JP4385612B2 - ボイラの腐食抑制方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ボイラの腐食抑制方法、特に、外部から供給される、腐食を抑制するための薬剤の添加されていない給水を加熱して蒸気を生成するボイラにおいて、給水を加熱するための非不動態化金属を用いて形成された伝熱管に生じる孔食を抑制するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術とその課題】
日本工業規格(JIS)に規定された特殊循環ボイラの範疇に属する貫流ボイラは、給水を加熱して蒸気を発生させるための伝熱管を備えている。このような伝熱管は、炭素鋼等の非不動態化金属を用いて形成されているため、ボイラ水と接触する部位がボイラ水の影響による腐食のために破損し、貫流ボイラの寿命に致命的な影響を及ぼす場合がある。このため、貫流ボイラを長期間安定に運転するためには、伝熱管の腐食を効果的に抑制する必要がある。
【0003】
ところで、伝熱管に生じる上述のような腐食は、例えば、特許文献1、特許文献2および特許文献3に記載されているように、ボイラに対して供給する給水中に薬剤を添加することにより抑制している。しかし、給水中に添加された薬剤は、一部が蒸気中に取り込まれる可能性がある。この場合、当該蒸気は、例えば食品の調理や加工の用途において、衛生上の観点から、そのまま利用するのは困難になる。また、給水に添加された薬剤は、ボイラ水中に含まれることになるが、ボイラ水の希釈工程(ブロー工程)等においてボイラ水の一部を排水する場合、当該ボイラ水は、薬剤を除去するための特別な処理を施さない限り、そのまま下水等に排出すると環境汚染を引き起こす可能性がある。
【0004】
【特許文献1】
特開平4−232286号公報
【特許文献2】
特開平4−283299号公報
【特許文献3】
特開平6−158366号公報
【0005】
本発明の目的は、水分の影響によりボイラの非不動態化金属を用いて形成された伝熱管に生じる孔食を薬剤を用いずに抑制することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るボイラの腐食抑制方法は、外部から供給される、腐食を抑制するための薬剤の添加されていない給水を加熱して蒸気を生成するボイラにおいて、給水を加熱するための非不動態化金属を用いて形成された伝熱管に生じる孔食を抑制するための方法であり、硫酸イオンおよび塩化物イオンを捕捉可能でありかつシリカを透過可能なナノろ過膜を用い、ボイラに供給される給水を予めろ過処理する工程と、ボイラにおいて、給水に由来するボイラ水の排出量を調節してボイラ水の濃縮倍率を高めることでボイラ水に含まれるシリカの濃度を少なくとも150mg/lになるよう高める工程とを含んでいる。
【0011】
この腐食抑制方法において、ボイラに供給される給水をナノろ過膜を用いて予め処理すると、ろ過処理後の給水は、非不動態化金属の腐食促進成分である硫酸イオンおよび塩化物イオンが除去され、非不動態化金属の腐食抑制成分であるシリカが残留することになる。したがって、ボイラは、そのようなろ過処理後の給水に由来のボイラ水において、腐食促進成分が取り除かれているため、ボイラ水の濃縮倍率を高めてボイラ水に含まれるシリカの濃度を少なくとも150mg/lになるよう高めると、腐食抑制成分であるシリカが有効に機能し、腐食を抑制するための薬剤を用いなくても伝熱管の腐食が抑制されやすくなる。
【0014】
【発明の実施の形態】
図1を参照して、本発明の腐食抑制方法を適用可能な貫流ボイラを備えた蒸気ボイラ装置の概略を説明する。図において、蒸気ボイラ装置1は、貫流ボイラ2と給水装置3とを主に備えている。
【0015】
貫流ボイラ2は、図2に示すように、給水装置3から供給される給水を貯留するための貯留部4と、貯留部4に対して起立するように設けられた複数本の伝熱管5(非不動態化金属体の一例)と、伝熱管5の上端部に設けられかつ図示しない負荷装置に向けて蒸気を供給するための供給路6aを有するヘッダ6と、給水を加熱して蒸気を発生するための加熱装置7とを主に備えている。なお、貯留部4とヘッダ6とは、平面形状が環状に設定されている。また、貯留部4は、その内部に貯留された給水(後述するボイラ水W)を排出するための、図示しない開閉弁を備えた排出口4aを有している。
【0016】
伝熱管5は、非不動態化金属を用いて形成された部材、すなわち、非不動態化金属体である。ここで、非不動態化金属は、中性水溶液中において自然には不動態化しない金属をいい、通常はステンレス鋼、チタン、アルミニウム、クロム、ニッケルおよびジルコニウム等を除く金属である。具体的には、炭素鋼、鋳鉄、銅および銅合金等である。なお、炭素鋼は、中性水溶液中においても、高濃度のクロム酸イオンの存在下では不動態化する場合があるが、この不動態化はクロム酸イオンの影響によるものであって中性水溶液中での自然な不動態化とは言い難い。したがって、炭素鋼は、ここでの非不動態化金属の範疇に属する。また、銅および銅合金は、電気化学列(emf series)が貴な位置にあるため、通常は水分の影響による腐食が生じ難い金属と考えられているが、中性水溶液中において自然に不動態化するものではないので、ここでの非不動態化金属の範疇に属する。
【0017】
給水装置3は、貫流ボイラ2に給水を供給するためのものであり、補給水の注水路8、注水路8からの補給水を貯留するための給水タンク9および貫流ボイラ2に給水を供給するための給水路10を主に備えている(図1)。ここで、注水路8および給水路10は、給水タンク10を挟み、貫流ボイラ2に対して給水を供給するための一連の給水経路を形成している。
【0018】
ここで、注水路8は、軟水化装置11、ろ過装置12および脱酸素装置13をこの順に備えている。軟水化装置11は、補給水中に含まれる各種の硬度分等をナトリウムイオンに置換して補給水を軟水に変換するためのものである。また、脱酸素装置13は、補給水中に含まれる溶存酸素を機械的に除去するためのものである。
【0019】
ろ過装置12は、軟水化装置11により処理された補給水を、脱酸素装置13において処理する前にろ過膜を用いてろ過処理するためのものである。このろ過装置12において用いられるろ過膜は、補給水中に含まれる腐食促進成分を捕捉して取り除くことができ、また、補給水中に含まれる腐食抑制成分を透過することができる機能を有するものである。
【0020】
ここで、腐食促進成分とは、貫流ボイラ2の腐食が発生しやすい部位、特に、内側に水分(ここでは、ボイラ水W)が配置されかつ外側から加熱される伝熱管5の内面に作用してその腐食を促進するものを言い、通常、硫酸イオン(SO4 2-)、塩化物イオン(Cl-)およびその他の成分を含んでいる。因みに、腐食促進成分として重要なものは、硫酸イオンおよび塩化物イオンの両者である。なお、日本工業規格JIS B 8223:1999は、貫流ボイラを含む特殊循環ボイラの腐食を抑制する観点から、当該ボイラのボイラ水の水質に関する各種の管理項目および推奨基準を規定しており、塩化物イオン濃度の規制値を設けているが、ボイラ水の硫酸イオン濃度については言及していない(すなわち、硫酸イオンが腐食に関与するものとは認識していない)。しかし、本発明者等は、ボイラ水水質と腐食との関係を長年に亘って研究した成果として、ボイラ水に含まれる硫酸イオンが腐食促進成分として伝熱管5等に作用していることを確認している(例えば、特願2001−323051号および後述の参考例参照)。
【0021】
一方、腐食抑制成分とは、貫流ボイラ2の腐食が発生しやすい部位、特に、上述のような伝熱管5の内面に作用し、そこに生じる腐食を抑制可能なものを言い、通常、シリカ(すなわち、二酸化ケイ素(SiO2))を含んでいる。なお、補給水中に含まれるシリカは、通常、伝熱管5におけるスケール発生成分と認識されており、通常は可能な限りその濃度を抑制するのが好ましいと考えられている。しかし、本発明者等は、ボイラ水水質と腐食との関係を長年に亘って研究した成果として、ボイラ水に含まれるシリカが腐食抑制成分として伝熱管5等に作用していることを確認している(例えば、特開2001−336701号公報、特開2001−335975号公報および特開2002−18487号公報参照)。
【0022】
因みに、シリカは、補給水として用いる水道水や工業用水において、通常含有されている成分である。
【0023】
腐食促進成分を捕捉して取り除くことができ、また、腐食抑制成分を透過することができる機能を有する上述のろ過膜の種類は、特に限定されるものではないが、通常、ナノろ過膜が用いられる。ナノろ過膜は、2nm程度より小さい粒子や高分子(分子量が最大数百程度のもの)の透過を阻止することができる液体分離膜であり、ろ過機能の点において、限外ろ過膜(分子量が1,000〜300,000程度のものをろ別可能な膜)と逆浸透膜(分子量が数十程度のものをろ別可能な膜)との中間に位置する機能を有するものである。因みに、ナノろ過膜は、各社より市販されており、容易に入手することができる。
【0024】
給水タンク9は、注水路8において軟水化処理、ろ過処理および脱酸素処理された補給水と、貫流ボイラ2から熱交換器等の負荷装置(図示せず)に供給された蒸気の凝縮水(復水)とを貯留するためのものであり、負荷装置から延びる、復水を回収して給水タンク8に送るための復水配管14の先端が上部に配置されている。
【0025】
給水路10は、給水タンク9に貯留された補給水および復水を、給水として貫流ボイラ2の貯留部4に供給するためのものであり、当該給水を貯留部4に向けて圧送するためのポンプ(図示せず)を備えている。
【0026】
上述の蒸気ボイラ装置1を運転する場合は、注水路8から給水タンク9に補給水を供給し、この補給水を給水タンク9に貯留する。ここで、注水路8を流れる補給水は、先ず、軟水化装置11を通過し、軟水となる。そして、この軟水は、次にろ過装置12において、ろ過処理される。具体的には、当該軟水は、ろ過装置12においてろ過膜を通過する際、腐食促進成分がろ過膜により捕捉され、軟水から除去される。一方、軟水に含まれる腐食抑制成分は、軟水と共にろ過膜を透過する。このようにして得られたろ過処理水は、脱酸素装置13を通過し、給水タンク9に貯留される。この結果、給水タンク9には、脱酸素処理された、腐食抑制成分を含む軟水が給水として貯留されることになる。
【0027】
給水タンク9に貯留された給水は、給水路10に設けられた図示しないポンプにより、給水路10を通じて貫流ボイラ2に供給される。貫流ボイラ2において、給水路10を通じて供給される給水は、貯留部4内においてボイラ水Wとして貯留される。そして、貯留部4に貯留されたボイラ水Wは、加熱装置7により加熱されながら各伝熱管5内を上昇し、徐々に蒸気になる。各伝熱管5において生成した蒸気はヘッダ6において集められ、供給路6aを通じて負荷装置に供給される。
【0028】
上述のような蒸気ボイラ装置1の運転中において、貫流ボイラ2で用いられる各伝熱管5は、図2に一点鎖線IIIで示すような下端部分、すなわち、貯留部4との連結部分が、ボイラ水Wと継続的に接触することになる。このため、伝熱管5は、そのような部分において、通常、ボイラ水Wの影響を受け、腐食しやすい。特に、伝熱管5は、上述の下端部分において、内周面の減肉的な腐食に加えて局部的腐食が生じやすく、それが原因で微小な穴開きを起こして破損する場合がある。
【0029】
ここで、局部的腐食とは、図3(図2のIII部分の拡大図)に示すように、伝熱管5の水との接触面側から厚さ方向の反対側に向かう孔状の腐食、すなわち、伝熱管5の厚さ(肉厚)方向に発生する孔状の腐食をいう。以下、このような局部的腐食の発生現象を「孔食」といい、この孔食により生じた孔状の腐食を「食孔」(図3においては符号5aで示している)という。因みに、このような孔食は、通常、ボイラ水W中の溶存酸素の影響により発生するものと理解されている。
【0030】
本実施の形態では、蒸気ボイラ装置1の運転中において、貫流ボイラ2に対して腐食抑制成分を含む軟水が給水として供給されることになる。このため、そのような給水に由来するボイラ水Wに含まれる腐食抑制成分は、伝熱管5の上述の下端部分に作用し、当該部分の腐食を抑制する。より具体的には、腐食抑制成分は、伝熱管5のボイラ水Wとの接触部分における減肉的な腐食を抑制すると共に、食孔5aの発生および成長も抑制し、腐食(特に食孔5a)による伝熱管5の破損を抑制する。この際、給水において、腐食促進成分がろ過装置12により除去されているため、腐食抑制成分による上述のような腐食抑制作用は、腐食促進成分により阻害されにくく、効果的に発揮されることになる。
【0031】
ところで、ボイラ水Wに含まれる腐食抑制成分により伝熱管5の腐食が抑制されるのは、ボイラ水W中に含まれる伝熱管5の腐食促進成分である溶存酸素等の影響により伝熱管5から溶出する成分に腐食抑制成分(特に、シリカ)が作用し、伝熱管5の内面に耐食性の皮膜(防食皮膜)が形成されるためと考えられる。特に、溶存酸素は、伝熱管5に局部的なアノードを発現させ、これにより孔食を進行させる場合があるが、ボイラ水W中に含まれる腐食抑制成分(シリカ)は、アニオンまたは負電荷のミセルとして存在するため、そのようなアノードに吸着しやすく、当該部分で選択的に防食皮膜を形成しやすい。このため、ボイラ水Wに含まれる腐食抑制成分(シリカ)は、伝熱管5における孔食の進行を特に効果的に抑制することができるもの考えられる。
【0032】
なお、貫流ボイラ2に対して供給される給水中に含まれる腐食抑制成分(シリカ)は微量であるため、伝熱管5の腐食抑制効果を高めるために、ボイラ水Wは、濃縮倍率を高めて腐食抑制成分(シリカ)の濃度を高めるのが好ましい。具体的には、ボイラ水Wに含まれる腐食抑制成分としてのシリカ濃度(すなわち、二酸化ケイ素(SiO2)の濃度)は、少なくとも150mg/l(すなわち、150mg/l以上)、好ましくは少なくとも300mg/l(すなわち、300mg/l以上)になるよう設定するのが好ましい。ここで、シリカは、ボイラ水W中において、上述のように、アニオンまたは負電荷のミセルとして存在するものと考えられるが、ここでのシリカ濃度は、シリカ(SiO2)としての濃度である。ボイラ水W中におけるこのようなシリカ濃度は、通常、JIS K 0101:1998に記載されたモリブデン黄吸光光度法に従って測定することができる。
【0033】
因みに、貫流ボイラ2におけるボイラ水Wの濃縮倍率は、ボイラ水Wの加熱の調節と、排出口4aからのボイラ水Wの排出(いわゆるブロー)量の調節とにより制御することができる。具体的には、排出口4aからのボイラ水Wの排出量を抑制すると、ボイラ水Wの濃縮倍率を高めることができ、また、給水路10からの給水によりボイラ水Wを希釈しつつ、濃縮されたボイラ水Wを排出口4aから適宜排出すると、ボイラ水Wの濃縮倍率を低下させることができる。
【0034】
本実施の形態に係る腐食抑制方法は、上述のように、腐食促進成分を捕捉して除去可能でありかつ腐食抑制成分を透過可能なろ過膜を用い、貫流ボイラ2に対して供給する給水を予めろ過処理しているため、貫流ボイラ2、特にその伝熱管5に生じる腐食を薬剤を用いずに効果的に抑制することができる。
【0035】
[他の実施の形態]
(1)上述の実施の形態では、ろ過装置12を注水路8側に配置したが、ろ過装置12を給水路10側に配置した場合も本発明を同様に実施することができる。但し、復水配管14を通じて給水タンク9に高温の復水が供給される場合、そのような復水のために給水タンク9内に貯留された給水が高温になり、耐熱性に劣る上述のようなナノろ過膜の機能が低下する可能性がある。したがって、復水により給水の温度が高まる可能性がある場合は、上述の実施の形態に係る蒸気ボイラ装置1のように、ろ過装置12は注水路8側に配置するのが好ましい。
【0036】
(2)上述の実施の形態では、ろ過装置12を軟水化装置11および脱酸素装置13とは別体にしたが、ろ過装置12は、例えば、軟水化装置11と一体的に構成されていてもよい。
【0039】
【実施例】
参考例
JIS B 8223:1999において推奨されているボイラ水の管理基準に適合するよう運転されていた本出願人会社製のボイラにおいて、1989年10月から2001年9月の12年間の間に伝熱管の腐食破損が29件報告された。ところが、これらの報告事例の全てにおいて、伝熱管の減肉的な腐食の状況を示す指標(mdd)は伝熱管の腐食破損が生じないことを示していた。なお、mdd(mg/dm2/day)は、水との接触面の単位表面積(1dm2)における1日当りの質量減少量(mg)を表現したものである。
【0040】
そこで、各報告事例について伝熱管の破損形態を調べたところ、全ての事例における破損形態は、孔食の進行で生じた食孔による微小な穴開きであることが判明した。
【0041】
本発明者等は、以上の原因としてボイラ水中に含まれる硫酸イオンに着目し、ボイラ水中の硫酸イオン濃度と伝熱管に生じる食孔の深さの最大値(相対値)との関係を調べた。結果を図4に示す。図4によると、ボイラ水中の硫酸イオン濃度が高まるに従って食孔の深さの最大値が大きくなる。これより、ボイラ水中の硫酸イオン濃度は、伝熱管の腐食、特に孔食の進行に重要な影響を与えていることがわかる。
【0042】
実験例
市販のナノろ過膜をろ過膜として用い、工業用水をろ過処理した。ろ過処理前の工業用水およびろ過処理後の工業用水について、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウムおよびシリカの含有量を測定して比較した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1によると、ろ過処理前の工業用水に含まれていた硫酸マグネシウムおよび塩化ナトリウムは、ろ過処理により大幅に減少しているが、シリカは、ろ過処理後の減少量が少ない。これより、この実施例において用いた工業用水は、上述のろ過処理を施すことにより、ボイラ等の伝熱管に対して腐食促進成分となる硫酸イオンおよび塩化物イオンが効果的に除去され、当該伝熱管の腐食抑制成分となるシリカを主として含む水に改善されることになる。したがって、このようなろ過処理後の工業用水をボイラへの給水として用い、それによるボイラ水の濃縮倍率を適宜調節すれば、ボイラの伝熱管に生じる腐食、特に孔食を、腐食を抑制するための薬剤を給水に対して別途添加しなくても、有効に抑制することができるものと期待できる。
【0045】
比較例1
ナノろ過膜を市販の限外ろ過膜に変更した点を除き、実験例の場合と同様にして工業用水をろ過処理した。ろ過処理の前後において、工業用水に含まれる硫酸マグネシウム、塩化ナトリウムおよびシリカの量を測定したところ、ろ過処理後の工業用水に含まれるこれらの成分量は、ろ過処理前の工業用水に含まれるこれらの成分量と略同じであった。すなわち、限外ろ過膜を用いた場合、工業用水に含まれる硫酸イオンおよび塩化物イオンを除去するのは困難であった。これより、限外ろ過膜を用いてろ過処理した工業用水をボイラの給水として用いた場合、ボイラの伝熱管等の腐食は、腐食を抑制するための薬剤を給水に対して別途添加しない限り、抑制するのが困難なものと考えられる。
【0046】
比較例2
ナノろ過膜を市販の逆浸透膜に変更した点を除き、実験例の場合と同様にして工業用水をろ過処理した。ろ過処理の前後において、工業用水に含まれる硫酸マグネシウム、塩化ナトリウムおよびシリカの量を測定したところ、ろ過処理後の工業用水に含まれるこれらの成分量は、ろ過処理前の工業用水の5%未満であった。すなわち、逆浸透膜を用いた場合、工業用水からは、腐食促進成分である硫酸イオンおよび塩化物イオンと共に、腐食抑制成分となるシリカも同時に除去されてしまうことが判明した。これより、逆浸透膜を用いてろ過処理した工業用水をボイラの給水として用いた場合、ボイラの伝熱管等の腐食は、腐食を抑制するための薬剤を給水に対して別途添加しない限り、抑制するのは困難なものと考えられる。
【0047】
【発明の効果】
本発明に係るボイラの腐食抑制方法は、硫酸イオンおよび塩化物イオンを捕捉可能でありかつシリカを透過可能なナノろ過膜を用い、ボイラに供給される給水を予めろ過処理しているので、薬剤を用いずにボイラに生じる孔食を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の腐食抑制方法を適用可能な貫流ボイラを備えた蒸気ボイラ装置の概略図。
【図2】前記貫流ボイラの一部断面概略図。
【図3】図2のIII部分の拡大図。
【図4】ボイラ水中の硫酸イオン濃度と伝熱管に生じる食孔の深さの最大値(相対値)との関係を調べた結果のグラフ。
【符号の説明】
2 貫流ボイラ
5 伝熱管
5a 食孔
8 注水路
10 給水路
12 ろ過装置
Claims (1)
- 外部から供給される、腐食を抑制するための薬剤の添加されていない給水を加熱して蒸気を生成するボイラにおいて、前記給水を加熱するための非不動態化金属を用いて形成された伝熱管に生じる孔食を抑制するための方法であって、
硫酸イオンおよび塩化物イオンを捕捉可能でありかつシリカを透過可能なナノろ過膜を用い、前記ボイラに供給される前記給水を予めろ過処理する工程と、
前記ボイラにおいて、前記給水に由来するボイラ水の排出量を調節して前記ボイラ水の濃縮倍率を高めることで前記ボイラ水に含まれる前記シリカの濃度を少なくとも150mg/lになるよう高める工程と、
を含むボイラの腐食抑制方法。
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