JP4094207B2 - クリップ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば自動車用ドアのインナパネルにトリムボードを装着するときに使用するクリップに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種のクリップには例えば図9〜図11で示す構造のものがある。
図9は従来のクリップ60を一部断面で表した正面図、図10は図9のD−D矢視方向の断面図、図11はクリップ60の挿入状態を表した断面図である。このクリップ60は合成樹脂による一体成形品であって、その構造は自動車用ドアのインナパネル40にあけられた円形の取付孔42に挿入される係合部62と、ドアトリムボード(図示外)に取り付けられる組付部70とに大別される。前記係合部62は、その軸心に位置している支柱64と、この支柱64よりも外側に位置している4個の係合片66とを備えている。これらの各係合片66は、係合部62の内方向(軸心方向)へ弾性的に撓むことができるとともに、それぞれの外形は所定のテーパ角をもつ斜面68になっている。また係合部62における基端側の外周には、各係合片66の外側面が軸心側にへこんだ形状の保持部分69が構成されている。この保持部分69が前記取付孔42に位置することで、前記取付孔42に対する前記係合部62の挿入状態が規定の保持荷重によって保持されるようになっている。
【0003】
前記クリップ60の使用にあたっては、まずその組付部70を前記トリムボードに取り付けてから前記係合部62をパネル40の取付孔42に挿入する。この挿入に伴い、各係合片66が取付孔42の内周に接触して反力を受け、この反力によって各係合片66が係合部62の内方向へ撓む。この撓みによって係合部62が取付孔42を通過し、前記保持部分69が取付孔42に位置することで挿入が完了する。これによって係合部62が前記のように規定の保持荷重で前記取付孔42に保持される。なお前記の各係合片66の横断面形状は、図10で示すようにそれぞれ扇状をしており、それぞれの断面積は各係合片66に要求される所定の引っ張り破断強度を確保する値に設定されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで前記係合部62をパネル40の取付孔42に挿入するときの各係合片66の撓みやすさを決定する一要素として断面二次モーメントがある。クリップ60の材質やその他の条件が同じであれば、各係合片66の断面二次モーメントを小さくすることにより、これらの係合片66が撓みやすくなる。この断面二次モーメントを小さくするには、図10の横断面形状において各係合片66の撓み方向、すなわち係合部62の軸心方向に関する肉厚あるいは円弧の長さなどを小さくすることである。
【0005】
しかし前記の寸法を小さくすると各係合片66の断面積が減少して前記の引っ張り破断強度を確保できなくなり、これを確保すると各係合片66が撓みにくくなってクリップ60の挿入荷重が大きくなる。この挿入荷重が大きすぎるとクリップ60をパネル40に装着し、あるいは取り外すときの作業性がわるくなるとともに、クリップ60の脱着を繰り返すと係合片66の外側面が前記取付孔42の縁で削られやすくなる。結果としてクリップ60を、耐摩耗性にすぐれたポリアセタール(POM)などの高価な材料で成形しなければならない。
本発明は前記課題を解決しようとするもので、その目的は、クリップの係合部を構成している各係合片の引っ張り破断強度を確保しつつ、これらの係合片を撓みやすくしてクリップの挿入荷重を小さくし、作業性の向上ならびにコスト的に有利なポリプロピレン(PP)などの使用を可能とすることである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は前記目的を達成するためのもので、請求項1記載の発明は、取付板に所定の被取付部材を装着するために使用するクリップであって、前記取付板の表裏に貫通して形成されている円形の取付孔に挿入される係合部が、その周方向に配置され、かつ、個々に内方向へ弾性的に撓むことができる4個の係合片によって構成されている。これらの各係合片の横断面形状が、その面積は要求値の範囲に保ったままで、この面積を含む他の諸条件を同一としたときの前記の撓みにおける断面二次モーメントが最大値になるのを避けた形状に設定されている。
【0007】
このように、係合部をその周方向に配置された 4 個の係合片で構成しても、各係合片がその引っ張り破断強度は規定の値に保たれ、かつ、個々に撓み易い横断面形状であることから、取付板の取付孔に対するクリップの挿入荷重を小さくすることができる。したがって、クリップを取付板に装着したり取り外したりするときの作業性がよくなるとともに、このような脱着を繰り返した場合にも係合片の外側面が削り取られにくく、コスト的に有利なPPなどの材料でクリップを成形することも可能になる。
【0008】
また前記の各係合片の横断面形状については、その肉厚の最大部分を前記の撓みの方向を示す仮想の直線上から偏倚させた形状に設定することが好ましい。
さらに各係合片の横断面形状は、その面積を同一としたときの前記取付孔の内周に接する円弧の長さを可能な限り大きくした形状に設定するとより好ましい。この場合には、前記の各係合片と前記取付孔の内周との接触圧が分散されるので、係合片の外側面がさらに削り取られにくくなる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図1〜9によって説明する。
本実施の形態は自動車用ドアのトリムボードを装着するためのクリップに本発明を実施したものであり、図1はクリップの外観を表した正面図、図2は同じくクリップの外観を表した平面図である。これらの図面から明らかなように本実施の形態のクリップ10も従来のクリップ60と同様に合成樹脂による一体成形品で、その構造は係合部12と組付部30とに大別される。
【0010】
前記係合部12は、取付板の一例として後述するドアインナパネル40の円形の取付孔42に挿入される部分であって、その軸心部に位置する支柱14と外周部を構成する複数個の係合片16とを備えている。この支柱14は、剛性を有する基板13から先端に向かって延び、この支柱14の先端側には端面が円弧面26aとなったほぼ円錐形状のブロック部分26がある。このブロック部分26は、係合部12を前記取付孔42に挿入するときの相互の位置ずれなどに伴う衝撃に耐えるだけの剛性をもたせている。
【0011】
図3は前記係合部12の横断面形状を表した構成図であって、図3(A)は図1のA−A矢視方向の断面図、図3(B)は図1のB−B矢視方向の断面図である。また図4は図2のC−C矢視方向の断面図、図5はクリップ10の使用状態を表した断面図である。図3で示すように前記支柱14は二枚の板状部材14aで構成されており、これらの板状部材14aの上下両端部は前記基板13およびブロック部分26にそれぞれ連結されている。また両板状部材14aはそれぞれの断面形状が、圧縮あるいは曲げに対する強度を高め、かつ後述するように横断面形状が変形扇状をしている前記の各係合片16を個々の撓みスペースも含めて収納する必要からほぼL字状になっている。
【0012】
前記係合片16は計4個あり、これらは係合部12の周方向に関してほぼ等間隔に配置されている。そして各係合片16の一端部は前記ブロック部分26と一体の結合部分16aになっており、他端部は基板13と一体の結合部分16bになっている。したがって各係合片16の結合部分16a,16b以外の部分は、外部からの荷重を受けたときに合成樹脂の弾性によって係合部12の内方向へそれぞれ撓むことができる。
【0013】
前記の各係合片16の横断面形状は図3(A)(B)で示すように変形扇状をしており、個々の面積は前記係合部12の挿入方向の位置によって多少異なる。ただし、どの位置の面積も各係合片16に必要な所定の引っ張り破断強度を確保できる値に設定されている。また各係合片16の横断面形状は、前記の撓みにおける断面二次モーメントが小さくなる形状に設定されている。すなわち前記の各係合片16は一種の両持ち梁であり、その曲げ弾性率、梁の長さおよびその他の諸条件を同一としたとき、各係合片16の断面二次モーメントを小さくすることにより、これらの係合片16をより小さい荷重で撓ませることができる。
【0014】
図6は係合片16の横断面形状をすでに説明した従来の係合片66と比較して表した模式図である。図6(A)で示す係合片16と図6(B)で示す従来の係合片66との断面積はほぼ同じであり、また梁を構成する上での前記の諸条件もほぼ同一とする。そしてそれぞれの撓み方向を仮想直線Sで示すと、係合片16の横断面形状においてはその肉厚の最大部分を仮想直線Sから偏倚させているのに対し、係合片66では肉厚の最大部分と仮想直線Sとがほぼ一致している。この撓み方向(仮想直線S)と断面形状との関係により、係合片16の断面二次モーメントが係合片66のそれよりも小さくなる。
【0015】
また係合片16においては前記のような横断面形状に設定することに伴い、係合片66の横断面形状と比較して互いの面積がほぼ同じであっても円弧の長さL1,L2を(L1>L2)にできる。なお各係合片16における横断面形状の面積については、係合片16に加わる引っ張り荷重に対する破断強度を確保する上で重要な要素であり、要求される破断強度に基づいて算出された規定の面積に設定されている。
さらに各係合片16の横断面形状における円弧の曲率は、図3(A)(B)で示すように、どの部分においても前記取付孔42の曲率とほぼ同一値に設定されている。言い換えれば前記係合部12の外径と前記取付孔42の内径とが一致している個所を除き、各係合片16における円弧の中心は個々に異なる。
【0016】
つぎに各係合片16の縦断面形状について説明すると、それぞれの外形面は、図5で示す当接角度θ(各係合片16の外面と前記取付孔42の内周面とのなす角度)が係合部12の挿入に伴って変化(漸減)する徐変面となっている。具体的には前記パネル40の取付孔42に対する前記係合部12の挿入方向に沿って大きな円弧を描いた曲面20によって徐変面が構成されている。また係合部12の基端側における各係合片16の外面は、それぞれ係合部12の軸心方向にへこんだ保持部分24となっている。つまり各係合片16の曲面20はそれぞれの先端部から個々の保持部分24の直前までの範囲にわたって連続している。
【0017】
前記の各係合片16においてそれぞれの曲面20から保持部分24に至る部分は係止斜面24aとなっている。この係止斜面24aの傾斜角度と保持部分24を構成している個所の係合片16の剛性とが基本になって、前記係合部12が取付孔42に挿入された状態を保持するための規定の保持荷重(クリップ10に対する抜き取り力に耐える荷重)が決定されている。なお前記係合部12の基端部には、前記基板13から一体に外方向へ大きく拡がった皿形状のスタビライザ28があり、このスタビライザ28は係合部12を取付孔42に挿入したときに弾性変形しながらはパネル40の表面に接触する。
【0018】
前記組付部30は、被取付部材の一例として図5で示すトリムボード44の取付部46に組み付けられる部分である。この組付部30は、径の小さい頸部36を挟んで前記基板13と対向する鍔34を備えている。この基板13と鍔34との間にトリムボード44の取付部46を位置させることにより、組付部30をトリムボード44に組み付けることができる。
【0019】
前記のように構成されたクリップ10によってパネル40にトリムボード44を装着するには、まずクリップ10の組付部30を前記のようにトリムボード44に組み付ける。この状態でクリップ10の係合部12をパネル40の取付孔42に挿入していくのであるが、この挿入の初期において図5で示すように各係合片16の前記曲面20が取付孔42の内周に接触する。この接触開始点は各係合片16の前記結合部分16aを少し過ぎた付近、つまり各係合片16が撓み可能となる付近である。
【0020】
引きつづき係合部12を挿入していくと、各係合片16は個々の曲面20に沿って取付孔42の内周に接触しつづけながら反力を受け、係合部12の内方向へ徐々に押し撓められる。その状態が図7に示されており、この図7から明らかなように前記の曲面20が取付孔42の内周に接触した時点から図5で示す当接角度θが漸減し始め、やがて当接角度θは0度になる。そして図8で示すように前記保持部分24が取付孔42に位置することにで係合部12の挿入が完了する。
【0021】
このように前記取付孔42に対する係合部12の挿入においては、その挿入ストロークの早い時点で各係合片16の曲面20を取付孔42の内周に接触させている。また接触後は大きな円弧の曲面20に沿って各係合片16を撓ませることで、前記当接角度θの0度への変化を積極的に早めている。しかも各係合片16の横断面形状については前記のように断面二次モーメントが小さくなるように設定して撓みやすくしているので、これらの相乗効果によって係合部12の挿入荷重が小さく抑えられる。
【0022】
したがって前記パネル40にクリップ10を装着し、あるいは取り外すときの作業性がよくなるとともに、このような脱着を繰り返した場合にも各係合片16の外側面と取付孔42の内周縁との摩擦が小さく、係合片16が削り取られにくい。結果としてクリップ10の材料に、高価なPOMなどを避けてPPなどを使用することができ、コストの低減を図ることができる。
しかも各係合片16における横断面形状の円弧の長さL1が前記のように大きくなっていることから、前記係合部12の挿入時における各係合片16と前記取付孔42との接触圧が分散され、これらの係合片16の外側面がさらに削り取られにくくなる。
【0024】
以上の実施の形態においては、クリップ10の係合部12を構成している各係合片16の横断面形状による断面二次モーメントの低減と、縦断面形状ににおける大きな円弧の曲面20との相乗効果によって係合部12の挿入荷重を小さく抑えているが、いずれか一方のみの対策によっても各係合片16を充分に撓みやすくすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 クリップの外観を表した正面図。
【図2】 クリップの外観を表した平面図。
【図3】 クリップにおける係合部の横断面形状を表した構成図。
【図4】 図2のC−C矢視方向の断面図。
【図5】 クリップの使用状態を表した断面図。
【図6】 係合片の横断面形状を従来の技術と比較して表した模式図。
【図7】 クリップの挿入途中の状態を表した断面図。
【図8】 クリップの挿入完了状態を表した断面図。
【図9】 従来のクリップを一部断面で表した正面図。
【図10】 図9のD−D矢視方向の断面図。
【図11】 従来のクリップ挿入状態を表した断面図。
【符号の説明】
10 クリップ
12 係合部
16 係合片
40 パネル(取付板)
42 取付孔
44 トリムボード(被取付部材)
Claims (3)
- 取付板に所定の被取付部材を装着するために使用するクリップであって、
前記取付板の表裏に貫通して形成されている円形の取付孔に挿入される係合部が、その周方向に配置され、かつ、個々に内方向へ弾性的に撓むことができる4個の係合片によって構成されているとともに、これらの各係合片の横断面形状が、その面積は要求値の範囲に保ったままで、この面積を含む他の諸条件を同一としたときの前記の撓みにおける断面二次モーメントが最大値になるのを避けた形状に設定されているクリップ。 - 請求項1記載のクリップであって、
前記の各係合片の横断面形状が、その肉厚の最大部分を前記の撓みの方向を示す仮想の直線上から偏倚させた形状に設定されているクリップ。 - 請求項1または2記載のクリップであって、
前記の各係合片の横断面形状が、その面積を同一としたときの前記取付孔の内周に接する円弧の長さを可能な限り大きくした形状に設定されているクリップ。
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