスを低くする手段として、ポリエステル繊維織物の場合はアルカリ減量加工が最も経済的で安定した製品を得る上でこのましい。しかし、目的は経糸と緯糸の交差点に空隙を作ることにあり、水溶性ビニロン等の染色仕上げ工程で溶出可能な繊維とポリエステル加工糸を混繊または交撚して用いても差し支えない。この時重要なことは、溶出される前に、織りクリンプを熱固定する熱セット工程を入れることであり、このことでも同様の効果が得られる。この方法は芯地用基布のように仕上り布帛のカバーファクターが極度に低い場合のみ利用できる方法である。
【0011】
織物のカバーファクターは650から1300であり、好ましくは750〜1200の範囲に設計する。カバーファクター(CF)が1300を超えると風合が粗硬でペーパーライクになり、ソフトな表生地の芯地としては使用に耐え得るものではなく、逆に650未満であれば芯地の目ずれが発生し、接着剤の裏側へのしみだしも出て好ましくない。
又、織組織は特に限定しないが平織が好ましい。前述の如く上記ポリエステルマルチフィラメント仮撚加工糸に甘撚(300T/m以下)を施撚しても良い。
【0012】
第二の風合い計測値の要件として、ふくらみ特性がある。薄い布帛は非常に縫製し難い。ミシンの針番手の選択等で縫製条件の最適化が計られているものの、針ホールへの連れ込みや布送り不良等で縫製効率が低下する。これを改善することが芯地の最大の役目である。この時、重要なことは芯地の嵩特性であり、比容積が8.5cc/g以上で圧縮率が38%以上あることが必要である。比容積と圧縮特性は布の走行性と縫針の貫通性を改善し、両者が満足されないと可縫製の改善効果が薄くなる。この特性は主に加工糸の捲縮特性に依存し、捲縮堅牢度が10%以上あることが必要である。捲縮堅牢度が10%未満になると染色加工時の寸法入りが低下し、嵩特性が低下する。捲縮堅牢度は好ましくは12〜20%である。捲縮堅牢度は仮撚り加工時のヒーター温度や撚り数にも依存するが強度低下を懸念すると限界がある。もう1つの要因は単糸繊度であり、この事からも加工糸の単糸繊度は0.7デシテックス以上とすることが望まれる。
【0013】
芯地基布のアイロン収縮率は非常に重要であり、5%以下にすることが必要である。収縮率が高くなると接着時や着用中のアイロン仕上げ時に表地との布長差が生じ、皺や型崩れが生じる。好ましくは表地の収縮率に合わせることが適しているが、汎用性より多くの表地がそうであるように5%以下にする。
【0014】
アルカリによる減量率は10%から20%とすることが好ましい。10%未満ではせん断特性を良くする効果が不足し、20%を越えると目ずれが生じやすく品位が低下する。
【0015】
以下実施例で詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0016】
[目付の測定]
専用のカッターを用いて直径が7.979cm(面積が50cm2)の試料を2枚採取し、その重さを小数点以下5桁まで測定し、小数点以下5桁目を四捨五入して100倍した値を目付(g/m2)とした。
【0017】
[定荷重伸長率およびせん断特性の測定]
「風合い評価の標準化と解析」(日本繊維機械学会編集)の第IV章 「布の力学的特性の測定」ブロック1 引張り特性及びブロック4 せん断特性に記載の方法にのっとり、測定した。即ち、定荷重伸長率は幅20cm、長さ5cmの試料を布帛の経方向、緯方向に採取し、長さ方向に4.00×10-3 /sec.一定で、最大荷重500gf/cmまで引張り、変形回復過程に移り、最大荷重時の伸長率を求めた。経方向と緯方向の平均値を伸長率とした。(経糸と緯糸が異なる場合は経緯個々に表示する。)
せん断特性は同寸法試料を10gf/cmの張力下でせん断ずり速度0.417mm/sec.で変形を与え、(度)が8度で回復過程に移り、せん断角とせん断応力(gf/cm)の関係を求め、その勾配をせん断剛性(gf/cm・degree)とした。なお、せん断ヒステリシスはせん断角が5度時のせん断移行時と回復時のせん断応力の差異として求めた。各々経方向と緯方向の平均値をその値とした。
【0018】
[厚みおよび圧縮特性の測定]
「風合い評価の標準化と解析」(日本繊維機械学会編集)の第IV章 「布の力学的特性の測定」ブロック5 圧縮特性に記載の方法にのっとり、測定した。即ち、幅2.0cm、長さ2.5cmの試料を布帛(織物の経緯は問わない)を圧縮面積2cm2の鋼板間で圧縮速度20micron/sec.で圧縮最大荷重を50gf/cm2で加圧―回復過程の厚み(mm)−応力(gf/cm2)曲線を求めた。圧縮過程の圧縮応力が0.5gf/cm2の時の厚み(T0)を布の厚みとした。最大荷重時の厚みをTmとして、圧縮率は(T0−Tm)/T0で求めた。また比容積は同厚みと目付(g/m2)より算出した。
【0019】
[布帛の収縮率の測定]
JIS L 1057「織物及び編物のアイロン収縮率試験方法」のA法に順じて測定した。なお、アイロンの温度は140℃とした。
【0020】
[捲縮堅牢度の測定]
加工糸をラップリールを用いて8巻の綛を作り、その綛に5mg/デニールの荷重を掻け、沸水中で15分間処理する。綛を沸水中から取り出し、濡れたままの状態で0.2g/デニールの荷重を掛け、1分後に綛長を計り、aとする。荷重を静かに除き、水を切った後、
無荷重下で60℃の熱風乾燥機で30分乾燥する。室温下で30分放置後、2mg/デニールの荷重を掛け1分後に綛長を計り、bとする。捲縮堅牢度(CD[%])は次式より求める。
CD[%] ={(a−b)/a}×100
【0021】
【実施例1】
ポリエステルフィラメントの高配向未延伸糸(POY)を高速フリクション仮撚り機(HTS−1500型 帝人精機製)で、延伸比を1,48倍、ヒーター温度を200℃でインドロー仮撚り1段ヒーター加工糸33デシテックス36フィラメントの加工糸を得た。その捲縮堅牢度を表1に示す。該加工糸を経糸密度110本/インチ、緯糸密度95本/インチとして経糸及び緯糸に配して平織物とした。この時経糸はポリビニールアルコールを主体とする糊剤を用い、サイジングボックス内温を45℃とし、乾燥シリンダー表面温度を85℃、チャンバー内温を90℃として低温糊付けをした。緯糸は無撚、無糊で用いた。その後、液流型リラクサーで糊抜き、精練リラックスを95℃で実施し、乾燥後に160℃でプレセットを実施した。その後、苛性ソーダで20%の減量加工して、120℃で液流染色機で染色した。最後の140℃でファイナルセットして経糸密度が125本/インチ、緯糸密度が108本/インチの芯地用基布を得た。その布の力学特性を表1に示した。非常に優れたドレープ性を示しつつ、ふくらみに富み、適度の張りこしを持つ芯地用基布が得られた。
【0022】
[実施例2]
実施例1と同方式で得た1段ヒーター加工糸66デシテックス72フィラメント(捲縮堅牢度は表1に示す)と水溶性ビニロン22デシテックス12フィラメント糸をエアー混繊して300T/mの追撚した糸を経糸とし、同混繊糸を緯糸として経密度78本/インチ、経密度67本/インチの織物を得た。
該織物を精練に先立ち、160℃で生機セットを実施し、以下は実施例1と同法で芯地用基布を得た。ファイナルセット上がりの布帛密度は、経密度80本/インチ、経密度67本/インチであった。その布の力学特性を表1に示した。非常に優れたドレープ性を示しつつ、ふくらみに富み、適度の張りこしを持つ芯地用基布が得られた。
【0023】
[比較例1]
2段ヒーター加工糸とする以外は実施例1と同法で加工糸芯地用基布を得た。最終上がりの布密度は経糸密度が82本/インチ、緯糸密度が69本/インチであった。捲縮堅牢度及び布の力学特性を表1に示した。幅入りが悪く伸縮性に劣り、非常に目ずれのしやすい基布で品位の劣るものでしかなかった。
【0024】
[比較例2]
経糸に46デシテックス72フィラメントのポリエステル1段ヒーター仮撚り加工糸に300T/mの追撚を施した糸を、緯糸に該ポリエステル加工糸の無撚糸を配し、経糸密度87本/インチ、緯糸密度が72本/インチの密度で平織製織した。該織物を精練リラックス、プリセット後20%のアルカリ減量加工を施し、130℃×60分の染色を液流染色機で施し、帯電防止剤付与し、仕上げ加工した。仕上げ布の密度は経糸密度99本/インチ、緯糸密度が84本/インチであった。加工糸の捲縮堅牢度及び布の力学特性を表1に示した。ソフトでドレープ性に富む基布であるがふくらみに欠け張りこしが不足するものであった。
【0025】
[比較例3]
経糸に46デシテックス144フィラメントのポリエステル1段ヒーター仮撚り加工糸に300T/mの追撚を施した糸とし、緯糸に該ポリエステル加工糸の無撚糸を配した以外は比較例2と同法で加工糸織物を得た。仕上げ布の密度は経糸密度90本/インチ、緯糸密度が80本/インチであった。捲縮の発現性に起因すると思われる仕上げ加工加工時の幅入りが悪く、仕上げ布はへたっていた。糸の捲縮堅牢度及び布の力学特性を表1に示した。ソフトでドレープ性に富む基布であるが、ふくらみに欠け張りこしが不足し、芯地としての効能に不満の残るものであった。
【0026】
【表1】
【0027】
本発明によって、ドレープ性に富み、ソフトな触感を保ちつつ、かつふくらみがあり、適度の張りこしがあって、可縫性を高めるストレッチ性に富む芯地用基布と前記のような好ましい特性を有する芯地用基布の製造方法の提供が可能となった。
Claims (4)
- 総繊度が20〜100デシテックスであることを特徴とする請求項1に記載の加工糸芯地用基布。
- 単糸繊度が0.7〜1.8デシテックスで捲縮堅牢度が10%以上であるポリエステルフィラメント糸の仮撚加工糸を経糸及び/又は緯糸に配したカバーファクター(CF)が500から950の生機織物を精練、プレセット後にアルカリ減量加工をし、経糸と緯糸の交差点に空隙を作ることを特徴とする加工糸芯地用基布の製造方法。
- 単糸繊度が0.7〜1.5デシテックスで捲縮堅牢度が10%以上であるポリエステルフィラメント糸の仮撚加工糸と溶出可能繊維との混繊又は交撚糸を経糸及び/又は緯糸に配したカバーファクター(CF)が500から950の生機織物を熱セット後、精練、染色工程で前記溶出可能繊維を溶出させ、経糸と緯糸の交差点に空隙を作ることを特徴とする加工糸芯地用基布の製造方法。
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