JP4084124B2 - 電解液用高分子ゲル化剤の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電解液用高分子ゲル化剤に関し、さらに詳しくは電池の隔膜に有用な電解液用高分子ゲル化剤の提供を目的とする。
【0002】
【従来の技術】
従来よりアルカリ電池の電解質は、液状で容器に格納されているので、その電解液を長期的に安全に収納するためには、容器を頑丈にする必要があり、その結果、電池を薄型にすることは困難であった。
【0003】
また、現在、濃厚アルカリ電解液を用いた電池に使用されている隔膜は、織布または不織布をスルホン化により親水化処理をして電解液に対する親和性および毛細管力を付与し、織布または不織布中に電解液を保持している。しかし、高温下、あるいは長期間経過すると、親水化処理した上記織布または不織布からなる隔膜は、その表面の親水基が分解または剥離して、織布または不織布が部分的に疎水化し、撥水性が出現して電解液が隔膜中に不均質に分布することになり、二次電池としての性能が低下する原因となっている。
【0004】
近年、吸液性高分子に電解液を吸収させて膨潤ゲルにすることによって電解液を固定化し、電解液の漏洩を防ぎ、電池の安全性を向上させるとともに、そのゲル状物によって電解液が固定化されることによって、電池の長期の保存性の向上を図る方法が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の吸液性高分子は、親水基としてカルボキシル基、スルホン酸基、エーテル基などを有しており、該吸液性高分子は、架橋剤として親水性の多官能性モノマーを選択および使用している。
【0006】
これらの吸液性高分子は、その架橋結合がエステル結合、アミド結合、ウレタン結合などで形成されており、電解液である濃厚アルカリ溶液中では、鹸化反応によって上記の結合が加水分解される。従って上記のような吸液性高分子は、アルカリ電解液を用いる電池内では、耐久性の観点から長期あるいは高温下の使用は困難であった。
【0007】
アルカリ性水溶液中で耐久性のある高分子を与える代表的な架橋剤(多官能性モノマー)としては、ジビニルベンゼンがあるが、該ジビニルベンゼンは疎水性であるために、親水性モノマーと均質に共重合できない、すなわち、均質な吸液性高分子を製造できないという問題あった。例えば、親水性モノマーであるアクリル酸と、疎水性多官能性モノマーであるジビニルベンゼンとの共重合体は、溶媒を使用しない塊状重合法で重合可能であるものの、重合時の温度制御ができず、アクリル酸とジビニルベンゼンとを実用的なレベルで均質に共重合させることができない。
【0008】
以上の如き理由から、高濃度のアルカリ液である電解液を効率よくゲル化固定して、しかも長期間比較的高温に曝されても分解することがない電解液の高分子ゲル化剤は、現在のところ安定的に供給されていない。
【0009】
従って本発明の目的は、高濃度アルカリ水溶液を容易にゲル化固定でき、かつ高濃度のアルカリ状態で長期間比較的高温に曝されても、分解することがない電解液用高分子ゲル化剤を簡便な方法で提供することである。
さらに本発明の目的は、容易にフィルム化でき、かつ高濃度アルカリ電解液中においても安定である電池の隔膜としても機能させることができる高分子ゲル化剤を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、0.1〜5質量%のスルホン基を含むポリプロピレン系繊維からなる織布または不織布に支持された、鹸化によりカルボキシル基を生じる疎水性基を有する疎水性モノマーAと、疎水性多官能性モノマーBとからなる共重合体であって、該共重合体の鹸化物が電解液をゲル化させる性質を有する電解液用高分子ゲル化剤前駆体を、水あるいは親水性有機溶媒を用いて酸あるいはアルカリにより鹸化することを特徴とする電解液用高分子ゲル化剤の製造方法、及び該方法によって得られる電解液用高分子ゲル化剤を提供する。該製造方法においては、ポリプロピレン系繊維からなる不織布または織布の目付量が、10〜300g/m2であり、繊維の太さが直径1〜10μmであること;ポリプロピレン系繊維からなる不織布または織布に対する前駆体の塗布量が固形分換算で2.5〜20g/m2であることが好ましい。
【0011】
本発明によれば、モノマーAおよびモノマーBはともに疎水性であることから、モノマーAとモノマーBとからなる均質な共重合体が容易に製造可能である。該共重合体は疎水性であることから、疎水性であるポリプロピレン繊維からなる織布や不織布に対して強固に支持させることができる。支持体に支持された状態で鹸化することにより、モノマーA単位が容易にカルボキシル基を有する単位に鹸化され、濃厚アルカリ電解液を吸収およびゲル化固定でき、しかも上記共重合体は加水分解性の結合を有さないことから、濃厚アルカリ中において長期間比較的高温に曝されても分解することなく安定である。
【0012】
【発明の実施の形態】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明の電解液用高分子ゲル化剤前駆体は、鹸化によりカルボキシル基を生じる疎水性基を有する疎水性モノマーAと、疎水性多官能性モノマーBとからなる共重合体である。該共重合体は、通常の鹸化によって多数のカルボキシル基を生成して、濃厚アルカリ電解液を吸収し、該液をゲル化および固定することができる。
【0013】
前記モノマーAは、鹸化してカルボキシル基を生成する疎水性基を有する疎水性モノマーであり、例えば、アクリル酸アルキルエステル、メタアクリル酸アルキルエステル、イタコン酸アルキルエステル、フマル酸アルキルエステルおよび/またはマレイン酸アルキルエステルが挙げられる。上記アルキル基の炭素数は1〜18であり、好ましくは炭素数が3以下のアルキル基である。さらに好ましくはメチルエステル、特に好ましくはアクリル酸メチルエステル(メチルアクリレート)である。
【0014】
前記モノマーBは、2個以上の付加重合性二重結合を有する疎水性のモノマーであり、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレンなどのジビニルアリール化合物、1,4−ジビニルオクタフロロブタン、1,6−ジビニルドデカフロロヘキサン、1,8−ジビニルヘキサデカフロロオクタンなどのジビニルフロロアルカン化合物などの如く、加水分解性基を有さないものが好ましいが、ポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリルエステル、プロピレングリコールのジ(メタ)アクリルエステル、多価アルコールのポリ(メタ)アクリルエステルなどを併用してもよいが、得られる共重合体の耐久性からは、ジビニルアリール化合物および/またはジビニルオクタフロロブタンなどのジビニルフロロアルカン化合物が好ましい。特にジビニルベンゼンが好ましい。
【0015】
前記モノマーAとモノマーBとの共重合比は、モノマーA100質量部当たりモノマーB0.01〜10質量部であることが好ましく、モノマーA100質量部当たりモノマーB0.05〜10質量部であることがより好ましい。モノマーBの使用量が少なすぎると得られる共重合体の架橋密度が低く、鹸化後の共重合体がアルカリ電解液中に溶出する。一方、モノマーBの使用量が多すぎると、鹸化後のアルカリ電解液の吸液性が低下する。
【0016】
本発明の共重合体は、前記モノマーAおよびモノマーBに加えて、モノマーAとモノマーBとの合計量100質量部当たり0.5〜15質量部の他の親水性モノマーCを共重合させることができる。好ましいモノマーCとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、スチレンスルホン酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン、末端にアクリロイル基を有するポリエチレングリコールあるいはそのアルキルエーテルなどの親水性モノマーが挙げられる。特にスチレンスルホン酸は乳化重合法における自己乳化剤としてソープフリー重合用に有用であり、また、共重合されたスチレンスルホン酸単位は、そのスルホン酸基が電極から溶出する金属の捕捉剤として作用し、該共重合体の鹸化物による電解液の吸液性の低下を防ぐなどの重要な作用を有する。上記親水性モノマーCが多すぎると、モノマーCが親水性の単独ポリマーを形成し、ジビニルベンゼンなどの疎水性多官能モノマーBを均一に共重合体中に導入することが困難となる。
【0017】
さらに本発明の共重合体は、前記モノマーAおよびモノマーBに加えて、モノマーAとモノマーBとの合計量100質量部当たり0.5〜50質量部の他の疎水性モノマーを共重合させることができる。好ましい疎水性モノマーとしては、例えば、スチレン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。上記疎水性モノマーが多すぎると、最終的に得られる本発明の電解液用高分子ゲル化剤の電解液吸液性が低下する。
【0018】
上記各モノマーを用いる共重合は、塊状重合でも不可能ではないが、水性媒体に重合開始剤を溶かした乳化重合、ソープフリー重合、分散重合、あるいはモノマーに開始剤を溶かした懸濁重合(パール重合)、ビーズ重合形式などで行なうことができる。共重合に際しては、界面活性剤、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどを用いてもよいが、特に共重合体を微粒子分散液として得るには乳化重合が好ましい。
【0019】
水溶性重合開始剤としては、過硫酸塩類、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、水溶性アゾビス系、例えば、2,2−’アゾビス(2−メチルプロピオノアミジン)ジハイドロクロライド、2,2−’アゾビス(2−(1−(2−ハイドロオキシエチル)−2−イミダゾリン−2イル)プロパン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス(シアノバレリン酸)などが挙げられ、モノマーに可溶な開始剤のうちでアゾビス系としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化物系としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t−ブチル−ヒドロペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシドなどが代表的なものである。
【0020】
得られる共重合体の分散液(エマルジョンまたはラテックスともいう)の固形分濃度は約1〜50質量%であることが好ましい。また、得られる共重合体は、織布や不織布に対する含浸性をよくするために、分散粒子の粒径も重要である。分散樹脂の好ましい粒径は0.1〜100μmであり、特に50μm以下、より好ましくは2μm以下である。
【0021】
上記で得られた共重合体それ自体は吸水性も吸液性も少ないが、該共重合体を鹸化することによって多数のカルボキシル基が生成し、強アルカリ性の電解液のゲル化剤となる。本発明においては前記共重合液をそのまま、共重合体を分離することなく、織布や不織布などの適当な支持体に支持させた後に鹸化する。この場合に支持体に強固に支持されるように、共重合液中に耐加水分解性のあるバインダーなどを添加することもできる。
【0022】
耐久性のあるバインダーとしては、例えば、天然ゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体の合成ゴムおよびこれらの水素付加物、エチレン−酢酸ビニル共重合体およびその鹸化物、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイソブチレン、ブチラール樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。上記バインダーとして用いる共重合体はランダム、A−B−Aブロック、マルチ型ブロック(この中にA−Bブロックが混在してもよい)、グラフトの何れの結合様式でもよい。好ましくはブチルゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイソブチレン、合成ゴムおよびそれらの水素付加物などが挙げられる。上記のバインダーも水分散液(エマルジョンまたはラテックス)であることが好ましい。
【0023】
以上の如き添加剤は使用しなくてもよいが、使用する場合の添加量は、鹸化前の共重合体あるいは鹸化後の共重合体100質量部当たり1〜100質量部の範囲が好ましい。添加量が多すぎると、電池の電解液用高分子ゲル化剤としての性能が低下する場合がある。
【0024】
以上の本発明で用いる支持体としては、耐アルカリ性に優れたポリプロピレン系繊維からなる織布および/または不織布である。これらの支持体の膜厚は5〜500μmが範囲が好ましく、より好ましくは20〜300μmである。膜厚が5μm未満では電池の隔膜として用いた場合に隔膜としての作用が不完全となり易く、500μmを超えると薄膜の目的からはずれる。上記織布または不織布の目付量は10〜300g/m2の範囲が好ましい。10g/m2未満では隔膜としての作用がなく、一方、300g/m2を超えると共重合体分散液が支持体中に入りにくい。上記不織布または織布を構成する繊維の太さは1〜10μmが好ましい。
【0025】
これらの支持体は親水化処理した方が好ましい。親水化の例は、スルホン化処理である。スルホン化処理量は、織布または不織布が0.1〜5質量%のスルホン基を有するようになる処理量である。織布または不織布中のスルホン基の量が0.1質量%未満では、織布または不織布の親水性が弱く、共重合体の水分散液の含浸性が不十分であり、5質量%を超えると織布または不織布からのスルホン基の脱落が多くなり、織布または不織布の強度が低下する。また、これらの織布、または不織布は電池内で発生するガス(酸素など)を透過させることも重要であり、織布または不織布中に若干の疎水性部分を残すことが、前記共重合体の充填性とともに重要である。
【0026】
本発明では、織布または不織布中に共重合体を含浸させた状態で鹸化を行う。前記共重合体の織布または不織布に対する含浸は、一般的には、塗布方法としてマングル方式が好ましいが、これ以外に、スプレー、ナイフコーター、フローコーターあるいはグラビアコーターなどの方式でもよい。前記共重合体の織布または不織布に対する含浸量は、共重合体の固形分として2.5〜20g/m2であり、また、織布または不織布中の空間の20〜250容積%であり、より好ましくは80〜120容積%である。
【0027】
前記共重合体の鹸化は、メタノール、エタノール、水系あるいはこれらの混合溶媒下で行う。鹸化に使用する触媒としては、酸およびアルカリがあり、どちらを使用してもよい。酸による鹸化には硫酸や塩酸などを用いる。アルカリによる鹸化には水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが用いられる。鹸化によって生じるカルボキシル基はK、Na、Liなどのアルカリ金属塩にしてもよいし、あるいは電池中のアルカリ電解液で中和してもよい。
【0028】
【実施例】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中「部」または「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
実施例1(共重合体Aの合成)
74部のメチルアクリレート、10.6部のスチレン、6.3部のヒドロキシエチルメタクリレート、6.4部のスチレンスルホン酸ソーダ、0.8部のジビニルベンゼン(純分55%)、1.2部の過硫酸カリおよび500部の脱イオン水を反応容器に入れ、窒素ガス雰囲気下で70℃で8時間重合した。該重合液中の共重合体の粒径は200〜300nmであった。
【0029】
実施例2(共重合体Bの合成)
70部のメチルアクリレート、3部のスチレンスルホン酸ソーダ、3.66部のジビニルベンゼン(純分55%)、1.5部の過硫酸カリおよび550部の脱イオン水を反応容器に入れ、窒素ガス雰囲気下で70℃で8時間重合した。該重合液中の共重合体の粒径は300〜500nmであった。
【0030】
実施例3(共重合体Cの合成)
実施例2におけるスチレンスルホン酸ソーダをメタクリル酸カリウムに代えた以外は実施例2と同様に重合した。該重合液中の共重合体の粒径は1,000〜3,000nmであった。
【0031】
実施例4(共重合体Dの合成)
41.7部のメチルアクリレート、3.1部のヒドロキシエチルメタクリレート、1.2部のジビニルベンゼン(純分55%)、0.9部のアゾビスイソブチロニトリル、4.1部のポリビニルアルコール、50部のキシレンおよび600部の脱イオン水を反応容器に入れ、窒素ガス雰囲気下で75℃で8時間重合した。約200メッシュのポリ塩化ビニリデン製ネットでろ過し、水で十分洗浄してポリビニルアルコールを除去後、80℃で乾燥した。該共重合体の粒径は5,000〜10,000nmであった。
【0032】
比較例1(共重合体Eの合成)
実施例1においてジビニルベンゼンを使用せずに、他は実施例1と同様に重合した。
【0033】
比較例2(共重合体Fの合成)
99部のアクリル酸と1部のジビニルベンゼン(純分55%)と500部のメチルエチルケトンと1部のアゾビスイソブチロニトリルをフラスコにとり80℃に加熱して重合を行なったところ、ゲル化物の分散体が塊となり析出した。それをメタノールで洗浄し、乾燥した。
【0034】
<試験方法>
(1)濃水酸化カリウム試験(アルカリ吸液率(%))
80℃に加熱した45質量%の水酸化カリウム水溶液を作製し、この中に共重合体A〜Fの質量(M0)をそれぞれ正確に測り、上記水酸化カリウム水溶液中に投入し、5日間静置後冷却する(この間に鹸化が完了する)。その後、予め質量の分かった約200メッシュのポリ塩化ビニリデン製ネットでろ過し、十分に液を切り、吸液したサンプルの質量(M1)を測定する。吸液量は([M1−M0]/M0)×100で算出する。結果を表1に示す。
吸液しないものは0%、溶解あるいはコロイダル状になってポリ塩化ビニリデン製ネットを通過したものは−0%で表示して区別する。評価としては、電解液を固定化できないので不良の評価とした。
<評価>
アルカリ吸液率が50%以上のものは、電池の電解液用高分子ゲル化剤として使用可能範囲である。
【0035】
(2)残存率(%)
(1)で測定したアルカリ吸液物をそのまま水洗、洗浄して過剰のKOH水溶液を除いた後、乾燥した質量をM2とする時
残存率(%)=M2/M0×100
で表示する。結果を表1に示す。
【0036】
<評価>
残存率が高い程、モノマーの共重合時に架橋剤が有効に作用し、共重合体をアルカリ水溶液に不溶性にしていることを示している。すなわち、ジビニルベンゼンを使用している共重合体A〜Dは、ジビニルベンゼンが均一に共重合しており、共重合体の鹸化物は溶出が少ない。共重合体Fは、ジビニルベンゼンが不均一に共重合していることを示している。残存量10%以上が電池の電解液用高分子ゲル化剤として使用可能範囲である。
【0037】
【0038】
実施例5
共重合体Bの分散液を、スルホン化処理をしたポリプロピレン織布(厚さ=130μm、目付量31g/m2)にマングル方式で塗布および乾燥した(前駆体加工織布)。塗布量(固形分)は5g/m2であった。この塗布された織布を、水酸化カリウム濃度15%、メタノール51%および水34%からなる溶液の中に投入して65℃で2時間静置する(この間に鹸化が完了する)。続いて取り出し、メタノールで十分洗浄し過剰の水酸化カリウムを除き、乾燥した。この時の樹脂の含浸量は7.5g/m2であって、これはアクリル酸メチル単位がほぼ定量的にカルボン酸のナトリウム塩に鹸化され、かつ織布より塗布樹脂が脱落しないことを示している。水、あるいは濃厚水酸化カリウム溶液に対して素早く吸液することを確認した。
【0039】
この織布の電気伝導度は40%水酸化カリウム水溶液を吸液した状態(吸液量70g/m2)で0.239S(ジーメンス)/cmであった。参考のために、上記と同じポリプロピレン織布に共重合体Bを含浸させない状態で、40%水酸化カリウム水溶液を吸液させた隔膜の電気伝導度は、0.239S(ジーメンス)/cmであり、上記の結果とほぼ同じであることが確認された。
【0040】
実施例6
共重合体Bの分散液を、スルホン化処理をしたポリプロピレン不織布(厚さ=125μm、目付量62g/m2、比重1.0)にマングル方式で塗布および乾燥した(前駆体加工不織布)。塗布量は、後記表2に示す通り種々の塗布量とした。これらの樹脂含浸不織布を、水酸化カリウム濃度15%、メタノール51%および水34%からなる溶液の中に投入して65℃で2時間静置する(この間に鹸化が完了する)。続いて取り出し、メタノールおよびイソプロピルアルコールで十分洗浄し過剰の水酸化カリウムを除き、80℃乾燥した。
【0041】
なお、共重合体Bの鹸化物単独の吸液性を調べるために、実施例2に記載の分散液100部に10%水酸化カリウムメタノール溶液130部を混合し、70℃で4時間反応させた。生成物を約200メッシュポリ塩化ビニリデンネットで濾過し、メタノールで十分洗浄後、イソプロピルアルコールでメタノールを置換後乾燥し、粗粉砕して60メッシュパスの粉体とした。この粉体を赤外吸収スペクトルで分析したところ、エステル基の残存は認められず鹸化反応が完全に行われていることが確認された。また、上記鹸化物は、その重量の90倍の水を吸収し、45質量%の水酸化カリウム水溶液を15倍吸収した。
【0042】
評価方法
上記共重合体Bの鹸化物を種々の量で含浸した不織布に、電池の電解液としての45質量%の水酸化カリウム水溶液(比重1.33)を吸液させて、アルカリ吸液量、残存率および電気伝導度について測定し、後記表2に示す結果を得た。残存率および電気伝導度の測定は実施例5と同様にして行い、アルカリ吸液量については電解液を吸液させた不織布に濾紙を押し当て、濾紙に電解液を吸収させて不織布中の電解液を脱液した後の不織布1m2あたり吸液されたアルカリ液の量を測定した。電解液の残存率が30%以下である場合には、電池からの液漏れの畏れがある。
【0043】
【0044】
A:共重合体Bの含浸量(g/m2)
B:アルカリ吸液量(g/m2)
C:残存率(%)
D:電気電導度(S/cm)
【0045】
上記表2から、不織布の対する鹸化物の含浸量として2.5〜20g/m2が好ましく、含浸量が2.5g/m2未満では液漏れの危険性があり、一方、20g/m2を超えると鹸化物の量が多くなりすぎ、電解液の枯渇により電気電導度が低下して、上記の処理不織布は電池のセパレーターとしては不十分であることが分かる。なお、樹脂含浸量が5g/m2の前記処理不織布をニッケル−水素二次電池のセパレーターとして使用したところ、優れた電池性能が得られた。
【0046】
参考例1
実施例6で得られた鹸化物の粉体を、メタノール/メチルエチルケトン(1/1重量比)中に10%添加し、ペイントシェイカーで2時間分散して分散液(平均粒径200μm)を作成した。この分散液に実施例6と同じ操作で不織布中に含浸させようとしたが、均一な含浸はできなかった。
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、高濃度アルカリ水溶液を容易にゲル化固定でき、かつ高濃度アルカリ状態で長期間比較的高温に曝されても、分解することがない電解液用高分子ゲル化剤を簡便な方法で提供することができる。
また、本発明によれば、容易にフィルム化でき、かつ高濃度アルカリ電解液中においても安定であり、電池の隔膜としての機能を併せ有する電解液用高分子ゲル化剤を提供することができる。
Claims (4)
- 0.1〜5質量%のスルホン基を含むポリプロピレン系繊維からなる織布または不織布に支持された、鹸化によりカルボキシル基を生じる疎水性基を有する疎水性モノマーAと、疎水性多官能性モノマーBとからなる共重合体であって、該共重合体の鹸化物が電解液をゲル化させる性質を有する電解液用高分子ゲル化剤前駆体を、水あるいは親水性有機溶媒を用いて酸あるいはアルカリにより鹸化することを特徴とする電解液用高分子ゲル化剤の製造方法。
- ポリプロピレン系繊維からなる不織布または織布の目付量が、10〜300g/m2であり、繊維の太さが直径1〜10μmである請求項1に記載の電解液用高分子ゲル化剤の製造方法。
- ポリプロピレン系繊維からなる不織布または織布に対する前駆体の塗布量が、固形分換算で2.5〜20g/m2である請求項1に記載の電解液用高分子ゲル化剤の製造方法。
- 請求項1〜3の何れか1項に記載の方法で得られたことを特徴とする電解液用高分子ゲル化剤。
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