JP4093905B2 - 上着 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は衣服、特に上着に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
上着を着たときの心地の良さは、肩廻りの部分に圧迫感がないことが必要である。このため従来の背広などでは、前身頃および後身頃にダキ(抱き)と言われるふくらみ(脇の下の上方、袖付けのあたりに胸幅のゆとりとして出るふくらみを指し、袖付けにかぶるようにして肩先で自然に消える運動量のこと。或いは背幅のゆとりとして後に出るものはかぶり分と言われるが、前後のダキとも言う)を持たせるようにしている。
【0003】
図1に従い説明する。なお、図1において二点鎖線が上り線を示し、実線が裁断時の外形を示している。ダキとなるゆとりは、従来は図1(a)に示すように、肩線13は前身頃1においては、ネック部付近はインカーブ13aで、肩先側ではアウトカーブ13bになるように生地を裁断するとともに、後身頃2ではインカーブ13cぎみに裁断する。このように裁断したネック部側の部分の前身頃、後身頃の上り線を合わせたときの肩先部分の重なりを図1(b)に示している。この重なりが前肩(すなわち、衣服上の肩回り部分で、肩縫い目線を境とした場合、前側の部分)のゆとり分となるものである。このゆとりは図2に示すように表われる。後身頃では前身頃の肩幅よりも図1(b)に示すように広く取っており、この差の分だけ後身頃をいせ込み、この分が後身頃におけるダキとなり、肩甲骨付近のフィット性を高めるものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このような技法は従来の背広においても採用されているが、多数の芯地を重ね合せた前毛芯を使用する背広などにおいては、このような肩線の形状とすることにより必要とするゆとりが得られるが、多数の芯地を重ね合せた前毛芯を使わない軽量の上着については、充分なゆとり分を得ることができず、肩廻りに圧迫感があり、フィット感が悪く、着心地がよくないという問題がある。また、素材によっても、例えば、綿素材などはあまりいせ込むこともできないので、充分なゆとりが得難いという問題もある。
【0005】
【発明の目的】
本発明は、従来よりもより一層肩回り部分におけるゆとりを大きくするとともに、肩線を前に持ってくることにより肩回り部分の圧迫感をなくし、肩や腕の動きを従来のものより、より一層自由にした上着を提供することである。また、本発明の目的は、従来のような芯地を何枚も重ね合せた毛芯などを使用せずに、芯があまり入っていない一枚仕立風の上着などにおいてもフィット感がよく、軽く着用感がよい上着を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記目的を、上着の前
身頃の表生地において、衿ぐりから袖ぐりに向って延びる切込みが設けられており、表生地の該切込みの箇所に切込みを開いた状態で当て布が取着されており、前記切込みのある表生地の箇所は当て布が取着されている面と反対側の面に前記切込みを覆う覆い布が取着されていることを特徴とする上着により達成する。
【0007】
前記切込みは前身頃の前中心線よりも肩線に近い衿ぐりの部分から、袖ぐりの下から2/3よりも上の箇所に向って延びていることが好ましい。また、テーラードカラーの場合、前記切込みは衿の返り線と肩線との間の衿ぐりの部分から入れられる。また、前記切込みの長さは衿により覆われる長さである。
【0008】
【実施例】
以下、図面に基いて本発明を詳細に説明する。図1は従来のテーラードカラーを有する上着(背広、ジャケット等)の裁断状態における前身頃と後身頃の肩の付近を表わした平面図である。図1(a)は前身頃1と後身頃2を裁断した状態を示し、図1(b)は前身頃1と後身頃2の肩線13のネック側の部分を上り線で合せたときの肩先部分の重なりを表わした平面図である。この重なりが前肩のゆとり量となるものである。
【0009】
従来のものにおいては、前身頃1の肩線はインカーブ部分13aとアウトカーブ部分13bとからなり、後身頃2の肩線はインカーブの線13cとなっている。これを図1(b)のようにネック側部分を上り線で合わせた場合に肩先側が重なるが、この重なった部分が前身頃ではゆとり量となり、図2(a)においてaで表現したふくらみ(ゆとり)となって表われている。
【0010】
図2は、従来のテーラードカラーの上着におけるゆとりaを表わしたものであり、図2(a)は上着を人台に着せた状態の正面図であり、図2(b)は上着を人台に着せた状態の側面図である。なお、袖の部分は省略している。また、図2(c)はゆとりaが表われている付近における体と上着との間の隙間を説明するための上から見た状態の説明図である。
【0011】
図1に示すように、前身頃1の肩線と後身頃2の肩線の形状により前身頃にゆとりとなるゆとりaを形成するとともに、後身頃の肩幅は前身頃の肩幅よりも広くし、後身頃の肩幅をいせ込むことにより後身頃のダキ(ゆとり量)を設けることが通常行われているテクニックである。
【0012】
図2は人台10に上着を着せた状態を示しているものである。図2(a)および図2(b)に示すように、従来のものでも、袖ぐりの肩に近い前身頃にゆとりaが設けられている。しかし、図2(c)に示すように、従来の上着では前身頃側において、肩先と胸とを結ぶ線cと前身頃との間の空間bはそれ程大きなものではなく、また後身頃2における袖付側の部分には隙間ができている状態であり、肩に馴染んでいる状態ではなく、腕を自由に動かすには充分とは言えなかった。
【0013】
図3は図2と同様に人台に本発明の上着(この実施例ではテーラードカラーの上着である)を着用させた状態を示すものであり、図3(a)は正面図、図3(b)は側面図であり、図3(c)はゆとりaが表われる付近において断面した状態を模式的に示した説明図である。
【0014】
本発明の上着においては、肩線13が図3(b)および図3(c)において矢印37で示すように従来のものよりも前方に移動するとともに、図3(a)において矢印33で示すように前側に下がる。また、前身頃1はその袖ぐり部分が図3(a)に矢印31で示すように前中心寄りに移動するとともに、図3(b)に示すように、前身頃1の部分は矢印35に示すように前側にも移動する。他方、後身頃2は図3(a)に矢印32で示すように外側に移動するとともに、図3(b)に矢印36で示すように前に移動する。更に、上衿5は図3(a)に矢印34で示すように、そして図3(b)に矢印38で示すように、首に沿って立上がった状態となるとともに、ラペル4は前中心に寄るように図3(b)に矢印39で示すように前中心側に移動する。
【0015】
このような各部分の移動により、本発明の上着においては、図3(a)に示すようにゆとりaは従来のものに比べて大きなものであり、また、衿の前開きは従来よりも狭まったものとなる。また、図3(c)におけるように、前身頃1の肩先と中心とを結ぶ線cと前身頃の表面との間の空間bは従来のものよりも大きな空間となる。また後身頃の肩先部分は前に移動した分だけ体に沿った状態となっている。
【0016】
以下にこのようになる本発明の上着の作り方を説明する。
【0017】
図4から図6は本発明における上着の前身頃となる表生地の処理の手順を示すそれぞれ部分平面図である。図4から図6に示すものは、裁断した状態の表生地の前身頃1の上部のみを示しているものであり、この図面に示した実施例においては、この上着はラペル4を有し、返り線3から折り返えるテーラードカラーの衿を有する上着である。符号12はゴージ線を示し、符号11はゴージ線の延長で衿ぐりとなる衿ぐり線を示している。また、符号13で示した肩線は従来の上着と同様にネック側がインカーブ13aになり、肩先側がアウトカーブ13bとなっている。符号14は袖ぐり線を示している。符号16は前中心線を示している。なお、図示しないが、後身頃の肩線形状も従来と同様である。
【0018】
このような前身頃1において、返り線3と肩線13の間の衿ぐり11の箇所において、袖ぐりに向って切込み15を先ず入れる。次に、図5に示すように、この切込み15を衿ぐり11側から開いた状態とする。この開いた状態に固定するために前身頃1の表生地の裏側から当て布6を当てる。当て布6の素材は限定されないが、表生地に仮止めできることが好ましい。接着芯等が利用し易い。また、当て布6の大きさは開いた切込み15よりも大きければよいが、肩線側が肩線13に達する大きさとすることが好ましい。このようにすると、前身頃の肩線と後身頃の肩線とを縫い合わす際に、当て布6も一緒に縫われるので、当て布6がずれたりせず安定する。
【0019】
図7は図5の切込み部付近を拡大して示したものである。切込み15を開いた状態にする手順を、当て布6として接着芯を用いた場合で説明する。先ず、切込み15の箇所で前身頃1の表生地の裏側に接着芯6を当てる。次に、切込み15の肩に近い側の表生地の部分を加熱して接着芯6に固定する。その後、切込み15を開いた状態で切込み15の反対側(すなわち肩から遠い側)の表生地の部分を加熱して接着芯6に固定する。そして、開いた切込み15の周囲を図7に示すようにコバステッチ17を掛けてその周辺を止める。このように切込み15を開いた状態とすると、この部分が袖の方向にゆとりaとして表われる。
【0020】
次に、図6に示すように、開かれた切込み15を隠すように覆い布7を上から表生地の表面から取着する。図8は図7と同様に図6の切込み部付近を拡大して示したものである。すなわち、図8に示すように、覆い布7の周縁をコバステッチ18を掛けて前身頃1の表生地に取着する。覆い布7の素材としては、テープや合成皮革のように端の部分を処理しないような生地を用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0021】
切込み15の開き具合は、出来上がり状態の衿ぐり線上において、1〜5mm、好ましくは2.5〜4mm位である。標準の体型の人の場合は3mm位開いていればよい。この開き具合は着る人の体型によって、例えば肩が前に出ている体型の人、反り身の体型の人等の違いにより変化させればよい。また、表生地の素材によって変化させればよい。
【0022】
図9は出来上がった製品において、衿4、5を返して切込み付近を見せた状態を示している。切込み15の長さは衿4、5を二点鎖線で示す通常の状態にしたときに衿によって隠れるようにすることが好ましく、通常、出来上がった状態での衿ぐり線から、その先端までの長さは2〜6cm程度の長さとする。なお、この長さは衿の幅によって適宜変える。図6および図9に示した実施例では、切込み15および覆い布7は上衿5によって覆われて外からは見えない状態となる。
【0023】
なお、この切込み15は図4から図9に示した実施例では、返り線3と肩線13との間の衿ぐり11に設けているが、返り線がないような衿に適用する場合には、前中心線16よりは肩線に近い側、すなわち、前身頃における衿ぐりの中間点と肩線との間に設ければよい。特に、肩線13寄りに切込みを入れることが好ましい。
【0024】
切込み15の衿ぐり11と反対側の先端は袖ぐり14の上部に向って延びて行く。すなわち、袖ぐり14の下から2/3以上、上の部分に向って延びて行くようにすることが好ましい。このようにすると、ゆとり分が求められる前肩の箇所にゆとりaが形成されるので、肩や腕の動きを良くするために好ましい。
【0025】
図10は本発明の別の実施例を示すものであり、図9と同様の正面図である。この実施例においては、先に説明した実施例と異なって覆い布7が存在しない。この実施例の場合は、当て布6としては表生地と同じ生地を用いることが好ましい。そして、開いた切込み15の周縁を端ミシンによってかがるようにするとよい。
【0026】
先に説明したように、本発明においては肩線に近い衿ぐり部分から切込み15を入れ、その切込みを開いた状態に固定しているものである。切込み15を開いたことにより図3に示すように後身頃2と縫製した状態においては肩線は矢印33および37で示したように前および下方に移動し、その結果として袖ぐり部分も符号31、符号35で示すように、前および内側(前中心側)に移動する。これにより大きなゆとりaができる。また、前身頃1がこのように動くことにより、それにつれて後身頃2の肩線も前に移動するとともに、後身頃の袖ぐり部分も矢印32、36で示すように前側に且つ外側に移動した状態になり、後の肩甲骨に沿った状態となる。一方、肩線が前および下に移動したことによりネック部分では、上衿5が矢印34、38に示すように、上に上り(登り)、それとともにラペル4も前中心寄りに寄った形状で前開き部分が体に沿った状態となる。前述のような動きにより図3(c)で説明したように、前肩の部分に大きな空間bが形成される。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば、上着の前身頃の肩回りに充分なゆとりが形成され、肩の動きに追従する前肩部分の空間が形成されており、本発明の上着は肩回りの部分に圧迫感がなく、重さを感じさせることがなく、極めて着心地のよいものである。
【0028】
本発明の上着においては、特にテーラードカラーの上着においては、衿が首に吸付くように自然な上りが形成される。また、衿の後が上に登ってくるとともに、後身頃の袖ぐりも前方および外方に移動するので、背中にできるダキが綺麗に収まった状態となる。
【0029】
更に、本発明の上着においては、前身頃に切込みを入れたことにより前身頃のゆとりのみならず後身頃も動くので腕の動きが自由になるとともに、胸のフィット感もよくなる。肩線、特に肩先部、が前に移動したことによる効果(前肩効果)によって前身頃のダキが美しく収まった状態となる。
【0030】
本発明の上着は付属使いの少ない上着に適し、一枚仕立のような上着にも適するものである。また、本発明の上着は衿ぐりに切込みを入れるため、スタンドカラーではなく、折り衿あるいはテーラードカラーのような衿が付いている服に適している。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来のテーラードカラーを有する上着の裁断状態における前身頃と後身頃の肩の付近を表わした平面図である。図1(a)は前身頃と後身頃を裁断した状態を示し、図1(b)は前身頃と後身頃の肩線のネック側の部分を上り線で合せたときの肩先部分の重なりを表わした平面図である。
【図2】従来のテーラードカラーの上着におけるゆとりaを表わしたものであり、図2(a)は上着を人台に着せた状態の正面図であり、図2(b)は上着を人台に着せた状態の側面図である。図2(c)はゆとりaが表われている付近における体と上着との間の隙間を説明するための上から見た状態の説明図である。
【図3】図2と同様に人台に本発明の上着を着用させた状態を示すものであり、図3(a)は正面図、図3(b)は側面図であり、図3(c)はゆとりaが表われる付近において断面した状態を模式的に示した説明図である。
【図4】本発明における上着の前身頃となる表生地の処理の手順を示す部分平面図である。
【図5】本発明における上着の前身頃となる表生地の処理の手順を示す部分平面図である。
【図6】本発明における上着の前身頃となる表生地の処理の手順を示す部分平面図である。
【図7】図5の切込み部付近を拡大して示した図である。
【図8】図6の切込み部付近を拡大して示した図である。
【図9】本発明に係る出来上がった製品において、衿を返して切込み付近を見せた状態を示す正面図である。
【図10】本発明の別の実施例の図9に対応する図である。
【符号の説明】
1 前身頃
2 後身頃
3 返り線
4 ラペル
5 上衿
6 当て布
7 覆い布
11 衿ぐり
13 肩線
14 袖ぐり
15 切込み
a ゆとり
Claims (4)
- 上着の前身頃の表生地において、衿ぐりから袖ぐりに向って延びる切込みが設けられており、表生地の該切込みの箇所に切込みを開いた状態で当て布が取着されており、前記切込みのある表生地の箇所は当て布が取着されている面と反対側の面に前記切込みを覆う覆い布が取着されていることを特徴とする上着。
- 前記切込みは前身頃の前中心線よりも肩線に近い衿ぐりの部分から、袖ぐりの下から2/3よりも上の箇所に向って延びていることを特徴とする請求項1記載の上着。
- 前記切込みは衿の返り線と肩線との間の衿ぐりの部分から入れられていることを特徴とする請求項1記載の上着。
- 前記切込みの長さは衿により覆われる長さであることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の上着。
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