JP4082258B2 - ボイラシステム - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、ボイラの伝熱管等の非不動態化金属体に生じる腐食を抑制するボイラシステムに関する。
【0002】
【従来の技術】
日本工業規格(JIS)に規定された特殊循環ボイラの範疇に属する貫流ボイラは、給水を加熱して蒸気を発生させるための伝熱管を備えている。このような伝熱管は、炭素鋼等の非不動態化金属を用いて形成されているため、ボイラ水と接触する部位がボイラ水の影響による腐食のために破損し、貫流ボイラの寿命に致命的な影響を及ぼす場合がある。このため、貫流ボイラを長期間安定に運転するためには、伝熱管の腐食を効果的に抑制する必要がある。
【0003】
ところで、伝熱管に生じる上述のような腐食は、例えば、特許文献1、特許文献2および特許文献3に記載されているように、ボイラに対して供給する給水中に薬剤を添加することにより抑制している。しかし、給水中に添加された薬剤は、一部が蒸気中に取り込まれる可能性がある。この場合、当該蒸気は、例えば食品の調理や加工の用途において、衛生上の観点から、そのまま利用するのは困難になる。また、ボイラの濃縮水を排水する場合、当該濃縮水は、給水に添加された薬剤を含んでいるので、薬剤を除去するための特別な処理を施さない限り、そのまま下水等に排出すると環境汚染を引き起こす可能性がある。
【0004】
【特許文献1】
特開平4−232286号公報
【0005】
【特許文献2】
特開平4−283299号公報
【0006】
【特許文献3】
特開平6−158366号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
この発明の目的は、水分の影響によりボイラに生じる腐食を薬剤を用いずに抑制することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、原水を軟水化する軟水化手段と、この軟水化手段により処理された水を非不動態化金属体の腐食促進成分である硫酸イオンおよび塩化物イオンを捕捉可能で、かつ前記非不動態化金属体の腐食抑制成分であるシリカを透過可能なろ過膜によりろ過するろ過手段と、このろ過手段により処理された水をボイラへ供給する給水手段とを備えることを特徴としている。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のボイラシステムにおいて、前記ろ過膜が負荷電性のナノろ過膜であることを特徴としている。
【0010】
【発明の実施の形態】
つぎに、この発明の実施の形態について説明する。この実施の形態は、蒸気ボイラ,温水ボイラなどのボイラとこのボイラへの給水装置を含むボイラシステムに適用される。
【0011】
(実施の形態1)
この実施の形態は、原水を軟水化する軟水化手段と、この軟水化手段により処理された水を非不動態化金属体の腐食促進成分である硫酸イオンおよび塩化物イオンを捕捉可能で、かつ前記非不動態化金属体の腐食抑制成分であるシリカを透過可能なろ過膜によりろ過するろ過手段と、このろ過手段により処理された水をボイラへ供給する給水手段とを備えることを特徴としている。
【0012】
この実施の形態においては、非不動態化金属体に影響する水分を前記ろ過膜を用いて予めろ過処理すると、ろ過処理後の水分は、腐食促進成分である硫酸イオンおよび塩化物イオンが除去され、腐食抑制成分であるシリカが残留することになる。したがって、非不動態化金属体は、そのようなろ過処理後の水分が作用した場合、硫酸イオンおよび塩化物イオンが当該水分から取り除かれているためシリカが有効に機能し、腐食を抑制するための薬剤を用いなくても腐食が抑制されやすくなる。また、原水は、前記ろ過膜に処理される前に前記軟水化手段により処理されるので、カルシウムなどの硬度成分が除去されるので、前記ろ過手段を高回収率で運転しても前記ろ過膜へのカルシウムスケールの付着が低減され、前記ろ過膜のろ過性能の低下を低減でされる。
【0013】
前記ボイラは、蒸気ボイラ,温水ボイラを含み,形式、種類を問わない。そして、前記ボイラは、原水が供給される缶体,熱交換器の全て,またはその一部を非不動態化金属体により構成している。
【0014】
前記非不動態化金属は、中性水溶液中において自然には不動態化しない金属をいい、具体的には、炭素鋼、鋳鉄、銅および銅合金である。なお、炭素鋼は、中性水溶液中においても、高濃度のクロム酸イオンの存在下では不動態化する場合があるが、この不動態化はクロム酸イオンの影響によるものであって中性水溶液中での自然な不動態化とは言い難い。したがって、炭素鋼は、ここでの非不動態化金属の範疇に属する。また、銅および銅合金は、電気化学列(emf series)が貴な位置にあるため、通常は水分の影響による腐食が生じ難い金属と考えられているが、中性水溶液中において自然に不動態化するものではないので、ここでの非不動態化金属の範疇に属する。
【0015】
前記腐食促進成分は、前記ボイラの非不動態化金属で形成される腐食が発生しやすい部位、特に、内側に水分(ここでは、ボイラ水W)が存在し、かつ外側から加熱される伝熱管の内面に作用してその腐食を促進するものをいう。そして、本発明における腐食促進成分とは、硫酸イオン(SO 2−および塩化物イオン(Clの両者である
【0016】
なお、日本工業規格JIS B 8223:1999は、貫流ボイラを含む特殊循環ボイラの腐食を抑制する観点から、当該ボイラのボイラ水の水質に関する各種の管理項目および推奨基準を規定しており、塩化物イオン濃度の規制値を設けているが、ボイラ水の硫酸イオン濃度については言及していない(すなわち、硫酸イオンが腐食に関与するものとは認識していない)。しかし、本発明者等は、ボイラ水水質と腐食との関係を長年に亘って研究した成果として、ボイラ水に含まれる硫酸イオンが腐食促進成分としてボイラの伝熱管等に作用していることを確認している(例えば、特願2001−323051号参照)。
【0017】
一方、前記腐食抑制成分とは、前記貫流ボイラの腐食が発生しやすい部位、特に、前記貫流ボイラの伝熱管の内面に作用し、そこに生じる腐食を抑制可能なものをいう。そして、本発明における腐食抑制成分とは、シリカ(すなわち、二酸化ケイ素(SiO))である
【0018】
なお、補給水(原水)中に含まれるシリカは、通常、前記伝熱管におけるスケール発生成分と認識されており、通常は可能な限りその濃度を抑制するのが好ましいと考えられている。しかし、本発明者等は、ボイラ水水質と腐食との関係を長年に亘って研究した成果として、ボイラ水に含まれるシリカが腐食抑制成分として伝熱管5等に作用していることを確認している(例えば、特開2001−336701号公報、特開2001−335975号公報および特開2002−18487号公報参照)。
【0019】
因みに、シリカは、原水として用いる水道水や工業用水において、通常含有されている成分である。
【0020】
腐食促進成分である硫酸イオンおよび塩化物イオンを捕捉して取り除くことができ、また、腐食抑制成分であるシリカを透過することができる機能を有する前記ろ過膜の種類は、特に限定されるものではないが、通常、ナノろ過膜が用いられる。ナノろ過膜は、2nm程度より小さい粒子や高分子(分子量が最大数百程度のもの)の透過を阻止することができる液体分離膜であり、ろ過機能の点において、限外ろ過膜(分子量が1,000〜300,000程度のものをろ別可能な膜)と逆浸透膜(分子量が数十程度のものをろ別可能な膜)との中間に位置する機能を有するものである。前記ろ過膜は、ポリアミド系複合合成膜を用いて形成できる。因みに、ナノろ過膜は、各社より市販されており、容易に入手することができる。
【0021】
前記ろ過膜は、ろ過膜モジュールとして構成されるが、モジュールの形態としては、スパイラルモジュール,中空糸モジュール,あるいは平膜モジュールなどが用いられる。
【0022】
前記実施の形態1によれば、前記ろ過膜により原水をろ過処理すると、ろ過処理後の水分は、腐食促進成分である硫酸イオンおよび塩化物イオンが除去され、腐食抑制成分であるシリカが残留することになる。したがって、前記非不動態化金属体は、そのようなろ過処理後の水分が作用した場合、硫酸イオンおよび塩化物イオンが当該水分から取り除かれているためシリカが有効に機能し、腐食を抑制するための薬剤を用いなくても腐食が抑制されやすくなる。また、前記軟水化手段により硬度成分の除去により、前記ろ過膜へのカルシウムスケールの付着を低減できる効果を奏する。
【0023】
(実施の形態2)
この実施の形態は、前記実施の形態1において、前記ろ過膜を負(マイナス)荷電性のナノろ過膜とすることを特徴としている
【0024】
この実施の形態2のように前記ろ過膜として、負荷電性の膜を用いた場合、発明者らは、2価の陽イオン,すなわちカルシウム,マグネシウムが数ppm以上存在すると、腐食促進成分、すなわち硫酸イオンおよび塩化物イオンの除去性能が悪くなることを確認している。そこで、前記ろ過膜により処理される水を予め軟水化手段を通すことにより、前記2価のイオンを除去でき、これにより硫酸イオンおよび塩化物イオンの除去性能の低下を防止できる。
【0025】
【実施例】
(実施例の構成)
以下、この発明の具体的一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、この発明の一実施例の貫流式蒸気ボイラを備えたボイラシステムの概略を説明する図である。
【0026】
図において、実施例のボイラシステムは、ボイラ1と前記ボイラ1へ処理水を供給する給水手段としての給水装置2とを主に備えている。
【0027】
前記ボイラ1は、給水装置2からの給水が導入される下部ヘッダ,この下部ヘッダに対して起立するように設けられた複数本の伝熱管と、これら伝熱管の上端部に設けられる上部ヘッダとを含む周知構成の缶体(いずれも図示省略)を有している。前記上部ヘッダには、負荷装置(図示省略)へ蒸気を供給するための蒸気供給路3備えている。前記伝熱管は、前記非不動態化金属体である炭素鋼にて形成される。
【0028】
前記給水装置2は、前記ボイラ1に処理水を供給するためのものであり、原水供給路4、この原水供給路4からの補給される原水を処理し前記ボイラ1に処理水を供給するための給水経路5を備えている。
【0029】
前記給水経路5には、軟水化装置6、ろ過装置7,脱酸素装置8および給水タンク9を処理水の上流側から下流側へこの順に備えている。前記ろ過装置7の上流側には、ポンプ(図示省略)を設ける。
【0030】
また、前記軟水化装置6は、原水中に含まれる硬度成分をナトリウムイオンに置換して原水を軟水に変換するためのものである。
【0031】
また、前記ろ過装置7は、軟水化装置6により処理された処理水を、脱酸素装置8において処理する前にろ過膜を用いてろ過処理するためのものである。このろ過装置7において用いられるろ過膜は、処理水中に含まれる硫酸イオンおよび塩化物イオンを捕捉して取り除くことができ、また、処理水中に含まれるシリカを透過することができる機能を有する負荷電性のナノろ過膜を用いている。
【0032】
また、前記脱酸素装置8は、処理水中に含まれる溶存酸素を機械的に除去するためのものである。脱気膜の一方に被処理水流通させ、他方を真空排気手段により真空吸引することで、被処理水中の溶存酸素を脱気する周知構成のものである。
【0033】
さらに、前記給水タンク9は、前記給水経路6において軟水化処理、ろ過処理および脱酸素処理され前記ボイラ1へ供給する処理水を貯留するためのものである。前記給水タンク9は、前記ボイラ1から熱交換器等の負荷装置(図示省略)に供給された蒸気の凝縮水(復水)が流入するように構成されている。
【0034】
前記給水タンク9と前記ボイラ1との間には、前記給水タンク9に貯留された処理水および復水を、給水として前記ボイラ1の缶体に供給するためのものポンプ(図示省略)を備えている。
【0035】
(実施例の作用)
つぎに、前記実施例のボイラシステムの作用を説明する。前記原水供給路4を通して供給される原水は、前記軟水化装置6を透過する際に、カルシウムやマグネシウムの硬度成分が除去されて、軟水となる。
【0036】
この軟水は、前記ろ過装置7においてろ過処理される。具体的には、当該軟水が前記ろ過装置7を通過する際、硫酸イオンおよび塩化物イオンは、硫酸マグネシウムで約97%が,塩化ナトリウムで約85%が前記ろ過膜により捕捉され、軟水から除去される。一方、軟水に含まれるシリカは、約75%が軟水とともにろ過膜を透過する。このようにして得られたろ過処理水は、脱酸素装置9を通過し、給水タンク9に貯留される。その結果、給水タンク9には、脱酸素処理された、シリカを含む軟水が給水として貯留され、前記ボイラ1へ供給されることになる。こうして、前記ボイラ1の腐食を抑制できる。
【0037】
前記ろ過装置7のナノろ過膜によるろ過処理において、処理する水が軟水とされている,すなわちカルシウム分が除去されているので、前記ナノろ過膜へのカルシウムスケール付着が低減される。また、負荷電性の前記ナノろ過膜により前記の2価の陽イオンが除去されているので、硫酸イオンおよび塩化物イオンの除去性能の低下が防止される。その結果、前記ろ過装置7を高回収率にて運転することが可能となる。
【0038】
【発明の効果】
この発明によれば、水分の影響によりボイラに生じる腐食を薬剤を用いずに抑制でき、環境対応のボイラシステムを提供できるるとともに、ろ過膜へのカルシウムスケール付着によるろ過性能の低下を低減でき、ろ過装置を高回収率にて運転することができるなど産業的価値は多大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例のボイラシステムの概略説明図である。
【符号の説明】
1 ボイラ
2 給水装置
6 軟水化装置
7 ろ過装置

Claims (2)

  1. 原水を軟水化する軟水化手段6と、この軟水化手段6により処理された水を非不動態化金属体の腐食促進成分である硫酸イオンおよび塩化物イオンを捕捉可能で、かつ前記非不動態化金属体の腐食抑制成分であるシリカを透過可能なろ過膜によりろ過するろ過手段7と、このろ過手段7により処理された水をボイラへ供給する給水手段2とを備えるボイラシステム。
  2. 前記ろ過膜が負荷電性のナノろ過膜である請求項1に記載のボイラシステム。
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